(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】金属セラミックス複合材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/577 20060101AFI20241120BHJP
C22C 9/10 20060101ALI20241120BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20241120BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C04B35/577
C22C9/10
C22C1/10 F
C04B41/88 U
(21)【出願番号】P 2024509757
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2022046567
(87)【国際公開番号】W WO2023181532
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2022049916
(32)【優先日】2022-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹下 寛紀
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-035307(JP,A)
【文献】特開昭49-116109(JP,A)
【文献】特開2003-165787(JP,A)
【文献】特開平10-219368(JP,A)
【文献】特開2001-261469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/88
C04B 35/56-35/599
C22C 9/10
C22C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素を含むセラミックス相、ならびに、
CuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物を含む金属相
を互いに分散した状態で含んでなる金属セラミックス複合材料であって、
前記金属相は、CuまたはSi以外の少なくとも1種の金属である添加元素Mを含み、
前記添加元素Mは、Ni、Mg、ZnおよびTiを含む群から選択される少なくとも1種を含み、
かつ、
前記炭化ケイ素は、前記セラミックス相の構成材料の総質量の過半量を占め、
ここで、
前記金属セラミックス複合材料に対して、走査電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率500にて面積256μm×192μmの画像を取得した際、この画像全体の面積に対して、前記セラミックス相の合計面積の百分率(%)をA、前記金属相の合計面積の百分率(%)をBとするとき、セラミックス相/金属相の面積比A/Bが2以上
10以下であり、かつ、
前記金属相において、
その総質量に対して、Siの質量百分率(%)をa、添加元素Mの質量百分率(%)をmとするとき、下記の関係式:
0.01≦m/a≦1.4、および
0.3≦m≦20
を満た
し、
前記金属相において、その総質量に対して、Cuの質量百分率(%)をbとし、前記のとおり、Siの質量百分率(%)をaとするとき、下記の関係式:
b/a≧2.5
を満たす、金属セラミックス複合材料。
【請求項2】
前記セラミックス相/金属相の面積比A/Bが5以下であり、かつ
m/a<1であり、かつ
b/a≧3である、
請求項1に記載の金属セラミックス複合材料。
【請求項3】
JIS Z2801:2012に従って、試験菌として黄色ブドウ球菌を用いた条件で測定された抗菌効果Rが2.0以上である、
請求項1または請求項2に記載の金属セラミックス複合材料。
【請求項4】
抗病原体材料として用いられることを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載の金属セラミックス複合材料。
【請求項5】
JIS R1634:1998に従って、アルキメデス法にて測定された気孔率が10%以下である、
請求項1または請求項2に記載の金属セラミックス複合材料。
【請求項6】
JIS R1634:1998に従ってアルキメデス法にて測定するとき、前記金属セラミックス複合材料のかさ密度D1の、前記金属セラミックス複合材料の金属相の真密度D2に対する相対密度[D1/D2]*100が90%以上
100%未満である、
請求項1または請求項2に記載の金属セラミックス複合材料。
【請求項7】
JIS R1601:2008に従って、3点曲げ強さ試験にて測定された曲げ強度が230MPa以上である、
請求項1または請求項2に記載の金属セラミックス複合材料。
【請求項8】
JIS R1610:2003に従って、1点荷重試験にて5点平均で測定されたビッカース硬度が25GPa以上である、
請求項1または請求項2に記載の金属セラミックス複合材料。
【請求項9】
前記セラミックス相がさらに遊離炭素を含む、
請求項1または請求項2に記載の金属セラミックス複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属セラミックス複合材料に関する。より具体的には、本発明は、炭化ケイ素を含むセラミックス相、ならびにCuおよびSiを含む金属相が互いに分散・混在し、抗菌効果を有する金属セラミックス複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)から形成されたセラミックス材料は、軽量であると共に、耐摩耗性、高温機械強度、耐食性に優れる。その一方、炭化ケイ素は靭性が低い脆性材料であるため、炭化ケイ素と高熱伝導性材料である銅(Cu)または銅合金とを組み合わせることにより、靭性及び熱伝導性の優れたバランスを有する複合材料の開発が進められてきた。このような炭化ケイ素および銅を含む複合材料は、電子機器、半導体デバイス等のヒートシンク材料やパッケージ材料、半導体基板、ブレーキディスクなどの広範な用途のために用いられ得ることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献2には、Si-Cu合金とSiCセラミックスとを含んでなり、Si-Cu合金のSi:Cu含有率が60~30質量%:40~70質量%である金属-セラミックス複合材料が開示されている。この文献によれば、このようなSi:Cu含有率を備えることによって、靭性を改善すると共に、ヤング率の低下および密度の増大が抑制された複合材料が提供されることが報告されている。
また、特許文献3には、骨格構造をなす多孔質SiCプリフォームにCuを溶浸させ、両者の間に反応防止層を形成した高熱伝導性複合材料が開示されている。この文献によれば、電子機器や半導体デバイス用熱放散材料として適した、高熱伝導性と低熱膨張係数を具備した複合材料が提供されることが報告されている。
【0004】
ところで、従来から、人間および動物の健康・衛生を促進し、伝染病を予防する等の観点から、各種物品に用いられる板状部材や、建物、橋、船、鉄道、道路、港湾などを構成する構造材料や、床材、壁材、天井などの建築資材として、改善された抗菌性・抗ウィルス性を有する材料を開発する試みが継続的になされている。また、悪性の感冒や伝染病の発生が多い近年の社会状況においては益々そのような要請は高まっている。例えば、牛・豚・鳥などの家畜の畜舎においては、主に伝染病を予防し、製品の安定供給を図るため、細菌の増殖を防止することで衛生環境を高める必要がある。畜舎の床材として、従来からコンクリート製や鋳物製のスノコ状床材が用いられており、耐久性や抗菌性を高める試みがなされている。しかし、そのようなコンクリート製や鋳物製のスノコ状床材は、十分な抗菌性・抗ウィルス性を奏するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-165787号公報
【文献】特開2004-035307号公報
【文献】特開2003-002770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
十分な抗菌性を奏することが実証された炭化ケイ素および銅を含む複合材料は、これまで報告されていなかった。本発明者らが検討したところ、炭化ケイ素のセラミックス相に銅または銅合金、特にはCuおよびSiを含む金属相の形成物質を含侵させることは容易でなく、含浸性が低いことに起因して、その複合材料において強度および硬度などの機械的物性と抗菌性とを両立させることが困難であり、場合によって内部クラックが生じ得ることが分かった。従って、良好な強度および硬度などの機械的物性を有すると共に、優れた抗菌性を奏する炭化ケイ素および銅を含む複合材料を開発することが望まれている。
【0007】
従って、本発明が解決しようとする第一の課題は、従来技術にない、炭化ケイ素を含むセラミックス相、ならびにCuおよびSiを含む金属相が互いに分散・混在し、抗菌効果を有する新規な金属セラミックス複合材料を提供することである。
また、本発明が解決しようとする更なる課題は、良好な強度および硬度などの機械的物性を有すると共に、優れた抗菌性を奏する、炭化ケイ素を含むセラミックス相、ならびにCuおよびSiを含む金属相が互いに分散・混在した新規な金属セラミックス複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、炭化ケイ素を含むセラミックスに対して、CuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物を含浸させる際に、この合金および/または金属間化合物にCuまたはSi以外の少なくとも1種の金属である添加元素を所定量で含有させると共に、得られる金属セラミックス複合材料においてセラミックス相と金属相とが所定の面積比を有するように調整することによって、大幅に改善された含浸状態を備えると同時に、優れた抗菌効果を奏する金属セラミックス複合材料が形成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、上記課題の解決手段である本発明の主態様は、以下のとおりである。
炭化ケイ素を含むセラミックス相、ならびに、
CuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物を含む金属相
を互いに分散した状態で含んでなる金属セラミックス複合材料であって、
前記金属相は、CuまたはSi以外の少なくとも1種の金属である添加元素Mを含み、かつ、
前記炭化ケイ素は、前記セラミックス相の構成材料の総質量の過半量を占め、
ここで、
前記金属セラミックス複合材料に対して、走査電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率500にて面積256μm×192μmの画像を取得した際、この画像全体の面積に対して、前記セラミックス相の合計面積の百分率(%)をA、前記金属相の合計面積の百分率(%)をBとするとき、セラミックス相/金属相の面積比A/Bが2以上60以下であり、かつ、
前記金属相において、
その総質量に対して、Siの質量百分率(%)をa、添加元素Mの質量百分率(%)をmとするとき、下記の関係式:
0.01≦m/a≦1.4、および
0.3≦m≦20
を満たす、金属セラミックス複合材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術にない、炭化ケイ素を含むセラミックス相、ならびにCuおよびSiを含む金属相が互いに分散・混在し、抗菌効果・抗ウィルス効果を有する新規な金属セラミックス複合材料が提供される。
本発明に係る金属セラミックス複合材料の好ましい一実施形態によれば、CuおよびSiを含む金属相における所定量の添加元素Mの存在によって金属セラミックス複合材料の良好な含浸状態がもたらされ、ひいてはその良好な含浸状態に起因して、優れた強度および硬度などの機械的物性と共に、銅に起因する優れた抗菌性および抗ウィルス性が奏され得る。
本発明に係る金属セラミックス複合材料の好ましい他の一実施形態によれば、炭化ケイ素を含むセラミックス相とCuおよびSiを含む金属相との面積比、金属相におけるSiに対する添加元素Mの質量割合、ならびに金属相のSiに対するCuの質量割合が所定範囲に調整されることによって、金属セラミックス複合材料の含浸状態が更に良好になり、向上した機械的物性、特に気孔率(焼結体の緻密性)、曲げ強度および硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)、ならびに優れた抗菌効果および抗ウィルス効果がバランス良く達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る金属セラミックス複合材料の倍率500の走査電子顕微鏡(SEM)による画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.金属セラミックス複合材料
本発明による金属セラミックス複合材料は、炭化ケイ素(SiC)を含むセラミックス相、ならびに、CuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物を含む金属相を互いに分散した状態で含んでなり、この金属相は、CuまたはSi以外の少なくとも1種の金属である添加元素Mを含み、かつ、前記炭化ケイ素は、前記セラミックス相の構成材料の総質量の過半量を占める。
【0013】
金属セラミックス複合材料中の炭化ケイ素、遊離炭素(フリーカーボン)、金属相を構成するCu、Si、および添加元素M、ならびに不可避不純物のそれぞれの量(質量%)を、XRF(蛍光X線分析法)およびICP発光分光分析装置と、カーボン分析装置(燃焼-赤外線吸収法)とを用いて同定することができる。
本明細書においては、そのように同定された全分析元素(各質量%)から、炭化ケイ素および遊離炭素を除いた部分を、不可避不純物を含む金属相とみなして、金属相中の元素の比率を算出するものとする。
【0014】
金属セラミックス複合材料の炭化ケイ素を含むセラミックス相は、炭化ケイ素がセラミックス相の構成材料の総質量の過半量、すなわち50質量%超を占める以外は限定されない。
金属セラミックス複合材料のセラミックス相には炭化ケイ素以外のセラミックス材料が50質量%未満含まれていてよい。このような炭化ケイ素以外のセラミックス材料の例として、特に限定されないが、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、炭化ホウ素(B4C)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化クロム(Cr3C2)、炭化モリブデン(Mo2C)、炭化タングステン(WC)などが挙げられる。
金属セラミックス複合材料のセラミックス相における炭化ケイ素の割合は、より好ましくは55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、または、実質的に100質量%であってよい。一実施形態において、セラミックス相は、少量の遊離炭素を除いて炭化ケイ素のみで(他のセラミックス材料を含まずに)形成されていてよい。セラミックス相中の炭化ケイ素の割合が50質量%超の範囲内にて高いほど、金属セラミックス複合材料において炭化ケイ素の特性である耐摩耗性、耐食性および強度がより高く発現され得る。
【0015】
金属セラミックス複合材料のセラミックス相は、少量の遊離炭素(フリーカーボン)を含んでいてよい。遊離炭素は、セラミックス相において、あるいはセラミックス相の金属相との界面近傍において、ケイ素原子または他の金属原子と化学的な結合を形成せずに単独で存在する炭素原子を指す。セラミックス相における遊離炭素の含有量は、特に限定されないが、例えばセラミックス相の総重量に対して通常5質量%以下、典型的には3質量%以下であってよい。
【0016】
金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対するCuの割合は、通常60質量以上~95質量%以下、好ましくは65質量%以上~90質量%以下であってよい。また、金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対するSiの割合は、通常3質量%以上~35質量%以下、好ましくは5質量%以上~30質量%以下であってよい。
【0017】
金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対するCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物の割合は、通常70質量%超であり、好ましくは71質量%以上、72質量%以上、73質量%以上、74質量%以上、75質量%以上、76質量%以上または77質量%以上であってよい。また、この割合は、通常99.7質量%未満であり、好ましくは99.5質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%以下、95質量%以下、94質量%以下、93質量%以下、92質量%以下、91質量%以下、90質量%以下、88質量%以下、86質量%以下または84質量%以下であってよい。金属相中のCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物の割合が上記範囲内であることによって、金属セラミックス複合材料において銅の特性である強度および熱伝導性、更には抗菌・抗ウィルス性がより高く発現され得る。
金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対するCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物の割合は、通常70質量%超~99.7質量%未満であってよく、好ましくは70質量%以上~99.5質量%以下、70質量%以上~99質量%以下、70質量%以上~98質量%以下、70質量%以上~97質量%以下、70質量%以上~96質量%以下、70質量%以上~95質量%以下、70質量%以上~94質量%以下、70質量%以上~93質量%以下、70質量%以上~92質量%以下、70質量%以上~91質量%以下、70質量%以上~90質量%以下、70質量%以上~88質量%以下、70質量%以上~86質量%以下、70質量%以上~84質量%以下、71質量%以上~99.7質量%未満、71質量%以上~99.5質量%以下、71質量%以上~99質量%以下、71質量%以上~98質量%以下、71質量%以上~97質量%以下、71質量%以上~96質量%以下、71質量%以上~95質量%以下、71質量%以上~94質量%以下、71質量%以上~93質量%以下、71質量%以上~92質量%以下、71質量%以上~91質量%以下、71質量%以上~90質量%以下、71質量%以上~88質量%以下、71質量%以上~86質量%以下、71質量%以上~84質量%以下、72質量%以上~99.7質量%未満、72質量%以上~99.5質量%以下、72質量%以上~99質量%以下、72質量%以上~98質量%以下、72質量%以上~97質量%以下、72質量%以上~96質量%以下、72質量%以上~95質量%以下、72質量%以上~94質量%以下、72質量%以上~93質量%以下、72質量%以上~92質量%以下、72質量%以上~91質量%以下、72質量%以上~90質量%以下、72質量%以上~88質量%以下、72質量%以上~86質量%以下、72質量%以上~84質量%以下、73質量%以上~99.7質量%未満、73質量%以上~99.5質量%以下、73質量%以上~99質量%以下、73質量%以上~98質量%以下、73質量%以上~97質量%以下、73質量%以上~96質量%以下、73質量%以上~95質量%以下、73質量%以上~94質量%以下、73質量%以上~93質量%以下、73質量%以上~92質量%以下、73質量%以上~91質量%以下、73質量%以上~90質量%以下、73質量%以上~88質量%以下、73質量%以上~86質量%以下、73質量%以上~84質量%以下、74質量%以上~99.7質量%未満、74質量%以上~99.5質量%以下、74質量%以上~99質量%以下、74質量%以上~98質量%以下、74質量%以上~97質量%以下、74質量%以上~96質量%以下、74質量%以上~95質量%以下、74質量%以上~94質量%以下、74質量%以上~93質量%以下、74質量%以上~92質量%以下、74質量%以上~91質量%以下、74質量%以上~90質量%以下、74質量%以上~88質量%以下、74質量%以上~86質量%以下、74質量%以上~84質量%以下、75質量%以上~99.7質量%未満、75質量%以上~99.5質量%以下、75質量%以上~99質量%以下、75質量%以上~98質量%以下、75質量%以上~97質量%以下、75質量%以上~96質量%以下、75質量%以上~95質量%以下、75質量%以上~94質量%以下、75質量%以上~93質量%以下、75質量%以上~92質量%以下、75質量%以上~91質量%以下、75質量%以上~90質量%以下、75質量%以上~88質量%以下、75質量%以上~86質量%以下、75質量%以上~84質量%以下、76質量%以上~99.7質量%未満、76質量%以上~99.5質量%以下、76質量%以上~99質量%以下、76質量%以上~98質量%以下、76質量%以上~97質量%以下、76質量%以上~96質量%以下、76質量%以上~95質量%以下、76質量%以上~94質量%以下、76質量%以上~93質量%以下、76質量%以上~92質量%以下、76質量%以上~91質量%以下、76質量%以上~90質量%以下、76質量%以上~88質量%以下、76質量%以上~86質量%以下、76質量%以上~84質量%以下、77質量%以上~99.7質量%未満、77質量%以上~99.5質量%以下、77質量%以上~99質量%以下、77質量%以上~98質量%以下、77質量%以上~97質量%以下、77質量%以上~96質量%以下、77質量%以上~95質量%以下、77質量%以上~94質量%以下、77質量%以上~93質量%以下、77質量%以上~92質量%以下、77質量%以上~91質量%以下、77質量%以上~90質量%以下、77質量%以上~88質量%以下、77質量%以上~86質量%以下、または77質量%以上~84質量%以下であってよい。
【0018】
金属セラミックス複合材料の金属相におけるCuまたはSi以外の少なくとも1種の金属である添加元素Mは、CuまたはSi以外の元素である以外は特に限定されないが、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、S(硫黄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、およびY(イットリウム)を含む群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。好ましくは、添加元素Mは、Ni、Mg、ZnおよびTiを含む群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。添加元素Mは、より好ましくはNiを含む。
【0019】
添加元素Mは、上で例示されたNi、Pd、Mg、Ca、Zn、Ti、Zr、S、Mo、W、Fe、Mn、V、Nb、Ta、およびYのうちの2種の元素の組み合わせ、または3種以上の元素の組み合わせを含んでよい。好ましくは、添加元素Mは、Ni、Mg、ZnおよびTiのうちの2種の元素の組み合わせ、または3種以上の元素の組み合わせを含んでよい。添加元素Mが2種の元素の組み合わせを含む場合、例えば、その組み合わせはNi/Mg、Ni/Zn、Ni/Ti、Mg/Zn、Mg/Ti、またはZn/Tiであってよい。添加元素Mが3種の元素の組み合わせを含む場合、例えば、その組み合わせはNi/Mg/Zn、Ni/Mg/Ti、またはMg/Zn/Tiであってもよい。
【0020】
一実施形態において、添加元素Mは、Ni、Pd、Mg、Ca、Zn、Ti、Zr、S、Mo、W、Fe、Mn、V、Nb、Ta、およびYを含む群から選択される少なくとも1種のみであって、それ以外の元素を含まない。好ましい一実施形態において、添加元素Mは、Ni、Mg、ZnおよびTiを含む群から選択される少なくとも1種のみであって、それ以外の元素を含まない。他の一実施形態において添加元素Mは、Ni、Pd、Mg、Ca、Zn、Ti、Zr、S、Mo、W、Fe、Mn、V、Nb、Ta、およびYのうちの2種の元素の組み合わせであって、それ以外の元素を含まないか、あるいは、Ni/Mg、Ni/Zn、Ni/Ti、Mg/Zn、Mg/Ti、またはZn/Tiの2種の元素の組み合わせであって、それ以外の元素を含まない。更なる一実施形態において添加元素Mは、Ni、Pd、Mg、Ca、Zn、Ti、Zr、S、Mo、W、Fe、Mn、V、Nb、Ta、およびYのうちの3種の元素の組み合わせであって、それ以外の元素を含まないか、あるいは、Ni/Mg/Zn、Ni/Mg/Ti、またはMg/Zn/Tiの3種の元素の組み合わせであって、それ以外の元素を含まない。
【0021】
添加元素MがNiを含む場合、添加元素Mの総質量に対するNiの質量割合は、5質量%以上~100質量%(すなわちNiのみ)以下であってよく、好ましくは10質量%以上~100質量%以下、20質量%以上~100質量%以下、30質量%以上~100質量%以下、40質量%以上~100質量%以下、50質量%以上~100質量%以下、60質量%以上~100質量%以下、70質量%以上~100質量%以下、80質量%以上~100質量%以下、または90質量%以上~100質量%以下であってよい。
【0022】
金属セラミックス複合材料の金属相には、Cu、Si、および、CuまたはSi以外の少なくとも1種の金属である添加元素M以外に、積極的な添加操作なしに不可避的に混入する不純物、いわゆる不可避不純物が包含される。
不可避不純物は、公知の金属セラミックス複合材料に含まれ得ることが知られているいずれの不純物をも包含し得る。不可避不純物は、特に限定されないが、例えば、Mn、Sr、Sn、P、Crなどが挙げられる。金属相における不可避不純物の含有量は、特に限定されないが、金属相の総質量に対して5質量%以下であり得る。
【0023】
本発明に係る金属セラミックス複合材料に対して走査電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率500にて面積256μm×192μmの画像を取得した際、この画像全体の面積に対して、セラミックス相の合計面積の百分率(%)をAとし、金属相の合計面積の百分率(%)をBとするとき、セラミックス相/金属相の面積比A/Bは2以上60以下である。
それに加えて、本発明に係る金属セラミックス複合材料の金属相において、その総質量に対して、Siの質量百分率(%)をa、添加元素Mの質量百分率(%)をmとするとき、下記の関係式が成り立つ。
0.01≦m/a≦1.4、および
0.3≦m≦20
【0024】
本発明に係る金属セラミックス複合材料によれば、上記特定範囲内のセラミックス相/金属相の面積比A/Bおよび上記2つの関係式の全てが満たされることによって、炭化ケイ素を含むセラミックス相ならびにCuおよびSiを含む金属相が互いに十分に分散・混在した良好な含浸状態を形成することが容易になる。セラミックス相に対する金属相の含浸状態が良好になることによって、セラミックス相に含まれる炭化ケイ素が本来有する特性である耐摩耗性、耐食性および強度、ならびに金属相に含まれる銅合金の銅が本来有する特性である強度、熱伝導性および抗菌・抗ウィルス性が、より効果的に発揮され得る。従って、本発明において上記特定範囲内のセラミックス相/金属相の面積比A/Bおよびこれら2つの関係式の全てが満たされることによって、好ましくは、セラミックス相に対する金属相の含浸状態が良好になり、それに起因して、機械的物性、特に気孔率(焼結体の緻密性)、曲げ強度および硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)、ならびに抗菌効果および抗ウィルス効果のバランスが向上した金属セラミックス複合材料を得ることができる。
【0025】
本発明の金属セラミックス複合材料は、炭化ケイ素を含むセラミックス相ならびにCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物を含む金属相を互いに分散した状態で含んでなり、すなわち、セラミックス相と金属相とが互いに分散・混在した状態が形成されている。従って、金属セラミックス複合材料に対して走査電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率500にて面積256μm×192μmの画像を取得する際、セラミックス相と金属相とのこのような分散・混在状態に起因して、この画像におけるセラミックス相の合計面積の百分率A(%)/金属相の合計面積の百分率B(%)の面積比A/Bの算出再現性は一般的に高いため、通常、取得する画像は任意の一視野のみで足りる。A/Bの算出再現性の精度を更に高める観点からは、任意の二視野または三視野以上で画像を取得し、それらの画像における面積比A/Bの平均値を算出して、これを当該材料についての面積比A/Bとみなしてもよい。
【0026】
図1に、本発明の一実施形態に係る金属セラミックス複合材料の倍率500の走査電子顕微鏡(SEM)による画像の一例を示す。この画像の実施形態は、複合材料の金属相にて、その総質量に対して添加元素MであるNiが5質量%で添加された例である。この画像において、白色箇所が銅合金および添加元素Niを含む金属相であり、グレーの箇所がSiCを主成分とするセラミック相であり、両相が互いに分散・混在している状態が視認される。
【0027】
本発明に係る金属セラミックス複合材料に対して走査電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率500にて面積256μm×192μmの画像を取得した際、この画像全体の面積に対して、セラミックス相/金属相の面積比A/Bは2以上60以下であり、2.5以上50以下であることが好ましく、3以上45以下、3以上40以下、3以上35以下、3以上30以下、3以上25以下、3以上20以下、3以上15以下、3以上10以下、3以上8以下、3.3以上8以下、3.5以上8以下、3.7以上8以下、3以上5以下、3.3以上5以下、3.5以上5以下、3.7以上5以下、3以上4.5以下、3.3以上4.5以下、3.5以上4.5以下、または3.7以上4.5以下であることがより好ましい。
上述の走査電子顕微鏡(SEM)画像全体の面積に対するセラミックス相/金属相の面積比A/Bが上記範囲内であることによって、好ましくは、セラミックス相に対する金属相の含浸が良好に進み、それによって気孔率(焼結体の緻密性)、曲げ強度および硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)ならびに抗菌効果および抗ウィルス効果のいずれの低下も効果的に抑制された、良好な特性バランスを備えた金属セラミックス複合材料を得ることができる。
【0028】
本発明に係る金属セラミックス複合材料の金属相において、その総質量に対する添加元素Mの質量百分率(%)をmとするとき、0.3≦m≦20が成り立つ。他の実施形態において、mの範囲は、特に限定されないが、例えば0.5≦m≦20、1≦m≦20、2≦m≦20、3≦m≦20、4≦m≦20、5≦m≦20、0.3≦m≦18、0.5≦m≦18、1≦m≦18、2≦m≦18、3≦m≦18、4≦m≦18、5≦m≦18、0.3≦m≦16、0.5≦m≦16、1≦m≦16、2≦m≦16、3≦m≦16、4≦m≦16、または5≦m≦16の範囲から選択されてよい。
また、本発明に係る金属セラミックス複合材料の金属相において、その総質量に対して、Siの質量百分率(%)をa、添加元素Mの質量百分率(%)をmとするとき、0.01≦m/a≦1.4の関係式が成り立ち、0.05≦m/a≦1.2であることが好ましく、0.1≦m/a≦1、0.15≦m/a≦1、0.2≦m/a≦1、0.25≦m/a≦1、0.3≦m/a≦1、0.35≦m/a≦1、0.4≦m/a≦1、0.45≦m/a≦1、0.5≦m/a≦1、0.1≦m/a<1、0.15≦m/a<1、0.2≦m/a<1、0.25≦m/a<1、0.3≦m/a<1、0.35≦m/a<1、0.4≦m/a<1、0.45≦m/a<1、0.5≦m/a<1、0.1≦m/a≦0.9、0.15≦m/a≦0.9、0.2≦m/a≦0.9、0.25≦m/a≦0.9、0.3≦m/a≦0.9、0.35≦m/a≦0.9、0.4≦m/a≦0.9、0.45≦m/a≦0.9、0.5≦m/a≦0.9、0.1≦m/a≦0.8、0.15≦m/a≦0.8、0.2≦m/a≦0.8、0.25≦m/a≦0.8、0.3≦m/a≦0.8、0.35≦m/a≦0.8、0.4≦m/a≦0.8、0.45≦m/a≦0.8、または0.5≦m/a≦0.8であることがより好ましい。
上述のSiの質量百分率a(%)と添加元素Mの質量百分率m(%)との比m/aが上記範囲内であることによって、好ましくは、セラミックス相に対する金属相の含浸が良好に進み、それによって気孔率(焼結体の緻密性)が適度な値に保持され、その結果として良好な曲げ強度および硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)の特性バランスを更に向上させることができる。
【0029】
別の一実施形態では、本発明に係る金属セラミックス複合材料において、上述の走査電子顕微鏡(SEM)画像全体の面積に対するセラミックス相/金属相の面積比A/Bが5超(かつ60以下)である場合に、添加元素Mの質量百分率m(%)とSiの質量百分率a(%)との比率がm/a<1であることが好ましい。また、上記面積比A/Bが5超(かつ60以下)である場合に、0.1≦m/a<1、0.15≦m/a<1、0.2≦m/a<1、0.25≦m/a<1、0.3≦m/a<1、0.35≦m/a<1、0.4≦m/a<1、0.45≦m/a<1、0.5≦m/a<1、0.1≦m/a≦0.9、0.15≦m/a≦0.9、0.2≦m/a≦0.9、0.25≦m/a≦0.9、0.3≦m/a≦0.9、0.35≦m/a≦0.9、0.4≦m/a≦0.9、0.45≦m/a≦0.9、0.5≦m/a≦0.9、0.1≦m/a≦0.8、0.15≦m/a≦0.8、0.2≦m/a≦0.8、0.25≦m/a≦0.8、0.3≦m/a≦0.8、0.35≦m/a≦0.8、0.4≦m/a≦0.8、0.45≦m/a≦0.8、または0.5≦m/a≦0.8であることがより好ましい。
金属セラミックス複合材料において、セラミックス相/金属相の面積比A/Bが5超(かつ60以下)である場合、すなわち、セラミックス相に含浸させる金属相の割合が相対的に小さいときにおいても、m/a<1であることによって、または上記のより好ましい比率を満たすことによって、両相の含浸がより容易になり、気孔率(焼結体の緻密性)、曲げ強度および硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)、ならびに抗菌効果および抗ウィルス効果の特性バランスが適度に保持され得る。
【0030】
本発明に係る金属セラミックス複合材料の金属相において、その総質量に対して、Cuの質量百分率(%)をbとし、上述のとおりSiの質量百分率(%)をaとするとき、b/a≧2.5の関係式が成り立つことは好ましい。金属相においてCuとSiとの質量割合がこの関係式を満たすことによって、気孔率(焼結体の緻密性)、曲げ強度および硬度、ならびに抗菌効果および抗ウィルス効果のバランスが更に向上した金属セラミックス複合材料を得ることができる。
これらの諸特性のバランス向上の観点から、金属相におけるCuの質量百分率(%)bとSiの質量百分率(%)aとの間には、b/a≧3の関係式が成り立つことがより好ましく、b/a≧3.5であることがより一層好ましく、b/a≧4であることが更により一層好ましい。特に気孔率(焼結体の緻密性)および曲げ強度の向上の観点からは、金属相におけるCuの質量百分率(%)bとSiの質量百分率(%)aとの間には、b/a≧4.5の関係式が成り立つことがより好ましく、b/a≧5であることがより一層好ましい。
金属相におけるCuの質量百分率(%)bとSiの質量百分率(%)aとの比率b/aの上限値は、特に限定されないが、硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)の向上効果を十分に得る観点からb/a≦20の関係式が成り立つことが好ましく、b/a≦18、b/a≦16、またはb/a≦14であることがより好ましい。
他の実施形態において、金属相におけるCuの質量百分率(%)bとSiの質量百分率(%)aとの比率b/aは、好ましくは2.5≦b/a≦20、2.5≦b/a≦18、2.5≦b/a≦16、2.5≦b/a≦14、3≦b/a≦20、3≦b/a≦18、3≦b/a≦16、3≦b/a≦14、3.5≦b/a≦20、3.5≦b/a≦18、3.5≦b/a≦16、3.5≦b/a≦14、4≦b/a≦20、4≦b/a≦18、4≦b/a≦16、4≦b/a≦14、4.5≦b/a≦20、4.5≦b/a≦18、4.5≦b/a≦16、または4.5≦b/a≦14であってよい。
【0031】
上述のとおり、金属セラミックス複合材料の金属相には、Cu、Si、および添加元素M以外に、例えばMn、Sr、Sn、P、Crなどの不可避不純物が包含されるため、金属相におけるSiの質量百分率a(%)とCuの質量百分率b(%)と添加元素Mの質量百分率m(%)との和は100質量%にならない。金属セラミックス複合材料の金属相において、炭化ケイ素を含むセラミックス相ならびにCuおよびSiを含む金属相が互いに十分に分散・混在した良好な含浸状態の形成、炭化ケイ素が本来有する特性である耐摩耗性、耐食性および強度、ならびに銅合金の銅が本来有する特性である強度、熱伝導性および抗菌・抗ウィルス性の効果的な発揮の観点から、a+b+m≧95(質量%)であることが好ましく、a+b+m≧96(質量%)であることがより好ましく、a+b+m≧97(質量%)、a+b+m≧98(質量%)またはa+b+m≧99(質量%)であることが更により好ましい。
【0032】
セラミックス相に対する金属相の含浸状態の更なる向上と、それに起因する気孔率(焼結体の緻密性)、曲げ強度および硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)ならびに抗菌効果および抗ウィルス効果の特性バランスのより一層の改善の観点から、本発明に係る金属セラミックス複合材料において、上述の走査電子顕微鏡(SEM)画像全体の面積に対するセラミックス相/金属相の面積比A/Bが5以下(および2以上)であり、かつ、金属相において、添加元素Mの質量百分率m(%)とSiの質量百分率a(%)との比率がm/a<1(および0.01以上)であり、かつCuの質量百分率b(%)とSiの質量百分率a(%)との比率がb/a≧3であることがより好ましい。
金属セラミックス複合材料において、セラミックス相/金属相の面積比A/Bが4.5以下であり、かつ添加元素Mの質量百分率m(%)とSiの質量百分率a(%)との比率がm/a≦0.9であり、かつCuの質量百分率b(%)とSiの質量百分率a(%)との比率がb/a≧3.5であることがより一層好ましい。金属セラミックス複合材料において、セラミックス相/金属相の面積比A/Bが4.5以下であり、かつ添加元素Mの質量百分率m(%)とSiの質量百分率a(%)との比率がm/a≦0.8であり、かつCuの質量百分率b(%)とSiの質量百分率a(%)との比率がb/a≧4であることがより一層好ましい。
【0033】
好ましい一実施形態において、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、抗菌効果および抗ウィルス効果を発揮する抗病原体材料として、すなわち抗菌・抗ウィルス材料として用いることができる。
対象となる菌としては、例えば、黄色ブドウ球菌、肺炎かん菌、緑膿菌、大腸菌、モラクセラ菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌などが挙げられる。
また、対象となるウィルスは、バクテリオファージQβ、バクテリオファージΦ6、インフルエンザウィルス、コロナウィルス、ヒト免疫不全ウィルスなどが挙げられる。
抗菌効果および抗ウィルス効果は、具体的には、後述の試験で評価することができる。
【0034】
好ましい一実施形態において、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、JIS Z2801:2012およびこれを引用するJIS R1752:2020に準じ、試験菌として黄色ブドウ球菌を用いて測定された抗菌効果Rが2.0以上であってよい。なお、抗菌効果の測定において試験菌液を接種した試験片の培養条件として、JIS Z2801:2012には作用温度35±1℃、作用時間24±1時間と規定されているが、ここでの培養・測定は作用温度25℃、作用時間6時間で暗所にて行う。また、JIS R1752:2020には、試験菌液を接種した試験片の光照射の作用時間が8時間と規定されているが、ここでの培養・測定は光照射をせず作用時間6時間で暗所にて行う。
具体的な抗菌効果の測定条件は、典型的には以下のとおりに設定することができる。
・無加工品名:SLGガラス
・試験品の大きさ:50mm×50mm×5mm
・n数:n=2
・試験菌:黄色ブドウ球菌(NBRC12732)
・試験品の無菌化:乾燥減菌器による加熱(80℃、15分)
・作用条件 作用温度:25℃、作用時間:6時間、暗所
・寒天培地による菌数計測
【0035】
この抗菌効果Rは、より好ましくは2.5以上、更により好ましくは3.0以上、より一層好ましくは3.5以上、なお更に好ましくは3.9以上、なお更により好ましくは4.2以上、最も好ましくは4.5以上であってよい。この抗菌効果Rの上限は、特に限定されないが、実際には約5.5~6が上限となり得る。
本発明に係る金属セラミックス複合材料の抗菌効果Rが2.0以上、あるいは好ましくは上記範囲内であることによって、抗菌性を有する材料として当該複合材料を広範な用途により好適に使用することができる。
【0036】
好ましい一実施形態において、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、ISO18071:2016およびJIS R1756:2020に準じ、試験ファージとしてバクテリオファージQβまたはバクテリオファージΦ6を用いて測定された抗ウィルス効果Rが、2.5以上であってよい。なお、抗ウィルス効果の測定において試験液を接種した試験片の培養条件として、ISO18071:2016およびJIS R1756:2020には可視光照射の作用時間が4時間と規定されているが、ここでの培養・測定は光照射せずに作用時間6時間で暗所にて行う。
具体的な抗ウィルス効果の測定条件は、典型的には以下のとおりに設定することができる。
・無加工品名:SLGガラス
・試験品の大きさ:50mm×50mm×4mm
・n数:n=2
・試験ファージ:バクテリオファージQβ(NBRC20012)
または、バクテリオファージΦ6(NBRC105899)
・試験品の無菌化:乾燥減菌器による加熱(80℃、15分)
・作用条件 作用温度:25℃、作用時間:6時間、暗所
・寒天培地による感染価計測
【0037】
この抗ウィルス効果Rは、より好ましくは3.0以上、更により好ましくは3.5以上、より一層好ましくは4.0以上、なお更に好ましくは4.5以上、なお更により好ましくは4.6以上、最も好ましくは4.7以上であってよい。この抗ウィルス効果Rの上限は、特に限定されないが、実際には約6.5~7が上限となり得る。
本発明に係る金属セラミックス複合材料の抗ウィルス効果Rが2.5以上、あるいは好ましくは上記範囲内であることによって、抗ウィルス性を有する材料として当該複合材料を広範な用途により好適に使用することができる。
【0038】
別の実施形態において、抗菌効果及び抗ウィルス効果の測定のための培養条件における上記の作用温度や作用時間は、採用する細菌やウィルスに応じて変えることができる。作用温度は10℃~40℃の範囲で適切に選択することができる。例えば、大腸菌の培養による試験を行う場合は、その増殖が活発な37℃に作用温度を設定して培養を行うことができる。また、採用する細菌やウィルスの増殖速度に応じて、2時間~72時間の範囲の適切な作用時間で、あるいはそれ以上の作用時間で培養を行ってもよい。例えば、増殖速度が遅いウィルスの場合は、作用時間を96時間に設定して培養を行うことができる。
【0039】
非常に有利なことに、本発明に係る好ましい実施形態の金属セラミックス複合材料は、暗所であっても十分な抗菌・抗ウィルス効果を発揮する抗病原体材料として用いることができる。すなわち、好ましい実施形態の金属セラミックス複合材料によれば、照度を問わずに抗菌・抗ウィルス効果を発揮する抗病原体材料を提供することができる。
【0040】
好ましい一実施形態において、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、JIS R1634:1998に従って、アルキメデス法にて測定された気孔率が10%以下であってよい。この気孔率は、より好ましくは9%以下、更により好ましくは8%以下、より一層好ましくは7%以下、なお更に好ましくは6%以下、なお更により好ましくは5%以下、最も好ましくは4%以下であってよい。この気孔率の下限は(0%以上である限り)、特に限定されないが、実際には約2~3%が下限となり得る。
本発明に係る金属セラミックス複合材料の気孔率が10%以下、あるいは好ましくは上記範囲内であることによって、焼結体の緻密性が更に改善され、より高い硬度を有する複合材料を得ることが容易になる。
【0041】
好ましい一実施形態において、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、JIS R1634:1998に従ってアルキメデス法にて測定するとき、金属セラミックス複合材料のかさ密度D1の、金属セラミックス複合材料の金属相の真密度D2に対する相対密度[D1/D2]*100が90%以上であってよい。この相対密度は、より好ましくは91%以上、更により好ましくは92%以上、より一層好ましくは93%以上、なお更に好ましくは94%以上、最も好ましくは95%以上であってよい。
本発明に係る金属セラミックス複合材料の相対密度が90%以上、あるいは好ましくは上記範囲内であることによって、気孔率が所定上限以下である場合と同様に、焼結体の緻密性が更に改善され、より高い硬度を有する複合材料を得ることが容易になる。
【0042】
好ましい一実施形態において、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、JIS R1601:2008に従って、3点曲げ強さ試験にて測定された曲げ強度が230MPa以上であってよい。この曲げ強度は、より好ましくは250MPa以上、更により好ましくは270MPa以上、より一層好ましくは280MPa以上、なお更に好ましくは290MPa以上、最も好ましくは300MPa以上であってよい。
本発明に係る金属セラミックス複合材料の曲げ強度が230MPa以上、あるいは好ましくは上記範囲内であることによって、屈曲操作に対する機械的強度が更に改善され、高い耐屈曲性が必要とされる広範な用途により好適に使用することができる。
【0043】
好ましい一実施形態において、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、JIS R1610:2003に従って、1点荷重試験にて5点平均で測定されたビッカース硬度が25GPa以上であってよい。このビッカース硬度は、より好ましくは26GPa以上、更により好ましくは26.5GPa以上、より一層好ましくは27GPa以上、なお更に好ましくは27.5GPa以上、最も好ましくは28GPa以上であってよい。
本発明に係る金属セラミックス複合材料のビッカース硬度が25GPa以上、あるいは好ましくは上記範囲内であることによって、押込み操作に対する堅牢性が更に改善され、高い剛性が必要とされる広範な用途により好適に使用することができる。
【0044】
本発明に係る金属セラミックス複合材料は、様々な形状に加工されて使用され得る。その形状は、特に限定されないが、フィルム、シート、薄板、厚板、略角柱、略円柱等であってよい。
また、本発明に係る金属セラミックス複合材料は、抗菌・抗ウィルス性が必要とされる幅広い用途に使用され得る。当該複合材料は、例えば、各種物品の部材や、建物、橋、船、鉄道、道路、港湾などを構成する構造材料、畜舎の床材を含む建造物の床材、壁材、天井などの建築資材等として好適に使用され得る。
【0045】
2.金属セラミックス複合材料の製造方法
本発明に係る金属セラミックス複合材料を製造する方法は、上述した構成・特性が備えた金属セラミックス複合材料が結果的に得られる限りは特に限定されない。本発明に係る金属セラミックス複合材料は、例えば以下に述べるように製造することができる。
【0046】
例えば、第1の工程として、過半量の炭化ケイ素(SiC)を含むセラミックス相形成材料から多孔質セラミックス焼結体のプリフォームを形成し、続く第2の工程として、このプリフォームに、高温で溶融したCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物ならびに添加元素Mを含む金属相形成材料を加圧下で含侵させることによって、本発明に係る金属セラミックス複合材料を製造することができる。炭化ケイ素以外にセラミックス相形成材料に包含され得る他の物質、金属相形成材料に含まれる添加元素M、および不可避不純物の種類については、金属セラミックス複合材料について上述したとおりである。
【0047】
上記第1工程にて用いられるセラミックス相形成材料と上記第2工程にて用いられる金属相形成材料の質量比、合金および/または金属間化合物におけるCuおよびSiの質量比、金属相形成材料におけるCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物ならびに添加元素Mの質量割合を適宜調整することによって、所定範囲内のセラミックス相/金属相の面積比A/B、所定範囲内の添加元素Mの質量百分率m(%)、所定範囲内の添加元素Mの質量百分率m(%)/Siの質量百分率a(%)の比を満たし、好ましくは所定範囲内のCuの質量百分率b(%)/Siの質量百分率a(%)の比を満たす本発明に係る金属セラミックス複合材料を得ることができる。
【0048】
上記第1の工程において、セラミックス相形成材料に主成分として含まれる炭化ケイ素は、市販されている高純度の炭化ケイ素原料粉末を用いることができる。多孔質セラミックス焼結体のプリフォームは、例えば、過半量の炭化ケイ素を含むセラミックス相形成材料を、金型成形などの成型法により成形し、次いで、通常2000℃以上、好ましくは2200℃以上で高温保持するいわゆる再結晶法により作成することができる。
【0049】
あるいは、高純度のケイ素(Si)粒子および炭素(C)粒子を含む混合物を1400℃以上で加熱し、反応焼結させることによって炭化ケイ素を含む多孔質セラミックス焼結体のプリフォームを得ることも可能である。反応焼結法の場合、成形性やプリフォームの高密度化の観点から、高純度炭素粉と共にフェノール樹脂やピッチ等のバインダー(焼結により炭化する物質)を用いることも好ましい。炭素源として炭素繊維を用いることもできる。この第1の工程において得られた多孔質セラミックス焼結体のプリフォームの気孔率は、特に限定されないが、例えば10%~70%であってよい。
【0050】
上記第2の工程において、CuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物ならびに添加元素Mを含む金属相形成材料は、予め、通常1000℃超、好ましくは1200℃以上の高温で溶融させることができる。このように高温で溶融したCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物ならびに添加元素Mを含む金属相形成材料を、通常1MPa超、好ましくは3MPa以上の加圧下で高圧容器内にて、上記第1の工程で得られた多孔質セラミックス焼結体のプリフォームに含侵させることができる。
別法としては、過半量の炭化ケイ素(SiC)を含むセラミックス相形成材料からセラミックス焼結体の前駆体としてプリフォームを形成し、このプリフォームの焼成と、高温で溶融したCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物ならびに添加元素Mを含む金属相形成材料のプリフォームへの含浸とを同時に行うこともできる。
CuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物は、特に限定されないが、公知のいずれの合金および/また金属間化合物であってもよい。例えば、合金としてCu3Si、Cu5Si、Cu6Si、Cu7Si等が使用され得る。
【0051】
限定されない具体例としては、所定時間(例えば10秒~200秒)の間、高温で溶融したCuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物ならびに添加元素Mを含む金属相形成材料に多孔質セラミックス焼結体のプリフォームを浸漬した状態で保持し、次いで浸漬処理されたプリフォームを所定時間(例えば30秒~300秒)の間、加圧下に置くことでプリフォーム全体への含浸を進行させることができる。高温で溶融した金属相形成材料への多孔質セラミックス焼結体のプリフォームの浸漬に先立って、金属相形成材料の加熱溶融とは別途、プリフォームも予め加熱しておいてもよい。
【0052】
上記第2の工程にて高温で溶融した金属相形成材料を多孔質セラミックス焼結体のプリフォームに含侵させた後には、直ちに冷却を行うのが好ましい。冷却は、溶融含浸を行った高圧容器内に冷却用ガスを導入・循環させることによって速やかに行うことができる。あるいは、溶融含浸後のプリフォームを冷却用金属に接触させることによって冷却を行うこともできる。
【0053】
金属セラミックス複合材料およびその製造方法について、諸実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の範囲内において、これらの実施形態の各々の構成要素は任意に組み合わせることができるものと考えられるべきである。すなわち、これらの実施例形態によって本発明は限定されるものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ画定されるべきであることに留意されたい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を参照して本発明を更に例証する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0055】
実施例1
以下のように、実施例1の金属セラミックス複合材料を製造した。
<第1工程>
市販のSiC粉末の微粒(Saint-Gobain製、平均粒径3μm)70質量%および粗粒(信濃電気精錬社製、平均粒径20μm)30質量%に、有機バインダーとしてフェノール樹脂を10質量%(炭素換算3質量%)混合し、プレス成型した後、窒素雰囲気中にて1000℃の温度で3時間加熱処理し、フェノール樹脂を炭化した75体積%の充填率を有するプリフォームを形成した。
<第2工程>
市販の銅粉末(高純度化学研究所製、平均粒径3μm)と、ケイ素粉末(高純度化学研究所製、平均粒径100μm)と、ニッケル粉末(高純度化学研究所製、平均粒径3μm)とを用い、これらの粉末をルツボ内で混合した。このとき、上記第1工程にて用いられるセラミックス相形成材料と上記第2工程にて用いられる金属相形成材料の質量比を1:1とし、金属相形成材料のうち銅(Cu)とケイ素(Si)の比率を7:3とし、金属相形成材料の総質量に対する添加元素Niの質量比を0.5質量%とした。アルゴン雰囲気で1500℃の温度で3時間保持して溶融したCu-Si―Ni合金を、第1工程で得られたプリフォームに浸透させて金属セラミックス複合材料を作製した。
得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.5であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.0であった。また、金属相形成材料の総質量に対してSiの質量割合は19.8質量%、Cuの質量割合は79.6質量%、添加元素Niの質量割合は0.5質量%であった(測定法後述)。
【0056】
実施例2
金属相形成材料の総質量に対する添加元素Niの質量比を5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.6であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.2であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は18.0質量%、Cuの質量割合は76.0質量%、添加元素Niの質量割合は5.0質量%であった(測定法後述)。
【0057】
実施例3
金属相形成材料の総質量に対する添加元素Niの質量比を16.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は4.7であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は5.7であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は11.8質量%、Cuの質量割合は67.2質量%、添加元素Niの質量割合は16.0質量%であった(測定法後述)。
【0058】
実施例4
添加元素としてNi粉末の代わりにMg粉末(高純度化学研究所製、粒径180μm以下)を用い、金属相形成材料の総質量に対する添加元素Mgの質量比を5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.6であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.3であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は17.8質量%、Cuの質量割合は76.0質量%、添加元素Mgの質量割合は5.0質量%であった(測定法後述)。
【0059】
実施例5
添加元素としてNi粉末の代わりにZn粉末(高純度化学研究所製、粒径75μm以下)を用い、金属相形成材料の総質量に対する添加元素Znの質量比を5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.9であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.2であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は18.0質量%、Cuの質量割合は76.0質量%、添加元素Znの質量割合は5.0質量%であった(測定法後述)。
【0060】
実施例6
添加元素としてNi粉末の代わりにTi粉末(高純度化学研究所製、粒径45μm以下)を用い、金属相形成材料の総質量に対する添加元素Tiの質量比を5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.6であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.1であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は18.7質量%、Cuの質量割合は76.0質量%、添加元素Tiの質量割合は5.0質量%であった(測定法後述)。
【0061】
実施例7
添加元素としてNi粉末の代わりにNi/Ti粉末の混合物(質量比2:1)を用い、金属相形成材料の総質量に対する添加元素Ni/Ti混合物の質量比を6.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.7であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.8であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は15.8質量%、Cuの質量割合は75.2質量%、添加元素Ni/Tiの質量割合は6.0質量%であった(測定法後述)。
【0062】
実施例8
金属相形成材料のうち銅(Cu)とケイ素(Si)の比率を6:4とし、金属相形成材料の総質量に対する添加元素Niの質量比を5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.5であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は2.7であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は25.1質量%、Cuの質量割合は67.9質量%、添加元素Niの質量割合は5.0質量%であった(測定法後述)。
【0063】
実施例9
金属相形成材料のうち銅(Cu)とケイ素(Si)の比率を8:2とし、金属相形成材料の総質量に対する添加元素Niの質量比を5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は3.7であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は13.2であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は6.5質量%、Cuの質量割合は85.5質量%、添加元素Niの質量割合は5.0質量%であった(測定法後述)。
【0064】
比較例1
上記第1工程にて用いられるセラミックス相形成材料と上記第2工程にて用いられる金属相形成材料の質量比、および金属相形成材料の総質量に対する添加元素Niの質量比を23質量%に変更した以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は15.0であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は5.7であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は15質量%、Cuの質量割合は85質量%、添加元素Niの質量割合は23質量%であった(測定法後述)。
【0065】
比較例2
上記第1工程にて用いられるセラミックス相形成材料と上記第2工程にて用いられる金属相形成材料の質量比を変更し、添加元素Mを添加しなかった以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は1.5であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.0であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は20質量%、Cuの質量割合は80質量%であった(測定法後述)。
【0066】
比較例3
上記第1工程にて用いられるセラミックス相形成材料と上記第2工程にて用いられる金属相形成材料の質量比を変更し、添加元素Mを添加しなかった以外は、実施例1と同様に金属セラミックス複合材料を製造した。得られた金属セラミックス複合材料のセラミックス相/金属相の面積比A/B(測定法後述)は63.3であり、金属相においてCuのSiに対する質量比b/a(測定法後述)は4.0であった。また、得られた金属セラミックス複合材料の金属相の総質量に対してSiの質量割合は20質量%、Cuの質量割合は80質量%であった(測定法後述)。
【0067】
比較例4
実施例1と同様の手順により、セラミックス相形成材料から炭化ケイ素(SiC)焼結体を製造した。これに金属相形成材料を含浸させることなく、比較用として特性の測定・評価を行った。
【0068】
複合材料の諸特性の測定
(1)セラミックス相/金属相の面積比A/Bの測定・算出
走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)製「JSM―IT200」)を用い、実施例1~9および比較例1~3の各々の金属セラミックス複合材料に対して、倍率500にて面積256μm×192μmの画像を取得した。この画像全体の面積に対して、セラミックス相(グレーの箇所)の合計面積の百分率(%)をA、金属相(白色箇所)の合計面積の百分率(%)をBとし、セラミックス相/金属相の面積比A/Bを算出した。原則として一視野の画像から両相の各々の合計面積百分率を測定し、面積比を算出した。任意選択の追加手順としては、任意の二視野または三視野以上で画像を取得し、それらの画像における面積比A/Bの平均値を算出して、これが前記の一視野の画像から得られた面積比と実質的に同一であることを確認してもよい。このように平均値を算出する場合、前者の面積比(一視野)と後者の面積比(複数視野の平均値)との間に0.1以上の相違があることが把握されたときは、後者の値を面積比として採用するものとする。
実施例1~9および比較例1~3の各々の金属セラミックス複合材料についてのセラミックス相/金属相の面積比A/Bを表1に示す。
【0069】
(2)金属相の成分組成の同定・測定
実施例1~9および比較例1~3の各々の金属セラミックス複合材料中の炭化ケイ素、遊離炭素(フリーカーボン)、金属相を構成するCu、Si、および添加元素M、ならびに不可避不純物のそれぞれの量(質量%)を、XRF(蛍光X線分析法)およびICP発光分光分析装置と、炭素・硫黄分析装置(燃焼-赤外線吸収法)とを用いて同定した。上記3つの測定を行う際は、金属セラミックス複合材料の試料を解砕し、粉末状にした後、分析を行った。
XRF(蛍光X線分析法)は、解砕後の試料を粉末分析専用のカップホルダにセットして試料内に含まれるセラミックス、銅、ケイ素、添加金属などの主成分と不純物の元素を同定した。蛍光X線分析装置は、(株)リガク製「Supermini20」を使用した。
ICP発光分光分析は、解砕後の試料に塩酸を加え,室温で成分を分解し,ICP発光分光分析装置を用いて各元素の発光強度を測定することにより、XRFで測定した元素の定量分析を実施した。ICP発光分光分析装置は、アジレント・テクノロジー(株)製「Agilent 5110」を使用した。
炭素・硫黄分析装置(燃焼-赤外線吸収法)を用いて遊離炭素(フリーカーボン)及び炭化ケイ素(SiC)を測定した。測定は、JIS R 2011:2007「炭素及び炭化けい素含有耐火物の化学分析方法」に準じて行った。なお、炭化ケイ素(SiC)については、間接法(全炭素及び遊離炭素を測定し、その差の炭素を炭化ケイ素に換算する)により実施した。炭素・硫黄分析装置は、酸素気流中燃焼(管状電気炉方式)-赤外線吸収法を利用する(株)堀場製作所製「EMIA―810W」を使用した。
また、これらの同定・測定結果から、金属セラミックス複合材料の金属相における添加元素Mの質量百分率m(%)/Siの質量百分率a(%)の比率m/a、およびCuの質量百分率b(%)/Siの質量百分率a(%)の比率b/aを算出した。
実施例1~9および比較例1~3の各々の金属セラミックス複合材料についての金属相におけるSiの質量百分率a(%)、Cuの質量百分率b(%)、添加元素Mの質量百分率m(%)、添加元素Mの質量百分率m(%)/Siの質量百分率a(%)の比率m/a、およびCuの質量百分率b(%)/Siの質量百分率a(%)の比率b/aを、添加元素Mの種類と共に表1に示す。
【0070】
なお、金属セラミックス複合材料の製造において、セラミックス相形成材料のプリフォームに含侵される金属量よりも含浸前に粉末混合物として準備する金属相形成材料の金属量のほうが多く、かつ、含浸にあたり金属相形成材料を構成する添加元素Mを含む各金属種が完全に均一に混合されていない場合もあり得るため、金属相形成材料における添加元素Mの質量百分率と実際に製造された金属セラミックス複合材料の金属相における添加元素Mの質量百分率とが完全に一致しないことも理論上起こり得ると考えられる。
上記の実施例1~9及び比較例1の各々においては、金属相形成材料における添加元素Mの質量百分率と、実際に製造された金属セラミックス複合材料の金属相における添加元素Mの質量百分率とが一致していた。
【0071】
(3)含浸状態の評価
実施例1~9および比較例1~3の各々の金属セラミックス複合材料の含浸状態は含浸処理後の外観によって観察した。含浸状態の評価基準は以下のとおりとした。評価結果を表2に示す。
〇(良好):全面的に含侵していた。
△(中程度):部分的に含侵していなかった。
×(不良):含侵していなかった。
【0072】
(4)複合材料における内部クラックの有無
上記(1)と同様にして得られた実施例1~9および比較例1~3の各々の金属セラミックス複合材料の走査電子顕微鏡(SEM)の倍率250および倍率500倍の画像において、内部クラックの発生の有無を確認した。倍率250の画像にて内部クラックの発生が無いことが確認されたときには、倍率500倍の画像においても確認を行った。評価基準は以下のとおりとした。評価結果を表2に示す。
〇(良好):倍率250または倍率500倍の画像において、内部クラックが発生していた。
×(不良): 倍率500倍の画像においても内部クラックが発生していなかった。
【0073】
(5)抗菌活性(抗菌効果R)の測定
実施例1~9および比較例1~4の各々の金属セラミックス複合材料について、JIS Z2801:2012およびJIS R1752:2020に準じて、試験菌として黄色ブドウ球菌を用い、暗所にて作用温度25℃及び作用時間6時間で抗菌効果Rを測定した。具体的な抗菌効果Rの測定条件は以下のとおりであった。
・無加工品名:SLGガラス
・試験品の大きさ:50mm×50mm×5mm
・n数:n=2
・試験菌:黄色ブドウ球菌(NBRC12732)
・試験品の無菌化:乾燥減菌器による加熱(80℃、15分)
・作用条件 作用温度:25℃、作用時間:6時間、暗所
・寒天培地による菌数計測
抗菌効果Rの測定結果を表2に示す。
【0074】
(6)抗ウィルス活性(抗ウィルス効果R)の測定
実施例1~9および比較例1~4の各々の金属セラミックス複合材料について、ISO18071:2016およびJIS R 1756:2020に準じて、試験ウィルスとしてマクロファージQβを用い、暗所にて作用温度25℃及び作用時間6時間で抗ウィルス効果Rを測定した。具体的な抗ウィルス効果Rの測定条件は以下のとおりであった。
・無加工品名:SLGガラス
・試験品の大きさ:50mm×50mm×4mm
・n数:n=2
・試験ファージ:バクテリオファージQβ(NBRC20012)
・試験品の無菌化:乾燥減菌器による加熱(80℃、15分)
・作用条件 作用温度:25℃、作用時間:6時間、暗所
・寒天培地による感染価計測
抗ウィルス効果Rの測定結果を表2に示す。
【0075】
(7)気孔率の測定
実施例1~9および比較例1~4の各々の金属セラミックス複合材料について、JIS R1634:1998に従って、アルキメデス法により気孔率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0076】
(8)真密度および相対密度の測定
実施例1~9および比較例1~4の各々の金属セラミックス複合材料について、JIS R1634:1998に従って、アルキメデス法により、複合材料のかさ密度D1の金属相の真密度D2(SiCと金属相の比に基づいて計算された金属相の理論密度)に対する相対密度[D1/D2]*100を測定した。測定結果を表2に示す。
【0077】
(9)曲げ強度の測定
実施例1~9および比較例1~4の各々の金属セラミックス複合材料について、JIS R1601:2008に従って、外部支点間距離30±0.1mmで、試験ジグ3p-30、支持具の形式:回転形、試験片:標準試験片Iを用い、標準試験片I<全長(LT):36mm以上45mm未満、幅(w):4.0±0.1mm、厚さ(t):3.0±0.1mm>の条件下、3点曲げ強さ試験にて曲げ強度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0078】
(10)ビッカース硬度の測定
実施例1~9および比較例1~4の各々の金属セラミックス複合材料について、JIS R1610:2003に従って、試験力2.942N(HV0.3)を使用し、1点荷重試験にて5点平均でビッカース硬度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
上記実施例1~9の結果から、本発明に係る好ましい金属セラミックス複合材料によれば、良好な含浸状態がもたらされ、ひいては優れた強度および硬度などの機械的物性と共に、銅に起因する優れた抗菌性および抗ウィルス性が奏され、また特に好ましい例においては、気孔率(焼結体の緻密性)、曲げ強度および硬度(例えばビッカース硬度:押し込み硬さ)ならびに抗菌効果および抗ウィルス効果の全てがバランス良く高いレベルで優れていた。
一方、金属相に添加元素Mが過剰に含まれる比較例1、セラミック相が金属相に対して所定の面積比より少ない比較例2、セラミック相が金属相に対して所定の面積比より多い比較例3によれば、良好な含浸状態が得られず、気孔率が高くなり緻密な焼結体が得られなかったか、あるいは所望される程度の抗菌活性・抗ウィルス活性が得られなかった等、実用に不適当な結果が得られた。
【0082】
なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
炭化ケイ素を含むセラミックス相、ならびに、
CuおよびSiからなる合金および/または金属間化合物を含む金属相
を互いに分散した状態で含んでなる金属セラミックス複合材料であって、
前記金属相は、CuまたはSi以外の少なくとも1種の金属である添加元素Mを含み、かつ、
前記炭化ケイ素は、前記セラミックス相の構成材料の総質量の過半量を占め、
ここで、
前記金属セラミックス複合材料に対して、走査電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率500にて面積256μm×192μmの画像を取得した際、この画像全体の面積に対して、前記セラミックス相の合計面積の百分率(%)をA、前記金属相の合計面積の百分率(%)をBとするとき、セラミックス相/金属相の面積比A/Bが2以上60以下であり、かつ、
前記金属相において、
その総質量に対して、Siの質量百分率(%)をa、添加元素Mの質量百分率(%)をmとするとき、下記の関係式:
0.01≦m/a≦1.4、および
0.3≦m≦20
を満たす、金属セラミックス複合材料。
[2].
前記金属相において、その総質量に対して、Cuの質量百分率(%)をbとし、前記のとおり、Siの質量百分率(%)をaとするとき、下記の関係式:
b/a≧2.5
を満たす、上記項目1に記載の金属セラミックス複合材料。
[3].
前記セラミックス相/金属相の面積比A/Bが5以下であり、かつ
m/a<1であり、かつ
b/a≧3である、
上記項目2に記載の金属セラミックス複合材料。
[4].
前記添加元素Mが、Ni、Mg、ZnおよびTiを含む群から選択される少なくとも1種を含む、上記項目1~3のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。
[5].
JIS Z2801:2012に従って、試験菌として黄色ブドウ球菌を用いた条件で測定された抗菌効果Rが2.0以上である、上記項目1~4のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。
[6].
抗病原体材料として用いられることを特徴とする、上記項目1~5のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。
[7].
JIS R1634:1998に従って、アルキメデス法にて測定された気孔率が10%以下である、上記項目1~6のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。
[8].
JIS R1634:1998に従ってアルキメデス法にて測定するとき、前記金属セラミックス複合材料のかさ密度D1の、前記金属セラミックス複合材料の金属相の真密度D2に対する相対密度[D1/D2]*100が90%以上である、上記項目1~7のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。
[9].
JIS R1601:2008に従って、3点曲げ強さ試験にて測定された曲げ強度が230MPa以上である、上記項目1~8のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。
[10].
JIS R1610:2003に従って、1点荷重試験にて5点平均で測定されたビッカース硬度が25GPa以上である、上記項目1~9のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。
[11].
前記セラミックス相がさらに遊離炭素を含む、上記項目1~10のいずれか1項に記載の金属セラミックス複合材料。