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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】共振装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/24 20060101AFI20241121BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20241121BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20241121BHJP
   H03H 3/04 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H03H9/24 B
H03H9/02 A
H03H3/02 B
H03H3/04 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021563737
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024369
(87)【国際公開番号】W WO2021117272
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019221957
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】福光 政和
(72)【発明者】
【氏名】岸 武彦
(72)【発明者】
【氏名】樋口 敬之
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/212677(WO,A1)
【文献】特開平11-214947(JP,A)
【文献】特開2008-054018(JP,A)
【文献】特開2015-008353(JP,A)
【文献】特開2000-193458(JP,A)
【文献】特開2009-253622(JP,A)
【文献】特開2018-165642(JP,A)
【文献】特開2015-035818(JP,A)
【文献】特開2014-060698(JP,A)
【文献】特開2008-061048(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008480(WO,A1)
【文献】特開2017-045980(JP,A)
【文献】特開2007-081697(JP,A)
【文献】特開2007-306471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下蓋と、上蓋と、前記下蓋と前記上蓋とに接合された共振子とを備え、
前記共振子は、前記下蓋と前記上蓋との間に設けられた内部空間で面外屈曲振動する振動腕を有し、
前記振動腕は、前記上蓋と対向する側に金属膜が設けられた先端部を有し、
前記振動腕の前記先端部と前記上蓋との間のギャップが、前記振動腕の前記先端部と前記下蓋との間のギャップよりも大きく、
前記振動腕は、前記先端部に向かうにつれて前記下蓋との距離が小さくなるように構成された、共振装置。
【請求項2】
前記振動腕の前記先端部の前記下蓋側の縁部が斜め又は円弧状に形成された、
請求項1に記載の共振装置。
【請求項3】
前記上蓋及び前記下蓋のそれぞれは前記内部空間を構成するキャビティを有し、
前記上蓋のキャビティの深さは、前記下蓋のキャビティの深さよりも大きい、
請求項1又は2に記載の共振装置。
【請求項4】
前記振動腕の前記先端部と前記下蓋との間のギャップG1と、前記振動腕の前記先端部と前記上蓋との間のギャップG2とは、
1<G2/G1≦1.5
の関係を有する、
請求項1からのいずれか1項に記載の共振装置。
【請求項5】
前記上蓋は前記内部空間を構成するキャビティを有し、
前記上蓋のキャビティは、前記振動腕の前記先端部に対向する部分が前記振動腕の根本部に対向する部分よりも深くなるように形成された、
請求項1からのいずれか1項に記載の共振装置。
【請求項6】
前記上蓋は、少なくとも前記振動腕の前記先端部に対向する金属膜を有する、
請求項1からのいずれか1項に記載の共振装置。
【請求項7】
下蓋と、上蓋と、前記下蓋と前記上蓋とに接合された共振子を備える共振装置を準備する工程であって、前記共振子は、前記下蓋と前記上蓋との間に設けられた内部空間で面外屈曲振動する振動腕を有し、前記振動腕は、前記上蓋と対向する側に金属膜が設けられた先端部を有し、前記振動腕の先端部と前記上蓋との間のギャップが、前記振動腕の前記先端部と前記下蓋との間のギャップよりも大きい、共振装置を準備する工程と、
前記共振子を励振して前記振動腕の前記先端部を少なくとも前記下蓋に接触させることによって前記共振子の周波数を調整する工程と
を備え
前記振動腕は、前記先端部に向かうにつれて前記下蓋との距離が小さくなるように構成された、共振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振装置は、移動通信端末、通信基地局、家電などの各種電子機器において、タイミングデバイス、センサ、発振器などの用途に用いられている。このような共振装置は、例えば、下蓋と、下蓋との間で内部空間を形成する上蓋と、当該内部空間で振動可能に保持された振動腕を有する共振子と、を備えている。このような共振装置は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の一種である。
【0003】
特許文献1には、励振させた振動腕の先端部を下蓋及び上蓋に衝突させることによって、共振子の周波数を調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/212677号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の周波数調整方法によれば、例えば振動腕の先端部の上蓋側に金属膜が形成されている場合、振動腕の先端部が上蓋に衝突しても当該金属膜が削られずに延性変形する場合があるため、振動腕の重量変化が殆ど発生しない場合があった。また、振動腕の先端部と上蓋との衝突によって振動腕の振幅が制限されるため、振動腕の先端部が下蓋に衝突しても振動腕の重量変化が小さい場合があった。そのため従来の手法によれば、周波数を調整する工程の効率が優れるとは言い得ない場合があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、生産性が向上した共振装置及びその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る共振装置は、下蓋と、下蓋に接合された上蓋と、下蓋と上蓋との間に設けられた内部空間で屈曲振動可能である振動腕を有する共振子とを備え、振動腕は、上蓋と対向する側に金属膜が設けられた先端部を有し、振動腕の先端部と上蓋との間のギャップが、振動腕の先端部と下蓋との間のギャップよりも大きい。
【0008】
本発明の他の一態様に係る共振装置の製造方法は、下蓋と、下蓋に接合された上蓋と、下蓋と上蓋との間に設けられた内部空間で屈曲振動可能である振動腕を有する共振子とを備える共振装置を準備する工程であって、振動腕の先端部と上蓋との間のギャップが、振動腕の先端部と下蓋との間のギャップよりも大きい、共振装置を準備する工程と、共振子を励振して振動腕の先端部を少なくとも下蓋に接触させることによって共振子の周波数を調整する工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生産性が向上した共振装置及びその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る共振装置の外観を概略的に示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係る共振装置の構造を概略的に示す分解斜視図である。
図3】第1実施形態に係る共振子の構造を概略的に示す平面図である。
図4図1に示した共振装置の積層構造を概念的に示すX軸に沿った断面図である。
図5図1に示した共振装置の積層構造を概念的に示すY軸に沿った断面図である。
図6】第1実施形態に係る共振装置の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図7】振動腕の先端部の下蓋側の表面を写した写真である。
図8】振動腕の先端部の上蓋側の表面を写した写真である。
図9】周波数変動比率を示すグラフである。
図10】第2実施形態に係る共振装置の構成を概略的に示す断面図である。
図11】第3実施形態に係る共振装置の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。各実施形態の図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本願発明の技術的範囲を当該実施形態に限定して解するべきではない。
【0012】
<第1実施形態>
まず、図1及び図2を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る共振装置1の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係る共振装置の外観を概略的に示す斜視図である。図2は、第1実施形態に係る共振装置の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【0013】
以下において、共振装置1の各構成について説明する。各々の図面には、各々の図面相互の関係を明確にし、各部材の位置関係を理解する助けとするために、便宜的にX軸、Y軸及びZ軸からなる直交座標系を付すことがある。X軸、Y軸及びZ軸と平行な方向をそれぞれ、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向と呼ぶ。X軸及びY軸によって規定される面をXY面と呼び、YZ面及びZX面についても同様とする。なお、本実施形態では、便宜的に、Z軸方向の矢印の向き(+Z軸方向)を上、Z軸方向の矢印とは反対の向き(-Z軸方向)を下、Y軸方向の矢印の向き(+Y軸方向)を前、Y軸方向の矢印とは反対の向き(-Y軸方向)を後、X軸方向の矢印の向き(+X軸方向)を右、X軸方向の矢印とは反対の向き(-X軸方向)を左と呼ぶことがある。但し、これは、共振装置1の向きを限定するものではない。
【0014】
この共振装置1は、共振子10と、共振子10を挟んで互いに対向するように設けられた下蓋20及び上蓋30と、を備えている。下蓋20、共振子10、及び上蓋30がこの順でZ軸方向に積層されている。共振子10と下蓋20とが接合され、共振子10と上蓋30とが接合されている。共振子10を介して互いに接合された下蓋20と上蓋30との間には、内部空間が形成されている。下蓋20及び上蓋30は、共振子10を収容するパッケージ構造を構成している。
【0015】
共振子10は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS振動素子である。共振子10は、振動部110と、保持部140と、保持腕150と、を備えている。振動部110は、パッケージ構造の内部空間において、振動可能に保持されている。XY面に沿って延在する振動部110の振動モードは、例えばXY面と交差する方向に振動する面外屈曲振動モードである。保持部140は、例えば振動部110を囲むように矩形の枠状に設けられている。保持部140は、下蓋20及び上蓋30とともに、パッケージ構造の内部空間を形成している。保持腕150は、振動部110と保持部140とを接続している。
【0016】
共振子10の周波数帯は、例えば、1kHz以上1MHz以下である。このような周波数帯の共振子10は、振動部110の重量変化による周波数の変動が大きい。このため、共振子10、下蓋20及び上蓋30を接合して内部空間を封止する工程中やその後に、共振装置1の周波数が変動することがある。このように周波数が変動しやすい共振装置1であっても、本実施形態のように封止後に周波数を調整することで、周波数偏差を小さくできる。
【0017】
下蓋20は、XY平面に沿って設けられる矩形平板状の底板22と、底板22の周縁部から上蓋30に向かって延びる側壁23とを有している。側壁23は、共振子10の保持部140に接合されている。下蓋20には、共振子10の振動部110と対向する面において、底板22と側壁23とによって囲まれたキャビティ21が形成されている。キャビティ21は、上向きに開口する直方体状の開口部である。
【0018】
下蓋20は、底板22から共振子10に向かって突出する突起部50を有している。図3に示すように、上蓋30側から平面視したとき、突起部50は、後述する内側振動腕121Bの腕部123Bと内側振動腕121Cの腕部123Cとの間に位置している。突起部50は、腕部123B及び腕部123Cに沿って延びている。突起部50のY軸方向の長さは240μm程度、X軸方向の長さは15μm程度である。このような突起部50は、下蓋20の機械的強度を向上させて捩れを抑制する。
【0019】
上蓋30は、XY平面に沿って設けられる矩形平板状の底板32と、底板32の周縁部から下蓋20に向かって延びる側壁33とを有している。側壁33は、共振子10の保持部140に接合されている。上蓋30には、共振子10の振動部110と対向する面において、底板32と側壁33とによって囲まれたキャビティ31が形成されている。キャビティ31は、下向きに開口する直方体状の開口部である。キャビティ21とキャビティ31とは、共振子10を挟んで対向し、パッケージ構造の内部空間を形成している。
【0020】
次に、図3を参照しつつ、共振子10の構成(振動部110、保持部140及び保持腕150)について、より詳細に説明する。図3は、第1実施形態に係る共振子の構造を概略的に示す平面図である。
【0021】
振動部110は、上蓋30側からの平面視において、保持部140の内側に設けられている。振動部110と保持部140との間には、所定の間隔で空間が形成されている。振動部110は、4本の振動腕121A、121B、121C及び121Dからなる励振部120と、励振部120に接続された基部130と、を有している。なお、振動腕の数は4本に限定されるものではなく、1本以上の任意の数に設定され得る。本実施形態において、励振部120と基部130とは、一体に形成されている。
【0022】
振動腕121A、121B、121C及び121Dは、それぞれY軸方向に沿って延びており、この順でX軸方向に所定の間隔で並んでいる。振動腕121A~121Dのそれぞれは、基部130に接続された固定端と、基部130から最も離れた開放端とを有している。振動腕121A~121Dのそれぞれは、開放端の側に設けられた先端部122A~122Dと、固定端に相当する根本部と、根本部と先端部122A~122Dとを繋ぐ腕部123A~123Dとを有している。言い換えると、先端部122A~122Dは、振動部110における変位が相対的に大きい位置に設けられている。振動腕121A~121Dは、それぞれ、例えばX軸方向の幅が50μm程度、Y軸方向の長さが450μm程度である。
【0023】
4本の振動腕のうち、振動腕121A及び121DはX軸方向の外側に配置された外側振動腕であり、他方、振動腕121B及び121CはX軸方向の内側に配置された内側振動腕である。内側振動腕121Bの腕部123Bと内側振動腕121Cの腕部123Cとの間には、幅W1の間隙が形成されている。外側振動腕121Aの腕部123Aと内側振動腕121Bの腕部123Bとの間には、幅W2の間隙が形成されている。同様に、腕部123Cと腕部123Dとの間には、幅W2の間隙が形成されている。幅W1を幅W2よりも大きくすることで、振動特性や耐久性が改善される。例えば、幅W1は25μm程度、幅W2は10μm程度である。但し、幅W1と幅W2の大小関係は上記に限定されるものではない。例えば、図3に示す例とは異なり、幅W1が幅W2と略同じ大きさでもよく、幅W1が幅W2よりも小さくてもよい。
【0024】
先端部122A~122Dは、それぞれ、上蓋30側の表面に金属膜125A~125Dを備えている。言い換えると、上蓋30側から平面視したときに金属膜125A~125Dのそれぞれの位置する部分が先端部122A~122Dである。先端部122A~122Dのそれぞれの単位長さ当たりの重さ(以下、単に「重さ」ともいう。)は、金属膜125A~125Dを有することにより、腕部123A~123Dのそれぞれの重さよりも重い。これにより振動部110を小型化しつつ、振動特性を改善することができる。また、金属膜125A~125Dは、それぞれ、振動腕121A~121Dの開放端側を重くする機能だけではなく、その一部を削ることによって振動腕121A~121Dの共振周波数を調整する、いわゆる周波数調整膜として用いてもよい。
【0025】
本実施形態において、先端部122A~122DのそれぞれのX軸方向に沿った幅は、腕部123A~123DのそれぞれのX軸方向に沿った幅よりも大きい。これにより、先端部122A~122Dのそれぞれの重さを、さらに大きくできる。但し、先端部122A~122Dのそれぞれの重さが腕部123A~123Dのそれぞれの重さよりも大きければ、先端部122A~122DのそれぞれのX軸方向に沿った幅は上記に限定されるものではない。先端部122A~122DのそれぞれのX軸方向に沿った幅は、腕部123A~123DのそれぞれのX軸方向に沿った幅と同等、もしくはそれ以下の大きさであってもよい。
【0026】
上蓋30側から平面視したとき、先端部122A~122Dのそれぞれの形状は、四隅に丸みを帯びた曲面形状(例えば、いわゆるR形状)を有する略長方形状である。腕部123A~123Dのそれぞれの形状は、基部130に接続される根本部付近、及び、先端部122A~122Dのそれぞれに接続される接続部付近にR形状を有する略長方形状である。但し、先端部122A~122D及び腕部123A~123Dのそれぞれの形状は、上記に限定されるものではない。例えば、先端部122A~122Dのそれぞれの形状は、台形状やL字形状であってもよい。また、腕部123A~123Dのそれぞれの形状は、台形状であってもよく、スリット等が形成されていてもよい。
【0027】
図3に示すように、基部130は、上蓋30側からの平面視において、前端部131Aと、後端部131Bと、左端部131Cと、右端部131Dとを有している。前端部131A、後端部131B、左端部131C及び右端部131Dは、それぞれ、基部130の外縁部の一部である。具体的には、前端部131Aが、振動腕121A~121D側においてX軸方向に延びる端部である。後端部131Bが、振動腕121A~121Dとは反対側においてX軸方向に延びる端部である。左端部131Cが、振動腕121Dから視て振動腕121A側においてY軸方向に延びる端部である。右端部131Dが、振動腕121Aから視て振動腕121D側においてY軸方向に延びる端部である。前端部131Aと後端部131Bは、Y軸方向において互いに対向している。左端部131C及び右端部131Dは、X軸方向において互いに対向している。前端部131Aには、振動腕121A~121Dが接続されている。
【0028】
上蓋30側から平面視したとき、基部130の形状は、前端部131A及び後端部131Bを長辺とし、左端部131C及び右端部131Dを短辺とする、略長方形状である。基部130は、前端部131A及び後端部131Bそれぞれの垂直二等分線に沿って規定される仮想平面Pに対して略面対称に形成されている。なお、基部130は、図3に示すような長方形状に限らず、仮想平面Pに対して略面対称を構成するその他の形状であってもよい。例えば、基部130の形状は、前端部131A及び後端部131Bの一方が他方よりも長い台形状であってもよい。また、前端部131A、後端部131B、左端部131C及び右端部131Dの少なくとも1つが屈折又は湾曲してもよい。
【0029】
なお、仮想平面Pは、振動部110全体の対称面に相当する。したがって、仮想平面Pは、振動腕121A~121DのX軸方向における中心を通る平面でもあり、内側振動腕121Bと内側振動腕121Cとの間に位置する。具体的には、仮想平面Pに対して、外側振動腕121Aと外側振動腕121Dとが対称な構造であり、内側振動腕121Bと内側振動腕121Cとが対称な構造である。
【0030】
基部130において、前端部131Aと後端部131Bとの間のY軸方向における最長距離である基部長は一例として40μm程度である。また、左端部131Cと右端部131Dとの間のX軸方向における最長距離である基部幅は一例として300μm程度である。なお、図3に示した構成例では、基部長は左端部131C又は右端部131Dの長さに相当し、基部幅は前端部131A又は後端部131Bの長さに相当する。
【0031】
保持部140は、下蓋20と上蓋30によって形成される内部空間に振動部110を保持するための部分であり、例えば振動部110を囲んでいる。図3に示すように、保持部140は、上蓋30側からの平面視において、前枠141Aと、後枠141Bと、左枠141Cと、右枠141Dと、を有している。前枠141A、後枠141B、左枠141C及び右枠141Dは、それぞれ、振動部110を囲む略矩形状の枠体の一部である。具体的には、前枠141Aは、基部130から視て励振部120側においてX軸方向に延びる部分である。後枠141Bは、励振部120から視て基部130側においてX軸方向に延びる部分である。左枠141Cは、振動腕121Dから視て振動腕121A側においてY軸方向に延びる部分である。右枠141Dは、振動腕121Aから視て振動腕121D側においてY軸方向に延びる部分である。保持部140は、仮想平面Pに対して面対称に形成されている。
【0032】
左枠141Cの両端は、それぞれ、前枠141Aの一端及び後枠141Bの一端に接続されている。右枠141Dの両端は、それぞれ、前枠141Aの他端及び後枠141Bの他端に接続されている。前枠141Aと後枠141Bは、振動部110を挟んでY軸方向において互いに対向している。左枠141Cと右枠141Dは、振動部110を挟んでX軸方向において互いに対向している。なお、保持部140は、振動部110の周囲の少なくとも一部に設けられていればよく、周方向に連続した枠状の形状に限定されるものではない。
【0033】
保持腕150は、保持部140の内側に設けられ、基部130と保持部140とを接続している。図3に示すように、保持腕150は、上蓋30側からの平面視において、左保持腕151Aと、右保持腕151Bと、を有している。左保持腕151Aは、基部130の後端部131Bと保持部140の左枠141Cとを接続している。右保持腕151Bは、基部130の後端部131Bと保持部140の右枠141Dとを接続している。左保持腕151Aは保持後腕152Aと保持側腕153Aとを有し、右保持腕151Bは保持後腕152Bと保持側腕153Bとを有する。保持腕150は、仮想平面Pに対して、面対称に形成されている。
【0034】
保持後腕152A及び152Bは、基部130の後端部131Bと保持部140との間において、基部130の後端部131Bから延びている。具体的には、保持後腕152Aは、基部130の後端部131Bから後枠141Bに向かって延出し、屈曲して左枠141Cに向かって延びている。保持後腕152Bは、基部130の後端部131Bから後枠141Bに向かって延出し、屈曲して右枠141Dに向かって延びている。
【0035】
保持側腕153Aは、外側振動腕121Aと保持部140との間において、外側振動腕121Aに沿って延びている。保持側腕153Bは、外側振動腕121Dと保持部140との間において、外側振動腕121Dに沿って延びている。具体的には、保持側腕153Aは、保持後腕152Aの左枠141C側の端部から前枠141Aに向かって延び、屈曲して左枠141Cに接続されている。保持側腕153Bは、保持後腕152Bの右枠141D側の端部から前枠141Aに向かって延び、屈曲して右枠141Dに接続されている。
【0036】
なお、保持腕150は上記の構成に限定されるものではない。例えば、保持腕150は、基部130の左端部131C及び右端部131Dに接続されてもよい。また、保持腕150は、保持部140の前枠141A又は後枠141Bに接続されてもよい。また、保持腕150の数は、1つでもよく、3つ以上でもよい。
【0037】
次に、図4及び図5を参照しつつ、第1実施形態に係る共振装置1の積層構造について説明する。図4は、図1に示した共振装置の積層構造を概念的に示すX軸に沿った断面図である。図5は、図1に示した共振装置の積層構造を概念的に示すY軸に沿った断面図である。なお、図4及び図5は、必ずしも同一平面上の断面を図示したものではない。例えば、図4においては積層構造の説明のために腕部123A~123Dと、引出配線C2及びC3と、貫通電極V2及びV3とを図示しているが、貫通電極V2及びV3が、ZX面と平行であり且つ腕部123A~123Dを切断する断面から、Y軸方向に離れた位置で形成されていてもよい。
【0038】
共振子10は、下蓋20と上蓋30との間に保持されている。具体的には、共振子10の保持部140が、下蓋20の側壁23及び上蓋30の側壁33のそれぞれに接合されている。このようにして、下蓋20と上蓋30と共振子10の保持部140とによって、振動部110が振動可能な内部空間が形成されている。共振子10、下蓋20及び上蓋30は、それぞれ一例としてシリコン(Si)基板を用いて形成されている。なお、共振子10、下蓋20及び上蓋30は、それぞれ、シリコン層及びシリコン酸化膜が積層されたSOI(Silicon On Insulator)基板を用いて形成されてもよい。また、共振子10、下蓋20及び上蓋30は、それぞれ、微細加工技術による加工が可能な基板であればシリコン基板以外の基板、例えば、化合物半導体基板、ガラス基板、セラミック基板、樹脂基板などを用いて形成されてもよい。
【0039】
次に、共振子10の構成をより詳細に説明する。
振動部110、保持部140及び保持腕150は、同一プロセスによって一体的に形成される。共振子10において、基板の一例であるシリコン基板F2の上に、金属膜E1が積層されている。そして、金属膜E1の上には、金属膜E1を覆うように圧電膜F3が積層されており、さらに、圧電膜F3の上には金属膜E2が積層されている。金属膜E2の上には、金属膜E2を覆うように保護膜F5が積層されている。先端部122A~122Dにおいては、さらに、保護膜F5の上にそれぞれ、前述の金属膜125A~125Dが積層されている。振動部110、保持部140及び保持腕150のそれぞれの外形は、上記のシリコン基板F2、金属膜E1、圧電膜F3、金属膜E2、保護膜F5などからなる積層体を、例えばアルゴン(Ar)イオンビームを照射するドライエッチングによって除去加工し、パターニングすることによって形成される。
【0040】
シリコン基板F2は、例えば、厚み6μm程度の縮退したn型シリコン(Si)半導体から形成されており、n型ドーパントとしてリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などを含むことができる。シリコン基板F2に用いられる縮退シリコン(Si)の抵抗値は、例えば16mΩ・cm未満であり、より好ましくは1.2mΩ・cm以下である。さらに、シリコン基板F2の最下面には、例えばSiOなどのシリコン酸化膜F21が形成されている。言い換えると、共振子10において、下蓋20の底板22に対して、シリコン酸化膜F21が露出している。
【0041】
シリコン酸化膜F21は、共振子10の共振周波数の温度係数、すなわち単位温度当たりの共振周波数の変化率、を少なくとも常温近傍において低減する温度特性補正層として機能する。振動部110がシリコン酸化膜F21を有することにより、共振子10の温度特性が向上する。なお、温度特性補正層は、シリコン基板F2の上面に形成されてもよいし、シリコン基板F2の上面及び下面の両方に形成されてもよい。
【0042】
シリコン酸化膜F21は、下蓋20の底板22より硬度の低い材料によって形成されている。なお、本明細書における「硬度」は、ビッカース硬度により規定される。シリコン酸化膜F21のビッカース硬度は10GPa以下であることが好ましく、下蓋20の底板22のビッカース硬度は10GPa以上であることが好ましい。これは、先端部122A~Dのシリコン酸化膜F21が、周波数を調整する工程において下蓋20の底板22に衝突して削られ易くするためである。なお、周波数を調整する工程においてシリコン基板F2の一部も削られる可能性があるため、シリコン基板F2のビッカース硬度は、シリコン酸化膜F21と同様に10GPa以下であることが好ましい。
【0043】
振動部110のシリコン酸化膜F21は、均一の厚みで形成されることが望ましい。なお、均一の厚みとは、シリコン酸化膜F21の厚みのばらつきが厚みの平均値から±20%以内であることをいう。
【0044】
但し、図5に示すように、振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dの下蓋20側の縁部では、開放端に向かうにつれてシリコン酸化膜F21の厚みが小さくなっている。言い換えると、先端部122A~122Dの下蓋20側の縁部が、斜め又は円弧状に形成されている。これは、先端部122A~122Dの下蓋20側の縁部が、周波数を調整する工程において、下蓋20の底板22に接触して削られるためである。なお、先端部122A~122Dの下蓋20側の縁部では、シリコン酸化膜F21が全て削られ、シリコン基板F2が下蓋20側に露出していてもよい。
【0045】
金属膜E1及びE2は、それぞれ、振動腕121A~121Dを励振する励振電極と、励振電極を外部電源へと電気的に接続させる引出電極とを有している。金属膜E1及びE2のそれぞれにおいて励振電極として機能する部分は、振動腕121A~121Dの腕部123A~123Dにおいて、圧電膜F3を挟んで互いに対向している。金属膜E1及びE2の引出電極として機能する部分は、例えば、保持腕150を経由し、基部130から保持部140に導出されている。金属膜E1は、共振子10全体に亘って電気的に連続している。金属膜E2は、外側振動腕121A及び121Dに形成された部分と、内側振動腕121B及び121Cに形成された部分と、で電気的に離れている。金属膜E1は下部電極に相当し、金属膜E2は上部電極に相当する。
【0046】
金属膜E1及びE2それぞれの厚みは、例えば0.1μm以上0.2μm以下程度である。金属膜E1及びE2は、成膜後に、エッチングなどの除去加工によって励振電極及び引出電極などにパターニングされる。金属膜E1及びE2は、例えば、結晶構造が体心立方構造である金属材料によって形成される。具体的には、金属膜E1及びE2は、Mo(モリブデン)、タングステン(W)などによって形成される。なお、シリコン基板F2が高い導電性を有する縮退半導体基板である場合、金属膜E1が省略されシリコン基板F2が下部電極を兼ねてもよい。
【0047】
圧電膜F3は、電気的エネルギーと機械的エネルギーとを相互に変換する圧電体の一種によって形成された薄膜である。圧電膜F3は、金属膜E1及びE2によって圧電膜F3に形成される電界に応じて、XY平面の面内方向のうちY軸方向に伸縮する。この圧電膜F3の伸縮によって、振動腕121A~121Dは、それぞれ、下蓋20の底板22及び上蓋30の底板32に向かってその開放端を変位させる。したがって、共振子10は、面外の屈曲振動モードで振動する。
【0048】
圧電膜F3は、ウルツ鉱型六方晶構造の結晶構造を持つ材質によって形成されており、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)などの窒化物又は酸化物を主成分とすることができる。なお、窒化スカンジウムアルミニウムは、窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの一部がスカンジウムに置換されたものであり、スカンジウムの代わりに、マグネシウム(Mg)及びニオブ(Nb)、又は、マグネシウム(Mg)及びジルコニウム(Zr)、などの2元素で置換されていてもよい。圧電膜F3の厚みは、例えば1μm程度であるが、0.2μm~2μm程度であってもよい。
【0049】
保護膜F5は、例えば金属膜E2を酸化から保護する。保護膜F5は金属膜E2の上蓋30側に設けられており、振動部110の先端部122A~122Dを除く部分において、上蓋30の底板32に対して露出している。言い換えると、振動腕121A~121Dの腕部123A~123D、及び基部130において、保護膜F5は、最上面に位置している。なお、保護膜F5は金属膜E2の上蓋30側に設けられていれば、上蓋30の底板32に対して露出していなくてもよい。例えば、共振子10に形成された配線の容量を低減する寄生容量低減膜が保護膜F5を覆ってもよい。保護膜F5は、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)又はタンタル(Ta)を含む酸化物、窒化物又は酸窒化物などによって形成される。
【0050】
金属膜125A~125Dは、先端部122A~122Dにおいて、保護膜F5の上蓋30側に設けられており、上蓋30の底板32に対して露出している。言い換えると、先端部122A~122Dにおいて、金属膜125A~125Dは最上面に位置している。金属膜125A~125Dのそれぞれの一部を除去するトリミング処理によって共振子10の周波数を調整するためには、金属膜125A~125Dは、エッチングによる質量低減速度が保護膜F5よりも早い材料によって形成されることが望ましい。質量低減速度は、エッチング速度と密度との積により表される。エッチング速度とは、単位時間あたりに除去される厚みである。保護膜F5と金属膜125A~125Dとは、質量低減速度の関係が前述の通りであれば、エッチング速度の大小関係は任意である。また、先端部122A~122Dの重さを効率的に増大させる観点から、金属膜125A~125Dは、比重の大きい材料によって形成されるのが好ましい。これらの理由により、金属膜125A~125Dは、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)又はチタン(Ti)などの金属材料によって形成されている。なお、トリミング処理においては、保護膜F5の一部も除去されてもよい。このような場合、保護膜F5も周波数調整膜に相当する。
【0051】
金属膜125A~125Dのそれぞれの上面の一部が、封止前に周波数を調整する工程におけるトリミング処理によって除去されている。金属膜125A~125Dのトリミング処理は、例えばアルゴン(Ar)イオンビームを照射するドライエッチングである。イオンビームは広範囲に照射できるため加工効率に優れるが、電荷を有するため金属膜125A~125Dを帯電させる恐れがある。金属膜125A~125Dの帯電によるクーロン相互作用によって振動腕121A~121Dの振動軌道が変化し共振子10の振動特性が劣化するのを防止するため、金属膜125A~125Dは、接地されるのが望ましい。
【0052】
図5に示す構成例において、金属膜125Aは、圧電膜F3及び保護膜F5を貫通する貫通電極によって、金属膜E1に電気的に接続されている。図示を省略した金属膜125B~125Dについても同様に、貫通電極によって金属膜E1に電気的に接続されている。なお、金属膜125A~125Dのそれぞれの接地方法は、上記に限定されず、例えば先端部122A~122Dの側面に設けられた側面電極によって金属膜E1に電気的に接続されてもよい。また、金属膜125A~125Dの帯電の影響が低減できるのであれば、金属膜125A~125Dの電気的な接続先は金属膜E1に限定されるものではなく、例えば金属膜E2であってもよい。
【0053】
保持部140の保護膜F5の上には、引出配線C1、C2及びC3が形成されている。引出配線C1は、圧電膜F3及び保護膜F5に形成された貫通孔を通して、金属膜E1と電気的に接続されている。引出配線C2は、保護膜F5に形成された貫通孔を通して、金属膜E2のうち外側振動腕121A及び121Dに形成された部分と電気的に接続されている。引出配線C3は、保護膜F5に形成された貫通孔を通して、金属膜E2のうち内側振動腕121B及び121Cに形成された部分と電気的に接続されている。引出配線C1~C3は、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、金(Au)、錫(Sn)などの金属材料によって形成されている。
【0054】
次に、下蓋20の構成をより詳細に説明する。
下蓋20の底板22及び側壁23は、シリコン基板P10により、一体的に形成されている。シリコン基板P10は、縮退されていないシリコンから形成されており、その抵抗率は例えば10Ω・cm以上である。シリコン基板P10は、共振子10に対向する側とは反対側に下面20Bを有している。シリコン基板P10の下面20Bは、底板22から側壁23に亘って位置し、下蓋20の下面に相当する。また、シリコン基板P10は、共振子10に対向する側に上面22A及び23Aを有している。シリコン基板P10の上面22Aは、底板22に位置し、下蓋20の底板22における上面に相当する。シリコン基板P10の上面23Aは、側壁23に位置し、下蓋20の側壁23における上面に相当する。
【0055】
上面23Aには共振子10のシリコン酸化膜F21が接合されている。突起部50の上面にもシリコン酸化膜F21が接合されている。但し、突起部50の帯電を抑制する観点から、突起部50の上面には、シリコン酸化膜F21よりも電気抵抗率の低いシリコン基板P10が露出してもよく、導電層が形成されてもよい。
【0056】
下蓋20の厚みは、Z軸方向における下面20Bと上面23Aとの間の距離に相当し、例えば150μm程度である。キャビティ21の深さD1は、Z軸方向における上面22Aと上面23Aとの間の距離に相当し、例えば50μm程度である。振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dと下蓋20との間のギャップG1は、Z軸方向における、振動腕121A~121Dの開放端の下蓋20側の縁部と、上面22Aとの間の距離に相当する。
【0057】
図5に示すように、電圧を印加していない状態で共振子10がXY面に略平行に延在する場合、下蓋20側のギャップG1は、下蓋20のキャビティ21の深さD1と略同じ大きさである(G1=D1)。振動腕121A~121Dのそれぞれの最大振幅は、振動腕121A~121Dと下蓋20との接触によって制限される。したがって、振動腕121A~121Dの最大振幅は、下蓋20側のギャップG1と同じ大きさである50μm程度である。
【0058】
共振子10は、電圧を印加していない状態で、上又は下に反っていてもよい。「上に反った共振子10」とは、基部130から先端部12A~12Dに向かうにつれて上蓋30との距離が小さくなるように構成された共振子10のことである。「下に反った共振子10」とは、基部130から先端部12A~12Dに向かうにつれて下蓋20との距離が小さくなるように構成された共振子10のことである。共振子10が上に反っている場合、下蓋20側のギャップG1は、下蓋20のキャビティ21の深さD1よりも大きい(G1>D1)。共振子10が下に反っている場合、下蓋20側のギャップG1は、下蓋20のキャビティ21の深さD1よりも小さい(G1<D1)。
【0059】
なお、下蓋20は、SOI基板の一部と見なすこともできる。共振子10及び下蓋20が一体のSOI基板によって形成されたMEMS基板であると見なした場合、下蓋20のシリコン基板P10がSOI基板の支持基板に相当し、共振子10のシリコン酸化膜F21がSOI基板のBOX層に相当し、共振子10のシリコン基板F2がSOI基板の活性層に相当する。このとき、共振装置1の外側において、連続するMEMS基板の一部を使用して各種半導体素子や回路などが形成されてもよい。
【0060】
次に、上蓋30の構成をより詳細に説明する。
上蓋30の底板32及び側壁33は、シリコン基板Q10により、一体的に形成されている。シリコン基板Q10には、シリコン酸化膜Q11が備えられている。シリコン酸化膜Q11は、シリコン基板Q10の表面のうちキャビティ31の内壁を除く部分に設けられている。シリコン酸化膜Q11は、例えばシリコン基板Q10の熱酸化や、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって形成される。シリコン基板Q10は、共振子10に対向する側とは反対側に上面30Aを有している。シリコン基板Q10の上面30Aは、底板32から側壁33に亘って位置し、シリコン酸化膜Q11によって設けられている。また、シリコン基板Q10は、共振子10に対向する側に下面32及び33を有している。シリコン基板Q10の下面32は、底板32に位置し、シリコン基板Q10によって設けられている。シリコン基板Q10の下面33は、側壁33に位置し、シリコン酸化膜Q11によって設けられている。
【0061】
上蓋30の底板32には、金属膜70が備えられている。金属膜70は、シリコン基板Q10の下面32のうち、少なくとも振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dに対向する領域に設けられている。金属膜70は、キャビティ21及び31によって構成される内部空間のガスを吸蔵して真空度を向上させるゲッターであってもよく、例えば水素ガスを吸蔵する。金属膜70は、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金を含んでいる。金属膜70は、アルカリ金属の酸化物又はアルカリ土類金属の酸化物を含んでもよい。シリコン基板Q10と金属膜70との間には、例えば、シリコン基板Q10から金属膜70への水素の拡散を防止する層や、シリコン基板Q10と金属膜70との密着性を向上させる層など、図示しない層が設けられてもよい。金属膜70は、共振子10に対向する側に下面70Bを有している。金属膜70の下面70Bは、上蓋30の底板32における下面に相当する。
【0062】
上蓋30の厚みは、例えば150μm程度である。キャビティ31の深さD2は、Z軸方向における下面32Bと下面33Bとの間の距離に相当し、例えば60μm程度である。振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dと上蓋30との間のギャップG2は、Z軸方向における、振動腕121A~121Dの開放端の上蓋30側の縁部と、金属膜70の下面70Bとの間の距離に相当する。言い換えると、上蓋30側のギャップG2は、振動腕121A~121Dの金属膜125A~125Dと、上蓋30の金属膜70との間の距離に相当する。上蓋30側のギャップG2は、下蓋20側のギャップG1よりも大きい。言い換えると、振動腕121A~121Dの直上の空間は、その直下の空間よりも広い。
【0063】
図5に示すように、電圧を印加していない状態で共振子10がXY面に略平行に延在する場合、(下蓋20側のギャップG1)=(下蓋20のキャビティ21の深さD1)且つ(上蓋30側のギャップG2)={(上蓋30のキャビティ31の深さD2)+(接合部Hの厚み)}-{(金属膜125A~125Dの厚み)+(金属膜70の厚み)}と表すことができる。したがって、下蓋20のキャビティ21の深さD1、上蓋30のキャビティ31の深さD2、接合部Hの厚み、金属膜125A~125Dの厚み、及び、金属膜70の厚みを変数として、上蓋30側のギャップG2と下蓋20側のギャップG1との大小関係を決めることができる。例えば、本実施形態においては、上蓋30のキャビティ31の深さD2が下蓋20のキャビティ21の深さD1よりも大きいことにより(D2>D1)、上蓋30側のギャップG2が下蓋20側のギャップG1よりも大きくなっている(G2>G1)。なお、上蓋30側のギャップG2が下蓋20側のギャップG1よりも大きいのであれば、上蓋30のキャビティ31の深さD2は、下蓋20のキャビティ21の深さD1よりも小さくてもよい。例えば、接合部Hの厚みを大きくすることで、上蓋30側のギャップG2を下蓋20側のギャップG1よりも大きくしてもよい。また、金属膜125A~125Dの厚み又は金属膜70の厚みを小さくすることで、上蓋30側のギャップG2を下蓋20側のギャップG1よりも大きくしてもよい。
【0064】
上蓋30には、端子T1、T2及びT3が備えられている。端子T1~T3は、シリコン基板Q10の上面30Aに設けられている。端子T1~T3は、シリコン酸化膜Q11の上に設けられているため、互いに絶縁されている。端子T1は金属膜E1を接地させる実装端子である。端子T2は外側振動腕121A及び121Dの金属膜E2を外部電源に電気的に接続させる実装端子である。端子T3は、内側振動腕121B及び121Cの金属膜E2を外部電源に電気的に接続させる実装端子である。端子T1~T3は、例えば、クロム(Cr)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)などのメタライズ層(下地層)に、ニッケル(Ni)、金(Au)、銀(Ag)、Cu)などのメッキを施して形成されている。なお、シリコン基板Q10の上面30Aには、寄生容量や機械的強度バランスを調整する目的で、共振子10とは電気的に絶縁されたダミー端子が備えられてもよい。
【0065】
上蓋30には、貫通電極V1、V2及びV3が備えられている。貫通電極V1~V3は、側壁33の下面33及び上面30Aに開口する貫通孔の内部に設けられている。貫通電極V1~V3は、シリコン酸化膜Q11の上に設けられているため、互いに絶縁されている。貫通電極V1は端子T1と引出配線C1とを電気的に接続し、貫通電極V2は端子T2と引出配線C2とを電気的に接続し、貫通電極V3は端子T3と引出配線C3とを電気的に接続している。貫通電極V1~V3は、貫通孔に、例えば、多結晶シリコン(Poly-Si)、銅(Cu)又は金(Au)などを充填して形成されている。
【0066】
上蓋30の側壁33と共振子10の保持部140との間には、接合部Hが形成されている。接合部Hは、平面視したとき振動部110を囲むように周方向に連続した枠状に設けられ、キャビティ21及び31によって構成される内部空間を真空状態で気密封止している。接合部Hは、例えばアルミニウム(Al)膜、ゲルマニウム(Ge)膜及びアルミニウム(Al)膜がこの順に積層されて共晶接合された金属膜によって形成されている。なお、接合部Hは、金(Au)、錫(Sn)、銅(Cu)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)及びこれらのうち少なくとも1種類を含む合金を含んでもよい。また、共振子10と上蓋30との密着性を向上させるために、接合部Hは、窒化チタン(TiN)や窒化タンタル(TaN)などの金属化合物からなる絶縁体を含んでもよい。
【0067】
次に、図4及び図5を参照しつつ、共振装置1の動作について説明する。
本実施形態では、端子T1が接地され、端子T2と端子T3には互いに逆位相の交番電圧が印加される。したがって、外側振動腕121A及び121Dの圧電膜F3に形成される電界の位相と、内側振動腕121B及び121Cの圧電膜F3に形成される電界の位相とは互いに逆位相になる。これにより、外側振動腕121A及び121Dと、内側振動腕121B及び121Cとが互いに逆相に振動する。例えば、外側振動腕121A及び121Dのそれぞれの先端部122A及び122Dが上蓋30の底板32に向かって変位するとき、内側振動腕121B及び121Cのそれぞれの先端部122B及び122Cが下蓋20の底板22に向かって変位する。以上のように、隣り合う振動腕121Aと振動腕121Bとの間でY軸方向に延びる中心軸r1回りに振動腕121Aと振動腕121Bとが上下逆方向に振動する。また、隣り合う振動腕121Cと振動腕121Dとの間でY軸方向に延びる中心軸r2回りに振動腕121Cと振動腕121Dとが上下逆方向に振動する。これによって、中心軸r1とr2とで互いに逆方向の捩れモーメントが生じ、基部130での屈曲振動が発生する。振動腕121A~121Dの最大振幅は例えば50μm程度、通常駆動時の振幅は例えば10μm程度である。
【0068】
次に、図6図8を参照しつつ、第1実施形態に係る共振装置1の製造方法について説明する。図6は、第1実施形態に係る共振装置の製造方法を概略的に示すフローチャートである。図7は、振動腕の先端部の下蓋側の表面を写した写真である。図8は、振動腕の先端部の上蓋側の表面を写した写真である。図9は、周波数変動比率を示すグラフである。図9のグラフの横軸は、下蓋20側のギャップG1に対する上蓋30側のギャップG2の比率(G2/G1)を示している。図9の縦軸は、後述する封止後の周波数調整工程S80におけるG2/G1=1のときの単位時間当たりの周波数変動量を基準とした、周波数変動量の比率を示している。
【0069】
まず、一対のシリコン基板を準備する(S10)。一対のシリコン基板は、シリコン基板P10及びQ10に相当する。
【0070】
次に、一対のシリコン基板を酸化させる(S20)。これにより、シリコン基板Q10の表面にシリコン酸化膜Q11を形成し、シリコン基板P10の表面にシリコン酸化膜F21を形成する。なお、本工程ではシリコン酸化膜Q11のみを形成し、別工程でシリコン酸化膜F21を形成してもよい。
【0071】
次に、一対のキャビティを設ける(S30)。シリコン基板P10及びQ10のそれぞれをエッチング工法によって除去加工し、キャビティ21及び31を形成する。但し、キャビティ21及び31の形成方法は、エッチング工法に限定されない。また、キャビティ21は、下蓋20に共振子10を接合してから形成してもよい。
【0072】
次に、下蓋に共振子を接合する(S40)。下蓋20と共振子10とを融点を超えないように加熱し、側壁23と保持部140とを加圧して接合する。下蓋20と共振子10との接合方法は上記の熱圧着に限定されず、例えば接着剤、ろう材、半田などを用いた接着であってもよい。
【0073】
次に、上蓋のキャビティに金属膜を設ける(S50)。例えば、チタン蒸気をシリコン基板Q10の下面32Bに堆積させて金属膜70を成膜する。金属膜70は、メタルマスクを用いてパターン成膜される。なお、金属膜70のパターニング方法はメタルマスクを用いたパターン成膜に限定されず、フォトレジストを用いたエッチング工法やリフトオフ工法であってもよい。
【0074】
次に、先端部の金属膜をトリミングする(S60)。振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dにアルゴン(Ar)イオンビームを照射し、金属膜125A~125Dの一部をドライエッチングによって除去加工する。これによれば、先端部122A~122Dの重量が変化し、周波数が調整される。すなわち、本工程S60は、封止前の周波数調整工程(第1の周波数調整工程)に相当する。イオンビームは広範囲に照射できるため、封止前の周波数調整工程S60は加工効率に優れる。なお、本発明の実施形態においては、封止後に周波数を調整可能なため、封止前の周波数調整工程S60は省略してもよい。
【0075】
次に、接合部を設ける(S70)。共振子10及び上蓋30のそれぞれのメタライズ層を減圧環境下で金属接合する。このとき形成される接合部Hは、真空状態の内部空間を気密封止する。すなわち、本工程S70は、封止工程に相当する。接合部Hは、加熱処理によって設けられる。このような加熱処理は、例えば、加熱温度400℃以上500℃以下、加熱時間1分以上30分以下で行われる。これは、400℃よりも低温及び1分よりも短時間での加熱では充分な接合強度及び封止性が得られないためである。また、500℃よりも高温及び30分よりも長時間での加熱では、接合のためのエネルギー効率及び製造リードタイムが悪化するためである。
【0076】
なお、共振子10と上蓋30との接合の前に、金属膜70をゲッターとして活性化する工程を実施してもよい。金属膜70をゲッターとして活性化する工程では、例えば、加熱処理によって金属膜70の表面に付着した水素を脱離させて、水素吸着効果を回復させる。このような加熱処理は、例えば、加熱温度350℃以上500℃以下、加熱時間5分以上30分以下で行われる。これは、350℃よりも低温及び5分よりも短時間での加熱では充分に金属膜70を活性化できないためである。また、500℃よりも高温及び30分よりも長時間での加熱では、活性化のためのエネルギー効率及び製造リードタイムが悪化するためである。
【0077】
次に、先端部を下蓋に接触させる(S80)。共振子10に通常駆動の駆動電圧よりも大きな電圧を印加して励振させ、下蓋20の底板22に先端部122A~122Dの縁部を衝突させる。これによれば、図7に示すように、先端部122A~122Dの縁部が削られ、斜め又は円弧状になる。このとき先端部122A~122Dから削り取られるのは下蓋20側に露出したシリコン酸化膜F21であるが、シリコン基板F2もさらに削り取られてもよい。先端部122A~122Dの重量が変化し、周波数が調整される。すなわち、本工程S80は、封止後の周波数調整工程(第2の周波数調整工程)に相当する。先端部122A~122Dの衝突による重量変化は印加電圧の強度などによって微調整が可能なため、封止後の周波数調整工程S80は加工精度に優れる。また、封止後の周波数調整工程S80は、封止工程S70において変動した周波数を調整できる。封止の前後で2回に分けて別々の方法で周波数を調整することで、高効率且つ高精度の周波数調整が可能となる。下蓋20の底板22に先端部122A~122Dの縁部を衝突させる周波数調整工程は、封止工程S70の前に実施してもよい。
【0078】
なお、下蓋20との接触によって先端部122A~122Dから削り取られたシリコン酸化膜F21又はシリコン基板F2は、粒子となって共振子10、下蓋20又は上蓋30に吸着される。当該粒子は、寸法が小さくファンデルワールス力が充分に作用するため、振動する振動腕121A~121Dからも脱着しない。したがって、当該粒子の吸着・脱着による周波数変動は殆ど生じない。また、先端部122A~122Dにおいて下蓋20側に露出するのがシリコン基板F2である場合、シリコン基板F2だけが削り取られてもよい。
【0079】
封止後の周波数調整工程S80では、先端部122A~122Dは上蓋30には殆ど接触しない。先端部122A~122Dが上蓋30に接触したとしても、図8に示すように金属膜125A~125Dが延性変形するため、先端部122A~122Dの重量は殆ど変化しない。したがって、先端部122A~122Dが下蓋20及び上蓋30に均等に衝突した場合や、先端部122A~122Dが下蓋20よりも上蓋30に強く衝突した場合、周波数変動比率は低下する。これを示したのが図9のグラフである。図9に示すように、下蓋20側のギャップG1と上蓋30側のギャップG2とが1<G2/G1の関係を有するとき、すなわち先端部122A~122Dが上蓋30よりも下蓋20に強く衝突するとき、封止後の周波数調整工程S80の所要時間を短縮し、製造リードタイムが改善できる。
【0080】
図9に示すように、下蓋20側のギャップG1と上蓋30側のギャップG2とは、周波数変動比率が略1.5倍以上となる1.1≦G2/G1の関係を有するのが望ましい。また、周波数変動比率が略2倍以上となる1.15≦G2/G1の関係を有するのがさらに望ましく、周波数変動比率が略3倍以上となる1.2≦G2/G1の関係を有するのがさらに望ましい。但し、G2/G1を大きくするには上蓋30の底板32の厚みを小さくする必要がある。このため、上蓋30の機械的強度の低下を抑制するためには、下蓋20側のギャップG1と上蓋30側のギャップG2とは、G2/G1≦1.5の関係を有することが望ましい。また、G2/G1≦1.4の関係を有するのがさらに望ましく、G2/G1≦1.3の関係を有するのがさらに望ましい。
【0081】
なお、本実施形態では上蓋30にも金属膜70が設けられているため、先端部122A~122Dが上蓋30に接触したとしても、金属と金属との衝突なので衝撃が吸収され、金属膜125A~125Dの延性破壊は生じにくい。延性破壊によって生じる金属片の寸法は、シリコン酸化膜F21又はシリコン基板F2の衝突によって生じる粒子の寸法よりも大きい傾向がある。このため、延性破壊が生じると、周波数の調整精度が低下する。また、寸法の大きい金属片にはファンデルワールス力が充分に働かず、振動する振動腕121A~121Dからの金属片の脱着によって周波数が変動する。上蓋30の先端部122A~122Dが衝突する部分に金属膜を設けることで金属片は殆ど生じず、周波数の調整精度の低下や周波数の変動が抑制できる。
【0082】
以上のように、第1実施形態では、上蓋30のキャビティ31の深さD2が、下蓋20のキャビティ21の深さD1よりも大きい。これにより、上蓋30側のギャップG2が下蓋20側のギャップG1よりも大きくなっている。
これによれば、振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dを上蓋30ではなく下蓋20に衝突させることで、振動腕121A~121Dの重量を効率的に変化させることができる。したがって、周波数調整工程の所要時間が短縮できる。
【0083】
振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dの下蓋20側の縁部が斜め又は円弧状に形成されている。
これは、下蓋20との衝突によって先端部122A~122Dの下蓋20側の縁部が削られたためである。先端部122A~122Dの下蓋20側の縁部には、凹凸などの粗い削除の痕跡は形成されず、比較的滑らかな削除の痕跡が形成されている。これは、一度の衝突によって削られる先端部122A~122Dの量が少ないことを意味している。したがって、先端部122A~122Dの重量変化量は微調整可能であり、周波数の調整精度が高い。
【0084】
下蓋20側のギャップG1と上蓋30側のギャップG2とは、1<G2/G1≦1.5の関係を有する。
これによれば、周波数調整工程の所要時間を短縮しつつ、上蓋30の機械的強度の低下を抑制できる。
【0085】
上蓋30は、振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dと衝突する部分に金属膜70を有する。
これによれば、先端部122A~122Dの金属膜125A~125Dに加わる衝撃を緩和して、金属膜125A~125Dの延性破壊を抑制できる。金属膜125A~125Dから寸法の比較的大きい金属片が発生しないので、周波数の調整精度が向上する。また、金属片の吸着・脱着による周波数変動が抑制できる。
【0086】
以下に、本発明の他の実施形態に係る共振装置の構成について説明する。なお、下記の実施形態では、上記の第1実施形態と共通の事柄については記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については逐次言及しない。
【0087】
<第2実施形態>
次に、図10を参照しつつ、第2実施形態に係る共振装置2の構成について説明する。図10は、第2実施形態に係る共振装置の構成を概略的に示す断面図である。
【0088】
第2実施形態に係る共振装置2において、共振子10は、電圧が印加されていない状態で下に反っている。言い換えると、振動腕121A~121Dは、先端部122A~122Dに向かうにつれて下蓋20との距離が小さくなるように構成されている。
これよれば、上蓋30のキャビティ31の深さD2が、下蓋20のキャビティ21の深さD1の同等以下の大きさであったとしても、上蓋30側のギャップG2を下蓋20側のギャップG1よりも大きくできる。
【0089】
<第3実施形態>
次に、図11を参照しつつ、第3実施形態に係る共振装置3の構成について説明する。図11は、第3実施形態に係る共振装置の構成を概略的に示す断面図である。
【0090】
第3実施形態に係る共振装置3において、上蓋30のキャビティ31は、振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dに対向する部分が振動腕121A~121Dの根本部に対向する部分よりも深くなるように形成されている。例えば、上蓋30の底板32には、振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dに対向する凹部が形成されている。底板32の凹部は、振動腕121A~121Dの腕部123A~123Dの一部にも対向している。振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dと上蓋30との間のギャップG2は、基部130と上蓋30との間のギャップG3よりも大きい。基部130と上蓋30との間のギャップG3は、例えば、振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dと下蓋20との間のギャップG1よりも大きいが、ギャップG1と同等以下の大きさであってもよい。
これよれば、上蓋30の機械的強度の低下を抑制しつつ、振動腕121A~121Dの先端部122A~122Dと上蓋30との間のギャップG2を大きくできる。
【0091】
以下に、本発明の実施形態の一部又は全部を付記し、その効果について説明する。なお、本発明は以下の付記に限定されるものではない。
【0092】
本発明の一態様によれば、下蓋と、下蓋に接合された上蓋と、下蓋と上蓋との間に設けられた内部空間で屈曲振動可能である振動腕を有する共振子とを備え、振動腕は、上蓋と対向する側に金属膜が設けられた先端部を有し、振動腕の先端部と上蓋との間のギャップが、振動腕の先端部と下蓋との間のギャップよりも大きい、共振装置が提供される。
これによれば、振動腕の先端部を上蓋ではなく下蓋に衝突させることで、振動腕の重量を効率的に変化させることができる。したがって、周波数調整工程の所要時間が短縮できる。
【0093】
一態様として、振動腕の先端部の下蓋側の縁部が斜め又は円弧状に形成されている。
これによれば、先端部の重量変化量は微調整可能であり、周波数の調整精度が高い。
【0094】
一態様として、振動腕は、先端部に向かうにつれて下蓋との距離が小さくなるように構成されている。
これによれば、上蓋のキャビティの深さが、下蓋のキャビティの深さの同等以下の大きさであったとしても、振動腕の先端部と上蓋との間のギャップを、振動腕の先端部と下蓋との間のギャップよりも大きくできる。
【0095】
一態様として、上蓋及び下蓋のそれぞれは内部空間を構成するキャビティを有し、上蓋のキャビティの深さは、下蓋のキャビティの深さよりも大きい。
【0096】
一態様として、振動腕の先端部と下蓋との間のギャップG1と、振動腕の先端部と上蓋との間のギャップG2とは、1<G2/G1≦1.5の関係を有する。
これによれば、周波数調整工程の所要時間を短縮しつつ、上蓋の機械的強度の低下を抑制できる。
【0097】
一態様として、上蓋は内部空間を構成するキャビティを有し、上蓋のキャビティは、振動腕の先端部に対向する部分が振動腕の根本部に対向する部分よりも深くなるように形成されている。
これによれば、上蓋の機械的強度の低下を抑制しつつ、振動腕の先端部と上蓋との間のギャップを大きくできる。
【0098】
一態様として、上蓋は、少なくとも振動腕の先端部に対向する金属膜を有する。
これによれば、先端部の金属膜に加わる衝撃を緩和して、金属膜の延性破壊を抑制できる。金属膜から寸法の比較的大きい金属片が発生しないので、周波数の調整精度が向上する。また、金属片の吸着・脱着による周波数変動が抑制できる。
【0099】
本発明の他の一態様によれば、下蓋と、下蓋に接合された上蓋と、下蓋と上蓋との間に設けられた内部空間で屈曲振動可能である振動腕を有する共振子とを備える共振装置を準備する工程であって、振動腕の先端部と上蓋との間のギャップが、振動腕の先端部と下蓋との間のギャップよりも大きい、共振装置を準備する工程と、共振子を励振して振動腕の先端部を少なくとも下蓋に接触させることによって共振子の周波数を調整する工程とを備える、共振装置の製造方法が提供される。
これによれば、振動腕の先端部を上蓋ではなく下蓋に衝突させることで、振動腕の重量を効率的に変化させることができる。したがって、周波数調整工程の所要時間が短縮できる。
【0100】
本発明に係る実施形態は、タイミングデバイス、発音器、発振器、荷重センサなど、圧電効果により電気機械エネルギー変換を行うデバイスであれば、特に限定されることなく適宜適用可能である。
【0101】
以上説明したように、本発明の一態様によれば、生産性が向上した共振装置及びその製造方法が提供できる。
【0102】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0103】
1、2、3…共振装置、
10…共振子、
20…下蓋、
30…上蓋、
70…金属膜、
110…振動部、
140…保持部、
150…保持腕、
121A~121D…振動腕、
122A~122D…先端部、
123A~123D…腕部、
125A~125D…金属膜、
G1、G2…ギャップ、
D1、D2…キャビティ深さ、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11