(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバ、電子機器およびベーパーチャンバの製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20241121BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/02 L
F28D15/02 102A
F28D15/02 106F
F28D15/02 106Z
H01L23/46 B
(21)【出願番号】P 2020092624
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-03-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 利彦
(72)【発明者】
【氏名】小田 和範
(72)【発明者】
【氏名】小澤 昂平
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-196896(JP,A)
【文献】特開2019-039662(JP,A)
【文献】特開2018-115813(JP,A)
【文献】特開2018-189349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00 - 15/06
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されて被冷却装置を冷却するベーパーチャンバであって、
第1本体面と、前記第1本体面とは反対側に設けられた第2本体面と、を有する本体シートと、
前記本体シートの前記第1本体
面に設けられた第1シートと、
前記本体シートの前記第1本体面に設けられ
、前記第1シートで覆われる空間部と、
前記本体シートと前記第1シートとの間に設けられ、前記空間部に連通した
溝集合体と、を備え、
前記本体シートの厚さは、前記第1シートの厚さよりも厚く、
前記本体シートの熱膨張係数は、前記第1シートの熱膨張係数よりも小さい、ベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記第1シートの前記本体シートの側の面に、前記本体シートと同じ材料で構成された表面処理層が設けられている、請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
作動流体が封入されて被冷却装置を冷却するベーパーチャンバであって、
第1本体面と、前記第1本体面とは反対側に設けられた第2本体面と、を有する本体シートと、
前記本体シートの前記第1本体
面に設けられた第1シートと、
前記本体シートの前記第1本体面に設けられ
、前記第1シートで覆われる空間部と、
前記本体シートと前記第1シートとの間に設けられ、前記空間部に連通した
溝集合体と、
前記本体シートの前記第2本体
面に設けられた第2シートと、を備え、
前記本体シートの厚さは、前記第1シートの厚さよりも厚く、
前記本体シートの熱膨張係数は、前記第1シートの熱膨張係数以下であり、
前記空間部は、前記第1本体面から前記第2本体面に延び、
前記本体シートの厚さは、前記第2シートの厚さよりも厚く、
前記本体シートの熱膨張係数は、前記第2シートの熱膨張係数よりも小さい、ベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記第1シートの前記本体シートの側の面および前記第2シートの前記本体シートの側の面のうちの少なくとも一方に、前記本体シートと同じ材料で構成された表面処理層が設けられている、請求項
3に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
前記第1シートと前記第2シートは、同じ材料で構成されている、請求項
3または4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項6】
ハウジングと、
前記ハウジング内に収容されたデバイスと、
前記デバイスに熱的に接触した、請求項1~
5のいずれか一項に記載のベーパーチャンバと、を備えた、電子機器。
【請求項7】
作動流体が封入されて被冷却装置を冷却するベーパーチャンバの製造方法であって、
第1シートを準備する第1シート準備工程と、
第1本体面と、前記第1本体面とは反対側に設けられた第2本体面と、を有する本体シートであって、前記第1本体面に空間部が形成された本体シートを準備する本体シート準備工程と、
前記本体シートの前記第1本体
面に前記第1シートを配置して
前記空間部を覆い、前記第1シートと前記本体シートとを接合する接合工程と、を備え、
前記本体シート準備工程において、前記本体シートの厚さが前記第1シートの厚さよりも厚く、前記本体シートの熱膨張係数が、前記第1シートの熱膨張係数よりも小さい、ベーパーチャンバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーパーチャンバ、電子機器およびベーパーチャンバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末やタブレット端末といったモバイル端末等で使用される中央演算処理装置(CPU)や発光ダイオード(LED)、パワー半導体等の発熱を伴うデバイス(被冷却装置の一例)は、ヒートパイプ等の放熱用部材によって冷却されている(例えば、特許文献1参照)。近年では、モバイル端末等の薄型化のために、放熱用部材の薄型化も求められており、ヒートパイプより薄型化を図ることができるベーパーチャンバの開発が進められている。ベーパーチャンバ内には、作動流体が封入されており、この作動流体がデバイスの熱を吸収、拡散することで、デバイスの冷却を行っている。
【0003】
より具体的には、ベーパーチャンバ内の作動流体は、デバイスに近接した部分(蒸発部)でデバイスから熱を受けて蒸発して蒸気(作動蒸気)になる。その作動蒸気は、蒸気流路部内で蒸発部から離れる方向に拡散して冷却され、凝縮して液状になる。ベーパーチャンバ内には、毛細管構造(ウィック)としての液流路部が設けられており、凝縮して液状になった作動流体(作動液)は、蒸気流路部から液流路部に入り込み、液流路部を流れて蒸発部に向かって輸送される。そして、作動液は、再び蒸発部で熱を受けて蒸発する。このようにして、作動流体が、相変化、すなわち蒸発と凝縮とを繰り返しながらベーパーチャンバ内を還流することによりデバイスの熱を拡散させ、放熱効率を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被冷却装置の冷却効率を向上させることができるベーパーチャンバ、電子機器およびベーパーチャンバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
作動流体が封入されて被冷却装置を冷却するベーパーチャンバであって、
第1本体面と、前記第1本体面とは反対側に設けられた第2本体面と、を有する本体シートと、
前記本体シートの前記第1本体面に設けられた第1シートと、
前記本体シートの前記第1本体面に設けられ、前記第1シートで覆われる空間部と、
前記本体シートと前記第1シートとの間に設けられ、前記空間部に連通した溝集合体と、を備え、
前記本体シートの厚さは、前記第1シートの厚さよりも厚く、
前記本体シートの熱膨張係数は、前記第1シートの熱膨張係数以下である、ベーパーチャンバ
を提供する。
【0007】
なお、上述したベーパーチャンバにおいて、
前記本体シートの熱膨張係数は、前記第1シートの熱膨張係数よりも小さい、
ようにしてもよい。
【0008】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、
前記第1シートの前記本体シートの側の面に、前記本体シートと同じ材料で構成された表面処理層が設けられている、
ようにしてもよい。
【0009】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、
前記本体シートの前記第2本体面に設けられた第2シートを更に備え、
前記空間部は、前記第1本体面から前記第2本体面に延びて、前記第2本体面において前記第2シートで覆われ、
前記本体シートの厚さは、前記第2シートの厚さよりも厚く、
前記本体シートの熱膨張係数は、前記第2シートの熱膨張係数以下である、
ようにしてもよい。
【0010】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、
前記本体シートの熱膨張係数は、前記第2シートの熱膨張係数よりも小さい、
ようにしてもよい。
【0011】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、
前記第1シートの前記本体シートの側の面および前記第2シートの前記本体シートの側の面に、前記本体シートと同じ材料で構成された表面処理層が設けられている、
ようにしてもよい。
【0012】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、
前記第1シートと前記第2シートは、同じ材料で構成されている、
ようにしてもよい。
【0013】
また、本発明は、
ハウジングと、
前記ハウジング内に収容されたデバイスと、
前記デバイスに熱的に接触した上述のベーパーチャンバと、を備えた、電子機器、
を提供する。
【0014】
また、本発明は、
作動流体が封入されて被冷却装置を冷却するベーパーチャンバの製造方法であって、
第1シートを準備する第1シート準備工程と、
第1本体面と、前記第1本体面とは反対側に設けられた第2本体面と、を有する本体シートであって、前記第1本体面に空間部が形成された本体シートを準備する本体シート準備工程と、
前記本体シートの前記第1本体面に前記第1シートを配置して前記空間部を覆い、前記第1シートと前記本体シートとを接合する接合工程と、を備え、
前記本体シート準備工程において、前記本体シートの厚さが前記第1シートの厚さよりも厚く、前記本体シートの熱膨張係数が、前記第1シートの熱膨張係数以下である、ベーパーチャンバの製造方法、
を提供する。
【0015】
なお、上述したベーパーチャンバの製造方法において、
第2シートを準備する第2シート準備工程を更に備え、
前記本体シート準備工程において準備される前記本体シートにおいて、前記空間部は、前記第1本体面から前記第2本体面に延び、
前記接合工程において、前記本体シートの前記第2本体面に前記第2シートを配置して前記空間部を覆い、前記第2シートと前記本体シートとが接合され、
前記本体シート準備工程において、前記本体シートの前記厚さは、前記第2シートの厚さよりも厚く、前記本体シートの熱膨張係数は、前記第2シートの熱膨張係数以下である、
ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被冷却装置の冷却効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態による電子機器を説明する模式斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態によるベーパーチャンバを示す上面図である。
【
図3】
図3は、
図2のベーパーチャンバを示すA-A線断面図である。
【
図10】
図10は、第1の実施の形態によるベーパーチャンバの製造方法において、ウィックシートの準備工程を説明するための図である。
【
図11】
図11は、第1の実施の形態によるベーパーチャンバの製造方法において、エッチング工程を説明するための図である。
【
図12】
図12は、第1の実施の形態によるベーパーチャンバの製造方法の接合工程を説明するための図である。
【
図13】
図13は、
図12の接合工程の加熱加圧工程におけるベーパーチャンバを示す部分拡大断面図である。
【
図14】
図14は、
図12の接合工程の冷却工程におけるベーパーチャンバを示す部分拡大断面図である。
【
図15】
図15は、
図8に示すベーパーチャンバの変形例を示す部分拡大断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の第2の実施の形態におけるベーパーチャンバを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0019】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件および物理的特性並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度並びに物理的特性の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。さらに、図面においては、明瞭にするために、同様の機能を期待し得る複数の部分の形状を、規則的に記載しているが、厳密な意味に縛られることなく、当該機能を期待することができる範囲内で、当該部分の形状は互いに異なっていてもよい。また、図面においては、部材同士の接合面などを示す境界線を、便宜上、単なる直線で示しているが、厳密な直線であることに縛られることはなく、所望の接合性能を期待することができる範囲内で、当該境界線の形状は任意である。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1~
図15を用いて、本発明の第1の実施の形態におけるベーパーチャンバ、電子機器およびベーパーチャンバの製造方法について説明する。本実施の形態におけるベーパーチャンバ1は、電子機器Eに収容された発熱体としてのデバイスD(被冷却装置の一例)を冷却するために、電子機器Eに搭載される装置である。デバイスDの例としては、携帯端末やタブレット端末といったモバイル端末等で使用される中央演算処理装置(CPU)、発光ダイオード(LED)、パワー半導体等の発熱を伴う電子デバイスが挙げられる。
【0021】
ここではまず、本実施の形態によるベーパーチャンバ1が搭載される電子機器Eについて、タブレット端末を例にとって説明する。
図1に示すように、電子機器E(タブレット端末)は、ハウジングHと、ハウジングH内に収容されたデバイスDと、ベーパーチャンバ1と、を備えている。
図1に示す電子機器Eでは、ハウジングHの前面にタッチパネルディスプレイTDが設けられている。ベーパーチャンバ1は、ハウジングH内に収容されて、デバイスDに熱的に接触するように配置される。このことにより、電子機器Eの使用時にデバイスDで発生する熱をベーパーチャンバ1が受けることができる。ベーパーチャンバ1が受けた熱は、後述する作動流体2a、2bを介してベーパーチャンバ1の外部に放出される。このようにして、デバイスDは効果的に冷却される。電子機器Eがタブレット端末である場合には、デバイスDは、中央演算処理装置等に相当する。
【0022】
次に、本実施の形態によるベーパーチャンバ1について説明する。
図2および
図3に示すように、ベーパーチャンバ1は、作動流体2a、2bが封入された密封空間3を有しており、密封空間3内の作動流体2a、2bが相変化を繰り返すことにより、上述した電子機器EのデバイスDを効果的に冷却するように構成されている。作動流体2a、2bの例としては、純水、エタノール、メタノール、アセトン等、およびそれらの混合液が挙げられる。なお、作動流体2a、2bは、凍結膨張性を有していてもよい。すなわち、作動流体2a、2bは、凍結時に膨張する流体であってもよい。凍結膨張性を有する作動流体2a、2bの例としては、純水、または純水にアルコールなどの添加物を加えた水溶液等が挙げられる。
【0023】
図2および
図3に示すように、ベーパーチャンバ1は、下側シート10(第1シートの一例)と、上側シート20(第2シートの一例)と、下側シート10と上側シート20との間に介在されたウィックシート(本体シートの一例)と、蒸気流路部50(空間部の一例)と、液流路部60(溝集合体の一例)と、を備えている。本実施の形態によるベーパーチャンバ1は、下側シート10、ウィックシート30および上側シート20が、この順番で重ねられている。
【0024】
ベーパーチャンバ1は、概略的に薄い平板状に形成されている。ベーパーチャンバ1の平面形状は任意であるが、
図2に示すような矩形状であってもよい。ベーパーチャンバ1の平面形状は、例えば、1辺が1cmで他の辺が3cmの長方形であってもよく、1辺が15cmの正方形であってもよく、ベーパーチャンバ1の平面寸法は任意である。本実施の形態では、一例として、ベーパーチャンバ1の平面形状が、後述するX方向を長手方向とする矩形状である例について説明する。この場合、
図4~
図7に示すように、下側シート10、上側シート20およびウィックシート30は、ベーパーチャンバ1と同様の平面形状を有していてもよい。また、ベーパーチャンバ1の平面形状は、矩形状に限られることはなく、円形状、楕円形状、L字形状、T字形状など、任意の形状とすることができる。
【0025】
図2に示すように、ベーパーチャンバ1は、作動流体2a、2bが蒸発する蒸発領域SRと、作動流体2a、2bが凝縮する凝縮領域CRと、を有している。
【0026】
蒸発領域SRは、平面視でデバイスDと重なる領域であり、デバイスDが取り付けられる領域である。蒸発領域SRは、ベーパーチャンバ1の任意の場所に配置することができる。本実施の形態においては、ベーパーチャンバ1のX方向における一側(
図2における左側)に、蒸発領域SRが形成されている。蒸発領域SRにデバイスDからの熱が伝わり、この熱によって液状の作動流体(適宜、作動液2bと記す)が蒸発領域SRにおいて蒸発する。デバイスDからの熱は、平面視でデバイスDに重なる領域だけではなく、当該領域の周辺にも伝わり得る。このため、蒸発領域SRは、平面視で、デバイスDに重なっている領域とその周辺の領域とを含む。ここで平面視とは、ベーパーチャンバ1がデバイスDから熱を受ける面(下側シート10の後述する第1下側シート面10a)および受けた熱を放出する面(上側シート20の後述する第2上側シート面20b)に直交する方向から見た状態であって、例えば、
図2に示すように、ベーパーチャンバ1を上方から見た状態、または下方から見た状態に相当している。
【0027】
凝縮領域CRは、平面視でデバイスDと重ならない領域であって、主として作動蒸気2aが熱を放出して凝縮する領域である。凝縮領域CRは、蒸発領域SRの周囲の領域と言うこともできる。凝縮領域CRにおいて作動蒸気2aからの熱が下側シート10に放出され、作動蒸気2aが凝縮領域CRにおいて冷却されて凝縮する。
【0028】
なお、ベーパーチャンバ1がモバイル端末内に設置される場合、モバイル端末の姿勢によっては、上下関係が崩れる場合もある。しかしながら、本実施の形態では、便宜上、デバイスDから熱を受けるシートを上述の下側シート10と称し、受けた熱を放出するシートを上述の上側シート20と称する。このため、下側シート10が下側に配置され、上側シート20が上側に配置された状態で、以下説明する。
【0029】
図3に示すように、下側シート10は、ウィックシート30とは反対側に設けられた第1下側シート面10aと、第1下側シート面10aとは反対側(すなわちウィックシート30の側)に設けられた第2下側シート面10bと、を有している。本実施の形態においては、第2下側シート面10bが、ウィックシート30の後述する第1本体面30aに接している。
図4に示すように、下側シート10の四隅に、アライメント孔12が設けられていてもよい。
【0030】
図3および
図8に示すように、下側シート10の全体は、実質的に平坦状に形成されていてもよく、下側シート10の全体は実質的に一定の厚さを有していてもよい。この第1下側シート面10aに、上述のデバイスDが取り付けられる。
【0031】
図3に示すように、上側シート20は、ウィックシート30の側に設けられた第1上側シート面20aと、第1上側シート面20aとは反対側に設けられた第2上側シート面20bと、を有している。本実施の形態においては、第1上側シート面20aが、ウィックシート30の後述する第2本体面30bに接している。
図5に示すように、上側シート20の四隅に、アライメント孔22が設けられていてもよい。
【0032】
図3および
図8に示すように、上側シート20の全体は、実質的に平坦状に形成されていてもよく、上側シート20の全体は実質的に一定の厚さを有していてもよい。この第2上側シート面20bに、上述のハウジングHの一部を構成するハウジング部材Haが取り付けられる。第2上側シート面20bの全体が、ハウジング部材Haで覆われてもよい。
【0033】
図3に示すように、ウィックシート30は、第1本体面30aと、第1本体面30aとは反対側に設けられた第2本体面30bと、を有している。第1本体面30aは、下側シート10の側に配置されており、第1本体面30aに下側シート10が設けられている。第2本体面30bは、上側シート20の側に配置されており、第2本体面30bに上側シート20が設けられている。
【0034】
下側シート10の第2下側シート面10bとウィックシート30の第1本体面30aとは、拡散接合で、互いに恒久的に接合されていてもよい。同様に、上側シート20の第1上側シート面20aとウィックシート30の第2本体面30bとは、拡散接合で、互いに恒久的に接合されていてもよい。なお、下側シート10、上側シート20およびウィックシート30は、拡散接合ではなく、恒久的に接合できれば、ろう付け等の他の方式で接合されていてもよい。なお、「恒久的に接合」という用語は、厳密な意味に縛られることはなく、ベーパーチャンバ1の動作時に、密封空間3の密封性を維持可能な程度に、下側シート10とウィックシート30との接合を維持できるとともに、上側シート20とウィックシート30との接合を維持できる程度に接合されていることを意味する用語として用いている。
【0035】
本実施の形態によるウィックシート30は、
図3、
図6および
図7に示すように、平面視で矩形枠状に形成された枠体部32と、枠体部32内に設けられた複数のランド部33と、を有している。枠体部32およびランド部33は、後述するエッチング工程においてエッチングされることなく、ウィックシート30の材料が残る部分である。本実施の形態では、枠体部32は、平面視で、矩形枠状に形成されている。枠体部32の内側に、蒸気流路部50が画定されている。すなわち、枠体部32の内側であって、各ランド部33の周囲に蒸気流路部50が配置されており、各ランド部33の周囲を作動蒸気2aが流れるようになっている。
【0036】
本実施の形態では、ランド部33は、平面視で、X方向(第1方向、
図6における左右方向)を長手方向として細長状に延びていてもよく、ランド部33の平面形状は、細長の矩形形状になっていてもよい。また、各ランド部33は、Y方向(第2方向、
図6における上下方向)において等間隔に離間して、互いに平行に配置されていてもよい。各ランド部33の周囲を作動蒸気2aが流れて、凝縮領域CRに向かって輸送されるように構成されている。これにより、作動蒸気2aの流れが妨げられることを抑制している。ランド部33の幅w1(
図8参照)は、例えば、100μm~1500μmであってもよい。ここで、ランド部33の幅w1は、Y方向におけるランド部33の寸法であって、ウィックシート30の厚さ方向において後述する貫通部34が存在する位置における寸法を意味している。
【0037】
枠体部32および各ランド部33は、下側シート10に拡散接合されるとともに、上側シート20に拡散接合される。このことにより、ベーパーチャンバ1の機械的強度を向上させている。後述する下側蒸気流路凹部53の壁面53aおよび上側蒸気流路凹部54の壁面54aは、ランド部33の側壁を構成している。ウィックシート30の第1本体面30aおよび第2本体面30bは、枠体部32および各ランド部33にわたって、平坦状に形成されていてもよい。
【0038】
蒸気流路部50は、ウィックシート30の第1本体面30aに設けられていてもよい。蒸気流路部50は、主として、作動流体の蒸気(適宜、作動蒸気2aと記す)が通る流路であってもよい。蒸気流路部50には、作動流体の液体(適宜、作動液2bと記す)も通ってもよい。本実施の形態においては、蒸気流路部50は、第1本体面30aから第2本体面30bに延びており、ウィックシート30を貫通している。蒸気流路部50は、第1本体面30aにおいて、下側シート10で覆われていてもよく、第2本体面30bにおいて、上側シート20で覆われていてもよい。
【0039】
図6および
図7に示すように、本実施の形態における蒸気流路部50は、第1蒸気通路51と複数の第2蒸気通路52とを有している。第1蒸気通路51は、枠体部32とランド部33との間に形成されている。この第1蒸気通路51は、枠体部32の内側であってランド部33の外側に連続状に形成されている。第1蒸気通路51の平面形状は、矩形枠状になっている。第2蒸気通路52は、互いに隣り合うランド部33の間に形成されている。第2蒸気通路52の平面形状は、細長の矩形形状になっている。複数のランド部33によって、蒸気流路部50は、第1蒸気通路51と複数の第2蒸気通路52とに区画されている。
【0040】
図3に示すように、第1蒸気通路51および第2蒸気通路52は、ウィックシート30の第1本体面30aから第2本体面30bに延びている。第1蒸気通路51および第2蒸気通路52は、第1本体面30aに設けられた下側蒸気流路凹部53と、第2本体面30bに設けられた上側蒸気流路凹部54とによってそれぞれ構成されている。下側蒸気流路凹部53と上側蒸気流路凹部54とが連通して、蒸気流路部50の第1蒸気通路51および第2蒸気通路52が、第1本体面30aから第2本体面30bにわたって延びるように形成されている。
【0041】
下側蒸気流路凹部53は、後述するエッチング工程において、ウィックシート30の第1本体面30aからエッチングされることによって、第1本体面30aに凹状に形成されている。このことにより、下側蒸気流路凹部53は、
図8に示すように、湾曲状に形成された壁面53aを有している。この壁面53aは、下側蒸気流路凹部53を画定し、
図8に示す断面において、第2本体面30bに向かって進むにつれて、対向する壁面53aに近づくように湾曲している。このような下側蒸気流路凹部53は、第1蒸気通路51の一部(下半分)および第2蒸気通路52の一部(下半分)を構成している。
【0042】
下側蒸気流路凹部53の幅w2(Y方向における寸法)は、例えば、100μm~5000μmであってもよい。下側蒸気流路凹部53の幅w2は、第1本体面30aにおける寸法を意味しており、第1蒸気通路51のうちX方向に延びる部分におけるY方向の寸法および第2蒸気通路52におけるY方向の寸法に相当している。幅w2は、第1蒸気通路51のうちY方向に延びる部分におけるX方向寸法にも相当している。
【0043】
上側蒸気流路凹部54は、後述するエッチング工程において、ウィックシート30の第2本体面30bからエッチングされることによって、第2本体面30bに凹状に形成されている。このことにより、上側蒸気流路凹部54は、
図8に示すように、湾曲状に形成された壁面54aを有している。この壁面54aは、上側蒸気流路凹部54を画定し、
図8に示す断面において、第1本体面30aに向かって進むにつれて、対向する壁面54aに近づくように湾曲している。このような上側蒸気流路凹部54は、第1蒸気通路51の一部(上半分)および第2蒸気通路52の一部(上半分)を構成している。
【0044】
上側蒸気流路凹部54の幅w3(Y方向における寸法)は、上述した下側蒸気流路凹部53の幅w2と同様に、例えば、100μm~5000μmであってもよい。上側蒸気流路凹部54の幅w3は、第2本体面30bにおける寸法を意味しており、第1蒸気通路51のうちX方向に延びる部分におけるY方向の寸法および第2蒸気通路52におけるY方向の寸法に相当している。幅w3は、第1蒸気通路51のうちY方向に延びる部分におけるX方向寸法にも相当している。上側蒸気流路凹部54の幅w3は、下側蒸気流路凹部53の幅w2と等しくてもよいが、異なっていてもよい。
【0045】
図8に示すように、下側蒸気流路凹部53の壁面53aと、上側蒸気流路凹部54の壁面54aとが連接して貫通部34が形成されている。壁面53aと壁面54aはそれぞれ貫通部34に向かって湾曲している。このことにより、下側蒸気流路凹部53と上側蒸気流路凹部54とが互いに連通している。本実施の形態では、第1蒸気通路51における貫通部34の平面形状は、第1蒸気通路51と同様に矩形枠状になっており、第2蒸気通路52における貫通部34の平面形状は、第2蒸気通路52と同様に細長の矩形形状になっている。貫通部34は、下側蒸気流路凹部53の壁面53aと上側蒸気流路凹部54の壁面54aとが合流し、稜線によって画定されていてもよい。当該稜線は、
図8に示すように、蒸気通路51、52の内側に張り出すように形成されていてもよい。この貫通部34において蒸気流路部50の平面面積が最小になっている。このような貫通部34の幅w4(
図8参照)は、例えば、400μm~1600μmであってもよい。ここで、貫通部34の幅w4は、Y方向において互いに隣り合うランド部33の間のギャップに相当する。
【0046】
Z方向(
図8における上下方向)における貫通部34の位置は、第1本体面30aと第2本体面30bとの中間位置でもよく、中間位置から下側または上側にずれた位置でもよい。下側蒸気流路凹部53と上側蒸気流路凹部54とが連通すれば、貫通部34の位置は任意である。
【0047】
また、本実施の形態では、第1蒸気通路51および第2蒸気通路52の断面形状が、内側に張り出すように形成された稜線によって画定された貫通部34を含むように形成されているが、これに限られることはない。例えば、第1蒸気通路51の断面形状および第2蒸気通路52の断面形状は、台形形状や矩形形状であってもよく、あるいは樽形の形状になっていてもよい。
【0048】
このように構成された第1蒸気通路51および第2蒸気通路52を含む蒸気流路部50は、上述した密封空間3の一部を構成している。
図3に示すように、本実施の形態による蒸気流路部50は、主として、下側シート10と、上側シート20と、上述したウィックシート30の枠体部32およびランド部33によって画定されている。各蒸気通路51、52は、作動蒸気2aが通るように比較的大きな流路断面積を有している。
【0049】
ここで、
図3は、図面を明瞭にするために、第1蒸気通路51および第2蒸気通路52などを拡大して示しており、これらの蒸気通路51、52などの個数や配置は、
図2、
図6および
図7とは異なっている。
【0050】
ところで、図示しないが、蒸気流路部50内に、ランド部33を枠体部32に支持する支持部が複数設けられていてもよい。また、互いに隣り合うランド部33同士を支持する支持部が設けられていてもよい。これらの支持部は、X方向においてランド部33の両側に設けられていてもよく、Y方向におけるランド部33の両側に設けられていてもよい。支持部は、蒸気流路部50を拡散する作動蒸気2aの流れを妨げないように形成されていることが好ましい。例えば、ウィックシート30の第1本体面30aおよび第2本体面30bのうちの一方の側に配置されて、他方の側には、蒸気流路をなす空間が形成されるようにしてもよい。このことにより、支持部の厚さをウィックシート30の厚さよりも薄くすることができ、第1蒸気通路51および第2蒸気通路52が、X方向およびY方向において分断されることを防止できる。
【0051】
図6および
図7に示すように、ウィックシート30の四隅には、下側シート10および上側シート20と同様に、アライメント孔35が設けられていてもよい。
【0052】
また、
図2に示すように、ベーパーチャンバ1は、X方向における一側の端縁に、密封空間3に作動液2bを注入する注入部4を更に備えていてもよい。
図2に示す形態では、注入部4は、蒸発領域SRの側に配置されており、蒸発領域SRの側の端縁から外側に突出している。
【0053】
より具体的には、注入部4は、下側シート10を構成する下側注入突出部11(
図4参照)と、上側シート20を構成する上側注入突出部21(
図5参照)と、ウィックシート30を構成するウィックシート注入突出部36(
図6および
図7参照)と、を有するように構成されてもよい。このうちウィックシート注入突出部36に注入流路37が形成されている。この注入流路37は、ウィックシート30の第1本体面30aから第2本体面30bに延びており、Z方向においてウィックシート30のウィックシート注入突出部36を貫通している。また、注入流路37は、蒸気流路部50に連通しており、作動液2bは、注入流路37を通過して密封空間3に注入される。なお、液流路部60の配置によっては、注入流路37は液流路部60に連通させるようにしてもよい。ウィックシート注入突出部36の上面および下面は、概略的には平坦状に形成されていてもよく、下側注入突出部11の上面および上側注入突出部21の下面も、概略的には平坦状に形成されていてもよい。各注入突出部11、21、36の平面形状は等しくてもよい。
【0054】
なお、本実施の形態では、注入部4は、ベーパーチャンバ1のX方向における一対の端縁のうちの一側の端縁に設けられている例が示されているが、これに限られることはなく、任意の位置に設けることができる。また、ウィックシート注入突出部36に設けられた注入流路37は、作動液2bを注入できれば、ウィックシート注入突出部36を貫通していなくてもよい。この場合、ウィックシート30の第1本体面30aおよび第2本体面30bのうちの一方に形成された凹部で、蒸気流路部50に連通する注入流路37を構成することができる。
【0055】
図3、
図6および
図8に示すように、液流路部60は、下側シート10とウィックシート30との間に設けられていてもよい。本実施の形態においては、液流路部60は、ウィックシート30の第1本体面30aに設けられている。液流路部60は、主として作動液2bが通る流路であってもよい。液流路部60には、上述した作動蒸気2aが通ってもよい。液流路部60は、上述した密封空間3の一部を構成しており、蒸気流路部50に連通している。液流路部60は、作動液2bを蒸発領域SRに輸送するための毛細管構造(ウィック)として構成されている。本実施の形態においては、液流路部60は、ウィックシート30の各ランド部33の第1本体面30aに設けられている。液流路部60は、各ランド部33の第1本体面30aの全体にわたって形成されていてもよい。
図3等では図示していないが、各ランド部33の第2本体面30bには、液流路部60が設けられていてもよい。
【0056】
図9に示すように、液流路部60は、複数の溝を含む溝集合体となっている。より具体的には、液流路部60は、作動液2bが通る複数の液流路主流溝61と、液流路主流溝61に連通する複数の液流路連絡溝65と、を有している。
【0057】
各液流路主流溝61は、
図9に示すように、X方向に延びるように形成されている。液流路主流溝61は、主として、作動液2bが毛細管作用によって流れるように、蒸気流路部50の第1蒸気通路51または第2蒸気通路52よりも小さな流路断面積を有している。このことにより、液流路主流溝61は、作動蒸気2aから凝縮した作動液2bを蒸発領域SRに輸送するように構成されている。各液流路主流溝61は、X方向に直交するY方向に沿って、等間隔に離間して配置されていてもよい。
【0058】
液流路主流溝61は、後述するエッチング工程において、ウィックシート30の第1本体面30aからエッチングされることによって形成されている。このことにより、液流路主流溝61は、
図8に示すように、湾曲状に形成された壁面62を有している。この壁面62は、液流路主流溝61を画定し、第2本体面30bに向かって膨らむような形状で湾曲している。
【0059】
図8および
図9に示すように、液流路主流溝61の幅w5(Y方向における寸法)は、例えば、5μm~400μmであってもよい。なお、液流路主流溝61の幅w5は、第1本体面30aにおける寸法を意味している。また、
図8に示すように、液流路主流溝61の深さh1(Z方向における寸法)は、例えば、3μm~300μmであってもよい。
【0060】
図9に示すように、各液流路連絡溝65は、X方向とは異なる方向に延びている。本実施の形態においては、各液流路連絡溝65は、Y方向に延びるように形成されており、液流路主流溝61に垂直に形成されている。いくつかの液流路連絡溝65は、互いに隣り合う液流路主流溝61同士を連通するように配置されている。他の液流路連絡溝65は、蒸気流路部50(第1蒸気通路51または第2蒸気通路52)と液流路主流溝61とを連通するように配置されている。すなわち、当該液流路連絡溝65は、Y方向におけるランド部33の側縁33aから当該側縁33aに隣り合う液流路主流溝61に延びている。このようにして、蒸気流路部50の第1蒸気通路51または第2蒸気通路52と液流路主流溝61とが連通されている。
【0061】
液流路連絡溝65は、主として、作動液2bが毛細管作用によって流れるように、蒸気流路部50の第1蒸気通路51または第2蒸気通路52よりも小さな流路断面積を有している。各液流路連絡溝65は、X方向に沿って、等間隔に離間して配置されていてもよい。
【0062】
液流路連絡溝65も、液流路主流溝61と同様に、エッチングによって形成され、液流路主流溝61と同様の湾曲状に形成された壁面(図示せず)を有している。
図9に示すように、液流路連絡溝65の幅w6(X方向における寸法)は、液流路主流溝61の幅w5と等しくてもよいが、幅w5よりも大きくても、小さくてもよい。液流路連絡溝65の深さは、液流路主流溝61の深さh1と等しくてもよいが、深さh1よりも深くても、浅くてもよい。
【0063】
図9に示すように、液流路部60は、ウィックシート30の第1本体面30aに設けられた凸部列63を有している。凸部列63は、互いに隣り合う液流路主流溝61の間に設けられている。各凸部列63は、X方向に配列された複数の凸部64(液流路突出部の一例)を含んでいる。凸部64は、液流路部60内に設けられており、上側シート20に当接している。各凸部64は、平面視で、X方向が長手方向となるように矩形状に形成されている。Y方向において互いに隣り合う凸部64の間に、液流路主流溝61が介在され、X方向において互いに隣り合う凸部64の間には、液流路連絡溝65が介在されている。液流路連絡溝65は、Y方向に延びるように形成され、Y方向において互いに隣り合う液流路主流溝61同士を連通している。このことにより、これらの液流路主流溝61の間で作動液2bが往来可能になっている。
【0064】
凸部64は、後述するエッチング工程においてエッチングされることなく、ウィックシート30の材料が残る部分である。本実施の形態では、
図9に示すように、凸部64の平面形状(ウィックシート30の第1本体面30aの位置における形状)が、矩形状になっている。
【0065】
本実施の形態においては、凸部64は、千鳥状に配置されている。より具体的には、Y方向において互いに隣り合う凸部列63の凸部64が、X方向において互いにずれて配置されている。このずれ量は、X方向における凸部64の配列ピッチの半分であってもよい。凸部64の幅w7(Y方向における寸法)は、例えば、5μm~500μmであってもよい。なお、凸部64の幅w7は、第1本体面30aにおける寸法を意味している。なお、凸部64の配置は、千鳥状であることに限られることはなく、並列配列されていてもよい。この場合、Y方向において互いに隣り合う凸部列63の凸部64が、Y方向においても整列される。
【0066】
液流路主流溝61は、液流路連絡溝65と連通する液流路交差部66を含んでいる。液流路交差部66において、液流路主流溝61と液流路連絡溝65とがT字状に連通している。このことにより、一の液流路主流溝61と、一方の側(例えば、
図9における上側)の液流路連絡溝65とが連通している液流路交差部66において、他方の側(例えば、
図9における下側)の液流路連絡溝65が当該液流路主流溝61に連通することを回避できる。
【0067】
すなわち、一の液流路主流溝61のY方向における両側(
図9における上下両側)に存在する液流路連絡溝65が、X方向において同じ位置に配置される場合、当該液流路主流溝61と当該液流路連絡溝65とが、十字状に交わる。この場合、当該液流路主流溝61の壁面62(
図8参照)が、X方向における同じ位置で、当該液流路連絡溝65によって両側(
図9における上側および下側)で切り欠かれる。この切り欠かれた位置では、十字状に連続した空間が形成され、液流路主流溝61の毛細管作用が低下し得る。
【0068】
これに対して本実施の形態によれば、一の液流路主流溝61のY方向における両側(
図9における上下両側)に存在する液流路連絡溝65が、X方向において異なる位置に配置されている。このことにより、当該液流路主流溝61の壁面62のうち、Y方向の一側で液流路連絡溝65によって切り欠かれる位置と、Y方向の他側で液流路連絡溝65によって切り欠かれる位置とを、X方向で異ならせることができる。この場合、液流路主流溝61は、Y方向における一側で液流路連絡溝65と連通するため、Y方向における他側では、当該液流路主流溝61の壁面62を残存させることができる。このため、液流路主流溝61の壁面62が液流路連絡溝65によって切り欠かれた位置では、連続する空間はT字状に形成され、液流路主流溝61の毛細管作用の低下を抑制することができる。このため、蒸発領域SRに向かう作動液2bの推進力が液流路交差部66で低下することを抑制できる。
【0069】
ところで、下側シート10、上側シート20およびウィックシート30を構成する材料は、ベーパーチャンバ1としての放熱効率を確保することができる程度に熱伝導率が良好な材料であれば、特に限られることはない。また、ウィックシート30の熱膨張係数が、下側シート10の熱膨張係数以下となるような材料を下側シート10およびウィックシート30に用いてもよい。同様に、ウィックシート30の熱膨張係数が、上側シート20の熱膨張係数以下となるような材料を上側シート20およびウィックシート30に用いてもよい。
【0070】
ウィックシート30の材料としては、良好な熱伝導率と、作動流体として純水を使用する場合の耐腐食性と、を有する銅(より詳細には、純銅(または無酸素銅、C1020等))または銅合金が挙げられる。銅合金の例としては、錫を含む銅合金(例えば、りん青銅(C5210等))、チタンを含む銅合金(C1990等)、ニッケル、シリコンおよびマグネシウムを含む銅合金であるコルソン系銅合金(C7025等)などが挙げられる。
【0071】
下側シート10の材料および上側シート20の材料には、ウィックシート30の熱膨張係数と等しい熱膨張係数を有する材料を用いてもよい。例えば、下側シート10の材料および上側シート20の材料は、ウィックシート30の材料と同じであってもよい。
【0072】
あるいは、下側シート10の材料および上側シート20の材料には、ウィックシート30の熱膨張係数よりも大きい熱膨張係数を有する材料を用いてもよい。このことにより、ウィックシート30の熱膨張係数を、下側シート10の熱膨張係数および上側シート20の熱膨張係数よりも小さくすることができる。例えば、下側シート10の材料および上側シート20の材料の例としては、ウィックシート30が純銅で構成されている場合には、りん青銅、チタンを含む銅合金(C1990等)等が挙げられ、ウィックシート30がりん青銅で構成されている場合には、チタンを含む銅合金等が挙げられる。下側シート10と上側シート20は同じ材料で構成されていてもよいが、異なる材料で構成されていてもよい。
【0073】
図3に示すベーパーチャンバ1の厚さt1は、例えば、100μm~500μmであってもよい。ベーパーチャンバ1の厚さt1を100μm以上にすることにより、蒸気流路部50を適切に確保することで、ベーパーチャンバ1として適切に機能させることができる。一方、厚さt1を500μm以下にすることにより、ベーパーチャンバ1の厚さt1が厚くなることを抑制できる。
【0074】
ウィックシート30の厚さは、下側シート10の厚さよりも厚くてもよい。同様に、ウィックシート30の厚さは、上側シート20の厚さよりも厚くてもよい。本実施の形態においては、下側シート10の厚さと上側シート20の厚さが等しい例を示しているが、このことに限られることはなく、下側シート10の厚さと上側シート20の厚さは、異なっていてもよい。
【0075】
下側シート10の厚さt2は、例えば、6μm~100μmであってもよい。下側シート10の厚さt2を6μm以上にすることにより、下側シート10の機械的強度および長期信頼性を確保することができる。一方、下側シート10の厚さt2を100μm以下にすることにより、ベーパーチャンバ1の厚さt1が厚くなることを抑制できる。なお、下側シート10の厚さt2は、第1下側シート面10aと第2下側シート面10bとの距離であってもよい。下同様に、上側シート20の厚さt3は、下側シート10の厚さt2と同様に設定されていてもよい。上側シート20の厚さt3は、第1上側シート面20aと第2上側シート面20bとの距離であってもよい。
【0076】
ウィックシート30の厚さt4は、例えば、50μm~400μmであってもよい。ウィックシート30の厚さt4を50μm以上にすることにより、蒸気流路部50を適切に確保することで、ベーパーチャンバ1として適切に動作することができる。一方、400μm以下にすることにより、ベーパーチャンバ1の厚さt1が厚くなることを抑制できる。なお、ウィックシート30の厚さt4は、第1本体面30aと第2本体面30bとの距離であってもよい。
【0077】
次に、このような構成からなる本実施の形態のベーパーチャンバ1の製造方法について、
図10~
図14を用いて説明する。
【0078】
ここでは、初めに、ウィックシート30を準備するウィックシート準備工程(本体シート準備工程の一例)について説明する。
【0079】
まず、
図10に示すように、材料準備工程として、第1材料面Maと第2材料面Mbとを含む、平板状の金属材料シートMを準備する。金属材料シートMとしては、所望の厚さを有する圧延材で形成されていてもよい。
【0080】
材料準備工程の後、エッチング工程として、
図11に示すように、金属材料シートMを、第1材料面Maおよび第2材料面Mbからエッチングして、蒸気流路部50および液流路部60を形成する。
【0081】
より具体的には、金属材料シートMの第1材料面Maおよび第2材料面Mbに、フォトリソフィー技術によって、パターン状のレジスト膜(図示せず)が形成される。続いて、パターン状のレジスト膜の開口を介して、金属材料シートMの第1材料面Maおよび第2材料面Mbがエッチングされる。このことにより、金属材料シートMの第1材料面Maおよび第2材料面Mbがパターン状にエッチングされて、
図11に示すような蒸気流路部50および液流路部60が形成される。なお、エッチング液には、例えば、塩化第二鉄水溶液等の塩化鉄系エッチング液、または塩化銅水溶液等の塩化銅系エッチング液を用いることができる。
【0082】
エッチングは、金属材料シートMの第1材料面Maおよび第2材料面Mbを同時にエッチングしてもよい。しかしながら、このことに限られることはなく、第1材料面Maと第2材料面Mbのエッチングは別々の工程として行われてもよい。また、蒸気流路部50および液流路部60が同時にエッチングで形成されてもよく、別々の工程で形成されてもよい。
【0083】
また、エッチング工程においては、金属材料シートMの第1材料面Maおよび第2材料面Mbをエッチングすることにより、
図6および
図7に示すようなウィックシート30の所定の外形輪郭形状が得られる。
【0084】
このようにして、第1本体面30aと第2本体面30bとを有するウィックシート30であって、蒸気流路部50および液流路部60が形成されたウィックシート30が得られる。
【0085】
また、下側シート準備工程(第1シート準備工程の一例)として、下側シート10が準備される。この際、下側シート10は、所望の厚さを有する圧延材で形成されていてもよい。
【0086】
同様にして、上側シート準備工程(第2シート準備工程の一例)として、上側シート20が準備される。この際、上側シート20は、所望の厚さを有する圧延材で形成されていてもよい。
【0087】
ウィックシート準備工程において準備されたウィックシート30の厚さは、下側シート10の厚さよりも厚く、上側シート20の厚さよりも厚くなっていてもよい。また、このウィックシート30の熱膨張係数は、下側シート10の熱膨張係数以下であるとともに、上側シート20の熱膨張係数以下であってもよい。
【0088】
各準備工程の後、接合工程として、
図12に示すように、下側シート10、上側シート20およびウィックシート30が接合される。なお、下側シート10および上側シート20は、所望の厚さを有する圧延材で形成されていてもよい。接合工程は、仮止め工程と、加熱加圧工程と、冷却工程と、を有していてもよい。
【0089】
仮止め工程として、
図12に示すように、下側シート10、ウィックシート30および上側シート20が仮止めされる。
【0090】
より具体的には、まず、下側シート10、ウィックシート30および上側シート20をこの順番で重ねる。この場合、ウィックシート30の第1本体面30aに下側シート10が配置されて、蒸気流路部50を覆う。下側シート10の第2下側シート面10bには、ウィックシート30の第1本体面30aが重ね合わされる。また、ウィックシート30の第2本体面30bに上側シート20が配置されて、蒸気流路部50を覆う。ウィックシート30の第2本体面30bには、上側シート20の第1上側シート面20aが重ね合わされる。下側シート10のアライメント孔12(
図4参照)と、ウィックシート30のアライメント孔35(
図6、
図7参照)と、上側シート20のアライメント孔22(
図5参照)とを利用して、各シート10、20、30が位置合わせされてもよい。
【0091】
続いて、下側シート10、ウィックシート30および上側シート20が仮止めされる。例えば、スポット的に抵抗溶接を行って、これらのシート10、20、30が仮止めされてもよく、レーザ溶接でこれらのシート10、20、30が仮止めされてもよい。仮止めされた下側シート10、ウィックシート30および上側シート20の組合体を、以下の説明ではベーパーチャンバ中間体70と称する。
【0092】
次に、
図12に示すように、下側シート10と、ウィックシート30と、上側シート20とが、拡散接合によって恒久的に接合される。拡散接合とは、接合する下側シート10とウィックシート30を密着させるとともにウィックシート30と上側シート20を密着させて、真空や不活性ガス中などの制御された雰囲気中で、積層方向に加圧するとともに加熱して、接合面に生じる原子の拡散を利用して接合する方法である。拡散接合は、各シート10、20、30の材料を融点に近い温度まで加熱するが、融点よりは低いため、各シート10、20、30が溶融して変形することを回避できる。
【0093】
加熱加圧工程においては、ウィックシート30の枠体部32および各ランド部33における第1本体面30aが、下側シート10の第2下側シート面10bに拡散接合される。また、ウィックシート30の枠体部32および各ランド部33における第2本体面30bが、上側シート20面の第1上側シート面20aに拡散接合される。このようにして、各シート10、20、30が拡散接合されて、下側シート10と上側シート20との間に、蒸気流路部50と液流路部60とを有する密封空間3が形成される。上述した注入部4においては、下側シート10の下側注入突出部11とウィックシート30のウィックシート注入突出部36とが拡散接合されるとともに、このウィックシート注入突出部36と上側シート20の上側注入突出部21とが拡散接合され、注入流路37が閉じた空間となる。
【0094】
加熱加圧工程においては、上述したように、ベーパーチャンバ中間体70が加熱されている。このことにより、下側シート10、上側シート20およびウィックシート30が、それぞれ全体的に熱膨張する。
【0095】
ここで、ウィックシート30の熱膨張係数が、下側シート10の熱膨張係数および上側シート20の熱膨張係数以下であるため、ウィックシート30の伸びが、下側シート10の伸びおよび上側シート20の伸びと等しいか、それよりも小さくなる。例えば、蒸気流路部50は、
図13に示すようにY方向に拡大する。
図13においては、下側蒸気流路凹部53の壁面53aと上側蒸気流路凹部54の壁面54aとが、加熱前の位置を示す二点鎖線の位置から、加熱時の位置を示す実線の位置に移動している例が示されている。このようにして伸びた状態で、各シート10、20、30が拡散接合されて、ウィックシート30の枠体部32および各ランド部33における第1本体面30aと、下側シート10の第2下側シート面10bとが、拡散接合されて互いに固定される。同様に、ウィックシート30の枠体部32および各ランド部33における第2本体面30bと、上側シート20面の第1上側シート面20aとが、拡散接合されて互いに固定される。
【0096】
次に、冷却工程として、
図14に示すように、加熱および加圧された複数のベーパーチャンバ中間体70が冷却される。より具体的には、加熱加圧工程においてベーパーチャンバ中間体70に加えられていた圧力が除去されて、ベーパーチャンバ中間体70が常温環境下で冷却される。このことにより、下側シート10、上側シート20およびウィックシート30が、それぞれ収縮する。
【0097】
ここで、ウィックシート30の熱膨張係数が、下側シート10の熱膨張係数および上側シート20の熱膨張係数以下であるため、ウィックシート30の縮みが、下側シート10の縮みおよび上側シート20の縮みと等しいか、それよりも小さくなる。
【0098】
しかしながら、上述したように、加熱加圧工程において、下側シート10の第2下側シート面10bとウィックシート30の第1本体面30aとが拡散接合されて互いに固定されているとともに、上側シート20の第1上側シート面20aとウィックシート30の第2本体面30bとが拡散接合されて互いに固定されている。このことにより、下側シート10とウィックシート30とが、拡散接合された面では互いに拘束されながら収縮する。また、上側シート20とウィックシート30とが、拡散接合された面では互いに拘束されながら収縮する。
【0099】
例えば、蒸気流路部50は、
図14に示すようにY方向に収縮する。
図14においては、下側蒸気流路凹部53の壁面53aと上側蒸気流路凹部54の壁面54aとが、冷却前の位置を示す二点鎖線の位置から、冷却後の位置を示す実線の位置に移動している例が示されている。
【0100】
ウィックシート30の縮みが、下側シート10の縮みと等しい場合、下側シート10とウィックシート30とは同程度縮むことができる。このため、下側シート10のうち蒸気流路部50に重なる部分が撓むことを抑制でき、下側シート10の第1下側シート面10aの平坦度を高めることができる。
【0101】
ウィックシート30の縮みが下側シート10の縮みよりも小さい場合、蒸気流路部50の縮みは小さくなる。また、ウィックシート30の厚さは、下側シート10の厚さよりも厚くなっている。このことにより、ウィックシート30の収縮が支配的になる。このため、下側シート10のうち蒸気流路部50に重なる部分は、収縮しきれず、引張応力σTが残留した状態になる。この結果、下側シート10の当該部分は張力が付与された状態になる。このため、下側シート10のうち蒸気流路部50に重なる部分が撓むことをより一層抑制でき、下側シート10の第1下側シート面10aの平坦度をより一層高めることができる。なお、ウィックシート30の収縮を支配的にするためには、例えば、ウィックシート30の厚さt4は、下側シート10の厚さt2の3倍~20倍であってもよい。
【0102】
同様に、ウィックシート30の縮みが、上側シート20の縮みと等しい場合、上側シート20とウィックシート30とは同程度縮むことができる。このため、上側シート20のうち蒸気流路部50に重なる部分が撓むことを抑制でき、上側シート20の第2上側シート面20bの平坦度を高めることができる。
【0103】
ウィックシート30の縮みが上側シート20の縮みよりも小さい場合、蒸気流路部50の縮みは小さくなる。また、ウィックシート30の厚さは、上側シート20の厚さよりも厚くなっている。このことにより、ウィックシート30の収縮が支配的になる。このため、上側シート20のうち蒸気流路部50に重なる部分は、収縮しきれず、引張応力σTが残留した状態になる。この結果、上側シート20の当該部分は張力が付与された状態になる。このため、上側シート20のうち蒸気流路部50に重なる部分が撓むことをより一層抑制でき、上側シート20の第2上側シート面20bの平坦度をより一層高めることができる。なお、ウィックシート30の収縮を支配的にするためには、例えば、ウィックシート30の厚さt4は、上側シート20の厚さt3の3倍~20倍であってもよい。
【0104】
接合工程の後、注入部4から密封空間3に作動液2bが注入される。この際、作動液2bは、液流路部60の各液流路主流溝61と各液流路連絡溝65で構成される空間の合計体積よりも多い注入量で注入されてもよい。
【0105】
その後、上述した注入流路37が封止される。例えば、注入部4にレーザ光を照射し、注入部4を部分的に溶融させて注入流路37を封止するようにしてもよい。このことにより、密封空間3と外部との連通が遮断されて、作動液2bが密封空間3に封入され、密封空間3内の作動液2bが外部に漏洩することが防止される。なお、注入流路37の封止のためには、注入部4をかしめてもよく(押圧して塑性変形させてもよく)、またはろう付けしてもよい。なお、封止後、注入部4は、レーザ光を照射することによって切断されてもよく、または切断刃で切断されてもよい。
【0106】
以上のようにして、本実施の形態によるベーパーチャンバ1が得られる。
【0107】
次に、ベーパーチャンバ1の作動方法、すなわち、デバイスDの冷却方法について説明する。
【0108】
上述のようにして得られたベーパーチャンバ1は、モバイル端末等のハウジングH内に設置されて、ハウジング部材Haが上側シート20の第2上側シート面20bに取り付けられる(あるいは、ハウジング部材Haにベーパーチャンバ1が取り付けられる)。また、下側シート10の第1下側シート面10aに、被冷却装置であるCPU等のデバイスDが取り付けられる(あるいは、デバイスDにベーパーチャンバ1が取り付けられる)。密封空間3内の作動液2bは、その表面張力によって、密封空間3の壁面、すなわち、下側蒸気流路凹部53の壁面53a、上側蒸気流路凹部54の壁面54a、液流路部60の液流路主流溝61の壁面62および液流路連絡溝65の壁面に付着する。また、作動液2bは、下側シート10の第2下側シート面10bのうち下側蒸気流路凹部53に露出した部分にも付着し得る。さらに、作動液2bは、上側シート20の第1上側シート面20aのうち上側蒸気流路凹部54、液流路主流溝61および液流路連絡溝65に露出した部分にも付着し得る。
【0109】
この状態でデバイスDが発熱すると、蒸発領域SR(
図6および
図7参照)に存在する作動液2bが、デバイスDから熱を受ける。受けた熱は潜熱として吸収されて作動液2bが蒸発(気化)し、作動蒸気2aが生成される。生成された作動蒸気2aの多くは、密封空間3を構成する第1蒸気通路51および第2蒸気通路52内で拡散する(
図6の実線矢印参照)。より具体的には、蒸気流路部50の第1蒸気通路51のうちX方向に延びる部分および第2蒸気通路52において、作動蒸気2aは、主としてX方向に拡散する。一方、第1蒸気通路51のうちY方向に延びる部分においては、作動蒸気2aは、主としてY方向に拡散する。
【0110】
そして、各蒸気通路51、52内の作動蒸気2aは、蒸発領域SRから離れ、作動蒸気2aの多くは、比較的温度の低い凝縮領域CR(
図6および
図7における右側の部分)に輸送される。凝縮領域CRにおいて、作動蒸気2aは、主として上側シート20に放熱して冷却される。上側シート20が作動蒸気2aから受けた熱は、ハウジング部材Ha(
図3参照)を介して外気に伝達される。
【0111】
作動蒸気2aは、凝縮領域CRにおいて上側シート20に放熱することにより、蒸発領域SRにおいて吸収した潜熱を失って凝縮し、作動液2bが生成される。生成された作動液2bは、各蒸気流路凹部53、54の壁面53a、54aおよび下側シート10の第2下側シート面10bおよび上側シート20の第1上側シート面20aに付着する。ここで、蒸発領域SRでは作動液2bが蒸発し続けているため、液流路部60のうち蒸発領域SR以外の領域(すなわち、凝縮領域CR)における作動液2bは、各液流路主流溝61の毛細管作用により、蒸発領域SRに向かって輸送される(
図6の破線矢印参照)。このことにより、各壁面53a、54a、第2下側シート面10bおよび第1上側シート面20aに付着した作動液2bは、液流路部60に移動し、液流路連絡溝65を通過して液流路主流溝61に入り込む。このようにして、各液流路主流溝61および各液流路連絡溝65に、作動液2bが充填される。このため、充填された作動液2bは、各液流路主流溝61の毛細管作用により、蒸発領域SRに向かう推進力を得て、蒸発領域SRに向かってスムースに輸送される。
【0112】
液流路部60においては、各液流路主流溝61が、対応する液流路連絡溝65を介して、隣り合う他の液流路主流溝61と連通している。このことにより、互いに隣り合う液流路主流溝61同士で、作動液2bが往来し、液流路主流溝61でドライアウトが発生することが抑制されている。このため、各液流路主流溝61内の作動液2bに毛細管作用が付与されて、作動液2bは、蒸発領域SRに向かってスムースに輸送される。
【0113】
蒸発領域SRに達した作動液2bは、デバイスDから再び熱を受けて蒸発する。作動液2bから蒸発した作動蒸気2aは、蒸発領域SR内の液流路連絡溝65を通って、流路断面積が大きい下側蒸気流路凹部53および上側蒸気流路凹部54に移動し、各蒸気流路凹部53、54内で拡散する。このようにして、作動流体2a、2bが、相変化、すなわち蒸発と凝縮とを繰り返しながら密封空間3内を還流してデバイスDの熱を拡散させて放出する。この結果、デバイスDが冷却される。
【0114】
ここで、上述したように、下側シート10のうち蒸気流路部50に重なる部分には引張応力σTが残留している。このことにより、下側シート10の第1下側シート面10aの平坦度が高められている。このため、デバイスDとベーパーチャンバ1との密着性が向上し、ベーパーチャンバ1はデバイスDから効率良く熱を受けることができる。また、デバイスDと下側シート10の第1下側シート面10aとの間に熱伝導シート(図示せず)が介在されている場合には、熱伝導シートと第1下側シート面10aとの密着性を向上させることができる。この点においても、デバイスDとベーパーチャンバ1との密着性が向上し、ベーパーチャンバ1はデバイスDから効率良く熱を受けることができる。このようにして、デバイスDとベーパーチャンバ1との間の熱抵抗を低減させることができ、デバイスDを効率良く冷却することができる。
【0115】
また、上述したように、上側シート20のうち蒸気流路部50に重なる部分には引張応力σTが残留している。このことにより、上側シート20の第2上側シート面20bの平坦度が高められている。このため、ハウジング部材Haとベーパーチャンバ1との密着性が向上し、ハウジング部材Haは、ベーパーチャンバ1から効率良く熱を受けることができる。また、ハウジング部材Haと上側シート20の第2上側シート面20bとの間に熱伝導シート(図示せず)が介在されている場合には、熱伝導シートと第2上側シート面20bとの密着性を向上させることができる。この点においても、ハウジング部材Haとベーパーチャンバ1との密着性が向上し、ハウジング部材Haはベーパーチャンバ1から効率良く熱を受けることができる。このようにして、ハウジング部材Haとベーパーチャンバ1との間の熱抵抗を低減させることができ、ベーパーチャンバ1は効率良く放熱することができる。
【0116】
このように本実施の形態によれば、ウィックシート30の厚さが、下側シート10の厚さよりも厚くなっている。そして、ウィックシート30の熱膨張係数が、下側シート10の熱膨張係数以下になっている。このことにより、接合工程の冷却工程において、ウィックシート30の収縮を下側シート10の収縮と同程度か、それよりも小さくすることができる。このため、下側シート10のうち蒸気流路部50に重なる部分が撓むことを抑制でき、下側シート10の第1下側シート面10aの平坦度を高めることができる。この結果、デバイスDと下側シート10との密着性を向上させることができ、デバイスDとベーパーチャンバ1との間の熱抵抗を低減させることができる。従って、デバイスDの冷却効率を向上させることができる。
【0117】
また、本実施の形態によれば、ウィックシート30の熱膨張係数が、下側シート10の熱膨張係数よりも小さい場合には、接合工程の冷却工程において、ウィックシート30の収縮を下側シート10の収縮よりも小さくすることができる。このため、下側シート10のうち蒸気流路部50に重なる部分に引張応力σTを残留させることができ、下側シート10の当該部分の平坦度をより一層高めることができる。この結果、デバイスDと下側シート10との密着性をより一層向上させることができ、デバイスDとベーパーチャンバ1との間の熱抵抗をより一層低減させることができる。従って、デバイスDの冷却効率をより一層向上させることができる。
【0118】
また、本実施の形態によれば、ウィックシート30の厚さが、上側シート20の厚さよりも厚くなっている。そして、ウィックシート30の熱膨張係数が、上側シート20の熱膨張係数以下になっている。このことにより、接合工程の冷却工程において、ウィックシート30の収縮を上側シート20の収縮と同程度か、それよりも小さくすることができる。このため、上側シート20のうち蒸気流路部50に重なる部分が撓むことを抑制でき、上側シート20の第2上側シート面20bの平坦度を高めることができる。この結果、ハウジング部材Haと上側シート20との密着性を向上させることができ、ハウジング部材Haとベーパーチャンバ1との間の熱抵抗を低減させることができる。従って、ベーパーチャンバ1の放熱効率を向上させることができ、デバイスDの冷却効率を向上させることができる。
【0119】
また、本実施の形態によれば、ウィックシート30の熱膨張係数が、上側シート20の熱膨張係数よりも小さい場合には、接合工程の冷却工程において、ウィックシート30の収縮を上側シート20の収縮よりも小さくすることができる。このため、上側シート20のうち蒸気流路部50に重なる部分に引張応力σTを残留させることができ、上側シート20の当該部分の平坦度をより一層高めることができる。この結果、ハウジング部材Haと上側シート20との密着性をより一層向上させることができ、ハウジング部材Haとベーパーチャンバ1との間の熱抵抗をより一層低減させることができる。従って、ベーパーチャンバ1の放熱効率を向上させることができ、デバイスDの冷却効率をより一層向上させることができる。
【0120】
また、本実施の形態によれば、下側シート10と上側シート20とは、同じ材料で構成されている。このことにより、接合工程の冷却工程において、下側シート10の縮みと上側シート20の縮みとの差を低減することができる。このため、下側シート10の残留応力と上側シート20の残留応力との差を低減することができ、ベーパーチャンバ1が全体として反ることを抑制することができる。この結果、下側シート10の第1下側シート面10aの平坦度を高めることができ、デバイスDと下側シート10との密着性を向上させることができる。また、上側シート20の第2上側シート面20bの平坦度を高めることができ、ハウジング部材Haと上側シート20との密着性を向上させることができる。
【0121】
また、本実施の形態によれば、ウィックシート30の熱膨張係数が、下側シート10の熱膨張係数および上側シート20の熱膨張係数よりも小さくなっている。この場合、ウィックシート30が純銅で構成されるとともに、下側シート10および上側シート20がりん青銅で構成されていてもよい。このことにより、ウィックシート30は熱伝導率を向上させることができ、ベーパーチャンバ1の放熱効率を向上させることができる。また、下側シート10および上側シート20は機械的強度を向上させることができる。
【0122】
なお、上述した本実施の形態においては、下側シート10の第2下側シート面10bが、ウィックシート30の第1本体面30aに接しているとともに、上側シート20の第1上側シート面20aが、ウィックシート30の第2本体面30bに接している例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。
【0123】
例えば、
図15に示すように、下側シート10の第2下側シート面10bに、下側表面処理層16が設けられていてもよい。この場合、下側表面処理層16は、下側シート10の第2下側シート面10bとウィックシート30の第1本体面30aとの間に介在される。
【0124】
下側表面処理層16は、ウィックシート30と同じ材料で構成されていてもよい。例えば、ウィックシート30が純銅で構成されている場合には、下側表面処理層16は、純銅で構成されていてもよい。このことにより、蒸気流路部50および液流路部60において作動流体が接する面が異なる材料で構成されることを回避でき、腐食を抑制することができる。
【0125】
下側表面処理層16の厚さは、下側シート10の厚さよりも薄くてもよい。下側表面処理層16の厚さt5は、例えば、0.05μm~10μmであってもよい。このような下側表面処理層16は、例えば、下側シート10の第2下側シート面10bに、電気メッキで形成されていてもよく、またはスパッタリングで形成されていてもよい。
【0126】
図15に示す例においても、接合工程の冷却工程において、下側シート10およびウィックシート30が収縮した際に、下側表面処理層16も収縮する。すなわち、上述したように、下側表面処理層16の厚さを下側シート10の厚さよりも薄くすることにより、下側シート10と下側表面処理層16との関係では下側シート10の収縮が支配的になり、下側表面処理層16は、下側シート10に追従するように収縮する。下側シート10の収縮を支配的にするためには、例えば、下側シート10の厚さt2は、下側表面処理層16の厚さt5の3倍~20倍であってもよい。
【0127】
同様に、
図15に示すように、上側シート20の第1上側シート面20aに、上側表面処理層26が設けられていてもよい。この場合、上側表面処理層26は、上側シート20の第1上側シート面20aとウィックシート30の第2本体面30bとの間に介在される。
【0128】
上側表面処理層26は、ウィックシート30と同じ材料で構成されていてもよい。例えば、ウィックシート30が純銅で構成されている場合には、上側表面処理層26は、純銅で構成されていてもよい。このことにより、蒸気流路部50および液流路部60において作動流体が接する面が異なる材料で構成されることを回避でき、腐食を抑制することができる。
【0129】
上側表面処理層26の厚さは、上側シート20の厚さよりも薄くてもよい。上側表面処理層26の厚さt6は、例えば、0.05μm~10μmであってもよい。このような上側表面処理層26は、例えば、上側シート20の第1上側シート面20aに、電気メッキで形成されていてもよく、またはスパッタリングで形成されていてもよい。
【0130】
図15に示す例においても、接合工程の冷却工程において、上側シート20およびウィックシート30が収縮した際に、上側表面処理層26も収縮する。すなわち、上述したように、上側表面処理層26の厚さを上側シート20の厚さよりも薄くすることにより、上側シート20と上側表面処理層26との関係では上側シート20の収縮が支配的になり、上側表面処理層26は、上側シート20に追従するように収縮する。上側シート20の収縮を支配的にするためには、例えば、上側シート20の厚さt3は、上側表面処理層26の厚さt6の3倍~20倍であってもよい。
【0131】
なお、
図15に示す変形例では、下側シート10の第2下側シート面10bに、下側表面処理層16が接している例が示されているが、このことに限られることはない。例えば、下側シート10と下側表面処理層16との間には、
図16に示すように、下側バリア層17が介在されていてもよい。下側バリア層17は、ウィックシート30と下側表面処理層16を互いに接合する際に、下側シート10を形成する材料を構成する金属元素が、下側表面処理層16に向かって透過することを防止可能なバリア材料で形成されていてもよい。
【0132】
同様に、上側表面処理層26と上側シート20との間には、
図16に示すように、上側バリア層27(第2バリア層)が介在されていてもよい。上側バリア層27は、ウィックシート30と上側表面処理層26を互いに接合する際に、上側シート20を形成する材料を構成する金属元素が、上側表面処理層26に向かって透過することを防止可能なバリア材料で形成されていてもよい。
【0133】
下側バリア層17および上側バリア層27を構成するバリア材料は、上述したシート10、20の材料を構成する金属元素が、表面処理層16、26に向かって透過することを防止可能な材料であれば特に限られることはない。このようなバリア材料は、例えば、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)およびモリブデン(Mo)のうちの少なくとも一つを含んでいてもよい。バリア材料は、タングステン、チタン、タンタルおよびモリブデンのうちのいずれか1つのみで構成されていてもよい。この場合には、バリア層17、27は、単相膜として形成される。あるいは、バリア材料は、タングステン、チタン、タンタルおよびモリブデンのうちの任意の2つ以上の材料を組み合わせて構成されていてもよい。この場合には、バリア層17、27は、合金膜として形成される。このような合金膜の例としては、タングステンとチタンの合金膜を挙げることができる。また、バリア材料は、上述した4つの金属元素と、これ以外の金属元素との組み合わせでもよい。この場合の合金膜の例としては、ニッケルとタングステンの合金膜などを挙げることができる。
【0134】
下側バリア層17の厚さt7は、バリア機能を発揮させることができれば、任意である。また、下側バリア層17の厚さt7は、接合工程の冷却工程において下側シート10の収縮を支配的にすることができる厚さであってもよい。下側バリア層17の厚さt7は、例えば、10nm~1000nmである。下側バリア層17の厚さt7を、10nm以上にすることにより、上述した下側シート10の材料を構成する金属元素が透過することを効果的に防止することができる。一方、1000nm以下にすることにより、スパッタリング処理で容易に作製することができるとともに、ベーパーチャンバ1の厚さt1が厚くなることを抑制できる。更には、1000nm以下にすることにより、熱伝導が阻害されることを抑制できる。
【0135】
上側バリア層27の厚さt8は、バリア機能を発揮させることができれば、任意であり、下側バリア層17の厚さt7と同様とすることができる。
【0136】
ここで、下側バリア層17と上側バリア層27の成分を確認する方法について説明する。まず、バリア層17、27の有無は、ベーパーチャンバ1を任意の位置で切断して得られた断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮像して得られた画像で確認する。バリア層17、27の成分は、ベーパーチャンバ1の下面または上面を少し削り取り、削り取られた成分をエネルギー分散型X線分析(EDX)で分析し、そして更に削り取って成分を分析する。このようにして成分分析を繰り返していくことで、バリア層17、27の成分を確認することができる。
【0137】
下側バリア層17は、下側シート10の第2下側シート面10bに、スパッタリング処理によって形成されてもよい。例えば、タングステン、チタン、タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも一つを含むスパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング処理することにより、下側シート10の第2下側シート面10bにバリア機能を有する下側バリア層17を形成することができる。
【0138】
このようにして形成された下側バリア層17の下側シート10とは反対側の面(
図16における下側バリア層17の上面)に、めっき処理によって下側表面処理層16が形成される。例えば、銅または銅合金を含むめっき液を用いてめっき処理することにより、下側バリア層17の上面に下側表面処理層16を形成することができる。
【0139】
このような下側バリア層17を構成する金属元素の融点は高いため、加熱接合工程時に、下側バリア層17内で、下側シート10を形成する材料の金属元素が、下側バリア層17内を拡散することを抑制できる。このことにより、下側シート10の材料の金属元素が、下側表面処理層16に向かって下側バリア層17を透過することを抑制できる。このため、下側シート10の材料の金属元素が、下側表面処理層16内で拡散することを抑制でき、下側表面処理層16のうち下側蒸気流路凹部53に露出されている部分(露出面)、並びに液流路部60の液流路主流溝61に露出されている部分(露出面)および液流路連絡溝65に露出されている部分(露出面)に析出することを抑制できる。ここで、このような金属元素がこれらの部分に析出すると、ベーパーチャンバ1の性能が低下する場合がある。この原因としては、金属元素が作動流体2a、2bと反応して密封空間3内にガスが発生したり、露出面に対する作動液2bの表面張力が変化したりすることが挙げられる。本実施の形態では、上述したように、下側シート10の材料の金属元素が露出面に析出されることを抑制できるため、このようなベーパーチャンバ1の性能を低下させる現象が発生することを抑制できる。すなわち、ベーパーチャンバ1の性能低下を抑制することができる。
【0140】
上側バリア層27および上側表面処理層26も、下側バリア層17および下側表面処理層16と同様にして形成することができる。上側シート20の材料の金属元素も同様に、上側表面処理層26に向かって上側バリア層27を透過することを抑制できる。このため、ベーパーチャンバ1の性能低下を抑制することができる。
【0141】
下側バリア層17と下側表面処理層16との間に密着層18が形成されてもよい。この場合、まず、下側バリア層17の下側シート10とは反対側の面に、密着層18が形成され、その後、密着層18の上面に、下側表面処理層16が形成される。密着層18の厚さは、接合工程の冷却工程において下側シート10の収縮を支配的にすることができる厚さであってもよい。密着層18の例としては、ストライクめっき層、シード層などが挙げられる。例えば、下側バリア層17をモリブデンを含む材料で形成し、下側表面処理層16を銅で形成する場合には、銅を含むスパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング処理を行うことによって、銅の材料を含むシード層を介在させるようにしてもよい。ストライクめっき層およびシード層の厚さは、例えば、50nm~500nmである。あるいは、下側表面処理層16を圧延材から形成し、下側シート10をめっき処理で形成するようにしてもよい。更には、下側表面処理層16および下側シート10のいずれか一方を、めっき処理で形成し、更にめっき処理をすることで他方を積層形成するようにしてもよい。
【0142】
上側バリア層27と上側表面処理層26との間にも密着層28が形成されてもよい。この密着層28も、上述した密着層18と同様に形成することができる。
【0143】
また、上述した本実施の形態においては、液流路部60が、ウィックシート30の第1本体面30aに設けられている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、液流路部60は、下側シート10の第2下側シート面10bに設けられていてもよい。また、液流路部60は、下側シート10とウィックシート30との間に設けることに加えて、上側シート20とウィックシート30との間に設けられていてもよい。この場合、液流路部60は、ウィックシート30の第2本体面30bに設けられていてもよく、あるいは、上側シート20の第1上側シート面20aに設けられていてもよい。液流路部60が、上側シート20とウィックシート30との間に設けられる場合には、下側シート10とウィックシート30との間に設けられていなくてもよい。
【0144】
(第2の実施の形態)
次に、
図17を用いて、本発明の第2の実施の形態におけるベーパーチャンバ、電子機器およびベーパーチャンバの製造方法について説明する。
【0145】
図17に示す第2の実施の形態においては、ベーパーチャンバが下側シートとウィックシートとで構成されており、蒸気流路部が第1本体面に形成されて、ウィックシートを貫通していない点が主に異なり、他の構成は、
図1~
図16に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図17において、
図1~
図16に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0146】
本実施の形態におけるベーパーチャンバ1は、
図17に示すように、下側シート10(第1シートの一例)と、ウィックシート30(本体シートの一例)と、を備えているが、上側シート20(第2シートの一例)を、備えていない。ハウジング部材Haは、ウィックシート30の第2本体面30bに取り付けられてもよい。作動蒸気2aの熱は、ウィックシート30からハウジング部材Haに伝わる。
【0147】
蒸気流路部50は、第1本体面30aに設けられているが、第2本体面30bまで延びておらず、ウィックシート30を貫通していない。すなわち、本実施の形態による蒸気流路部50の第1蒸気通路51および第2蒸気通路52は、下側蒸気流路凹部53で構成されており、ウィックシート30には上側蒸気流路凹部54は設けられていない。
【0148】
本実施の形態においては、蒸気流路部50の第1蒸気通路51および第2蒸気通路52は、下側シート10で覆われておいる。下側シート10の全体は、実質的に平坦状に形成されており、下側シート10のうち第1蒸気通路51に重なる部分および第2蒸気通路52に重なる部分の平坦度が高められている。
【0149】
図17に示すベーパーチャンバ1の厚さt11は、例えば、100μm~500μmであってもよい。ベーパーチャンバ1の厚さt11を100μm以上にすることにより、蒸気流路部50を適切に確保することで、ベーパーチャンバ1として適切に機能させることができる。一方、厚さt11を500μm以下にすることにより、ベーパーチャンバ1の厚さt11が厚くなることを抑制できる。
【0150】
下側シート10の厚さは、ウィックシート30の厚さよりも薄くてもよい。下側シート10の厚さt12は、例えば、6μm~100μmであってもよい。下側シート10の厚さt12を6μm以上にすることにより、下側シート10の機械的強度および長期信頼性を確保することができる。一方、下側シート10の厚さt12を100μm以下にすることにより、ベーパーチャンバ1の厚さt11が厚くなることを抑制できる。なお、下側シート10の厚さt12は、第1下側シート面10aと第2下側シート面10bとの距離であってもよい。
【0151】
ウィックシート30の厚さt13は、例えば、50μm~400μmであってもよい。ウィックシート30の厚さt13を50μm以上にすることにより、蒸気流路部50を適切に確保することで、ベーパーチャンバ1として適切に動作することができる。一方、400μm以下にすることにより、ベーパーチャンバ1の厚さt11が厚くなることを抑制できる。なお、ウィックシート30の厚さt14は、第1本体面30aと第2本体面30bとの距離であってもよい。
【0152】
このように本実施の形態によれば、ウィックシート30の厚さが、下側シート10の厚さよりも厚くなっている。そして、ウィックシート30の熱膨張係数が、下側シート10の熱膨張係数以下になっている。このことにより、ウィックシート30の収縮を下側シート10の収縮と同程度か、それよりも小さくすることができる。このため、下側シート10のうち蒸気流路部50に重なる部分が撓むことを抑制でき、下側シート10の第1下側シート面10aの平坦度を高めることができる。この結果、デバイスDと下側シート10との密着性を向上させることができ、デバイスDとベーパーチャンバ1との間の熱抵抗を低減させることができる。従って、デバイスDの冷却効率を向上させることができる。
【0153】
また、本実施の形態によれば、ベーパーチャンバ1が、下側シート10と、ウィックシート30と、を備えているが、上側シート20を備えていない。このことにより、ベーパーチャンバ1を2層構成とすることができ、ベーパーチャンバ1の構造を簡素化することができる。このため、ベーパーチャンバ1の厚さを低減することができる。
【0154】
なお、上述した本実施の形態においては、下側シート10の第2下側シート面10bが、ウィックシート30の第1本体面30aに接している例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、例えば、下側シート10の第2下側シート面10bに、下側表面処理層16(
図15参照)が設けられていてもよい。
【0155】
また、上述した本実施の形態においては、液流路部60が、ウィックシート30の第1本体面30aに設けられている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、液流路部60は、下側シート10の第2下側シート面10bに設けられていてもよい。
【0156】
本発明は上記各実施の形態および各変形例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施の形態および各変形例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。各実施の形態および各変形例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0157】
1 ベーパーチャンバ
2a 作動蒸気
2b 作動液
10 下側シート
16 下側表面処理層
20 上側シート
26 上側表面処理層
30 ウィックシート
30a 第1本体面
30b 第2本体面
50 蒸気流路部
60 液流路部
H ハウジング
D デバイス
E 電子機器