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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20241121BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C03B17/06
C03C3/097
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020210346
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022097010
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】深田 睦
(72)【発明者】
【氏名】尾形 基和
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 美奈
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135267(JP,A)
【文献】特表2013-542166(JP,A)
【文献】特開2013-212943(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051069(WO,A1)
【文献】特表2005-514302(JP,A)
【文献】特表2019-517448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06,
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーバーフローダウンドロー法により、成形体の溝部から溢れ出た溶融ガラスを前記成形体の両側面に沿って流下させた後、前記成形体の下端部で融合させてガラスリボンを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記成形体はイットリウム含有酸化物を含むと共に、前記溶融ガラスはPを含み、
前記成形工程では、前記溝部における前記溶融ガラスと前記下端部における前記溶融ガラスの温度差を100℃以下にすることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記溝部における前記溶融ガラスの温度は、1300℃以下である請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記下端部における前記溶融ガラスの温度は、1100℃以上である請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記溶融ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 40~70%、Al 10~30%、B 0~3%、NaO 5~25%、KO 0~5.5%、LiO 0.1~10%、MgO 0~5.5%、P 2~10%を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記溶融ガラスは、MgOを0~1質量%含む請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記成形体は、イットリウム含有酸化物を1質量%以上含む請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板やガラスロール等のガラス物品の製造工程では、例えば、オーバーフローダウンドロー法により、成形体の表面に沿って溶融ガラスを流下させてガラスリボンを連続成形する。成形されたガラスリボンは、下流側に搬送されながら室温付近まで冷却された後、ガラス板を得るために所定長さ毎に切断されたり、ガラスロールを得るためにロール状に巻き取られたりする(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-062433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の成形体では、機械的強度を向上させる観点から、成形体の構成成分にイットリウム含有酸化物(例えばイットリウムとアルミニウムの複合酸化物であるYAl12)を添加する場合がある。
【0005】
本願発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、イットリウム含有酸化物を含む成形体を用いて、Pを含むガラスリボンを成形すると、成形体に含まれるイットリウム含有酸化物から酸化イットリウムが溶融ガラス中に溶出する等して拡散し、成形体の下端部において失透物が発生するという問題を初めて知見するに至った。このようなイットリウム含有酸化物に由来する失透物は、ガラスリボン及び/又はガラス物品の欠陥になり得るため、生産効率や品質向上の観点からも、その発生量を低減させることが重要となる。
【0006】
なお、イットリウム含有酸化物に由来する失透物は、例えば、イットリウム含有酸化物から溶融ガラス中に溶出した酸化イットリウム(Y)と、溶融ガラスのPとが反応して発生すると考えられる。つまり、イットリウム含有酸化物に由来する失透物は、例えば、酸化イットリウムとPとを含む失透物(Y-P結晶)であると考えられる。
【0007】
本発明は、オーバーフローダウンドロー法を用いてガラスリボンを成形する際に、成形体に含まれるイットリウム含有酸化物に由来する失透物が発生するのを確実に低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、オーバーフローダウンドロー法により、成形体の溝部から溢れ出た溶融ガラスを成形体の両側面に沿って流下させた後、成形体の下端部で融合させてガラスリボンを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法であって、成形体はイットリウム含有酸化物を含むと共に、溶融ガラスはPを含み、成形工程では、溝部における溶融ガラスと下端部における溶融ガラスとの温度差を100℃以下にすることを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、成形体に含まれるイットリウム含有酸化物から酸化イットリウムが溶融ガラス中に溶出しても、成形体の溝部とその下端部との間で溶融ガラスの温度差が小さいため、成形体の下端部においてイットリウム含有酸化物に由来する失透物(例えば、酸化イットリウムとPとを含む失透物)が発生するのを抑制できる。
【0010】
(2) 上記(1)の構成において、溝部における溶融ガラスの温度は、1300℃以下であることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、溶融ガラスの粘度が低くなりすぎることが抑制されるため、溶融ガラスからガラスリボンを成形し易くなる。
【0012】
(3) 上記(1)又は(2)の構成において、下端部における溶融ガラスの温度は、1100℃以上であることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、溶融ガラスの粘度が高くなりすぎることが抑制されるため、溶融ガラスからガラスリボンを成形し易くなる。
【0014】
(4) 上記(1)~(3)の構成において、溶融ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 40~70%、Al 10~30%、B 0~3%、NaO 5~25%、KO 0~5.5%、LiO 0.1~10%、MgO 0~5.5%、P 2~10%を含むことが好ましい。
【0015】
このようにすれば、化学強化用ガラスに好適なアルミノシリケートガラスとなり、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立し易くなる。
【0016】
(5) 上記(1)~(4)の構成において、溶融ガラスは、MgOを0~1質量%含むことが好ましい。
【0017】
溶融ガラスのMgO含有量が多いと、成形体の表面に、イットリウム含有酸化物からの酸化イットリウムの溶出を抑制し得るMgリッチ層が形成される。Mgリッチ層は、例えば、成形体がアルミナ系耐火物の場合はスピネル(MgAl)を主成分とする層となる。このため、成形体のイットリウム含有酸化物から酸化イットリウムが溶融ガラス中に溶出し難くなる。これに対し、溶融ガラスのMgO含有量が1質量%以下であれば、成形体の表面に、Mgリッチ層が形成され難い。このため、成形体のイットリウム含有酸化物から酸化イットリウムが溶融ガラス中に溶出し易くなる。したがって、溶融ガラスのMgO含有量が1質量%以下の場合に、本発明の効果が顕著になる。
【0018】
(6) 上記(1)~(5)の構成において、成形体は、イットリウム含有酸化物を1質量%以上含むことが好ましい。
【0019】
このようにすれば、成形体のイットリウム含有酸化物から酸化イットリウムが溶融ガラス中に溶出し易くなるため、本発明の効果が顕著になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オーバーフローダウンドロー法を用いてガラスリボンを成形する際に、成形体に含まれるイットリウム含有酸化物に由来する失透物が発生するのを確実に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法を実施するための製造装置の側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法を実施するための製造装置の正面図である。
図3図1の成形体周辺を示す拡大側面図である。
図4】本発明の実施例における加熱試験を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、図中に示すXYZからなる直交座標系において、X方向及びY方向が水平方向であり、Z方向が鉛直方向である。また、成形されるガラスリボンGrの幅方向に対応する方向を幅方向X、成形されるガラスリボンGrの厚み方向に対応する方向を厚み方向Yと呼ぶ。
【0023】
図1図3は、本実施形態に係るガラス物品の製造方法を実現するための製造装置1を示す図である。同図に示すように、製造装置1は、オーバーフローダウンドロー法によってガラス物品としてのガラス板Gを製造するための装置であり、上方から下方に向かって順に、成形炉2と、徐冷炉4と、冷却室5と、切断室6とを備えている。成形炉2と徐冷炉4との間、徐冷炉4と冷却室5との間、及び冷却室5と切断室6との間は、それぞれガラスリボンGrが通過する開口部(例えばスリット)を有する仕切り部材(例えば建物の床面)F1,F2,F3によって仕切られている。
【0024】
成形炉2は、オーバーフローダウンドロー法によって、溶融ガラスGmからガラスリボンGrを成形するための領域である。成形炉2内には、溶融ガラスGmからガラスリボンGrを成形する成形体3と、成形体3で成形されたガラスリボンGrの幅方向Xの両端部を冷却する第一搬送ローラ7とが配置されている。
【0025】
成形体3は、幅方向Xに沿って長尺な耐火物により形成されている。耐火物としては、例えば、ジルコン、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、ゼノタイム等が挙げられる。
【0026】
成形体3の頂部には、幅方向Xに沿って形成された溝部(オーバーフロー溝)8が設けられている。溝部8の幅方向Xの一端側には、供給パイプ9が接続されている。この供給パイプ9を通じて溝部8内に溶融ガラスGmが供給される。溶融ガラスGmの供給方法はこれに限定されない。例えば溝部8の幅方向Xの両端側から溶融ガラスGmを供給するようにしてもよいし、溝部8の上方から溶融ガラスGmを供給するようにしてもよい。
【0027】
成形体3は、厚み方向Yにおいて対称形状をなす。成形体3の厚み方向Yの両側面10はそれぞれ、鉛直方向に沿った平面状をなす垂直面部11と、垂直面部11の下方に連なり、鉛直方向に対して傾斜した平面状をなす傾斜面部12とを備えている。各垂直面部11は、互いに平行な平面である。各傾斜面部12は、下方に向かうに連れて厚み方向Yに互いに近づくように傾斜した平面である。つまり、成形体3は、各傾斜面部12が形成されることで、幅方向Xから見た場合に下方に向かって先細りする楔状をなし、各傾斜面部12が交わる角部が成形体3の下端部3aを形成している。なお、垂直面部11は、傾斜面や曲面等に形状を変更してもよいし、省略してもよい。
【0028】
成形体3は、機械的強度を確保するために、1質量%以上のイットリウム含有酸化物(例えばイットリウムとアルミニウムの複合酸化物であるYAl12)を含む。本実施形態では、成形体3は、イットリウム含有酸化物を含むアルミナ系成形体である。アルミナ系成形体は、アルミナ(Al)の含有量が90~98質量%であり、イットリウム含有酸化物の含有量が2~10質量%であることが好ましい。なお、成形体3は、上述のようにジルコン系成形体等であってもよい。ただし、ジルコン系成形体の場合、特定の強化ガラス組成の溶融ガラスGmを流下させた場合に、成形体3に由来するジルコニアが溶融ガラスGm中に混入し、ガラスリボンGr及び/又はガラス板Gの欠陥(すじ状欠陥等)となるおそれがある。したがって、このようなジルコニアによる欠陥の発生を防止する観点からは、成形体3は、アルミナ系成形体であることが好ましい。
【0029】
第一搬送ローラ7は、成形体3の直下方において、ガラスリボンGrの幅方向Xの各端部を、厚み方向Yで挟持するローラ対として構成される。第一搬送ローラ7は、片持ちタイプのローラであり、成形工程において常時内部冷却される。第一搬送ローラ7は、冷却ローラやエッジローラとも称される。なお、第一搬送ローラ7は、上下方向Zに複数段(例えば二段)設けられていてもよい。例えば上下二段の場合、上段の第一搬送ローラ7を駆動ローラとし、下段の第一搬送ローラ7をフリーローラとすることが好ましい。
【0030】
徐冷炉4は、ガラスリボンGrの反り及び内部歪を低減するための領域である。徐冷炉4の内部空間は、下方に向かって所定の温度勾配を有している。徐冷炉4の内部空間の温度勾配は、例えば、徐冷炉4の内壁に配置されたヒータ等の加熱装置により調整できる。
【0031】
徐冷炉4内には、第二搬送ローラ13が配置されている。第二搬送ローラ13は、アニーラローラとも称される。第二搬送ローラ13は、ガラスリボンGrの幅方向Xの各端部を、厚み方向Yで挟持するローラ対として構成される。第二搬送ローラ13は、ガラスリボンGrの幅方向Xの全域に跨るように配置された両持ちタイプのローラであってもよいが、本実施形態では、片持ちタイプのローラである。第二搬送ローラ13は、上下方向Zに複数段設けられている。
【0032】
冷却室5は、ガラスリボンGrを室温付近まで冷却するための領域である。冷却室5は、常温の外部雰囲気に開放されており、ヒータ等の加熱装置は配置されていない。
【0033】
冷却室5内には、第三搬送ローラ14が配置されている。第三搬送ローラ14は、ガラスリボンGrの幅方向Xの各端部を、厚み方向Yで挟持するローラ対として構成される。第三搬送ローラ14は、ガラスリボンGrの幅方向Xの全域に跨るように配置された両持ちタイプのローラであってもよいが、本実施形態では、片持ちタイプのローラである。第三搬送ローラ14は、上下方向Zに複数段設けられている。
【0034】
ここで、第二搬送ローラ13及び/又は第三搬送ローラ14の中に、ガラスリボンGrの幅方向Xの両端部を挟持しないものが含まれていてもよい。つまり、第二搬送ローラ13及び/又は第三搬送ローラ14を構成するローラ対の対向間隔を、ガラスリボンGrの幅方向Xの両端部の厚みよりも大きくし、ローラ対の間をガラスリボンGrが通過するようにしてもよい。なお、本実施形態では、製造装置1で得られたガラスリボンGrの幅方向Xの両端部は、成形過程の収縮等の影響により、幅方向Xの中央部に比べて厚みが大きい耳部を含む。
【0035】
切断室6は、ガラスリボンGrを所定の大きさに切断し、ガラス物品としてのガラス板Gを得るための領域である。切断室6内には、ガラスリボンGrを切断する切断装置(図示省略)が配置されている。本実施形態では、切断装置によるガラスリボンGrの切断方法は、ガラスリボンGrにスクライブ線を形成した後に、スクライブ線に沿って折り割るスクライブ切断であるが、これに限定されない。切断装置の切断方法は、例えばレーザ割断やレーザ溶断等であってもよい。
【0036】
ガラス板Gは、1枚又は複数枚の製品ガラス板が採取されるガラス原板(マザーガラス板)である。製品ガラス板の厚みは、例えば0.05mm~10mmであり、製品ガラス板のサイズは、例えば700mm×700mm~3500mm×3500mmである。製品ガラス板は、例えばディスプレイの基板やカバーガラスとして利用される。なお、ディスプレイの基板やカバーガラスは、フラットパネルに限定されず、曲面パネル、フォルダブルパネルであってもよい。
【0037】
図3に示すように、製造装置1は、成形炉2の外部に、成形体3の側部上部を加熱する第一側部ヒータ15と、成形体3の側部下部を加熱する第二側部ヒータ16と、成形体3の頂部を加熱する天井ヒータ17とをさらに備えている。第一側部ヒータ15は、成形炉2の側壁部2aの上部外壁に配置されている。第二側部ヒータ16は、成形炉2の側壁部2aの下部外壁に配置されている。天井ヒータ17は、成形炉2の天井部2bの外壁に配置されている。
【0038】
また、製造装置1は、成形炉2の外部に、第一側部ヒータ15に対応する位置の側壁部2aの温度を測定する第一側部温度計18と、第二側部ヒータ16に対応する位置の側壁部2aの温度を測定する第二側部温度計19と、天井ヒータ17に対応する位置の天井部2bの温度を測定する天井温度計20とをさらに備えている。なお、ヒータ15,16,17は、幅方向Xで複数に分割され、複数の部分ヒータによって構成されてもよい。この場合、温度計18,19,20は、部分ヒータごとに設けてもよい。
【0039】
次に、本実施形態に係るガラス物品の製造方法を説明する。
【0040】
図1図3に示すように、本製造方法は、成形工程と、徐冷工程と、切断工程とを含む。これらの各工程は、上記の製造装置1を用いて行う。
【0041】
成形工程では、成形炉2において、成形体3の溝部8に溶融ガラスGmを供給し、溝部8から両側に溢れ出た溶融ガラスGmを、それぞれの垂直面部11及び傾斜面部12に沿って流下させて下端部3aで再び合流させる。これにより、溶融ガラスGmから帯状のガラスリボンGrを連続成形する。
【0042】
溶融ガラスGmは、Pを含むアルミノシリケートガラスである。詳細には、溶融ガラスGmは、ガラス組成として、質量%で、SiO 40~70%、Al 10~30%、B 0~3%、NaO 5~25%、KO 0~5.5%、LiO 0.1~10%、MgO 0~5.5%、P 2~10%を含むことが好ましい。このようにガラス組成範囲を規制すれば、ガラスリボンGrにおいて、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立しやすくなる。このため、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、タッチパネルディスプレイ等のカバーガラスに用いられる化学強化用ガラス板に好適なガラスリボンGr(ガラス板G)が得られる。
【0043】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなりやすく、またガラスが失透しやすくなる。よって、MgOの好適な上限範囲は5.5質量%以下、4質量%以下である。ここで、MgOの含有量が0~1質量%である場合には、イットリウム含有酸化物の拡散抑制層として機能するMgリッチ層が成形体3の表面に形成され難くなるため、後述する溶融ガラスGmの温度管理が特に重要となる。
【0044】
は、ガラスを化学強化する場合に、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の応力深さを大きくする成分である。また、Pの含有量が増加するに従い、ガラスが分相しやすくなる。Pの下限値は、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上である。一方、Pの上限値は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9.5質量%以下、さらにより好ましくは9質量%以下である。
【0045】
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更にヤング率を高める成分である。またLiOは、イオン交換処理時に溶出して、イオン交換溶液を劣化させる成分でもある。よって、LiOの好適な下限範囲は質量%で、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、特に2.5%以上であり、好適な上限範囲は10%以下、8%以下、5%以下、4.5%以下、4.0%以下、特に3.5%未満である。
【0046】
成形工程では、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度T1と、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度T2との温度差(T1-T2)を100℃以下に制御している。温度差(T1-T2)は、好ましくは90℃以下、80℃以下、特に70℃以下である。このようにすれば、成形体3に含まれるイットリウム含有酸化物から酸化イットリウムが溶融ガラスGm中に溶出しても、溶融ガラスGmの温度差(T1-T2)が小さいため、成形体3の下端部3aにおいてイットリウム含有酸化物に由来する失透物(例えば、Y-P結晶)が発生するのを抑制できる。つまり、イットリウム含有酸化物に由来する失透物を原因とする欠陥が、ガラスリボンGrやガラス板Gに発生するのを抑制できるため、生産効率及び品質の向上を図ることができる。なお、溶融ガラスGmの温度差(T1-T2)の下限は、例えば0℃以上とすることができる。
【0047】
成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度T1は、好ましくは1300℃以下、1250℃以下、特に1220℃以下である。このようにすれば、溶融ガラスGmの粘度が低くなりすぎることが抑制されるため、溶融ガラスGmからガラスリボンGrを成形し易くなる。また、温度T1が1220℃以下の場合、成形体3のイットリウム含有酸化物からの酸化イットリウムの溶出量自体を大幅に低減できるため、イットリウム含有酸化物に由来する失透物をより確実に抑制できる。
【0048】
成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度T2は、好ましくは1130℃以上、1150℃以上、特に1180℃以上である。このようにすれば、溶融ガラスGmの粘度が高くなりすぎることが抑制されるため、溶融ガラスGmからガラスリボンGrを成形し易くなる。また、温度T2が相対的に高くなるため、温度差(T1-T2)を100℃以下に制御し易くなる。
【0049】
成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度T1、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度T2、及び温度差(T1-T2)は、例えば、ヒータ15~17により調整することができる。また、温度T1、T2は、例えば、放射温度計により測定したり、温度計18~20で測定される成形炉2の炉壁温度から推定することができる。
【0050】
溶融ガラスGmが成形体3の溝部8を越流してから成形体3の下端部3aを通過するまでに要する時間は、例えば10~600秒であり、60~300秒であることがより好ましい。
【0051】
徐冷工程では、徐冷炉4において、成形工程で成形されたガラスリボンGrを徐冷する。
【0052】
冷却工程では、冷却室5において、徐冷工程で徐冷されたガラスリボンGrを室温付近まで冷却する。
【0053】
切断工程では、切断室6において、冷却工程で冷却されたガラスリボンGrを切断し、ガラス板Gを得る。切断工程は、ガラスリボンGrを所定長さ毎に幅方向Xに切断してガラス板Gを得る第一切断工程と、ガラス板Gの幅方向Xの両端部の耳部を切断して除去する第二切断工程とを含む。
【0054】
なお、切断工程の後工程は特に限定されるものではなく、例えば、切断によってガラス板Gから所望の寸法のガラス板を切り出す切り出し工程、端面加工工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程、化学強化工程等を含んでいてもよい。検査工程では、ガラス板Gにイットリウム含有酸化物に由来する失透物が含まれているか否かを検査することが好ましい。
【0055】
本発明の実施形態に係るガラス物品の製造装置及びその製造方法について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0056】
上記の実施形態では、ガラス物品がガラス板Gである場合を説明したが、ガラス物品は、例えばガラスリボンGrをロール状に巻き取ったガラスロール等であってもよい。
【0057】
上記の実施形態では、溶融ガラスGmがアルミノシリケートガラスである場合を例示したが、溶融ガラスGmはアルミノシリケートガラス以外のPを含むガラスであってもよい。
【実施例
【0058】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0059】
図4に示すように、実施例1、2及び比較例の対比試験の試験体101として、溶融ガラス102を耐火物103の上に配置し、両者102,103を互いに接触させたものを準備した。溶融ガラス101は、溶融ガラスGmと同材料のP(8.7質量%)及びMgO(0.1質量%)を含むアルミノシリケートガラスであり、耐火物103は、成形体と同材料のイットリウム含有酸化物(3質量%)を含む棒状のアルミナ系耐火物である。つまり、溶融ガラス102と耐火物103の接触部により、成形体3の表面を流下する溶融ガラスGmと成形体3との接触部を再現している。なお、試験体101の構成は、実施例1、2及び比較例で共通する。
【0060】
実施例1、2及び比較例の各試験体101を、ヒータ104aを有する電気炉104内で加熱する加熱試験を行った。加熱試験では、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度を再現した相対的に高温の第一温度で試験体101を加熱した後に、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度を再現した相対的に低温の第二温度で試験体101を加熱した。なお、以下に示す各温度は、電気炉104の雰囲気温度であるが、溶融ガラス102の温度も同じ温度とみなすことができる。
【0061】
(1)実施例1
実施例1では、電気炉104内において、試験体101を1250℃で72時間加熱した後に、1180℃で48時間加熱した。1250℃は、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度を再現した第一温度であり、1180℃は、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度を再現した第二温度である。つまり、実施例1では、温度差(T1-T2)は、第一温度から第二温度を減じた70℃である。なお、第一温度(1250℃)の加熱時間を第二温度(1180℃)の加熱時間よりも長くした理由は、耐火物(成形体)103のイットリウム含有酸化物から酸化イットリウムが溶出する時間を十分に確保するためである。実施例2及び比較例においても、同様の理由により、第一温度の加熱時間を第二温度の加熱時間よりも長くしている。
【0062】
(2)実施例2
実施例2では、電気炉104内において、試験体101を1220℃で72時間加熱した後に、1150℃で48時間加熱した。1220℃は、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度を再現した第一温度であり、1150℃は、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度を再現した第二温度である。つまり、実施例2では、温度差(T1-T2)は70℃である。
【0063】
(3)比較例
比較例では、電気炉104内において、試験体101を1250℃で72時間加熱した後に、1120℃で48時間加熱した。1250℃は、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度を再現した第一温度であり、1120℃は、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度を再現した第二温度である。つまり、比較例では、温度差(T1-T2)は130℃である。
【0064】
そして、以上の加熱試験を経た各溶融ガラス102を室温まで冷却した後に、冷却して得られた各ガラス中のブツをSEM画像で確認し、その後、発見されたブツについてEPMAによってイットリウム含有酸化物に由来する失透物(Y-P結晶)であるか否かを確認した。その結果、温度差(T1-T2)が100℃以下である実施例1及び実施例2では、溶融ガラス102を冷却したガラス中にイットリウム含有酸化物に由来する失透物は確認されなかった。一方、温度差(T1-T2)が100℃超である比較例では、溶融ガラス102を冷却したガラス中にイットリウム含有酸化物に由来する失透物が確認された。
【0065】
実施例1の試験結果に基づき、成形工程で成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度を1220℃にすると共に、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度を1150℃にしてガラスリボンGrを成形した。その際、溶融ガラスGmが成形体3の溝部8を越流してから成形体3の下端部3aを通過するまでに要する時間は、約300秒とした。その結果、得られたガラス板Gにイットリウム含有酸化物に由来する失透物が確認されなかった。
【0066】
実施例2の試験結果に基づき、成形工程で成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度を1250℃にすると共に、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度を1180℃にしてガラスリボンGrを成形した。その際、溶融ガラスGmが成形体3の溝部8を越流してから成形体3の下端部3aを通過するまでに要する時間は、約300秒とした。その結果、得られたガラス板Gにイットリウム含有酸化物に由来する失透物が確認されなかった。
【0067】
比較例の試験結果に基づき、成形工程で成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度を1250℃にすると共に、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度を1120℃にしてガラスリボンGrを成形した。その際、溶融ガラスGmが成形体3の溝部8を越流してから成形体3の下端部3aを通過するまでに要する時間は、約300秒とした。その結果、得られたガラス板Gの一部にイットリウム含有酸化物に由来する失透物が確認された。
【0068】
以上より、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度T1と、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度T2との温度差(T1-T2)を100℃以下に制御すれば、イットリウム含有酸化物に由来する失透物を抑制できることが認識できる。
【0069】
なお、比較例では、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度T1を1250℃とし、得られたガラス板Gの一部にイットリウム含有酸化物に由来する失透物が発生した。この比較例と同様に、実施例2は成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度T1を1250℃としているので、実施例2の溶融ガラスGmには、比較例と同程度の酸化イットリウムが溶出していると推察される。実施例2では、比較例よりも、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度T2を1180℃と高くして温度差(T1-T2)を小さくすることで、酸化イットリウムの失透を防止できたと推察される。
【0070】
また、実施例1では、比較例及び実施例2よりも、成形体3の溝部8における溶融ガラスGmの温度T1を低下させて1220℃としたので、溶融ガラスGmへの酸化イットリウムの溶出が低減していると推察されている。このため、実施例1では、実施例2よりも、成形体3の下端部3aにおける溶融ガラスGmの温度T2を低下させて1150℃としても、温度差(T1-T2)を維持すれば、酸化イットリウムの失透を防止できたと推察される。
【符号の説明】
【0071】
1 ガラス物品の製造装置
2 成形炉
3 成形体
3a 下端部
4 徐冷炉
5 冷却室
6 切断室
7 第一搬送ローラ
8 溝部
9 供給パイプ
13 第二搬送ローラ
14 第三搬送ローラ
15 第一側部ヒータ
16 第二側部ヒータ
17 天井ヒータ
18 第一側部温度計
19 第二側部温度計
20 天井温度計
G ガラス板
Gm 溶融ガラス
Gr ガラスリボン
図1
図2
図3
図4