(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ポリエチレン積層体およびこれを用いた包装材料
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20241121BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2023104311
(22)【出願日】2023-06-26
(62)【分割の表示】P 2018186154の分割
【原出願日】2018-09-28
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】柏原 知美
(72)【発明者】
【氏名】山田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良彦
【審査官】橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147302(JP,A)
【文献】特開2018-008454(JP,A)
【文献】特開2010-094967(JP,A)
【文献】特開2017-081037(JP,A)
【文献】特開2017-030150(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103085415(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0288475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の表面に設けられた印刷層と、ヒートシール層とを備えたポリエチレン積層体
(基材層と該基材層に積層された少なくとも一層のヒートシール層とを備える熱収縮多層フィルムであって、前記熱収縮多層フィルムの流れ方向及び該流れ方向に垂直な垂直方向において、ASTM D2732に準拠した110℃における熱収縮率が10%以下、且つ140℃における熱収縮率が30%以上である、熱収縮多層フィルムを除く)であって、
前記基材層は、密度0.930g/cm
3以上のポリエチレン
から構成されており、
前記基材層は、高密度ポリエチレン及び/又は中密度ポリエチレンを含むが、低密度ポリエチレンは含まず、
前記ヒートシール層は、密度0.930g/cm
3未満のポリエチレン
から構成されており、
前記基材層および前記ヒートシール層は、密度0.930g/cm
3以上のポリエチレンと密度0.930g/cm
3未満のポリエチレンとの共押出成形により形成されており、
前記基材層は電子線照射処理されたものであることを特徴とする、ポリエチレン積層体。
【請求項2】
前記基材層と前記ヒートシール層との間に中間層を備える、請求項1に記載のポリエチレン積層体。
【請求項3】
前記中間層は、密度0.942g/cm
3以上のポリエチレン
から構成されており、
前記基材層、前記中間層および前記ヒートシール層は、密度0.930g/cm
3以上のポリエチレンと、密度0.942g/cm
3以上のポリエチレンと、密度0.930g/cm
3未満のポリエチレンとの共押出成形により形成されている、請求項2に記載のポリエチレン積層体。
【請求項4】
前記基材層の表面にバリア層をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエチレン積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエチレン積層体からなる包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン積層体に関し、より詳細には、耐熱性を付与したポリエチレン基材層とヒートシール性を備えたポリエチレン層とを備えた、単一材料からなるポリエチレン積層体、およびこれを用いた包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンからなるフィルムは、適度な柔軟性をもち、透明性、防湿性、耐薬品性等に優れるとともに、安価であることから、各種の包装材料に使用されている。特に、ポリエチレンの融点は、種類によっても多少異なるが概ね100~140℃程度であるため、包装材料分野ではシーラントフィルムとして使用されるのが一般的である。
【0003】
一方、ポリエチレンは、上記したように耐熱性が劣るため、包装材料として使用すると、ヒートシート加工する際に変形したり場合によっては溶融してしまうことから、ポリエステルフィルムやナイロンフィルム等の耐熱性に優れる基材フィルムとポリエチレンフィルムとをラミネートした積層体を包装材料として使用するのが一般的である。例えば、ポリエステルフィルム等の基材とポリエチレンフィルムとを積層し、ポリエチレンフィルム側が包装袋の内側になるようにしてヒートシールすることにより製袋することが行われている(例えば、特許文献1等)。
【0004】
ところで、近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、包装材料をリサイクルして使用することが試みられている。しかしながら、上記のような異種の樹脂フィルムを貼り合わせた積層体では樹脂の種類ごとに分離することが難しく、リサイクルに適していないという課題があった。
【0005】
上記課題に対して、本出願人は、ポリエステルフィルム等の耐熱性に優れる基材フィルムを用いることなく、単一のポリエチレンフィルからなる包装材料を実現すべく検討した結果、ポリエチレンフィルムの一方の面を電子照射することにより、従来ヒートシール層として使用していたポリエチレンフィルムの一方の面に耐熱性を付与することで、ポリエチレンフィルからなる包装材料が実現できることを提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-104525号公報
【文献】特開2017-031233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2において提案されているポリエチレンフィルムは、上記のように、一方の面が電子線照射により耐熱性が付与されているため基材として機能し、他方の面はヒートシール性を有しているため、単一のフィルムでありながら耐熱性とヒートシール性とを兼ね備えており、包装材料として好適に使用でき、更には、ポリエチレン単一材料から構成されていることからリサイクル性にも優れている。しかしながら、本発明者らが更なる検討を行ったところ、上記のポリエチレンフィルムは、製袋の際にヒートシール加工を行うと、電子線照射した側の面(即ち、耐熱性が付与された面)が収縮することもあり、耐熱性についてさらなる改善の余地があることが判明した。
【0008】
従って、本発明の目的は、ヒートシール性を維持しながら、高い耐熱性を備え、リサイクル性にも優れたポリエチレン積層体を提供することである。
また、本発明の別の目的は、当該ポリエチレン積層体を使用した包装材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、電子線照射を行う面と電子線照射を行わない面とで密度の異なる二種のポリエチレンを使用したポリエチレン積層体とすることで、リサイクル性を維持しながら耐熱性を顕著に改善できることを見出した。本発明は係る知見によるものである。
【0010】
本発明によるポリエチレン積層体は、
基材層とヒートシール層とを備えたポリエチレン積層体であって、
前記基材層は、密度0.930g/cm3以上のポリエチレンを含んでなり、
前記ヒートシール層は、密度0.930g/cm3未満のポリエチレンを含んでなり、
前記基材層および前記ヒートシール層は、密度0.930g/cm3以上のポリエチレンと密度0.930g/cm3未満のポリエチレンとの共押出成形により形成されており、
前記基材層は電子線照射処理されたものであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によるポリエチレン積層体においては、前記基材層と前記ヒートシール層との間に中間層を備えていてもよい。
【0012】
また、本発明によるポリエチレン積層体においては、
前記中間層は、密度0.942g/cm3以上のポリエチレンを含んでなり、
前記基材層、前記中間層および前記ヒートシール層は、密度0.930g/cm3以上のポリエチレンと、密度0.942g/cm3以上のポリエチレンと、密度0.930g/cm3未満のポリエチレンとの共押出成形により形成されていてもよい。
【0013】
また、本発明によるポリエチレン積層体においては、前記基材層の表面に印刷層をさらに備えていてもよい。
【0014】
また、本発明によるポリエチレン積層体においては、前記基材層の表面にバリア層をさらに備えていてもよい。
【0015】
また、本発明の別の態様による包装材料は、ポリエチレン積層体からなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材層とヒートシール層とを備えた積層体において、基材層を密度0.930g/cm3以上のポリエチレンにより構成し、ヒートシール層を密度0.930g/cm3未満のポリエチレンにより構成するとともに、共押出成形された基材層およびヒートシール層の積層体の基材層側が電子線照射処理されることにより、基材層の耐熱性をより一層向上させることができる。その結果、ヒートシール性を維持しながら、高い耐熱性を備え、リサイクル性にも優れたポリエチレン積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施態様によるポリエチレン積層体の断面概略図である。
【
図2】本発明の一実施態様によるポリエチレン積層体の断面概略図である。
【
図3】本発明のポリエチレン積層体を用いて作製した包装材料の一実施形態を表す斜視図である。
【
図4】本発明のポリエチレン積層体を用いて作製した包装材料の一実施形態を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ポリエチレン積層体]
本発明によるポリエチレン積層体について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるポリエチレン積層体10の断面概略図である。第一の実施形態によるポリエチレン積層体10は、基材層1とヒートシール層2とを備えている。なお、後述するように、本発明のポリエチレン積層体は、包装材料として好適に使用することができるものであり、ポリエチレン積層体を用いて包装材料とする場合は、基材層1側が包装材料の外面に、ヒートシール層2が包装材料の内面に位置するように使用される。また、本発明の他の実施形態によるポリエチレン積層体10は、基材層1とヒートシール層2との間に中間層3を備えていてもよい。後述するように、中間層3を備えることにより、ポリエチレン積層体にコシや強度をより一層付与することができる。また、本発明のポリエチレン積層体は、上記した層以外にも、包装材料の各種用途に適合するように、適宜、印刷層やバリア層(図示せず)を備えていてもよい。以下、本発明のポリエチレン積層体を構成する各層について説明する。
【0019】
<基材層>
本発明において、基材層は密度0.930g/cm3以上のポリエチレンを含む。本出願人は、上記のとおり特許文献2において、密度0.91g/cm3以下のポリエチレンからなる単層フィルムの一方の面に電子線照射を行うことで電子線照射面の耐熱性を向上させて、電子線照射を行わない他方の面のヒートシール性は維持することにより、単一のポリエチレンフィルムであっても包装材料として使用できることを提案した。これは、密度0.91g/cm3以下のポリエチレンに電子線照射を行うことにより、電子線が照射された表面のポリエチレンが部分的に架橋し、耐熱性が向上するものと考えられる。しかしながら、密度0.91g/cm3以下のポリエチレンはベタつき等の加工適性が劣り、電子線照射によっても加工適性は改善されない。また、電子線照射を行った面と電子線照射を行わない面とでポリエチレンの架橋密度が異なるためフィルムの表面と裏面との熱収縮率差によりフィルムにシワが発生することがあった。本発明においては、上記したように、電子線照射を行う面に配置される基材層として、密度0.930g/cm3以上のポリエチレンを使用し、ヒートシール層を密度0.930g/cm3未満のポリエチレンで構成することにより、基材層の耐熱性(即ち、ベタつきやシワの発生)を改善し、ヒートシール性を維持しながら、リサイクル性にも優れたポリエチレン積層体を実現したものである。
【0020】
密度0.930g/cm3以上のポリエチレンとしては、中密度ポリエチレン(MDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)を好適に使用することができる。なお、中密度ポリエチレンとは、0.930g/cm3以上、0.942g/cm3未満の密度を有するポリエチレンをいい、高密度ポリエチレンとは、0.942g/cm3以上の密度を有するポリエチレンをいう。基材層を構成するポリエチレンの密度は、0.930g/cm3以上、0.950g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは0.935g/cm3以上、0.945g/cm3以下である。このような密度を有するポリエチレンは、上記した中密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとを適当な配合比で混合することにより調製することができる。また、中密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンに限らず、上記密度範囲内となるように、高密度ポリエチレンと、低密度ポリエチレン(LDPE)や線状低密度ポリエチレン(LLDPE)とを適当な配合比で混合して調製してもよい。なお、低密度ポリエチレンとは、0.930g/cm3未満の密度を有するポリエチレンをいう。
【0021】
上記したような密度や分岐の違うポリエチレンは、重合方法を適宜選択することによって得ることができる。例えば、重合触媒として、チーグラー・ナッタ触媒等のマルチサイト触媒や、メタロセン系触媒等のシングルサイト触媒を用いて、気相重合、スラリー重合、溶液重合、および高圧イオン重合のいずれかの方法により、1段または2段以上の多段で行うことが好ましい。
【0022】
上記のシングルサイト触媒とは、均一な活性種を形成しうる触媒であり、通常、メタロセン系遷移金属化合物や非メタロセン系遷移金属化合物と活性化用助触媒とを接触させることにより、調整される。シングルサイト触媒は、マルチサイト触媒に比べて、活性点構造が均一であるため、高分子量かつ均一度の高い構造の重合体を重合することができるため好ましい。シングルサイト触媒としては、特に、メタロセン系触媒を用いることが好ましい。メタロセン系触媒は、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物と、助触媒と、必要により有機金属化合物と、担体の各触媒成分とを含む触媒である。
【0023】
上記のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物において、そのシクロペンタジエニル骨格とは、シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基等である。置換シクロペンタジエニル基としては、炭素数1~30の炭化水素基、シリル基、シリル置換アルキル基、シリル置換アリール基、シアノ基、シアノアルキル基、シアノアリール基、ハロゲン基、ハロアルキル基、ハロシリル基等から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するものである。その置換シクロペンタジエニル基の置換基は2個以上有していてもよく、また置換基同士が互いに結合して環を形成し、インデニル環、フルオレニル環、アズレニル環、その水添体等を形成してもよい。置換基同士が互いに結合し形成された環がさらに互いに置換基を有していてもよい。
【0024】
シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物において、その遷移金属としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム等が挙げられ、特にジルコニウム、ハフニウムが好ましい。該遷移金属化合物は、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子としては通常2個を有し、各々のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子は架橋基により互いに結合しているものが好ましい。なお、架橋基としては炭素数1~4のアルキレン基、シリレン基、ジアルキルシリレン基、ジアリールシリレン基等の置換シリレン基、ジアルキルゲルミレン基、ジアリールゲルミレン基等の置換ゲルミレン基等が挙げられる。好ましくは、置換シリレン基である。上記のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物は、一種または二種以上の混合物を触媒成分とすることができる。
【0025】
助触媒としては、上記の周期律表第IV族の遷移金属化合物を重合触媒として有効になしうる、または触媒的に活性化された状態のイオン性電荷を均衝させうるものをいう。助触媒としては、有機アルミニウムオキシ化合物のベンゼン可溶のアルミノキサンやベンゼン不溶の有機アルミニウムオキシ化合物、イオン交換性層状珪酸塩、ホウ素化合物、活性水素基含有あるいは非含有のカチオンと非配位性アニオンからなるイオン性化合物、酸化ランタン等のランタノイド塩、酸化スズ、フルオロ基を含有するフェノキシ化合物等が挙げられる。
【0026】
シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物は、無機または有機化合物の担体に担持して使用されてもよい。該担体としては無機または有機化合物の多孔質酸化物が好ましく、具体的には、モンモリロナイト等のイオン交換性層状珪酸塩、SiO2、Al2O3、MgO、ZrO2、TiO2、B2O3、CaO、ZnO、BaO、ThO2等またはこれらの混合物が挙げられる。また更に必要により使用される有機金属化合物としては、有機アルミニウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物等が例示される。このうち有機アルミニウムが好適に使用される。
【0027】
また、エチレンと他のモノマーとの共重合体を使用することもできる。エチレン共重合体としては、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとからなる共重合体が挙げられ、炭素数3~20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3ーメチルー1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、6-メチル-1-ヘプテン等が挙げられる。また、本発明の目的を損なわない範囲であれば、酢酸ビニル、アクリル酸エステル等との共重合体であってもよい。
【0028】
また、本発明においては、化石燃料から得られるエチレンに代えて、バイオマス由来のエチレンをその原料としたポリエチレンを用いてもよい。このようなバイオマス由来のポリエチレンはカーボニュートラルな材料であるため、より一層、環境負荷の少ない包装材料とすることができる。このようなバイオマス由来のポリエチレンは、例えば、特開2013-177531号公報に記載されているような方法にて製造することができる。また、市販されているバイオマス由来のポリエチレン(例えば、ブラスケム社から市販されているグリーンPE等)を使用してもよい。
【0029】
基材層には光安定剤が含まれていてもよい。後記するように、本発明のポリエチレン積層体は、基材層のポリエチレンが電子線照射処理されたものであるため、基材層に光安定剤が含まれることにより、基材層を構成するポリエチレンの経時的な劣化を防止することもできる。なお、ポリエチレンに電子線照射処理を行うと、ポリエチレン中の炭素-水素結合が切断され、切断された結合末端にラジカルが発生する。発生したラジカルは、分子鎖の分子運動により、他のポリエチレン分子鎖に接触し、水素原子を引き抜いてポリエチレン分子鎖中の炭素原子と結合する。その結果、ポリエチレンに架橋構造が形成されるが、残存したラジカルにより分子鎖が徐々に切断されていくため、ポリエチレンの劣化に繋がるものと考えられる。光安定剤は、これら残存したラジカルをトラップする機能を有する。
【0030】
光安定剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダ-ドアミン系酸化防止剤およびヒドロキシルアミン系酸化防止剤等の酸化防止剤、ならびにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤およびベンゾフェノン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0031】
ポリエチレンフィルム基材に電子線を照射し行う架橋反応を阻害しにくいことから、酸化防止剤を使用することが好ましい。
【0032】
また、酸化防止剤としては、発生したラジカルを捕捉する一次酸化防止剤と、ラジカルから生じるハイドロパーオキサイドを分解する二次酸化防止剤を併用することが好ましく、一次酸化防止剤および二次酸化防止剤の機能を両方有する酸化防止剤を使用してもよい。
【0033】
一次酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤およびヒンダ-ドアミン系酸化防止剤等が挙げられ、二次酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤等が挙げられ、一次酸化防止剤および二次酸化防止剤の機能を両方有する酸化防止剤としては、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0034】
また、ポリエチレンフィルム基材の着色を防止することができるため、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤が好ましい。
【0035】
基材層における光安定剤の含有量は、0.01質量%以上、10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、10質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上、8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また基材層には架橋剤が含まれていてもよい。後記するように、基材層は電子線照射処理が行われるが、架橋剤が含まれることにより、より一層、ポリエチレンの架橋度を向上させることができる。その結果、ポリエチレン積層体を構成する基材層の耐熱性をより一層向上させることができる。
【0037】
架橋剤としては、スチレン-ポリイソプレンエラストマー、スチレン-ポリブタジエンエラストマー、スチレン-ポリイソプレン-ブタジエンランダムコポリマー等のスチレン系エラストマーや、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体等のエチレン-アクリレート共重合体、エチレン―アクリル酸エステル―グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0038】
基材層における架橋剤の含有量は、1質量%以上、49質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上、35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
基材層は、本発明の特性を損なわない範囲において添加剤を含んでいてもよく、例えば、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、改質用樹脂等が挙げられる。
【0040】
基材層の厚さは、その用途に応じて任意であるが、通常、5μm以上、200μm以下程度、好ましくは5μm以上、100μm以下程度である。厚みは、後記するように、共押出成形して積層体とする際の溶融押出機のスクリュー回転数や、冷却ロールの回転数等によって適宜調整することができる。
【0041】
<ヒートシール層>
本発明のポリエチレン積層体は、ヒートシール層を備えている。本発明のポリエチレン積層体を用いて包装材料とする場合は、ヒートシール層は包装材料の内面に位置するように使用される。
【0042】
ヒートシール層は、密度0.930g/cm3未満のポリエチレンを含む。基材層と同一材料(ポリエチレン)を使用しながら、基材層に使用するポリエチレンよりも密度の小さいポリエチレンをヒートシール層として使用することによりヒートシール性を維持しながら、リサイクル性を有するポリエチレン積層体とすることができる。
【0043】
ヒートシール層は、低密度ポリエチレンや線状低密度ポリエチレンを単独で使用してもよく、また両者を適宜混合して使用してもよい。また、上記密度範囲であれば、低密度ポリエチレンに中密度ポリエチレンを混合したものを使用してもよいが、ヒートシール性の観点からは、0.925g/cm3未満の密度とすることが好ましく、0.920g/cm3未満の密度とすることがより好ましい。
【0044】
ポリエチレンフィルム層は、本発明の特性を損なわない範囲において、上記添加剤を含むことができる。
【0045】
ヒートシール層の厚さは、その用途に応じて任意であるが、通常、15μm以上、200μm以下であることが好ましく、20μm以上、200μm以下であることがより好ましく、25μm以上、160μm以下であることがさらに好ましい。これにより、本発明のポリエチレン積層体のヒートシール性を維持しつつ、その加工適性を向上することができる。ヒートシール層の厚みは、後記するように、共押出成形して積層体とする際の溶融押出機のスクリュー回転数や、冷却ロールの回転数等によって適宜調整することができる。
【0046】
また、基材層とヒートシール層との厚みの比率は、4:1~1:4であることが好ましく、2:1~1:2であることがより好ましい。厚みの比率は、後記するように共押出製膜機の各スクリュー回転数等によって適宜調整することができる。
【0047】
<中間層>
本発明のポリエチレン積層体は、上記した基材層と、ヒートシール層との間に中間層が設けられていてもよい。中間層を設けることにより、ポリエチレン積層体により一層、コシを持たせ形態安定性を向上させることができる。また、中間層が設けられることにより、製袋のヒートシール加工の際に、ポリエチレン積層体が溶解し、薄肉化してしまうことを防止することができる。
【0048】
中間層は、リサイクル性の観点からは、基材層およびヒートシール層を構成する材料と同種の材料であるポリエチレンから構成されることが好ましい。その場合、中間層は、密度0.942g/cm3以上のポリエチレンを含むことが好ましく、より好ましくは密度0.950g/cm3以上、0.970g/cm3以下のポリエチレンである。このようなポリエチレンとして高密度ポリエチレンを好適に使用することができるが、上記密度範囲であれば、中密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとを適当な配合比で混合したものを用いてもよい。
【0049】
中間層の厚さは、その用途に応じて任意であるが、通常、5μm以上、100μm以下程度、好ましくは10μm以上、80μm以下程度、より好ましくは10μm以上、60μm以下程度である。
【0050】
中間層は、上記したポリエチレン以外にも、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)が含まれていてもよい。エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有することにより、中間層がバリア層として機能するため、ポリエチレン積層体にバリア性を付与することができる。
【0051】
中間層の厚みは、中間層の機能が損なわれない範囲で適宜調整してよく、例えば、基材層と中間層の厚み比率が2:1~1:5の範囲とすることができ、好ましい範囲は、1:1~1:3である。また、中間層とヒートシール層の厚み比率は、1:2~5:1の範囲とすることができ、好ましい範囲は、3:1~1:1である。各層の厚みの比率は、後記するようにポリエチレン積層体を製膜する際の共押出製膜機の各スクリュー回転数等によって適宜調整することができる。
【0052】
<その他の層>
本発明によるポリエチレン積層体は、リサイクル性を損ねない範囲において上記した層以外の層が設けられていてもよい。例えば、基材層の表面に、印刷層やバリア層が設けられていてもよい。本発明によるポリエチレン積層体は、基材層表面が電子線照射処理されているため、基材層に表面処理を特に施していなくても印刷層やバリア層と基材層と間の密着性が優れているが、コロナ処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の表面処理を施してもよい。
【0053】
印刷層は、装飾、内容物の表示、賞味期間の表示、製造者、販売者などの表示、その他などの表示や美感の付与のために、文字、数字、絵柄、図形、記号、模様などの所望の任意の印刷模様を形成する層である。印刷層は、基材層または後記するバリア層の全面に設けてもよく、あるいは一部に設けてもよい。印刷層は、従来公知の顔料や染料を用いて形成することができる。
【0054】
印刷層を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、インクジェット法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、熱転写法、転写、ホットスタンプ(箔押し)等の印刷法により行うことができる。
【0055】
印刷層は、好ましくは0.1μm以上10μm以下、より好ましくは1μm以上5μm以下、さらに好ましくは1μm以上3μm以下の厚さを有するものである。
【0056】
バリア層としては、金属箔、または金属若しくは無機酸化物の蒸着層を好適に使用することができる。
【0057】
金属箔としては、従来公知の金属箔を用いることができる。酸素ガスおよび水蒸気等の透過を阻止するガスバリア性や、可視光および紫外線等の透過を阻止する遮光性の点からは、アルミニウム箔が好ましい。また、包装袋に金属光沢を付与することができるため、意匠性を向上させることができる。金属箔の厚さは、例えば5μm以上15μm以下である。
【0058】
金属若しくは無機酸化物の蒸着層は、従来公知の方法により形成することができる蒸着膜からなる層である。蒸着層を備えることで、酸素ガスおよび水蒸気等の透過を阻止するガスバリア性を、付与ないし向上させることができる。なお、バリア層は、蒸着層を2層以上備えてもよい。蒸着層を2層以上備える場合、それぞれが、同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
【0059】
金属蒸着膜としては、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、金(Au)、クロム(Cr)等の金属蒸着膜を使用することができる。特に、包装袋用としては、アルミニウムの蒸着膜を備えることが好ましい。
【0060】
金属蒸着膜の膜厚としては、使用する金属の種類等によって異なるが、例えば、50Å以上2000Å以下、好ましくは、100Å以上1000Å以下の範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。更に具体的に説明すると、アルミニウムの蒸着膜の場合には、膜厚50Å以上600Å以下、更に、好ましくは、100Å以上450Å以下が望ましい。
【0061】
無機酸化物蒸着膜としては、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の酸化物の蒸着膜を使用することができる。特に、包装袋用としては、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素の蒸着膜を備えることが好ましい。
【0062】
無機酸化物の表記は、例えば、SiOX、AlOX等のようにMOX(ただし、式中、Mは、無機元素を表し、Xの値は、無機元素によってそれぞれ範囲がことなる。)で表される。Xの値の範囲としては、ケイ素(Si)は、0~2、アルミニウム(Al)は、0~1.5、マグネシウム(Mg)は、0~1、カルシウム(Ca)は、0~1、カリウム(K)は、0~0.5、スズ(Sn)は、0~2、ナトリウム(Na)は、0~0.5、ホウ素(B)は、0~1.5、チタン(Ti)は、0~2、鉛(Pb)は、0~2、ジルコニウム(Zr)は0~2、イットリウム(Y)は、0~1.5の範囲の値をとることができる。上記において、X=0の場合、完全な無機単体(純物質)であり、透明ではなく、また、Xの範囲の上限は、完全に酸化した値である。包装用材料には、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)が好適に使用され、ケイ素(Si)は、1.0~2.0、アルミニウム(Al)は、0.5~1.5の範囲の値のものを使用することができる。
【0063】
無機酸化物蒸着膜の膜厚としては、使用する無機酸化物の種類等によって異なるが、例えば、50Å以上2000Å以下、好ましくは、100Å以上1000Å以下の範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。例えば、酸化アルミニウムあるいは酸化ケイ素の蒸着膜の場合には、膜厚50Å以上500Å以下、更に、好ましくは、100Å以上300Å以下が望ましいものである。
【0064】
蒸着膜は、基材層などに以下の形成方法を用いて形成することができる。蒸着膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、およびイオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、および光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。
【0065】
必要に応じて、上記の蒸着層の上にガスバリア性塗布膜を設けてもよい。ガスバリア性塗布膜は、酸素ガスおよび水蒸気などの透過を抑制する層として機能する塗膜である。ガスバリア性塗布膜は、一般式R1nM(OR2)m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1~8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも一種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコ-ル系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、さらに、ゾルゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合するガスバリア性組成物により得られる。
【0066】
上記の一般式R1nM(OR2)mで表されるアルコキシドとしては、アルコキシドの部分加水分解物、アルコキシドの加水分解の縮合物の少なくとも一種以上を使用することができる。また、上記のアルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されている必要はなく、1個以上が加水分解されているもの、および、その混合物であってもよい。アルコキシドの加水分解の縮合物としては、部分加水分解アルコキシドの2量体以上のもの、具体的には、2~6量体のものを使用される。
【0067】
上記の一般式R1nM(OR2)mで表されるアルコキシドにおいて、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他などを使用することができる。本実施形態において、好ましい金属としては、例えば、ケイ素、チタンなどを挙げることができる。また、本発明において、アルコキシドの用い方としては、単独または二種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うこともできる。
【0068】
また、上記の一般式R1nM(OR2)mで表されるアルコキシドにおいて、R1で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、その他などのアルキル基を挙げることができる。また、上記の一般式R1nM(OR2)mで表されるアルコキシドにおいて、R2で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、その他などを挙げることができる。なお、同一分子中にこれらのアルキル基は同一であっても、異なってもよい。
【0069】
上記のガスバリア性組成物を調製する際、例えば、シランカップリング剤などを添加してもよい。上記のシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを用いることができる。本実施形態においては、特に、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。上記のようなシランカップリング剤は、一種または二種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
本発明によるポリエチレン積層体は、上記した各層が共押出成形により形成されたものである。即ち、共押出用のインフレーション製膜機等を用いて、基材層を構成する密度0.930g/cm3以上のポリエチレンと、ヒートシール層を構成する密度0.930g/cm3未満のポリエチレン、および所望により、中間層を構成する密度0.942g/cm3以上のポリエチレン等を共押出して製膜することにより、得ることができる。このように、基材層およびヒートシール層、並びに所望により中間層を備えたポリエチレン積層体を形成した後に、基材層表面に上記した印刷層やバリア層を形成することにより、本発明のポリエチレン積層体を製造することができる。
【0071】
次に、電子線照射処理について説明する。本発明によるポリエチレン積層体は、基材層が電子線照射処理されている。基材層が電子線照射処理されていることにより、基材層を構成するポリエチレンの一部が架橋し、耐熱性が向上するものと考えられる。架橋の有無(即ち、電子線照射処理がされているかどうか)は、架橋部分が溶剤に溶解しないことを利用して、ポリエチレン積層体をメチルエチルケトン等の有機溶媒中に浸漬し、溶解せずに残った不溶部分を乾燥後、質量を測定して、溶解前の基材層の厚み(質量)および乾燥後の不溶部分の質量からのゲル分率を算出することでも、架橋密度を調べることができる。ポリエチレン積層体のゲル分率は基材層の質量換算で、20%以上、80%以下であることが好ましい。
【0072】
電子線の照射エネルギーは、目的とする包装体の使用用途によって適宜変更することが好ましい。通常、電子線の照射エネルギーが高いほど、発生するラジカル量も多くなり、架橋構造が形成されやすくなるが、照射エネルギーが高すぎるとポリエチレンの分子鎖が切断されすぎて、強度等のフィルム物性が低下する傾向にある。
【0073】
電子線の線量は10~2000kGyの範囲が好ましく、より好ましくは20~1000kGyであり、電子線の加速電圧は30~300kVの範囲が好ましく、より好ましくは50~300kVであり、特に好ましくは50~250kVである。また、電子線の照射エネルギーは、20~750keVであることが好ましく、25~400keVであることがより好ましく、30~300keVであることがさらに好ましく、20~200keVであることが特に好ましい。
【0074】
電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えば、カーテン型電子照射装置(LB1023、(株)アイ・エレクトロンビーム製)やライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB-ENGINE、浜松ホトニクス(株)製)等を好適に使用することができる。特には、ライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB-ENGINE、浜松ホトニクス(株)製)を好適に使用することができる。
【0075】
電子線照射装置内の酸素濃度は、500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。このような条件下で電子線照射を行うことにより、オゾンの発生を抑制することができるとともに、電子線照射によって生じたラジカルが、雰囲気中の酸素によって失活してしまうのを抑制することができる。このような条件は、例えば、装置内を不活性ガス(窒素、アルゴンなど)雰囲気とすることにより達成することができる。
【0076】
ポリエチレンフィルムは、熱収縮を起こしやすいため、電子線の照射は、冷却ドラムなどを用いて、冷却と同時に行うことが好ましい。
【0077】
<包装材料>
上記したポリエチレン積層体は包装材料として好適に使用することができる。本発明の一実施形態において、本発明のポリエチレン積層体を使用した包装材料20は、
図3に示すように、袋状の形状を有する。
【0078】
また、別の実施形態において、本発明のポリエチレン積層体を使用した包装材料30は、
図4に示すように、胴部31および底部32を備えるスタンドパウチ状の形状を有する。本実施形態においては、胴部のみが上記ポリエチレン共押フィルムにより形成されていても、底部のみが上記ポリエチレン共押フィルムにより形成されていても、胴部および底部の両方が上記ポリエチレン共押フィルムにより形成されていてもよい。
【0079】
包装材料は、上記したポリエチレン積層体を、基材層が外側、ヒートシール層が内側に位置するように二つ折にして重ね合わせて、その端部等をヒートシールすることにより製造することができる。また、2枚のポリエチレン積層体を基材層側が対向するように重ね合わせて、その端部等をヒートシールすることにより製造することもできる。
【0080】
例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型、その他等のヒートシール態様によりヒートシールして、種々の態様の包装材料を製造することができる。その他、例えば、自立性包装用袋(スタンデイングパウチ)等も可能である。ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0081】
本発明のポリエチレン積層体を用いて製袋した包装材料によれば、一種の材料(すなわちポリエチレン)から構成されているため、従来の異種材料を組み合わせた包装材料よりもリサイクル性に優れている。また、ポリエチレン積層体の基材層が、電子線照射処理された特定密度のポリエチレンを含むため、包装材料の外層として要求される強度、寸法安定性および印刷特性等の物性を満たすことができる。更に、ポリエチレン積層体のヒートシール層は、密度0.930g/cm3未満のポリエチレンを含むためヒートシール性を有しており、包装材料用フィルムとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0082】
本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものではない。
【0083】
<実施例1>
中密度ポリエチレン(密度:0.937g/cm3、MFR:1.8g/10分、株式会社プライムポリマー社製、商品名:SP4020)と、
高密度ポリエチレン(密度:0.958g/cm3、MFR:1.0g/10分、株式会社プライムポリマー社製、商品名:Hizex3600F)と、
直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.916g/cm3、MFR:2.3g/10分、株式会社プライムポリマー社製、商品名:SP2020)とを、インフレーション成形にて、1:3:1で共押出しポリエチレン積層体を得た。得られた共押出しポリエチレン積層体の厚さは、60μmであった。なお、得られた共押出しポリエチレン積層体において、密度0.937g/cm3の中密度ポリエチレンの層側を基材層といい、密度0.916g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレンの層側をヒートシール層ということにする。
【0084】
上記のようにして得られた共押出しポリエチレン積層体の基材層側から、コロナ処理を施し、更に電子線照射装置(ライン照射型照射装置EZ-CURE、岩崎電気株式会社製)を用いて以下の条件にて電子線を照射し、基材層が電子線照射された共押出しポリエチレン積層体を得た。
(電子線照射条件)
電圧:100kV
照射線量:280kGy
装置内酸素濃度:100ppm以下
ライン速度:25m/min
【0085】
上記のようにして得られた製造直後の共押出しポリエチレン積層体の基材層側の面に、溶剤型グラビアインキ(DICグラフィックス株式会社製、商品名:XOX-901)を用いて、グラビア印刷法によって画像を形成した。
【0086】
<実施例2>
電子線照射条件を以下の条件にしたこと以外は実施例1と同様にして共押出しポリエチレン積層体を得た。
(電子線照射条件)
電圧:110kV
照射線量:280kGy
装置内酸素濃度:100ppm以下
ライン速度:25m/min
【0087】
<実施例3>
共押出しポリエチレン積層体の厚さを100μmにしたこと以外は、実施例1と同様にして共押出しポリエチレン積層体を得た。
【0088】
<実施例4>
共押出しポリエチレン積層体の厚さを100μmにしたこと以外は、実施例2と同様にして共押出しポリエチレン積層体を得た。
【0089】
<実施例5>
基材層面への電子線照射後の、印刷手法を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして共押出しポリエチレン積層体を得た。
(印刷手法)
先ず、PETフィルム(東洋紡株式会社、商品名:E5100,12μm)の未処理面にOPニス(株式会社昭和インク工業所製、商品名:ALEXハクリOPニス)を塗布し、溶剤型グラビアインキ(株式会社昭和インク工業所製、商品名:ALEX(NT)柄インキ)を用いてグラビア印刷法によって画像を形成した。得られた画像形成済みPETフィルムと、実施例1と同様にして得られた電子線照射後の共押出しポリエチレン積層体とを、PETフィルムの印刷面と電子線照射面(基材層面)が向かい合うように、2液硬化型ウレタン接着剤(ロックペイント(株)製、商品名:RU-40/硬化剤H-4)を介してドライラミネートし、共押出しポリエチレン積層体を得た。
その後、PETフィルムを剥離し、印刷層を共押出しポリエチレン積層体の基材層側表面に転写させることで画像を形成した。
【0090】
<実施例6>
基材層面への電子線照射後の、印刷手法を以下のように変更した以外は、実施例3と同様にして共押出しポリエチレン積層体を得た。
(印刷手法)
先ず、PETフィルム(東洋紡株式会社、商品名:E5100,12μm)の未処理面にOPニス(株式会社昭和インク工業所製、商品名:ALEXハクリOPニス)を塗布し、溶剤型グラビアインキ(株式会社昭和インク工業所製、商品名:ALEX(NT)柄インキ)を用いてグラビア印刷法によって画像を形成した。得られた画像形成済みPETフィルムと、実施例3と同様にして得られた電子線照射後の共押出しポリエチレン積層体とを、PETフィルムの印刷面と電子線照射面(基材層面)が向かい合うように、2液硬化型ウレタン接着剤(ロックペイント(株)製、商品名:RU-40/硬化剤H-4)を介してドライラミネートし、共押出しポリエチレン積層体を得た。
その後、PETフィルムを剥離し、印刷層を共押出しポリエチレン積層体の基材層側表面に転写させることで画像を形成した。
【0091】
<比較例1>
電子線を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様にして共押出しポリエチレン積層体を得た。
【0092】
<比較例2>
電子線を照射しなかったこと以外は、実施例3と同様にして共押出しポリエチレン積層体を得た。
【0093】
<耐熱性評価>
上記実施例および比較例において得られた共押出しポリエチレン積層体を、5cm×5cmにカットしてサンプル片を3つずつ作製した。各サンプルを140℃に熱したグリセリン溶液中で5秒間加熱した。加熱後のサンプル片のサイズを、インフレーション成形時の機械流れ方向(MD方向)と、それと直交する幅方向(TD方向)とで測定した。カット時からの収縮率の平均値は下記の表1に示される通りであった。
【0094】
<シール強度評価>
上記実施例および比較例において得られた製造直後の共押出しポリエチレン積層体を、10cm×10cmにカットしてサンプル片を3つずつ作製した。各サンプル片を、電子線を照射しなかった側の面、すなわち、密度0.916g/cm3のポリエチレンからなる層側が内側になるように二つ折りにし、ヒートシールテスターを用いて、温度を180℃、圧力1kgf/cm2、1秒の条件にて1cm×10cmの領域をヒートシールした。
【0095】
ヒートシール後のサンプル片を15mm幅で短冊状に切り、ヒートシールしなかった両端部を引張試験機に把持し、速度300mm/分、荷重レンジ50Nの条件にて剥離強度(N/15mm)を測定した。なお、比較例1、2において得られた共押出しポリエチレン積層体は、ヒートシールバーに付着してしまい剥離強度を測定することができなかったため、「-」とした。測定結果は下記の表1に示される通りであった。
【0096】
<印刷適性試験>
形成した画像を目視により観察し、上記実施例および比較例において得られた共押出しポリエチレン積層体の印刷適性を以下の評価基準に基づいて評価した。
○:印刷時の寸法安定性が良好であり、擦れ、滲み等が生じていない良好な画像を形成することができていた。
×:印刷時にフィルムの伸び縮みが発生し、形成した画像に擦れや滲みが生じていた。
評価結果は表1に示すとおりであった。
【0097】
<液体小袋製袋評価>
液体小袋充填機によって、上記実施例および比較例において得られた共押出しポリエチレン共押フィルムから、縦100mm×横80mmの液体小袋を作製した。
製袋方法としては、まず、2枚の共押出しポリエチレン積層体をヒートシール層が向かい合うように重ね合わせ、140℃のヒートシールバーで3辺をヒートシールした。次いで、ヒートシールされた共押出しポリエチレン積層体を縦100mm×横80mmのサイズに切断して、液体小袋を作製した。
液体小袋の製袋適性を以下の評価基準に基づいて評価した。
○:ヒートシールバーにフィルムが融着することなく、液体小袋充填機で液体小袋を作製できた。
×:ヒートシールバーにフィルムが融着し、液体小袋充填機で液体小袋を綺麗に作製できなかった。
評価結果は表1に示すとおりであった。
【0098】
<スタンドパウチ製袋評価>
製袋機によって、上記実施例および比較例において得られた共押出しポリエチレン積層体から、縦110mm×横150mmのスタンドパウチを作製した。
製袋方法としては、まず、実施例および比較例において得られた共押出しポリエチレン積層体から、縦110mm×横60mmの試験片を1枚作製し、ヒートシール層が外側となるようにV字状に折り曲げたもの(縦110mm×横30mm)を作製した。次いで2枚の共押出しポリエチレン積層体をヒートシール層が向かい合うように重ね合わせるとともに、一方の端部に上記で得られたV字に折り曲げた試験片を挟持し140℃のヒートシールバーでヒートシールすることで底部を形成した。続いて、底部に隣接する2辺を同様にしてヒートシールして筒状の胴部を形成し、縦110mm×横150mmのサイズに切断することでスタンドパウチを作製した。
スタンドパウチの製袋適性を以下の評価基準に基づいて評価した。
○:ヒートシールバーにフィルムが融着することなく、製袋機でスタンドパウチを作製できた。
×:ヒートシールバーにフィルムが融着し、製袋機でスタンドパウチを綺麗に作製できなかった。
評価結果は表1に示すとおりであった。
【0099】