(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20241121BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K1/02 Z
(21)【出願番号】P 2024098609
(22)【出願日】2024-06-19
【審査請求日】2024-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2023192656
(32)【優先日】2023-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 晋平
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-143791(JP,A)
【文献】特許第7394427(JP,B1)
【文献】特許第6868174(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/00-1/34
15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、1層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、配向磁場が極異方性的に印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域はCr-Ni系ステンレス磁石を非磁性改質した非磁性部からなり、
前記希土類異方性ボンド磁石は極異方的に着磁されていることを特徴とするIPMモータのロータ。
【請求項2】
回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、1層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、配向磁場が極異方性的に印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域、前記永久磁石に隣接する他の前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域および前記磁石端部域を接続する接続部よりなる磁極間外周側領域はCr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成からなる非磁性部からなり、
前記希土類異方性ボンド磁石は極異方的に着磁されていることを特徴とするIPMモータのロータ。
【請求項3】
回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、多層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、配向磁場が極異方性的に印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域はCr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記希土類異方性ボンド磁石は極異方的に着磁されていることを特徴とするIPMモータのロータ。
【請求項4】
回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、多層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、配向磁場が極異方性的に印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域、前記永久磁石に隣接する他の前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域および前記磁石端部域を接続する接続部よりなる磁極間外周側領域はCr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記希土類異方性ボンド磁石は極異方的に着磁されていることを特徴とするIPMモータのロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPMモータのロータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のロータは、円筒状のロータコアと、一磁極ごとに形成された複数の磁石列と、リブと、を備える。複数の磁石列の各々は、ロータコアの径方向の外側に向って開口する同じ中心点の円弧状に形成されており、複数のボンド磁石を有する。リブは、複数の磁石列の各々において、隣接するボンド磁石間に配置されている。
【0003】
特許文献2に記載のロータは、ロータコアと、2つのボンド磁石列と、リブとを備える。2つのボンド磁石列の各々は、ロータコアの径方向の外側に向って開いた円弧状に形成されている。リブは、2つのボンド磁石列の各々において、隣接するボンド磁石間に配置されている。そして、第1磁石列の1つの第1リブは、第2磁石列の3つの第2リブのそれぞれより、幅が狭い。
【0004】
【文献】特開2017-192211号公報
【文献】特開2023-098697号公報
【文献】特開2023-087317号公報
【文献】WO2022/004672号公報
【文献】特開2023-13775号公報
【文献】特許第6868174号公報
【文献】特許第7125686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のリブは、ロータが回転したときの遠心力に対する応力を緩和して、ロータの破損を抑制する。リブを設けることによってロータの強度は向上するが、外部からロータに入る磁束がリブに流れる。そのため、リラクタンストルクに寄与する磁束が減少し、リラクタンストルクが低下する。ひいては、ロータを適用したモータの効率が低下する。
【0006】
特許文献2に記載のリブは、総トルクの低下を抑制しつつ、耐遠心力性能を確保とする。第2リブの幅に対して第1リブの幅を狭くすることにより第1リブへの磁束の流れは抑制されるが、磁束の流れは依然として発生する。
【0007】
特許文献3~5には、リブへの磁束の流れを防止するために、リブを非磁性化する方法が記載されている。いずれも電磁鋼板に合金元素を添加してレーザによる溶融でもって改質するものである。本方法では、改質部は凹凸が激しい上に形状も変化するので、表面研削や形状修正加工などの改質後の処理が複雑であり、実用的とは言えない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、ロータコアの素材を電磁鋼板
(ケイ素鋼板)からマルテンサイト組織とオーステナイト組織の2相組織からなるステンレス磁石に変更し、リブの強度の向上とリブからの磁束の漏洩の遮断のために電磁鋼板から非磁性部に変更し、すなわちリブの非磁性改質による非磁性ステンレス鋼にしてトルクの向上を目的とする。また、同時に、非磁性改質を簡素な工程で行なえるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、2021年にステンレス磁石の発明を開示した(特許文献6)。さらに、特許文献7に示すように、磁石式義歯アタッチメントのプレート部品を磁性材料からステンレス磁石に変更したところ吸着力が50%も増加した経験を踏まえて、さらにステンレス磁石の比抵抗は、72μΩcmと、IPMモータの磁性材料として用いられている3%珪素鋼板の32μΩcmに比べて、2倍以上あることに着目して、IPMモータのロータの磁性材料をステンレス磁石に変更することを検討した。
【0010】
試行錯誤を重ねた結果、Cr-Ni系ステンレス鋼の組織を100%のオーステナイト組織からマルテンサイト組織を80%以上有する組織に変化させて半硬質磁性材料とし、かつ飽和着磁後の磁石性能は、室温において、12,000~16,000Gの飽和磁化と、80~300Oeの保磁力と、残留磁気Br6,000~8,000G、0.2~4MGOeの最大エネルギー積を有するステンレス磁石を採用し、さらにロータコアの特定域を改質により非磁性とすることにより、ロータの本体素材を磁性材料で非磁性改質をしていないロータに比べてモータトルクを30%以上増加できることを見出した。しかも、非磁性箇所はレーザや高周波による加熱法で900℃以上に加熱することで、外周部の形状を変化させることなくオーステナイト相に回復して非磁性に改質されることを確認した。
また、非磁性Fe-Mn系合金においても、同様の効果を確認した。
【0011】
<モータのロータ>
(1)本発明のモータのロータは、ロータコアと一磁極ごとに形成された複数の永久磁石とリブと特定外周部とを備える。
ロータコア、リブおよび特定外周部からなるロータ本体の材料は、Cr-Ni系ステンレス鋼の組織を100%のオーステナイト組織からマルテンサイト組織を80%以上有する組織に変化させて半硬質磁性材料(0.1~1.0mmの薄板)とし、ボンド磁石を充填する複数のスロット(磁石孔)を含むロータコアを打ち抜いた後、リブおよび特定外周部を高周波加熱またはレーザによる局部加熱でもってマルテンサイト組織からオーステナイト組織に非磁性改質して非磁性部を形成する。このロータコア素形材を積層し、スロット(磁石孔)へのボンド磁石の射出成形工程における配向磁場成形とともに半硬質磁性材料から永久磁石へ飽和磁化してステンレス磁石を形成する。
これにより、ロータコアは飽和磁化したステンレス磁石からなり、リブおよび特定外周部は非磁性改質され、非磁性部である非磁性ステンレス鋼からなる。
【0012】
ここで、リブとは略U文字状(円弧状)のスロット(ボンド磁石を一体成形する磁石孔)の形成によるロータコアの強度低下を抑制するため、スロットを複数個に分割し、分割により形成されたスロット間に配置されている部位をいう(
図5:1310、1320、
図14:6310~6340)。すなわち、一の磁石列(1層型という。)または複数の磁石列(多層型という。)の各々において、隣接するボンド磁石間に配置されている。
特定外周部とは、
ア)ボンド磁石(永久磁石)のそれぞれの外周側端部からロータコアの外周側端部に至る接続部よりなる磁石端部域(
図5:1410、1420、
図14:6310~6340)、
イ)1層型において、一の永久磁石の外周側端部からロータコアの外周端部に至る接続部よりなる一の磁石端部域(
図5:1410)、隣接する他の磁極の永久磁石の外周側端部からロータコアの外周側端部に至る部位よりなる他の磁石端部域(
図5:1420)、および一の磁石端部域と他の磁石端部域を連結する連結部(
図5:1510)からなる磁石端部外周側領域、
ウ)多層型において、一の磁極内の永久磁石の外周側端部からロータコアの外周側端部に至る接続部よりなるすべての磁石列の磁石端部域およびすべての磁石列の磁石端部域間を連結する連結部からなる磁極内外周側領域(
図7:35、
図11:57)、
エ) 多層型において、一の磁極内の磁極内外周側領域、隣接する他の磁極内の磁極内外周側領域、および両者を連結する連結部からなる磁極間外周側領域(
図7:46、
図11:68)、
の4種類を総称していう。
【0013】
また、従来の電磁鋼板(ケイ素鋼板)からなるロータコアに対して、Cr-Ni系ステンレス鋼のマルテンサイト組織とオーステナイト組織の2相組織よりなるステンレス磁石からなるロータコアは強度が大きく、さらに電磁鋼板のリブに比較して、非磁性改質したCr-Ni系ステンレス鋼のオーステナイト組織の方が強度と延性が高く、強度部材としてのリブの機構を高めることができる。
また、非磁性Fe-Mn系合金について、半硬質磁性材料の薄板を形成し、複数の磁石孔を有するロータコア素形材を打抜成形し、上述のCr-Ni系ステンレス鋼と同様の工程でFe-Mn系合金からなるロータコアと、リブおよび特定外周部は非磁性部を形成することができる。
【0014】
次に、ロータコア、複数の永久磁石、リブおよび特定外周部の構成(配置)は以下のとおりである。
ロータコアはCr-Ni系ステンレス磁石またはFe-Mn系合金磁石(ステンレス磁石という。)からなり、複数の永久磁石は希土類異方性ボンド磁石(以下、ボンド磁石という。)からなってロータコアに内蔵されている。永久磁石の配列は、ロータコアの回転軸に沿って延び、かつ回転軸の方向から見てロータコアの径方向の外側向かって開口する円弧状に並んで配置されている。
また、円弧状に配置されている複数の永久磁石は、径方向に1層型または複数の層からなる多層型に配置されている。
【0015】
また、複数の永久磁石は、相互に隣り合う第1ボンド磁石と第2ボンド磁石とを有してロータコアの回転軸に沿って延びるスリット内に配置される。
また、ロータコアは、第1ボンド磁石と第2ボンド磁石との間に配置されるリブを有し、リブは非磁性部(非磁性ステンレス鋼)からなる。
【0016】
(2)本発明のロータは、効率的に配向させた希土類ボンド磁石と同じく効率的に配向着磁されたステンレス磁石部からなり、モータの高性能化に寄与する。この理由は次のように考えられる。
【0017】
先ず本発明のロータでは、リブおよび特定外周部は非磁性部(非磁性ステンレス鋼)となっている。このような非磁性部を伴うスリットへの射出成形時に極異方配向が印加されると、極異方配向磁場は永久磁石の内側磁極部から外側磁極部に流れ、続いて隣接する外側磁極部から内側磁極部に流れる。
しかし、この時にリブと特定外周部の非磁性部が存在しないと、希土類異方性磁石粉末の配向に寄与しない永久磁石粉末の内側磁極から外側磁極に直接流れる大きな漏れ磁束が存在し、極異方配向磁場が弱まることになる。
逆に、リブと特定外周部に非磁性部が存在すると、漏れ磁束が激減し、極異方配向磁場が強められることになる。
【0018】
逆に言うと、射出成形時に外部からロータへ印加した極異方配向磁場は、ロータのスリット内およびステンレス磁石部に高密度に分布するようになり、希土類異方性磁石粉末の配向に寄与する有効磁束が大幅に増加する。従って、本発明に係る希土類異方性ボンド磁石は、効率的に極異方配向磁場が作用した状態で射出成形されたものとなり高配向となる。
【0019】
また、印加する極異方配向磁場の大きさにもよるが、その希土類異方性ボンド磁石は外部から高い磁場が印加された状態で成形されたものとなるため、射出成形の終了後から高い磁束密度を発揮し、射出成形後の着磁(後着磁)も不要となり得る。これは、難配向性磁石粉末である希土類異方性磁石粉末(例えば、Nd-Fe-B系磁石粉末等)からなる希土類異方性ボンド磁石の場合に有効である。
【0020】
同時に、ステンレス磁石も、希土類磁石のN極からS極に向かう極異方配向磁場によって配向着磁されることになり、ロータの磁極から発する磁束は、回転子の本体素材を磁性材料からステンレス磁石への変更、すなわちステンレス磁石の起磁力が加えられて10%程度増加する。これによりモータトルクは10%程度増加する。
【0021】
なお当然ながら、本発明では、ロータに内包される永久磁石がボンド磁石であるため、焼結磁石を埋め込む場合と比較して、多くの利点を有する。例えば、希少で高価な希土類の使用を抑制できる。また、焼結磁石を用いる場合、瓦形状に機械加工する必要があるが、そのような加工は不要である。加えて加工屑も生じないので、希少で高価な希土類を無駄にすることもない。
【0022】
さらに焼結磁石を用いる場合、スロットへ挿入する際に欠損等を生じたり、スロットとの間に隙間を生じたり、スロット内に固定する接着剤が必要になったりする。接着剤は非磁性のため空隙となり磁気抵抗を増加させ磁束を低下させて問題であった。
しかし、スロット内に一体成形されるボンド磁石なら、自ずとスロット内に強固に密着固定されるため、焼結磁石のような欠点がない。
【0023】
さらに、モータの運転時、焼結磁石には大きな鉄損(過電流損とヒステリシス損)が生じ得るが、ボンド磁石は各磁石粒子が絶縁体であるバインダ樹脂で絶縁された状態になっているため、生じる鉄損は非常に小さい。特に高速回転の場合、大きな効果をとなる。従ってボンド磁石を内包した回転子からなる同期機は発熱が抑制され効率的となる。またボンド磁石は、各磁石粒子がバインダ樹脂で被覆された状態となっているため、表面処理等を行うまでもなく高い酸化性を有する。
【0024】
<モータ(埋込磁石型(内包磁石型)同期機)>
本発明は上述したロータとしてのみならず、そのロータを用いたモータ(埋込磁石型(内包磁石型)同期機)としても把握できる。すなわち本発明は、上述したロータと、そのロータの外周囲に均等に配設されたコイルとそのコイルの外周側で磁気回路を構成するヨークとを有するステータと、を備えるモータでもよい。なお、適宜、ヨークはコイル内にあるティースを含む。
【0025】
モータは、基本的に、ロータに設けた永久磁石により形成される磁極とステータによりロータの外周囲に形成される回転磁界とで生じる吸引力および反発力に基づいて回転力(マグネットトルク)を生じる。もっとも、表面磁石型同期機と異なり埋込磁石型(内包磁石型)同期機であるロータの場合、磁極に生じるインダクタンス(Ld)と磁極間に生じるインダクタンス(Lq)との差異を生じ易いため、吸引力に基づくリラクタンストルクもロータに生じることが多い。特にLd<Lqとなる場合、リラクタンストルクとマグネットトルクは同じ方向となり、出力トルクが増大し得る。
【0026】
そこで本発明に係る回転子も、回転子中における永久磁石の形状や配置等を調整して、例えば、永久磁石により形成される隣接する磁極間に、この磁極により生じるマグネットトルクと同一方向に作用するリラクタンストルクを生じさせる突極を有するものであると好適である。
【0027】
<ロータの製造方法>
ロータの製造方法は次の工程による。
(1)母材成形工程
Cr-Ni系非磁性鋼板またはFe-Mn系非磁性鋼板を0.1~1.0mmの薄板に冷間圧延し、その後-70℃以下で低温冷却処理して80%以上のマルテンサイト組織からなる半硬質磁性材料の母材を成形する。
(2)打抜工程
半硬質磁性材料よりなる母材を円弧状に複数のスロット(磁石孔)を有するロータコア素形材を打ち抜いて形成する。
(3)加熱工程
2つのスロットに挟まれたリブおよび円弧を形成する最端部の磁石孔とロータコアの外周縁との間の特定外周部を局部的にレーザなど加熱装置により900~950℃に加熱して非磁性化して非磁性部よりなるロータ素形材を形成する。
(4)ロータ素材形成工程
ロータ素形材に絶縁樹脂コーティングを行なう絶縁被膜形成工程と絶縁被膜されたロータ素形材を積層する積層工程とからなる。積層工程では、ステンレス磁石の異方性がラジアル異方的になるようロータ板材を積層する。
(5)射出成形工程
磁場中射出成形機にて、積層されたロータ素形材のスロット(磁石孔)に希土類異方性ボンド磁石を0.5~2Tの磁界による極異方配向磁場成形し、磁石孔に充填する。
(6)検査工程
ロータコアの外周の磁化分布を検査して、希土類ボンド異方性磁石とステンレス磁石が飽和磁化されていることを確認する。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、リブの強度の向上とリブからの磁束の漏洩が遮断されて有効磁束およびトルクの向上を図ることができる。加えて、非磁性の特定外周部からの磁束の漏洩が遮断されて有効磁束およびトルクの向上を図ることができる。
さらに、リブと特定外周部の非磁性化を簡素な工程で容易に行なえる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】第1実施形態におけるロータの断面図である。
【
図4】第2実施形態におけるロータの断面図である。
【
図5】第1実施形態、第2実施形態におけるロータの一部で(a)スロットを形成した打ち抜き材、(b)磁石端部域の非磁性部、(c)磁極間外周側領域の非磁性部を示す図である。
【
図6】第3実施形態におけるモータの正面図である。
【
図7】第3実施形態におけるロータの部分拡大図である。
【
図8】第4実施形態におけるモータの正面図である。
【
図9】第4実施形態におけるロータの部分拡大図である。
【
図10】第5実施形態におけるモータの正面図である。
【
図11】第5実施形態におけるロータの部分拡大図である。
【
図12】第6実施形態におけるモータの正面図である。
【
図13】第6実施形態におけるロータの部分拡大図である。
【
図14】第5実施形態、第6実施形態におけるロータの一部で(a)スロットを形成した打ち抜き材を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
[第1実施形態]
本発明のIPMモータのロータの第1実施形態は、
ステンレス磁石からなり回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、1層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、極異方配向磁場が印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域は非磁性部からなることを特徴とする。
【0031】
本発明の第1実施形態のロータは、6極の磁極部にて磁石列が1列の1層型のボンド磁石とボンド磁石に挟まれた1つのリブとからなる。
また、ロータの外周側には、一のボンド磁石の外周側端部からロータコアの外周側端部に至る磁石端部域からなる。
以下、
図1、
図2および
図5を用いて詳細に説明する。
【0032】
図1は、モータM1の正面図である。
図1に示すように、モータM1は、円環状のステータ50と、ステータ50の内側に配置されるロータ1とを備えている。
ロータ1は、埋め込み磁石型(IPM)であり、ロータコア11と複数の磁極部を備える。本実施形態では、6極の磁極部を備える。
図2は、本実施形態におけるロータ1の断面図である。ロータ1は、ロータコア11に、1層型のボンド磁石121~126と、分割したボンド磁石に挟まれた非磁性部よりなるリブ131~136と、ボンド磁石の両端には非磁性部の磁石端部域141a・141b~146a・146bとを備えている。
【0033】
ロータコア11は、ステンレス磁石からなる。常温で非磁性のオーステナイト相で、冷間加工後に磁性のマルテンサイト相となる半硬質磁性材料の18Cr-8Ni系ステンレス鋼の薄板を打ち抜き、その際に径方向に1層からなるスロット(1列からなる第1磁石孔)を形成し、次いでリブおよび磁石端部域に相当する部位を改質して非磁性の18Cr-8Ni系ステンレス鋼(非磁性部)を形成する。この形成したロータ素形材を絶縁被覆処理し、積層してロータコア11とする。その後、ボンド磁石の極異方配向磁場のときに、ロータ素形材は半硬質磁性材料から配向飽和着磁されて永久磁石であるステンレス磁石となる。
その磁石性能は、室温において、15,000Gの飽和磁化と、120Oeの保磁力と、残留磁気Br7,000G、2.0MGOeの最大エネルギー積を有する。
【0034】
図5は、ロータコアの部分図にて、(a)スロットを形成した打ち抜き材、(b)実施形態1の磁石端部域の非磁性部、(c)実施形態2の磁極間外周領域の非磁性部を示す。
(a)スロットを形成した打ち抜き材は、リブ1310、1320により分割されたスロット1210、1220を示し、スロットとロータコア外周側端部(外周縁部)との間の磁石孔(磁石)端部域1410、1420を示す。
打ち抜き材の改質処理は、リブおよび磁石端部域に相当する部位(磁石孔端部域)を局部加熱法によりレーザで900℃に加熱して行なった。これにより、透磁率1.2以下の非磁性部を得ることができる。また、マルテンサイト組織をオーステナイト相に戻すのみの加熱温度のために薄板は何らの変形・歪みが生じていないために容易に積層することができる。
【0035】
ロータコア11は、回転軸の軸方向からみて、径方向の外側に向かって開いた円弧状に形成され、ボンド磁石が埋め込まれている磁石孔からなる。
以下では、ロータコア11の回転軸方向を軸方向、ロータコア11の径方向、ロータコア11の周方向を周方向と称する。
【0036】
第1磁路は、磁石孔(ボンド磁石121)よりも径方向の外側に設けられている。すなわち、第1磁路は、磁石孔と、ロータコア11の外周縁(図示なし)の間に設けられている。第2磁路は、磁石孔(ボンド磁石121)よりも径方向の内側に設けられている。
【0037】
第1磁路および第2磁路はステンレス磁石からなるロータコア11上に形成されている。このステンレス磁石には、起磁力を有していることから、ボンド磁石からの磁束を補強し、ボンド磁石12のみに比べて強いトルクが得られる。
【0038】
リブ13は、径方向に延伸した磁極中心線に沿って延伸し、第1磁路と第2磁路を遮断するとともに、磁石孔のボンド磁石12の磁束の漏洩がリブ13により遮断される。
リブ13は、周方向に沿って磁石孔を2つの磁石孔に分割する。
【0039】
リブ13は、本来の18Cr-8Ni系の非磁性ステンレス鋼となることから、磁束は遮断されるためにボンド磁石からの磁束はステンレス磁石の起磁力と相まって大きな磁束量の形成に寄与する。
また、電磁鋼板(ケイ素鋼板)に比べて強靭性に優れていることから、耐遠心性が向上しモータの回転速度を大きくすることが可能になる。
【0040】
磁石端部域14(141~146)は、ボンド磁石が埋め込まれた磁石孔の外周側端部からロータコア11の外周側端部に至る接続部(接続領域)で、ロータコア11の外周部の一部として形成されている。
磁石端部域14は、18Cr-8Ni系の非磁性ステンレス鋼からなり、その非磁性によりボンド磁石が射出成形される磁石孔へ、高い極異方配向磁場が均一的に誘導する。すなわち、ロータコア11の外部から印可された極異方配向磁場の流れにおいて、内側磁極側から外側磁極側に端部の外周側領域の特定部分を介して直接流れる漏洩磁束を激減させて、配向に寄与する極異方配向磁場を強めることができる。
【0041】
また、磁石端部域14は、上述のリブ13と同じ18Cr-8Ni系の非磁性ステンレス鋼であることから、ボンド磁石12の端部からの磁束の漏洩が回避され、有効な磁束量が確保される。
さらに、18Cr-8Ni系非磁性ステンレス鋼であることから、機械的性質に優れているとともに局部加熱により改質されているに過ぎないことから、ロータ1の製作時の精度はそのまま維持されおり、ロータ1の高速回転には最適である。
【0042】
ボンド磁石12は、Nd-Fe-B系の希土類磁石粉末とバインダ樹脂からなる。
本実施形態では、Nd-Fe-B系磁石粉末を使用しているが、Sm-Co系磁石粉末やSm-Fe-N系磁石粉末でもよい。また、これらの希土類異方性磁石粉末は、一種のみならず複数種からなってもよい。
【0043】
バインダ樹脂には、ポリアミドイミド系の熱可塑性樹脂を用いた。なお、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂やメラミン樹脂等の熱硬化性樹脂などの公知の材料を適宜用いることができる。
【0044】
ボンド磁石12は、2つの分割された磁石からなり、分割された磁石孔12にそれぞれ充填されている。
【0045】
なお、本実施では、射出成形において溶融混合物の充填開始時から充填終了時まで、スロット12へ極異方配向磁場を印加した。この際、極異方配向磁場:0.7T、溶融混合物の温度:300℃、射出圧力:100MPa、射出速度:80mm/secとした。
【0046】
これにより永久磁石中の磁石粒子は、磁場中射出成型時に配向するのみならず、同時に着磁もされ、永久磁石は既に高磁束密度を発揮する状態となっていた。このため本実施形態では、後着磁を行なう必要がなかった。
【0047】
[第2実施形態]
本発明のIPMモータのロータの第2実施形態は、
ステンレス鋼磁石からなり回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、1層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、極異方配向磁場が印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
前記永久磁石の外周側端から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域、前記永久磁石に隣接する他の前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域および前記磁石端部域を連結する連結部よりなる磁石端部外周側領域は非磁性部からなることを特徴とする。
【0048】
本発明の第2実施形態のロータは、
第1実施形態において、それぞれのボンド磁石12の磁石端部域14に加えて、隣接する他の磁極部の磁石端部域との間の連結部を含める磁石端部外周側領域25が非磁性部に形成されている。
以下、
図3、
図4および
図5を用いて説明する。
【0049】
図3は、モータM2の正面図である。
図3に示すように、モータM2は、円環状のステータ50と、ステータ50の内側に配置されるロータ2とを備えている。
ロータ2は、埋め込み磁石型(IPM)であり、ロータコア21と複数の磁極部を備える。本実施形態では、6極の磁極部を備える。
図4は、本実施形態におけるロータ2の断面図である。ロータ2は、ロータコア21に、1層型のボンド磁石221~226と、分割したボンド磁石に挟まれた非磁性部よりなるリブ231~236と、ボンド磁石の両端には連結部を含める非磁性部の磁石端部外周側領域251~256とを備えている。
【0050】
ロータコア11は、ステンレス磁石からなる。その製造方法、磁石化は第1実施形態と同じである。
また、ボンド22磁石およびその製造方法等も第1実施形態と同じである。
【0051】
磁石性能については、第1実施形態に加えて、ボンド磁石の両端に非磁性部の連結部を形成することにより磁極間、実施形態1における141b~142a間の磁束の漏洩が実施形態2の非磁性部251により遮断される。
これにより、有効な磁束量がさらに確保される。
【0052】
[第3実施形態]
本発明のIPMモータのロータの第3実施形態は、
ステンレス鋼磁石からなり回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、多層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、極異方配向磁場が印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
一の磁極内において、前記永久磁石の外周側端部から前記ロータコアの外周側端部に至る磁石端部域、前記永久磁石に隣接する他の前記永久磁石の他端部から前記ロータコアの外周端に至る磁石端部域および前記磁石端部域を連結する連結部よりなる磁極内外周側領域(同一磁極間)は非磁性部からなることを特徴とする。
【0053】
[第4実施形態]
本発明のIPMモータのロータの第4実施形態は、
ステンレス鋼磁石からなり回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個のスロットを有するロータコアと、前記スロットの間に設けられたリブと、前記スロットに形成された偶数個の永久磁石とを備えるIPMモータのロータであって、
前記ロータコアは、Cr-Ni系ステンレス磁石を素材とし、
前記スロットは、多層型からなり、
前記リブは、Cr-Ni系ステンレス磁石と同じ組成よりなる非磁性部からなり、
前記永久磁石は、極異方配向磁場が印可された前記スロット内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
一の磁極内の前記磁極内外周側領域、隣接する他の磁極内の前記磁極内外周側領域、および両者を連結する連結部からなる磁石端部外周側領域(隣接磁極間)は非磁性部からなることを特徴とする。
【0054】
第3実施形態および第4実施形態は、第1実施形態および第2実施形態における1層型のスロットから多層型のスロットに変更した実施形態である。
多層型の例として、8極の磁極部にて磁石列が2列の2層型のボンド磁石および磁石列が4列の4層型のボンド磁石とボンド磁石に挟まれた複数個のリブとからなる。
また、ロータの外周側には、一の磁極内において、前記永久磁石の外周側端から前記ロータコアの外周端に至る磁石端部域、前記永久磁石に隣接する他の前記永久磁石の他端部から前記ロータコアコアの外周端に至る磁石端部域および前記磁石端部域を連結する連結部よりなる磁極内外周側領域(同一磁極間)からなる。
また、一の磁極内の前記磁極内外周側領域、隣接する他の磁極内の前記磁極内外周側領域、および両者(隣接する磁極の磁極内外周側領域)を連結する連結部からなる磁極間外周側領域(隣接磁極間)からなる
以下、2層型および4層型のスロットと磁極内外周側領域(同一磁極間)と磁極間外周側領域(隣接磁極間)とを組合せた4種類のロータについて、
図6~
図14を用いて詳細に説明する。
【0055】
[2層型-A]
2層型で磁極内外周側領域(同一磁極間)よりなるロータについて、
図6および
図7を用いて説明する。
図6は、モータM2の正面図である。
図6に示すように、モータM2は、円環状のステータ60と、ステータ60の内側に配置されるロータ3とを備えている。 ロータ3は、埋め込み磁石型(IPM)であり、ロータコア31と8極の磁極部36を備える。
図7は、本実施形態におけるロータ3の磁極部36の断面図である。磁極部36は、ロータコア31に2層型からなり、1層目の第1ボンド磁石321Mと2層目の第2ボンド磁石322Mと、第1リブ33と、第2リブ34A、34B、34Cと、を備える。
また、ロータコアの31の外周側端部(外周縁)に沿って、第1ボンド磁石321Mの磁石端部域と第2ボンド磁石322Mの磁石端部域と両者の外周端部を連結する連結部とからなる非磁性の磁極内外周側領域(同一磁極間)35を備える。
【0056】
ロータコア31は、ステンレス磁石からなる。その製造方法、磁石化および磁石性能は第1実施形態と同様である。
また、改質により非磁性のリブ33、34A、34B、34Cと、磁極内外周側領域(同一磁極間)35の形成方法も第1実施形態と同様である。
【0057】
第1ボンド磁石321Mは、ロータコア31の回転軸の軸方向視において、ロータコア31の径方向の外側に向かって開いた円弧状に形成されている。
以下では、ロータコア31の回転軸方向を軸方向、ロータコア31の径方向、ロータコア31の周方向を周方向と称する。
第2ボンド磁石322Mは、軸方向視において、第1ボンド磁石321Mよりも径方向の内側に設けられている。第2ボンド磁石321Mは、径方向の外側に向かって開いた円弧状に形成されている。
【0058】
第1磁路171は、第1ボンド磁石321Mよりも径方向の外側に設けられている。すなわち、第1磁路171は、第1ボンド磁石321Mと、ロータコア31の外周縁311との間に設けられている。第2磁路172は、第1ボンド磁石321Mよりも径方向の内側、且つ、第2ボンド磁石322Mよりも径方向の外側に設けられている。第3磁路173は、第2ボンド磁石322Mよりも径方向の内側に設けられている。
【0059】
第1磁路171~第3磁路173はステンレス磁石からなるロータコア31上に形成されている。このステンレス磁石には、起磁力を有していることから、ボンド磁石からの磁束を補強し、ボンド磁石のみに比べて強いトルクが得られる。
【0060】
第1リブ33は、磁極中心線に沿って延伸し、第1磁路171と第2磁路172を遮断するとともに、第1ボンド磁石321Mの磁束の漏洩が第1リブ33により遮断される。
第1リブ13は、周方向に沿って、第1磁石孔321を2つの磁石孔に分割する。
【0061】
第2リブ34は、3つの34A、34B、34Cからなり、第2磁路172と第3磁路173を遮断し、第2磁石孔322を3つの磁石孔に分割する。
第2リブ34Aは、磁極中心線に沿って延伸している。第2リブ34Bおよび第2リブ34Cは、第2リブ34Aの両側に設けられている。
【0062】
第2リブ34は、第2磁路172と第3磁路173を遮断するとともに、第2磁石孔322の第2ボンド磁石322Mの磁束の漏洩が第2リブ34により遮断される。
【0063】
第1リブ33および第2リブ34は、本来の18Cr-8Ni系の非磁性ステンレス鋼となることから、磁束は遮断されるためにボンド磁石からの磁束はステンレス磁石の起磁力と相まって大きな磁束量の形成に寄与する。
また、電磁鋼板(ケイ素鋼板)に比べて強靭性に優れていることから、耐遠心性が向上し、モータの回転速度を大きくすることが可能になる。
【0064】
磁極内外周側領域(同一磁極間)35は2つあり、第1ボンド磁石321Mの磁石端部域と第2ボンド磁石322Mの磁石端部域と両者の外周端部を連結する連結部とからなり、
ロータコアの31の外周側(外周縁)311に沿って形成されている。
また、磁極内外周側領域(同一磁極間)35は、上述のリブと同じ18Cr-8Ni系の非磁性ステンレス鋼であることから、第1ボンド磁石321Mの外周縁311側の端部および第2ボンド磁石322Mの外周縁311側の端部からの磁束の漏洩が回避され、有効な磁束量が確保される。
【0065】
第1ボンド磁石321Mおよび第2ボンド磁石322Mは、Nd-Fe-B系の希土類磁石粉末とバインダ樹脂からなる。
第1ボンド磁石321Mは、2つの分割された磁石からなり、分割された第1磁石孔121にそれぞれ充填されている。
第2ボンド磁石322Mは、3つの分割された磁石からなり、分割された第2磁石孔122にそれぞれ充填されている。
【0066】
なお、本実施形態では、射出成形において溶融混合物の充填開始時から充填終了時まで、スロット12へ極異方配向磁場を印加した。この際、極異方配向磁場:0.7T、溶融混合物の温度:300℃、射出圧力:100MPa、射出速度:80mm/secとした。
【0067】
これにより永久磁石M1中の磁石粒子は、磁場中射出成型時に配向するのみならず、同時に着磁もされ、永久磁石M1は既に高磁束密度を発揮する状態となっていた。このため本実施例では、後着磁を行なう必要がなかった。
【0068】
図6に示す磁極部36では、第1ボンド磁石321Mおよび第2ボンド磁石322Mの磁化ベクトルは、径方向の内側から外側へ向いている。この磁極部36に隣接する他の磁極部36(図示なし)では、第1ボンド磁石321Mおよび第2ボンド磁石322Mの磁化ベクトルは、径方向の外側から内側へ向いている。
【0069】
[2層型-B]
2層型で磁極間外周側領域(隣接磁極間)よりなるロータについて、
図8および
図9を用いて説明する。なお、2層型-Bは、2層型-Aに磁極間の連結部を追加したものである。
図8は、モータM2の正面図である。
図8に示すように、モータM2は、円環状のステータ60と、ステータ60の内側に配置されるロータ4とを備えている。 ロータ4は、埋め込み磁石型(IPM)であり、ロータコア41と8極の磁極部47を備える。
図9は、本実施形態におけるロータ4の磁極部47の拡大断面図である。磁極部47は、ロータコア41に2層型からなり、1層目の第1ボンド磁石421Mと2層目の第2ボンド磁石422Mと、第1リブ43と、第2リブ44A、44B、44Cと、を備える。
また、ロータコアの41の外周側(外周縁)に沿って、第1ボンド磁石421Mの磁石端部域と第2ボンド磁石422Mの磁石端部域と両者の外周端部を連結する連結部とからなる非磁性の磁極間外周側領域(隣接磁極間)46を備える。
【0070】
この2層型-Bは、磁極部間からの磁束の漏洩を防ぐことができるため、有効な磁束量が一層確保することができる。
【0071】
ロータコア41は、ステンレス磁石からなる。その製造方法、磁石化および磁石性能は第1実施形態と同様である。
また、改質により非磁性のリブ43、44A、44B、44Cと、磁極間外周側領域(隣接磁極間)35の形成方法も第1実施形態と同様である。
また、磁路の形成などは2層型-Aとほぼ同じである。
【0072】
[4層型-A]
4層型で磁極内外周側領域(同一磁極間)よりなるロータについて、
図10、11および
図14を用いて説明する。
図10は、モータM3の正面図である。
図10に示すように、モータM3は、円環状のステータ70と、ステータ70の内側に配置されるロータ5とを備えている。 ロータ5は、埋め込み磁石型(IPM)であり、ロータコア51と8極の磁極部を備える。
図10は、本実施形態におけるロータ5の磁極部の断面図である。磁極部は、ロータコア51に4層型からなり、1層目の第1ボンド磁石521から4層目の第4ボンド磁石524と、第1リブ531~第4リブ534を備える。1層目のボンド磁石の磁石列から4層目のボンド磁石の磁石列までU字の円弧状に形成され、中心点が同一である。
第1ボンド磁石521は2個、第2ボンド磁石522は4個、第3ボンド磁石523は5個、第4ボンド磁石524は7個からなる。以下、ボンド磁石521~524はボンド磁石52と略称する。
第1リブ531は1個、第2リブ532は3個、第3リブ533は4個、第4リブは6個からなる。以下、リブ531~534はリブ53と略称する。
【0073】
また、磁極内外周側領域(同一磁極間)57は、ロータコアの51の外周側(外周縁)511に沿って形成されており、4個の磁石端部域と3個の連結部からなる。第1ボンド磁石521の磁石端部域および第2ボンド磁石522の磁石端部域と両者の外周端部を連結する連結部、第2ボンド磁石522の磁石端部域および第3ボンド磁石523の磁石端部域と両者の外周端部を連結する連結部、第3ボンド磁石523の磁石端部域および第4ボンド磁石524の磁石端部域と両者の外周端部を連結する連結部、とからなる。
【0074】
[2層型-A]や[2層型-B]の2層型ボンド磁石(磁石列)に比べてより多層型であるボンド磁石(磁石列)はより大きな出力トルクを得ることができ、大型のIPMが可能である。
【0075】
リブ53は、改質により非磁性ステンレス鋼からなり、ボンド磁石521~524の分割されたボンド磁石の間に配置されている。リブ53の形成方法は、第1実施形態と同じである。
非磁性ステンレス鋼からなるリブ53は、磁石孔に形成したボンド磁石の磁束の漏洩を遮断することによって、ボンド磁石の磁束はステンレス磁石の起電力と相まって大きな磁束量の形成に間接的に寄与する。
また、電磁鋼板に比べて強靭性に優れていることから、耐遠心性が向上し、モータの回転速度を大きくすることが可能になる。
【0076】
磁極内外周側領域(同一磁極間)57は、18Cr-8Ni系の非磁性ステンレス鋼からなり、その非磁性によりボンド磁石が射出成形される磁石孔へ、高い極異方配向磁場が均一的に誘導する。すなわち、ロータコア51の外部から印可された極異方配向磁場の流れにおいて、内側磁極側から外側磁極側に端部の外周側領域の特定部分を介して直接流れる漏洩磁束を激減させて、配向に寄与する極異方配向磁場を強めることができる。
【0077】
また、磁極内外周側領域(同一磁極間)57は、上述のリブと同じ18Cr-8Ni系の非磁性ステンレス鋼であることから、ボンド磁石の外周縁側の端部からの磁束の漏洩が回避され、有効な磁束量が確保される。
さらに、18Cr-8Ni系非磁性ステンレス鋼であることから、機械的性質に優れているとともに局部加熱により改質されているに過ぎないことから、ロータ5の作製時の精度はそのまま維持されおり、ロータ5は高速回転には最適である。
【0078】
ボンド磁石52は、Nd-Fe-B系の希土類磁石粉末とバインダ樹脂からなる。
本実施形態の磁石粉末とバインダ樹脂は、第1実施形態と同様である。
ボンド磁石32は、2つの分割された磁石からなり、分割された磁石孔にそれぞれ充填されている。
なお、本実施形態では、射出成形において溶融混合物の充填開始時から充填終了時まで、スリット12へ極異方配向磁場を印加した。この際、極異方配向磁場:0.7T、溶融混合物の温度:300℃、射出圧力:120MPa、射出速度:80mm/secとした。
【0079】
[4層型-B]
4層型で磁極間外周側領域(隣接磁極間)よりなるロータについて、
図12~
図14を用いて説明する。なお、4層型-Bは、4層型-Aに磁極間の接続部を追加したものである。
図12は、モータM3の正面図である。
図12に示すように、モータM3は、円環状のステータ60と、ステータ60の内側に配置されるロータ6とを備えている。 ロータ6は、埋め込み磁石型(IPM)であり、ロータコア61と8極の磁極部を備える。
図13は、本実施形態におけるロータ6の一磁極部の拡大断面図である。磁極部は、ロータコア61に4層型からなり、ボンド磁石62は1層目の第1ボンド磁石621と2層目の第2ボンド磁石622と3層目の第3ボンド磁石623と4層目の第4ボンド磁石624とからなり、リブ63は第1リブ631と第2リブ632と第3リブ633と第4リブ634とからなる。
また、磁極間外周側領域(隣接磁極間)68は、ロータコアの61の外周側部(外周縁部)に沿って形成されており、4個の磁石端部域と3個の連結部よりなる磁極内外周側領域(同一磁極間)と隣接する磁極の磁極内外周側領域(同一磁極間)とを接続する接続部からなる。
【0080】
この4層型-Bは、4層型-Aに加えて磁極部間からの磁束の漏洩を防ぐことができるため、有効な磁束量が一層確保することができる。
【0081】
ここで、4層型のロータコア(タイプBを代表して)を打ち抜いたロータコア素形材について、
図14を用いて説明する。
ロータコア素形材600の材質は半硬質磁性材料にて、ロータコア610は第1磁石孔6210から第4磁石孔6240の4つの磁石孔列が円弧状に打ち抜き形成されている。各磁石孔は分割されて磁石孔間に第1リブ6310から第4リブ6340が形成されている。
本例では、第1リブ6310は1つにて第1磁石孔6210は2つからなる。第2リブ6320は3つにて第2磁石孔6220は4つからなる。第3リブ6330は4つにて第3磁石孔6230は5つからなる。第4リブ6340は6つにて第4磁石孔6240は7つからなる。
【0082】
ロータコア610における磁石端部域に相当する領域(磁石孔端部域)は、ロータコア610の外周縁部(外周側端部)611と磁石孔との間である。第1磁石孔6210と外周縁611との間には磁石孔端部域641、以下磁石孔端部域642~644という。各磁石孔端部域を連結する部位を連結部という。
【0083】
上述の4つの磁石孔端部域と3つの連結部は、いずれも同一磁極内の外周側にあることから総称して磁極内外周側領域(同一磁極内)という。2層型および4層型のAタイプが相当する。
【0084】
さらに、一の磁極内外周領域と隣接する他の磁極内外周領域との間を接続して接続部を設け、これらを総称して磁極間外周側領域(隣接磁極間)という。2層型および4層型のBタイプが相当する。
【0085】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態は、非磁性Fe-Mn鋼板(SMn45)を用いて、第2実施形態と同じ1層型のボンド磁石にてボンド磁石に挟まれた1つのリブと、1のボンド磁石の外周端からロータコアの外周端に至る磁石端部域、1のボンド磁石に隣接する他のボンドの外周端からロータコアの外周端に至る磁石端部域および磁石端部域を接続する接続部よりなる磁極間外周側領域からなるロータの製造方法および製造されたロータに関する。図は、
図4を参考にする。
【0086】
工程は以下のとおりである。
(1)母材成形工程
厚さ2.0mmのSMn45非磁性鋼板を冷間圧延により0.5mmの薄板にし、次に-70℃、30分の低温冷却処理を行ない、85%のマルテンサイト組織からなる半硬質磁性材料の母材を成形する。
(2)打抜工程
半硬質磁性材料よりなる母材を打ち抜いて、円弧状に12個の磁石孔(スロット)を有するロータコア素形材を形成する。
(3)加熱工程
2つの磁石孔に挟まれた6個のリブおよび円弧を形成する最端部の磁石孔とロータコアの外周縁との間の6個の外周端部を局部的にレーザにより920℃に加熱して非磁性化して非磁性部よりなるロータ素形材を形成する。
【0087】
(4)ロータ素材形成工程
ロータ素形材に有機樹脂系の絶縁樹脂コーティングを行なって絶縁被膜を形成し、次いで絶縁被膜されたロータ素形材を積層する。積層工程では、ステンレス磁石の異方性がラジアル異方的になるようロータ板材を積層する。ロータ板材が一軸異方性を持つ場合、磁極の数に対応して方位を回転させて積層して積層全体としてはラジアル異方性になるようにする。
(5)射出成形工程
磁場中射出成形機にて、積層されたロータ素形材の磁石孔(スロット)に希土類異方性ボンド磁石を充填する。
ボンド磁石は、Nd-Fe-B系の希土類磁石粉末とバインダ樹脂からなる。
本実施形態の磁石粉末とバインダ樹脂は、第1実施形態と同様である。
ボンド磁石は、2つの分割された磁石からなり、分割された磁石孔にそれぞれ充填されている。
なお、本実施形態では、射出成形において溶融混合物の充填開始時から充填終了時まで、スロットへ極異方配向磁場を印加した。この際、極異方配向磁場:0.7T、溶融混合物の温度:300℃、射出圧力:80MPa、射出速度:80mm/secとした。極異方配向により、半硬質磁性材料からマンガン磁石に飽和磁化すると同時に、希土類異方性ボンド磁石を飽和着磁した。
【0088】
(6)検査工程
ロータの各磁極から発する磁界を測定し、希土類異方性ボンド磁石およびマンガン磁石が飽和磁化されていることを検査する。ロータを回転して円周方向の磁界分布を測定して、磁界分布が正弦関数波形になっていることを確認する。
(7)ロータ
以上の工程により、ロータが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
電気自動車、ハイブリッド車若しくは鉄道車両等に用いられる車両駆動用モータ、エアコン、冷蔵庫若しくは洗濯機等に用いられる家電製品モータ、各種ロボット機器の駆動用モータに幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0090】
M1:モータ(IPM(内包磁石型同期機))
1:ロータ
11:ロータコア、
12:ボンド磁石(121~126)
13:リブ(131~136)
14:磁石端部域(141a・141b~146a・146b)
15:中心孔(シャフト用孔)
50:ステータ
【0091】
M1:モータ(IPM(内包磁石型同期機))
2:ロータ
21:ロータコア
22:ボンド磁石(221~226)
23:リブ(231~236)
25:磁極間外周側領域(251~256)
50:ステータ
【0092】
30:ロータコア素形材(打ち抜き品)
110:ロータコア
110e:ロータコア外周側(外周縁)
1210、1220:磁石孔
1310、1320:リブ
1310:磁石端部域(1210と110eとの間)
1320:磁石端部域(1220と110eとの間)
30A:磁石端部域の非磁性部(実施形態1の一部分)
121、122:ボンド磁石
131、132:リブ
141a、141b:磁石端部域の非磁性部
142a、142b:磁石端部域の非磁性部
30B:磁極間外周側領域の非磁性部(実施形態2の一部分)
221、222:ボンド磁石
231、232:リブ
251、252:磁極間外周側領域の非磁性部
【0093】
M2:モータ(IPM(内包磁石型同期機))
3:ロータ
31:ロータコア
311:外周側端部(外周縁部)
321M:第1ボンド磁石
322M:第2ボンド磁石
33:第1リブ
34A、34B、34C:第2リブ
35:磁極内外周側領域
36:磁極(磁極部)
60:ステータ
【0094】
M2:モータ(IPM(内包磁石型同期機))
4:ロータ
41:ロータコア
411:外周側端部(外周縁部)
421M:第1ボンド磁石
422M:第2ボンド磁石
43:第1リブ
44A、44B、44C:第2リブ
46:磁極間外周側領域
47:磁極(磁極部)
60:ステータ
【0095】
M3:モータ(IPM(内包磁石型同期機))
5:ロータ
51:ロータコア
511:外周側端部(外周縁部)
521:第1ボンド磁石
522:第2ボンド磁石
523:第3ボンド磁石
524:第4ボンド磁石
531:第1リブ
532:第2リブ
533:第3リブ
534:第4リブ
57:磁極内外周側領域
70:ステータ
【0096】
M3:モータ(IPM(内包磁石型同期機))
6:ロータ
61:ロータコア
611:外周側端部(外周縁部)
621:第1ボンド磁石
622:第2ボンド磁石
623:第3ボンド磁石
624:第4ボンド磁石
631:第1リブ
632:第2リブ
633:第3リブ
634:第4リブ
68:磁極間外周側領域
70:ステータ
【0097】
600:ロータコア素形材
610:ロータコア
611:外周側端部(外周縁部)
6210:第1磁石孔
6220:第2磁石孔
6230:第3磁石孔
6240:第4磁石孔
6310:第1リブ
6320:第2リブ
6330:第3リブ
6340:第4リブ
【要約】 (修正有)
【課題】IPMモータの出力トルクの向上と耐遠心力性を改善する。
【解決手段】ロータコア21を電磁鋼板からステンレス磁石に変更し、起磁力を増加させると同時にロータコアのボンド磁石221~226を分割するリブ231~236とロータコアの外周側端部とボンド磁石の外周側端部の磁極内/磁極間外周側領域を非磁性ステンレス鋼にして、ボンド磁石からのリブおよびブリッジ等への磁束の漏洩を防止して、有効磁束の増加を図り、トルクを向上する。同時にリブの強度を改善して耐遠心力性を改善して高速回転を可能にする。
【選択図】
図4