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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】誘導多能性幹細胞の製造方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20241121BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021514245
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016924
(87)【国際公開番号】W WO2020213725
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019078907
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、脳科学研究戦略推進プログラム、「キメラ形成能を持つマーモセットES細胞を用いた新たな遺伝子改変技術の開発とマーモセットゲノム情報基盤の確立」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】吉松 祥
(72)【発明者】
【氏名】枝村 一弥
(72)【発明者】
【氏名】井口 青空
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/176233(WO,A1)
【文献】VERMILYEA, S.C. et al.,Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Dopaminergic Neurons from Adult Common Marmoset Fibroblasts,STEM CELLS AND DEVELOPMENT,2017年,Vol.26, No.17,p.1225-1235
【文献】YU J. et al.,Human Induced pluripotent Stem Cells Free of Vector and Transgene Sequences,SCIENCE,2009年05月08日,Vol.324,p.797-801,DOI:10.1126/science.1172482
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の体細胞に初期化因子を導入し、MAPキナーゼ阻害剤、GSK3β阻害剤及びTGFβ阻害剤を含む神経幹細胞培養培地で培養して誘導神経幹細胞様細胞を得る工程と、
前記誘導神経幹細胞様細胞をES細胞培養培地で培養して誘導多能性幹細胞を得る工程と、を含み、
前記初期化因子が、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー、P53機能阻害物質、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGを含む、誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項2】
前記体細胞が成体由来である、請求項1に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項3】
前記ES細胞培養培地が、bFGFを含む、請求項1又は2に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項4】
前記哺乳動物が、多能性誘導耐性動物であり、
前記多能性誘導耐性動物は、マーモセット、イヌ、ブタ又はフェレットである、請求項1~のいずれか一項に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項5】
前記多能性誘導耐性動物は、イヌである、請求項4に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項6】
OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー、P53機能阻害物質、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGを含む初期化因子と、
MAPキナーゼ阻害剤、GSK3β阻害剤及びTGFβ阻害剤を含む神経幹細胞培養培地と、を含む、多能性誘導耐性動物の体細胞から誘導多能性幹細胞を製造するためのキット。
【請求項7】
bFGFを含むES細胞培養培地を更に含む、請求項に記載のキット。
【請求項8】
前記体細胞が成体由来である、請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
前記多能性誘導耐性動物は、マーモセット、イヌ、ブタ又はフェレットである、請求項のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記多能性誘導耐性動物は、イヌである、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法により誘導多能性幹細胞を製造する工程と、
前記誘導多能性幹細胞を分化させて体細胞を得る工程と、を含む、体細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導多能性幹細胞の製造方法及びキットに関する。本願は、2019年4月17日に日本に出願された特願2019-078907号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ヒト、マウスの体細胞からiPS細胞を樹立する技術は、改良と簡便化が進み、iPS細胞を樹立する効率は従来よりも向上している。一方、特に成体の体細胞からiPS細胞を樹立することが困難な動物(多能性誘導耐性動物)が存在する。多能性誘導耐性動物としては、イヌ、ブタ、マーモセット、ネコ、ウシ、ウマ等が知られている。
【0003】
例えば、イヌ胎児由来線維芽細胞において初期化因子を持続的に発現させることにより、イヌiPS細胞を樹立することができる(例えば、非特許文献1を参照)。また、センダイウイルスを用いることにより、イヌ胎児由来線維芽細胞からイヌiPS細胞を樹立することができる(例えば、非特許文献2を参照)。また、ブタ胎児由来線維芽細胞において初期化因子を持続的に発現させることによりブタiPS細胞を樹立することができる(例えば、非特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nishimura T et al., Feeder‐independent canine induced pluripotent stem cells maintained under serum‐free conditions. Mol. Reprod. Dev., vol. 84, 329-339, 2017.
【文献】Tsukamoto M et al., Generation of Footprint-Free Canine Induced Pluripotent Stem Cells Using Auto-Erasable Sendai Virus Vector. Stem Cells Dev., 27, 1577-1586, 2018.
【文献】Du X et al., Barriers for Deriving Transgene-Free Pig iPS Cells with Episomal Vectors. Stem Cells, vol.33, 3228-3238, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、哺乳動物の体細胞から、iPS細胞を樹立する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]哺乳動物の体細胞に初期化因子を導入し、神経幹細胞培養培地で培養して誘導神経幹細胞様細胞を得る工程と、前記誘導神経幹細胞様細胞を増殖用培地で培養して誘導多能性幹細胞を得る工程と、を含み、前記初期化因子が、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー及びP53機能阻害物質を含む、誘導多能性幹細胞の製造方法。
[2]前記初期化因子が、更に、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGからなる群より選択される一種以上を含む、[1]に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法。
[3]前記体細胞が成体由来である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記神経幹細胞培養培地が、MAPキナーゼ阻害剤、GSK3β阻害剤及びTGFβ阻害剤を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記増殖用培地が、bFGFを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の製造方法により製造された、誘導多能性幹細胞。
[7]OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー及びP53機能阻害物質を含む初期化因子と、MAPキナーゼ阻害剤、GSK3β阻害剤及びTGFβ阻害剤を含む神経幹細胞培養培地と、を含む、多能性誘導耐性動物の体細胞から誘導多能性幹細胞を製造するためのキット。
[8]前記初期化因子が、前記初期化因子が、更に、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGからなる群より選択される一種以上を含む、[7]に記載のキット。
[9]bFGFを含む増殖用培地を更に含む、[7]又は[8]に記載のキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、哺乳動物の体細胞から、iPS細胞を樹立する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】初期化因子を発現させるためのEP-Aベクターセットを模式的に表す図である。
図2】初期化因子を発現させるためのEP-Bベクターセットを模式的に表す図である。
図3】(a)、(b)は実験例1における細胞の写真である。(a)は、EP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で4日間培養した細胞を明視野で撮影した写真である。(b)は、EP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で4日間培養した細胞のEGFPの蛍光を撮影した写真である。
図4】(a)、(b)は実験例1における細胞の写真である。(a)は、E01FにEP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で30日間培養した細胞の写真である。図4(b)は、E02MにEP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で30日間培養した細胞の写真である。
図5】マーモセット体細胞からiPS細胞を樹立するための工程を表す図である。
図6】(a)~(d)は実験例2におけるiNSL細胞の写真である。(a)は、E01FにEP-Aベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。(b)は、E01FにEP-Bベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。(c)は、E02MにEP-Aベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。(d)は、E02MにEP-Bベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。
図7】実験例2における、マーモセット胚性線維芽細胞を用いた場合のコロニー形成能を算出した結果を示すグラフである。
図8】(a)、(b)は実験例2におけるアルカリフォスファターゼ染色した結果を示す図である。(a)は、E01FにEP-Aベクターセットに導入し、神経幹細胞培養培地で培養して得られたコロニーをアルカリフォスファターゼ染色した結果を示す図である。(b)は、E01FにEP-Bベクターセットに導入し、神経幹細胞培養培地で培養して得られたコロニーをアルカリフォスファターゼ染色した結果を示す図である。
図9】実験例3における、iNSL細胞とiPS細胞の写真である。(a)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E01F)にEP-Aベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。(b)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E01F)にEP-Aベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養した後、増殖用培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。(c)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E02M)にEP-Bベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。(d)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E02M)にEP-Bベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養した後、増殖用培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。
図10】実験例3における、マーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図11】実験例3における、マーモセットiPS細胞をアルカリフォスファターゼ染色に供した結果を示す図である。
図12】実験例3における、マーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図13】実験例3における、マーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図14】実験例3における、マーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図15】実験例3における、マーモセットiPS細胞における、発現ベクターの有無を解析した結果を示す図である。
図16】実験例4における、マーモセットiPS細胞から分化させた三胚葉における、マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図17】実験例4における、KSR培地で培養したマーモセットiPS細胞が発現するAFPの発現を解析した結果を示す図である。
図18】実験例4における、FBSを含む培地で培養したマーモセットiPS細胞が発現するAFPの発現を解析した結果を示す図である。
図19】実験例4における、マーモセットiPS細胞から形成されたテラトーマを解析した結果を示す図である。
図20】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞の写真である。
図21】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞のコロニー形成能を示す図である。
図22】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞の、アルカリフォスファターゼ染色の結果を示す図である。
図23】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来の、マーモセットiPS細胞のコロニーの写真である。
図24】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiPS細胞の、アルカリフォスファターゼ染色の結果を示す図である。
図25】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図26】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図27】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図28】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図29】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図30】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞から分化した三胚葉における、マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図31】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞から分化した三胚葉における、マーカーの発現を解析した結果を示す図である。
図32】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞から形成されたテラトーマを解析した結果を示す図である。
図33】実験例5における、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞にベクターが残存するか解析した結果を示す図である。
図34】実験例6における、マーモセットiNSL細胞の写真である。
図35】実験例6における、マーモセットiNSL細胞において残存するベクターを解析した結果を示す図である。
図36】実験例6における、マーモセットiNSL細胞の、内在性の、OCT4、NANOG、SOX2、KLKF4、ZFP42の発現を解析した結果を示す図である。
図37】実験例6における、マーモセットiNSL細胞の、DPPA5及びTERTの発現を解析した結果を示す図である。
図38】実験例6における、マーモセットiNSL細胞の、内在性及び外来性の、OCT4、NANOG、KLF4、Lin28の発現を解析した結果を示す図である。
図39】実験例6における、マーモセットiNSL細胞におけるPAX6の発現を解析した結果を示す図である。
図40】実験例6における、マーモセットiNSL細胞における、SOX1とZFP521の発現を解析した結果を示す図である。
図41】実験例6における、マーモセットiNSL細胞における、TとSOX17の発現を解析した結果を示す図である。
図42】実験例6における、神経分化アッセイのスケジュールである。
図43】実験例6における、得られた誘導神経幹細胞から分化した細胞を、Hoechst染色及び抗βIII-tubulin抗体により免疫染色した結果を示す図である。
図44】実験例6における、神経細胞に分化した細胞のうち、βIII-tubulinの発現が認められた細胞の割合を示すグラフである。
図45】実験例7における、クラスタリング解析の結果を示す図である。
図46】実験例7における、遺伝子発現量を解析した結果を示す図である。
図47】実験例7における、主成分分析の結果を示す図である。
図48】実験例8における、イヌiPS細胞が形成したコロニーの写真である。
図49】実験例8における、イヌiPS細胞における、OCT4、SOX2、NANOGの発現を解析した結果を示す図である。
図50】実験例8における、イヌiPS細胞から形成されたテラトーマの写真である。
図51】実験例8における、イヌiPS細胞から形成されたテラトーマ内の、骨、軟骨、神経細胞、網膜、皮脂腺、毛包上皮、腺組織を解析した結果を示す図である。
図52】実験例8における、イヌiPS細胞においてベクターが残存しているか否かを解析した結果を示す図である。
図53】実験例9における、ブタiPS細胞のコロニーの写真である。
図54】実験例9における、ブタiNSL細胞及びブタiPS細胞における、OCT4、SOX2、NANOGの発現を解析した結果を示す図である。
図55】実験例10における、フェレットiPS細胞のコロニーの写真である。
図56】実験例10における、フェレットiNSL細胞及びフェレットiPS細胞における、OCT4、SOX2、NANOGの発現を解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[遺伝子名及びタンパク質名の表記]
本明細書では、ヒト遺伝子及びヒトタンパク質、多能性誘導耐性動物の遺伝子及びタンパク質は、大文字のアルファベットで表すものとする。しかしながら、場合により、ヒト遺伝子、その他の種の遺伝子を厳密に区別せずに大文字のアルファベットで表す場合がある。また、ヒトタンパク質、その他の種のタンパク質を厳密に区別せずに大文字のアルファベットで表す場合がある。
【0010】
本明細書において、例えば「SOX2」との表記は、SOX2タンパク質及びそれをコードする核酸の双方を意味する。また、例えば「初期化因子」との表記は、初期化タンパク質及びそれをコードする核酸の双方を意味する。また、例えば「SOXファミリー」との表記は、SOXタンパク質及びそれをコードする核酸の双方を意味する。
【0011】
[細胞名の表記]
本明細書では、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)を、iPS細胞、iPSCという場合がある。また、誘導神経幹細胞様細胞(induced neural stem cell like cell)を、iNSL細胞、iNSLCという場合がある。
【0012】
[製造方法]
1実施形態において、本発明は、哺乳動物の体細胞に初期化因子を導入し、神経幹細胞培養培地で培養して誘導神経幹細胞様細胞を得る工程(a)と、誘導神経幹細胞様細胞を増殖用培地で培養して誘導多能性幹細胞を得る工程(b)と、を含み、初期化因子が、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー及びP53機能阻害物質を含む、誘導多能性幹細胞の製造方法を提供する。本実施形態において、哺乳動物は、多能性誘導耐性動物であってもよい。
【0013】
本明細書において、多能性誘導耐性動物とは、該動物の成体の体細胞において、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリーの初期化因子を組み合わせて発現させても、iPS細胞を樹立することができない哺乳動物のことを指す。
【0014】
多能性誘導耐動物としては、例えば、サル、ブタ、フェレット、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ、ウサギ等が挙げられるが、これらに限定されない。サルとしては、例えば、マーモセットが挙げられる。
【0015】
本実施形態において、iPS細胞を作製するための材料として用いる多能性誘導耐動物の体細胞としては、例えば、胎児由来の体細胞、成体由来の体細胞を挙げることができる。体細胞としては、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、骨細胞、筋細胞、血管細胞、免疫細胞、上皮細胞、神経細胞、肝細胞、膵臓細胞、それらの前駆細胞等が挙げられる。上述の体細胞は、未分化な細胞、分化した細胞であってもよい。
【0016】
マーモセット、イヌ、ブタ、フェレットは、代表的な多能性誘導耐性動物である。実施例において後述するように、本実施形態の製造方法により、マーモセット、イヌ、ブタ及びフェレットの成体の体細胞から、一過的に初期化因子を細胞内に発現させることにより、初期化因子を発現する発現コンストラクトを細胞内に有しないiPS細胞を樹立することができる。
【0017】
本実施形態において、哺乳動物の体細胞に対して、初期化因子と共に、EBNA-1をコードする核酸を有する、非エピソーマルベクターを導入することが好ましい。
【0018】
(初期化因子)
本実施形態において、初期化因子は、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー及びP53機能阻害物質を含む。
【0019】
OCTファミリーとしては、例えば、OCT3/4、OCT1、OCT2、OCT6等が挙げられる。OCTファミリーとしては、OCT3/4が好ましい。
【0020】
SOXファミリーとしては、例えば、SOX2、SOX1、SOX3、SOX15、SOX17等が挙げられる。
【0021】
KLFファミリーとしては、例えば、KLF1、KLF2、KLF4、KLF5等が挙げられる。
【0022】
MYCファミリーとしては、C-MYC、N-MYC、L-MYC等が挙げられる。
【0023】
LIN28ファミリーとしては、LIN28、LIN28B等が挙げられる。
【0024】
NANOGは、ホメオドメインを有する転写因子である。NANOGを、OCT4、SOX2、LIN28と共に体細胞に発現させると、iPS細胞を樹立することができる(例えば、Yu J et al., Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照)。
【0025】
本明細書において、P53機能阻害物質とは、P53タンパク質の機能を抑制する物質又はP53遺伝子の発現を抑制する物質であれば、どのようなものであってもよい(例えば、国際公開第2009/157593号)。
【0026】
P53タンパク質の機能を抑制する物質としては、P53のドミナントネガティブ変異体、P53タンパク質の機能を阻害する化学物質、抗P53アンタゴニスト抗体、P53応答エレメントのコンセンサス配列を含むデコイ核酸、P53経路の阻害物質等が挙げられる。
【0027】
P53遺伝子の発現を抑制する物質としては、P53に対するsiRNA、shRNA等が挙げられる。
【0028】
P53のドミナントネガティブ変異体としては、マウスP53の14-301位(ヒトP53では11-304位に対応)のアミノ酸を欠失させたP53DDが好ましい(例えば、Bowman, T., Genes & Development, 10, 826-835 (1996)を参照)。
【0029】
初期化因子は、更に、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGからなる群より選択される一種以上を含んでもよい。
初期化因子は、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー、P53機能阻害物質、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGを含むことが好ましい。
【0030】
KDMファミリーは、Lysine Demethylase活性を有し、ヒストン H3のK9を脱メチル化する。KDMファミリーとして、KDM1、KDM2、KDM3、KDM4、KDM5、KDM6が知られている。KDM4D又はKDM4Aの強制発現は、ヒストン H3の9番目のリジン残基を脱メチル化し、体細胞の初期化を促進する(例えば、Matoba et al., Cell, 159, 884-895 (2014); Chung YG et al., Cell Stem Cell, 17, 758-766 (2015)を参照)。
【0031】
初期化因子として用いられるKDMファミリーとしては、特に限定されず、KDM1、KDM2、KDM3、KDM4、KDM5、KDM6が挙げられる。KDMファミリーとしては、KDM4A、KDM4Dが好ましい。
【0032】
GLISファミリー(GLI Similar ファミリー)は、Zinc フィンガー型転写因子である。GLISファミリーとして、GLIS1、GLIS2、GLIS3が知られている。GLIS1の強制発現は、iPS細胞の形成を促進する(例えば、Maekawa et al., Nature, 474, 225-229 (2011)を参照)。また、GLIS1、GLIS2、GLIS3は幹細胞において多様な役割を果たす(例えば、Scoville DW et al., Stem Cell Investig, 4:80 (2017)を参照。)。
【0033】
初期化因子として用いられるGLISファミリーとしては、特に限定されず、GLIS1、GLIS2、GLIS3が挙げられる。GLISファミリーとしては、GLIS1が好ましい。
【0034】
初期化因子は、ESRRファミリーを含んでもよい。
【0035】
ESRRファミリー(Estrogen-related receptorファミリー)は、核内受容体である。ESRRファミリーとして、ESRRA、ESRRB、ESRRGが知られている。OCT4及びSOX2と共に、ESRRB又はESRRGを強制発現させると、体細胞を初期化させることができる(例えば、Feng B et al., Nat. Cell. Biol., vol. 11, 197-203 (2009)を参照)。
【0036】
初期化因子として用いられるESRRファミリーとしては、特に限定されず、ESRRB、ESRRGが挙げられる。
【0037】
初期化因子の組み合わせとしては、国際公開2015/056804号に記載されているように、表1に例示する組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0038】
【表1】
【0039】
初期化因子は、多能性誘導耐性体細胞を初期化する活性を有する限り変異を有していてもよい。初期化因子が変異を有する場合、初期化因子は、表1に例示されるNCBIアクセッション番号により特定されるタンパク質又はmRNAに対して、80%以上の配列同一性を有することが好ましく、90%以上の配列同一性を有することがより好ましく、95%以上の配列同一性を有することが更に好ましい。
【0040】
ここで、アミノ酸配列の配列同一性は、対象のアミノ酸配列(対象アミノ酸配列)が、基準となるアミノ酸配列(基準アミノ酸配列)に対して一致している割合を示す値である。基準アミノ酸配列に対する、対象アミノ酸配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列をアラインメントする。ここで、各アミノ酸配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列において、一致したアミノ酸の数を算出し、下記式(1)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致したアミノ酸の数/対象アミノ酸配列の総アミノ酸数×100 …(1)
【0041】
同様に、基準塩基配列に対する、対象塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の数を算出し、下記式(2)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致した塩基の数/対象塩基配列の総塩基数×100 …(2)
【0042】
本実施形態において、初期化因子が由来する動物種は、初期化因子を導入する体細胞が由来する動物種に対して、同一であってもよいし、異なっていてもよい。当業者であれば、所望の動物種の初期化因子のアミノ酸配列又はmRNA配列をデータベースから取得することができる。
【0043】
初期化因子は、表2に例示されるNCBIアクセッション番号によって特定されるmRNA、それらmRNAがコードするタンパク質、それらmRNAを転写する遺伝子であってもよい(例えば、特許5098028号公報、特許6381442号公報、国際公開2015/030111号、国際公開2015/056804号を参照。)。表1に示されるアクセッション番号はヒトのcDNA配列である。
【0044】
【表2】
【0045】
本実施形態の初期化因子は、タンパク質の形態で導入してもよいし、そのタンパク質をコードするmRNAや発現ベクター等の核酸の形態で導入してもよい。
【0046】
実施例において後述するように、初期化因子は、OCT4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28及びmP53DDを含むことが好ましい。
また、実施例において後述するように、初期化因子は、OCT4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28、mP53DD、KLF2、KDM4D、GLIS1及びNANOGを含むことが好ましい。
【0047】
(工程(a))
本工程では、哺乳動物の体細胞に初期化因子を導入し、神経幹細胞培養培地で培養することにより、誘導神経幹細胞様細胞を得る。ここで、哺乳動物は、多能性誘導耐性動物であってもよい。
【0048】
初期化因子がタンパク質又はRNAである場合には、初期化因子を細胞に取り込ませる方法としては、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等の定法を用いることができる。
【0049】
初期化因子がタンパク質である場合には、初期化因子を細胞に取り込ませる方法として、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。
【0050】
タンパク質導入試薬としては、例えば、BioPORTER(Gelantis)、Pro-DeliverIN(OZ Bioscience)、Ab-DeliverIN(OZ Bioscience)、PULSin Kit(Polyplus-transfection SAS)、Proteinfectin(Targeting Systems)、Fuse-It P(NIPPON Genetics)等のカチオン性脂質型導入試薬;Chariot(Active motif)、Xfect Protein(Clontech)、JBS Transduction Kit(Jena Bioscience)、Cellvader(GE Healthcare)等の膜透過性ペプチド型導入試薬;Profect-1(Targeting Systems)等の脂質型導入試薬;GenomONETM-Neo(FD)(Cosmo Bio)等のHVJエンベロープ型導入試薬等の公知の試薬を用いることができる。
【0051】
mRNAを導入する試薬としては、例えば、TransIT-mRNA Transfection Reagent(TaKaRa)、Lipofectamine MessengerMAXTM(Thermo Fisher Scientific)、XfectTM RNA Transfection Reagent(Clonetech)等の公知の試薬を用いることができる。
【0052】
初期化因子は、初期化因子をコードするDNAとプロモーターを連結した発現コンストラクトであってもよい。プロモーターとしては、対象細胞において活性を有するものであってもよいし、薬剤などにより活性を誘導可能な発現誘導型プロモーターであってもよい。
【0053】
プロモーターとしては、例えば、ほぼ全ての細胞において強いプロモーター活性を有する、サイトメガロウイルス・プロモーター(CMVプロモーター)やCMV early enhancer/chicken beta actin(CAGプロモーター)等であってもよいし、組織特異的なプロモーター活性を有するプロモーター等であってもよい。
【0054】
発現誘導型プロモーターとしては、例えば、ドキシサイクリン誘導型プロモーター、キュメート(Cumate)誘導型プロモーター、熱ショックプロモーター、光誘導プロモーター等が挙げられるがこれに限定されない。また、loxPサイトで挟まれたタンパク質翻訳ストップコドンやポリアデニン配列によって、Cre組換え酵素作用時に発現が誘導されるシステムでもよい。
【0055】
上述の発現コンストラクトは、例えば、トランスポゾンベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、プラスミドベクター、エピソーマルベクター等に組み込まれたものであってもよい。
【0056】
ベクターとしては、ベクターがゲノムに組み込まれないもの、又は、一時的にゲノムに組み込まれるが、人為的な操作によってゲノムから除去することのできるベクターが好ましい。
【0057】
例えば、上記のコンストラクトがトランスポゾンベクターに組み込まれている場合、細胞に導入してトランスポザーゼを作用させることにより、容易に細胞の染色体中に組み込むことができる。また、トランスポザーゼを作用させることにより、染色体中に組み込まれた上記のコンストラクトを、染色体から切り出し、痕跡を残さずに除去することもできる。トランスポゾンは、例えば、piggyBac、Sleeping Beauty、Tol II、mariner等であってもよい。
【0058】
あるいは、上記のコンストラクトの両端にloxP配列を配置しておき、iPS細胞を樹立した後で、Cre組換え酵素を作用させ、loxP配列に挟まれた配列を除去してもよい。
【0059】
ベクターとしては、エピソーマルベクターが好ましい。エピソーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する、哺乳動物細胞内で自律複製するために必要な配列を含むベクターが挙げられる。
【0060】
哺乳動物細胞内で自律複製するために必要な配列としては、哺乳動物細胞内で機能する複製開始点、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子等が挙げられる。
【0061】
具体的には、EBV由来のベクターについては、複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子が挙げられる。SV40のベクターについては、複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。
【0062】
ベクターを細胞に導入する方法としては、例えば、リポフェクション法、DEAE-デキストラン法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法、ウイルスベクター法等が挙げられる。
【0063】
エレクトロポレーション法を実施する装置としては、例えばNEPA21(ネッパジーン社)、4D-Nucleofector(ロンザ社)、Neon(サーモフィッシャーサイエンティフック社)、Gene Pulser Xcell(バイオラッド社)、ECM839(BTX Harvard Apparatus社)等を使用することができる。
【0064】
ベクターを細胞に導入する方法として、トランスフェクション用試薬を使用してもよい。トランスフェクション用試薬としては、例えば、Lipofectamine2000(サーモフィッシャーサイエンティフック社)、StemFect(STEMGEN社)、FuGENE6/HD(プロメガ社)、CRISPRMAX(サーモフィッシャーサイエンティフック社)、jetPRIME Kit(ポリプラストランスフェクション社)、DreamFect(オズバイオサイエンス社)、GenePorter3000(オズバイオサイエンス社)、リン酸カルシウム法用試薬等を使用可能である。
【0065】
続いて、工程(a)において、初期化因子を導入した多能性誘導耐性動物の体細胞を、神経幹細胞培養培地で培養する。神経幹細胞培養培地は、MAPキナーゼ阻害剤、GSK3β阻害剤及びTGFβ阻害剤を含むことが好ましい。
【0066】
神経幹細胞培養培地は、更に、分化抑制因子として、Leukemia Inhibitory Factor(LIF)、成長因子として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含んでもよい。
【0067】
GSK3β阻害剤としては、例えば、CHIR99021、SB-415286、SB-2167、indirubin-3’-Monoxime、Kenpaullone等が挙げられるが、これらの中でも特にCHIR99021、Kenpaulloneが好ましい。また、GSK阻害剤の培地への添加濃度としては、例えば、0.1~10μM、好ましくは1~3μMが挙げられる。
【0068】
TGF-β阻害剤としては、例えば、A83-01、SB-431542、SB-505124、SB-525334、SD-208、LY-36494、SJN-2511等が挙げられる。これらの中でも、A83-01が好ましい。また、TGF-β阻害剤の培地への添加濃度としては、例えば、0.1~10μM、好ましくは0.5~1μMが挙げられる。
【0069】
MAPキナーゼ阻害剤は、例えば、MAPK、ERK、MEK、MEKK、ERK1、ERK2、Raf、MOS、p21ras、GRB2、SOS、JNK、c-jun、SAPK、JNKK、PAK、RAC、p38等のMAPキナーゼ経路の構成因子を阻害するものであってもよい。
【0070】
MAPキナーゼ阻害剤としては、例えば、PD0325901、PD184352、VX-745、SB202190、アニソマイシン、PD98059、SB203580、U0126、AG126、アピゲニン、HSP25キナーゼ阻害剤、5-ヨードツベルシジン、MAPキナーゼアンチセンスオリゴヌクレオチド、コントロールMAPキナーゼオリゴヌクレオチド、MAPキナーゼカスケード阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤セット1、MAPキナーゼ阻害剤セット2、MEK阻害剤セット、オロモウシン(Olomoucine)、イソオロモウシン、N9イソプロピルオロモウシン、p38 MAPキナーゼ阻害剤、PD169316、SB202474、SB202190塩酸塩、SB202474二塩酸塩、SB203580スルホン、Ioto-SB203580、SB220025、SC68376、SKF-86002、チルホスチン(Tyrphostin)AG 126、U0124、U0125、ZM336372等が挙げられる(例えば、特許第6218229号公報を参照。)。これらの中でも、PD0325901が好ましい。また、MAPキナーゼ阻害剤の培地への添加濃度としては、例えば、0.01~10μM、好ましくは0.03~1μMが挙げられる。
【0071】
(工程(b))
本工程では、工程(a)で得られた誘導神経幹細胞様細胞を増殖用培地で培養して誘導多能性幹細胞を得る。
【0072】
実施例において後述するように、工程(a)で得られた誘導神経幹細胞様細胞を、増殖用培地で培養することにより、誘導多能性幹細胞を得ることができる。増殖用培地としては、ES細胞を培養するための公知の培地を用いることができるが、これに限定されず、ES細胞の培養に適した培地であればどのようなものであってもよい。実施例において後述するように、増殖用培地は、bFGF(FGF2)を含んでいてもよい。
【0073】
実施例において後述するように、増殖用培地は、20% KSR(Knockout serum replacement,Thermo Fisher Scientific)及び4~10ng/mL bFGFを含む、ダルベッコ改変イーグル培地であってもよい。
【0074】
[誘導多能性幹細胞]
1実施形態において、本発明は、上述した製造方法により製造された誘導多能性幹細胞を提供する。
【0075】
実施例において後述するように、本実施形態のiPS細胞は、多能性幹細胞マーカーである、OCT4、NANOG、SOX2、KLF4、LIN28、ZFP42、TRA-1-60、SSEA4を内在的に発現する。また、本実施形態のiPS細胞は、内胚葉、中胚葉、外胚葉に分化することができる。また、本実施形態のiPS細胞はテラトーマを形成し、分化した腺上皮、血管、軟骨、脂肪細胞、神経細胞に分化することができる。
【0076】
本実施形態のiPS細胞は、上述した初期化因子を体細胞内で発現させることにより製造されている。このため、初期化因子をコードする遺伝子が導入されている場合がある。
【0077】
しかしながら、例えばエピソーマルベクター等を用いて遺伝子が導入され、培養の途中で当該遺伝子が除去された場合、初期化因子を検出することは不可能である。
【0078】
本実施形態のiPS細胞と、例えば、ES細胞とは、遺伝子発現パターン等に相違が存在する可能性がある。しかしながら、そのような相違が存在するか否かは定かではなく、また、そのような相違を特定して、遺伝子発現パターン等により本実施形態のiPS細胞を特定するためには、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要であり、実質的に不可能である。したがって、本実施形態のiPS細胞は、上述した製造方法により製造されたことにより特定することが実際的であるといえる。
【0079】
上述した初期化因子に加えて、工程(a)において、公知のiPS細胞の樹立効率を改善することのできる効率改善物質を多能性誘導耐性動物の体細胞に接触させることにより、iPS細胞を樹立する効率を改善してもよい。
【0080】
国際公開2015/056804号に記載されているように、iPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human)(Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、UTF1(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling活性化剤(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはmitogen-activated protein kinase signallingおよびglycogen synthase kinase-3の阻害剤、PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、ES細胞特異的miRNA(例えば、miR-302-367クラスター (Mol. Cell. Biol. doi:10.1128/MCB.00398-08)、miR-302 (RNA (2008) 14: 1-10)、miR-291-3p, miR-294およびmiR-295(以上、Nat. Biotechnol. 27: 459-461 (2009)))、3’-phosphoinositide-dependent kinase-1 (PDK1) acitvator(例、PS48 (Cell Stem Cell, 7: 651-655 (2010)) など)、神経ペプチドY(WO 2010/147395)、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)(WO 2010/068955)等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0081】
上述の工程(a)、工程(b)において、体細胞、iNSL細胞、iPS細胞を、低酸素条件下で培養することにより、iPS細胞の樹立効率を改善してもよい。例えば、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度としては、18%以下の条件を挙げることができる。
【0082】
[キット]
1実施形態において、本発明は、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー及びP53機能阻害物質を含む初期化因子と、MAPキナーゼ阻害剤、GSK3β阻害剤及びTGFβ阻害剤を含む神経幹細胞培養培地と、を含む、多能性誘導耐性動物の体細胞から誘導多能性幹細胞を製造するためのキットを提供する。
【0083】
例えば、本実施形態のキットに付属した初期化因子を多能性誘導耐性動物の体細胞に導入した後、本実施形態のキットに付属した神経幹細胞培養培地で培養することにより、iPS細胞を製造することができる。上述したMAPキナーゼ阻害剤、GSK3β阻害剤及びTGFβ阻害剤は、製造方法において上述した阻害剤であってもよい。
【0084】
上述のキットは、bFGFを含む増殖用培地を更に含んでもよい。増殖用培地としては、ES細胞を培養することのできる培地であれば、どのようなものであってもよく、公知の培地であってもよい。
【0085】
本実施形態のキットを用いることにより、多能性誘導耐性動物の体細胞であっても、容易に誘導多能性幹細胞を製造することができる。
【0086】
本実施形態のキットに付属した初期化因子は、更に、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGからなる群より選択される一種以上を含んでもよい。
初期化因子は、OCTファミリー、SOXファミリー、KLFファミリー、MYCファミリー、LIN28ファミリー、P53機能阻害物質、KDMファミリー、GLISファミリー及びNANOGを含むことが好ましい。
【0087】
上述した初期化因子は、製造方法において上述した、タンパク質又はタンパク質をコードする核酸であってもよい。
【0088】
本実施形態のキットに付属したP53機能阻害物質は、製造方法において上述したように、P53タンパク質の機能を抑制する物質又はP53遺伝子の発現を抑制する物質であれば、どのようなものであってもよい。
【0089】
本実施形態のキットは、初期化因子を発現させるための発現コンストラクト及びEBNA-1をコードする核酸を有する非エピソーマルベクターを含んでもよい。発現コンストラクトとしては、製造方法において上述した、プロモーターの下流に初期化因子をコードする遺伝子断片を連結したものが挙げられる。
【実施例
【0090】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
なお、実施例の図1~56中、E01F、E02Mは、マーモセットの胚性線維芽細胞の株名を意味し、I5061F、CM421Fは、成体マーモセットの線維芽細胞の株名を意味する。また、これらの株名の記載は、iPS細胞、iNSL細胞が由来する細胞を意味する場合がある。また、EP-AはEP-Aベクターセットを意味し、EP-BはEP-Bベクターセットを意味する。また、EP-A、EP-Bの記載は、細胞に導入したベクターセットを意味する場合がある。
【0092】
[実験例1]
(初期化因子の導入と増殖用培地での培養)
マーモセットの体細胞に初期化因子を導入した後、得られた細胞を、神経幹細胞培養培地で培養せずに、直接、増殖用培地(ES細胞培養培地)で培養した。
【0093】
まず、次に述べるベクターに挿入された初期化遺伝子発現コンストラクトを準備した。初期化遺伝子は、OCT4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28、mP53DD、KLF2、NANOG、KDM4D、GLIS1である。
【0094】
OCT4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28、KLF2、NANOG、KDM4D、GLIS1はヒトの遺伝子である。mP53DDタンパク質は、マウスのP53タンパク質のC末端が欠失したドミナントネガティブ体である(Okita K et al., An Efficient Non-viral Method to Generate Integration-Free Human iPS Cells from Cord Blood and Peripheral Blood Cells, Stem Cells, vol.31, 458-466, 2013)。
【0095】
マーモセット体細胞に導入した発現コンストラクトを図1、2に示す。発現コンストラクトは、次に述べるような構造を有している。
【0096】
OCT4を発現するpCE-hOCT3/4は、CAGプロモーターの下流にOCT4遺伝子のORFを有し、更に、EBV(Epstein-Barr Virus)プロモーターの下流にEBNA1遺伝子(EBV Nuclear Antigen 1)のORFと、EBVの複製起点OriPとを有している。
【0097】
SOX2とKLF4を発現するpCE-hSKは、CAGプロモーターの下流に、SOX2のORFと、口蹄疫ウイルスの2A配列と、KLF4のORFとを有し、EBVプロモーターの下流にEBNA1遺伝子のORFと、EBVの複製起点OriPとを有している。
【0098】
L-MYCとLIN28を発現するpCE-hULは、CAGプロモーターの下流に、L-MYCのORFと、口蹄疫ウイルスの2A配列と、LIN28のORFとを有し、EBVプロモーターの下流にEBNA1遺伝子のORFと、EBVの複製起点OriPとを有している。
【0099】
mP53DDを発現するpCE-mP53DDは、CAGプロモーターの下流に、mP53DDのORFと、EBVプロモーターの下流にEBNA1遺伝子のORFと、EBVの複製起点OriPとを有している。
【0100】
EGFPを発現するpCXLE-EGFPは、CAGプロモーターの下流にEGFPのORFを有し、EBVプロモーターの下流にEBNA1遺伝子のORFと、EBVの複製起点OriPとを有している。
【0101】
EBNA1を発現するpCXB-EBNA1は、CAGプロモーターの下流にEBNA1遺伝子のORFを有している。
【0102】
KLF2とNANOGを発現するpCE-K2Nは、CAGプロモーターの下流に、KLF2のORFと、口蹄疫ウイルスの2A配列と、NANOGのORFとを有し、EBVプロモーターの下流にEBNA1遺伝子のORFと、EBVの複製起点OriPとを有している。
【0103】
KDM4DとGLIS1を発現するpCE-KdGIは、CAGプロモーターの下流に、KDM4DのORFと、口蹄疫ウイルスの2A配列と、GLIS1のORFとを有し、EBVプロモーターの下流にEBNA1遺伝子のORFと、EBVの複製起点OriPとを有している。
【0104】
EP-Aベクターセットは、pCE-hOCT3/4、pCE-hSK、pCE-hUL、pCE-mP53DD、pCXLE-EGFP、pCXB-EBNA1からなる。
【0105】
EP-Bベクターセットは、pCE-hOCT3/4、pCE-hSK、pCE-hUL、pCE-mP53DD、pCXLE-EGFP、pCXB-EBNA1、pCE-K2N、pCE-KdGIからなる。
【0106】
増殖用培地としては、20% KSR(Knockout serum replacement,Thermo Fisher Scientific)及び4~10ng/mL bFGFを含む、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)を用いた。増殖用培地の組成を下記表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
マーモセットの胚性線維芽細胞(E01F)にEP-Aベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養せずに、直接、増殖用培地で培養した。結果を図3に示す。
【0109】
図3(a)は、EP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で4日間培養した細胞を明視野で撮影した写真である。図3(b)は、EP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で4日間培養した細胞のEGFPの蛍光を撮影した写真である。
【0110】
その結果、マーモセット細胞にEP-Aベクターセットが導入され、マーカーであるEGFPを発現していることが確認された。
【0111】
マーモセットの胚性線維芽細胞(E01F、E02M)にEP-Aベクターセットを導入し、30日間、得られた細胞をES細胞培養用培地で培養した。結果を図4に示す。図4(a)は、E01FにEP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で30日間培養した細胞の写真である。図4(b)は、E02MにEP-Aベクターセットを導入し、増殖用培地で30日間培養した細胞の写真である。
【0112】
その結果、EP-Aベクターセットを導入したマーモセット細胞を、神経幹細胞培養培地で培養せずに、直接、ES細胞培養用培地で培養しても、細胞のコロニー、細胞塊は確認できなかった。この結果から、マーモセット細胞に初期化因子を発現させた後に、ES細胞培養用培地で培養しても、マーモセットiPS細胞は形成されないことが明らかになった。
【0113】
[実験例2]
(初期化因子の導入と神経幹細胞培養培地での培養)
マーモセット胚性線維芽細胞に初期化因子を導入し、神経幹細胞培養培地で培養し、マーモセット細胞を脱分化させた。
【0114】
マーモセット体細胞からiPS細胞を樹立するための工程を図5に示す。まず、エレクトロポレーションにより、マーモセット体細胞へ初期化因子発現コンストラクトを導入した。続いて、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地を用いて、得られた細胞を培養した。
【0115】
続いて、フィーダー細胞としてMEFを用いて、得られた細胞を培養した。続いて、得られた細胞を神経幹細胞培養培地で培養した。
【0116】
神経幹細胞培養培地としては、MAPキナーゼ阻害剤(PD0325901)、GSK3β阻害剤(CHIR99021)及びTGFβ阻害剤(A83-01)を含む培地を用いた。神経幹細胞培養培地の組成を下記表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
表4中、DMEM/F12培地は、DMEMとHam’s F-12を1:1で混合した培地である。Neurobasal培地は、Thermo Fisher Scientific社製である。
【0119】
マーモセット胚性線維芽細胞(E01F、E02M)に、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養した。結果を図6に示す。
【0120】
図6(a)は、E01FにEP-Aベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。図6(b)は、E01FにEP-Bベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。図6(c)は、E02MにEP-Aベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。図6(d)は、E02MにEP-Aベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。
【0121】
その結果、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入したマーモセット細胞はいずれも、コロニーを形成することが明らかになった。
【0122】
更に、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入したマーモセット細胞の、コロニー形成能を算出した。結果を図7に示す。図7は、マーモセット胚性線維芽細胞を用いた場合のコロニー形成能を算出した結果を示すグラフである。
【0123】
また、上述のコロニーをアルカリフォスファターゼ染色に供した。結果を図8に示す。図8(a)は、E01FをEP-Aベクターセットに導入し、神経幹細胞培養培地で培養して得られたコロニーをアルカリフォスファターゼ染色した結果を示す図である。図8(b)は、E01FをEP-Bベクターセットに導入し、神経幹細胞培養培地で培養して得られたコロニーをアルカリフォスファターゼ染色した結果を示す図である。
【0124】
その結果、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入したマーモセット細胞のコロニーは、アルカリフォスファターゼ染色により染色されることが明らかになった。
【0125】
この結果から、これらのコロニーは、脱分化して、未分化の状態にあることが示唆された。以後、これらのコロニーを形成する細胞を、誘導神経幹細胞様細胞、iNSLC(induced Neural Stem Cell LIKE Cell)、iNSL細胞と呼ぶことがある。
【0126】
[実験例3]
(マーモセットiPS細胞の樹立)
マーモセット胚性線維芽細胞に初期化因子を導入し、神経幹細胞培養培地で培養した後、増殖用培地(ES細胞培養培地)で培養し、マーモセットiPS細胞を樹立した。神経幹細胞培養培地、増殖用培地は、実験例1、2と同一の培地を用いた。
【0127】
マーモセット胚性線維芽細胞(E01F、E02M)に、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入した。続いて、得られた細胞を神経幹細胞培養培地で培養した後に、増殖用培地で培養した。
【0128】
結果を図9に示す。図9(a)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E01F)にEP-Aベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。図9(b)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E01F)にEP-Aベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養した後、増殖用培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。図9(c)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E02M)にEP-Bベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。図9(d)は、マーモセット胚性線維芽細胞(E02M)にEP-Bベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養した後、増殖用培地で培養し、形成されたコロニーの写真である。
【0129】
その結果、マーモセット胚性線維芽細胞に初期化因子を導入し、神経幹細胞培養培地で培養した後、増殖用培地で培養すると、ES細胞が形成するコロニーと形状が類似したコロニーが観察された。
【0130】
続いて、マーモセットES細胞(No.40 ESC)、上述のマーモセットiPS細胞(E01F由来の、A-2-2、A-2-6、A-2-7、E02M由来の、B-0-6、B-0-7、B-0-11)のコロニーについて、Hoechst染色、抗TRA-1-60抗体、抗SSEA4抗体を用いた免疫染色に供した。TRA-1-60、SSEA4は、ES細胞において発現する遺伝子である。結果を図10に示す。
【0131】
図10は、マーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。その結果、これらのマーモセットiPS細胞は、ES細胞と同様に、TRA-1-60、SSEA4を発現することが明らかになった。
【0132】
続いて、上述したマーモセットiPS細胞のコロニーを、アルカリフォスファターゼ染色に供した。結果を図11に示す。図11は、マーモセットiPS細胞をアルカリフォスファターゼ染色に供した結果を示す図である。その結果、これらのコロニーは、未分化細胞と同様に、アルカリフォスファターゼ染色により染色されることが明らかになった。
【0133】
続いて、上述したマーモセットiPS細胞のコロニーを、Hoechst染色、抗OCT4抗体、抗NANOG抗体を用いた免疫染色に供した。結果を図12に示す。図12は、マーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。その結果、ES細胞と同様に、これらマーモセットiPS細胞のコロニーは、OCT4とNANOGを発現することが明らかになった。
【0134】
続いて、上述したマーモセットiPS細胞、マーモセットES細胞(No.40、DSY127)、マーモセット胚性線維芽細胞について、内在性のOCT4、内在性のNANOG、内在性のSOX2、内在性のKLF4遺伝子の発現、ZFP42遺伝子(Zinc finger protein 42)、DPPA遺伝子(Developmental Pluripotency Associated 2)、TERT遺伝子(Telomerase Reverse Transcriptase)の発現を、qRT-PCRにより解析した。結果を図13図14に示す。
【0135】
図13図14は、マーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。その結果、マーモセットiPS細胞は、マーモセットES細胞と同様に、内在的に、OCT4、NANOG、SOX2、KLF4、DRPA5、ZFP42、TERT遺伝子を発現することが明らかになった。
【0136】
続いて、マーモセットiPS細胞に、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットに含まれるベクターが残存しているか否かをPCR法により解析した。結果を図15に示す。図15は、マーモセットiPS細胞における、発現ベクターの有無を解析した結果を示す図である。
【0137】
その結果、E01F A-2-2 iPSC、E01F A-2-3 iPSC、E01F A-2-5 iPSC、E01F A-2-6 iPSC、E01F A-2-7 iPSC、E02M B-0-6 iPSC、E02M B-0-7 iPSCについては、細胞内にEP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットが残存していないことが明らかになった。
【0138】
以上の結果から、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入したマーモセット細胞を、神経幹細胞培養培地で培養した後に、増殖用培地で培養すると、ベクターセットを失っても、ES細胞のマーカー遺伝子が発現することが明らかになった。
【0139】
[実験例4]
(マーモセットiPS細胞の多能性)
実験例3で得られたマーモセットiPS細胞を、内胚葉、中胚葉、外胚葉に分化させて、各胚葉のマーカー遺伝子の発現を解析し、マーモセットiPS細胞の多能性を検証した。
【0140】
まず、マーモセットiPS細胞(A-2-2、A-2-6、A-2-7、B-0-7)を、浮遊培養して、各胚葉に分化させた。
【0141】
続いて、内胚葉についてはAlpha-fetoprotein(AFP)、中胚葉についてはα-Smooth muscle actin(αSMA)、外肺葉についてはMicrotubule associated protein 2(MAP2)、βIII-tubulinの発現を、各タンパク質に対する抗体を用いて解析した。また、同時に、Hoechst染色も行った。結果を図16に示す。
【0142】
図16は、マーモセットiPS細胞から分化させた三胚葉における、マーカーの発現を解析した結果を示す図である。その結果、マーモセットiPS細胞から形成された各胚葉は、各胚葉に特徴的なマーカー遺伝子を発現していることが明らかになった。
【0143】
また、マーモセットiPS細胞から形成された胚様体を、KnockOut Serum Replacement培地(KSR培地)又はウシ胎児血清を10%含む培地を用いて、2週間又は4週間培養した後の、AFPの発現をqRT-PCRにより解析した。結果を図17、18に示す。
【0144】
図17は、KSR培地で培養したマーモセットiPS細胞が発現するAFPの発現を解析した結果を示す図である。図18は、FBSを含む培地で培養したマーモセットiPS細胞におけるAFPの発現を解析した結果を示す図である。
【0145】
図17、18中、EBは胚様体を示し、2wは2週間後を示し、4wは4週間後を示す。その結果、マーモセットiPS細胞から形成された胚様体は、AFPを発現することが明らかになった。
【0146】
さらに、得られたマーモセットiPS細胞(A-2-2、A-2-7、B-0-7)を免疫不全マウス(NOD/SCID)の精巣に注入し、2~3か月後に、精巣内に形成されたテラトーマを摘出し、内胚葉、中胚葉、外胚葉から分化した組織を観察した。
【0147】
より具体的には、内胚葉から分化した腺上皮、中胚葉から分化した血管、軟骨、脂肪細胞については、ヘマトキシリン-エオシン染色(HE染色)により観察し、外胚葉から分化した神経細胞については、HE染色、ニューロフィラメント 200kDaに対する抗体による免疫染色により観察した。結果を図19に示す。
【0148】
図19は、マーモセットiPS細胞から形成されたテラトーマを解析した結果を示す図である。その結果、テラトーマには、分化した腺上皮、血管、軟骨、脂肪細胞、神経細胞が形成されることが明らかになった。
【0149】
[実験例5]
(成体マーモセット細胞からのiPS細胞の樹立)
成体のマーモセットの線維芽細胞に、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養し、iNSL細胞を樹立した。さらに、得られたiNSL細胞を増殖用培地で培養することにより、iPS細胞を樹立した。
【0150】
成体マーモセットの線維芽細胞(I5061F、CM421F)を用いて、上述した方法により、マーモセットiNSL細胞を樹立した。結果を図20に示す。図20は、成体マーモセットの線維芽細胞由来の、iNSL細胞の写真である。
【0151】
その結果、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞は、細胞塊及びコロニーを形成することが明らかになった。
【0152】
続いて、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞の、コロニー形成能を算出した。結果を図21に示す。図21は、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞のコロニー形成能を示す図である。
【0153】
図21中、「+VPA」は、2日間、ヒストン脱アセチル化阻害剤(Valproic Acid)を加えたことを示す。その結果、成体マーモセットの線維芽細胞から、再現性良くiNSL細胞を樹立できることが明らかになった。
【0154】
続いて、上述のiNSL細胞について、アルカリフォスファターゼ染色を行った。結果を図22に示す。図22は、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞の、アルカリフォスファターゼ染色の結果を示す図である。
【0155】
その結果、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞は、アルカリフォスファターゼを発現することが明らかになった。すなわち、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiNSL細胞は未分化性を有していることが明らかになった。
【0156】
続いて、実験例3と同様に、上述のiNSL細胞を増殖用培地で培養してマーモセットiPS細胞を得た。結果を図23に示す。図23は、成体マーモセットの線維芽細胞由来の、マーモセットiPS細胞のコロニーの写真である。その結果、増殖用培地で培養されたマーモセットiPS細胞は、ES細胞のコロニーと類似したコロニーを形成することが明らかになった。
【0157】
続いて、得られたマーモセットiPS細胞を、アルカリフォスファターゼ染色に供した。結果を図24に示す。図24は、成体マーモセットの線維芽細胞由来のiPS細胞の、アルカリフォスファターゼ染色の結果を示す図である。その結果、樹立したマーモセットiPS細胞は、未分化であることが示唆された。
【0158】
続いて、得られたマーモセットiPS細胞を、抗TRA-1-60抗体、抗SSEA4抗体を用いて免疫染色した。同時に、Hoechstを用いて染色を行った。結果を図25に示す。
【0159】
図25は、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。その結果、得られたマーモセットiPS細胞は、ES細胞と同様に、TRA-1-60、SSEA4を発現することが明らかになった。
【0160】
続いて、得られたマーモセットiPS細胞について、内在性の、OCT4、NANOG、SOX2、KLF4、Lin28遺伝子の発現、ZFP42遺伝子、DPPA遺伝子、TERT遺伝子の発現を、qRT-PCRにより解析した。結果を図26~29に示す。
【0161】
図26~29は、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞における、ES細胞マーカーの発現を解析した結果を示す図である。その結果、得られたマーモセットiPS細胞は、マーモセットES細胞と同様に、上述の遺伝子を発現することが明らかになった。
【0162】
続いて、得られたマーモセットiPS細胞を、実験例4と同様の方法により、内胚葉、中胚葉、外胚葉に分化させて、各胚葉のマーカー遺伝子の発現を解析した。
【0163】
続いて、内胚葉についてはAFP、中胚葉についてはαSMA、外肺葉についてはMAP2、βIII-tubulinの発現を、各タンパク質に対する抗体を用いて解析した。また、同時に、Hoechst染色も行った。結果を図30、31に示す。
【0164】
図30図31は、成体マーモセット線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞から分化した三胚葉における、マーカーの発現を解析した結果を示す図である。その結果、得られたマーモセットiPS細胞から分化して形成された各胚葉は、各胚葉に特徴的なマーカー遺伝子を発現していることが明らかになった。
【0165】
さらに、得られたマーモセットiPS細胞から、実験例4と同様に、テラトーマを作製し、内胚葉、中胚葉、外胚葉から分化した組織を観察した。内胚葉から分化した腺上皮、中胚葉から分化した血管については、HE染色により観察し、外胚葉から分化した神経細胞については、HE染色、ニューロフィラメント 200kDaに対する抗体による免疫染色により観察した。結果を図32に示す。
【0166】
図32は、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞から形成されたテラトーマを解析した結果を示す図である。その結果、テラトーマには、分化した腺上皮、血管、神経細胞が形成されることが明らかになった。
【0167】
また、得られたマーモセットiPS細胞について、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットに含まれるベクターが残存しているか否かをPCR法により解析した。結果を図33に示す。
【0168】
図33は、成体マーモセットの線維芽細胞由来のマーモセットiPS細胞にベクターが残存するか解析した結果を示す図である。その結果、得られたマーモセットiPS細胞には、ベクターが残存していないことが明らかになった。
【0169】
[実験例6]
(iNSL細胞の遺伝子発現パターンの解析)
マーモセットの胚性線維芽細胞又は成体マーモセットの線維芽細胞に、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養し、誘導神経幹細胞様細胞(iNSL細胞)を得た。得られたiNSL細胞の、遺伝子発現パターン及び神経細胞への分化能を解析した。
【0170】
まず、マーモセットの胚性線維芽細胞に、EP-Aベクターセット又はEP-Aベクターセットを導入した後、神経幹細胞培養培地で培養した。結果を図34に示す。図34は、マーモセットiNSL細胞の写真である。その結果、iNSL細胞が得られたことが確認された。
【0171】
続いて、得られたiNSL細胞に、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットが残存しているか否かをPCR法により解析した。結果を図35に示す。図35は、iNSL細胞において残存するベクターを解析した結果を示す図である。
【0172】
その結果、ベクターセットの導入後に、10回継代したiNSL細胞には、EP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットが残存していることが明らかになった。
【0173】
続いて、得られたiNSL細胞の遺伝子発現パターンをqRT-PCRにより解析した。結果を図36図37に示す。図36は、iNSL細胞の、内在性の、OCT4、NANOG、SOX2、KLKF4、ZFP42の発現を解析した結果を示す図である。図37は、iNSL細胞の、DPPA5及びTERTの発現を解析した結果を示す図である。
【0174】
その結果、得られたiNSL細胞は、SOX2、TERTを内在的に発現するが、OCT4、NANOG、KLF4、ZFP42、DPPA5を内在的に発現していないことが明らかになった。
【0175】
続いて、得られたiNSL細胞の、内在性遺伝子発現と、外来性(ベクターセットによる遺伝子発現)遺伝子発現を合わせた遺伝子発現量をqRT-PCRにより解析した。図38は、iNSL細胞の、内在性及び外来性の、OCT4、NANOG、KLF4、Lin28の発現を解析した結果を示す図である。
【0176】
その結果、内在性遺伝子発現と、外来性遺伝子発現を合わせた遺伝子発現量では、OCT4、KLF4、Lin28は発現しているが、NANOGは発現していないことが明らかになった。
【0177】
続いて、得られたiNSL細胞について、神経幹細胞のマーカーであるPAX6(Paired box 6)、SOX1(Sry-type HMG box 1)、ZFP521(Zinc Finger Protein 521)の発現をqRT-PCRにより解析した。結果を図39図40に示す。
【0178】
図39は、iNSL細胞におけるPAX6の発現を解析した結果を示す図である。図40は、iNSL細胞における、SOX1とZFP521の発現を解析した結果を示す図である。その結果、マーモセットES細胞にはPAX6は発現しないが、得られた誘導神経幹細胞はPAX6、SOX1、ZFP521を発現することが明らかになった。
【0179】
続いて、得られた誘導神経幹細胞について、中胚葉マーカーであるT(TBX T)、内胚葉マーカーであるSOX17(Sry-type HMG box 17)の発現をqRT-PCRにより解析した。結果を図41に示す。
【0180】
図41は、iNSL細胞における、TとSOX17の発現を解析した結果を示す図である。その結果、T及びSOX17は、マーモセットES細胞においては発現するが、得られた誘導神経幹細胞においては発現しないことが確認された。
【0181】
続いて、マーモセットES細胞、マーモセットiPS細胞、マーモセット誘導神経幹細胞について、unbiased neuronal differentiation assayにより、神経幹細胞への分化能を解析した。図42は、神経分化アッセイのスケジュールである。具体的には、浮遊培養を7日間行った後、接着培養を7日間行った。結果を図43図44に示す。
【0182】
図43は、得られた誘導神経幹細胞から分化した細胞を、Hoechst染色及び抗βIII-tubulin抗体により免疫染色した結果を示す図である。その結果、得られた誘導神経幹細胞から分化した細胞は、神経細胞に分化していることが明らかになった。
【0183】
図44は、神経細胞に分化した細胞のうち、βIII-tubulinの発現が認められた細胞の割合を示すグラフである。その結果、マーモセットES細胞、マーモセットiPS細胞から分化した細胞はβIII-tubulinを発現しないが、マーモセット誘導神経幹細胞から分化した細胞はβIII-tubulinを発現することが明らかになった。
【0184】
以上の結果から、マーモセットの成体の線維芽細胞にEP-Aベクターセット又はEP-Bベクターセットを導入し、神経幹細胞培養培地で培養して得られたiNSL細胞は、神経幹細胞の形質を獲得することが明らかになった。
【0185】
また、iNSL細胞を、増殖用培地へ移さずに神経幹細胞培養培地で培養し続けると、iNSL細胞はベクターを保持し続けているにもかかわらず、神経幹細胞の形質を保持し、ES細胞の形質を獲得しないことが明らかになった。
【0186】
この結果から、多能性誘導耐性動物の成体の体細胞から直接にiPS細胞を作製することはできないが、一度、神経幹細胞へ脱分化させた後に、さらにiPS細胞に脱分化させることは可能であることが明らかになった。
【0187】
[実験例7]
(マーモセットiPS細胞とiNSL細胞の遺伝子プロファイリング)
マーモセットの、ES細胞、iPS細胞、iNSL細胞の遺伝子発現プロファイルについてクラスタリング解析を行った。
【0188】
マーモセットの、ES細胞、iPS細胞、iNSL細胞について、網羅的遺伝子発現プロファイルに基づいて、クラスタリング解析を行った。結果を図45に示す。その結果、マーモセットiPS細胞はマーモセットES細胞と類似性が高く、マーモセットiNSL細胞はマーモセット線維芽細胞と類似性が高いことが明らかになった。
【0189】
続いて、各クラスターの類似性を反映している40遺伝子について、各細胞における発現量を解析した。結果を図46に示す。その結果、マーモセットiPS細胞とマーモセット誘導神経幹細胞とで、発現量に特徴がある遺伝子を抽出することができた。
【0190】
各細胞の遺伝子発現プロファイルについて、主成分分析を行った。結果を図47に示す。その結果、各細胞は、線維芽細胞、ES細胞及びiPS細胞、並びに、誘導神経幹細胞のグループに分けられることが明らかになった。
【0191】
[実験例8]
(イヌiPS細胞の樹立)
イヌの線維芽細胞に、EP-Bベクターセットを導入し、イヌiPS細胞を樹立した。
【0192】
結果を図48に示す。図48は、イヌiPS細胞が形成したコロニーの写真である。その結果、イヌiPS細胞は、ES細胞が形成するコロニーと類似したコロニーを形成することが明らかになった。
【0193】
得られたイヌiPS細胞について、ES細胞のマーカーの発現を解析した。結果を図49に示す。図49は、イヌiPS細胞における、OCT4、SOX2、NANOGの発現をRT-PCRにより解析した結果を示す図である。
【0194】
その結果、イヌiPS細胞は、OCT4、SOX2、NANOGを発現することが明らかになった。すなわち、イヌiPS細胞は、ES細胞と類似した形質を有することが示唆された。
【0195】
イヌiPS細胞を免疫不全マウス(NOD/SCID)の精巣に注入し、2~3か月後に、精巣内に形成されたテラトーマを摘出して、テラトーマを観察した。結果を図50に示す。
【0196】
得られたテラトーマを、ヘマトキシリン・エオシン染色に供して、各組織を観察した。結果を図51に示す。図51は、骨、軟骨、神経細胞、網膜、皮脂腺、毛包上皮、腺組織を解析した結果を示す図である。
【0197】
得られたイヌiPS細胞に導入したベクターが残存しているか否かをPCR法により解析した。結果を図52に示す。その結果、イヌiPS細胞には発現ベクターは残存していないことが確認された。
【0198】
[実験例9]
(ブタiPS細胞の樹立)
ブタの線維芽細胞に、EP-Bベクターセットを導入し、ブタiNSL細胞及びブタiPS細胞を樹立した。
【0199】
図53は、得られたブタiPS細胞のコロニーの写真である。ブタiPS細胞は、ES細胞が形成するコロニーと類似したコロニーを形成することが明らかになった。
【0200】
続いて、ブタiPS細胞とブタiNSL細胞における、RT-PCRによりES細胞のマーカーの発現を解析した。図54は、ブタiNSL細胞及びブタiPS細胞における、OCT4、SOX2、NANOGの発現を解析した結果を示す図である。
【0201】
その結果、ブタiPS細胞は、OCT4、SOX2、NANOGを発現することが明らかになった。また、ブタiNSL細胞はSOX2を発現することが明らかになった。
【0202】
[実験例10]
(フェレットiPS細胞の樹立)
フェレットの線維芽細胞に、EP-Bベクターセットを導入し、フェレットiNSL細胞及びフェレットiPS細胞を樹立した。
【0203】
図55は、得られたフェレットiPS細胞のコロニーの写真である。フェレットiPS細胞は、ES細胞が形成するコロニーと類似したコロニーを形成することが明らかになった。
【0204】
続いて、フェレットiPS細胞における、ES細胞のマーカーの発現を解析した。図56は、フェレットiNSL細胞及びフェレットiPS細胞における、OCT4、SOX2、NANOGの発現をRT-PCRにより解析した結果を示すである。
【0205】
その結果、フェレットiPS細胞は、OCT4、SOX2、NANOGを発現することが明らかになった。また、フェレットiNSL細胞はSOX2を発現することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明によれば、哺乳動物の体細胞から、iPS細胞を樹立する新たな技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
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図50
図51
図52
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図55
図56