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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】センシング繊維部材
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/20 20060101AFI20241121BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01L1/20 Z
D02G3/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022571646
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021048008
(87)【国際公開番号】W WO2022138862
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2020213589
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515162442
【氏名又は名称】旭化成アドバンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】594149804
【氏名又は名称】カジナイロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真由美
(72)【発明者】
【氏名】小森 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂
(72)【発明者】
【氏名】吉村 貫生
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2185565(KR,B1)
【文献】特開2010-101836(JP,A)
【文献】特開2020-016554(JP,A)
【文献】特開2011-086114(JP,A)
【文献】特開2017-120237(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2126137(KR,B1)
【文献】特表2020-517841(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0118110(KR,A)
【文献】特開2016-090319(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0170919(US,A1)
【文献】特表2012-519846(JP,A)
【文献】特開2010-014694(JP,A)
【文献】特表2009-516839(JP,A)
【文献】特表2006-515071(JP,A)
【文献】特開平01-127715(JP,A)
【文献】特開2019-219395(JP,A)
【文献】特開2006-234716(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0224280(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/14,1/20,5/00-5/28,
D02G 1/00-3/48
D02J 1/00-13/00
D03D 1/00-27/18
D06M 10/00-11/84,16/00,19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを少なくとも2本有し、その内の2本が互いに近接して配置されているセンシング繊維部材であって、該互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化を読み取り、ここで、該互いに近接して配置されるカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗(センサ抵抗)の値が、該線状導電体の長さ10cmあたり0.5kΩ~5GΩの範囲内にあり、かつ、該センサ抵抗値が、該線状導電体のみの長さ10cmあたりの抵抗(配線抵抗)の値に対して、20倍~1×109倍であり、
該芯材としての線状導電体は、フィラメント数が10~200のマルチフィラメント導電性繊維であり、
該絶縁性繊維が、マルチフィラメント絶縁性繊維又は絶縁性紡績糸のいずれかを含み、
該カバーリングヤーンが、芯材としての線状導電体の周囲を2本の被覆材でカバーリングした、ダブルカバーリングヤーンであり、そして
該カバーリングヤーンの以下の式:
撚り係数K=(SS+SC) 1/2 ×R
{式中、SSは、芯材としての線状導電体の繊度(dtex)であり、SCは、被覆材の総繊度(dtex)であり、そしてRは、被覆材の巻き付け数(撚り数)(回/m)である。}で表される撚り係数Kが、7000以上30,000以下である、
ことを特徴とする前記センシング繊維部材。
【請求項2】
前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への物体の接触又は荷重を感知する、請求項に記載のセンシング繊維部材。
【請求項3】
前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材の伸縮又は曲げ変形を感知する、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項4】
センシング繊維部材への引張力の印加において、前記近接する2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗が低下する、請求項3記載のセンシング繊維部材。
【請求項5】
センシング繊維部材に外部からの作用が発生したときに、前記近接する2本のカバーリングヤーンの芯材が電気的なショートを起こさない、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項6】
前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への液体の接触又は湿度の変化を感知する、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項7】
前記ダブルカバーリングヤーンにおける、該2本の被覆材の巻き付け方向が、同一方向である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項8】
前記互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーン同士が、交差する接点を有する、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項9】
前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された織物である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項10】
前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された編物である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項11】
前記互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーンにおけるマルチフィラメント絶縁性繊維の巻き付け方向が同じであり、該2本のカバーリングヤーン同士が、該マルチフィラメント絶縁性繊維の巻き付け方向と反対の方向に諸撚された諸撚糸である、請求項に記載のセンシング繊維部材。
【請求項12】
諸撚糸である請求項11に記載のセンシング繊維部材が、織り込まれている織物。
【請求項13】
諸撚糸である請求項11に記載のセンシング繊維部材が、編み込まれている編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを有するセンシング繊維部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル技術が提案されている。これらは、柔軟な繊維基材上に、センサ、バッテリー、ヒーター、ペルチェ素子等の機能素子を設けるものであり、非常に薄型で可撓性のある製品が実現できるため、これからのIoT(Internet of Things)社会において非常に重要である。
【0003】
上記センサの1つとして、従来、接触に対するセンシング機能をもつ繊維部材として、図1に示すような、圧電型の加工糸や圧電センサが提案されている。以下の特許文献1~5に記載されるように、一般に、圧電型の加工糸(圧電糸、圧電繊維ともいう。)は、導電性繊維の周りをポリ乳酸やポリフッ化ビニリデン等の圧電材料で被覆し、さらにその周りを金属メッキなどの導体で被覆した構造をもっている。ポリ乳酸は、結晶性のヘリカルキラル高分子であり、その一軸延伸フィルムは圧電性を有している。圧電性とは応力を印加すると電荷が発生する性質である。これにより内層側の導電性繊維(1)と外側の導電性繊維(3)との間に、例えば、図1に示すように、(1)側が[-]、(3)側が「+」の荷電が発生する。また、この逆の場合もある。この場合、圧電材料を配向させることが必要であり、メッキ工程において生産性を高めることが困難であるという問題があるため、現状、加工糸1m当たり約1000円~5000円と非常に高価なものとなっている。また、図1に示すような構造では、1万m以上といった長尺の加工糸を製造することは、現状、困難であるため、圧電糸を織物や経編の経糸として使用することが非常に困難である。さらに、圧電材料であるポリ乳酸の剛性によって、圧電糸の風合いが悪くなり、繊維としてしなやかさに欠けるものとなるという問題もある。
【0004】
また、以下の特許文献6、7に記載されるように、2つの近接した電極間の、接触や荷重が加えられた際の静電容量の変化を検知することにより、接触又は荷重を感知する接触センシング繊維部材が知られており、それ以外にも、1つの電極に対して導体(人体など)が近接する際の静電容量の変化を検知する技術は知られている。しかしながら、従来技術では、2つの電極間の絶縁体として、主にウレタンやシリコーンなどの絶縁体が使われており、電極間の距離を大きく変化させることが困難なため、出力(感度)が小さく、また、高コストであり風合いが良好ではなかった。また、特許文献8に記載されるように、1つの電極を利用する場合、静電容量変化が非常に微小であるため、この微小信号を検知するための高度な信号処理回路を用いる必要があるが、現状、接触の感度は低く、また、近接センサとしての感度が低いものしか得られていない。
【0005】
他方、以下の特許文献9、10に記載されるように、バルキー性に優れたカバーリングヤーンや高生産性で且つ高品質なカバーリングヤーンに関する技術は知られているが、これらのカバーリングヤーンに関する技術をセンシング繊維部材として用いることは記載されておらず示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6025854号公報
【文献】特許第6689943号公報
【文献】特開2020-090768号公報
【文献】特開2020-036027号公報
【文献】特許第6107069号公報
【文献】特許第5754946号公報
【文献】特開2006-234716号公報
【文献】特開2016-173685号公報
【文献】特開平10-25635号公報
【文献】特開2013-231246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した技術水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物や経編の経糸として使用も可能であり、しなやかで風合いに優れ、かつ、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである、センシング繊維部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、本発明者らは鋭利検討し実験を重ねた結果、以下の構造とすることで、前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを少なくとも2本有し、その内の2本が互いに近接して配置されているセンシング繊維部材であって、該互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化及び/又は静電容量の変化を読み取ることを特徴とする前記センシング繊維部材。
[2]前記絶縁性繊維が、マルチフィラメント絶縁性繊維又は絶縁性紡績糸のいずれかを含む、前記[1]に記載のセンシング繊維部材。
[3]前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への物体の接触又は荷重を感知する、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[4]前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材の伸縮又は曲げ変形を感知する、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[5]前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への液体の接触又は湿度の変化を感知する、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[6]前記カバーリングヤーンの以下の式:
撚り係数K=(SS+SC)1/2×R
{式中、SSは、芯材としての線状導電体の繊度(dtex)であり、SCは、被覆材の総繊度(dtex)であり、そしてRは、被覆材の巻き付け数(撚り数)(回/m)である。}で表される撚り係数Kが、7000以上30,000以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[7]前記カバーリングヤーンが、芯材としての線状導電体の周囲を2本の被覆材でカバーリングした、ダブルカバーリングヤーンであり、該2本の被覆材の巻き付け方向が、同一方向である、前記[1]~[6]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[8]前記互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーン同士が、交差する接点を有する、前記[1]~[7]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[9]前記芯材としての線状導電体は、マルチフィラメント導電性繊維である、前記[1]~[8]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[10]前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された織物である、前記[1]~[9]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[11]前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された編物である、前記[1]~[9]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[12]前記互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーンにおける絶縁性繊維の巻き付け方向が同じであり、該2本のカバーリングヤーン同士が、該絶縁性繊維の巻き付け方向と反対の方向に諸撚された諸撚糸である、前記[1]~[9]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[13]諸撚糸である前記[12]に記載のセンシング繊維部材が、織り込まれている織物。
[14]諸撚糸である前記[12]に記載のセンシング繊維部材が、編み込まれている編物。
[15]芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを少なくとも1本有する、物体の近接又は接触を感知するためのセンシング繊維部材であって、該少なくとも1本のカバーリングヤーンの線状導電体とグラウンドとの間の該物体の近接又は接触による静電容量の変化により、該センシング繊維部材への物体の近接又は接触が感知される、前記センシング繊維部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る接触センシング繊維部材は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物や経編の経糸として使用可能であり、しなやかで風合いに優れ、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである。すなわち、本発明に係る接触センシング繊維部材は、一般的な繊維材料であるポリエステル、ナイロン等を用いて荷重のセンシングが可能であるため、非常に低コストで接触センシング繊維を実現でき、また、ノウハウが確立している繊維加工技術であるカバーリング技術を用いるため、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、さらに、圧電糸に比較して、非常に風合い良い加工糸が実現できるため、織物や編物等の繊維部材への加工が容易となる。
本発明に係る接触センシング繊維部材は、静電容量だけでなく、抵抗値が変化するため、荷重を連続的に印加している状態を検知することができる。
したがって、本発明に係る接触センシング繊維部材は、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル用途、例えば、踏んだら検知可能なラグ、人の出入り検知用防犯マット、人数カウント用マット等、接触センシング織編物、例えば、看護や介護等の現場での見守りセンサ、工場等の生産現場での触覚をデジタル化して伝達するセンサ、車両シートベルト等へのセンサ埋め込み用部材、例えば、車両用シートベルト、ハンドル、ダッシュボード等への接触センサ(生体センサ)の埋め込み、人の在・不在の検知センサ、後部座席の子供の放置防止、見守りセンサ等の各種用途に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の圧電型の加工糸の模式図である。
図2】本実施形態のセンシング繊維部材の模式図である。
図3】諸撚糸である本実施形態のセンシング繊維部材の外観、及び拡大写真である。
図4】諸撚糸である本実施形態のセンシング繊維部材を織り込んだ細幅織物の写真である。
図5】芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを経糸と緯糸に用いた平織の織物形態にある本実施形態のセンシング部材の写真である。
図6】芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングした2本のカバーリングヤーンの間の抵抗変化を測定するための装置系の概略図である。
図7】実施例1の諸撚糸である本実施形態のセンシング繊維部材における荷重印加時間と電流値(センサ出力)の関係の一例を示すグラフである。但し、印加荷重条件は、表1の条件と異なる。
図8】諸撚糸である本実施形態のセンシング繊維部材における印加荷重と電流値(センサ出力)変化率の関係を示すグラフである。
図9】実施例7の芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを経糸と緯糸に用いた平織の織物(細幅織物)形態にある本実施形態のセンシング部材における荷重印加時間と電流値(センサ出力)の関係の一例を示すグラフである。但し、印加荷重条件は、表1の条件と異なる。
図10】カバーリングヤーンの製造装置の概略図である。
図11】上記製造装置で得られるカバーリングヤーンの模式図である。
図12】対になるカバーリングヤーンの間の電気特性の測定原理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを少なくとも2本有し、その内の2本が互いに近接して配置されているセンシング繊維部材であって、該互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化及び/又は静電容量の変化(すなわち、インピーダンスの変化)を読み取ることを特徴とする前記センシング繊維部材である。
【0013】
芯材としての線状導電体(芯糸)は、導電性である限り特に制限はないが、導電性繊維、例えば、炭素繊維、金属繊維等、材質自体が導電性を有する線状導電体であってもよく、導電性のない繊維に導電性を付与した線状導電体でもよい。前者としては、炭素を繊維化したカーボン繊維が、後述する水分センシングにおいて耐久性が高く好ましい。また、SUS素材を繊維化したものであれば、防錆性を確保でき、回路等と接続する終端処理を簡便にできるという点で好ましい。後者としては、ナイロン等の繊維の周りに銀、銅などの金属めっきを施したものや、金属箔をテープ状に加工して繊維に巻回したもの、繊維にエアロゾル状の導電体をスプレーにより繊維表面に付着させたものを用いることが、風合いや柔軟性を高められる観点から、好ましい。この場合、導電性繊維がマルチフィラメントからなることが、良好な導電性を得られる点、また、強度を高められる点から好ましい。ナイロンに代えて、ポリアリレート、アラミド等の高強度繊維等を用いれば引張強度をさらに高めることができる。あるいは、ウレタンやシリコーン等の弾性体の周りにストレッチャブルな金属インクを用いて導電性を付与した線状導電体を用いてもよい。この場合、ストレッチャブルな繊維部材を得ることができる。また、線状導電体として、導電性材料と絶縁性材料の混合物を線状にしたものを用いてもよい。例えば、ナイロンやポリエステル等の樹脂にカーボン系導電性材料や金属を混合した材料を線状に加工した材料を用いれば、導電性は劣るものの格段に低コストの線状導電体を得ることができる。また、線状導電体は、風合いは悪化するものの低コスト化の観点から、1本又は複数本の金属ワイヤーであってもよい。例えば、直径30μm~1mm程度といった金属ワイヤーを用いれば、格段に強度を高めることができる。
【0014】
線状導電体、例えば、導電性繊維の繊度は、良好な風合いが得やすくなる観点から、10dtex~15000dtexであることが好ましく、より好ましくは20dtex~5000dtexである。また、マルチフィラメントである場合、単糸繊度は、良好な風合いを得やすいことと、高い導電性が得やすくなる観点から、1dtex~30dtexであることが好ましく、より好ましくは2dtex~10dtexである。フィラメント数については、10~200とすることがより好ましい。フィラメント数を10以上とすることは、良好な風合いが得られやすく、また、良好な導電性を確保しやすくなる点で好ましい。但し、フィラメント数が多すぎるとコストが高くなってしまい、剛性も、より高くなるため逆に風合いが低下する場合がある。これらを総合して、上記のフィラメント数の範囲とすることが好ましい。
【0015】
線状導電体を成す導電性材料は、対をなす2本のカバーリングヤーン間で同一の材料を用いてもよいし、異種材料を用いてもよく、任意の材料の組み合わせを用いることができる。接触や荷重、引張のセンシング用途の場合、同一の導電性材料を用いることが、生産が効率的に可能である点で好ましい。水分などの液体のセンシングを行う場合、対を成す2本のカバーリングヤーンの線状導電体として異種材料を用いると、この異種材料間を橋渡しして液体が付着した際にいわゆるガルバニック作用とよばれる電気化学的作用によって電圧や電流が発生するため、電源無しでも液体のセンシングが可能となる。異種材料の組み合わせとしては、例えば、鉄と銅、鉄と銀、アルミニウムと銅、銀と銅など、任意のものを用いることができる。
【0016】
本明細書中、被覆材(カバー糸ともいう。)としての用語「絶縁性繊維」は、前記した芯材としての線状導電体のうちの対になる2本同士を電気的に絶縁することができる限り、特に制限はなく、ポリ乳酸(PLA)等の圧電体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の強誘電体を包含する。但し、カバー糸は、静置状態で前記した芯材としての線状導電体を隙間なくカバーリングできて、電気的なショートを起こし難いものとするため、被覆性、センシング性能、及び風合いの観点から、斑なく、被覆厚みを均一化できるマルチフィラメント絶縁性繊維又は絶縁性紡績糸のいずれかを含むことが好ましく、マルチフィラメント絶縁性繊維又は絶縁性紡績糸からなることが最も好ましい。絶縁性繊維の材料は、接触や引張、液体の接触等のセンシングの作用がない状態(アイドリング状態)で絶縁性が確保できるものであれば特に制限はないが、コスト、入手の容易性の観点から、ポリエステル(PE)、ナイロン(Ny、ポリアミド)、エポキシ系、アクリル系等の合成繊維が好ましく、セルロース繊維等の天然繊維、半合成繊維、再生繊維であっても構わない。また、絶縁性繊維の材料として、ポリ乳酸(PLA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電体、強誘電体や、生分解性樹脂を用いることができる。圧電体であれば、アイドリング状態で絶縁性を保持でき、かつ、応力印加時にはその圧電特性に応じた出力信号も合わせて得られるため、センサ感度が高くなる。但し、コスト面や織編物にした時の風合い等の面からは、ポリエステル、ナイロン、アクリル系等の衣料用に用いられる繊維を使用することが好ましい。
また、抵抗値の変化によりセンシングを行う場合、カバー糸(鞘糸)として、絶縁性繊維に導電性をわずかに付与した材料を用いてもよい。このときの鞘糸の導電性の範囲は、互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化を読み取ることができる範囲であればよい。具体的には、互いに近接して配置されるカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗(センサ抵抗)の値が、0.5kΩ~5GΩの範囲内にあり、かつセンサ抵抗値が、線状導電体のみの抵抗(配線抵抗)の値に対して、20倍~1×109倍であることが好ましい。これにより、互いに近接する2本のカバーリングヤーンを構成する2本の線状導電体間に電圧を印加した際、電気的なショートを起こすことがなく、配線抵抗値に対してセンサ抵抗値が十分に大きいため、配線抵抗の影響を受けず、荷重や引張力などの検知を正しく行うことができる。センサ抵抗値は、0.5kΩ~100MΩの範囲内であることが、読み出し回路が簡便になる点でさらに好ましい。鞘糸材料の電気抵抗率の範囲としては、104Ω・m~5×109Ω・mであることが、上記のセンサ抵抗値の範囲を容易に満たすことができる点で好ましい。
導電性をわずかに付与した鞘糸の材料としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の絶縁性材料に、導電性付与材料、例えば、カーボン系導電性材料、金属粒子、銅硫化物などの金属硫化物、酸化スズ系や酸化亜鉛などの金属酸化物等、を含有させた材料を用いることができる。あるいは、鞘糸として、絶縁性繊維と導電性繊維の両方を適宜混合させて用いてもよい。例えば、帯電防止繊維として販売されているクラカーボ(株式会社クラレ製、登録商標)、ベルトロン(KBセーレン社製、登録商標)、サンダーロン(日本蚕毛染色社製、登録商標)等を、所望のセンサ抵抗値になるように選択して用いることができる。
【0017】
本実施形態のセンシング繊維部材は、用いられる被覆材(カバー糸)の材質として、より速乾性となる繊維の組み合わせであることが好ましい。特に水分やエタノールなどのセンシングを行う場合は、カバー糸に速乾性の繊維を用いることによって、一旦、水分等に接触した後に短時間で乾燥することが可能となるため、より速く元の状態に戻ることができる。速乾性の繊維としては、水分率の低い合成繊維を使うこともできるが、吸水性及び速乾性能を両立させるためには、合成繊維とセルロース繊維を組み合わせることが、特に好ましい。このとき、合成繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等、セルロース繊維としては、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、ポリノジック、リヨセル、キュプラ、モダール等の再生セルロース繊維、アセテート等の半合成繊維などが好ましく、マルチフィラメント長繊維であることが特に好ましい。両繊維の組み合わせは、カバー糸において両繊維を混用することもでき、後述するダブルカバーリングにおいて、合成繊維とセルロース繊維でそれぞれカバーリングすることもできる。
【0018】
絶縁性繊維の繊度は、絶縁性を確保しやすい観点から、15dtex~25000dtexであることが好ましく、より好ましくは30dtex~8000dtexである。また、マルチフィラメントである場合、単糸繊度は、良好な風合いがより得られやすい観点から、1dtex~10dtexであることが好ましく、より好ましくは2dtex~8dtexである。
【0019】
カバーリングヤーンの製造方法も特に制限はないが、例えば、特許文献9に記載される以下の方法が挙げられる。
図10は、カバー糸(14)が巻かれたボビンを、2本足フライヤ(12)を装着したカバーリング装置に仕掛けて稼働させた場合の模式図である。図11図10のB部の拡大図を示している。芯糸9は中空スピンドル10の中空部を通って、上方のスネールガイド(図示せず)を通り、テイクアップロール(図示せず)でテイクアップされる。カバー糸14は2本足フライヤ12の一方の足ガイド15と16へ通され、中空スピンドルの回転(ボビンの同調)によりボビンから解舒され、カバー糸14は芯糸9に捲回されながらスネールガイドを通り、テイクアップされる。フライヤ12の足数を2本にする理由は、フライヤが回転した時にフライヤ12のバランスをとるためである。
上記カバーリング装置を縦方向に2段並べ、2つのボビンから2種のカバー糸(同種でも異種でもよい)を順にカバーリングする、いわゆるダブルカバーリングを行ってもよい。このとき、各々のカバー糸を同方向にカバーリング(2種のカバー糸がいずれもS撚、又はいずれもZ撚)すれば、厚みを均一に、かつ、絶縁性繊維の隙間を確実に埋めることができ、センシング性能を向上させることができ、特に好ましい。
カバー糸は、風合い及び被覆性を向上させやすい観点から、仮撚り加工糸(ウーリー糸)であることもできる。
【0020】
図2図3に、本実施形態のセンシング繊維部材として、2本のカバーリングヤーン(7)を撚り糸とする一例を示す。このとき、前記互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーン(7)における、芯材としての線状導電体(5)の周囲に配置される被覆材(カバー糸)(6)の巻き付け方向が同じであり、該2本のカバーリングヤーン同士が、該マルチフィラメント絶縁性繊維の巻き付け方向と反対の方向に諸撚された諸撚糸(8)であることが好ましい。諸撚り(カバーリングの巻き付け方向と反対方向に撚りをかけること)により、できあがった糸のトルクは弱くなり、製造工程での取り扱いが容易になる。また、諸撚糸であれば、当然に、前記2本のカバーリングヤーンが互いに近接して配置され、また、該2本のカバーリングヤーン同士が、交差する接点を有することになる。
【0021】
前記カバーリングヤーンの以下の式:
撚り係数K=(SS+SC)1/2×R
{式中、SSは、芯材としての線状導電体の繊度(dtex)であり、SCは、被覆材の総繊度(dtex)であり、そしてRは、被覆材の巻き付け数(撚り数)(回/m)である。}で表される撚り係数Kは、7000以上30,000以下であることが好ましい。撚り糸係数Kが、7000以上であれば、2本の線状導電体同士の電気的短絡が生じにくくなり、他方、30,000以下であれば、センサ出力を大きく得ることがより容易になる。尚、ダブルカバーリングの場合は、一層目と二層目それぞれのカバーリング時の撚り係数を算出して、平均した値とする。
【0022】
本実施形態のセンシング繊維部材は、図4に一例を示すように、上述の諸撚糸を織物の一方方向に連続して存在させた、細幅織物形状とすることができる。図4の例では、細幅織物の幅方向の中央部に経糸として諸撚糸を織り込んでいるが、諸撚糸を経糸、緯糸のいずれか、あるいは両方に用いてもよく、センシングしたい箇所の数に応じて任意の本数で配置すればよい。連続生産の点からは、経糸の一部に該諸撚糸を配置することが好ましい。これにより、該諸撚糸が織り込まれた部分への物体の接触又は荷重の感知、及び/又は液体の接触、または湿度の変化を感知することができる。細幅織物の一部に諸撚糸を織り込んだ場合、繊維部材の形状がテープ状となるため、諸撚糸のみの場合と比較して、衣類や鞄等の繊維製品に取り付けやすいという利点がある。諸撚糸を配置した織物の幅は1~200mmが好ましく、5~30mmがより好ましい。該諸撚糸以外の糸使いは特に限定されず、織組織についても特に限定されない。また、本実施形態の繊維センシング部材を配した布帛等の静電気対策の目的で、上述の諸撚糸の周囲に導電性材料を練りこんだ制電糸を巻き付け、この糸を織物に埋め込んでもよい。制電糸としては、単位長さあたりの電気抵抗値が106~1010Ω/cm程度のものが用いられ、例えば、KBセーレン社製の「ベルトロン(登録商標)」カーボンベルトロンタイプ、ホワイトベルトロンタイプ、クラレ社製の「クラカーボ(登録商標)」などが挙げられる。または、本実施形態の繊維センシング部材を配した布帛において、該部材の近傍や、複数配した該部材の間に、上記制電糸を配することで、同様の効果を得ることができる。
【0023】
また、上述の諸撚糸を経緯に合わせて複数本配置した織物形状(図5参照)とすることもできる。図5では、経糸を5本並行に配置し、緯糸を左右に織り込んで配置させているが、前記組紐様の織物形状は、かかる構造に限定されない。例えば、幅150cm~200cm程度、長さ50m程度の織物中に、経糸、緯糸ともに5~10cmピッチで上述の諸撚糸を織り込んだセンシング繊維部材を構成することができる。このような複数本の諸撚糸を織り込んだセンシング繊維部材を用いれば、各諸撚糸の位置での荷重を同時計測することができるため、与えられた荷重の位置をマッピング計測することができる。かかるセンシング繊維部材を、例えば、ベッドパッドやシーツ、枕カバー、等に用いて、人体の有無や動きを計測することも可能になる。
あるいは、上述のカバーリングヤーンを経糸と緯糸に配した織物とすることもできる。この場合、当該経緯糸の交差部分で二本のカバーリングヤーンが近接して配置されるため、この部分で既述のセンシング機能が発現し、センシング繊維部材として適用できる。かかる織物の形状も図5に示すものなど、任意のものを用いることができる。
また、上述の諸撚糸を編物に配することができる。あるいは、上述のカバーリングヤーンを二本以上配置して、部分的に近接または交差させ、センシング機能を発現させることもできる。
さらに、上述のカバーリングヤーンを布帛縫製時や刺繍時のミシン上糸と下糸に使う態様もある。これにより、布帛の上下にカバーリングヤーンが1本ずつ配され、当該カバーリングヤーンの近接点で上述のセンシング機能が発現し、センシング繊維部材として適用できる。
上述の織物や編物等の布帛を構成する場合、対となる2本のカバーリングヤーンの線状導電体は、その電極取り出し部(回路への実装部分)において、一方が布帛の表側、もう一方が布帛の裏側に取り出すことがより好ましい。特に、電圧印加用の線状導電体を全て布帛の同じ側に取り出し、信号出力用の線状導電体をこの反対側へ取り出すことが好ましい。この好ましい例においては、複数本のカバーリングヤーンの線状導電体を電気的に接続して電圧を印加し、また、各々の信号を独立させて読み出す場合において、これらの電気的短絡や短絡防止をより省スペースで可能にできるという利点や、実装が簡単になるため生産性が向上するという利点がある。
また、
【0024】
図6は、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としてのマルチフィラメント絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングした2本のカバーリングヤーンの間の抵抗変化を測定するための装置系の概略図である。対になる2本のカバーリングヤーンの末端で導電性繊維を開放し、これに、電圧、電流を供給すると同時に、電圧、電流、抵抗を測定することができるソースメーター(SMU、ソース・メジャー・ユニット)を接続して、対になるカバーリングヤーンの間の抵抗を測定することができる。あるいは、かかる測定機器を用いずに、アナログ/デジタル変換回路、電流電圧変換回路、増幅回路等からなる読み出し回路を作製し、これを用いて抵抗を測定してもよい。特定の理論に拘束されることは望まないが、対になるカバーリングヤーンの間に介在する絶縁性繊維は、アイドリング状態では絶縁性の高い物質であるため、2つの線状導電体同士の距離が非常に短くなったときのこれへのキャリア注入を考えた場合、例えば、以下のMott-Gurneyの式:
【数1】
{式中、Iは、電流であり、εは、絶縁体の誘電率であり、μは、キャリア移動度であり、Vは、電圧であり、そしてLは、線状導電体間の距離である。}で表される空間電荷制限電流(Space Charge Limited Current)に従うと考えることができる。この場合、電流Iは、距離Lの3乗に逆比例して増大することになる。したがって、被覆材としての絶縁性繊維が接触又は荷重により変形すれば、かかる変形を電流Iの変化として、換言すれば、抵抗の変化として感度よく検出することができる。例えば、本実施態様の一例では、センシング部分の面積8.75mm2に対して絶縁体を用いて約3Nの荷重(圧力3.43×105Paに相当)をかけた場合、Rが3.5GΩから1.5GΩに変化し、ΔR/Rは-57%と非常に大きい変化量が得られている。
上述のように、空間電荷制限電流に従う理論も、センシング原理の一つとして挙げることができるが、センシング原理としては、荷重や引張の印加により、鞘糸同士がより密に接触し、コンタクトの数が増えることで鞘糸を流れる微電流が増加するという原理も考えられる。以下にこの原理について述べる。本発明の鞘糸を構成する絶縁性繊維は、理想的な絶縁体であれば2本の線状導電体間には電流が全く流れないのに対し、現実の絶縁体は、その電気抵抗率が106~109Ω・mとして知られるように、ごくわずかに導電性を有している。絶縁性ポリマー内の電気伝導メカニズムは、電子やイオンが局所的な状態を行き来するホッピング伝導として知られている。絶縁性ポリマーには、理想的には荷電粒子が存在しないが、実際のポリマー材料には、製造工程で導入される触媒や水分などの不純物が含まれており、これらの不純物に起因する解離イオンが印加された電界に反応して移動し、微弱な電流が発生する。このようにごくわずかに導電性を有する鞘糸が、近接する2本の線状導電体の間に配置された構造体に対して、荷重や引張力を印加した場合、鞘糸を構成する複数の繊維同士がより密接に接触することによって、互いの電気的接触点が増加し、微弱電流の値が大きくなる。これにより、センサ抵抗値が低くなり、荷重や引張の検知ができるという原理である。
【0025】
対になるカバーリングヤーンの間の電気特性の測定原理は、図2図12に示す抵抗(R)とコンデンサー(C)で構成される等価回路で考えることができる。
抵抗値の変化でセンシング信号を読み取る場合、図12に示す電源として直流電源を用いることができる。
静電容量の変化を読みとる場合は、電源として交流電源を用い、対になるカバーリングヤーンの中の線状導電体間に周波数fの交流を与え、この間のインピーダンス変化を検出すればよい。静電容量を計測するためには、ごく一般的な計測器や回路を用いればよく、例えば、LCRメータやインピーダンスアナライザ等の計測器を用いることができる。あるいは、参照信号となる交流信号を用意し、出力信号と参照信号とを乗算することによって周波数解析を行うロックインアンプ回路を組み合わせて用いてもよい。この場合、静電容量の微小な変化をより精度良く計測できるという利点がある。あるいは、静電容量の変化を読み出すために、電源として直流電源を用いて、2本の線状導電体間に電圧を印加し、この間のインピーダンスの時間変化を読み取る(電流値変化をモニターする)方法を採ることもできる。直流電源を用いる場合は、非常に安価な回路で計測できるという利点がある。ここで、2つの電極間の静電容量は、下記式:
C=ε(S/L)
{式中、εは2つの電極間の誘電率、Sは電極面積、そしてLは、電極間の距離である。}で記述できる。
【0026】
上記式C=ε(S/L)から、静電容量Cは、導体間の距離Lに逆比例し、電極面積に比例する。接触等の検知対象となる物体が荷電していない絶縁体の場合、対をなす線状導電体間の距離が小さくなり、電極面積はほとんど変化しないため、静電容量が増大することで物体の接触を検知できる。また、接触する物体が導電性である場合には、物体の接触による寄生容量がさらに加わるため、静電容量の変化が生じる。例えば、先に述べた本実施態様の一例(ΔR/Rが-57%である例)では、絶縁体を用いて約3Nの荷重を印加したとき、Cは3.31pFから3.53pFに変化し、ΔC/Cは6.7%となった。また、接地した導電性材料を用いて約3Nの荷重を印加したときは、Cは3.31pFから3.01pFへと変化し、ΔC/Cは-8.9%となった。
【0027】
接触する物体が導電性を有する場合、寄生容量が加わることと、電荷のグラウンドへのリークが増大することにより、見かけ上の静電容量が小さくなっている。このように、接触又は荷重による静電容量の変化を読み取ることによっても、接触又は荷重の検知が可能である。この例では、図12における静電容量の変化よりも抵抗値の変化が大きくなっているが、これは、静電容量の変化が、上記式で示すようにLに逆比例するのに対し、電極間に流れる電流値の変化が、例えば、L3に逆比例するなど、電極間距離Lが小さくなるほど電流値の変化がさらに大きくなっているためである。尚、本実施形態での2つの線状導電体間には、カバー糸と外気(外気:大気中の場合は大気、真空中の場合は真空、置換ガス中の場合は当該置換ガス、等)が絶縁体として存在しており、この間を流れる電流の原理は、電極間の距離や印加電圧、外気の湿度等の条件によって異なってくる。例えば、既述の空間電荷制限電流の他に、漏れ電流、イオン性の伝導など種々の原理を採り得るものであり、抵抗値の変化か静電容量の変化のいずれか又は両方を出力信号として読み出してもよい。
【0028】
本実施形態のセンシング繊維部材は、外部からの作用によって2つの線状導電体間のインピーダンスが変化し、この外部からの作用を検知できるものである。例えば、接触や荷重の印加によって2つの線状導電体間の距離が変化することによって、2つの線状導電体間の抵抗値及び又は静電容量(すなわちインピーダンス)が変化するため、接触や荷重を検知することができる。また、外部からの作用が引張力や曲げ応力の場合も、線状導電体間の距離が変化し、インピーダンス変化が生じるため、この外部作用を検知することができる。あるいは、2つの線状導電体間に、この間のインピーダンス変化が生じ得る物質を含有させる場合、この物質の有無を検知することができる。例えば、2つの線状導電体間に、水道水などの超純水ではない水や、食塩水、イオン飲料、水とエタノールの混合物等を滴下した場合、この線状導電体間の抵抗値が大きく低下してこの間の電流値が増大するため、これらの液体の有無を検知することができる。また、湿度が変化したときも同じくインピーダンス変化が生じるため、湿度センサとして用いることができる。
【0029】
あるいは、接触や荷重の印加と、水分などの液体の接触とを同時に検知することもできる。荷重印加時と水分が滴下された時の抵抗値変化量は、後述するように5倍以上の違いがあり、また、水分が乾燥するにしたがって出力量が刻一刻と変化していくことから、出力値の挙動からこれらの検知を区別することが可能である。かかる実施形態において、例えば、ベッドシーツパッドに既述の諸撚糸を複数本織り込んだ織物を構成することにより、要介護者等のベッド利用者の動きと、水濡れ、尿漏れなどの検知を同時に行うことが可能になる。
【0030】
以下の実施例では、本実施形態のセンシングの例として、該センシング繊維部材への物体の接触又は荷重の感知、及び/又は該センシング繊維部材への液体(水道水、エタノールと水の混合液)の接触の感知について述べる。
【実施例
【0031】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明の一例について述べるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例、比較例に用いた各特性値の測定方法は以下のとおりのものであった。
【0032】
(1)抵抗値(電流)の測定
近接する2本のカバーリングヤーンの2本の線状導電体間の抵抗値は、カバーリングヤーンの一方の末端では2つの線状導電体を電気的に開放し、もう一方の末端の2つの線状導電体間に、電圧、電流を供給すると同時に、電圧、電流、抵抗を測定することができるソースメーター(SMU:ソース・メジャー・ユニット、Keithley社の2614B)を接続することで測定した。2本の線状導電体間に一定の電圧をかけ、ソースメーターで出力される電流値を常にモニターする自作プログラムを用いて、荷重印加の前後での電流値を計測した。諸撚糸の場合、対をなす線状導電体部分の長さ(センシングが有効な長さ)を10cmとしたサンプルを作製してセンシング特性を測定した。
【0033】
(2)荷重印加
サンプル(例えば、諸撚糸の2つの導電性繊維間)に電圧を印加した状態で、印加荷重に対する電流変化を測定する。その際の荷重印加は以下のように行う。
平らなステージ上にセンシング繊維部材を置き、この上からフォースゲージ(IMADA社製、full-range 20N)を用いて荷重を印加し、そのときの荷重値をモニターする。圧子は、円形でφ12.5mmのものを使用した。
参考までに、荷重の目安は以下のとおりである:
0.5N以下:ごく僅かに触れる状態。
2~5N:指で軽く押す状態。
~10N:指で押す場合は、かなり強く押し付ける状態。
【0034】
(3)接触・荷重センシング特性
以下の評価基準で接触・荷重センシング特性を判定した:
(評価基準)
接触や荷重のないときの2本の線状導電体間の電流値をIとし、繊維部材に対して荷重がかかる部分の面積を8.75mm2(直径12.5mm×平均繊維径0.7mm)として、上記(2)の方法で3Nの荷重を印加したときの電流値とIとの差をΔIとするとき、
◎:ΔI/Iが20%以上。
〇:ΔI/Iが1%以上20%未満。
×:検知不能。
【0035】
(4)水分センシング特性
水分に対する諸撚糸のセンシング特性を以下の手順で測定した。
前記(1)の抵抗値の測定と同様の方法を用いて、諸撚糸の対となる導電性繊維間に10mVを印加し、電流値をモニターする。
霧吹きを用いて水道水をサンプルに噴霧し、この時の電流値の変化をモニターする。
その後、キッチンペーパーで拭き取り、ドライヤーで乾燥させ、電流値が元に戻るかを確認する。
以下の評価基準で水分センシング特性を判定した:
(評価基準)
◎:ΔI/Iが100%以上、かつ電流値が元の値の±20%以内に戻る。
△:ΔI/Iが1%以上100%未満。あるいは電流値が元の値の±20%以内の値に戻らない。
×:検知不能。
【0036】
(5)風合い
以下の評価基準で、実施例及び比較例で得られた糸又は織編物を測定者の手首に接触させ擦ったときの感触を風合いとして判定した:
(評価基準)
◎:柔らかく、手首への刺激が殆どない。
〇:わずかに手首への刺激(ざらつき、ごわごわ感)を有する。
△:ざらつきが強く、手首が擦られる感覚が強い。
×:ごわごわして違和感が大きく、衣料として適さない。
【0037】
[実施例1]
線状導電体として、ナイロン66繊維に銀めっきを施したマルチフィラメントからなる導電性繊維を用いた。ナイロン繊維の繊度が220dtex、銀めっき後の繊度が300dtex、フィラメント数が68本のものを線状導電体として用いた。
上記の線状導電体を芯糸として、鞘糸にポリエステルからなる繊維を用いてダブルカバーリングヤーンを作製した。カバーリング条件は、ポリエステル252dtex/108フィラメントのウ-リー糸を鞘糸に2ボビンを用いて各々Z撚りにし、撚り数がZ732T/mのものを用いた。得られたダブルカバーリングヤーン2本を纏めてさらにS撚りし、撚り数がS170T/mの諸撚糸を作製した。この絶縁性繊維の繊度は2000dtexであった。本諸撚糸の撚り係数K=(300+252×2)1/2×732=20756であった。
上記で得られた諸撚糸に荷重を印加した時の電流値(センサ出力)の変化状態、印加荷重と電流値変化率の関係を、それぞれ、図7図8に示す。これらの図に示す結果から、本諸撚糸が接触センシング繊維部材として有用であると判断し、上記で得られた諸撚糸を用いて、荷重印加したときのセンシング特性等を評価した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0038】
[実施例2]
カバーリング糸として、280dtex/48fのポリ乳酸からなるマルチフィラメントを用いた以外は、実施例1と同様に諸撚糸を作製した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0039】
[実施例3]
カバーリング糸として、276dtex/96fのナイロンからなるマルチフィラメントを用いた以外は、実施例1と同様に諸撚糸を作製した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0040】
[実施例4]
線状導電体として、軟銅線の表面を錫めっきで被覆し、その周囲をさらにPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂で被覆した、直径260μm(金属部分の直径は76μm)の金属ワイヤーを用いた以外は、実施例1と同様に諸撚糸を作製した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、カバーリング糸のかわりに、厚み2mmの絶縁性ビニル樹脂で表面被覆した電線を2本用い、諸撚りにしたサンプルを作製した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0042】
[比較例2]
線状導電体として実施例4と同じ金属ワイヤーを用い、厚み100μmのテフロン(登録商標)樹脂で被覆した電線を2本用いて諸撚りした以外は、比較例1と同様にサンプルを作製した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0043】
[実施例5]
実施例1で得られた諸撚糸を経糸に1本配置し、それ以外の経糸にウーリーポリエステル334dtex/96f、緯糸にウーリーポリエステル167dtex/48fを用い、絡み糸としてウーリーポリエステル84dtex/36fを用いて、幅方向のほぼ中央部に諸撚糸が配された、幅10mm、厚み450μm、目付2.14g/m2の細幅織物を作製した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0044】
[実施例6]
実施例2で得られた諸撚糸を用いた以外は、実施例5と同様に細幅織物を作製した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0045】
[実施例7]
実施例1で得られたカバーリングヤーンを経糸として5本、緯糸として1本用いて、図5に示す織物構造で、大きさ1cm×10cm、厚み850μmの細幅織物を得た。
本織物の該カバーリングヤーン交差部付近に指で荷重をかけ、その後引っ張り力を与えたときの、電流値(センサ出力)の経時変化を図9に示す。これにより、本織物が接触センシング繊維部材として有用であると判断し、上記で得られた織物を用いて、荷重印加したときのセンシング特性等を評価した。接触・荷重センシング特性、風合い、及び水分センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例8]
線状導電体を構成するナイロン66繊維の繊度が66dtex、フィラメント数が14本のものを線状導電体として用い、カバーリング糸として繊度が100dtexのクラカーボ(クラレ社製、KC-782R B20T4)を用いた以外は、実施例1と同様に諸撚糸を作製した。鞘糸のカバーリング時の撚り数は1570T/mとし、諸撚糸を作製する際の撚り数は280T/mとし、完成した諸撚糸の繊度は1270dtexであった。10cm長さで切り出した諸撚糸のセンサ抵抗値は、2.1kΩであり、10cm長さの線状導電体の抵抗値は20.0Ωであった。すなわち、諸撚糸センサの抵抗値と配線抵抗の比率は、約105倍である。接触・荷重センシング特性、及び風合いの結果を以下の表2に示す。
【0048】
[実施例9]
カバーリング糸を240dtexのカーボンベルトロンB31(KBセーレン社製)とし、鞘糸のカバーリング撚り数を653T/m、諸撚り時の撚り数を250T/mとした以外は実施例8と同様とした諸撚糸を作製した。完成した諸撚糸の繊度は1260dtexであった。10cm長さの諸撚糸のセンサ抵抗値は10.0MΩ、10cm長さの線状導電体の抵抗値は20.0Ωであり、諸撚糸センサの抵抗値と配線抵抗の比率は、約5×10倍であった。接触・荷重センシング特性、及び風合いの結果を以下の表2に示す。
【0049】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る接触センシング繊維部材は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物や経編の経糸として使用可能であり、しなやかで風合いに優れ、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである。すなわち、本発明に係る接触センシング繊維部材は、特殊な圧電材料を必要とせず、一般的な繊維材料であるポリエステル、ナイロン等を用いて荷重のセンシングが可能であるため、非常に低コストで接触センシング繊維を実現でき、また、ノウハウが確立している繊維加工技術であるカバーリング技術を用いるため、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、さらに、圧電糸に比較して、非常に風合い良い加工糸が実現できるため、織物や編物等の繊維部材への加工が容易となる。
本発明に係る接触センシング繊維部材は、静電容量だけでなく、抵抗値が変化するため、荷重を連続的に印加している状態を検知することができる。
したがって、本発明に係る接触センシング繊維部材は、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル用途、例えば、踏んだら検知可能なラグ、人の出入り検知用防犯マット、人数カウント用マット等、接触センシング織編物、例えば、看護や介護等の現場での見守りセンサ、工場等の生産現場での触覚をデジタル化して伝達するセンサ、車両シートベルト等へのセンサ埋め込み用部材、例えば、車両用シートベルト、ハンドル、ダッシュボード等への接触センサ(生体センサ)の埋め込み、人の在・不在の検知センサ、後部座席の子供の放置防止、見守りセンサ等の各種用途に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 導電性繊維
2 圧電材料
3 導体
4 従来技術の圧電糸
5 芯材としての線状導電体
6 被覆材(カバー糸)としての絶縁性繊維
7 カバーリングヤーン
8 カバーリングヤーンを諸撚りした諸撚糸
9 芯糸(芯材)
10 スピンドル
11 ボビン
12 フライヤ
13 フライヤキャップ
14 カバー糸
15 フライヤ足ガイド
16 フライヤ足ガイド
17 フライヤ足ガイド
18 フライヤ足ガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12