(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】衛星航法システムにおける測位誤差の補正方法,測位誤差を補正する情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/41 20100101AFI20241121BHJP
【FI】
G01S19/41
(21)【出願番号】P 2024179611
(22)【出願日】2024-10-15
【審査請求日】2024-10-15
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】723010371
【氏名又は名称】イエローテイル・ナビゲーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂井 丈泰
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-93133(JP,A)
【文献】特開2004-198291(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111812676(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/35096(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前記複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来測定されるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正値として前記ユーザ局に提供する基準局を複数備える衛星航法システムにおいて,
前記ユーザ局は,
複数の前記基準局から補正値を得て,
前記複数の航法衛星との間の距離に対してこれらの補正値を適用し,各々の航法衛星についてその航法衛星に対する補正値を提供した基準局数分だけの補正済み距離を得て,
前記補正済み距離の各々について,適用された補正値を提供した基準局ごとに別々の受信機時計誤差に相当する未知数を設定したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行うこと
を特徴とする,衛星航法システムにおける測位誤差の補正方法。
【請求項2】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前記複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来測定されるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正値として前記ユーザ局に提供する基準局を複数備える衛星航法システムにおいて,
前記ユーザ局に設けられ,
複数の前記基準局から補正値を得て,
前記複数の航法衛星との間の距離に対してこれらの補正値を適用し,各々の航法衛星についてその航法衛星に対する補正値を提供した基準局数分だけの補正済み距離を得て,
前記補正済み距離の各々について,適用された補正値を提供した基準局ごとに別々の受信機時計誤差に相当する未知数を設定したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行うこと
を特徴とする,衛星航法システムにおける測位誤差を補正する情報処理装置。
【請求項3】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前記複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来測定されるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正値として前記ユーザ局に提供する基準局を複数備える衛星航法システムにおいて,
前記ユーザ局にて動作し,
複数の前記基準局から補正値を得て,
前記複数の航法衛星との間の距離に対してこれらの補正値を適用し,各々の航法衛星についてその航法衛星に対する補正値を提供した基準局数分だけの補正済み距離を得て,
前記補正済み距離の各々について,適用された補正値を提供した基準局ごとに別々の受信機時計誤差に相当する未知数を設定したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行うこと
を特徴とする,衛星航法システムにおける測位誤差を補正するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,衛星航法システムにおける測位誤差の補正方法,測位誤差を補正する情報処理装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星により位置を測定する衛星航法システムはGNSS(Global Navigation Satellite System)と総称され,その代表例は米国によるGPS(Global Positioning System)である。GNSSは一般に,航法衛星と呼ばれる人工衛星が送信する測位信号を受信機により受信し,航法衛星と受信機との間の距離を測定することで,受信機の位置を計算により求める。位置を求めるべき受信機を,ユーザ受信機あるいはユーザ局などと呼ぶ。求められた位置の真の位置に対する誤差を,測位誤差という。
【0003】
一般に,人工衛星が送信する無線信号(測位信号を含む)が,地上に到達するまでの間に,電離圏及び対流圏を通過するが,それぞれの領域を無線信号が通過する際に遅延が生じる。これらの遅延は,それぞれ電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延と呼ばれている。従って,この無線信号を測位信号として用いる場合,これらの電離層伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延が測位誤差の要因になっている。距離に換算した電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延の大きさを,それぞれ電離圏伝搬遅延量及び対流圏遅延量という。
【0004】
これに対して,地上に固定された基準局に受信機を設置して,これにより測定した距離から,電離圏伝搬遅延や対流圏伝搬遅延などにより生じる距離の測定誤差に対する補正情報を作成し,これをユーザに対して提供することで,ユーザ局において測定した距離を補正情報に基づいて補正し,ユーザ局における位置の測定精度(「測位精度」と呼ぶ)を改善することが行われている。この方式はディファレンシャルGPS(Differential GPS。以下,「DGPS」とする)と呼ばれる。
【0005】
DGPSの実用例としては,船舶向け中波ビーコンやFM多重ディジタル放送によるものがあったが,現在ではいずれも廃止された。一方,2018年に運用を開始した日本の準天頂衛星システムはSLAS(Submeter-Level Augmentation Service)としてDGPSの補正情報を人工衛星から送信している。SLASサービスでは,単一の人工衛星からの信号を受信することで,日本全国に配置された13局の基準局における補正情報を一括して得られる特徴がある。SLASサービスを利用する受信機は,最寄りの基準局の補正情報を選択して利用することとされている。
【0006】
ディファレンシャルGPSの方式には,上に述べた個々の基準局による方式のほかにも,多数の基準局の測定データを統合して広い地理的範囲で有効な広域補正情報を作成する広域ディファレンシャルGPSと呼ばれる方式がある。広域ディファレンシャルGPSのサービスとして,日本のMSASや米国のWAASが普及したため,複数の基準局による補正情報が提供されるDGPSは,準天頂衛星システムのSLASサービス以外には現状では存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】坂井丈泰・惟村和宣著,「複数の基準局を用いた場合のDGPS測位精度」,電子情報通信学会技術研究報告,SANE99-44,1999年7月
【文献】坂井丈泰・惟村和宣著,「複数基準局の利用によるGPS測位精度の改善」,日本航海学会論文集,第101号,p.15~20,1999年9月
【文献】田中敏幸・川村景太著,「長基線基準局を用いたDGPSにおける測位精度改善」,測位航法学会論文誌,第1巻,第1号,p.1~8,2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
DGPSの基準局は,自身にとって可視である航法衛星についての距離の測定誤差から補正値を作成する。ユーザ局においてDGPSを利用する場合は,補正の対象にする航法衛星についての補正値がなければならないから,基準局と共通して可視となっている航法衛星を使用することになる。このため,ユーザ局が複数の基準局を利用できる場合には,それらのうちでユーザ局と共通して可視となる航法衛星の数をもっとも多くするために,最寄りの位置にある基準局を選択して利用するのが一般的である。
【0010】
例えば,準天頂衛星システムのSLASサービスでは日本全国に配置された13局の基準局における補正情報が提供され,ユーザ局は最寄りの基準局を選択して利用することとされている。基準局とユーザ局の間の距離が300km以上になることもあり,また一部の基準局が停止している状況ではさらに長距離になることもある。
【0011】
このように基準局とユーザ局の間の距離が長いと,双方に共通して可視となる航法衛星数は減少する。一般に衛星航法システムでは使用する航法衛星の数が多いほど良好な測位精度を期待できることから,可視衛星数の減少は測位精度の観点では不利になる。
【0012】
SLASサービスの場合は複数の基準局による補正情報が得られることから,特許文献1及び非特許文献1~3の手法により,複数の基準局とユーザ局の全てで共通して可視となる航法衛星については,複数の基準局の補正情報を補間して用いることで測位精度を改善することが可能である。しかしながら,特許文献1及び非特許文献1~3のいずれにおいても,複数の基準局とユーザ局の全てで共通して可視となっているのではない航法衛星を使用することについては述べられていない。
【0013】
すなわち,DGPSにおいてユーザ局が複数の基準局を利用できる場合には,いずれかの基準局を選択して利用するか,複数の基準局を利用する場合は基準局とユーザ局の全てで共通して可視となっている航法衛星を使用することしか行われていない。本発明の課題は,DGPSにおいてユーザ局が複数の基準局を利用できる場合に,それら複数の基準局の全てで共通して可視となっている航法衛星に加えて,1以上の基準局で可視となっている航法衛星についても各基準局の補正値を併用し,ユーザ局が利用可能な航法衛星を増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
DGPSにおける補正値の性質について述べる。第一の基準局をあらわす符号をrとすると,この基準局が衛星iについて測定する擬似距離は次のように書ける。ここで,Rは衛星iと受信機rの間の幾何学的距離,Bは衛星iの時計誤差,Sは受信機rの時計誤差,Iは衛星iと受信機rの間における電離圏伝搬遅延,Tは衛星iと受信機rの間における対流圏伝搬遅延である。
【0015】
(数1)
P(i,r)=R(i,r)-B(i)+S(r)+I(i,r)
+T(i,r)
【0016】
基準局においては,衛星iの軌道情報から計算される本来測定されるべき距離を次式により求められる。ここで,S’(r)は,受信機時計誤差の推定値である。
【0017】
(数2)
P’(i,r)=R(i,r)-B(i)+S’(r)
【0018】
基準局rによる衛星iについての補正値C(i,r)は,(数2)から(数1)を差し引くことで次式の通りに得られる。ここで,受信機時計誤差の推定誤差をΔS(r)とする。
【0019】
(数3)
C(i,r)=P’(i,r)-P(i,r)
=-I(i,r)-T(i,r)+ΔS(r)
【0020】
ユーザ局をあらわす符号をuとすると,ユーザ局が測定する擬似距離は次式のように書ける。
【0021】
(数4)
P(i,u)=R(i,u)-B(i)+S(u)+I(i,u)
+T(i,u)
【0022】
ユーザ局においては,補正値C(i,r)の提供を受け,これをユーザ局が測定した擬似距離に加える。このとき,ユーザ局と基準局rの間の距離が大きくなければ,電離圏伝搬遅延量I(i,u)とI(i,r)はほぼ同じであり,また対流圏伝搬遅延量T(i,u)とT(i,r)もほぼ同じとみなせるから,補正後の擬似距離は次のようになり,(数4)と比較すると電離圏伝搬遅延量及び対流圏伝搬遅延量が消去されることになる。これがDGPSの基本的な原理といえる。
【0023】
(数5)
P(i,u)+C(i,r)=R(i,u)-B(i)+S(u)+ΔS(r)
【0024】
ここで,基準局における受信機時計誤差の推定誤差ΔS(r)が補正後の擬似距離に残存することになるが,基準局が複数ではない場合は,受信機時計誤差S(u)がS(u)+ΔS(r)に置き換わっているだけなので,ユーザ局が位置を計算する過程でS(u)+ΔS(r)を受信機時計誤差として取り扱えば何ら問題なく位置を計算できる。
【0025】
ユーザ局が複数の基準局を利用できる場合を考える。第二の基準局sによる補正値C(i,s)の提供を受け,これをユーザ局が測定した擬似距離に加える。このとき,ユーザ局と基準局sの間の距離が大きくなければ,(数5)と同様に,補正後の擬似距離は次式の通りとなる。
【0026】
(数6)
P(i,u)+C(i,s)=R(i,u)-B(i)+S(u)+ΔS(s)
【0027】
基準局受信機の時計誤差の推定誤差ΔS(s)が補正後の擬似距離に残存することになるが,ユーザ局が基準局sのみを使用するのであれば,段落[0024]と同様に何ら問題なく位置を計算できる。
【0028】
ところが,基準局rと基準局sを併用することを考えると,S(u)+ΔS(r)とS(u)+ΔS(s)が異なることが問題になる。具体的にはΔS(r)とΔS(s)の違いが問題になるのであるが,これらは基準局内部における受信機時計誤差の推定誤差であるから,ユーザ局はこれらの値を知ることはできない。
【0029】
本発明においては,このような場合に複数の基準局を併用するために,ユーザ局における位置計算の際に,受信機時計誤差に対応する未知数を,1個ではなく,基準局数だけ設定する。すなわち,上の例で説明すれば,基準局rによる補正値を適用した擬似距離についてはユーザ局受信機における時計誤差としてSr(r),基準局sによる補正値を適用した擬似距離についてはユーザ局受信機における時計誤差としてSs(s)を定義する。
【0030】
(数7)
Sr(r)=S(u)+ΔS(r)
Ss(s)=S(u)+ΔS(s)
【0031】
これらを用いると,補正後の擬似距離は次のように書ける。
【0032】
(数8)
P(i,u)+C(i,r)=R(i,u)-B(i)+Sr(r)
P(i,u)+C(i,s)=R(i,u)-B(i)+Ss(s)
【0033】
これらの関係を用いてユーザ局位置の計算を行えば,DGPSにおいて複数の基準局を使用することができる。
【0034】
具体的には,衛星航法受信機において位置の計算に通常用いられる,N機の航法衛星に関する距離と受信機位置の幾何学的関係をあらわすN×4行列Gについては,行列Gの第i行をG(i)とすると,各々の航法衛星の方位角AZ(i)と仰角EL(i)を用いて,単一の基準局を使用する場合は次のように書ける。
【0035】
(数9)
G(i)=[-sinAZ(i)・cosEL(i)
-cosAZ(i)・cosEL(i)
-sinEL(i) 1]
【0036】
この第4列は,受信機時計誤差を未知数として計算処理することに対応する。すなわち,ユーザ局が単一の基準局を用いて位置を計算する場合には,受信機時計誤差に対応する未知数をただ一つ設定する。
【0037】
これを,基準局が例えば2局あり,いずれもN機の航法衛星の補正値を提供している場合,行列Gの大きさを2N×5として,次のようにする。
【0038】
(数10)
G(i) =[-sinAZ(i,r)・cosEL(i,r)
-cosAZ(i,r)・cosEL(i,r)
-sinEL(i,r) 1 0]
G(i+N)=[-sinAZ(i,s)・cosEL(i,s)
-cosAZ(i,s)・cosEL(i,s)
-sinEL(i,s) 0 1]
【0039】
第4列は基準局rによる補正値を適用した擬似距離に関する時計誤差Sr(r),第5列は基準局sによる補正値を適用した擬似距離に関する時計誤差Ss(s)を未知数として計算処理することに対応する。なお,航法衛星の方位角及び仰角は,いずれも基準局に対応した値とするため,AZ(i,r)及びEL(i,r)のように記述した。
【0040】
なお,第5列について,各基準局に対応する時計誤差の差Ss(s)-Sr(r)を未知数として,行列Gを次のように構成してもよい。
【0041】
(数11)
G(i) =[-sinAZ(i,r)・cosEL(i,r)
-cosAZ(i,r)・cosEL(i,r)
-sinEL(i,r) 1 0]
G(i+N)=[-sinAZ(i,s)・cosEL(i,s)
-cosAZ(i,s)・cosEL(i,s)
-sinEL(i,s) 1 1]
【0042】
基準局数がKで,各基準局が異なる数の航法衛星の補正値を提供している場合,未知数の数は3+K,行列Gの大きさはM×(3+K)となる。ここで,Mは次の通りであり,N(k)は基準局kが擬似距離を測定している航法衛星の数である。
【0043】
(数12)
M=N(1)+N(2)+・・・+N(K)
【0044】
ユーザ局において補正値を適用する航法衛星については,複数の基準局の全てで共通して可視であることは必要ではなく,ユーザ局と1以上の基準局で共通して可視であればよい。各々の基準局で補正値を提供する航法衛星の組合せについては特に制約はなく,各々の基準局は他の基準局との連絡を必要とすることもない。
【0045】
以上により,DGPSにおいてユーザ局が複数の基準局を利用できる場合に,それら複数の基準局の全てで共通して可視となっている航法衛星に加えて,1以上の基準局で可視となっている航法衛星についても各基準局の補正値を併用し,ユーザ局が利用可能な航法衛星を増加させることができる。
【0046】
請求項1に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前記複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来測定されるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正値として前記ユーザ局に提供する基準局を複数備える衛星航法システムにおいて,前記ユーザ局は,複数の前記基準局から補正値を得て,前記複数の航法衛星との間の距離に対してこれらの補正値を適用し,各々の航法衛星についてその航法衛星に対する補正値を提供した基準局数分だけの補正済み距離を得て,前記補正済み距離の各々について,適用された補正値を提供した基準局ごとに別々の受信機時計誤差に相当する未知数を設定したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行うことを特徴とする,衛星航法システムにおける測位誤差の補正方法である。
【0047】
請求項2に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前記複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来測定されるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正値として前記ユーザ局に提供する基準局を複数備える衛星航法システムにおいて,前記ユーザ局に設けられ,複数の前記基準局から補正値を得て,前記複数の航法衛星との間の距離に対してこれらの補正値を適用し,各々の航法衛星についてその航法衛星に対する補正値を提供した基準局数分だけの補正済み距離を得て,前記補正済み距離の各々について,適用された補正値を提供した基準局ごとに別々の受信機時計誤差に相当する未知数を設定したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行うことを特徴とする,衛星航法システムにおける測位誤差を補正する情報処理装置である。
【0048】
請求項3に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前記複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来測定されるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正値として前記ユーザ局に提供する基準局を複数備える衛星航法システムにおいて,前記ユーザ局にて動作し,複数の前記基準局から補正値を得て,前記複数の航法衛星との間の距離に対してこれらの補正値を適用し,各々の航法衛星についてその航法衛星に対する補正値を提供した基準局数分だけの補正済み距離を得て,前記補正済み距離の各々について,適用された補正値を提供した基準局ごとに別々の受信機時計誤差に相当する未知数を設定したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行うことを特徴とする,衛星航法システムにおける測位誤差を補正するプログラムである。
【発明の効果】
【0049】
請求項1~3に係る発明は,上記のように構成したので,DGPSにおいてユーザ局が複数の基準局を利用できる場合に,それら複数の基準局による補正値を併用し,ユーザ局が利用可能な航法衛星を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】この発明の実施例を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の補正方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下,本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0052】
この発明の実施例を,
図1に基づいて詳細に説明する。なお,
図1には航法衛星を3機しか表示していないが,これは例示であり,4機以上による場合もあり得る。また,
図1には基準局を2局しか表示していないが,これは例示であり,3局以上の基準局による構成も可能である。
【0053】
航法衛星1a,1b,1cは,それぞれ測位信号を送信する。
【0054】
ユーザ局2は,航法衛星1a,1b,1cが送信した測位信号を受信し,各々の航法衛星からユーザ局までの距離を測定する機能を有する。
【0055】
基準局3aは地上に固定されており,航法衛星1a,1bが送信した測位信号を受信して航法衛星から各々の基準局までの距離を測定し,測定された距離に基づき補正値を生成する機能を有する。同様に,基準局3bは地上に固定されており,航法衛星1a,1b,1cが送信した測位信号を受信して航法衛星から各々の基準局までの距離を測定し,測定された距離に基づき補正値を生成する機能を有する。
【0056】
基準局3aは航法衛星1a,1bについての補正値をユーザ局2に提供する(4a)。同様に,基準局3bは航法衛星1a,1b,1cについての補正値をユーザ局2に提供する(4b)。
【0057】
ユーザ局2は,航法衛星1a,1bとの間の距離に対して,基準局3aから得た補正値を適用し,補正済みの距離を得る。基準局3aからは航法衛星1cの補正値は得られないから,航法衛星1cについては補正済みの距離は得られない。従って,基準局3aから得た補正値により,2つの補正済みの距離が得られる。
【0058】
ユーザ局2は,航法衛星1a,1b,1cとの間の距離に対して,基準局3bから得た補正値を適用し,補正済みの距離を得る。基準局3bからは航法衛星1cの補正値が得られているから,航法衛星1cについても補正済みの距離が得られる。従って,基準局3bから得た補正値により,3つの補正済みの距離が得られる。
【0059】
ユーザ局2では,基準局3a及び基準局3bから得た補正値により,あわせて5つの補正済み距離が得られている。このうち,基準局3aから得た補正値による補正済み距離については第一の受信機時計誤差,基準局3bから得た補正値による補正済み距離については第二の受信機時計誤差が含まれているものとして,測位計算を実行することで,ユーザ局の位置が得られる。
【0060】
次に,作用動作について説明する。
【0061】
ユーザ局2が基準局3aだけを使用する場合を考える。この場合は航法衛星1cの補正値は得られないから,航法衛星1cについては補正済みの距離は得られない。従って,基準局3aから得た補正値により,2つの補正済みの距離が得られる。
【0062】
すなわち,ユーザ局は航法衛星1a,1b,1cの擬似距離を測定しているにも関わらず,この例では2つの補正済み距離しか得られないことになる。
【0063】
本発明によれば,ユーザ局は基準局3aに加えて基準局3bも使用することができる。基準局3bからは航法衛星1a,1b,1cの補正値が得られているから,基準局3bから得た補正値により,3つの補正済みの距離が得られる。基準局3aとあわせて5つの補正済み距離が得られることになるうえに,航法衛星1cも利用可能になる。
【0064】
衛星航法においては一般に航法衛星の数が多いほど良好な測位精度を期待できるから,航法衛星1cを利用できるようになることはユーザ局2にとっては有利である。また,航法衛星1a,1bについても,基準局3a,3bの両方の補正値を適用した補正済み距離を得られ,そのいずれも測位計算に使用されることになるから,基準局3a,3bの補正値に含まれる雑音が平均されることになり,測位精度の改善を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の補正方法により,DGPSにおいてユーザ局が複数の基準局を利用できる場合に,それら複数の基準局の全てで共通して可視となっている航法衛星に加えて,1以上の基準局で可視となっている航法衛星についても各基準局の補正値を併用し,ユーザ局が利用可能な航法衛星を増加させることができる。例えば,準天頂衛星システムのSLASサービスでは日本全国に配置された13局の基準局における補正情報が提供されるので,最寄りの基準局を選択して利用することに代えて複数の基準局を併用すれば,ユーザ局が利用可能な航法衛星を増加させ,測位精度を改善できる。
【符号の説明】
【0066】
1a,1b,1c 航法衛星
2 ユーザ局
3a,3b 基準局
4a,4b 基準局からユーザ局への補正値の提供
【要約】
【課題】 ディファレンシャルGPSにおいて複数の基準局を併用する
【解決手段】 ユーザ局と複数の基準局を備えるディファレンシャルGPS方式による衛星測位システムにおいて,ユーザ局は,複数の基準局から補正値を得て,航法衛星との間の距離に対してこれらの補正値を適用し,各々の航法衛星についてその航法衛星に対する補正値を提供した基準局数分だけの補正済み距離を得て,これら補正済み距離の各々について,適用された補正値を提供した基準局ごとに別々の受信機時計誤差に相当する未知数を設定したうえで,ユーザ局の位置の計算を行う。
【選択図】
図1