(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】多重螺旋回転装置
(51)【国際特許分類】
B62D 57/036 20060101AFI20241121BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B62D57/036
B25J17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020054135
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将広
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敏彰
(72)【発明者】
【氏名】多田隈 建二郎
(72)【発明者】
【氏名】昆陽 雅司
(72)【発明者】
【氏名】田所 諭
(72)【発明者】
【氏名】西村 礼貴
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306364(JP,A)
【文献】特開2003-269358(JP,A)
【文献】特表2018-520925(JP,A)
【文献】特表2019-536692(JP,A)
【文献】特許第5979759(JP,B2)
【文献】特許第5507483(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 57/02、57/036
B60B 19/00
F04D 3/02
B25J 17/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの中心軸の周りに、同じねじれ角でらせん状に設けられた3つ以上のらせん体と、
所定の中心回転軸に対して各らせん体の前記中心軸が平行を成すよう、各らせん体を前記中心回転軸の周囲に配置すると共に、各らせん体をそれぞれの中心軸を中心として同期して回転可能に支持する回転支持手段と
、
伸縮性の素材から成り、各らせん体で形成される構造の外形に沿って、前記構造の外側を覆うよう設けられたカバー部材とを有し、
各らせん体は、それぞれの中心軸を中心として同期して回転させたとき、前記中心回転軸の任意の位置での、前記中心回転軸に対して垂直な平面において、前記中心回転軸とそれぞれの前記中心軸とを結ぶ直線に対して、同じ回転角度を成すよう前記回転支持手段に支持されていることを
特徴とする多重螺旋回転装置。
【請求項2】
各らせん体は、前記中心回転軸の周囲に、それぞれの中心軸が前記中心回転軸を中心として等角度間隔、かつ、前記中心回転軸から等距離になるよう配置されていることを特徴とする請求項1記載の多重螺旋回転装置。
【請求項3】
各らせん体は、それぞれの中心軸の周りを1周以上していることを特徴とする請求項1
または2記載の多重螺旋回転装置。
【請求項4】
各らせん体は、それぞれの中心軸の周りを2周以上しており、
前記回転支持手段を、前記中心回転軸を中心として回転可能に支持する全体回転手段を有することを特徴とする請求項1
または2記載の多重螺旋回転装置。
【請求項5】
前記中心回転軸に沿って設けられたシャフトを有し、
各らせん体は、前記中心回転軸に最も近い外側面が、前記シャフトに接するよう配置されていることを
特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の多重螺旋回転装置。
【請求項6】
それぞれの中心軸の周りに、同じねじれ角でらせん状に設けられた3つ以上のらせん体と、
所定の中心回転軸に対して各らせん体の前記中心軸が平行を成すよう、各らせん体を前記中心回転軸の周囲に配置すると共に、各らせん体をそれぞれの中心軸を中心として同期して回転可能に支持する回転支持手段と、
前記中心回転軸に沿って設けられたシャフトとを有し、
各らせん体は、前記中心回転軸に最も近い外側面が、前記シャフトに接するよう配置され、それぞれの中心軸を中心として同期して回転させたとき、前記中心回転軸の任意の位置での、前記中心回転軸に対して垂直な平面において、前記中心回転軸とそれぞれの前記中心軸とを結ぶ直線に対して、同じ回転角度を成すよう前記回転支持手段に支持されていることを
特徴とする多重螺旋回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重螺旋回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
進行波を利用して推進や物質の移送などを行う装置は、その動きおよび構造的特性のため、さまざまな利点を有している。例えば、推進する際には、装置の表面全体で推力を生成するため、狭い空間でも容易に移動することができ、コーナーや障害物等に引っかかりにくいという利点がある。
【0003】
このような進行波を利用して推進等を行う装置として、従来、多数の曲げアクチュエータを直列に接続し、各曲げ位置での角度を波の位相に対応させて制御するものがあり、例えば、複数の関節を持つ蛇型ロボット(例えば、非特許文献1または2参照)や、縦方向に伸縮するアクチュエータを用いたロボット(例えば、非特許文献3または4参照)が開発されている。これらのロボットは、大振幅の波など、さまざまな波形を生成することができる。
【0004】
また、らせんを平面に投影すると正弦波になることに着目し、回転軸に沿ってらせん状に形成されたらせん体から成るロボットも開発されている(例えば、非特許文献5乃至7参照)。このロボットは、らせん体を無限回転させることにより、滑らかな進行波を生成することができ、また、単一のモーターを使用して高速駆動することもできる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】H. Kalani, A. Akbarzadeh, and J. Safehian, “Traveling Wave Locomotion of Snake Robot along Symmetrical and Unsymmetrical body shapes”, 41st Int. Symp. Robot. 6th German Conf. Robot., Munich, Germany, Jun. 2010, p. 62-68
【文献】H. Yamada and S. Hirose, “Steering of pedal wave of a snake-like robot by superposition of curvatures”, IEEE/RSJ Int. Conf. Intell. Robot. Syst., Taipei, Taiwan, Oct. 2010, p.419-424
【文献】M. Watanabe and H. Tsukagoshi, “Soft sheet actuator generating traveling waves inspired by gastropod's locomotion”, 2017 IEEE Int. Conf. Robot. Autom., Singapore, Singapore, May 2017, p. 602-607
【文献】N. T. Jafferis and J. C. Sturm, “Fundamental and experimental conditions for the realization of traveling-wave-induced aerodynamic propulsive forces by piezoelectrically deformed plastic substrates”, J. Microelectromech. Syst., Apr. 2013, vol. 22, p. 495-505
【文献】David Zarrouk, Moshe Mann, Nir Degani, Tal Yehuda, Nissan Jarbi and Amotz Hess, “Single actuator wave-like robot (SAW): design, modeling, and experiments”, Bioinspiration Biomim., Jul. 2016, vol. 11
【文献】B. Chan, N. J. Balamforth, and A. E. Hosoi, “Building a better snail: lubrication and adhesive locomotion”, Phys. Fluids, Nov. 2005, vol. 17, 113101
【文献】Y. Mizota, Y. Goto, and T. Nakamura, “Development of a wall climbing robot using the mobile mechanism of continuous traveling waves propagation -development of a mechanism of wave-absorbing”, Proc. IEEE Int. Conf. Robot. Biomim., Shenzhen, China, Dec. 2013, p. 1508-1513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1乃至4に記載のような蛇型ロボットや縦方向伸縮アクチュエータを用いたロボットは、波の伝播のために、常に多数のアクチュエータを駆動する必要があるため、構造や制御が複雑になるという課題があった。また、非特許文献5乃至7に記載のらせん体から成るロボットは、平面波を生成するものであり、推進や物質の移送を行うことはできないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、構造や制御が比較的簡単で、推進や物質の移送を行うことができる多重螺旋回転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る多重螺旋回転装置は、それぞれの中心軸の周りに、同じねじれ角でらせん状に設けられた3つ以上のらせん体と、所定の中心回転軸に対して各らせん体の前記中心軸が平行を成すよう、各らせん体を前記中心回転軸の周囲に配置すると共に、各らせん体をそれぞれの中心軸を中心として同期して回転可能に支持する回転支持手段とを有し、各らせん体は、それぞれの中心軸を中心として同期して回転させたとき、前記中心回転軸の任意の位置での、前記中心回転軸に対して垂直な平面において、前記中心回転軸とそれぞれの前記中心軸とを結ぶ直線に対して、同じ回転角度を成すよう前記回転支持手段に支持されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る多重螺旋回転装置は、各らせん体の中心回転軸から最も離れた山部や中心回転軸に最も近い谷部などが、中心回転軸に沿って同じ位置に配置されるため、各らせん体を、それぞれの中心軸を中心として同期して回転させることにより、各らせん体の山部や谷部を同位相で同時に移動させることができる。また、3つ以上のらせん体を中心回転軸の周囲に配置しているため、中心回転軸の周囲を囲うように、山部や谷部を同位相で同時に移動させることができる。このため、各らせん体で形成される構造の外形に着目すると、中心回転軸に沿って中心回転軸を中心としてほぼ回転対称に形成された波を、中心回転軸に沿って移動させることができる。このように、本発明に係る多重螺旋回転装置は、滑らかで連続的な蠕動運動を生成することができる。
【0010】
また、本発明に係る多重螺旋回転装置は、例えば単一のモーターを利用して、各らせん体を同期して回転させることができる。このため、多数のアクチュエータを使用して波動を形成する従来の装置と比べて、構造や制御が簡単である。また、中心回転軸に沿った蠕動運動を利用して、推進や物質の移送を行うことができる。
【0011】
本発明に係る多重螺旋回転装置は、各らせん体の回転速度を変えることにより、蠕動運動の移動速度を調節することができる。また、各らせん体の回転方向を変えることにより、蠕動運動の移動方向を反転させることができる。本発明に係る多重螺旋回転装置は、らせん体の数を多くすることにより、中心回転軸に沿って移動させる波を、中心回転軸を中心とした回転対称の形状に近づけることができ、より滑らかな蠕動運動を生成することができる。
【0012】
本発明に係る多重螺旋回転装置で、各らせん体は、前記中心回転軸の周囲に、それぞれの中心軸が前記中心回転軸を中心として等角度間隔、かつ、前記中心回転軸から等距離になるよう配置されていることが好ましい。この場合、中心回転軸に対して各らせん体がバランス良く配置されるため、より滑らかな蠕動運動を生成することができる。
【0013】
本発明に係る多重螺旋回転装置は、伸縮性の素材から成り、各らせん体で形成される構造の外形に沿って、前記構造の外側を覆うよう設けられたカバー部材を有することが好ましい。この場合、カバー部材が、各らせん体で形成される構造の外形の動きをするため、滑らかで連続的な蠕動運動を抽出して利用することができる。また、カバー部材により、回転する各らせん体に何かが絡まったり、各らせん体の内側に何かが入り込んだりするのを防ぐことができる。
【0014】
本発明に係る多重螺旋回転装置で、各らせん体は、それぞれの中心軸の周りを1周以上していることが好ましい。この場合、1周期以上の波形から成る蠕動運動を得ることができる。このため、例えば、パイプの内側に配置することにより、山部と谷部の高低差を利用して、液体などの移送を行うポンプとして利用することができる。
【0015】
本発明に係る多重螺旋回転装置で、各らせん体は、それぞれの中心軸の周りを2周以上しており、前記回転支持手段を、前記中心回転軸を中心として回転可能に支持する全体回転手段を有していてもよい。この場合、各らせん体を2点以上で安定して接地することができる。また、回転支持手段を、中心回転軸を中心として回転させることにより、各らせん体も中心回転軸を中心として回転するため、中心回転軸に対して直交方向に移動することができる。この移動と、蠕動運動による中心回転軸に沿った推進とを組み合わせることにより、全方向移動を行うことができる。
【0016】
本発明に係る多重螺旋回転装置は、前記中心回転軸に沿って設けられたシャフトを有し、各らせん体は、前記中心回転軸に最も近い外側面が、前記シャフトに接するよう配置されていてもよい。この場合、シャフトにより、各らせん体にかかる荷重を受けることができ、荷重によりらせん体が曲がって、らせん体同士が接触したり破損したりするのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、構造や制御が比較的簡単で、推進や物質の移送を行うことができる多重螺旋回転装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置を示す側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置の、カバー部材を取り除いた状態の斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置の、カバー部材を取り除いた状態の(a)斜視図、(b) (a)のB-B線断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置の、各らせん体の(a)
図3(a)のC-C線断面図、(b)
図3(a)のD-D線断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置の、複数を並べた状態の全方向移動可能な変形例を示す平面図である。
【
図6】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置を車輪として使用した全方向移動体を示す斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置をポンプとして使用した変形例を示す縦断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置の、蠕動運動時の各らせん体の角速度(Angular velocity of the helix)と平均移動速度(Average velocity)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図8は、本発明の実施の形態の多重螺旋回転装置を示している。
図1乃至
図4に示すように、多重螺旋回転装置10は、6つのらせん体11と1対の回転支持手段12とシャフト13と全体回転手段14とカバー部材15とを有している。
【0020】
各らせん体11は、それぞれの中心軸の周りに、互いに同じねじれ角でらせん状に設けられている。なお、ねじれ角は、らせん体11の任意の位置での、らせん体11の中心軸に平行な直線と、らせん体11の伸長方向との成す角度である。
図1~3に示す具体的な一例では、各らせん体11は、それぞれの中心軸の周りを2周している。各らせん体11は、所定の中心回転軸Aに対してそれぞれの中心軸が平行を成すよう、中心回転軸Aの周囲に配置されている。各らせん体11は、中心回転軸Aの周囲に、それぞれの中心軸が中心回転軸Aを中心として等角度間隔、かつ、中心回転軸Aから等距離になるよう配置されている。各らせん体11は、両端に、それぞれの中心軸と同軸で固定された平歯車21を有している。
【0021】
1対の回転支持手段12は、各らせん体11の両端に、各らせん体11を支持するようそれぞれ設けられている。
図3(b)に示すように、各回転支持手段12は、それぞれ各らせん体11の両端で、中心回転軸Aと同軸で各らせん体11の平歯車21に噛み合うよう設けられた平歯車22を有している。各回転支持手段12は、互いの平歯車22を同期して回転させることにより、各らせん体11の平歯車21を回転させ、各らせん体11をそれぞれの中心軸を中心として同期して回転可能に支持している。
【0022】
図1乃至
図3に示すように、シャフト13は、中心回転軸Aに沿って設けられ、各らせん体11で囲まれた空間を通って、一方の回転支持手段12から他方の回転支持手段12まで伸びている。
図3(b)および
図4(a)に示すように、各らせん体11は、中心回転軸Aに最も近い外側面が、シャフト13の側面に接するよう配置されている。
図1乃至
図3に示すように、シャフト13は、一方の回転支持手段12の各らせん体11とは反対側に突出し、各回転支持手段12の平歯車22の中心を貫通して、各平歯車22を固定している。これにより、シャフト13は、中心回転軸Aを中心として周方向に回転することにより、各平歯車22を回転させ、各らせん体11を同期して回転させるようになっている。
【0023】
全体回転手段14は、細長い棒状を成し、中心回転軸Aに沿って設けられている。全体回転手段14は、他方の回転支持手段12の各らせん体11とは反対側に突出するよう、他方の回転支持手段12に固定されている。これにより、全体回転手段14は、他方の回転支持手段12を、中心回転軸Aを中心として回転可能に支持している。また、全体回転手段14は、中心回転軸Aを中心として周方向に回転することにより、他方の回転支持手段12と共に、一方の回転支持手段12および各らせん体11を、中心回転軸Aを中心として回転させるようになっている。
【0024】
カバー部材15は、メッシュチューブから成り、伸縮性を有している。カバー部材15は、各らせん体11で形成される構造の外形に沿って、その構造の外側を覆うよう設けられている。なお、カバー部材15は、防水カバーや、防塵カバーから成っていてもよい。
【0025】
図4(a)および(b)に示すように、多重螺旋回転装置10は、各らせん体11をそれぞれの中心軸を中心として同期して回転させたとき、中心回転軸Aの任意の位置での、中心回転軸Aに対して垂直な平面において、中心回転軸A(
図4(a)および(b)中のO)と各らせん体11の中心軸とを結ぶ直線に対して、各らせん体11が同じ回転角度(
図4(b)中のθ)を成すよう構成されている。これにより、多重螺旋回転装置10は、中心回転軸Aの任意の位置での、中心回転軸Aに対して垂直な平面において、各らせん体11の内側の形状が、ほぼ円形を成すよう構成されている。
【0026】
次に、作用について説明する。
多重螺旋回転装置10は、各らせん体11の中心回転軸Aから最も離れた山部や中心回転軸Aに最も近い谷部などが、中心回転軸Aに沿って同じ位置に配置されるため、各らせん体11を、それぞれの中心軸を中心として同期して回転させることにより、各らせん体11の山部や谷部を同位相で同時に移動させることができる。また、6つのらせん体11を中心回転軸Aの周囲に配置しているため、中心回転軸Aの周囲を囲うように、山部や谷部を同位相で同時に移動させることができる。また、カバー部材15により、各らせん体11で形成される構造の外形の動きを抽出することができる。このため、中心回転軸Aに沿って中心回転軸Aを中心としてほぼ回転対称に形成された波を、中心回転軸Aに沿って移動させることができる。このように、多重螺旋回転装置10は、滑らかで連続的な蠕動運動を生成することができる。
【0027】
また、多重螺旋回転装置10は、単一のモーターでシャフト13を回転させることにより、各らせん体11を同期して回転させることができる。このため、多数のアクチュエータを使用して波動を形成する従来の装置と比べて、構造や制御が簡単である。また、多重螺旋回転装置10は、中心回転軸Aに沿った蠕動運動を利用して、推進や物質の移送を行うことができる。
【0028】
多重螺旋回転装置10は、各らせん体11の回転速度を変えることにより、蠕動運動の移動速度を調節することができる。また、各らせん体11の回転方向を変えることにより、蠕動運動の移動方向を反転させることができる。また、多重螺旋回転装置10は、カバー部材15により、回転する各らせん体11に何かが絡まったり、各らせん体11の内側に何かが入り込んだりするのを防ぐことができる。また、多重螺旋回転装置10は、シャフト13により、各らせん体11にかかる荷重を受けることができるため、荷重によりらせん体11が曲がって、らせん体11同士が接触したり破損したりするのを防ぐことができる。
【0029】
多重螺旋回転装置10は、各らせん体11がそれぞれの中心軸の周りを2周しているため、各らせん体11を2点以上で安定して接地することができる。また、全体回転手段14を、中心回転軸Aを中心として周方向に回転させることにより、各回転支持手段12および各らせん体11を、中心回転軸Aを中心として回転させることができる。これにより、中心回転軸Aに対して直交方向にも移動することができる。この中心回転軸Aに対して直交方向の移動と、蠕動運動による中心回転軸Aに沿った推進とを組み合わせることにより、全方向移動を行うことができる。
【0030】
この場合、例えば、1つの多重螺旋回転装置10により全方向移動を行うだけでなく、
図5および
図6に示すように、複数の多重螺旋回転装置10を中心回転軸Aに対して直交方向に並べて、全方向移動を行うこともできる。この場合でも、平歯車31などを利用して、各多重螺旋回転装置10の全体回転手段14やシャフト13を同期して回転可能に構成することができる。また、これにより、各多重螺旋回転装置10の全体回転手段14を回転させるモーターと、各多重螺旋回転装置10のシャフト13を回転させるモーターを、それぞれ1つずつで構成することができる。また、
図5に示すように、隣り合う多重螺旋回転装置10の山部と谷部が対向するよう並べることにより、接地スペースを小さくすることができる。また、
図6に示すように、2つの多重螺旋回転装置10を、所定の間隔をあけて、中心回転軸Aに対して直交方向に並べ、全方向移動体1の車輪として使用することもできる。
【0031】
また、複数の多重螺旋回転装置10を、中心回転軸Aに沿って並べて、全方向移動を行うこともできる。この場合、狭い空間でも容易に移動することができる。また、各多重螺旋回転装置10同士を自在継手などで連結することにより、コーナー部などでも方向を変えて滑らかに移動することができる。
【0032】
多重螺旋回転装置10は、
図7に示すように、パイプ2の内側に配置し、山部と谷部の高低差を利用して、蠕動運動により液体などの移送を行うポンプとして利用することもできる。この場合、カバー部材15は、遮水性であることが好ましく、各らせん体11は、それぞれの中心軸の周りを1周以上していればよい。
【実施例1】
【0033】
図1~4に示す多重螺旋回転装置10を製造し、蠕動運動の移動速度の測定を行った。多重螺旋回転装置10は、6つのらせん体11から成り、各らせん体11は、それぞれの中心軸の周りを2周している。また、各らせん体11は、長さが280mm、直径(2r
c+2r
h)が22.5mm、ねじれ角(α)は15.7°、断面の直径(2r
h)が10mmである。また、中心回転軸Aと各らせん体11の中心軸との距離(r
w)は、17.25mmである。多重螺旋回転装置10は、長さが345mm、直径(r)が57mm、重さが360gである。なお、括弧内の記号は、
図4中の記号に対応している。各らせん体11および各回転支持手段12は、アクリル樹脂製で、3Dプリンタにより製造した。カバー部材15は、ナイロン製の市販の編組メッシュチューブ(SF-30)である。各らせん体11は、カバー部材15との間の摩擦係数を減らすために、#2000サンドペーパーで表面仕上げを行っている。
【0034】
多重螺旋回転装置10は、シャフト13および全体回転手段14を、ベアリングを介してアルミニウム製のフレームに固定して支持した状態で蠕動運動を行った。移動速度の測定では、カバー部材15で覆われた各らせん体11の上にアクリル板(幅62mm、長さ300mm、厚さ5mm、質量110g)を載せ、シャフト13をモーターで駆動して各らせん体11を回転させることにより蠕動運動を発生させた。蠕動運動によりアクリル板が搬送される様子を、側面からビデオカメラで撮影し、その映像を分析して、アクリル板の移動距離と移動時間から平均移動速度を求めた。また、各らせん体11の回転の角速度を変えて、角速度毎に測定を行った。測定により求められた各らせん体11の角速度(Angular velocity of the helix)と平均移動速度(Average velocity)との関係を、
図8に示す。なお、
図8には、理論的に得られる移動速度の最大値(Theoretical max.)も示している。
【0035】
図8に示すように、平均移動速度は、各らせん体11の角速度にほぼ比例して増加することが確認された。なお、測定した平均移動速度は、理論値よりも小さくなっていることも確認された。また、平均移動速度は、各らせん体11の角速度が大きくなるに従って、勾配が小さくなっていることも確認された。これらは、使用したカバー部材15が、各らせん体11で形成される構造の外形に合っていなかったことや、アクリル板が移動中に振動し、各らせん体11の角速度が大きくなるに従って、その振動も大きくなったことが原因であると考えられる。このため、蠕動運動を行っている間も、各らせん体11で形成される構造の外形に合うカバー部材15を用いると共に、そのカバー部材15と各らせん体11との間の摩擦をより小さくすることにより、平均移動速度が理論値に近づくものと考えられる。
【符号の説明】
【0036】
1 全方向移動体
2 パイプ
10 多重螺旋回転装置
11 らせん体
21 平歯車
12 回転支持手段
22 平歯車
13 シャフト
14 全体回転手段
15 カバー部材
A 中心回転軸
31 平歯車