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特許7591246オブラートを支持体とする化粧用ゲルシート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】オブラートを支持体とする化粧用ゲルシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20241121BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20241121BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/34
A61K8/36
A61Q19/00
A61K8/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020059224
(22)【出願日】2020-03-28
(65)【公開番号】P2021155377
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200899(JP,A)
【文献】特開平10-120527(JP,A)
【文献】特開2012-082170(JP,A)
【文献】特開2005-213176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A45D 44/00-44/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基含有水溶性高分子、多価アルコール及び酸を必須構成成分とし、含水量が30重量%以下であるゲルシートと、該ゲルシートの片面又は両面に積層したオブラートとからなる化粧用ゲルシート。
【請求項2】
前記含水量が20重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項3】
前記カルボキシ基含有水溶性高分子がカルボキシ基含有多糖類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項4】
前記カルボキシ基含有水溶性高分子1重量部に対し、前記多価アルコール含量が1~30重量部であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれが1項に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項5】
破断応力が0.1N/cm以上である請求項1ないし4のいずれか1項に記載した化粧用ゲルシート。
【請求項6】
皮膚貼付により発熱することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項7】
前記カルボキシ基含有多糖類が、キサンタンガム、ゲランガム、アルギン酸、ヒアルロン酸及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる1又は複数の化合物であることを特徴とする請求項3に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項8】
前記多価アルコールが、グリセリンであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項9】
前記酸が、クエン酸、酒石酸、乳酸及び塩酸からなる群から選ばれる1又は複数の化合物であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項10】
前記オブラートの厚さが5~50μmであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の化粧用ゲルシート。
【請求項11】
カルボキシ基含有水溶性高分子、多価アルコール及び酸を必須成分として含む水溶液をフィルム上に塗布するか又はトレイに流し込み、含水量が30重量%以下となるように乾燥させてゲルシートを製造する工程、並びに
該ゲルシートの片面又は両面にオブラートを積層する工程
を含む化粧用ゲルシート製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性高分子ゲルを用い、オブラートを支持体とする新しい化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧用ゲルシートはスキンケア用素材であり、肌に貼り付けるとうるおい効果や冷感・熱感を与える。ゲルシートは化粧水や化粧乳液のように流れず、長時間にわたり皮膚に効果を発揮する。
【0003】
従来の化粧用ゲルシートは、親水性の樹脂を水に溶解させゲル化させたもので、その中に水・保湿剤・電解質などを保持させて使用されてきた。従来のゲルシートは多量の水を含み、架橋剤によって親水性樹脂を架橋させることが必須であった。
コラーゲンやキチン、キトサン、アルギン酸、セルロース等の多糖類を構成成分とするシート状パック剤(特許文献1)や、ポリアクリル酸、多価アルコール、水、外部架橋剤を必須成分として含有し、さらに必要に応じて角質軟化剤や細胞賦活成分などを配合してなるスキンケア化粧用ゲルシートが知られている(特許文献2)。
【0004】
紅藻多糖類(寒天及びアガロース等)と発酵多糖類(グルコマンナン、ガラクトマンナン等)とを含む多糖類ゲルシートも報告されている(特許文献3)。また、イオン性基を有する親水性高分子と水からなるゲルシートも報告されている(特許文献4)。イオン性基を有する親水性高分子としては、ポリビニルアルコール誘導体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、セルロース誘導体、多糖類誘導体(キサンタンガム、グアーガム等)が例示されている。
アミロースよりなる水不溶性のゲルシートに美容液が含浸された、2成分系のシート状パック化粧料も報告されている(特許文献5)。
【0005】
親水性基を有する天然高分子、例えば中性多糖類(セルロース、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、プルラン、イヌリン、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラビナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなど)、アニオン性多糖類(ペクチン酸、アルギン酸、アガロース、寒天、カラギーナン、フコイダン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ジェランガム、ネイティブジェランガム、キサンタンガム、カルボシキルメチルセルロースなど)、カチオン性多糖類(キチン、キトサン、カチオン化セルロースなど)、タンパク(ゼラチン、カゼイン、エラスチンなど)を用いた生体用粘着ゲルシートも報告されている(特許文献6)。
多糖類を含むゲルシートとして、コラーゲン及びゲル化剤及び多価アルコール化合物を含むゲルシート(特許文献7-9)も報告されている。
【0006】
ゲルシートに多糖類を混和すると好適であることも指摘されている(特許文献10、11)。好ましい多糖類としては、中性多糖類(例えば、セルロース、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、プルラン、イヌリン、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラビナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アガロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カードラン、キシログルカンなど)、アニオン性多糖類(ペクチン酸、アルギン酸、アガロース、寒天、カラギーナン、フコイダン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ジェランガム、ネイティブジェランガム、キサンタンガム、カルボシキルメチルセルロース、カルボシキルメチルデンプン、カルボシキルメチルデキストランなど)、カチオン性多糖類(キチン、キトサン、カチオン化セルロース、カチオン化デンプン、カチオン化デキストランなど)が例示されている。アニオン性多糖類として、カルボシキルル基、スルホ基、ホスホ基を有するものが示されている。
しかしこれら従来型のゲルシートは、大量の水を含むことが特徴である。
【0007】
本発明者らは、適量の水又は化粧水の添加によって速やかに溶解するヒアルロン酸ゲルからなる化粧料を開発した(特許文献12)。また、本発明者らは、従来の化粧用シートと比較してシート中の水分含量がきわめて少ない化粧用ゲルシートを開発した(特許文献13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平3-081213号公報
【文献】特開平11-228340号公報
【文献】特表2003-518008号公報
【文献】特開2005-145895号公報
【文献】特開2005-213176号公報
【文献】特開2008-137970号公報
【文献】特開2009-091342号公報
【文献】特開2009-108005号公報
【文献】特開2009-108006号公報
【文献】特開2009-108007号公報
【文献】特開2009-108008号公報
【文献】特開2014-024828号公報
【文献】特開2015-151394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明らが開発した上記ゲルシートは、支持体なしで両面をPETフィルム等で保護された状態で保存し、使用に当たっては片面のフィルムを剥がしてゲルシートを顔に貼り、その後、もう片面のシートを剥がして使用することもできる。しかしながら、その操作は複雑であり幾分かの技術を要し、使用者にストレスを与えかねない面があった。また、顔面を覆う大きさのゲルシートの操作を間違えると、ゲルシート同士が接触固着してしまうという不便さがあった。本発明が解決しようとする課題は、より簡便な操作で皮膚に貼付可能な化粧用ゲルシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはゲルシートの片面又は両面にオブラートを採用し、ゲルシートとオブラートとを積層することによって、上記課題を解決できることに想到し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 カルボキシ基含有水溶性高分子、多価アルコール及び酸を必須構成成分とし、含水量が30重量%以下であるゲルシートと、該ゲルシートの片面又は両面に積層したオブラートとからなる化粧用ゲルシート。
〔2〕 前記含水量が20重量%以下であることを特徴とする〔1〕に記載の化粧用ゲルシート。
〔3〕 前記カルボキシ基含有水溶性高分子がカルボキシ基含有多糖類であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の化粧用ゲルシート。
〔4〕 前記カルボキシ基含有水溶性高分子1重量部に対し、前記多価アルコール含量が1~30重量部であることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の化粧用ゲルシート。
〔5〕 前記ゲルシートの破断応力が0.1N/cm以上である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載した化粧用ゲルシート。
〔6〕 前記カルボキシ基含水溶性高分子、前記多価アルコール及び前記酸を必須成分として含む水溶液を乾燥させてゲルシートを製造するにあたり、
該水溶液中の前記酸の含有量が、該水溶液のpHを2.0~4.5とするに適当な量であることを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の化粧用ゲルシート。
〔7〕 皮膚貼付により発熱することを特徴とする〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の化粧用ゲルシート。
〔8〕 前記カルボキシ基含有多糖類が、キサンタンガム、ゲランガム、アルギン酸、ヒアルロン酸及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる1又は複数の化合物であることを特徴とする〔3〕~〔7〕のいずれかに記載の化粧用ゲルシート。
〔9〕 前記多価アルコールが、グリセリンであることを特徴とする〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の化粧用ゲルシート。
〔10〕 前記酸が、クエン酸、酒石酸、乳酸及び塩酸からなる群から選ばれる1又は複数の化合物であることを特徴とする〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の化粧用ゲルシート。
〔11〕 前記オブラートの厚さが5~50μmであることを特徴とする〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の化粧用ゲルシート。
〔12〕 カルボキシ基含有水溶性高分子、多価アルコール及び酸を必須成分として含む水溶液をフィルム上に塗布するか又はトレイに流し込み、含水量が30重量%以下となるように乾燥させてゲルシートを製造する工程、並びに
該ゲルシートの片面又は両面にオブラートを積層する工程
を含む化粧用ゲルシート製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化粧用ゲルシートは、水は必須成分ではなく、多価アルコール中にカルボキシ基含有水溶性高分子がゲル化して存在している。このような化粧用ゲルシートは次のような特徴を有する。
(1)水を少量しか含まないので微生物の繁殖に適さず、防腐剤を必要としない。
(2)主成分が多価アルコールであり、本ゲルシートを皮膚に適用し水(お湯)でマッサージすれば、アルコールが水和により発熱し肌に心地よい感覚をあたえる。
(3)水に溶解すると不安定な化粧品有価成分の安定性が増す。
【0012】
本発明の化粧用ゲルシートは、水溶性高分子や多糖類本来の優れた特長を活用している。化学架橋をしないカルボキシ基含有水溶性高分子ゲルは、皮膚に適用後少量の水を加えると多価アルコールの水和による温感が発生し、マッサージするとゲルが溶解し配合成分が皮膚に浸透する。その後水で洗い流しても効果は持続し、皮膚に温感、うるおい感とすべすべ感を与える。そのため美容分野に用いる材料として有用である。従来型ハイドロゲルシートではこのような効果が見られない。
【0013】
本発明の化粧用ゲルシートはオブラートを支持体として使用するので、固さが従来のゲルシートに比べて大きく、取り扱いに便利である。また、化粧用ゲルシートを顔等の皮膚に貼付後化粧水等で該ゲルシートを溶解させるにあたって、オブラートも直ちに溶解するので、アルコゲルシートの溶解及び使用感を妨げることはない。さらには、オブラート自体が溶解によって顔を覆うことによる保湿効果の向上も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の化粧用ゲルシートは、片面にオブラートを積層して支持体とするアルコゲルシートである。もう一方の片面は、フィルムで保護されていてもよい。少なくとも、本発明の化粧用ゲルシートは、使用時には当該フィルムを剥がし、片面のみにオブラート支持体が積層されている。
本発明の化粧用ゲルシートは、片面又は両面にオブラートを積層して支持体とするアルコゲルシートである。片面にオブラート支持体を積層する場合は、もう一方の片面はフィルムで保護し、使用時に当該フィルムを剥がして使用する。また、両面をオブラート支持体で積層する場合は、フィルムで保護する必要は無く、そのまま使用可能である。
一般に、オブラートは、デンプンから作られる半透明の薄膜のことをいう。本発明で使用するオブラートは、コーンスターチ、バレイショデンプン、タピオカデンプンなどの各種のデンプン類や、ヒドロキシプロピルデンプン、オクチニルコハク酸デンプン塩、加水分解デンプンなどのデンプン誘導体を使用して作製されるオブラートであってもよい。また、デンプン以外にも必要に応じて寒天類、その他の多糖類を配合してオブラートを作製することも可能である。
【0015】
本発明の化粧用ゲルシート本体は、カルボキシ基含有水溶性高分子、多価アルコール及び酸を必須構成成分とし、含水量が30重量%以下であることを特徴とする。
ここにカルボキシ基含有水溶性高分子とは、分子内に置換基としてカルボキシ基を有する水溶性高分子をいう。
【0016】
化粧用ゲルシート中の含水量は15重量%以下であることがより好ましい。
本発明の化粧用ゲルシートは、従来の化粧用シートと比較してシート中の水分含量がきわめて少ないことが特徴であり、含水量は実質的に0であっても差し支えない。
【0017】
本発明の化粧用ゲルシート中の含水量が30重量%を超えると水溶性高分子のゲル化が不十分となり、そのためゲルシートの機械的強度が不足し化粧用シートとして不適となる。また、含水量が30重量%を超えると、オブラートが膨潤して支持体としての機能が低下する可能性がある。すなわち、本発明の化粧用ゲルシートは、原料調合段階で水を用いて製造するのが便利であるが、製品中に水分は必要でないことを特徴とする。製造過程で水分を蒸発揮散させ、化粧用ゲルシート内の水分を減少させて製造するのが好ましい。
化粧用ゲルシート中の水分量が少ないのは物性的には問題ないが、水の蒸発のためのエネルギーコストが高額となる。そのため、実用上は化粧用ゲルシートの性質を損なわない程度の水分を残してもよい。
【0018】
カルボキシ基含有水溶性高分子としては、合成カルボキシ基含有高分子、たとえばポリアクリル酸及びその共重合体、とカルボキシ基含有多糖類とがあるが、後者のほうが本発明ではより好ましい。理由は、合成高分子であるカルボキシ基含有水溶性高分子は不快な臭気を有する残留モノマーが懸念されることによる。
【0019】
本発明の化粧用ゲルシートは、オブラートを支持体として使用するので固さが従来のゲルシートに比べて大きく、取り扱いに便がある。また、化粧用ゲルシートを顔に貼付後化粧水等でゲルシートを溶解させるにあたって、オブラートも直ちに溶解するのでアルコゲルシートの溶解及び使用感を妨げることはない。さらには、オブラート自身が溶解によって顔を覆うことによる保湿効果の向上も期待できる。
【0020】
カルボシキシ基含有水溶性高分子、酸及び多価アルコールを含む水溶液を調製し、その水分を蒸発させてpHを下げると、カルボシキシ基同士の会合により水溶性高分子が疑似架橋し、容易にゲル化する。本発明の化粧用ゲルシートは、カルボキシ基含有水溶性高分子のこの性質を利用したものである。
【0021】
本発明の化粧用ゲルシート中には水溶性2価イオンを含有させる必要はない。多量の水(ゲルシートの70重量%以上)を含む従来型ハイロドゲルシートの場合、カルボキシ基含有水溶性高分子をゲル化するためには水溶性2価金属イオンにより架橋する必要がある(特許文献1、2)。本発明では、ゲル中の水分量を減らし、カルボキシ基どうしの会合を利用するので金属塩は必要としない。
また、多量の水を含み2価金属イオンにより会合したゲルシートは、皮膚に適用後、水とともにマッサージしても、カルボシキ基含有多糖類が水に溶けることはない。従来型ハイドロゲルシートと本発明の化粧用ゲルシートとはゲル会合の機構が明確に異なる。
【0022】
酸は、原料水溶液のpHがカルボキシ基含有水溶性高分子の会合が適切となるような量とする。例えば、カルボキシ基含有水溶性高分子1重量部につき水120重量部を用いたとき、酸の量は水溶液のpHを4.5~2.0にするに必要な量とするのが好ましい。水がこれより少なければ少なさに応じてpHを小さくでき、多ければ多さに応じてpHを大きくしてもよい。例示の水分量の場合、pHが4.5を超えると、水を乾燥させても十分な強度のあるゲルにならない。また、pHが2.0未満になると、原料水溶液が水を乾燥させる前にゲル化しやすく、よしんば乾燥してゲルシートを生成させても、ゲルシートを顔に貼ったとき刺激性を感じるので好ましくない。
【0023】
カルボキシ基含有水溶性高分子は酸性下でカルボキシ基の会合に起因してゲル状となるが、pHが中性に近づくとゲル構造が破壊されて水溶性となる。すなわちpH変化に伴い、可逆的にゲル状態と可溶状態とをとる。それゆえ、カルボキシ基含有多糖類をゲル状態で皮膚に貼付した後適量の水を加えてマッサージすると、多糖類ゲルを可溶化して多糖類及び配合有価成分を皮膚に効果的に吸収させることが可能となる。
前記水溶液のpHが2.0未満となる酸濃度では、ゲル構造が強固であるため適量の水を加えてマッサージしても可溶状態になりにくい。ここで適量とは、化粧用ゲルシートを顔面に貼付し水を加えるとき、顔面から流れ落ちない程度の量をいう。顔面に保持できないほどの量の水を加えることは、実用上意味を有しない。
【0024】
多価アルコールは水と接触すると発熱する性質を有する。本ゲルシートの最大成分である多価アルコールは、ゲルシートを肌に貼付し水を加えたときに発熱し、皮膚に心地よい温感を与える。従来のゲルシートは多量の水を含むので有意な発熱をしないが、水分含有量の少ない本発明のゲルシートは温感を生じる。
【0025】
カルボキシ基含有多糖類としては、カルボキシ基を有するキサンタンガム、ゲランガム、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸等が好適に用いられる。それらは、ナトリウム塩またはカリウム塩等の金属塩であってもよい。
【0026】
カルボキシ基含有水溶性高分子の分子量は、約5×10~5×10ダルトンの範囲が好ましい。分子量がこの範囲内であれば、異なる水溶性高分子を混合してもよく、また同一水溶性高分子の分子量の異なるものを混合して用いてもよい。また、この範囲の分子量のものとこの範囲より分子量が小さいものを混合して用いることもできる。
【0027】
カルボキシ基含有水溶性高分子の量は、ゲル全体の0.1重量%から10重量%の範囲が好ましい。カルボキシ基含有水溶性高分子の量が0.1重量%よりも少ないとゲルが柔らかくなり、優れた弾性体のゲルを形成できない。一方、10重量%を超えると固くなり、優れた弾性体のゲルを形成できず皮膚への密着性も悪い。
【0028】
本発明で用いられる酸は、塩酸、酢酸、乳酸、グリコール酸等の1塩基酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸等の多塩基酸等を用いることができる。クエン酸、酒石酸、乳酸及び塩酸は特に好ましい。また、2種類以上の酸を混合して用いることができる。
【0029】
本発明で用いられる多価アルコールは特に限定されず、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール等を用いることができる。この中でもグリセリンが特に好ましい。
多価アルコールの量は、カルボキシ基含有水溶性高分子1重量部に対して1~30重量部が好ましい。多価アルコールの量が1重量部より少ないと、多価アルコールによる水溶性高分子の可塑化が不十分であり、硬く顔など皮膚への接着性が弱くなる。一方、30重量部を超えると、多価アルコールがオブラートを膨潤させオブラートの機械的強度を減ずるので好ましくない。
【0030】
カルボキシ基含有多糖類ゲル中では、当初配合原料中の最大成分である水は乾燥過程で揮散し多価アルコールが最大成分となる。
【0031】
本発明におけるゲルシートは、カルボキシ基含有高分子同士の会合によってゲル化し機械的強度を有する。また、そのゲル構造はpHを上げると崩壊し溶解してしまう。このようなゲルシートは本発明によって初めて実用化されたものである。本発明にかかるゲルシートの強度を引っ張り試験機を使用して測定すると、破断応力は0.1N/cm以上であることが好ましい。破断応力が0.1N/cm未満であると、ゲルシート自身の構造を保つことが困難となりシート形成が困難となる場合がある。
【0032】
化粧用ゲルシートには、本発明の目的及び効果に影響が出ない範囲で化粧品や医薬品成分等の有価成分を配合できる。特に化粧品、医薬部外品としての応用に有利である。配合可能な成分として例えば、美白成分、抗シワ成分、抗炎症成分、血行促進成分、抗菌成分、抗そう痒成分、各種ビタミン及びその誘導体、抗酸化成分、色素、香料等が挙げられる。
配合する化粧品や医薬品成分は、原料水溶液に添加すればよい。
【0033】
美白成分としては、特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩、アスコルビン酸グルコシド及びその塩類及びアシル化誘導体、エチルアスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビルなどのビタミンC誘導体、α-アルブチン、β-アルブチン、コウジ酸、プラセンタエキス、システイン、グルタチオン、エラグ酸、ルシノール、トラネキサム酸、バイカレイン、アデノシン及びそのリン酸ナトリム塩、アスタキサンチン、鹿角霊芝、油溶性甘草、ラベンダー、ルムプヤン、ワレモコウ、レスベラトロール、霊芝及びそれらのエキス、チンキ或いはそれらに含まれる成分等が挙げられる。
【0034】
抗シワ成分としては、特に限定されないが、例えば、レチノール、レチノイン酸、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールなどのレチノイド、クエン酸、フルーツ酸、グリコール酸、乳酸などのα-ヒドロキシ酸、α-ヒドロキシ酸コレステロール、ルチン糖誘導体、N-メチルセリン、エラスチン、コラーゲン、セリシン、ツボクサエキス、黄金エキス、等が挙げられる。
【0035】
抗炎症成分としては、特に限定されないが、例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸2K,アラントイン、イプシロン-アミノカプロン酸、アズレン、シコニン、トラネキサム酸及びオウレン、甘草、テルミナリア、セイヨウノコギリソウ、シコン、ヒレハリ草、アロエ、ブッチャーブルーム、マロニエ、モモ葉、ビワ葉及びそれらのエキス、チンキ或いはそれらに含まれる成分などが挙げられる。
【0036】
血行促進成分としては、特に限定されないが、例えば、ビタミンE類、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル、ニコモール、カフェイン、カプサイシン、ノナン酸バニリルアミド、ショウガオール、ジンゲロール、等が挙げられる。
【0037】
抗菌成分としては、特に限定されないが、例えば、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、トリクロカルバン、トリクロロヒドロキシフェノール、ハロカルバン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン界面活性剤、感光素、ヒノキチオール及びアニス、等が挙げられる。
【0038】
抗そう痒成分としては、特に限定されないが、例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、クロタミトン、グリチルリチン酸類、メントール、カンファー、ローズマリー油、カプサイシン、ノナン酸バニリルアミド、ジブカイン等が挙げられる。
【0039】
ビタミン類としては、特に限定されないが、例えば、油溶性ビタミン類としてビタミンA油、肝油、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチノール、デヒドロレチノール、ビタミンA酸、レチノイン酸、ビタミンD、ビタミンD(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD(コレカルシフェロール)、ビタミン誘導体、ビタミンE(トコフェロール)、酢酸dl-α-トコフェロール、dl-α-トコフェロール、酪酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルエステル、天然ビタミンE、ビタミンK、ビタミンU等が挙げられる。又、水溶性ビタミン類として、ビタミンB(サイアミン)、ビタミンB(リボフラビン酪酸エステル)、ビタミンB(ジカプリル酸ピリドキシン、ジパルミチン酸ピリドキシンなど脂肪酸エステル)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビタミンB13、ビタミンB14、ビタミンB15(パンガミン酸)、葉酸、カルニチン、チオクト酸、パントテニールアルコール、パントテニールエチルエーテル、パントテン酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、コリン、イノシトール、ビタミンC(アスコルビン酸)、ステアリン酸アスコルビル、パントテン酸アスコルビル、ジパルミチン酸アスコルビル、ビタミンH(ビオチン)、ビタミンP(ヘスペリジン)、アプレシア、等が挙げられる。
【0040】
抗酸化成分としては、特に限定されないが、例えば、アントシアニン、カテキン、緑茶ポリフェノール、りんごポリフェノールなどのポリフェノール類、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸硫酸ナトリウム、β-カロチン、アスタキサンチンなどのカロテノイド、トコフェロール類、酢酸トコフェロール、天然ビタミンE、トコモノエノール、トコトリエノール、クルクミンなどのβ-ジケトン、セサミン、セサモリンなどのリグナン、オイゲノールなどのフェノール、等が挙げられる。
抗アレルギー成分としては、特に限定されないが、例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸2K、などのグリチルレチン酸誘導体、甘草、クロレラ、コンフリー、ボタンピ、フユボダイジュ、エンメイソウ、セージ、シソ、ヨモギ及びそれらのエキス、チンキ或いはそれらに含まれる成分等が挙げられる。
【0041】
本発明の化粧用ゲルシートは、カルボキシ基含有水溶性高分子、酸及び多価アルコールを水に均一に溶解し、目的とする形態となるように水分を適度に乾燥・蒸散させて製造することができる。
具体的には、カルボキシ基含有水溶性高分子と多価アルコールと酸とを含む水溶液をプロペラ式回転型撹拌装置で混和し調製する。この調製した水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一の厚みになるように塗布し、温風で乾燥することにより、透明で、均一な厚みのゲルシートを製造できる。ゲルシートを裁断して円形、楕円形、勾玉状、フェイス状とし、これをシート状化粧料とする。
【0042】
製造に当たっては、カルボキシ基含有水溶性高分子、多価アルコール、必要により化粧用成分、及び酸を適量の水に溶解させて均一化した後、本化粧用ゲルシート中の含水量が30重量%以下になるよう原料水溶液を加熱し、ゲルシートを得る。ゲルシートの厚さは20μm以上500μmが好ましい。ゲルシートの厚さが20μm未満では保湿性を与えるに少なすぎる。500μmを超えると、厚すぎて水を与えてマッサージしてもゲルを溶解させることが困難となる。
【0043】
前記シート状化粧料の片面又は両面にオブラートを積層して製品とする。オブラートの形状は、シート状化粧料と同じ形状で、シート状化粧料の片面を覆うことのできる大きさであればよい。オブラートの厚さは5~50μmが好ましい。5μm未満では、機械的強度が低く支持体として不適である。50μmを超えると、製品の剛性が強すぎ、また顔に貼って水をもってゲルシートをマッサージし溶解させるのに多量の水が必要となり、化粧品として不都合である。
【0044】
また、トレイに調製した水溶液を流し込み、乾燥させて水を蒸発させてもよい。トレイを勾玉状、フェイス状等とすればシートの裁断を必要としない。
トレイの素材は、酸素及び水蒸気を通さない材料又は該材料の複合体が好ましく、プラスチック製とし枠部付とするのが好ましい。プラスチック製トレイは熱成型又は薄壁射出成型により製作できる。枠部は、ポリプロピレン若しくはポリエチレンテレフタレートのような熱可塑性物質、又は熱可塑性物質の複合体、例えばポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ポリエチレンを用いて製作される。
この場合、トレイに調製したゲルシートの上面にオブラートを積層して製品とすることもできる。あるいは、乾燥後のゲルシートをトレイから取り出し、両面にアブラートを積層後、再びトレイに収納してもよい。
【0045】
本発明の化粧用ゲルシートは、オブラート支持体側を手で支えて支持体を積層していない面を顔等の皮膚に適用する。オブラート支持体を両面に有する化粧用ゲルシートの場合は、支持体を積層している面を顔等の皮膚に適用する。ゲルシートの皮膚に接触する面とは反対側のオブラート支持体は、皮膚及びゲルシートを覆うように位置する。皮膚と接触したゲルシートは、多価アルコールが水蒸気あるいは皮膚の表面の水分を吸収して発熱し、顔面等に温感を与える。
本化粧用ゲルシートを顔に適用後、オブラート支持体側から適量の水を与えてマッサージすると、顔面に温感を与えつつ、オブラート及びゲルシートは次第に溶解する。水分量が増え、pH値が上昇するためにゲルが溶解するためである。
【実施例
【0046】
以下に実施例を例示して本発明を説明するが、もとより本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
(ゲルシートの製造)
カルボキシ基含有水溶性高分子、多価アルコール及び酸の水溶液を、表1に記載の配合比(重量部)によりプロペラ式回転型攪拌装置で攪拌混合して原料水溶液を調製した。トコフェロールやアプレシエは少量のエタノールに溶解させて添加した。
調製した原料水溶液を25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一の厚みとなるよう塗布し、ギアオーブンで60~80℃、5~30分間乾燥し、約200μmの厚みの化粧用ゲルシート、またはゲル化していない粘稠状物を得た。ゲル中の含水量は乾燥温度及び乾燥時間を変化させて調整した。
原料水溶液のpHを測定したものについて、表1の右端欄に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
各原料の規格及び入手先は次の通りである。ポリアクリル酸はアロンビスAH‐106X(東亜合成(株)、)、また実施例5,9のヒアルロン酸(H80)は分子量約80万(キッコーマンバイオケミファ(株)製FCH‐80)、実施例13,14,15のヒアルロン酸(H200)は分子量約200万(キッコーマンバイオケミファ(株)製FCH‐200)を用いた。その他の原料として、グリセリン(濃グリセリン、ミヨシ油脂(株))、クエン酸(ナカライテクス(株))、パルミチン酸アスコルビルリン酸3ナトリウム(アプレシエ、昭和電工(株))、トコフェロール(ナカライテクス(株))、キサンタンガム(三晶(株))、ゲランガム(和光純薬(株))、カルボキシメチルセルロースはCMC1260(大セルファインケム)、アルギン酸(キッコーマンバイオケミファ(株))を用いた。乳酸、ブチレングリコール、グリコール酸は試薬特級(ナカライテスク(株))を用いた。
オブラートは、BOCオブラート(瀧川オブラート株式会社)を用いた。
【0050】
オブラートを積層したゲルシートの作製
実施例13で作製したゲルシートの片面にオブラート(BOCオブラート瀧川オブラート株式会社製)を積層してゲルシートにしたものを実施例16とした。また、実施例13で作製したゲルシートの両面にオブラートを積層したものを実施例17とした。
【0051】
(製造された多糖類ゲルシートの性状比較)
実施例1~17、及び比較例1~2の多糖類ゲルシートの評価結果を表2にまとめる。
1.性状観察結果
肉眼及び感触による柔軟性、弾性、引っ張り強度に関する観察結果を示す。
2.水分量測定結果
ゲル中の含水量の測定結果を示す。含水量の測定は試料を90℃で1時間加熱し加熱前後の重量減少から求めた。
3.皮膚密着性試験結果
多糖類ゲルシート(2cm×2cm)をヒトボランティア前腕内側に適用する時皮膚への密着性の結果を示す。
4.温感試験結果
多糖類ゲルシート(2cm×2cm)をヒトボランティア前腕内側に適用する時皮膚への温感の結果を示す。
5.溶解性試験
ヒトボランティアの前腕部に多糖類ゲルシート(2cm×2cm)を適用し1mlの水を滴下して3分間シート上からマッサージしゲルの溶解性を観察した。
6.機械的強度試験
多糖類ゲルシートを1.5cm幅のダンベル形状に打ち抜き、両端を支えて引っ張り速度1cm/minの速度で引っ張り試験を実施し、破断強度を測定した。数値の単位はN/cmである。島津製作所製小型卓上試験機 EZ Test EZ‐SXを用いた。
【0052】
【表2】