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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】水性分散体および離型フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/26 20060101AFI20241121BHJP
   B05D 5/08 20060101ALI20241121BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241121BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241121BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241121BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241121BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241121BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20241121BHJP
   C09D 139/06 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C09D123/26
B05D5/08 Z
B05D7/24 301E
B05D7/24 302G
B32B27/00 L
B32B27/32 Z
C09D5/02
C09D7/63
C09D129/04
C09D139/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020160430
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2021055081
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019176313
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 涼子
(72)【発明者】
【氏名】穴田 有弘
(72)【発明者】
【氏名】宇野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】清水 麻莉
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-161891(JP,A)
【文献】特開2019-157066(JP,A)
【文献】特開2017-122069(JP,A)
【文献】特開2002-003731(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C09D 1/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体と、架橋剤と、水性媒体を含有することを特徴とする離型層形成用水性分散体。
【請求項2】
ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の重量平均分子量が、10,000~1,100,000であることを特徴とする請求項1に記載の離型層形成用水性分散体。
【請求項3】
さらにポリビニルアルコールを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の離型層形成用水性分散体。
【請求項4】
基材フィルムの少なくとも片面に離型層が設けられた離型フィルムであって、離型層が、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体と、架橋剤を含有することを特徴とする離型フィルム。
【請求項5】
離型層が、さらにポリビニルアルコールを含有することを特徴とする請求項4に記載の離型フィルム。
【請求項6】
ヘイズが5%以下であることを特徴とする請求項またはに記載の離型フィルム。
【請求項7】
ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の重量平均分子量が、10,000~1,100,000であることを特徴とする請求項のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項8】
請求項に記載の離型フィルムを製造するための方法であって、基材フィルムの少なくとも片面に、請求項1に記載の離型層形成用水性分散体を塗工する工程を含むことを特徴とする離型フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の離型フィルムを製造するための方法であって、基材フィルムの少なくとも片面に、請求項3に記載の離型層形成用水性分散体を塗工する工程を含むことを特徴とする離型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性分散体および離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、電気特性、力学特性、化学特性、リサイクル性等に優れていることから、自動車、電機分野、包装、日用雑貨などを中心に大量に使用されている。さらにポリオレフィン樹脂を酸変性して水性塗料として応用することも行われている。
【0003】
一方、離型フィルムは、医療分野、工業分野において、広く使用されている。例えば、医療分野においては、医療用テープやハップ剤の保護フィルムとして、また工業分野においては、プリント配線板、フレキシブルプリント配線板、多層プリント配線板などを製造するための工程材料や、粘着材料、液晶ディスプレイ用部品などの保護材料や、イオン交換膜、セラミックグリーンシートなどのシート状構造体の成形材料として使用されている。
特許文献1には、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体を塗工して樹脂層が形成された、様々な被着体に対して良好な離型性を有する離型フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/109340号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の離型フィルムは、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールを含む水性分散体を基材フィルム上に塗工して樹脂層が設けられたものである。しかしながら、上記水性分散体は、塗工性が良好でないことがあり、また基材フィルム上に塗工された上記水性分散体の塗膜は、乾燥工程における温度や時間などの条件によっては、良好な離型性を有する樹脂層を形成できないことがあった。
本発明の課題は、これらの問題に鑑み、塗工性が良好である水性分散体を提供し、樹脂層形成工程における乾燥温度や乾燥時間に影響されることがなく、優れた離型性が発現できる離型フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルピロリドンを含有する水性分散体は塗工性が良好であり、これを塗工して得られた塗膜は、乾燥温度や乾燥時間に影響されることなく、優れた離型性を有する樹脂層を形成することができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体と、架橋剤と、水性媒体を含有することを特徴とする離型層形成用水性分散体。
(2)ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の重量平均分子量が、10,000~1,100,000であることを特徴とする(1)に記載の離型層形成用水性分散体
(3)さらにポリビニルアルコールを含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の離型層形成用水性分散体。
)基材フィルムの少なくとも片面に離型層が設けられた離型フィルムであって、離型層が、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体と、架橋剤を含有することを特徴とする離型フィルム。
離型層が、さらにポリビニルアルコールを含有することを特徴とする(記載の離型フィルム。
)ヘイズが5%以下であることを特徴とする()または()に記載の離型フィルム。
)ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の重量平均分子量が、10,000~1,100,000であることを特徴とする()~()のいずれかに記載の離型フィルム
(8)上記(4)に記載の離型フィルムを製造するための方法であって、基材フィルムの少なくとも片面に、(1)に記載の離型層形成用水性分散体を塗工する工程を含むことを特徴とする離型フィルムの製造方法。
)上記(記載の離型フィルムを製造するための方法であって、基材フィルムの少なくとも片面に、(3)に記載の離型層形成用水性分散体を塗工する工程を含むことを特徴とする離型フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性分散体は、塗工性が良好であり、スジ状欠点の発生を抑制でき、基材フィルムとの密着性に優れており、架橋剤を含有すると、樹脂層形成工程における乾燥温度や乾燥時間に影響されることなく、優れた離型性を有する樹脂層を形成することができる。そのため、本発明の離型フィルムは、工程における熱量変化があった場合であっても、その影響をうけることなく、優れた離型性が得られ、製品生産の歩留まりが低下することがない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体と、水性媒体を含有するものであり、また、本発明の離型フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層が設けられたものであり、樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体と、架橋剤を含有する。
【0010】
<水性分散体>
(酸変性ポリオレフィン樹脂)
本発明の水性分散体や、本発明の離型フィルムの樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する。本発明において、酸変性ポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分を主成分とし、酸変性成分により変性された樹脂である。
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分として、エチレン、プロピレン、ブテンなどが挙げられる。
離型フィルムにおける各種被着体との離型性の観点で、プロピレンを含むことが好ましい。各種被着体との離型性をさらに向上させる観点で、オレフィン成分におけるプロピレンの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
また、本発明の離型フィルムに透明性が求められる場合、例えば、保護フィルムとして用いて、製品に貼った状態で剥がすことなく製品を検品する場合や、露光工程を必要とされるレジスト用途で用いる場合、ヘイズ低下の観点で、酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分は、ブテンを含まない方が好ましい。
【0011】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する酸変性成分としては、不飽和カルボン酸成分が挙げられ、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散するために、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。これらの酸変性成分は酸変性ポリオレフィン樹脂中に2種類以上含まれていてもよい。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂における酸変性成分の割合は、1~10質量%であることが好ましく、2~9質量%であることがさらに好ましい。
酸変性成分が1%未満の場合は、樹脂層に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂中の極性基の割合が少なくなるため、樹脂層は、基材フィルムとの十分な密着性が得られない傾向にあり、また離型フィルムにおいては、樹脂層から離型した被着体を汚染することがある。さらに後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散するのが困難になる傾向がある。一方、酸変性成分の割合が10質量%を超える場合は、極性基の割合が多くなるため、樹脂層は、基材フィルムとの密着性が十分にはなるが、被着体との密着性も同時に高くなるため、離型性が低下する傾向がある。
【0013】
また、本発明の効果を損なわなければ、酸変性ポリオレフィン樹脂は、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を含有してもよい。
側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材フィルムとの接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがさらに好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分量が多すぎると、オレフィン由来の樹脂の性質が失われ、被着体との離型性が低下する可能性がある。酸変性ポリオレフィン樹脂中における、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分の割合は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、18質量%以下であること特に好ましい。
なお、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を用いても、基材フィルムとの密着性を損ねることはない。
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂には、その他のモノマーが、少量、共重合されていてもよい。その他のモノマーとして、例えば、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビニリデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する各成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は80~200℃であることが好ましく、90~150℃であることがより好ましい。融点が200℃を超えると、基材フィルム表面への樹脂層形成時に、高温処理が必要となる場合がある。一方、融点が80℃未満では、樹脂層は離型性が低下する傾向にある。
【0017】
(ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体)
本発明の水性分散体や、本発明の離型フィルムの樹脂層は、上記酸変性ポリオレフィン樹脂とともに、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体を含有することが必要である。水性分散体や樹脂層において、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体が、酸変性ポリオレフィン樹脂中に分散することによって、水性分散体は、塗工性に優れ、後述するスジ状欠点の発生が抑制された塗膜を形成することができ、形成された塗膜は基材フィルムとの密着性に優れる。また水性分散体は、塗膜形成工程において塗膜に与えられる熱量が変化した場合であっても、優れた離型性を示す樹脂層を形成することができる。
【0018】
ポリビニルピロリドンの共重合体は、ビニルピロリドンを主成分とするものであればよく、ビニルピロリドン以外の共重合成分としては、例えば、ビニルアルコール、ビニルアセタール、酢酸ビニル、スチレン系樹脂、四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート、アルキルアミノアクリレート、ビニルカプロラクタム、メタクリルアミドプロピル塩化トリメチルアンモニウム、メタクリルアミド、ビニルイミダゾールなどが挙げられる。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0019】
ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、10~1000質量部であることが好ましく、50~900質量部であることがより好ましく、50~600質量部であることがさらに好ましい。ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の含有量が1000質量部を超えると、水性分散体は、粘度が高くなり、塗工ムラを生じやすくなったり、また樹脂層は、基材フィルムとの密着性が低下したり、透明性が低下しやすくなる。一方、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の含有量が10質量部未満であると、水性分散体は、粘度が低くなり、塗工性が低下し、塗工ムラを生じやすくなる。
【0020】
ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の重量平均分子量は、10,000~1,100,000であることが好ましく、30,000~1,000,000であることがより好ましく、100,000~800,000であることがさらに好ましい。ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の重量平均分子量が10,000未満であると、樹脂層は、離型性が低下する傾向にある。一方、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の重量平均分子量が1,100,000を超えると、水性分散体は、粘度が高くなり、作業工程上の取り扱い性が低下し、塗工性が低下し、形成された樹脂層表面に、後述するスジ状欠点が発生する傾向にある。
【0021】
(架橋剤)
本発明の水性分散体は、架橋剤を含有することができ、離型フィルムの樹脂層を形成するために用いる場合は、架橋剤を含有することが必要である。形成された樹脂層は、架橋剤を含むことによって、構成成分が架橋し、凝集力が向上し、離型性が向上したものとなる。
【0022】
架橋剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1~20質量部であることが好ましく、2~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が1質量部未満であると、樹脂層は、凝集力が弱くなりやすく、基材との密着性が低下する傾向がある。一方、架橋剤の含有量が20質量部を超えると、樹脂層は、離型性が乏しくなることがある。
【0023】
架橋剤としては、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物等を用いることができ、多官能エポキシ化合物;多官能イソシアネート化合物;多官能アジリジン化合物;カルボジイミド基含有化合物;オキサゾリン基含有化合物;フェノール樹脂;および尿素化合物、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂等が挙げられる。これらのうちの1種類を使用しても2種類以上を併用してもよい。このうち、多官能イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、多官能エポキシ化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物等が好ましく、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物がより好ましく、オキサゾリン基含有化合物がさらに好ましい。オキサゾリン基含有化合物を用いることにより、基材フィルムとの密着性に優れた樹脂層を得ることが可能となる。また、これらの架橋剤は組み合わせて使用してもよい。
【0024】
多官能エポキシ化合物としては、具体的にはポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物等を用いることができる。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが使用可能である。ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテルが使用可能である。
【0025】
多官能イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3′-ビトリレン-4,4′-ジイソシアネート、3,3′-ジメチルジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート等が使用可能である。これらのイソシアネート基を重亜硫酸塩類およびスルホン酸基を含有したフェノール類、アルコール類、ラクタム類、オキシム類および活性メチレン化合物類等でブロックしたブロックイソシアネート化合物を用いてもよい。多官能イソシアネート化合物の市販品としては、例えば、BASF社製「バソナートHW-100」などが挙げられる。
【0026】
多官能アジリジン化合物としては、例えば、N,N′-ヘキサメチレン-1,6-ビス-(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート等が使用可能である。
【0027】
カルボジイミド基含有化合物としては、分子中に1つ以上のカルボジイミド基を有しているものであれば特に限定されるものではない。カルボジイミド化合物は、1つのカルボジイミド部分において、酸変性ポリオレフィン樹脂の酸変性部分における2つのカルボキシル基とエステルを形成し、架橋を達成する。例えば、p-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)等のカルボジイミド基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミド等が使用可能である。これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさから、ポリカルボジイミドが好ましい。
ポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡社製のカルボジライトシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「SV-02」、「V-02」、「V-02-L2」、「V-04」;エマルションタイプの「E-01」、「E-02」;有機溶液タイプの「V-01」、「V-03」、「V-07」、「V-09」;無溶剤タイプの「V-05」が挙げられる。
【0028】
オキサゾリン基含有化合物としては、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものであれば、特に限定されるものではない。オキサゾリン化合物は、2つのオキサゾリン部分のそれぞれにおいて、酸変性ポリオレフィン樹脂の酸変性部分における1つのカルボキシル基とアミドエステルを形成し、架橋を達成する。このような重合体は、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N、N-ジアルキルアクリルアミド、N、N-ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα、β-不飽和脂肪族モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα、β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができる。他のモノマーは、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。これらの中でも、取り扱いやすさからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「WS-500」、「WS-700」;エマルションタイプの「K-1010E」、「K-1020E」、「K-1030E」、「K-2010E」、「K-2020E」、「K-2030E」などが挙げられる。
【0029】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールやビスフェノールA、p-t-ブチルフェノール、オクチルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール、p-フェニルフェノール、クレゾール等を原料として調製したレゾール型フェノール樹脂および/またはノボラック型フェノール樹脂が使用可能である。
【0030】
尿素樹脂としては、例えば、ジメチロール尿素、ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールプロピレン尿素、テトラメチロールアセチレン尿素、4-メトキシ5-ジメチルプロピレン尿素ジメチロールが使用可能である。
【0031】
メラミン樹脂は、例えば、官能基としてイミノ基、メチロール基、および/またはアルコキシメチル基(例えばメトキシメチル基、ブトキシメチル基)を1分子中に有する化合物である。メラミン樹脂としては、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂等が使用可能である。その中でもメチロール化メラミン樹脂が最も好ましい。さらに、メラミン系樹脂の熱硬化を促進するため、例えばp-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いることが好ましい。
【0032】
ベンゾグアナミン樹脂としては、例えば、トリメチロールベンゾグアナミン、ヘキサメチロールベンゾグアナミン、トリスメトキシメチルベンゾグアナミン、ヘキサキスメトキシメチルベンゾグアナミン等が使用可能である。
【0033】
(水性媒体)
本発明の水性分散体を構成する水性媒体は、水と両親媒性有機溶剤とを含み、水の含有量が2質量%以上である溶媒を意味し、水のみでもよい。
両親媒性有機溶剤とは、20℃における有機溶剤に対する水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤をいう(20℃における有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている)。
両親媒性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール-n-ブチルエーテル等のエチレングリコール誘導体類、そのほか、アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン等の有機アミン化合物、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム類等を挙げることができる。
【0034】
(水性分散体の製造方法)
本発明の水性分散体は、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体に、ポリビニルピロリドンの水溶液や、必要に応じて架橋剤などを添加することにより、調製することができるが、この方法に限定されない。
【0035】
酸変性ポリオレフィン樹脂を水性分散化する方法は、特に限定されず、例えば、国際公開第02/055598号に記載された方法が挙げられる。
水性媒体中の酸変性ポリオレフィン樹脂の分散粒子径は、他の成分との混合時の安定性および混合後の保存安定性の点から、数平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。このような粒径は、国際公開第02/055598号に記載の製法により達成可能である。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂の数平均粒子径は動的光散乱法によって測定される。
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の固形分濃度は、特に限定されないが、水性分散体の粘性を適度に保つためには、1~60質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
【0036】
酸変性ポリオレフィン樹脂やポリビニルピロリドンなどを含有する水性分散体における固形分濃度は、水性分散体の塗工条件、目的とする樹脂層の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されないが、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ、均一な樹脂層を形成させるためには、2~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましい。
水性分散体には、その性能が損なわれない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、着色剤などを添加することもできる。
【0037】
<離型フィルム>
本発明の離型フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層が設けられたものである。
(基材フィルム)
本発明の離型フィルムを構成する基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステルフィルム、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミド6、ポリ-p-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9Tなどのポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、これらの複層体(例えば、ポリアミド6/MXD6ナイロン/ポリアミド6、ポリアミド6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ポリアミド6)や混合体などが用いられ、機械的強度や寸法安定性を有するポリエステルフィルム、ポリアミドフィルムが好ましい。
【0038】
基材フィルムを構成する樹脂の固有粘度は0.55~0.80であることが好ましく、0.60~0.75であることがより好ましい。固有粘度が上記範囲未満であると、フィルムの製膜時に切断が起こり易く、安定的に生産するのが困難であり、得られたフィルムの強度も低い。一方、固有粘度が上記範囲を超える場合には、フィルムの生産工程において樹脂の溶融押出時に剪断発熱が大きくなり、押出機にかかる負荷が大きくなり、生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、フィルムの厚み制御も難しくなる等、フィルムの生産性が低下する。また、得られたフィルムは、熱分解やゲル化物が増加して、表面欠点や異物、表面粗大突起が増加する。また、あまりに固有粘度の高いものは、重合時間や重合プロセスが長く、コストを押し上げる要因ともなる。
【0039】
基材フィルムを構成する樹脂の重合方法は特に限定されず、例えばポリエステルの場合であれば、エステル交換法、直接重合法等が挙げられる。エステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiなどの酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Geなどの酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。
重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒド等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合してもよい。
【0040】
基材フィルムには必要に応じ、添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ピニング剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられ、熱安定剤としては、リン系化合物等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0041】
次に基材フィルムの製造方法の一例を、ポリエステルフィルムを具体例として説明する。
まず、十分に乾燥されたポリエステルを、押出機に供給し、十分に可塑化され、流動性を示す温度以上で溶融し、必要に応じて選ばれたフィルターを通過させ、その後Tダイを通じてシート状に押出す。このシートを、ポリエステルのガラス転移温度(Tg)以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させて、未延伸フィルムを得る。
得られた未延伸フィルムを一軸延伸法により一軸配向させるか、もしくは二軸延伸法により二軸配向させる。二軸延伸法としては、特に限定はされないが、逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法を用いることができる。
【0042】
一軸延伸法では、未延伸フィルムを、樹脂のTg~Tgより50℃高い温度の範囲で、長手もしくは巾方向に、2~6倍程度の延伸倍率となるよう延伸する。
同時二軸延伸法では、未延伸フィルムを、樹脂のTg~Tgより50℃高い温度の範囲で、長手および巾方向にそれぞれ2~4倍程度の延伸倍率となるよう二軸延伸する。同時二軸延伸機に導く前に、未延伸フィルムに1.2倍程度までの予備縦延伸を施しておいてもよい。
また、逐次二軸延伸法では、未延伸フィルムを、加熱ロールや赤外線等で加熱し、長手方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。縦延伸は2個以上のロールの周速差を利用し、ポリエステルのTg~Tgより40℃高い温度の範囲で、延伸倍率2.5~4.0倍とするのが好ましい。縦延伸フィルムを、続いて連続的に、巾方向に横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して、二軸配向フィルムとする。横延伸は樹脂のTg~Tgより40℃高い温度で開始し、最高温度は樹脂の融点(Tm)より(100~40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸の倍率は最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、3.5倍以上、さらには3.8倍以上とするのが好ましく、4.0倍以上とするのがより好ましい。長手方向と巾方向に延伸後、さらに、長手方向および/または巾方向に再延伸することにより、フィルムの弾性率を高めたり寸法安定性を高めたりすることもできる。
延伸に続き、樹脂のTmより(50~10)℃低い温度で数秒間の熱固定処理と、熱固定処理と同時にフィルム巾方向に1~10%の弛緩することが好ましい。熱固定処理後、フィルムをTg以下に冷却して二軸延伸フィルムを得る。
【0043】
上記製造方法によって単層のフィルムが得られるが、積層フィルムを構成する基材フィルムは、2種以上の層を積層してなる多層フィルムであってもよい。
多層フィルムは、上記製造方法において、それぞれの層を構成する樹脂を別々に溶融して、複層ダイスを用いて押出し、固化前に積層融着させた後、二軸延伸、熱固定する方法や、2種以上の樹脂を別々に溶融、押出してそれぞれフィルム化し、未延伸状態で、または延伸後に、それらを積層融着させる方法などによって製造することができる。プロセスの簡便性から、複層ダイスを用い、固化前に積層融着させることが好ましい。
【0044】
(樹脂層)
本発明の離型フィルムを構成する樹脂層は、前述の酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体、架橋剤を含有するものであり、また、ポリビニルアルコールをさらに含有することが好ましい。
【0045】
(ポリビニルアルコール)
本発明の離型フィルムは、樹脂層が、さらにポリビニルアルコールを含有することによって、透明性が向上し、離型フィルムのヘイズを低くすることができる。離型フィルムの透明性が向上することにより、例えば、保護フィルムして製品に貼られた離型フィルムは、剥がすことなく製品を検品することができる。また、露光工程を必要とされるレジスト用途においても、離型フィルムは、剥がすことなく使用することが可能となる。
【0046】
樹脂層がポリビニルアルコールを含有する場合、熱量変化に影響しない離型性を維持する観点で、その含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して600質量部以下であることが好ましい。
また、ポリビニルアルコールの含有量は、離型性と、被着体の残留接着率と、透明性の観点から、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体100質量部に対し、5~2000質量部であることが好ましく、なかでも15~700質量部であることがより好ましい。
【0047】
(滑剤)
本発明において、樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤を含有してもよい。滑剤として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機粒子や、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンワックス等の有機粒子、界面活性剤等が挙げられる。
【0048】
(離型フィルムの製造方法)
本発明の離型フィルムは、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体と、架橋剤と、水性媒体を含有する水性分散体を、基材フィルムの少なくとも片面に塗工する工程を含む方法で製造することができる。また、離型フィルムは、水性分散体にポリビニルアルコールを含有させて製造することもできる。
【0049】
本発明において、上記水性分散体を基材フィルムに塗工する方法としては、公知の方法、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等を挙げることができ、本発明においては、特にグラビアロールコーティング法が有効である。
【0050】
本発明においては、水性分散体は、上記製造工程中の基材フィルムに塗工しても、また、製造工程が完了し、配向延伸された基材フィルムに塗工してもよい。
すなわち、上記水性分散体を、製造工程中の基材フィルム(未延伸フィルムや一軸延伸フィルム)に塗工する方法(インラインコート法)では、水性分散体が塗工されたフィルムは、乾燥、配向延伸および熱固定処理がなされる。また、水性分散体を、製造工程が完了し、配向延伸された基材フィルムに塗工する方法(ポストコート法)では、水性分散体が塗工されたフィルムは、乾燥処理がなされる。
【0051】
インラインコート法では、ポストコート法に比較して、基材フィルム表面の配向結晶化の程度が小さい状態で樹脂層を形成することができるため、基材フィルムと樹脂層の密着力が向上する。また、フィルムが緊張した状態で、より高温で樹脂層を熱処理できるので、離型フィルムの品位を低下させることなく、安定した離型性を有する樹脂層を形成することができる。インラインコート法においては、逐次二軸延伸法を採用して、一軸方向に延伸された基材フィルムに前記水性分散体を塗工し、水性分散体が塗工されたフィルムを乾燥し、前記方向と直交する方向にさらに延伸し、熱処理することが、簡便さや操業上の理由から好ましい。
【0052】
一方、ポストコート法では、塗工された水性分散体の乾燥は、基材フィルムの品位低下を防ぐため、比較的低温でなされることがあり、形成された樹脂層は、離型性が十分に発現しないことがある。
しかしながら、本発明の水性分散体は、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体を含有するため、樹脂層形成工程における乾燥温度や乾燥時間に影響されることなく、優れた離型性を有する樹脂層を形成することができ、塗膜に与えられる熱量が少ないポストコート法に使用しても、優れた離型性を示す樹脂層を形成することができる。
【0053】
(離型フィルムの特性)
本発明の離型フィルムは、粘着材料としてのアクリル系被着体を樹脂層に貼り付けて測定したときの、アクリル系被着体と樹脂層の間の剥離力が0.01~3.5N/cmであることが好ましく、0.01~2.5N/cmであることがより好ましく、0.01~2.0N/cmであることがさらに好ましい。アクリル系被着体と樹脂層の間の剥離力を0.01~3.5N/cmとすることで、本発明の離型フィルムは、アクリル系被着体向けの離型フィルムとして実用的に使用することができる。
また、本発明の離型フィルムの離型層は、基材フィルムとの密着性が良好であるため、樹脂から剥離したアクリル系被着体は、残留接着率が高く、アクリル系被着体の残留接着率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0054】
本発明の離型フィルムは、保護フィルムして製品に貼った状態で剥がすことなく製品を検品したり、露光工程を必要とされるレジスト用途で用いる場合は、透明性を有することが好ましく、ヘイズが5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。離型フィルムのヘイズを5%以下とする方法としては、例えば、上述のように、樹脂層の酸変性ポリオレフィン樹脂として、オレフィン成分にブテンを含まないものを用いる方法や、インラインコートに使用する水性分散体にポリビニルアルコールを含有させる方法が挙げられる。
【0055】
本発明において樹脂層の厚みは、0.01~1μmであることが好ましく、0.03~0.7μmであることがより好ましく、0.05~0.5μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚みが0.01μm未満または1μmを超えると、塗膜形成時に塗膜にかかる熱量が変化した際、塗膜形成状態が不安定になりやすくなる。また樹脂層厚みが1μmを超えることは、コストアップとなるため好ましくない。
【0056】
本発明の水性分散体は塗工性に優れるため、離型フィルムを構成する樹脂層は、高輝度光源による光の干渉によって認識できるスジやムラの発生が抑制され、外観に優れる。すなわち、本発明の離型フィルムは、フィルムの長手方向の片端縁から1m地点と、他端縁から1m地点と、前記2地点の間を9等分した地点の合計10地点において、各地点のフィルム全幅で観察されるフィルム幅1mあたりのスジ状欠点の発生の平均値を3地点以内とすることができ、好ましくは0地点とすることができる。スジ状欠点は、離型フィルムの樹脂層側表面に対して5~45°の角度から、蛍光灯の白色光線(100ルーメン)を当てることによって目視確認することができるものである。
【0057】
本発明の離型フィルムは、両面テープや粘着材料の保護フィルムや液晶ディスプレイ用部品、プリント配線板などを製造する際の保護材料や工程材料、イオン交換膜やセラミックグリーンシート、放熱シートなどのシート状構造体成形用途などに好適に用いることができる。
【実施例
【0058】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。離型フィルムの特性は下記の方法で測定した。
【0059】
(1)離型性
離型フィルムの樹脂層側に、巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製No.31B/アクリル系粘着剤)をゴムロールで圧着して試料とした。試料を、金属板/ゴム板/試料/ゴム板/金属板の形で挟み、2kPa荷重、70℃の雰囲気で20時間放置し、その後30分以上冷却して常温に戻して剥離強度測定用試料を得た。
剥離強度測定用試料の、アクリル系粘着テープと離型フィルムとの剥離力を、23℃の恒温室で引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-100B)にて、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の条件で測定した。なお、架橋剤を含有しない樹脂層については、実施例1の樹脂層についてのみ剥離力を測定した。
【0060】
(2)残留接着率
前記(1)の離型性評価において、離型フィルム表面から剥離した巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製、No.31B/アクリル系粘着剤)を、ステンレス板(SUS304厚さ1mm)に貼付し、2kPa荷重、室温で20時間放置した。その後、アクリル系粘着テープとステンレス板の剥離強度を、23℃の恒温室で引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-100B)にて測定した。剥離角度は180度、剥離速度は300mm/分とした。この測定により得られた剥離強度を、F1とした。
ステンレス板(SUS304厚さ1mm)に、巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製No.31B/アクリル系粘着剤)を貼付し、2kPa荷重、室温で20時間放置した。その後、アクリル系粘着テープとステンレス板の剥離強度を、23℃の恒温室で引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-100B)にて測定(剥離角度は180度、剥離速度は300mm/分)し、得られた剥離強度をF2とした。
下記式を用いて、粘着テープの残留接着率を得た。
残留接着率(%)=(F1/F2)×100
粘着テープの粘着剤層表面が離型フィルムにより汚染されたり、剥離の際に粘着テープの表面が著しく粗くなった場合、粘着テープの再粘着性が低下し、粘着テープとしての性能を損なう。したがって、残留接着率は高い方が好ましい。
【0061】
(3)塗工性(コートスジ状欠点の発生の抑制)
ポストコート法で得られた離型フィルムの樹脂層側表面に対して5~45°の角度から、蛍光灯の白色光線(100ルーメン)を当てて、スジ状の干渉を示す部分の有無を目視で確認した。下記10地点の全幅におけるスジ状欠点の発生によって、下記に記載の基準で塗工性を評価した。
○:どの地点においてもスジ状欠点が全く確認できないもの
△:1地点以上3地点以内において確認できるもの
×:スジ状欠点が3地点より多い箇所で確認できるもの
評価する地点は、離型フィルムの長手方向の片端縁から1mの地点と、他端縁から1mの地点と、前記2地点の間を9等分した地点の合計10地点とし、各地点のフィルムの幅方向(TD)に黒色油性ペンで直線を引き、直線上を交差するスジ状欠点をフィルム全幅に対して観察した。
【0062】
(4)基材フィルムと樹脂層との密着性
ポストコート法で得られた離型フィルムの樹脂層側表面を、JIS K-5600-5-6に準拠し、クロスカット法によって、基材フィルムと樹脂層との密着性を評価した。詳しくは、切り込みを入れて100区画の格子パターンをつくった樹脂層表面に粘着テープ(ニチバン社製TF-12)を貼り、勢いよくテープを剥離した。なお、「100/100」が、100区画に全く剥がれがなく、最も良い状態であり、「0/100」が、100区画全てが剥がれ、最も良くない状態を示す。100/100~90/100を合格とし、100/100~95/100であることが好ましく、100/100~98/100であることがより好ましい。
【0063】
(5)離型フィルムのヘイズ
JIS K 7136(2000)に基づき、日本電色工業社製の濁度計「NDH-4000」を用いて、離型フィルムの樹脂層表面に光を入射して、離型フィルムのヘイズ値を測定した。
【0064】
酸変性ポリオレフィン樹脂およびその水性分散体は、以下の方法により製造した。
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の製造>
プロピレン-ブテン-エチレン三元共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン=68.0/16.0/16.0(質量比))280gを、4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、酸変性ポリオレフィン樹脂A-1を得た。
【0065】
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-2、A-3の製造>
上記酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の製造において、プロピレン-ブテン-エチレン三元共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン=68.0/16.0/16.0(質量比))を、プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=99/1(質量比))に変更する以外は、同様にして、酸変性ポリオレフィン樹脂A-2を得た。
また、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(エチレン/アクリル酸エチル=93/7(質量比)に変更する以外は、同様にして、酸変性ポリオレフィン樹脂A-3を得た。
【0066】
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の水性分散体の製造>
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、上記方法で製造した60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂A-1と、45.0gのエチレングリコール-n-ブチルエーテル(沸点171℃)と、6.9gのN,N-ジメチルエタノールアミン(沸点134℃、樹脂中の無水マレイン酸単位のカルボキシル基に対して1.0倍当量)と、188.1gの蒸留水とを、上記のガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。そうしたところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)することで、均一な酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の水性分散体(固形分濃度25質量%)を得た。なお、フィルター上には残存樹脂はほとんどなかった。
【0067】
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-2、A-3の水性分散体の製造>
用いる酸変性ポリオレフィン樹脂をA-2、A-3に変更する以外は、前述した方法と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂A-2、A-3の水性分散体(固形分濃度25質量%)を得た。
【0068】
水性分散体を製造するために、下記のビニル化合物の重合体の水溶液を使用した。
B-1:ポリビニルピロリドン、第一工業製薬社製ピッツコールK-30L(重量平均分子量45,000)
B-2:ポリビニルピロリドン、第一工業製薬社製ピッツコールK-60L(重量平均分子量450,000)
B-3:ポリビニルピロリドン、第一工業製薬社製ピッツコールK-90L(重量平均分子量1,200,000)
B-4:ポリビニルアルコール-ポリビニルピロリドングラフトコポリマー、第一工業製薬社製ピッツコールV-7154
B-5:ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール社製ポバールJT-05
B-6:ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール社製ポバールVC-10
B-7:ポリビニルアミン、三菱レイヨン社製PVAM0570B
【0069】
架橋剤として、以下のものを使用した。
C-1:オキサゾリン基含有化合物の水性溶液、日本触媒社製エポクロスWS-700
C-2:カルボジイミド基含有化合物の水性溶液、日清紡ケミカル社製カルボジライトV-02-L2
C-3:メラミン化合物の水性溶液、大日本インキ化学工業社製ベッカミンAPM
【0070】
実施例1
<水性分散体X、Yの調製>
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「A-1」と、ポリビニルピロリドン水溶液「B-2」とを、それぞれ固形分が、100質量部と、300質量部となるように混合したのち、純水を添加して、最終固形分濃度が6.0質量%の水性分散体Xと、最終固形分濃度が2.7質量%の水性分散体Yを得た。
【0071】
<樹脂層の形成(インラインコート法)>
平均粒径2.3μmの無定形シリカ粒子を0.12質量%含有するポリエチレンテレフタレート(重合触媒:三酸化アンチモン、固有粘度:0.62、ガラス転移温度:78℃、融点:255℃)を280℃で溶融押出し、Tダイ法-静電ピニング方式でキャスティングドラムに密着急冷し、厚さ600μmの未延伸フィルムを成型した。続いてこの未延伸フィルムを90℃に加熱した縦延伸ロールで3.5倍に延伸した。
この縦延伸したフィルムの片側に、リバースグラビアコーターを用いて、水性分散体Xを5g/m(WET換算)の塗工量になるように塗工し、横延伸テンターにおいて120℃で4.5倍延伸後、230℃で10秒間熱処理したのち、冷却し巻き取った。得られた積層フィルムの厚さは38μmであり、樹脂層の厚さはおよそ0.08μmであった。
【0072】
<樹脂層の形成(ポストコート法)>
上記インラインコート法において、縦延伸したフィルムの片側に水性分散体Xを塗工することなく、横延伸テンターにおいて120℃で4.5倍延伸後、230℃で10秒間熱処理したのち、冷却し巻き取って、二軸延伸フィルム(厚さ38μm、ヘイズ3.0%)を得た。
得られた二軸延伸フィルムに、上記水性分散体Yをマイヤーバーを用いて塗工した後、120℃で20秒間乾燥して、樹脂層を形成した。樹脂層の厚さは、およそ0.08μmであった。
【0073】
実施例2~4、比較例1
表1に記載した構成になるように、それぞれ、最終固形分濃度が6.0質量%の水性分散体Xと、最終固形分濃度が2.7質量%の水性分散体Yを調製し、実施例1と同様にして、この水性分散体Xを用いてインラインコート法により、また水性分散体Yを用いてポストコート法により、それぞれ樹脂層を形成した積層フィルムを得た。
【0074】
実施例5
<水性分散体X、Yの調製>
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「A-1」と、ポリビニルピロリドン水溶液「B-1」と、架橋剤としてのオキサゾリン化合物の水性溶液「C-1」とを、それぞれ固形分が、100質量部と、300質量部と、7質量部となるように混合したのち、純水を添加して、最終固形分濃度が6.0質量%の水性分散体Xと、最終固形分濃度が2.7質量%の水性分散体Yを得た。
【0075】
<離型フィルムXの製造(インラインコート法)>
平均粒径2.3μmの無定形シリカ粒子を0.12質量%含有するポリエチレンテレフタレート(重合触媒:三酸化アンチモン、固有粘度:0.62、ガラス転移温度:78℃、融点:255℃)を280℃で溶融押出し、Tダイ法-静電ピニング方式でキャスティングドラムに密着急冷し、厚さ600μmの未延伸フィルムを成型した。続いてこの未延伸フィルムを90℃に加熱した縦延伸ロールで3.5倍に延伸した。
この縦延伸したフィルムの片側に、リバースグラビアコーターを用いて、水性分散体Xを5g/m(WET換算)の塗工量になるように塗工し、横延伸テンターにおいて120℃で4.5倍延伸後、230℃で10秒間熱処理したのち、冷却し巻き取った。得られた離型フィルムの厚さは38μmであり、樹脂層の厚さはおよそ0.08μmであった。
【0076】
<離型フィルムYの製造(ポストコート法)>
上記インラインコート法において、縦延伸したフィルムの片側に水性分散体Xを塗工することなく、横延伸テンターにおいて120℃で4.5倍延伸後、230℃で10秒間熱処理したのち、冷却し巻き取って、二軸延伸フィルム(厚さ38μm、ヘイズ3.0%)を得た。
得られた二軸延伸フィルムに、上記水性分散体Yをマイヤーバーを用いて塗工した後、120℃で20秒間乾燥して、樹脂層の厚さがおよそ0.08μmである離型フィルムを得た。
【0077】
実施例6~22、比較例2~6
表1に記載した構成になるように、それぞれ、最終固形分濃度が6.0質量%の水性分散体Xと、最終固形分濃度が2.7質量%の水性分散体Yを調製し、実施例5と同様にして、この水性分散体Xを用いてインラインコート法により離型フィルムXを、また水性分散体Yを用いてポストコート法により離型フィルムYを得た。
また、実施例14においては、基材フィルムとして市販品の二軸配向ポリエステルフィルムを用いた場合についても、離型フィルムを作製した。すなわち、二軸配向ポリエステルフィルム(ユニチカ社製、エンブレットS-38、厚さ38μm)のコロナ処理面に水性分散体Yを用いてポストコート法により塗工した後、120℃で20秒間乾燥して樹脂層を形成し、離型フィルムを得た。樹脂層の厚さは、およそ0.08μmであった。
【0078】
実施例、比較例で得られた積層フィルムおよび離型フィルムについて各種評価を行った結果を表1に示す。なお、実施例14において、基材フィルムとして二軸配向ポリエステルフィルム(ユニチカ社製、エンブレットS-38、厚さ38μm)を用いてポストコート法により作製した離型フィルムについては、剥離力と碁盤目試験の評価結果を括弧内に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体を含有するため、塗工性に優れ、形成された樹脂層は、スジ状欠点の発生が抑制され、基材フィルムとの密着性に優れるものであった。
また、実施例の水性分散体は、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体を含有するため、これを乾燥時の熱量が少ないポストコート法に使用しても、形成された樹脂層は、剥離力が好ましい範囲のものであり、また剥離した被着体は、残留接着率が好ましい範囲のものであった。
実施例5~17の水性分散体は架橋剤を含有するため、得られた樹脂層は、離型性に優れ、なかでも、実施例5~6、10~11の水性分散体は、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の含有量や重量平均分子量が特に好ましい範囲であったため、塗工性に優れ、また得られた離型層は、乾燥時の熱量変化に伴って離型性が変化することがなく、特に優れていた。
実施例13、14の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分がブテンを含まないため、得られた離型フィルムは、ヘイズが低下し、好ましい範囲のものであった。
実施例18~22の水性分散体は、さらにポリビニルアルコールを含有するため、得られた離型フィルムは、実施例14の離型フィルムに比較して、ヘイズが低下しており、特に、インラインコート品において大きく低下しており、視認性に優れていた。なかでも、実施例19~21の水性分散体は、ポリビニルアルコールを含有量が、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体100質量部に対し、15~700質量部であることから、得られた離型フィルムは、ヘイズが最も好ましい範囲にあるとともに、乾燥時の熱量変化に伴って離型性が変化することがなく、特に優れていた。
比較例1~4の、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体に代えて、ポリビニルアルコールを含有する水性分散体は、塗工性に劣るものであり、形成された樹脂層には、スジ状欠点が発生した。また、インラインコート法に使用すると、離型性を有する樹脂層が形成されたが、塗膜乾燥時の熱量を少ないポストコート法に使用すると、形成された樹脂層は、離型性が低下した。
比較例5の水性分散体は、ポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体に代えて、ポリビニルアミンを含有するため、また比較例6の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有しないため、いずれも、塗膜乾燥時の熱量にかかわらず、形成された樹脂層は、離型性を示さなかった。