(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】卵殻配合樹脂組成物の製造方法及びマスターバッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20241121BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20241121BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20241121BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241121BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C08J3/20 CER
C08J3/22 CEZ
C08K3/26
C08K3/22
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020178312
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】520415960
【氏名又は名称】株式会社EPM
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】和田 耕一
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6764210(JP,B1)
【文献】登録実用新案第3230019(JP,U)
【文献】国際公開第2019/087363(WO,A1)
【文献】特表2020-506985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、卵殻粉末(B)及び酸化カルシウム(C)を混合し、190℃以上で溶融混練する工程を有する卵殻配合樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
卵殻粉末(B)が、タンパク質除去処理を行っていない卵殻粉末(B)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、卵殻粉末(B)を10重量部以上400重量部以下、酸化カルシウム(C)を5重量部以上200重量部以下で溶融混練する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法で製造される卵殻配合樹脂組成物
をペレットに成形したマスターバッチ
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料に卵殻粉末を使用した卵殻配合樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物には、物理的性質の向上や質感の改善等を目的として各種充填材(フィラー)が添加される。例えば、ポリプロピレンやポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂に、耐久性を向上させる目的で炭酸カルシウム粉末が添加されることが周知である。
廃棄物の有効利用の観点から、炭酸カルシウム粉末として卵殻粉末を配合した樹脂組成物が開発され実用化されつつある。例えば、特許文献1には、200℃以下の温度で卵殻粉末と溶融混練が可能である熱可塑性樹脂を、所定の割合の卵殻粉末、無機フィラー及びワックスと溶融混練した卵殻配合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、生分解性樹脂と、焼成処理した卵殻粉末とを溶融混練した卵殻配合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、水酸化アルカリ水溶液で処理しタンパク質を加水分解し除去した卵殻粉末をポリプロピレン等の熱可塑性樹脂に配合した卵殻配合樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-503411号公報
【文献】特開2020-84033号公報
【文献】特開2011-184269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、卵殻粉末と樹脂とを溶融混練する際の技術的課題のひとつに、不快な臭気の発生がある。未処理の卵殻には卵殻膜等に由来するタンパク質が残存するが、これが溶融混練の際の加熱により熱分解して硫黄化合物由来の臭気が発生する。この臭気は混練温度が190℃(特に200℃)を超えると顕著になり問題になっていた。
【0005】
特許文献1では、200℃以下で溶融混練が可能である熱可塑性樹脂を使用し、低温で溶融混練しているが、この方法では、樹脂の種類が制限されると共に、混練温度を低温とすると樹脂粘性が高いため樹脂中に卵殻粉末が均一に混ざりづらく混練に余分なエネルギーや時間がかかる。
また、特許文献2や特許文献3では、原料である卵殻粉末からタンパク質を除去するために、卵殻粉末を焼成したり、アルカリ処理したりしているが、これらの方法では焼成やアルカリ処理によって工数もコストも増加するという問題があった。
【0006】
かかる状況下、本発明の目的は、原料にタンパク質除去処理を行っていない卵殻粉末を使用しても臭気の発生が抑制される卵殻配合樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 熱可塑性樹脂(A)、卵殻粉末(B)及び酸化カルシウム(C)を混合し、190℃以上で溶融混練する工程を有する卵殻配合樹脂組成物の製造方法。
<2> 卵殻粉末(B)が、タンパク質除去処理を行っていない卵殻粉末(B)である<1>に記載の製造方法。
<3> 熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、卵殻粉末(B)を10重量部以上400重量部以下、酸化カルシウム(C)を5重量部以上200重量部以下で溶融混練する<1>または<2>に記載の製造方法。
<4> <1>から<3>のいずれかに記載の製造方法で製造される卵殻配合樹脂組成物。
<5> <4>に記載の卵殻配合樹脂組成物からなるマスターバッチ。
<6> <4>に記載の卵殻配合樹脂組成物を使用して成形された成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原料にタンパク質除去処理を行っていない卵殻粉末を使用しても、ペレット化時や成形時などにおいて、不快な臭気の放出を効果的に抑制することができる卵殻配合樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0011】
本発明は、熱可塑性樹脂(A)、卵殻粉末(B)及び酸化カルシウム(C)を混合し、190℃以上で溶融混練する工程を有する卵殻配合樹脂組成物の製造方法(以下、「本発明の卵殻配合樹脂組成物の製造方法」又は単に「本発明の製造方法」と称す場合がある。)に関する。
【0012】
本発明の製造方法では、溶融混練に際し、熱可塑性樹脂(A)、卵殻粉末(B)と共に酸化カルシウム(C)を配合することにある。現段階では理由は明らかでないが、酸化カルシウム(C)を配合することによって、卵殻粉末(B)としてタンパク質除去処理を行っていない卵殻粉末を使用すると190℃以上(実施例200℃)の溶融混練であっても卵殻に残存したタンパク質の熱分解による硫黄化合物由来の臭気の発生が抑制される。
【0013】
また、卵殻は多数の細孔を有し、その細孔内に水が吸着して含水しやすい。含水状態の卵殻粉末を原料に使用すると、成型時、マスターバッチ内にある水分が表層に出てくる発泡現象が発生するが、酸化カルシウム(C)を配合することによって抑制される傾向にある。現段階では理由は明らかでないが、酸化カルシウム(CaO)が水分と反応し、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)となることで樹脂マトリックスへの水分の発生を抑制している可能性がある。
【0014】
以下、本発明の卵殻配合樹脂組成物の製造方法をより詳細に説明する。
【0015】
熱可塑性樹脂(A)は、特に限定されず、本発明の目的を損なわない限り、任意の熱可塑性樹脂を使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレンやアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂;さらにはポリ塩化ビニル、ポリ酢酸メチル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体などの熱可塑性エラストマー;等を挙げることができるが、これらに制限されない。熱可塑性樹脂(A)は、上記樹脂を1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
卵殻粉末(B)の原料となる卵殻は、鳥類の卵(以下、単に「卵」と略称する場合がある。)としては、任意の鳥類のものを特に制限なく用いることができるが、コストや入手の容易さの観点から鶏卵が好ましく用いられる。
【0017】
卵殻粉末(B)の粒径は、熱可塑性樹脂(A)の種類、卵殻粉末(B)(及び酸化カルシウム(C)、その他の成分)の配合割合等に応じて選択され特に制限はないが、通常、0.1μm以上500μm以下の範囲である。卵殻粉末(B)の形状は特に制限はないが、好適には球状である。
【0018】
卵殻粉末(B)の粒径分布は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0019】
卵殻粉末(B)の製造方法は任意であるが、典型的には、割卵後内容物を除去して得られる卵殻から卵殻膜を除去処理し、さらなるタンパク質除去処理(焼成処理やアルカリ処理等)を行わずに、乾燥させた後に粉砕する。粉砕物をふるいにより目的とする粒径範囲となるように粉砕処理はハンマーミルやジェットミル等の公知の粉砕機が用いられる。また、粉砕後に必要に応じて他の処理を加えてもよい。
【0020】
酸化カルシウム(C)は、本発明の目的を損なわない限り、その粒径に制限はないが、凝集しにくく、取り扱いが容易である点で好適には平均粒径0.1~40μmの範囲で選ばれる。この平均粒径が上記範囲にあると、表面積が大きく、消臭効果に優れる傾向にある。
【0021】
本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂(A)、卵殻粉末(B)及び酸化カルシウム(C)の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定すればよいが、好適には熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、卵殻粉末(B)が10~400重量部、酸化カルシウム(C)5~200重量部である。
【0022】
本発明の製造方法において、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種公知の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、例えば帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、アンチブロッキング剤、造核剤、滑剤、さらには、卵殻以外の廃棄物(例えば、貝殻粉末等)などを含有させることができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、卵殻粉末(B)及び酸化カルシウム(C)並びに必要に応じて添加される他の添加剤を混合した後、混練機により混練溶融して溶融混練物を作製し、その後、常法に従ってペレット状に加工することにより得ることができる。混合機としては特に限定されず、例えば、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等が挙げられる。また、溶融混練に用いる混練機としては、一軸又は二軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0024】
溶融混練する際の温度条件は、熱可塑性樹脂(A)の種類や、各成分の配合割合にもよるが、熱可塑性樹脂(A)の混練可能な程度に軟化温度より高い温度で設定され、190℃以上、200℃以上、210℃以上とすることができる。溶融混練する際の上限温度は、熱可塑性樹脂(A)の種類や、各成分の配合割合にもよるが、230℃以下、220℃以下、210℃以下、200℃以下とすることができる。上述の通り、本発明の製造方法では、酸化カルシウム(C)を配合することによって、卵殻粉末(B)としてタンパク質除去処理を行っていない卵殻粉末であっても、190℃以上の溶融混練であっても卵殻に残存したタンパク質の熱分解による硫黄化合物由来の臭気が発生する臭気の発生が抑制される。
【0025】
溶融混練する際の温度以外の条件は、本発明の目的を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂(A)の種類や、各成分の配合割合を考慮して決定すればよい。
【0026】
溶融混練が完了した後は、本発明の卵殻配合樹脂組成物は任意の形状に成形することができる。例えば、本発明のマスターバッチとして、本発明の卵殻配合樹脂組成物を従来公知の方法でペレットに成形してもよい。ペレット状のマスターバッチの大きさ、形状は任意であり、使用目的に併せて適宜設定される。
【0027】
本発明の成形体は、上記本発明の卵殻配合樹脂組成物を原材料として使用して成形された成形体である。典型的には、本発明のマスターバッチのみまたは、本発明のマスターバッチを他の樹脂ペレットを混合し、公知の射出成形機などの成形機で成形して製造することができる。本発明の成形体の形状は任意であり、種々の樹脂製の日用品や工業製品とすることができる。
【0028】
以上、本発明について述べたが、今回開示された内容は制限的なものではない。特に、今回の開示において、明示的に開示されていない事項は、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
<混練試験>
下記のとおり、混練試験を行った。。
(実験例1)
熱可塑性樹脂(A)として、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP FY4、MFR:5.0g/10分、[230℃、2.16kg荷重]、日本ポリプロ社製)100重量部、卵殻粉末(B)として、卵殻粉末(株式会社グリーンテクノ21製、卵殻膜を機械除去した未焼成卵殻粉末、粒径20μm)70重量部、酸化カルシウム(C)として、CaO粉末30重量部、外部滑剤(D)としてアクリル系高分子外部滑剤(三菱化学製、メタブレンL1000)6重量部を、混練試験機(福岡県工業技術センター所有)に入れ、混練温度200℃、回転数60rpmの条件で混練した。混練試験機に原材料を入れた後、混練を継続させた10分間において臭気の発生を確認したところ、臭気の発生は確認されなかった。
【0031】
(実験例2)
実験例1の混練試験において、卵殻粉末(B)80重量部、酸化カルシウム(C)20重量部に代えた以外は実験例1と同様にして実験例2の混練試験を行った。混練を継続させた10分間において臭気の発生を確認したところ、臭気の発生は確認されなかった。
【0032】
(実験例3)
実験例1の混練試験において、卵殻粉末(B)90重量部、酸化カルシウム(C)10重量部に代えた以外は実験例1と同様にして実験例3の混練試験を行った。混練を継続させた10分間において臭気の発生を確認したところ、臭気の発生は確認されなかった。
【0033】
(実験例4)
実験例1の混練試験において、混練温度を230℃にした以外は実験例1と同様にして実験例4の混練試験を行った。混練を継続させた10分間において臭気の発生を確認したところ、臭気の発生は確認されなかった。
【0034】
(実験例5)(比較例)
実験例1の混練試験において、卵殻粉末(B)100重量部とし、酸化カルシウム(C)0重量部(添加なし)にした以外は実験例1と同様にして実験例5の混練試験を行った。混練開始後、しばらくして発生した臭気が混練時間(10分間)継続した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の卵殻配合樹脂組成物は、従来廃棄物である卵殻を再利用し、樹脂の使用量を減らすことができるので、樹脂組成物の製造に係る原料量やエネルギー量が低減し、温室効果ガス削減等の環境効果が期待できる。