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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】電動推進系制御装置
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/28 20060101AFI20241121BHJP
   B64C 27/26 20060101ALI20241121BHJP
   B64D 27/31 20240101ALI20241121BHJP
   B64D 27/34 20240101ALI20241121BHJP
   B64U 10/25 20230101ALI20241121BHJP
   B64U 50/19 20230101ALI20241121BHJP
   B64U 50/23 20230101ALI20241121BHJP
【FI】
B64C27/28
B64C27/26
B64D27/31
B64D27/34
B64U10/25
B64U50/19
B64U50/23
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021029444
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022130817
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】横田 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】西沢 啓
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-125017(JP,A)
【文献】特開2017-083318(JP,A)
【文献】特表2021-501722(JP,A)
【文献】特開2012-126201(JP,A)
【文献】特開2006-306254(JP,A)
【文献】特開2020-183210(JP,A)
【文献】特開2014-172435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/26
B64C 27/28
B64D 27/00
B64U 10/00
B64U 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体に搭載され、電動モータにより駆動され回転軸を中心に回転する電動推進系の電流及び回転数を検知する第1の検知部と、前記電流及び回転数から電流係数を算出し、前記電流係数に基づき、前記回転軸の方向である第1の方向に対する気流速度である第1の気流速度を算出する第1の気流速度算出部と、を有する第1の気流速度計測部と、
前記機体に搭載され、前記第1の方向と異なる第2の方向に対する気流速度である第2の気流速度を計測する第2の気流速度計測部と、
前記第1の方向及び第1の気流速度と、前記第2の方向及び前記第2の気流速度に基づき、前記機体に対する気流速度及び気流方向を算出する気流算出部と
を具備する電動推進系制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動推進系制御装置であって、
前記第1の気流速度算出部は、前記電流及び回転数と前記第1の気流速度との関係を示す変数の関係式、データ群又は数学的モデルに基づき、前記第1の気流速度を算出する
電動推進系制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動推進系制御装置であって、
前記電動推進系は、前記回転軸の向きを変更可能であり、
前記気流算出部は、前記回転軸の向きを変更した時点の前記電流及び回転数から電流係数を算出し、前記電流係数に基づき、前記気流速度及び気流方向を算出する
電動推進系制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の電動推進系制御装置であって、
前記気流算出部は、前記第1の検知部が複数時点で検知した前記電流及び回転数並びに数学的モデルを利用した逐次推定処理により、前記気流速度及び気流方向を補正する
電動推進系制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の電動推進系制御装置であって、
前記第2の気流速度計測部は、前記第2の方向に管軸方向を有する又は前記第2の方向を含む複数方向に孔の開いたピトー管に対する圧力に基づき前記第2の気流速度を計測する
電動推進系制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の電動推進系制御装置であって、
前記第2の気流速度計測部は、
別の電動モータにより駆動され、前記第2の方向に延びる回転軸を中心に回転する別の電動推進系の電流及び回転数を検知する第2の検知部と、
前記電流及び回転数から電流係数を算出し、前記電流係数に基づき、前記第2の気流速度を算出する第2の気流速度算出部と、
を有する
電動推進系制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の電動推進系制御装置であって、
前記機体に搭載され、別の電動モータにより駆動され前記第1の方向及び前記第2の方向と異なる第3の方向に延びる回転軸を中心に回転する別の電動推進系の電流及び回転数を検知する第3の検知部と、前記電流及び回転数から電流係数を算出し、前記電流係数に基づき、前記回転軸の方向である回転軸方向に対する気流速度である第3の気流速度を算出する第3の気流速度算出部と、を有する第3の気流速度計測部をさらに具備し、
前記気流算出部は、前記第1の方向及び第1の気流速度と、前記第2の方向及び前記第2の気流速度と、前記第3の方向及び前記第3の気流速度とに基づき、3次元の成分を含む、前記気流速度及び気流方向を算出する
電動推進系制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の電動推進系制御装置であって、
前記航空機は、前記機体に搭載され、1以上の前記電動モータによりそれぞれ駆動される1以上の前記電動推進系を有し、
前記電流及び回転数と、前記気流速度及び気流方向と、前記機体に発生する空気力に関する変数の関係式、データ群又は数学的モデルに基づき、前記電流及び回転数並びに/又は前記気流速度及び気流方向に関する変数の変化を算出し、前記算出した変数の変化に基づき、1以上の前記電動推進系の合計推力又は前記機体に発生する空気力を制御する制御部
をさらに具備する電動推進系制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の電動推進系制御装置であって、
前記航空機は、前記機体に搭載され、1以上の前記電動モータによりそれぞれ駆動される1以上の前記電動推進系を有し、
前記電流及び回転数と、前記気流速度及び気流方向と、前記機体に発生する空気力に関する変数の関係式、データ群又は数学的モデルに基づき、前記電流及び回転数並びに/又は前記気流速度及び気流方向に関する変数の変化を算出し、前記算出した変数の変化に基づき、前記航空機の姿勢又は飛行経路を制御する制御部
をさらに具備する電動推進系制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載の電動推進系制御装置であって、
前記電動推進系は、プロペラ又はファンを含む
電動推進系制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動化航空機の気体に搭載され、電動モータにより駆動される電動推進系(即ち、プロペラ又はファンを含む電動推進系)を制御する電動推進系制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機を適切に飛行させる上で、飛行中の対気速度及び大気密度はモニタすべき最も重要な項目のひとつである。航空機において対気速度の検知は典型的に、ピトー管に配管で接続された圧力計を用いて、対気速度の2乗に比例する圧力を検知することにより行われる。熱線流速計など応答性の高い対気速度検知手段も存在するが、その航空機への搭載にはコスト、重量などでデメリットが避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第6986688号明細書
【文献】特許第6112711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、対象が船舶であるものの、推進用プロペラを駆動するモータ電流から推定したプロペラトルクと回転数、流体速度のデータ群を用いて流体速度を低コストかつ重量ペナルティなく検知する手法を提案している。
【0005】
特許文献2は、複数回転数とトルクの組み合わせを用い、大気密度検知手段も可能としている。一方で、特許文献1及び特許文献2はいずれも流体の流入方向が既知である場合の検知手段であり、横風や上下風などの気流速度ベクトル(即ち、気流速度及び気流方向)を検知できない。
【0006】
また、航空機においては推進系の効率や機体の姿勢、高度を保つために、気流速度ベクトルにあわせて回転数やプロペラピッチ角等の推進系の運転状態を調整する必要がある。特に垂直離着陸(VTOL:Vertical Take-Off and Landing)機能を有する航空機は、特に前進速度を減じる離着陸時には横風や上下風によって姿勢を崩す安全上のリスクがある。このため、気流速度ベクトルに対応した制御力を発生させるよう翼のティルト角等を調整しながら飛行する必要がある。一方、気流速度ベクトルの変化に迅速に対応する検知手段及び制御に必要な空気力の発生手段を搭載するには重量、コスト上のデメリットを生じる問題点がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本開示の目的は、コスト増及び重量増なく高精度に電動化航空機の機体に対する気流速度及び気流方向を検知し、且つ、気流速度及び気流方向の変動に対し電動推進系及び機体の姿勢を迅速に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態に係る電動推進系制御装置は、
航空機の機体に搭載され、電動モータにより駆動され回転軸を中心に回転する電動推進系のパラメータである推進系パラメータを検知する第1の推進系パラメータ検知部と、前記推進系パラメータに基づき、前記回転軸の方向である第1の方向に対する気流速度である第1の気流速度を算出する第1の気流速度算出部と、を有する第1の気流速度計測部と、
前記機体に搭載され、前記第1の方向と異なる第2の方向に対する気流速度である第2の気流速度を計測する第2の気流速度計測部と、
前記第1の方向及び第1の気流速度と、前記第2の方向及び前記第2の気流速度に基づき、前記機体に対する気流速度及び気流方向を算出する気流算出部と
を具備する。
【0009】
本実施形態によれば、第1の気流速度計測部及び第2の気流速度計測部が計測した異なる2方向の気流速度及び気流方向に基づき、機体に作用することになる気流の気流速度及び気流方向を算出する。これにより、本実施形態では、気流速度及び気流方向の変化を迅速に検知することで、気流速度及び気流方向に依存して変化する揚力及び抗力や、揚力及び抗力に応じて変化させる必要がある推力を適切な値に保ち、飛行を安全かつ効率的に継続することができる。
【0010】
前記第1の気流速度算出部は、前記推進系パラメータと前記第1の気流速度との関係を示す変数の関係式、データ群又は数学的モデルに基づき、前記第1の気流速度を算出してもよい。
【0011】
これにより、気流速度及び気流方向の算出を電気的な手段で行うことができ、重量やコストに与える影響を抑制するとともに、検出精度や応答性が向上する。
【0012】
前記電動推進系は、前記回転軸の向きを変更可能であり、
前記気流算出部は、前記回転軸の向きを変更した時点の前記推進系パラメータに基づき、前記気流速度及び気流方向を算出してもよい。
【0013】
回転軸の向きを変更すると、迎角及び前記電動推進系の発生する推力及び翼との相互作用により発生する揚力が変化し、機体の安定性が変化する可能性がある。この場合に、機体の姿勢等を制御することができる。
【0014】
前記気流算出部は、前記第1の推進系パラメータ検知部が複数時点で検知した前記推進系パラメータ及び数学的モデルを利用した逐次推定処理により、前記気流速度及び気流方向を補正してもよい。
【0015】
これにより、より正確に気流速度及び気流方向を算出でき、また、算出を電気的な手段で行うことができるので、重量やコストに与える影響を抑制するとともに、検出精度や応答性が向上する。
【0016】
前記第2の気流速度計測部は、前記第2の方向に管軸方向を有する又は前記第2の方向を含む複数方向に孔の開いたピトー管に対する圧力に基づき前記第2の気流速度を計測してもよい。
【0017】
典型的に、航空機において対気速度の検知は、ピトー管に配管で接続された圧力計を用いて、対気速度の2乗に比例する圧力を検知する形で行われる。この手法ではピトー管先端で生じた圧力の変動が配管を伝播して圧力計に到達し対気速度の変化として検知されるまで最大数秒程度の遅れが生じる可能性がある。これに対して、本実施形態によれば、ピトー管を利用して気流速度を算出する第2の気流速度計測部と、推進系パラメータに基づき気流速度を算出する第1の気流速度計測部とを併用する。これにより、ピトー管のみを利用する場合には対気速度が時間的に変化するケースへの適用には問題があったところ、推進系パラメータに基づき気流速度を算出することで、気流速度の変化を迅速に算出することが可能となる。
【0018】
前記第2の気流速度計測部は、
別の電動モータにより駆動され、前記第2の方向に延びる回転軸を中心に回転する別の電動推進系のパラメータである推進系パラメータを検知する第2の推進系パラメータ検知部と、
前記推進系パラメータに基づき、前記第2の気流速度を算出する第2の気流速度算出部と、
を有してもよい。
【0019】
本実施形態によれば、ピトー管を使用しないため、気流速度及び気流方向をより迅速に算出することが可能となる。さらに、サンプリングのタイミングを同期することが容易かつ正確になるため、機体に作用する気流速度及び気流方向の気流速度及び気流方向をより高速かつ正確に算出することができる。その上、第1の気流速度計測部及び第2の気流速度計測部の何れも、推進系パラメータに基づき電気的な手段で気流速度を算出するため、横風や上下風をコストや重量のデメリットなく、且つ迅速に検知することができる。
【0020】
電動推進系制御装置は、
前記機体に搭載され、別の電動モータにより駆動され前記第1の方向及び前記第2の方向と異なる第3の方向に延びる回転軸を中心に回転する別の電動推進系のパラメータである推進系パラメータを検知する第3の推進系パラメータ検知部と、前記推進系パラメータに基づき、前記回転軸の方向である回転軸方向に対する気流速度である第3の気流速度を算出する第3の気流速度算出部と、を有する第3の気流速度計測部をさらに具備し、
前記気流算出部は、前記第1の方向及び第1の気流速度と、前記第2の方向及び前記第2の気流速度と、前記第3の方向及び前記第3の気流速度とに基づき、3次元の成分を含む、前記気流速度及び気流方向を算出してもよい。
【0021】
本実施形態によれば3次元の成分を含む気流速度及び気流方向を電気的な手段で算出することができる。これにより、機体に対する気流速度及び気流方向をより正確に算出することができる。また、横風や上下風をコストや重量のデメリットなく、且つ迅速に検知することができる。
【0022】
前記航空機は、前記機体に搭載され、1以上の前記電動モータによりそれぞれ駆動される1以上の前記電動推進系を有し、
前記推進系パラメータと、前記気流速度及び気流方向と、前記機体に発生する空気力に関する変数の関係式、データ群又は数学的モデルに基づき、前記推進系パラメータ及び/又は前記気流速度及び気流方向に関する変数の変化を算出し、前記算出した変数の変化に基づき、1以上の前記電動推進系の合計推力又は前記機体に発生する空気力を制御する制御部
をさらに具備してもよい。
【0023】
本実施形態によれば、得られた気流速度及び気流方向の情報を、応答の高い電動推進系の推力又は出力指示にフィードバックする。これにより、機体が横風を受けた場合でも、気流速度及び気流方向に応じた推力又は揚力配分を左右の電動推進系で迅速に実現することができ、横風による姿勢や経路の変化を小さく抑えることができる。
【0024】
前記航空機は、前記機体に搭載され、1以上の前記電動モータによりそれぞれ駆動される1以上の前記電動推進系を有し、
前記推進系パラメータと、前記気流速度及び気流方向と、前記機体に発生する空気力に関する変数の関係式、データ群又は数学的モデルに基づき、前記推進系パラメータ及び/又は前記気流速度及び気流方向に関する変数の変化を算出し、前記算出した変数の変化に基づき、前記航空機の姿勢又は飛行経路を制御する制御部
をさらに具備してもよい。
【0025】
本実施形態によれば、気流速度及び気流方向の変化を迅速に検知することで、気流速度及び気流方向に依存して変化する揚力及び抗力や、揚力及び抗力に応じて変化させる必要がある推力を適切な値に保ち、飛行を安全かつ効率的に継続することができる。
【0026】
前記電動推進系は、プロペラ又はファンを含んでもよい。
【0027】
本実施形態は、VTOL機能を有する電動化航空機や、VTOL機能を有しない電動化航空機等の、電動モータにより駆動される電動推進系を有するあらゆる電動化航空機に適用可能である。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、コスト増及び重量増なく高精度に電動化航空機の機体に対する気流速度及び気流方向を検知し、且つ、気流速度及び気流方向の変動に対し電動推進系及び機体の姿勢を迅速に制御することを図れる。
【0029】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本開示の第1の実施形態に係る電動化航空機の一例を模式的に示す。
図2】電動化航空機の垂直離陸から巡航状態に遷移するまでを模式的に示す。
図3】電動化航空機の垂直離陸から巡航に遷移するトランジション時の、機体に対する気流を模式的に示す。
図4】電動化航空機の電動推進系のハードウェア構成を示す。
図5】電動推進系制御装置の構成を示す。
図6】電流及びプロペラ回転数から気流速度を算出するためのデータ群の一例を示す。
図7】圧力及びピトー管の管軸方向の基準線に対する角度から気流速度を算出するためのデータ群の一例を示す。
図8】逐次処理により補正された気流方向の時系列データの一例を示す。
図9】機体が横風を受けた場合を模式的に示す。
図10】本発明の第2の実施形態に係る電動推進系制御装置の構成を示す。
図11】本発明の第3の実施形態に係る電動推進系制御装置の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
【0032】
I.第1の実施形態
【0033】
1.本実施形態のコンセプト
【0034】
図1は、本開示の第1の実施形態に係る電動化航空機の一例を模式的に示す。
【0035】
本実施形態に係る電動化航空機100は、垂直離着陸(VTOL:Vertical Take-Off and Landing)機能を有する航空機である。一方、VTOL機能を有しない電動化航空機にも、本実施形態を適用可能である。即ち、電動モータにより駆動される電動推進系を有するあらゆる電動化航空機に、本実施形態を適用可能である。
【0036】
電動化航空機100は、機体101の前後にティルト機構を有した主翼102、103を備える。前の主翼102の両端に電動推進系104a,104bが搭載される。後の主翼103の両端に電動推進系104c,104dが搭載される。電動推進系104a,104b,104c,104dは、それぞれ、プロペラ又はファン(本実施形態ではプロペラ。以下同じ)を有する。プロペラは、電動モータにより駆動されて回転軸を中心に回転する。電動化航空機100は、対気速度を測定するためのピトー管108を有する。主翼102、103がティルトすることにより、電動化航空機100は、垂直離着陸が可能である。主翼102、103がティルトするとき、電動推進系104a,104b,104c,104dの回転軸の向きも変わる。本例の電動化航空機100は、複数の電動推進系104a,104b,104c,104dを有する。一方、本実施形態は、1個の電動推進系を有する電動化航空機(不図示)にも適用可能である。
【0037】
図2は、電動化航空機の垂直離陸から巡航状態に遷移するまでを模式的に示す。
【0038】
垂直離陸(vertical takeoff)時に、電動化航空機100は、各主翼102、103をティルトさせ、プロペラ回転軸を垂直近くまで上方に向ける。トランジション(transition)時には、電動化航空機100は、プロペラ回転軸及び主翼102、103の迎角αを巡航(cruise)に適した角度に変化させる。
【0039】
図3は、電動化航空機の垂直離陸から巡航に遷移するトランジション時の、機体に対する気流を模式的に示す。
【0040】
特にトランジション時には、機体の移動に伴って前方からの気流速度(airspeed)ベクトルVが機体に作用する。プロペラで増速された気流が主翼の一部に重畳して作用することもある。その結果、機体に揚力L及び抗力Dが発生する。機体に作用する揚力L及び抗力Dに加え、各電動推進系の発生する推力F及び重力Fzが釣り合うことで、機体が安定的に飛行する。
【0041】
典型的には、飛行時に、ピトー管の管軸方向やプロペラの回転軸方向等の所定の方向に、航空機に対して作用する気流速度を算出することはできる。しかしながら、横風や上下風などの、機体に作用する気流自体の気流方向を算出することは行われていない。言い換えれば、機体に直接作用する気流速度ベクトル(即ち、気流速度及び気流方向。以下同じ)を算出することは行われていない。このため、典型的には、気流の変化を受けた機体に揺れ等が発生して初めて、その揺れを抑えるために機体を制御している。
【0042】
これに対して、本実施形態のコンセプトは、機体に作用することになる気流の気流速度ベクトルV(即ち、気流速度及び気流方向)を算出し、算出した気流速度ベクトルVに基づき機体や電動推進系を制御する。そして、本実施形態では、気流速度ベクトルVの変化を迅速に検知することで、気流速度ベクトルVに依存して変化する揚力L及び抗力Dや、揚力L及び抗力Dに応じて変化させる必要がある推力Fを適切な値に保ち、飛行を安全かつ効率的に継続することを図る。
【0043】
そこで本実施形態では、既知の第1の方向に対する気流速度(第1の気流速度と称する。以下同じ)と、第1の方向と異なる既知の第2の方向に対する気流速度(第2の気流速度と称する。以下同じ)を算出する。既知の第1の方向及び第2の方向は予め決まっており、機体の基準線(datum line)L1(例えば、機軸等)に対して所定角度として表現される。図3の例では、第1の方向はプロペラ回転軸方向であり、基準線L1に対する角度はティルト角σである。第2の方向はピトー管の管軸方向であり、基準線L1の角度と一致する。第1の方向(プロペラ回転軸方向)に対する第1の気流速度を示す第1の気流速度ベクトルVnと、第2の方向(ピトー管の管軸方向)に対する第2の気流速度を示す第2の気流速度ベクトルVxとを算出する。第1の気流速度ベクトルVnと、第2の気流速度ベクトルVxとを合成する。これにより、機体に作用する気流速度ベクトルVを算出する。言い換えれば、機体に作用する気流の気流方向(即ち、基準線L1に対する角度θ)及び気流速度(即ち、気流速度ベクトルVの大きさ)を算出することができる。
【0044】
ティルト角σから気流速度ベクトルVの角度θを減算することで、主翼の迎角αを算出することができる。気流速度ベクトルV及び主翼の迎角αに基づき、揚力L及び抗力Dを算出することができる。これにより、揚力L及び抗力Dに応じて変化させる必要がある推力Fを適切な値に保ち、飛行を安全かつ効率的に継続することができる。
【0045】
2.電動化航空機の電動推進系のハードウェア構成
【0046】
図4は、電動化航空機の電動推進系のハードウェア構成を示す。
【0047】
電動化航空機100は、プロペラ201と、モータ202と、インバータ203と、電源204と、電流及び電圧検知部205と、コントローラ206と、回転数検知部207と、速度検知部208と、圧力計209とを有する。プロペラ201と、モータ202と、インバータ203と、電源204と、電流及び電圧検知部205とは、図5の電動推進系250を構成する。電動推進系250は、図1の電動推進系104a,104b,104c,104dの何れかに相当する。
【0048】
インバータ203がモータ202の回転数を制御し、モータ202がプロペラ201を駆動することで、プロペラ201が回転軸を中心に所定の回転数で回転する。電流及び電圧検知部205は、モータ202に供給される電流Iを検知する。回転数検知部207は、プロペラ回転数Nを検知する。
【0049】
速度検知部208は、ピトー管である。速度検知部208に気流から全圧及び静圧が掛かる。圧力計209は、全圧から静圧を減算して気流の圧力(動圧)を測定し、圧力に基づき、気流速度を算出する。速度検知部208が1孔のピトー管の場合、圧力計209は、ピトー管の管軸方向(第2の方向)の気流速度を算出する。速度検知部208は、3孔や5孔等の複数孔を有し、測定対象の気流方向(第2の方向)を含む複数方向に孔の開いたピトー管でもよい。速度検知部208が複数孔のピトー管の場合、圧力計209は、1孔の開口方向(第2の方向)の気流速度を算出する。ピトー管を使用して測定する気流方向(第2の方向)は、プロペラ201の回転軸方向(第1の方向)と異なる。なお、本実施形態では、速度検知部208が1孔のピトー管であり、圧力計209はピトー管の管軸方向(第2の方向)の気流速度を算出することとする。
【0050】
コントローラ206は、モータ202に供給される電流I、プロペラ回転数N、ピトー管の管軸方向の気流速度に基づき、電動化航空機100の機体に対する気流速度ベクトルVを算出する。気流速度ベクトルVは、気流速度ベクトルの基準線に対する角度θ(即ち、気流方向)及び気流速度ベクトルの大きさU(即ち、気流速度)を含む。コントローラ206は、算出した気流速度ベクトルVに基づき電動化航空機100を制御する。以下、コントローラ206の機能をより詳細に説明する。
【0051】
3.電動推進系制御装置の構成
【0052】
図5は、電動推進系制御装置の構成を示す。
【0053】
電動化航空機100には、電動推進系制御装置200が搭載される。電動推進系制御装置200は、図4のコントローラ206及び/又は専用の電気回路により実現される。電動推進系制御装置200は、電動推進系250を制御する。電動推進系250は、図4のプロペラ201と、モータ202と、インバータ203と、電源204とを含む。電動推進系制御装置200は、第1の気流速度計測部210と、第2の気流速度計測部220と、気流算出部230と、制御部240とを有する。
【0054】
第1の気流速度計測部210は、第1の推進系パラメータ検知部211と、第1の気流速度算出部212とを有する。
【0055】
第1の推進系パラメータ検知部211は、電動推進系250のパラメータ(推進系パラメータと称する)を検知する。第1の推進系パラメータ検知部211は、図4の電流及び電圧検知部205と、回転数検知部207とを含む。具体的には、第1の推進系パラメータ検知部211は、モータ202に供給される電流Iaと、プロペラ201のプロペラ回転数naとを検知する。電流Iaと、プロペラ回転数naとは、推進系パラメータである。
【0056】
第1の気流速度算出部212は、推進系パラメータとしての、電流Iaと、プロペラ回転数naとを取得する。第1の気流速度算出部212は、モータ202に供給される電流I及びプロペラ回転数N(即ち、推進系パラメータ)と、プロペラ回転軸方向に対する気流速度Unとの関係を示す変数の関係式、データ群又は数学的モデル等を記憶している。
【0057】
図6は、電流及びプロペラ回転数から気流速度を算出するためのデータ群の一例を示す。
【0058】
図6は、基準線に対するプロペラ回転軸の角度を複数のバリエーションΦ1、Φ2、Φ3としたときに特定の対気速度で航空機が飛行する際の、前進率Jnと電流係数CIとの関係を示すデータ群の一例である。前進率Jnは、Jn=Un/(NDp)、即ち、「前進率=回転軸方向気流速度成分の大きさ/(プロペラ回転数×プロペラ直径)」で算出される。電流係数CIは、CI=I/(ρNDp)、即ち、「電流係数=電流/(大気密度×プロペラ回転数×プロペラ直径)」で算出される。プロペラ回転軸の角度のバリエーションΦ1、Φ2、Φ3に拠らず、電流係数CIと前進率Jnには相関がある。このため、電流I及びプロペラ回転数N、さらに、プロペラ直径Dp及び大気密度ρが既知であれば、推進系パラメータである電流I及びプロペラ回転数Nから電流係数CIを算出し、電流係数CIを用いて図6から前進率Jnを算出しさらにはプロペラ回転軸方向に対する気流速度ベクトルの大きさUnを算出することができる。このような算出のために、図6のようなデータ群を元にした近似式を、あらかじめ関数の形で作成しておき、関係式として記憶しておいてもよい。またデータ群を反映した数学的なモデルを、あらかじめ作成しておき、数学的モデルとして記憶しておいてもよい。
【0059】
第1の気流速度算出部212は、この様な関係式、データ群又は数学的モデル等を利用して、モータ202に供給される電流Iaと、プロペラ回転数na(即ち、推進系パラメータ)に基づき、プロペラ回転軸方向に対する第1の気流速度Vnaを算出する。
【0060】
第2の気流速度計測部220は、図4の速度検知部208と、圧力計209とを含む。速度検知部208(ピトー管)に気流から全圧及び静圧が掛かる。圧力計209は、全圧から静圧を減算して気流の圧力p(動圧)を測定する。第2の気流速度計測部220は、圧力p、ピトー管の管軸方向の基準線に対する角度θ、ピトー管の管軸方向の気流速度ベクトルの大きさU1、U2、U3との関係を示す変数の関係式、データ群又は数学的モデル等を記憶している。
【0061】
図7は、圧力及びピトー管の管軸方向の基準線に対する角度から気流速度を算出するためのデータ群の一例を示す。
【0062】
図7は、圧力pと、ピトー管の管軸方向の基準線に対する角度θと、気流速度ベクトルの大きさU1、U2、U3との関係を示すデータ群の一例である。この圧力p、ピトー管の角度θ、気流速度ベクトルの大きさUの関係を、例えばp=apρU-aθとモデル化すると(ap,aθ,mは定数)、前記方法で算出されたUn(=UcosΦ)とθ=Φ-σを連立することでUとθを算出することができる。
【0063】
第2の気流速度計測部220は、この様な関係式、データ群又は数学的モデル等を利用して、圧力計209が測定した圧力pと、ピトー管の管軸方向の基準線に対する角度θとに基づき、ピトー管の管軸方向に対する航空機の対気速度Vpitotを算出する。即ち、圧力pは対気速度の2乗に比例するため、ピトー管を用いて圧力pを測定すれば、ピトー管の管軸方向の対気速度Vpitotが算出される。図3のピトー管の管軸方向に対する第2の気流速度Vxは、航空機の対気速度Vpitotと等しい。
【0064】
以上のように、第1の気流速度算出部212は、プロペラ回転軸方向(第1の方向)に対する第1の気流速度Vnaを算出する。第2の気流速度計測部220は、ピトー管の管軸方向(第2の方向)に対する航空機の対気速度Vpitotを算出する。プロペラ回転軸方向(第1の方向)とピトー管の管軸方向(第2の方向)とは異なる。
【0065】
気流算出部230は、第1の気流速度算出部212が算出した第1の気流速度Vnaと、第2の気流速度計測部220が計測した第2の気流速度Vpitotを取得する。気流算出部230は、さらに、プロペラ回転軸の方向(第1の方向)であるティルト角σと、ピトー管の管軸方向の方向(第2の方向)を取得する。
【0066】
図3に示す様に、気流算出部230は、第1の方向(プロペラ回転軸方向)に対する第1の気流速度を示す第1の気流速度ベクトルVnと、第2の方向(ピトー管の管軸方向)に対する第2の気流速度を示す第2の気流速度ベクトルVxとを合成する。これにより、気流算出部230は、機体に作用する気流速度ベクトルVを算出する。具体的には、気流算出部230は、機体に作用する気流の気流方向及び気流速度を算出する。言い換えれば、気流算出部230は、気流の基準線に対する角度θaと、気流速度ベクトルVの大きさ│V│とを算出する。
【0067】
気流算出部230は、電動推進系250のプロペラ回転軸の向き(即ち、ティルト角σ)を変更した時点の推進系パラメータに基づき、気流速度V及び気流方向θを算出してもよい。プロペラ回転軸の向き(ティルト角σ)を変更すると、迎角α及び前記電動推進系の発生する推力及び翼との相互作用により発生する揚力が変化することにより、機体の安定性が変化する可能性があるため、機体101の姿勢等を制御する必要性が生じるからである。
【0068】
図8は、逐次処理により補正された気流方向の時系列データの一例を示す。図8に示す様に、気流算出部230は、第1の推進系パラメータ検知部211が複数時点で検知した推進系パラメータの時系列データ、気流速度ベクトルV及び数学的モデルを利用した逐次推定処理により、最小二乗法又はカルマンフィルタ等に基づき、気流速度及び気流方向を補正してもよい。図8において、Trueは迎角αの真値、α^w/oRLSは逐次処理補正をしない迎角αの推定値、α^w/RLSは逐次処理をした迎角αの推定値を示す。図8は、迎角αの推定値α^w/oRLSを逐次処理補正することにより、得られた補正後の迎角αの推定値α^w/RLSが迎角αの真値Trueにより近くなることを示す。
【0069】
制御部240は、推進系パラメータと、気流速度及び気流方向と、機体に発生する空気力に関する変数の関係式、データ群又は数学的モデル等を記憶している。制御部240は、関係式、データ群又は数学的モデル等に基づき、推進系パラメータ(即ち、モータ202に供給される電流Ia、プロペラ回転数na)又は気流方向θa及び気流速度│V│に関する変数の変化を算出する。
【0070】
制御部240は、電動推進系250の適切なプロペラ回転数na_refを算出し、電動推進系250に出力する。また、制御部240は、算出した変数の変化に基づき、複数の電動推進系104a,104b,104c,104dの合計推力又は機体101に発生する空気力を所望の範囲に収めるように、応答の高い電動モータで構成した電動推進系の運転状態を制御する。
【0071】
あるいは/さらに、制御部240は、算出した変数の変化に基づき、電動化航空機100の機体101の姿勢や飛行経路を制御する。例えば、制御部240は、適切なティルト角σa_refを算出して電動推進系250に出力することで、機体101の姿勢を制御する。
【0072】
4.小括
【0073】
本実施形態によれば、得られた気流速度ベクトルVの情報を、応答の高い電動推進系250の推力F又は出力指示にフィードバックする。これにより、図9のように機体が横風Uを受けた場合でも、気流速度ベクトルVに応じた推力又は揚力配分を左右の電動推進系250で迅速に実現することができ、横風Uによる姿勢や経路の変化を小さく抑えることができる。
【0074】
典型的に、航空機において対気速度の検知は、ピトー管に配管で接続された圧力計を用いて、対気速度の2乗に比例する圧力を検知する形で行われる。この手法ではピトー管先端で生じた圧力の変動が配管を伝播して圧力計に到達し対気速度の変化として検知されるまで最大数秒程度の遅れが生じる可能性がある。これに対して、本実施形態によれば、ピトー管を利用して気流速度を算出する第2の気流速度計測部220と、推進系パラメータ(即ち、電流及びプロペラ回転数)に基づき気流速度を算出する第1の気流速度計測部210とを併用する。これにより、ピトー管のみを利用する場合には対気速度が時間的に変化するケースへの適用には問題があったところ、推進系パラメータ(即ち、電流及びプロペラ回転数)に基づき気流速度を算出することで、気流速度の変化を迅速に算出することが可能となる。その上、第1の気流速度計測部210は、推進系パラメータ(即ち、電流及びプロペラ回転数)に基づき電気的な手段で気流速度を算出するため、横風や上下風をコストや重量のデメリットなく、且つ迅速に検知することができる。
【0075】
また、ピトー管を利用して気流速度を算出する第2の気流速度計測部220のみ、あるいは、推進系パラメータ(即ち、電流及びプロペラ回転数)に基づき気流速度を算出する第1の気流速度計測部210のみでは、ピトー管の管軸方向やプロペラの回転軸方向等の所定の方向に作用する気流速度を算出することしかできない。言い換えれば、横風や上下風などの、機体に作用する気流自体の気流方向を算出することはできない。このため、典型的には、気流の変化を受けた機体に揺れ等が発生して初めて、その揺れを抑えるために機体を制御している。
【0076】
これに対して、本実施形態によれば、第1の気流速度計測部210及び第2の気流速度計測部220が計測した異なる2方向の気流速度ベクトルに基づき、機体に作用することになる気流の気流速度ベクトルV(即ち、気流速度及び気流方向)を算出する。これにより、本実施形態では、気流速度ベクトルVの変化を迅速に検知することで、気流速度ベクトルVに依存して変化する揚力L及び抗力Dや、揚力L及び抗力Dに応じて変化させる必要がある推力Fを適切な値に保ち、飛行を安全かつ効率的に継続することができる。
【0077】
II.第2の実施形態
【0078】
以下の各実施形態において、既に説明した構成及び機能と同様の構成及び機能は説明及び図示を省略し、異なる構成及び機能を中心に説明する。
【0079】
第1の実施形態では、第1の気流速度計測部210は、推進系パラメータ(即ち、電流及びプロペラ回転数)に基づき気流速度を算出する。第2の気流速度計測部220は、ピトー管を利用して気流速度を算出する。
【0080】
これに対して、第2の実施形態では、第2の気流速度計測部も、第1の気流速度計測部210と同様の構成を有し、第1の気流速度計測部210と同様の手法を用いて推進系パラメータに基づき気流速度を算出する。言い換えれば、第2の実施形態では、ピトー管を使用しない。
【0081】
1.電動推進系制御装置の構成
【0082】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る電動推進系制御装置の構成を示す。
【0083】
電動化航空機100には、電動推進系制御装置300が搭載される。電動推進系制御装置300は、2個の電動推進系250a、250bを制御する。電動推進系250a、250bは、それぞれ、電動推進系104a,104b,104c,104d(図1参照)の何れかに相当する。電動推進系250aのプロペラ回転軸方向(第1の方向)と、電動推進系250bのプロペラ回転軸方向(第2の方向)とは異なる。
【0084】
電動推進系制御装置300は、第1の気流速度計測部210と、第2の気流速度計測部260と、気流算出部230と、制御部240とを有する。
【0085】
第1の気流速度計測部210は、第1の推進系パラメータ検知部211と、第1の気流速度算出部212とを有する。第1の推進系パラメータ検知部211は、電動推進系250aの推進系パラメータ(即ち、電動推進系250aに含まれるモータ202に供給される電流Iaと、プロペラ201のプロペラ回転数na)とを検知する。第1の気流速度算出部212は、電動推進系250aの推進系パラメータ(即ち、電流Ia及びプロペラ回転数na)に基づき、電動推進系250aのプロペラ回転軸方向(第1の方向)に対する第1の気流速度Vnaを算出する。
【0086】
第2の気流速度計測部260は、第2の推進系パラメータ検知部261と、第2の気流速度算出部262とを有する。第2の推進系パラメータ検知部261は、電動推進系250bの推進系パラメータ(即ち、電動推進系250bに含まれるモータ202に供給される電流Ibと、プロペラ201のプロペラ回転数nb)とを検知する。第2の気流速度算出部262は、電動推進系250bの推進系パラメータ(即ち、電流Ib及びプロペラ回転数nb)に基づき、電動推進系250bのプロペラ回転軸方向(第2の方向)に対する第2の気流速度Vnbを算出する。
【0087】
気流算出部230は、第1の気流速度算出部212が算出した第1の気流速度Vnaと、第2の気流速度計測部220が計測した第2の気流速度Vnbを取得する。気流算出部230は、さらに、電動推進系250aのプロペラ回転軸の方向(第1の方向)と、電動推進系250bのプロペラ回転軸の方向(第2の方向)を取得する。
【0088】
気流算出部230は、第1の方向に対する第1の気流速度を示す第1の気流速度ベクトルVnaと、第2の方向に対する第2の気流速度を示す第2の気流速度ベクトルVnbとを合成する。これにより、気流算出部230は、機体に作用する気流速度ベクトルVを算出する。具体的には、気流算出部230は、機体に作用する気流の気流方向及び気流速度を算出する。言い換えれば、気流算出部230は、気流の基準線に対する角度θaと、気流速度ベクトルVの大きさ│V│とを算出する。
【0089】
気流算出部230は、電動推進系250a、250bのプロペラ回転軸の向き(即ち、ティルト角σa、σb)を変更した時点の推進系パラメータに基づき、気流速度V及び気流方向θを算出してもよい。プロペラ回転軸の向き(ティルト角σa、σb)を変更すると、迎角α及び前記電動推進系の発生する推力及び翼との相互作用により発生する揚力が変化することにより、機体の安定性が変化する可能性があるため、機体101の姿勢等を制御する必要性が生じるからである。
【0090】
制御部240は、電動推進系250a、250bの適切なプロペラ回転数na_ref、nb_refを算出し、電動推進系250a、250bにそれぞれ出力する。また、制御部240は、算出した変数の変化に基づき、複数の電動推進系104a,104b,104c,104dの合計推力又は機体101に発生する空気力を所望の範囲に収めるように、応答の高い電動モータで構成した電動推進系の運転状態を制御する。
【0091】
あるいは/さらに、制御部240は、算出した変数の変化に基づき、電動化航空機100の機体101の姿勢や飛行経路を制御する。例えば、制御部240は、電動推進系250a、250bの適切なティルト角σa_ref、σb_refを算出して電動推進系250a、250bに出力することで、機体101の姿勢を制御する。
【0092】
2.小括
【0093】
本実施形態によれば、主翼はティルト機構を持つ。このため、例えば前後又は左右の主翼で別のティルト角を持たせることで、複数の電動推進系104a,104b,104cのプロペラ回転軸に気流速度ベクトルと別々の角度を持たせることができる。第1の気流速度計測部210と、第2の気流速度計測部260は、それぞれの電動推進系250a、250bの推進系パラメータをサンプリングし、第1の方向及び第2の方向の気流速度ベクトルVna,Vnbを算出する。
【0094】
本実施形態では、第1の実施形態と異なりピトー管を使用しないため、気流速度ベクトルをより迅速に算出することが可能となる。さらに、サンプリングのタイミングを同期することが容易かつ正確になるため、機体に作用する気流速度ベクトルVの気流速度及び気流方向をより高速かつ正確に算出することができる。その上、第1の気流速度計測部210及び第2の気流速度計測部260の何れも、推進系パラメータ(即ち、電流及びプロペラ回転数)に基づき電気的な手段で気流速度を算出するため、横風や上下風をコストや重量のデメリットなく、且つ迅速に検知することができる。
【0095】
上記のように得られた気流速度ベクトルの情報を、応答の高い電動推進系250a、250bの推力F又は出力指示にフィードバックすることで、気流速度ベクトルVの変化に応じてティルト角σa、σb及び推力又は揚力配分、ひいては機体の空力性能(例えば、L/D=揚力/抗力)や、離着陸時などの飛行経路を常に最適に保つことができる。
【0096】
III.第3の実施形態
【0097】
第1の実施形態及び第2の実施形態は、電動推進系制御装置200、300は、第1の気流速度計測部210及び第2の気流速度計測部220、260(即ち、2個の気流速度計測部)を有する。
【0098】
これに対して、第3の実施形態では、電動推進系制御装置は、3個の気流速度計測部を有する。3個の気流速度計測部は、それぞれ、異なる3方向に対する気流速度ベクトルを算出する。この異なる3方向に対する気流速度ベクトルを合成することで、3次元の成分を含む、機体に対する気流速度ベクトルを算出することができる。
【0099】
1.電動推進系制御装置の構成
【0100】
図11は、本発明の第3の実施形態に係る電動推進系制御装置の構成を示す。
【0101】
電動化航空機100には、電動推進系制御装置400が搭載される。電動推進系制御装置400は、2個の電動推進系250a、250bを制御する。電動推進系250a、250bは、それぞれ、電動推進系104a,104b,104c,104d(図1参照)の何れかに相当する。電動推進系250aのプロペラ回転軸方向(第1の方向)と、電動推進系250bのプロペラ回転軸方向(第3の方向)とは異なる。
【0102】
電動推進系制御装置400は、第1の気流速度計測部210と、第2の気流速度計測部220と、第3の気流速度計測部260と、気流算出部230と、制御部240とを有する。
【0103】
第1の気流速度計測部210は、第1の推進系パラメータ検知部211と、第1の気流速度算出部212とを有する。第1の推進系パラメータ検知部211は、電動推進系250aの推進系パラメータ(即ち、電動推進系250aに含まれるモータ202に供給される電流Iaと、プロペラ201のプロペラ回転数na)とを検知する。第1の気流速度算出部212は、電動推進系250aの推進系パラメータ(即ち、電流Ia及びプロペラ回転数na)に基づき、電動推進系250aのプロペラ回転軸方向(第1の方向)に対する第1の気流速度Vnaを算出する。
【0104】
第2の気流速度計測部220は、図4の速度検知部208と、圧力計209とを含む。第2の気流速度計測部220は、速度検知部208(ピトー管)を利用して気流の圧力p(動圧)を測定し、ピトー管の管軸方向に対する航空機の対気速度Vpitotを算出する。ピトー管の管軸方向(第2の方向)は、電動推進系250aのプロペラ回転軸方向(第1の方向)と、電動推進系250bのプロペラ回転軸方向(第3の方向)と異なる。
【0105】
第3の気流速度計測部260は、第3の推進系パラメータ検知部261と、第3の気流速度算出部262とを有する。第3の推進系パラメータ検知部261は、電動推進系250bの推進系パラメータ(即ち、電動推進系250bに含まれるモータ202に供給される電流Ibと、プロペラ201のプロペラ回転数nb)とを検知する。第3の気流速度算出部262は、電動推進系250bの推進系パラメータ(即ち、電流Ib及びプロペラ回転数nb)に基づき、電動推進系250bのプロペラ回転軸方向(第3の方向)に対する第3の気流速度Vnbを算出する。
【0106】
気流算出部230は、第1の気流速度算出部212が算出した第1の気流速度Vnaと、第2の気流速度計測部220が計測した第2の気流速度Vpitotと、第3の気流速度計測部220が計測した第3の気流速度Vnbを取得する。気流算出部230は、さらに、電動推進系250aのプロペラ回転軸の方向(第1の方向)と、ピトー管の管軸方向の方向(第2の方向)と、電動推進系250bのプロペラ回転軸の方向(第3の方向)を取得する。
【0107】
気流算出部230は、第1の方向に対する第1の気流速度を示す第1の気流速度ベクトルVnaと、第2の方向(ピトー管の管軸方向)に対する第2の気流速度を示す第2の気流速度ベクトルVxと、第3の方向に対する第3の気流速度を示す第3の気流速度ベクトルVnbとを合成する。これにより、気流算出部230は、機体に作用する気流速度ベクトルVを算出する。気流速度ベクトルVは3次元の成分を含む。具体的には、気流算出部230は、機体に作用する気流の気流方向及び気流速度を算出する。言い換えれば、気流算出部230は、気流の基準線に対する3次元的な角度θa、θbと、気流速度ベクトルVの大きさ│V│とを算出する。
【0108】
気流算出部230は、電動推進系250a、250bのプロペラ回転軸の向き(即ち、ティルト角σa、σb)を変更した時点の推進系パラメータに基づき、気流速度V及び3次元的な気流方向θa、θbを算出してもよい。プロペラ回転軸の向き(ティルト角σa、σb)を変更すると、迎角α及び前記電動推進系の発生する推力及び翼との相互作用により発生する揚力が変化することにより、機体の安定性が変化する可能性があるため、機体101の姿勢等を制御する必要性が生じるからである。
【0109】
制御部240は、電動推進系250a、250bの適切なプロペラ回転数na_ref、nb_refを算出し、電動推進系250a、250bにそれぞれ出力する。また、制御部240は、算出した変数の変化に基づき、複数の電動推進系104a,104b,104c,104dの合計推力又は機体101に発生する空気力を所望の範囲に収めるように、応答の高い電動モータで構成した電動推進系の運転状態を制御する。
【0110】
あるいは/さらに、制御部240は、算出した変数の変化に基づき、電動化航空機100の機体101の姿勢や飛行経路を制御する。例えば、制御部240は、電動推進系250a、250bの適切なティルト角σa_ref、σb_refを算出して電動推進系250a、250bに出力することで、機体101の姿勢を制御する。
【0111】
2.小括
【0112】
本実施形態によれば、第1の方向及び第1の気流速度と、第2の方向及び第2の気流速度と、第3の方向及び第3の気流速度とに基づき、3次元の成分を含む、気流速度及び気流方向を算出することができる。これにより、機体に対する気流速度ベクトルをより正確に算出することができる。また、横風や上下風をコストや重量のデメリットなく、且つ迅速に検知することができる。
【0113】
変形例として、ピトー管を使用せず、異なるプロペラ軸方向の3個の電動推進系の推進系パラメータに基づき、異なる3方向の気流速度ベクトルを算出し、異なる3方向の気流速度ベクトルを合成して、3次元の成分を含む気流速度ベクトルを算出してもよい。ピトー管を使用しないため、気流速度ベクトルをより迅速に算出することが可能となる。
【0114】
変形例(不図示)として、4個以上の電動推進系の推進系パラメータに基づき、異なる4方向以上の気流速度ベクトルを算出し、異なる4方向以上の気流速度ベクトルを合成して、3次元の成分を含む気流速度ベクトルを算出してもよい。これにより、4個以上の電動推進系のパラメータをより最適に調整制御することが可能となる。
【0115】
IV.結語
【0116】
以上の様に、各実施形態によれば、異なる複数方向の気流速度ベクトルに基づき、機体に作用することになる気流の気流速度ベクトルV(即ち、気流速度及び気流方向)を算出する。また、推進系パラメータ(即ち、電流及びプロペラ回転数)に基づき電気的な手段で気流速度を算出するため、横風や上下風をコストや重量のデメリットなく、且つ迅速に検知することができる。
これにより、気流速度ベクトルVの変化を迅速に検知することで、気流速度ベクトルVに依存して変化する揚力L及び抗力Dや、揚力L及び抗力Dに応じて変化させる必要がある推力Fを適切な値に保ち、飛行を安全かつ効率的に継続することができる。
【0117】
本発明の電動推進系制御装置は、航空機に適用するのが好適であるが、船舶、あるいは、陸上の風力推進移動体に適用されてもよい。また、推進用プロペラが風力発電機等の風車であり、電気駆動モータが常時は発電機として用いられるものに適用されてもよい。
【0118】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0119】
100 電動化航空機
101 機体
102 主翼
103 主翼
104a、104b、104c、104d 電動推進系
108 ピトー管
2 プロペラ回転数
200、300、400 電動推進系制御装置
201 プロペラ
202 モータ
203 インバータ
204 電源
205 電圧検知部
206 コントローラ
207 回転数検知部
208 速度検知部
209 圧力計
210 第1の気流速度計測部
211 第1の推進系パラメータ検知部
212 第1の気流速度算出部
220 第2、第3の気流速度計測部
230 気流算出部
240 制御部
250、250a、250b 電動推進系
260 第2、第3の気流速度計測部
261 第2、第3の推進系パラメータ検知部
262 第2、第3の気流速度算出部
図1
図2
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