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特許7591265破壊及び場による細胞への化合物及び組成物の送達
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】破壊及び場による細胞への化合物及び組成物の送達
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20241121BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241121BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12M1/00 A
C12M1/42
C12N15/87 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021031352
(22)【出願日】2021-03-01
(62)【分割の表示】P 2017525396の分割
【原出願日】2015-11-13
(65)【公開番号】P2021090446
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-03-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】62/239,241
(32)【優先日】2015-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/080,201
(32)【優先日】2014-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ディン シャオユン
(72)【発明者】
【氏名】シャレイ アーモン アール.
(72)【発明者】
【氏名】ランガー ロバート エス.
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン クラウス エフ.
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】上條 肇
【審判官】小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0287509(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12M 1/00 - 3/00
CAPlus/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入遺伝子をコードする発現ベクターの、細胞の核内への送達方法であって、
前記細胞及び前記発現ベクターを含む細胞懸濁液を細胞変形狭窄部に通し、それによって前記細胞に圧力を加え、前記発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;及び
その後、前記発現ベクターを前記細胞の核内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に前記細胞懸濁液を通すこと;
を含み、
前記細胞の核内中の前記導入遺伝子の最大発現が、前記細胞変形狭窄部を通過することなく前記電場を通過した細胞の核内中、又は前記電場を通過することなく前記細胞変形狭窄部を通過した細胞の核内中の対応する最大発現と比べ、早く達成される、前記送達方法。
【請求項2】
細胞の核内中の導入遺伝子の最大発現が、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞の核内中の対応する最大発現と比べ、約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4時間、又は0.1~4時間早く達成される、請求項1に記載の送達方法。
【請求項3】
導入遺伝子をコードする発現ベクターの、細胞の核内への送達方法であって、
前記細胞及び前記発現ベクターを含む細胞懸濁液を細胞変形狭窄部に通し、それによって前記細胞に圧力を加え、前記発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;及び
その後、前記発現ベクターを前記細胞の核内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に前記細胞懸濁液を通すこと;
を含み、
前記細胞の核内中における前記導入遺伝子の発現レベルが、前記細胞変形狭窄部を通過することなく前記電場を通過した細胞の核内中、又は前記電場を通過することなく前記細胞変形狭窄部を通過した細胞の核内中の対応する発現レベルと比べ、高い、前記送達方法。
【請求項4】
細胞の核内中における導入遺伝子の発現レベルが、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞の核内中の対応する発現レベルと比べ、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100%高いか、又は2倍、5倍、8倍、10倍、20倍若しくはそれ以上高い、請求項3に記載の送達方法。
【請求項5】
細胞が細胞変形狭窄部を通過してから約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、又は0.1~4時間以内における前記細胞の核内での導入遺伝子の発現レベルが、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞の核内中の対応する発現レベルと比べ、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100%高いか、又は2倍、5倍、8倍、10倍、20倍若しくはそれ以上高い、請求項3に記載の送達方法。
【請求項6】
導入遺伝子をコードする発現ベクターの、細胞集団の核内への送達方法であって、
前記細胞及び前記発現ベクターを含む細胞懸濁液を細胞変形狭窄部に通し、それによって前記細胞に圧力を加え、前記発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい前記細胞の摂動を引き起こすこと;及び
その後、前記発現ベクターを前記細胞の核内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に前記細胞懸濁液を通すこと;
を含み、
前記細胞集団の核内中の前記導入遺伝子を発現する細胞の割合が、前記細胞変形狭窄部を通過することなく前記電場を通過した細胞集団の核内中、又は前記電場を通過することなく前記細胞変形狭窄部を通過した細胞集団の核内中の対応する細胞の割合よりも大きい、前記送達方法。
【請求項7】
細胞集団の核内中の導入遺伝子を発現する細胞の割合が、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞集団の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞集団の核内中の対応する細胞の割合と比べ、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100%大きいか、又は2倍、5倍、8倍、10倍、20倍若しくはそれ以上大きい、請求項6に記載の送達方法。
【請求項8】
細胞が細胞変形狭窄部を通過してから約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、又は0.1~4時間以内における細胞集団の核内中の導入遺伝子を発現する細胞の割合が、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞集団の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞集団の核内中の対応する細胞の割合と比べ、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100%大きいか、又は2倍、5倍、8倍、10倍、20倍若しくはそれ以上大きい、請求項6又は7に記載の送達方法。
【請求項9】
導入遺伝子をコードする発現ベクターの、細胞集団の核内への送達方法であって、
前記細胞及び前記発現ベクターを含む細胞懸濁液を細胞変形狭窄部に通し、それによって前記細胞に圧力を加え、前記発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい前記細胞の摂動を引き起こすこと;及び
その後、前記発現ベクターを前記細胞の核内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に前記細胞懸濁液を通すこと;
を含み、
前記細胞集団の核内中の前記導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合が、前記細胞変形狭窄部を通過することなく前記電場を通過した細胞集団の核内中、又は前記電場を通過することなく前記細胞変形狭窄部を通過した細胞集団の核内中の対応する細胞の割合と比べ、大きい、前記送達方法。
【請求項10】
細胞集団の核内中の導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合が、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞集団の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞集団の核内中の対応する細胞の割合と比べ、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100%大きいか、又は2倍、5倍、8倍、10倍、20倍若しくはそれ以上大きい、請求項9に記載の送達方法。
【請求項11】
細胞が細胞変形狭窄部を通過してから約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、又は0.1~4時間以内における細胞集団の核内中の導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合が、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞集団の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞集団の核内中の対応する細胞の割合と比べ、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100%大きいか、又は2倍、5倍、8倍、10倍、20倍若しくはそれ以上大きい、請求項9又は10に記載の送達方法。
【請求項12】
導入遺伝子をコードする発現ベクターの、細胞の核内への送達方法であって、
前記細胞及び前記発現ベクターを含む細胞懸濁液を細胞変形狭窄部に通し、それによって前記細胞に圧力を加え、前記発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;及び
その後、前記発現ベクターを前記細胞の核内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に前記細胞懸濁液を通すこと;
を含み、
前記細胞の核内の前記導入遺伝子が、前記細胞変形狭窄部を通過することなく前記電場を通過した細胞の核内中、又は前記電場を通過することなく前記細胞変形狭窄部を通過した細胞の核内中の前記導入遺伝子の発現よりも、より早く発現する、前記送達方法。
【請求項13】
細胞の核内の導入遺伝子の発現が、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞の核内中、又は電場を通過することなく細胞変形狭窄部を通過した細胞の核内中の対応する発現と比べ、約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、又は0.1~4時間早く達成される、請求項12に記載の送達方法。
【請求項14】
細胞変形狭窄部がマイクロ流体チャネル中にある、請求項1~13のいずれかに記載の送達方法
【請求項15】
(a)細胞を、第一装置内のマイクロ流体チャネルに通し、次いで前記第一装置から除去し、第二装置内の電場と接触させる;又は
(b)前記マイクロ流体チャネル及び前記電場が1つの装置内にある;
請求項14に記載の送達方法。
【請求項16】
マイクロ流体チャネル及び電場が1つの装置内にあり、細胞が細胞変形狭窄部を通過して連続流で前記場に進入し、
(a)細胞変形狭窄部を通過した後に細胞が、一時的な摂動を介してペイロードを輸送するのに十分な強度を有する電場の一部に接触する又はそこを通過するか;あるいは
(b)細胞変形狭窄部を通過した後に細胞が、装置のゾーンに流入して留まり、そこで前記細胞が電場と接触する;
請求項15に記載の送達方法。
【請求項17】
細胞変形狭窄部の直径が、ペイロードが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の一時的な摂動を誘発するように選択され、前記狭窄部の前記直径が、細胞の直径よりも小さい、請求項1~16のいずれかに記載の送達方法。
【請求項18】
細胞変形狭窄部の直径が、そこを通る細胞の直径の約20~99%である、請求項1~17のいずれかに記載の送達方法。
【請求項19】
細胞変形狭窄部の直径が、約4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、15μm、20μm、4~10μm、又は10~20μmである、請求項1~18のいずれかに記載の送達方法。
【請求項20】
(a)細胞変形狭窄部の長さが、約10μm、15μm、20μm、24μm、30μm、40μm、50μm、60μm、10~40μm、10~50μm、又は10~60μmである;
(b)細胞が、細胞変形狭窄部を出てから約0.0001秒、0.001秒、0.002秒、0.003秒、0.004秒、0.005秒、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒、8秒、9秒、10秒、0.001~0.005秒、又は0.0001~10秒以内に電場と接触する;
(c)電場に対する細胞の曝露時間が約10~50ms、50~100ms又は10~100msである;
(d)電場が直流パルス電流である;
(e)電場をパルスする;
(f)電場の強度又はパルス強度が約1~3kV/cm又は0.1~0.5kV/cm、0.1~1kV/cm、0.1~1.5kV/cm、0.1~2kV/cm、0.1~2.5kV/cm、若しくは0.1~3kV/cmである;
(g)電場の強度又はパルス強度が、電気穿孔法単独で特定の細胞型に対する所与のペイロードに対して同じレベルの送達を達成するのに必要な強度よりも低い;
(h)電場の強度又はパルス強度が、細胞を電気穿孔するのに必要な強度よりも約50%、1~50%、50~99%、若しくは1~99%低い;
(i)細胞が複数の細胞であり、電場に通した後に、細胞の約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、90~95%、若しくは80~100%が生存可能である;
(j)電場を、約0.1msの持続時間、1~20ms、0.1~2000ms、若しくは1~200msの周期でパルスする;
(k)細胞を、約100mm/s、170mm/s、300mm/s、100~300mm/s、200~700mm/s、250~400mm/s、100~1000mm/s、若しくは1~1000mm/sの速度で電場に通す;
(l)細胞膜の摂動が、約1~20nm、1~600nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm、12nm、14nm、16nm、18nm、20nm、25nm、50nm、75nm、100nm、150nm、200nm、250nm、300nm、350nm、400nm、450nm、500nm、若しくは600nmの最大直径を有する;及び/又は、
(m)約1~20nm、1~600nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm、12nm、14nm、16nm、18nm、20nm、25nm、50nm、75nm、100nm、150nm、200nm、250nm、300nm、350nm、400nm、450nm、500nm、若しくは600nmの最大直径を有する細胞膜の摂動が、細胞膜上において、少なくとも約1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、6分間、7分間、8分間、9分間、10分間、若しくは1~10分間持続する;
請求項1~19のいずれかに記載の送達方法。
【請求項21】
(a)約10~100psiの圧力を用いて細胞懸濁液をマイクロ流体チャネルに通す;
(b)細胞を、約300mm/s、100~300mm/s、200~700mm/s、250~400mm/s、100~1000mm/s、若しくは1~1000mm/sの速度でマイクロ流体チャネルに通す;及び/あるいは、
(c)マイクロ流体チャネルが、単一の細胞変形狭窄部を有するか、又はマイクロ流体チャネルが、並列及び/若しくは直列の複数の細胞変形狭窄部を有する;
請求項14~20のいずれかに記載の送達方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本願は、米国特許法第119条(e)項に基づいて、2015年10月8日に出願した米国仮出願第62,239,241号及び2014年11月14日に出願した米国仮出願第62/080,201号の優先権の利益を主張し、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
連邦政府資金による研究に関する記載
本発明は、米国国立衛生研究所により付与された助成金番号R01GM101420‐01A1の下で政府の支援によってなされた。政府は本発明の一定の権利を有する。
【0003】
本明細書に記載の主題は、化合物または組成物の細胞内送達に関する。
【背景技術】
【0004】
多くの医薬品は、主に小分子薬の開発に重点が置かれている。これらの薬物は、身体全体に自由に拡散して標的に到達できるような比較的小さいサイズを有することから、そのように呼ばれている。これらの分子は、通常であれば不浸透性の細胞膜をすり抜けることができ、ほとんど阻害されることがない。しかしながら、次世代型のタンパク質、DNAまたはRNAに基づく治療法については、これらの分子が細胞膜を容易に通過することができないため、細胞を改変して送達を容易にする必要がある。そこで確立された方法は、化学的または物理的手段を用いて膜を破り、物質を細胞質に送達するというものである。細胞内への適切な送達は、次世代型の治療研究、開発及び実施における重要なステップである。
【0005】
細胞に物質を送達するための電気穿孔プロセスでは、電気パルス中にDNA分子が蓄積し、及び電気穿孔した原形質膜と相互作用する。その後、これらのDNA凝集体が細胞質に内在化し、続いて遺伝子発現を引き起こす(Golzio,M.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.99,1292‐1297(2002);Paganin‐Gioanni,A.et al. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.108,10443‐7(2011);Rosazza,C.et al.,Mol.Ther.21,2217‐2226(2013);Boukany,P.E.et al.Nat.Nanotechnol.6,747‐54(2011);Teissie,J.et al.,Biochim.Biophys.Acta 1724,270‐80(2005);Yarmush,M.L.et al.,Annu.Rev.Biomed.Eng.16,295‐320(2014);Geng,T.&Lu,C.,Lab Chip 13,3803‐21(2013))。DNAプラスミドが、単に拡散によって、粘性が高く密集した細胞質を通り抜けて核に到達する可能性は低い(Lechardeur,D.et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.57,755‐767(2005);Dowty,M.E.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92,4572‐4576(1995))。いくつかの研究は、原形質膜から核へのDNAの輸送が、微小管及びアクチンネットワークなどの細胞骨格系による輸送を介した能動的な生物学的プロセスであることを示している(Rosazza,C.et al.,Mol.Ther.21,2217‐2226(2013))。微小管及びアクチンネットワークが細胞質内のDNA輸送において重要な役割を果たすこと、及びこのようなプロセスの時間スケールが細胞型に応じて長時間になり得ることが見出されている。原形質膜と核との間のDNA輸送に関する不明確なメカニズム及び複雑な性質は、形質移入が困難な細胞に対して電気穿孔法の性能を向上させる上での
妨げとなる。さらに、現在の電気穿孔法技術で使用する強い電場は、重大な損傷または死に至らしめる場合がある(Yarmush,M.L.et al.,Annu.Rev.Biomed.Eng.16,295‐320(2014);Geng,T.&Lu,C.,Lab Chip 13,3803‐21(2013))。ペイロードを細胞及び細胞小器官に直接送達可能な技術が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、化合物及び/または化合物の混合物を、細胞質ゾル及び細胞核などの細胞内小器官に送達する従来法に関連する問題及び欠点に対する解決策を提供する。本発明の態様は、細胞膜において摂動を引き起こすためのマイクロ流体システムを提供し、当該システムは、管腔を画定するとともに、緩衝液中に懸濁した細胞が管腔を通過できるように構成されるマイクロ流体チャネルを備える。本システム及び方法は、DNA、RNA、タンパク質、ペプチド、糖ポリマー、ナノ物質のような高分子、及び小分子などの積荷を、細胞膜を通して細胞、例えば真核または原核細胞に送達するのに有用である。マイクロ流体チャネルは、細胞変形用の狭窄部を有する。狭窄部の直径は、細胞の直径の関数であってもよいが、細胞の直径を上回らない。狭窄部の下流で、マイクロ流体チャネルは、エネルギー場のソースまたはエミッタを含む。様々な実施形態において、マイクロ流体システムは、電場を生成するための電極(複数可)、磁場を生成するための磁石または電磁石、音場を生成するための音源、及び/または光源を備える。いくつかの実施形態では、エネルギー源は櫛形電極を有する。細胞に対して、細胞変形狭窄及びそれに続く上記のようなエネルギー場への曝露を組み合わせることにより、積荷分子を細胞内へ送達すること、及び/または細胞内部の積荷分子を核またはミトコンドリアのような細胞下構造へ移送することにおいて、相乗効果が得られる。少なくとも2つの異なる力、例えば物理的収縮力と電気力に細胞を曝露すると、送達の効率、及び送達する積荷の活性、例えば送達した核酸がコードするタンパク質の発現において、驚くべき向上がもたらされる。
【0007】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの電極、磁石、音響装置、または光源が、細胞変形狭窄部に例えば直列配置で近接しており、場を生成する。例えば、1つ以上の電極、磁石、音響装置、または光源は、電気的、磁気的、または音響的信号を細胞に同時に送達するために、狭窄部の位置に対して、その上流、下流に位置する。例えば、細胞変形狭窄の事象の後に、細胞を、電場、磁場、音場、または光学場に曝す。
【0008】
特定の実施形態では、場またはフィールドエミッタ/ソース及びマイクロ流体チャネルは、システムの単一の装置の一部である。あるいは、マイクロ流体システムは、第一装置及び第二装置を有してもよく、マイクロ流体チャネルは第一装置の一部であり、エミッタ/ソースはシステムの第二装置の内部にある。場曝露は、細胞が第一装置の内部にあるか、または元の(第一)装置の外部にあるときに生じる。いくつかの実施形態では、マイクロ流体システムは、第一装置及び第二装置を有してもよく、マイクロ流体チャネルは1つの装置(第一装置)の一部であり、ソース/エミッタは別の装置(第二、第三の、またはさらなる装置)の内部にあり、それによってエネルギー場を、マイクロ流体チャネルを有する装置内を通過させ、ソース/エミッタを有する装置から放出させる。
【0009】
特定の実施形態では、磁石(電磁石など)、音響装置、または光源/エミッタ、及びマイクロ流体チャネルは、システムの単一の装置の一部である。例えば、磁石または音響装置は、マイクロ流体チャネル内の細胞変形狭窄部の下流にあってもよい。マイクロ流体システムは第一装置及び第二装置を有する他の実施形態では、マイクロ流体チャネルは第一装置の一部であり、磁石、音響装置、または光源/エミッタはシステムの第二装置内にある。場曝露は、細胞が第一装置の内部にあるか、または元の(第一)装置の外部にある場合に生じる。いくつかの実施形態では、マイクロ流体システムは、第一装置及び第二装置を有してもよく、マイクロ流体チャネルは1つの装置(第一装置)の一部であり、光源/エ
ミッタの磁石、音響装置は、別の装置(第二、第三の、またはさらなる装置)の内部にあり、それによってエネルギー場を、マイクロ流体チャネルを有する装置内を通過させ、電極(複数可)を有する装置から放出させる。
【0010】
特定の実施形態では、電極、または電極及びマイクロ流体チャネルは、システムの単一の装置の一部である。あるいは、マイクロ流体システムは、第一装置及び第二装置を有してもよく、マイクロ流体チャネルは第一装置の一部であり、電極(複数可)はシステムの第二装置の内部にある。場曝露は、細胞が第一装置の内部にあるか、またはシステムの元の(第一)装置の外部にある場合に生じる。いくつかの実施形態では、マイクロ流体システムは、第一装置及び第二装置を有してもよく、マイクロ流体チャネルは1つの装置(第一装置)の一部であり、電極(複数可)は別の装置(第二、第三の、またはさらなる装置)の内部にあり、それによってマイクロ流体チャネルを備える装置内を通して、電極(複数可)を備える装置から電場を放出させる。
【0011】
少なくとも1つの電極、磁石、音響装置、または光及びマイクロ流体チャネルが単一の装置の一部であるいくつかの実施形態では、少なくとも1つの電極、磁石、音響装置、または光を、細胞変形狭窄部の下流に位置してもよい。
【0012】
本発明の様々な実装形態において、狭窄部の直径は、ペイロードが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の一時的な摂動を誘発するように選択され、細胞は、狭窄部を通過して連続流で場(すなわち、電場、磁場、音場、または光学場)へ到達する。狭窄部を通過した後、細胞は、一時的な摂動を介してペイロードを送る輸送するのに十分な強度を有する場の一部に接触するかまたはそれを通過してもよい。他の実施形態では、細胞は、狭窄部を通過した後に狭窄部の下流に位置する装置のゾーンまたはチャンバー内に進入してそこに留まる。次いで、このゾーンまたはチャンバー内の細胞を、場に接触させる。
【0013】
本発明の態様はまた、化合物または組成物の細胞への送達方法に関する。方法は、例えば、ペイロード含有溶液中に細胞を提供すること、細胞変形狭窄部を有するマイクロ流体チャネルに溶液を通すこと、細胞を狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加え、ペイロードを通過させるのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと、電場、磁場、音場、または光学場に対し、細胞を通過させるかまたは細胞を接触させ、ペイロードを細胞内にさらに輸送し、かつ/またはペイロードを細胞内部の第一部位、例えば細胞膜から、別の、すなわち第二部位、例えば核または他の細胞小器官もしくは構造体(ミトコンドリアなど)に移送する。例えば、第一部位として、細胞質ゾル部位または細胞質ゾル/原形質膜界面の領域もしくはその近傍の領域が挙げられ、第二部位として、ミトコンドリアまたは核の部位が挙げられる。いくつかの実施形態では、細胞を時間的順序に従って処理する。すなわち、最初に細胞を破壊し(例えば、圧搾、変形、または圧縮し)、次いで、適用したエネルギー場、例えば電場、磁場、または音場に曝露する。
【0014】
いくつかの実施形態では、細胞の崩壊後、かつ細胞が場(電場、磁場、または音場など)の一部分に接触または通過する前または間に、ペイロードを細胞含有溶液に加えてもよく、これによって、ペイロードを細胞内にさらに輸送し、かつ/またはペイロードを細胞内部の第一部位、例えば細胞膜から、別の、すなわち第二部位、例えば核または他の細胞小器官もしくは構造体(ミトコンドリアなど)に移送する。
【0015】
ポリペプチドペイロードに関する特定の実施形態において、ポリペプチドは、局在化シグナルを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ポリペプチドペイロードは、局在化シグナルを含む融合タンパク質である。例えば、ポリペプチドは、小胞体保持シグナル、核局在化シグナル、核小体局在化シグナル、ミトコンドリア標的化シグナル、またはペルオキシソーム標的化シグナルを含んでもよい。そのようなシグナルは当該技術分野で公知であ
り、非限定的な例は、Kalderon et al.,(1984)Cell 39(3 Pt2):499‐509;Makkerh et al.,(1996)Curr
Biol.6(8):1025‐7;Dingwall et al.,(1991)Trends in Biochemical Sciences 16(12):478‐81;Scott et al.,(2011)BMC Bioinformatics 12:317(7pages);Omura T(1998)J Biochem.123(6):1010‐6;Rapaport D(2003) EMBO Rep.4(10):948‐52;及びBrocard&Hartig(2006) Biochimica et Biophysica Acta(BBA)‐Molecular Cell Research 1763(12):1565‐1573に記載され、これらの各内容は、参照により本明細書に援用される。
【0016】
電場に関連する実施形態においては、マイクロ流体チャネルまたはゾーン/チャンバーのどちらかの側面で少なくとも1つの電極または2つの電極のセットで電場を生成してもよい。磁場に関連する実施形態においては、少なくとも1つの磁石で磁場を生成してもよい。磁場に関連する様々な実施形態において有用な磁石の非限定的な例として、一時磁石、永久磁石、及び電磁石が挙げられる。音場に関連する実施形態においては、少なくとも1つの音響装置で音場を生成してもよい。音響装置の非限定的な例として、スピーカが挙げられる。光学場に関連する実施形態においては、任意の発光装置で光学場を生成してもよく、または周囲光を使用してもよい。発光装置の非限定的な例として、発光ダイオード(LED)、レーザー、白熱電球、または他の可視光電磁放射線源が挙げられる。
【0017】
本発明の様々な実装形態において、細胞を、第一装置内のマイクロ流体チャネルに通し、次いで第一装置から除去し、第二装置内の電場、磁場、または音場と接触させる。他の実装形態では、マイクロ流体チャネルならびに電場、磁場、及び音場は、1つの装置内にある。例えば、細胞は、狭窄部を通って連続流で場を通過してもよく、該狭窄部を通過した後、細胞は、一時的な摂動を介してペイロードを輸送するのに十分な強度の場の部分に接触するか、またはそれを通過する。あるいは、狭窄部を通過した後、細胞は、装置のゾーン内に流入して留まってもよく、そこで細胞が場と接触する。
【0018】
マイクロ流体システムは、複数のマイクロ流体チャネルを備えてもよい。複数のマイクロ流体チャネルは、それぞれ管腔を画定するとともに、緩衝液に懸濁した細胞が管腔を通過できるように構成される。さらに、各マイクロ流体チャネルは、1つ以上の細胞変形狭窄部を有する。いくつかの実施形態では、狭窄部の直径は、細胞の直径の関数である。したがって、本発明のマイクロ流体システム内には、多くのマイクロ流体チャネルが存在し得る。例えば、マイクロ流体システムは、並列に配置された複数の、例えば2、5、10、20、40、45、50、75、100、500、1,000個またはそれ以上のマイクロ流体チャネルを備えてもよい。
【0019】
複数の平行なマイクロ流体チャネルを有するマイクロ流体システムは、細胞へのペイロードのハイスループットな送達を可能にする。多くの細胞は、各並列チャネルを順次通過することができる。マイクロ流体チャネルの通過中、または通過後に、細胞を、電場、磁場、または音場に曝露してもよい。複数の細胞が各マイクロ流体チャネルを通過することにより、短時間に多数の細胞を処理することができる。本明細書における「細胞」への言及は、文脈に応じて、1個超の細胞を指し得ることが理解されるだろう。好ましい実施形態では、電場、磁場、または音場を細胞変形狭窄部の下流の細胞に適用する。すなわち、細胞を狭窄部に通し、それにより細胞膜を変形/不安定化してペイロードを細胞に進入させる。その事象に続いて、細胞を、電場、磁場、または音場に曝露する。電場、磁場、または音場は、細胞内のペイロード(例えば、以前の収縮ステップの結果として細胞の細胞質に進入しているペイロード)の、細胞内の細胞下構造、例えば核への移行を媒介する。
【0020】
本発明の好ましい態様では、狭窄部の直径は、ペイロードが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の一時的な摂動を誘発するように選択される。狭窄部の直径は、使用する細胞型及びペイロードに基づいて調整してもよいことが理解されるだろう。
【0021】
電極、磁石または音響装置の配置に関する複数の変形が想定される。好ましい実施形態では、電極を細胞変形狭窄部の一方の端部にのみ配置する。他の実施形態では、電極を両端に、例えば細胞変形狭窄部の細胞入口及び出口端に配置する。そのマイクロ流体システムは、緩衝液中に懸濁した細胞内に、または細胞の核内に核酸を輸送または押し出すための電場を生成する2つ以上の電極を含んでもよい。例えば、電場は、核または他の細胞小器官、例えばミトコンドリアの膜を不安定化し、それによって、細胞下構造への積荷の進入を容易にする。
【0022】
いくつかの実施形態では、電場の強度は、細胞を電気穿孔する、例えば細胞の原形質膜を通過させて核酸を導入するのに必要とされる強度よりも低い。例えば、より低い強度の電場をDFEに使用して、特定の細胞型に対する所与のペイロードに対して同等レベルの送達を達成し得る。細胞膜を破壊して物質を細胞質ゾルに向かって輸送するのに十分な強度の場を必要とする電気穿孔とは異なり、本明示は、機械的変形による膜破壊をもたらし、場の輸送力を活用して物質の細胞質ゾル及び細胞内区画への移行を促進する。電気エネルギーを細胞膜破壊のための唯一の供給源として使用することを排除し、かつ/または場輸送力によって物質を原形質膜へ埋め込むことにより、DFEは、機械的に損傷した膜に物質を通過させて細胞質ゾル及び細胞内区画に直接送達することができる、より低い電場強度の使用を可能にする。同じ実施形態及び他の実施形態において、狭窄部と電場との組合せは、細胞核への核酸送達の効率を高める。いくつかの実施形態では、電場は、膜の透過性を高め得る。例えば、電場は、機械的構成要素によって直接破壊できない細胞内膜の透過性を高め得る。理論に拘束されないが、外膜の機械的破壊は、それにより損傷されていない外膜が存在しないため、内膜を場効果に曝す場合がある。本発明の好ましい態様では、マイクロ流体システムを通過してペイロードを受け取る細胞の生存能力は、対応する細胞を電気穿孔法で処理する場合に比べて高い。例えば、、標準的な電気穿孔法の条件のみで処理した対応する細胞の集団と比較すると、マイクロ流体システムを通過する細胞の実質的にまたは約1~50%、1~10%、または約5、10、15、20、25、30、35、40、40、50、60、70、もしくは80%以上が生存可能である。
【0023】
マイクロ流体システムは、それぞれの電極対でサイズが異なる複数の電極対を備えてもよい(図2)。非限定的な例において、複数の電極対を、電極対の少なくとも第一及び第二電極対アレイに構成し、第一電極対アレイを、第二電極対アレイに対してずらして配置する。いくつかの実施形態では、マイクロ流体システムは、少なくとも第一及び第二電極アレイに構成された複数の電極を備える。第一電極アレイを、第二電極アレイに対してずらして配置してもよい。電極または電極対の異なるアレイを互いにずらして配置し得る様々な方法がある(例えば、X、Y、及び/またはZ平面に対して様々な角度で)ことは理解されるであろう。例えば、第一アレイは、水平、垂直、または対角平面において、第二アレイに対して実質的にまたは約1°、5°、10°、15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°、50°、55°、60°、70°、80°、90°、1~10°、1~20°、1~30°、1~45°、または1~90°ずらして配置してもよい。
【0024】
多くの異なる曝露時間で細胞を電場に曝露可能である。例えば、好ましい実施形態では、曝露時間は実質的にまたは約10~50ms、50~100msまたは10~100msである。本発明の態様は、2個以上の電極間において実質的に一定の電場を有する。いくつかの実施形態では、電場は、定電流または直流パルス電流である。好ましくは、電場はパルスされている。いくつかの実施形態では、電場は約50~200μsでパルスする。
電場の強度も変動し得る。いくつかの実施形態では、電場の強度またはパルス強度は、実質的にまたは約1~3kV/cmまたは0.1~0.5、0.1~1、0.1~1.5、0.1~2、0.1~2.5、もしくは0.1~3kV/cmであってもよい。いくつかの実施形態では、電場の強度またはパルス強度は、実質的にまたは約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、または2.5kV/cmであってもよい。電場の強度は、0.1~10kV/cmの範囲内であり得るか、または特定の場合においてはより広い。例えば、電場の強度またはパルス強度は、実質的にまたは約0.1~20kV/cm、または1kV/cm未満である。様々な実施形態において、電場の強度またはパルス強度は、実質的にまたは約10~20kV/cm、または1kV/cm未満である。本発明のいくつかの実施形態では、電場は、実質的にまたは約0.1、0.1~2、または0.1~2000msの持続時間で、1~20、0.1~2000、または1~200msの周期でパルスする。場合によっては、電場の強度またはパルス強度は、細胞を電気穿孔するのに必要な強度よりも低くてもよい。例えば、電場の強度またはパルス強度は、細胞を電気穿孔するのに必要な強度よりも実質的にまたは約50、1~50、50~99、または1~99%低くてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、直流を使用して電場を生成する。他の実施形態では、交流を使用して電場を生成する。交流電流は、均一に振動してもよく、または電場の力に対して正味の直流が生じるように、非対称振動を有してもよい。非対称振動は、例えば、非ゼロバイアスを有する交流電流を印加することによって達成してもよい。
【0026】
いくつかの実装形態では、本主題は、一時的な摂動を引き起こす迅速な機械的細胞変形によるウイルスベクターフリーの送達の利点と、摂動を介してDNAなどのペイロードを高効率で細胞内へ送達することを支援する電場の利点とを組み合わせる。いくつかの実装形態では、本主題は、いくつかの従来の電気穿孔法技術よりも低いが、例えば、細胞抵抗度を検知し得るいくつかの検知応用例よりは高い強度を利用する。例示的な検知手法は、2009年11月12日に公開された米国特許公開第2009/0280518号(Adamo et al.)に記載されている。したがって、一定の送達効率を得るために、いくつかの実施形態は、より低い電場強度の電気穿孔法を使用する。核酸の送達及び発現もより迅速に達成し得る。核酸のより迅速な送達及び発現は、電気穿孔法単独、または場を用いない細胞圧搾と比較して、DNA発現における重要な利点を提供する。また、DFEを使用して他の荷電ペイロード(RNAなど)を送達することにも大きな利点がある。例えば、DFE技術を用いることにより、電気穿孔法、または場を用いない細胞圧搾と比較して、より多くのRNAを所与の細胞へ送達し得る。
【0027】
電場及び磁場は、荷電ペイロードを細胞及び細胞内区画(細胞小器官など)の内部へ輸送するのに特に有用である。ペイロードは、その電荷を任意に増加させるように改変してもよく、結果としてDFEによる送達が向上する。いくつかの実施形態では、低電荷または無電荷のペイロードを、電場または磁場を使用するその送達が向上するように改変する。例えば、タンパク質は、好ましくは共有結合を用いて、荷電した化合物と複合体化させることができる。複合体化は、例えば、N末端またはC末端(例えば、ペプチド結合を介して)、またはアミノ酸側鎖(例えば、システインとのジスルフィド結合またはセレノシステインとの結合を介して)におけるものであってもよい。本アプローチは、タンパク質に限定されることなく、本明細書に開示する様々なペイロードに適用してもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、複合体化を、ジスルフィド結合または細胞内で容易に切断される別の結合を介して行う。ペイロードに複合体化してもよい荷電化合物の例として、単一荷電アミノ酸(すなわち、一電荷を有するアミノ酸モノマー)及び/または多重荷電アミノ酸ストレッチが挙げられる。いくつかの実施形態では、荷電アミノ酸ストレッチは、正電荷を有する異なるアミノ酸の混合物を含む。他の実施形態では、荷電アミノ酸ストレッ
チは、負電荷を有する異なるアミノ酸の混合物を含む。あるいは、荷電アミノ酸ストレッチは同じアミノ酸の繰り返しを有する。アミノ酸は、天然、非天然、またはそれらの組み合わせであってもよい。ストレッチの長さは、改変するペイロードのサイズ及びペイロードに付加する所望の電荷に応じて、変化してもよい。様々な実施形態において、アミノ酸ストレッチは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、または1~50残基のアミノ酸を含む。
【0029】
正に荷電した天然アミノ酸の例として、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンが挙げられる。負に荷電した天然アミノ酸の例として、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。非天然アミノ酸の例として、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンのD立体異性体などの正電荷を有するもの、及びアスパラギン酸及びグルタミン酸のD立体異性体などの負電荷を有するものが挙げられる。したがって、例えば、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンなどの天然アミノ酸及び/またはアルギニン、ヒスチジン、及びリジンのD立体異性体などの非天然アミノ酸の1つ以上またはそれらの任意の組合せを使用して、正電荷が増加するようにペイロードを改変してもよい。あるいは、例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸などの天然アミノ酸、及び/またはアスパラギン酸及びグルタミン酸のD立体異性体などの非天然アミノ酸の1つ以上またはそれらの組合せを使用して、負電荷が増加するようにペイロードを改変してもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、緩衝液または溶液のpHを調整してペイロードの電荷を増加させる。例えば、pHは、ペイロードの等電点(pH(I))より低いか、または高くてもよい。ペイロードは、ペイロードのpH(I)を下回るpHにおいては正味の正チャートを、かつそのpH(I)を上回るpHにおいては正味の負電荷を有する。
【0031】
本発明の実装形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を提供することもできる。細胞の変形は、実質的にまたは約1μs~10ms、例えば10μs、50μs、100μs、500μs、及び750μsの間、細胞を変形させることを含む。インキュベーションは、0.0001秒~20分、例えば実質的にまたは約1秒、30秒、90秒、270秒、及び900秒間実施する。
【0032】
細胞がマイクロ流体チャネルを通過する際の圧力及び速度も変化させてもよい。いくつかの実施形態では、実質的にまたは約10~35psiの圧力を用いて、細胞を含有する溶液をマイクロ流体チャネルに通す。速度は、高いペイロード送達を維持しながら処理した細胞の生存率を向上することを含む、様々な理由により調整してもよい。好ましい実施形態では、細胞は、実質的にまたは約300mm/s、100~300mm/s、200~700mm/s、250~400mm/s、1~1000mm/s、1m/s、2m/s、3m/s、4m/s、5m/s、6m/s、7m/s、8m/s、9m/s、10m/s、0.01~5m/s、5~10m/s、または0.01~10m/sの速度でマイクロ流体チャネルを通過する。いくつかの実施形態において、細胞は、実質的にまたは約100、170、300、100~300、200~700、250~400、100~1000mm/s、または1~1000mm/sの速度で電場を通過する。細胞が複数の細胞である場合、狭窄部及び電場を通過した後に、実質的にまたは約80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、90~95、または80~100%の細胞が生存可能である。
【0033】
いくつかの実施形態では、細胞を0m/sの速度で電場と接触させる。例えば、電場は、細胞を電場に接触させる装置のゾーン、領域、またはリザーバを通過してもよい。この電場を、一定時間オンにした後、オフにする。このような場合、細胞は電場を通過しないが、電場への曝露は依然として一時的なものとなる。
【0034】
細胞膜における一時的な摂動のサイズ及び持続時間は、細胞変形狭窄部の直径及び細胞が狭窄部を通過する速度などの様々な要因を調節することによって改変することができる。本明細書で提供する摂動のサイズ及び持続時間に関する開示は、これらに限定されるものと解釈すべきではない。摂動及び回復の非限定的な説明は、Sharei et al.,(2014)Integr.Biol.,6,470‐475に記載されており、その全体の内容が参照により本明細書に援用する。いくつかの実施形態では、細胞膜の摂動は、最大直径が、実質的にまたは約1~20、1~600、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、または600nmであることを特徴としてもよい。様々な実施形態において、実質的に約1~20、1~600、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、または600nmの最大直径を有する細胞膜の摂動は、少なくとも実質的にまたは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは1~10分、またはそれ以上(11、13、15、18、20分もしくはそれ以上)の間、細胞膜上で持続する。
【0035】
いくつかの実施形態では、細胞を、主に流体流によって圧縮してもよい。いくつかの実施形態では、直径は細胞の直径より小さい。例えば、狭窄部の直径は、細胞直径の実質的にまたは約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または20~99%であってもよい。狭窄部の直径の非限定的な例として、実質的にまたは約4、5、6、7、8、9、10、15、20 4~10μm、または10~20μmが挙げられる。狭窄部の長さも、様々なものが想定される。狭窄部の長さの非限定的な例として、実質的にまたは約10、15、20、24、30、40、50、60、10~40、10~50、10~60、または10~40μmが挙げられる。
【0036】
多くの細胞は直径が5~20μmであり、例えばナイーブT細胞は直径7~8μmである。例えば、単一の細胞の処理のための狭窄部の直径は、4.5、5、5.5、6、または6.5μmである。別の例では、ヒト卵子の処理のための狭窄部のサイズ/直径は60μm~80μmであるが、より大きいかまたは小さい狭窄部も想定される(ヒト卵子の直径はおよそ100μmである)。さらに別の例において、胚(例えば、2~3細胞のクラスター)は、12μm~17μmの狭窄部直径を用いて処理する。ナイーブT細胞及びB細胞に関する非限定的な例では、装置は、約10、15、20、25、30、もしくは10~30μmの長さ、約3、3.5、4、もしくは3~4μmの幅、15、20、25、もしくは15~25μmの深さ、及び/または約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、もしくは5~15°の角度を有する狭窄部を備える。ペイロードを免疫細胞に送達するために有用なマイクロ流体装置の例は、2015年10月30日出願のPCT国際特許公開第PCT/US2015/058489号の「Delivery of Biomolecules to Immune Cells」に記載されており、その全体の内容を参照により本明細書に援用する。
【0037】
本装置及び方法は、樹状細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞を用いたワクチンの開発及び産生に有用である。例えば、抗原提示を刺激する方法は、樹状細胞に対して、一時的な収縮または高剪断パルスのような制御された損傷を与え、かつ標的抗原を含む溶液に樹状細胞を接触させることによって実施する。本方法は、従前の刺激方法と比較して、高度に活性化した抗原提示細胞を産生する。樹状細胞または他の抗原提示細胞に、狭窄部を備えた装置を通過させて(それによって細胞を急速に伸張させる事象に供する)、次いで、例えば抗原などのペイロードを含有する溶液中で細胞をインキュベートすることによってワクチン産生を実施する。細胞の急速な変形後に、細胞を1つ以上の抗原(または1つ以上の抗原をコードする核酸)を含む細胞培養培地中に浸すが、急速な変形事象/プロ
セスの前に、最中に、かつ/または後に、細胞を抗原と接触させてもよい。いくつかの実施形態では、DFEを使用して抗原または他の遺伝子産物をコードするmRNAまたはDNAなどの核酸を送達し、それにより遺伝子産物を細胞内で産生する。また、CAR‐T細胞の生成のために、DFEを使用して細胞にDNAを送達してもよい。
【0038】
例えば、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする構築物を、DFEを用いてT細胞に送達してもよい。いくつかの実施形態において、CARは、細胞外認識ドメイン(例えば、抗原結合ドメイン)、膜貫通ドメイン、及び1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインの融合体である。
【0039】
いくつかの実施形態では、化合物は、MHC複合体をコードする核酸である。いくつかの実施形態において、化合物は、MHCクラスIまたはMHCクラスII複合体をコードする核酸である。いくつかの実施形態では、核酸は、キメラ抗原受容体、例えば、キメラT細胞受容体をコードする。いくつかの実施形態では、核酸は組換えT細胞受容体をコードする。例えば、キメラ抗原受容体をコードする核酸を、ウイルスフリーの方法で、すなわち細胞を圧搾することによってT細胞に導入し、CAR‐Tの発現を維持する。例えば、ウイルス粒子を使用せずにDNAの導入を達成する。しかしながら、例えばプラスミドのような核酸構築物は、組込みを補助するかまたは染色体外核酸として維持し得るウイルスゲノムエレメントを含んでもよい。
【0040】
細胞へのDNAの送達に関するいくつかの実施形態において、細胞のゲノムへの核酸配列の挿入を容易にする組込み要素を有する構築物をDNAに含めてもよい。
【0041】
核酸の例として、組換え核酸、DNA、組換えDNA、cDNA、ゲノムDNA、RNA、siRNA、mRNA、saRNA、miRNA、lncRNA、tRNA、及びshRNAが挙げられるが、これらに限定するものではない。いくつかの実施形態では、核酸は、細胞内の核酸に対して相同性を有する。いくつかの実施形態では、核酸は、細胞内の核酸に対して異種性を有する。いくつかの実施形態では、核酸はプラスミドの形態で存在する。いくつかの実施形態では、核酸は治療用核酸である。いくつかの実施形態では、核酸は治療用ポリペプチドをコードする。
【0042】
いくつかの実施形態では、核酸はレポーターまたは選択マーカーをコードする。レポーターマーカーの例として、限定するものではないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、エクオリン(auquorin)、βガラクトシダーゼ、ウロポルフィリノーゲン(Urogen)IIIメチルトランスフェラーゼ(UMT)、及びルシフェラーゼが挙げられる。選択マーカーの例として、限定するものではないが、ブラストサイジン、G418/ジェネテシン、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン、アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、及びチミジンキナーゼが挙げられる。
【0043】
流動緩衝液中で界面活性剤(例えば、0.1~10重量%)を任意で使用する(例えば、ポロキサマー、動物由来血清、アルブミンタンパク質)。界面活性剤の存在が細胞内への分子の送達に影響を与えることはないが、任意に界面活性剤を使用して、動作中の装置の目詰まりを低減する。
【0044】
いくつかの態様では、シリコン、金属(例えば、ステンレス鋼)、プラスチック(例えば、ポリスチレン)、セラミック、または1つ以上の適切なサイズのチャネルもしくは導管を形成するのに適した任意の他の材料で装置を作製する。いくつかの態様では、装置は、ミクロンスケールの形体をエッチングするのに適した材料から形成され、細胞が通過する1つ以上のチャネルまたは導管を含む。シリコンは特に適しているが、これは、マイクロ
パターニング法がこの材料で十分に確立されており、したがって、新しい装置の製造、設計変更などが容易であるためである。さらに、シリコンの剛性は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のようなより柔軟な基板よりも利点、例えばより高い送達速度を提供することができる。例えば、装置は、2、10、20、25、45、50、75、100またはそれ以上のチャネルを備える。シリコンのエッチングにより、装置を微細加工する。圧力を加えることによりチャネルまたは導管を介して、細胞を移動させる(例えば押し込む)。細胞輸送装置は圧力を加えることができる。細胞輸送装置は、例えば、加圧ポンプ、ガスボンベ、圧縮機、真空ポンプ、シリンジ、シリンジポンプ、蠕動ポンプ、手動シリンジ、ピペット、ピストン、キャピラリーアクター、及び重力を備えることができる。チャネルの代替として、ネットまたは密接に配置したプレートの形態の狭窄部に細胞を通過させてもよい。いずれの場合でも、細胞が通過する狭窄部の幅は、細胞が収縮していない状態、すなわち懸濁状態において、処理対象の細胞の幅または直径の20~99%である。温度は、組成物の取り込み、及び生存率に影響を与えることができる。本方法は、室温(例えば、20℃)、生理学的温度(例えば、39℃)、生理学的温度より高い温度、もしくは低温(例えば、0.1℃)、またはこれらの例示的温度の間の温度(0.1~40℃)で実施する。
【0045】
いくつかの実施形態では、収縮、伸張、及び/または高剪断速度のパルスによる細胞への制御された損傷に続いて、細胞に導入したい化合物または分子を含有する送達溶液中で細胞をインキュベートする。細胞は、化合物または分子を含有する溶液中にある場合に場と接触させてもよい。制御された損傷は、細胞膜の小さな傷、例えば直径200nmの傷として特徴付けてもよい。狭窄部を通過することにより生じる損傷を閉じるための細胞の回復期間は、約数分である。送達期間は、1~10分またはそれ以上、例えば、15、20、30、60分またはそれ以上であり、室温で操作した場合、2~5分が最適である。
【0046】
本発明の様々な実装形態は、以下の性能のうちの1つ以上を提供してもよい。従来技術と比較して、より優れた正確性とスケーラビリティで送達を達成することができる。細胞への物質の送達は自動化することができる。タンパク質、RNA、siRNA、ペプチド、DNA、及び不透過性色素などの物質を、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)、初代細胞または不死化細胞株などの細胞に移植することができる。本装置及び方法は、任意の細胞型に適しており、狭窄部のサイズは、処理対象の細胞型に合わせて調整する。本装置及び方法は、有意な利点を提供することができる。例えば、従来技術と比較して、現行システムにおける実験的ノイズを低減することができる。細胞集団全体で物質の送達量を一定にすることができる。細胞をバッチとして処理するのではなく、個別に処理することができる。本発明はまた、様々なナノ粒子及びタンパク質を細胞質ゾルに送達するためのかなり固有な可能性を示している。既存の方法は、そのような機能を実行する際にかなり信頼性が低く、非効率的である。
【0047】
本発明の方法及び装置は、他の方法よりも迅速かつ効率的に、細胞及び細胞下構造(例えば、核及びミトコンドリア)に核酸を送達する。電気穿孔は、電気パルス中にDNA集積、及び電気穿孔した原形質膜との相互作用をもたらし、これによりDNA凝集物が細胞質に内在化し、細胞内において細胞膜に隣接して蓄積する(図12及び図21)。DNAは、単に拡散によって、粘性で複雑な細胞質を容易に通り抜けて、核に到達することはできない。電場を用いたDFEによって細胞質ゾル及び核(ならびにミトコンドリア)に核酸を送達することは、迅速かつ効率的でありながら細胞生存率を維持し、それによって電気穿孔法単独の場合における長年の欠点を克服する。
【0048】
本発明の様々な実装形態はまた、以下の機能のうちの1つ以上を提供してもよい。幹細胞、初代細胞、免疫細胞などの送達が困難な細胞にDNAを送達することができる。非常に大きなプラスミド(染色体全体でさえ)の送達を達成することができる。関心対象の遺伝
子の発現レベル及び濃度に対するその感受性を試験するために、既知量の遺伝子構築物を細胞へ定量的に送達することも容易に達成することができる。より容易/より効率的で安定した送達、相同組換え、及び部位特異的突然変異誘発を達成するために、既知量のDNA配列と共にDNA組換えを増強する既知量の酵素を送達することができる。本明細書に記載の方法及び装置は、より効率的/決定的なRNA試験のためのRNAの定量的送達にも有用であり得る。細胞の細胞質への低分子干渉RNA(siRNA)の送達も容易に達成される。
【0049】
本発明の様々な実装形態は、以下の性能のうちの1つ以上を提供してもよい。RNAは、リポソームを必要とせずにRNAサイレンシングのために細胞に送達することができる。既知量のダイサー分子と共に既知量のRNA分子を送達して、異なる条件下で複数の細胞株にわたって標準化した効率的なRNAを達成することができる。mRNAを細胞内に送達し、転写後レベルでの遺伝子発現調節の態様を試験することができる。本方法はまた、一定量のRNA標識物を送達してRNAの半減期を試験すること、ならびにミトコンドリアDNAに対してmiRNA及びlncRNAなどのRNAベースの干渉を用いることに対して有用である。汎用的なタンパク質送達を達成することができる。既知量のラベルタンパク質を送達して、細胞内での半減期を試験することができる。標識タンパク質を送達して、タンパク質局在化を調べることができる。既知量のタグ付きタンパク質を送達して、細胞内環境におけるタンパク質‐タンパク質相互作用を試験することができる。免疫染色及び蛍光に基づくウェスタンブロッティングのために、標識抗体を生細胞へ送達することができる。
【0050】
本発明の様々な実装形態は、以下の臨床能力及び研究能力の1つ以上を提供することもできる。スクリーニング及び用量研究の改善のために、細胞モデルへの薬物の定量的送達を達成することができる。本方法を、細胞質ゾルにおいてタンパク質活性をスクリーニングするハイスループットな方法として展開し、タンパク質治療薬を同定するか、または疾患のメカニズムを理解する際に役立てることができる。そのような応用は、現行のタンパク質送達方法の下では非効率であるがゆえに現在厳しく制限されている。本装置及び技術は、循環系血液細胞(例えば、リンパ球)の特定のサブセットへの薬物の細胞内送達、細胞、特に卵母細胞の凍結保存を改善するための細胞への糖のハイスループット送達、タンパク質、mRNA、DNA、及び/または増殖因子の導入による標的化細胞分化、iPS細胞を産生する細胞再プログラミングを誘導するための遺伝子またはタンパク質物質の送達、トランスジェニック幹細胞株の発生のための胚性幹細胞へのDNA及び/または組換え酵素の送達、形質変換体の発生、DC細胞活性化、iPSC生成、及び幹細胞分化のための接合体へのDNA及び/または組換え酵素の送達、診断及び/または機構試験のためのナノ粒子送達、ならびに量子ドットの導入に有用である。形成手術に関連して用いられる皮膚細胞もまた、本明細書に記載の装置及び方法を用いて改変する。
【0051】
DFEのための電場の使用に関連する方法及び装置は、核酸及び他の荷電化合物の送達に特に有用である。荷電物質の送達において、DFEは細胞圧搾のみによる場合よりも有意に効率的である。例えば、図12B及び12C参照。
【0052】
本明細書に記載の装置及び方法のいくつかの実施形態では、幹細胞または前駆細胞、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)が狭窄チャネルを通過することにより、分化は誘導されないが、細胞への組成物の取込みが確実に誘導される。例えば、分化因子をこのような細胞に導入する。導入した因子の取り込み後、細胞は、細胞への因子(複数可)の導入方法に関連する問題を生じることなく、導入した因子が規定する分化経路を辿る。
【0053】
単一の細胞に加えて、非常に大きな細胞、例えばおよそ直径200μmの卵細胞、細胞クラスター、例えば2~3細胞を含む胚のような2~5細胞のクラスターなどを処理して標
的組成物を取り込む。開口部のサイズをそれに応じて、すなわち、狭窄部の幅がクラスターのサイズよりもわずかに小さくなるように調整する。例えば、チャネルの幅は細胞クラスターの幅の20~99%である。
【0054】
所望の細胞型に対して、細胞または細胞クラスターを精製/単離または濃縮する。本方法において使用する樹状細胞または他の細胞、例えば、マクロファージ、B細胞、T細胞などの免疫細胞、または胚性幹細胞もしくはiPSなどの幹細胞を、精製または濃縮してもよい。例えば、細胞表面マーカーまたは他の識別可能な特徴の発現により、細胞を単離または濃縮する。樹状細胞は、βインテグリン(β-intergrin)、CD11cまたは他の識別可能な細胞表面マーカーの発現によって同定及び単離される。細胞に関して、「単離された」という用語は、細胞が、天然に発生する際に他の細胞型または細胞性物質を実質的に含まないことを意味する。例えば、特定の組織型または表現型の細胞試料は、細胞集団の少なくとも60%である場合、「実質的に純粋」である。好ましくは、調製物は細胞集団の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも99%または100%である。純度は、任意の適切な標準的方法、例えば、蛍光標識細胞分取(FACS)によって測定する。
【0055】
ポリヌクレオチド、ポリペプチド、または他の薬剤などのペイロード組成物を精製及び/または単離してもよい。具体的には、本明細書中で使用する場合、「単離」もしくは「精製」核酸分子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、他の細胞内物質を実質的に含まず、または組換え技術で産生する場合には培地を、または化学合成する場合には化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない。精製化合物は、目的の化合物の少なくとも60重量%(乾燥重量)である。好ましくは、調製物は、目的の化合物の少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%である。例えば、精製化合物は、所望の化合物の少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、98%、99%、または100%(w/w)のものである。純度は、例えばカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析などの任意の適切な標準的方法によって測定する。精製または単離ポリヌクレオチド(リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA))は、天然に存在する状態でそれに隣接する遺伝子または配列を含まない。単離または精製核酸分子の例として:(a)天然に存在するゲノムDNA分子の一部分であるが、それが天然に存在する生物のゲノム中における当該分子の一部分に隣接する核酸配列が、両方に隣接していないDNA;(b)得られる分子が任意の天然に存在するベクターまたはゲノムDNAと同一にならないように、ベクターまたは原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれた核酸;(c)cDNA、ゲノムフラグメント、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成したフラグメント、または制限酵素切断フラグメントなどの別個の分子;(d)ハイブリッド遺伝子の一部である組換えヌクレオチド配列、すなわち融合タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。本発明による単離核酸分子は、合成的に産生した分子、ならびに化学的に改変したかつ/または骨格部を改変した任意の核酸をさらに含む。
【0056】
いくつかの用途は純度を必要とするが、他の用途では、本発明の方法及び装置を用いた送達は、化合物の不均一な混合物を使用する。いくつかの実施形態では、効率的な送達のために高純度を必要としない。
【0057】
懸濁溶液は、生理学的または細胞適合性(例えば、DFE実行中に細胞が生存し得るか、または細胞が増殖する緩衝液もしくは溶液)の緩衝液または溶液のいずれかである。例えば、懸濁液は、細胞培地またはリン酸緩衝食塩水である。例えばHeLa細胞のための適切な緩衝液の1つの非限定的な例は、25mMのKCl、0.3mMのKHPO、0.85mMのKHPO、36mMのミオイノシトール、pH7.2、約90mOsm
/Lの浸透圧、及び/または約0.1~5mS/cm、0.1~4mS/cmの導電性、例えば、25℃で約3.5mS/cmである。この緩衝液は、ペイロード送達性能を維持しながら変更または改変し得る。例えば、ミオイノシトールは、同濃度のグルコースで置換し得るが、それでもなお同等の性能を提供する。緩衝液または溶液は、使用する場のタイプ及び強度、細胞型、ならびに使用する狭窄部などの多くの要因及び考慮事項に基づいて調整してもよい。モル浸透率及び導電率、ならびにカリウム及びカルシウムなどのイオンの存在の有無を調整してもよい。特定の実施形態では、溶液または緩衝液は、実質的にまたは約1mS~10mSまたは0.5mS~15mSの導電率、及び/または1~310または10~300mOsm/Lの浸透圧を有する。いくつかの実施形態において、緩衝液のpHは、実質的にまたは約4~10、5~9、6~8、6.5~7.5、または7である。いくつかの実施形態において、緩衝液は、処理対象の細胞型を電気穿孔するのに適した緩衝液である。電場強度が電気穿孔に十分なものであるかどうかにかかわらず、電気穿孔に適した緩衝液を実施形態で使用してもよい。
【0058】
電場による摂動を介してペイロードを輸送する場合に、ペイロードが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の一時的摂動を誘発するように狭窄部の直径を選択してもよい。本発明のマイクロ流体システムを使用して送達し得るペイロードの非限定的な例として、タンパク質(抗体及びそのフラグメントなど);小分子;炭水化物;糖;生物学的、合成、有機、または無機分子のポリマー;デオキシリボ核酸(DNA);リボ核酸(RNA)(低分子干渉RNA、ヘアピンRNA、反復配列関連低分子干渉RNA、マイクロRNA、自己増幅RNA及びmRNA分子など)。インビボまたはインビトロで、DNAまたはRNAの安定性または半減期を増加させる修飾ヌクレオチドを含むDNAまたはRNA;ペプチド核酸(PNA);メチル化DNA;天然に存在する染色体またはその一部;及び/またはプラスミドなどの発現ベクターが挙げられる。いくつかの実施形態では、ペイロードは、異なる化合物の混合物、例えばタンパク質、小分子、炭水化物、糖、ポリマー、DNA、RNA、修飾もしくはメチル化DNAもしくはRNA、PNA、天然に存在する染色体もしくはその一部、及び/またはプラスミドのような発現ベクターのうちの1つ以上の混合物を含む。いくつかの実施形態において、DNA分子は、一本鎖、二本鎖、環状、直鎖状、またはスーパーコイル状である。二本鎖直鎖DNAを含む実施形態では、DNAは、例えば、平滑末端または1つ以上の核酸の5′もしくは3′突出末端を有してもよい。小分子は、例えば、1kDa未満のサイズの有機化合物であってもよい。いくつかの実施形態ではペイロードは荷電状態であり、他の実施形態ではペイロードは非荷電状態である。いかなる科学的理論にも拘束することを望まないが、本明細書で提供する方法及びシステムを用いて、塩が電場と相互作用する際に電場が引き起こす流体の流れによって、非荷電及び荷電分子を送達し得る。
【0059】
真核細胞にペイロードを送達する実施形態では、細胞質、小器官(ミトコンドリアなど)、及び/または細胞の核にペイロードを輸送してもよい。例えば、ペイロードは、細胞が電場を通過する間に、または細胞が電場を通過してから実質的にまたは約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、または4時間未満後に、細胞の核に輸送される。複数の細胞へのペイロード送達を含む実施形態では、複数の細胞が電場を通過してから実質的にまたは約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、0.1~4、または0.1~48時間後に、複数の細胞の少なくとも実質的にまたは約10、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99、100、0~65、または10~100%が、DNAを発現する。
【0060】
いくつかの実施形態では、細胞は原核細胞である。原核細胞の非限定的な例として、細菌細胞(例えば、グラム陽性、グラム陰性、病原性、非病原性、共生、球菌、桿菌、及び/または螺旋状の細菌細胞)及び古細菌細胞が挙げられる。他の実施形態では、細胞は真核細胞である。真核細胞の非限定的な例として、原生動物、藻類、真菌、酵母、植物、動物
、脊椎動物、無脊椎動物、節足動物、哺乳類、げっ歯類、霊長類、及びヒト細胞が挙げられる。細胞は、例えば単細胞生物または多細胞生物の細胞であってもよい。細胞は、例えば、原核生物細胞または不死化真核生物細胞であってもよい。いくつかの実施形態では、細胞は癌細胞である。特定の実施形態では、細胞はヒト細胞以外のものである。様々な実施形態において、細胞は、2つ以上の細胞型の混合物であってもよく、または複数の細胞が、2つ以上の細胞型の混合物であってもよい。細胞型の混合物は、複数の細胞型(例えば、本明細書に開示するもののうちの2つ以上)の共培養物であってもよく、全血のもののように天然で共に存在する細胞型の混合物であってもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、細胞は末梢血単核細胞である。種々の実施形態において、細胞懸濁液は、精製した細胞集団を含む。特定の実施形態において、細胞は、初代細胞または細胞株の細胞である。
【0062】
いくつかの実施形態では、細胞は血液細胞である。いくつかの実施形態では、血液細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞はリンパ球である。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞(DC)、NKT細胞、肥満細胞、単球、マクロファージ、好塩基球、好酸球、または好中球である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞及びB細胞などの適応免疫細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は自然免疫細胞である。自然免疫細胞の例として、自然リンパ球系細胞(ILC1、ILC2、またはILC3)、好塩基球、好酸球、肥満細胞、NK細胞、好中球、及び単球が挙げられる。いくつかの実施形態では、免疫細胞は免疫記憶細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は初代ヒトT細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、マウス、イヌ、ネコ、ウマ、ラット、ヤギ、サル、またはウサギ細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態では、細胞懸濁液は非哺乳類細胞を含有する。いくつかの実施形態において、細胞は、ニワトリ、カエル、昆虫、または線虫細胞である。細胞に関する本発明の態様は、血小板にも適用される。したがって、本明細書における「細胞」への言及は、血小板にも適用し得る。
【0063】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体チャネルは、単一の細胞変形狭窄部を有する(すなわち、1個を超えることはない)。他の実施形態では、マイクロ流体チャネルは、一連の複数の細胞変形狭窄部を有する。
【0064】
様々な実施形態において、細胞は、細胞変形狭窄部を出てから実質的にまたは約0.0001、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.001~0.005、0.0001~10、0.0001~20、0.0001~30秒もしくはそれ以上(例えば、約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.1~10、1~15、もしくは1~15分またはそれ以上)後に、または、細胞変形狭窄部を出てから0.0001、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.001~0.005、0.0001~10、0.0001~20、0.0001~30秒後に、または約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.1~10、1~15、もしくは1~15分以内に電場と接触する。電極と狭窄部との間の距離は、細胞が移動する速度などの要因に応じて様々に変動可能であることが理解されるだろう。
【0065】
いくつかの実施形態において、細胞変形狭窄事象は、ペイロードが通過するのに十分に大きい細胞膜の一時的な摂動を誘導する。いくつかの態様では、少なくとも1つの電極が細胞変形狭窄部に近接し、それにより、細胞を電場に曝露し、一方で細胞膜には一時的な摂動が生じる。細胞変形狭窄部に「近接する」距離の非限定的な例は、実質的にまたは約0
.1、0.5、1、2、3、4、5、0.1~5cm、1~10、1~100、または1~1000cmである。
【0066】
上記の方法のいずれかを、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで実施する。インビボ適用のために、装置を、血管内腔、例えば、インラインステントに移植してもよい。本発明のこれら及び他の性能は、本発明自体と共に、以下の図面、発明を実施するための形態、及び請求の範囲を検討した後により完全に理解されるであろう。
【0067】
本発明の態様は、導入遺伝子をコードする発現ベクターを細胞に送達するための方法を提供する。好ましい実施形態では、本方法は、細胞及び発現ベクターを含有する溶液を細胞変形狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすことを含む。細胞変形狭窄部を出る前、間、及び/または後に、細胞を、電場、磁場または音場と接触させてもよい。
【0068】
いくつかの実施形態では、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場または音場と接触した対応する細胞と比較して、導入遺伝子がより早く細胞内で発現する。例えば、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した場合の対応する細胞に比べ、導入遺伝子が、0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間早く発現し得る。
【0069】
様々な実施形態において、細胞内における導入遺伝子の最大発現は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した対応する細胞における導入遺伝子の最大発現と比較して、より速い速度で達成される。例えば、細胞内における導入遺伝子の最大発現を、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した場合の対応する細胞における導入遺伝子の最大発現と比較して、0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間早く達成し得る。
【0070】
特定の実施形態では、細胞内において導入遺伝子は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した対応する細胞における導入遺伝子の発現と比較して、より広範囲に発現する。例えば、細胞内における導入遺伝子の発現は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した対応する細胞における導入遺伝子の発現に比べ、少なくとも実質的にまたは約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%高いか、または2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上高くてもよい。
【0071】
本発明の態様はまた、導入遺伝子をコードする発現ベクターを細胞集団に送達する方法に関する。好ましい実施形態では、本方法は、細胞及び発現ベクターを含有する溶液を細胞変形狭窄部に通して、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすことを含む。細胞変形狭窄部を出る前、間、及び/または後に、細胞を、電場、磁場または音場と接触させてもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、集団内における導入遺伝子を発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した場合の対応する細胞集団内における導入遺伝子を発現する細胞の割合よりも大きい。例えば、集団内における導入遺伝子を発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した対応する細胞集団内における導入遺伝子を発現する細胞の割合に比べ、少なくとも実質的にまたは約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%高いか、または、2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上高くてもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、細胞内における導入遺伝子の発現は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した対応する細胞における導入遺伝子の発現と比較して、細胞変形狭窄部を細胞が通過してから、実質的にまたは約0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間以内において、少なくとも実質的にもしくは約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%高いか、または、2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上高くてもよい。
【0074】
特定の実施形態では、集団内における導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した対応する細胞集団内における導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合よりも大きい。例えば、集団内の導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した場合の同細胞集団内における導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合に比べ、少なくとも実質的にもしくは約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%高いか、または、2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上高くてもよい。いくつかの実施形態において、導入遺伝子発現の「高レベル」とは、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した場合の同細胞内における導入遺伝子発現の平均レベルに比べて50%高い細胞内発現レベルのことである。導入遺伝子発現のレベルを測定する方法の非限定的な例として、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)アッセイ、ノーザンブロット、ウェスタンブロット、及びマイクロアレイベースのアッセイが挙げられる。
【0075】
本明細書で開示する各実施形態は、開示する他の実施形態の各々に適用可能であると考えられる。したがって、本明細書に記載する様々な要素のすべての組合せは、本発明の範囲内である。
【0076】
関連する装置、システム、技術、及び物品も記載する。
【0077】
本明細書に記載する主題の1つ以上の変形例の詳細を、添付の図面及び以下の説明に記載する。本明細書に記載する主題の他の特徴及び利点は、説明及び図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】遺伝子改変を行うために、細胞にDNAまたはRNAなどのペイロードを送達するマイクロ流体装置の例示的な実装形態の図である。
図2図1に示す電極の代替実装形態である。電極内のずれにより、細胞が流入する際に、それらのチャネル内での位置に影響されることなく、細胞を電場に曝露しやすくなる。
図3】マイクロ流体システムを介して輸送されてペイロードDNAを送達する例示的な細胞のDNA形質移入率を示す棒グラフである。DFE10‐6はDFE装置の狭窄部の寸法を示しており、第一の数字は狭窄部の長さ、第二の数字は幅に相当する(ミクロン)。
図4】細胞生存率を示す棒グラフである。
図5】DNA形質移入率及び生存率を示す折れ線グラフである。
図6】処理前のかかる緩衝液への曝露時間がどのようにDNA送達及び細胞生存率に影響を与えるかを示す棒グラフである。
図7】細胞速度が上昇すると細胞生存率も向上することを説明する折れ線グラフである。
図8A】単一の狭窄チャネルを図示するマイクロ流体システムの実施形態の概略図である。
図8B】マイクロ流体システムの単一の狭窄チャネルの説明図であり、深さ、幅、及び長さを表す。
図9図9A~Cは、装置構造及び作用機構を示す図である。(図9A)作用機構の模式図である。狭窄部を通過する際の細胞の機械的破壊により、細胞膜上に穴が形成される。続いて電気パルスにより、この穴を通してDNAを細胞質及び核に輸送する。(図9B)同一の平行なマイクロ流体狭窄部のセットをシリコンウェーハ上にエッチングし、電極のセットをPyrexウェーハ上に蒸着する。(図9C)シリコンウェーハ及びPyrex層により接合した完成装置の光学像である。装置の製造に関するさらなる詳細は、図13に見出すことができる。
図10図10A及び10Bは、電気パルスに依存する形質移入性能を示す棒グラフである。処理の24時間後のDNA形質移入効率(図10A)及び細胞生存率(図10B)を、印加した電気の振幅の関数として示す。電気的形質移入の実行前に機械的破壊を導入することにより、DNA形質移入率は有意に向上し、細胞生存率にほとんど影響を与えない。GFPプラスミドのDNA形質移入効率及び細胞生存率を、ヨウ化プロピジウム染色後のフローサイトメトリーによって測定した。図10Aに示すように、各電場強度において、電気泳動に比べてより大きなDNA発現を達成しており、電場DFEに必要なエネルギーレベルは、電気泳動の場合よりも低いことが示された。すべてのデータ点について3回データ収集を行っており、エラーバーは2SDを表している。X軸の単位はボルト/60umである。1V/60umは、約0.1667kV/cmに相当する。
図11図11A~11Cは、異なる方法を用いたHeLa細胞へのプラスミドDNA形質移入効率に関する比較試験の結果を示すグラフである。(図11A)GFPの発現効率を、処理後の時間の関数として示す。効率を、処理後の全生細胞数に対するGFP発現細胞数として定義する。10‐7チップを、圧搾、ならびに破壊及び場による送達(DFE)に使用する。本明細書で用いる場合、装置の寸法は、長さ及び幅を示す一連の数字によって示す(例えば、10‐7は、長さ10μm及び幅7μmの単一の狭窄部を有する装置を示す)。周波数200Hzの0.1ms/10vのパルスを、EP及びME(マイクロ流体(狭窄なし)+電場)に使用し、15ms/15000vの単一のパルスをBEPにおいて使用する。(図11B)処理後の異なる時点でのGFPの差次的発現変動を測定することにより、DNA発現の動態を分析する。形質移入した細胞の80%以上が、マイクロインジェクション及びDFEでの処理後1時間以内にGFPを発現した。対照的に、ME(60%)、BEP(70%)及びLP2000(95%)において、形質移入した細胞の大部分は、処理後4~48時間でGFPを発現する。各方法についての各処理におけるHela細胞の数も示しており、これらは各技法のスループットを表している(図11C)。各データ点について3回実行しており、エラーバーは2SDを表している。
図12図12A~Cは、蛍光標識プラスミドDNA(LDNA)のHeLa細胞への送達を可視化して示した写真である。核及び原形質膜染色後、形質移入の前に、細胞をCy3標識プラスミドDNAと混合した。処理後、細胞をOPTI MEMで洗浄し、細胞固定キットで固定し、共焦点画像解析に備えた。(図12A)BEPにおいて、細胞が500mm/sの速度でチップを通過する際に(細胞が狭窄部を通過する際に)0.1ms(200Hz)の電気パルスを10Vで印加した。原形質膜上にDNAの蓄積が認められた。(図12B)細胞圧搾のみを用いた場合、細胞内においてLDNAシグナルはほとんどまたは全く認められなかった。10‐7チップを細胞速度は500mm/sで使用した。(図12C)DFEにおいて、細胞質及び核を満たす有意なCy3蛍光が観測された。10‐7チップを使用し、0.1ms(200Hz)の電気パルスを10Vで印加して細胞速度500mm/sで使用した。
図13】例示的な装置製造プロセスの図である。(図13a~d)Pyrex層上の電極の製造は、金属蒸着プロセス及びそれに続くリフトオフプロセスを含む。(図13e~h)2回のリソグラフィー及びDRIEプロセスを用いたシリコンウェーハ上へのマイクロチャネルの作製。(i)シリコン基板とPyrex層との間の結合。
図14】細胞速度に依存する送達性能を示す折れ線グラフである。処理の24時間後に、3K Daデキストランの送達効率、DNA形質移入効率、及び細胞生存率を測定した。10‐8チップを使用し、電気パルスは0.1ms(200Hz)で10Vであった。DNA形質移入効率は、細胞速度300mm/s付近で最大であった。
図15図15A及びBは、HeLa細胞の蛍光画像を示す。(図15A)DFE、BEP、及びLP2000によるGFPプラスミドDNAの発現の比較である。細胞の蛍光顕微鏡画像は、BEP及びLP2000よりも、DFEにおいてGFP発現が非常に速く発生したことを示している。(図15B)8時間の時点を含むDFEとBEPとの比較を示す。
図16】DFE及びNEON(BEP)を用いた処理後の異なる時間におけるGFP蛍光強度分布を示すヒストグラムである。HeLa細胞のGFP蛍光強度分布を、処理後の異なる時点でフローサイトメトリーによって測定したヒストグラム中に示した。この結果は、DFEではDNA転写が送達後すぐに発生するのに対し、BEPではDNAの細胞内輸送に数時間を要することを示している。DFE処理の直後から細胞はGFPを発現し始めるが、電気穿孔法では処理後DNAを転写するまでに4時間以上を要する。平均蛍光強度についても、DFEがBEPを上回っていると考えられた。発現細胞のヒストグラムは、NEONよりもDFEの方が右方向にシフトしており、これは、24時間時点でさえ、タンパク質発現がより高いことを示している。
図17】24時間後のmESCのGFP DNA発現を示す。蛍光顕微鏡画像は、GFP DNAプラスミドをDFE送達してから24時間後のマウス胚性幹細胞(mESC)内のGFP発現を示す。
図18】DNA、mRNA及びタンパク質(IgG2)の細胞への同時送達を示す折れ線グラフである。この図は、同時送達時の異なる振幅における各物質の送達効率を示す。y軸は発現/送達%である。これは、mRNA及びDNAについては発現%で、IgG2については送達%である。
図19】本発明の例示的な装置を示す。
図20】非限定的な装置パラメータの例を記載した図である。
図21図21A~Cは、(A)電気穿孔法を用いて、(B)細胞圧搾を単独で用いて、(C)DFEを用いて送達したDNAの分布を示す図である。図12A~Cも参照。図12Aに示し、かつ図21Aに描写するように、電気穿孔法によって送達したDNAは原形質膜上に蓄積する。図12B図21Bに図示)は、細胞圧搾のみでは、DNA送達は、ほとんど、または全く生じないことを示す。しかし、図12C図22Cに図示)は、DFEを用いると、細胞全体にDNA送達が迅速かつ劇的に増加することを示す。
【0079】
様々な図面における同様の参照記号は、同様の要素を示すものとする。
【発明を実施するための形態】
【0080】
DNA及びRNAなどの高分子の細胞内送達は、多くの治療及び研究応用における重要なステップである。遺伝子送達は、ウイルス媒介性、化学的、電気的及び機械的形質移入によって達成することができる。ウイルスベクターに基づく方法は、特定の用途には有効であるが、しばしば染色体への組込みの危険性を有し、インビボでの利用には安全面でのリスクがある。標的分子の化学修飾は、膜孔生成またはエンドサイトーシス送達を促進することもできるが、これらのアプローチは、しばしば、標的分子の構造及び標的細胞型によって制限される。マイクロインジェクションは、スループットが低いという欠点を有する。電気穿孔法は、これまで形質移入が困難であった細胞のDNA及びRNA送達用途においてその有効性を実証してきた。しかしながら、この方法は、細胞死を引き起こし、かつ電場が高強度であるために量子ドットのような感受性が高い物質に損傷を与える場合がある。狭窄マイクロ流体プラットフォームは、ほぼすべての細胞型の細胞質に対してほとんどの物質の受動拡散を促進する一時的な細胞膜破壊をもたらすことができる。この送達プ
ラットフォームは、スループットが高く、外因性物質または場からの独立しており、かつ細胞生存率が高いという利点を有する。膜破壊に基づく送達プラットフォームの例は、2014年9月25日に公開された米国特許公開第2014/0287509号に記載されており、その全体の内容が参照により本明細書に明示的に援用される。しかしながら、電場と組み合わせることにより、プラスミドDNAの送達に応答した遺伝子発現を誘導することが可能になる。本主題は、任意の細胞型に任意の機能的標的分子を送達することができる細胞内送達技術及びプラットフォームを包含する。
【0081】
本主題は、機械的な一過性の細胞膜破壊及び電場を用いてDNAを細胞内へ送達するためのハイスループットでベクターフリーのマイクロ流体装置を包含する。
【0082】
図1は、遺伝子改変のためにDNAまたはRNAのようなペイロードを細胞に送達するためのマイクロ流体装置100の実装形態の図である。マイクロ流体装置100は、1つ以上の狭窄チャネル105と、電場を生成するための少なくとも1つの電極110とを備える。少なくとも1つの電極110は、異なるサイズの電極対を含むことができる。狭窄チャネル105は左側に示され、細胞が狭窄点107でチャネル105を通過する際に細胞を収縮させるように寸法決めされている。細胞が、細胞直径よりも小さい最小寸法を有する狭窄点107を通過するとき、細胞は、急速な機械的変形を受け、一時的な膜破壊による穴を形成する。
【0083】
次いで、周囲培地由来の分子が、これらの穴を介して細胞の細胞質ゾル中に拡散することができる。狭窄点107を通過した後、細胞は狭窄点107の下流に位置する電極110が生成した電場に進入し、そこでDNAなどのペイロードは、電場によってもたらされた電気泳動効果によって細胞内に輸送される。ペイロードが荷電状態の場合はペイロードを直接輸送することができ、ペイロードが非荷電の場合は、例えばペイロードを荷電成分、例えば塩を含有する緩衝液に懸濁し、これが、電場によって生成した電気泳動効果の下でペイロードを輸送するように作用することにより、ペイロードを間接的に輸送することができる。電極110を図1の右側に示す。
【0084】
図2は、図1に示す電極110の代替実装形態である。電極の幅及び電極間の間隔は共に50μmである。電極の長さは8mmである。実装形態では、そのような寸法の範囲は、特定の設計及び用途に応じて、100nm~10cmとすることができる。図2の電極のシフト設計は、チャネルを通過する各細胞を電場に曝露することに役立ち、より高いDNA形質移入効率をもたらす。本実装形態では、金電極はガラス面(上部)の平面上にある。しかしながら、電極は、シリコン層(下部)または両方の層(上部及び下部)上に実装することができる。現行の電極構成(図2)は、一連の直線電極からなり、これらはチャネルの中間で位置が変わり、その下の流体チャネルを通過する任意の細胞が確実に場に曝露されるようにする。すなわち、細胞が電極の直下を移動していた場合には、シフト後、細胞は2つの電極の間に位置するようになり、それゆえに電場に曝露されることになる。この考察は、大部分(少なくとも20、50、75、80、85、90、95、99%もしくはそれ以上)の、またはすべての細胞を確実に電場に曝露するという点において重要である。シフト角は、1~90°の範囲とすることでき、電極の長さに沿った任意の点のもの、例えば中間点(図2に示すような)または電極間の距離の5、10、20、25、35、50、60、75、80、85、90、95%もしくはそれ以上の点のものであってもよい。また、細胞の流れに対して垂直にまたは斜めの角度(1~90°の範囲)で電極を実装することもできる。
【0085】
マイクロ流体プラットフォームは、深掘り反応性イオンエッチングを用いて、シリコンウェーハ中にマイクロ流体チャネルをエッチングすることによって作製することができる。フォトリソグラフィー及びリフトオフを使用して、Pyrexウェーハの上部に電極を蒸
着することができる。次いで、これらの2つのウェーハを、例えば、陽極または別の接合手段を介して互いに接合し、マイクロ流体チャネルを封止することができる。いくつかの例では、電極は、上部(例えばガラス)プレート/ウェーハに配置される(すなわち、下部(シリコンウェーハ)に存在しない;あるいは、電極は下部プレート上に配置される(上部プレート/ウェーハに存在しない)。いくつかの実施形態では、電極は、装置の両側、例えば上部及び下部プレートもしくはウェーハの表面または内部に配置される。図2中の水平線は、ネガティブパッドまたはポジティブパッドのいずれかに接続する電極を示している(図中の長方形)。本構成では、ガラスウェーハ内に配置された電極の下で、細胞が左から右に流れる。各細胞を電場に確実に曝露するために、電極構成内のある位置(例えば、電極のグレー部分)において、電極をずらす。例えば、図2に示すように、そのずれは約1~90°、例えば20~80°、例えば約45°の角度のものである。このようにして、マイクロ流体装置を一直線に流れる細胞は、マイクロ流体チャネルの全長にわたって横断する少なくともわずかな間、電場に曝される。
【0086】
電場は、例えば、0.1kV/m~2000kV/m、10~2000kV/mまたは0.1kV/m~100MV/m、好ましくは50~500kV/mであることができる。さらに、細胞を、既知の時間にわたって電場に曝露することができる。例えば、パルス幅が1ns~1sで、周期が100ns~10sであり、好ましくは、パルス幅が0.05~0.5msで、周期が1~20msである。送達に必要な電場の強度は、従来の電気穿孔法よりも低くなり得る。その結果、一定の送達効率に対し、本主題は、必要とされる電場強度が電気穿孔法よりも少なくなり得る。図3に示すように、本発明の方法を用いたDNA形質移入効率は、電場強度が異なる場合の電気穿孔法よりも優れており、これは、電気穿孔法単独の場合と比較して、より低い電場強度を用いて同様のまたはより優れた形質移入効率を得ることができることを示している。
【0087】
電気穿孔法は、パルス強度とパルス幅との組み合わせに関与する。例えば、Neon(登録商標)形質移入システムでは、パルスは通常0.3~1kV.cmであり、パルス幅は5ms~50msである。電場を含むいくつかの実施形態では、電場強度は電気穿孔法に用いるものと同様であるが、パルス幅は電気穿孔法の場合よりもはるかに低い。より低いパルス幅の使用は、より低いエネルギーへの細胞曝露及びより高い生存率をもたらす。さらに、より低いエネルギーへの曝露にもかかわらず、DNAは核(及び細胞の他の領域)に送達され、電気穿孔法単独に比べて、より迅速に発現が生じる。
【0088】
例示的な操作では、一定の圧力(5psi~100psi)で狭窄チャネル105を介して細胞を輸送することができる。次に、細胞を、発振器によって発動するパルス電場と接触させる。一例では、集積回路を使用して電気信号を供給し、電極を駆動する。Cascade Blue標識3kDaデキストラン分子の送達効率、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)発現用プラスミドDNAの発現を、フローサイトメトリーによって特徴付け、性能を評価する。結果は、送達効率が3Kデキストランで70%、DNA形質移入で63%であり、細胞生存率が90%に維持されていることを示す。このような小分子及び大分子両方の同時送達は、他の技術では困難である。
【0089】
本明細書に記載する主題は、多くの利点を提供することができる。例えば、遺伝子発現を大幅に高めることができる。一実装形態では、狭窄部のみを備える装置における遺伝子発現は5%未満であり、電場を含めることによって63%まで上昇させることができる。いくつかの実施形態では、狭窄部のみを備える装置における遺伝子発現は、約1、2、3、4、または5%未満であり、圧搾した細胞を電場に曝露することによって、約60~100または65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%まで上昇させることができる。細胞変形狭窄部及び電極の両方を備える装置は、異なるタイプのペイロード送達に有利である。例えば、そのような装置は、細胞を狭窄部に、次いで電場に曝露す
ることにより、1つの過程または装置の通過時に、比較的大きな分子及び小さな分子の両方を細胞内に効果的に送達する。例えば、本システムは、遺伝子産物をコードする核酸、例えばプラスミドDNAを細胞及び核に送達して、送達した遺伝子の発現を達成するのに特に有用である。例えば、細胞変形狭窄部を通過した後の電場への細胞の曝露は、プラスミドの核内進入を容易にする。本アプローチはまた、タンパク質及び核酸などの様々な物質の同時送達を可能にすることもできる。細胞変形要素は、外膜の破壊を促進して細胞質タンパク質の送達を促進し、電場は潜在的な核破壊を容易にして、細胞への電気泳動的な物質流入を可能にする。
【0090】
図3は、マイクロ流体システム100を介して輸送されてペイロードDNAを送達する例示的細胞を24時間インキュベーションした後のDNA形質移入率を示す棒グラフ300である。各細胞が電場を通過するのに費やす時間は36mSであり、パルス電気信号の持続時間は0.1mSであり、周期は5mSである。細胞を低浸透圧緩衝液中に懸濁した後に処理し、次いでマイクロ流体チップを介して注入して圧搾し、電場を通過させる。次いで細胞を回収し、3分間待ってから培地に添加する。24時間のインキュベーション後に蛍光標識細胞分取(FACS)を用いてDNA形質移入率を分析する。図3に示す結果は、細胞圧搾が、電場の通過中におけるDNA形質移入率を有意に向上させることを示す。
【0091】
図4は、細胞生存率を図示する棒グラフ400である。各細胞が電場を通過するのに費やす時間は36mSであり;パルス電気信号の持続時間は0.1mSであり、周期は5mSである。細胞を低浸透圧緩衝液中に懸濁した後に処理し、次いでマイクロ流体チップを介して注入して圧搾し、電場を通過させる。次いで細胞を回収し、3分間待ってから培地に添加する。24時間のインキュベーション後にFACSを用いてDNA形質移入率を分析する。結果は、細胞圧搾が、電場の通過中におけるDNA形質移入率を有意に向上させることを示す。
【0092】
図5は、DNA形質移入率及び生存率を示す折れ線グラフ500である。各細胞が電場を通過するのに費やす時間は24mSであり;パルス電気信号の持続時間は0.1mSであり、周期は5mSであり;10‐8Xチップを使用する。細胞を低浸透圧緩衝液中に懸濁し、GFP‐DNAプラスミド及び3KDaのデキストランと混合させた後に処理し、次いでマイクロ流体チップを介して注入して圧搾し、電場を通過させる。次いで、細胞を回収し、(破線)3分間経過してから、または直接(実線)、培養培地に添加する。24時間のインキュベーション後にFACSを用いてDNA形質移入率を分析する。
【0093】
図6は、処理前のこのような緩衝液への曝露時間がDNA送達及び細胞生存率にどのように影響するかを示す棒グラフ600である。各細胞が電場を通過するのに費やす時間は24mSであり;パルス電気信号の持続時間は0.1mSであり、周期は5mSであり;10‐8Xチップを使用する。細胞を低浸透圧緩衝液中に懸濁し、gfpDNAプラスミド及び3KDaデキストランと混合する。図6に示すように、最長40分の曝露時間について調べる。次に、細胞を回収し、直接(実線)培地に添加する。24時間のインキュベーション後にFACSを用いてDNA形質移入率を分析する。
【0094】
図7は、細胞速度が上昇すると細胞生存率も向上することを示す折れ線グラフ700であり、これは電場が主に細胞生存率の低下の原因となることを意味する。各細胞が電場を通過するのに費やす時間は24mSであり;パルス電気信号の持続時間は0.1mSであり、周期は10mSであり;10‐7Xチップを使用する。送達性能は、細胞速度によって決定され、その速度は加える圧力によって制御される。細胞を低浸透圧緩衝液に懸濁し、gfpDNAプラスミドと混合し;処理後、細胞を培地に直接添加する。より高速の場合、膜の破壊はより激しくなるが、場への曝露は低減し得る。
【0095】
図8Aは、マイクロ流体システムの実施形態の概略図であり、単一の狭窄チャネル105を図示する。図8Bは、マイクロ流体システムの単一の狭窄チャネル105の説明図であり、深さ、幅、及び長さを表す。細胞は狭窄点107を通過し、これにより細胞膜に一過性の膜破壊(例えば、穴)を導入する。細胞は、2つの電極110によって生成された電場を通過し、DNAなどのペイロードが細胞質に送達される。
【0096】
一般的定義及び一般的技術
別段定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、当業者に一般的に理解されているもの(例えば、細胞培養、分子遺伝学、及び生化学において)と同じ意味を有するものと解釈するべきである。
【0097】
いくつかの変形例を上記で詳細に説明したが、他の修正または追加も実行可能である。例えば、本主題はDNA及びRNAに限定されるものではなく、ナノ粒子、タンパク質、量子ドット、及びDNAを含む広範な物質を、あらゆる種類の細胞型のほとんどにハイスループットで送達することができる。特定の実施形態では、DNAまたはRNAは、例えば、2′‐O‐メチル(2′OMe)、2′‐フルオロ(2′F)置換、及び2′OMe、または2′F、または2′‐デオキシ、または「locked nucleic acid」(LNA)修飾を含むものといった、リボース糖骨格の2′‐OH基に対する化学修飾を有するものなどの修飾ヌクレオチドを取り込むことができる。
【0098】
本明細書及び特許請求の範囲における説明において、要素または特徴の接続リストの前に「少なくとも1つの」または「1つ以上の」のような語句を記載してもよい。用語「及び/または」は、2つ以上の要素または特徴のリスト内に存在してもよい。それを使用する文脈と暗にまたは明確に矛盾しない限り、そのような語句は、個々の列挙される要素もしくは特徴のいずれかを意味する、または列挙される要素もしくは特徴と列挙される他の要素もしくは特徴との組み合わせを意味することを意図している。例えば、「A及びBの少なくとも1つ;」、「A及びBの1つ以上;」、及び「A及び/またはB」は、それぞれ「A単独、B単独、またはAとBの両方」を意味することを意図する。同様の解釈は、3つ以上の項目を含むリストに対しても意図する。例えば、「A、B、及びCの少なくとも1つ;」、「A、B、及びCの1つ以上;」及び「A、B、及び/またはC」という語句は、それぞれ「A単独、B単独、C単独、AとB両方、AとC両方、BとC両方、またはAとBとC全て」を意味することを意図する。さらに、本明細書及び特許請求の範囲における「基づく」という語句の使用は、「少なくとも部分的に基づく」ことを意味することを意図し、それによって記載されていない特徴または要素も許容される。
【0099】
本明細書で使用する場合、数値または範囲の文脈における用語「約」及び「実質的に」は、文脈がより限定された範囲を必要としない限り、記載または特許請求する数値または範囲の±10%を意味する。
【0100】
本明細書で使用する場合、「デューティサイクル」は、パルス周期に対するパルス持続時間の比を意味する。
【0101】
その最も広い意味では、「破壊及び場による送達」または「DFE」は、圧搾とエネルギー場への接触とを組合せてペイロードを細胞に送達することを意味する。
【0102】
用語「原形質膜」及び「細胞膜」は、本明細書では互換的に使用され、及び細胞の内部を細胞外の環境から分離する半透膜を指す。
【0103】
本明細書で使用する「発現ベクター」は、1つ以上のポリヌクレオチドの発現をもたらすことができるDNAまたはRNAベクターである。好ましくは、発現ベクターは、宿主細
胞内で複製することもできる。発現ベクターは、原核生物用または真核生物用のいずれであることができ、そして一般的にはプラスミドである。本発明の発現ベクターは、本発明の宿主細胞、例えば、本明細書に記載する原核細胞または真核細胞の1つ、例えば、グラム陽性、グラム陰性、病原性、非病原性、共生生物、球菌、桿菌、もしくは螺旋状の細菌細胞;古細菌細胞;または原生動物、藻類、真菌、酵母、植物、動物、脊椎動物、無脊椎動物、節足動物、哺乳類、げっ歯類、霊長類、もしくはヒト細胞で機能する(遺伝子発現を導く)任意のベクターを含む。本発明の発現ベクターは、転写制御配列、翻訳制御配列、複製起点、及び宿主細胞と適合性を有しかつポリヌクレオチドの発現を制御する他の調節配列などを含む。特に、本発明の発現ベクターは、転写制御配列を含む。転写制御配列は、転写の開始、伸長、及び終結を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、プロモーター、エンハンサー、オペレーター及びリプレッサー配列などの転写開始を制御するものである。適切な転写制御配列には、本発明の細胞の少なくとも1種において機能し得る任意の転写制御配列が含まれる。種々のこのような転写制御配列が、当業者に公知である。好ましい実施形態では、本方法は、核酸分子または構築物を送達するためにアデノウイルスのようなウイルスベクターの使用を含まない。
【0104】
パラメータ範囲が提供される場合、その範囲内のすべての整数、及びその10分の1も本発明によって提供することが理解される。例えば、「0.2~5mg」とは、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mgなど~最大5.0mgまでの範囲を開示するものである。
【0105】
本発明の実施形態は、物質を細胞の内部に送達することができるように細胞膜に摂動を引き起こすために、制御下での変形を所定時間、細胞に適用する技術を提供する。変形は、例えば、機械的歪みまたは剪断力によって誘起する圧力によって引き起こすことができる。一例では、マイクロ流体システムは、流体を幾何学的に小規模(例えば、マイクロリットル、ナノリットル、またはピコリットルのようなサブミリリットル体積)に閉じ込めることによって流体を制御かつ/または操作する構造を備える。マイクロ流体システムは、実質的に任意のペイロードを細胞内に細胞内送達することができる。本システムは、細胞が通過する狭窄部を有する1つ以上のマイクロ流体チャネルからなる。好ましくは、液体培地に懸濁した細胞は、システムを介して圧力輸送され、マイクロ流体チャネルを通って流れる。細胞が狭窄部を通過すると、その細胞膜で摂動を生じ、膜が一時的に破壊され、その結果、周囲培地に存在するペイロードが取り込まれる。狭窄部は、標的細胞のサイズの関数のものであるが、好ましくは細胞直径と同じ次数か、またはそれ以下の関数のものである。並列及び/または直列に複数の狭窄部を配置することができる。細胞の摂動とは、細胞外の物質が細胞内に移動する(例えば、穴、裂け目、空隙、開口、細孔、切れ目、間隙、穿孔を介して)ことを可能にする細胞の破れ目である。本明細書に記載する方法によって生成する摂動(例えば、間隙または穴)は、補体または細菌溶血素によって生成するような多量体の多孔構造を形成するためのタンパク質サブユニットの会合の結果から形成されることはない。他の実施形態は、記載した主題の範囲内にある。
【0106】
細胞の「搾出」「圧搾」「変形」などへの言及は、それを使用する文脈と暗にまたは明確に矛盾しない限り、最小限の細胞傷害性で高分子を細胞の細胞質ゾルに直接送達するために使用するプロセスを指す。本アプローチの根底にある原則は、標的細胞の急速な機械的変形、または圧搾による一時的な膜破壊であり、これは、流体培地中の高分子の拡散による取り込みを可能にし、続いて細胞膜の修復が起こる(例えば、2014年9月25日公開の米国特許公開第2014/0287509号、及び2015年10月30日出願のPCT国出願番号第PCT/US2015/058489号参照。これらの各々の全体の内容は、参照により本明細書に援用する)。
【0107】
ミトコンドリア病
ミトコンドリア病は、機能不全のミトコンドリアに起因する。ミトコンドリア病は、例えば、ミトコンドリアDNA(mtDNA)またはミトコンドリア成分をコードする核遺伝子における後天性または先天性の変異によって生じ得る。疾患は、薬物、感染症、または他の環境的要因の副作用による後天性ミトコンドリア機能不全に起因し得る。ミトコンドリア病の例として、ミトコンドリア筋症;糖尿病性腎症;糖尿病及び難聴(DAD)のいくつかの形態;レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON);リー症候群;神経障害、運動失調、網膜色素変性症、及び眼瞼下垂(NARP);筋神経胃腸脳症(MNGIE);赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群(MERRF);ミトコンドリア筋症、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状(MELAS);ならびにミトコンドリア神経胃腸管脳筋症(MNGIE)が挙げられる。
【0108】
ミトコンドリアへの化合物の送達は、特に困難かつ予測不可能である。ミトコンドリアは細胞内に存在し、固有の外膜(及び内膜)も有する。ミトコンドリア病に対する治療オプション、及びミトコンドリア機能の改変用または生細胞中のミトコンドリア標識化用のツールは、限定されている(Marriage et al.,J Am Diet Assoc(2003)103(8):1029‐38;Kolesnikova et al.,Hum.Mol.Genet.(2004)13(20):2519‐2534)。
【0109】
本発明の態様は、化合物(核酸など)のミトコンドリアへの送達に関与するミトコンドリア病を予防または治療するための方法に関する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の装置及び/または方法を使用して、機能不全のミトコンドリアを保有する受精卵または未受精卵に核酸構築物を送達する。他の実施形態では、被験者の血液から採取した、機能不全のミトコンドリアを保有する循環細胞(例えば、免疫細胞)に核酸構築物を送達する。機能不全のミトコンドリアを保有する細胞に送達する構築物には、例えば、機能不全のミトコンドリア内において、産生されないか、不十分なレベルで産生されるか、または欠損しているミトコンドリアタンパク質を発現する組換え遺伝子を含めてもよい。図21に示すように、DFEを用いて送達する核酸は、核及びミトコンドリアの両方に到達する。好ましい実施形態では、核酸を、細胞内の機能不全のミトコンドリアに直接送達する。
【0110】
本発明の態様はまた、ミトコンドリア病及び/または機能を試験するための化合物の送達に関する。例えば、ミトコンドリア機能を調節するかつ/またはミトコンドリアを標識する抗体、有機分子、または他の化合物は、本明細書に記載の装置及び方法を用いて細胞に送達し得る。
【0111】
電場
本発明の態様は、標準的なまたは以前に記載した電気穿孔法のパラメータと比較して、より低い電場強度の使用、またはより短時間の電場への曝露に関する。電気穿孔法のパラメータは、多数の細胞型について報告されている。例えば、www.thermofisher.com/us/en/home/life-science/cell-culture/transfection/transfection---selection-misc/neon-transfection-system/neon-protocols-cell-line-data.htmlで入手可能なNeon(登録商標)形質移入システムに関する情報参照を参照されたい。また、Kim et al.,(2008) Biosens Bioelectron,23(9):1353‐1360参照も参照されたい。この全内容が参照により本明細書中に援用される。例えば、Neon(登録商標)形質移入システムは、0.3~1kv/cmの電場を5ms~50msのパルス持続時間で使用してもよい。Neon(登録商標)形質移入システムの電気穿孔法パラメータの例を、以下の表にも提供する。
【表1】
【0112】
化合物及び組成物を細胞へ輸送するための場
DFEは、標準的または以前に開示した電気穿孔法システムと比較して、核酸のより効率
的かつ迅速な送達(及びその後の機能、例えばコードされた遺伝子産物の発現)を、高い細胞生存率でもたらす。本発明は、電場のようなエネルギー場が、細胞変形狭窄部によって生じる細胞膜内の摂動を介してペイロードを輸送するか、ペイロードを細胞内のある位置から別の位置へ、例えば、細胞膜の近傍から1つ以上の細胞小器官へ輸送する方法、システム、及び装置を提供する。いくつかの例示的な実装形態は電場を用いるが、一方で他の輸送機構が有用である。輸送機構として、例えば1つ以上の電場、磁場、及び音場を利用してもよい。
【0113】
本明細書で使用する場合、電極とは、電荷を有し、電場を生成するように構成され得る任意の電気導体を指す。いくつかの実装形態は、電場及び/または磁場を生成する代替の方法及び/または構造を含んでもよい。
【0114】
本発明のいくつかの実施形態では、電場を使用してペイロードを細胞内に輸送する。電気工学分野の当業者は、電場を生成する様々な方法に精通していることが理解されるだろう。本発明の概要及び説明の全体にわたって電場の例を提供するが、これらの説明のいずれも限定的なものと解釈するべきではない。例えば、電場を、電極によって、または電極以外の手段によって生成してもよい。本発明の実施形態では、一定のまたはパルスされた電場の使用が想定される。電場は、定電流または直流パルス電流であってもよい。
【0115】
本発明の他の実施形態では、磁場を使用してペイロードを細胞内に輸送する。細胞が磁場を通過して移動する際に、磁場を生成して細胞のペイロードに力を加えることができる。磁場は、例えば鉄心の周りに巻いた絶縁ワイヤのコイルを有し得る電磁石によって作り出すことができる。磁場は、例えば強磁性物質などの永久磁石によって生成することもできる。
【0116】
マグネトフェクションにおいて、磁場は、細胞表面上に磁性粒子を集中させて、細胞内送達のためのエンドサイトーシス様プロセスを増強し得る。好ましい実施形態では、磁場の強度は、マグネトフェクションに必要な強度よりも低い。磁場を含むいくつかの実施形態では、磁場強度は0.01T~10Tである。磁場の強度は、ペイロードの磁気特性を含む多くの要因に基づいて変化し得る。非限定的な例では、1~1000T/m-1の範囲で磁場勾配を作り出すことができる。
【0117】
本発明の追加の実施形態では、音場を使用してペイロードを細胞内に輸送する。例えば、本発明の細胞変形狭窄部を出た後に、細胞を音場と接触させることができる。音場は、例えば、スピーカ、トランスデューサ、または他の同様の装置によって生成することができる。スピーカは、電磁波を音波に変換するトランスデューサである。スピーカは、コンピュータまたはオーディオ受信機などの装置からオーディオ入力を受信し得る。この入力は、アナログ形式またはデジタル形式のいずれでもよい。アナログスピーカーは、単純にアナログ電磁波を音波に増幅し得る。音波はアナログ形式で生成されるため、デジタルスピーカは最初にデジタル入力をアナログ信号に変換してから、音波を生成する必要がある。様々な周波数及び振幅で音波を生成することができる。いくつかの実装形態では、緩衝液または他の液体中において、低圧波及び高圧波を交互に繰り返すことにより、小さな真空気泡の形成及び崩壊がもたらされ、これはキャビテーションと呼ぶことができる。キャビテーションは、高速の衝突液体ジェット及び強力な流体力学的剪断力を引き起こし、これを利用してペイロード及び細胞を操作し得る。いくつかの実施形態では、超音波処理を使用して音場を生成する。
【0118】
音場に関するいくつかの実施形態では、音響エネルギー強度は、例えば、1~1000J/cmであってもよい。しかしながら、使用するエネルギーは、曝露時間、細胞型、使用する溶液または緩衝液、キャビテーションサイズなどの要因に応じて、この範囲よりも
低いかまたは高い場合がある。周波数の非限定的な例として、10KHz~10MHzが挙げられる。
【0119】
本発明の他の実施形態では、光学場を使用してペイロードを細胞内に輸送する。例えば、細胞が本発明の細胞変形狭窄部を出た後に、可視光電磁放射線を用いて物質を細胞内に輸送し得る。可視光電磁放射線源の例として、発光ダイオード(LED)、レーザー、及び白熱電球が挙げられる。
【0120】
CAR T細胞
癌特異的抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するようにT細胞を改変することにより、免疫検出を免れた腫瘍細胞を認識させて死滅させることができる。本プロセスは、患者のT細胞を抽出し、それらにCARの遺伝子を形質移入し、その後、形質移入した細胞を患者に再注入することを含む。
【0121】
これらの人工T細胞受容体(キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、またはCARとしても知られる)は、免疫エフェクター細胞に任意の特異性を付与する改変受容体である。一般的には、これらの受容体を使用してモノクローナル抗体の特異性をT細胞に付与する。本発明以前には、核酸コード配列の導入は、一般的には、レトロウイルスベクターによって促進していた。本明細書に記載の方法は、ウイルスベクターを利用または包含しない。ウイルスベクターを必要とせずに、記載の装置による細胞圧搾を用いて、T細胞などの免疫細胞の細胞質ゾルに、コード配列またはタンパク質CARを送達する。
【0122】
治療用途では、患者のT細胞を末梢血から採取し(また任意に濃縮または精製し)、特定の癌関連抗原に対して特異的な人工(キメラ)受容体を発現するように改変する。改変後、T細胞は癌を認識して死滅させる。例えば、例示的なCARは、B細胞悪性腫瘍において発現する抗原であるCD19を認識する。CARを発現するようにT細胞を改変した後、改変T細胞を患者に再注入する。操作細胞は癌性細胞を認識して死滅させる。このような治療は、ALL、非ホジキンリンパ腫、及び慢性リンパ性白血病(CLL)に使用されており、白血病、B細胞悪性腫瘍(例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)及び慢性リンパ性白血病)、及び固形癌などの血液由来の癌を含む任意のタイプの癌の治療に適している。本明細書に記載の細胞処理方法は、CAR T細胞を生成するための優れたプロセスを表す。
【0123】
いくつかの実施形態では、患者はヒトである。他の実施形態では、患者はヒト以外である。
【0124】
例示的な実施形態
本発明の態様は、細胞膜内に摂動を引き起こすためのマイクロ流体システムを提供し、該システムは、管腔を画定するとともに、緩衝液中に懸濁した細胞が管腔を通過できるように構成されたマイクロ流体チャネルを備え、マイクロ流体チャネルは細胞変形狭窄部を有し、狭窄部の直径は細胞の直径の関数であり、かつ該システムは、(a)エネルギー場;または(b)該狭窄部の下流、上流、もしくは上流及び下流に位置するエネルギー場のソースもしくはエミッタを有する。
【0125】
本発明の態様はまた、ペイロードを細胞に送達するためのマイクロ流体システムを提供し、該システムは、管腔を画定するとともに、緩衝液中に懸濁した細胞が管腔を通過できるように構成されたマイクロ流体チャネルを備え、マイクロ流体チャネルは、細胞変形狭窄部を有し、狭窄部の直径は細胞の直径の関数であり、かつ該システムは、(a)エネルギー場;または(b)該狭窄部の下流に位置するエネルギー場のソースもしくはエミッタを有する。
【0126】
いくつかの実施形態では、該エネルギー場は電場を含み、該ソースエミッタは電極を含む。特定の実施形態では、該エネルギー場は磁場を含み、該ソースまたはエミッタは、磁石または電磁石を含む。様々な実施形態において、該エネルギー場は、(a)音場を含み、該ソースもしくはエミッタがスピーカを備えるか、または(b)光学場を含み、該ソースもしくはエミッタが、発光ダイオード(LED)、レーザー、もしくは白熱電球を備える。
【0127】
様々な実施形態では、(a)狭窄部の直径は、ペイロードが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の一時的な摂動を誘発するように選択され、細胞は、狭窄部を通過して連続流で場へ到達し、該狭窄部を通過した後、細胞は、一時的な摂動を介してペイロードを輸送するのに十分な強度を有する場の一部に接触するもしくはそこを通過するか;または(b)該狭窄部を通過した後に、細胞は、該狭窄部の下流に位置する該装置のゾーン内に進入して留まり、このゾーン内で、細胞は場と接触する。
【0128】
特定の実施形態では、マイクロ流体チャネルは、マイクロ流体システム内の複数の平行なマイクロ流体チャネルの1つであり、複数の平行なマイクロ流体チャネルの各マイクロ流体チャネルは、管腔を画定するとともに、緩衝液中に懸濁した細胞が管腔を通過できるように構成され、各マイクロ流体チャネルは細胞変形狭窄部を有し、狭窄部の直径は細胞の直径の関数である。
【0129】
いくつかの実施形態では、複数の平行なマイクロ流体チャネルは、少なくとも約2、5、10、20、25、30、40、45、50、75、100、500、1,000、または2~1,000個のマイクロ流体チャネルを有する。
【0130】
様々な実施形態において、狭窄部の直径は、ペイロードが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の一時的な摂動を誘発するように選択される。
【0131】
特定の実施形態では、電極は、電場を生成する2つの電極を含み、緩衝液中に懸濁した細胞内にペイロードを輸送する。
【0132】
いくつかの実施形態では、ペイロードは、(a)デオキシリボ核酸(DNA);(b)リボ核酸(RNA);(c)インビボもしくはインビトロでDNAもしくはRNAの安定性もしくは半減期を増加させる1つ以上の修飾ヌクレオチドを含むDNAもしくはRNA;(d)ペプチド核酸(PNA);(e)メチル化DNA;(f)天然に存在する染色体もしくはその一部;(g)発現ベクター;(h)タンパク質;(i)小分子;(j)糖;(k)生物学的、合成的、有機的、もしくは無機的分子のポリマー;(l)荷電分子もしくは荷電分子を含む組成物;または(m)非荷電分子の1つ以上を含む。例えば、(a)~(m)のいずれか1つまたはそれらの任意の混合物を細胞に送達してもよい。特定の実施形態では、ペイロードは、局在化シグナルを含むポリペプチドである。
【0133】
様々な実施形態において、本発明のマイクロ流体システムは、さらに、電極対ごとに電極サイズが様々に異なる複数の電極対を有してもよい。
【0134】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体システムは、(a)少なくとも第一及び第二電極アレイに構成される複数の電極であって、第一電極アレイが第二電極アレイに対してずらして配置される複数の電極、または(b)少なくとも第一及び第二電極対アレイに構成される複数の電極対であって、第一電極対アレイが第二電極対アレイに対してずらして配置される複数の電極対を備える。様々な実施形態において、第一アレイを、水平面、垂直面、または対角面で、第二アレイに対し、約1、5、10、15、20、25、30、35
、40、45、50、55、60、70、80、90、1~10、1~20、1~30、1~45、または1~90°ずらして配置する。
【0135】
特定の実施形態では、本発明のマイクロ流体システムは、発振器をさらに備える。発振器は、細胞が細胞変形狭窄部によって収縮した後に、少なくとも1つの電極に連結され、その少なくとも1つの電極を駆動して電場を生成して、ペイロードを緩衝液中に懸濁した細胞に輸送するか;または、発振器は、細胞が細胞変形狭窄部によって収縮した後に、誘導によって少なくとも1つの電極を駆動して電場を生成し、緩衝液中に懸濁した細胞にペイロードを輸送する。
【0136】
いくつかの実施形態では、発振器は、少なくとも1つの電極を駆動して、約0.1~0.5、0.1~1、0.1~1.5、0.1~2、0.1~2.5、0.1~3kV/cm、1~3kV/cm、0.1~10kV/cm、10~200kV/m、または10~2000kV/mの強度を有する電場を生成するように構成される。
【0137】
様々な実施形態において、本発明のマイクロ流体システムは、細胞変形狭窄部を介して細胞を加圧下で輸送する細胞輸送部を備える。
【0138】
特定の実施形態では、緩衝液中に懸濁した細胞の流体流を狭窄部に流入させ、それにより、細胞を主に流体流によって圧縮する。
【0139】
いくつかの実施形態では、狭窄部の直径は、そこを通過する細胞の直径の約20~99%である。
【0140】
特定の実施形態では、狭窄部の直径は、約4、5、6、7、8、9、10、15、20 4~10μm、または10~20μm、及び/または狭窄部の長さは、約10、15、20、24、30、40、50、60、10~40、10~50、10~60、または10~40μmである。
【0141】
様々な実施形態において、該マイクロ流体チャネルは、単一の細胞変形狭窄部、または直列の複数の細胞変形狭窄部を有する。
【0142】
いくつかの実施形態において、細胞変形狭窄部を出てから約0.0001、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.001~0.005、もしくは0.0001~10秒後に、または約0.0001、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.01、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.001~0.005、もしくは0.0001~10秒以内に、細胞を電場と接触させる。
【0143】
特定の実施形態では、電場は約0.1~0.5、0.1~1、0.1~1.5、0.1~2、0.1~2.5、0.1~3kV/cm、1~3kV/cm、0.1~10kV/cm、10~200kV/m、または10~2000kV/mの強度の電場を有する。
【0144】
本発明の態様は、化合物または組成物の細胞への送達方法を提供し、該方法は、ペイロード含有溶液中に細胞を提供すること;細胞変形狭窄部を有するマイクロ流体チャネルに溶液を通すこと;狭窄部に細胞を通し、それによって細胞に圧力を加えて、ペイロードが細胞膜を通過して細胞の細胞質ゾルに入るのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;細胞を、電場、磁場、音場、または光学場に接触させ、それにより細胞内の第一位置から細胞内部の第二位置にペイロードを移送することを含む。
【0145】
本発明の態様はまた、化合物または組成物の細胞への送達方法を提供し、該方法は、ペイロード含有溶液中に細胞を提供すること;細胞変形狭窄部を有するマイクロ流体チャネルに溶液を通すこと;狭窄部に細胞を通し、それによって該通過により、ペイロードが細胞膜を通過して細胞の細胞質ゾルに入るのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を誘導すること;細胞を、電場、磁場、音場、または光学場と接触させ、それによって細胞内の第一位置から細胞内部の第二位置にペイロードを移送することを含む。
【0146】
本発明の態様は、化合物または組成物の細胞への送達方法を提供し、該方法は、ペイロード含有溶液中に細胞を提供すること;細胞変形狭窄部を有するマイクロ流体チャネルに溶液を通すこと;狭窄部に細胞を通し、それによって細胞に圧力を加えて、ペイロードが細胞膜を通過して細胞の細胞質ゾルに入るのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;細胞を、電場、磁場、音場、または光学場に接触させ、それによりペイロードを細胞内に輸送することを含む。
【0147】
いくつかの実施形態では、細胞を磁場と接触させ、磁場は少なくとも1つの電磁石によって生成する。様々な実施形態では、細胞を電場と接触させ、電場は1つ以上の電極によって生成する。
【0148】
特定の実施形態では、細胞を、第一装置内のマイクロ流体チャネルに通し、次いで第一装置から除去し、第二装置内の電場、磁場、または音場と接触させる。
【0149】
様々な実施形態において、マイクロ流体チャネル、ならびに電場、磁場、及び音場は、1つの装置内にある。
【0150】
いくつかの実施形態では、(a)細胞は狭窄部を通過して連続流で場に進入し、狭窄部を通過した後、一時的な摂動を介してペイロードを輸送するのに十分な強度を有する場の一部に接触するもしくはそこを通過するか;または(b)狭窄部を通過した後、細胞は、装置のゾーンに流入して留まり、そこで細胞は場と接触する。
【0151】
特定の実施形態では、細胞は複数の細胞であり、各細胞は複数の平行なマイクロ流体チャネルの1つを通過し、複数の平行なマイクロ流体チャネルの各マイクロ流体チャネルが細胞変形狭窄部を有し、そこで、複数の細胞が電場を通過する。
【0152】
様々な実施形態では、狭窄部の直径は、電場によって輸送する場合に、ペイロードが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の一時的な摂動を誘発するように選択される。
【0153】
いくつかの実施形態では、ペイロードは、(a)デオキシリボ核酸(DNA);(b)リボ核酸(RNA);(c)インビボもしくはインビトロでDNAもしくはRNAの安定性もしくは半減期を増加させる1つ以上の修飾ヌクレオチドを含むDNAもしくはRNA;(d)ペプチド核酸(PNA);(e)メチル化DNA;(f)天然に存在する染色体もしくはその一部;(g)発現ベクター;(h)タンパク質;(i)小分子;(j)糖;(k)生物学的、合成的、有機的、もしくは無機的分子のポリマー;(l)荷電分子もしくは荷電分子を含有する組成物;または(m)非荷電分子の1つ以上を含む。例えば、(a)~(m)のいずれか1つまたはその任意の混合物を細胞に送達してもよい。特定の実施形態では、ペイロードは、局在化シグナルを含むポリペプチドである。
【0154】
特定の実施形態では、細胞を電場と接触させ、ペイロードを、(a)細胞の核;(b)細胞のミトコンドリア;または(c)細胞の核もしくはミトコンドリア以外の細胞の細胞小器官内の1つ以上へ輸送する。
【0155】
様々な実施形態において、細胞を電場と接触させ、細胞が電場を通過する間に、または細胞が電場を通過してから0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、もしくは0.1~48時間未満後に、ペイロードを細胞の核内に輸送する。
【0156】
いくつかの実施形態では、細胞は複数の細胞であり、ペイロードは細胞核内にある場合に発現するDNAであり、複数の細胞が電場を通過してから約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、0.1~4、または0.1~48時間以内に、複数の細胞の少なくとも約10、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99、100、0~65、または10~100%が、該DNAを発現する。
【0157】
特定の実施形態では、2つの電極によって電場を生成し、緩衝液に懸濁した細胞内にペイロードを輸送する。
【0158】
様々な実施形態において、電極対ごとに電極サイズが様々に異なる複数の電極対によって電場を生成する。
【0159】
いくつかの実施形態では、電極に連結した発振器によって少なくとも1つの電極を駆動する。細胞変形狭窄部によって細胞を収縮させた後に、緩衝液に懸濁した細胞にペイロードを輸送するために、発振器は電極を駆動して電場を生成する。
【0160】
特定の実施形態では、緩衝液中に懸濁した細胞の流体流を狭窄部に流入させ、それにより、細胞を主に流体流によって圧縮する。
【0161】
いくつかの実施形態では、狭窄部の直径は、そこを通過する細胞の直径の約20~99%である。いくつかの実施形態では、狭窄部の直径は、約4、5、6、7、8、9、10、15、20 4~10μm、または10~20μmである。いくつかの実施形態では、狭窄部の長さは、約10、15、20、24、30、40、50、60、10~40、10~50、10~60、または10~40μmである。いくつかの実施形態では、細胞は、細胞変形狭窄部を出てから約0.0001、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.001~0.005、もしくは0.0001~10秒後に、または細胞は、細胞変形狭窄部を出てから約0.0001、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、0.001~0.005、もしくは0.0001~10秒以内に、電場と接触する。いくつかの実施形態では、電場に対する細胞の曝露時間は、約10~50ms、50~100msまたは10~100msである。いくつかの実施形態では、電場は一定である。いくつかの実施形態では、電場は、定電流または直流パルス電流である。いくつかの実施形態では、電場をパルスする。いくつかの実施形態では、電場は約50~200μsでパルスする。いくつかの実施形態では、電場の強度またはパルス強度は、約1~3kV/cmもしくは0.1~10kV/cm、または0.1~0.5、0.1~1、0.1~1.5、0.1~2、0.1~2.5、もしくは0.1~3kV/cmである。いくつかの実施形態では、電場の強度またはパルス強度は、細胞を電気穿孔するために必要な強度よりも低い。いくつかの実施形態では、パルス幅は、対応する細胞に等量のペイロードを供給するために必要なパルス幅よりも小さい。いくつかの実施形態では、電場の強度またはパルス強度は、細胞を電気穿孔するのに必要な強度よりも約50、1~50、50~99、または1~99%低い。いくつかの実施形態では、約10~35psiの圧力を使用して、溶液をマイクロ流体チャネルに通す。いくつかの実施形態では、細胞は、約300、100~300、200~700、250~400、100~1000mm/s、または1~1000mm/sの速度でマイクロ流体チャネルを通過する。いくつかの実施形態では、該マイクロ流体チャネルは、直列の複数の細胞変形
狭窄部を有する。いくつかの実施形態では、該マイクロ流体チャネルは、単一の細胞変形狭窄部を有する。いくつかの実施形態では、細胞は複数の細胞であり、電場通過後に、約80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、90~95、または80~100%の細胞が生存可能である。いくつかの実施形態では、電場の強度またはパルス強度は、約10~2000kV/m、または100kV/m未満である。いくつかの実施形態では、電場を、約0.1、0.1~2、または0.1~2000msの持続期間、1~20、0.1~2000、または1~200msの周期でパルスする。いくつかの実施形態では、細胞は、約100、170、300、100~300、200~700、250~400、100~1000mm/s、または1~1000mm/sの速度で電場を通過する。いくつかの実施形態では、細胞膜の摂動は、約1~20、1~600、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、または600nmの最大直径を有する。いくつかの実施形態では、約1~20、1~600、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、または600nmの最大直径を有する細胞膜の摂動が、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または1~10分間、細胞膜内で持続する。
【0162】
様々な実施形態において、細胞は、原核細胞または真核細胞である。特定の実施形態では、細胞は、赤血球、T細胞、B細胞、好中球、樹状細胞、マクロファージ、単球、NK細胞、ILC、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0163】
本発明の態様は、導入遺伝子をコードする発現ベクターの細胞への送達方法を提供し、該方法は、細胞及び発現ベクターを含む溶液を細胞変形狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;発現ベクターを細胞内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に溶液を通すことを含み、そこにおいて、導入遺伝子は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞内での導入遺伝子の発現と比較して、より速い速度で発現する。
【0164】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞内での導入遺伝子の発現と比較して、0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間早く発現する。
【0165】
本発明の態様はまた、導入遺伝子をコードする発現ベクターの細胞への送達方法を提供し、該方法は、胞及び発現ベクターを含む溶液を細胞変形狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;発現ベクターを細胞内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に溶液を通すことを含み、この場合、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞における該発現に比べて、導入遺伝子の細胞内での最大発現が、より速い速度で達成または検出される。
【0166】
いくつかの実施形態では、細胞内での導入遺伝子の発現は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場、磁場、または音場と接触した対応する細胞における該発現よりも、約0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間早く達成される。
【0167】
本発明の態様はまた、導入遺伝子をコードする発現ベクターの細胞への送達方法を提供し、該方法は、細胞及び発現ベクターを含む溶液を細胞変形狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起
こすこと;発現ベクターを細胞内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に溶液を通すことを含み、この場合、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞における発現に比べて、導入遺伝子は、細胞内で、より広範囲に発現する。
【0168】
いくつかの実施形態では、細胞が狭窄部を通過して場に接触した後、導入遺伝子の発現レベルは、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した対応する細胞における発現レベルよりも大きい。
【0169】
様々な実施形態において、細胞内での導入遺伝子の発現は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞内での導入遺伝子の発現よりも、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%大きいか、または2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上大きい。
【0170】
いくつかの実施形態では、細胞が狭窄部を通過してから約0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間以内における細胞内での導入遺伝子の発現は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞内での導入遺伝子の発現よりも、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%大きくなるか、または2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上大きくなる。
【0171】
本発明の態様は、導入遺伝子をコードする発現ベクターの細胞集団への送達方法を提供し、該方法は、細胞及び発現ベクターを含む溶液を細胞変形狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞の摂動を引き起こすこと;発現ベクターを細胞内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に溶液を通すことを含み、この場合、集団中の導入遺伝子を発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞集団中の導入遺伝子を発現する細胞の割合よりも大きい。
【0172】
いくつかの実施形態では、集団中の導入遺伝子を発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞集団中における導入遺伝子を発現する細胞の割合よりも、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%大きいか、または2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上大きい。
【0173】
いくつかの実施形態では、細胞が狭窄部を通過してから約0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間以内における集団中の導入遺伝子を発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞集団中における導入遺伝子を発現する細胞の割合よりも、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%大きいか、または2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上大きい。
【0174】
本発明の態様はまた、導入遺伝子をコードする発現ベクターの細胞集団への送達方法を提供し、該方法は、細胞及び発現ベクターを含む溶液を細胞変形狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞の摂動を引き起こすこと;発現ベクターを細胞内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に溶液を通すことを含み、この場合、集団中の導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞集団中の導入
遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合よりも大きい。
【0175】
特定の実施形態では、集団中の導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞集団中における導入遺伝子を発現する細胞の割合よりも、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%大きいか、または2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上大きい。
【0176】
いくつかの実施形態では、細胞が狭窄部を通過してから約0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間以内における、集団中の導入遺伝子を高レベルで発現する細胞の割合は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞集団中における導入遺伝子を発現する細胞の割合よりも、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100%大きいか、または2倍、5倍、8倍、10倍、20倍もしくはそれ以上大きい。
【0177】
本発明の態様は、導入遺伝子をコードする発現ベクターの細胞への送達方法を提供し、該方法は、細胞及び発現ベクターを含む溶液を細胞変形狭窄部に通し、それによって細胞に圧力を加えて、発現ベクターが通過するのに十分なほど大きい細胞膜の摂動を引き起こすこと;発現ベクターを細胞内に輸送するために、少なくとも1つの電極によって生成された電場に溶液を通すことを含み、この場合、導入遺伝子は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場を通過した細胞内の導入遺伝子の発現よりも、細胞内でより速く発現する。
【0178】
様々な実施形態において、導入遺伝子は、細胞変形狭窄部を通過することなく電場と接触した対応する細胞よりも、約0.1、1.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、または0.1~4時間早く発現する。
【実施例
【0179】
実施例1:DNA送達のためのマイクロ流体プラットフォーム
DNA形質移入のための多くの技術が開発されている。リポフェクションのような担体に基づく方法は、担体と細胞膜との相互作用、及び生物学的に活性なプロセスであるDNAの細胞内輸送に大きく依存する。マイクロインジェクションは、転写のためにDNAを核に直接送達するために使用されてきたが、スループットにより制限される。電気穿孔法はDNA形質移入に広く使用されているが、そのメカニズムに依然として議論の余地があり、また電気パルス後の原形質膜から核への能動的DNA輸送に依存する点でも制限がある。ここでは、破壊及び場による送達(DFE;本用語は本実施例の実施形態に限定されない)と名付けた細胞内送達の概念を説明する。DFEでは、まず破壊によって原形質膜内の摂動部が開き、次いでこれらの間隙を介した細胞質及び核へのDNA送達が可能になる。本戦略は、機械的破壊と電場との組合せに関し、GFPプラスミドDNAのような積荷分子またはその混合物を核に直接送達し、処理後1時間以内に発現させるものであり、これは電気穿孔法のような他の方法よりも迅速である。この新規戦略は、形質移入が困難な細胞に対する細胞内遺伝子送達、及び広範な物質の同時送達に有用である。
【0180】
細胞形質移入は、生物学及び医学における多くの試験にとって不可欠である。生物学的、化学的、及び物理的方法を含む細胞形質移入のための様々な技術が開発されている。生物学的/化学的方法は、通常、ウイルス、小胞、ペプチドまたはナノ粒子などのキャリアに依存する(Nayak et al.,Gene Ther.17,295‐304(2010);Wu et al.,Biotechnol.Progr.18,617‐622(2002);Schmid et al.,Gut 41,549‐556(1997);Lee et al.,Nat.Nanotechnol.7,389‐393
(2012))。物理的方法は、主に、マイクロインジェクション、電気穿孔法、レーザーポレーション、及び微粒子銃を含む遺伝子送達用の膜破壊技術を用いる(O’Brien&Lummis,Nature Protoc.1,977‐981(2006);Wells,D.J.Gene Ther.11,1363‐1369(2004);Meacham et al.,J.Lab.Autom.19,1‐18(2014);Capecchi,Cell 22,479‐488(1980);Nagy et al.,Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory,2003))。裸の核酸の細胞への送達は、細胞形質移入のための最も安全かつ最も頑強なアプローチである可能性が高い(Wolff&Budker,Advances in Genetics,54,3‐20(2005))。裸の遺伝物質を送達することができる物理的方法の中でも、電気穿孔法は、単純性、適度に良好な効率、及び特定の困難な初代細胞に対処する能力ゆえに、これまでで最も普及している方法である(Neumann et al.,EMBO J.1,841‐845(1982))。1980年代初頭の最初の報告以来、電気浸透法としても知られている電気穿孔法は、生物学的及び医学的応用における多くの異なる細胞に対する核酸の細胞内送達に広く用いられてきた。電気穿孔法はその利点を実証し、DNA形質移入に広く使用されているが、その基礎となる送達機構は完全には理解されていない(Escoffre et al.,Mol.Biotechnol.41,286‐95(2009);Vasilkoski et al.,Phys.Rev.E 74,021904(2006);Klenchin et al.,Electrically induced DNA uptake by cells
is a fast process involving DNA electrophoresis.60,(1991);Weaver et al.,Bioelectrochemistry 87,236‐43(2012);Jordan et al.(Eds.)(2013) Electroporation and electrofusion in cell biology. Springer Science&Business Media)。電気穿孔プロセスでは、DNA分子が電気パルス中に蓄積して、電気透過性の原形質膜と相互作用することが広く認められている。その後、これらのDNA凝集体は細胞質に内在化し、続いて遺伝子発現を引き起こす(Golzio et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.99,1292‐1297(2002);Paganin‐Gioanni et al. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.108,10443‐7(2011);Rosazza et al.Mol.Ther.21,2217‐2226(2013);Boukany et al.,Nat.Nanotechnol.6,747‐54(2011);Teissie et al.,Biochim.Biophys.Acta 1724,270‐80(2005);Yarmush et al.,Annu.Rev.Biomed.Eng.16,295‐320(2014);Geng&Lu,Lab
Chip 13,3803‐21(2013))。DNAプラスミドが、単に拡散によって粘性で密集した細胞質を通り抜けて核に到達する可能性は低い(Lechardeur et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.57,755‐767(2005);Dowty et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92,4572‐4576(1995))。いくつかの研究は、原形質膜から核へのDNAの輸送が、微小管及びアクチンネットワークなどを介するものなどの細胞骨格輸送による能動的な生物学的プロセスであることを示している(Rosazza et al.Mol.Ther.21,2217‐2226(2013))。微小管及びアクチンネットワークは、細胞質内のDNA輸送において重要な役割を果たし、このようなプロセスの時間スケールは、細胞型に応じて長時間になり得ることが見出されている。原形質膜と核との間のDNA輸送の不明確なメカニズム及び複雑な性質は、形質移入が困難な細胞に対する電気穿孔法のさらなる適用及び改善を妨げる。さらに、現行の電気穿孔法で使用する強力な電場は、深刻な損傷または細胞死を招く場合がある(Yarmush et
al.,Annu.Rev.Biomed.Eng.16,295‐320(2014);Geng&Lu,Lab Chip 13,3803‐21(2013))が、本明細書に記載するDFEによってこの問題は回避される。この点において、明確に定義されていない輸送経路に頼ることなく、裸のDNAを核に直接移送できる技術の開発には、大きな関心が寄せられている。従来の方法またはアプローチは、技術的に複雑であることが多く、スループットが比較的低く、特定の一次細胞に対する適合性がない。
【0181】
核へのDNAのハイスループット、効率的な送達
本明細書において、破壊及び場による送達(DFE)の概念の展開例を開示する。本アプローチでは、まず機械的プロセスによって細胞膜を破壊した後に、細胞を場に曝露して物質を標的細胞に輸送する。ハイスループットでDNAを細胞の核に直接送達することができるマイクロ流体装置が開発されている。DFE概念の1つの実装形態は、細胞圧搾を用いて細胞膜を一時的に破壊した後に細胞を電場に曝露し、それにより、例えば核膜またはミトコンドリア膜などの膜破壊を介して負に荷電しているDNAを輸送し、かつカート(carto)を細胞の細胞質ゾルへ送達した後に細胞核内へ輸送することを含む。CellSqueeze技術は、様々な細胞型にわたって多様な物質を送達する頑強な能力を実証したが、単独ではDNAの核送達を促進するには効果的ではない(Shalek et
al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.107,1870‐5(2010))。DNA分子が原形質膜に向かって電気泳動的に移動して原形質膜上に凝集する電気穿孔法とは異なり、DFEプロセスでは、DNA分子は、機械的破壊によって生じる細胞膜内の摂動または間隙を介して細胞内へかつ/または細胞内部において移動する。例えば、図9A参照。本組合せプロセス(DFE)は、積荷、例えば荷電化合物、例えばDNAの、細胞質ゾル及び細胞下構造への送達において相乗効果をもたらす。相乗効果は、送達する積荷の機能、例えば、送達するDNAによる遺伝子発現を測定することによって実証される。
【0182】
本実施例は、機械的破壊と電場への曝露とを組み合わせることにより、DNAを核内にハイスループットで直接送達することができる特有のマイクロ流体装置について記載する。細胞圧搾技術は、原形質膜を機械的に破壊する効率的な技術であることが判明している。細胞が、細胞直径よりも小さい最小寸法を有する狭窄チャネルを通って流れる際に、一時的な変形によって、原形質膜に穴が形成され、それを通って周囲の物質が細胞の細胞質ゾル中に直接拡散し得る。
【0183】
図9A~Cに示すように、各装置は、平行で同一の狭窄チャネルのセット及び電極のセットにより統合される。本実施例に記載する実験では、DRIE(深掘り反応性イオンエッチング)を用いて、75本の平行チャネルをシリコンウェーハにエッチングし、電極でパターン化したPyrexの陽極接合によって封止した(製造の詳細については図13参照)。狭窄部の幅及び長さは、それぞれ4~10um及び10~30umの範囲である。各電極間の長さ、幅、及び間隙空間は、それぞれ8mm、60um、及び40umである。装置に印加する電気パルスの持続時間とデューティサイクルは、50~200us及び1~5%の範囲である。本発明の方法は、非常に高いスループットで操作され得る。例えば、細胞は、少なくとも約10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、100,000、200,000、300,000、400,000、500,000、1,000,000、または1~1,000,000細胞/sのスループットで処理され得る。細胞と所望の物質との混合物を、調整器で制御するガス圧力、例えば窒素圧力によって入口に輸送する。試料を装置に配置する際に装置に電気パルスを印加し、それにより、細胞を圧搾直後に電場に曝す。細胞の電場への曝露時間は、流速に応じて通常10~50msの範囲である。
【0184】
DNA送達の作用機序を調べるために、図10A及び10Bに示すように、モデル細胞及
びモデルカーゴを使用して多数の実験を行い、本DFE技術の性能を特徴付けた。HeLa細胞とGFPプラスミドDNAとの混合物を異なるパルス振幅を用いてDFE装置で処理した。次いで、細胞を37Cで24時間インキュベートした。フローサイトメトリーを用いてGFP蛍光を測定することによりDNA発現を特徴付けた。本実験ではDFE10‐6装置を使用した。DFE10‐6とは、DFE装置の狭窄部寸法を示しており、第一の数字は狭窄部の長さに対応し、第二の数字は幅(ミクロン単位)に対応する。機械的破壊の性能に影響を及ぼす2つの支配的パラメータとして、細胞速度及び狭窄部寸法が挙げられ、電場の性能を支配する3つのパラメータは、電気パルスプロファイル、強度、及びパルス数である(チャネル内の細胞速度に依存する)。最初に、パルス強度がDNA形質移入にどのように影響するかを調べた。DFE10‐6処理では、適用する振幅をそれぞれ8V及び10Vに増加した場合、図10Aの赤色のカラムに示すように、細胞形質移入率は60%及び90%を上回る。対照群として、細胞は、同等の電場及び細胞速度を有するが、狭窄構造(本実験では、圧力ではなく速度を制御した)を有しない装置を用いて処理した。細胞を電場にのみ供して機械的破壊には供さないような設計においては、印加する振幅を14Vに増加した後、DNA形質移入効率は60%に達する。図10Bに示すように、両方の場合で、同等の細胞生存率を共有しており、これは、より低い電場強度で、機械的破壊がDNA送達を劇的に増強しながら、細胞にはほとんど損傷をもたらさないことを示している。原形質膜の機械的破壊は、その後の電気的形質移入プロセスを促進する。
【0185】
細胞速度が形質移入に及ぼす影響も調べた。例えば、図14に示すように、10Vの印加パルスの下では、細胞が電場を通過する際に受けるパルスの数が減少するため、細胞速度が増加するとDNA発現が減少する。細胞生存率とDNA発現との望ましい平衡は、300mm/s付近の細胞速度で達成された。これらの例示的な条件により、低速での電気的損傷及び高速での機械的損傷による潜在的に深刻な影響の平衡が保たれる。膜不透過性のCascade Blue標識3kDaデキストラン分子の生存HeLa細胞への送達効率は、細胞速度の増加に伴い、まずは低下し、その後増加するが、このことは、この分子の送達の潜在的な支配的役割が、機械的破壊から電場へ切り替わり、その後機械的破壊に戻ることを示している。3kDaデキストランの場合とDNAの場合との挙動の違いにより、DNAに対する電場効果の重要性がさらに強調されている。
【0186】
DFE送達のメカニズムをさらに調べるために、DFE及び他の4つの広範に使用されているDNA形質移入技術、すなわちマイクロインジェクション、リポフェクトルミン(lipofectormine)2000、ME(マイクロ流体(圧搾なし)+電場)及びBEP(一般的な市販の電気穿孔ツールであるNEON電気穿孔システムを用いたバルク電気穿孔)を用いて、HeLa細胞をGFPプラスミドDNAで形質移入する能力について比較試験を行った。図11に示すように、各技術による処理の後、フローサイトメトリーを用いてGFP発現を分析した。BEP及びMEは、処理後の最初の24時間以内にGFPが徐々に発現したときに、同様の発現動態を示した。形質移入した細胞の70%は、4~48時間の間にGFPを発現した。しかしながら、マイクロインジェクション及びDFEでは、GFPを発現する細胞(48時間後にGFP蛍光を発現する細胞)の80%以上が処理後1時間以内に測定可能な発現を示し、処理の直後にDNA転写/翻訳が起こることを示した。残りの20%の最終的にGFPを発現する細胞(48時間後にGFPを発現する細胞)は、処理後1~4時間で検出可能な発現を有していた。マイクロインジェクションは、核への物質の直接注入を容易にする手段として広く認められている。マイクロインジェクションとDFEが類似のDNA発現動態を共有しているという事実は、DFEによって送達したDNAが核内の転写に直ちに利用可能であるという強力な証拠である。対照的に、リポフェクション(Lipofectamine 2000)の場合、処理後最初の4時間で最小のGFP蛍光が認められ、処理後4~48時間で95%以上の形質移入細胞がGFPを発現した。DFE、BEP、及びリポフェクションによるGFP発現細
胞の蛍光画像を図15に示す。DFEの機構をよりよく理解するために、図16に示すように、HeLa細胞内で発現したGFPの蛍光強度を統計的に比較した。BEPでは、核への移動及びその後の転写には多くの時間が必要であり、GFP蛍光は24時間にわたって増加していた。形質移入した細胞の大部分の蛍光強度は、処理直後に増加し始め、6時間以内に飽和した。このことは、DNAを核内に送達した場合と同等の開始時点からDNA転写が起きていたことを示している。
【0187】
DNA移送の作用機序をさらに調べるために、DNAの分布を、CY3標識プラスミドDNAを用いて単一細胞レベルで直接視覚化した。最初に、核及び膜の染色のために、細胞をDAPI及びCell Mask緑色原形質膜染色薬の存在下でインキュベートし、次いで標識DNAと混合し、その直後にDFE、BEP、及び機械的破壊処理を行った。処理後、細胞を培地中で2分間インキュベートし、次いで細胞固定キットを使用して固定した。Nikon A1R共焦点顕微鏡を用いて光学的測定を行った。細胞を透過性にすることが知られている15ms/1200Vの電気パルスを印加すると、細胞膜レベルでCY3蛍光が鮮明に発現した。これは、膜上へのDNAの吸収及び蓄積を示した。この結果は、原形質膜へのDNAの非対称的な埋め込みを示す以前の試験と一致していた。フローサイトメトリーに基づく以前の研究では標識DNAの多少の送達が認められたものの、機械的破壊では、共焦点顕微鏡を用いても、細胞質内での標識DNAの蛍光検出は、ほとんどまたは全く認められなかった。DFEにおいて、標識DNAの蛍光は、細胞質、核、及び原形質膜に分布していることが判明した。興味深いことに、BEPが単極性特性を有していたのに対し、原形質膜中のDNAは双極式に分布しており、このことは電場に曝されている間の、標識DNAの進入経路及び細胞からの放出経路を潜在的に示している。細胞質及び核におけるDNAの直接視覚化は、DFEが、核にDNAをより効果的に直接送達できることをさらに示している。このような結果は、DFEが、細胞内の細胞質ゾル、核及び他の細胞内小器官への機能性物質の効率的な送達を促進するより強力な手段を提供することを実証する。
【0188】
細胞内送達は、多様な用途において重要な役割を果たす困難なプロセスである。リポソーム及びナノ粒子ベースの方法では、一次細胞または非核酸の移送が困難であり、電気穿孔法では毒性の問題を有し、高度に荷電していない高分子には効果がなく、機械的破壊方法では適切な核送達を提供することが困難な場合がある。DFEは、機械的膜破壊の有効性と場の輸送力とを組み合わせることにより、機械的破壊の頑強な送達能力を維持しながら、核酸などの荷電性の積荷、例えばプラスミドの核送達を促進する。
【0189】
原形質膜から核へのDNAの輸送及びその後の転写は、複雑で、より能動的である可能性が高いプロセスであり、このプロセスは、数時間要する場合があり、異なる細胞型間で劇的に異なる可能性がある。このプロセスは、電気穿孔法、及びリポフェクションなどの担体に基づく方法において必須であり、免疫細胞及び幹細胞などの導入が困難な細胞のDNA形質移入を妨害すると考えられる。本明細書に記載するデータは、機械的破壊と電場とを組み合わせることにより、DFEが直接的に、DNAを細胞質及び核に送達することを示す。まず、狭窄部を有するマイクロチャネルに細胞を通し、原形質膜上に摂動をもたらした。いかなる科学的理論にも拘束されることを望まないが、この結果は、その後の電場への曝露により、周囲のDNAを細胞質及び核に輸送することを示している。HeLa細胞、GFPプラスミドDNA、及びCy3蛍光標識プラスミドDNAを用いて、単一細胞レベル及び統計レベルでDFEの作用機序を調査して試験した。これは、担体の補助を伴わずに示されるハイスループット設定における最も迅速に裸のDNAプラスミドを発現するものである。異なる技術を用いたDNA転写プロセスの視覚化を比較した。図10のリポフェクションのDNA発現ダイナミクスは、核へのDNA移送及びその後の転写がHeLa細胞では4時間以上を要することを示している。従来の電気穿孔法によるDNA発現はわずかに速かった。電気穿孔プロセス中にDNAがどのようにして核に移動するかにつ
いては議論が進行中である。電気パルスが細胞膜を透過性にし、電気泳動が核に直接DNAを輸送すると考えている者もいれば、一方でDNAが原形質膜の電気透過性領域で凝集体を形成し、次いで生物学的に能動的なプロセスを介して核に移動すると述べる者もいる。本実施例に記載するBEPの結果では、形質移入した細胞の20%が最初の1時間以内にGFPを発現し、80%が次の20時間にわたって発現する。これは、前述のメカニズムの両方がBEPで起きたことを示している可能性がある。処理直後にGFPを発現する細胞のごく一部は、DNAの核への電気泳動を直接行うことができるが、その一方で4時間後にGFPを発現する細胞の大半は、発現のために、リポフェクションのように、DNAを核に輸送する必要がある。
【0190】
DFE送達パラダイムは、膜破壊及び場効果を組み合わせて、個々の任意の技術に比べて、より高い有効性、例えば相乗効果を達成する。電気穿孔法は、多くの細胞型のDNA形質移入に対応可能であるが、タンパク質などのいくつかの物質の送達には限界があり、かつ毒性を有し得る。圧搾のような機械的破壊技術は、タンパク質及びナノ物質をはじめとする様々な物質を、多様な細胞型に、最小限の毒性で送達することにおける大きな成功を示している。しかしながら、核送達が効果的ではないと推定されるために、DNAに関してはこれらの成功は限定的なものだった。機械的破壊と電場効果とを組み合わせることにより、DFEは、より良好な、例えば、DNA発現に対する相乗的結果を示し、上述のいずれかの個々の方法では達成することが困難なマイルストーンであるタンパク質の送達を可能にする。
【0191】
装置の製造及び実験のセットアップ
シリコンウェーハをPyrexウェーハに結合させて、DFEマイクロ流体装置を形成した。下記の2つの主要な工程、すなわち(1)シリコンウェーハ上へのマイクロ流体チャネルの製造、及び(2)Pyrexウェーハ上へのマイクロ流体電極の製造が製造に関与していた。入口及び出口リザーバを備えたホルダに装置を取り付けた。発振器(Agilent E4422B)から電気パルスを発生させ、増幅器を介して増幅し、導電性エポキシを用いて電極パッドに結合したワイヤを介して装置を駆動した。所望の送達物質(積荷化合物または組成物)と混合した細胞の溶液を、入口リザーバ内に配置する。次いでこのリザーバを、調整器によって制御される圧縮空気ラインに接続する。圧力(0~20psi)を利用して流体を輸送して装置に通過させるとともに、細胞が通過する際に装置に電気パルスを印加する。出口リザーバから細胞を回収してさらに処理する。
【0192】
上記のように、2つの主要な工程、すなわち(1)Pyrexウェーハ上への電極の製造、及び(2)シリコンウェーハ上へのマイクロ流体チャネルの製造がマイクロ流体装置の製造に関与していた(図13)。図13(a~d)は、電極のプロセスを示す。6インチのPyrexウェーハ上にフォトレジスト層(SPR3012,MicroChem,Newton,MA)をスピンコートし、UV光源を用いてパターン化し、フォトレジスト現像液(MF CD‐26,Microposit)中で現像した。続いて電子ビーム蒸着装置(Semicore Corp)を用いて二層金属(Ti/Pt、50Å/500Å)をウェーハ上に蒸着した後、リフトオフプロセスによりフォトレジストを除去し、電極及びパッドを形成した。図13(e~h)に示すように、シリコンマイクロ流体チャネルの製造には、フォトリソグラフィーの2つの工程が関与した。シリコンウェーハをフォトレジスト(Shipley1827,MicroChem,Newton,MA)で最初にパターン化し、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE,Adixen, Hingham, MA)によってエッチングした。第二のフォトリソグラフィー及びDRIEを適用して、シリコンウェーハをエッチングし、マイクロ流体装置の入口及び出口を形成した。
【0193】
最後に、300及び800Vでの陽極接合を用いてシリコン層をPyrex層で密封し、
6×23mmの寸法を有する別々のチップにダイシングした。最終的な装置を図9Bに示す。セットアップに使用する装置の電極フィンガー部の幅及び間隙空間は、それぞれ、40μm及び60μmである。シリコン基板内のマイクロ流体チャネルの高さは20μmである。
【0194】
細胞培養:10%ウシ胎仔血清(FBS,、Invitrogen 16000)を補充した20mLのDMEM培地を含む75Tフラスコ中でHeLa細胞を培養した。5%COを含む加湿雰囲気中、37Cで、Tフラスコに細胞を播種した。
【0195】
送達物質:デキストラン及びプラスミドDNAを含む蛍光標識分子を0.1mg/mLの濃度で細胞溶液に混合した。GFP DNAプラスミドを用いてDNA形質移入を測定した。
【0196】
リポフェクション:Lipofectamine 2000 DNA形質移入キットを用いてリポフェクション技術を示した。2μLのLipofectamine 2000試薬と1μgのDNAプラスミドを含む100μLのOpti‐MEM培地とを組み合わせることにより、DNA‐脂質複合体を調製した。
【0197】
マイクロインジェクション:HeL細胞へのDNAプラスミドのマイクロインジェクションを、マサチューセッツ工科大学の熟練技術スタッフが実施した。各回につき30個の細胞を注入した。注射用緩衝液中のDNA濃度。
【0198】
その他の実施形態
本明細書に記載する主題は、所望の構成に応じて、システム、装置、方法、及び/または物品に具体化することができる。上記の説明の実装形態は、本明細書に記載する主題に合致する全ての実装形態を表すものではない。代わりに、それらは、記載する主題に関連する態様に合致する単なるいくつかの例に過ぎない。いくつかの変形例を上記で詳細に説明したが、他の修正または追加が実行可能である。特に、本明細書に記載したものに加えて、さらなる特徴及び/または変形を提供することができる。例えば、上記の実装形態は、開示した特徴の様々な組合せ及び部分的組合せ、ならびに/または上記のいくつかのさらなる特徴の組合せ及び部分的組合せを対象とすることができる。さらに、添付の図面に示し、かつ/または本明細書に記載した論理フローは、望ましい結果を達成するために、示した特定の順序または連続的順序を必ずしも必要としない。他の実装形態は、添付の特許請求の範囲の範囲内であり得る。
【0199】
本明細書で参照する特許及び科学文献は、当業者が利用可能な知識を確立する。本明細書で引用するすべての米国特許及び公開または非公開の米国特許出願を、参照により援用する。本明細書で引用するすべての公開外国特許及び特許出願を、参照により本明細書に援用する。本明細書に引用される、受託番号によって示すGenbank及びNCBI提出物を、参照により本明細書に援用する。本明細書で引用する他の公開文献、文書、原稿及び科学文献を、参照により本明細書に援用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A-9C】
図10A-10B】
図11A
図11B
図11C
図12A-12C】
図13A-13I】
図14
図15A
図15B
図16A
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図21C