(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】金属樹脂複合成形体及び金属樹脂複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 43/16 20060101AFI20241121BHJP
H01R 13/405 20060101ALI20241121BHJP
H01R 13/52 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
H01R43/16
H01R13/405
H01R13/52 Z
(21)【出願番号】P 2024109098
(22)【出願日】2024-07-05
【審査請求日】2024-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509337517
【氏名又は名称】株式会社コジマプラスチックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 奨平
(72)【発明者】
【氏名】野田 修司
(72)【発明者】
【氏名】横田 誠
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-081737(JP,A)
【文献】特許第7270939(JP,B2)
【文献】特開2017-147079(JP,A)
【文献】特開2021-136057(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110492300(CN,A)
【文献】特開2014-216165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/40-13/533
H01R 43/00
H01R 43/027-43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板形状の金属端子と、
前記金属端子の両端を露出させるとともに、前記金属端子の中間部分を埋設させる、樹脂部品と、
を備える、金属樹脂複合成形体であって、
前記金属端子の前記中間部分には、
溝が形成され、
前記金属端子の厚さ方向両面に形成された第一溝部と、前記金属端子の幅方向両面に形成され前記第一溝部に接続される第二溝部によって、前記金属端子の全周に亘って前記溝が形成され、
前記第一溝部は、前記第二溝部よりも深く、
前記第一溝部の長手方向端部には、底面に板状部が寝かされた状態で配置される、
金属樹脂複合成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の金属樹脂複合成形体であって、
圧印加工によって凹部及び凸部が全周に亘って形成されることで、前記溝が形成され、
前記溝は、前記中間部分の長手方向に沿って複数配列され、
前記凹部は、前記中間部分の非圧印面から陥没し、
前記凸部は、前記中間部分の前記非圧印面から突出し、
前記凹部及び前記凸部による前記溝の側面が、前記非圧印面に対して垂直に延設される、
金属樹脂複合成形体。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の、金属樹脂複合成形体であって、
複数の前記溝は、少なくとも一部は異なるピッチで配列される、
金属樹脂複合成形体。
【請求項4】
平板形状の金属端子と、
前記金属端子の両端を露出させるとともに、前記金属端子の中間部分を埋設させる、樹脂部品と、
を備える、金属樹脂複合成形体の製造方法であって、
押圧面に凹凸形状が形成された金型で、前記中間部分の厚さ方向両面、及び、幅方向両面を圧印加工することで、前記中間部分に、全周に亘って溝を形成し
、
前記金型は、前記押圧面に凹凸形状が形成された第一金型と、前記第一金型と同一溝幅及び同一ピッチの凹凸形状が前記押圧面に形成された第二金型及び第三金型を備え、
前記圧印加工は、
前記第一金型で、前記中間部分の厚さ方向両面を圧印加工することで、前記中間部分に第一溝部を形成する、第一溝部加工と、
前記第一溝部加工後に、前記第二金型で、前記中間部分の幅方向両面を圧印加工することで、前記第一溝部と接続する第二溝部を前記中間部分に形成する第二溝部加工と、
前記第二溝部加工後に、前記第三金型で、前記第一溝部の長手方向端部に形成された板状部を、前記第一溝部の底面に寝かせるように折り曲げる、折り曲げ加工と、
を含む、
金属樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の、金属樹脂複合成形体の製造方法であって、
前記第一金型は、前記第二金型よりも凹凸溝が深い、
金属樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項6】
平板形状の金属端子と、
前記金属端子の両端を露出させるとともに、前記金属端子の中間部分を埋設させる、樹脂部品と、
を備える、金属樹脂複合成形体の製造方法であって、
押圧面に凹凸形状が形成された金型で、前記中間部分の厚さ方向両面、及び、幅方向両面を圧印加工することで、前記中間部分に、全周に亘って溝を形成し、
前記金型は、前記押圧面に凹凸形状が形成された第一金型と、前記第一金型と同一溝幅及び同一ピッチの凹凸形状が前記押圧面に形成された第二金型及び第三金型を備え、
前記圧印加工は、
前記第二金型で、前記中間部分の幅方向両面を圧印加工することで、前記中間部分に第二溝部を形成する、第二溝部加工と、
前記第二溝部加工後に、前記第一金型で、前記中間部分の厚さ方向両面を圧印加工することで、前記第二溝部と接続する第一溝部を前記中間部分に形成する第一溝部加工と、
前記第一溝部加工後に、前記第三金型で、前記第二溝部の長手方向端部に形成された板状部を、前記第二溝部の底面に寝かせるように折り曲げる、折り曲げ加工と、
を含む、
金属樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項7】
平板形状の金属端子と、
前記金属端子の両端を露出させるとともに、前記金属端子の中間部分を埋設させる、樹脂部品と、
を備える、金属樹脂複合成形体であって、
前記金属端子の前記中間部分には、溝が形成され、
前記金属端子の厚さ方向両面に形成された第一溝部と、前記金属端子の幅方向両面に形成され前記第一溝部に接続される第二溝部によって、前記金属端子の全周に亘って前記溝が形成され、
前記第一溝部または前記第二溝部の長手方向端部には、底面に板状部が寝かされた状態で配置される、
金属樹脂複合成形体
。
【請求項8】
平板形状の金属端子と、
前記金属端子の両端を露出させるとともに、前記金属端子の中間部分を埋設させる、樹脂部品と、
を備える、金属樹脂複合成形体であって、
前記金属端子の前記中間部分には、溝が形成され、
前記金属端子の厚さ方向両面に形成された第一溝部と、前記金属端子の幅方向両面に形成され前記第一溝部に接続される第二溝部によって、前記金属端子の全周に亘って前記溝が形成され、
前記第二溝部は、前記第一溝部よりも深く、
前記第二溝部の長手方向端部には、底面に板状部が寝かされた状態で配置される、
金属樹脂複合成形体
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、金属樹脂複合成形体及びその製造方法が開示される。
【0002】
特許文献1には、金属樹脂複合成形体が開示される。例えば金属端子がインサート部品となって、金属樹脂複合成形体がインサート成形される。
【0003】
金属端子の両端は樹脂から露出される。また中間部分は樹脂に埋設される。金属端子の一端は例えば基板に接続される。金属端子の他端はモータのステータなど、液体に晒される環境に置かれる。金属端子の埋設部分(すなわち中間部分)には、シール性を持たせるために、長手方向に沿って複数の溝が形成される。溝は、金属端子の全周に亘って形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プレス成形機を用いた圧印加工(コイニング)によって、金属端子に溝を形成させようとすると、プレス加工の過程で肉逃げが起こるおそれがある。この肉逃げによって、溝内に壁が形成され、溝がその断面全面に亘って塞がれることで、溝によるシール性の維持が困難となる。
【0006】
そこで、本明細書では、圧印加工によって金属端子に溝を形成する際に、溝によるシール性を維持可能な、金属樹脂複合成形体及びその製造方法が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書では、金属樹脂複合成形体が開示される。この成形体は、平板形状の金属端子と、樹脂部品を備える。樹脂部品は、金属端子の両端を露出させるとともに、金属端子の中間部分を埋設させる。金属端子の中間部分には、押印加工によって凹部及び凸部が全周に亘って形成されることで、溝が形成され、溝は、中間部分の長手方向に沿って複数配列される。凹部は、中間部分の非圧印面から陥没する。凸部は、中間部分の非圧印面から突出する。
【0008】
上記構成によれば、凹部形成時に発生する逃げ肉を、凸部の嵩上げに利用することが出来る。
【0009】
また上記構成において、凹部及び凸部による溝の側面が、非圧印面に対して垂直に延設されてよい。
【0010】
上記構成によれば、凹部内に充填された樹脂が熱膨張及び熱収縮する際に、側面と樹脂によって、樹脂と金属端子との界面がシールされる。
【0011】
また上記構成において、凹部の、非圧印面からの陥没深さよりも、凸部の、非圧印面からの突出高さが低くてもよい。
【0012】
上記構成によれば、凹部を押印加工する際に発生する逃げ肉量よりも、凸部に逃げる肉量を減らすことが出来る。凸部の嵩上げに用いられる逃げ肉が高密度に充填されることで、凸部における金型の形状が精度よく逃げ肉に転写される。
【0013】
また上記構成において、溝は、第一溝部と、第二溝部によって、金属端子の全周に亘って溝が形成されてよい。第一溝部は、金属端子の厚さ方向両面に形成される。第二溝部は、金属端子の幅方向両面に形成され第一溝部に接続される。第一溝部及び第二溝部の一方が、他方と比較して深い。
【0014】
圧印加工によって、溝に肉が逃げて板状部が形成されるおそれがある。第一溝部と第二溝部の一方を圧印加工した後に、他方を圧印加工すると、先に圧印加工された一方の溝に、肉逃げによる板状部が形成される可能性がある。そこで、最初に相対的に深い溝を圧印加工して、次に相対的に浅い溝が圧印加工される。このとき、比較的少量の肉が、比較的深い溝に逃げて板状部を形成する。その結果、深い溝の断面全面が、相対的に少量の肉逃げによって塞がれることは、抑制される。
【0015】
また上記構成において、第一溝部は、第二溝部よりも深くてよい。この場合、第一溝部の長手方向端部には、底面に板状部が寝かされた状態で配置される。
【0016】
上記構成によれば、深溝の第一溝部に板状部が形成されても、当該板状部を寝かせ配置することで、第一溝部の閉塞が抑制される。
【0017】
また上記構成において、複数の溝は、少なくとも一部は異なるピッチで配列されてよい。
【0018】
上記構成によれば、樹脂部品及び金属端子の種々の膨張収縮の態様に対応して、シール性を発揮することが出来る。
【0019】
また本明細書では、金属樹脂複合成形体の製造方法が開示される。金属樹脂複合成形体は、平板形状の金属端子と、樹脂部品とを含む。樹脂部品は、金属端子の両端を露出させるとともに、金属端子の中間部分を埋設させる。金属樹脂複合成形体の製造方法では、押圧面に凹凸形状が形成された金型で、金属端子の中間部分の厚さ方向両面、及び、幅方向両面が圧印加工される。これにより、中間部分に、全周に亘って溝が形成される。また、圧印加工において、金型の押圧面における凹部の底面が、圧印方向に沿って金属端子の中間部分の非圧印面に対して後退した位置を、圧印停止位置に設定する。
【0020】
上記構成によれば、凹部形成時に生じる逃げ肉を、凸部の嵩上げに利用することが出来る。
【0021】
また上記構成において、圧印停止位置において、凹部の底面と非圧印面との離隔距離が、非圧印面と押圧面における凸部の頂面との離隔距離よりも、短くてもよい。
【0022】
上記構成によれば、凹部を押印加工する際に発生する逃げ肉量よりも、凸部に逃げる肉量を減らすことが出来る。凸部に対応する金型内に逃げ肉が高密度に充填されることで、金型の形状が精度よく逃げ肉に転写される。
【0023】
また上記構成において、金型は、第一金型、第二金型及び第三金型を備えてよい。第一金型は、押圧面に凹凸形状が形成される。第二金型及び第三金型は、第一金型と同一溝幅及び同一ピッチの凹凸形状が押圧面に形成される。圧印加工は、第一溝部加工、第二溝部加工、及び折り曲げ加工を含む。第一溝部加工では、第一金型で、金属端子の中間部分の厚さ方向両面を圧印加工することで、中間部分に第一溝部が形成される。第二溝部加工では、第一溝部加工後に、第二金型で、金属端子の中間部分の幅方向両面を圧印加工することで、第一溝部と接続する第二溝部が中間部分に形成される。折り曲げ加工では、第二溝部加工後に、第三金型で、第一溝部の長手方向端部に形成された板状部が、第一溝部の底面に寝かせるように折り曲げられる。
【0024】
上記構成によれば、溝部加工において、逃げ肉によって溝内に板状部が形成された場合にも、折り曲げ加工によって、板状部が溝内で寝かされる。
【0025】
また上記構成において、第一金型は、第二金型よりも凹凸溝が深くてもよい。
【0026】
上記構成によれば、第一金型によって形成された金属端子の溝、つまり、相対的に深い溝に、板状部を形成することで、当該溝の断面全面が閉塞されることは、抑制される。
【発明の効果】
【0027】
本明細書で開示される金属樹脂複合成形体及びその製造方法によれば、圧印加工によって金属端子に溝を形成する際に、溝によるシール性が維持可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態に係る金属樹脂複合成形体を例示する斜視図である。
【
図3】溝によるシール効果を説明する断面図である。
【
図4】金属端子の溝形成に用いられる金型を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.金属樹脂複合成形体
図1には、本実施形態に係る金属樹脂複合成形体10が例示される。また
図2には、金属端子30が例示される。
【0030】
なお、
図1-
図9では、直交座標系が示される。この直交座標系は、T軸、L軸、及びW軸から構成される。
【0031】
T軸は厚さ方向軸である。金属端子30の中間部分36の厚さ方向を基準に、T軸が設定される。例えばT軸は、中間部分36の平板表面31に対して垂直に延伸する。W軸は幅方向軸である。金属端子の30の幅方向に平行に、W軸が設定される。さらにL軸は中間部分36の長手方向軸である。
【0032】
金属樹脂複合成形体10は、樹脂部品20及び金属端子30を備える。金属樹脂複合成形体10は、例えばインサート成形により製造される。樹脂部品20は、例えば板状の部品である。樹脂部品20の材料としては、例えば、PPS樹脂やPPA樹脂等の、高耐熱性の結晶性熱可塑性樹脂が用いられる。
【0033】
樹脂部品20の上面22には、例えば端子台(図示せず)が載置される。したがって上面22は水濡れ禁止エリアである。一方、下面24は、例えばポンプステータに接続され、被水エリアである。
【0034】
金属端子30は、樹脂部品20の上面22及び下面24から端部を露出させる。金属端子30は平板形状であって、ブランクとも呼ばれる。金属端子30の材料としては、銅、黄銅、鉄などの導電性材料が用いられる。
【0035】
図1、
図2に例示されるように、金属端子30は略S字形状となるように、長手方向両端が曲げ加工される。金属端子30は、第一端部32、第二端部34、及び中間部分36を備える。
【0036】
金属端子30の長手方向一端の第一端部32は、樹脂部品20の上面22から露出される。例えば第一端部32は、端子台に接続される。金属端子30の長手方向他端の第二端部34は、樹脂部品20の下面24から露出される。例えば第二端部34は、モータのステータに接続される。
【0037】
第一端部32と第二端部34の間に、中間部分36が形成される。中間部分36は、樹脂部品20に埋設される。中間部分36と樹脂部品20との界面に隙間が形成されると、樹脂部品20の下面24(被水エリア)から上面22(水濡れ禁止エリア)に液体がリークするおそれがある。そこで、中間部分36には端子溝38が形成される。
【0038】
2.溝形状
端子溝38は、金属端子30の中間部分36の、全周に亘って形成される。端子溝38は、長手方向軸Lを中心軸として環状に形成される。また中間部分36には、複数本の端子溝38が、長手方向に沿って形成される。
【0039】
図8を参照して、端子溝38は第一溝部40及び第二溝部50を備える。第一溝部40は、金属端子30の厚さ方向両面に形成される。第二溝部50は、金属端子30の幅方向両面に形成される。第一溝部40及び第二溝部50はいずれも直線上に延設される。第一溝部40と第二溝部50が連結することで、中間部分36には、全周に亘って(つまり環状に)端子溝38が形成される。
【0040】
図2の上段には、端子溝38の拡大断面図(A-A断面図)が例示される。端子溝38には、端子凸部41及び端子凹部43が複数形成される。端子凸部41は、中間部分36の平板表面31(非圧印面)から突出する。端子凹部43は、平板表面31(非圧印面)から陥没する。
【0041】
例えば、端子凸部41の突出高さH20は、端子凹部43の陥没深さH21よりも、低い(H20 < H21)。後述されるように、端子凸部41は、端子凹部43を圧印加工する際に発生する逃げ肉により形成される。
【0042】
図3には、第一溝部40のT-L断面が例示される。T-L断面は、
図2のA-A断面と同一の切断面である。第一溝部40の溝深さを除いて、第二溝部50も
図3と同様の断面形状を備える。つまり、第二溝部50は、第一溝部40と同一溝幅及び同一ピッチである。ここで、溝幅や溝ピッチに差異が生じていたとしても、その差異が、公差内に収まっているのであれば、同一であるとみなされる。また、溝のピッチとは、隣り合う端子溝38,38同士の間隔を指す。
【0043】
第一溝部40及び第二溝部50は、いずれも角型U字溝である。すなわち
図3、
図8を参照して、第一溝部40は底面46と、底面46から立設される一対の側面44,44を備える。同様にして、第二溝部50は、底面56と、底面から立設される一対の側面54,54を備える。また
図3を参照して、隣り合う端子溝38,38間は頂面42に接続される。
【0044】
側面44,44及び側面54,54は、いずれも平板表面31,35(非押圧面、
図2参照)に対して垂直に延設される。なお垂直とは、実質的に垂直である場合が含まれる。例えば平板表面31,35に対する側面44,44及び側面54,54の角度が、80°以上100°以下の範囲に含まれるのであれば、側面44,44及び側面54,54は、平板表面31,35に対して垂直とみなされる。
【0045】
端子溝38内に、樹脂部品20が充填される。この充填部23(
図3では23A,23Bで示される)によって、樹脂部品20と金属端子30との界面においてシール効果が得られる。
【0046】
金属端子30と樹脂部品20は線膨張係数が異なる。例えば銅の線膨張係数が17.7×10―6/℃であるのに対して、PPS樹脂の線膨張係数は4.9×10―5/℃である。つまり高温環境下では、金属端子30と比較して樹脂部品20の膨張量が多い。
【0047】
このとき、充填部23Aは、熱膨張に伴って、矢印(1)で例示されるように端子溝38の側面44A,44Bを加圧する。そして樹脂部品20の弾性に基づき、側面44A,44Bがシールされる。
【0048】
また低温環境下において、金属端子30と比較して樹脂部品20の収縮量が多くなる。このとき、矢印(2)で例示されるように、充填部23A,23Bが側面44B,44Cを加圧する。そして樹脂部品20の弾性に基づいて、側面44B,44Cがシールされる。
【0049】
このようなシール効果を得るために、端子溝38の側面44,54(
図8参照)は、平板表面31,35(
図2参照)に対して垂直に延設される。上述したように、平板表面31,35に対する側面44,44及び側面54,54の角度は、80°以上100°以下の範囲に含まれる
【0050】
図3では、複数の端子溝38は、同一溝幅、及び同一ピッチにて形成される。しかしながら、複数の端子溝38に亘って、溝幅や溝ピッチが変更されていてもよい。例えば
図9には、溝幅の異なる端子溝38A,38B,38Cが例示される。端子溝38Aの溝幅W1、端子溝38Bの溝幅W2、端子溝38Cの溝幅W3は、W1 > W2 > W3との関係を有する。例えば溝幅や溝ピッチの異なる複数の端子溝38を備えることで、様々な温度環境において上述のシール効果が得られる。
【0051】
また、
図8を参照して、第一溝部40と第二溝部50の溝深さは、異なっていてよい。言い換えると、第一溝部40及び第二溝部50の一方が、他方と比較して深い。例えば
図8の深さH5,H6に示されるように、第一溝部40は、第二溝部50よりも深い。
【0052】
後述される
図6のように、圧印加工によって端子溝38を形成する際に、板状部45が生じる場合がある。相対的に深い溝(第一溝部40)を形成した後に、相対的に浅い溝(第二溝部50)を形成することで、深い溝の長手方向端部に板状部45が発生する。相対的に浅い溝を圧印加工する際の肉逃げ量が少量で済むことから、板状部45の高さは、深い溝の深さ未満に抑えられる。したがって、深い溝(第一溝部40)は、断面全面に亘って板状部45に遮られることが抑制される。
【0053】
さらに、後述される折り曲げ加工によって、板状部45は寝かせ配置される。板状部45を相対的に深い溝(第一溝部40)の底面46に寝かせることで、板状部45による嵩上げがあっても、十分な溝深さが得られる。
【0054】
3.溝形成用の金型
図4には、金属端子30に端子溝38を形成するための金型が例示される。本実施形態に係る金属端子30は、プレス成形にて端子溝38が形成される。より詳細には、コイニングとも呼ばれる圧印加工によって、端子溝38が形成される。
【0055】
端子溝38を形成するための金型として、
図4には、第一金型80A,80B、第二金型60A,60B、及び第三金型70A-70Dが例示される。
【0056】
第一金型80A,80Bは、金属端子30の中間部分36の厚さ方向両面を圧印加工する。第一金型80A,80Bの押圧面82A,82Bには、凹凸形状(凹凸溝)が形成される。押圧面82Aの凹凸溝は、押圧面82Bの凹凸溝と同一溝幅、同一ピッチである。
【0057】
図5には、第一金型80AのT-L断面が例示される。なお、第一金型80Bも、
図5と同様の断面形状を有する。第一金型80Aに関する以下の説明において、サフィックス「A」を「B」に置き換えることで、第一金型80Bの構造が説明される。
【0058】
第一金型80Aの押圧面82Aには、複数の金型凸部81A及び金型凹部83Aが形成される。
図5には、押印加工時の第一金型80A及び金属端子30の断面が例示される。押印加工のストロークが、圧印停止位置L11,L12に例示される。金型凸部81Aの頂面84Aは、圧印停止位置L11まで圧入される。金型凹部83Aの底面85Aは、圧印停止位置L12まで移動する。
【0059】
ここで、圧印停止位置L12は、金属端子30の中間部分36の平板表面31(非圧印面)よりも手前に位置する。つまり、圧印停止位置L12は、平板表面31に対して浮いた位置となる。すなわち、金型凹部83Aの底面85Aは、圧印方向に沿って、中間部分36の平板表面31(非圧印面)に対して後退した位置に、圧印停止位置L12が設定される。
【0060】
このような位置設定とすることで、後述されるように、圧印加工において、金型凸部81Aの圧印による逃げ肉が、金型凹部83Aに流入する。つまり中間部分36には端子凸部41(
図2参照)が突設される。逃げ肉を、溝内を塞ぐ壁とする代わりに、溝の嵩上げに利用することで、端子溝38のシール性が向上する。
【0061】
圧印停止位置L11,L12において、金型凹部83Aの底面85Aと、平板表面31(非圧印面)との離隔距離H1は、金型凸部81Aの頂面84Aと、平板表面31(非圧印面)との離隔距離H2よりも、短くてよい(H1 < H2)。このような位置関係とすることで、流入する逃げ肉が金型凹部83A内で高密度に充填される。つまり、金型凹部83Aの形状が、逃げ肉に精度よく転写される。
【0062】
図4を参照して、第二金型60A,60Bは、金属端子30の中間部分36の幅方向両面を圧印加工する。第二金型60A,60Bの押圧面62A,62Bには、凹凸形状(凹凸溝)が形成される。押圧面62A,62Bの凹凸溝は、押圧面82A,82Bの凹凸溝と同一溝幅、同一ピッチである。
【0063】
図6には、第二金型60Aの押圧面62Aが例示される。なお、第二金型60Bも、
図6と同様の押圧面形状を有する。第二金型60Aに関する以下の説明において、サフィックス「A」を「B」に置き換えることで、第二金型60Bの構造が説明される。
【0064】
第二金型60Aの押圧面62Aには、複数の金型凸部61A及び金型凹部63Aが形成される。第二金型60Aにおいても、金型凹部63Aの底面65Aの圧印停止位置は、金属端子30の中間部分36の平板表面35(非圧印面、
図2参照)よりも手前に位置する。更には、圧印停止位置において、金型凹部83Aの底面85Aと、平板表面35(非圧印面)との離隔距離は、金型凸部81Aの頂面84Aと、平板表面35(非圧印面)との離隔距離よりも、短くてよい。
【0065】
また、金型凹部63Aの深さH7は、第一金型80Aの金型凹部83Aの深さH8(
図5参照)よりも浅い。このような第二金型60Aを用いて圧印加工を行うことで、第一溝部40と比較して浅い第二溝部50が形成される。
【0066】
図4を参照して、第三金型70A-70Dは、側面視(L軸方向視)L字形状の金型である。第三金型70A-70Dは、第一押圧面72A-72D及び第二押圧面74A-74Dを備える。第一押圧面72A-72Dは第二押圧面74A-74Dに対して直角に配置される。
【0067】
図7には、第三金型70Aの第一押圧面72A及び第二押圧面74Aが例示される。なお、第三金型70B-70Dも、
図7と同様の押圧面形状を有する。第三金型70Aに関する以下の説明において、サフィックス「A」を「B」「C」「D」に置き換えることで、第三金型70B-70Dの構造が説明される。
【0068】
第三金型70Aの第一押圧面72Aには、凹凸形状(凹凸溝)が形成される。すなわち第一押圧面72Aには、金型凸部71A及び金型凹部73Aが複数形成される。金型凸部71A及び金型凹部73Aは、例えば、第二金型60A(
図6参照)の押圧面62Aに形成された金型凸部61A及び金型凹部63Aと同一溝幅及び同一ピッチである。
【0069】
また、第三金型70Aの第二押圧面74Aにも、凹凸形状(凹凸溝)が形成される。すなわち第二押圧面74Aには、金型凸部75A及び金型凹部77Aが複数形成される。金型凸部75A及び金型凹部77Aは、例えば、第一金型80A(
図5参照)の押圧面82Aに形成された金型凸部81A及び金型凹部83Aと同一溝幅及び同一ピッチである。
【0070】
後述されるように、第三金型70A-70Dは、板状部45(
図7参照)の折り曲げ加工で利用される。折り曲げ加工は任意の工程であって、必須の工程ではないことから、第三金型70A-70Dは、任意的にプレス装置に搭載される。
【0071】
4.溝形成プロセス
図4を参照して、金属端子30の中間部分36に、まず、第一金型80A,80Bがプレスされる(第一溝部加工)。次に、第二金型60A,60Bが中間部分36をプレスする(第二溝部加工)。さらに任意の工程として、第三金型70A-70Dが中間部分36をプレスする(折り曲げ加工)。
【0072】
図5には第一溝部加工が例示される。第一溝部加工では、中間部分36の厚さ方向両面が第一金型80A,80Bに圧印加工される。このとき、金型凹部83A,83Bの底面85A,85Bの圧印停止位置L12は、金属端子30の中間部分36の平板表面31(非圧印面)よりも手前に位置する。すなわち、金型凹部83A,83Bの底面85A,85Bは、圧印方向に沿って、中間部分36の平板表面31(非圧印面)に対して後退した位置に、圧印停止位置L12が設定される。
【0073】
圧印加工では、金属端子30の金属(肉)が第一金型80A,80Bの金型凸部81A,81Bによって押し分けられて移動させられる「肉逃げ」が生じる。圧印停止位置L12において、中間部分36の平板表面31(非押圧面)と、金型凹部83Aの底面85Aとの間に間隙を設けることで、当該間隙に逃げ肉が誘導される。これによって、第一溝部40の端子凸部41(
図2参照)を嵩上げすることが出来る。
【0074】
また圧印停止位置L11,L12において、金型凹部83A,83Bの底面85A,85Bと、平板表面31(非圧印面)との離隔距離H1は、金型凸部81A,81Bの頂面84A,84Bと、平板表面31(非圧印面)との離隔距離H2よりも、短くてよい(H1 < H2)。このような位置関係とすることで、流入する逃げ肉が金型凹部83A,83B内で高密度に充填される。つまり、金型凹部83A,83Bの形状が、逃げ肉に精度よく転写される。
【0075】
第一溝部加工の次に、第二溝部加工が行われる。
図6を参照して、第二金型60A,60Bが、中間部分36の幅方向両面を圧印加工する。この圧印加工に当たり、第二金型60Aの金型凸部61Aと第一溝部40が位置合わせされる。例えば図示しないボールねじ等の位置合わせ機構によって、金属端子30と第二金型60A,60Bが位置合わせされる。
【0076】
第二溝部50の圧印加工に当たり、
図5と同様にして、金型凹部63A,63Bの底面65A,65Bの圧印停止位置は、金属端子30の中間部分36の平板表面35(非圧印面、
図2参照)よりも手前に位置する。これにより、第二溝部50(
図8参照)の頂面52を嵩上げすることが出来る。
【0077】
更には、圧印停止位置において、金型凹部63A,63Bの底面65A,65Bと、平板表面35(非圧印面)との離隔距離は、金型凸部61A,61Bの頂面64A,64Bと、平板表面31(非圧印面)との離隔距離よりも、短くてよい。これにより、流入する逃げ肉が金型凹部63A内で高密度に充填される。つまり、金型凹部63Aの形状が、逃げ肉に精度よく転写される。
【0078】
また、第二金型60A,60Bによる圧印加工によって、第一溝部40内に逃げ肉が入り込む。より詳細には、金型凹部83A,83Bには入り込まなかった、残りの逃げ肉が、第一溝部40内に入り込む。この逃げ肉は板状部45となって第一溝部40の長手方向端部39に立設される。
【0079】
しかしながら、第二溝部50は第一溝部40と比較して浅いことから、圧印加工のストロークが相対的に短い。つまりそもそもの逃げ肉の発生量が、第一溝部40加工時の逃げ肉の発生量と比較して少ない。その結果、板状部45の高さは、相対的に深い第一溝部40の断面全面を塞ぐほどには高くならない。つまり
図6の間隙H4に例示されるように、板状部45が発生しても、第一溝部40には樹脂が十分に充填され、上述のシール効果が得られる。
【0080】
第二溝部加工後に、任意工程として折り曲げ工程が実行される。折り曲げ工程では、板状部45が第三金型70A-70Dによって折り曲げられる。
図4を参照して、第三金型70A-70Dは、中間部分36の断面4隅から、断面中心に向かって斜めに中間部分36をプレスする。
【0081】
このようなプレスによって、
図7、
図8に例示されるように、第一溝部40の長手方向端部39に形成された板状部45が、第一溝部40の底面46に寝かされるように、曲げられる。板状部45が折り曲げられることで、第一溝部40が全周に亘って、十分な深さで開通される。
【0082】
なお、上述の実施形態では、第一溝部40が第二溝部50よりも深い形態が示された。これに代わり、第二溝部50が、第一溝部40よりも深くてよい。例えば、板状部45の高さが、中間部分36の板厚よりも十分に低い場合に、この代替の形態が適用可能となる。
【0083】
この代替形態では、まず第二溝部加工が実行され、続いて第一溝部加工が実行される。そして、第二溝部50の底面56に、板状部45が形成される。さらに折り曲げ加工によって、板状部45が底面56に寝かされる。
【0084】
また、板状部45の高さが、第一溝部40及び第二溝部50の深さよりも十分に低い場合には、第一溝部40と第二溝部50を同じ深さとしてもよい。例えば、第二溝部加工において、逃げ肉の大部分が、頂面52(
図8参照)の嵩上げに利用される場合、第一溝部40と第二溝部50は、同じ深さとなる。
【0085】
また上記実施形態において「同じ」及び「同一」との用語は、予め設定された公差内の差異を包含する。すなわち、両者(例えば、第一溝部40と第二溝部50の溝深さ)に差異が生じていても、その差異が、公差内に収められていれば、両者は同一であるとみなされる。
【符号の説明】
【0086】
10 金属樹脂複合成形体、20 樹脂部品、30 金属端子、31,35 金属端子の平板表面(非圧印面)32 第一端部、34 第二端部、36 中間部分、38 端子溝、39 第一溝部の長手方向端部、40 第一溝部、41 端子凸部、43 端子凹部、44 端子溝の側面、45 板状部、46 第一溝部の底面、50 第二溝部、52A,52B 第一金型の押圧面、60A,60B 第二金型、61,71,81 金型凸部、62A,62B 第二金型の押圧面、63,73,83 金型凹部、70A-70D 第三金型、72A-72D 第三金型の第一押圧面、74A-74D 第三金型の第二押圧面、80A,80B 第一金型。
【要約】
【課題】圧印加工によって金属端子に溝を形成する際に、溝によるシール性を維持可能とする。
【解決手段】金属端子30の中間部分36には、押印加工によって端子凹部43及び端子凸部41が全周に亘って形成されることで、端子溝38が形成される。端子溝38は、中間部分36の長手方向に沿って複数配列される。端子凹部43は、中間部分36の非圧印面31,35から陥没する。端子凸部41は、中間部分36の非圧印面31,35から突出する。
【選択図】
図1