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特許7591337光造形装置および3次元造形物の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】光造形装置および3次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/214 20170101AFI20241121BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20241121BHJP
   B29C 64/188 20170101ALI20241121BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241121BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241121BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20241121BHJP
   B22F 10/12 20210101ALI20241121BHJP
【FI】
B29C64/214
B29C64/106
B29C64/188
B33Y10/00
B33Y30/00
B28B1/30
B22F10/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024554194
(86)(22)【出願日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2024019719
【審査請求日】2024-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2023122260
(32)【優先日】2023-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145286
【氏名又は名称】株式会社写真化学
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】法貴 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】福島 卓也
(72)【発明者】
【氏名】楠田 達文
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/058309(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0362413(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0262150(US,A1)
【文献】特開2006-035162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B28B 1/30
B22F 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元造形物を得るための光造形装置であって、
造形テーブルと、
前記造形テーブルの上にチキソ性を有するスラリーを吐出する吐出手段と、
掃引部材と、
所定の掃引姿勢の前記掃引部材を水平移動させることによって前記造形テーブル上に吐出された前記スラリーを掃引塗布してスラリー膜を形成する掃引手段と、
3次元形状データに基づいてあらかじめ作成された露光パターンに従って前記スラリー膜の所定領域を露光する露光手段と、
を備え、
前記掃引姿勢にあるときの前記掃引部材が、前記掃引塗布の進行方向に向いた前面と、前記進行方向の逆方向に向いた後面とを有し、
前記前面が水平面に対してなす角度αが、30°<α<90°をみたし、
前記掃引部材の少なくとも最下端の近傍において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が均一または前記掃引部材の最下端に向かうほど小さくなり、かつ、
前記前面の最下端または前記後面の最下端において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が0.9mm以下である、
光造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光造形装置であって、
前記掃引手段は、前記スラリーの粘度が1Pa・s以上50Pa・s以下となるせん断応力が前記スラリーに印加されるせん断速度にて前記スラリーを掃引する、
光造形装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光造形装置であって、
前記後面が水平面に対してなす角度βが、30°<β<(180°-α)をみたす、
光造形装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の光造形装置であって、
前記掃引部材の移動によって掃引されている前記スラリーを加熱する掃引時加熱手段、
をさらに備える光造形装置。
【請求項5】
請求項に記載の光造形装置であって、
前記掃引時加熱手段が、前記掃引部材を加熱するヒータであり、前記ヒータによって加熱された前記掃引部材が移動して前記スラリーを掃引する間、前記掃引部材が前記スラリーを加熱する、
光造形装置。
【請求項6】
請求項に記載の光造形装置であって、
前記掃引手段は、前記掃引部材を保持する掃引部材保持手段を備え、
前記ヒータは前記掃引部材保持手段に取り付けられている、
光造形装置。
【請求項7】
3次元造形物の製造方法であって、
造形テーブルの上にチキソ性を有するスラリーを吐出する吐出工程と、
所定の掃引姿勢の掃引部材を水平移動させることによって前記造形テーブル上に吐出された前記スラリーを掃引塗布してスラリー膜を形成する掃引工程と、
3次元形状データに基づいてあらかじめ作成された露光パターンに従って前記スラリー膜の所定領域を露光する露光工程と、
を備え、
前記掃引工程においては、
前記掃引部材が、前記掃引塗布の進行方向に向いた前面と、前記進行方向の逆方向に向いた後面とを有し、前記前面が水平面に対してなす角度αが、30°<α<90°をみたし、前記掃引部材の少なくとも最下端の近傍において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が均一または前記掃引部材の最下端に向かうほど小さくなり、かつ、
前記前面の最下端または前記後面の最下端において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が0.9mm以下であるように、
前記掃引部材の前記掃引姿勢を定めたうえで、前記スラリーを塗布する、
3次元造形物の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の3次元造形物の製造方法であって、
前記掃引工程においては、前記掃引部材の移動によって掃引されている前記スラリーを加熱する、
3次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形装置に関し、特に、その材料の塗布に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元造形法は、複雑な3次元形状を直接造形加工できる点に大きな優位性を有する加工方法であり、従来の切削加工法による3次元立体加工物を得る方法に比べて自由度が非常に高く、その優位性は近年大きな注目を浴びている。
【0003】
3次元造形法の一つである3次元光造形法の先行事例としては、自由液面法と呼ばれる方法が広く知られており、レーザビームとガルバノミラーの走査露光系で実現されている。また、光硬化性材料の入った容器の底面側からガラス越しに、DMDによる一括露光により1層分造形し、次に必要厚み分、造形物を吊り上げて造形物の下に材料を充填する、という態様にて露光と吊り上げとを繰り返すことにより造形を行う、規制液面法と呼ばれる裏面露光方式なども公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、近時、3次元光造形法としては、光硬化性樹脂を平面に塗布し、その上からレーザ走査により露光する方法が多く用いられている。例えば、光硬化性モノマー樹脂(液体)にセラミックス粉体などを混錬したスラリーと呼ばれるペースト状の造形材料を造形面上の一方端部側に供給し、係る造形材料をリコータと称されるブレード形状の塗布部材(掃引部材)を水平移動させることによって造形面上に薄く塗布し、これにより得られた塗布膜の上からレーザ走査により必要な領域を露光して造形材料を硬化させることを繰り返すことによって、3次元造形物を得る方法が、すでに公知である(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、規制液面法にて造形物を得る場合において、ドクターブレードにより構築材料の平滑化層を得る態様も、すでに公知である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
一方、3次元光造形に用いる光硬化性組成物すなわちスラリーの粘度等の物性を好適に維持することを目的として、スラリーを吐出するディスペンサ(吐出手段)に光硬化性組成物の温度を調整する温調部材を取り付ける態様も、すでに公知である(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-124631号公報
【文献】特許第7014480号公報
【文献】特開2022-24960号公報
【文献】特許第6438919号公報
【発明の概要】
【0008】
例えば特許文献2に開示されているような、スラリーの供給および塗布と、形成された塗布膜の所定領域に対する露光とを繰り返す造形手法の場合、それぞれの塗布膜は、本来的には均一の厚みに形成されることが求められる。すなわち、塗布膜の上面は狙いの高さにて水平となっていることが求められる。
【0009】
しかしながら、造形面すなわちスラリーの塗布対象面には、最初の塗布時などの例外的な場合を除き、直前の露光により硬化した領域(硬化領域)の上面(以下、硬化面と称する)と、露光の対象とされずペースト状態のスラリーのままである未硬化領域の上面(以下、未硬化面と称する)とが混在する。
【0010】
そのため、ある造形面上に新たな塗布膜を形成するべく、リコータを所定の高さ位置にて水平移動させて塗布対象面の一方端部側に供給されているスラリーを掃引塗布する場合、硬化領域上では実質的に狙いの厚みにて均一に塗布膜が形成されるのに対し、未硬化領域上では、リコータの移動に伴い、すでに未硬化面をなしているスラリーにもせん断応力が発生し、必要以上の量のスラリーがリコータの移動方向に移動して(持ち去られて)しまい、結果として、未硬化面上に新たに形成された塗布膜の厚みが硬化面上に形成された塗布膜の厚みよりも小さくなってしまう場合があることが、確認されている。すなわち、未硬化面における塗布膜の上面の高さ(以下、単に塗布膜の高さと称する)が、わずかながら硬化面における塗布膜の高さよりも低くなることがある。
【0011】
このような、塗布膜の高さに場所による違いが生じている状態で露光を行うと、例えば、直下が未硬化面であった箇所が露光されることによって、未硬化領域の上方に水平方向に延在あるいは突出する態様にて形成されるオーバーハング部に、下方への垂れ下がりが生じるなど、造形物の形状が設計された形状と異なってしまい、造形精度が損なわれるという不具合が生じ得る。
【0012】
係る不具合には、スラリーの粘性、表面張力、リコータ表面への付着力および硬化面への付着力、さらには、リコータの下端から硬化面までの距離、未硬化領域の下方に存在する硬化領域の上面までの距離、あるいは造形テーブルの上面までの距離、リコータの移動速度などが複雑に影響していると考えられる。さらには、造形物の形状や未露光部分の存在形態にも依存する。造形形状によっては影響が少ない場合はあるものの、係る不具合の発生を造形形状によらず原理的に回避することは容易ではない。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、スラリーの塗布と、形成された塗布膜の所定領域に対する露光とを繰り返すことにより3次元造形物を得るにあたって、造形面上に形成する塗布膜に生じる高低差を低減可能な光造形装置を提供することを、目的とする。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、3次元造形物を得るための光造形装置であって、造形テーブルと、前記造形テーブルの上にチキソ性を有するスラリーを吐出する吐出手段と、掃引部材と、所定の前記掃引姿勢の掃引部材を水平移動させることによって前記造形テーブル上に吐出された前記スラリーを掃引塗布してスラリー膜を形成する掃引手段と、3次元形状データに基づいてあらかじめ作成された露光パターンに従って前記スラリー膜の所定領域を露光する露光手段と、を備え、前記掃引姿勢にあるときの前記掃引部材が、前記掃引塗布の進行方向に向いた前面と、前記進行方向の逆方向に向いた後面とを有し、前記前面が水平面に対してなす角度αが、30°<α<90°をみたし、前記掃引部材の少なくとも最下端の近傍において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が均一または前記掃引部材の最下端に向かうほど小さくなり、かつ、前記前面の最下端または前記後面の最下端において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が0.9mm以下である。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る光造形装置であって、前記掃引手段は、前記スラリーの粘度が1Pa・s以上50Pa・s以下となるせん断応力が前記スラリーに印加されるせん断速度にて前記スラリーを掃引する。
【0017】
本発明の第の態様は、第1または第2の態様に係る光造形装置であって、前記後面が水平面に対してなす角度βが、30°<β<(180°-α)をみたす。
【0018】
本発明の第の態様は、第1または第2の態様に係る光造形装置であって、前記掃引部材の移動によって掃引されている前記スラリーを加熱する掃引時加熱手段、をさらに備える。
【0019】
本発明の第の態様は、第の態様に係る光造形装置であって、前記掃引時加熱手段が、前記掃引部材を加熱するヒータであり、前記ヒータによって加熱された前記掃引部材が移動して前記スラリーを掃引する間、前記掃引部材が前記スラリーを加熱する。
【0020】
本発明の第の態様は、第の態様に係る光造形装置であって、前記掃引手段は、前記掃引部材を保持する掃引部材保持手段を備え、前記ヒータは前記掃引部材保持手段に取り付けられている。
【0021】
本発明の第の態様は、3次元造形物の製造方法であって、造形テーブルの上にチキソ性を有するスラリーを吐出する吐出工程と、所定の掃引姿勢の掃引部材を水平移動させることによって前記造形テーブル上に吐出された前記スラリーを掃引塗布してスラリー膜を形成する掃引工程と、3次元形状データに基づいてあらかじめ作成された露光パターンに従って前記スラリー膜の所定領域を露光する露光工程と、を備え、前記掃引工程においては、前記掃引部材が、前記掃引塗布の進行方向に向いた前面と、前記進行方向の逆方向に向いた後面とを有し、前記前面が水平面に対してなす角度αが、30°<α<90°をみたし、前記掃引部材の少なくとも最下端の近傍において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が均一または前記掃引部材の最下端に向かうほど小さくなり、かつ、前記前面の最下端または前記後面の最下端において、前記前面と前記後面との間の前記進行方向の間隔が0.9mm以下であるように、前記掃引部材の前記掃引姿勢を定めたうえで、前記スラリーを塗布する。
【0022】
本発明の第の態様は、第の態様に係る3次元造形物の製造方法であって、前記掃引工程においては、前記掃引部材の移動によって掃引されている前記スラリーを加熱する。
【0023】
本発明の第1ないし第の態様によれば、スラリーの塗布と形成された塗布膜の所定領域に対する露光との繰り返しにより得られる3次元造形物の造形中間体において、上面に生じる硬化部分と未硬化部分との高低差が抑制されるので、造形物の造形精度が向上する。
【0024】
特に、第ないし第および第の態様によれば、掃引塗布の際にスラリーを加熱することにより、スラリーの塗布時の平滑性を向上させることができ、これによって、硬化部分と未硬化部分との高低差をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】光造形装置1の模式的な構成を示す側面図である。
図2】リコータ31が刃先31Lを有する光造形装置1における、スラリー塗布について説明するための模式的な側面図である。
図3】代表的なスラリー材料についての粘弾性特性を示す図である。
図4図2に示した造形中間体11の上面11sに対し所定のピッチpにてスラリーSLを塗布した後の、理想的な状態を示す図である。
図5】スラリーSLが造形テーブル10のx軸方向負側に位置する未硬化面に対し吐出された状態から、スラリーSLの塗布を開始したときの様子を示す図である。
図6図5に示した状態からさらにリコータ31が移動して、硬化部分12の上方に至ったときの様子を示す図である。
図7図6に示した状態からさらにリコータ31が移動して、第2の未硬化部分13bの上方に至ったときの様子を示す図である。
図8図2に示した造形中間体11に対し図5から図7に示した経過を経て最終的にスラリーの塗布が完了した後の様子を模式的に示す図である。
図9】領域RE1が露光された後の様子を示す図である。
図10】リコータ形状影響評価に用いる露光パターンを示す平面図である。
図11】リコータ形状影響評価に用いたリコータ31の形状を、リコートユニット30に取り付けられてスラリーを掃引塗布する際の姿勢とともに示す図である。
図12】リコータ形状影響評価に用いたリコータ31の形状を、リコートユニット30に取り付けられてスラリーを掃引塗布する際の姿勢とともに示す図である。
図13】スラリーSLの塗布にtype Cのリコータ31を用いて作製した造形中間体11の、50回目の露光後の上面の撮像画像である。
図14】type Cのリコータ31を用いたときの、50層形成後の高さ測定の結果を示すヒストグラムである。
図15】type Gのリコータ31を用いたときの、50層形成後の高さ測定の結果を示すヒストグラムである。
図16】7タイプのリコータ31のそれぞれを用いた場合における、硬化面12sと未硬化面13sの高低差の、積層数に対する変化を示すグラフである。
図17】type Fおよびtype Gとは異なるリコータ31の主な形状例を示す図である。
図18】リコータ31のさらに異なる形状例を示す図である。
図19】リコータ31の形状の違いがオーバーハングを有する造形物の造形に与える影響を示す図である。
図20】リコータ31の形状の違いがオーバーハングを有する造形物の造形に与える影響を示す図である。
図21】刃先31Lが水平面に平行な場合よりも前面傾斜角度αが大きい掃引姿勢のリコータ31を示す図である。
図22】掃引時加熱手段を例示する図である。
図23】type Gのリコータ31を加熱した場合と非加熱の場合とのそれぞれにおける、硬化面12sと未硬化面13sの高低差の、積層数に対する変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施の形態>
<光造形装置の概要>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光造形装置1の模式的な構成を示す側面図である。本実施の形態に係る光造形装置1は、概略、光硬化性モノマー樹脂(液体)にセラミックス粉体(例えばアルミナ)などを混錬した、スラリーと呼ばれるペースト状でチキソ性を有する材料を造形テーブル10上に薄く塗布し、得られたスラリー膜(層)に対しその上からレーザ、LED等の光を照射して必要な領域を露光して樹脂を硬化させることを、順次に積層されるスラリー膜に対し繰り返して、3次元造形物(積層体)を得る装置である。光造形装置1は、記録媒体を含む制御回路を備える。制御回路は、記憶媒体に格納されたプログラムに従って光造形装置1の各部を制御する。
【0027】
光造形装置1は、造形テーブル10と、造形テーブル10上に向けてスラリーを吐出する吐出ユニット(吐出手段の一例)20と、吐出されたスラリーを掃引してスラリー膜(層)を形成するリコートユニット(掃引手段の一例)30と、スラリー膜に対し露光用のパターンデータに基づく露光を行う露光ユニット(露光手段の一例)40とを、主として備える。なお、光造形装置1において露光ユニット40により行われる、露光用のパターンデータに基づく露光は、描画と称される場合がある。リコートユニット30は電動モータを備え、制御回路の制御により移動する。
【0028】
図1においては、造形テーブル10上におけるリコートユニット30の掃引塗布の進行方向をx軸正方向とし、鉛直方向上向きをz軸正方向とする、右手系のxyz座標を付している(以降においても同様の座標系を用いる)。
【0029】
造形テーブル10は、その上面10sにおいて造形が行われる平面視矩形状のテーブルである。造形テーブル10は、z軸方向に昇降自在とされてなる。係る昇降動作は、昇降機構10aにより実現される。
【0030】
概略的にいえば、造形テーブル10は、造形物の形成が進行する都度(各層の形成が完了する都度)、必要量下降させられる。
【0031】
造形テーブル10は、例えばアルミニウム製である。造形テーブル10は、大型の造形物を造形可能とするべく、少なくとも600mm×600mm以上の造形エリアを有するのが望ましく、650mm×650mm以上の造形エリアを有するのがより望ましい。
【0032】
また、図1においては図示の簡単のため、造形途中で得られる造形中間体11が造形テーブル10の上面10sに対し直接に積層されてなるようにしているが、造形テーブル10の上に図示しないフィルムが固定され、係るフィルムの上に造形中間体11が積層形成される態様であってもよい。例えば、造形テーブル10にはフィルムを吸着固定するための図示しない吸着溝が設けられており、フィルムが造形テーブル10の上面10sに敷設された状態で該吸着溝に対し負圧を作用させることで、フィルムが真空吸着される態様であってもよい。
【0033】
吐出ユニット20は、図示しない貯留部に貯留された造形用のスラリーを造形テーブル10上に向けて吐出する。吐出ユニット20は例えば、内部にスクリューを備えたポンプにて構成され、該スクリューが回転することにより、下端部のノズル20nから矢印AR1にて示すように鉛直下方(z軸負方向)に向けてスラリーを吐出する。
【0034】
スラリーは、造形の開始時には造形テーブル10の上面10sに吐出され、造形の途中では、それまでに形成されかつ一部が露光されたスラリー膜の積層体である造形中間体11の上面11sに吐出される。係るスラリーの吐出は通常、リコートユニット30の移動開始位置に近い造形テーブル10のx軸負方向の端部近傍に対してなされるが、造形内容によっては、よりx軸正方向寄りの位置に吐出されてもよいし、複数個所に吐出されてもよい。
【0035】
リコートユニット30は、造形テーブル10上に吐出されたスラリーを、リコータ(掃引部材の一例)31にて掃引塗布する。リコータ31は、ブレードとも称される、その長手方向をy軸方向に延在させる態様にてリコートユニット30に取り付けられてなる薄板状の部材である。リコータ31は金属製(例えばステンレス製)あるいはガラス製であるのが望ましく、そのy軸方向のサイズは、造形テーブル10のy軸方向のサイズと略同一となっている。
【0036】
リコータ31は、造形テーブル10から所定の距離に保たれた状態でリコートユニット30の移動によりx軸方向に移動させられる。リコータ31は、係る移動動作によって、造形テーブル10(より具体的には造形テーブル10の上面10sあるいは造形中間体11の上面11s)に吐出されたスラリーをx軸方向に拡げることにより、スラリー膜を形成する。
【0037】
塗布動作後のリコータ31が図示しない清掃ユニットにより清掃される態様であってもよい。
【0038】
例示的な一態様では、リコータ31がリコートユニット30に取り付けられてなるときのリコータ31の刃先(リコータ31の進行方向に向いた前面31Fの最下端とリコータ31の進行方向の逆方向に向いた後面31Bとの間を接続する箇所)31Lは、細長い平坦面をなしている。それゆえ、図1においては係る刃先31Lがy軸方向に延在する平坦面である場合を想定し、かつリコータ31を断面視等脚台形状に示しているが、これはあくまで模式的な図示に過ぎない。
【0039】
露光ユニット(露光手段)40は、レーザ、LEDなどの光を照射する発光素子を備えた一つないし複数のプロジェクタを備える光源である。露光ユニット40は、造形テーブル10上に形成されたスラリー塗布膜に対しパターン露光(投影)を行う。露光ユニット40による露光は、例えばDMD投影方式にて行われる。すなわち、露光ユニット40をステップ状にあるいは連続的にx軸方向に移動させつつ投影(露光)パターン(データ)を流し込み、パターンの投影を行うようにする。そして一の方向への移動が完了した露光ユニット40は、y軸方向に所定距離だけ移動させられ、再びx軸方向を反対向きへと移動しつつ露光を行う。係る場合は、所定幅の領域毎に、ストリップ状に露光が実行される。各層において、全ての造形対象エリアについて露光が完了するまで、これらの動作が繰り返される。なお、露光ユニット40を移動させる代わりに造形テーブル10を移動させてパターン露光(投影)を行ってもよいし、露光ユニット40および造形テーブル10の両方を移動させてパターン露光(投影)を行ってもよい。
【0040】
<スラリー塗布プロセスの詳細>
図2は、図1に示した、リコータ31が刃先31Lを有する光造形装置1における、スラリー塗布について説明するための模式的な側面図である。図2においては、すでに形成されてなる厚みdの造形中間体11の上面11sに対しさらに、スラリーSLの塗布膜を積層形成する場合の様子を示している。
【0041】
ただし、図2に例示する造形中間体11は、従前までのスラリー塗布とその後の露光との繰り返しにおいて、同一の露光パターンによる露光が行われることにより、造形テーブル10の上面10sから連続して硬化されてなる硬化部分12と、造形テーブル10の上面10sから連続して未硬化のままである未硬化部分13とを有するものとする。未硬化部分13は、換言すれば、先に吐出されたスラリーSLが硬化されることなく堆積してなる部分である。なお、未硬化部分13をなすスラリーを堆積済みスラリーと称する。
【0042】
さらに、未硬化部分13は、スラリーSLを塗布する際のリコータ31の進行方向であるx軸方向において硬化部分12よりも手前(x軸方向負側)に位置する第1の未硬化部分13aと、硬化部分12よりも奥(x軸方向正側)に位置する第2の未硬化部分13bとを有するものとする。係る場合、造形中間体11の上面11sは、硬化部分12の上面12sと、第1の未硬化部分13aの上面13asと、第2の未硬化部分13bの上面13bsとから、構成される。硬化部分12の上面12sを硬化面12sとも称する。また、第1の未硬化部分13aの上面13asと、第2の未硬化部分13bの上面13bsとをそれぞれ未硬化面13as、未硬化面13bsとも称し、両者を未硬化面13sと総称する。
【0043】
そして、図2に示す場合においては、造形中間体11のうちx軸方向負側に存在する未硬化面13asに対しスラリーSLが吐出されている。
【0044】
なお、図2では説明の簡単のため、造形中間体11の上面11sは、一様に平坦となっているが、実際には、後述する理由から、上面11sは必ずしも平坦とは限らない。
【0045】
スラリーの塗布にあたっては、リコータ31の刃先31Lが、形成しようとするスラリー膜の厚み(狙い厚み)に対応するピッチpだけ造形中間体11の上面11sから離隔するように、造形テーブル10の高さが調整される。
【0046】
より具体的には、造形テーブル10の上面10sに対する刃先31Lの高さをhとすると、h=d+pがみたされるように、造形テーブル10の高さが調整される。そして、スラリー塗布の際には、刃先31Lが、図2に示した上面10sからの高さがhであるx軸に平行な直線(以下、刃先移動線)Lに沿うように、リコータ31が移動させられる。
【0047】
狙い厚みは、造形精度や造形時間などの観点から、実用的には50μm~100μm程度に設定されるのが望ましく、係る場合、ピッチpについても50μm~100μm程度に設定される。
【0048】
このようにピッチpが50μm~100μm程度に設定される場合、スラリーSLの粘度は、100Pa・s以下であればよく、1Pa・s以上50Pa・s以下であるのが望ましい。係る場合、狙い厚みのスラリー膜を好適に形成可能である。さらには、30Pa・s以下であるのがより望ましい。また、約5Pa・sであるのがより望ましい。
【0049】
ただし、スラリーSLはチキソ性材料であるため、塗布時の粘度は、塗布速度(すなわちリコータ31の移動速度)に応じて変化する。図3は、代表的なスラリー材料についての粘弾性特性を示す図である。より具体的には、図3は、スラリー材料に与えるせん断速度に対する当該スラリー材料の粘度の依存性を示すグラフである。なお、スラリー材料は、光硬化性樹脂45vol%とアルミナ粉体55vol%とを混合したものであり、アルミナ粉体としては、平均粒径は0.6μmであって、粒径は0.2μm~2μmの範囲に分布しているものを用いている。
【0050】
例えば、狙い厚みを100μm(=0.1mm)として当該グラフに従うスラリーSLの塗布を行う場合の塗布速度を2mm/sとすると、せん断速度は2/0.1=20/sとなる。図3によれば、係るせん断速度でのスラリーSLの粘度は10Pa・sである。
【0051】
塗布にあたっては、上述の粘度範囲をみたす粘度が実現されるように、図3に示したような粘弾性特性に基づいてリコータ31の移動速度が設定される。
【0052】
なお、スラリー材料に用いるセラミックス粉体としては、アルミナの他、窒化アルミニウム、ジルコニア、窒化ケイ素などを用いることができる。
【0053】
図4は、図2に示した造形中間体11の上面11sに対し所定のピッチpにてスラリーSLを塗布した後の、理想的な状態を示す図である。係る塗布の終了後、図4に示すように、造形中間体11の上面11s全体にわたってピッチpに相当する一様な厚みのスラリー膜14が形成され、これに続き、係るスラリー膜14が露光ユニット40による露光の対象とされるのが、理想的な造形態様である。図2も、このような理想的な態様を経て得られた造形中間体11を前提としていた。
【0054】
しかしながら、実際の造形にあたっては必ずしも、このような理想的な態様にてスラリーの塗布さらにはその後の露光が行われるわけではない。特に、図2に示したような、硬化部分12と未硬化部分13とが混在し、後者が相当程度の範囲に存在する造形中間体11の上にスラリーを塗布する場合、そのような理想的な態様でのスラリー膜の形成は難しい。図5ないし図9は、このことを説明するための、図2に示した造形中間体11の上面11sに対し所定のピッチpにてスラリーSLを塗布する際の様子と、係る塗布に続いて行われる露光後の様子とを、段階的に示す図である。
【0055】
図5は、図2に示すような、スラリーSLが造形テーブル10のx軸方向負側に位置する未硬化面13asに対し吐出された状態から、スラリーSLの塗布を開始したときの様子を示している。係る場合、リコータ31は、刃先31Lが刃先移動線Lに沿うように、x軸正方向に向けて第1の未硬化部分13aの上方を移動する。これにより、図5に示すように、移動するリコータ31の進行方向に向いた前面31FにスラリーSLが接触し、これによってスラリーSLが水平面内に掃引され押し拡げられていくことになるが、係る移動に際し、刃先31LはスラリーSLに対しせん断応力SSを作用させている。この時のせん断応力SSは、刃先31Lの高さhとリコータ31の移動速度とから定まるせん断速度から図3に示すような粘弾性特性に基づいて特定される、スラリーSLの粘度に比例する。
【0056】
係るせん断応力SSは、塗布されるスラリーSLの直下の第1の未硬化部分13aにも作用する。第1の未硬化部分13aを構成しているのは塗布されているスラリーSLと同じ材質の堆積済みスラリーである。刃先31L下方のスラリーSLおよび第1の未硬化部分13aで発生するせん断応力SSに対し、これらのスラリー自体の粘性抵抗に由来する抵抗力と、第1の未硬化部分13aの直下に位置する第1の未硬化部分13aよりも硬質な造形テーブル10から第1の未硬化部分13aが受ける摩擦力とが、抗力として作用する。しかし、これらの抵抗力および摩擦力はせん断応力に比して弱いため、リコータ31によって必要以上のスラリーが持ち去られ、x軸正方向へと移動させられてしまうことがある。
【0057】
その結果として、第1の未硬化部分13aの上部(z軸方向正側)においては、図6に示すように、凹部16(16a)が形成されてしまうことがあり得る。なお、図5の例は、説明の簡単のために、図2の理想的な状態から、スラリーSLの塗布を開始した場合を仮定している。しかし、実際は、第2層目のスラリーを塗布した時点から、硬化部分12におけるスラリーの高さ(造形テーブル10の上面10sから硬化部分12の上に塗布された塗布膜の上面までの距離)と第1の未硬化部分13aにおけるスラリーの高さ(造形テーブル10の上面10sから第1の未硬化部分13aの上に塗布された塗布膜の上面までの距離)に差が生じる。なお、この差は層が重ねられるとともに広がっていくが、ある層数を超えるとほぼ一定となる傾向がある。図5では塗布によって第1の未硬化部分13aの厚みが減少しているが、実際は、第1の未硬化部分13aの厚みは、狙い厚みよりも小さくなるものの、塗布のたびに増していく傾向がある。なお、第1の未硬化部分13aにおけるスラリーの持ち去りは、硬化部分12の近くほど少なくなる傾向がある。
【0058】
図6は、図5に示した状態からさらにリコータ31が移動して、硬化部分12の上方に至ったときの様子を示している。
【0059】
図6に示すように、係る状況においても同様に、リコータ31の移動に伴い刃先31LはスラリーSLに対しせん断応力SSを作用させるが、図5に示した、リコータ31が第1の未硬化部分13a上にあるときとは異なり、露光により硬化してなる硬化部分12がピッチpにて刃先31Lと近接している。すなわち、塗布しているスラリーSLに比して硬い物質が刃先31Lと近接している。この状態でのせん断応力は硬化面12sからリコータ31までの距離pとリコータ31の移動速度により決まるせん断速度に基づく粘度に比例する。距離pは、未硬化部分13aでのリコート時の高さhより、はるかに小さいのでせん断速度がかなり早くなり、図3の特性に基づく粘度は未硬化部分13aでのリコート時よりも非常に低くなる。係る場合、硬化部分12は、刃先31Lによるせん断応力SSに対する相応の抗力としての摩擦力FFを作用させる。それゆえ、硬化部分12で塗布しているスラリーSLは低い粘度によりリコータ31のより持ち去られることは起こりにくい。それゆえ、硬化部分12の上面12sには、厚みが概ねピッチpと等しいスラリー膜17が形成される。換言すれば、上面17sの高さが刃先移動線Lと略同じであるスラリー膜17が形成される。
【0060】
図7は、図6に示した状態からさらにリコータ31が移動して、第2の未硬化部分13bの上方に至ったときの様子を示している。
【0061】
係る場合も、第1の未硬化部分13aの上方を移動する場合と同様に、刃先31LがスラリーSLおよび第2の未硬化部分13bにせん断応力SSを与え、必要以上のスラリーが持ち去られ、x軸正方向へと移動させられてしまうことがある。
【0062】
その結果として、第2の未硬化部分13bの上部(z軸方向正側)においても、図7に示すように、凹部16(16b)が形成されてしまうことがあり得る。なお、図7の例も図5の例と同様、図2の理想的な状態からスラリーSLの塗布を開始した場合を仮定している。それゆえ実際は、第2層目のスラリーを塗布した時点から、硬化部分12におけるスラリーの高さと第2の未硬化部分13bにおけるスラリーの高さに差が生じる。この差も、層が重ねられるとともに広がっていくが、ある層数を超えるとほぼ一定となる傾向がある。図7では塗布によって第2の未硬化部分13bの厚みが減少しているが、実際は、第2の未硬化部分13bの厚みは、狙い厚みよりも小さくなるものの、塗布のたびに増していく傾向がある。なお、第2の未硬化部分13bにおけるスラリーの持ち去りは、硬化部分12の近くほど少なくなる傾向がある。
【0063】
図8は、図2に示した造形中間体11に対し図5から図7に示した経過を経て最終的にスラリーの塗布が完了した後の様子を模式的に示している。
【0064】
図2に示した態様にて造形中間体11の上面11sにスラリーを塗布する動作を実行する場合、係る動作によって本来的に意図されているのは、図4に示したようにピッチpに略等しい厚みのスラリー膜14が造形中間体11の全体に積層形成される態様であるが、実際には、図8に示すように、硬化部分12の上には当該厚みのスラリー膜17が形成されるものの、未硬化部分13の上部には、係るスラリー膜17の上面17sよりも高さの低い凹部16が形成されてしまう。
【0065】
なお、スラリー(新たに塗布されるスラリーSLおよび堆積済みスラリー15)の粘度や硬化部分12の配置態様次第では、リコータ31が通過した後の未硬化部分13にレベリングが生じ、硬化面12sと未硬化面13sとの高さの差(高低差)が低減されることはあり得るが、説明の簡単のため、以降においてはこの点は考慮しない。
【0066】
また、造形態様によっては、図8のように未硬化部分13が造形テーブル10の上面10sから造形中間体11の上面11sにまで連続するのではなく、造形テーブル10の上面10sからある範囲にまで形成された硬化部分の上に未硬化部分13が存在する場合もある。そのような場合に未硬化部分13が直下の硬化部分から受ける摩擦力は、硬化部分がない場合に造形テーブル10から受ける摩擦力に比して相対的に大きく、それゆえ、硬化部分がない場合に比して凹部16の形成が低減される傾向はある。
【0067】
さらには、x軸方向において複数の硬化部分12が離散的に存在する場合、それらの硬化面12s同士のx軸方向における間隔が小さいほど、硬化部分12の間の未硬化部分13における凹部の形成は低減される傾向にある。
【0068】
しかしながら、造形中間体11の形成に際し繰り返されるスラリー塗布の全てについて、塗布との造形中間体11に全く凹部が形成されないことは例外的である。すなわち、スラリーSLを掃引塗布した後の造形中間体11の上面11sには通常、程度の差こそあれ高低差が生じており、このような高低差のある上面11sを対象に、露光ユニット40による露光が行われることになる。このとき、特に問題となるのは、係る露光のための露光パターンにおいて設定されている露光範囲(硬化対象範囲)が、従前から存在する硬化部分12の上方であって、かつ、水平面内において該硬化部分12から突出する新たな硬化部分を形成する、いわゆるオーバーハング形状を造形するための範囲となっている場合である。
【0069】
図8においては、X軸方向において硬化部分12よりも幅広の領域RE1が、そのようなオーバーハング形状の形成を意図した露光パターンにおける露光範囲であるとする。さらに、図9は、係る領域RE1が露光された後の様子を示している。
【0070】
領域RE1を露光範囲とする露光が行われることによって、図9に示すように硬化部分12の上に新たな硬化部分18が形成されるが、係る硬化部分18は、硬化部分12の上に形成された第1の部分18aと、係る第1の部分18aから連続し、第1の未硬化部分13aと第2の未硬化部分13bの上方に延在する第2の部分18bおよび第3の部分18cとから構成される。
【0071】
第1の部分18aは、スラリー膜17が硬化した部分であって、硬化部分12に下方支持されてなり、かつ、スラリー塗布時のピッチpと略同一の厚みを有してなる。
【0072】
一方、第2の部分18bと第3の部分18cとはそれぞれ、第1の未硬化部分13aの一部範囲と第2の未硬化部分13bの一部範囲とが硬化した部分である。本来的には、両者はともに第1の部分18aから水平に延在し、これによって硬化部分18が全体として一様な厚みを有する平板状に形成されるべきところ、実際には、第2の部分18bと第3の部分18cとはいずれも、第1の部分18aから連続してはいるものの、硬化部分12に比して軟質でかつ上部に凹部16が存在する未硬化部分13にて下方支持されているに過ぎない。そのため、図9に示すように、第2の部分18bと第3の部分18cの形状は、未硬化部分13の上部に存在する凹部16に応じた垂れ下がり形状となってしまう。これは、硬化部分18が設計時に想定された形状にて造形されていないことを意味する。
【0073】
しかも、以上のような、スラリー塗布時の未硬化部分13における凹部の形成や、これに続く露光においてオーバーハング形状を形成しようとする場合のオーバーハング部分の垂れ下がりは、図2に示した理想的な造形中間体11ではなく、すでに未硬化部分13の上部に凹部が形成されているような造形中間体11に対しスラリーSLを塗布する場合も起こり得る。これはすなわち、作成しようとしている造形物の形状によっては、スラリーSLの塗布の度に硬化部分12と未硬化部分13との高低差が増大し、それゆえに、個々のスラリー塗布後に露光によって形成される硬化部分18の形状が設計から次第にずれていき、最終的に得られる造形物の造形精度が著しく低下する場合があることを意味する。
【0074】
さらにいえば、スラリー塗布時の未硬化部分13における凹部の形成は、上述のようにリコータ31の刃先31LがスラリーSLに対しせん断応力SSを作用させることに起因するものであるところ、係るせん断応力SSはスラリーSLの塗布に際し必須である。それゆえ、凹部の形成に起因した硬化部分12と未硬化部分13との高低差は、原理的には不可避であるとも思料される。
【0075】
<リコータの形状が造形精度に及ぼす影響の評価>
上述のように、スラリー塗布時の未硬化部分13における硬化部分12と未硬化部分13との高低差は原理的には不可避であると思料される。しかしながら、係る高低差が造形精度に対し実質的に影響を及ぼさないのであれば、実用上は許容されるとも考えられる。
【0076】
また、リコータ31の刃先31LがスラリーSLに対し作用させるせん断応力SSは、リコータ31の(特に刃先近傍の)形状に依存しているものと考えられる。係る形状を工夫することで、スラリーの塗布に際し、硬化部分12と未硬化部分13との高低差を造形精度に対し実質的に影響を及ぼさない程度に抑制できるとも考えられる。
【0077】
図10から図16は、発明者が以上の点を鑑みて行った、リコータ31の形状が造形中間体における硬化部分12と未硬化部分13との高低差の形成に与える影響の評価(リコータ形状影響評価)について、説明するための図である。
【0078】
図10は、係るリコータ形状影響評価に用いる露光パターンを示す平面図である。白色に視認される領域RE1が、当該露光パターンにおける露光範囲を示している。一方、領域RE2は、後述する高さ測定の際の測定対象範囲を示している。
【0079】
領域RE1は幅が1.5mmである2つの同心円環と、そのさらに外側の40mm×25mmのサイズの矩形部分とから構成されてなる。内側の円環の中央部分は直径が3mmの円となっている。また、2つの同心円環とその外側の矩形部分とは、同心円環の径方向に1.5mmずつ離隔している。スラリーの塗布が行われる都度、図10に示した露光パターンにより露光がなされることにより、それら2つの同心円環と矩形とを断面とする3つの柱状の硬化部分12を含む造形中間体11が形成されることになるが、当該露光パターンは、未硬化部分13に凹部16が形成されることにより、造形中間体11の上面11sに高低差が生じ得るものである。
【0080】
また、図11および図12は、リコータ形状影響評価に用いた全7タイプ(type A~type G)のリコータ31の形状を、リコートユニット30に取り付けられてスラリーを掃引塗布する際の姿勢(掃引姿勢)とともに示している。いずれのリコータ31についても、スラリー塗布時には、リコートユニット30により図面に示された掃引姿勢にてx軸正方向(図面視右方向)に向けて移動させられるものとする。なお、図11および図12においては図示を省略しているが、リコータ31は、リコートユニット30のホルダ(掃引部材保持手段の一例)32(図22参照)にて保持された状態でリコートユニット30に取り付けられて、使用される。
【0081】
また、いずれのリコータ31においても、最大厚み(ブレード厚)は5mmとし、掃引姿勢にあるときの刃先31Lは水平面(xy平面)に対し平行な平坦面状あるとし、かつ、掃引塗布の進行方向に向いた前面31Fを、刃先31Lから連続しかつ水平面に対して60°の角をなす傾斜面としている。なお、リコータ31は、刃先31Lと連続するもう一つの面であって、掃引塗布の進行方向の逆方向に向いた後面31Bを有する。
【0082】
なお、リコータ31が掃引姿勢にあるときに前面31Fが水平面に対してなす角度(以下、前面傾斜角度α)は、望ましくは、90°未満であり、70°以下であってもよい。前面傾斜角度αを90°未満とした場合、塗布時のスラリーSLに対し鉛直下方に作用する塗布圧として、スラリーSLの自重だけでなく、前面31Fによる力も加わると考えられる。よって、塗布時に前面31Fと接触したスラリーSLが前面31Fから落下しやすくなり、その結果、リコータ31が上滑りの状態となって未塗布が生じることを低減することができると考えられる。
【0083】
また、前面傾斜角度αは、30°超であればよく、50°以上であってもよい。前面傾斜角度αを30°超とした場合、前面31Fに付着したスラリーSLを介したせん断応力の作用を低減することができ、スラリーSLの持ち去りを低減することができると考えられる。また、鉛直下方に作用する塗布圧が大きくなりすぎることを防ぐことができるため、塗布圧に起因して造形中間体11が変形するおそれを低減することができると考えられる。
【0084】
よって、前面傾斜角度αは30°<α<90°であることが望ましいことから、図11および図12に示した7タイプのリコータ31においてはいずれも、前面傾斜角度αを当該角度範囲の中間値である60°としている。
【0085】
また、リコータ31が掃引姿勢にあるときに後面31Bが水平面に対してなす角度(以下、後面傾斜角度β)は、30°超であればよく、50°以上であってもよい。後面傾斜角度βを30°超とすることにより、スラリーSLの後面31Bによる持ち去りが生じるおそれを低減することができると考えられる。また、後面31Bによって鉛直下方に作用する塗布圧が大きくなることを低減し、係る塗布圧に起因して造形中間体11が変形するおそれを低減することができると考えられる。また、後面傾斜角度βは、(180°―α)であってもよいし、(180°―α)未満であってもよい。後面傾斜角度βを(180°―α)未満とした場合、刃先31Lから離れるほどリコータ31の厚みを増すことができ、リコータ31の強度を向上させることができる。
【0086】
そして、これら7タイプのリコータ31は、掃引状態での刃先31Lが平坦面状となっている点では共通するものの、x軸方向における刃先31Lの厚み(以下、刃先厚)と、後面31Bが水平面となす角(以下、後面傾斜角度)との組み合わせが、種々に違えられている。
【0087】
type Aのリコータ31は、刃先厚を5.77mmとするとともに、後面傾斜角度を120°としたものである。
【0088】
type Bのリコータ31は、刃先厚を2mmとするとともに、後面傾斜角度を90°としたものである。
【0089】
type Cのリコータ31は、刃先厚を2mmとするとともに、後面傾斜角度を60°としたものである。
【0090】
type Dのリコータ31は、刃先厚を2mmとするとともに、後面傾斜角度を120°としたものである。
【0091】
type Eのリコータ31は、刃先厚を0.9mmとするとともに、後面傾斜角度を60°としたものである。
【0092】
type Fのリコータ31は、刃先厚を0.5mmとするとともに、後面傾斜角度を60°としたものである。
【0093】
type Gのリコータ31は、刃先厚を0.2mmとするとともに、後面傾斜角度を90°としたものである。
【0094】
造形に用いるスラリーSLには、図3に示した、せん断速度が1/s以上のときの粘度が50Pa・s以下となる粘弾性特性を有するものを用いた。塗布速度は2mm/sとし、スラリー膜の狙い厚みに相当する塗布時のピッチpは100μmとした。すなわち、塗布時のせん断速度を20/sとした。また、造形は常温(室温)で行った。これらの条件でのスラリー塗布によるスラリー膜の積層と、これに続く露光とを、一部の例外を除き、50回まで繰り返した。
【0095】
図13は、スラリーSLの塗布にtype Cのリコータ31を用いて作製した造形中間体11の、50回目の露光後の上面の撮像画像である。図10に示した露光パターンに対応した高低差が形成されていることが視認される。
【0096】
このような高低差の造形途中における変化を把握するべく、上述の条件にてスラリー膜の積層と露光とを繰り返す間に、5層ごとまたは10層ごとに、露光後の造形中間体11の上面の高さ(塗布面高さとも称する)を図10に示した領域RE2内の多数の測定点にて測定した。測定には、レーザー変位計を用いた。
【0097】
具体的には、測定点はx軸、y軸両方向について2mmピッチで26箇所ずつ、合計で26×26=576点とした。かつ、図10における領域RE1に相当する硬化面12sにおける測定点数と、領域RE1を除く領域RE2に相当する未硬化面13sにおける測定点数とが同数となるようにした。
【0098】
そして、得られた全576点における高さの測定値から、区間を10μmとする測定点のヒストグラムを作成した。
【0099】
図14は、type Cのリコータ31を用いたときの、50層形成後の高さ測定の結果を示すヒストグラムである。一方、図15は、type Gのリコータ31を用いたときの、50層形成後の高さ測定の結果を示すヒストグラムである。
【0100】
これらのヒストグラムには、2つのピークが現れている。また、図示は省略するが、同様に作成した全てのヒストグラムにおいても、同様に2つのピークが現れた。図4ないし図9に基づいて説明した凹部16の形成態様を鑑みると、それぞれのヒストグラムに現れる2つのピークに相当する測定値の差分値が、造形中間体11の上面11sにおける硬化面12sと未硬化面13sとの代表的な高低差に相当するとみなすことができる。
【0101】
例えば、図14に示したヒストグラムからは、type Cのリコータ31を用いた場合、硬化面12sと未硬化面13sとの間には、狙い厚みの100μmよりも大きな240μm程度の高低差が生じてしまうことがわかる。
【0102】
一方、図15に示したヒストグラムからは、type Gのリコータ31を用いた場合、硬化面12sと未硬化面13sとの高低差は、狙い厚みの100μmに比して小さい50μm程度に留まっていることがわかる。
【0103】
なお、区間を10μmとしているために、それぞれのヒストグラムのピーク位置に基づいて得られる高低差の値は、最大で20μmの誤差を含み得るが、高低差の傾向を把握する目的に照らせば、特段の支障はない。もちろん、さらに小さい区間を設定してヒストグラムを作成するようにしてもよい。
【0104】
図16は、7タイプのリコータ31のそれぞれを用いた場合における、硬化面12sと未硬化面13sの高低差の、積層数に対する変化を示すグラフである。なお、type Cのリコータ31と type Fのリコータ31については、2度の測定を行っている。
【0105】
図16からは、刃先厚が小さいほど、硬化面12sと未硬化面13sの高低差が小さくなる傾向があること、さらには、刃先厚が同じ場合、後面傾斜角度の違いは高低差の大小に影響しないことがわかる。
【0106】
また、刃先厚が0.9mm以下であるtype Eのリコータ31を用いた場合には、高低差は狙い厚みに比較的近い150μm以下に抑制されることが確認される。特に、刃先厚が0.5mm以下であるtype Fおよびtype Gのリコータ31を用いた場合には、高低差は狙い厚みである100μmと同程度あるいはそれ以下に抑制されることが確認される。なかでも、刃先厚が0.2mmであるtype Gのリコータ31を用いた場合には、30層以上の積層時に高低差が50μm程度にまで抑制されている。
【0107】
<リコータの形状>
次に、図16に示したリコータ形状影響評価の結果を踏まえた、リコータ31の望ましい形状について説明する。
【0108】
上述のように、刃先厚が小さいほど硬化面12sと未硬化面13sとの高低差が小さくなる傾向があり、刃先厚を0.9mm以下とした場合には係る高低差をスラリー膜の狙い厚み近くにまで抑制できる一方で、後面傾斜角度に対する依存性はないということは、リコータ31の刃先厚を出来るだけ小さくすれば、硬化面12sと未硬化面13sとの高低差を抑制できるものと考えられる。すなわち、刃先厚は、0.9mm以下であればよい。また、刃先厚は0.5mm以下であってもよく、0.2mm以下であるのが望ましい。係る場合、硬化面12sと未硬化面13sの高低差が狙い厚みと同程度あるいはそれ以下に抑制される。
【0109】
また、刃先厚は、0.1mm以上であってもよい。刃先厚を0.1mm以上とすることにより、刃こぼれを低減することができる。
【0110】
なお、図11および図12に例示したtype A~type Gのリコータ31はいずれも、刃先31Lが水平面に平行となっているが、取り付け精度によっては、リコータ31は刃先31Lが水平面に平行ではない姿勢にてリコートユニット30に取り付けられる場合もある。図21は、刃先31Lが水平面に平行な場合よりも前面傾斜角度αが大きい掃引姿勢のリコータ31を示す図である。
【0111】
図21に示すように、前面31Aの最下端が後面31Bの最下端よりも高くなった場合は、前面31Aの最下端における前面31Aと後面31Bとの間のx軸方向の間隔が刃先厚となる。一方、前面傾斜角度αが小さくなる掃引姿勢にてリコートユニット30に取り付けられることにより、後面31Bの最下端が前面31Aの最下端よりも高くなった場合は、後面31Bの最下端における前面31Aと後面31Bとの間のx軸方向の間隔が刃先厚となる。
【0112】
すなわち、前面31Aの最下端または後面31Bの最下端の何れか高い方における前面31Aと後面31Bとの間のx軸方向の間隔31Tが刃先厚となる。
【0113】
しかしながら、刃先31Lを意図的に刃先厚の小さいものとするには、加工精度の点からの限界もある。例えば、ステンレス 製のリコータ31の場合、0.2mm未満の刃先厚を精度良く実現することは必ずしも容易ではない。
【0114】
一方で、掃引姿勢にあるときの刃先31Lが実際に平坦面状となっており、かつその刃先厚が0.9mm以下であるリコータ31であっても、マクロ的にみれば、単に、最下端である刃先に向かうほど水平方向について厚みが小さくなっており、かつ、前面31Fの最下端と後面31B最下端とが接しているようにも捉えられ得る。
【0115】
そのように捉えた場合であっても、ある高さ以下の範囲におけるリコータ31の水平方向についての厚みが0.9mm以下、より望ましくは0.5mm以下、更に望ましくは0.2mm以下であれば、当該リコータ31の最下端における水平方向についての厚みは、平坦面が存在するか否かによらず、あるいは、たとえ平坦面の厚みの具体的な特定を要さずとも、0.9mm以下、0.5mm以下あるいは0.2mm以下となっているはずである。
【0116】
これは、換言すれば、掃引姿勢にあるリコータ31が、少なくとも最下端近傍において最下端に向かうほど厚みが小さくなる場合、リコータ31の最下端あるいは最下端から鉛直方向における所定範囲において、リコータ31のx軸方向の厚みが0.9mm以下となっていればよく、より望ましくは0.5mm以下であり、更に望ましくは0.2mm以下であるということである。図12に示したtype E、type Fおよびtype Gのリコータ31も、係る要件をみたしている。
【0117】
このようなリコータ31を用いた場合、造形テーブル10あるいは造形中間体11と最下端との距離であるピッチpを狙い厚みに応じて設定しさえすれば、上面における硬化面12sと未硬化面13sとの高低差が造形物の造形精度に照らして許容される程度にまで抑制された造形中間体11を得ることが可能となる。結果として、造形物の造形精度が向上する。
【0118】
このことは、掃引姿勢にあるリコータ31が、少なくとも最下端から鉛直方向における所定範囲において水平方向について等しい厚みである場合についても同様である。係る場合、当該範囲が水平方向について0.9mm以下、0.5mm以下あるいは0.2mm以下の厚みにて等しくなっていれば当然に、最下端の水平方向の厚みも同じだからである。
【0119】
以上を鑑み、本実施の形態においては、リコータ31が掃引姿勢にあるときに、少なくともその最下端の近傍が、該最下端に向かうほどx軸方向について厚みが小さくなるかあるいは等しい厚みであって、かつ、該最下端あるいは該最下端から鉛直方向における所定範囲において、x軸方向の厚みが0.9mm以下、より望ましくは0.5mm以下、更に望ましくは0.2mm以下であるようにする。本実施の形態においては、係る要件をリコータ形状要件と称する。
【0120】
リコータ31が係るリコータ形状要件をみたす光造形装置1にて造形を行う場合、造形中間体11の上面11sにおける硬化面12sと未硬化面13sとの高低差を、造形精度に照らして許容される範囲にまで低減することができる。
【0121】
上述したtype Fおよびtype Gのリコータ31は、係るリコータ形状要件をみたすものとなっている。ただし、リコータ形状要件をみたすリコータ31はこれらに限られるものではない。
【0122】
図17は、type Fおよびtype Gとは異なるリコータ31の主な形状例を示す図である。図17(a)は、係るリコータ31が掃引姿勢にあるときの概略的な断面図である。
【0123】
図17(a)に示すリコータ31においては、スラリーの塗布に際してスラリーをx軸正方向に押し拡げる前面31Fが、水平面に対して30°<α<90°なる角αをなしている。そして、係る前面31Fに対しx軸方向において反対側にある後面31Bが、水平面に対して30°<β<180°-αなる角βをなしている。ここで、β<180°-αなる要件は、リコータ31の少なくとも最下端近傍が最下端に向かうほど厚みが小さくなっていることを示している。
【0124】
ただし、図17(a)においては、前面31Fと後面31Bとがリコータ31の最下端31Eにおいて角をなすように図示がなされているが、これは概略的な(マクロ的)図示に過ぎず、実際の最下端31Eの近傍の形状は、上述したリコータ形状条件を充足しつつ種々の態様を取り得る。図17(b)~(e)に示すのが、そのようなリコータ31の最下端31Eの近傍範囲Aについてのより詳細な形状例である。
【0125】
図17(b)に示すのは、リコータ31の最下端31Eが平坦面状の刃先となっており、かつ、最下端31Eのx軸方向の長さである刃先厚が0.5mmである態様である。係るリコータ31の最下端近傍の形状は、type Gのリコータ31に類似している。
【0126】
一方、図17(c)に示すのは、x軸方向の長さが0.5mmとなる箇所がリコータ31の最下端31Eよりも上部に存在し、かつ、最下端31Eが平坦面状の刃先となっている態様である。係る場合の最下端31Eにおける刃先厚は、0.5mmよりも小さい。これは、図17(b)のリコータ31の刃先厚を0.5mmよりも小さくした態様に相当する。
【0127】
また、図17(d)に示すのは、x軸方向の長さが0.5mmであるが、刃先が平坦で無く鉛直下方に向かう角となっており、前面31Fおよび後面31Bの最下端よりもリコータ31の最下端31Eが低い位置に存在する態様である。
【0128】
また、図17(e)に示すのは、x軸方向の長さが0.5mmであるが、刃先が平坦で無く鉛直下方に向かう鉛直下方に凸の曲面となっており、前面31Fおよび後面31Bの最下端よりもリコータ31の最下端31Eが低い位置に存在する態様となっている。
【0129】
例えば、図17(c)に示すような、刃先厚が0.5mmよりも小さい平坦面状の刃先を有するようにリコータ31を加工しようとした場合であっても、加工精度の限界により、実際には図17(d)や図17(e)に示すような形状となることはあり得る。このような場合であっても、スラリー塗布時に造形中間体11に対する最下端31Eの位置が所定のピッチpを充足するようにすれば、図17(b)や図17(c)に示す形状のリコータ31を用いる場合と同様に、硬化面12sと未硬化面13sとの高低差の小さいスラリー塗布を行うことは可能である。また、図17(d)や図17(e)とは逆に刃先に鉛直上方に凹む窪みがあってもよい。
【0130】
なお、図17(a)に示すリコータ31は、リコートユニット30に対する取り付けに使用可能な貫通穴31hを上部に備えるほか、前面31Fの上部に段差31sを有してなるが、これらの具備は必須ではない。
【0131】
図18は、図17(a)に示したマクロ的な構成を前提としない、リコータ31のさらに異なる形状例を示す図である。
【0132】
図18(a)は、リコータ31の最下端31Eが平坦面状の刃先となっており、最下端31Eのx軸方向の長さである刃先厚が0.5mmであり、かつ、β=α>30°である場合の例である。刃先厚は、0.5mmより大きく且つ0.9mm以下であってもよいし、0.5mmより小さくてもよい。また、係るリコータ31に、図17(d)や図17(e)に示した最下端31E近傍の形状が組み合わされてなる態様であってもよい。
【0133】
図18(b)は、リコータ31の最下端31Eが平坦面状の刃先となっており、最下端31Eのx軸方向の長さである刃先厚が0.5mmであり、かつ、α<β<90°である場合の例である。刃先厚は、0.5mmより大きく且つ0.9mm以下であってもよいし、0.5mmより小さくてもよい。また、係るリコータ31に、図17(d)や図17(e)に示した最下端31E近傍の形状が組み合わされてなる態様であってもよい。
【0134】
図18(c)は、リコータ31の最下端31Eが平坦面状の刃先となっており、最下端31Eのx軸方向の長さである刃先厚が0.5mmであり、かつ、β=180°-αであることにより、少なくとも最下端31Eの近傍でリコータ31が全体として傾斜しつつ等しい厚みとなっている場合の例である。係るリコータ31においても、刃先厚は、0.5mmより大きく且つ0.9mm以下であってもよいし、0.5mmより小さくてもよい。また、係るリコータ31に、図17(d)や図17(e)に示した最下端31E近傍の形状が組み合わされてなる態様であってもよい。
【0135】
図18(d)は、リコータ31の最下端31Eが平坦面状の刃先となっており、最下端31Eのx軸方向の長さである刃先厚が0.5mmであり、かつ、90°<β<180°-αである場合の例である。刃先厚は0.5mmより小さくてもよい。また、係るリコータ31に、図17(d)や図17(e)に示した最下端31E近傍の形状が組み合わされてなる態様であってもよい。
【0136】
図18(a)~(d)に例示する形状のリコータ31を用いた場合であっても、硬化面12sと未硬化面13sとの高低差の小さいスラリー塗布を行うことが可能である。
【0137】
<造形例>
図19および図20は、リコータ31の形状の違いがオーバーハングを有する造形物の造形に与える影響を示す図である。
【0138】
図19(a)および図20(a)に示している造形物はいずれも、最下端31Eが平坦面状の刃先31Lとなっておりかつその刃先厚が2mmであるリコータ31を造形の際に使用したものである。係るリコータ31は、上述したリコータ形状条件を満たさないものである。図19(a)および図20(a)に示す造形物においては、矢印AR3および矢印AR4に示す箇所において、オーバーハングの垂れ下がりが認められる。
【0139】
より詳細には、図19(a)に示す造形物においては、図面視左右方向に突出するオーバーハングにおいて、垂れ下がりが生じている。一方、図20(a)に示す造形物においては、図面に垂直な方向に突出するオーバーハングにおいて、垂れ下がりが生じている。
【0140】
これに対し、図19(b)および図20(b)に示す造形物は、リコータ形状条件を充足する、最下端31Eが平坦面状の刃先31Lとなっておりかつその刃先厚が0.2mmであるリコータ31を使用した以外は、図19(a)および図20(a)の造形物の造形時と同じ造形条件を適用して、得られたものである。
【0141】
図19(b)および図20(b)に示された造形物においては、図19(a)および図20(a)のようなオーバーハングの垂れ下がりは抑制されている。
【0142】
係る結果は、リコータ形状条件を充足するように造形を行うことで、オーバーハングの垂れ下がりが抑制されることがわかる。これは、リコータ形状条件を充足するリコータ31にて造形を行うことにより、造形中間体11の未硬化部分13の上面(未硬化面)13sに凹部が形成されることに起因して硬化面12sと未硬化面13sとに生じる高低差が、造形精度に照らして許容される範囲にまで低減されていることの効果である。
【0143】
<第2の実施の形態>
上述した第1の実施の形態においては、常温での造形を前提としているが、一方で、光造形に用いるスラリーは、温度を上げると粘性が低下し、塗布の容易性・均一性が向上する。
【0144】
例えば、特許文献4に開示されている光造形装置は、吐出ユニット20に相当するディスペンサ(吐出手段)に取り付けた温調部材にてスラリーの温度を調整する。
【0145】
仮に、係る態様でスラリーを加熱してディスペンサからのスラリーを吐出した場合、吐出されたスラリーが造形テーブルあるいはその上に既に形成されている塗布膜に付着すると、スラリーから造形テーブルや塗布膜へと熱が拡散し、スラリーの温度は吐出前よりも低下する。続くリコータによる掃引塗布の際にはさらに、スラリーと接触するリコータによる吸熱も生じるため、スラリーの温度はさらに急速に低下する。温度が低下するとスラリーの粘度は高くなるため、結局のところ、リコータによる掃引塗布時には、吐出前よりも粘度の高いスラリーが、塗布されることとなる。
【0146】
本実施の形態では、以上の点も鑑み、塗布膜の均一性に直接的に影響を及ぼすリコータによる掃引塗布の際に限って、掃引されているスラリーを加熱(あるいは加温)することが可能な構成(掃引時加熱手段)を、第1の実施の形態に係る光造形装置1に付加することで、造形面上に形成する塗布膜に生じる高低差をさらに低減させるようにする。また、この構成によれば、吐出手段20内に保持されているスラリーを加熱せずとも、掃引塗布時のスラリーの粘度を低下させることができるので、長時間加熱された場合に生じ得るスラリーへのダメージを低減することもできる。
【0147】
図22は、係る掃引時加熱手段を例示する図である。図22(b)に示すのが、掃引時加熱手段の一態様としてのヒータ33により加熱されるリコータ31であり、図22(a)は、対比のために示す、掃引時加熱手段により加熱されない第1の実施の形態に係るリコータ31である。ヒータ33は、例えば、リコータ31に接触するように設けられる。なお、リコータ31としては、図12に示したtype Gのリコータ31を例としている。
【0148】
第1の実施の形態においては具体的な例示を省略していたが、リコータ31は、図17図18に示した種々の形状のもののいずれが用いられる場合でも、リコートユニット30のホルダ32にて保持された状態でリコートユニット30に取り付けられて、使用される。
【0149】
図22(a)においては、一対のホルダ32a、32bにて保持された状態でリコートユニット30に取り付けられて、使用される場合を例示している。係る場合、好ましくは、一対のホルダ32a、32bはリコータ31の延在方向(図22においては図面に垂直な方向)に沿って、リコータ31と同等の長さに設けられる。ただし、ホルダ32a、32bの実際の形状や取付態様はリコータ31の実際の形状によって様々であり、図22に示すのはあくまで模式的な例に過ぎない。
【0150】
例えば、図17(a)に示したように、リコータ31がリコートユニット30に対する取り付けに使用可能な貫通穴31hを備えている場合は、係る貫通穴31hがホルダ32による保持に利用される態様であってもよい。あるいは、リコートユニット30本体が、一対のホルダ32の一方側としての役割を果たし、ホルダ32の他方側としての役割を果たす長板部材との間でリコータ31を挟み込んで保持する態様であってもよい。
【0151】
そして、図22(b)には、図22(a)に示した態様にてリコータ31を保持する一対のホルダ32a、32bのそれぞれの、リコータ31との接触面に設けられた凹部に、掃引時加熱手段の一態様としてのヒータ33(33a、33b)が嵌め込まれた(埋設された)様子を例示している。係る場合、ヒータ33は、リコータ31の延在方向の概ね全範囲に亘って設けられる。また、ヒータ33が設けられる場合、ホルダ32は、少なくともヒータ33による加熱温度の範囲において熱変形の少ない、断熱性の高い素材にて構成される。
【0152】
ヒータ33としては、シリコンベルトヒータなどの電熱線ヒータや、帯状のランプヒータなどの通電加熱ヒータが例示される。係るヒータ33は、図示しないヒータ電源からの通電により発熱し、これにより、ヒータ33に接触するリコータ31が、場所による(特に延在方向における)温度のばらつきが生じることなく均一に、加熱されるようになっている。
【0153】
本実施の形態においては、制御回路の制御により、係るヒータ33のような掃引時加熱手段にてリコータ31を加熱しながら、第1の実施の形態と同様の態様にて、造形のためのスラリーの掃引塗布を行う。
【0154】
係る掃引塗布は、図1および図2に示したように吐出ユニット20から吐出されたスラリーSLがリコータ31に掃引されることによって塗布膜が形成されるという点では、第1の実施の形態と同様である。しかしながら、本実施の形態の場合、リコータ31が加熱されていることにより、スラリーSLが主としてリコータ31からの伝熱によって加熱されつつ掃引されるという点で、第1の実施の形態と相違する。
【0155】
図23は、type Gのリコータ31を使用し、ヒータ33により44℃に加熱した場合と非加熱の場合とのそれぞれについて、第1の実施の形態におけるリコータ形状評価と同様の条件でのスラリー膜の積層とこれに続く露光とを行ったときの、硬化面12sと未硬化面13sの高低差の、積層数に対する変化を示すグラフである。両者の高低差は、第1の実施の形態と同様に、図13図14に示したようなヒストグラムを用いて求めている。非加熱の場合の結果は、図16に示したものと同じである。
【0156】
ただし、リコータ31を加熱しつつ造形を行った場合の、積層数が50層であるときの高低差については、図14図15に示したような場合とは異なり、ヒストグラムにおいてそれぞれが硬化面12sの高さと未硬化面13sの高さに相当する2つのピークを特定することができなかったため、0としている。実際には、両者の間に多少の高低差が生じている可能性はあるものの、両者に相当する2つの明確なピークが表れない以上、その値は、少なくとも図15に示したように2つのピークが特定された非加熱の場合の高低差に比して小さいものと考えられる。
【0157】
この点も含め、図23からは、リコータ31を加熱した場合の方が、非加熱の場合に比して、硬化面12sと未硬化面13sの高低差が小さくなる傾向があることがわかる。これは、リコータ31からの伝熱による温度の上昇に伴いスラリーSLの粘度が低下し、塗布時の平滑性が向上したことの効果であると考えられる。
【0158】
より詳細には、スラリーSLが加熱されるのは概ね、移動するリコータ31と接触および近接するわずかなタイミングのみであるが、一度の掃引塗布のために吐出ユニット20から吐出されるスラリーSLの量は、吐出ユニット20内に保持されているスラリーの量に比して少なく、移動するリコータ31と瞬間的に接触および近接するスラリーSLの量はせいぜい5cc~10ccであると見積もられる。当然ながら、その熱容量は十分に小さいことから、リコータ31に掃引される間の瞬間的な接触および近接であっても、スラリーSLの粘度は、掃引塗布に適した程度にまで十分に低下するものと考えられる。
【0159】
しかも、一の掃引塗布が終了する都度、リコータ31は塗布膜から離隔するので、粘度が低いことが原因となって塗布膜の形状が崩れてしまうという不具合が生じることもなく、さらには、形成された塗布膜が長時間の熱影響を受けることに伴うダメージが生じることもない。
【0160】
換言すれば、本実施の形態のように、リコータ31を加熱しつつ掃引塗布を行う態様は、スラリーSLの粘度が低い方が好ましい掃引塗布時においてのみ一時的に、所望される通りに粘度を低下させることが可能な態様であるといえる。
【0161】
リコータ31の加熱温度は、40℃~50℃程度であることが望ましい。係る場合、スラリーの分離を生じさせることなく、掃引塗布が好適に行われるようにスラリーの粘度を好適に低下させることができ、かつ、リコータ31以外の箇所を過度に加熱することもないからである。リコータ31の加熱温度を50℃以下とすることにより、スラリーの分離や粘度の過度の低下という問題を生じさせることなく掃引塗布を好適に行うことができ、また、リコータ31以外の箇所が過度に加熱されることを抑制することができる。一方、リコータ31の加熱温度が40℃以上とすることにより、加熱によるスラリーSLの粘度低下の効果を好適に得ることができる。
【0162】
なお、図22(b)においては、一対のホルダ32a、32bのそれぞれの凹部にヒータ33(33a、33b)が嵌め込まれているが、これは必須の態様ではなく、一対のホルダ32a、32bと、それらに対向するリコータ31との間に、ヒータ33(33a、33b)が挟持固定される態様であってもよい。その際には、一対のホルダ32a、32bとリコータ31のそれぞれの挟持面が平坦であってもよく、少なくとも一方の挟持面が凹部や曲面となっていてもよい。
【0163】
また、図22(b)においては、一対のホルダ32a、32bの双方にそれぞれ、ヒータ33(33a、33b)が設けられているが、一対のホルダ32a、32bの一方のみにヒータ33が設けられる態様であってもよい。
【0164】
あるいはまた、ヒータ33がホルダ32の内部に埋設されてなり、リコータ31と直接に接触しない態様や、接着性(粘着性)を有するヒータ33が、リコータ31を保持してなるホルダ32に、あるいはリコータ31に直接に貼付される態様が、採用されてもよい。
【0165】
また、掃引時加熱手段はヒータ33に限られるものではなく、掃引塗布のために移動するリコータ31に接触するスラリーSLを、リコータ31の延在方向全体に亘って均一に、直接的または間接的に加熱することができる手段であれば、掃引時加熱手段として適用が可能である。
【要約】
3次元造形物を得るにあたって、造形面上に形成する塗布膜に生じる高低差を低減可能な光造形装置を提供する。光造形装置が、造形テーブルの上にチキソ性を有するスラリーを吐出する手段と、所定の掃引姿勢の掃引部材を水平移動させることによって造形テーブル上に吐出されたスラリーを掃引塗布してスラリー膜を形成する手段と、3次元形状データに基づいてあらかじめ作成された露光パターンに従ってスラリー膜の所定領域を露光する手段と、を備え、掃引姿勢にあるときの掃引部材が掃引塗布の進行方向に向いた前面とその逆方向に向いた後面とを有し、少なくとも最下端の近傍において、前面と後面との間の進行方向の間隔が均一または掃引部材の最下端に向かうほど小さくなり、かつ、前面の最下端または後面の最下端において、前面と後面との間の進行方向の間隔が0.9mm以下である、ようにした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23