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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】無方向性ケイ素鋼の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20241121BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241121BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20241121BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20241121BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20241121BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20241121BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20241121BHJP
   C21C 5/46 20060101ALI20241121BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C21D8/12 A
C22C38/00 303U
C22C38/28
C21C7/00 C
C21C7/10 A
C21C7/00 R
C21C1/02 101
C21C5/28 A
C21C5/46 103E
H01F1/147 175
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023519304
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 CN2021110562
(87)【国際公開番号】W WO2022062692
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】202011031589.3
(32)【優先日】2020-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522116856
【氏名又は名称】江蘇省沙鋼鋼鉄研究院有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】523108810
【氏名又は名称】張家港揚子江冷軋板有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】521514565
【氏名又は名称】江蘇沙鋼集団有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】岳 重祥
(72)【発明者】
【氏名】陸 佳棟
(72)【発明者】
【氏名】周 彦召
(72)【発明者】
【氏名】李 化龍
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110592460(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106048140(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103060680(CN,A)
【文献】特開2005-002401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
C21C 1/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程を含む無方向性ケイ素鋼の生産方法であって
溶銑脱硫工程において
脱硫前の溶銑の温度≧1350℃で且つ化学成分が質量パーセントでSi:0.20~0.70%、S≦0.05%、Nb≦0.005%、V≦0.04%、Ti≦0.06%、Mo≦0.001%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%及びCu≦0.03%を満たすように制御され、該脱硫前の溶銑を脱硫して、脱硫後の溶銑の温度≧1320℃で且つ質量パーセントで含まれるS≦0.0015%であるように制御され、
転炉製錬工程において
脱硫後の溶銑を鋼スクラップと混合して転炉で製錬し、出鋼中に、化学成分基礎案に従って出鋼溶鋼に十分な量の錫インゴットを加え、出鋼が終了した後、溶鋼に滓面脱酸素剤を加え、前記化学成分基礎案は質量パーセントで、C≦0.003%、S≦0.008%、Si:0.35%+Δ1、Mn:0.15~0.25%、P:0.04~0.06%、Sn:0.015%+Δ2、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%、残部Fe及び不可避的不純物で、且つ、Δ1=Δ2=0であり、
RH精錬工程において
RH精錬に到達した時に溶鋼に含まれるSの質量パーセントを検出し、検出結果に基づいて決定されたΔ1とΔ2の値を前記化学成分基礎案の式に適用した化学成分最終案を得て、当該化学成分最終案は、
溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、Δ1=Δ2=0であり
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、Δ1=0.05%且つΔ2=0.005%であり
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、Δ1=0.15%且つΔ2=0.010%であり
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、Δ1=0.25%且つΔ2=0.020%であり、
予備真空引きされたRH精錬炉内で、溶鋼を脱炭素処理し、続いて前記化学成分最終案に従って、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると溶鋼に超低チタンケイ素鉄、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0075%であると溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、7分間以上洗浄循環してから出鋼し、RH精錬工程では脱硫剤が添加されないことを特徴とする、ことを特徴とする、無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項2】
前記無方向性ケイ素鋼製品の厚さは0.500±0.005mmであり、その鉄損はP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度はB5000≧1.75であることを特徴とする、請求項1に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項3】
溶銑脱硫工程において、脱硫後の溶銑の除滓率≧98%に制御されることを特徴とする、請求項に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項4】
転炉製錬工程において、鋼スクラップの添加量は鋼スクラップと溶銑の合計の20~25%を占め、出鋼中にまず石灰を加え、さらに錫インゴットを加えることを特徴とする、請求項に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項5】
熱間圧延工程において、連鋳スラブを、順に連鋳スラブ加熱、中間スラブ圧延、仕上圧延、巻き取りを経て熱間ロールを製造し、ここで、連鋳スラブの加熱温度は1130~1160℃で且つ保温時間≧180分であり、中間スラブの厚さは35~40mmで、最終圧延温度は865±15℃で、巻き取り温度は680℃±20℃で、熱間ロールの厚さは2.70±0.1mmであることを特徴とする、請求項1に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項6】
酸洗連続圧延工程において、熱間圧延により得られた熱間ロールをHClで酸洗し、すすぎ乾燥させた後、冷間圧延を行って硬質圧延ロールを製造し、ここで、冷間圧延圧下率は80~83%で、硬質圧延厚さは0.501±0.005mmであることを特徴とする、請求項1に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項7】
HClで3段酸洗を行い、ここで、1段目の酸液濃度は50~80g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦130g/Lであり、2段目の酸液濃度は90~120g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦90g/Lであり、3段目の酸液濃度は140~160g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦50g/Lであり、
各段酸洗の時に、酸液温度は75~85℃であり、ケイ素鋼酸洗促進剤が酸液に占める重量パーセントは0.05~0.10%となるように、酸液にケイ素鋼酸洗促進剤を加え、
すすぎ水の温度は45~55℃であり、酸洗とすすぎの速度は100~180mpmに制御されることを特徴とする、請求項に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項8】
焼鈍工程において、冷間硬質ロールの鋼帯を連続焼鈍炉のHとNの混合雰囲気中で焼鈍し、焼鈍温度は850±5℃で、焼鈍時間は60±5秒であり、3段冷却によって焼鈍後の鋼帯を冷却し、
1段目の冷却は高温段徐冷であり、鋼帯を焼鈍温度から≦5℃/秒の冷却速度で800℃に冷却し、
2段目の冷却は循環ガス噴射制御冷却であり、鋼帯を≦15℃/秒の冷却速度で引き続き300℃以下に冷却し、
3段目の冷却は循環水噴射冷却であり、鋼帯を100℃以下に引き続き冷却することを特徴とする、請求項1に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項9】
塗装と仕上げ工程において、焼鈍において100℃以下に冷却された鋼帯に対して塗装及び仕上げを行い、厚さが0.500±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品を得ることを特徴とする、請求項1に記載の無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【請求項10】
溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程により、厚さが0.5±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品を製造し、該無方向性ケイ素鋼製品の鉄損はP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度はB5000≧1.75であり、
溶銑脱硫工程では、
脱硫前の溶銑の温度≧1350℃で且つ化学成分が質量パーセントでSi:0.20~0.70%、S≦0.05%、Nb≦0.005%、V≦0.04%、Ti≦0.06%、Mo≦0.001%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%及びCu≦0.03%を満たすように制御され、該脱硫前の溶銑を脱硫して、脱硫後の溶銑の温度≧1320℃で且つ質量パーセントで含まれるS≦0.0015%であるように制御され、
転炉製錬工程では、
脱硫後の溶銑を鋼スクラップと混合して転炉内で製錬し、出鋼中に、化学成分基礎案に従って出鋼溶鋼に十分な量の錫インゴットを加え、出鋼が終了した後、溶鋼に滓面脱酸素剤を加え、前記化学成分基礎案は質量パーセントで、C≦0.003%、S≦0.008%、Si:0.35%、Mn:0.15~0.25%、P:0.04~0.06%、Sn:0.015%、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%、残部Fe及び不可避的不純物であり、
RH精錬工程では、
予備真空引きされたRH精錬炉内で、溶鋼を脱炭素処理し、
続いて、RH精錬に到達した時に溶鋼に含まれるSの質量パーセントに基づいて合金化処理を行い、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、前記化学成分基礎案に従って溶鋼に超低チタンケイ素鉄、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、前記化学成分基礎案におけるSiとSnをそれぞれSi:0.40%とSn:0.020%に調整し、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、前記化学成分基礎案におけるSiとSnをそれぞれSi:0.50%とSn:0.025%に調整し、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、前記化学成分基礎案におけるSiとSnをそれぞれSi:0.60%とSn:0.035%に調整し、且つ調整後の化学成分案に従って溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、
その後、7分間以上洗浄循環してから出鋼し、RH精錬工程では脱硫剤が添加されないことを特徴とする、無方向性ケイ素鋼の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料の製造に係る技術分野に属し、無方向性ケイ素鋼の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性ケイ素鋼は、回転磁場において動作する電動機と発電機回転子の鉄心材料であり、良好な磁気性能が要求される。通常、無方向性ケイ素鋼の磁気性能を保証するために、化学成分は非常に厳しく制御される。ところで、無方向性ケイ素鋼を生産し製造する際に、S元素は鋼中でMnSにて固溶と析出が発生し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、さらに製造された製品の磁気性能に影響を与え、具体的には磁束密度が低下し鉄損が増加することとなる。従って、従来技術では、無方向性ケイ素鋼の化学成分設計と生産プロセスにおいて、超低S制御の実現を目標とするのは一般的である。
【0003】
さらに、無方向性ケイ素鋼の超低Sの化学成分設計に対して、生産プロセスにおける溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬等のステップは、それに応じて厳しく制御される必要があるため、生産コストが高止まりしてしまい、ひいては作業状況の円滑な進行に影響を及ぼす。
【0004】
例えば、RH精錬ステップでは、脱硫剤で溶鋼を脱硫する必要があり、脱硫剤は溶鋼の循環につれてRH精錬炉の浸漬管に接触し、脱硫剤中のCaFは浸漬管のライニング用キャスタブル中のCaO及びAlと反応して低融点物質11CaO7Al CaFを生成する。該生成物は溶鋼に浸食され、溶鋼中に剥がれ、即ち、RH精錬過程における脱硫処理によって、RH精錬炉の浸漬管がひどく浸食され、生産コストが増加し、且つ作業状況の円滑な進行に非常に不利である。
【0005】
従って、無方向性ケイ素鋼の化学成分設計案を開発し、S含有量に対する要求を緩めるとともに、低規格製品の磁気性能を満たすことを可能にすることは、無方向性ケイ素鋼の工業的生産において非常に価値がある。
【発明の概要】
【0006】
従来技術における無方向性ケイ素鋼の超低S化学成分設計案による高い生産コストの技術的問題を解決するために、本発明は、無方向性ケイ素鋼の生産方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程により、
質量パーセントで、
C≦0.003%、S≦0.008%、Si:0.35%+Δ1、Mn:0.15~0.25%、P:0.04~0.06%、Sn:0.015%+Δ2、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%、残部Fe及び不可避的不純物である化学成分設計案を満たす無方向性ケイ素鋼製品を製造し、
溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、Δ1=Δ2=0となり、
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、Δ1=0.05%且つΔ2=0.005%となり、
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、Δ1=0.15%且つΔ2=0.010%となり、
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、Δ1=0.25%且つΔ2=0.020%となる、無方向性ケイ素鋼の生産方法を提供する。
【0008】
好ましくは、前記無方向性ケイ素鋼製品の厚さは0.500±0.005mmであり、その鉄損はP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度はB5000≧1.75である。
【0009】
好ましくは、溶銑脱硫工程の場合、
脱硫前の溶銑の温度≧1350℃で且つ化学成分が質量パーセントでSi:0.20~0.70%、S≦0.05%、Nb≦0.005%、V≦0.04%、Ti≦0.06%、Mo≦0.001%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%及びCu≦0.03%を満たすように制御され、該脱硫前の溶銑を脱硫して、脱硫後の溶銑の温度≧1320℃で且つ質量パーセントで含まれるS≦0.0015%であるように制御され、
転炉製錬工程の場合、
脱硫後の溶銑を鋼スクラップと混合して転炉内で製錬し、出鋼中に、前記化学成分設計案におけるΔ1=Δ2=0の化学成分基礎案に従って出鋼溶鋼に十分な量の錫インゴットを加え、出鋼が終了した後、溶鋼に滓面脱酸素剤を加え、
RH精錬工程の場合、
RH精錬に到達した時に溶鋼に含まれるSの質量パーセントを検出し、且つ前記化学成分設計案におけるΔ1とΔ2の値を決定して、化学成分最終案を得て、予備真空引きされたRH精錬炉内で、溶鋼を脱炭素処理し、続いて前記化学成分最終案に従って、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、7分間以上洗浄循環してから出鋼し、RH精錬工程では脱硫剤が添加されない。
【0010】
好ましくは、溶銑脱硫工程の場合、脱硫後の溶銑の除滓率≧98%に制御される。
【0011】
好ましくは、転炉製錬工程の場合、鋼スクラップの添加量は鋼スクラップと溶銑の合計の20~25%を占め、出鋼中にまず石灰を加え、さらに錫インゴットを加える。
【0012】
好ましくは、熱間圧延工程の場合、連鋳スラブを、順に連鋳スラブ加熱、中間スラブ圧延、仕上圧延、巻き取りを経て熱間ロールを製造し、連鋳スラブの加熱温度は1130~1160℃で且つ保温時間≧180分であり、中間スラブの厚さは35~40mmで、最終圧延温度は865±15℃で、巻き取り温度は680℃±20℃で、熱間ロールの厚さは2.70±0.1mmである。
【0013】
好ましくは、酸洗連続圧延工程の場合、熱間圧延により得られた熱間ロールをHClで酸洗し、すすぎ乾燥させた後、冷間圧延を行って硬質圧延ロールを製造し、冷間圧延圧下率は80~83%で、硬質圧延厚さは0.501±0.005mmである。
【0014】
好ましくは、HClで3段酸洗を行い、ここで、1段目の酸液濃度は50~80g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦130g/Lであり、2段目の酸液濃度は90~120g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦90g/Lであり、3段目の酸液濃度は140~160g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦50g/Lであり、
各段酸洗の時に、酸液温度は75~85℃であり、ケイ素鋼酸洗促進剤が酸液に占める重量パーセントは0.05~0.10%となるように、酸液にケイ素鋼酸洗促進剤を加え、
すすぎ水の温度は45~55℃であり、酸洗とすすぎの速度は100~180mpmに制御される。
【0015】
好ましくは、焼鈍工程の場合、冷間硬質ロールの鋼帯を連続焼鈍炉のHとNの混合雰囲気中で焼鈍し、焼鈍温度は850±5℃で、焼鈍時間は60±5秒であり、3段冷却によって焼鈍後の鋼帯を冷却し、
ただし、1段目の冷却は高温段徐冷であり、鋼帯を焼鈍温度から≦5℃/秒の冷却速度で800℃に冷却し、
2段目の冷却は循環ガス噴射制御冷却であり、鋼帯を≦15℃/秒の冷却速度で引き続き300℃以下に冷却し、
3段目の冷却は循環水噴射冷却であり、鋼帯を引き続き100℃以下に冷却する。
【0016】
好ましくは、塗装と仕上げ工程の場合、焼鈍において100℃以下に冷却された鋼帯に対して塗装及び仕上げを行い、厚さが0.500±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品を得る。
【0017】
一実施形態は、溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程を用いて製造され、質量パーセントで、
C≦0.003%、S≦0.008%、Si:0.35%+Δ1、Mn:0.15~0.25%、P:0.04~0.06%、Sn:0.015%+Δ2、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%、残部Fe及び不可避的不純物である化学成分とし、
溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、Δ1=Δ2=0となり、
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、Δ1=0.05%且つΔ2=0.005%となり、
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、Δ1=0.15%且つΔ2=0.010%となり、
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、Δ1=0.25%且つΔ2=0.020%となる、無方向性ケイ素鋼をさらに提供する。
【0018】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は無方向性ケイ素鋼及び該無方向性ケイ素鋼の生産方法を提供する。前記生産方法は、溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程により、厚さが0.5±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品を製造し、該無方向性ケイ素鋼製品の鉄損はP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度はB5000≧1.75であり、
ただし、溶銑脱硫工程では、
脱硫前の溶銑の温度≧1350℃で且つ化学成分が質量パーセントでSi:0.20~0.70%、S≦0.05%、Nb≦0.005%、V≦0.04%、Ti≦0.06%、Mo≦0.001%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%及びCu≦0.03%を満たすように制御され、該脱硫前の溶銑を脱硫して、脱硫後の溶銑の温度≧1320℃で且つ質量パーセントで含まれるS≦0.0015%であるように制御され、
転炉製錬工程では、
脱硫後の溶銑を鋼スクラップと混合して転炉内で製錬し、出鋼中に、化学成分基礎案に従って出鋼溶鋼に十分な量の錫インゴットを加え、出鋼が終了した後、溶鋼に滓面脱酸素剤を加え、前記化学成分基礎案は質量パーセントで、C≦0.003%、S≦0.008%、Si:0.35%、Mn:0.15~0.25%、P:0.04~0.06%、Sn:0.015%、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%、残部Fe及び不可避的不純物であり、
RH精錬工程では、
予備真空引きされたRH精錬炉内で、溶鋼を脱炭素処理し、
続いて、RH精錬に到達した時に溶鋼に含まれるSの質量パーセントに基づいて合金化処理を行い、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、前記化学成分基礎案に従って溶鋼に超低チタンケイ素鉄、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、前記化学成分基礎案におけるSiとSnをそれぞれSi:0.40%とSn:0.020%に調整し、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、前記化学成分基礎案におけるSiとSnをそれぞれSi:0.50%とSn:0.025%に調整し、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、前記化学成分基礎案におけるSiとSnをそれぞれSi:0.60%とSn:0.035%に調整し、且つ調整後の化学成分案に従って溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、
その後、7分間以上洗浄循環してから出鋼し、RH精錬工程では脱硫剤が添加されない。
【0019】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0020】
(1)前記生産方法を用いて製造された厚さが0.500±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品は、その鉄損がP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度がB5000≧1.75であり、磁気性能に優れ、中小型電機の低規格無方向性ケイ素鋼に対する需要を満たすことができ、そして生産コストが低く、作業状況の円滑な進行を促進する。
(2)C、Nb、V、Ti、Mo、Cr、Ni、Cu、N等の元素の含有量を制御するとともに、Si、Snの含有量とSの対応関係を最適化することにより、Sの含有量上限は0.0080%まで緩めることができ、即ち、S≦0.008%を満たすように制御すればよく、S≦0.008%のもとに、さらにS>0.0050%乃至≧0.0060%も可能であり、無方向性ケイ素鋼の磁気性能の安定化が保証され、S含有量の増加により磁気性能の不安定化を招くことがなく、歩留まりの安定化が実現される。
(3)磁気性能が保証されるとともに、さらにMnとP等の元素の含有量を対応して設計することにより、無方向性ケイ素鋼の強度と溶接性能を両立させる。
(4)前記生産方法では、S含有量に対する要求の難度が低下し、それに応じて溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬等の工程でのS制御難度が低下し、転炉製錬における鋼スクラップの要求が低下し、コストが低くなり、RH精錬工程では脱硫処理を必要とせず、従来技術における脱硫剤によるRH精錬炉浸漬管の浸食が解決され、RH精錬炉浸漬管の使用寿命が向上し、生産コストが削減され、設備の損傷による作業状況の円滑な進行への影響が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1における無方向性ケイ素鋼製品サンプルの金相顕微鏡組織写真である。
図2】本発明の実施例2における無方向性ケイ素鋼製品サンプルの金相顕微鏡組織写真である。
図3】本発明の実施例3における無方向性ケイ素鋼製品サンプルの金相顕微鏡組織写真である。
図4】本発明の実施例4における無方向性ケイ素鋼製品サンプルの金相顕微鏡組織写真である。
図5】本発明の比較例1における無方向性ケイ素鋼製品サンプルの金相顕微鏡組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態は無方向性ケイ素鋼の生産方法を提供する。前記生産方法は、溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程を順に行うことを含む。本実施形態は、該生産方法を用いて製造された無方向性ケイ素鋼をさらに提供する。即ち、前記無方向性ケイ素鋼は、溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程で製造される。
【0023】
ここで、前記無方向性ケイ素鋼の化学成分設計案は、質量パーセントで、C≦0.003%、S≦0.008%、Si:0.35%+Δ1、Mn:0.15~0.25%、P:0.04~0.06%、Sn:0.015%+Δ2、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%、残部Fe及び不可避的不純物である。
【0024】
ただし、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、Δ1=Δ2=0となり、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、Δ1=0.05%且つΔ2=0.005%となり、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、Δ1=0.15%且つΔ2=0.010%となり、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、Δ1=0.25%且つΔ2=0.020%となる。
【0025】
即ち、本発明の前記生産方法では、溶銑脱硫工程から、転炉製錬工程とRH精錬工程を経た後、連鋳工程を行うまでの全製鋼過程において、上記化学成分設計案に従って各元素の含有量を制御し、さらに上記化学成分設計案を満たす連鋳スラブ及び無方向性ケイ素鋼を製造する。
【0026】
ここで、RH精錬に到達した時(即ちRH精錬に到達した時、即ち溶鋼がRH精錬炉に入ったばかりで、RH精錬工程がまだ開始されていない時)に溶鋼に含まれるSの質量パーセントに基づき、Δ1、Δ2と溶鋼中のS含有量の対応関係に従って、化学成分設計案におけるSiとSnの質量パーセントを調整し、さらに各元素の含有量を精密に制御する。
【0027】
前記生産方法を用いて厚さが0.500±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品を製造し、検出により、該無方向性ケイ素鋼製品の鉄損はP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度はB5000≧1.75であり、磁気性能に優れ、中小型電機の低規格無方向性ケイ素鋼に対する需要を満たすことができ、そして生産コストが低く、作業状況の円滑な進行を促進する。
【0028】
化学成分設計案における各元素を以下のとおり説明する。
【0029】
C、Nb、V、Ti、Mo、Cr、Ni、Cu、Nについては、これらの元素が多いほど、焼鈍過程における結晶粒の成長に不利になり、さらに無方向性ケイ素鋼の磁気性能を悪化させ、鉄損の増加と磁束密度の低下を招くため、制御可能な範囲内で含有量は低いほどよくなり、例えば、C≦0.003%、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%である。
【0030】
Sについては、背景技術で言及したとおり、鋼中でMnS形式にて固溶と析出が発生し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、さらに製造された製品の磁気性能に影響を与え、従来技術では、例えば0.0050%以下のような超低S制御を目標とするのが一般的である。一方、本発明では、Si、Snの含有量とSの対応関係を最適化することにより、Sの含有量上限は0.0080%まで緩めることができ、即ち、S≦0.008%を満たすように制御すればよく、S≦0.008%のもとに、後述の実施例3、4に示すように、さらにS>0.0050%乃至≧0.0060%も可能である。
【0031】
Siについては、0.35~0.60%に制御され、その含有量が増大すれば、抵抗率を高め、鉄損を効果的に低減することができる。
【0032】
Snについては、0.015~0.035%に制御され、それは粒界偏析元素であり、本発明の無方向性ケイ素鋼において、Snの増大により、不利な{111}集合組織の割合を著しく減少させ、製品の磁束密度を高めることができる。
【0033】
Mnについては、0.15~0.25%に制御され、磁気性能を保証するとともに、Sによる熱間脆性を抑える。
【0034】
Pについては、0.04~0.06%に制御され、無方向性ケイ素鋼の強度を効果的に高め、打ち抜き性を向上させることができ、また、好ましい溶接性能も保証され、特に本発明の中低規格無方向性ケイ素鋼にとって、Si含有量は相対的に低く、Pの強化作用により十分な強度が保証される。
【0035】
総じて言えば、本発明は化学成分設計案について、C、Nb、V、Ti、Mo、Cr、Ni、Cu、N等の元素の含有量を制御するとともに、Si、Sn、MnとP等の元素の含有量を設計することにより、意図的に従来技術を打破してSの含有量上限の要求を0.0080%まで緩和しており、無方向性ケイ素鋼の磁気性能、強度と溶接性能を保証できるのみならず、さらに既存の方法における超低Sの厳しい制御による生産コストが高く、作業状況が円滑に進行できないという問題を解決することもでき、生産コストが削減され、作業状況の円滑な進行が促進される。
【0036】
具体的には、以下、一実施形態に記載の生産方法の各工程を詳しく説明する。
【0037】
(1)溶銑脱硫工程
KR脱硫技術によって、溶銑を脱硫処理する。
【0038】
ここで、脱硫前の溶銑の温度≧1350℃で、且つ脱硫前の溶銑の化学成分が質量パーセントでSi:0.20~0.70%、S≦0.05%、Nb≦0.005%、V≦0.04%、Ti≦0.06%、Mo≦0.001%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%及びCu≦0.03%を満たすように制御される。
【0039】
脱硫後の溶銑の温度≧1320℃で且つ質量パーセントで含まれるS≦0.0015%であるように制御される。即ち、該溶銑脱硫工程を経て、溶銑中のSの含有量を質量パーセントで≦0.0015%にする。
【0040】
好ましくは、脱硫後の溶銑の除滓率≧98%に制御される。
【0041】
(2)転炉製錬工程
前記溶銑脱硫工程で出鋼した鋼(即ち脱硫後の溶銑)を転炉に移し、転炉内で鋼スクラップを混合し、該脱硫後の溶銑と鋼スクラップを共に転炉内で製錬して溶鋼とする。ここで、好ましくは、鋼スクラップはクリーンな鋼スクラップを用いてもよく、鋼スクラップの添加量は鋼スクラップと溶銑の合計の20~25%を占める。
【0042】
出鋼中に、前記化学成分設計案におけるΔ1=Δ2=0の化学成分基礎案に従って出鋼溶鋼に十分な量の錫インゴットを加える。具体的には、前記化学成分設計案におけるΔ1=Δ2=0の場合の化学成分を1つの化学成分基礎案と見なしてもよい。具体的に、質量パーセントで、C≦0.003%、S≦0.008%、Si:0.35%、Mn:0.15~0.25%、P:0.04~0.06%、Sn:0.015%、Nb≦0.004%、V≦0.004%、Ti≦0.005%、Mo≦0.004%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%、Cu≦0.03%、N≦0.003%、残部Fe及び不可避的不純物である。該化学成分基礎案に従って、仮に最終的な無方向性ケイ素鋼製品中のSn:0.015%とし、添加される錫インゴットの重量を算出し、溶鋼に全量加える。
【0043】
ここで錫インゴット重量の決定方式について例を挙げて説明する。転炉製錬工程における溶鋼の総量がM1であり、該転炉製錬工程において添加される錫インゴットの重量がM2であり、Δ1=Δ2=0の基礎設計案に従って、次のRH精錬工程においてさらに添加される超低チタンケイ素鉄、低チタンリン鉄及び金属マンガンの重量がM3、M4及びM5であると仮定すると、(M1+M2+M3+M4+M5)を溶鋼の総量とし、該溶鋼の総量におけるSnの質量パーセントを0.015%として錫インゴットの重量M2を算出し、該溶鋼の総量におけるSiの質量パーセントを0.35%として超低チタンケイ素鉄の重量M3を算出し、該溶鋼の総量におけるP:0.04~0.06%として低チタンリン鉄の重量M4を算出し、該溶鋼の総量におけるMn:0.15~0.25%として超低チタンケイ素鉄の重量M5を算出する。該計算プロセスにおいて、M3、M4及びM5は、同様に前記基礎設計案に従って略計算され、M2の決定を補助するための仮データに過ぎず、一定の条件下で(例えば、後続のRH精錬に到達した時にS>0.0030%の場合に)、次のRH精錬工程における実際の添加量ではないと理解される。
【0044】
好ましくは、出鋼中にまず石灰を加え、さらに十分な量の錫インゴットを加え、即ち、錫インゴットを加える前に石灰を加える。
【0045】
出鋼が終了した後、溶鋼に滓面脱酸素剤を加える。
【0046】
(3)RH精錬工程
該ステップはRH精錬炉内で実施され、脱炭素処理モードを採用し、予備真空引き、脱炭素、合金化、洗浄循環、真空破壊の順序で処理する。
【0047】
ここで、合金化において対応する合金の添加量の制御が容易になるように、RH精錬に到達した時に溶鋼に含まれるSの質量パーセントを検出し、前記化学成分設計案におけるΔ1とΔ2の値を決定して、化学成分最終案を得る。
【0048】
具体的には、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0075%であり、そして、上記したとおり、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、Δ1=Δ2=0となり、この場合は前記化学成分基礎案に対応し、つまり、溶鋼で最終的に鋳造された連鋳スラブ及び最終的な無方向性ケイ素鋼製品は、前記化学成分基礎案を満たす。
【0049】
溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、Δ1=0.05%且つΔ2=0.005%となり、この場合は、Si:0.40%、Sn:0.020%の調整後の第1設計案に対応する。溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、Δ1=0.15%且つΔ2=0.010%となり、この場合は、Si:0.50%、Sn:0.025%の調整後の第2設計案に対応する。溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、Δ1=0.25%且つΔ2=0.020%となり、この場合は、Si:0.60%、Sn:0.035%の調整後の第3設計案に対応する。ここで第1設計案、第2設計案及び第3設計案は、いずれも前記化学成分基礎案におけるSiとSnを調整した化学成分最終案であり、即ち、溶鋼で最終的に鋳造された連鋳スラブ及び最終的な無方向性ケイ素鋼製品は、前記化学成分最終案を満たす。
【0050】
予備真空引きされたRH精錬炉内で、溶鋼を脱炭素処理して、含まれるCの質量パーセントを制御する。
【0051】
その後、RH精錬に到達した時に溶鋼に含まれるSの質量パーセントに基づき、前記化学成分最終案に従って溶鋼を合金化する。具体的には、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であると、前記化学成分基礎案に従って溶鋼に超低チタンケイ素鉄、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、つまり、前記転炉製錬ステップで算出されたM3、M4及びM5で加える。溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であると、調整後の前記第1設計案に従って、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加える。溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であると、調整後の前記第2設計案に従って、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加える。溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であると、調整後の前記第3設計案に従って、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加える。
【0052】
前記の第1設計案、第2設計案、第3設計案は、いずれも前記化学成分基礎案のもとに、超低チタンケイ素鉄の添加量をさらに増大させ、そして錫インゴットを追加する。該3つの設計案における超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンの添加量の決定方式について、ここでは第1設計案を例として以下のとおり説明する。
【0053】
前述したとおり、転炉製錬ステップにおける溶鋼の総量がM1であり、且つ転炉製錬工程で添加された錫インゴットの重量がM2であり、さらに、該RH精錬工程において、第1設計案に従って、さらに添加される超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンの重量がそれぞれM3’、M2’、M4’及びM5’であると仮定すると、(M1+M2+M3’+M2’+M4’+M5’)を溶鋼の総量とし、該溶鋼の総量におけるSnの質量パーセントを0.020%(即ち、無方向性ケイ素鋼製品中のSn:0.020%)としてこの場合に追加される錫インゴットの重量M2’を算出し、該溶鋼の総量におけるSiの質量パーセントを0.40%(即ち、無方向性ケイ素鋼製品中のSi:0.40%)として超低チタンケイ素鉄の重量M3’を算出し、該溶鋼の総量におけるP:0.04~0.06%(即ち、無方向性ケイ素鋼製品中のP:0.04~0.06%)として低チタンリン鉄の重量M4’を算出し、該溶鋼の総量におけるMn:0.15~0.25%(即ち、無方向性ケイ素鋼製品中のMn:0.15~0.25%)として超低チタンケイ素鉄の重量M5’を算出する。その後、計算結果に従って、それぞれ十分な量の超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを溶鋼に加える。
【0054】
合金化した後、7分間以上洗浄循環してから出鋼する。
【0055】
本発明において、RH精錬工程では脱硫剤が添加されず、即ち、従来技術のRH精錬工程における脱硫処理が省略され、このことから分かるように、本発明は、化学成分の設計と、生産方法の改善とを組み合わせることで、従来技術を打破してSの含有量上限の要求を0.0080%まで緩め、無方向性ケイ素鋼の磁気性能、強度と溶接性能が保証されるのみならず、溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬等の工程におけるS制御難度が低下し、特に、RH精錬工程では脱硫処理を必要とせず、従来技術における脱硫剤によるRH精錬炉浸漬管の浸食が解決され、RH精錬炉浸漬管の使用寿命が向上し、生産コストが削減され、設備の損傷による作業状況の円滑な進行への影響が回避される。
【0056】
(4)連鋳工程
RH精錬工程で出鋼した鋼(即ち、製錬で完成した最終的に得られた溶鋼)を連鋳設備で連鋳スラブとして製造し、該連鋳工程の具体的な操作は、従来の実行可能な連鋳技術を用いれば実現でき、詳細な説明を省略する。
【0057】
(5)熱間圧延工程
連鋳スラブを、順に連鋳スラブ加熱、中間スラブ圧延、仕上圧延、巻き取りを経て熱間ロールを製造する。
【0058】
ここで、連鋳スラブの加熱温度は1130~1160℃で且つ保温時間≧180分であり、中間スラブの厚さは35~40mmである。このようにして、低温圧延による加熱時間の延長、圧延力の増加、生産難易度の増大、生産効率の低下、生産コストの増大を回避すると同時に、低温圧延により、鋼中のMnS等の析出物の加熱過程での固溶を防止し、それにより、無方向性ケイ素鋼製品の磁気性能をさらに保証する。
【0059】
最終圧延温度は865±15℃である。Si含有量が1.7%よりも小さい場合、熱間圧延過程でオーステナイト-フェライトの相転移が存在し、通常、Si含有量が0.35%である場合、相転移温度は880~910℃であり、且つSi含有量の増加につれて、相転移温度は上昇し、圧延過程における熱損失により、最終圧延温度は一般に800~920℃の間に制御され、そして、高ケイ素鋼にとって、相転移温度が高く、最終圧延が800~920℃の間で行われ、いずれもフェライト領域で圧延されるため、粗大結晶粒を得るために、最終圧延温度は通常、高いほどよくなる。しかしながら、本発明の無方向性ケイ素鋼にとって、最終圧延温度は865±15℃に制御され、最終圧延パスがオーステナイト領域にあることを回避でき、さらに圧延後に相転移により細結晶粒を得ると磁気性能が悪化することを回避でき、最終圧延パスが二相領域又はフェライト領域にあるように圧延することを確保でき、それにより、粗大結晶粒の形成を保証して磁気性能を最適化できる。
【0060】
巻き取り温度は680℃±20℃であり、巻き取り過程での結晶粒の成長に有利であり、磁気性能を向上させるとともに、酸洗しにくい酸化鉄皮の形成を回避する。
【0061】
熱間ロールの厚さは2.70±0.1mmであり、熱間圧延厚さは冷間圧延の変形量に影響し、熱間圧延厚さが薄いほど、冷間圧延の変形量が小さくなり、得られた結晶粒が大きくなる。
【0062】
(6)酸洗連続圧延工程
熱間圧延により得られた熱間ロールをHClで酸洗し、すすぎ乾燥させた後、冷間圧延を行って硬質圧延ロールを製造し、ここで、冷間圧延圧下率は80~83%で、硬質圧延厚さは0.501±0.005mmである。
【0063】
好ましくは、HClで3段酸洗を行い、ここで、1段目の酸液濃度は50~80g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦130g/Lであり、2段目の酸液濃度は90~120g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦90g/Lであり、3段目の酸液濃度は140~160g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦50g/Lであり、
【0064】
各段階の酸洗時に、酸液温度は75~85℃であり、ケイ素鋼酸洗促進剤が酸液に占める重量パーセントは0.05~0.10%となるように、酸液にケイ素鋼酸洗促進剤を加え、
【0065】
すすぎ水の温度は45~55℃であり、酸洗とすすぎの速度は100~180mpmに制御される。
【0066】
(7)焼鈍工程
冷間硬質ロールの鋼帯を連続焼鈍炉のHとNの混合雰囲気中で焼鈍し、焼鈍温度は850±5℃で、焼鈍時間は60±5秒であり、3段冷却によって焼鈍後の鋼帯を冷却し、ここで、1段目の冷却は高温段徐冷であり、鋼帯を焼鈍温度から≦5℃/秒の冷却速度で800℃に冷却する。2段目の冷却は循環ガス噴射制御冷却であり、1段目の冷却後の鋼帯を≦15℃/秒の冷却速度で引き続き300℃以下に冷却する。3段目の冷却は循環水噴射冷却であり、2段目の冷却後の鋼帯を引き続き100℃以下に冷却する。
【0067】
鋼帯冷却速度が遅いほど、鋼板の冷却内応力の低下により有利であるが、冷却区間が長すぎると生産コストが大幅に向上し、上記の3段式冷却方式によって制御すると、低コストで鋼板の残留応力を≦50MPaに効果的に制御することができ、板形の制御に有利である。
【0068】
(8)塗装及び仕上げ工程
焼鈍において100℃以下に冷却された鋼帯に対して塗装及び仕上げを行う。その具体的な操作については、従来の実行可能な塗装及び仕上げ技術を用いれば実現でき、詳細な説明を省略する。最終的に厚さが0.500±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品を得る。ここで、熱間ロールの厚さ、硬質圧延厚さ(即ち酸洗連続圧延後の厚さ)、製品厚さに対する精密な制御によって、磁気性能の安定性を向上させる。
【0069】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0070】
(1)前記生産方法を用いて製造された厚さが0.500±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品は、その鉄損がP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度がB5000≧1.75であり、磁気性能に優れ、中小型電機の低規格無方向性ケイ素鋼に対する需要を満たすことができ、そして生産コストが低く、作業状況の円滑な進行を促進する。
(2)C、Nb、V、Ti、Mo、Cr、Ni、Cu、N等の元素の含有量を制御するとともに、Si、Snの含有量とSの対応関係を最適化することにより、Sの含有量上限は0.0080%まで緩和でき、即ち、S≦0.008%を満たすように制御すればよく、S≦0.008%のもとに、後述の実施例3、4に示すように、さらにS>0.0050%乃至≧0.0060%も可能であり、無方向性ケイ素鋼の磁気性能の安定化が保証され、S含有量の増加により磁気性能の不安定化を招くことがなく、歩留まりの安定化が実現される。
(3)磁気性能を保証するとともに、さらにMnとP等の元素の含有量を対応して設計することにより、無方向性ケイ素鋼の強度と溶接性能を両立させる。
(4)前記生産方法では、S含有量に対する要求の難度が低下し、それに応じて溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬等の工程でのS制御難度が低下し、転炉製錬における鋼スクラップの要求が低下し、コストが低くなり、RH精錬工程では脱硫処理を必要とせず、従来技術における脱硫剤によるRH精錬炉浸漬管の浸食が解決され、RH精錬炉浸漬管の使用寿命が向上し、生産コストが削減され、設備の損傷による作業状況の円滑な進行への影響が回避される。
【0071】
上で列挙した詳細な説明は、本発明の実行可能な実施形態に関する具体的な説明に過ぎず、本発明の保護範囲を制限するためのものではなく、本発明の技術的精神から逸脱しない等価な実施形態又は変更は、いずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【0072】
以下、本実施形態に従った4つの実施例及び本実施形態に従っていない1つの比較例を選択して、本実施形態の優れた進歩をさらに説明し、当然、これらの4つの実施例は本実施形態に含まれる多くの変形実施例の一部に過ぎず、全てではない。
【0073】
具体的には、4つの実施例及び1つの比較例はいずれも無方向性ケイ素鋼を提供する。その生産方法はいずれも、溶銑脱硫、転炉製錬、RH精錬、連鋳、熱間圧延、酸洗連続圧延、焼鈍、塗装及び仕上げの工程を順に行うことを含む。
【0074】
ここで、4つの実施例及び1つの比較例における無方向性ケイ素鋼のそれぞれの化学成分(即ち、RH精錬から出鋼した溶鋼の化学成分/連鋳スラブの化学成分)は、質量パーセントで、サンプリングして検出した結果は表1に示すとおりであり、そして、4つの実施例及び1つの比較例の生産プロセスにおいて、RH精錬に到達した時に溶鋼に含まれるSの質量パーセントも表1を参照する。
【表1】
【0075】
さらに、実施例1~4及び比較例1において製造された無方向性ケイ素鋼製品の厚さ、鉄損、磁束密度はそれぞれ表2に示すとおりであり、そして、無方向性ケイ素鋼の金相顕微鏡組織写真はそれぞれ図1から図5を参照する。
【表2】
【0076】
実施例1~4と比較例1とを比較すると、本発明の一実施形態では、溶鋼がRH精錬に到達した時のS含有量に基づいて化学成分を設計し、そしてRH精錬の合金化時に超低チタンケイ素鉄及び錫インゴットを補充し、得られた無方向性ケイ素鋼の金相組織中の結晶粒は相対的に粗大であり、且つ同様に厚さが0.5mmである時に鉄損がP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度がB5000≧1.75であり、比較例1の磁気性能より優れていることが分かる。
【0077】
具体的には、実施例1~4及び比較例1の生産プロセスは以下のとおりである。
【0078】
(1)溶銑脱硫工程
実施例1~4及び比較例1では、該溶銑脱硫ステップはいずれも以下のとおりである。脱硫前の溶銑の温度≧1350℃で、且つ脱硫前の溶銑の化学成分が質量パーセントでSi:0.20~0.70%、S≦0.05%、Nb≦0.005%、V≦0.04%、Ti≦0.06%、Mo≦0.001%、Cr≦0.03%、Ni≦0.03%及びCu≦0.03%を満たすように制御される。脱硫後の溶銑の温度≧1320℃で且つ質量パーセントで含まれるS≦0.0015%であるように制御される。除滓率≧98%に制御される。
【0079】
(2)転炉製錬工程
実施例1~4及び比較例1では、該転炉製錬ステップはいずれも以下のとおりである。溶銑脱硫ステップで出鋼した前記鋼(即ち脱硫後の溶銑)を転炉に移し、転炉内でクリーンな鋼スクラップと混合し、鋼スクラップの添加量は鋼スクラップと溶銑の合計の20~25%を占め、該脱硫後の溶銑と鋼スクラップを共に転炉内で製錬して溶鋼とする。出鋼中にまず石灰を加え、さらに、最終的な無方向性ケイ素鋼製品がSn:0.015%を含有させ、出鋼溶鋼に十分な量の錫インゴットを加える。出鋼が終了した後、溶鋼に滓面脱酸素剤を加える。
【0080】
(3)RH精錬工程
実施例1~4及び比較例1では、該RH精錬工程はいずれも以下のとおりである。脱炭素処理モードを採用し、予備真空引き、脱炭素、合金化、洗浄循環、真空破壊の順序で処理し、合金化した後、7分間以上洗浄循環して、出鋼する。そして、該RH精錬工程では脱硫剤が添加されず、即ち脱硫処理はしない。
【0081】
ここで、実施例1~4と比較例1は、該転炉製錬工程について以下の点のみで異なる。
【0082】
実施例1では、表1に示すように、溶鋼がRH精錬に到達した時にS≦0.0030%であり、最終的な無方向性ケイ素鋼製品中のSi:0.35%、P:0.04~0.06%、Mn:0.15~0.25%であるように、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、そのRH精錬から出鋼したものの実際の化学成分の質量パーセントは表1を参照する。
【0083】
実施例2では、表1に示すように、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0030%<S≦0.0045%であり、最終的な無方向性ケイ素鋼製品中のSi:0.40%、Sn:0.020%、P:0.04~0.06%、Mn:0.15~0.25%であるように、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、そのRH精錬から出鋼したものの実際の化学成分の質量パーセントは表1を参照する。
【0084】
実施例3では、表1に示すように、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0045%<S≦0.060%であり、最終的な無方向性ケイ素鋼製品中のSi:0.50%、Sn:0.025%、P:0.04~0.06%、Mn:0.15~0.25%であるように、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、そのRH精錬から出鋼したものの実際の化学成分の質量パーセントは表1を参照する。
【0085】
実施例4では、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であり、最終的な無方向性ケイ素鋼製品中のSi:0.60%、Sn:0.035%、P:0.04~0.06%、Mn:0.15~0.25%であるように、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、錫インゴット、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、そのRH精錬から出鋼したものの実際の化学成分の質量パーセントは表1を参照する。
【0086】
一方、比較例1では、溶鋼がRH精錬に到達した時に0.0060%<S≦0.0075%であるが、依然として最終的な無方向性ケイ素鋼製品中のSi:0.35%、P:0.04~0.06%、Mn:0.15~0.25%であるように、溶鋼に超低チタンケイ素鉄、低チタンリン鉄及び金属マンガンを加え、そのRH精錬から出鋼したものの実際の化学成分の質量パーセントは表1を参照する。
(4)連鋳工程
実施例1~4及び比較例1では、該連鋳工程はいずれもRH精錬工程から出鋼したものを連鋳設備で連鋳スラブとして製造する。
【0087】
(5)熱間圧延工程
実施例1~4及び比較例1では、該熱間圧延工程はいずれも連鋳スラブを、順に連鋳スラブ加熱、中間スラブ圧延、仕上圧延、巻き取りを経て熱間ロールを製造する。
【0088】
ここで、実施例1~4及び比較例1のそれぞれの連鋳スラブの加熱温度、保温時間、中間スラブ厚さ、最終圧延温度、巻き取り温度、熱間ロール厚さ等の具体的な値は表3に示すとおりである。
【0089】
(6)酸洗連続圧延工程
実施例1~4及び比較例1では、該酸洗連続圧延工程はいずれも以下のとおりである。
【0090】
熱間圧延により得られた熱間ロールに対してHClで3段酸洗を行い、ここで、1段目の酸液濃度は50~80g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦130g/Lであり、2段目の酸液濃度は90~120g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦90g/Lであり、3段目の酸液濃度は140~160g/Lで且つ酸液におけるFe2+濃度≦50g/Lである。各段階の酸洗時に、酸液温度は75~85℃であり、ケイ素鋼酸洗促進剤が酸液に占める重量パーセントは0.05~0.10%となるように、酸液にケイ素鋼酸洗促進剤を加える。
【0091】
すすぎ乾燥させた後、冷間圧延を行って硬質圧延ロールを製造する。ここで、すすぎ水温度は45~55℃であり、酸洗とすすぎの速度は100~180mpmに制御され、実施例1~4と比較例1の冷間圧延圧下率及び硬質圧延厚さはそれぞれ表3に示すとおりである。
【0092】
(7)焼鈍工程
実施例1~4及び比較例1では、該焼鈍工程はいずれも以下のとおりである。冷間硬質ロールの鋼帯を連続焼鈍炉のHとNの混合雰囲気中で焼鈍し、焼鈍温度と焼鈍時間はそれぞれ表3に示すとおりであり、3段冷却によって焼鈍後の鋼帯を冷却し、ここで、1段目の冷却は高温段徐冷であり、鋼帯を焼鈍温度から≦5℃/秒の冷却速度で800℃に冷却する。2段目の冷却は循環ガス噴射制御冷却であり、1段目の冷却後の鋼帯を≦15℃/秒の冷却速度で引き続き300℃以下に冷却する。3段目の冷却は循環水噴射冷却であり、2段目の冷却後の鋼帯を引き続き100℃以下に冷却する。
【表3】
【0093】
(8)塗装及び仕上げ工程
実施例1~4及び比較例1では、該塗装及び仕上げ工程はいずれも以下のとおりである。焼鈍において100℃以下に冷却された鋼帯に対して塗装及び仕上げを行い、最終的に得られた無方向性ケイ素鋼製品の厚さは表2に示すとおりである。
【0094】
以上から分かるように、実施例1~4と比較例1の比較により、本実施形態に記載の生産方法を用いて製造された厚さが0.500±0.005mmの無方向性ケイ素鋼製品は、その鉄損がP1.5/50≦5.5W/kgで、磁束密度がB5000≧1.75であり、磁気性能に優れ、RH精錬工程では脱硫処理を必要とせず、従来技術における脱硫剤によるRH精錬炉浸漬管の浸食が解決され、RH精錬炉浸漬管の使用寿命が向上し、生産コストが削減され、設備の損傷による作業状況の円滑な進行への影響が回避される。
【0095】
説明すべきことは、該実験例1~4は本実施形態の一例に過ぎず、本実施形態は該実験例1~4に従って実施しなければならないものではなく、本実施形態の技術的趣旨を逸脱しない限り、該実験例とは異なる他の実施形態は、いずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5