(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】イットリア安定化ジルコニアを含む粉末混合物からの積層造形によるアルミニウム合金部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/28 20210101AFI20241121BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241121BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20241121BHJP
B22F 12/58 20210101ALI20241121BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241121BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241121BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20241121BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B22F10/28
B22F1/00 N
B22F1/14 400
B22F1/14 500
B22F12/58
B33Y10/00
B33Y80/00
C22C1/04 C
C22C21/00 J
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020083383
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2023-04-19
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウプレシュ,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ガーランデ,ジャン-ポール
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ギレム
(72)【発明者】
【氏名】ソリエー,マシュー
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517450(JP,A)
【文献】特開2017-113952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0161874(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
C22C 1/04- 1/059
C22C 21/00-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末混合物の層を局所的に溶融し、次に凝固させる工程を含む、
選択的レーザー溶融法又は選択的電子ビーム溶融法によるアルミニウム合金部品の製造方法であって、
該粉末混合物が以下を含み:
- 少なくとも80質量%のアルミニウムと、20質量%以下の1種以上の付加的元素を含有する第1粒子(10);及び、
- イットリア安定化ジルコニアで作られた第2粒子(20);
該粉末混合物が、少なくとも1.5体積%の第2粒子を含む製造方法。
【請求項2】
第2粒子(20)が、5nm~600nm
の範囲の
最大寸法を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粉末混合物中の第2粒子(20)の体積割合が、1.5%~2.5%の範囲である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1粒子(10)が、10μm~100μm
の範囲の
最大寸法を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
付加的元素が、Cu、Si、Zn、Mg、Fe、Ti、Mn、Zr、Va、Ni、Pb、Bi及びCrから選択される請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルミニウム合金が、7075合金、2024合金、2219合金又は6061合金である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
粉末混合物が、3Dダイナミックミキサー内
で得られる工程を含む請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
3Dダイナミックミキサーを用いて混合した後の粉末混合物の比表面積が、0.3m
2/gよりも大きい請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
粉末混合物が、さらに還元性元素を含む請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
還元性元素がマグネシウムである、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
粉末混合物が、少なくとも0.5質量%
の還元性元素を含む請求項
9又は
10に記載の方法。
【請求項12】
還元性元素が、第1粒子中に存在する請求項
9~1
1のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形によるアルミニウム合金部品の製造の一般分野に関する。
【0002】
本発明は、アルミニウム系粒子とイットリア安定化ジルコニアを含有する粒子とを含む粉末混合物からアルミニウム合金部品を製造する方法に関する。
【0003】
また本発明は、この方法で得られたアルミニウム合金部品に関する。
【0004】
本発明は、溶融を伴う積層造形法において、アルミニウム合金の高温割れの問題点を克服することができるので、特に興味深い。
【0005】
本発明は、多数の産業分野において、特に自動車、航空、エネルギー(例えば、熱交換器の製造用)の分野において、又は未処理の粒子による構造補強の場合において、用途を見出す。
【背景技術】
【0006】
積層造形(3Dプリンティングとも呼ばれる)による金属合金部品の製造のための様々な方法は、粉末の形態で原料を使用し、これらの粉末を溶融する工程を経て金属合金を成形するという共通点を有する。
【0007】
関連する様々な積層造形法は、特に、粉末床溶融法(又は「Powder Bed Fusion(粉末床溶融)」のPBF)及び集中エネルギー下で物質を堆積させる方法(又は「Directed Energy Deposition(指向性エネルギー堆積)」のDED)を含む。
【0008】
PBF法は、例えばレーザー光を用いて、粉末床の特定の領域を溶融することからなる。DED法は、固体材料、例えばワイヤ又は粉末の形態で固体材料をもたらし、それを、例えばレーザー光を用いて溶融し、溶融した材料を堆積させることからなる。
【0009】
この方法は、十分な機械的特性を有する単純な形状や複雑な形状の部品を工業的に製造することが可能である。
【0010】
しかし、いくらかのアルミニウム合金は、特に0.9~0.98の範囲の固形分率のために、凝固中の熱力学的応力に敏感な微細構造の起源である柱状樹枝状凝固に起因する高温割れの問題にさらされている。
【0011】
この欠点を克服するために、様々な解決策が検討されてきた。
【0012】
例えば、特にScamalloyを用いて、粉末合金の化学組成を変更することが可能である。これは、積層造形のために特別に開発されたアルミニウム、マグネシウム及びスカンジウムを含む軽合金である。凝固時に、Al3Sc一次粒子が液体から析出し、Alマトリックスの粒成長のための基(germ)として作用する。したがって、スカンジウムは、微細構造の緻密化と等軸樹枝状凝固の進行を可能にする。しかし、スカンジウムは特に高価な元素であり、これは原料のコストを大幅に増加させる。
【0013】
別の解決策としては、スカンジウムよりも安価な粒成長材料(germinating material)と呼ばれる材料のナノ粒子をアルミニウム粉末に添加し、等軸凝固を促進する方法もある。
【0014】
特許文献1では、アルミニウム合金粉末を、Zr、Ta、Nb、Ti、又はそれらの酸化物、窒化物、水素化物、ホウ化物、炭化物、及びアルミニドのいずれかのナノ粒子と混合し、積層造形によってアルミニウム合金部品を製造する。記載された様々な例示的な実施形態の中で、部品は、例えば、以下を含む混合物からの選択的レーザー溶融(SLMとも記載される)によって製造される:
- 直径50nmのアルミニウムとタンタルのナノ粒子(1体積%);又は、
- 直径500~1500nmのアルミニウム合金(Al7075又はAl6061)とジルコニウムのナノ粒子(1体積%)。
【0015】
Zhangらの論文(非特許文献1)では、平均粒径8.8μmのジルコニウム粒子を2質量%添加することにより、アルミニウム合金Al-Cu-Mgの粒子の緻密化を行う。
【0016】
Martinらの論文(非特許文献2)では、7075シリーズ(15μmと45μmの二峰分布)と6061シリーズ(d50が45μm)のアルミニウム合金粉末を、1体積%の水素安定化ジルコニウム(ZrH2)のナノ粒子と混合し、SLMによって得られたアルミニウム合金の高温割れの問題を克服した。ナノ粒子は、均一な分布を得るために、基材粉末上に静電的に集積される。使用されるナノ粒子の粒径についての情報は与えられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【0018】
【文献】“Effect of Zirconium addition on crack,microstructure and mechanical behaviour of selective laser melted Al-Cu-Mg alloy”,Scripta Materialia 134(2017),6-10
【文献】“3D printing of high-strength aluminium alloys”,Nature 549(2017),365-369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、クラックのないアルミニウム合金部品を製造する方法であって、実施が容易で、且つ、安価な方法を提供することである。
【発明を解決するための手段】
【0020】
この目的のために、本発明は、粉末混合物の層を溶融し、次に凝固させる少なくとも1つの工程を含む積層造形によるアルミニウム合金部品の製造方法を提供する。
該粉末混合物は以下を含む:
- 少なくとも80質量%のアルミニウムと、20質量%以下の1種以上の付加的元素を含有する第1粒子;及び、
- イットリア安定化ジルコニアの第2粒子;
粉末混合物は、少なくとも1.5体積%の第2粒子を含む。
【0021】
本発明は、アルミニウム系粉末にイットリア安定化ジルコニア粒子(ZrO2-Y2O3、より一般的にはYSZと呼ばれる)を添加することにより、先行技術と根本的に区別される。この粒子の添加は、等軸凝固構造を促進し、したがって最終部品のクラッキングを排除することを可能にする。
【0022】
予想外に、イットリア安定化ジルコニアは、以下の反応に従ってアルミニウムと反応してAl3Zrの粒成長粒子を生成する。
【0023】
【0024】
実際、ジルコニア(ZrO
2)とイットリア(Y
2O
3)は、温度に関係なくアルミナよりも熱力学的に安定であるように見えたとしても(明細書の最後に参照するShen[1]及びChuら[2]の論文から抽出したデータから得られた
図1A及び1Bに示されたエリンガムダイアグラムを参照)、積層造形法の間に、イットリア安定化ジルコニアの分解によって粒成長相Al
3Zrが形成されることが観察されている。
【0025】
この方法で形成された溶融金属浴の寿命は比較的短い(100マイクロ秒~1ミリ秒)ため、このAl3Zr相(第2反応)が粒成長に至る時間があったことは明らかではなかった。一見すると、このin situ反応は、熱力学的にも速度論的にも、この方法によって課される熱条件に有利なものではない。
【0026】
有利には、粉末混合物はさらに還元性元素を含む。還元性元素とは、Zr及びAlよりも還元性の高い元素を意味する。この元素は、酸化されると、例えば、この粒成長のための基質として機能することによって、Al3Zrの不均一な粒成長を促進する。
【0027】
還元性元素は、好ましくは、マグネシウム又はその合金(特にMgAl)のひとつである。
【0028】
還元性元素の酸化は、Al2O3の存在下での酸化還元反応及び/又はイットリア安定化ジルコニア粒子の溶解から生じる酸素との反応に起因する可能性がある。
【0029】
還元性元素がAl2O3の存在下にある場合、酸化還元反応が起こり、Al及び還元性元素の酸化物(例えば、マグネシウムMgの酸化物(MgO等)又はその合金のひとつの酸化物(好ましくはMgAl2O4))の形成をもたらすことができる。
【0030】
あるいは、積層造形によるアルミニウム合金部品の製造方法は、イットリア安定化ジルコニアの第2粒子の溶解を導くことができる。このようにして放出された酸素は、還元性元素と直接結びついて、不均一な粒成長基質を形成することができる。
【0031】
有利には、混合物は、少なくとも0.5質量%の還元性元素を含む。例えば、混合物は、0.5~10質量%、好ましくは0.6~5質量%、さらに好ましくは0.7~2質量%の還元性元素を含む。
【0032】
好ましくは、還元性元素は、第1粒子中に存在する。すなわち、アルミニウム合金の付加的元素の1つが還元性元素である。
【0033】
還元性元素を含まない合金グレードの場合、後者を粒子状にして混合物に添加することができる。例えば、Mg金属粒子を添加することができる。また、酸化マグネシウム粒子を添加することもできる。
【0034】
特定の実施形態によれば、Mgを含む合金グレードについては、積層造形プロセス中に発生する可能性のある差分蒸発(differential evaporation)を補うために金属マグネシウムを添加することも可能である。
【0035】
有利には、イットリア安定化ジルコニアは、高還元性であることが知られている金属元素と比較して、安定な酸化物であり、取り扱い及び/又は保管が容易である。
【0036】
有利には、第2粒子は、5nm~600nm、好ましくは100nm~400nm、さらに好ましくは200nm~300nmの範囲のより大きな寸法を有する。
【0037】
有利には、粉末混合物中の第2粒子(YSZ)の体積割合は、1.5%~5%の範囲であり、さらに好ましくは1.5%~2.5%の範囲である。
【0038】
有利には、第1粒子は、10μm~100μm、好ましくは20μm~65μmの範囲のより大きな寸法を有する。
【0039】
有利には、付加的元素は、Cu、Si、Zn、Mg、Fe、Ti、Mn、Zr、Va、Ni、Pb、Bi及びCrから選択される。
【0040】
有利には、アルミニウム合金は、7075合金、6061合金、2219合金又は2024合金である。
【0041】
第1の有利な変形実施形態によれば、造形手法は、選択的レーザー溶融法である。
【0042】
第2の有利な変形実施形態によれば、造形手法は、選択的電子ビーム溶融法である。
【0043】
有利には、粉末の混合は、3Dダイナミックミキサー内で、又は、機械的合成(メカノ合成)によって行われる。
【0044】
有利には、ダイナミック3Dミキサーを用いて混合した後の混合物の比表面は、0.3m2/gよりも大きい。
【0045】
この方法には多くの利点がある:
- 粉末の混合だけで十分であるため、実施が簡単である。粉末の量に関係なく、乾式工程であり、迅速に実施でき、設定も簡単である;
- 安価であるため、工業的な観点から興味深い。例示のために、アルミニウム合金6061の材料費は約60ユーロ/kgであり、アルミニウム合金6061とイットリア安定化ジルコニア(1.5体積%)を含む粉末混合物の材料費は約61.71ユーロ/kgである。酸化タンタルとZrH2はイットリア安定化ジルコニアよりも著しく(少なくとも15倍以上)高価である;
- イットリア安定化ジルコニア粉末は酸化物であるため、不活性雰囲気を使用する必要がなく、保管/取り扱いが容易である;
- 粉末を混合する際に、粉末間の体積比を容易に変更できる;
- あらゆる積層造形法に容易に適応でき、高温割れの問題にさらされている任意のアルミニウム合金に容易に適応できる;
- 従来、積層造形法で使用されていたパラメータを使用できる。
【0046】
また本発明は、上記の方法に従って得られたアルミニウム合金部品(又はワークピース)に関する。該部品は、イットリア安定化ジルコニアを含む。該部品には、クラッキング/クラックがない。
【0047】
有利には、該部品は熱交換器である。
【0048】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の追加の記載から明らかになるであろう。
【0049】
この追加の記載は、本発明の目的を例示するために与えられたものであり、いかなる場合も本発明の目的を制限するものと解釈されるべきではないことは言うまでもない。
【0050】
本発明は、純粋に表示し、決して限定的ではない方法で与えられた例示的な実施形態の説明を、添付の図面を参照しながら読むことにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】既に説明した
図1Aは、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ジルコニウム(ZrO2)の安定性を表すエリンガムダイアグラムである。既に説明した
図1Bは、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化イットリウム(Y2O3)の安定性を表すエリンガムダイアグラムである。
【
図2】
図2は、本発明の方法の特定の実施形態に従った粉末混合物を模式的に示す。
【
図3】
図3A、3B、3C及び3Dは、本発明の特定の実施形態に従った様々な体積濃度でのアルミニウム粒子及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で得られた写真である。
【
図4】
図4Aは、アルミニウム合金6061粒子から製造された部品の平面XYに沿った光学顕微鏡で得られた写真である。
図4B、4C、4D及び4Eは、本発明の様々な実施形態に従った様々な体積濃度のアルミニウム合金6061粒子及びYSZ粒子の混合物から作られた部品の平面XYに従った光学顕微鏡で得られた写真である。
【
図5】
図5A及び5Bは、アルミニウム粒子から製造された部品の平面XZに沿った電子後方散乱回折(EBSD)画像と、本発明の特定の実施形態に従ってアルミニウム合金6061粒子及び2体積%のYSZ粒子の混合物から製造された部品の平面XZに沿った電子後方散乱回折(EBSD)画像である。
【
図6】
図6A及び6Bは、本発明の特定の実施形態に従ってアルミニウム合金6061粒子と2体積%のYSZ粒子との混合物から製造された部品の、それぞれ平面XY及び平面XZに沿って電子後方散乱走査型電子顕微鏡を用いて得られた写真である。
【
図7】
図7は、本発明の特定の実施形態に従った混合物の比表面積を、YSZの体積%の関数として示すグラフである。
【
図8】
図8Aは、本発明の特定の実施形態に従って製造されたワークピースの一部の透過型電子顕微鏡によって得られた写真である。
図8B、8C及び8Dは、
図8Aの囲み中で作られた元素Zr、O及びMgのマップである。
【0052】
図示された様々な部分は、図を読みやすくするために、必ずしも一定の縮尺で示されてはいない。
【0053】
様々な可能性(変形及び実施形態)は、相互に排他的ではなく、互いに組み合わせることができるものとして理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
積層造形によるアルミニウム合金部品(又はワークピース)の製造方法は、以下の連続した工程を含む:
a)好ましくは以下からなる粉末混合物を提供する工程:
- 少なくとも80質量%のアルミニウムと、20質量%以下の1種以上の付加的元素を含有する第1材料の第1粒子10を含む第1粉末;
- イットリア安定化ジルコニアである第2材料で作られた第2粒子20を含む第2粉末;
b)粉末混合物の層を形成する工程;
c)好ましくはレーザー光を走査することによって、又は、電子ビームを走査することによって、粉末混合物の層を局所的に溶融し、複数の溶融領域を形成する工程;
d)工程c)の複数の溶融領域を冷却し、作製する部品の第1要素を構成する複数の凝固領域を形成する工程。
【0055】
有利には、工程b)、c)及びd)は、第1凝固領域上に少なくとも1つの別の凝固領域を形成するように、少なくとも1回繰り返すことができる。この方法は、部品の最終形態が得られるまで繰り返される。粉末混合物の第1層は、基板上に形成される。
【0056】
アルミニウムをベースとする対象の第1粒子10に、イットリア安定化ジルコニア粒子20(YSZ)を添加することにより、クラッキングすることなく、等軸凝固構造と最終的なアルミニウム合金部品を得ることができる。
【0057】
好ましくは、第1粒子10は、第2粒子20によって機能化される(
図2)。
【0058】
好ましくは、第2粒子20は、イットリア安定化ジルコニアで作られる。
【0059】
イットリア安定化ジルコニアは、有利には、1~10質量%、好ましくは3~10質量%の酸化イットリウムを含む。またそれは、粉末の製造方法で通常直面する汚染物質、特に酸化物(例えば酸化ハフニウム等)を少量(典型的には3質量%未満)含んでもよい。
【0060】
イットリア安定化ジルコニアの第2粉末は、好ましくは、体積比で粉末混合物の少なくとも1.5%、好ましくは1.5%~5%、例えば1.5%~2.5%である。
【0061】
有利な実施形態によれば、第1粒子10は、10μm~120μmの範囲のより大きな寸法を有する。また第2粒子20は、5nm~600nmの範囲のより大きな寸法を有し、好ましくは、100nm~600nmであり、より好ましくは、100nm~400nmであり、さらに好ましくは、200nm~300nmである。
【0062】
第1粒子10及び第2粒子20は、球形、卵形又は細長い形状でありうる要素である。好ましくは、粒子は実質的に球形であり、最大の寸法はその直径である。
【0063】
第1粉末は、第1材料で作られた第1粒子10から形成される。第1材料は、少なくとも80質量%のアルミニウム、好ましくは少なくとも90質量%のアルミニウムを含む。
【0064】
第1粒子10は、20質量%以下、好ましくは10質量%以下の1種以上の付加的元素(合金元素とも呼ばれる)を含むことができる。これらの元素は、好ましくは、亜鉛、マグネシウム、銅、シリコン、鉄、マンガン、チタン、バナジウム、ビスマス、鉛、ニッケル、ジルコニウム及びクロムから選択される。
【0065】
好ましくは、合金は、アルミニウム合金7075、合金2024、合金2219又はアルミニウム合金6061である。
【0066】
有利には、粉末混合物はさらに還元性元素、好ましくはマグネシウム又はその合金のひとつ(特にMgAl)を含む。
【0067】
好ましくは、混合物は、少なくとも0.5質量%の還元性元素を含む。例えば、混合物は、0.5~10質量%、好ましくは0.6~5質量%、さらに好ましくは0.7~2質量%の還元性元素を含む。
【0068】
還元性元素は、第1粒子中に存在してもよいし、工程a)で提供される混合物に粒子の形態で添加されてもよい。
【0069】
工程a)で提供される粉末混合物は、積層造形法の前に製造される。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、第1粉末と第2粉末を3Dダイナミックミキサー、例えばTurbula(商標)ミキサーを用いて混合する。あるいは、メカノ合成法であってもよい。
【0071】
工程c)では、十分なエネルギーの光線(beam)を用いて、少なくとも第1粒子10を溶融する。
【0072】
堆積層は、局所的に溶融してもよいし、完全に溶融してもよい。
【0073】
溶融工程は、粉末混合物層に溶融パターンを作り出す。所望のパターンを形成するために、溶融した粒子の1つ以上の領域を作ることができる。パターンを形成する粒子10は、凝固(工程d)の間に、アルミニウム合金中に凝固した1つ以上の領域につながるように完全に溶融する。
【0074】
有利には、工程b)、c)及びd)は、第1凝固領域上に少なくとも1つの別の凝固領域を形成するように、少なくとも1回繰り返すことができる。この方法は、その部品の最終的な形状が得られるまで繰り返される。
【0075】
次に非凝固粉末を除去し、最終的な部品を基板から剥離する。
【0076】
これらの方法のひとつに従って得られた部品は、内部応力を低減し、機械的特性を向上させるために、アニール工程(熱処理)に供することができる。
【0077】
第1の変形実施形態によれば、それは粉末床(SLM)上でのレーザー溶融法である。例示的かつ非限定的な態様では、粉末床上でのレーザー溶融による造形手法のパラメータは下記の通りである:
- レーザー出力は50~500W;
- レーザー速度は100~2000mm/s;
- 2つのベクトル空間の間の距離(「ハッチ」)は25~120μm;
- 層の厚さは15~60μm。
【0078】
別の変形実施形態によれば、それは粉末床電子ビーム溶融(EBM)法である。例示的かつ非限定的な態様では、粉末床上での電子ビーム溶融による造形手法のパラメータは下記の通りである:
- 電子ビームは50~3000W;
- ビーム速度は100~8000mm/s;
- 2つのベクトル空間の間の距離は50~150μm;
- 層の厚さは40~60μm。
【0079】
積層造形法に使用される堆積装置は、例えば、粉末供給装置、粉末の表面を広げて均質化するための装置(「ローラー」又は「ブレード」)、ビーム(例えば、約1060nmの波長の赤外線レーザー光)、ビームを管理するスキャナ、及び、(粉末床に垂直な軸Zに沿って)垂直に降下可能な基板(プレートとも呼ばれる)を備える。
【0080】
アセンブリは、雰囲気を制御するためだけではなく粉末の飛散を避けるために、熱的に閉鎖された不活性な筐体(enclosure)内に収容することができる。
【0081】
限定するものではないが、本発明は、エネルギー分野、特に熱交換器、航空分野及び自動車分野において特定の用途を見出す。
【実施例】
【0082】
例示的で非限定的な実施形態の例
この実施例では、寸法10mm×10mm×10mmの立方体状の部品が、SLMによる印刷によって製造される。
【0083】
この部品は、2つの粉末混合物(アルミニウム合金粉末とYSZ粉末)から得られる。
【0084】
アルミニウム合金粉末(Al6061)の粒度分布は下記の通りである:d10=27.5μm、d50=41.5μm、d90=62.7μm。
【0085】
YSZ粉末に関しては、その粒度分布は下記の通りである:直径120nm~600nm。この粉末は「2YSZ」という照会名称でInnovnano Materials社が販売する。これは、Y2O3を3.5質量%含有する。
【0086】
アルミニウム粉末を180℃で2時間焼成する。次いで、2つの粉末の混合は、グローブボックス内で行う(1200mLの緻密化するアルミニウム合金粉末;24mLのイットリア安定化ジルコニア粉末(2体積%の混合物);及び、混合物の均質化に使用する直径3mmのジルコニアビーズ250mL)。ミキシングポットの容量は6.5Lである。
【0087】
粒子10、粒子20及びジルコニアビーズが示す体積のミキシングポットの容量に対する比率として定義される充填率は約23%である。
【0088】
混合物を、例えばTurbula(商標)等の3Dダイナミックミキサーに6時間かける。
【0089】
最終的に混合物を粗く(1mm)篩い分けし、ジルコニアビーズを回収する。
【0090】
様々な粉末混合物を試験した:YSZ粉末の体積割合は0.05~2体積%の範囲であった。粉末混合物は、SEMを用いて観察した(
図3A~3D)。アルミニウム合金6061粒子は灰色で、YSZ粒子は白色で現れる。
【0091】
次に、この混合物を用いて3Dプリントで部品を製造する。実例として、最も密度の高い立方体が得られるSLMの条件は以下の通りである:レーザー出力:190~270W;レーザー速度:400~800mm/s;ベクトル空間:100μm;層の厚さ(粉末床):20μm。
【0092】
比較のために、YSZ粉末を添加しないでアルミニウム部品を製造する。
【0093】
アルミニウム粉末のみを用いて製造された部品(
図4A)又はYSZを0.05~1体積%の量で含む粉末混合物を用いて製造された部品(
図4B~4D)は、クラックが発生している。YSZ粉末を2体積%含む粉末混合物を用いて製造された部品はクラックのない緻密な部品である(
図4E)。
【0094】
YSZ粉末を添加することなく製造した部品と、2体積%のYSZと共に製造した部品は、電子後方散乱回折により特徴づけられている(それぞれ、
図5A、5B):2体積%のYSZを添加することが、微細構造の微細化につながる。
【0095】
2体積%のYSZと共に製造したアルミニウム部品は、SEMでも特徴づけられた。平面XZ(
図6A)においても、平面XY(
図6B)においても、粒子の緻密化が完全に明らかである。軸Zは構築軸、すなわち粉末混合物の層の積層の軸(又は構築プレートに垂直な軸)に対応する;軸XとYは構築プレートの軸に対応する。すなわち軸XとYは粉末混合物の層が堆積した構築プレートの主面に平行である。
【0096】
最後に、様々な粉末混合物について、BETによる比表面積測定を行った(
図7)。高温割れの問題を克服するためには、少なくとも0.3m
2/gの比表面積が必要であることが判明した。これらの測定は、クラッキング現象を回避するために添加されるべき粒成長物質の量の観点から、特性評価の別のソースを形成することができる。
【0097】
透過型電子顕微鏡による特性評価により、マグネシウムを含む酸化物の存在が確認された(
図8A~8D)。
【0098】
参考文献
[1]Shen“Carbothermal synthesis of metal-functionalized nanostructures for energy and environmental applications”,J.Mater.Chem.A3(2015),13114-13188.
[2]Chu and al.“Sintering of aluminium nitride by using alumina crucible and MoSi2 heating element at temperatures of 1650℃ and 1700℃”,Ceramics International 35(2009),3455-3461.