IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

<>
  • 特許-易重合性化合物の製造方法 図1
  • 特許-易重合性化合物の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】易重合性化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/54 20060101AFI20241121BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C07C67/54
C07C69/54 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020098800
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021191739
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】杉本 貴
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-115155(JP,A)
【文献】特開2000-256258(JP,A)
【文献】特開2002-1017(JP,A)
【文献】特開2001-131116(JP,A)
【文献】特開2000-254403(JP,A)
【文献】特開2014-162783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/54
C07C 69/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
易重合性化合物含有液を、蒸留塔および放散塔から選ばれる気化分離塔に導入して常圧または加圧下で精製する工程を含む易重合性化合物の製造方法であって、
前記易重合性化合物は(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルであり、
前記気化分離塔に導入される前記易重合性化合物含有液中の易重合性化合物濃度は50質量%以上であり、
前記気化分離塔には、塔底液の少なくとも一部を抜き出した抜出液を前記気化分離塔に戻す循環路が設けられ、
前記循環路には、酸素含有ガスを供給する供給口と加熱部を備えたリボイラーとが上流側から順に設けられ、
前記リボイラーの加熱部は、前記循環路を流れる前記抜出液が鉛直方向の下方から上方に向かって流れるように設置され、
前記供給口は前記加熱部の入口を基準として高低差が0.5m以上の下方に配置されており、
前記供給口から、前記抜出液に酸素含有ガスを供給することを特徴とする易重合性化合物の製造方法。
【請求項2】
前記供給口における抜出液の圧力は、前記塔底液上面の気体圧力よりも30kPa以上高い請求項1に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項3】
前記循環路の前記供給口から前記加熱部の入口までの前記抜出液の平均滞留時間が2秒以上である請求項1または2に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項4】
前記循環路には、前記供給口から前記加熱部までの間に屈曲部が設けられている請求項1~3のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項5】
前記供給口は、前記循環路が略水平方向に延びる水平部に設けられている請求項1~4のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項6】
前記水平部における前記抜出液の平均滞留時間が0.5秒以上である請求項5に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項7】
前記加熱部の上流側の前記循環路と前記加熱部との接続部分に拡幅部が設けられている請求項1~6のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項8】
前記加熱部を備えたリボイラーは、プレート式熱交換器、多管式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、またはスパイラル式熱交換器から構成される請求項1~7のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項9】
前記酸素含有ガスをマイクロバブルとして供給する請求項1~8のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性化合物を蒸留により精製を行う工程を含む易重合性化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性化合物を蒸留塔などの気化分離塔を用いて精製する方法が知られている。気化分離塔には、塔底液の少なくとも一部を抜き出してリボイラーにて加熱して気化分離塔に戻す循環路が設けられる場合がある。易重合性物質は重合しやすく、その製造工程において重合が発生して装置の停止を余儀なくされることがあり、その重合防止対策が様々検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、リボイラーを備えてなる蒸留塔を用いて易重合性化合物または易重合性化合物含有液を蒸留するに当り、所定の寸法を有するリボイラーを用い、蒸留塔内の液面を所定の範囲内に維持する易重合性化合物または易重合性化合物含有液の蒸留方法が開示されている。特許文献2には、(メタ)アクリル酸またはそのエステルを含むプロセス液流を蒸留塔へ導入して蒸留を行う工程を含む(メタ)アクリル酸またはそのエステルを製造する方法であって、蒸留塔が、リボイラーを備えた塔底循環ラインを有し、プロセス流からプロセス液の一部を抜き出し、該抜き出し液と酸素含有ガスをスタティックミキサー内で混合して気液混相流とし、該気液混相流を蒸留塔に供給する(メタ)アクリル酸またはそのエステルの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-239229号公報
【文献】特開2014-162783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に開示されるように、リボイラーが設けられた循環路を備えた気化分離塔を用いて易重合性化合物含有液を精製する場合、循環路のリボイラー(具体的にはリボイラーの加熱部)では、気化分離塔の塔底液の少なくとも一部が抜き出された抜出液が加熱されて易重合性化合物の重合反応が進行しやすくなることから、特に重合防止対策が重要となる。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、加熱部を備えた循環路が設けられた気化分離塔を用いて易重合性化合物を精製する工程を含む易重合性化合物の製造方法であって、加熱部での易重合性化合物の重合を効果的に抑えることができる易重合性化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を含むものである。
[1]易重合性化合物含有液を、蒸留塔および放散塔から選ばれる気化分離塔に導入して常圧または加圧下で精製する工程を含む易重合性化合物の製造方法であって、
前記気化分離塔には、塔底液の少なくとも一部を抜き出した抜出液を前記気化分離塔に戻す循環路が設けられ、
前記循環路には、酸素含有ガスを供給する供給口と加熱部を備えたリボイラーとが上流側から順に設けられ、
前記供給口は前記加熱部の入口を基準として高低差が0.5m以上の下方に配置されており、
前記供給口から、前記抜出液に酸素含有ガスを供給することを特徴とする易重合性化合物の製造方法。
[2]前記供給口近傍の抜出液の圧力は、前記塔底液上面の気体圧力よりも30kPa以上高い[1]に記載の易重合性化合物の製造方法。
[3]前記循環路の前記供給口から前記加熱部までの前記抜出液の平均滞留時間が2秒以上である[1]または[2]に記載の易重合性化合物の製造方法。
[4]前記循環路には、前記供給口から前記加熱部までの間に屈曲部が設けられている[1]~[3」のいずれかに記載の易重合性化合物の製造方法。
[5]前記供給口は、前記循環路が略水平方向に延びる水平部に設けられている[1]~[4]のいずれかに記載の易重合性化合物の製造方法。
[6]前記循環路を流れる塔底液の前記水平部における平均滞留時間が0.5秒以上である[5]に記載の易重合性化合物の製造方法。
[7]前記加熱部の上流側の前記循環路と前記加熱部との接続部分に拡幅部が設けられている[1]~[6]のいずれかに記載の易重合性化合物の製造方法。
[8]前記加熱部を備えたリボイラーは、プレート式熱交換器、多管式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、またはスパイラル式熱交換器から構成される[1]~[7]のいずれかに記載の易重合性化合物の製造方法。
[9]前記酸素含有ガスをマイクロバブルとして供給する[1]~[8]のいずれかに記載の易重合性化合物の製造方法。
[10]前記易重合性化合物が、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルである[1]~[9]のいずれかに記載の易重合性化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の易重合性化合物の製造方法は、気化分離塔内で易重合性化合物含有液を常圧または加圧下で精製し、気化分離塔の抜出液循環路に、リボイラーよりも上流側であってリボイラーの加熱部の入口を基準として高低差が0.5m以上の下方に、酸素含有ガスの供給口を設けている。これにより酸素含有ガスをより高圧状態の抜出液に供給することができ、供給した酸素を速やかに抜出液に溶け込ませたり、あるいはより多くの酸素を抜出液に溶け込ませることが可能となる。その結果、循環路内での重合防止効果が高まり、重合反応が起こりやすいリボイラーの加熱部における易重合性化合物の重合を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の易重合性化合物の製造方法に用いられる気化分離塔周りのシステムの一例を表す。
図2】本発明の易重合性化合物の製造方法に用いられる気化分離塔周りのシステムの他の一例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の易重合性化合物の製造方法は、易重合性化合物含有液を蒸留塔および放散塔から選ばれる気化分離塔に導入して常圧または加圧下で精製する工程を含むものである。易重合性化合物含有液を気化分離塔に導入して精製することにより、易重合性化合物含有液から易重合性化合物よりも低沸点および/または高沸点の成分の少なくとも一部が除去され、精製された易重合性化合物を得ることができる。以下、易重合性化合物含有液を気化分離塔に導入して精製する工程を「気化分離工程」と称する。
【0011】
易重合性化合物としては、気化分離塔で加熱した際に重合しやすい化合物であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸とそのエステル、無水マレイン酸とそのエステル、アクリロニトリル、スチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、代表的な易重合性化合物として、(メタ)アクリル酸とそのエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。易重合性化合物として、好ましくは、無水マレイン酸、アクリロニトリル、スチレン、ビニルトルエン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0012】
蒸留塔または放散塔の気化分離塔に導入される易重合性化合物含有液は、易重合性化合物の製造プロセスで得られ、易重合性化合物を含有する液であれば特に限定されない。例えば易重合性化合物が(メタ)アクリル酸である場合は、易重合性化合物含有液としては、気化分離工程よりも前段の捕集工程や凝縮工程で得られた(メタ)アクリル酸含有液(具体的には(メタ)アクリル酸含有ガスを液体として回収した(メタ)アクリル酸含有液)、気化分離工程よりも前段の任意の精製工程で得られる(メタ)アクリル酸含有液、気化分離工程よりも後段の任意の精製工程で得られる精製残渣等が挙げられる。これらの任意の精製工程で用いられ得る精製手段としては、晶析、蒸留(分留)、放散、抽出等が挙げられ、これらは複数を組み合わせてもよい。
【0013】
気化分離工程で気化分離塔に導入される易重合性化合物含有液中の易重合性化合物濃度は特に限定されないが、本発明の効果をより顕著に発揮させることができる点から、易重合性化合物含有液中の易重合性化合物濃度は、例えば50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がさらにより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。易重合性化合物含有液中の易重合性化合物濃度の上限は特に限定されないが、例えば97質量%以下である。
【0014】
気化分離塔として用いられる蒸留塔や放散塔としては、塔内に棚板(シーブトレイ)が設けられた棚段塔(例えば多孔板塔や泡鐘塔)や塔内に充填物が充填された充填塔などの塔型設備が好適に用いられる。気化分離塔は塔頂部と塔中部と塔底部を有し、気化分離塔を高さ方向に区分したときに、棚段または充填物が設けられた高さ方向の範囲を塔中部と称し、それよりも塔頂側を塔頂部、それよりも塔底側を塔底部と称する。
【0015】
気化分離塔への易重合性化合物含有液の導入位置や、気化分離塔から抜き出される精製された易重合性化合物の抜き出し位置は、易重合性化合物含有液の組成や、気化分離塔の種類に応じて、すなわち気化分離塔が蒸留塔である場合と放散塔である場合とで、それぞれ適宜設定すればよい。
【0016】
気化分離塔が蒸留塔である場合は、易重合性化合物含有液は、蒸留塔の塔中部から蒸留塔内に導入することが好ましい。蒸留塔から抜き出される精製された易重合性化合物の抜き出し位置は、蒸留塔に導入する易重合性化合物含有液の組成に応じて適宜設定すればよい。例えば、(メタ)アクリル酸含有液を蒸留塔に導入して精製する場合は、次のように精製(メタ)アクリル酸を蒸留塔から抜き出すことが好ましい。蒸留塔が、前段の捕集工程や凝縮工程で得られた(メタ)アクリル酸含有液を蒸留するものである場合は、(メタ)アクリル酸含有液に(メタ)アクリル酸よりも低沸点の成分が多く含まれるため、精製(メタ)アクリル酸は蒸留塔の塔中部および/または塔底部から抜き出すことが好ましい。この場合の精製(メタ)アクリル酸の抜き出し位置は、(メタ)アクリル酸含有液の導入位置よりも塔底側にあることが好ましい。一方、(メタ)アクリル酸含有液がミカエル付加物やマレイン酸などの(メタ)アクリル酸よりも高沸点の成分を多く含む場合は、精製(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリル酸含有液の導入位置よりも塔頂側から抜き出すことが好ましく、塔頂部から抜き出すことがより好ましい。この場合、精製(メタ)アクリル酸は蒸気として抜き出すことが好ましい。
【0017】
精製(メタ)アクリル酸を塔中部から抜き出す場合は、精製(メタ)アクリル酸を液として抜き出してもよく、蒸気として抜き出してもよい。精製(メタ)アクリル酸を液として塔中部から抜き出すには、例えば棚段塔において、棚段の位置に抜き出し口を設けたり、棚段にチムニーなどを設ければよい。液として抜き出すことで、凝縮などの追加操作を行うことなく次工程に精製(メタ)アクリル酸を供給することができる。精製(メタ)アクリル酸を蒸気として抜き出す場合は、不純物の含有量が比較的少ない精製(メタ)アクリル酸を得やすくなる。蒸留塔内では塔頂から塔底に向かって還流液が流れ落ち、棚段上には還流液の一部が溜まった状態で存在するが、棚段から十分上方の位置に抜き出し口を設けることで、還流液の抜き出しを抑えて、精製(メタ)アクリル酸を蒸気の形態で優先的に抜き出すことが容易になる。
【0018】
精製(メタ)アクリル酸を塔底部から抜き出す場合は、精製(メタ)アクリル酸は後述する抜出液循環路に精製(メタ)アクリル酸を抜き出すための管路を接続し、当該管路から精製(メタ)アクリル酸を抜き出してもよく、抜出液循環路とは別に精製(メタ)アクリル酸を抜き出すための管路を蒸留塔の塔底部に直接接続してもよい。この場合、精製(メタ)アクリル酸は液として抜き出すことが好ましい。
【0019】
蒸留塔では、分離精製が好適に行われるようにするために、塔底部圧力>塔中部圧力>塔頂部圧力となるように蒸留塔内の圧力を制御することが好ましい。
【0020】
気化分離塔が放散塔である場合は、易重合性化合物含有液を放散塔の塔中部または塔頂部から放散塔内に導入し、塔底部から精製した易重合性化合物を抜き出すことが好ましい。放散塔では、基本的に塔底部から放散用ガスが供給され、易重合性化合物含有液に含まれる低沸点成分が気化分離される。精製した易重合性化合物は放散塔から液として抜き出すことが好ましく、この場合、後述する抜出液循環路に精製した易重合性化合物含有液を抜き出すための管路を設けてもよく、抜出液循環路とは別に精製した易重合性化合物含有液を抜き出すための管路を蒸留塔の塔底部に直接接続してもよい。
【0021】
気化分離塔には、塔底部に溜まった塔底液の少なくとも一部を抜き出した抜出液を気化分離塔に戻す抜出液循環路が設けられている。抜出液循環路には、加熱部を備えたリボイラーが設けられている。抜出液循環路は、塔底部から抜き出した抜出液をリボイラーで加熱して気化分離塔に戻すことにより、気化分離塔内の温度を高めるとともにその温度調節を容易にして、気化分離塔内での分離効率を高めるための手段である。従って、これらを達成できる範囲において、気化分離塔と抜出液循環路との接続形式や抜出液循環路の構造は特に限定されない。ただし、上記を達成できない液面計等は本発明では抜出液循環路とは称さない。
【0022】
抜出液循環路は、1つの気化分離塔に対して1つの抜出液循環路が設けられてもよく、1つの気化分離塔に対して複数の抜出液循環路が設けられてもよく、複数の気化分離塔に対して1つの抜出液循環路が設けられてもよい。複数の気化分離塔に対して1つの抜出液循環路が設けられる場合、複数の気化分離塔の抜出液を集合させて加熱した後にそれぞれの気化分離塔へ戻すことができる。気化分離塔での分離効率を高めてより精密な制御ができる観点からは、1つの気化分離塔に対して複数の抜出液循環路が設けられることが好ましい。しかしながら、必要される精度が得られるのであれば、1つの気化分離塔に対して1つの抜出液循環路が設けられることが簡便であり好ましい。
【0023】
循環路は、塔底部から抜き出した塔底液を塔底部に戻すように設けられることが好ましい。これにより気化分離塔内の温度調節が容易になる。塔底液循環路の塔底部への返送位置は、塔底部からの塔底液の抜き出し位置よりも高い位置にあってもよく、低い位置にあってもよく、同じ高さの位置にあってもよい。なお、以下において、循環路内を流れる抜出液を「循環液」と称する場合がある。
【0024】
リボイラーとしては伝熱面を備えた熱交換器を用いることが好ましく、これにより循環液の温度制御が容易になる。この場合、伝熱面がリボイラーの加熱部となる。熱交換器としては公知の熱交換器を用いればよく、例えば、一枚のプレートが配置され、または複数枚のプレートが間隔を隔てて積層され、熱媒存在部と循環液存在部とがプレートを介して交互に配置されたプレート式熱交換器;複数本の管が容器内に配列され、管の内外で熱交換を行う多管式(シェル・アンド・チューブ式)熱交換器;外管の中に内管が配置され、内管の内外で熱交換を行う二重管式熱交換器;一本の管がコイル状に容器内に配置され、管の内外で熱交換を行うコイル式熱交換器;断面が二分された中心管に2枚の伝熱板を渦巻き状に巻き、2つの渦巻き状の流路が形成されたスパイラル式熱交換器等を用いることができる。なお、多管式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、スパイラル式熱交換器で用いられる管の断面形状は特に限定されない。伝熱効率およびメンテンナンスの容易性から、プレート式熱交換器やチューブ内に循環液を流す多管式熱交換器が好ましく、特に後者が好ましい。
【0025】
リボイラーの加熱部は、循環液が鉛直方向の下方から上方に向かって流れるように設置されていることが好ましい。後述するように、本発明では、リボイラーの加熱部の入口よりも低い位置に酸素含有ガスの供給口を設けることから、循環液に供給した酸素含有ガスが加熱部に留まったり、加熱部において酸素含有ガスが偏在して流れることを防止するために、加熱部は循環液が鉛直方向の下方から上方に向かって流れるように設置されていることが好ましい。同様の観点から、リボイラーとして熱交換器を用いる場合は、プレート式熱交換器または多管式熱交換器を用いることが好ましい。なお、加熱部の入口とは、リボイラーとして熱交換器を用いる場合は、熱交換器の伝熱面において最も上流に位置する部分を指す。例えば、チューブ内に循環液を流す多管式熱交換器の場合は、上流側の管板面が加熱部の入口に相当する。
【0026】
気化分離工程では、易重合性物質の重合を抑制することが望ましい。従って、気化分離塔に導入される易重合性化合物含有液には重合防止剤が含まれている、あるいは気化分離塔において重合防止剤を添加することが好ましい。特に気化分離塔の塔底部では温度が高く重合反応が進行しやすいことから、塔底液に重合防止剤が含まれることが好ましい。
【0027】
重合防止剤としては、従来公知の重合防止剤を用いることができ、例えば、ハイドロキノン、メトキノン(p-メトキシフェノール)等のキノン類;フェノチアジン、ビス-(α-メチルベンジル)フェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、ビス-(α-ジメチルベンジル)フェノチアジン等のフェノチアジン類;2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシル、4,4’,4”-トリス-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイト等のN-オキシル化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、アクリル酸銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅等の銅塩化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、ギ酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン等のマンガン塩化合物;N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンやその塩、p-ニトロソフェノール、N-ニトロソジフェニルアミンやその塩等のニトロソ化合物等が挙げられる。これらの重合防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、重合防止剤として、少なくともキノン類を用いることが好ましい。
【0028】
塔底液中の重合防止剤濃度は適宜設定すればよいが、気化分離塔での重合防止効果が適切に発揮されるようにする点から、例えば1質量ppm以上が好ましく、10質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上がさらに好ましく、1000質量ppm以上が特に好ましい。塔底液中の重合防止剤濃度の上限は特に限定されないが、重合防止剤の添加量を低減する点から、50000質量ppm以下が好ましく、10000質量ppm以下がより好ましく、5000質量ppm以下がさらに好ましく、2000質量ppm以下が特に好ましい。
【0029】
気化分離塔では、易重合性化合物含有液の分離精製が好適に行われるようにするために、塔底部圧力>塔中部圧力>塔頂部圧力となるように気化分離塔内の圧力を制御することが好ましい。
【0030】
ところで、気化分離塔では塔底側ほど温度が高くなる傾向を示し、特に抜出液循環路のリボイラーでは、抜出液が加熱されて易重合性化合物の重合反応が進行しやすくなることから、抜出液循環路のリボイラーでは易重合性化合物の重合防止対策が重要となる。リボイラーの加熱部で易重合性化合物の重合反応が進行すると、加熱部に重合物が付着・堆積し、加熱部での流路の閉塞が起こりうる。
【0031】
そこで、当該循環路のリボイラーよりも上流側に酸素含有ガスを供給する供給口を設け、当該供給口から循環路内を流れる抜出液(循環液)に酸素含有ガスを供給する。これにより、循環路内での重合防止効果が高まり、特に重合反応が起こりやすいリボイラーの加熱部における易重合性化合物の重合を抑えることができる。酸素含有ガスとしては、純酸素ガス、空気、窒素と酸素と空気を混合し任意の酸素濃度としたガス、プロセス廃ガス等を用いることができる。
【0032】
上記のように循環液に酸素含有ガスを供給してリボイラー加熱部での重合を抑制する場合、酸素含有ガスが循環液に供給されてリボイラーの加熱部に至るまでに、供給された酸素が循環液にできるだけ多く溶け込むことが望ましい。そのためには、酸素含有ガスをできるだけ高い圧力下で循環液に供給することが望ましい。
【0033】
そこで本発明では、気化分離塔内の圧力を常圧以上とするとともに、リボイラーの上流側の循環液中の酸素飽和濃度が高くなる液圧力の高い箇所において、酸素含有ガスを供給するようにしている。酸素含有ガスの供給口は、リボイラーの加熱部の入口を基準として高低差が0.5m以上下方に位置する循環路に設けており、これによってより多くの酸素を循環液に溶解させるようにしている。これについて、図面を参照して説明する。
【0034】
図1および図2には、気化分離塔周りのシステム概略図を示した。気化分離塔1には、塔底液3の少なくとも一部を抜き出して気化分離塔1に戻す循環路2が設けられ、循環路2には、加熱部5を備えたリボイラー4が設けられているとともに、加熱部5よりも上流側かつ下方に酸素含有ガスを供給する供給口7が設けられている。気化分離塔1では、常圧または加圧下で易重合性化合物含有液の精製を行う。そのために気化分離塔1では、塔底液上面の気体圧力を常圧以上としており、これにより、塔底液の液面に常圧以上の圧力をかけることができる。その上で、酸素含有ガスの供給口7を、リボイラー4の加熱部5の入口を基準として高低差が0.5m以上の下方の位置に設けている。これにより、酸素含有ガスをより高圧下で循環液に供給することができる。図面では、リボイラー4の加熱部5の入口と酸素含有ガスの供給口7の高さの差を矢印hで示している。このような位置に酸素含有ガスの供給口7を設けることにより、供給した酸素を速やかに循環液に溶け込ませたり、あるいはより多くの酸素を循環液に溶け込ませることが可能となる。この場合、酸素含有ガスの供給口7には、塔底液上面の気体圧力と、塔底液の液面からリボイラー4の加熱部5の入口における液頭圧差に加えて、酸素含有ガスの供給口7とリボイラー4の加熱部5の入口との液頭圧差が5kPa以上かかることとなるため、より高圧下で酸素含有ガスを供給することができる。また、酸素含有ガスを供給口7から循環液に供給してリボイラー4の加熱部5に至るまでの間に、供給した酸素が循環液に溶け込むための時間を十分確保することができる。このように酸素含有ガスを循環液に供給することにより、加熱部5において易重合性化合物の重合反応を抑えることができ、また供給した酸素が循環液に溶け込むことによって、加熱部5における重合防止効果の偏在も抑えることができる。
【0035】
気化分離塔1では、加圧下で易重合性化合物含有液の精製を行うことが好ましい。気化分離塔1の塔底部圧力、すなわち塔底液上面の気体圧力(絶対圧)は、気化分離塔内における易重合性化合物またはそれを含む組成物の重合反応の温度依存性や温度-蒸気圧相関性から適宜設定すればよく、100kPa以上が好ましく、105kPa以上がより好ましく、120kPa以上がさらに好ましい。このように塔底液上面の気体圧力を設定することで、循環液により多くの酸素含有ガスを溶け込ませやすくなる。塔底液上面の気体圧力の上限値は、気化分離塔内での気化分離に要する温度が高くなりすぎないようにして、気化分離塔内で易重合性化合物の重合を抑制する観点から、例えば250kPa以下が好ましく、200kPa以下がより好ましく、150kPa以下がさらに好ましい。
【0036】
供給口7を設ける位置は、より高圧下で酸素含有ガスを循環液に供給する観点から、リボイラー4の加熱部5の入口を基準として高低差が1.0m以上下方であることが好ましく、1.5m以上下方がより好ましい。当該値の上限は特に限定されないが、気化分離塔1やリボイラー4の現実的な設置態様を勘案すると、当該高低差は8.0m以内であることが好ましく、6.0m以内がより好ましく、4.0m以内がさらに好ましい。
【0037】
供給口7における循環液(抜出液)の圧力は、気化分離塔1の塔底液上面の気体圧力よりも30kPa以上高いことが好ましく、40kPa以上高いことがより好ましく、50kPa以上高いことがさらに好ましい。これにより、より効果的に、リボイラー4での易重合性化合物の重合を抑制することができる。供給口7における循環液の圧力と気化分離塔1の塔底液上面の気体圧力との差圧の上限は特に限定されないが、気化分離塔1やリボイラー4の現実的な設置態様を勘案すると、当該差圧は100kPa以下であることが好ましく、90kPa以下がより好ましく、80kPa以下がさらに好ましい。供給口7における循環液の圧力は、供給口7から供給される酸素含有ガスによる影響を受けない状態での圧力を意味し、例えば、供給口7から酸素含有ガスを供給しない状態で供給口7における循環液の圧力を測定することにより求めることができる。あるいは、供給口7から離れた位置で循環液の圧力を測定し、得られた圧力値を、循環路2の配管形状や循環液の流速等に基づき算出した供給口7から測定位置までの圧力損失で補正することにより、供給口7における循環液の圧力を求めてもよい。
【0038】
供給口7は、循環路2に1つのみ設けてもよく、複数設けてもよい。供給口7が複数設けられる場合は、少なくとも1つの供給口における循環液の圧力と塔底液上面の気体圧力との差圧が上記範囲にあることが好ましい。また、上記差圧となる位置に配置される供給口から供給される酸素含有ガス量が、全ての供給口から供給される酸素含有ガスの総量の50%以上となることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。特に好ましくは、全ての供給口における循環液の圧力と塔底液上面の気体圧力との差圧が上記範囲となる。
【0039】
循環路2における循環液流量は任意に設定してもよいが、循環路2でのレイノルズ数が高ければ循環液が乱流状態となり、酸素含有ガスの溶解速度が速くなるため、レイノルズ数が2300以上となることが好ましい。循環液のレイノルズ数は、より好ましくは5000以上であり、さらに好ましくは10000以上、さらにより好ましくは50000以上、特に好ましくは100000以上である。
【0040】
循環路内において所定の方向に抜出液を流す方式としては、サーモサイホンの原理を用いた自己循環方式や、送液ポンプ等による強制循環方式が挙げられる。後者の方式において、送液ポンプの下流側(吐出側)に供給口7を設ける場合は、送液ポンプの吐出圧によって、酸素含有ガスをより高圧下で循環液に供給することが可能となる。一方、送液ポンプの上流側(吸込側)に供給口7を設ける場合は、ポンプ内の撹拌によって酸素の溶解を促進することができる。なお、送液ポンプの吸込側で酸素含有ガスを過剰に供給すると、キャビテーションを起こして送液量が不安定にある場合があるため、この場合は、酸素含有ガスの供給量を適切に設定することが好ましい。供給口7は、送液ポンプの上流側と下流側の両方に設けてもよい。なお、送液ポンプの吸込側は気化分離塔1の塔底部に接続され、この送液ポンプによって塔底液が抜き出され、リボイラー4で加熱後、再び塔底部に戻されることとなる。
【0041】
循環路2の供給口7からリボイラー4の加熱部5の入口までの循環液(抜出液)の平均滞留時間は、2秒以上が好ましく、3秒以上がより好ましく、4秒以上がさらに好ましい。これにより、酸素含有ガスを循環液に供給してからリボイラー4の加熱部5に至るまでの間に、供給した酸素が循環液に十分に溶け込みやすくなる。当該平均滞留時間の上限は特に限定されないが、循環路2を過度に長く設置する必要は特にないことから、例えば60秒以下であればよく、30秒以下、あるいは15秒以下であってもよい。循環路の酸素含有ガスの供給口からリボイラーの加熱部の入口までの循環液の平均滞留時間は、循環路の酸素含有ガスの供給口からリボイラーの加熱部入口までの容積(m3)を、循環路を流れる循環液の流量(m3/秒)で除することに求めることができる。平均滞留時間は、供給口の位置を調整したり、循環路の径を変更することにより、適宜調整することができる。
【0042】
供給口7は、図1に示すように、循環路2が上方(例えば、鉛直上方や斜め上方)に延びる部分に設けられてもよく、図2に示すように、循環路2が水平方向に延びる水平部に設けられてもよい。あるいは、循環路2の屈曲部に供給口7が設けられてもよい。供給口7が複数設けられる場合は、循環路2の供給口7からリボイラー4の加熱部5の入口までの平均滞留時間は、総供給酸素量の50%以上となる供給口を基準にして設定される。
【0043】
循環路2には、供給口7からリボイラー4の加熱部5までの間に屈曲部が設けられていることが好ましい。循環路2に屈曲部が設けられることにより、循環液が屈曲部を通過した際に酸素含有ガスが循環液とよく混合され、循環液に酸素が溶け込みやすくなる。屈曲部は、例えば、水平方向の流れを鉛直方向の流れに変えるものであってもよく、水平方向の一方向への流れを水平方向の他方向の流れに変えるものであってもよい。図2では、供給口7からリボイラー4の加熱部5までの間に、水平方向の流れを鉛直方向の流れに変える屈曲部8が設けられている。
【0044】
屈曲部としては、いわゆるエルボ管やベンド管を用いることができる。屈曲部の曲げ角度としては、40°以上が好ましく、55°以上がより好ましく、70°以上がさらに好ましく、また125°以下が好ましく、110°以下がより好ましく、95°以下がさらに好ましい。屈曲部の曲げ角度は、屈曲部の上流側の管軸延在方向と下流側の管軸延在方向の角度差を意味し、直管部では曲げ角度は0°となる。
【0045】
酸素含有ガスと循環液との混合効率を高める観点から、リボイラー4の加熱部5の上流側の循環路2と加熱部5との接続部分に拡幅部6が設けられていることが好ましい。拡幅部6では循環液が流れる流路の断面積が上流側から下流側に向かって広がるように形成されているため、循環液が拡幅部6を通ることによって乱流が形成され、酸素含有ガスが循環液とよく混合され、循環液に酸素が溶け込みやすくなる。また、拡幅部6で循環液の線速度が遅くなることによって、供給口7から加熱部5の入口までの滞留時間を稼いで、循環液への酸素溶解量を高めることができるという効果も得られる。さらに、循環液に供給した酸素含有ガスの一部がガス状のまま拡幅部6を通過した場合でも、酸素含有ガスが拡幅部6で循環液と混合されることによって、加熱部5における酸素含有ガスの偏在を抑えることができる。なお、拡幅部は独立して設けられてもよく、拡幅部を有する熱交換器をリボイラーとして用いてもよい。
【0046】
拡幅部6では、循環液が流れる流路の断面積が1.2倍以上広がることが好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2倍以上がさらに好ましく、また50倍以下が好ましく、30倍以下がより好ましく、20倍以下がさらに好ましい。
【0047】
酸素含有ガスの供給口7は、図2に示すように、循環路2が略水平方向に延びる水平部に設けられていることが好ましい。例えば、供給口7を循環路2が鉛直方向に延びる部分に設けた場合には、酸素含有ガスが、その地点での循環液の流れ方向とは関係なく上昇する場合があり、その結果、循環液の流れが悪くなったり、酸素含有液ガスと循環液との接触時間が短くなるおそれがある。しかし、供給口7を循環路2の水平部に設けることにより、酸素含有ガスと循環液とが共存した状態で高圧下により長い時間おくことができ、循環液に酸素をより効率的に溶け込ませることが可能となる。この場合、水平部における循環液の平均滞留時間は0.5秒以上であることが好ましく、1秒以上がより好ましい。
【0048】
循環路2の水平部は、供給口7から加熱部5の入口までの間の供給口7を含まない部分に設けられてもよく、この場合も上記の水平部による効果が得られる。水平部は、供給口7から加熱部5の入口までの間に複数設けられてもよい。従って、供給口7から加熱部5の入口までの間の全ての水平部における循環液の平均滞留時間の合計が0.5秒以上であることが好ましく、1秒以上がより好ましい。
【0049】
循環路2は、供給口7からリボイラー4の加熱部5に至るまでの間で、上流側から下流側に向かって下方(斜め下方を含む)に延びる部分が存在しないことが好ましい。これにより、酸素含有ガスが循環液の流れに乗ってリボイラー4側に好適に移動しやすくなるとともに、循環路2の一部に酸素含有ガスが留まって循環液の流れを妨げることも起こりにくくなる。循環路2に水平部が設けられる場合は、水平部の下流側に屈曲部8を設け、当該屈曲部の下流側で循環路2が上方(例えば、鉛直上方や斜め上方)に延びるように構成されていることが好ましい。
【0050】
酸素含有ガスの循環液への供給量は、リボイラー4の加熱部5の入口での循環液の溶存酸素濃度に応じて適宜設定すればよい。リボイラー4の加熱部5の入口での循環液の溶存酸素濃度は、例えば5質量ppm以上であることが好ましい。
【0051】
酸素含有ガスを供給する供給口7としては、例えばノズルを用いることができる。ノズルとしては、例えば、口径0.1mm~10mmの穴が1つもしくは複数設けられたリング状、筒状、またはその他任意の形状をしたノズルを用いることができる。また、循環液に供給する酸素含有ガスの気泡表面積を増加させるために、焼結フィルターを用いてもよい。
【0052】
より速やかに酸素を循環液に溶け込ませるようにするために、酸素含有ガスをマイクロバブルとして循環液に供給してもよい。マイクロバブルは通常の気泡と比べて気泡径が小さいため、酸素含有ガスの供給量が同じ場合、マイクロバブルでは気泡の総表面積が大きくなり、より速やかに循環液に溶け込みやすくなる。
【0053】
マイクロバブルはいわゆるナノバブルを含むものであってもよく、発生時の気泡直径が0.1μm~100μmであるものが好ましく用いられる。マイクロバブル発生装置は公知の装置を用いればよい。マイクロバブルを発生させる方法としては、水流や機械撹拌により渦流やせん断流を発生させ気泡を細分化する気液二相流旋回方式(例えば、旋回流方式、スタティックミキサー方式、機械せん断(回転)方式)、加圧状態でガスを被処理液に溶解させた後に減圧することにより、被処理液に溶解したガスをマイクロバブルとして再気化させる加圧溶解方式、スロート部を有する管に気液流体を流し、スロート部を通過する際に圧縮・減圧されることによって気泡を細分化するベンチュリ-方式、液静圧を局所的に低くして液体の一部を気化させて蒸気泡を発生させ、その短時間で圧力を回復させて蒸気泡を細分化するキャビテーションノズル方式、ナノ多孔質部を有するフィルターに液中でガスを通過させて細分化するフィルター方式などが挙げられ、いずれの方式を採用してもよい。
【0054】
本発明では、気化分離工程に導入する易重合性化合物含有液として、それより前段の工程で得られた易重合性化合物含有液を用いることができる。例えば、易重合性化合物が(メタ)アクリル酸である場合は、捕集工程や凝縮工程等で得られた(メタ)アクリル酸含有液を用いることができる。以下、(メタ)アクリル酸製造プロセスを例にとって、気化分離塔に導入する(メタ)アクリル酸含有液を得る方法について説明する。
【0055】
易重合性化合物が(メタ)アクリル酸である場合、本発明の易重合性化合物の製造方法(この場合、(メタ)アクリル酸の製造方法となる)は、(メタ)アクリル酸製造原料を接触気相酸化反応して(メタ)アクリル酸含有ガスを得る工程と、前記(メタ)アクリル酸含有ガスを、捕集溶剤と接触させることにより、および/または、冷却して凝縮させることにより、(メタ)アクリル酸含有液を得る工程とを有することが好ましい。
【0056】
接触気相酸化反応に供する(メタ)アクリル酸製造原料としては、反応により(メタ)アクリル酸が生成するものであれば特に限定なく用いることができ、例えば、プロパン、プロピレン、(メタ)アクロレイン、イソブチレン等が挙げられる。アクリル酸は、例えば、プロパン、プロピレンまたはアクロレインを1段で酸化させたり、プロパンやプロピレンをアクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。アクロレインは、プロパンやプロピレンを原料として、これを酸化させることにより得られるものに限定されず、例えば、グリセリンを原料として、これを脱水させることにより得られるものであってもよい。メタクリル酸は、例えば、イソブチレンやメタクロレインを1段で酸化させたり、イソブチレンをメタクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。
【0057】
接触気相酸化に用いられる触媒としては従来公知の触媒を用いることができる。例えば、プロピレンをアクリル酸製造原料として用いる場合、触媒としては、モリブデンとビスマスを含む複合酸化物触媒(モリブデン-ビスマス系触媒)を用いることが好ましい。プロパンやアクロレインをアクリル酸製造原料として用いる場合、触媒としては、モリブデンとバナジウムを含む複合酸化物触媒(モリブデン-バナジウム系触媒)を用いることが好ましい。
【0058】
接触気相酸化反応を行う反応器としては、固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器等を使用することができる。なかでも、反応効率に優れる点で多管式固定床反応器を用いることが好ましい。(メタ)アクリル酸製造原料を2段で酸化反応させて(メタ)アクリル酸を生成する場合は、1段目の酸化反応を行う反応器と2段目の酸化反応を行う反応器を組み合わせたり、1つの反応器内を1段目の酸化反応を行う領域と2段目の酸化反応を行う領域とに分けることにより、(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸を生成してもよい。後者の場合、例えば固定床反応器では、固定床反応器の反応管の入口側((メタ)アクリル酸製造原料の導入側)に1段目の酸化反応を行うための触媒を充填し、出口側に2段目の酸化反応を行う触媒を充填すればよい。
【0059】
(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸含有ガスを生成する反応は、公知の反応条件で行えばよい。例えば、プロピレンを2段で酸化反応させてアクリル酸を生成する場合、プロピレン含有ガスを分子状酸素とともに反応器に導入して、例えば、反応温度250℃~450℃、反応圧力0MPaG~0.5MPaG、空間速度300h-1~5000h-1の条件で1段目の酸化反応を行い、次いで、反応温度250℃~380℃、反応圧力0MPaG~0.5MPaG、空間速度300h-1~5000h-1の条件で2段目の酸化反応を行えばよい。
【0060】
(メタ)アクリル酸製造原料を接触気相酸化反応させることにより得られた(メタ)アクリル酸含有ガスは、捕集溶剤と接触させることにより、および/または、冷却して凝縮させることにより、(メタ)アクリル酸含有液が得られる。前者の場合、(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入して捕集溶剤と接触させることにより、捕集溶剤に(メタ)アクリル酸が吸収されて(メタ)アクリル酸含有液が得られる(捕集工程)。後者の場合は、(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮塔に導入し、冷却することにより、(メタ)アクリル酸が凝縮して(メタ)アクリル酸含有液が得られる(凝縮工程)。
【0061】
捕集塔としては、捕集塔内で(メタ)アクリル酸含有ガスと捕集溶剤とを接触させることができるものであれば特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集塔の下部から捕集塔内に導入するとともに、捕集溶剤を捕集塔の上部から捕集塔内に導入することにより、(メタ)アクリル酸含有ガスが捕集塔内を上昇する間に捕集溶剤と向流接触して、(メタ)アクリル酸が捕集溶剤に吸収され、(メタ)アクリル酸含有液として回収される。捕集塔としては、例えば、塔内に棚板(シーブトレイ)が設けられた棚段塔、塔内に充填物が充填された充填塔、塔内壁表面に捕集溶剤が供給される濡れ壁塔、塔内空間に捕集溶剤がスプレーされるスプレー塔等を採用することができる。
【0062】
捕集溶剤としては、(メタ)アクリル酸を吸収し、溶解できるものであれば、特に限定されないが、例えば、ジフェニルエーテル、ジフェニル、ジフェニルエーテルとジフェニルとの混合物、水、(メタ)アクリル酸含有水(例えば、(メタ)アクリル酸製造プロセス内で生成する(メタ)アクリル酸を含む水溶液)等を使用することができる。なかでも、捕集溶剤としては、水または(メタ)アクリル酸含有水を用いることが好ましく、水を50質量%以上(より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上)含有する(メタ)アクリル酸含有水または水を用いることがより好ましい。
【0063】
捕集溶剤の温度や供給量は、(メタ)アクリル酸含有ガス中に含まれる(メタ)アクリル酸が捕集溶剤に十分吸収されるように、適宜設定すればよい。捕集溶剤の温度は、(メタ)アクリル酸の捕集効率を高める点から、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、また35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。捕集溶剤の供給量は、(メタ)アクリル酸含有ガスの捕集塔への供給量(G)に対する捕集溶剤の捕集塔への供給量(L)の比で示される液ガス比(L/G)が、2L/m3以上であることが好ましく、3L/m3以上がより好ましく、5L/m3以上がさらに好ましく、また15L/m3以下が好ましく、12L/m3以下がより好ましく、10L/m3以下がさらに好ましい。
【0064】
捕集溶剤に吸収された(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリル酸含有液として捕集塔から抜き出される。(メタ)アクリル酸含有液は、例えば、捕集塔の(メタ)アクリル酸含有ガスの供給位置より下方の位置(例えば、捕集塔の底部)から抜き出せばよい。
【0065】
捕集塔は、捕集塔から排出された(メタ)アクリル酸含有液の一部を、捕集塔の(メタ)アクリル酸含有ガスの供給位置および(メタ)アクリル酸含有液の排出位置より上方かつ捕集溶剤の供給位置より下方の位置に返送する循環路を有していることが好ましい。循環路を通して、捕集塔から抜き出された(メタ)アクリル酸含有液の一部を捕集塔に戻して循環させることにより、(メタ)アクリル酸含有液の(メタ)アクリル酸濃度を高めることができる。循環路には、循環路を通る(メタ)アクリル酸含有液を冷却するための熱交換器が設けられることが好ましい。
【0066】
一方、(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮させることにより(メタ)アクリル酸含有液を得る場合は凝縮塔を用いることが好ましく、凝縮塔としては、例えば、伝熱面を備えた熱交換器を用いることができる。伝熱面を介して(メタ)アクリル酸含有ガスを冷却することにより、(メタ)アクリル酸含有ガスから(メタ)アクリル酸を凝縮させることができ、その結果、(メタ)アクリル酸含有液が得られる。熱交換器としては従来公知の熱交換器を用いればよく、例えば、プレート式熱交換器、多管式(シェル・アンド・チューブ式)熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、スパイラル式熱交換器等を採用することができる。熱交換器は、複数を直列に繋げることにより、多段で(メタ)アクリル酸含有ガスを冷却して、分別凝縮することにより(メタ)アクリル酸含有液を回収してもよい。
【0067】
凝縮塔としては、(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮液と接触させて、(メタ)アクリル酸含有ガスから(メタ)アクリル酸含有液を得るものでもよい。この場合、凝縮塔内に棚板(シーブトレイ)を設けたり、凝縮塔内に充填物を充填して、(メタ)アクリル酸含有ガスと凝縮液との接触効率を高めるようにすることが好ましい。このような凝縮塔を用いることで、(メタ)アクリル酸含有ガスは、例えば、凝縮塔の下部から凝縮塔内に導入されて凝縮塔内を下部から上部に移動する間に分別凝縮される。このとき、例えば(メタ)アクリル酸含有液は凝縮塔の中段から抜き出され、(メタ)アクリル酸より高沸点の物質は凝縮塔の下段から抜き出され、(メタ)アクリル酸より低沸点の物質は凝縮塔の上段から抜き出される。凝縮塔からは、各段において凝縮液の一部を抜き出して熱交換器等で冷却した後、凝縮塔の同じ段に戻してもよい。なお、凝縮塔に返送される凝縮液には、一般に、凝縮塔で発生した凝縮液以外の液媒体は加えられない。
【0068】
(メタ)アクリル酸含有ガスから(メタ)アクリル酸含有液を得る際、捕集塔や凝縮塔では、(メタ)アクリル酸の重合を抑制するために重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤としては、上記に説明した重合防止剤を用いることができる。
【0069】
本発明では、このようにして得られた(メタ)アクリル酸含有液を上記に説明した気化分離工程に供することができる。この場合、より高純度の精製(メタ)アクリル酸を得ることが容易になる点から、気化分離塔として蒸留塔を採用することができ、この場合、当該蒸留塔は軽沸分離塔として機能するものが好ましい。軽沸分離塔は、塔底部に抜出液循環路を備えたものとなる。
【0070】
軽沸分離塔では、(メタ)アクリル酸含有液から低沸点留分の少なくとも一部を除去することにより、精製(メタ)アクリル酸が得られる。低沸点留分は精製(メタ)アクリル酸よりも低沸点側の留分、すなわち軽沸分離塔において精製(メタ)アクリル酸よりも塔頂側から抜き出される留分を意味する。低沸点留分には、水や酢酸などの(メタ)アクリル酸よりも沸点の低い化合物が含まれる。
【0071】
軽沸分離塔では、(メタ)アクリル酸含有液は、軽沸分離塔の塔中部より軽沸分離塔内に導入することが好ましい。(メタ)アクリル酸含有液は、例えば、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の5%以上75%以下の範囲の位置から導入することが好ましく、当該範囲は10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、また70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましい。
【0072】
軽沸分離塔では、低沸点留分を(メタ)アクリル酸含有液の供給位置よりも塔頂側(好ましくは塔頂部)から抜き出す。低沸点留分は、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の0%以上5%未満の範囲の位置から抜き出すことが好ましい。軽沸分離塔から留出した低沸点留分は、前段の捕集塔や凝縮塔に返送することが好ましい。捕集塔に返送する際には、特に限定されるものではないが、例えば、捕集塔の塔底を基点(0%)とし塔頂を終点(100%)としたときの捕集塔の全長において、20%以上90%以下の範囲に返送することが好ましく、30%以上80%以下の範囲に返送することがさらに好ましい。
【0073】
一方、精製(メタ)アクリル酸は、軽沸分離塔の塔中部および/または塔底部の抜き出し口から抜き出す。精製(メタ)アクリル酸の抜き出し口は、(メタ)アクリル酸含有液の供給位置よりも塔底側にあることが好ましく、例えば、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の20%以上100%以下の範囲に設けられることが好ましく、当該範囲は25%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましい。なお、精製(メタ)アクリル酸の抜き出し口は塔中部に設けることが好ましく、この場合、塔底部から高沸点成分が多く含まれた塔底液が抜き出されるため、塔中部から抜き出した精製(メタ)アクリル酸中の(メタ)アクリル酸濃度を高めやすくなる。この場合、精製(メタ)アクリル酸の抜き出し口は、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の90%以下の範囲に設けることが好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
【0074】
軽沸分離塔では、捕集溶剤や酢酸等を含む低沸点留分と(メタ)アクリル酸とを分離することができる条件で蒸留すればよく、そのような蒸留が可能となるように軽沸分離塔内の温度や圧力を適宜調整することが好ましい。例えば、塔頂圧力(絶対圧)は2kPa以上が好ましく、3kPa以上がより好ましく、また50kPa以下が好ましく、40kPa以下がより好ましく、30kPa以下がさらに好ましい。塔頂温度は、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、また70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。塔底温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、また120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。このような条件で蒸留を行うことにより、捕集溶剤や酢酸濃度が低減された精製(メタ)アクリル酸(例えば、水濃度と酢酸濃度がともに1質量%以下)を得ることが容易になる。
【0075】
(メタ)アクリル酸含有液の蒸留では、共沸溶媒を使用しても使用しなくてもよい。なお、(メタ)アクリル酸含有液の(メタ)アクリル酸濃度が80質量%以上となるような場合は、共沸溶媒を使用しなくても低沸点留分を分離することが容易になるため、共沸溶媒を使用しないことが好ましい。
【0076】
軽沸分離塔から得られる精製(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリル酸濃度は、(メタ)アクリル酸含有液よりも高ければ特に限定されないが、例えば80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上が特に好ましい。精製(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリル酸濃度の上限は特に限定されないが、通常99.5質量%未満である。
【0077】
本発明の製造方法では、軽沸分離塔から得られた塔底液を上記に説明した気化分離工程に供してもよい。この場合、気化分離塔としては、高沸分離塔として機能する蒸留塔を採用することが好ましい。軽沸分離塔の塔底液には(メタ)アクリル酸が相当濃度含まれるとともに、ミカエル付加物やマレイン酸などの(メタ)アクリル酸よりも高沸点の成分が多く含まれることから、軽沸分離塔の塔底液を高沸分離塔に導入して蒸留することにより、高沸点成分の低減された(メタ)アクリル酸含有留出液を得ることができる。この場合、軽沸分離塔の塔底液が(メタ)アクリル酸含有液となり、(メタ)アクリル酸含有留出液が精製(メタ)アクリル酸となる。(メタ)アクリル酸含有留出液は軽沸分離塔に返送することが好ましく、これによりプロセス全体としての(メタ)アクリル酸収率を高めることができる。
【0078】
高沸分離塔の塔底部には、ミカエル付加物等の高沸点成分が濃縮された塔底液が生成する。この塔底液は、高沸分離塔の塔底部から抜き出して、(メタ)アクリル酸二量体分解装置に導入することが好ましい。高沸分離塔の塔底液に含まれるミカエル付加物は、熱分解することにより(メタ)アクリル酸に戻すことができることから、当該塔底液を(メタ)アクリル酸二量体分解装置に導入して熱分解し、得られた分解液を再び高沸分離塔に戻すことが好ましい。
【0079】
(メタ)アクリル酸二量体分解装置は熱分解槽から構成され、高沸分離塔の塔底液を熱分解槽で120℃以上220℃以下(好ましくは140℃以上200℃以下)の温度で加熱することにより、塔底液に含まれるミカエル付加物を分解することができる。ミカエル付加物の分解を促進するために、熱分解槽には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、特開2003-89672号公報に記載のN-オキシル化合物などの分解触媒を添加することが好ましい。特に軽沸分離塔やそれより前段の捕集塔や凝縮塔で重合防止剤としてN-オキシル化合物を用いる場合には、ミカエル付加物の分解触媒としても作用することができるので好ましい。
【0080】
高沸分離塔では、高沸点成分が濃縮された塔底液の少なくとも一部を抜き出して、抜出液循環路に設けられたリボイラーで加熱して高沸分離塔に返送することができる。塔底液に含まれるミカエル付加物を(メタ)アクリル酸二量体分解装置で分解する場合は、その分解液をリボイラーを介して高沸分離塔に返送してもよく、リボイラーで加熱した塔底液の抜出液を(メタ)アクリル酸二量体分解装置(熱分解槽)に導入してもよい。
【0081】
気化分離工程で得られた精製された易重合性化合物は、さらに別の精製工程に供してもよく、あるいはさらに精製することなく製品として取り扱ったり、他の化合物の製造原料として用いてもよい。前者の場合、易重合性化合物の重合を抑えながらより高純度の易重合性化合物を得ることが容易な点から、精製工程に晶析を採用することが好ましい。
【0082】
晶析は回分式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。晶析操作で用いる晶析器としては、例えば、伝熱面を有し、伝熱面での熱交換によって易重合性化合物を結晶化および/または融解できる晶析器を用いることができる。伝熱面の一方側に冷熱媒を供給し他方側に気化分離工程で得られた精製易重合性化合物を供給することにより、伝熱面を介した熱交換によって精製易重合性化合物を含む液が冷却されて、易重合性化合物が結晶化する。回分式晶析操作では、結晶化した易重合性化合物は、伝熱面の一方側に温熱媒を供給し、伝熱面を介した熱交換によって加温されて、易重合性化合物を含む融解液が得られる。易重合性化合物の融解は、結晶化で用いたのと同一の伝熱面を加温することにより行ってもよいし、結晶化した易重合性化合物を回収して、結晶化で使用したのとは別の伝熱面を介して、回収した易重合性化合物の結晶を加温してもよい。
【0083】
回分式晶析操作では、気化分離工程で得られた精製易重合性化合物を冷却することにより易重合性化合物を結晶化させ、結晶化した易重合性化合物を融解することにより易重合性化合物を含む融解液が得られる。この際、得られる易重合性化合物の融解液の純度を上げることを目的に、易重合性化合物の結晶をまず部分的に融解(発汗)し、結晶間や結晶表面に存在する不純物を洗い流し、その後残りの易重合性化合物の結晶を融解して、易重合性化合物の融解液を得ることが好ましい。易重合性化合物を結晶化させた際の未結晶残渣と、易重合性化合物の結晶を部分的に融解して得られた発汗液は、晶析残渣として晶析器から排出することが好ましい。回分式晶析操作で用いる晶析装置としては、例えば、Sulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置等を使用することができる。
【0084】
連続式晶析操作は、例えば、気化分離工程で得られた精製易重合性化合物を晶析器へ連続的に供給し冷却して易重合性化合物を結晶化し、易重合性化合物の結晶と母液からなるスラリーを晶析器から連続的に排出し、さらに、洗浄カラムに当該スラリーを供給し、易重合性化合物の結晶を洗浄しつつ母液から連続的に分離することなどにより行うことができる。連続式晶析操作で用いる晶析装置としては、例えば、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体になった晶析装置(例えば、BMC(Backmixing Column Crystallizer)型晶析器)や、結晶化部(例えば、GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)晶析装置やGEA社製のDC(Drum Crystallizer)晶析装置)、固液分離部(例えば、ベルトフィルター、遠心分離器)および結晶精製部(例えば、クレハエンジニアリング社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置やGEA社製のWC(Wash Column)精製装置)を組み合わせた晶析装置等を使用することができる。
【0085】
晶析工程で発生した晶析残渣は、前段の気化分離工程、特に軽沸分離塔に返送することが好ましい。一方、晶析工程で得られた高純度の易重合性化合物は、さらに任意の精製手段により精製してもよいが、さらなる精製は行わずに、製品として取り扱ったり、他の化合物の製造原料として用いることが好ましい。
【実施例
【0086】
以下、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
蒸留塔に、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルを含むアクリル酸メチル含有液(粗製アクリル酸メチル)を供給し、蒸留精製を行った。蒸留塔には塔底液の循環路が設けられ、当該循環路には、竪型多管式熱交換器を有するリボイラーが設けられていた。蒸留塔の塔底液の一部を抜き出してリボイラーで加熱して、蒸留塔に戻すことにより、塔底液を加熱した。蒸留塔は、塔底部圧力が120kPa、リボイラー加熱部入口圧力が140kPa、塔底部温度が75℃~85℃の条件で運転され、塔底液は、アクリル酸メチル90%以上、ハイドロキノン500ppm、ハイドロキノンモノメチルエーテル30ppmの組成を有していた。循環路にはリボイラーの上流側に酸素ノズルが設置され、6Nm3/h(ガス体積/循環液容積=4%)で循環路内を流れる循環液に空気を投入した。酸素ノズルの供給口は、熱交換器(加熱部)入口より2300mm下方に設置され、循環路の当該供給口での循環液の圧力は160kPa、循環路の供給口からリボイラー加熱部の入口までの循環液の平均滞留時間は5秒であった。約1年の稼働の後、運転を停止し、蒸留塔および熱交換器の内部点検を行ったが重合物などは見られなかった。
【0088】
(実施例2)
蒸留塔に、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルを含むアクリル酸メチル含有液(粗製アクリル酸メチル)を供給し、蒸留精製を行った。蒸留塔には塔底液の循環路が設けられ、当該循環路には、竪型多管式熱交換器を有するリボイラーが設けられていた。蒸留塔の塔底液の一部を抜き出してリボイラーで加熱して、蒸留塔に戻すことにより、塔底液を加熱した。蒸留塔は、塔底部圧力が140kPa、リボイラー加熱部入口圧力が170kPa、塔底部温度が75℃~85℃の条件で運転され、塔底液は、アクリル酸メチル90%以上、ハイドロキノン500ppm、ハイドロキノンモノメチルエーテル30ppmの組成を有していた。循環路にはリボイラーの上流側に酸素ノズルが設置され、6Nm3/h(ガス体積/循環液容積=4%)で循環路内を流れる循環液に空気を投入した。酸素ノズルの供給口は、熱交換器(加熱部)入口より1000mm下方に設置され、循環路の当該供給口での循環液の圧力は170kPa、循環路の供給口からリボイラー加熱部の入口までの循環液の平均滞留時間は3秒であった。約1年の稼働の後、運転を停止し、蒸留塔および熱交換器の内部点検を行ったが重合物などは見られなかった。
【0089】
(比較例1)
実施例1において、酸素ノズルの供給口の設置位置を、熱交換器入口より200mm下方に設置し、当該供給口での循環液の圧力が140kPaとなる条件で運転を実施した。約1年の稼働の後、運転を停止し、蒸留塔および熱交換器の内部点検を行ったが、熱交換器の熱交換器チューブの総本数の5%以上が重合物によって閉塞していた。
【符号の説明】
【0090】
1: 気化分離塔
2: 循環路
3: 塔底液
4: リボイラー
5: 加熱部
6: 拡幅部
7: (酸素含有ガスの)供給口
8: 屈曲部
図1
図2