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特許7591389ファンモータの駆動回路ならびにそれを用いた冷却装置および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ファンモータの駆動回路ならびにそれを用いた冷却装置および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20241121BHJP
   H02P 6/15 20160101ALI20241121BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
H02P6/20
H02P6/15
H02P6/16
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020200587
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022088253
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 光穂
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 翼
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082756(JP,A)
【文献】特開2015-035852(JP,A)
【文献】特開2011-120421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ付きファンモータの駆動回路であって、
前記ファンモータのロータの位置を示すホール信号にもとづいて、前記ファンモータと接続されるブリッジ回路を制御するコントロールロジック回路を備え、
前記コントロールロジック回路は、
前記ブリッジ回路の出力をハイインピーダンス状態とする第1状態と、
前記ブリッジ回路の各相の出力を、所定の状態に固定する第2状態と、
前記ブリッジ回路の各相の出力の状態を、所定時間ごとに所定の順序で切りかえる第3状態と、
前記ブリッジ回路の各相の出力の状態を、前記ホール信号と同期して所定の順序で切りかえる第4状態と、
前記ブリッジ回路の出力をハイインピーダンス状態とする第5状態と、
が切りかえ可能であり、
前記コントロールロジック回路は、
前記駆動回路に回転開始の指示が与えられたときに、(a)前記ファンモータが実質的に停止している場合、前記第1状態、前記第2状態、前記第3状態、前記第4状態の順で遷移し、(b)前記ファンモータが所定回転数より低い速度で回転している場合、前記第1状態、前記第5状態、前記第2状態、前記第3状態、前記第4状態の順で遷移し、(c)前記ファンモータが前記所定回転数より高い速度で回転している場合、前記第1状態、前記第5状態、前記第4状態の順で遷移し、
前記コントロールロジック回路は、(i-1)前記第1状態において、前記ファンモータの回転数が所定の第1しきい値より低いとき、前記第2状態に遷移し、(i-2)前記ファンモータの回転数が前記第1しきい値より高いとき、前記第5状態に遷移することを特徴とする駆動回路。
【請求項2】
前記コントロールロジック回路は、(ii-1)前記第5状態において、前記ファンモータの回転数が、前記第1しきい値より高く定められた第2しきい値より高い場合に、前記第4状態に遷移し、(ii-2)そうでない場合に、前記第2状態に遷移することを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記コントロールロジック回路は、(iii-1)前記第2状態において、前記ファンモータの前記ロータが所定の初期位置で静止した場合に、前記第3状態に遷移することを特徴とする請求項1または2に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記コントロールロジック回路は、(iv-1)前記第3状態において、前記ファンモータの始動に成功した場合に、前記第4状態に遷移することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の駆動回路。
【請求項5】
前記コントロールロジック回路は、前記第1状態から前記第5状態に加えて、前記ブリッジ回路の各相の出力を同一レベルに固定する第6状態を切りかえ可能であり、
前記コントロールロジック回路は、(iii-2)前記第2状態おいて、前記ファンモータの前記ロータが前記初期位置で静止しない場合に、前記第6状態に遷移することを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項6】
前記コントロールロジック回路は、(iv-2)前記第3状態において、前記ファンモータの始動に失敗した場合に、前記第6状態に遷移することを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項7】
前記第2しきい値は、外部から設定可能に構成されることを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項8】
前記第2しきい値を指示する設定信号を受ける設定ピンをさらに備えることを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項9】
前記コントロールロジック回路は、(i-1)前記第1状態において、所定の第1時間以内に、前記ホール信号の変化を検出しない場合、前記第2状態に遷移し、(i-2)前記第1時間以内に、前記ホール信号の変化を検出した場合、前記第5状態に遷移することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の駆動回路。
【請求項10】
前記コントロールロジック回路は、(ii-1)前記第5状態において、前記ホール信号の周期が、所定の第2時間より短い場合に、前記第4状態に遷移し、(ii-2)そうでない場合に、前記第2状態に遷移することを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項11】
前記コントロールロジック回路は、(iii-1)前記第2状態において、前記ホール信号が、期待状態を第3時間、維持した場合、前記第3状態に遷移することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の駆動回路。
【請求項12】
前記コントロールロジック回路は、(iv-1)前記第3状態において、前記ホール信号が所定条件を満たした場合、前記第4状態に遷移することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の駆動回路。
【請求項13】
前記所定条件は、前記ブリッジ回路の出力の状態が所定回数、切り替わったことである第1条件を含むことを特徴とする請求項12に記載の駆動回路。
【請求項14】
前記ファンモータの逆起電力にもとづく逆起電力検出信号を生成する逆起電力検出回路をさらに備え、
前記所定条件は、前記ホール信号と前記逆起電力検出信号の位相差が、所定値以下となったことである第2条件を含むことを特徴とする請求項13に記載の駆動回路。
【請求項15】
前記コントロールロジック回路は、前記第1状態から前記第5状態に加えて、前記ブリッジ回路の各相の出力を同一レベルに固定する第6状態を切りかえ可能であり、(iii-2)前記第2状態において、前記ホール信号が、非期待状態を第4時間、維持した場合、または前記ホール信号が所定回数、切り替わった場合、前記第6状態に遷移することを特徴とする請求項9から14のいずれかに記載の駆動回路。
【請求項16】
前記ブリッジ回路をさらに備えることを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の駆動回路。
【請求項17】
ひとつの半導体基板に一体集積化されることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の駆動回路。
【請求項18】
センサ付きのファンモータと、
前記ファンモータを駆動する請求項1から17のいずれかに記載の駆動回路と、
を備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項19】
プロセッサと、
前記プロセッサを冷却するファンモータと、
前記ファンモータを駆動する請求項1から17のいずれかに記載の駆動回路と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ファンモータ駆動技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ラップトップコンピュータやデスクトップコンピュータ、ワークステーションなどの情報処理装置、ゲーム機器などのエンタテイメント機器、プロジェクタや監視カメラ、電子レンジや冷蔵庫などの家電製品、自動車などに、温度コントロールのためのファンモータが搭載される。ファンモータは、CPU(Central Processing Unit)などの熱源に直接、風を吹き付けるために利用され、あるいは筐体の外部から内部へとフレッシュな空気を吸気し、あるいは暖まった空気を排気するために利用される。
【0003】
ファンモータはブラシレスモータが主流である。ファンモータは、大きく、ホール素子などのセンサを有するセンサ付きモータと、センサを有しないセンサレスモータに分けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-35852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ファンモータの起動について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。ファンモータは、その起動開始時に停止しているとは限らず、空転していたり、逆転している可能性もある。そこでファンモータの起動に際しては、モータの状態を判定し、判定した状態に応じた起動シーケンスで起動させる必要がある。このため、従来のファンモータは、起動に長い時間を要する場合があった。
【0006】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の目的のひとつは、起動時間を短縮したファンモータの駆動回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示では、ファンモータの駆動回路あるいは駆動方法が提供される。ファンモータのロータの位置を示すホール信号が生成される。そして、回転開始の指示が発生したときに、(a)ファンモータが実質的に停止している場合、ファンモータと接続されるブリッジ回路の出力をハイインピーダンス状態とする第1状態と、ブリッジ回路の各相の出力を、所定の状態に固定する第2状態と、ブリッジ回路の各相の出力の状態を、所定時間ごとに所定の順序で切りかえる第3状態と、ブリッジ回路の各相の出力の状態を、ホール信号と同期して所定の順序で切りかえる第4状態と、を順に遷移して、ファンモータを起動する。また、(b)ファンモータが所定回転数より低い速度で回転している場合、第1状態、ブリッジ回路の出力をハイインピーダンス状態とする第5状態、第2状態、第3状態、第4状態の順で遷移してファンモータを起動する。また(c)ファンモータが所定回転数より高い速度で回転しているとき、第1状態、第5状態、第4状態の順で遷移して、ファンモータを起動する。
【0008】
本開示において、センサ付きファンモータとは、センサがファンモータに取り付けられ、埋め込まれている場合の他、ファンモータの近傍に配置されるものや、センサが駆動回路に内蔵されるものも含みうる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示のある態様によれば、ファンモータの起動時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るファンモータの駆動回路の回路図である。
図2図2(a)~(c)は、インバータ回路の状態を示す図である。
図3】120°通電方式における第4状態で生成される制御信号を示す図である。
図4】180°通電方式における第4状態で生成される制御信号を示す図である。
図5】コントロールロジック回路の状態遷移図である。
図6】起動開始時に、ファンモータの回転が停止していたときのタイムチャートである。
図7】起動開始時に、ファンモータが回転数より遅い速度で空転していたときのタイムチャートである。
図8】起動開始時に、ファンモータが回転数より速い速度で空転していたときのタイムチャートである。
図9】変形例1に係る駆動回路の回路図である。
図10】変形例2に係る駆動回路の回路図である。
図11】冷却装置を備えるコンピュータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0013】
一実施形態に係る駆動回路は、センサ付きファンモータを駆動する。駆動回路は、ファンモータのロータの位置を示すホール信号にもとづいて、ファンモータと接続されるブリッジ回路を制御するコントロールロジック回路を備える。コントロールロジック回路は、ブリッジ回路の出力をハイインピーダンス状態とする第1状態と、ブリッジ回路の各相の出力を、所定の状態に固定する第2状態と、ブリッジ回路の各相の出力の状態を、所定時間ごとに所定の順序で切りかえる第3状態と、ブリッジ回路の各相の出力の状態を、ホール信号と同期して所定の順序で切りかえる第4状態と、ブリッジ回路の出力をハイインピーダンス状態とする第5状態と、が切りかえ可能であり、コントロールロジック回路は、駆動回路に回転開始の指示が与えられたときに、(a)ファンモータが実質的に停止している場合、第1状態、第2状態、第3状態、第4状態の順で遷移し、(b)ファンモータが所定回転数より低い速度で回転している場合、第1状態、第5状態、第2状態、第3状態、第4状態の順で遷移し、(c)ファンモータが所定回転数より高い速度で回転している場合、第1状態、第5状態、第4状態の順で遷移する。
【0014】
この構成によると、起動時にモータがゆっくりと順方向に空転しており、第1状態、第5状態と順に遷移した場合に、第2状態、第3状態を経て、ホール信号にもとづく通常の駆動期間である第4状態に移行する。これにより、ゆっくりと順方向に空転していた場合に、ファンモータを一旦、停止させた後に、第1状態に戻る制御に比べて、起動時間を短縮できる。
【0015】
コントロールロジック回路は、(i-1)第1状態において、所定の第1時間以内に、ホール信号の変化を検出しない場合、第2状態に遷移し、(i-2)第1時間以内にホール信号の変化を検出した場合、第5状態に遷移してもよい。
【0016】
コントロールロジック回路は、(ii-1)第5状態において、ホール信号の変化の時間間隔が、所定の第2時間より短い場合に、第4状態に遷移し、(ii-2)そうでない場合に、第2状態に遷移してもよい。
【0017】
コントロールロジック回路は、(iii-1)第2状態において、ホール信号が、期待状態を第3時間、維持した場合、第3状態に遷移してもよい。
【0018】
コントロールロジック回路は、(iv-1)第3状態において、ホール信号が所定条件を満たした場合、第4状態に遷移してもよい。
【0019】
所定条件は、ブリッジ回路の出力の状態が所定回数、切り替わったことである第1条件を含んでもよい。
【0020】
駆動回路は、ファンモータの逆起電力にもとづく逆起電力検出信号を生成する逆起電力検出回路をさらに備えてもよい。所定条件は、ホール信号と逆起電力検出信号の位相差が、所定値以下となったことである第2条件を含んでもよい。
【0021】
第2時間は、外部から設定可能に構成されてもよい。第2時間を最適化することにより、同じ駆動回路を、特性の異なるさまざまなファンモータに対応させることが可能となる。
【0022】
駆動回路は、第2時間を指示する設定電圧を受ける設定ピンをさらに備えてもよい。
【0023】
コントロールロジック回路は、第1状態から第5状態に加えて、ブリッジ回路の各相の出力を同一レベルに固定する第6状態を切りかえ可能であり、コントロールロジック回路は、(iii-2)第2状態おいて、ホール信号が、非期待状態を第4時間、維持した場合、またはホール信号が所定回数、切り替わった場合、第6状態に遷移してもよい。
【0024】
駆動回路は、ブリッジ回路をさらに備えてもよい。
【0025】
駆動回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0026】
(実施形態)
以下、好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0028】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
図1は、実施の形態に係るファンモータの駆動回路200の回路図である。駆動回路200は、ファンモータ102を駆動する。ファンモータ102は、三相ブラシレスDCモータであり、1個のホール素子104が取り付けられた1ホールセンサ付きモータである。ホール素子104には、駆動回路200あるいは別の電源回路によって生成されるホールバイアス電圧VHBが供給される。ホール素子104は、ファンモータ102のロータの位置を示す一対のホール電圧VH+,VH-を出力する。
【0030】
駆動回路200は、ファンモータ102のU相、V相、W相のコイルと接続されるU相出力OUTU、V相出力OUTV、W相出力OUTWを有する。また駆動回路200は、ホール電圧VH+,VH-を受けるホール入力端子HIN+,HIN-を有する。各相の出力OUT#(#=U,V,W)は、ハイ(H)、ロー(L)またはハイインピーダンス状態(HiZ)を取り得る。ハイHは、固定的なハイのみでなく、PWM変調された状態も含みうる。
【0031】
駆動回路200は、コントロールロジック回路210、プリドライバ220、インバータ回路230、ホールコンパレータ240、逆起電力検出回路250を備え、ひとつの半導体基板上に一体集積化される。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
【0032】
駆動回路200の電源(VDD)端子には、図示しない外部電源からの電源電圧VDDが供給される。
【0033】
ホールコンパレータ240は、ホール電圧VH+とVH-を比較し、大小関係を示すホール信号SHALLを生成する。ホール信号SHALLは、ホール電圧VH+、VH-が交差するたびに遷移する。
【0034】
逆起電力検出回路250は、U相出力、V相出力、W相出力に発生する電圧V~Vにもとづいて、逆起電力検出信号(BEMF信号)を生成する。たとえば、逆起電力検出回路250は、電圧V~Vの中点電圧VCOMを、少なくともひとつの出力電圧(V,V,V)と比較することにより、BEMF信号を生成してもよい。中点電圧VCOMは3相電圧V,V,Vをスター結線された抵抗網により生成してもよい。なお、逆起電力を検出する際には、検出用の窓が開けられ、この窓の期間、インバータ回路230の出力がハイインピーダンスとされる。
【0035】
コントロールロジック回路210は、ホール信号SHALLとBEMF信号にもとづいて、インバータ回路230の状態を制御する制御信号SCNTを生成する。たとえばコントロールロジック回路210は、120°通電方式あるいは180°通電方式(もしくは150°通電方式)によって、制御信号SCNTを生成することができる。コントロールロジック回路210は、ファンモータ102の目標回転数、あるいはファンモータ102による冷却対象の温度に応じて、ファンモータ102のPWM制御のデューティサイクルをスケーリングしてもよい。
【0036】
プリドライバ220は、コントロールロジック回路210が生成した制御信号SCNTにもとづいて、インバータ回路230を駆動する。インバータ回路230は、三相インバータであり、U相レグ、V相レグ、W相レグを含む。U相レグは上アームUH,下アームULを含み、V相レグは上アームVH,下アームVLを含み、W相レグは上アームWH,下アームWLを含む。上アーム#Hがオン、下アーム#Lがオフのとき、出力OUT#はハイ、上アーム#Hがオフ、下アーム#Lがオンのとき、出力OUT#はロー、上アーム#Hと下アーム#Lが両方オフのとき、出力OUT#はハイインピーダンスとなる。
【0037】
コントロールロジック回路210は、第1状態φ1~第7状態φ7が切りかえ可能である。第1状態φ1~第7状態φ7は、ステートマシン222によって管理される。
【0038】
・第1状態φ1
第1状態φ1において、コントロールロジック回路210は、インバータ回路230の出力OUTU,OUTV,OUTWをハイインピーダンス状態(HiZ)とする。この第1状態φ1は、空転判定に利用される。
【0039】
・第2状態φ2
第2状態φ2においてコントロールロジック回路210は、インバータ回路230の各相の出力OUTU,OUTV,OUTWを、所定の状態に固定する。所定の状態は限定されないが、一例では、OUTU=H,OUTV=L,OUTW=Hである。第2状態φ2は、位置が確定しないロータの位置を、所定の位置(初期位置と称する)で固定するために利用され、初期位置固定区間とも称する。
【0040】
・第3状態φ3
第3状態φ3においてコントロールロジック回路210は、インバータ回路230の各相の出力OUTU,OUTV,OUTWの状態を、所定時間ごとに、つまりホール信号SHALLの変化と無関係に、所定の順序で切りかえる。第3状態φ3を、強制同期起動区間とも称する。強制同期駆動区間において、三相出力OUTU,OUTV,OUTWの遷移は、120°通電方式あるいは180°通電方式にしたがって変化させてもよい。
【0041】
・第4状態φ4
第4状態φ4においてコントロールロジック回路210は、インバータ回路230の各相の出力OUTU,OUTV,OUTWの状態を、ホール信号SHALLと同期して、つまりロータの回転と同期して、所定の順序で切りかえる(転流制御)。第4状態φ4は、ファンモータ102を安定的に回転させる区間でありホール駆動区間とも称される。第4状態φ4では、三相出力OUTU,OUTV,OUTWは、120°通電方式、あるいは180°通電方式で制御される。
【0042】
120°通電方式では、ホール信号SHALLと同期して、駆動電流を供給するコイル(駆動相)を切り替えかえる(転流制御)。
【0043】
180°通電方式では、ホール信号SHALLにもとづいて、駆動相を切り替えかえる(転流制御)。また180度通電方式では、ファンモータ102の回転数に応じて、正弦波駆動のための波形データSINU~SINWを生成し、波形データSINU~SINWにもとづいて、インバータ回路230をPWM制御する。
【0044】
・第5状態φ5
第5状態φ5において、コントロールロジック回路210は、第1状態φ1と同様に、インバータ回路230の出力OUTU,OUTV,OUTWをハイインピーダンス状態とする。
【0045】
・第6状態φ6
第6状態φ6においてコントロールロジック回路210は、インバータ回路230の各相の出力OUTU,OUTV,OUTWを同一レベル(たとえばすべてロー)に固定する。ファンモータに異物が挟まるなどして、モータがロックした場合に、コイルや半導体素子に過大な電流が流れるなどしてデバイスとしての信頼性を損ねるおそれがある。第6状態φ6は、こうした問題に対処するために、モータの停止時にモータコイルへの通電を停止するロック保護区間に対応する。
【0046】
・第7状態φ7
第7状態φ7においてコントロールロジック回路210は、第6状態φ6と同様に、インバータ回路230の各相の出力OUTU,OUTV,OUTWを同一レベル(たとえばすべてロー)に固定する。第7状態φ7は、ファンモータの起動時に、空転しているロータを強制的に停止させるブレーキ区間に対応する。
【0047】
図2(a)~(c)は、インバータ回路230の状態を示す図である。図2(a)には、第1状態φ1および第5状態φ5が示され、図2(b)には、第2状態φ2が示され、図2(c)には第6状態φ6、第7状態φ7が示される。
【0048】
第3状態φ3および第4状態φ4におけるインバータ回路230の状態制御は、駆動方式に応じて定めればよい。
【0049】
図3は、120°通電方式における第4状態(ホール駆動区間)φ4で生成される信号を示す図である。第3状態φ3についても、同様の順序でインバータ回路230の状態を変化させればよい。なお、ホール信号SHALLの位相は、ホール素子104の取り付け位置に応じて定まる。
【0050】
図4は、180°通電方式における第4状態(ホール駆動区間)φ4で生成される信号を示す図である。ここでは波形データSINU~SINWとして理想的な正弦波を示すが、その波形は変調方式(2相変調、3相変調)によって異なる。たとえば2相変調では、双コブの正弦波が用いられる場合がある。また正弦波に代えて、それを簡略化した台形波やステップ波が用いられる場合もある。
【0051】
図4に示すように、波形データSINU~SINWそれぞれの周期は、ホール信号SHALLの周期と一致していなければならず、したがって波形データSINU~SINWの生成には、現在のモータの回転数に関する情報が必要となる。たとえばコントロールロジック回路210は、電気角で60°の時間を単位として、波形データSINU~SINWの生成を行ってもよい。この場合、コントロールロジック回路210は、電気角60°の時間を、ファンモータ102の回転数を示す回転数情報として取得し、回転数情報に応じた時間スケールで、波形データSINU~SINWを生成してもよい。なお、波形データSINU~SINWは、BEMF信号にもとづいて生成してもよい。
【0052】
このように、180°通電方式では、ファンモータ102の回転数に応じた周期の駆動波形SINU~SINWを生成する必要がある。モータの加速中においては、ある時刻の回転数(周期)を検出しても、それを利用する次の時刻においては、モータの回転数は直前に測定された回転数とは異なっており、制御が不安定となる。そこで、ファンモータ102を加速させる第3状態φ3においては、120°通電方式を採用し、第4状態φ4に移行した後に、180°通電方式に切りかえてもよい。
【0053】
本実施形態では、ファンモータ102の起動時、つまり駆動回路200に回転開始の指示が与えられたときのファンモータ102の状態に応じて、起動シーケンスが切り替わる。回転開始の指示は、電源の投入であってもよいし、イネーブル信号のアサートであってもよい。
【0054】
(a)駆動回路200に回転開始の指示が与えられたときに、ファンモータ102が実質的に停止している場合、第1状態φ1、第2状態φ2、第3状態φ3、第4状態φ4の順で遷移し、ファンモータ102が起動する。実質的に停止した状態とは、ゼロ近傍に定めた所定の回転数しきい値fより低い状態であり、言い換えれば、ホール信号SHALLの周期(全周期または半周期)τが所定のしきい値τより長い状態である。τは、fの逆数に比例するしきい値である。
【0055】
(b)駆動回路200に回転開始の指示が与えられたときに、ファンモータ102が、所定回転数fより高く、所定回転数fより低い速度で回転している場合、言い換えると、ホール信号SHALLの周期(全周期または半周期)τが所定のしきい値τより短く、しきい値τより長い場合に、第1状態φ1、第5状態φ5、第2状態φ2、第3状態φ3、第4状態φ4の順で遷移し、ファンモータ102が起動する。τは、fの逆数に比例する定数であり、τ<τの関係が成り立つ。
【0056】
(c)駆動回路200に回転開始の指示が与えられたときに、ファンモータ102が所定回転数fより高い速度で回転している場合、言い換えると、ホール信号SHALLの周期(全周期または半周期)τが所定のしきい値τより短い場合に、第1状態φ1、第5状態φ5、第4状態φ4の順で遷移し、ファンモータ102が起動する。
【0057】
図5は、コントロールロジック回路210の状態遷移図である。電源投入前は、停止状態φ0である。電源が投入されると、停止状態φ0から第1状態φ1に遷移する(T01)。Txyは、状態φxからφyへの遷移を表す。
【0058】
電源投入直後、ファンモータ102が停止している保証はなく、空転している可能性もある。そこで電源投入直後の第1状態φ1において、空転判定が行われる。具体的には、インバータ回路230の三相出力をすべてハイインピーダンスとし、ホール信号SHALLを監視する。ファンモータ102が完全に停止していれば、ホール信号SHALLはハイまたはローに留まり、レベル遷移(つまりエッジ)は生じない。
【0059】
コントロールロジック回路210は、(i-1)ホール信号SHALLを監視し、所定第1時間τ(たとえば100ms)の間に、ホール信号SHALLの遷移(つまりエッジ)が検出されない場合(τ>τ)、言い換えると、ホール信号SHALLの半周期τがしきい値τより長いとき、ファンモータ102が実質的に停止しているものとして、第2状態φ2に遷移する(T12)。
【0060】
コントロールロジック回路210は、第1状態φ1において、(i-2)ホール信号SHALLの変化の間隔、すなわち半周期τが第1時間τより短い場合(τ<τ)、第5状態φ5に遷移する(T15)。この処理によれば、たとえば、τ=100ms、4極モータの場合、回転数fがf=150rpmより高いとき(f>f)に、空転状態と判定され、回転数fがfより低いとき(f≦f)に、停止状態と判定されることとなる。ノイズの影響を抑制するために、コントロールロジック回路210は、第1状態φ1において、第1時間τより短い間隔でのホール信号SHALLの変化を、複数回(M≧2、たとえばM=2)連続して検出した場合に第5状態φ5に遷移してもよい。
【0061】
上述のように、初期状態において、ファンモータ102が停止していた場合、第2状態φ2、第3状態φ3、第4状態φ4の順序で遷移する。
【0062】
具体的には、第2状態φ2において、ファンモータ102に印加される出力OUTU~OUTWの組み合わせが固定される。この状態では、ファンモータ102のロータの位置は、出力の組み合わせに応じた目標初期位置で固定され、このとき、ホール信号SHALLは、目標初期位置に応じた適正レベル(期待状態)をとるはずである。
【0063】
コントロールロジック回路210は、(iii-1)第2状態φ2において、ホール信号SHALLが、期待状態を第3時間τ、維持した場合、第3状態φ3に遷移する(T23)。反対に、(iii-2)、ホール信号SHALLが期待状態(たとえばハイ)で安定しない場合、第6状態φ6に遷移する。コントロールロジック回路210は、たとえば、ホール信号SHALLが非期待状態(期待状態の反転論理、たとえばロー)を第4時間τ、維持した場合、またはホール信号SHALLが所定回数、切り替わった場合に、第6状態φ6に遷移してもよい。たとえばτは1秒程度に定めることができる。
【0064】
ロータが目標初期位置に移動したことが確認されると、第3状態φ3に遷移する。第3状態φ3に遷移した直後は、ファンモータ102は回転していないから、ホール信号SHALLは一定レベルをとるため、ホール信号SHALLと同期した駆動はできない。そこで、第3状態φ3では、ホール信号SHALLとは無関係に、所定の時間間隔で、インバータ回路230の状態(駆動相)が切りかえられる。第3状態φ3において、所定条件が満たされると、第4状態φ4に遷移する(T34)。
【0065】
所定条件は、ファンモータ102が正しく回転し始めたこと(始動の成功)を検出できるように定められる。たとえばコントロールロジック回路210は、インバータ回路230の出力の状態が所定回数(たとえば28回)、切り替わった場合、またはホール信号SHALLとBEMF信号の位相差が、所定値以下となった場合に、第4状態φ4に遷移してもよい。
【0066】
第3状態φ3において、ファンモータ102の始動に失敗した場合、第6状態φ6に遷移する(T36)。たとえばコントロールロジック回路210は、第2状態φ2に遷移してからの経過時間が、所定時間(たとえば1秒)の間に、ホール信号SHALLの変化が検出できないとき、始動失敗と判定して第6状態φ6に遷移してもよい。
【0067】
ファンモータ102の始動に成功し、第4状態φ4に遷移すると、周期的なホール信号SHALLが観測可能である。そこでコントロールロジック回路210は、ホール信号SHALLと同期してファンモータ102を制御する。
【0068】
なお、第4状態φ4で、ファンモータ102の回転数fが低速しきい値を下回ると(ロック状態)、あるいは高速しきい値を上回ると、第6状態φ6に遷移し(T46)、ロック保護がかかる。第6状態φ6に遷移した後、所定の保護時間(たとえば5秒)が経過すると、第1状態φ1に戻る(T61)。
【0069】
図6は、起動開始時に、ファンモータ102の回転が停止していたときのタイムチャートである。
【0070】
時刻tに電源が投入され、それを起動指示として、コントロールロジック回路210が第1状態φ1に遷移する。ファンモータ102は停止しているから、ホール信号SHALLは一定レベルを維持する。ホール信号SHALLの変化が第1時間τに渡って発生しないと、時刻tに第2状態φ2に遷移する。
【0071】
第2状態φ2において、インバータ回路230の出力が所定状態(たとえばU相、W相がハイ、V相がロー)に固定されると、ロータが、その状態に応じた位置に移動する。ホール信号SHALLが期待状態を第3時間τ持続すると、時刻tに第3状態φ3に遷移する。
【0072】
第3状態φ3では、インバータ回路230の出力の状態が時々刻々と変化する。これに追従して、ファンモータ102が回転しはじめ、ホール信号SHALLも変化しはじめる。
【0073】
時刻tに、ファンモータ102の始動成功が検出されると、第4状態φ4に遷移する。そして、ホール信号SHALLと同期して、インバータ回路230の状態が切りかえられ、ファンモータ102の回転数fが目標値まで高められる。
【0074】
以上が、起動開始時に、ファンモータ102の回転が停止していたときの動作である。続いて、図5に戻り、起動開始時に、ファンモータ102が空転していたときの動作を説明する。
【0075】
上述のように、ファンモータ102が空転していると、第5状態φ5に遷移する。
【0076】
第5状態φ5では、空転状態にあるファンモータ102の速度fが、回転数fより高いか低いかが判定される。回転数fは回転数fより高く定められ、たとえば400rpm程度とすることができる。
【0077】
そして、空転状態において、ファンモータ102がfより遅く回転している場合(f<f)、言い換えると、ホール信号SHALLの周期T(全周期または半周期)が所定のしきい値τより長いとき、第2状態φ2に遷移する(T52)。その後の遷移は、上述した通りである。
【0078】
空転状態において、ファンモータ102がfより速く回転しているとき(f>f)、言い換えると、ホール信号SHALLの周期T(全周期または半周期)が所定のしきい値τより短いときには、第2状態φ2、第3状態φ3をスキップし、直接、第4状態φ4に遷移する(T54)。
【0079】
たとえばコントロールロジック回路210は、(ii-1)第5状態φ5において、ホール信号SHALLの周期(たとえばネガティブエッジとネガティブエッジの間隔、あるいはポジティブエッジとポジティブエッジの間隔)が、所定の第2時間τより短い場合に、第4状態φ4に遷移し、(ii-2)そうでない場合に、第2状態φ2に遷移してもよい。たとえば4極モータで、τ=75msとした場合、f=400rpmとなる。ノイズの影響を抑制するために、コントロールロジック回路210は、第5状態φ5において、第2時間τより短い間隔でのホール信号SHALLの変化を、複数回(たとえば3回)連続して検出した場合に、第5状態φ5に遷移してもよい。
【0080】
第5状態φ5において、ファンモータ102が逆転状態で空転している場合、第7状態φ7に遷移する(T57)。逆転判定は、たとえばホール信号SHALLとBEMF信号の位相関係から判定することができる。
【0081】
第7状態φ7では、ファンモータ102にブレーキが掛けられる。第7状態φ7に遷移した後、所定のブレーキ時間(たとえば5秒)経過後に、第1状態φ1に戻る(T71)。
【0082】
図7は、起動開始時に、ファンモータ102が回転数fより遅い速度で空転していたときのタイムチャートである。時刻tに第1状態φに起動する。第1状態φに遷移後、ホール信号SHALLの変化の時間間隔が第1時間τより短い状態がM回(ここでは2回)検出されると、第5状態φ5に遷移する(時刻t)。時刻tに、ホール信号SHALLの周期が、第2時間τより長いことが検出されると、第2状態φ2に遷移する。それ以降は図6と同様である。
【0083】
図8は、起動開始時に、ファンモータ102が回転数fより速い速度で空転していたときのタイムチャートである。時刻tに第1状態φに起動する。第1状態φに遷移後、ホール信号SHALLの変化の時間間隔が第1時間τより短い状態がM回(ここでは2回)検出されると、第5状態φ5に遷移する(時刻t)。
【0084】
第5状態φ5において、第2時間τより短いホール信号SHALLの周期が検出されると、第4状態φ4に遷移する(時刻t)。ここでは1サイクルホール信号SHALLの周期がτ2より短いサイクルが1回検出されると、第4状態φ4に遷移する様子を示すが、好ましくは、複数サイクル(たとえば3サイクル)にわたって連続して検出されたことを、第4状態φ4への遷移条件としてもよい。
【0085】
時刻t以降、ホール信号SHALLと同期して制御信号SCNTが生成され、インバータ回路230が制御される。
【0086】
以上が駆動回路200の起動シーケンスである。続いてその利点を説明する。駆動回路200の利点は、比較技術との対比によって明確となる。
【0087】
比較技術1では、空転状態においてファンモータがfより遅く回転している場合には、第6状態φ6に遷移する。この場合、第6状態φ6においてファンモータ102を停止させた後に、第1状態φ1からの起動が繰り返される。したがって、比較技術1では、ファンモータ102の始動に、少なくとも保護時間(たとえば5秒)より長い時間を要することとなる。
【0088】
比較技術2では、空転状態においてファンモータがfより遅く回転している場合には、第7状態φ7に遷移し、第7状態φ7においてファンモータ102を停止させた後に、第1状態φ1からの起動が繰り返される。比較技術2では、ファンモータ102の始動に、少なくともブレーキ時間(たとえば5秒)より長い時間を要することとなる。
【0089】
これに対して、本実施形態では、空転状態においてファンモータがfより遅く回転している場合に、ファンモータ102を停止させずに、第2状態φ2に遷移させることとした。これにより比較技術に比べて、起動時間を大幅に短縮することができる。
【0090】
本発明者らは、特性の異なるさまざまなモータについて検討したところ、本実施形態に係る制御では、第5状態φ5で参照される回転数のしきい値fの設定が重要であることを認識した。つまりある特性のファンモータとの組み合わせでは、f=400rpmとした場合に、第2状態φ2を経由した起動に成功するが、別の特性のファンモータとの組み合わせでは、f=400rpmとすると、第2状態φ2を経由した起動に失敗する場合がある。そこで駆動回路200は、駆動対象のファンモータ102の特性、種類に応じて、回転数fを外部から設定可能に構成される。
【0091】
たとえば駆動回路200は、回転数f、言い換えると第2時間τを設定するための設定ピンFSETを備える。コントロールロジック回路210は、設定ピンFSETの電気的状態にもとづいて、回転数fを設定する。たとえば設定ピンFSETに対して、外部からアナログ電圧を印加し、コントロールロジック回路210は設定ピンFSETの電圧レベルに応じて、回転数fを設定、選択してもよい。
【0092】
あるいは、設定ピンFSETに対して、外部からハイ/ロー2値のデジタル信号を入力可能としてもよい。この場合、コントロールロジック回路210は設定ピンFSETの論理レベルに応じて、回転数fを選択してもよい。
【0093】
あるいは、駆動回路200は、IC(Inter IC)インタフェースやSPI(Serial Peripheral Interface)を備え、外部からのレジスタアクセスによって、回転数fを設定可能であってもよい。
【0094】
回転数fを外部から設定可能とすることにより、同じ駆動回路200を、特性の異なるさまざまなモータに対応可能とすることができ、汎用性を高めることができる。たとえば、駆動回路200を購入して冷却装置100を設計する設計者が、ファンモータ102を変更したい場合に、駆動回路200を変更することなく、回転数fを変更するだけで、対応することができる。
【0095】
また、空転時に、ファンモータ102の回転数fがfより高い場合には、第4状態φ4に直接遷移することで、高速起動が可能となる。
【0096】
以上、実施の形態について説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0097】
(変形例1)
図9は、変形例1に係る駆動回路200Aの回路図である。この変形例1において、駆動回路200Aは、コントロールロジック回路210、ホールコンパレータ240、逆起電力検出回路250を含み、プリドライバ220およびインバータ回路230を含むドライバ回路200Bと別のICとして構成される。
【0098】
(変形例2)
図10は、変形例2に係る駆動回路200Cの回路図である。この変形例1において、駆動回路200Cは、コントロールロジック回路210、ホールコンパレータ240、逆起電力検出回路250、プリドライバ220を含む。インバータ回路230は、ディスクリート部品を用いて駆動回路200Cに外付けされる。
【0099】
(変形例3)
実施形態では、1ホールのファンモータを例としたが、本発明は3ホールのファンモータにも適用可能である。
【0100】
最後に、駆動回路200の用途を説明する。図11は、冷却装置100を備えるコンピュータの斜視図である。冷却装置100は、ファンモータ102と、図1の駆動回路200とを備える。コンピュータ500は、筐体502、CPU504、マザーボード506、ヒートシンク508、および複数の冷却装置100_1,100_2を備える。
【0101】
CPU504は、マザーボード506上にマウントされる。ヒートシンク508は、CPU504の上面に密着されている。冷却装置100_1は、ヒートシンク508と対向して設けられ、ヒートシンク508に空気を吹き付ける。冷却装置100_2は、筐体502の背面に設置され、筐体502の外部の空気を内部に吸気し、あるいは内部の空気を外部に排気する。
【0102】
実施形態に係る冷却装置100は、ファンモータ102を短時間で起動することが可能であるため、冷却対象を速やかに冷却することが可能となる。
【0103】
冷却装置110は、図11のコンピュータ500の他、ワークステーション、ノート型コンピュータ,テレビ、冷蔵庫、などの様々な電子機器に搭載可能である。
【0104】
また本実施の形態に係る駆動回路200の用途は、ファンモータの駆動に限定されるものではなく、その他の各種モータの駆動に用いることができる。
【0105】
具体的な用語を用いて説明される実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0106】
100 冷却装置
102 ファンモータ
104 ホール素子
200 駆動回路
210 コントロールロジック回路
220 プリドライバ
230 インバータ回路
240 ホールコンパレータ
250 逆起電力検出回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11