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特許7591392二次電池用正極材料およびこれを用いた二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】二次電池用正極材料およびこれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241121BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241121BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241121BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241121BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241121BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241121BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241121BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241121BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20241121BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/10
C01B25/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020202612
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090295
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大谷 一生
(72)【発明者】
【氏名】大間 敦史
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088231(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162693(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01B 1/10
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料と、前記導電材料の表面を被覆する硫黄含有正極活物質と、固体電解質と、を含み、
二次電池のSOC0%とSOC100%との間における、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)が0.5[F・cm/g]以下である、二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記変化率(ΔCdl)が0.2[F・cm/g]以下である、請求項1に記載の二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記導電材料が細孔を有するものである、請求項1または2に記載の二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記導電材料の細孔容積が1.0mL/g以上である、請求項3に記載の二次電池用正極材料。
【請求項5】
前記導電材料の平均細孔径が50nm以下である、請求項3または4に記載の二次電池用正極材料。
【請求項6】
少なくとも一部の前記固体電解質が、前記硫黄含有正極活物質と接触し、かつ、前記導電材料と接触しないように前記細孔の内部に配置されている、請求項3~5のいずれか1項に記載の二次電池用正極材料。
【請求項7】
前記導電材料が炭素材料である、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池用正極材料。
【請求項8】
前記固体電解質が硫化物固体電解質である、請求項1~7のいずれか1項に記載の二次電池用正極材料。
【請求項9】
前記固体電解質が、アルカリ金属原子と、リン原子および/またはホウ素原子とを含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の二次電池用正極材料。
【請求項10】
前記アルカリ金属原子がリチウムである、請求項9に記載の二次電池用正極材料。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の二次電池用正極材料を含む、二次電池。
【請求項12】
全固体リチウム二次電池である、請求項11に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極材料およびこれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウム二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウム二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。例えば、硫黄単体(S)は、1670mAh/g程度と極めて大きい理論容量を有し、低コストで資源が豊富であるという利点を備えている。
【0006】
硫黄含有正極活物質を用いた二次電池において、当該活物質が潜在的に有している高い理論容量を十分に発現させることを目的として、例えば特許文献1では、BET比表面積が1800m/g以上の活性炭を膜厚0.2~1.4nmの硫黄で被覆したものを全固体リチウム硫黄電池の正極材料として用いる技術が開示されている。そして、特許文献1によれば、このような構成の正極材料を用いて全固体リチウム硫黄電池を構成することで、非常に高い放電容量を実現することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-88231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されている技術を採用して二次電池を構成した場合には、十分なサイクル耐久性が達成できない場合があることが判明した。すなわち、特許文献1に記載の技術を採用した場合には、二次電池の放電容量が経時的に低下する場合があることが判明したのである。
【0009】
そこで本発明は、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、サイクル耐久性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、導電材料と、前記導電材料の表面を被覆する硫黄含有正極活物質と、固体電解質とを含む正極材料のうち、満充電時と完全放電時との間における電気二重層容量の変化が小さいものを用いて二次電池を構成することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の一形態は、導電材料と、前記導電材料の表面を被覆する硫黄含有正極活物質と、固体電解質とを含み、二次電池のSOC0%とSOC100%との間における、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)が0.5[F・cm/g]以下である、二次電池用正極材料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、サイクル耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係るリチウム二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。
図2図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。
図3図3は、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)の算出に用いられる二次電池の電気二重層容量(Cdl)の値を、交流インピーダンスの測定結果に基づいて算出する方法を説明するためのCole-Coleプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。以下では、二次電池の一形態である、積層型(内部並列接続型)の全固体リチウム二次電池を例に挙げて、本発明を説明する。上述したように、全固体リチウム二次電池を構成する固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しないという利点がある。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れるという利点もある。
【0015】
本発明の一形態は、導電材料と、前記導電材料の表面を被覆する硫黄含有正極活物質と、固体電解質とを含み、二次電池のSOC0%とSOC100%との間における、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)が0.5[F・cm/g]以下である、二次電池用正極材料である。本形態に係る二次電池用正極材料によれば、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、サイクル耐久性を向上させることができる。
【0016】
図1は、本発明に係るリチウム二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図1および図2に示す扁平積層型の双極型でないリチウム二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係るリチウム二次電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0017】
図1に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0018】
なお、本形態に係るリチウム二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウム二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0019】
また、図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図1に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウム電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0020】
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11’の両面に負極活物質を含有する負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図2に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0021】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層負極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、場合によっては、集電体(11’,11”)を用いることなく、負極活物質層13および正極活物質層15をそれぞれ負極および正極として用いてもよい。
【0022】
負極集電体11’および正極集電体11”は、各電極(正極および負極)と導通される負極集電板(タブ)25および正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11”および負極集電体11’に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0023】
以下、本形態に係るリチウム二次電池の主要な構成部材について説明する。
【0024】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0025】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する負極活物質層や正極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
【0026】
[負極(負極活物質層)]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型電池において、負極活物質層13は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb、LiTi12等が挙げられる。さらに、ケイ素系負極活物質やスズ系負極活物質が用いられてもよい。ここで、ケイ素およびスズは第14族元素に属し、非水電解質二次電池の容量を大きく向上させうる負極活物質であることが知られている。これらの単体は単位体積(質量)あたり多数の電荷担体(リチウムイオン等)を吸蔵および放出しうることから、高容量の負極活物質となる。ここで、ケイ素系負極活物質としては、Si単体を用いることが好ましい。また同様に、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素酸化物を用いることも好ましい。この際、xの範囲は0.5≦x≦1.5であることがより好ましく、0.7≦x≦1.2であることがさらに好ましい。さらには、ケイ素を含有する合金(ケイ素含有合金系負極活物質)が用いられてもよい。一方、スズ元素を含む負極活物質(スズ系負極活物質)としては、Sn単体、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金)、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物等が挙げられる。このうち、アモルファススズ酸化物としてはSnB0.40.63.1が例示される。また、スズケイ素酸化物としてはSnSiOが例示される。また、負極活物質として、リチウムを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、リチウムを含有する活物質であれば特に限定されず、金属リチウムのほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。負極活物質は、金属リチウム、ケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含むことが好ましく、金属リチウムを含むことが特に好ましい。
【0027】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0028】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0030】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS4、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0031】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、活物質層に含まれる硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。好ましい一実施形態において、硫化物固体電解質はLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIであり、好ましくはClである)を含む。
【0032】
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。
【0033】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5[S/cm]以上であることが好ましく、1×10-4[S/cm]以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0034】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0035】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0036】
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
【0038】
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
【0039】
負極活物質層の厚さは、目的とする二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0040】
[固体電解質層]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型電池において、固体電解質層は、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在し、固体電解質を必須に含有する層である。
【0041】
固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、負極活物質層の欄において例示した固体電解質およびその好ましい形態が同様に採用されうる。場合によっては、上述した固体電解質以外の固体電解質が併用されてもよい。
【0042】
固体電解質層は、上述した所定の固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。
【0043】
固体電解質層の厚みは、目的とするリチウム二次電池の構成によっても異なるが、電池の体積エネルギー密度を向上させうるという観点からは、好ましくは600μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。一方、固体電解質層の厚みの下限値について特に制限はないが、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。
【0044】
[正極活物質層]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型電池において、正極活物質層は、本発明の一形態に係る二次電池用正極材料を含む。当該二次電池用正極材料は、導電材料と、前記導電材料の表面を被覆する硫黄含有正極活物質と、固体電解質とを含む。
【0045】
(導電材料)
本形態に係る正極材料に含まれる導電材料の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の導電材料が適宜採用されうる。なかでも、正極材料において反応に関与しうる表面の面積を大きくすることができるという観点から、導電材料は細孔を有するものであることが好ましい。また、導電性に優れ、加工しやすく、所望の細孔分布の設計が容易であるという観点からは、細孔を有する導電材料は炭素材料であることが好ましい。
【0046】
細孔を有する炭素材料としては、例えば、活性炭、ケッチェンブラック(登録商標)(高導電性カーボンブラック)、(オイル)ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子(カーボン担体)が挙げられる。なお、炭素材料は、その主成分がカーボンであることが好ましい。ここで、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。「実質的に炭素原子からなる」とは、2~3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
【0047】
細孔を有する導電材料(好ましくは、炭素材料)のBET比表面積は、200m/g以上であることが好ましく、500m/g以上であることがより好ましく、800m/g以上であることがさらに好ましく、1200m/g以上であることが特に好ましく、1500m/g以上であることが最も好ましい。また、細孔を有する導電材料(好ましくは、炭素材料)の細孔容積は、1.0mL/g以上であることが好ましく、1.3mL/g以上であることがより好ましく、1.5mL/g以上であることがさらに好ましい。導電材料のBET比表面積および細孔容積がこのような範囲内の値であれば、十分な量の細孔を保持することができ、ひいては十分な量の正極活物質を保持することが可能となる。なお、導電材料のBET比表面積および細孔容積の値については、窒素吸脱着測定により測定が可能である。この窒素吸脱着測定は、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP miniを用いて行い、-196℃の温度で、多点法で行う。0.01<P/P<0.05の相対圧の範囲での吸着等温線よりBET比表面積を求める。また、細孔容積については、0.96の相対圧における吸着Nの容積より求める。
【0048】
導電材料の平均細孔径は、特に限定されないが、50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。導電材料の平均細孔径がこれらの範囲内の値であれば、硫黄含有正極活物質が細孔の内部に配置された場合に、細孔壁から離れた位置に存在する活物質まで十分に電子を供給することができる。なお、導電材料の平均細孔径の値は、BET比表面積および細孔容積の値を求める場合と同様に、窒素吸脱着測定により算出することができる。
【0049】
導電材料が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、0.05~50μmであることが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、0.5~10μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「導電材料の粒子径」とは、導電材料の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電材料の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0050】
(硫黄含有正極活物質)
硫黄含有正極活物質は、硫黄を含有し、正極活物質として機能しうる材料である。硫黄含有正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、TiS、TiS、TiS4、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、MoS、MnS、MnS、CoS、CoS等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS4、FeSおよびMoSが好ましく、硫黄単体(S)、TiSおよびFeSがより好ましく、高容量であるという観点からは硫黄単体(S)が特に好ましい。なお、硫黄単体(S)としては、S構造を有するα硫黄、β硫黄、またはγ硫黄が用いられうる。
【0051】
本形態に係る正極材料は、硫黄含有正極活物質に加えて、硫黄を含まない正極活物質をさらに含んでもよい。硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。
【0052】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。ここで、正極活物質の全量100質量%に占める硫黄含有正極活物質の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0053】
(固体電解質)
本形態に係る正極材料は固体電解質を必須に含む。本形態に係る正極材料に含まれる固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、負極活物質層の欄において例示した固体電解質およびその好ましい形態が同様に採用されうる。場合によっては、上述した固体電解質以外の固体電解質が併用されてもよい。
【0054】
なかでも、イオン伝導度および耐久性に優れるという観点から、本形態に係る正極材料に含まれる固体電解質は、硫化物固体電解質であることが好ましい。別の好ましい実施形態では、正極材料に含まれる固体電解質は、アルカリ金属原子を含有するものである。ここで、固体電解質に含まれうるアルカリ金属としては、Li、NaまたはKが挙げられるが、なかでもイオン伝導度に優れるという点でLiが好ましい。さらに他の好ましい実施形態では、正極材料に含まれる固体電解質は、アルカリ金属原子(例えば、Li、NaまたはK;好ましくはLi)と、リン原子および/またはホウ素原子と含有するものである。このようなアルカリ金属原子と、リン原子および/またはホウ素原子とを含有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPS4、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-SiS-LiPO等が挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、正極材料に含まれる硫化物固体電解質は、リン原子を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。好ましい一実施形態において、硫化物固体電解質はLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIであり、好ましくはClである)を含む。これらの固体電解質は高いイオン伝導度を有していることから、本発明の作用効果の発現にも有効に寄与しうる。
【0055】
本形態に係る正極材料は、上述したように、導電材料と、前記導電材料の表面を被覆する硫黄含有正極活物質と、固体電解質とを含むものであるが、二次電池のSOC0%とSOC100%との間における、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)が0.5[F・cm/g]以下である点に特徴がある。
【0056】
電気二重層とは、イオン伝導体と電子伝導体とが隣接する界面に生じる薄い膜状の層であり、ここでは電子と陽イオンとが対向して配列したり、正孔と陰イオンとが対向して整列する。このため、電気二重層は正電荷と負電荷とが対向しているキャパシタとみなすことができ、当該キャパシタの容量に相当する物理量として電気二重層容量(Cdl)との概念が用いられている。
【0057】
二次電池についても、後述する実施例の欄に記載されているように、ランドルスの等価回路で模擬することにより、電気化学インピーダンス測定(EIS)によって得られる交流インピーダンスの測定結果に基づき、電気二重層容量(Cdl)の値を測定することができる。本明細書では、後述する実施例の欄に記載のように、正極材料を用いて試験用セルを作製し、当該試験用セルに対して初回充電処理および初回放電処理をそれぞれ施した後の試験用セルを用いて、EIS法による交流インピーダンスの測定を行い、電気二重層容量(Cdl)の値を測定する。この際の試験用セルの作製方法や、充放電処理および交流インピーダンス測定の方法についても、後述する実施例に記載の手法を採用するものとする。
【0058】
本発明者らの検討によれば、二次電池の充電状態(SOC;State of Charge)が変化すると、交流インピーダンスから測定される電気二重層容量(Cdl)の値も同様に変化することが判明した。具体的には、二次電池の充電状態(SOC)が大きくなるにつれて、電気二重層容量(Cdl)の値は小さくなることが判明したのである。これは、充電状態(SOC)が小さいとき(放電時)に固体電解質はイオン伝導度の高い還元状態で存在するのに対し、充電状態(SOC)が大きいとき(充電時)にはイオン伝導度の低い酸化状態で存在することによると考えられる。例えば、実施例で用いられているアルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl)を例に挙げて説明すると、放電時には還元状態となりLiS、LiP、LiClなどの状態で存在し、これらのうちLiPは10-3[S/cm]オーダーの高いイオン伝導度を示す。一方、充電時には酸化状態となりS、P、LiClなどの状態で存在し、これらのうちイオン伝導性を示すLiClのイオン伝導度は10-7[S/cm]オーダーと極めて低い。なお、「SOC(充電状態)」とは、満充電状態における容量と現在時点における容量との比をいう。したがって、「SOC0%」とは、現在時点における容量が0(ゼロ)であることを意味し、「SOC100%」とは、現在時点における容量が満充電状態における容量と等しいことを意味する。
【0059】
そして、本発明者らがさらに検討を進めたところ、二次電池の完全放電状態(SOC0%)と満充電状態(SOC100%)との間における、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)が0.5[F・cm/g]以下であれば、サイクル耐久性が格段に改善されることも判明した。
【0060】
本形態に係る正極材料において、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)の値は、0.5[F・cm/g]以下であることが必須である。ただし、二次電池のサイクル特性をよりいっそう向上させうるという観点から、当該変化率(ΔCdl)の値は、好ましくは0.4[F・cm/g]以下であり、さらに好ましくは0.3[F・cm/g]以下であり、特に好ましくは0.2[F・cm/g]以下であり、最も好ましくは0.1[F・cm/g]以下である。なお、この「正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)」の算出方法についても、後述する実施例の欄に記載の手法を採用するものとする。
【0061】
上記のような構成を有する本形態に係る正極材料によれば、硫黄を含む正極活物質を用いた全固体リチウム二次電池等の二次電池において、サイクル特性を向上させることが可能となる。本形態に係る構成とすることによりこのような優れた効果が奏されるメカニズムについては完全には明らかとはなっていないが、以下のようなメカニズムが推定されている。まず、上述したように、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載されている技術を採用して二次電池を構成した場合には、二次電池の放電容量が経時的に低下する場合があることが判明した。本発明者らはこの原因を探索する中で、特許文献1の表1に記載された硫黄あたりの放電容量の値の一部が、硫黄の理論容量を上回っていることに着目した。つまり、このような異常値が測定されていることから、特許文献1の実施例で作製されている正極材料においては、導電材料(カーボン)と固体電解質とが接触することにより固体電解質が充放電に寄与している結果、固体電解質の分解反応が進行しているのではないかと考えたのである。
【0062】
このような着想に基づき、本発明者らは、固体電解質と導電材料(カーボン)との反応面積を示す指標として電気二重層容量(Cdl)に着目し、固体電解質と導電材料(カーボン)との接触面積を小さくすれば正極材料の目付量あたりの電気二重層容量(Cdl)の変化率(ΔCdl)も小さくなるのではないかとの仮説を設定した。そして、実際に固体電解質と導電材料(カーボン)との接触面積を小さくするための正極材料の調製方法を工夫することによって電気二重層容量(Cdl)の変化率(ΔCdl)が小さい正極材料を実現し、そのような正極材料がサイクル耐久性に優れることを確認することで上記仮説を実証して、本発明を完成させるに至ったのである。
【0063】
なお、本形態に係る正極材料において、当該導電材料が細孔を有する導電材料である場合には、少なくとも一部の前記固体電解質が、前記硫黄含有正極活物質と接触し、かつ、前記導電材料と接触しないように前記細孔の内部に配置されていることが好ましい。このような構成とすることで、導電材料、硫黄含有正極活物質および固体電解質が共存する三相界面が十分に形成されつつ、固体電解質の分解反応の進行が抑制される結果、容量特性および充放電レート特性に優れた二次電池が提供されうる。なお、導電材料の細孔の内部に正極活物質や固体電解質が配置されているか否かの確認は、従来公知の種々の手法を用いて行うことが可能である。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による導電材料の断面の観察画像について、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて各材料由来の元素マッピングを行い、得られた元素マップや全元素のカウント数に対する各材料由来の元素のカウント数を指標として、各材料の配置形態を確認することが可能である。例えば、固体電解質がリン原子および/またはホウ素原子を含むものである場合に、当該リン原子および/またはホウ素原子が他の材料に由来する可能性がないのであれば、リンおよび/またはホウ素についての上記元素マップを取得し、その分布から固体電解質の配置形態を確認することが可能である。また、EDXにおける全元素のカウント数に対するリンおよび/またはホウ素のカウント数の比の値から、固体電解質の配置形態を確認することも可能である。なお、EDXにおいて固体電解質のみに由来する元素のカウント数を指標として固体電解質の配置形態を確認する場合には、EDXにおける全元素のカウント数に対する固体電解質のみに由来する元素のカウント数の比の値が0.10以上であれば、固体電解質が導電材料の細孔の内部に配置されていると判断することができる。また、当該比の値は、好ましくは0.15以上であり、より好ましくは0.20以上であり、さらに好ましくは0.26以上であり、特に好ましくは0.35以上である。この値は大きいほどより多くの固体電解質が導電材料の細孔の内部表面に配置されていることを意味するため、当該比の値がこれらの範囲内の値であると、本発明の作用効果がよりいっそう顕著に発現しうる。なお、当該比の値の好ましい上限値については特に制限はないが、好ましい上限値の一例としては0.50以下であり、より好ましくは0.45以下である。
【0064】
上記のような構成を有する本形態に係る正極材料の製造方法については特に制限されないが、導電材料として細孔を有するものを用いた場合を例に挙げて、製造方法の一例について簡単に説明する。後述する実施例の欄に記載されているように、まず、硫黄含有正極活物質の溶融物または溶液に導電材料を浸漬させて、導電材料の有する細孔内に硫黄含有正極活物質を含浸させる。次いで、この含浸物に対して必要に応じて乾燥処理を施す。その後、固体電解質を添加し、混合手段を用いて混合して、正極材料が得られる。この際、混合手段としていわゆるビーズミルを用い、100rpm程度のマイルドな混合条件下で混合することにより、本形態に係る正極材料を得ることができる。
【0065】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、35~99質量%の範囲内であることが好ましく、40~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、この含有量の値は、導電材料および固体電解質を除く正極活物質のみの質量を基準に算出するものとする。
【0066】
また、正極活物質層は、導電助剤(正極活物質や固体電解質を細孔内部に保持していないもの)および/またはバインダをさらに含んでもよい。
【0067】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0068】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11’、11”)と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウム二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0069】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1および図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0070】
本形態に係る積層型電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本形態に係る積層型電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0071】
以上、リチウム二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0072】
例えば、本発明に係るリチウム二次電池が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
【0073】
また、本形態に係る二次電池は、全固体型でなくてもよい。すなわち、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。なお、液体電解質(電解液)としては、従来公知の有機溶媒に従来公知のリチウム塩が溶解した形態を有する溶液が用いられる。液体電解質(電解液)は、有機溶媒およびリチウム塩以外の添加剤をさらに含有してもよい。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【0074】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0075】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列にまたは並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池(電池モジュール、電池パックなど)を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0076】
[車両]
電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0078】
《試験用セルの作製例》
[実施例1]
(硫黄の熱含浸)
露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、0.060gのカーボン(関西熱化学社製、活性炭、MSC-30)(細孔を有する導電材料)に0.140gの硫黄(Aldrich社製)を加えてメノウ乳鉢で十分に混合した後、混合粉末を密閉耐圧オートクレーブ容器に入れて170℃で3時間加熱することにより硫黄を溶融させて、硫黄をカーボンに含浸させた。これにより、硫黄/カーボン複合材を得た。
【0079】
(硫黄含有正極材料の調製)
露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、2mm径のジルコニアボール0.5gと、上記で調製した硫黄/カーボン複合材0.120gと、アルジロダイト型硫化物固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)0.080gと、を容量10mLのサンプル瓶に入れ、卓上回転ローラー(アズワン社製、VMR-3R)(ビーズミル)により100rpmで0.5時間処理することにより、硫黄含有正極材料の粉末を得た。なお、硫黄含有正極材料の組成は硫黄:固体電解質:カーボン=42:40:18(質量比)とした。また、得られた硫黄含有正極材料を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、導電材料であるカーボンが正極活物質である硫黄によって被覆されていることが確認された(以下の実施例についても同様)。
【0080】
(全固体リチウム二次電池の作製)
以下の手法により、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で全固体リチウム二次電池を作製した。
【0081】
マコール製の円筒チューブ治具(管内径10mm、外径23mm、高さ20mm)の片側にSUS製の円筒凸型パンチ(10mm径)を挿し入れ、円筒チューブ治具の上側からアルジロダイト型硫化物固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)80mgを入れた。その後、もう1つのSUS製円筒凸型パンチを挿し入れて固体電解質を挟み込み、油圧プレスを用いて75MPaの圧力で3分間プレスすることにより直径10mm、厚さ約0.6mmの固体電解質層を円筒チューブ治具中に形成した。
【0082】
次に、上側から挿し入れた円筒凸型パンチを一旦抜き取り、円筒チューブ内の固体電解質層の片側面に上記で調製した硫黄含有正極材料8.2mgを入れ、再び上側から円筒凸型パンチ(正極集電体を兼ねる)を挿し入れ、300MPaの圧力で3分間プレスすることで、直径10mm、厚さ約0.06mmの正極活物質層を固体電解質層の片側面に形成した。次に、下側の円筒凸型パンチ(負極集電体を兼ねる)を抜き取り、直径8mmに打ち抜いたリチウム箔(ニラコ社製、厚さ0.20mm)と直径9mmに打ち抜いたインジウム箔(ニラコ社製、厚さ0.30mm)とを重ねて、インジウム箔が固体電解質層側に位置するように円筒チューブ治具の下側から入れて、再び円筒凸型パンチを挿し入れ、75MPaの圧力で3分間プレスすることでリチウム-インジウム負極を形成した。
【0083】
以上のようにして、負極集電体、リチウム-インジウム負極、固体電解質層、正極活物質層、および正極集電体が積層された全固体リチウム二次電池を作製した。
【0084】
(全固体リチウム二次電池の充放電特性の評価)
電気化学診断装置(BioLogic社製、VSP-300)を用い、25℃に設定した定温恒温槽中で、以下の手法により、上記で作製した全固体リチウム二次電池の充放電特性を評価した。
【0085】
恒温槽内に電池を設置し、セル温度が一定になった後、セルコンディショニングとして、0.2mA/cmの電流密度でセル電圧0.5Vまで定電流放電を行い、それに続いて同じ電流密度で2.5V定電流定電圧充電(カットオフ電流0.01mA/cm)-定電流放電(電圧0.5V)のコンディショニング充放電サイクルを10サイクル行った。このコンディショニング充放電サイクル後に得られた充放電容量値と、正極活物質層に含まれる硫黄活物質の質量値とから、硫黄質量あたりの容量値(mAh/g)を求めた。
【0086】
また、サイクル特性については、25℃で0.05C-2.5∨定電流定電圧充電でカットオフ電流0.01Cの条件で満充電した後に、カットオフ電圧0.5∨で0.05C放電することで評価した。そして、10サイクル目における放電容量の初回サイクル時の放電容量に対する百分率として、10サイクル目放電容量維持率[%]を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0087】
(全固体リチウム二次電池の交流インピーダンス評価)
上述したサイクル特性評価の初回サイクルにおける充電の終了時点(SOC100%)および放電の終了時点(SOC0%)のそれぞれの時点で、1.0時間の休止時間を設けた後、測定周波数fを7MHz~10mHzに設定し、電圧振幅ΔVをセルの開放端電圧(OCV)に対して±5mVに設定して、電気化学インピーダンス測定(EIS)により電池の交流インピーダンスを評価した。なお、ここでも上記と同様の電気化学診断装置を用いて評価を行った。
【0088】
次いで、交流インピーダンスの評価結果から、以下の手法により、初回サイクルにおける充電の終了時点(SOC100%)および放電の終了時点(SOC0%)のそれぞれにおける電気二重層容量(Cdl)、並びに、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。
【0089】
まず、本電池系の等価回路を、以下に示す一般的なランドルスの等価回路で模擬した。
【0090】
【数1】
【0091】
そして、測定周波数fから角周波数ω(=2πf)を計算し、X軸をω-2とし、Y軸をインピーダンス虚部Zimgと角周波数ωとの積の逆数(1/ωZimg)としてCole-Coleプロットを作成し、低周波数側の直線部を外挿した直線とY軸との交点を正極材料の電気二重層容量Cdl[mF]とした(図3参照)。このようにして、充電の終了時点(SOC100%)における電気二重層容量(Cdl,SOC100%)および放電の終了時点(SOC0%)における電気二重層容量(Cdl,SOC0%)をそれぞれ算出した。
【0092】
次いで、上記で算出した2つのCdlの値の差分(Cdl,SOC0%-Cdl,SOC100%)の絶対値[mF]を正極材料の目付量[mg/cm]で除して、放電の終了時点(SOC0%)と充電の終了時点(SOC100%)との間における、正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)[F・cm/g]を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0093】
[実施例2]
硫黄/カーボン複合材の調製において、カーボンの使用量を0.033gに変更し、硫黄の使用量を0.167gに変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。また、上記と同様の手法により、全固体リチウム二次電池の充放電特性および交流インピーダンスの評価を行い、10サイクル目放電容量維持率および正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0094】
[実施例3]
硫黄/カーボン複合材の調製において、以下に示す溶液含浸法を用いた。
【0095】
すなわち、硫黄1000mgとシクロヘキサン20gとを50mLのスクリュー管に入れて、60℃に加熱しながら、マグネチックスターラーで撹拌して硫黄を溶解させた。次に、この硫黄のシクロヘキサン溶液に、カーボン(関西熱化学社製、活性炭、MSC-30)300mgを浸漬し、超音波処理(出力100W、発振周波数28Hz、40分間)を行い、カーボンを分散させた。続いて、25℃にて7日間、マグネチックスターラーで撹拌してカーボンに硫黄を吸着させることにより、硫黄/カーボン複合材を調製した。
【0096】
ここで、硫黄吸着後の分散液の約2gを抜き取り、硫黄で被覆されたカーボンを遠心分離により沈降させて、上澄みの硫黄溶液の固形分含有率を測定した。その結果、固形分含有率は1.478質量%であった。もとの硫黄溶液の濃度は4.762質量%であるので、700mgの硫黄が300mgのカーボンを被覆したことになる。そして、硫黄が吸着したカーボン中の硫黄の質量割合は70質量%と算出される。
【0097】
硫黄の被覆量計算のために抜き取った約2g以外の残り全量を吸引ろ過することにより、硫黄が吸着したカーボンを硫黄溶液から分離し、160℃にて1時間加熱処理することにより、862mg(収率86.2%)の硫黄/カーボン複合材を得た。
【0098】
このようにして得られた硫黄/カーボン複合材を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。また、上記と同様の手法により、全固体リチウム二次電池の充放電特性および交流インピーダンスの評価を行い、10サイクル目放電容量維持率および正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0099】
[比較例1]
硫黄の熱含浸は行わず、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、5mm径のジルコニアボール40gと、アルジロダイト型硫化物固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)0.138gと、カーボン(関西熱化学社製、活性炭、MSC-30)0.062gと、を容量45mLのジルコニア製容器に入れ、遊星ボールミルにより370rpmで6時間処理して、本比較例の正極材料の粉末を得た。
【0100】
このようにして得られた正極材料を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。また、上記と同様の手法により、全固体リチウム二次電池の充放電特性および交流インピーダンスの評価を行い、10サイクル目放電容量維持率および正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0101】
[比較例2]
硫黄/カーボン複合材の調製において、カーボンの使用量を0.102gに変更し、硫黄の使用量を0.098gに変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。また、上記と同様の手法により、全固体リチウム二次電池の充放電特性および交流インピーダンスの評価を行い、10サイクル目放電容量維持率および正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0102】
[比較例3]
硫黄/カーボン複合材の調製において、混合粉末を非密閉のガラス容器に入れて170℃にて3時間加熱することにより硫黄を溶融させて、硫黄をカーボンに含浸させた。その後、ダイアフラムポンプで炉内を排気しながら250℃にて3時間加熱することにより硫黄を昇華させて、含浸されずにカーボン表面に残留した硫黄分を除去した(減圧熱含浸処理)。
【0103】
このようにして得られた硫黄/カーボン複合材を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。また、上記と同様の手法により、全固体リチウム二次電池の充放電特性および交流インピーダンスの評価を行い、10サイクル目放電容量維持率および正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0104】
[比較例4]
硫黄含有正極材料の調製において、2mm径のジルコニアボール0.5gを5mm径のジルコニアボール40gに変更し、卓上回転ローラーによる処理を遊星ボールミル(フリッチュ社製、Premium line P-7)による処理(370rpmで6時間)に変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。また、上記と同様の手法により、全固体リチウム二次電池の充放電特性および交流インピーダンスの評価を行い、10サイクル目放電容量維持率および正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0105】
[比較例5]
硫黄含有正極材料の調製において、2mm径のジルコニアボール0.5gを5mm径のジルコニアボール40gに変更し、卓上回転ローラーによる処理を遊星ボールミル(フリッチュ社製、Premium line P-7)による処理(370rpmで6時間)に変更したこと以外は、上述した実施例3と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。また、上記と同様の手法により、全固体リチウム二次電池の充放電特性および交流インピーダンスの評価を行い、10サイクル目放電容量維持率および正極材料の目付量あたりの電気二重層容量の変化率(ΔCdl)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示す結果から、本発明に係る所定のΔCdlを有する正極材料を用いた実施例1~3の全固体リチウム二次電池は、比較例1~5の電池と比べて、高い放電容量維持率を示すことがわかる。また、実施例1~3の比較から、ΔCdlの値が小さいほど、放電容量維持率はよりいっそう向上しうることもわかる。
【0108】
なお、比較例2においてΔCdlの値が大きいのは、硫黄/カーボン複合材におけるカーボンの含有量が相対的に多い結果、ビーズミルを用いて混合したとしても固体電解質とカーボンとの接触面積が大きくなり、充放電時における固体電解質の分解反応を抑制できなかったためと考えられる。また、比較例3においてΔCdlの値が大きいのは、減圧熱含浸処理の際にカーボン表面に残留した硫黄を昇華させることにより除去したため、固体電解質とカーボンとの接触面積が大きくなり、上記と同様に充放電時における固体電解質の分解反応を抑制できなかったためと考えられる。さらに、比較例4および比較例5では、比較的大きいジルコニアボールを大量に用い、より厳しい混合条件下で遊星ボールミルを用いて混合処理を行っている。このため、硫黄/カーボン複合材においてカーボンを被覆していた硫黄が脱落し、結果として固体電解質とカーボンとの接触面積が大きくなり、充放電時における固体電解質の分解反応を抑制できなかったためと考えられる。
【符号の説明】
【0109】
10a 積層型電池、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 ラミネートフィルム。
図1
図2
図3