(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】トランスフォーミング増殖因子ベータ抵抗性ナチュラルキラー細胞
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20241121BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241121BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241121BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20241121BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241121BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241121BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241121BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20241121BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241121BHJP
【FI】
A61K35/17
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/12
A61P35/02
A61P21/00
A61P25/00
A61P19/08
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2020562093
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 US2019015617
(87)【国際公開番号】W WO2019152387
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-19
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515041446
【氏名又は名称】リサーチ インスティテュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】RESEARCH INSTITUTE AT NATIONWIDE CHILDREN’S HOSPITAL
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【氏名又は名称】末広 尚也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】リー,ディーン アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】フォルツ-ストリングフェロー,ジェニファー アン
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ-モーズマン,ジェナ
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0056448(US,A1)
【文献】特表2017-532353(JP,A)
【文献】Annu.Rev.Immunol.,2005年,24 ,pp.99-146
【文献】Immunity,2006年,24,pp.575-590
【文献】Cancer Res.,2009年,69(9) ,pp.4010-4017, page 1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌または感染症を治療するための医薬組成物であって、天然に存在するNK細胞と比較してTGF-βに対する抵抗性が増加した、増殖されたNK細胞の集団を含み、前記増殖されたNK細胞の集団が、
IL-2、TGF-βおよび白血病フィーダー細胞の存在下においてインビトロで増殖され、前記フィーダー細胞が、4-1BBLおよび膜結合したIL-21を発現するように遺伝的に修飾されたK562フィーダー細胞である、医薬組成物。
【請求項2】
前記癌が、固形腫瘍である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記癌が、白血病、リンパ腫、横紋筋肉腫、脳癌および骨癌からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記増殖されたNK細胞の集団が、IFN-γ、TNF-αおよびGM-CSFの1つまたは複数の増加した量を産生する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記増殖されたNK細胞の集団が、SMAD3タンパク質および/またはTGFBR3タンパク質の低減したレベルを示す、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記増殖されたNK細胞の集団が、SCUBE1、MY07A、KLF3、WIPF3およびEPHA1の増加した発現を示す、または、CD300A、SGSM1、SMAD3、TBX21、GZMK、TGFBR3およびGZMAの低減した発現を示す、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
TGF-βに対して増加した抵抗性を示すナチュラルキラー(NK)細胞またはNK細胞株であって、天然に存在するNK細胞と比較してTGF-βに対する抵抗性が増加しており、
1)a)4-1BBLおよび膜結合したIL-21を発現するように遺伝的に修飾されたK562フィーダー細胞、およびb)
IL-2およびTGF-βの存在下におけるNK細胞のインビトロ活性化によって調製される、
2)増加した量のIFN-γ、TNF-αおよびGM-CSFのうちの1つまたは複数を産生する、
および/または
3)SMAD3タンパク質および/またはTGFBR3タンパク質の低減したレベルを示す、NK細胞またはNK細胞株。
【請求項9】
前記NK細胞が、SCUBE1、MY07A、KLF3、WIPF3およびEPHA1の増加した発現を示す、または、CD300A、SGSM1、SMAD3、TBX21、GZMK、TGFBR3およびGZMAの低減した発現を示す、請求項8に記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項10】
前記NK細胞が、ヒトNK細胞またはイヌNK細胞である、請求項8または9に記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項11】
天然に存在するNK細胞と比較してTGF-βに対する抵抗性が増加した、増殖されたNK細胞の集団を作製する方法であって、白血病フィーダー細胞
、IL-2およびTGF-βの存在下におけるナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化を含み、前記フィーダー細胞が、4-1BBLおよび膜結合したIL-21を発現するように遺伝的に修飾されたK562フィーダー細胞である、方法。
【請求項12】
NK刺激エキソソームまたはNK刺激ナノ粒子の存在下におけるナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月30日に出願の米国仮特許出願第62/623,682号に対する優先権を主張し、これは、その全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
臨床医は、任意のいかなる特定の腫瘍細胞マーカーも必要とすることなく腫瘍細胞を認識し、かつ死滅させるそれらの能力のため、養子移入のためにナチュラルキラー(NK)細胞を使用しようと努力してきた。Alizadeh et al.,Clin Cancer Res.16(13):3399-3408(2010)。しかし、NK細胞養子移入手順の開発は、生存細胞の限られた供給によって妨げられてきた。NK細胞は、血液中の細胞のごく一部のみであり、および典型的な採血からの単離では、多くの細胞を得られない。さらに、NK細胞は、それぞれCD3およびCD19枯渇によってT細胞およびB細胞などのPBMCの汚染を避けて精製しなければならない。Childs et al.,American Society of Hematology(ASH)Education Book,vol.2013 no.1 234-246(2013)。これは、T細胞およびB細胞の存在が移植片対宿主病(GVHD)のリスクを増加させる場合、同種異系間の移植のために必要な工程であるが、さらにNK細胞収率を減少させる。
【0003】
NK細胞は、初期の老化が主な原因で細胞のその他の種類と比較してインビトロではあまり増殖しない。さらに最も有効な方法を使用することによって、NK細胞は、わずかな継代の後テロメア短縮および老化に感受性が高い。Denman et al.,PLoS ONE 7(1): e30264(2012)。インビトロでのNK細胞生存率および増殖を増加させるための最も有効な方法は、フィーダー細胞と共培養することである。NK細胞増殖のために一般に使用されるフィーダー細胞としては、照射を受けた末梢血単核球(PBMC)、エプスタイン・バーウイルス形質転換されたリンパ芽球様細胞株(EBV-LCL)、IL-15または21を構成的に発現している遺伝子修飾K562細胞、およびその他の照射を受けた腫瘍細胞株があげられる。Berg et al.,Cytotherapy,11(3):34l-55(2009)。フィーダー細胞と共培養することは、1,000~50,000倍の個体数増加でNK細胞生存率および増殖を有意に増加させる。
【0004】
免疫療法は、生存が過去30年間にわたって改善されていない骨肉腫(OS)などの癌の結果を改善することについて極めて有望である。化学療法抵抗性OSを含むOSは、自己活性化、および同種異系間活性化されたNK細胞の両方によってインビトロで容易に死滅される。しかし、OSおよびその他の固形腫瘍における腫瘍微小環境は、高度に免疫抑制的なサイトカイン、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)のレベルを上昇させた。Lamora et al.,Clin Cancer Res 20:5097-5112(2014);Xu et al.,DNA Cell Biol,33:802-806(2014)。TGF-βに対する阻止抗体の添加は、OSにおける樹状細胞ワクチンの有効性を改善し(Kawano et al.,Clin Orthop Relat Res.,470:2288-2294(2012))、TGF-βがOSにおける免疫療法を活発に阻害している原理の証拠を提供する。
【0005】
NK細胞機能のTGF-βの抑制は、多面的である。TGF-βは、NK細胞の発生を調節し、かつその後に成熟に達するとそれらの機能に悪影響を及ぼす。TGF-βは、CD16+NK細胞へのNK細胞の進行を妨げることによって未成熟NK細胞系統を促進する。また、TGF-βは、以前のCD16+NK細胞をCD16-になるように誘導することもできる。Keskin et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,104:3378-3383(2007)。加えて、NK細胞においてドミナントネガティブTGFβRを発現するマウスは、野生型マウスと比較して成熟NK細胞の数を増加した。Viel et al.,Science signaling 9:ral9(2016)。
【0006】
成熟NK細胞において、TGF-βは、複数の機構を介して抗腫瘍活性を阻害する。TGF-βは、IL-2を低減させ、またIL-15は、NK細胞増殖を誘導し(Wilson et al.,PloS one 6:e22842(2011))、かつIL-15は、mTOR活性化を誘導した。Viel et al.,Sci Signal.,16;9(4l5):ral9(2016)。また、TGF-βは、IFNγ分泌を阻害し、これは適応免疫系を刺激するために重要であり、かつNK細胞溶解に対して感受性がある腫瘍とすることができる。TGF-βは、直接的および間接的の両方でIFNγを阻害する。SMAD3は、直接的にIFNγプロモーターに結合し、かつIFNγ促進転写因子、T-bet、およびE4BP4の発現を低減することによって間接的にIFNγを阻害することもできる。Tang et al.,Nat Commun,8:14677(2017)。しかし、IFNγ分泌のTGF-β媒介阻害は、IL-12、IL-15またはIL-18を用いたNK細胞のプレインキュベーションによって部分的に緩和される可能性がある。Yu et al.,Immunity,24:575-590(2006)。さらに、TGF-βはまた、TNFαおよびGM-CSF分泌を阻害し、かつケモカイン受容体発現を調節して骨髄内のNK細胞の保持を促進する。Castriconi et al.,J Immunol,190:5321-5328(2013)。
【0007】
具体的には、TGF-βは、グランザイムおよびパーフォリン分泌、並びに以下の活性化受容体:NKG2D、NKp30、KIRs、DNAM-1、NKp44、TRAILおよびCD16の発現を低減することによってNK細胞毒性のその阻害を媒介する。これは、それらの同族リガンドを発現する悪性細胞のNK細胞認識を阻害する。
【0008】
TGF-βに抵抗性のNKおよびT細胞を産生することに対するいくつかのアプローチがある。これらは、ドミナントネガティブTGFβRIIを発現する細胞および免疫に基づいた療法と共にTGF-β小分子阻害剤を使用する併用療法を含む。重要なことに、これらの方法の全ては、NKおよびT細胞療法のインビトロでの、およびインビボでの向上した有効性を実証した。Wallace et al.,Clin Cancer Res.,14(12):3966-74(2008);Bollard,C.,Blood,99:3179-3187(2002)。しかし、TGF-βの広域スペクトル阻害は、有害な副作用の可能性を有する;TGF-βシグナリングは、状況依存的であり、かつ腫瘍促進および腫瘍抑制性効果の両方を有することができるためである。たとえば、マウスモデルにおけるTGF-βの阻害は、循環性腫瘍細胞の数を増加し(Wrzesinski et al.,Clin Cancer Res.,13:5262-5270(2007))、かつTGF-βの広域スペクトル阻害は、重大な自己免疫疾患を生じる。Li et al.,Immunity 25:455-471(2006)。したがって、TGF-βの阻害は、注意して、およびTGF-βに対する腫瘍の反応性を決定した後にのみになされるべきである。したがって、先天的TGF-β抵抗性を生じる非全身的方法は、全身TGF-β阻害が有し得る悪影響を回避するための有望な代替案である。
【発明の概要】
【0009】
癌の多くのタイプは、TGF-βの放出によってNK細胞死滅を減少させる。本発明者らは、TGF-βに対して抵抗性になるようにNK細胞を教育する(インプリントする)非遺伝的方法を開発した。TGF-βインプリントされたNK(TGFβi NK)細胞は、IL-12/15/18を用いたNK細胞の刺激の間にTGF-βを添加することによって発生した。TGFβi NKは、通常のNK細胞より良好に、刺激後にそれらの細胞毒性を維持した。加えて、TGF-βを用いて培養したTGFβi NK細胞は、IFN-γ、TNF-α、およびGM-CSFの分泌を増加し、これは腫瘍死滅を増加し、かつ適応免疫応答を広く刺激することができる。増加したサイトカイン分泌は、一カ月を超えて持続する。TGF-βに対する抵抗性は、インビトロで少なくとも1週間持続し、かつSMAD3ダウンレギュレーションによって媒介される。
【0010】
本発明は、以下の図面を参照してより容易に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、TGFβの存在下における親(修飾されていない)K562を用いたNK細胞活性化が腫瘍ターゲットに応答してサイトカイン分泌過多を伴うTGFβi NK細胞を誘導することを示すグラフを提供する。NK細胞は、K562で毎週刺激し、および14日間IL-2(対照)またはIL-2および10ng/mLのTGFβ(TGFβi)を含む培地中で培養した。培養後、MG63腫瘍ターゲットと共培養した後の上清においてIFNγおよびTNFα分泌を評価した。線およびバーは、平均値±標準偏差を表す。統計的有意差は、全てのその他のグラフについてHolm-Sidakの多重比較検定を用いて二元配置反復測定ANOVAによって決定した。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。
【
図2】
図2は、TGFβの存在下における炎症誘発性サイトカインでのNK細胞活性化が腫瘍ターゲットに応答してサイトカイン分泌過多を伴うTGFβi NK細胞を誘導することを示すグラフを提供する。NK細胞をIL-2およびTGFβと共に、または伴わずにIL-12、-15、および-18(それぞれ10ng/mL、50ng/mL、および50ng/mL)を用いて一晩活性化し、続いてIL-2およびTGFβと共に、または伴わずにIL-15(1ng/mL)中で培養した。7~14日間の培養の後、MG63に応答した抗腫瘍IFNγおよびTNFα産生を細胞内フローサイトメトリーによって測定した(n-4)。パーセントIFNγ+およびTNFα+NK細胞は、ターゲットなしに対して基準化した。個々のデータポイントをすべてについて示した。統計的有意差は、全てのその他のグラフについてHolm-Sidakの多重比較検定を用いて二元配置反復測定ANOVAによって決定した。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。
【
図3】
図3は、TGFβの存在下におけるK562 mbIL-l5(クローン4)フィーダー細胞を用いたNK細胞増殖が腫瘍ターゲットに応答してサイトカイン分泌過多を伴うTGFβi NK細胞を誘導することを示すグラフを提供する。TGFβと共に(TGFβi)、または伴わずに(対照)フィーダー細胞を用いた14日間の増殖の後、NK細胞を10ng/mLのTGFβと共に、または伴わずに50IU/mLのIL-2中で一晩静置した。次いで、NK細胞を同じ培地中で腫瘍ターゲットと共培養し、そして上清を収集してサイトカイン分泌を測定した。対照は、黒、TGFβiは、赤。統計的有意差は、全てのその他についてHolm-Sidakの多重比較検定を用いて二元配置反復測定ANOVAによって決定した。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。
【
図4】
図4は、TGFβの存在下におけるK562 mbIL-21フィーダー細胞を用いたNK細胞増殖が腫瘍ターゲットに応答してサイトカイン分泌過多を伴うTGFβi NK細胞を誘導することを示すグラフを提供する。TGFβと共に(TGFβi)、または伴わずに(対照)フィーダー細胞を用いた14日間の増殖の後、NK細胞を10ng/mLのTGFβと共に、または伴わずに50IU/mLのIL-2中で一晩静置した。次いで、NK細胞を同じ培地中で腫瘍ターゲットと共培養し、および上清を収集してサイトカイン分泌を測定した。黒は、対照、TGFβiは、赤。統計的有意差は、全てのその他についてHolm-Sidakの多重比較検定を用いた二元配置反復測定ANOVAによって決定した。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。
【
図5】
図5は、TGFβi NK細胞を産生するためのTGFβの添加がK562 mbIL-2l(CSTX002)フィーダー細胞を用いた増殖培養における増殖能力を低下しないことを示すグラフを提供する。NK細胞を、0日目において同数の細胞から開始している5人のドナーからの対培養においてTGFβと共に(TGFβi)、または伴わずに(対照)フィーダー細胞上で14日間増殖した。14日後の生存細胞の総数を示してあり、それぞれの対増殖について対照NK細胞に対して基準化した。スチューデント対応t検定によって有意でない。
【
図6】
図6は、TGFβi NK細胞が腫瘍細胞に対してサイトカイン分泌過多を数週間維持することを示すグラフを提供する。A)14日間、親K562フィーダー細胞を用いて増殖した(増殖)、またはさらに7日間増殖し、かつ静置した(静置)TGFβiおよび対照NK細胞を、MG63ターゲット細胞と共培養し、そして上清をサイトカイン分泌について評価した。B)類似の実験において、K562mbIL-21増殖した対照およびTGFβi NK細胞を用いたMG63に対するサイトカイン分泌を増殖の7日目および14日目に、ならびに再び静置して21、35、および47日後に評価した。中央値を最小から最大のヒゲともに示した。黒は、対照、赤は、TGFβi。統計的有意差は、対応t検定によって決定した。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001
【
図7】
図7は、TGFβi NK細胞が複数の癌タイプに対してサイトカイン分泌過多を示すことを示すグラフを提供する。対照条件下またはTGFβi NK細胞を誘導するために存在するTGFβと共に14日間の増殖後、NK細胞をIL-2またはTGFβと共に、または伴わずに一晩静置した。次いで、NK細胞を同じ新鮮な培地中で3時間腫瘍ターゲットと共培養し、そして上清を収集してIFNγおよびTNFαサイトカイン分泌を測定した。個々のデータポイントは、DAOY(髄芽腫、n=12)およびCHLA-255(神経芽細胞腫、n=5)について示してある。線およびバーは、平均値±標準偏差を表す。
【
図8】
図8は、TGFβi NK細胞がTGFβi-シグナリングタンパク質、SMAD3の劇的なダウンレギュレーションを示すことを示すグラフを提供する。対照条件下またはTGFβi NK細胞を誘導するために存在するTGFβと共に14日間増殖後、NK細胞を、ウエスタンブロットによってSMAD3およびE4BP4のタンパク質発現について評価した(n=4)。
【
図9】
図9は、TGFβi NK細胞がGM-CSF、TNFα、およびIFNγを過剰分泌することを示すグラフを提供する。対照およびTGFβi NK細胞を2×10e6 NK細胞/mLにて10μg/mLのPHAで4時間刺激し、そしてサイトカイン分泌を測定した。線およびバーは、平均値±標準偏差を表す。統計的有意差は、対応t検定によって決定した。
【
図10】
図10は、親K562と共に増殖したTGFβi NK細胞が、対照NK細胞と類似の細胞毒性を有することを示すグラフを提供する。対照およびTGFβi NK細胞毒性は、IL-2単独またはIL-2およびTGFβ中での一晩の処理の後に、4時間カルセイン-放出細胞毒性アッセイを使用して測定された。線およびバーは、平均値±標準偏差を表す。統計的有意差は、Holm-Sidakの多重比較検定を用いて二元配置反復測定ANOVAによって決定した。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。
【
図11】
図11は、増殖したTGFβi NK細胞が骨肉腫のマウスモデルにおいて対照の増殖したNK細胞より良好に腫瘍増殖を制御することを示すグラフを提供する。K562mbIL-21フィーダー細胞上で増殖したTGFβi NK細胞を用いたマウスの治療は、NSGマウスの肺における143b骨肉腫細胞株の増殖を有意に減少するが、対照NK細胞では有意に減少はしない、
【
図12】
図12は、TGFβi NK細胞が標準的な増殖されたNK細胞からそれらを区別する遺伝子発現プロファイルを有することを示すグラフを提供する。標準およびTGFβi NK細胞は、4人のドナーからのCSTX002上で対で増殖した。mRNAを単離し、そしてRNAシーケンシングに供した。トップ100の差動的に発現した遺伝子を同定した。A)元の値が1n(x+1)変換したものにおいて主成分分析を行った。単位分散スケーリングを列に適用し;補完を伴うSVDを、主成分を算出するために使用する。X軸およびY軸は、それぞれ総分散の95.4%および1.6%を説明する主成分1および主成分2を示す。TGFβi NK細胞は、赤四角で識別してある。>95%の分散は、TGFβインプリントによるものであるが、<2%は、ドナーバリエーションの結果である。B)クラスター形成解析を同じ対数変換したデータに対して行った。列を中央に配置してあり;単位分散スケーリングを列に適用してある。行および列は両方とも、相関距離および平均連結法を使用してクラスターにしてある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明は、非常に細胞毒性であり、高レベルのサイトカインを産生し、かつ免疫抑制性サイトカインのTGF-βスーパーファミリーに抵抗性であるTGF-βインプリントされたナチュラルキラー(TGFβi NK)細胞を提供する。これらの細胞は、TGF-βスーパーファミリーサイトカインの存在下におけるナチュラルキラー細胞の慢性的インビトロ活性化によって調製することができる。また、本発明は、対象に治療的に有効な数のTGFβi NK細胞を投与することによってそれを必要としている対象における癌または感染症を治療する方法も提供する。
【0013】
定義
理解の際の明確さ、および参照の際の容易さのために、簡単な説明部分および本出願の残りの全体にわたって使用される用語の一覧をここに編集してある。用語のいくつかは、分野の全体にわたって周知であり、および明確さのために本明細書で定義してあるが、一方で、用語のいくつかは、本出願に独特であり、そしてしたがって本出願を適切に理解するために定義されなければならない。
【0014】
「1つ(a)」または「1つ(an)」は、本明細書において1つまたは1つより多い;少なくとも1つを意味する。複数形が本明細書に使用される場合、それは、一般に単数を含む。
【0015】
また、本明細書において、端点による数値の範囲の詳説は、その範囲内に包含される全ての数を含む(たとえば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0016】
本明細書に使用される、用語「対象」は、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、類人猿、ブタ、ウサギ、ウシなどが挙げられるが、これらに限定されない任意の温血生物を指すことができる。本用語が、本出願の組成物を必要としている、または要求している対象の文脈において使用されるとき、本用語は、「それを必要としている対象」と称されてもよく、また本出願の組成物を必要としていると臨床的に診断された(たとえば、医学的専門家、たとえば医師によって)対象、本出願の組成物を必要としていると疑われる対象、疾患または症状に対するリスクがある対象、および本出願の組成物の利益を受ける場合がある対象、ならびに疾患または症状をすでに被っていて、かつ本出願の組成物から恩恵を受けるであろう対象を含む。
【0017】
本明細書に使用される場合、用語「薬学的に許容される」は、堅実な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比率と釣り合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応またはその他の問題もしくは合併症を伴わずに、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するために適切であるそれらの化合物、材料、組成物および/または剤形を指す。
【0018】
用語「治療的に有効な」は、疾患重症度を低減させる目標を達成し、一方で典型的には代替療法に付随するものなどの有害な副作用を回避するであろう薬剤の数または量を称することが意図される。治療的に有効な量は、1つまたは複数の用量で投与されてもよい。治療的に有効である治療は、それらがそれ自体で疾患結果を改善しない場合であっても、対象の生活の質を改善する治療を含む。
【0019】
一般に、「有効な量」は、本出願に記述した具体的な所望の効果を達成することを含む、たとえばサイトカイン形成を刺激するために有効な所望の局所的または全身的効果を提供する量を意味する。たとえば、有効な量は、有益な、または所望の臨床結果を遂行するために十分な量である。
【0020】
「治療する」、「治療すること」または「治療」は、本発明に関して広く使用され、かつこのようなそれぞれの用語は、とりわけ、療法を妨げるもの、および/またはそれから生じるものを含む、欠損、機能不全、疾患またはその他の有害なプロセスを予防する、寛解させる、阻害する、または治癒することを包含する。種々の態様において、疾患または障害の症候は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%だけ緩和される。
【0021】
本明細書に使用される場合、用語「投与」は、所望の部位にて組成物の少なくとも部分的な局在化を生じ、これにより所望の効果が生じる方法または経路による対象の中への組成物(たとえば、細胞組成物)の配置を指す。本明細書に記述した抵抗性ナチュラルキラー細胞または組成物は、経口経路、または静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、肺、経鼻、直腸および局所的(頬側および舌下を含む)投与を含む、非経口経路が挙げられるが、これらに限定されない当該技術分野において公知の任意の適切な経路によって投与することができる。
【0022】
本明細書に使用される場合、用語「サイトカイン」は、細胞シグナリングにおいて、および特定の免疫調節において重要である小タンパク質(約5~20kDa)を指す。サイトカインの例としては、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、および腫瘍壊死因子が挙げられる。
【0023】
TGFβi NK細胞を使用する治療
一つの態様において、本発明は、それを必要としている対象における癌または感染症を治療する方法を提供する。本方法は、対象に治療的に有効な数のTGF-βインプリントされたナチュラルキラー(TGFβi NK)細胞を投与することを含む。本明細書に記述されるように、TGF-βスーパーファミリーのサイトカインに対する典型的な増殖されたナチュラルキラー細胞の抵抗性がそれらを免疫系による抑制から保護するので、TGFβi NK細胞は、それらと比較してより有効であり、かつインビボでより長く持続することができる。
【0024】
本明細書に使用される場合、「ナチュラルキラー細胞」(「NK細胞」)は、免疫系の細胞毒性リンパ球のタイプを指す。NK細胞は、ウイルスに感染した細胞に対する迅速な応答を提供し、かつ形質転換細胞に応答する。典型的には、免疫細胞は、感染した細胞の表面上の主要組織適合複合体(MHC)分子によって提示された病原体からのペプチドを検出し、サイトカイン放出をトリガーし、溶解またはアポトーシスを生じる。しかし、NK細胞は、病原体からのペプチドがMHC分子上に存在するかどうかにかかわらず、それらがストレスを加えられた細胞を認識する能力を有するので、独特である。それらは、それらがターゲットを死滅するために事前の活性化を必要としないという最初のものであるため、「ナチュラルキラー」と命名された。NK細胞は、大顆粒リンパ球(LGL)であり、および骨髄内で分化し、かつ成熟し、次いでそこからそれらが循環の中へと入ることが公知である。
【0025】
本発明は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)スーパーファミリーのサイトカインに対して抵抗性であるNK細胞、並びにこのような抵抗性NK細胞を作製する、および使用する方法を含む。TGF-βスーパーファミリーは、構造的に関連した細胞制御タンパク質の大きなグループである。TGF-βは、多くの細胞タイプにおいて増殖、分化およびその他の機能を制御する多機能性ペプチドである。TGF-β-1は、前駆体タンパク質のC末端からのタンパク質分解的切断に由来する112アミノ酸残基のペプチドである。これらのタンパク質は、細胞表面セリン/スレオニン-特異的プロテインキナーゼ受容体の保存されたファミリーと相互作用し、そしてSMADと呼ばれるタンパク質の保存されたファミリーを使用して細胞内シグナルを産生する。TGF-βスーパーファミリーの主要なサブファミリーとしては、TGF-βサブファミリー(TGF-β 1~4アイソフォームを含む)、デカペンタプレジックVg関連(DVR)関連タンパク質(たとえば、骨形態形成タンパク質)、増殖分化因子(たとえば、GDF-1からGDF-15)、並びにアクチビンおよびインヒビンサブファミリーが挙げられる。いくつかの態様において、TGFβi NK細胞は、TGF-βに抵抗性である。
【0026】
TGFβi NK細胞は、対象における癌または感染症を治療するために使用することができる。典型的には、TGFβi NK細胞は、細胞の養子移入によって投与される。いくつかの態様において、対象は、癌を有すると診断されている。癌は、本明細書で定義されるように、細胞の相対的に抑制されない増殖をもたらす遺伝的損傷を含む細胞の発生に基づいた疾患である。癌細胞内に存在する遺伝的損傷は、癌細胞株のその後の世代において遺伝的形質として維持される。本発明の方法によって治療される癌は、当業者に公知である、または本明細書に記述される癌の形態のいずれかでもよい。固形腫瘍および典型的には白血病において見られる非固形腫瘍をその代わりに形成する癌の両方として顕在化する癌を治療することができる。本発明は、癌腫、肉腫およびリンパ腫を含む、種々の異なるタイプの癌で苦しめられている対象を治療する方法を提供する。
【0027】
いくつかの態様において、治療される癌は、白血病(たとえば、急性リンパ芽球性白血病;急性骨髄性白血病;慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病)、骨髄異形成症候群、リンパ腫(たとえば、B細胞非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、T細胞リンパ芽球性リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫)、固形腫瘍(たとえば、乳がん、前立腺がん、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、上咽頭癌、神経芽細胞腫、高悪性度膠腫)、肉腫(たとえば、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、非横紋筋肉腫軟部組織肉腫、骨肉腫)である。さらなる態様において、癌は、白血病、リンパ腫、横紋筋肉腫、脳癌および骨癌からなる群から選択される。
【0028】
癌治療の有効性は、TGFβi NK細胞の投与に応答して対象における腫瘍負荷の減少または腫瘍増殖の減少を評価することによって測定してもよい。腫瘍負荷の低減は、質量における直接低減を表してもよく、またはこれは、腫瘍増殖遅延に関して測定されてもよく、これは、対照腫瘍が一定の容積まで増殖する平均時間を、治療された腫瘍が同じ容積まで増殖するために必要とされる時間から引き算することによって算出される。
【0029】
その他の態様において、治療される対象は、感染症を有する。TGFβi NK細胞は、広範な全身作用を有し、および種々の異なる微生物による感染を治療するために使用することができる。本明細書に使用される場合、用語「感染症」は、ウイルス、病原性細菌または真菌での感染によって引き起こされ、かつ呼吸器官、血液、または皮膚接触を介して感染する可能性がある全ての疾患を含むことを意味する。このような感染症の非限定的な例としては、B型肝炎、C型肝炎、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)感染症、ヒト免疫不全症(HIV)、サイトメガロウイルス感染症、ウイルス性呼吸器疾患、インフルエンザなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
TGF-βインプリントされたナチュラルキラー細胞
本発明の別の態様は、本明細書においてTGFβi NK細胞と称する、TGF-βスーパーファミリーサイトカインの存在下において培養したナチュラルキラー(NK)細胞またはNK細胞株を提供する。これは、本明細書に記述した方法によって産生されるNK細胞または細胞株、および本明細書に提供されたNK細胞を含む組成物を含む。特定の側面において、組成物は、本明細書に提供されたNK細胞または細胞株の1つまたは複数を含む医薬組成物である。いくつかの態様において、TGFβi NK細胞は、TGF-βに対して増加した抵抗性を示す。
【0031】
TGFβi NK細胞は、同種異系細胞または自己細胞とすることができる。いくつかの態様において、NK細胞は、哺乳動物のNK細胞である。「哺乳動物」または「哺乳類」の例としては、霊長類(たとえば、ヒト)、イヌ、ネコ、齧歯類、ブタ、反芻動物などが挙げられる。具体例としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、モルモット、ラットおよびマウスが挙げられる。特定の態様において、哺乳動物NK細胞は、ヒトNK細胞である。
【0032】
TGFβi NK細胞は、天然に存在するNK細胞からそれらを区別する多数の特徴を示す。いくつかの実施形態において、NK細胞または細胞株は、TGF-βに対して増加した抵抗性を示す。その他の実施形態において、NK細胞は、増加した量のインターフェロン-γ(IFN-γ)、および/または腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、および/または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を産生する。さらなる態様において、NK細胞は、低減したレベルのSMADファミリーメンバー3(SMAD3)タンパク質および/またはトランスフォーミング増殖因子β受容体III(TGFBR3)タンパク質を示す。SMADタンパク質は、線虫(C. elegans)Smaおよびショウジョウバエ(Drosophila)Mad(Derynck et al.,Cell, 95(6),p737-740,1998)の名前の収縮形としてそれらの名前を受け、およびTGF-β応答の転写活性化因子である。
【0033】
TGFβi NK細胞は、天然に存在するNK細胞からそれらを区別する多数の特徴を示す。いくつかの実施形態において、NK細胞は、
図12に示したものに実質的に類似の遺伝子発現プロファイルを有する。実質的に類似である遺伝子発現プロファイルは、遺伝子発現が示したものの10%以内であるものである。いくつかの態様において、TGFβi NK細胞は、IFN-γ、TNF-αおよびGM-CSFタンパク質のうちの1つまたは複数の増加した量を産生する。いくつかの態様において、NK細胞または細胞株は、SCUBE1、MY07A、KLF3、WIPF3およびEPHA1の増加した発現を示す。
【0034】
TGFβi NK細胞は、天然に存在するNK細胞からそれらを区別する多数の特徴を示す。いくつかの態様において、TGFβi NK細胞は、低減したレベルのSMAD3タンパク質および/またはTGFBR3タンパク質を示す。いくつかの態様において、NK細胞または細胞株は、CD300A、SGSM1、SMAD3、TBX21およびGZMK、TGFBR3およびGZMAの低減した発現を示す。
【0035】
TGF-β-スーパーファミリーインプリントされたナチュラルキラー(TGFBi NK)細胞株の作製
本発明の別の態様は、TGF-β-スーパーファミリーインプリントされたナチュラルキラー(TGFβi NK)細胞株を作製する方法であって、TGF-β-スーパーファミリーサイトカインの存在下におけるナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化を含む方法を提供する。さらに、本方法は、本明細書に提供された方法によって産生される1つまたは複数のTGFβi NK細胞を単離する、または分離することを含むことができる。加えてさらに、本方法は、1つまたは複数のTGFβi NK細胞を培養することを含むことができる。いくつかの態様において、TGFβi NK細胞株が、産生される。いくつかの態様において、TGFβi NK細胞株は、TGF-βの存在下において増殖される。細胞株は、細胞培養において維持することができる複数の細胞である。
【0036】
増殖(すなわち、活性化)とは、NK細胞の生体外増殖を指し、これによりNK細胞の個体数が増加する。NK細胞は、たとえば、末梢血単核球から増殖することができる。しかし、NK細胞は、造血幹細胞または前駆細胞などのその他のタイプの細胞から増殖することもできる。最初の血液または幹細胞は、胎盤、臍帯血、胎盤血、末梢血、脾臓または肝臓のような種々の異なる供与源から単離することができる。増殖は、細胞培養培地において生じる。適切な細胞培養培地は、当業者に公知であり、またイーグル基礎培地(BME)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、グラスゴー最少必須培地(GMEM)、ダルベッコ変法イーグル培地/栄養混合物F-12ハム(DMEM/F-12)、最少必須培地(MEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、栄養混合物F-10ハム(ハムF-10)、栄養混合物F-12ハム(ハムF-12)、RPMI-1640培地、ウィリアム培地E、STEMSPAN(登録商標)(カタログ番号Stem Cell Technologies,Vancouver,Canada)、Glycostem基礎増殖培地(GBGM(登録商標))、AIM-V(登録商標)培地(Invitrogen)、X-VIVO(商標)10(Lonza)、X-VIVO(商標)15(Lonza)、OPTMIZER(Invitrogen)、STEMSPAN(登録商標)H3000(STEMCELL Technologies)、CELLGRO COMPLETE(商標)(Mediatech)またはそれらの任意の改変されたバリアントもしくは組み合わせが挙げられる。
【0037】
本明細書に使用される場合、用語「フィーダー細胞」は、分裂、および増殖する能力を有しないが、代謝活性を有し、またしたがって、種々の代謝産物を産生してターゲットNK細胞の増殖を補助する細胞を指す。本発明において使用してもよいフィーダー細胞の例としては、遺伝子が導入された動物細胞株、種々のサイトカインまたは化合物で処理された末梢血白血球(PBL)、自己または同種異系の末梢血白血球(PBL)、T細胞、B細胞、単球などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、フィーダー細胞は、K562フィーダー細胞である。さらなる態様において、K562フィーダー細胞は、クローン4細胞、クローン9細胞およびCSTX002細胞から選択される。
【0038】
いくつかの態様において、ナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化は、NK刺激エキソソームまたはNIC刺激ナノ粒子の存在下において実施される。エキソソームは、30~100nmの間の直径を持つ、エンドソームに由来する小さな細胞外ベシクルである。腫瘍由来エキソソームは、腫瘍細胞から多くの分子および因子を運び、かつナチュラルキラー細胞を刺激するために使用することができる。Li et al.,Exp Cell Res.,363(2):141-150(2018)を参照のこと。また、ナノ粒子は、ナチュラルキラー細胞を刺激するためにも使用することができる。ナノ粒子は、取り囲む界面の層を伴う1~2500nmの間の大きさの粒子である。これは、1~100nmのサイズを有する超微細ナノ粒子および100~2500nmのサイズを有する微細ナノ粒子を含む。ナノ粒子は、重合体またはグラフェンオキシドなどのミネラルを使用して調製することができる。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、ナチュラルキラー細胞を刺激することを補助する抗体などのさらなるグループを含むように機能的にされる。たとえば、Loftus et al.,Nano Lett.,18(5):3282-3289(2018)を参照のこと。
【0039】
投与量および投与
TGFβi NK細胞は、投与の部位および方法、投与のスケジューリング、患者の年齢、性別、体重、治療または予防される障害の性質および重症度、並びに医師に公知のその他の因子を考慮して、優れた医療行為に従って投与および服用されるべきである。細胞は、単回用量で、または分割された用量で投与されてもよい。したがって、本明細書における目的のための薬学的に「有効な量」は、当該技術分野において公知であるこのような考慮すべき事項によって決定される。量は、改善された生存率もしくはより迅速な回復、または症候および当業者による適切な手段として選択されるその他の指標の改善もしくは除去を含むがこれらに限定されない、改善を達成するために有効でなければならない。
【0040】
典型的には、前記用量は、約10×106細胞/対象重量のkg以下、約9×106細胞/kg以下、約8×106細胞/kg以下、約7×106細胞/kg以下、約6×106細胞/kg以下、約5×106細胞/kg以下である。代替的な実施形態において、前述の用量は、約0.25×106細胞/kg~約5×106細胞/kgであってもよく、または約1×106細胞/kg~約5×106細胞/kgであることがより好ましい。したがって、さらなる代替的な実施形態において、用量は、約0.25×106細胞/kg、0.5×106細胞/kg、0.6×106細胞/kg、0.7×106細胞/kg;0.8×106細胞/kg;0.9×106細胞/kg;1.1×106細胞/kg;1.2×106細胞/kg;1.3×106細胞/kg;1.4×106細胞/kg;1.5×106細胞/kg;1.6×106細胞/kg;1.7×106細胞/kg;1.8×106細胞/kg;1.9×106細胞/kg、または2×106細胞/kgであってもよい。用量は、その他の実施形態において、0.1~1百万細胞/kg;または1~2百万細胞/kg;または2~3百万細胞/kg;または3~4百万細胞/kg;または4~5百万細胞/kg;または5~6百万細胞/kg;または6~7百万細胞/kg;または7~8百万細胞/kg;または8~9百万細胞/kg;または9~10百万細胞/kgであってもよい。
【0041】
投与の例示的様式としては、注射、輸液、点滴、吸入または摂取が挙げられるが、これらに限定されない。「注射」としては、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、クモ膜下、脊髄内、脳脊髄内および胸骨内の注射および輸液が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい態様において、組成物は、静脈内の輸液または注射によって投与される。
【0042】
TGFβi NK細胞は、医薬組成物の形態で供給することができ、ヒト投与のために十分に無菌条件下で調製された等張性賦形剤を含む。組成物は、無菌とすることができる。製剤は、投与の様式に適するべきである。医薬製剤における一般的な原則について、読者は、Cell Therapy:Stem Cell Transplantation,Gene Therapy,and Cellular Immunotherapy,by G.Morstyn & W.Sheridan eds,Cambridge University Press,1996;およびHematopoietic Stem Cell Therapy,E.D.Ball,J.Lister & P.Law,Churchill Livingstone,2000を参照するものとする。細胞の賦形剤の選択およびTGFβi NK細胞の個体数を含む組成物の任意の付随的要素は、投与に使用される経路および装置に従って適合されるであろう。
【0043】
いくつかの態様において、TGFβi NK細胞は、薬学的に許容される担体と共に投与される。適切な薬学的に許容される担体としては、水、塩溶液(たとえば、NaCl)、生理食塩水、緩衝生理食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトースなどの炭水化物、アミロースもしくはデンプン、デキストロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘稠性のパラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、並びにそれらの組み合わせが挙げられるが、限定されない。医薬品製剤は、所望に応じて、活性化合物と有害に反応しない補助薬剤、たとえば潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤薬剤、乳化剤、浸透圧に影響するための塩、緩衝液、着色剤、香味料および/または芳香族物質などと混合することができる。
【0044】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。実施例において開示した技法が、本発明の実施において十分に機能するように本発明者によって発見された代表する技術に従い、そしてそれ故に、その実行のための好ましい様式を構成するものとみなすことができることは、当業者によって認識されるはずである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、開示された具体的態様において、多くの変更をなすことができることを認識するはずであり、それでもなお本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく同様の、または類似の結果を得るはずである。
【実施例】
【0045】
実施例1:TGF-βによるTGF-β抵抗性になるためのNK細胞のインプリンティング
本発明者は、重要なTGF-βシグナリングタンパク質、SMAD3のうちの1つの損失を介する可能性が最も高い、TGF-βに対して低下した感受性を有するTGF-β培養を用いて増殖されたヒトNK細胞(TGFβi NK)を産生した。本発明者は:a)TGFβi NK細胞が、腫瘍ターゲットに対して著しく増加したIFN-γ、TNF-αおよびGM-CSF分泌を有し、かつb)TGFβi NK細胞が、少なくとも活性化後1ヵ月間サイトカイン分泌過多を保持することを実証する。
【0046】
方法
細胞培養:NK細胞をGlutamax、10%のFBS、および抗生物質で補充したRPMI 1640培地において培養した。全ての細胞をルーチンでLonza MycoAlert(Lonza、LT027-58)を使用してマイコプラズマ混入について試験し、そして全ての時点にてネガティブであることが分かった。K562フィーダー細胞をATCC(CCL-243)から購入し、および100Gyにて照射した。
【0047】
NK細胞増殖:精製した初代ヒトNK細胞を、照射されたK562を用いて0日目に1:2で、および7日目に1:1で刺激した。使用したK562細胞株は、無修飾(親)、4-1BBLを発現し、かつ膜結合したIL-15(クローン4)、または4-1BBLを発現し、かつ膜結合したIL-21(クローン9またはCSTX002)として図凡例に示してある。標準的な増殖されたNK細胞は、50IU/mLの組換えヒトIL-2で補充され、かつ抵抗性の(TGFβi NK)増殖されたNK細胞は、50IU/mLのIL-2および10ng/mLのTGF-β(Biolegend、580706)を受容した。新鮮な培地およびサイトカインを2~3日毎に添加した。NK細胞増殖は、CD3-/CD56+細胞の割合に基づいて算出した。
【0048】
フローサイトメトリー:細胞内フローサイトメトリーは、GolgiStop(BD Biosciences、554715)でBD Cytofix/Cytoperm固定/透過処理キットを使用して行った。以下のタンパク質のための抗体をNK表現型および機能を評価するために使用した:CD3 PeCy7/APC-H7、CD56 FITC/BV421、NKG2D Pe-CF594/BV5lO、TRAIL PE/APC/BV421、FasL PE、NKp30 PE/Alexa Fluor 647/PE-Vio6l5、グランザイムA APC、グランザイムB BV510、パーフォリンBV421、DNAM-1 BV711、CD 107a BV510、IFN-γ APC、TNF-α BV421、CD16 PE、およびTonbo Ghost Dye 510/780。細胞イベントは、LSR Fortessaで得た。フローサイトメトリーゲーティングを生存率色素のみで染色した細胞を使用して決定し、および単一色対照をFlowJo 7.6.5/10 SMAD3フローを使用して解析した。
【0049】
細胞毒性アッセイ:NK細胞は、ヒトIL-2単独または10ng/mLの可溶性TGF-β(Biolegend)を伴うIL-2(50IU/mL)いずれかにおいて一晩静置することによって細胞毒性アッセイのために調製された。カルセイン-AMに基づいた方法を用いた細胞毒性アッセイを、完全培地において3μgカルセインAM/mL/1,000,000ターゲット細胞を使用して少なくとも2回行った。カルセインアッセイは、NK細胞を一晩静置したときと同じサイトカインにおいて行った。Somachi et al.,Journal of visualized experiments:JoVE 48,2540(2011)。
【0050】
細胞内機能フローサイトメトリー:腫瘍に応答したCD 107a発現および細胞内サイトカイン産生による脱顆粒を決定するために、300,000 NK細胞を96ウェル丸底プレートにおいて、60,000腫瘍細胞(5:1のE:T比率)と共に、または対照のためにターゲット無しで、細胞毒性アッセイのために記述したとおりの200μl培地において共培養した。1μlのモネンシンをアッセイの始めにCD 107aと共にそれぞれの試料に添加した。プレートを100g×2分回転して細胞-細胞接触を促進し、そして37℃のインキュベーター内に3時間置いた。3時間後に培地を取り除き、および詳述したとおりに染色が細胞表面および細胞内タンパク質について始まった。
【0051】
サイトメトリービーズアレイ(CBA):NK細胞がIFNγおよびTNFαを放出するのを判定するために、NK細胞をモネンシンおよびCD 107a抗体を除いて細胞内機能フローサイトメトリーについて記述したとおりに培養した。腫瘍ターゲットとの3時間の共培養または10μg/mLのPHAを用いた4時間の刺激の後、上清を収集し、および使用まで-75℃にて凍結した。アッセイの日に上清を解凍し、および50μLの希釈していない上清をBD CBA Soluble Protein Master Kit (BD Biosciences,Cat#:558265)、およびIFNγおよびTNFαFlex Set (BD Biosciences,Cat:558269,560112)、またはMACSPlex Cytokine 12 Kit(Miltenyi,Cat:130-099-169)について製造業者の説明書に従って使用した。検体をBD LSR IIまたはMACSQuant上に取得した。それぞれの検体についての幾何学的平均をFlow Jo v.10.1において決定し、また未知の試料をBD LSR II取得した試料についての公知の標準からR2≧0.9を持つ標準曲線を使用して補間した。MACSQuant取得した検体の解析をMACSQuantifyソフトウェア(バージョン2.8、Bergisch GladbacK、Germany)を使用して行った。このソフトウェアは、MACSPlex標準の平均APC中間値を使用し、そしてそれぞれの試料におけるサイトカイン濃度を算出する。
【0052】
サイトカインを用いたNK細胞活性化:IL-12、IL-15、およびIL-18を用いたNK細胞刺激について、初代NK細胞を、記述したとおりに、10ng/mLのIL-12(Biolegend、573002)、50ng/mLのIL-15(Biolegend、570302)および50ng/mLのIL-18(Biolegend、592102)で一晩刺激し、そしてIL-12、IL-15、およびIL-18を用いた一晩の刺激の後、7~14日間1ng/mLのIL-15中で静置した。サイトカイン産生に対するIL-2およびTGFβの効果を決定するために、NK細胞を記述したとおりに、しかしIL-12、IL-15、およびIL-18を用いた一晩の刺激において示したように、IL-2および/またはTGF-βを添加し、かつ1ng/mLのIL-15と共に、7~14日間処理した。サイトカイン産生を測定するために、NK細胞を1ng/mLのIL-15中に一晩のみ、かつアッセイの全体にわたって静置し、そして5:1の比率の、またはターゲット無しの対照として同数のNK細胞の数にてMG63と共培養し、そして細胞内フロー染色を下記のように行った。
【0053】
RT-PCR/qPCR:新鮮な、決して凍結したことのない14日目の増殖されたヒトNK細胞からのRNAをRNAeasyキット、QiaShredder ColumnsおよびRNAase-Free DNaseセット(すべてQiagen、74104、79654、79254)を使用して単離し、そしてcDNAを大容量cDNA逆転写キット(Thermo Fisher、4368814)で合成した。TGF-β経路のためのPCRをApplied Biosystems 7900HT においてTaqman Fast PCR MastermixおよびHuman Fast 96-well Pathway Array (ThermoFisher、4418742)を使用して行った。
【0054】
統計分析:統計分析をGraphPad Prism 6.0または7.0(La Jolla,CA,USA)を使用してそれぞれの図凡例において記述したとおりに行った。0.05未満のP値は有意であるとみなした。
【0055】
結果および考察
IFNγおよびTNFαは、抗腫瘍応答において重要な2つの炎症誘発性サイトカインであり、およびそれらの産生がTGF-βによって阻害されることが報告されている。NK細胞による炎症誘発性サイトカインの産生を決定するために、NK細胞を、親(修飾されていないK562)プラスまたはマイナスTGFβと共に2週間培養した。2週間の終わりに、対照およびTGFβi NK細胞を、記述したとおりに腫瘍ターゲットと共にインキュベートし、そして上清を収集してサイトメトリービーズアレイでIFN-γおよびTNF-α分泌を測定した。対照の増殖されたNK細胞と比較してTGF-βの存在および非存在下の両方でIFN-γおよびTNFα分泌における有意な増加が観察された(
図1)。
【0056】
次に、K562またはその他の腫瘍細胞による刺激がTGFβiサイトカイン過剰産生のために必要かどうか決定した。この目的のために、腫瘍刺激の非存在下においてNK細胞を活性化するために十分に確立されているIL-12、IL-15、およびIL-18を使用した。TGFβが培養に添加されたとき、NK細胞は、腫瘍刺激に応答して増加したIFNγおよびTNFαを産生した(
図2)。
【0057】
その他のK562フィーダー細胞が高められたサイトカイン産生を用いてTGFβi NK細胞を産生することができたかどうか決定するため。mbIL-l5(
図3)またはmbIL-21(
図4)を発現するK562を、TGFβをプラスあるいはマイナスして2週間NK細胞と共培養した。両方のフィーダー細胞は、増加したサイトカイン産生を用いてTGFβi NK細胞を誘導した。
【0058】
TGFβは、NK細胞増殖を阻害することが報告されているので、K562mbIL-21刺激に応答する2週間の増殖を測定した。この目的のために、TGFβは、増殖に有意に影響を及ぼさなかった(
図5)。
【0059】
次に、TGFβi NK細胞表現型および機能の持続を決定した。TGFβi NKおよびドナーマッチした標準NK細胞を、2週間の活性化の完了後に低用量IL-2単独(たとえば、TGFβi NKをTGF-βから取り除いた)において静置した。TGFβi NK細胞を、増殖の終わりおよび活性化後7~33日間にIFN-γおよびTNF-αの分泌について評価した。活性化後、TGFβi NK細胞は、ベースラインにて、およびTGF-β処理の両方で、IFN-γおよびTNF-α分泌におけるそれらの増加を維持した(
図6)。
【0060】
加えて、TGFβi NK細胞が種々の刺激に応答してサイトカイン過剰産生を維持するかどうか決定したかった。この目的のために、TGFβi NK細胞が髄芽腫細胞株および神経芽細胞腫細胞株に応答して増加したIFNγおよびTNFαを産生したこと、およびサイトカインのこの高められた産生がPHA刺激で誘導され、増加した抗腫瘍サイトカインを産生する先天的能力を示唆していることを見出した(
図7および9)。
【0061】
NK細胞抗腫瘍機能の抑制因子としてのSMAD3の機能が明らかになってきた。SMAD3は、IFNγプロモーターに直接的に結合してIFNγ発現を阻害し、またSMAD3
-/-マウスは、NK細胞機能を増強し、そして腫瘍増殖を低減した。したがって、本発明者らは、SMAD3がウエスタンブロットによってタンパク質レベルにおいて低減するかどうか判定し、そして著しく低減したSMAD3タンパク質を有するTGFβi NKを見いだした(
図8)。
【0062】
さらに、TGFβi NK細胞の細胞毒性を、親K562と共に培養されたNK細胞をインビトロで、およびmbIL-2lと共に増殖されたNK細胞をインビボで試験した。細胞毒性は、影響を受けなかった(
図10)。実際に、インビボにおいてTGFβi NK細胞は、NSGマウスの肺における骨肉腫の増殖を有意に低減させた(
図11)。
【0063】
加えて、RNA-seq解析を使用して、TGFβi NK細胞が対照NK細胞とは転写的に異なり、機能に加えて細胞表現型における幅広い変化を示唆していることを見いだした(
図12)。
【0064】
要約すると、TGF-β培養を用いて増殖されたヒトNK細胞(TGFβi NK)は、重要なTGF-βシグナリングタンパク質、SMAD3のうちの1つの減少を介する可能性が最も高い、TGF-βに対して低下した感受性を有する。TGFβi NK細胞は、IFN-γ、TNF-αおよびGM-CSF分泌を著しく増加した。驚くべきことに、および以前の論文と対照的に、TGF-βは、TGFβi NK細胞の2週間の増殖の全体にわたって阻害しなかった。Bellone et al.,J Immunol 155:1066-1073 (1995)。増殖を誘導するために以前の論文において使用された刺激条件(IL-2およびIL-15)および時点は、増殖において観察された相違の鍵であり得る。NK細胞増殖に対するTGF-βの効果についての以前の測定は、短期間の増殖を試験し、そして2週間の増殖は試験しなかった。Viel et al.,Science signaling 9:ral9(2016)。本発明者らは、腫瘍活性化を用いた慢性的TGF-β刺激が生存のために潜在的にSMAD3negであるNK細胞の特異的サブセットの活性化を駆動することを提唱する。これらのSMAD3neg NK細胞は、細胞培養培地においてTGF-βによるSMAD3のリン酸化に抵抗性であり、増加した増殖を可能にするであろう。Oida et al.,Journal of immunological method 362:195-198(2010)。
【0065】
TGFβi NK細胞がIFN-γおよびTNF-αを産生する能力を評価したが、これは、これらのサイトカインがTGF-βを阻害すること、および逆にTGF-βがIFN-γおよびTNF-αの産生を阻害することの両方ができるためである。驚くべきことに、TGFβ処理を伴う標準的なNK細胞および伴わない標準的なNK細胞の両方と比較してTGFβi NK細胞において著しく増加した抗腫瘍IFN-γおよびTNF-α分泌が見いだされた。以前の研究では、SMAD3欠失がベースラインIFN-γ産生を増加させることを実証しており、したがって、類似の機構がSMAD3を発現しないTGFβi NK細胞においても生じている可能性が高い。Tang et al.,Nat Commun 8:14677(2017)。TGF-βは、初代NK細胞におけるTNFα産生を阻害することが報告されている(Bellone et al.,J Immunol 155:1066-1073(1995))。予想外に、TGFβi NK細胞は、標準的なNK細胞と比較してアッセイ培地中にTGF-βを有して、または有しないでTNF-αの分泌を有意に増加した。TNF-α産生の制御は、よりよく理解されていないが、TGFβによって阻害されることも公知であるので、TGFβi NK細胞において増加したTNF-α分泌を見いだすことは、予想外であった。
【0066】
本発明は、その好ましい態様に関して特に示し、かつ記載してきたが、形式および詳細の種々の変更が添付の特許請求の範囲によって包含される発明の範囲から逸脱することなくその中になされてもよいことが当業者によって理解されよう。前述の明細書において引用したすべての特許、刊行物および参考文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。
本発明は、以下の態様を含み得る。
[1]
それを必要としている対象における癌または感染症を治療する方法であって、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)スーパーファミリーインプリントされたナチュラルキラー(TGFβi NK)細胞の治療的に有効な数を前記対象に投与することを含む、方法。
[2]
前記対象が、感染症を有する、[1]に記載の方法。
[3]
前記感染症が、ウイルス感染症である、[2]に記載の方法。
[4]
前記対象が、癌を有する、[1]に記載の方法。
[5]
前記癌が、固形腫瘍である、[4]に記載の方法。
[6]
前記癌が、白血病、リンパ腫、横紋筋肉腫、脳癌および骨癌からなる群から選択される、[4]に記載の方法。
[7]
前記TGFβi NK細胞が、TGF-βに抵抗性である、[4]に記載の方法。
[8]
前記TGFβi NK細胞が、IFN-γ、TNF-αおよびGM-CSFの1つまたは複数の増加した量を産生する、[1]に記載の方法。
[9]
前記TGFβi NK細胞が、SMAD3タンパク質および/またはTGFBR3タンパク質の低減したレベルを示す、[1]に記載の方法。
[10]
前記TGFβi NK細胞が、図12に示したものと実質的に類似の遺伝子発現プロファイルを有する、[1]に記載の方法。
[11]
前記TGFβi NK細胞が、薬学的に許容される担体と共に投与される、[1]に記載の方法。
[12]
TGF-βスーパーファミリーサイトカインに対して増加した抵抗性を示すナチュラルキラー(NK)細胞またはNK細胞株。
[13]
前記NK細胞または細胞株が、TGF-βに対して増加した抵抗性を示す、[12]に記載のNK細胞または細胞株。
[14]
前記NK細胞が、増加した量のIFN-γ、TNF-αおよびGM-CSFのうちの1つまたは複数を産生する、[12]に記載のNK細胞または細胞株。
[15]
前記NK細胞が、SMAD3タンパク質および/またはTGFBR3タンパク質の低減したレベルを示す、[12]に記載のNK細胞または細胞株。
[16]
前記NK細胞が、図12に示したものと実質的に類似の遺伝子発現プロファイルを有する、[12]に記載のNK細胞または細胞株。
[17]
前記NK細胞が、TGF-βの存在下におけるナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化によって調製される、[12]に記載のNK細胞または細胞株。
[18]
前記NK細胞が、ヒトNK細胞である、[12]に記載のNK細胞または細胞株。
[19]
前記NK細胞が、イヌNK細胞である、[12]に記載のNK細胞または細胞株。
[20]
TGF-βスーパーファミリーインプリントされたナチュラルキラー(TGFβi NK)細胞株を作製する方法であって、TGF-βスーパーファミリーサイトカインの存在下におけるナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化を含む、方法。
[21]
前記TGFβi NK細胞株が、TGF-βの存在下において活性化される、[20]に記載の方法。
[22]
白血病フィーダー細胞の存在下におけるナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化をさらに含む、[20]に記載の方法。
[23]
前記フィーダー細胞が、K562フィーダー細胞である、[22]に記載の方法。
[24]
前記K562フィーダー細胞が、共刺激タンパク質および/またはサイトカインを発現するように遺伝的に修飾される、[23]に記載の方法。
[25]
NK刺激エキソソームまたはNK刺激ナノ粒子の存在下におけるナチュラルキラー細胞のインビトロ活性化をさらに含む、[20]に記載の方法。