(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】工具および締結方法
(51)【国際特許分類】
B25B 13/00 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
B25B13/00 C
(21)【出願番号】P 2021014517
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 栄
(72)【発明者】
【氏名】古谷 浩平
(72)【発明者】
【氏名】和田 昌敏
(72)【発明者】
【氏名】厳 明光
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-106758(JP,U)
【文献】特開平08-141919(JP,A)
【文献】実開平06-031959(JP,U)
【文献】実開昭52-037400(JP,U)
【文献】実開昭49-133218(JP,U)
【文献】米国特許第01406331(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101434059(CN,A)
【文献】実開昭55-169369(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B13/00-19/00
B25B23/00-23/18
F16B37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの頭部を嵌合させることが可能なボルト嵌合部が形成される第1の部分と、
前記ボルトに螺合する第1のナットを嵌合させることが可能なナット嵌合部が形成される第2の部分と、
前記第1の部分および前記第2の部分を前記ボルトの軸方向について互いに離隔して保持する連結部と
を備え、
前記連結部は、前記ボルト嵌合部または前記ナット嵌合部の開口幅より、前記開口幅と同一方向へ長いこと
を
特徴とする工具。
【請求項2】
前記第1の部分および前記第2の部分は、それぞれ前記ボルトの軸方向に対して垂直な第1および第2の板状部分であり、
前記連結部は前記第1および第2の板状部分のそれぞれに対して垂直に配置される第3の板状部分を含む、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記連結部に取り付けられる把手をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の工具。
【請求項4】
ボルト嵌合部が形成される第1の部分と、ナット嵌合部が形成される第2の部分と、前記第1の部分および前記第2の部分を互いに離隔して保持する連結部
であって、その長さが前記ボルト嵌合部または前記ナット嵌合部の開口幅より、前記開口幅と同一方向へ長い連結部とを有する工具を用いた締結方法であって、
被締結物に形成された貫通孔にボルトを挿通し、前記ボルトに第1のナットを螺合させる工程と、
前記ボルト嵌合部に前記ボルトの頭部を嵌合させ、前記ナット嵌合部に前記第1のナットを嵌合させた状態で、前記ボルトに第2のナットを螺合させて前記第2のナットを前記第1のナットに接触させる工程と
を含む締結方法。
【請求項5】
前記ボルトに前記第2のナットを螺合させる工程では前記連結部が前記被締結物の端面に接触させられる、請求項4に記載の締結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具および締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、二重ナットでボルトを締め付ける場合、被締結物の貫通孔に挿通された第1のナットを所定のトルクで締め付けた後に、第2のナットを締め付ける。つまり、第2のナットの締め付け時において被締結物との間に作用する摩擦力によってボルトおよび第1のナットの回転は抑制され、第2のナットだけを回転させて締め付けることができる。
【0003】
一方、特許文献1には、回転杭継手構造の例として、杭本体の端部に固定された一対の端板と、端板の各々を貫通する嵌合凹部にそれぞれ嵌合する嵌合部材とを有し、嵌合凹部および嵌合部材を介してそれぞれの杭本体の間でトルクを伝達可能な構造が記載されている。特許文献1の例では、端板の各々の杭本体よりも外側に張り出した部分によって形成されるフランジがボルトおよびナットを用いて互いに締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1の例の場合でも、フランジを締結するボルトおよびナットの緩み止めのために二重ナット締結を用いることができる。ただし、特許文献1の例では、回転杭のトルクを伝達するための嵌合部材が別途配置されるため、ボルトおよびナットはフランジ同士が離れるのを防止できればよく、回転杭のトルクを伝達することは必要とされない。従って、二重ナット締結を用いる場合でもトルクを加えて第1のナットを締め付けるのではなく、ボルトの頭部と第1のナットとがそれぞれフランジに軽く接触する程度の締め付けにとどめる方が、ボルトに作用するせん断力を最小化できるため好ましい。
【0006】
ところが、上記のような二重ナットの締め付けの場合、第2のナットの締め付け時にはボルトおよび第1のナットと被締結物との間に十分な摩擦力が作用しないため、回転が抑制されない。これによって、例えば第2のナットの締め付け時にボルトが共回りして締め付けができなかったり、第2のナットとの接触、または第2のナットを締め付けるための工具との接触によって第1のナットが第2のナットとともに回転してトルクがかかり、ボルトに不必要なせん断力が作用したりする可能性がある。
【0007】
上記のような不具合を防止するためには、第2のナットの締め付け時にボルトの頭部および第1のナットの両方の回転を別途の手段によって抑制する必要があるが、フランジを挟んで位置するボルトおよびナットの両方の回転を同時に抑制できるような工具は存在しない。従って、例えば2つのスパナなどの工具でボルトおよび第1のナットのそれぞれの回転を抑制することに作業員1人の労力が費やされ、第2のナットの締め付けのためにもう1人の作業員が必要になるといった不経済性が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、二重ナット締結においてボルトおよび第1のナットに十分な摩擦力が作用しない場合でも第2のナットを適切に締め付けることを可能にする工具および締結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]ボルトの頭部を嵌合させることが可能なボルト嵌合部が形成される第1の部分と、ボルトに螺合する第1のナットを嵌合させることが可能なナット嵌合部が形成される第2の部分と、第1の部分および第2の部分をボルトの軸方向について互いに離隔して保持する連結部とを備える工具。
[2]第1の部分および第2の部分は、それぞれボルトの軸方向に対して垂直な第1および第2の板状部分であり、連結部は第1および第2の板状部分のそれぞれに対して垂直に配置される第3の板状部分を含む、[1]に記載の工具。
[3]連結部に取り付けられる把手をさらに備える、[1]または[2]に記載の工具。
[4]ボルト嵌合部が形成される第1の部分と、ナット嵌合部が形成される第2の部分と、第1の部分および第2の部分を互いに離隔して保持する連結部とを有する工具を用いた締結方法であって、被締結物に形成された貫通孔にボルトを挿通し、ボルトに第1のナットを螺合させる工程と、ボルト嵌合部にボルトの頭部を嵌合させ、ナット嵌合部に第1のナットを嵌合させた状態で、ボルトに第2のナットを螺合させて第2のナットを第1のナットに接触させる工程とを含む締結方法。
[5]ボルトに第2のナットを螺合させる工程では連結部が被締結物の端面に接触させられる、[4]に記載の締結方法。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、ボルト嵌合部にボルトの頭部を嵌合させ、ナット嵌合部に先行してボルトに螺合された第1のナットを嵌合させることによって、これらのボルトおよびナットの回転を同時に抑制することができる。従って、二重ナット締結においてボルトおよび第1のナットに十分な摩擦力が作用しない場合でも第2のナットを適切に締め付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工具の側面図である。
【
図2】
図1のII-II線矢視図にあたる工具の平面図である。
【
図3】工具の連結部を被締結物の端面に接触させる例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る工具の側面図であり、
図2は
図1のII-II線矢視図にあたる工具の平面図である。図示された例において、工具10は、第1の板状部分11と、第2の板状部分12と、連結部13と、把手14とを含む。第1の板状部分11にはボルト嵌合部111が形成され、第2の板状部分12にはナット嵌合部121が形成される。連結部13は、第1の板状部分11および第2の板状部分12を互いに離隔して保持する。第1の板状部分11と第2の板状部分12とは、ボルト嵌合部111に頭部が嵌合させられるボルトの軸方向について互いに離隔している。
【0014】
図示された例では、被締結物である1対のフランジ1A,1Bに形成された貫通孔に挿通されるボルト2と、ボルト2に螺合されるナット3A,3Bとによって二重ナット締結が構成される。ここで、フランジ1A,1Bは、例えば上記の国際公開第2019/111882号に記載された回転杭の端板によって形成される1対のフランジである。この場合において、ボルト2およびナット3A,3Bはフランジ1A,1Bが互いに離隔するのを防止できればよく、せん断力を負担する必要はない。既に述べたように、このような場合においては、ボルト2の頭部21およびナット3Aとフランジ1A,1Bとの間には摩擦力を必要としない。工具10は、このような二重ナット締結において、第2のナットであるナット3Bの締め付け時に、ボルト2および第1のナットであるナット3Aの回転を抑制するために用いられる。
【0015】
具体的には、工具10で第1の板状部分11に形成されるボルト嵌合部111はボルト2の頭部21を嵌合させることが可能な部分であり、第2の板状部分12に形成されるナット嵌合部121はナット3Aを嵌合させることが可能な部分である。例えばボルト2の頭部21およびナット3Aが六角形である場合、頭部21またはナット3Aが嵌合部に嵌合可能であることは、嵌合部の開口幅wが頭部21またはナット3Aの二面幅以上、対角距離未満であることを意味する。ボルト2の頭部21とナット3Aとは、例えば同じ平面形状であっても回転角度が異なる場合があるため、開口幅wは頭部21またはナット3Aの二面幅に対して余裕をもった寸法であることが好ましい。
【0016】
工具10において、ボルト嵌合部111が形成される第1の板状部分11と、ナット嵌合部121が形成される第2の板状部分12とは、それぞれの嵌合部にボルト2の頭部21およびナット3Aを嵌合させたときのボルト2の軸方向(
図1における上下方向)について互いに離隔して配置される。工具10とボルト1の頭部21およびナット3Aとの間で嵌合接触面を確実に確保するための条件として、第1の板状部分11と第2の板状部分12との間の内寸d1は、被締結物である1対のフランジ1A,1Bの合計厚さに座金などの介挿物の厚さを加えた寸法h1以上であり、かつ内寸d1に第1の板状部分11の厚さと第2の板状部分12の厚さとを加えた外寸d2は、寸法h1にボルト2の頭部21およびナット3Aのそれぞれの高さを加えた寸法h2未満である(h1≦d1、かつd2<h2)。
【0017】
なお、図示された例では第1の板状部分11および第2の板状部分12がU字形(またはコの字形)でありボルト嵌合部111およびナット嵌合部121がそれぞれ板状部分の切り欠きとして形成されているが、他の例では例えば第1の板状部分11および第2の板状部分12がそれぞれ2つの板状部分に分割されており、それぞれの板状部分の間の隙間としてボルト嵌合部111およびナット嵌合部121が形成されてもよい。この場合、隙間の大きさが上記の例の開口幅wに対応する。また、第1の板状部分11および第2の板状部分12は、ボルト1の頭部21およびナット3Aをそれぞれ嵌合させることが可能な嵌合部を形成することが可能な形状であれば必ずしも板状でなくてもよく、例えば開口幅wに対応する大きさの隙間で離隔して配置された1対の棒状部材であってもよいし、上記の板状部分が厚みを増したようなブロック状の部材であってもよい。
【0018】
工具10を用いたボルトおよびナットの締結工程では、まずフランジ1A,1Bに形成された貫通孔にボルト2を挿通し、ボルト2にナット3Aを螺合させる。このとき、ナット3Aはトルクを加えて締め付けるのではなく、例えばナット3Aがフランジ1Aに、ボルト2の頭部21がフランジ1Bに、それぞれ軽く接触する程度に手で締め付ける程度でよい。なお、ナット3Aとフランジ1Aとの間の接触、およびボルト2の頭部21とフランジ1Bとの間の接触は、それぞれ直接的な接触であってもよいし、座金などを介した間接的な接触であってもよい。既に述べたように、この接触によっては、ボルト2およびナット3Aの回転を抑制できるような摩擦力は作用しない。
【0019】
次に、工具10を用いて、ボルト2の頭部21およびナット3Aの回転を同時に抑制しながら、ボルト2にナット3Bを螺合させる。具体的には、工具10のボルト嵌合部111にボルト2の頭部21を嵌合させ、ナット嵌合部121にナット3Aを嵌合させた状態でボルト2にナット3Bを螺合させて、ナット3Bをナット3Aに接触させる。このとき、上述のように嵌合部の開口幅wの寸法に余裕をもたせておくことによって、ボルト2の頭部21とナット3Aとの平面形状に回転角度のずれがある場合にも、それぞれを余分に回転させて回転角度を揃えることなく、頭部21およびナット3Aをそれぞれボルト嵌合部111およびナット嵌合部121に嵌合させることができる。
【0020】
上記のような工程によってボルト2の頭部21およびナット3Aの回転を同時に抑制しながらボルト2にナット3Bを螺合させることによって、ボルト2の共回りやナット3Aの過剰な締め付けを生じることなく、ナット3Bの円滑な締め付けが可能になる。例えば一方の手で工具10を保持してボルト2の頭部21およびナット3Aの回転を同時に抑制し、他方の手でスパナなどの工具を用いてナット3Bを締め付けることが可能であるため、作業員1人で締め付け作業を行うことができ、施工の経済性が向上する。
【0021】
工具10において、連結部13は、第1の板状部分11と第2の板状部分12とを連結する。連結部13の形状は特に限定されないが、図示された例では第1の板状部分11および第2の板状部分12のそれぞれに対して垂直に配置される板状部分として連結部13が形成される。例えばこのように連結部13を形成することによって、
図3に示すようにボルト嵌合部111およびナット嵌合部121にそれぞれボルト2の頭部21およびナット3Aを嵌合させた状態で、連結部13を被締結物であるフランジ1A,1Bの端面に接触させることができる。これによって、ボルト2およびナット3Aの回転を抑制するための反力をフランジ1A,1Bの端面にとることができ、例えば連結部13に取り付けられる把手14がなくても、工具10を安定的に固定した上でナット3Bの締め付けを行うことができる。把手14は、工具10の取り回し性を向上させるために取り付けることが可能であるが、上記の通り省略されてもよい。
【0022】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0023】
1…ボルト、1A,1B…フランジ、2…ボルト、21…頭部、3A,3B…ナット、10…工具、11…第1の板状部分、111…ボルト嵌合部、12…第2の板状部分、121…ナット嵌合部、13…連結部、14…把手。