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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20241121BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20241121BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01L21/66 J
G01M11/00 T
G01N21/64 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021023161
(22)【出願日】2021-02-17
(62)【分割の表示】P 2020104555の分割
【原出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021081441
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019062968
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019199928
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】中村 共則
(72)【発明者】
【氏名】池村 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】大高 章弘
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010834(JP,A)
【文献】特開2011-017569(JP,A)
【文献】特開2010-118668(JP,A)
【文献】特開昭63-250835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
H01L 33/00
G01M 11/00
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子を検査する検査装置であって、
対象物に照射される励起光を生成する励起光源と、
前記対象物からの蛍光を波長に応じて透過又は反射することにより分離し、所定の波長域において、波長に対する透過率及び反射率の比率が単調変化である光学素子と、
前記光学素子において反射された蛍光を撮像する第1の撮像部と、
前記光学素子を透過した蛍光を撮像する第2の撮像部と、
前記対象物からの蛍光を波長毎に分解しスペクトルを計測する分光器と、
前記第1の撮像部によって取得された第1の蛍光画像と、前記第2の撮像部によって取得された第2の蛍光画像とに基づき、前記対象物からの蛍光の中心波長を導出する処理部と、を備え、
前記処理部は、前記分光器の計測結果に基づいて前記中心波長を補正する、検査装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記中心波長を導出するよりも前に行う前処理において、前記スペクトルに基づき、本来の蛍光強度である第1蛍光強度と、該第1蛍光強度よりも小さい異常な蛍光強度である第2蛍光強度とを特定し、前記第1蛍光強度が前記第2蛍光強度と比べて所定値以上大きくなるように、前記対象物に照射される前記励起光の照明輝度を決定し、
前記励起光源は、前記処理部によって決定された前記照明輝度の前記励起光を生成する、請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記光学素子の所定の波長域は、150nm以下である、請求項1又は2記載の検査装置。
【請求項4】
前記光学素子は、ダイクロイックミラーである、請求項記載の検査装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記光学素子における波長の変化に対する透過率又は反射率の変化割合を更に考慮して、前記中心波長を導出する、請求項1~のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項6】
前記処理部は、
前記第1の蛍光画像及び前記第2の蛍光画像に基づき、各発光素子の輝度と蛍光波長の重心とを導出し、
前記蛍光波長の重心のばらつきが所定値よりも大きくなる輝度の前記発光素子を不良品と判定し、前記蛍光波長の重心のばらつきが前記所定値以下となる輝度の前記発光素子を良品と判定する、請求項1~のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項7】
前記対象物を保持する保持部材を更に備え、
前記保持部材は、温調機能を有している、請求項1~のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項8】
前記対象物を保持する保持部材を更に備え、
前記保持部材は、前記対象物の周辺部のみを吸着する、請求項1~のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項9】
前記処理部は、前記蛍光画像のシェーディングを、前記対象物及び前記励起光の照明輝度を変更するたびに変更する、請求項1~のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項10】
前記励起光源は、前記励起光の照明輝度を複数回切り替える、請求項1~のいずれか一項記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェハ上に形成された発光素子群の良・不良を判定する手法として、発光素子が発するフォトルミネッセンスを観察し、該フォトルミネッセンスの輝度に基づいて発光素子の良否判定を行う手法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された手法においては、発光素子が発するフォトルミネッセンス(詳細には蛍光)を光学素子によって長波長側と短波長側に分離し、2台の撮像部によってそれぞれの画像を同時に計測している。このような構成によれば、長波長側及び短波長側の輝度値の比率に基づいて、発光素子の色斑情報を導出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-10834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、蛍光を長波長側と短波長側に分離する光学素子として、例えば、特定の波長の光を反射しその他の波長の光を透過するダイクロイックミラーがある。このような光学素子においては、波長幅が狭い蛍光を適切に分離できないことが問題となる。蛍光が波長に応じて適切に分離されない場合には、発光素子の色斑を高精度に導出できないおそれがある。
【0006】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、蛍光を波長に応じて適切に分離することによって発光素子の色斑を高精度に導出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る検査装置は、複数の発光素子が形成された対象物を検査する検査装置であって、対象物に照射される励起光を生成する励起光源と、対象物からの蛍光を波長に応じて透過又は反射することにより分離する光学素子と、光学素子において反射された蛍光を撮像する第1の撮像部と、光学素子を透過した蛍光を撮像する第2の撮像部と、第1の撮像部によって取得された第1の蛍光画像と、第2の撮像部によって取得された第2の蛍光画像とに基づき、発光素子の色斑情報を導出する処理部と、を備え、光学素子における、波長の変化に応じて透過率及び反射率が変化する波長帯の幅であるエッジ変移幅は、発光素子の正常蛍光スペクトルの半値全幅よりも広い。
【0008】
本発明の一態様に係る検査装置では、光学素子における、波長の変化に応じて透過率及び反射率が変化する波長帯の幅であるエッジ変移幅が、発光素子の正常蛍光スペクトルの半値全幅よりも広くされている。例えば、エッジ変移幅が狭い光学素子を用いた場合には、波長幅が狭い蛍光について適切に分離することが困難となりやすい。この点、本発明の一態様に係る検査装置のように、エッジ変移幅が、正常蛍光スペクトルの半値全幅よりも広い、すなわち蛍光の波長幅を考慮してそれに対して十分に広い光学素子が用いられることにより、蛍光を波長に応じて容易に分離することができる。このことで、波長に応じて分離された各蛍光に基づく第1の蛍光画像及び第2の蛍光画像から、色斑情報を高精度に導出することができる。
【0009】
上記の検査装置において、光学素子のエッジ変移幅は、150nm以下であってもよい。エッジ変移幅が過度に広くされた場合には、光学素子の分解能が低下し、蛍光を短波長側と長波長側とに分離するという光学素子の本来の機能に影響を及ぼすおそれがある。この点、エッジ変移幅が正常蛍光スペクトルの半値全幅よりも広く且つ150nm以下とされることによって、波長幅が狭い蛍光に対応しながら蛍光を短波長側と長波長側とに容易に分離することができる。
【0010】
上記の検査装置において、光学素子は、ダイクロイックミラーであってもよい。このような構成によれば、波長に応じて蛍光を容易に分離することができる。
【0011】
上記の検査装置において、処理部は、光学素子における波長の変化に対する透過率又は反射率の変化割合を更に考慮して、発光素子の色斑情報を導出してもよい。色斑情報は、例えば分離した各蛍光画像の輝度の比等を考慮して導出される。エッジ変移幅が広い光学素子を用いた場合には、波長の変化に応じて透過率及び反射率が変化するため、各蛍光画像の輝度の比が、通常の光学素子(エッジ変移幅が狭い光学素子)を用いた場合とは異なることが考えられる。この点、光学素子における波長の変化に対する透過率又は反射率の変化割合を考慮して色斑情報を導出することによって、エッジ変移幅が広い光学素子を用いた影響を取り除いて、高精度に色斑情報を導出することができる。
【0012】
上記の検査装置において、処理部は、複数の発光素子間における色斑情報を導出してもよい。これにより、対象物単位での色斑情報を出力することができ、例えば各発光素子の良否判定等を行うことができる。
【0013】
上記の検査装置において、処理部は、各発光素子内の色斑情報を導出してもよい。これにより、発光素子単位での色斑情報を出力することができ、例えば各発光素子内の異常個所等を特定することができる。
【0014】
上記の検査装置において、処理部は、蛍光画像の各画素について、撮像部の視野内における位置に応じた波長ずれを補正してもよい。対象物から光学素子に入射する光の角度は、撮像部の視野内の位置に応じて異なる。そして、光学素子への入射角度の違いは、蛍光の中心波長の違い(波長ずれ)を生じさせる。すなわち、視野内における位置によって、各画素に係る蛍光の中心波長の違い(波長ずれ)を生じさせてしまう。この点、上述したように、撮像部の視野内における位置に応じた波長ずれが補正されることによって、視野内の位置に起因した波長ずれを抑制し、各画素に係る本来の蛍光を適切に取得することができる。
【0015】
上記の検査装置において、処理部は、視野内における位置に応じて推定される各画素についての光学素子への蛍光の入射角度と、蛍光の入射角度に応じた波長の変化量に関する光学素子の光学特性と、に基づき、各画素について波長ずれを補正してもよい。視野内における位置と光学素子への入射角度との関係、及び、入射角度に応じた波長の変化量が予め特定されていることにより、視野内における位置からその画素についての波長の変化量を導出することができるので、各画素に関して容易且つ適切に波長ずれを補正することができる。
【0016】
上記の検査装置において、処理部は、視野内における各画素の波長の分散が小さくなるように、各画素について波長ずれを補正してもよい。これにより、視野内の各画素に係る蛍光の中心波長のばらつきが抑制されるため、視野内の位置に起因した波長ずれを適切に補正することができる。
【0017】
上記の検査装置は、蛍光を波長毎に分解しスペクトルを計測する分光器を更に備え、処理部は、色斑情報を導出するよりも前に行う前処理において、スペクトルに基づき、本来の蛍光強度である第1蛍光強度と、該第1蛍光強度よりも小さい異常な蛍光強度である第2蛍光強度とを特定し、第1蛍光強度が第2蛍光強度と比べて所定値以上大きくなるように、対象物に照射される励起光の照明輝度を決定し、励起光源は、処理部によって決定された照明輝度の励起光を生成してもよい。本来の蛍光は、不純物や欠陥に起因する異常な蛍光と比べて、励起光の照明輝度が高くなった場合の増大率が大きい。すなわち、励起光の照明輝度が低い場合には本来の蛍光と異常な蛍光との強度の違いが小さく本来の蛍光が異常な蛍光に埋もれてしまう恐れがあるのに対して、励起光の照明輝度が高い場合には本来の蛍光と異常な蛍光との強度の違いが大きくなり本来の蛍光が異常な蛍光に埋もれてしまうことが抑制される。上述したように、前処理において、本来の蛍光強度である第1蛍光強度が、異常な蛍光強度である第2蛍光強度と比べて十分に大きくなるように励起光の照明輝度が決定されることにより、本来の蛍光が埋もれないように励起光の照明輝度を決定することができ、色斑情報を正確に導出することができる。
【0018】
上記の検査装置では、処理部が、決定した照明輝度の励起光が励起光源によって生成されて第1の撮像部及び第2の撮像部において蛍光が撮像されることにより、第1の撮像部及び第2の撮像部の少なくともいずれか一方への入射光量が飽和する場合、飽和する撮像部の前段に光量を制限するフィルタを挿入してもよい。これにより、励起光の照明輝度を高くした場合であっても撮像部が飽和することを適切に防止することができる。
【0019】
上記の検査装置において、励起光源は、パルス光である励起光を生成してもよい。パルス光が照射されることにより、本来の蛍光及び異常な蛍光はいずれも常にピーク輝度で比較されることとなるため、第1蛍光強度が第2蛍光強度に対して十分に大きくなっているかを容易且つ確実に判断することができる。
【0020】
上記の検査装置では、処理部が、決定した照明輝度の励起光が励起光源によって生成されて第1の撮像部及び第2の撮像部において蛍光が撮像されることにより、第1の撮像部及び第2の撮像部の少なくともいずれか一方への入射光量が飽和する場合、パルス光のデューティー比を調整することにより入射光量を抑制してもよい。撮像部は、入射光量、すなわち蛍光の強度×時間によって飽和し得るところ、パルス光のデューティー比を変化させて蛍光の入射時間を調整することにより、蛍光の強度(本来の蛍光及び異常な蛍光の比率)を変更せずに、撮像部が飽和することを適切に抑制できる。
【0021】
上記の検査装置において、励起光源は、パルス光の周波数を、第1の撮像部及び第2の撮像部の露光時間の逆数の整数倍に同期させてもよい。これにより、各露光時間に含まれるパルス光の数を互いに同じにすることができ、各露光時間間で蛍光の入射光量が異なることを防止できる。
【0022】
上記の検査装置において、処理部は、第1の蛍光画像及び第2の蛍光画像に基づき、各発光素子の輝度と蛍光波長の重心とを導出し、蛍光波長の重心のばらつきが所定値よりも大きくなる輝度の発光素子を不良品と判定し、蛍光波長の重心のばらつきが所定値以下となる輝度の発光素子を良品と判定してもよい。蛍光波長の重心(中心波長)は、不良品である輝度帯ほど揺らぎやすい(ばらつきやすい)。このため、蛍光波長の重心のばらつきが所定値よりも大きくなる輝度(輝度帯)の発光素子を不良品と判定することにより、高精度且つ簡易に良品/不良品の判定を行うことができる。
【0023】
上記の検査装置は、対象物を保持する保持部材を更に備え、保持部材は、温調機能を有していてもよい。対象物を保持する保持部材に温調機能が備わっていることにより、照明によって対象物の温度がドリフトしそれに伴い蛍光波長がドリフトすることを抑制することができる。
【0024】
上記の検査装置は、対象物を保持する保持部材を更に備え、保持部材は、対象物の周辺部のみを吸着してもよい。保持部材が対象物の周辺部のみを吸着することによって、対象物の中央部分が浮いた状態(保持部材に接しない状態)で対象物が保持されることとなり、対象物の温度変化に伴う波長ずれをより適切に抑制することができる。
【0025】
上記の検査装置において、処理部は、蛍光画像のシェーディングを、対象物及び励起光の照明輝度を変更するたびに変更してもよい。これにより、対象物及び照明輝度に応じて適切なシェーディングを施すことができる。
【0026】
上記の検査装置において、励起光源は、励起光の照明輝度を複数回切り替えてもよい。異なる照明輝度でデータが取得されることにより、良否判断をより正確に行うことができる。
【0027】
本発明の一態様に係る検査方法は、複数の発光素子が形成された対象物に励起光を照射し、対象物からの蛍光を波長に応じて透過又は反射することにより分離する光学素子によって反射された蛍光を撮像することにより取得される第1の蛍光画像と、光学素子を透過した蛍光を撮像することにより取得される第2の蛍光画像とに基づき発光素子の色斑情報を導出する検査方法において、蛍光を波長毎に分解しスペクトルを計測する工程と、スペクトルに基づき、本来の蛍光強度である第1蛍光強度と、該第1蛍光強度よりも小さい異常な蛍光強度である第2蛍光強度とを特定する工程と、第1蛍光強度が第2蛍光強度と比べて所定値以上大きくなるように、対象物に照射される励起光の照明輝度を決定する工程と、決定された照明輝度の励起光を生成する工程と、を含む。
【0028】
上記の検査方法は、決定された照明輝度の励起光が対象物に照射されることにより、蛍光画像を取得する撮像部の入射光量が飽和する場合において、撮像部の前段に光量を制限するフィルタを挿入する工程を更に含んでいてもよい。
【0029】
上記の検査方法は、決定された照明輝度の励起光が対象物に照射されることにより、蛍光画像を取得する撮像部の入射光量が飽和する場合において、パルス光である励起光のデューティー比を調整することにより入射光量を抑制する工程を更に含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様に係る検査装置及び検査方法によれば、蛍光を波長に応じて適切に分離することによって発光素子の色斑を高精度に導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係る検査装置の構成図である。
図2】発光スペクトル及びダイクロイックミラーの特性を説明する図である。
図3】評価指数による各発光素子のソート結果を示す図である。
図4】中心波長のずれ補正について説明する図である。
図5】検査装置が実行する検査方法のフローチャートである。
図6】視野内の位置に応じた入射角度の違いを説明する図である。
図7】照明輝度に応じたスペクトル強度を示す図である。
図8】分光器を使用する光学系の構成図である。
図9】照明輝度の調整処理を示すフローチャートである。
図10】デューティー比の調整について説明する図である。
図11】蛍光波長の重心のばらつきに応じた発光素子の良否判定について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る検査装置1の構成図である。検査装置1は、サンプルS(対象物)を検査する装置である。サンプルSは、例えば、ウェハ上に複数の発光素子が形成された半導体デバイスである。発光素子は、例えばLED、ミニLED、μLED、SLD素子、レーザ素子、垂直型レーザ素子(VCSEL)等である。検査装置1は、サンプルSにおいて形成されている複数の発光素子について、フォトルミネッセンス(具体的には蛍光)を観察することにより、複数の発光素子間における色斑情報を導出すると共に(詳細は後述)、各発光素子の良否判定を行う。なお、このような発光素子の検査については、例えばプロービングによって(すなわち電気的特性に基づいて)行うことも考えられる。しかしながら、例えばμLED等の微細なLEDについては、針をあてて計測を行うプロービングが物理的に困難である。この点、本実施形態に係るフォトルミネッセンスに基づく発光素子の検査方法は、蛍光画像を取得することによって検査を行うことができるので、物理的な制約にとらわれることなく、大量の発光素子を効率的に検査することができる。
【0034】
図1に示されるように、検査装置1は、チャック11と、XYステージ12と、励起光源20と、光学系30と、ダイクロイックミラー40と、対物レンズ51と、Zステージ52と、ダイクロイックミラー60(光学素子)と、結像レンズ71,72と、バンドパスフィルタ75と、カメラ81(第1の撮像部),82(第2の撮像部)と、暗箱90と、制御装置100(処理部)と、モニタ110と、を備えている。暗箱90は、上述した構成のうち制御装置100及びモニタ110以外の構成を収容しており、収容した各構成に外部の光の影響が及ぼされることを回避するために設けられている。なお、暗箱90に収容される各構成は、カメラ81,82において撮像される画像の質の向上(画質の向上及び画像の位置ずれ防止)を図るべく除振台の上に搭載されていてもよい。
【0035】
チャック11は、サンプルSを保持する保持部材である。チャック11は、例えばサンプルSのウェハを真空吸着することにより、サンプルSを保持する。XYステージ12は、サンプルSを保持しているチャック11をXY方向(前後・左右方向)、すなわちチャック11におけるサンプルSの載置面に沿った方向に移動させるステージである。XYステージ12は、制御装置100の制御に応じて、複数の発光素子のそれぞれが順次、励起光の照射領域とされるように、チャック11をXY方向に移動させる。なお、検査装置1は、更に回転ステージ(Θステージ。不図示)を備えていてもよい。このような回転ステージは、例えばXYステージ12の上且つチャック11の下に設けられていてもよいし、XYステージ12と一体的に設けられていてもよい。回転ステージは、サンプルSの縦横の位置を精度よく合わせるためのものである。回転ステージが設けられることによって、位置合わせ等の時間を短縮し、データ処理のトータル時間を短縮することができる。
【0036】
励起光源20は、サンプルSに照射される励起光を生成し、該励起光をサンプルSに照射する光源である。励起光源20は、サンプルSの発光素子を励起させる波長を含む光を生成可能な光源であればよく、例えばLED、レーザ、ハロゲンランプ、水銀ランプ、D2ランプ、プラズマ光源等である。なお、検査装置1は、励起光源20から出射される励起光の輝度を一定に保つべく、照明輝度をモニタするセンサを更に備えていてもよい。また、シェーディングを極力減らすため、励起光源20から励起光が出射される位置に拡散板もしくはフライアイレンズ等を用いて輝度分布の均一化を行ってもよい。
【0037】
光学系30は、光ファイバケーブル31と、導光レンズ32と、を含んで構成されている。光ファイバケーブル31は、励起光源20に接続された導光用の光ファイバケーブルである。光ファイバケーブル31としては、例えば、偏波保存ファイバ又はシングルモードファイバ等を用いることができる。導光レンズ32は、例えば単独又は複合の凸レンズであり、光ファイバケーブル31を介して到達した励起光をダイクロイックミラー40方向に導く。なお、励起光源20から出射される励起光の波長が経時的に変化することを防ぐために、検査装置1は、励起光源20とダイクロイックミラー40との間にバンドパスフィルタ(不図示)を備えていてもよい。
【0038】
ダイクロイックミラー40は、特殊な光学素材を用いて作成されたミラーであり、特定の波長の光を反射すると共に、その他の波長の光を透過する。具体的には、ダイクロイックミラー40は、励起光を対物レンズ51方向に反射すると共に、励起光とは異なる波長帯の光である発光素子からのフォトルミネッセンス(詳細には蛍光)をダイクロイックミラー60方向に透過するように構成されている。なお、図2に示されるように、励起光の正常発光スペクトルFSの領域は、蛍光の正常発光スペクトル(正常蛍光スペクトル)ESの領域よりも低波長側である。すなわち、ダイクロイックミラー40は、低波長帯の光である励起光を対物レンズ51方向に反射すると共に、励起光と比べて高波長帯の光である蛍光をダイクロイックミラー60方向に透過する。このことは、図2に示されるダイクロイックミラー40の特性D1からも明らかである。
【0039】
対物レンズ51は、サンプルSを観察するための構成であり、ダイクロイックミラー40によって導かれた励起光をサンプルSに集光する。Zステージ52は、対物レンズ51をZ方向(上下方向)、すなわちチャック11におけるサンプルSの載置面に交差する方向に移動させてフォーカス調整を行う。
【0040】
ダイクロイックミラー60は、特殊な光学素材を用いて作成されたミラーであり、特定の波長の光を反射すると共に、その他の波長の光を透過する。すなわち、ダイクロイックミラー60は、サンプルSからの蛍光を波長に応じて透過又は反射することにより分離する光学素子である。
【0041】
図2は、発光スペクトル及びダイクロイックミラー60,40の特性を説明する図である。図2において、横軸は波長を示しており、左縦軸は発光輝度を示しており、右縦軸は透過率を示している。図2のダイクロイックミラー60の特性D2に示されるように、ダイクロイックミラー60においては、特定の波長帯SWでは波長の変化に応じて蛍光の透過率(及び反射率)が変化し、該特定の波長帯SW以外の波長帯(すなわち、波長帯SWよりも低波長側及び波長帯SWよりも高波長側)では波長の変化に関わらず蛍光の透過率(及び反射率)が一定とされている。透過率と反射率とは、一方が大きくなる方向に変化すると他方が小さくなる方向に変化する、負の相関関係にあるため、以下では「透過率(及び反射率)」と記載せずに単に「透過率」と記載する場合がある。なお、「波長の変化に関わらず蛍光の透過率が一定」とは、完全に一定である場合だけでなく、例えば波長1nmの変化に対する透過率の変化が0.1%以下であるような場合も含むものである。波長帯SWよりも低波長側では波長の変化に関わらず蛍光の透過率が概ね0%であり、波長帯SWよりも高波長側では波長の変化に関わらず蛍光の透過率が概ね100%である。なお、「蛍光の透過率が概ね0%である」とは、0%+10%程度の透過率を含むものであり、「蛍光の透過率が概ね100%である」とは、100%-10%程度の透過率を含むものである。また、以下では、波長の変化に応じて蛍光の透過率が変化する波長帯SWの幅を「エッジ変移幅WE」として説明する場合がある。
【0042】
図2に示されるように、ダイクロイックミラー60のエッジ変移幅WEは、少なくとも、発光素子の正常蛍光スペクトルESの半値全幅WHよりも広い。半値全幅WHは、例えば10nm程度である。すなわち、エッジ変移幅WEは、例えば10nmよりも広い。図2に示される例では、波長帯SWが概ね425mm~525mmの波長帯であり、エッジ変移幅WEが約100nm程度と、正常蛍光スペクトルESの半値全幅WHよりも十分に広くされている。エッジ変移幅WEは、例えば150nm以下とされる。波長帯SWは、正常蛍光スペクトルESの波長帯を概ね含んでいる。これにより、サンプルSからの蛍光は、ダイクロイックミラー60によって適切に分離される。なお、正常蛍光スペクトルESの波長帯(本来発光波長)は、例えば予め発光素子の仕様から既知である波長であってもよく、発光素子からの蛍光を分光器により実測した強度のピークとなる波長であってもよい。
【0043】
図2に示されるダイクロイックミラー60の特性D2からも明らかなように、ダイクロイックミラー60は、波長帯SWよりも低波長側の蛍光を概ね全て反射し、波長帯SWよりも高波長側の蛍光を概ね全て透過し、波長帯SWの蛍光については波長に応じた透過率で透過(波長に応じた反射率で反射)する。ダイクロイックミラー60において反射された蛍光(短波長側の蛍光)はバンドパスフィルタ75を経て結像レンズ71に達する。ダイクロイックミラー60を透過した蛍光(長波長側の蛍光)は結像レンズ72に達する。
【0044】
結像レンズ71は、ダイクロイックミラー60において反射された蛍光(短波長側の蛍光)を結像させ、該蛍光をカメラ81に導くレンズである。カメラ81は、発光素子からの蛍光のうちダイクロイックミラー60において反射された蛍光(短波長側の蛍光)を撮像する。カメラ81は、結像レンズ71によって結像された画像を検出することによって短波長側の蛍光を撮像する。カメラ81は、撮像結果である短波長側の蛍光画像(第1の蛍光画像)を制御装置100に出力する。カメラ81は、例えばCCDやMOS等のエリアイメージセンサである。また、カメラ81は、ラインセンサやTDI(Time Delay Integration)センサによって構成されていてもよい。バンドパスフィルタ75は、励起光の混入を防ぐために設けられたフィルタであり、ダイクロイックミラー60と結像レンズ71との間に設けられている。なお、検査装置1は、短波長側の蛍光の計測の際ダイクロイックミラー60の表面反射に伴う長波長側の蛍光の混入を防ぐために、ダイクロイックミラー60とカメラ81との間にバンドパスフィルタを更に備えていてもよい。
【0045】
結像レンズ72は、ダイクロイックミラー60を透過した蛍光(長波長側の蛍光)を結像させ、該蛍光をカメラ82に導くレンズである。カメラ82は、発光素子からの蛍光のうちダイクロイックミラー60を透過した蛍光(長波長側の蛍光)を撮像する。カメラ82は、結像レンズ72によって結像された画像を検出することによって長波長側の蛍光を撮像する。カメラ82は、撮像結果である長波長側の蛍光画像(第2の蛍光画像)を制御装置100に出力する。カメラ82は、例えばCCDやMOS等のエリアイメージセンサである。また、カメラ82は、ラインセンサやTDIセンサによって構成されていてもよい。なお、検査装置1は、長波長側の余計な発光を防ぐために、ダイクロイックミラー60とカメラ82との間にバンドパスフィルタを更に備えていてもよい。
【0046】
制御装置100は、XYステージ12、励起光源20、Zステージ52、及びカメラ81,82を制御する。具体的には、制御装置100は、XYステージ12を制御することにより励起光の照射領域(サンプルSにおける照射領域)を調整する。制御装置100は、Zステージ52を制御することにより励起光に係るフォーカス調整を行う。制御装置100は、励起光源20を制御することにより励起光の出射調整並びに励起光の波長及び振幅等の調整を行う。制御装置100は、カメラ81,82を制御することにより蛍光画像の取得に係る調整を行う。また、制御装置100は、カメラ81,82によって撮像された蛍光画像に基づいて、サンプルSの発光素子の色斑情報を導出する(詳細は後述)。なお、制御装置100は、コンピュータであって、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、CPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部を備えて構成されている。かかる制御装置100としては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。制御装置100は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより機能する。モニタ110は、計測結果である蛍光画像を表示する表示装置である。
【0047】
次に、発光素子の色斑情報の導出に係る制御装置100の機能について詳細に説明する。
【0048】
制御装置100は、カメラ81によって取得された蛍光画像(短波長側の蛍光画像)と、カメラ82によって取得された蛍光画像(長波長側の蛍光画像)とに基づき、発光素子の色斑情報を導出する。
【0049】
制御装置100は、まず、蛍光画像に基づいて発光素子の位置を特定し、各発光素子の発光エリアを特定する。発光素子の位置の特定は、例えば蛍光画像内の位置とXYステージ12の位置の換算によって行われる。なお、制御装置100は、予めサンプルS全体のパターン像を取得しておき、パターン像ないし蛍光画像から、発光素子の位置を認識(特定)してもよい。そして、制御装置100は、短波長側の蛍光画像に基づいて各発光素子の発光エリア内の平均輝度を導出すると共に、長波長側の蛍光画像に基づいて各発光素子の発光エリア内の平均輝度を導出し、各発光素子についてアドレス位置と輝度(短波長側の平均輝度及び長波長側の平均輝度)とを紐づける。制御装置100は、各アドレス(各発光素子)について、短波長側の輝度及び長波長側の輝度の合計値を導出し、該合計値の絶対輝度と相対輝度とから評価指数を導出する。相対輝度とは、導出対象の発光素子と該発光素子の周辺の発光素子とを含む発光素子群の平均輝度に対する導出対象の発光素子の輝度比率である。制御装置100は、例えば、絶対輝度と相対輝度との積から評価指数を導出する。或いは、制御装置100は、絶対輝度と相対輝度のn乗(nは自然数。例えば2)との積から評価指数を導出する。制御装置100は、同一の蛍光画像に含まれる各発光素子それぞれについて上述した評価指数の導出を行う。また、制御装置100は、照射領域を変更することにより新たな蛍光画像(短波長側の蛍光画像及び長波長側の蛍光画像)を取得し、蛍光画像に含まれる各発光素子それぞれについて評価指数の導出を行う。制御装置100は、全ての発光素子について評価指数を導出すると、該評価指数の高い順に発光素子のソート(並び替え)を行う。図3は、評価指数による発光素子のソート結果を示す図である。図3において縦軸は輝度の大きさに応じた評価指数を示しており、横軸は各発光素子の順位を示している。図3に示されるように、評価指数は、ある点(変化点)を境に急激に小さくなっている。制御装置100は、例えばこのような変化点を閾値として、評価指数が該閾値よりも小さい発光素子を不良品(不良ピクセル)と判定してもよい。なお、閾値は、例えば、事前に閾値決定用の参照半導体デバイスを用いて、蛍光(フォトルミネッセンス)に基づく発光素子の良否判定結果と、プロービングに基づく良否判定結果(電気的特性に基づく良否判定結果)とを比較して決定されていてもよい。
【0050】
更に、制御装置100は、各発光素子について、短波長側の輝度と長波長側の輝度との比から、蛍光波長の重心(中心波長)を導出する。制御装置100は、中心波長が規定の波長範囲内(例えば440nm~460nmの範囲内)であるか否かを判定し、規定の波長範囲内でない発光素子を不良品(不良ピクセル)と判定してもよい。制御装置100は、中心波長の所定の範囲毎に、各発光素子についてグレード分けを行い、該グレードに基づいて、複数の発光素子間における色斑を導出する。
【0051】
ここで、上述したように、本実施形態に係るダイクロイックミラー60では、図2に示されるように、波長の変化に応じて蛍光の透過率及び反射率が変化する波長帯SWのエッジ変移幅WEが、十分に広い(具体的には、正常蛍光スペクトルESの半値全幅WHよりも広い)。このようなダイクロイックミラー60を用いた場合には、ダイクロイックミラー60における波長の変化に対する透過率(又は反射率)の変化割合に応じて、短波長側の輝度及び長波長側の輝度に基づく中心波長が、本来の値からずれて導出される。このような中心波長のずれを補正する処理について、図4を参照して説明する。
【0052】
図4は、中心波長のずれ補正について説明する図である。図4(a)及び図4(b)では、横軸が波長、縦軸が透過率(及び反射率)を示している。また、図4(a)及び図4(b)には、透過率(透過光量)がa%/nmの割合で変化するダイクロイックミラーの特性D22が示されている。いま、ダイクロイックミラーの反射率が50%である波長をλ(50%)nmとして、図4(a)に示されるように、分布が矩形である発光波長の中心がλ(50%)であるとすると、反射光の光量(反射光量)Rと透過光の光量(透過光量)Tとは等しくなる。そして、図4(a)に示されるように、矩形である発光波長の最低波長における透過光量をT1、反射光量をR1、最高波長における透過光量をT2、反射光量をR2、発光波長幅をW、波長シフトパラメータをSとすると、以下の(1)~(4)式が成り立つ。なお、波長シフトパラメータは、「透過光量と反射光量の差を全光量で割った値」と言い換えることができる。
発光量L=R+T…(1)
反射光量R=(R1+R2)*W/2…(2)
透過光量T=(T1+T2)*W/2…(3)
波長シフトパラメータS=(T-R)/(T+R)=0…(4)
【0053】
図4(b)は、図4(a)の条件で導出される中心波長がΔλだけずれている状態を示している。図4(b)に示されるように、発光波長がΔλずれると、発光波長の全範囲で透過光量がaΔλだけ増える。この場合、発光波長の最低波長における透過光量をT1´、反射光量をR1´、最高波長における透過光量をT2´、反射光量をR2´、波長シフトパラメータをS´とすると、以下の(5)~(12)式が成り立つ。
R1´=R1-aΔλ…(5)
R2´=R2-aΔλ…(6)
T1´=T1+aΔλ…(7)
T2´=T2+aΔλ…(8)
反射光量R´=(R1´+R2´)*W/2=R-aWΔλ…(9)
透過光量T´=(T1´+T2´)*W/2=T+aWΔλ…(10)
波長シフトパラメータS´=(T´-R´)/(T´+R´)=2aWΔλ/L…(11)
【0054】
ここで、上述した(1)~(3)式より、以下の(12)式が成り立つ。
L/W=R1+T1=100%=1…(12)
(11)及び(12)式より、
S´=2aΔλ/(100%)=2aΔλ…(13)
(13)式より、
Δλ=S´/2a…(14)
【0055】
上記(14)式に示されるように、中心波長のずれ量であるΔλは、透過光量と反射光量の差を全光量で割った値S´を、透過率(透過光量)の変化量aの2倍で割った値に等しくなる。このことから、制御装置100は、ダイクロイックミラー60における波長の変化に対する透過率又は反射率の変化割合を更に考慮して、具体的には上記(14)式を用いて、中心波長のずれ量であるΔλを導出し、予め導出している中心波長に対してズレ量Δλ分を補正する(差し引く)ことによって、各発光素子についての正確な中心波長を導出してもよい。
【0056】
次に、図5を参照して、検査装置1が実行する検査方法(発光素子の色斑情報の導出)の処理手順について説明する。図5は、検査装置1が実行する検査方法のフローチャートである。
【0057】
図5に示されるように、検査装置1では、最初に、サンプルSにおける照射領域が決定される(ステップS1)。具体的には、制御装置100は、XYステージ12を制御することにより励起光の照射領域を決定する。
【0058】
つづいて、制御装置100の制御に応じて、励起光源20がサンプルSの照射領域に励起光を照射する(ステップS2。)。励起光源20は、サンプルSの発光素子を励起させる波長を含む光を生成して出射する。励起光は光学系30の光ファイバケーブル31及び導光レンズ32を経てダイクロイックミラー40に到達し、ダイクロイックミラー40において反射され、対物レンズ51を経てサンプルSの照射領域に集光される。サンプルSの発光素子は励起光に応じて蛍光を発する。該蛍光はダイクロイックミラー40を透過して、ダイクロイックミラー60において短波長側の蛍光と、長波長側の蛍光とに分離される。短波長側の蛍光は、結像レンズ71によって結像されカメラ81に導かれる。長波長側の蛍光は、結像レンズ72によって結像されカメラ82に導かれる。
【0059】
カメラ81は短波長側の蛍光を撮像する(ステップS3。)。また、カメラ82は長波長側の蛍光を撮像する(ステップS3)。カメラ81,82は、撮像結果である蛍光画像を制御装置100に出力する。
【0060】
つづいて、制御装置100は、蛍光画像に基づいて発光素子の位置を特定し(ステップS4)、各発光素子における発光エリアを特定する。そして、制御装置100は、短波長側の蛍光画像に基づいて各発光素子の発光エリア内の輝度(平均輝度)を導出すると共に、長波長側の蛍光画像に基づいて各発光素子の発光エリア内の輝度(平均輝度)を導出する(ステップS5)。そして、制御装置100は、各発光素子について、アドレス位置と輝度(短波長側の平均輝度及び長波長側の平均輝度)とを紐づける(ステップS6)。
【0061】
つづいて、制御装置100は、各発光素子について、短波長側の輝度及び長波長側の輝度の合計値を導出し、該合計値の絶対輝度と相対輝度とから評価指数を導出する(ステップS7)。制御装置100は、例えば、絶対輝度と相対輝度との積から評価指数を導出する。或いは、制御装置100は、絶対輝度と相対輝度のn乗(nは自然数。例えば2)との積から評価指数を導出する。
【0062】
つづいて、制御装置100は、サンプルSの全ての発光素子(判定対象の発光素子)について上述した評価指数を導出済みか否か、判定する(ステップS8)。ステップS8において導出済みでないと判定した場合には、制御装置100は、評価指数を導出する前の発光素子が含まれるように新たな照射領域を決定する(ステップS9)。その後、再度ステップS2以降の処理が行われる。
【0063】
ステップS8において全ての発光素子について評価指数を導出済みであると判定した場合には、制御装置100は、各発光素子の評価指数と所定の閾値とを比較し、不良品(不良ピクセル)を特定する(ステップS10)。具体的には、制御装置100は、評価指数の高い順に発光素子のソート(並び替え)を行い、評価指数が閾値以上である発光素子を良品(良ピクセル)、該閾値よりも小さい発光素子を不良品(不良ピクセル)と判定する。
【0064】
つづいて、制御装置100は、ステップS10において良品であると判定した各発光素子について、短波長側の輝度と長波長側の輝度との比から、蛍光波長の重心(中心波長)を導出する(ステップS11)。中心波長の導出においては、制御装置100は、ダイクロイックミラー60における波長の変化に対する透過率又は反射率の変化割合を更に考慮して、具体的には上記(14)式を用いて、中心波長のずれ量であるΔλを導出し、予め導出している中心波長に対してズレ量Δλ分を補正する(差し引く)ことによって、各発光素子についての正確な中心波長を導出してもよい。
【0065】
最後に、制御装置100は、中心波長が規定の波長範囲内であるか否かを判定して規定の波長範囲内でない発光素子を不良品(不良ピクセル)とすると共に、規定の波長範囲内である各発光素子について、所定の波長範囲毎にグレード分けを行い、該グレードに基づいて、複数の発光素子間における色斑情報を導出する(ステップS12)。制御装置100は、当該色斑情報に基づいて、各発光素子及びサンプルSの良否判定を行ってもよい。
【0066】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0067】
本実施形態に係る検査装置1の作用効果について説明する。
【0068】
本実施形態に係る検査装置1は、複数の発光素子が形成されたサンプルSを検査する検査装置であって、サンプルSに照射される励起光を生成する励起光源20と、サンプルSからの蛍光を波長に応じて透過又は反射することにより分離する光学素子(ダイクロイックミラー60)と、ダイクロイックミラー60において反射された蛍光を撮像するカメラ81と、ダイクロイックミラー60を透過した蛍光を撮像するカメラ82と、カメラ81によって取得された第1の蛍光画像と、カメラ82によって取得された第2の蛍光画像とに基づき、発光素子の色斑情報を導出する制御装置100と、を備え、ダイクロイックミラー60における、波長の変化に応じて透過率及び反射率が変化する波長帯の幅であるエッジ変移幅WEは、発光素子の正常蛍光スペクトルESの半値全幅WHよりも広い(図2参照)。
【0069】
検査装置1では、ダイクロイックミラー60における、波長の変化に応じて透過率及び反射率が変化する波長帯の幅であるエッジ変移幅が、発光素子の正常蛍光スペクトルの半値全幅よりも広くされている。例えば、エッジ変移幅が狭い光学素子を用いた場合には、波長幅が狭い蛍光について適切に分離することができないことが考えられる。仮に発光素子の正常蛍光スペクトルの波長幅が5nm、かつ、光学素子のエッジ変移幅が5nmであるとする。このとき、透過波長と反射波長が変化するのはわずか15nmの範囲となり、この範囲以上に正常蛍光スペクトルの波長がシフトしても透過率ないし反射率が100%となるだけで、どれだけ波長が変化したかという情報は得られない。また、反射光と透過光の割合の変化量は、正常蛍光スペクトルの輝度の高いピークがエッジ変移幅の中心波長に近いほど大きく、外れるほど小さくなる。つまり、この変化量は発光波長のスペクトル形状に大きく依存する。実際の発光素子は単純な発光(例えばガウシアン分布のスペクトル)ではなく、複数ピークを持った場合もあり得る。このように、エッジ変移幅が狭い光学素子を用いた場合、波長の変化量を正確に見積もることはほぼ不可能である。この点、本実施形態に係る検査装置1のように、エッジ変移幅が、正常蛍光スペクトルの半値全幅よりも広い、すなわち蛍光の波長幅を考慮してそれに対して十分に広いダイクロイックミラー60が用いられることにより、蛍光を波長に応じて容易に分離することができる。このことで、波長に応じて分離された各蛍光に基づく第1の蛍光画像及び第2の蛍光画像から、色斑情報を高精度に導出することができる。
【0070】
また、本実施形態では、ダイクロイックミラー60のエッジ変移幅が150nm以下とされている。エッジ変移幅が過度に広くされた場合には、ダイクロイックミラーの分解能が低下し、蛍光を短波長側と長波長側とに分離するというダイクロイックミラーの本来の機能に影響を及ぼすおそれがある。この点、エッジ変移幅が正常蛍光スペクトルの半値全幅よりも広く且つ150nm以下とされることによって、波長幅が狭い蛍光に対応しながら蛍光を短波長側と長波長側とに容易に分離することができる。
【0071】
上述したように、本実施形態では、光学素子としてダイクロイックミラー60を用いることにより、波長に応じて蛍光を容易に分離することができる。
【0072】
制御装置100は、ダイクロイックミラー60における波長の変化に対する透過率又は反射率の変化割合を更に考慮して、発光素子の色斑情報を導出してもよい。色斑情報は、例えば分離した各蛍光画像の輝度の比等を考慮して導出される。エッジ変移幅が広いダイクロイックミラー60を用いた場合には、波長の変化に応じて透過率及び反射率が変化するため、各蛍光画像の輝度の比が、通常のダイクロイックミラー(エッジ変移幅が狭い光学素子)を用いた場合とは異なることが考えられる。この点、ダイクロイックミラー60における波長の変化に対する透過率又は反射率の変化割合を考慮して色斑情報を導出することによって、エッジ変移幅が広いダイクロイックミラー60を用いた影響を取り除いて、高精度に色斑情報を導出することができる。
【0073】
制御装置100は、複数の発光素子間における色斑情報を導出する。これにより、サンプルS単位での色斑情報を出力することができ、該色斑情報に基づいて、例えば各発光素子の良否判定等を行うことができる。
【0074】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、光学素子としてダイクロイックミラー40,60を用いるとして説明したがこれに限定されず、例えばハーフミラー、ショートパスフィルタ、及びロングパスフィルタ等を組み合わせた構成を光学素子として用いてもよい。また、例えば、ハーフミラー及びエッジ変位幅が広いダイクロイックフィルタを組み合わせた構成を光学素子として用いてもよい。この場合、例えばエッジ変移幅が広いダイクロイックミラー60は、ハーフミラーと、カメラ81,82側に配置されたエッジ変位幅が広いダイクロイックフィルタによって構成することができる。
【0075】
また、制御装置100が複数の発光素子間における色斑情報を導出するとして説明したがこれに限定されず、制御装置100は各発光素子内の色斑情報を導出するものであってもよい。この場合においては、制御装置100が発光素子単位での色斑情報を出力することができ、該色斑情報に基づいて各発光素子内の異常個所等を特定することができる。
【0076】
次に、本発明の更なる実施形態として、視野内の位置に応じた波長ずれ補正(図6参照)、励起光の照明輝度調整(図7図10参照)、及び、波長のばらつき(揺らぎ)に応じた発光素子の良否判定(図11参照)について説明する。
【0077】
(視野内の位置に応じた波長ずれ補正)
図6は、カメラ81,82における視野内の位置に応じた入射角度の違いを説明する図である。図6には、サンプルSからの蛍光をダイクロイックミラー60方向に導く対物レンズ51と、ダイクロイックミラー60とが示されている。なお、ここでの対物レンズ51及びダイクロイックミラー60は、図1に示される対物レンズ51及びダイクロイックミラー60と同様の構成であり、同様の位置関係にあるとする。ここで、一般に無限遠補正された対物レンズ51を用いると、サンプルSの一点から発した光(蛍光)は、対物レンズ51を通過した後において平行光になる。このことは、カメラ81,82の視野内の各点(各画素)において成り立つ。しかしながら、各点において光束は平行であるものの、異なる点の光束同士は平行ではない。このため、ダイクロイックミラー60に入射する光の角度は、カメラ81,82の視野内のどの点(画素)からの光かによって異なることとなる。そして、ダイクロイックミラー60の光学特性は、蛍光の入射角度によって変化する。すなわち、ダイクロイックミラー60においては、蛍光の入射角度(すなわち視野内における画素の位置)に応じて、透過率が50%になる波長(中心波長)が変化する。
【0078】
一例として、カメラ81,82の視野サイズが±0.47mm(0.94mm角)、対物レンズ51が10倍レンズである場合において、図6に示す視野内の一端側の光束L1と他端側の光束L2とでは、角度差が±1.31度となるとする。このような角度差があると、例えば中心波長が460nm程度である場合においては光束L1,L2の波長差が±1.8nm程度となり、中心波長が520nm程度である場合においては光束L1,L2の波長差が±2.6nm程度となり、中心波長が600nm程度である場合においては光束L1,L2の波長差が±3.0nm程度となってしまう。
【0079】
本実施形態では、このような波長ずれを制御装置100が補正する。すなわち、制御装置100は、蛍光画像の各画素について、カメラ81,82の視野内における位置に応じた波長ずれを補正する。具体的には、制御装置100は、視野内における位置に応じて推定される各画素についてのダイクロイックミラー60への蛍光の入射角度と、蛍光の入射角度に応じた波長の変化量に関するダイクロイックミラー60の光学特性とに基づき、各画素について波長ずれを補正する。制御装置100は、予め、視野内における位置と光学素子への入射角度との関係、及び、入射角度に応じた波長の変化量(ダイクロイックミラー60の光学特性)を取得しているため、蛍光画像の各画素の位置が入力されることによって、計算(シミュレーション)によって波長の変化量(シフト量)を導出することができる。そして、制御装置100は、各画素の波長の変化量(波長ずれ)を小さくするように、波長の補正量(オフセット)を決定する。
【0080】
制御装置100は、上述した補正に加えて、視野内における各画素の波長の分散が小さくなるように、各画素について波長ずれを補正してもよい。上述したシミュレーションの結果は、あくまでも設計値に基づく補正である。そのため、例えばダイクロイックミラー60の設置角度が設計値からずれてしまっている場合等においては、精度の高い波長ずれ補正を行うことができない場合がある。このような場合であっても、視野内における各画素の波長の分散が小さくなるように各画素について波長ずれ補正を行うことにより、設計値とは無関係に、視野内の波長を同程度とでき、視野内の位置に起因する波長ずれを適切に補正することができる。なお、制御装置100は、上述したシミュレーションによる補正を行うことなく、本補正のみを行ってもよい。
【0081】
(励起光の照明輝度調整)
次に、励起光の照明輝度調整について説明する。半導体デバイスであるサンプルSに対して励起光を照射し蛍光観察を行う場合においては、サンプルSにおける不純物又は欠陥箇所から発せられる蛍光(異常な蛍光)の波長を含むブロードな蛍光を取得する。すなわち、蛍光観察においては、本来の蛍光の波長及び異常な蛍光の波長の双方を含むブロードな蛍光を取得する。ここで、異常な蛍光については励起光の照明輝度に対してほぼ比例して強くなるのに対して、本来の蛍光は励起光の照明輝度に対しておよそ2乗程度に強くなる。このため、励起光の照明輝度が比較的低い場合には、本来の蛍光の輝度(本来の蛍光強度:第1蛍光強度)と異常な蛍光の輝度(異常な蛍光強度:第2蛍光強度)との差が小さいのに対して、励起光の照明輝度が比較的高い場合には、第1蛍光強度と第2蛍光強度との差が大きくなる。
【0082】
図7は、励起光の照明輝度に応じた蛍光のスペクトル強度を示す図である。図7に示されるように、照明輝度が比較的低い場合(図7中における照明輝度:0又は5のグラフ参照)においては、スペクトル強度から第1蛍光強度及び第2蛍光強度の違いを判別することは難しい。すなわち、励起光が弱い条件では観察すべき本来の蛍光が異常な蛍光に埋もれてしまい観察しにくい。一方で、図7に示されるように、照明輝度が比較的高い場合(図7中における照明輝度:128のグラフ参照)においては、第1蛍光強度が十分に大きくなるため、スペクトル強度から、本来の蛍光の輝度(第1蛍光強度)と欠陥等に起因する異常な蛍光の輝度(第2蛍光強度)とを区別することができる。この場合には、発光素子の発光輝度及び波長を正確に観察することができる。
【0083】
本実施形態では、色斑情報を導出するよりも前に行う前処理において、上述した第1蛍光強度と第2蛍光強度とを区別することができる程度に励起光の照明輝度が強くなるように、励起光の照明輝度調整を行う。具体的には、図8に示される検査装置500により、励起光の照明輝度調整が行われる。なお、図8においては、励起光の照明輝度調整を行うための構成のみを図示しているが、実際には、図1に示される撮像部等の色斑情報の導出に係る構成も備えており、励起光の照明輝度調整に係る処理(前処理)と、色斑情報の導出に係る処理とで、対応する構成を切り替えて使用可能とされている。
【0084】
図8に示されるように、検査装置500は、ダイクロイックミラー40の後段に、ハーフミラー510と、分光器520とを備えている。ハーフミラー510は、サンプルSからの蛍光の少なくとも一部を分光器520方向に反射可能に構成されている。分光器520は、ハーフミラー510を介して入力された蛍光を波長毎に分解し該蛍光のスペクトル(図7参照)を計測する。
【0085】
制御装置100は、励起光の照明輝度調整に係る処理(前処理)において、分光器520が計測した蛍光のスペクトルに基づき、本来の蛍光強度である第1蛍光強度と、該第1蛍光強度よりも小さい異常な蛍光強度である第2蛍光強度とを特定し、第1蛍光強度が第2蛍光強度と比べて所定値以上大きくなるように、サンプルSに照射される励起光の照明輝度を決定する。制御装置100は、例えば、第1蛍光強度が第2蛍光強度の10倍以上大きくなるまで、励起光源20から照射される励起光の照明輝度が強くなるように照明輝度を調整する。そして、励起光源20は、前処理後の色斑情報を導出する処理において、制御装置100によって決定された照明輝度の励起光を生成する。
【0086】
図9は、制御装置100による照明輝度の調整処理を示すフローチャートである。なお、以下の説明で制御装置100が実施するとする処理の一部については、検査実施者が実行してもよい。図9に示されるように、制御装置100は、検査装置500の構成を、図8に示される、分光器520を用いる構成(前処理を実施する構成)に切り替え(ステップS1)、励起光の波長を励起用の波長に切り替える(ステップS2)。なお、制御装置100は、励起光の波長を切り替えることに替えてバンドパスフィルタを挿入してもよい。
【0087】
つづいて、制御装置100は、分光器520の前段に、励起波長を除くフィルタを挿入する(ステップS3)。そして、制御装置100は、分光器520が計測した蛍光のスペクトルに基づき、第1蛍光強度及び第2蛍光強度を特定する(ステップS4)。制御装置100は、第2蛍光強度が第1蛍光強度の1/10以下であるか(第1蛍光強度が第2蛍光強度の10倍以上であるか)を判定する(ステップS5)。
【0088】
ステップS5において、第2蛍光強度が第1蛍光強度の1/10以下となっていないと判定された場合には、制御装置100は、励起光源20から照射される励起光の照明輝度を所定値だけ強くし(ステップS6)、再度ステップS4以降の処理が実施される。このようにして、ステップS5において第2蛍光強度が第1蛍光強度の1/10以下となっていると判定されるまでは、照明輝度を変更(強く)する処理が繰り返し実施される。
【0089】
ステップS5において、第2蛍光強度が第1蛍光強度の1/10以下となっていると判定された場合には、制御装置100は、その時点の照明輝度を、観察系(色斑情報を導出する処理)における照明輝度に決定する(ステップS7)。そして、制御装置100は、検査装置500の構成を、観察系(色斑情報の導出する処理)の構成に切り替えて、色斑情報の導出処理を開始する(ステップS8)。
【0090】
なお、制御装置100は、決定した照明輝度の励起光が励起光源20によって生成されて、カメラ81,82(図1参照)において蛍光が撮像されることにより、カメラ81,82の少なくともいずれか一方への入射光量が飽和する場合、飽和するカメラ81、82の前段に光量を制限するフィルタを挿入してもよい。
【0091】
また、制御装置100は、励起光源20がパルス光である励起光を生成・照射している場合において、パルス光のデューティー比を調整することにより、カメラ81,82への入射光量を抑制し、上述したカメラ81,82の飽和を回避してもよい。すなわち、制御装置100は、図10に示されるように、カメラ81,82の飽和が問題とならない程度に励起光の照明輝度が低い場合(サンプルSが暗い場合)と比較して、カメラ81,82が飽和する程度に励起光の照明輝度が高い場合(サンプルSが明るい場合)においてパルス光のデューティー比を小さくすることにより、カメラ81,82への蛍光の入射時間を短くし、蛍光の強度を変更せずに入射光量を抑制してもよい。なお、励起光源20は、制御装置100の制御に基づいて、パルス光の周波数を、カメラ81,82の露光時間の逆数の整数倍に同期させることにより、各露光時間に含まれるパルス光の数を互いに同じにして各露光時間での蛍光の入射光量を統一することが好ましい。
【0092】
また、制御装置100は、上述した前処理において、照明輝度が低い場合の異常な蛍光のみの信号を整数倍し、照明輝度が高い場合の信号スペクトルから異常な蛍光のスペクトルのみを取り除く処理を行ってもよい。
【0093】
(波長のばらつきに応じた発光素子の良否判定)
次に、波長のばらつきに応じた発光素子の良否判定手法について説明する。本手法は、発明者らが、「サンプルSにおける各発光素子の蛍光波長の重心(中心波長)は、不良品である輝度帯ほど揺らぎやすい(ばらつく」ことに着目し、蛍光波長の重心のばらつきに応じて良否判定を行うものである。このようなばらつきは、不良品では、不純物やリーク電流によって電圧が下がりエネルギー量が減少するために、長波長方向に蛍光がシフトしやすくなることにより生じるものと考えられる。
【0094】
図11は、蛍光波長の重心のばらつきに応じた発光素子の良否判定について説明する図である。図11は、サンプルSの全ての発光素子についてPL輝度(蛍光輝度)順に発光素子のソート(並び替え)を行った場合の結果の一例を示している。図11(a)の横軸は蛍光輝度、縦軸は発光(蛍光)波長の重心を示しており、図11(a)中の丸は各発光素子の結果を示している。また、図11(b)の横軸は蛍光輝度、縦軸は発光素子の数(頻度)を示している。図11(b)に示されるように、ある輝度帯の発光素子の数(頻度)を頂点に、輝度が高くなる方向及び輝度が低くなる方向のそれぞれの方向において徐々に発光素子の数(頻度)が少なくなっている。また、図11(a)に示されるように、比較的輝度が高い(良品である)輝度帯においては発光素子の蛍光波長のばらつきが小さいのに対して、比較的輝度が低い(不良品である)輝度帯においては発光素子の蛍光波長のばらつきが大きくなっている。制御装置100は、ばらつきが大きくなっている輝度帯の発光素子を不良品と判定する。
【0095】
すなわち、制御装置100は、短波長側の蛍光画像(第1の蛍光画像)及び長波長側の蛍光画像(第2の蛍光画像)に基づき、各発光素子の輝度及び蛍光波長の重心を導出する。そして、制御装置100は、輝度順に発光素子のソートを行い、蛍光波長のばらつきが所定値よりも大きくなる輝度帯の発光素子を不良品と判定し、蛍光波長のばらつきが所定値以下となる輝度帯の発光素子を良品と判定する。制御装置100は、例えばソートした後に、不良品側(輝度が小さい側)から一定数ごと(例えば10ずつ)に蛍光波長の揺らぎ(標準偏差)を導出し、当該揺らぎが所定以下に収束する輝度を良品/不良品の閾値と判断する。
【0096】
なお、制御装置100は、2つのカメラ81,82による計測結果(蛍光画像)から蛍光波長の重心を導出するに際して、上述した分光器520の計測結果(前処理において取得した結果)を考慮して補正を行ってもよい。これにより、蛍光波長の重心をより高精度に導出することができる。
【0097】
最後に、更なる実施形態として説明した各態様の作用効果について説明する。
【0098】
制御装置100は、蛍光画像の各画素について、カメラ81,82の視野内における位置に応じた波長ずれを補正してもよい。サンプルSからダイクロイックミラー60に入射する光の角度は、カメラ81,82の視野内の位置に応じて異なる。そして、ダイクロイックミラー60への入射角度の違いは、蛍光波長の重心(中心波長)の違い(波長ずれ)を生じさせる。すなわち、視野内における位置によって、各画素に係る蛍光の中心波長の違い(波長ずれ)を生じさせてしまう。この点、上述したように、カメラ81,82の視野内における位置に応じた波長ずれが補正されることによって、視野内の位置に起因した波長ずれを抑制し、各画素に係る本来の蛍光を適切に取得することができる。
【0099】
制御装置100は、視野内における位置に応じて推定される各画素についてのダイクロイックミラー60への蛍光の入射角度と、蛍光の入射角度に応じた波長の変化量に関するダイクロイックミラー60の光学特性と、に基づき、各画素について波長ずれを補正してもよい。視野内における位置とダイクロイックミラー60への入射角度との関係、及び、入射角度に応じた波長の変化量が予め特定されていることにより、視野内における位置からその画素についての波長の変化量を導出することができるので、各画素に関して容易且つ適切に波長ずれを補正することができる。
【0100】
制御装置100は、視野内における各画素の波長の分散が小さくなるように、各画素について波長ずれを補正してもよい。これにより、視野内の各画素に係る蛍光の中心波長のばらつきが抑制されるため、視野内の位置に起因した波長ずれを適切に補正することができる。
【0101】
検査装置500は、蛍光を波長毎に分解しスペクトルを計測する分光器520を更に備え、制御装置100は、色斑情報を導出するよりも前に行う前処理において、スペクトルに基づき、本来の蛍光強度である第1蛍光強度と、該第1蛍光強度よりも小さい異常な蛍光強度である第2蛍光強度とを特定し、第1蛍光強度が第2蛍光強度と比べて所定値以上大きくなるように、サンプルSに照射される励起光の照明輝度を決定し、励起光源20は、制御装置100によって決定された照明輝度の励起光を生成してもよい。本来の蛍光は、不純物や欠陥に起因する異常な蛍光と比べて、励起光の照明輝度が高くなった場合の増大率が大きい。すなわち、励起光の照明輝度が低い場合には本来の蛍光と異常な蛍光との強度の違いが小さく本来の蛍光が異常な蛍光に埋もれてしまう恐れがあるのに対して、励起光の照明輝度が高い場合には本来の蛍光と異常な蛍光との強度の違いが大きくなり本来の蛍光が異常な蛍光に埋もれてしまうことが抑制される。上述したように、前処理において、本来の蛍光強度である第1蛍光強度が、異常な蛍光強度である第2蛍光強度と比べて十分に大きくなるように励起光の照明輝度が決定されることにより、本来の蛍光が埋もれないように励起光の照明輝度を決定することができ、色斑情報を正確に導出することができる。
【0102】
制御装置100は、決定した照明輝度の励起光が励起光源20によって生成されてカメラ81,82において蛍光が撮像されることにより、カメラ81,82の少なくともいずれか一方への入射光量が飽和する場合、飽和するカメラ81,82の前段に光量を制限するフィルタを挿入してもよい。これにより、励起光の照明輝度を高くした場合であってもカメラ81,82が飽和することを適切に防止することができる。
【0103】
励起光源20は、パルス光である励起光を生成してもよい。パルス光が照射されることにより、本来の蛍光及び異常な蛍光はいずれも常にピーク輝度で比較されることとなるため、第1蛍光強度が第2蛍光強度に対して十分に大きくなっているかを容易且つ確実に判断することができる。
【0104】
制御装置100は、決定した照明輝度の励起光が励起光源20によって生成されてカメラ81,82において蛍光が撮像されることにより、カメラ81,82の少なくともいずれか一方への入射光量が飽和する場合、パルス光のデューティー比を調整することにより入射光量を抑制してもよい。カメラ81,82は、入射光量、すなわち蛍光の強度×時間によって飽和し得るところ、パルス光のデューティー比を変化させて蛍光の入射時間を調整することにより、蛍光の強度(本来の蛍光及び異常な蛍光の比率)を変更せずに、カメラ81,82が飽和することを適切に抑制できる。
【0105】
励起光源20は、パルス光の周波数を、カメラ81,82の露光時間の逆数の整数倍に同期させてもよい。これにより、各露光時間に含まれるパルス光の数を互いに同じにすることができ、各露光時間間で蛍光の入射光量が異なることを防止できる。
【0106】
制御装置100は、、短波長側の蛍光画像(第1の蛍光画像)及び長波長側の蛍光画像(第2の蛍光画像)に基づき、各発光素子の輝度と蛍光波長の重心とを導出し、蛍光波長の重心のばらつきが所定値よりも大きくなる輝度の発光素子を不良品と判定し、蛍光波長の重心のばらつきが所定値以下となる輝度の発光素子を良品と判定してもよい。蛍光波長の重心(中心波長)は、不良品である輝度帯ほど揺らぎやすい(ばらつきやすい)。このため、蛍光波長の重心のばらつきが所定値よりも大きくなる輝度(輝度帯)の発光素子を不良品と判定することにより、高精度且つ簡易に良品/不良品の判定を行うことができる。
【0107】
LEDの発光波長は、デバイスの温度に依存することが知られている。そのため、チャック11は、照明光の反射による照明強度の変化の影響を除くために黒色であることが望ましい。しかし、チャック11が黒色である場合、照明によりサンプル温度がドリフトし、発光波長がドリフトしていく恐れがある。これを防ぐために、サンプルSを吸着する部分であるチャック11が温度制御される機構(温調機能)を備えていることが好ましい。または、チャック11は、サンプルSの周辺部のみを吸着し、サンプルSの下が浮いた状態でサンプルSを保持することが好ましい。これにより、温度変化に伴う計測波長のずれを防ぐことができる。また上記の温調機能を用いて、あえてサンプルSを昇温した状態で計測を行ってもよい。サンプルSの結晶欠陥におけるリーク電流の量は温度の影響を強く受けることが知られている。そのため、サンプルSを加熱することによって、欠陥からのリークに伴う輝度の低下、波長のシフトの影響を大きくすることができる。
【0108】
LEDの発光強度は照明強度の1次ではなく、それ以上の次数に比例して強くなることが知られている。そして、これはサンプルSのプロセスごとに異なる可能性が高い。また、照明の輝度もそれに応じて変化させる必要がある可能性がある。また、サンプルSに照射される照明の輝度分布は完全にフラットになることはあり得ない。つまり、PL輝度は、画面内においてサンプルSごとに異なるシェーディングを持ちうる。これを防ぐために、蛍光画像のシェーディングは、少なくとも異なるプロセスのデバイスを計測するたびに変更することが好ましい。また、サンプルSごとに、かつ照明光の強度を変更するごとに蛍光画像のシェーディングを実サンプルから取得することがより好ましい。すなわち、制御装置100(処理部)は、蛍光画像のシェーディングを、サンプルS及び励起光の照明輝度を変更するたびに変更してもよい。
【0109】
不良なLEDにはリーク電流が生じる場合があり、そのようなLEDに対しての励起光の照明輝度がリーク電流と同程度である場合には、蛍光輝度はこのリーク電流に大きく影響を受けることがある。不良と判断する基準となるリーク電流付近の光電流が流れる照明輝度と、それよりも強い照明輝度で蛍光画像を取得すると、蛍光輝度の変化量が大きくなることがわかっている。したがって、蛍光を得るための励起光源の照明輝度を複数回切り替えてながら蛍光データを取得することが好ましい。例えば、輝度1で10ms露光した結果と、輝度10で1ms露光した結果での蛍光輝度の上昇量を評価すると、上昇量が異常に大きいものや、全く上昇しないものを不良と判断することができる。このように、励起光源20は、励起光の照明輝度を複数回切り替えてもよい。
【0110】
検査装置1は、サンプルSからの発光を検査する機能に併せて、サンプルSに形成されている各発光素子の形状を観察する機能を併せ持ってもよい。各発光素子の形状(パターン)を計測する際、発光で観察された各発光素子の発光波長よりも長い波長の照明を使用してもよい。これにより、各発光素子の発光層の奥にある電極等の形状を良好に観察することができる。
【符号の説明】
【0111】
1…検査装置、11…チャック(保持部材)、20…励起光源、81…カメラ(第1の撮像部)、82…カメラ(第2の撮像部)、100…制御装置(処理部)、S…サンプル(対象物)。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11