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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241121BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P29/024
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021029526
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022130885
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】小山 雅久
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将和
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-005973(JP,A)
【文献】特開平10-191639(JP,A)
【文献】特開2007-028792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P4/00
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源に接続可能な入力スイッチ部と、前記電源からの電力を直流電力として出力するコンバータ部と、前記直流電力を保持するコンデンサ部と、前記直流電力を交流電力に変換するインバータ部と、前記インバータ部により駆動されるモータとをこの順で接続してなり、前記コンバータ部と前記コンデンサ部との間に、前記コンデンサ部の充電中の突入電流を抑制する突入防止抵抗器と突入防止スイッチを有する突入電流防止回路部を有し、前記突入防止抵抗器を保護する突入防止抵抗保護部を備えたモータ制御装置において、
前記突入防止抵抗保護部は、前記突入防止抵抗器を通過する電力を算出し、所定時間の間の短時間電力量を算出するとともに、前記所定時間の間の前記短時間電力量に基づいて、前記突入防止抵抗器の劣化量の情報を生成し、劣化量を外部に報知することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記突入防止抵抗保護部は、突入防止抵抗器に電圧が加わっている時の電力を積算するとともに前記突入防止抵抗器に電圧が加わっていない時は所定の値を減算していくことにより前記突入防止抵抗器のアラーム電力量を算出し、前記アラーム電力量が所定の閾値に達した場合には、前記インバータ部の駆動を停止し、前記入力スイッチ部をオフにする、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記突入防止抵抗保護部は、前記短時間電力量から突入防止抵抗器の仕様に基づき前記短時間電力量に応じた耐久回数を算出し、前記短時間電力量に応じた耐久回数の逆数を算出することにより劣化量加算値を算出し、前回の劣化量と加算して劣化量を求める、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記突入防止抵抗保護部は、突入防止抵抗器への電圧印加開始から一定時間経過するまでの突入防止抵抗器に電圧が加わっている時の電力を積算することにより前記突入防止抵抗器の前記短時間電力量を算出する、請求項1~3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記突入防止抵抗保護部は、前記アラーム電力量が前記所定の閾値に達した場合には、インバータの駆動を停止するとともに、前記突入防止抵抗器の過負荷異常の情報を外部に報知する、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記突入電流防止回路部の前記突入防止抵抗器を通過する前記電力は、前記電力を算出可能な電圧又は電流に基づいて算出される、請求項1~5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記突入電流防止回路部の前記突入防止抵抗器を通過する前記電力は、前記コンデンサ部の電圧と、前記コンバータ部の出力電圧と、前記突入防止抵抗器の抵抗値から算出する、請求項1~6のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突入防止抵抗器の劣化モニタ機能を備えたモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータ制御装置は、三相交流電圧をコンバータにより直流電圧に変換し、直流電圧を平滑コンデンサで平滑し、インバータにより三相交流電圧に変換してモータを駆動している。このようなモータ制御装置は、モータ制御装置に異常があった場合に電源を遮断するように、三相交流電源とモータ制御装置の間に電磁接触器を設けている。
【0003】
そして、モータ制御装置を駆動する場合は、最初に電磁接触器をオンにして、三相交流電源をモータ制御装置に接続する。モータ制御装置には平滑コンデンサが設けられているため、電源投入時に平滑コンデンサを充電する突入電流が流れる。平滑コンデンサのインピーダンスは低いため、大きな突入電流が流れてコンバータを構成する整流ダイオードを破損するおそれがある。これを防止するため、コンバータの出力に抵抗と電磁接触器(突入防止MS)による突入電流防止回路を設け、電源投入時は抵抗を通して平滑コンデンサを充電し、平滑コンデンサが充電されたら突入防止MSをオンにしてモータを駆動する。また、電源を遮断した後に平滑コンデンサの電圧を放電させるための放電抵抗も設けられており、電源遮断後に平滑コンデンサの電圧を放電して保全作業の安全性を確保している。
【0004】
このような突入防止抵抗器の保護方法として、整流回路と突入電流防止回路によりコンバータ部を構成し、平滑コンデンサとインバータ回路によりインバータ部を構成し、1台のコンバータ部と複数のインバータ部でモータ制御装置を構成した多軸構成のモータ制御装置において、インバータ部の台数が増えた場合に突入防止抵抗器が断線してしまうことの保護を行った技術が記載された特許文献1がある。
【0005】
後述の特許文献1には、交流電源側から供給された交流電流を整流し、直流側であるDCリンクに直流電流を出力する整流回路と、整流回路が接続されるDCリンク側に平滑コンデンサを有し、整流回路からの直流電流を変換してモータ駆動のための交流電流を出力するインバータ部と、DCリンクに設けられ、スイッチとスイッチに並列接続された充電抵抗器とを有する初期充電部であって、モータ駆動開始前の初期充電期間中、スイッチが開放されることで充電抵抗器を介して流れる整流回路からの直流電流により、平滑コンデンサが所定の電圧になるまで初期充電する初期充電部と、充電抵抗器の抵抗値と充電抵抗器を溶断させる電力量として予め規定された負荷耐量とを記憶する記憶部と、整流回路からの直流電流が流れることにより充電抵抗器で発生するある時間区間における平均電力量を算出する電力算出部と、初期充電期間中、電力算出部により算出された平均電力量が負荷耐量に達した場合は、整流回路からの直流電流が平滑コンデンサに流入することを遮断し、前記の遮断後、電力算出部により算出された平均電力量が所定の閾値以下になった場合は、整流回路からの直流電流が平滑コンデンサに流入するようにする開閉部と、を備えることを特徴とするモータ駆動装置が記載されている。
特許文献1の装置では、負荷耐量は充電抵抗器を溶断させる電力量として設定しているが、充電抵抗器には寿命があり、電力量が小さい場合は寿命が長く、電力量が大きい場合は寿命が短くなる。
【0006】
【表1】
【0007】
表1は、突入防止抵抗器の耐久回数とエネルギー(電力量)、許容繰り返し時間の一例を示したものである。突入防止抵抗器の期待耐久回数が10万回の場合、突入防止抵抗器に加わるエネルギーは1400J以下である必要がある。しかし、突入防止抵抗器に短時間に2220Jのエネルギーが加わるような状態で使用する場合は、突入防止抵抗器の耐久回数は1000回に低下し、突入防止抵抗器に短時間に3440Jを超えるネルギーが加わると抵抗は断線してしまう。このため、特許文献1の想定で、充電抵抗の負荷耐量を長期の製品寿命を満足する小さな電力量で用いた場合は、1回の充電の中で、電力算出部により算出された平均電力量が小さな電力量に達すると、整流回路からの直流電流が平滑コンデンサに流入することを遮断し、電力算出部により算出された平均電力量が所定の閾値以下になった場合は整流回路からの直流電流が平滑コンデンサに流入する。
【0008】
しかし、平滑コンデンサの容量が大きい場合は、1回の初期充電の中に何回かの平滑コンデンサへの流入遮断が行われ、流入遮断時の充電抵抗器の平均電力を許容値以下に抑えないと、突入防止抵抗器が断線するおそれがあった。流入遮断時の充電抵抗器の平均電力を許容値以下に抑えた場合は、流入遮断間隔は数十秒といった長い時間になり、初期充電にかかる時間が長くなり、モータ制御装置を構成するシステムの起動時間が延びてしまうという問題があった。起動時間が延びると機械の稼働効率が低下するため、起動時間が延びないことが望まれている。これを防ぐため、ある程度大きな電力量を負荷耐量に設定すると、システムの起動時間は短くなるが、製品耐久性を満足しないため、劣化により突入防止抵抗器が断線してしまうという問題があった。また、電源投入時に電源の瞬時停電が発生した場合は、製品寿命を満足する小さな電力量を負荷耐量として設定していた場合は、システムの起動時間がさらに長くなり、ある程度大きな電力量を負荷耐量に設定すると、製品寿命を満足しないため、劣化により突入防止抵抗器が断線してしまうという問題があった。さらに、製品寿命を満足する小さな電力量を負荷耐量として設定していた場合は、開閉部が何回も開閉を繰り返すことにより、この開閉部を構成する電磁接触器の寿命が低下してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-5973号公報
【0010】
また、特許文献1の装置と異なり、電力算出部により算出された平均電力量が負荷耐量に達した場合にアラームを検出して電磁接触器を遮断するようにした場合、小さな電力量を負荷耐量として設定していた場合は、頻繁にアラームを検出してしまい、システムの停止時間が長くなるという問題があった。さらに、ある程度大きな電力量を負荷耐量に設定した場合は、アラームは発せられないが、劣化の蓄積により突入防止抵抗器が断線してしまうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の様な問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、頻繁にアラームを検出することがなく、装置の起動時間が延びることもなく、電源入力部の電磁接触器の寿命が低下してしまうこともなく、モータ制御装置の稼働時などの電力により突入防止抵抗器が劣化を生じて断線し、モータ制御装置が停止してしまうことのないような、突入防止抵抗器の劣化モニタ機能を備えたモータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
電源に接続可能な入力スイッチ部と、前記電源からの電力を直流電力として出力するコンバータ部と、前記直流電力を保持するコンデンサ部と、前記直流電力を交流電力に変換するインバータ部と、前記インバータ部により駆動されるモータとをこの順で接続してなり、前記コンバータ部と前記コンデンサ部との間に、前記コンデンサ部の充電中の突入電流を抑制する突入防止抵抗器と突入防止スイッチを有する突入電流防止回路部を有し、前記突入防止抵抗器を保護する突入防止抵抗保護部を備えたモータ制御装置において、前記突入防止抵抗保護部は、前記突入防止抵抗器を通過する電力を算出し、所定時間の間の短時間電力量を算出するとともに、前記所定時間の間の前記短時間電力量に基づいて、前記突入防止抵抗器の劣化量の情報を生成し、劣化量を外部に報知することを特徴とするモータ制御装置。
【0013】
また、前記突入防止抵抗保護部は、突入防止抵抗器に電圧が加わっている時の電力を積算するとともに前記突入防止抵抗器に電圧が加わっていない時は所定の値を減算していくことにより前記突入防止抵抗器のアラーム電力量を算出し、前記アラーム電力量が所定の閾値(製品耐久回数を満足する電力量より高い値)に達した場合には、前記インバータ部の駆動を停止し、前記入力スイッチ部をオフにする、ものであってもよい。
【0014】
さらに、前記突入防止抵抗保護部は、前記短時間電力量から突入防止抵抗器の仕様に基づき短時間電力量に応じた耐久回数を算出し、前記短時間電力量に応じた耐久回数の逆数を算出することにより劣化量加算値(ΔD)を算出し、前回の劣化量と加算して劣化量を求める、ものであってもよい。なお、前回の劣化量がない場合は前回の劣化量の値を零として求める。
【0015】
加えて、前記突入防止抵抗保護部は、突入防止抵抗器への電圧印加開始から一定時間経過するまでの突入防止抵抗器に電圧が加わっている時の電力を積算することにより前記突入防止抵抗器の短時間電力量を算出する、ものであってもよい。
【0016】
また、前記突入防止抵抗保護部は、前記アラーム電力量が前記所定の閾値に達した場合には、インバータの駆動を停止するとともに、前記突入防止抵抗器の過負荷異常の情報を外部に報知する、ものであってもよい。
【0017】
さらに、前記突入電流防止回路部の前記突入防止抵抗器を通過する前記電力は、前記電力を少なくとも近似的に算出可能な電圧又は電流に基づいて算出される、ものであってもよい。
【0018】
加えて、前記突入電流防止回路部の前記突入防止抵抗器を通過する前記電力は、前記コンデンサ部の電圧と、前記コンバータ部の出力電圧と、前記突入防止抵抗器の抵抗値から算出する、ものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、突入防止抵抗器の過負荷異常検出の閾値を、製品耐久回数を満足する電力量より高い値に設定し、短時間電力量の値に応じた劣化量を算出して予防保全を行うようにした。これにより、頻繁にアラームを検出することがなく、装置の起動時間が延びることもなく、電源入力部の電磁接触器の寿命が低下してしまうこともなく、モータ制御装置の稼働時に突入防止抵抗器が劣化により断線し、モータ制御装置が停止してしまうことのないような、突入防止抵抗器の劣化モニタ機能を備えたモータの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の一形態を示す回路図
図2】本発明の実施の一形態を示す制御フロー図
図3】短時間電力量Wsと耐久回数との関係を示す例
図4】短時間電力量Wsと劣化量加算値ΔDとの関係を示す例
図5A】正常電源投入時の各部の電力等の変化を示す例
図5B】電源投入時に1回の瞬時停電が発生した場合のそれを示す例
図5C】電源投入時に2回の瞬時停電が発生した場合のそれを示す例
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に本発明の実施の一形態を示す。モータ制御装置10は、6個の整流ダイオード21からなり、電源から、順に、全波整流を行うコンバータ部20、突入防止用マグネットスイッチ(以下、「突入防止MS」と略記する。)と突入防止抵抗器Rが並列接続された突入電流防止回路部30、回生抵抗器50とその稼働を制御する回生抵抗器駆動用トランジスタ51、平滑コンデンサC(コンデンサ部)、そして6個の半導体スイッチ71からなるインバータ部70からなる。
【0022】
また、モータ制御装置10には、突入防止抵抗器Rの電力量を取得し、突入防止抵抗器を保護するために必要な制御を行う突入防止抵抗保護部80が設けられている。
【0023】
ここでは、モータ制御装置10の電源として三相交流電源が使用され、三相交流電源とモータ制御装置10の間に電磁接触器EC(入力スイッチ部)が接続され、また、モータ制御装置10のインバータ部70の出力はモータMに接続されている。
【0024】
モータMを駆動する場合は、電磁接触器ECをオンにし、電源電圧をコンバータ部20により全波整流して直流電圧にし、突入防止抵抗器Rにより突入電流を抑制しながら平滑コンデンサCを充電する。
【0025】
平滑コンデンサCの充電が終了すると突入防止MSをオンにし、インバータ部70により交流電圧を発生させてモータMを駆動する。モータMの力行運転時は、三相交流電源からコンバータ部20、インバータ部70を通してモータMに電力が供給される。
【0026】
モータMの回生運転時はモータMからインバータ部70を通して平滑コンデンサCが充電され、直流電圧が基準値より高くなると回生抵抗器駆動用トランジスタ51をオンにし、基準値以下になると回生抵抗器駆動用トランジスタ51をオフにして、直流電圧が一定の範囲になるように制御される。
【0027】
そして、モータMの運転を停止させる場合は、インバータ部70をオフにし、電磁接触器ECをオフにする。
【0028】
モータ制御装置10の入力電圧が低下すると、回生抵抗器駆動用トランジスタ51をオンにして、平滑コンデンサCの電荷を放電する。本実施例では回生抵抗器が放電抵抗としても用いられている例を示している。なお、回生電力をどのように放電するかあるいは利用するかは任意である。
【0029】
突入防止抵抗保護部80は、コンバータ部20の直流出力電圧VDCI、平滑コンデンサCの直流電圧VDCを検出し、後述の図2のフローチャートに従って突入防止抵抗器Rの保護を行う。
【0030】
図2のフローチャートは、突入防止抵抗器Rの保護のためのもので、サンプリング時間ΔT毎(数ms)で繰り返し処理を行うフローを示したものである。最初に概要を説明する。ここでは、説明の都合上、ループを繰り返す図上で直線上のフローをメインフローと称し、そこから一定の判定条件の下で分岐した時のフローをサブフローと称する。
【0031】
初めに、ステップ1において、コンバータ部20の直流出力電圧VDCI及び平滑コンデンサCの直流電圧VDCを検出する。検出の態様は任意である。
【0032】
次に、ステップ2において、コンバータ部20の直流出力電圧VDCIと平滑コンデンサCの直流電圧VDCとの比較を行う。コンバータ部20の直流出力電圧VDCIが平滑コンデンサCの直流電圧VDCより高い場合([Y])には、平滑コンデンサCへの突入電流が生じているとしてステップ3に進む。ここでコンバータ部20の直流出力電圧VDCIが平滑コンデンサCの直流電圧VDCと同じか低い場合([N])には、アラームを発するか否かを判定するための電力量W(アラーム電力量)の減算処理を行うステップ11のサブフローを迂回する。
【0033】
なお、本明細書において電力量という場合、明示又は区別されている場合を除けば、突入防止抵抗器Rにおいて生じる電力量を一般的に意味するものとして、文脈に沿って理解されるべきものである。
【0034】
ステップ2において[Y]の場合は、次に、ステップ3において、時間フラグをセットして計時を開始し、ステップ4において、後述の数式により、サンプリング時間毎の電力量を直前の電力量Wに加算して新たな電力量Wを算出し、ステップ5において、サンプリング毎の短時間電力量Wsについても、その電力量を直前の短時間電力量Wsに加算して新たな短時間電力量Wsを算出する。次いでステップ6に移る。
【0035】
ステップ6において、サブフローに迂回してステップ11を経由した場合も含めて、先に算出した電力量Wが閾値を超えているか否かを判定する。かかる電力量Wが閾値を超えていると判定された場合は[Y]側のサブフローのステップ12を経由してメインフローに戻る。
【0036】
サブフローのステップ12では、電力量Wが閾値を超えたことを受けて、突入防止抵抗器Rの負荷異常を検出したとして取り扱われ、インバータ部70を停止するとともに、電磁接触器ECをオフとする。
【0037】
ステップ6において、先に算出した電力量Wが閾値を超えているか否かを判定し、かかる電力量Wが閾値を超えていないと判定された場合は[N]側のメインフローをとおりステップ7に移行する。
【0038】
ステップ7では、先にステップ2においてコンバータ部20の直流出力電圧VDCIが平滑コンデンサCの直流電圧VDCより高い場合に平滑コンデンサCへの突入電流が生じているとして[Y]の側であるメインフローを通ってステップ3でセットした時間フラグがセットされたままであるか否かを判定する。
【0039】
ステップ7において、時間フラグがセットされたままである場合は、計時が継続しているとして[Y]の側であるステップ13のサブフローを経由してメインフローに戻り、時間フラグがセットされていない場合は、そのまま[N]側のメインフローをとって次のステップ8に移行する。
【0040】
ステップ13のサブフローでは、直前の積算時間Tにサンプリング時間ΔTを加算して新たな積算時間Tを算出し、メインフローに戻る。
【0041】
ステップ8においては、直前の積算時間Tが短時間電力量Wsを測定する時間(ここでは3秒を例にする。)である規定値を超えているか否かを判定する。
【0042】
ステップ8において、直前の積算時間Tが規定値を超えている場合は、短時間電力量Wsが得られたとして[Y]の側であるステップ14のサブフローを経由してメインフローに戻る。
【0043】
ステップ14においては、短時間電力量Wsを基に直前の劣化量Dへの劣化量加算値ΔDを算出し、両者を加算して新たな劣化量Dを算出する。
【0044】
ステップ14においては、さらに、短時間電力量Ws、時間フラグ及び積算時間Tをすべてクリアし、メインフローに戻る。
【0045】
ステップ8において、直前の積算時間Tが短時間電力量Wsを測定する時間(ここでは3秒を例にする。)である規定値を超えていない場合は、そのまま[N]側のメインフローを進む。
【0046】
メインフローは、ステップ8又は場合に応じてステップ14を経た後、モータ制御装置10の運転が続いている限り、再度、ステップ1から順に同様のフローを繰り返すものである。
【0047】
以上のフローについて、モータ制御装置10の制御動作を中心に詳述すると以下のとおりである。
【0048】
まず、ステップ1においては、前述したとおり、モータMを駆動する場合に、電磁接触器ECをオンにすると、電源電圧をコンバータ部20により全波整流して直流電圧が発生し、平滑コンデンサCに流入しようとするので、その時に、コンバータ部20の直流出力電圧VDCIと平滑コンデンサCの直流電圧VDCを測定する。
【0049】
次に、ステップ2において、コンバータ部20の直流出力電圧VDCIが、平滑コンデンサCの直流電圧VDCより大きいか否かを判定する。
【0050】
ステップ2において、コンバータ部20の直流出力電圧VDCIが平滑コンデンサCの直流電圧VDCより大きい場合([Y])は、平滑コンデンサCへの突入電流が生じているので、ステップ3において、最初に時間フラグをセットする。
【0051】
ステップ2において、コンバータ部20の直流出力電圧VDCIが平滑コンデンサCの直流電圧VDCと同じか小さい場合([N])は、突入防止抵抗器Rに突入電流による電力が生じていない場合であるので、サブステップ11に移行し、例えば表1に示されるような突入防止抵抗器Rの仕様に応じた許容繰り返し時間に基づく減算量(エネルギー/許容繰返し時間)で電力量Wを減算し、電力量Wが0以下になったら減算を止める。
【0052】
そして、ステップ4及び5において、両電圧VDCI及びVDCと突入防止抵抗器Rの抵抗値Rに基づき1サンプリングタイムΔT毎の突入防止抵抗器Rに生じる電力量W及び所定時間の短時間電力量Wsを、いずれも同じであるが、次の数式により求まる。
【0053】
【数1】
【0054】
ここで、1サンプリングタイムΔT毎の突入防止抵抗器Rの電力量ΔW及び所定時間の短時間電力量ΔWsを、1サンプリングタイム毎にそれぞれ直前の突入防止抵抗器Rの電力量W及び所定時間の短時間電力量Wsを加算することにより、新たな突入防止抵抗器Rの電力量W及び所定時間の短時間電力量Wsを設定する。
【0055】
これにより、それまでに、突入防止抵抗器Rに発生した電力量は次の数式により求まる。ここで、所定時間は3秒とした例で説明する。
【0056】
【数2】
【0057】
ステップ6において、電力量が閾値を超えると([Y])、サブステップ12において、突入防止抵抗器Rの過負荷異常を検出したとして、インバータ部70の駆動を停止させて、電磁接触器ECをオフにして電源を遮断する。
【0058】
ステップ6において用いる、この突入防止抵抗器Rの過負荷異常検出の閾値は、モータ制御装置10として規定されている突入防止抵抗器Rの所定耐久回数毎の電力量の中でも相対的に高い電力量Wで定められた閾値に設定する。例えば表1の仕様の突入防止抵抗器Rで、製品耐久回数を満足する突入防止抵抗器Rの期待耐久回数が10万回の場合、通常は過負荷保護の電力量Wの閾値は1400Jに設定して製品耐久回数を満足するようにするが、本形態では、例えば短時間に3回の平滑コンデンサCの充放電が行われた場合の突入防止抵抗器Rに加わる電力量Wで異常を検出する閾値に設定し、電源投入時に瞬時停電が1回発生して平滑コンデンサCの充放電が短時間に2回行われた場合であっても、突入防止抵抗器Rの過負荷異常とは扱わないようにしている。
【0059】
さらに、多軸構成のモータ制御装置10で、インバータ部70の台数が多い場合でも、1回の充放電では異常を検出しない値に設定する。例えば表1の仕様の抵抗器で、2220Jといった高い値に設定するようにする。このため、突入防止抵抗器Rの過負荷異常検出時の電力量Wの閾値から算出した耐久回数は、突入防止抵抗器Rの期待耐久回数より少なくなる。
【0060】
次に、ステップ7において、計時が継続しているかどうかを時間フラグがセットされているか否かで判定し、時間フラグがセットされている場合[Y]は、計時が継続されているとして、サブフローのステップ13において直前の積算時間TにサンプリングタイムΔTを加算して新たな積算時間Tとする。
【0061】
そして、ステップ8において、積算時間Tが規定値を超えたか否かを判定し、積算時間が規定値を超えた場合[Y]は、サブフローのステップ14において、次の工程を実行する。規定値については後述する。
【0062】
最初に、その時点での短時間電力量Wsの値を基に突入防止抵抗器Rの劣化量加算値ΔDを算出する。この短時間電力量Wsは、突入防止抵抗器Rへの電力印加開始から一定時間経過するまでの突入防止抵抗器Rの電力量である。一定時間は、三相交流電源の瞬停復帰などで突入防止抵抗器Rに断続的に加わる電力量を積算して劣化量加算値ΔDを算出する必要のある短時間(ここでは一例として3sを設定したことは前述のとおり。)とする。そして、この短時間を規定値として設定し、この短時間電力量Wsの値が突入防止抵抗器Rの期待耐久回数を超える電力量の場合は、劣化量加算値ΔDを次式で求める。
【0063】
【数3】
【0064】
ここで、K1は短時間電力量と短時間電力量での耐久回数の関係を決める短時間電力量に応じた係数で、突入防止抵抗器Rの仕様により決まる。また、K2は短時間電力量での耐久回数と劣化量加算値ΔDの関係を決める短時間電力量に応じた係数である。例えば、短時間電力量での耐久回数が1回の場合に劣化量加算値ΔDが100%になるように係数K2を決める。同様に短時間電力量での耐久回数が2回の場合、劣化量加算値ΔDが50%になるように係数K2を決める。同様に短時間電力量での耐久回数がN回の場合に、劣化量加算値ΔDは1/N×100%になるように係数K2を決める。
【0065】
このように係数K1、K2は短時間電力量Wsに応じた係数になり、短時間電力量Wsに応じたテーブルを予め用意して劣化量加算値ΔDを求めるようにする。このような考え方で作成した表の一例が図3及び図4に示しており、図3は短時間電力量Wsとその短時間電力量での耐久回数との関係を示す一例、図4は短時間電力量Wsと劣化量加算値ΔDとの関係を示す一例である。
【0066】
そして劣化量加算値ΔDを前回の劣化量加算値ΔDを算出した後の劣化量Dと加算して、その時点での劣化量Dを求め、短時間電力量Ws、時間フラグ、積算時間Tをクリアする。そして劣化量Dをモニタに表示する。なお、モニタはどのようなものでもよく、外部に報知して操作者等が認識できるものであれば任意のものが使用できる。もちろん、突入防止抵抗保護部80と一体であっても、別体であってもよいし、画像、音、光等いかなる形態であってもよい。
【0067】
また、ステップ8において積算時間Tが規定値を超えていない場合は、メインフローに戻り、次にまた同じステップ1からのフローを繰り返すことになる。
【0068】
前述のステップ14では、劣化量Dをモニタに表示するので、保全作業者等は、モニタに表示された劣化量Dの値が100%に近くなると、突入防止抵抗器R、あるいは、モータ制御装置10を交換する保全作業を行う。劣化量Dが0%の場合は、期待耐久回数まで使い切ることができる。
【0069】
以上が、本形態のモータMの制御装置の動作である。なお、コンバータ部20の直流出力電圧VDCIは直接測定しなくとも、別に電源電圧を全波整流した電圧を検出できる回路を設けて、コンバータ部20の直流出力電圧VDCI相当(近似)の電圧を検出できるようにしてもよいし、突入防止抵抗器Rに流れる電流を検出して突入防止抵抗器Rの電力量を算出してもよい。また、平滑コンデンサCの容量Cと平滑コンデンサCの電圧VDCを用いて突入防止抵抗器Rの電力量を算出してもよい。
【0070】
さらに、突入防止MSがオフしている場合のみ突入防止抵抗器Rの電力量Wや短時間電力量Wsを算出するようにしてもよいし、突入防止MSがオンしている場合も含めて突入防止抵抗器Rの電力量Wや短時間電力量Wsを算出するようにしてもよい。突入防止MSがオフしている場合のみ突入防止抵抗器Rの電力量Wや短時間電力量Wsを算出する場合は、VDCIやVDC検出部のオフセット誤差によりモータM運転中に突入防止抵抗過負荷異常や劣化量Dを誤検出することを防止できる。
【0071】
突入防止MSがオンしている場合も突入防止抵抗器Rの電力量Wや短時間電力量Wsを算出する場合は、モータM運転中に突入防止MSが故障してオフになった場合の突入防止抵抗器Rの保護も行うことができる。この場合は、VDCIやVDC検出部のオフセット誤差の影響を防止するため、VDCIとVDCの差が所定の電圧以上になったら突入防止抵抗器Rの電力量Wや短時間電力量Wsを算出するようにして、オフセット誤差の影響を防止すればよい。
【0072】
所定の電圧は突入防止MSがオンしているモータM運転中に突入防止抵抗の電力量Wや短時間電力量Wsを誤検出しない程度の小さな値に設定する。
【0073】
加えて、コンバータ部20は電源回生を行えるコンバータ部20でもよい。その場合、突入防止MSがオンしている場合も突入防止抵抗器Rの電力量Wや短時間電力量Wsを計測するようにすれば、モータMの回生運転中に突入防止MSが故障してオフになってしまった場合に、平滑コンデンサCからコンバータ部20を通して電源側に回生していく電流が突入防止抵抗器Rに流れることになるが、それに対しても突入防止抵抗器Rの保護も行うことができる。
【0074】
さらにまた、劣化量Dを、テーブルを用いずに近似値を算出する数式で算出してもよい。
【0075】
このように、本形態は、モータM運転開始前の初期充電時のみでなく、モータM運転中に比較的長い瞬時停電が発生して、復電する時に突入防止抵抗に電流が流れた場合の突入防止抵抗の保護や、突入防止MSが故障してオフになった場合の突入防止抵抗器Rの保護も行うことができる。
【0076】
図5Aから図5Cは、正常電源投入時、瞬時停電の発生に対する過負荷異常の検出と劣化量算出動作の例を示した図である。最左端を初期状態として右に向かう横軸が時間の経過を示す時間軸として、上から順に、三相交流電源、電磁接触器EC、VDC、モータM駆動状態、突入防止抵抗器Rの電力量W、アラームの検出の有無、短時間電力量Ws及び劣化量加算値ΔDの時間変化を示したものである。
【0077】
図5Aは電源投入時に瞬時停電が発生しない正常電源投入時の動作を示している。最初に電磁接触器ECをオンにすると、VDCが立ち上がり、しばらくしてモータMの運転が可能になる。突入防止抵抗器Rの電力量Wは異常を検出する電力量には至らないため、突入防止抵抗過負荷異常としては取り扱われない。また、短時間電力量Wsは突入防止抵抗器Rの期待耐久回数を超える電力量には至らないため、劣化量Dは増加しない。このため、瞬時停電が発生しない正常電源投入時は、突入防止抵抗は期待耐久回数まで使用できる。
【0078】
図5Bは、電源投入時に1回の瞬時停電が発生した例を示したものである、図にみられるとおり、電磁接触器ECをオンにしてVDCが立ち上がった後、瞬時停電が一回発生している。瞬時停電が発生すると、それまでに蓄積した電力が停電中にVDCから放電され、その後、電源が復帰してVDCが立ち上がる。この時の短時間電力量Wsとしては、短い時間の間に連続して電力が突入電力防止抵抗器に発生するが、総和の電力量が異常検出の閾値に至らないため、アラームは検出せず、暫くしてモータMの運転が可能な状態となる。一方、短時間電力量Wsは、突入防止抵抗器Rの期待耐久回数を超える電力量となるので、前述したとおりに算出した劣化量加算値ΔDが生じるので、その分、直前の劣化量Dが増加し、劣化量Dが悪化する。
【0079】
図5Cは、電源投入時に2回の瞬時停電が発生した例を示したものである。図にみられるとおり、電磁接触器ECをオンにしてVDCが立ち上がった後、瞬時停電が2回連続して発生している。瞬時停電が発生すると、それまでに平滑コンデンサに蓄積した電荷が停電中に放電されてVDCが低下し、電源が復帰して再度VDCが立ち上がると、再度VDCへの充電が開始されるが、2回目の瞬時停電が発生すると、それまでに蓄積した電力が再度停電中に放電されてVDCが低下し、そして、次に電源が復帰して漸くインバータを稼働可能な状態までVDCが立ち上がる。
【0080】
この時の突入防止抵抗器Rの電力量Wは、過負荷異常を検出するための閾値に至り、アラームが検出され、電磁接触器ECがオフになる。また、この時の短時間電力量Wsは、短い時間の間に3連続で電力が突入電力防止抵抗器に発生し、総和の短時間電力量Wsがより低い耐久回数の電力量に達してしまうので、電源投入時に1回の瞬時停電が発生した例に比べると、前述したとおりに算出した劣化量加算値ΔDがより大きくなり、その分、直前の劣化量Dがより増加し、劣化量Dはより悪化する。
【0081】
このように、本形態では、突入防止抵抗器Rの過負荷異常を検出することにより、過大な電力量による突入防止抵抗器Rの断線を防止し、突入防止抵抗器Rの耐久回数が期待耐久回数を下回る点に関しては、短時間電力量の値に応じた劣化加算量ΔDを求めて、劣化量Dを算出し、モニタに表示することで、劣化量Dが100%近くになった後は、突入防止抵抗器R、あるいは、モータ制御装置10を交換する保全作業を行うべき状況であることが認識でき、その後の新たな劣化による突入防止抵抗の断線を防止することができる。
【0082】
以上の説明は本発明の実施の形態を詳細に説明したものであるが、上記の実施の形態において、図示されている構成等については、特に限定されるものではなく、また、図示又は説明されたものであっても、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて形態を適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
モータ M
三相交流電源 S
電磁接触器 EC
モータ制御装置 10
コンバータ部 20
整流ダイオード 21
突入電流防止回路部 30
突入防止マグネットスイッチ MS
突入防止抵抗器 R
回生抵抗器 50
回生抵抗器駆動用トランジスタ 51
コンデンサ部 C
インバータ部 70
半導体スイッチ 71
突入防止抵抗保護部 80
コンバータ部の直流出力電圧 VDCI
コンデンサ部の直流電圧 VDC
積算時間 T
電力量(アラーム電力量) W
短時間電力量 Ws
劣化量 D
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C