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  • 特許-インク輸送チューブ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】インク輸送チューブ
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20241121BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20241121BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20241121BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20241121BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241121BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B65D65/40 D
C08L9/00
C08L9/06
C08L23/02
C08L23/26
B41J2/175 503
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021037956
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2022138209
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】黒川 暢昭
(72)【発明者】
【氏名】石井 健雄
(72)【発明者】
【氏名】植村 悠佑
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-051368(JP,A)
【文献】特開2010-274627(JP,A)
【文献】特開2005-200464(JP,A)
【文献】国際公開第03/027183(WO,A1)
【文献】特開2011-219567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
C08L 9/00-9/06
C08L 23/02-23/26
B41J 2/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)と、
(B) ポリオレフィン樹脂と、
(C) ポリブテン、ポリイソブチレン、及びポリイソプレン-イソブチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、
(D) スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレンと
を含み、
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)100重量部に対する(B)ポリオレフィン樹脂の添加量が10乃至50重量部であり、(C)ポリブテン、ポリイソブチレン、及びポリイソプレン-イソブチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加量が30重量部以上、300重量部以下であり、(D)スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレンの添加量が1.0重量部以上、15重量部以下である
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物からなるインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
【請求項2】
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)がスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
【請求項3】
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)がスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)とスチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)からなることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
【請求項4】
(A)スチレン系熱可塑性エラストマーを100重量部とした時、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)が50重量部乃至99重量部であり、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)が1重量部乃至50重量部であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
【請求項5】
60(縦)×10(横)×2(厚み)mmの熱可塑性エラストマーシート2枚のそれぞれの表面を、直径10mmのポリプロピレン製の棒を当該熱可塑性エラストマーシートに押し当てて100回擦った後、擦った後の熱可塑性エラストマー表面同士を圧着荷重1gf/mmで1分間圧着した後、T型剥離試験機を用いて、剥離速度50mm/minの条件で測定した最大貼り付き荷重(耐久後最大貼付荷重;非粘着持続性)が0.05N/cm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブ。
【請求項6】
60(縦)×10(横)×2(厚み)mmの熱可塑性エラストマーシート2枚を圧着荷重1gf/mmで1分間圧着した後、T型剥離試験機を用いて剥離速度50mm/minの条件で測定した最大貼り付き荷重(初期最大貼りつき荷重)が0.05N/cm以下であることを特徴とする請求項5に記載のインク輸送チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーからなるインクジェットプリンター用インク輸送チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物100質量部、(b)JIS K7210に準拠した230℃、21.18Nでのメルトマスフローレートが1~10g/10分であるポリプロピレン系樹脂5~100質量部及び(c)ゴム用軟化剤50~120質量部を含み、JIS K6253に準拠したショアA硬度が50~95、かつJIS K7210に準拠した230℃、49Nでのメルトマスフローレートが0.1~15g/10分である樹脂組成物から得られる成形体が、自動車部品、特にホース・チューブ材として好適であることが開示されている。
【0003】
上記特許文献1の熱可塑性エラストマー成形物は、硬度が低くなると表面に粘着性が現れる。それ故、インクジェットプリンター用インク輸送チューブとして使用すると、インクヘッド動作時のチューブ同士およびチューブとプリンター外周部品との擦れによる表面摩耗が起こる。さらに、インクジェットプリンターではチューブが一時的に押しつぶされる場合がある。この押しつぶしは一時的なもので、チューブはすぐに解放されるが、チューブ内径表面に粘着性があると、押しつぶし状態を解放しようとしても内径面同士の粘着により閉塞したままの状態になってしまう問題があった(形状回復応答性が悪い)。
また、未変性ポリオレフィンやアクリル樹脂等の重合体を添加することで非粘着性(アンチブロッキング性)等を付与することができると記載されているが、その非粘着効果が十分でなかったり、効果の持続性に乏しい上、硬さの上昇も伴う結果、柔軟性との両立が困難であり、インク輸送チューブとしての特有の問題を完全に解決できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-131769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた耐キンク性、水蒸気バリア性、ガスバリア性、耐歪み残存性をもちながら、永続的に表面の粘着性が低減される柔軟な熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下を包含する。
[1]
(A) スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)と、
(B) ポリオレフィン樹脂と、
(C) ポリブテン、ポリイソブチレン、及びポリイソプレン-イソブチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、
(D) 変性ポリエチレンと
を含み、
(D)の変性部が極性を有する構造を含み、
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)100重量部に対する(D)変性ポリエチレンの添加量が0.1重量部乃至50重量部である
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物からなるインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
[2]
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)がスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)であることを特徴とする[1]に記載のインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
[3]
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)がスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)とスチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)からなることを特徴とする[1]に記載のインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
[4]
(A)スチレン系熱可塑性エラストマーを100重量部とした時、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)が50重量部乃至99重量部であり、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)が1重量部乃至50重量部であることを特徴とする[3]に記載のインクジェットプリンター用インク輸送チューブ。
[5]
60(縦)×10(横)×2(厚み)mmの熱可塑性エラストマーシート2枚のそれぞれの表面を、直径10mmのポリプロピレン製の棒を当該熱可塑性エラストマーシートに押し当てて100回擦った後、擦った後の熱可塑性エラストマー表面同士を圧着荷重1gf/mmで1分間圧着した後、T型剥離試験機を用いて、剥離速度50mm/minの条件で測定した最大貼り付き荷重(耐久後最大貼付荷重;非粘着持続性)が0.05N/cm以下であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブ。
[6]
60(縦)×10(横)×2(厚み)mmの熱可塑性エラストマーシート2枚を圧着荷重1gf/mmで1分間圧着した後、T型剥離試験機を用いて剥離速度50mm/minの条件で測定した最大貼り付き荷重(初期最大貼りつき荷重)が0.05N/cm以下であることを特徴とする[5]に記載のインク輸送チューブ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた耐キンク性、水蒸気バリア性、ガスバリア性、耐歪み残存性をもちながら、永続的に表面の粘着性が小さい柔軟な熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】T型剥離試験による非粘着性評価の模式図である。
図2】非粘着持続性評価方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物およびその成形物は、例えばインクジェットプリンター用インク輸送チューブとして用いるのに好適である。
【0010】
インクジェットプリンターには大きく分けて二つの方式がある。一つは、インクタンクとインクヘッドが一体となっているオンキャリッジ式であり、主に家庭用プリンターなどがこの方式に該当する。一方、インクタンクとインクヘッドが分離されており、この間を上記インク輸送チューブを介して繋ぐことでインクをタンクからヘッドへ輸送するオフキャリッジ式も存在する。この方式では、インクタンクの大容量化が可能であり、かつ印刷速度が速いという利点があり、A1サイズ以上の印刷用途の大判用プリンターなどがこの方式に該当する。
【0011】
一般に、オフキャリッジ式インクジェットプリンター用インク輸送チューブには柔軟性、耐キンク性、水蒸気バリア性、ガスバリア性、耐歪み残存性が求められる(各性能の詳細については後述する)。これに対して、現在までにスチレン系熱可塑性エラストマーを用いたインク輸送チューブが多く発明されている。
特許文献1に代表されるような(A)スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、(B)ポリプロピレン樹脂を含む組成物をインク輸送チューブ用途に転用するためは、十分な柔軟性を付与するために組成物に軟化剤を添加する必要がある。
熱可塑性エラストマーに添加する一般的な軟化剤としては、非芳香族系軟化剤(例えば、直鎖状飽和炭化水素や分岐状飽和炭化水素のパラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油、ポリブテンやポリイソブチレン、ポリイソプレン-イソブチレン共重合体等)がよく用いられるが、ガスバリア性および水蒸気バリア性の観点から特に(C)ポリブテンやポリイソブチレン、ポリイソプレン-イソブチレン共重合体が好適である。
しかし、(A)~(C)の成分を含む組成物からインク輸送チューブを作製してみたところ、得られたインク輸送チューブには表面に粘着性があり、それ故、押しつぶし状態から解放された時のチューブ内部の閉塞(形状回復応答性の悪さ)や、インクヘッド動作時のチューブ同士やチューブとチューブ外周部品との擦れ合いによる表面摩耗の問題を引き起こした。
特許文献1の開示から、未変性ポリオレフィンやアクリル樹脂等の重合体を添加することによりある程度の非粘着性を付与することができることは知られていたが、その非粘着効果は十分でなかったり、効果の持続性に乏しいか、あるいはその効果と引き換えに柔軟性が失われるため、インク輸送チューブに特有の上記問題を完全には解決できていなかった。
【0012】
まず、インク輸送チューブ、特にインクジェットプリンター用インク輸送チューブに要求される諸特性について説明する。
【0013】
・非粘着性、非粘着持続性について
インク輸送チューブ表面の粘着性による上記問題を考慮すると、後述の非粘着性評価方法および非粘着持続性評価方法において測定される初期最大貼り付き荷重および耐久後最大貼り付き荷重はそれぞれ0.10N/cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05N/cm以下である。
別の観点から表現すると、上記(A)~(C)の成分を含み、(D)成分を含まない組成物の初期最大貼り付き荷重および耐久後最大貼り付き荷重がそれぞれxN/cmおよびyN/cmであるとき、本発明に係る(A)~(D)成分を含む組成物の初期最大貼り付き荷重および耐久後最大貼り付き荷重はそれぞれ0.59xN/cm以下および0.67yN/cm以下であることが好ましく、0.29xN/cm以下および0.33yN/cm以下であることがより好ましい。
【0014】
・柔軟性について
オフキャリッジ式のインクジェットプリンターでは、インクタンクとインクヘッドを繋ぐインク輸送チューブがインクヘッドの駆動とともに引き回されることで、インク輸送チューブに大きな曲げ変形が加えられる。そのため、インク輸送チューブの硬度が高いと、インクヘッドの駆動時にモーターへ過剰な負荷がかかったり、チューブが疲労破壊を起こしたりする恐れがある。そのため、インク輸送チューブにはインクヘッドの駆動動作に耐え得る柔軟性が必要となる。これらの観点から、本発明の熱可塑性エラストマーは後述の硬さ評価方法において測定される硬さは65以下が好ましく、より好ましくは50以下である。
【0015】
・耐キンク性について
インク輸送チューブにはインクヘッドの駆動時に曲率の大きな曲げ変形が加えられる。この際、インク輸送チューブが座屈(キンク)してしまうと、インクの流路が塞がれてインクヘッドへのインクの供給が妨げられてしまう。そのため、インク輸送チューブには優れた耐キンク性が必要となる。
【0016】
・水蒸気バリア性
インク輸送チューブ内にはインクが存在するため、チューブ外にインクの水分が蒸発してしまうと、インクの粘度が上昇し、インクの吐出不良や印字品位の低下を招く。これを避けるため、インク輸送チューブには優れた水蒸気バリア性が必要となる。
【0017】
・ガスバリア性
インク輸送チューブ内に空気などの外気ガスが浸透すると、チューブ内のインクに外気ガスが溶解してしまう。その結果、インク中に気泡が発生し、インクの吐出異常や印字品位の低下を招く。これを避けるため、インク輸送チューブには優れたガスバリア性が必要となる。
【0018】
・耐歪み残存性
インク輸送チューブの耐歪み残存性が悪いと、チューブ全体が永久変形しやすくなるため、インクヘッドの駆動に悪影響を及ぼす恐れがある。また、チューブが押しつぶしから解放された際の形状回復性も悪化し、チューブ内部が閉塞しやすくなる。そのため、インク輸送チューブには優れた耐歪み残存性が必要となる。
【0019】
次に、インク輸送チューブ、特にインクジェットプリンター用インク輸送チューブの製造に好適な熱可塑性エラストマー組成物の成分構成について説明する。
【0020】
<成分構成>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分構成は次の通りである。
(A) スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)と、
(B) ポリオレフィン樹脂と、
(C) ポリブテン、ポリイソブチレン、及びポリイソプレン-イソブチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、
(D) 変性ポリエチレンと
を含み、
(D)の変性部が極性を有する構造を含み、
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)100重量部に対する(D)変性ポリエチレンの添加量が0.1重量部乃至50重量部である。
【0021】
・(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)について
(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)は本発明の熱可塑性エラストマーの主成分となる成分であり、インク輸送チューブに求められる柔軟性、耐キンク性、水蒸気バリア性、ガスバリア性、耐歪み残存性等の性能をバランスよく満たすことのできるものであり、例えばスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)などが挙げられる。ただし、ガスバリア性や水蒸気バリア性を考慮すると、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)あるいはスチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)を用いるのが好ましい。
これらに該当する原材料としては、例えば商品名:セプトン8004、8006、8007L(以上、クラレ社製)、SIBSTAR 073T、102T、103T(以上、カネカ社製)が挙げられ、これらは一種のみを用いても、複数を組み合わせて使用しても良い。
スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)は、例えば、JIS K 7210に従い、230℃、2.16kgfで測定したMFRが2.0g/10分以下であることが好ましい。
【0022】
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)とスチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)を組み合わせて使用する場合、後者の比率が高くなると、ガスバリア性、水蒸気透過性は向上するが、耐歪み残存性は悪化する傾向がある。そこで、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)とスチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)を組み合わせて使用する場合には、(A)スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)の全体を100重量部として、前者を50重量部乃至99重量部、後者を1重量部乃至50重量部とすることが好ましい(または、SEBS:SIBSの重量比を50:50~99:1の範囲とすることが好ましい)。前者が50重量部未満、後者が50重量部を超えると耐歪み残存性が悪化し、チューブが永久変形しやすくなる悪影響が出ることがある。
【0023】
・(B)ポリオレフィン樹脂について
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、(A)成分との相溶性が良いポリオレフィン樹脂が含まれる。ポリオレフィンとは、炭素―炭素間に二重結合を有する単純なアルケンをモノマーとして合成されるポリマーからなる樹脂であり、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂が該当する。本成分が配合されることで高温下での流動性が良くなり、成形性が改善する。その中でも特に、ポリプロピレン樹脂はガスバリア性の低下が少ないため、本発明において好適である。これに該当する原材料としては、例えば商品名:ノバテックPP EA7A、ノバテックPP BC05B、ノバテックLD LJ803(以上、日本ポリプロ社製)、PM600A、PL400A(以上、サンアロマー社製)などが挙げられる。本成分は(A)成分100重量部に対して、10乃至50重量部含まれることが好ましい。本成分が10重量部以上含まれることで成形性が向上しやすくなる。また、50重量部以下とすることで柔軟性、耐キンク性の低下や耐歪み残存性の悪化を抑制しやすくすることができる。
ポリオレフィン樹脂は、例えば、JIS K 7210に従い、230℃、2.16kgfで測定したMFRが0.3~2.5g/10分であることが好ましい。
【0024】
・(C)ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン-イソブチレン共重合体
本発明で用いられる(C)成分は、熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブのガスバリア性や水蒸気バリア性を低下させずに、柔軟性を高めることができる成分である。(C)成分には低粘度ものもから高粘度のものまでが存在する。低粘度品を使用した場合は粘着性が小さいが、高粘度品に比べてインク輸送チューブのガスバリア性や水蒸気バリア性が低下してしまうことがある。一方、高粘度品は表面の粘着性は大きいものの、ガスバリア性や水蒸気バリア性が高いため、インク輸送チューブとしての用途により適する。なお、(C)成分による表面の粘着性の問題は、(D)変性ポリエチレンの添加により解決可能である。そのため、(C)成分の40℃における動粘度は好ましくは500mm/s以上、より好ましくは1,000mm/s以上である。これに該当する原材料としては、例えば商品名:日石ポリブテンHV-15,HV-35,HV-50,HV-100(以上、日本石油化学社製)、テトラックス3T、4T、5T、6T(以上、JXTGエネルギー社製)、JSR BUTYL065、JSR BUTYL268、JSR BUTYL365(以上、JSR社製)が挙げられる。
好ましいポリブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン-イソブチレン共重合体は、例えば、50~90のML(1+4)100℃、1,000~100,000の重量平均分子量、または100~10,000の数平均分子量を有する。
また、本成分の添加量の上限は、プリンターの印字品位の観点から、(A)成分100重量部に対して、好ましくは300重量部以下、より好ましくは150重量部以下である。一方、下限は柔軟性向上の観点から、好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以上である。
【0025】
・(D)変性ポリエチレン
本発明で用いられる成分(D)変性ポリエチレンは、熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブ表面の粘着性を低減するために添加される成分であり、変性部は極性を有する構造を含む。この極性を有する構造とは、例えばエポキシ基や、エーテル基、スルフィド基、カルボキシ基、エステル基、カーボネート基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、イミド基、アミド基、アクリル基、メタクリル基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基等の官能基やエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、スチレン-スチレン-アクリロニトリルアクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエン樹脂、ポリウレタン、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等の構造が挙げられる。これに該当する原材料としては、例えばスチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(商品名:モディパーA1401、日油社製)、マレイン酸変性ポリエチレン(商品名:アドテックスDU6310、日本ポリエチレン社製)が挙げられる。
また、これらの中でも(A)成分のハードセグメント(スチレンユニット)との引力相互作用を有するスチレン構造を変性部に含むものは、粘着防止効果の持続性が特に高い。すなわち、特に好ましい(D)成分の変性部は、極性を有する構造とスチレン構造とを含む。
(D)成分の添加量の下限は、粘着防止効果の観点から、(A)成分100重量部に対して0.1重量部以上である必要があり、好ましくは0.5重量部以上、さらに好ましくは1.0重量以上である。一方、同添加量の上限は、柔軟性、キンク性、耐歪み残存性の観点から、好ましくは50重量部以下、より好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは15重量部以下である。
【0026】
ポリエチレンの変性方法としては、特に原料ポリエチレンに、上記官能基を有する化合物、又は上記樹脂を、溶液法、スラリー法または溶融混練法等の公知の方法により、高温下に接触させることによりグラフトする変性方法が好適である。その他の変性方法としては、高分子量のポリエチレンを上記した方法によりグラフト変性した後、熱分解または酸化分解する方法、高分子量のポリエチレンを酸化雰囲気下において酸化分解し、極性を有する構造としてカルボキシル基を導入する方法が挙げられる。反応に際して、スチレンを共存させることにより、変性部に極性を有する構造とスチレン構造とを併せ持つ(D)成分を得ることができる。
変性ポリエチレンは、例えば、JIS K 7210に従い、190℃、2.16kgfで測定したMFRが0.1~1.2g/10分であることが好ましい。
【0027】
<粘着防止効果発現のメカニズム>
理論に拘束されるものではないが、本発明による粘着防止効果発現のメカニズムは以下のように推定される。
インクジェットプリンター用インク輸送チューブに用いられる(A)成分、(B)成分、(C)成分を含む熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブにおいては、(B)成分の表面へのブリードアウトと熱可塑性エラストマーの柔軟性が高いことにより、チューブの表面に粘着性が現れる。
このような熱可塑性エラストマー組成物に対して(D)変性ポリエチレンを加えた場合、主成分である(A)成分との相溶性に乏しい変性部の極性を有する構造の存在により、(D)成分がインク輸送チューブの表面に析出する。これにより、表面が非粘着性の(D)成分により覆われるとともに、(B)成分等の粘着性の高い成分が表面に露出しなくなるため、粘着性が低減される。
一方で、(D)成分のポリエチレン構造は(A)成分との相溶性に優れており、互いに十分に相溶・アロイ化することができるため、チューブ同士が接触と剥離を繰り返したり、あるいは互いに擦れ合ったりしても、表面から容易に剥がれ落ちることがなく、故に永続的に非粘着効果が維持される。
なお、(D)成分の変性部にスチレン構造が存在する場合、このスチレン構造と(A)成分のハードセグメント(スチレンユニット)が引力相互作用を生むため、特に優れた非粘着持続性を発現する。
【実施例
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例等における組成物および成形物の製造方法、各種評価方法、使用原材料は以下のとおりである。
【0029】
・熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
まず、(A)~(C)成分を170℃に設定したラボプラストミル10C100-B600ミキサー(東洋精機製)を使用して回転速度20rpmで溶融混練した。続いて、内部の熱可塑性エラストマーの温度が165℃に達した時点で(D)成分を添加し、回転速度20rpmで更に5分間混練した。その後、ミキサーの設定温度を200℃に昇温し、内部の熱可塑性エラストマー温度が195℃になるまで更に混練し、取り出した。
【0030】
・熱可塑性エラストマー試験片の製造方法
上記製造方法にて得られた熱可塑性エラストマー組成物を195℃に加熱した任意の寸法のシート型に入れ、加圧せずに10分間加熱した。続いて、十分な成形圧力をかけて更に10分加熱し、その後、同シート型を25℃まで冷却して熱可塑性エラストマーのシートを得た。
【0031】
・熱可塑性エラストマーチューブの製造方法および成形性の評価方法
上記製造方法にて得られた熱可塑性エラストマー組成物を195℃に設定したラボプラストミル10C100-単管押し出し機D2025Nを用いて押し出し、瞬時に水冷することで外径4.0mm、内径1.5mmのチューブ状成形物を得た。
【0032】
・硬さ評価方法
柔軟性の指標となる硬さはJIS K 6253-3に従い、タイプA型硬度計を使用して測定した。なお、本評価の硬さ値は押針が試験片に接触してから15秒後の値とした。インクヘッドが駆動する時のモーター負荷および連続駆動による疲労破壊を考慮すると、65以下が好ましく、より好ましくは50以下である。
【0033】
・耐キンク性評価方法
上記方法にて製造したチューブを長さ300mmにカットし、チューブの両端を同じ向きに合わせて、クリップで挟んだ。挟んだチューブの両端から、2本が接触して並行となるようにチューブ中央部に向かってゆっくり指で押さえてなぞり、その途中でチューブ中央部が座屈した場所で指を止め、チューブ中央部からの距離を測定することで、耐キンク性を評価した。
インクヘッドの駆動により生じる最大曲率を考慮すると、座屈時のチューブ中央部からの距離が70mm以下が好ましい。
【0034】
・伸び、引張強度評価方法
伸び、引張り強度はJIS K 6251に従い、引張り速度500mm/min、試験片はダンベル状3号型を使用して測定した。
【0035】
・水蒸気バリア性評価方法
水蒸気バリア性はJIS Z 0208に従い、上記方法にて製造した厚み0.5mmの熱可塑性エラストマーシートを用いて測定した。なお、試験条件は条件A(温度25±0.5℃、相対湿度90±2%)とした。
チューブ内のインクからの水分蒸発による印字品位低下を考慮すると、10g/m・24hr以下が好ましい。
【0036】
・ガスバリア性評価方法
上記方法にて製造した厚さ0.5mmの熱可塑性エラストマーシートを用いて、JIS K 7126-1に従って空気透過係数を測定した。試験時の温度は23℃、差圧は100kPaとした。
チューブ内のインクへの外部ガスの溶解による印字品位低下を考慮すると、7.0×10-10cm・cm/cm・s・cmHg以下が好ましい。
【0037】
・耐歪み残存性評価方法
上記方法にて製造した厚さ2mmの熱可塑性エラストマーシートを直径29.0±0.5mmの円盤状に打ち抜き、これを3枚重ねた状態にした。この3枚重ねの試験片を用いて、JIS K 6262のA法と同様の方法にて圧縮永久歪率を評価して、これを耐歪み残存性の指標とした。試験条件は、温度70℃、時間24時間、圧縮率25%とした。
チューブの永久変形や押しつぶしから解放された時の形状回復性を考慮すると、50%以下が好ましい。
【0038】
・非粘着性評価方法
上記方法にて製造した厚さ2mmの熱可塑性エラストマーシートを60×10mmの短冊状に打ち抜いた。この試験片2枚を完全に重ね合わせた状態にして空気をかみこまないように指で軽く貼り合わせ、長手方向端部の50×10mmの部分に対して、500gfの荷重をかけて1分間圧着した。続いて、圧着した側が剥がれないように軽く抑えながら、他方の端部から約20mmの部分を引き剥がし、その部分を精密万能試験機(オートグラフAGS-X(島津製作所製))にチャックした。その後、剥離速度50mm/minで圧着された2枚の試験片同士を引き剥がすようにT型剥離試験を行い、圧着部分の最大貼り付き荷重(以下、この荷重を初期最大貼り付き荷重と呼称する)を測定し、その値を非粘着性の指標とした(図1参照)。試験条件は、圧着荷重:1gf/mm、圧着時間:1分間、剥離速度:50mm/minである。
チューブの閉塞やインクヘッド駆動時のモーター負荷、チューブ表面の摩耗を考慮すると、0.10N/cm以下が好ましく、0.05N/cm以下がより好ましい。
【0039】
・非粘着持続性評価方法
上記方法にて製造した厚さ2mmの熱可塑性エラストマーシートを60×10mmの短冊状に打ち抜き、直径10mmのポリプロピレン製円柱棒の側面を1kgf/cmの荷重をかけて押し当てて、その表面全体を100回擦った(図2参照)。その後、この操作を行った試験片2枚を完全に重ね合わせ、長手方向端部の50×10mmの部分に対して、500gfの荷重をかけて1分間圧着した。その後、上記「非粘着性評価方法」と同様の評価方法にて圧着部分の最大貼り付き荷重(以下、この荷重を耐久後最大貼り付き荷重と呼称する)を測定し、その値を非粘着持続性の指標とした。
上記の「非粘着性評価方法」と同様の理由により、0.10N/cm以下が好ましく、0.05N/cm以下がより好ましい。
【0040】
・使用原材料
後述の実施例および比較例で用いた原材料の詳細は以下の通りである。
[(A)スチレン系熱可塑性エラストマー]
商品名:セプトン8007L(クラレ社製)
SIBSTAR 103T(カネカ社製)
[(B)ポリオレフィン樹脂]
商品名:ノバテックPP EA7A(日本ポリプロ社製)
[(C)ポリブテン]
商品名:日石ポリブテンHV-50(日本石油化学社製)
テトラックス4T(JXTGエネルギー社製)
JSR BUTYL365(JSR社製)
[(D)変性ポリエチレン]
スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン、商品名:モディパーA1401(日油社製)
[未変性ポリエチレン(比較)]
高密度ポリエチレン、商品名:ニポロンハード6000(東ソー社製)
【0041】
<実施例1>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):0.1重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0042】
<実施例2>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):0.5重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0043】
<実施例3>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):1.0重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0044】
<実施例4>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):2.5重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0045】
<実施例5>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):15.0重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0046】
<実施例6>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):30.0重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0047】
<実施例7>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):50.0重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0048】
<実施例8>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリイソブチレン(テトラックスT4):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):2.5重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0049】
<実施例9>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリイソプレン-イソブチレン共重合体(JSR BUTYL365):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):2.5重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0050】
<実施例10>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):50重量部、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBSTAR 103T):50重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):2.5重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0051】
<実施例11>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):80重量部、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBSTAR 103T):20重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):2.5重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0052】
<比較例1>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0053】
<比較例2>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、スチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレン(モディパーA1401):0.05重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0054】
<比較例3>
前記製造方法に従い、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(セプトン8007L):100重量部、ポリプロピレン樹脂(ノバテックPP EA7A):20重量部、ポリブテン(日石ポリブテンHV-50):80重量部、高密度ポリエチレン(ニポロンハード):2.5重量部を用いて熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0055】
実施例1~11および比較例1~3で製造した熱可塑性エラストマー組成物および成形物の組成情報および物性情報の詳細は表1に示す。なお、表1中のphrとは、成分(A)100重量部当たりの重量部である。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の「判定」の欄には、下記の基準によりインク輸送チューブの材料として適するかどうかを判断した結果を表示した。
なお、柔軟性・非粘着性・非粘着持続性については3段階評価とした。
(1)柔軟性・・・66以上を「不良」、65~51を「良好」、50以下を「より良好」とした。
(2)耐キンク性・・・70mm以下であればインク輸送チューブ材として適する。
(3)水蒸気バリア性・・・10g/m・24h以下であればインク輸送チューブ材として適する。
(4)ガスバリア性・・・7.0×10-10cm・cm/cm・s・cmHg以下であればインク輸送チューブ材として適する。
(5)耐歪み残存性・・・50%以下であればインク輸送チューブ材として適する。
(6)非粘着性・・・0.11N/cm以上を「不良」、0.1~0.06N/cmを「良好」、0.05N/cmを「より良好」とした。
(7)非粘着持続性・・・0.11N/cm以上を「不良」、0.1~0.06N/cmを「良好」、0.05N/cmを「より良好」とした。
【0058】
(1)、(6)、(7)のすべてが「より良好」で、(2)~(5)の基準を満たすものと「◎」とした。
(1)、(6)、(7)の少なくとも1項目が「良好」で、(2)~(5)の基準を満たすものを「〇」とした。
(1)、(6)、(7)の少なくとも1項目が「不良」、または(2)~(5)の基準を満たさないものを「×」とした。
【0059】
実施例1~11および比較例2はスチレン-アクリロニトリル変性ポリエチレンを(D)成分として用いた熱可塑性エラストマーである。実施例1~11((D)成分の添加量が0.1~50.0重量部)の熱可塑性エラストマーは優れた非粘着性と非粘着持続性を発現している。ただし、(D)成分の添加量が少なくなると非粘着性と非粘着持続性が徐々に悪化し、一方で同添加量が多くなると柔軟性、耐キンク性、耐歪み残存性が徐々に悪化する傾向がある。これらの影響を考慮すると、上記実施例の中でも実施例3~5、8~11((D)成分の添加量が1.0~15.0重量部)がより全物性のバランスの取れた熱可塑性エラストマーである。一方、比較例2((D)成分の添加量が0.05重量部)は耐久後最大貼り付き荷重が高く、非粘着持続性が十分でない。
【0060】
実施例10および11はスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)とスチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(SIBS)を組み合わせて使用した熱可塑性エラストマーであり、優れた非粘着性と非粘着持続性を発現している。
【0061】
比較例1は(D)変性ポリエチレンを含まない熱可塑性エラストマーである。実施例1~11に比べると、非粘着性および非粘着持続性が悪く、インクジェットプリンター用インク輸送チューブとしての実用に耐えない。
【0062】
比較例3は(D)変性ポリエチレンの代わりに、極性構造を有さない未変性ポリエチレンを用いた熱可塑性エラストマーである。実施例4と比較すると、非粘着性および非粘着持続性が大きく劣り、インクジェットプリンター用インク輸送チューブとしての実用に耐えない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、優れた耐キンク性、水蒸気バリア性、ガスバリア性、耐歪み残存性をもちながら、永続的に表面の粘着性が低減される柔軟な熱可塑性エラストマーからなるインク輸送チューブを提供することができる。
図1
図2