(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】めっき用バレル及びバレルめっき装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/20 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C25D17/20 C
(21)【出願番号】P 2021039009
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】油川 祐基
(72)【発明者】
【氏名】服部 優哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-104999(JP,A)
【文献】特開2002-105694(JP,A)
【文献】特開2003-171798(JP,A)
【文献】特開2011-157599(JP,A)
【文献】特開2006-291274(JP,A)
【文献】特開平08-003791(JP,A)
【文献】特開昭60-190599(JP,A)
【文献】特開昭53-052246(JP,A)
【文献】米国特許第05348637(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/20
C25D 7/00
H01G 4/30
C25D 17/16
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき対象物を収容すると共に、回転軸を中心に回転可能に設けられるめっき用バレルであって、
前記めっき対象物を収容する収容部を有している筒状部を備え、
前記筒状部は、前記収容部を形成している内側面及び当該筒状部の外形を構成している外側面と、前記内側面と前記外側面とを貫通していると共に前記収容部と連通している複数の貫通孔と、を有し、
前記内側面は、前記回転軸に直交する断面において多角形状を呈しており、
前記外側面が曲面で構成されて
おり、
前記回転軸に直交する断面において、前記筒状部の最大直径をR、前記筒状部の最大内径をX、前記筒状部の前記内側面と前記外側面との最小厚みをTとした場合に、
R=X+2×T
1mm≦T≦15mm
の関係を満たす、めっき用バレル。
【請求項2】
前記外側面は、前記回転軸に直交する断面において円形状を呈している、請求項1に記載のめっき用バレル。
【請求項3】
前記回転軸に直交する断面において、前記外側面の曲率をRh、真円での曲率をRsとした場合に、
Rh:Rs=A:1
0.7≦A≦1.3
の関係を満たす、請求項1又は2に記載のめっき用バレル。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のめっき用バレルを備える、バレルめっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき用バレル及びバレルめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バレルめっき装置が開示されている。特許文献1に記載のバレルめっき装置は、めっき用バレルと、めっき用バレルがめっき液に浸漬される容器と、バレル容器の内部に設けられる陰極と、めっき液中に設けられる陽極と、を備えている。バレルめっき装置では、陰極と陽極とに通電し、めっき用バレルを中心軸周りに回転させながら電気めっきを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のめっき用バレルのように、めっき用バレルの内側は、めっき用バレル内でのめっき液の撹拌性の観点から、多角形状を呈している。この形状に応じて、従来のめっき用バレルでは、外形も多角形状を呈している。めっき用バレルにワーク(例えば、電子部品など)を収容する際、又は、めっき用バレルからワークを取り出す際には、めっき用バレルを装置から取り外して、めっき用バレルを操作する。このとき、従来のめっき用バレルように、外形が多角形状を呈している構成では、めっき用バレルを扱う際に外的な衝撃や負荷などが加わった場合、めっき用バレルが破損するおそれがある。
【0005】
本発明の一側面は、撹拌性を維持しつつ、耐久性の向上を図ることができるめっき用バレル及びバレルめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るめっき用バレルは、めっき対象物を収容すると共に、回転軸を中心に回転可能に設けられるめっき用バレルであって、めっき対象物を収容する収容部を有している筒状部を備え、筒状部は、収容部を形成している内側面及び当該筒状部の外形を構成している外側面と、内側面と外側面とを貫通していると共に収容部と連通している複数の貫通孔と、を有し、内側面は、回転軸に直交する断面において多角形状を呈しており、外側面が曲面で構成されている。
【0007】
本発明の一側面に係るめっき用バレルでは、内側面は、回転軸に直交する断面において多角形状を呈している。これにより、めっき用バレルでは、筒状部内の収容部におけるめっき液の撹拌性を維持することができる。また、めっき用バレルでは、外側面が曲面で構成されている。これにより、めっき用バレルでは、筒状部に外的な衝撃や負荷が加わった場合であっても応力を分散し得るため、筒状部の強度を確保できる。したがって、めっき用バレルでは、耐久性の向上を図ることができる。
【0008】
一実施形態においては、外側面は、回転軸に直交する断面において円形状を呈していてもよい。この構成では、耐久性の向上をより一層図ることができる。また、めっき液内において回転する際の流体の抵抗(流体の摩擦)を小さくすることができる。
【0009】
一実施形態においては、回転軸に直交する断面において、外側面の曲率をRh、真円での曲率をRsとした場合に、
Rh:Rs=A:1
0.7≦A≦1.3
の関係を満していてもよい。この構成では、応力を分散し得る構成を実現することができるため、筒状部の強度を確保できる。
【0010】
一実施形態においては、回転軸に直交する断面において、筒状部の最大直径をR、筒状部の最大内径をX、筒状部の内側面と外側面との最小厚みをTとした場合に、
R=X+2×T
1mm≦T≦15mm
の関係を満たしてもよい。この構成では、応力を分散し得る構成を実現することができるため、筒状部の強度を確保できる。
【0011】
本発明の一側面に係るバレルめっき装置は、上記のめっき用バレルを備える。
【0012】
本発明の一側面に係るバレルめっき装置では、上記のめっき用バレルを備えるため、撹拌性を維持しつつ、耐久性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、撹拌性を維持しつつ、耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図2は、めっき用バレルを示す斜視図である。
【
図4】
図4は、他の実施形態に係るめっき用バレルの断面図である。
【
図5】
図5は、他の実施形態に係るめっき用バレルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、バレルめっき装置を示す図である。
図1に示されるように、バレルめっき装置1は、めっき液槽2と、めっき用バレル3と、アノード電極4と、カソード電極5と、を備えている。
【0017】
めっき液槽2には、めっき液Eが収容される。めっき液Eには、各種めっき液を用いることができ、たとえばSnめっき液やNiめっき液を用いることができる。めっき液Eの量は、少なくとも、めっき用バレル3に収容されるワークWの全てが浸漬される量であればよい。ワークWは、めっき対象物であり、例えば、電子部品(チップバリスタ、チップインダクタ、チップコンデンサなど)である。
【0018】
めっき用バレル3は、めっき液槽2内において、回転軸A(
図2、
図3参照)を中心に回転可能に設けられている。めっき用バレル3は、回転軸Aを中心に、たとえば反時計回りに回転する。めっき用バレル3は、モータ(図示省略)によって回転駆動される。
【0019】
図2は、めっき用バレルの斜視図である。
図2に示されるように、めっき用バレル3は、筒状部10と、第一端面部11と、第二端面部12と、を有している。筒状部10、第一端面部11及び第二端面部12は、PP(ポリプロピレン)樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂などの合成樹脂により形成されている。
【0020】
筒状部10は、筒状を呈している。筒状部10は、ワークWを収容可能な収容空間である収容部13を有している。筒状部10は、外形が円筒状を呈しており、その内部が多角形状を呈している。筒状部10は、内側面10aと、外側面10bと、を有している。
【0021】
図3は、めっき用バレルの断面図である。
図3では、貫通孔14(後述)の図示を省略している。
図3に示されるように、内側面10aは、収容部13を形成している。内側面10aは、回転軸Aに沿って延在している。内側面10aは、回転軸Aに沿って方向から見て、多角形状を呈している。すなわち、内側面10aは、回転軸Aに直交する断面において、多角形状を呈している。多角形状としては、たとえば、六角形状、七角形状、八角形状、九角形状、十角形状を採用することができ、八角形状であることが好ましい。本実施形態では、内側面10aは、回転軸Aに直交する断面において、正八角形状を呈している。内側面10aは、八つの平坦面で構成されていると言える。
【0022】
外側面10bは、筒状部10の外形を構成している。外側面10bは、曲面で構成されている。本実施形態では、外側面10bは、全面が曲面である。外側面10bは、回転軸Aに沿って方向から見て、円形状を呈している。すなわち、外側面10bは、回転軸Aに直交する断面において、円形状を呈している。本実施形態では、外側面10bは、真円形状を呈している。外側面10bには、角部(二つの直線が交わって形成される角)が設けられていない。
【0023】
筒状部10は、直径をR、内径(内側面10aの最大径)をX(X<R)、厚み(内側面10aと外側面10bとの間の最小寸法)をTとした場合に、以下の関係を満たす。
R=X+2×T
1mm≦T≦15mm
好ましくは、以下の関係を満たす。
1mm≦T≦5mm
本実施形態では、たとえば、直径Rは150mm、内径Xは144mm、厚みTは3mmである。
【0024】
また、筒状部10の外側面10bの曲率をRh、真円の曲率をRsとした場合に、以下の関係を満たす。
Rh:Rs=A:1
0.7≦A≦1.3
本実施形態では、外側面10bは真円形状を呈している。すなわち、本実施形態では、以下の関係を満たしている。
Rh:Rs=1:1
【0025】
図2に示されるように、筒状部10は、複数の貫通孔14を有している。貫通孔14のそれぞれは、内側面10aと外側面10bとを貫通している。貫通孔14は、収容部13と連通している。貫通孔14は、たとえば、円形状を呈している。複数の貫通孔14の形状及び大きさは、全て同じであってもよいし、異なっていてもよい。めっき液槽2中のめっき液は、筒状部10に設けられた貫通孔14を介してめっき用バレル3の収容部13に流入することができ、また、貫通孔14を介してめっき用バレル3の収容部13から外部に流出することができる。貫通孔14孔は、収容部13に収容されるワークWやその他の部材(ダミーボール等)がめっき用バレル3の外部に出ない程度の寸法に設計され得る。
【0026】
第一端面部11は、筒状部10の回転軸Aの軸方向の一方の端部に配置されている。第一端面部11は、筒状部10の一方の開口を覆っている。第一端面部11は、筒状部10の外形に対応した形状を呈している。第一端面部11は、円形状を呈している。第一端面部11は、筒状部10に対して、着脱可能に設けられている。例えば、第一端面部11は、所定の固定手段(係合構造、ボルトなど)によって、筒状部10に対して着脱可能に設けられている。
【0027】
第二端面部12は、筒状部10の回転軸Aの軸方向の他方の端部に配置されている。すなわち、第一端面部11と第二端面部12とは、筒状部10において、軸方向において対向して配置される。第二端面部12は、筒状部10の他方の開口を閉塞している。第二端面部12は、筒状部10の外形に対応した形状を呈している。第二端面部12は、円形状を呈している。
【0028】
図1に示されるように、アノード電極4は、めっき用バレル3を挟む位置に対向して配置されている。カソード電極5は、電極保持部15に保持されている。カソード電極5は、電極保持部15の先端に設けられている。電極保持部15は、軸部16に固定されている。軸部16は、
図1の奥行き方向に沿って延在している。軸部16は、第一端面部11に取り付けられている。これにより、アノード電極4は、めっき用バレル3において、着脱可能に設けられている。軸部16の内部には、カソード電極5にカソード電圧を供給するための導電線(図示省略)が内蔵してある。めっき液槽2内のめっき用バレル3外部に配置されたアノード電極4とカソード電極5との間に電源17によって電圧が印加されると、カソード電極5を介してめっき用バレル3内の各ワークWが通電されてその表面がめっき処理される。
【0029】
続いて、上述したバレルめっき装置1を用いて、ワークWである電子部品にめっき処理を施す方法について説明する。
【0030】
最初に、めっき用バレル3において、筒状部10から第一本実施形態に係るめっき用バレル3では、第一端面部11を取り外して、被めっき対象である複数の電子部品を収容部13に収容する。このとき、必要に応じて、ダミーボールもめっき用バレル3の収容部13に収容する。続いて、第一端面部11を筒状部10に取り付け、めっき用バレル3をめっき液槽2に設置する。そして、アノード電極4とカソード電極5との間に所定の電圧を印加しつつ、めっき用バレル3を回転させて、電子部品をめっき処理する。めっき処理後、めっき用バレル3をめっき液槽2から取り外し、筒状部10から第一端面部11を取り外して、収容部13から電子部品を取り出す。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係るバレルめっき装置1では、めっき用バレル3の筒状部10の内側面10aは、回転軸Aに直交する断面において多角形状を呈している。これにより、めっき用バレル3では、筒状部10内の収容部13におけるめっき液E及びワークWの撹拌性を維持することができる。また、めっき用バレル3では、外側面10bが曲面で構成されている。これにより、めっき用バレル3では、上述のように筒状部10を取り扱う際に筒状部10に外的な衝撃や負荷が加わった場合であっても応力を分散し得るため、筒状部10の強度を確保できる。したがって、めっき用バレル3では、耐久性の向上を図ることができる。
【0032】
本実施形態に係るめっき用バレル3では、筒状部10の外側面10bは、回転軸Aに直交する断面において真円形状を呈していている。この構成では、耐久性の向上をより一層図ることができる。また、この構成では、めっき液E内において回転する際の流体の抵抗(流体の摩擦)を小さくすることができる。そのため、めっき用バレル3を回転駆動させるモータなどの負荷を軽減することが可能となる。また、アノード電極4とカソード電極5とに電圧が印加されて電流が流れた場合に、電流の流れを整流させることができるため、めっき膜厚のばらつきを抑制できる。
【0033】
本実施形態に係るめっき用バレル3では、回転軸Aに直交する断面において、外側面10bの曲率をRh、真円での曲率をRsとした場合に、
Rh:Rs=A:1
0.7≦A≦1.3
の関係を満たしていている。この構成では、応力を分散し得る構成を実現することができるため、筒状部10の強度を確保できる。
【0034】
本実施形態に係るめっき用バレル3では、回転軸Aに直交する断面において、筒状部10の最大直径をR、筒状部10の最大内径をX、筒状部10の内側面10aと外側面10bとの最小厚みをTとした場合に、
R=X+2×T
1mm≦T≦15mm
の関係を満たしている。この構成では、応力を分散し得る構成を実現することができるため、筒状部10の強度を確保できる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0036】
上記実施形態では、外側面10bが、回転軸Aに直交する断面において、真円形状を呈している形態を一例に説明した。しかし、外側面10bの形状はこれに限定されない。筒状部10は、筒状部10の外側面10bの曲率をRh、真円の曲率をRsとした場合に、
Rh:Rs=A:1
0.7≦A≦1.3
の関係を満たしていればよい。
【0037】
図4は、他の実施形態に係るめっき用バレルを示す断面図である。
図4では、貫通孔14の図示を省略している。また、
図4には、外側面が真円である場合の外形の輪郭を一点鎖線で示している。
図4に示されるように、めっき用バレル3Aの筒状部10Aは、内側面10Aaと、外側面10Abと、を有している。めっき用バレル3Aでは、Rh:Rs=0.7:1の関係を満たしている。具体的には、筒状部10Aでは、回転軸Aに直交する断面において、内側面10Aaの平坦部に対向する外側面10Abが、Rh:Rs=0.7:1の関係を満たしている。これにより、外側面10Abは、回転軸Aに直交する断面において、複数の凸部が周方向において周期的に並んで配置された形状を呈している。凸部の一部は、外側面が真円である場合の外形の輪郭よりも径方向において外側に突出する。
【0038】
図5は、他の実施形態に係るめっき用バレルを示す断面図である。
図5では、貫通孔14の図示を省略している。また、
図5には、外側面が真円である場合の外形の輪郭を一点鎖線で示している。
図5に示されるように、めっき用バレル3Bの筒状部10Bは、内側面10Baと、外側面10Bbと、を有している。めっき用バレル3Bでは、Rh:Rs=1.3:1の関係を満たしている。具体的には、筒状部10Bでは、回転軸Aに直交する断面において、内側面10Baの平坦部に対向する外側面10Bbが、Rh:Rs=1.3:1の関係を満たしている。これにより、外側面10Bbは、回転軸Aに直交する断面において、外側面が真円である場合の外形の輪郭よりも径方向の内側に凹んだ形状を呈している。
【0039】
上記実施形態では、内側面10a,10Aa,10Baが、回転軸Aに直交する断面において、八角形状を呈する形態を一例に説明した。しかし、内側面10a,10Aa,10Baの形状はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1…めっき装置、3,3A,3B…めっき用バレル、10,10A,10B…筒状部、10a,10Aa,10Ba…内側面、10b,10Ab,10Bb…外側面、13…収容部、14…貫通孔、A…回転軸。