(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】土留部材
(51)【国際特許分類】
E02D 17/08 20060101AFI20241121BHJP
E21D 5/10 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
E02D17/08 A
E21D5/10
E02D17/08 C
(21)【出願番号】P 2021039506
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 剛男
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雄充
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-071918(JP,A)
【文献】実開昭61-002590(JP,U)
【文献】実開平01-031187(JP,U)
【文献】特開2017-141669(JP,A)
【文献】特開2010-065400(JP,A)
【文献】実開昭62-055688(JP,U)
【文献】特開2020-002633(JP,A)
【文献】特開2002-021466(JP,A)
【文献】特開2019-127763(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0356072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/08
E21D 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体の周方向および軸方向についてそれぞれ組み合わされる土留部材であって、
前記周方向の端部で前記軸方向に延びる軸方向フランジと、
前記周方向に延びて前記軸方向フランジに突き当たる波形断面を有する本体部と、
前記壁体の内側から見た場合の前記波形断面の谷部分で前記軸方向フランジに形成され、前記軸方向フランジと隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第1の接合部と、
前記第1の接合部とは異なる部位に形成され、前記軸方向フランジと前記別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第2の接合部と
を備え
、
前記第2の接合部には、前記壁体の内側から見た場合の前記波形断面の山部分で前記本体部に形成され、前記壁体の内側において前記軸方向フランジを越えて前記別の土留部材との接合部まで架設される引張部材が接合される土留部材。
【請求項2】
前記波形断面の複数の山部分のそれぞれに形成される前記第2の接合部は、前記周方向について位置をずらして形成される、請求項
1に記載の土留部材。
【請求項3】
壁体の周方向および軸方向についてそれぞれ組み合わされる土留部材であって、
前記周方向の端部で前記軸方向に延びる軸方向フランジと、
前記周方向に延びて前記軸方向フランジに突き当たる波形断面を有する本体部と、
前記壁体の内側から見た場合の前記波形断面の谷部分で前記軸方向フランジに形成され、前記軸方向フランジと隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第1の接合部と、
前記第1の接合部とは異なる部位に形成され、前記軸方向フランジと前記別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第2の接合部と
を備え、
前記第2の接合部は、前記壁体の外側から見た場合の前記波形断面の谷部分で前記軸方向フランジに形成され
、
前記壁体の内側から見た場合の前記波形断面の山部分で、前記本体部に前記第2の接合部へのアクセスホールが形成される、土留部材。
【請求項4】
前記波形断面の複数の山部分のそれぞれに形成される前記アクセスホールは、前記周方向について位置をずらして形成される、請求項
3に記載の土留部材。
【請求項5】
壁体の周方向および軸方向についてそれぞれ組み合わされる土留部材であって、
前記周方向の端部で前記軸方向に延びる軸方向フランジと、
前記周方向に延びて前記軸方向フランジに突き当たる波形断面を有する本体部と、
前記壁体の内側から見た場合の前記波形断面の谷部分で前記軸方向フランジに形成され、前記軸方向フランジと隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第1の接合部と、
前記第1の接合部とは異なる部位に形成され、前記軸方向フランジと前記別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第2の接合部と
を備え、
前記軸方向フランジは、前記壁体の内側から見た場合の前記波形断面の山部分よりも前記壁体の内側に延出しており、
前記第2の接合部は、前記軸方向フランジが前記壁体の内側に延出した部分に形成され
る土留部材。
【請求項6】
前記第2の接合部は、前記軸方向フランジを前記別の土留部材の軸方向フランジと重ね合わせてボルト接合するか、締付手段によって締め付けるか、または溶接することによって接合する、請求項
3から請求項
5のいずれか1項に記載の土留部材。
【請求項7】
前記第1の接合部で前記軸方向フランジに面接触する補強板をさらに備える、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の土留部材。
【請求項8】
前記軸方向フランジの板厚と、前記補強板の板厚との合計が、前記本体部の板厚の2倍以上である、請求項
7に記載の土留部材。
【請求項9】
前記軸方向フランジの板厚が、前記本体部の板厚の1.8倍以上である、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の土留部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば山間部などの重機が使用できない施工環境では、地すべり抑止杭、集水井または推進工法用の立坑などを構築するにあたり、土留部材としてライナープレートが用いられる。ライナープレートは、薄肉鋼板に波付け加工を施し、四辺にフランジを設けた構造部材であり、軽量で人力運搬可能であるのに加えて、土留の内側からの作業で組み立てが完結するため施工性が高い。ライナープレートは、橋脚、橋台または鉄塔の基礎を構築する深礎工法でも用いられる。このような従来のライナープレートに関する技術の例は、例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-112987号公報
【文献】特許第5486931号公報
【文献】実用新案登録第3158383号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の深礎工法では、ライナープレートに基礎構造としての機能は期待されておらず、立坑の内部に構築される鉄筋とそこに打設されるコンクリートが基礎構造を構成する。しかし、ライナープレートに例えば鉄筋のうち立坑の周方向に延びる帯鉄筋の機能を代替させられれば、帯鉄筋のための取付部材や配筋工程が節減されるため、コストの節減や工期の短縮が可能になる。
【0005】
ところが、上記の通り従来のライナープレートには基礎構造としての機能が期待されていないため、例えば地震力が作用した際にライナープレートで帯鉄筋のように主鉄筋の周りのコンクリートを拘束しようとすると、ライナープレートの軸方向フランジ同士の接合部に大きな引張力が作用し、フランジが変形することによって主鉄筋回りのコンクリートを十分に拘束できない結果、基礎構造がせん断破壊する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、壁体の周方向に作用する引張力によるフランジの変形を防止することが可能な土留部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]壁体の周方向および軸方向についてそれぞれ組み合わされる土留部材であって、周方向の端部で軸方向に延びる軸方向フランジと、周方向に延びて軸方向フランジに突き当たる波形断面を有する本体部と、壁体の内側から見た場合の波形断面の谷部分で軸方向フランジに形成され、軸方向フランジと隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第1の接合部と、第1の接合部とは異なる部位に形成され、軸方向フランジと別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第2の接合部とを備える土留部材。
[2]第2の接合部には、壁体の内側から見た場合の波形断面の山部分で本体部に形成され、軸方向フランジを越えて別の土留部材との接合部まで架設される引張部材が接合される、[1]に記載の土留部材。
[3]波形断面の複数の山部分のそれぞれに形成される第2の接合部は、周方向について位置をずらして形成される、[2]に記載の土留部材。
[4]第2の接合部は、壁体の外側から見た場合の波形断面の谷部分で軸方向フランジに形成される、[1]に記載の土留部材。
[5]壁体の内側から見た場合の波形断面の山部分で、本体部に第2の接合部へのアクセスホールが形成される、[4]に記載の土留部材。
[6]波形断面の複数の山部分のそれぞれに形成されるアクセスホールは、周方向について位置をずらして形成される、[5]に記載の土留部材。
[7]軸方向フランジは、壁体の内側から見た場合の波形断面の山部分よりも壁体の内側に延出しており、第2の接合部は、軸方向フランジが壁体の内側に延出した部分に形成される、[1]に記載の土留部材。
[8]第2の接合部は、軸方向フランジを別の土留部材の軸方向フランジと重ね合わせてボルト接合するか、締付手段によって締め付けるか、または溶接することによって接合する、[4]から[7]のいずれか1項に記載の土留部材。
[9]第1の接合部で前記軸方向フランジに面接触する補強板をさらに備える、[1]から[8]のいずれか1項に記載の土留部材。
[10]軸方向フランジの板厚と、補強板の板厚との合計が、本体部の板厚の2倍以上である、[9]に記載の土留部材。
[11]軸方向フランジの板厚が、本体部の板厚の1.8倍以上である、[1]から[8]のいずれか1項に記載の土留部材。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、土留部材で軸方向フランジ同士を直接的に接合する第1の接合部に加えて、第1の接合部とは異なる部位で軸方向フランジ同士を接合する第2の接合部が形成されることによって、壁体の周方向に大きな引張力が作用した場合にもそれぞれの接合部に応力が分散され、第1の接合部で軸方向フランジが変形することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る土留部材が用いられる地中構造物の断面図である。
【
図3A】本発明の第1の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図3B】本発明の第1の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図4A】本発明の第2の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図4B】本発明の第2の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図5A】本発明の第3の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図5B】本発明の第3の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図6A】本発明の第4の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図6B】本発明の第4の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図7A】本発明の第5の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【
図7B】本発明の第5の実施形態に係る土留部材の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る土留部材が用いられる地中構造物の断面図である。地中構造物1は深礎基礎であり、地盤2を掘削して形成された立坑3の壁面3Wに沿って設置される土留部材4と、土留部材4の内側に充填されるコンクリート5と、土留部材4と立坑3の壁面3Wとの間に充填される充填材6と、コンクリート5に埋設される鉄筋7とを含む。充填材6は、例えば立坑3の壁面3Wへの吹き付けによって施工される第1の充填材6Aと、第1の充填材6Aと土留部材4との間への流し込みによって施工される第2の充填材6Bとを含む。他の例において、充填材6は全体が壁面3Wと土留部材4との間への流し込みによって施工されてもよい。地中構造物1は、充填材6の施工の際に使用される型枠部材8をさらに含んでもよい。
【0012】
図2は、
図1の例における鉄筋配置を示す図である。図示された例において、鉄筋7は、壁体の軸方向yに延びる主筋であり、壁体の周方向xに延びる帯鉄筋は配置されない。帯鉄筋の機能は、鉄筋7を囲む壁体を構成する土留部材4によって代替される。具体的には、図示された例において、土留部材4は、例えば地震力が作用した際に鉄筋7の周りのコンクリート5(
図1参照)を拘束する。土留部材4は、
図2に示された壁体の周方向xおよび軸方向yのそれぞれに組み合わされることによって壁体を構成するが、壁体の周方向xの端部で軸方向yに延びる土留部材4同士の接合部に大きな引張力が作用した場合には、それぞれの土留部材4の端部に形成される軸方向フランジが変形する可能性がある。変形が生じると、土留部材4が鉄筋7の周りのコンクリート5を拘束する機能は十分に発揮されない。
【0013】
以下では、本発明の実施形態として、例えば
図1および
図2に示されたような地中構造物において帯鉄筋の代替として配置された際に、土留部材4の軸方向フランジの変形を防止して、鉄筋7の周りのコンクリート5を拘束する機能を十分に発揮させるための構成の例について説明する。なお、壁体の断面形状は
図2に示された例のような円形には限られず、例えば長円形、矩形、馬蹄形などであってもよい。また、土留部材4は必ずしも帯鉄筋の全部を代替しなくてもよく、土留部材4と帯鉄筋とが併用されてもよい。この場合も、土留部材4が帯鉄筋の一部を代替することによって帯鉄筋の量を減らすことができるため、材料の節減や施工性の向上の観点から有利である。
【0014】
(第1の実施形態)
図3Aおよび
図3Bは、本発明の第1の実施形態に係る土留部材の構成を示す図であり、互いの図のA-A線およびB-B線矢視図である。図示された例において、土留部材4は、軸方向フランジ41と、本体部42と、周方向フランジ43とを含み、軸方向フランジ41にはボルト接合部44が形成され、本体部42にはボルト接合部46が形成される。軸方向フランジ41は、土留部材4を組み合わせて構成した壁体の周方向xの端部に形成され、壁体の軸方向yに延びる。本体部42は、壁体の周方向xに延びる波形断面を有する。この波形断面は、壁体の周方向xの端部で軸方向フランジ41に突き当たる。周方向フランジ43は、壁体の軸方向yの端部に形成され、壁体の周方向xに延びる。土留部材4は、例えば本体部42と周方向フランジ43とが一体になった部材の端部を軸方向フランジ41に溶接することによって形成されてもよいが、この例には限られない。
【0015】
上記のような土留部材4は、例えばライナープレートと呼ばれるものであってもよいが、その例には限られず、軸方向フランジ41および本体部42を有する鋼製部材であれば必ずしもライナープレートとは呼ばれないものであっても同様の機能を実現することができる。
【0016】
土留部材4を帯鉄筋の代替として効果的に機能させるために、土留部材4をより高強度の、具体的には降伏点がより高い鋼材で形成してもよい。例えば軸方向フランジ41、本体部42および周方向フランジ43を含む土留部材4の全体を高強度の鋼材で形成してもよいし、軸方向フランジ41を高強度の鋼材で形成し本体部42および周方向フランジ43は従来と同様の鋼材で形成してもよい。高強度の鋼材として、具体的には、一般構造用圧延鋼材(JIS G3101)では現在使用されているSS330材よりも降伏点が高いSS400材、SS490材、およびSS540材を用いることができる。溶接構造用圧延鋼材(JIS G3106)ではSM400A材、SM400B材、SM400C材、SM490A材、SM490B材、SM490C材、SM490YA材、SM490YB材、SM520B材、SM520C材、およびSM570材を使用することができる。
【0017】
本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ41と隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第1の接合部として、軸方向フランジ41にボルト接合部44が形成される。ボルト接合部44は、軸方向フランジ41に形成されるボルト孔と、ボルト孔に挿通されるボルト441と、ボルト441に螺合されるナット442とによって構成される。壁体の内側(
図3Aにおける手前側、
図3Bにおける右側)から見た場合、ボルト接合部44は本体部42の波形断面の谷部分に形成される。土留部材4と隣接する別の土留部材との間で、それぞれの軸方向フランジ41に形成されたボルト孔に一方の土留部材4の側からボルト441を挿通し、他方の土留部材の側でボルト441にナット442を螺合させて締結することによって、軸方向フランジ41同士を接合することができる。
【0018】
さらに、本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ41と隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第2の接合部として、引張部材45を接合可能なボルト接合部46が形成される。ボルト接合部46は、壁体の内側から見た場合の本体部42の波形断面の山部分で本体部42に形成されるボルト孔と、ボルト孔に挿通されるワンサイドボルト461とを含む。引張部材45に形成された貫通孔にワンサイドボルト461を挿通することによって、壁体の内側から土留部材4の本体部42に引張部材45を接合することができる。引張部材45は、軸方向フランジ41を越えて架設され、隣接する別の土留部材の本体部に同様に形成されたボルト接合部に接合される。
【0019】
なお、図示された例のように本体部42の波形断面の複数の山部分のそれぞれにボルト接合部46が形成される場合、それぞれのボルト接合部46は、壁体の周方向xについて位置をずらして形成されてもよい。これによって、ボルト孔を形成することによる土留部材4の断面欠損を最小化することができる。
【0020】
上記のような本発明の第1の実施形態によれば、軸方向フランジ41同士を直接的に接合するボルト接合部44に加えて、引張部材45を介して本体部42同士を接合するボルト接合部46によって軸方向フランジ41同士の接合が補強される。これによって、壁体の周方向xに大きな引張力が作用した場合にそれぞれの接合部に応力が分散され、ボルト接合部44の部分で軸方向フランジ41が変形することを防止できる。従って、本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ41の変形を防止して鉄筋7の周りのコンクリート5を拘束する機能を十分に発揮させることができる。
【0021】
また、本実施形態では、土留部材4において軸方向フランジ41、本体部42および周方向フランジ43の形状は従来の土留部材と同様でよいため、従来の土留部材に例えばボルト接合部46のためのボルト孔を形成する加工をすることによって容易に実現可能であるという利点がある。もちろん、上述したように高強度の鋼材を用いることなどによって、本実施形態に用いられる新たな土留部材を製造してもよい。
【0022】
加えて、本実施形態では、ボルト接合部46においてボルト孔にワンサイドボルト461を挿通して引張部材45を接合する工程を、土留部材4を組み合わせて壁体を形成した後に、壁体の内側から容易に実施することができる。なお、本体部42に引張部材45を接合するための接合部は、上記の例ではボルト接合部46として説明したが、この例には限られず、例えば溶接による接合部が形成されてもよい。
【0023】
(第2の実施形態)
図4Aおよび
図4Bは、本発明の第2の実施形態に係る土留部材の構成を示す図であり、互いの図のA-A線およびB-B線矢視図である。図示された例において、土留部材4は軸方向フランジ41と、本体部42と、周方向フランジ43とを含み、軸方向フランジ41にはボルト接合部44およびボルト接合部56が形成され、本体部42にはアクセスホール57が形成される。なお、第2の接合部としてボルト接合部56が設けられ、またアクセスホール57が形成される点を除いて、本実施形態の構成は上記の第1の実施形態と同様であるため、重複した詳細な説明は省略する。
【0024】
本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ41と隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第2の接合部として、軸方向フランジ41にボルト接合部56が形成される。ボルト接合部56は、軸方向フランジ41に形成されるボルト孔と、ボルト孔に挿通されるボルト561と、ボルト561に螺合されるナット562とによって構成される。同じく軸方向フランジ41に形成されるボルト接合部44との違いとして、ボルト接合部56は、本体部42に対して壁体の内側ではなく外側(
図4Aにおける奥側、
図4Bにおける左側)に形成される。具体的には、ボルト接合部56は、壁体の外側から見た場合の本体部42の波形断面の谷部分に形成される。ボルト接合部44と同様に、土留部材4と隣接する別の土留部材との間で、それぞれの軸方向フランジ41に形成されたボルト孔に一方の土留部材4の側からボルト561を挿通し、他方の土留部材の側でボルト561にナット562を螺合させて締結することによって、軸方向フランジ41同士を接合することができる。
【0025】
ここで、上記の通りボルト接合部56は壁体の外側に位置するため、ボルト561にナット562を螺合させて締結する工程を壁体の内側から実施することは容易ではない。そこで、本実施形態では、壁体の内側(
図4Aにおける手前側、
図4Bにおける右側)から見た場合の本体部42の波形断面の山部分にアクセスホール57が形成される。なお、壁体の内側から見た場合の波形端面の山部分は、壁体の外側から見た場合の波形断面の谷部分と同じ部分である。これによって、土留部材4を組み合わせて壁体を形成した後に、アクセスホール57からボルト561およびナット562、ならびにこれらを締結するための手や工具を差し込み、ボルト561にナット562を螺合させて締結する工程を実施することができる。
【0026】
なお、図示された例のように本体部42の波形断面の複数の山部分のそれぞれにアクセスホール57が形成される場合、それぞれのアクセスホール57は、壁体の周方向xについて位置をずらして形成されてもよい。これによって、アクセスホールを形成することによる土留部材4の断面欠損を最小化することができる。
【0027】
また、例えば土留部材4の最上部のように、施工中に壁体の外側からのアクセスが容易な位置に形成されるボルト接合部56については、アクセスホール57が形成されなくてもよい。土留部材4の断面欠損を最小化するために、ボルト接合部56の施工後にアクセスホール57を蓋部材の溶接などによって塞いでもよい。また、例えばボルト561およびナット562の組み合わせに代えてワンサイドボルトを用いることによって、周方向xで接合される土留部材4の一方のみにアクセスホール57を形成してもよい。
【0028】
上記のような本発明の第2の実施形態によれば、軸方向フランジ41に通常設けられるボルト接合部44に加えて、ボルト接合部44から本体部42を挟んで裏側にあたる位置に設けられるボルト接合部56によって軸方向フランジ41同士が直接的に接合される。これによって、壁体の周方向xに大きな引張力が作用した場合にそれぞれの接合部に応力が分散され、ボルト接合部44の部分で軸方向フランジ41が変形することを防止できる。従って、本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ41の変形を防止して鉄筋7の周りのコンクリート5を拘束する機能を十分に発揮させることができる。
【0029】
本実施形態でも第1の実施形態と同様に土留部材4の軸方向フランジ41、本体部42および周方向フランジ43の形状は従来の土留部材と同様でよいため、従来の土留部材に例えばボルト接合部56のためのボルト孔およびアクセスホール57を形成する加工をすることによって容易に実現可能であるという利点がある。本実施形態に用いられる新たな土留部材を製造してもよい点も上記の第1の実施形態と同様である。その一方で、本実施形態は、上記の第1の実施形態と比較して、アクセスホール57によって土留部材4にある程度の断面欠損が生じるものの、引張部材のような追加の部材が必要とされず、例えば通常設けられるボルト接合部44と同じ部品で追加の接合部であるボルト接合部56が形成できる利点を有する。
【0030】
なお、本体部42に対して壁体の外側で軸方向フランジ41に形成される接合部は、上記の例では軸方向フランジ41同士を重ね合わせてボルト接合するボルト接合部56として説明したが、この例には限られず、例えば軸方向フランジ41同士を重ね合わせて万力やばね鋼のような締付手段によって締め付ける接合部、または軸方向フランジ41同士を重ね合わせて溶接する接合部が形成されてもよい。
【0031】
例えば上記の第1の実施形態において引張部材45を接合するボルト接合部46とアクセスホール57との位置関係を調節したり、引張部材45がアクセスホール57に干渉する場合でもボルト接合部56を引張部材45およびボルト接合部46よりも先に施工したりすることによって、第1の実施形態と本実施形態とを組み合わせ、壁体の周方向xに作用するより大きな引張力に対抗できるようにする構成も可能である。
【0032】
(第3の実施形態)
図5Aおよび
図5Bは、本発明の第3の実施形態に係る土留部材の構成を示す図であり、互いの図のA-A線およびB-B線矢視図である。図示された例において、土留部材4は軸方向フランジ61と、本体部42と、周方向フランジ43とを含み、軸方向フランジ61にはボルト接合部44およびボルト接合部66が形成される。なお、軸方向フランジ61の形状が異なり、また第2の接合部としてボルト接合部66が設けられる点を除いて、本実施形態の構成は上記の第1の実施形態と同様であるため、重複した詳細な説明は省略する。
【0033】
本実施形態において、土留部材4の軸方向フランジ61は、壁体の内側(
図5Aにおける手前側、
図5Bにおける右側)から見た場合の本体部42の波形断面の山部分42Aよりも壁体の内側に延出している。本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ41と隣接する別の土留部材の軸方向フランジとを接合する第2の接合部として、ボルト接合部66が、軸方向フランジ61の壁体の内側に延出した部分に形成される。ボルト接合部66は、軸方向フランジ61に形成されるボルト孔と、ボルト孔に挿通されるボルト661と、ボルト661に螺合されるナット662とによって構成される。
【0034】
つまり、本実施形態では、軸方向フランジ61が従来よりも幅広に形成されることによって、本体部42に対して壁体の内側に2列のボルト接合部44,66を配置することができる。ボルト接合部44,66では、土留部材4と隣接する別の土留部材との間で、それぞれの軸方向フランジ61に形成されたボルト孔に一方の土留部材4の側からボルト441,661を挿通し、他方の土留部材の側でボルト441,661にナット442,662を螺合させて締結することによって、軸方向フランジ61同士を接合することができる。なお、本実施形態以外に限らず軸方向フランジは波形断面の山部分42Aよりも壁体の内側にわずかに延出しているが、本実施形態ではボルト接合部66を形成することが可能な程度に、軸方向フランジ61が波形断面の山部分42Aよりも壁体の内側に大きく延出している。
【0035】
なお、ボルト接合部66は、高さ方向(壁体の軸方向)について、
図5Bに示された例のようにボルト接合部44と同じ高さに設けられてもよいし、図示しないが、ボルト接合部44と異なる高さに設けられてもよい。例えば、
図5Bに示される土留部材4の波形断面の山部分42Aの高さにボルト接合部66を設けることもできる。
また、ボルト接合部66は、ボルト接合部44と同じ数だけ設けられてもよいし、図示しないが、ボルト接合部44よりも多い、または少ない数だけ設けられてもよい。例えば、
図5Bに示された位置に加えて土留部材4の波形断面の山部分42Aの高さにもボルト接合部66を設けることによって、ボルト接合部44よりも多い数のボルト接合部66を設けてもよい。
【0036】
上記のような本発明の第3の実施形態によれば、2列のボルト接合部44,66によって軸方向フランジ61同士が直接的に接合される。これによって、壁体の周方向xに大きな引張力が作用した場合にそれぞれの接合部に応力が分散され、ボルト接合部44の部分で軸方向フランジ61が変形することを防止できる。従って、本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ61の変形を防止して鉄筋7の周りのコンクリート5を拘束する機能を十分に発揮させることができる。
【0037】
本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ61が壁体の内側に延出して広幅に形成されるため、土留部材4の形状自体が従来の土留部材とは異なる。その一方で、2列のボルト接合部44,66がいずれも本体部42に対して壁体の内側に配置されるため、施工にあたって本体部42にアクセスホールを形成したりする必要がなく、本体部42の断面欠損が最小化される。また、軸方向フランジ61が幅広であること自体が、変形の防止に有利である。
【0038】
なお、軸方向フランジ61が壁体の内側に延出した部分に形成される接合部は、上記の例では軸方向フランジ61同士を重ね合わせてボルト接合するボルト接合部66として説明したが、この例には限られず、例えば軸方向フランジ61同士を重ね合わせて万力やばね鋼のような締付手段によって締め付ける接合部、または軸方向フランジ61同士を重ね合わせて溶接する接合部が形成されてもよい。
【0039】
例えば上記の第1の実施形態において引張部材45に干渉する位置で軸方向フランジ61に切り欠きまたは貫通孔を形成することによって、第1の実施形態と本実施形態とを組み合わせることが可能である。また、第2の実施形態におけるボルト接合部56およびアクセスホール57は本実施形態の軸方向フランジ61およびボルト接合部66とは干渉しないため、第2の実施形態と本実施形態とを組み合わせることも可能である。上記の複数の実施形態の構成を組み合わせ、壁体の周方向xに作用するより大きな引張力に対抗できるようにする構成も可能である。
【0040】
(第4の実施形態)
図6Aおよび
図6Bは、本発明の第4の実施形態に係る土留部材の構成を示す図であり、互いの図のA-A線およびB-B線矢視図である。図示された例において、土留部材4は軸方向フランジ41と、本体部42と、周方向フランジ43とを含み、軸方向フランジ41にはボルト接合部44が形成され、ボルト接合部44においてボルト441の頭部またはナット442と軸方向フランジ41との間に補強板76が介挿される。なお、第2の接合部が設けられず、ボルト接合部44に補強板76が介挿される点を除いて、本実施形態の構成は上記の第1の実施形態と同様であるため、重複した詳細な説明は省略する。
【0041】
本実施形態では、軸方向フランジ41を別の土留部材の軸方向フランジと重ね合わせてボルト接合するボルト接合部44において、ボルト441の頭部と軸方向フランジ41との間、およびナット442と別の土留部材の軸方向フランジとの間に、それぞれ補強板76が介挿される(ボルト441とナット442との配置は逆でもよい)。補強板76は、例えば通常のワッシャーよりも大きなサイズであり、ボルト接合部44の周辺、すなわち本体部42の波形断面の谷部分にあたる部分で軸方向フランジ41に面接触する。補強板76は、ボルト接合部44における軸方向フランジ41の見かけの板厚、すなわち一方の軸方向フランジ41の板厚と補強板76の板厚との合計が、本体部42の板厚の2倍以上になるような板厚を有する。
【0042】
上記のような本発明の第4の実施形態によれば、補強板76を介挿することによって、ボルト接合部44における軸方向フランジ41の見かけの板厚が本体部42の板厚の2倍以上になる。これによって、ボルト接合部44における軸方向フランジ41の剛性が補強され、壁体の周方向xに大きな引張力が作用した場合にボルト接合部44の部分で軸方向フランジ41が変形することを防止できる。従って、本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ41の変形を防止して鉄筋7の周りのコンクリート5を拘束する機能を十分に発揮させることができる。
【0043】
本実施形態は、土留部材4の軸方向フランジ41、本体部42および周方向フランジ43の形状が従来の土留部材と同様でよく、また本体部42への穴開けなどの追加の加工も必要とされないという利点を有する。なお、補強板76は上記の第1から第3の実施形態の構成要素とは干渉しないため、上記の第1から第3の実施形態のいずれかと本実施形態とを組み合わせ、壁体の周方向xに作用するより大きな引張力に対抗できるようにする構成も可能である。
【0044】
(第5の実施形態)
図7Aおよび
図7Bは、本発明の第5の実施形態に係る土留部材の構成を示す図であり、互いの図のA-A線およびB-B線矢視図である。図示された例において、土留部材4は軸方向フランジ81と、本体部42と、周方向フランジ43とを含み、軸方向フランジ81にはボルト接合部44が形成される。なお、軸方向フランジ81の形状が異なり、第2の接合部が設けられない点を除いて、本実施形態の構成は上記の第1の実施形態と同様であるため、重複した詳細な説明は省略する。
【0045】
本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ81の板厚t1が、本体部42の板厚t2の1.8倍以上である。具体的には、以下の表1のように本体部42の板厚および軸方向フランジ81の板厚を設定することができる。なお、表1で「標準」として示されているのは従来用いられているライナープレートにおける標準的な軸方向フランジの板厚であり、「強化」として示されているのは本実施形態に係る土留部材における軸方向フランジの板厚の例である。
【0046】
【0047】
上記のような本発明の第5の実施形態によれば、土留部材4における軸方向フランジ81の板厚が本体部42の板厚の1.8倍以上であるため、軸方向フランジ81単独で、ボルト接合部44における板厚が本体部42の板厚の1.8倍以上になる。これによって、ボルト接合部44を含む軸方向フランジ81の全体で剛性が向上し、壁体の周方向xに大きな引張力が作用した場合にボルト接合部44の部分で軸方向フランジ81が変形することを防止できる。従って、本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ81の変形を防止して鉄筋7の周りのコンクリート5を拘束する機能を十分に発揮させることができる。
【0048】
本実施形態では、土留部材4の軸方向フランジ81の板厚が従来よりも大きくなるため、土留部材4の形状自体が従来の土留部材とは異なる。その一方で、本実施形態では上記の第4の実施形態における補強板のような追加の部材は必要とされず、また軸方向フランジ81の全体で板厚が大きくなるため剛性を向上させる効果が高いという利点を有する。なお、板厚が大きい軸方向フランジ81は上記の第1から第4の実施形態の構成要素とは干渉しないため、上記の第1から第4の実施形態のいずれかと本実施形態とを組み合わせ、壁体の周方向xに作用するより大きな引張力に対抗できるようにする構成も可能である。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1…地中構造物、2…地盤、3…立坑、3W…壁面、4…土留部材、41,61,81…軸方向フランジ、42…本体部、42A…山部分、43…周方向フランジ、44…ボルト接合部(第1の接合部)、441…ボルト、442…ナット、45…引張部材、46,56,66…ボルト接合部(第2の接合部)、461…ワンサイドボルト、561,661…ボルト、562,662…ナット、57…アクセスホール、76…補強板、5…コンクリート、6…充填材、7…鉄筋。