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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】高周波処置具
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A61B18/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021039553
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139259
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 宏人
【審査官】近藤 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-007597(JP,A)
【文献】米国特許第06050995(US,A)
【文献】特表2014-531290(JP,A)
【文献】特開2002-065681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、該シャフト内に配置されている導電線材とを有しており、
該導電線材は、少なくとも一部において前記シャフトの外側に露出している露出区間を有しており、該露出区間の中点において、前記導電線材の長手軸方向に垂直な断面による断面図形Sが下記条件1を満たしている高周波処置具。
[条件1]
断面図形S上において、前記シャフトとの最近位点をP、前記シャフトとの最遠位点をQ、線分PQの中点Cを通り線分PQに垂直な線をL、断面図形Sのうち線Lに対して前記シャフト側に存在している部分の面積をSa、線Lに対して前記シャフトと反対側に存在している部分の面積をSbとしたとき、Sa>Sbである。
【請求項2】
前記断面図形Sは前記面積Sb側に弧状の曲線部を有している請求項1に記載の高周波処置具。
【請求項3】
前記最遠位点Qは前記弧状の曲線部上に位置している請求項2に記載の高周波処置具。
【請求項4】
前記断面図形Sは前記面積Sa側に直線部を有している請求項1~3のいずれか一項に記載の高周波処置具。
【請求項5】
前記最近位点Pは前記直線部上に位置している請求項4に記載の高周波処置具。
【請求項6】
前記断面図形Sが下記条件2を満たしている請求項1~5のいずれか一項に記載の高周波処置具。
[条件2]
断面図形S上において、前記シャフトとの最近位点を点P、前記シャフトとの最遠位点を点Q、断面図形Sの図心Dを通り線分PQに垂直な線をM、断面図形Sのうち線Mに対して前記シャフト側に存在している部分の面積をSc、線Mに対して前記シャフトと反対側に存在している部分の面積をSdとしたとき、Sc>Sdである。
【請求項7】
前記導電線材の断面図形Sは、短軸と、該短軸に垂直な長軸と、を有しており、
前記断面図形Sにおいて、前記シャフトの図心と前記導電線材の図心を結ぶ直線と、前記導電線材の短軸が平行である請求項1~6のいずれか一項に記載の高周波処置具。
【請求項8】
前記導電線材は、前記シャフトの第1内腔に配されている非露出区間を有し、
前記非露出区間において前記導電線材の長手軸方向に垂直な断面の断面図形は非円形状である請求項1~7のいずれか一項に記載の高周波処置具。
【請求項9】
前記シャフトは第1内腔と第2内腔を有し、前記導電線材の先端部は前記第1内腔に配されている請求項1~8のいずれか一項に記載の高周波処置具。
【請求項10】
前記導電線材の先端部に配され、前記第1内腔の内壁と接している固定具をさらに有している請求項9に記載の高周波処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡を経由して生体内に導入される高周波処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡的乳頭括約筋切開術(Endoscopic Sphincterotomy:EST)等の内視鏡手術では、手元側から先端側に延びる内視鏡の処置具挿通チャンネルを経由して体腔内で処置を行うための処置具が用いられる。このような処置具として、パピロトミーナイフが挙げられる。
【0003】
例えば特許文献1~3に開示されている処置具では、先端から手元側まで延びるシース(シャフト)内に導電線材が挿通され、処置具の先端側では導電線材の一部が外に露出している。導電線材に高周波電流を流すことによって導電線材の露出している部分で病変部等の組織を切開することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-73582号公報
【文献】特開2016-54774号公報
【文献】特開2001-79017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
出血抑制の観点から、所望の向きに導電線材を撓ませることで切開が行いやすい処置具を提供することは有益である。そこで、本発明は、導電線材の撓み方向を特定しやすい高周波処置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得た本発明の高周波処置具の一実施態様は、シャフトと、シャフト内に配置されている導電線材とを有しており、導電線材は、少なくとも一部においてシャフトの外側に露出している露出区間を有しており、露出区間の中点において、導電線材の長手軸方向に垂直な断面による断面図形Sが下記条件1を満たしている点に要旨を有する。
[条件1]断面図形S上において、シャフトとの最近位点をP、シャフトとの最遠位点をQ、線分PQの中点Cを通り線分PQに垂直な線をL、断面図形Sのうち線Lに対してシャフト側に存在している部分の面積をSa、線Lに対してシャフトと反対側に存在している部分の面積をSbとしたとき、Sa>Sbである。
【0007】
本発明に係る高周波処置具によれば、導電線材の断面図形Sのうち断面積の小さいSb側が外側、断面積の大きいSa側が内側となるように導電線材が曲がりやすくなる。導電線材がこのような断面図形Sを有することで、使用者は導電線材の撓み方向を特定しやすくなる。その結果、所望の方向に導電線材を撓ませやすくなり、切開中の出血を抑制することができる。
【0008】
断面図形Sは面積Sb側に弧状の曲線部を有していてもよい。その場合、最遠位点Qは弧状の曲線部上に位置していてもよい。断面図形Sは面積Sa側に直線部を有していてもよい。その場合、最近位点Pは直線部上に位置していてもよい。
【0009】
断面図形Sは下記条件2を満たしていてもよい。
[条件2]断面図形S上において、シャフトとの最近位点を点P、シャフトとの最遠位点を点Q、断面図形Sの図心Dを通り線分PQに垂直な線をM、断面図形Sのうち線Mに対してシャフト側に存在している部分の面積をSc、線Mに対してシャフトと反対側に存在している部分の面積をSdとしたとき、Sc>Sdである。
【0010】
導電線材の断面図形Sは、短軸と、短軸に垂直な長軸と、を有しており、断面図形Sにおいて、シャフトの図心と導電線材の図心を結ぶ直線と、導電線材の短軸が平行であってもよい。
【0011】
導電線材は、シャフトの第1内腔に配されている非露出区間を有し、非露出区間において導電線材の長手軸方向に垂直な断面の断面図形は非円形状であってもよい。
【0012】
シャフトは第1内腔と第2内腔を有し、導電線材の先端部は第1内腔に配されていてもよい。その場合、高周波処置具は、導電線材の先端部に配され、第1内腔の内壁と接している固定具をさらに有していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る高周波処置具によれば、導電線材の断面図形Sのうち断面積の小さいSb側が外側、断面積の大きいSa側が内側となるように導電線材が曲がりやすくなる。導電線材がこのような断面図形Sを有することで、使用者は導電線材の撓み方向を特定しやすくなる。その結果、所望の方向に導電線材を撓ませやすくなり、切開中の出血を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る高周波処置具の側面図である。
図2図1に示した高周波処置具の遠位端部を拡大した断面図(一部側面図)である。
図3図2に示した高周波処置具のIII-III線における切断部端面図である。
図4図3に示したシャフトと導電線材を拡大した切断部端面図である。
図5図4に示した導電線材の変形例を示す切断部端面図である。
図6図4に示した導電線材の他の変形例を示す切断部端面図である。
図7図4に示したシャフトと導電線材の変形例を示す切断部端面図である。
図8図2に示した高周波処置具のVIII-VIII線における切断部端面図である。
図9図2に示した高周波処置具のIX-IX線における切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0016】
本発明の高周波処置具の一実施態様は、シャフトと、シャフト内に配置されている導電線材とを有しており、導電線材は、少なくとも一部においてシャフトの外側に露出している露出区間を有しており、露出区間の中点において、導電線材の長手軸方向に垂直な断面による断面図形Sが下記条件1を満たしている点に要旨を有する。
[条件1]断面図形S上において、シャフトとの最近位点をP、シャフトとの最遠位点をQ、線分PQの中点Cを通り線分PQに垂直な線をL、断面図形Sのうち線Lに対してシャフト側に存在している部分の面積をSa、線Lに対してシャフトと反対側に存在している部分の面積をSbとしたとき、Sa>Sbである。
【0017】
本発明に係る高周波処置具によれば、導電線材の断面図形Sのうち断面積の小さいSb側が外側、断面積の大きいSa側が内側となるように導電線材が曲がりやすくなる。導電線材がこのような断面図形Sを有することで、使用者は導電線材の撓み方向を特定しやすくなる。その結果、所望の方向に導電線材を撓ませやすくなり、切開中の出血を抑制することができる。
【0018】
高周波処置具は、内視鏡の処置具挿通チャンネルを経由して体腔内に導入され、ESTなどの術式に用いられる。以下では高周波処置具を単に処置具と称することがある。図1図9を参照しながら高周波処置具の構成例について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る高周波処置具の側面図である。図2図1に示した高周波処置具の遠位端部を拡大した断面図(一部側面図)である。図3図8図9図2に示した高周波処置具の切断部端面図である。図4図3に示したシャフトと導電線材を拡大した切断部端面図である。図5図6図4に示した導電線材の他の変形例を示す切断部端面図である。図7図4に示したシャフトと導電線材の変形例を示す切断部端面図である。処置具1は、シャフト5と、導電線材20と、を有している。
【0019】
図1において処置具1は、内視鏡の処置具挿通チャンネルに挿入される挿入部2と、挿入部2の近位側に接続されたハンドル65とを有している。乳頭などの体腔に挿入しやすいように、挿入部2の遠位端部には湾曲部3が配されてもよい。ハンドル65でシャフト5の遠位部および湾曲部3の湾曲度合いを変更可能であってもよい。処置具1を動かすための手元側の構成については後述する。
【0020】
処置具1の遠位側とは、シャフト5の長手軸方向xの遠位端側であって処置対象側を指す。処置具1の近位側とは、シャフト5の長手軸方向xの近位端側であって使用者の手元側を指す。各部材をその長手軸方向で二等分割したときの近位側を近位部、遠位側を遠位部と称することがある。シャフト2の内側および外側とは、シャフト5の径方向における内側および外側を指し、シャフト5の径方向の内側とはシャフト5の長手軸中心に近い側を指す。
【0021】
シャフト5は長手軸方向xと径方向と周方向を有している長尺な部材である。シャフト5は、長手軸方向xに遠位端と近位端を有している。シャフト5内に導電線材20が配置されるため、シャフト5は好ましくは筒状構造を有している。シャフト5は一または複数の内腔を有していることが好ましく、内腔はシャフト5の長手軸方向xに延在していることが好ましい。
【0022】
図2図3ではシャフト5は第1内腔11と第2内腔12とを有している。導電線材20の先端部が第1内腔11に配されている。第2内腔12は、ガイドワイヤの挿通路、または体腔内に注入される液体の流路とすることができる。液体としては、生理食塩水、ヒアルロン酸溶液、造影剤の他に、薬剤や細胞を含む液体が挙げられる。
【0023】
図3に示すようにシャフト5は第3内腔13を有していてもよい。その場合、第2内腔12をガイドワイヤの挿通路、第3内腔13を体腔内に注入される液体の流路として使用してもよい。第1内腔11は、シャフト5の遠位端から近位端まで延在していてもよく、第1内腔11の遠位端はシャフト5の遠位端よりも近位側に位置していてもよい。
【0024】
シャフト5は、導電線材20を露出させるための一または複数の開口を有している。開口はシャフト5の内腔と連通している。図1図2では、シャフト5はその遠位部の外周面に遠位側から順に第1開口14と第2開口15を有しており、第1内腔11は、第1開口14および第2開口15を通じてシャフト5の外と連通している。このように複数の開口を用いて導電線材20を露出させてもよいが、1つの開口から導電線材20を露出させてもよい。例えば、シャフト5はその遠位部の外周面にシャフト5の長手軸方向xに延在している開口を有し、その開口から導電線材20が露出していてもよい。
【0025】
図2では、シャフト5はその遠位端部に、遠位端に向かって外径が小さくなっているテーパー部8を有している。テーパー部8により処置具1を体内で通過させやすくなる。テーパー部8は第1開口14よりも遠位側に位置していることが好ましい。
【0026】
シャフト5は、導電線材20の露出以外を目的とする開口を有していてもよい。シャフト5は第1内腔11と連通している第3開口16、第2内腔12と連通しガイドワイヤを突出させる第4開口17、第3内腔13と連通し体腔内に流体を放出する第5開口の少なくともいずれか1つを有していてもよい。第3開口16、第4開口17、第5開口の少なくともいずれか1つはテーパー部8に配されていてもよい。第3開口16、第4開口17、第5開口の少なくともいずれか1つは、第1開口14より遠位側に位置していることが好ましい。
【0027】
シャフト5は可撓性を有していることが好ましい。これにより体腔形状に沿ってシャフト5を変形させることができる。形状保持のため、シャフト5は弾性を有していることが好ましい。シャフト5は樹脂、金属、または樹脂と金属の組み合わせから構成されていることが好ましい。シャフト5としては、樹脂チューブ;金属管;線材を所定のパターンで配置することで形成された中空体;上記中空体の内面または外面の少なくともいずれか一方に樹脂をコーティングしたもの;またはこれらを組み合わせたもの、例えばこれらを長手方向に接続したものが挙げられる。樹脂チューブは、例えば押出成形によって製造することができる。線材が所定のパターンで配置された中空体としては、線材が単に交差される、または編み込まれることによって網目構造を有する筒状体や、線材が巻回されたコイルが挙げられる。線材は、一または複数の単線であってもよく、一または複数の撚線であってもよい。線材の断面の形状は、例えば、円形状、長円形状、多角形状、またはこれらを組み合わせた形状であってもよい。長円形状には楕円形状、卵形状、角丸長方形状が含まれ、以降の説明でも同様である。網目構造の種類は特に制限されず、コイルの巻き数や密度も特に制限されない。網目構造やコイルは、シャフト5の長手軸方向xの全体に亘って一定の密度で形成されてもよく、シャフト5の長手軸方向xの位置によって密度が異なるように形成されてもよい。金属管の可撓性を高めるために、金属管の外側表面には切込みや溝が形成されていてもよい。切込みや溝の形状は、直線状、円弧状、環状、らせん状やこれらの組み合わせとすることができる。シャフト5が筒状の樹脂チューブである場合、シャフト5は単層または複数層から構成することができ、長手軸方向xまたは周方向の一部が単層から構成されており、他部が複数層から構成されていてもよい。
【0028】
シャフト5の長手軸方向xに垂直な断面形状は特に限定されず、例えば円形状、長円形状、多角形状、またはこれらを組み合わせた形状にすることができる。
【0029】
導電線材20は、シャフト5内に配置されている。導電線材20に高周波電流を流すことによって導電線材20を高周波ナイフのナイフ部として用いることができる。これにより生体組織を切開可能であり、病変部等の組織を切除することができる。導電線材20はその長手軸方向において先端と基端を有している。導電線材20は、全体としてシャフト5の遠位側から近位側に延在している。導電線材20の先端部はシャフト5に固定されて、手技中に導電線材20がシャフト5から抜けないようになっている。導電線材20の先端部とシャフト5との詳細な固定方法については後述する。導電線材20の基端部は電気的導通性が確保された状態となるように高周波電源に接続されている。また、導電線材20の基端部はハンドル65に接続されている。
【0030】
導電線材20は、少なくとも一部においてシャフト5の外側に露出している露出区間21を有している。露出区間21は、導電線材20の先端と基端の間に配される。図2では、シャフト5の第1開口14と第2開口15から露出している部分が露出区間21である。露出区間21は導電線材20の先端部の一部であることが好ましい。ハンドル65を操作して導電線材20を進退させることにより露出区間21の長さや撓み度合いを変えることができ、手技に応じたナイフの形状変更が可能となる。露出区間21における導電線材20の形状は特に限定されないが、例えばループ形状や半ループ形状であってもよい。
【0031】
図2において、導電線材20はシャフト5の第1内腔11に配されている非露出区間22を有している。非露出区間22は、露出区間21よりも遠位にある第1非露出区間221と、露出区間21よりも近位にある第2非露出区間222を含んでいてもよい。露出区間21は、非露出区間22よりも短くてもよい。導電線材20は、電気的な絶縁性を保つために、表面に絶縁層が配されていてもよい。導電線材20の絶縁層は、内視鏡や意図しない組織への通電および切開を防ぐために、導電線材20の非露出区間22だけでなく、露出区間21の一部にも絶縁層が配されていてもよい。露出区間21の絶縁層のない部分は、ナイフ部として機能する。
【0032】
導電線材20の長手軸方向に垂直な断面図形の形状は特に限定されず、円形状、長円形状、多角形状またはこれらを組み合わせた形状にすることができるが、非円形状であることが好ましい。導電線材20の長手軸方向に垂直な断面による断面図形は、導電線材20の長手軸方向全体に亘って同じであってもよく、露出区間21または非露出区間22の位置により異なっていてもよい。断面図形は、直線部25のみを有していてもよく、曲線部26のみを有していてもよく、図4に示すように直線部25と曲線部26を有していてもよい。
【0033】
導電線材20は長手軸方向に延在している一または複数のエッジを有していてもよい。このエッジは、導電線材20の長手軸方向に垂直な断面図形において頂点に対応する。
【0034】
導電線材20は弾性変形可能な材料から構成されることが好ましい。導電線材20は、導電性材料から構成されていればよく、例えば、Ni-Ti系合金などの超弾性合金、SUS303、SUS304、SUS316等のステンレスから構成することができる。導電線材20は、1つの部材から形成されていてもよく、複数の部材を長手軸方向の途中で接合することにより形成されていてもよい。接合方法としては、複数の部材の端部を金属管等のリング部材でかしめる方法のほか、溶着、接着等を用いることができる。導電線材20は、単線であってもよく、単線を撚り合わせた撚線であってもよい。
【0035】
図2および図4に示すように、導電線材20は露出区間21の中点213において、導電線材20の長手軸方向に垂直な断面による断面図形Sが下記条件1を満たしている。
[条件1]断面図形S上において、シャフト5との最近位点をP、シャフト5との最遠位点をQ、線分PQの中点Cを通り線分PQに垂直な線をL、断面図形Sのうち線Lに対してシャフト5側に存在している部分の面積をSa、線Lに対してシャフト5と反対側に存在している部分の面積をSbとしたとき、Sa>Sbである。
処置具1によれば、導電線材20の断面図形Sのうち断面積の小さいSb側が外側、断面積の大きいSa側が内側となるように導電線材20が曲がりやすくなる。導電線材20がこのような断面図形Sを有することで、使用者は導電線材20の撓み方向を特定しやすくなる。その結果、所望の方向に導電線材20を撓ませやすくなり、切開中の出血を抑制することができる。
【0036】
露出区間21の中点213とは、露出部分が最長となるように導電線材20をシャフト5から露出させたときの導電線材20の長手軸方向の中点を意味している。例えば、導電線材20の長さがシャフト5よりも長く、シャフト5の内腔内で導電線材20が湾曲している場合、自然状態での導電線材20の露出部分の長さは、露出部分が最長となるように、導電線材20を径方向へ引くなどして導電線材20をシャフト5から露出させたときの導電線材20の長さより短くなる場合がある。
【0037】
本明細書では、導電線材20の長手軸方向に垂直な断面のうち、露出区間21の中点213における断面の図形を断面図形Sと称する。
【0038】
断面図形Sの形状は特に限定されず、円形状、長円形状、多角形状またはこれらを組み合わせた形状にすることができるが、非円形状であることが好ましい。ただし、真円、真楕円など線Lを対称軸とする線対称な形状は除く。断面図形Sは、短軸23と長軸24を有していてもよい。断面図形Sは、線分PQを対称軸とした線対称の図形であってもよい。
【0039】
断面図形Sは直線部と曲線部の少なくともいずれかを含んでいることが好ましい。断面図形Sは、図4図5のように直線部25と曲線部26を有していてもよく、図6のように直線部25のみを有していてもよく、曲線部26のみを有していてもよい。
【0040】
図4に示すように断面図形Sは面積Sb側が1つの辺から構成されていてもよい。また図5図6に示すように断面図形Sは面積Sb側が複数の辺から構成されていてもよい。
【0041】
図4に示すように断面図形Sは面積Sb側に弧状の曲線部261を有していることが好ましい。断面図形Sのうちシャフト5から遠い側に弧状の曲線部261が位置していることにより、導電線材20がシャフト5の外側に膨らむように撓みやすくなり、手技が行いやすくなる。
【0042】
図4に示すように最遠位点Qは弧状の曲線部261上に位置していることが好ましい。これにより導電線材20がシャフト5の外側に膨らむように撓みやすくなる。
【0043】
面積Sb側の弧状の曲線部261は、面積Sb側が凸となるように湾曲していることが好ましい。その場合、最遠位点Qが弧状の曲線部261の変曲点上に位置していてもよい。このように曲線部26がシャフト5の外側に湾曲していることで導電線材20がシャフト5の外側に膨らむように撓みやすくなる。
【0044】
図5図6に示すように断面図形Sは面積Sb側に直線部25を有していてもよい。図5に示すように断面図形Sは面積Sb側に直線部25と曲線部26を有していてもよい。断面図形Sは面積Sb側において直線部25が2つの曲線部26の間に挟まれていてもよい。また図6に示すように断面図形Sは面積Sb側に直線部25のみを有していてもよい。断面図形Sの面積Sb側が、複数の直線部25のみを有していてもよく、複数の曲線部26のみを有していてもよい。
【0045】
図5図6に示すように断面図形Sは面積Sb側に線Lに平行な直線部251を有していてもよい。その場合、最遠位点Qが直線部251上に位置していることが好ましい。また、図6に示すように断面図形Sは面積Sb側に線Lに対して傾斜している直線部252を有していてもよい。
【0046】
断面図形Sは面積Sb側に一または複数の頂点を有していてもよい。その場合、最遠位点Qが断面図形Sの頂点上に位置していてもよい。
【0047】
図4図6に示すように、断面図形Sは面積Sa側に直線部25を有していることが好ましい。断面図形Sのうちシャフト5に近い側に直線部25が位置していることにより、導電線材20の形状が安定し、露出区間21において切開が行いやすいように導電線材20の撓み方向を調整しやすくなる。
【0048】
図4図6に示すように、最近位点Pは直線部25上に位置していることが好ましい。この構成により導電線材20の撓み方向をより一層調整しやすくなる。
【0049】
図4図6に示すように、断面図形Sは面積Sa側に線Lに平行な直線部253を有していてもよい。その場合、最近位点Pが直線部253上に位置していることが好ましい。
【0050】
図6に示すように、断面図形Sは面積Sa側に直線部25のみを有していてもよい。断面図形Sは、面積Sa側に線分PQに平行な直線部254を有していてもよい。図6では、2つの直線部254が直線部253よりも線L側に配されている。このように直線部253が2つの直線部254に挟まれていてもよい。図示していないが断面図形Sは面積Sa側に線Lに対して傾斜している直線部を有していてもよい。
【0051】
図4図5に示すように断面図形Sは面積Sa側に直線部25と曲線部26を有していてもよい。2つの曲線部26が直線部253よりも線L側に配されていてもよい。その場合、断面図形Sは面積Sa側において直線部25が2つの曲線部26の間に挟まれていてもよい。
【0052】
断面図形Sは面積Sa側に一または複数の頂点を有していてもよい。その場合、最近位点Pは頂点上に位置していなくてもよい。
【0053】
図7に示すように、断面図形Sが下記条件2を満たしていることが好ましい。
[条件2]断面図形S上において、シャフト5との最近位点を点P、シャフト5との最遠位点を点Q、断面図形Sの図心Dを通り線分PQに垂直な線をM、断面図形Sのうち線Mに対してシャフト5側に存在している部分の面積をSc、線Mに対してシャフト5と反対側に存在している部分の面積をSdとしたとき、Sc>Sdである。
導電線材の断面図形Sが条件2を満たすことによっても、使用者は導電線材の撓み方向を手技前から予め特定しやすくなり、手技を効率的に行うことができる。
【0054】
断面図形Sにおいて、線分PQの中点Cと図心Dは一致していてもよく、互いに異なる位置にあってもよい。なお、図心とは、重量が均一に作用するとして、その位置を支点にしたとき、図形が釣り合う点をいう。図心Dは、断面図形Sを均一な板とした場合の、重心と一致する。
【0055】
断面図形Sは面積Sd側に一または複数の曲線部26を有していてもよい。断面図形Sは面積Sd側に弧状の曲線部261を有していてもよい。断面図形Sは面積Sd側に一または複数の直線部25を有していてもよい。断面図形Sは面積Sd側に線Mに平行な直線部251を有していてもよい。
【0056】
断面図形Sは、面積Sc側に一または複数の直線部25を有していてもよい。断面図形Sは面積Sc側に線Mに平行な直線部253を有していてもよい。断面図形Sは、面積Sc側に一または複数の曲線部26を有していてもよい。
【0057】
図3に示すように、導電線材20の断面図形Sは、短軸23と、短軸23に垂直な長軸24と、を有しており、断面図形Sにおいて、シャフト5の図心19と導電線材20の図心Dを結ぶ直線Nと、導電線材20の短軸23が平行であることが好ましい。このような断面を有する導電線材20を用いることで、シャフト5から遠ざかる方向に導電線材20を撓ませることができる。
【0058】
図8図9に示すように、導電線材20の第1非露出区間221と第2非露出区間222の少なくともいずれかの導電線材20の長手軸方向に垂直な断面による断面図形において、シャフト5の図心19との最近位点が断面図形の頂点上に位置していてもよい。
【0059】
図3図8図9に示すように、導電線材20がその長手軸方向に延在している第1エッジと第2エッジを有している場合、第1エッジに対応するのが断面図形の第1頂点28であり、第2エッジに対応するのが断面図形の第2頂点29である。導電線材20の長手軸方向に垂直な断面図形の長軸24の方向において第1頂点28と第2頂点29は最も離れた位置にある。その場合、図8のように第1非露出区間221では第1頂点28がシャフト5の図心19に最も近接しており、図9のように第2非露出区間222では第2頂点29がシャフト5の図心19に最も近接していることが好ましい。
【0060】
導電線材20の先端部とシャフト5との詳細な固定方法について説明する。導電線材20の先端部は、シャフト5に直接固定されていてもよく、他の部材を介して間接的に固定されていてもよい。図2では、導電線材20の先端部に固定具50が配されている。その場合、固定具50はシャフト5の第1内腔11の内壁111と接していることが好ましい。固定具50が第1内腔11の内壁111に当接することで摩擦抵抗が生じるため、導電線材20を進退させたときにシャフト5から導電線材20が抜けることを防ぐことができる。
【0061】
固定具50は、先端と基端を有している。固定具50の先端は導電線材20の先端側に位置しており、固定具50の先端から基端に向かう方向は、導電線材20の先端から基端に向かう方向と一致している。固定具50の形状は特に限定されず、例えば、角柱状、円柱状、長円柱状、またはこれらを組み合わせた形状であってもよい。固定具50はその外径が先端側に向かって小さくなっている部分を有していてもよい。そのような形状としては、例えば、角錐台形状、円錐台形状、長円錐台形状、角丸錐台形状等の錐台形状を挙げることができる。
【0062】
固定具50はシャフト5と同様の樹脂または導電線材20と同様の金属から構成することができる。また、固定具50は、X線不透過性材料を含むことができる。固定具50の導電線材20への固定方法は特に限定されないが、かしめ、溶着、溶接、接着等の方法を用いることができる。
【0063】
導電線材20が第1内腔11に配されている非露出区間22を有している場合、例えば図8図9に示すように非露出区間22において導電線材20の長手軸方向に垂直な断面の断面図形は非円形状であることが好ましい。詳細には、第1非露出区間221において導電線材20の長手軸方向に垂直な断面の断面図形は非円形状であることが好ましい。このような断面形状にすることで導電線材20とシャフト5または固定具50との間に摩擦抵抗が生じるため、導電線材20がシャフト5または固定具50に対して回転することを防ぐことができる。なお、露出区間21と非露出区間22とで導電線材20の断面図形は同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0064】
図1では、ハンドル65は、導電線材20の基端部に接続されている第1ハンドル66と、シャフト5の近位側に接続されている第2ハンドル68と、を有している。第1ハンドル66は第2ハンドル68の外側に配されているが、第2ハンドル68が第1ハンドル66の外側に配されてもよい。第1ハンドル66は第2ハンドル68に対して移動可能に構成されている。第1ハンドル66を移動させると露出区間21の長さや撓み度合いを変えることができる。シャフト5と第2ハンドル68は接続用のチューブ60を介して接続されており、チューブ60はガイドワイヤを挿入するための第1導入口61を有している。第2ハンドル68はシャフト5の第2内腔12または第3内腔13に液体を導入するための第2導入口67を有している。第1ハンドル66は高周波電源との接続部69を有している。シャフト5と第2ハンドル68、または導電線材20と第1ハンドル66は、互いに直接接続されていてもよく、チューブ60のような別の部材を介して接続されていてもよい。これらは、熱圧着、接着剤による接着等の方法で接続することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:高周波処置具
5:シャフト
20:導電線材
21:露出区間
22:非露出区間
23:短軸
24:長軸
50:固定具
x:シャフトの長手軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9