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特許7591447熱延鋼板の製造方法、熱延鋼板の温度履歴予測方法及び熱延鋼板の硬質化部予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】熱延鋼板の製造方法、熱延鋼板の温度履歴予測方法及び熱延鋼板の硬質化部予測方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 38/00 20060101AFI20241121BHJP
   B21C 47/02 20060101ALI20241121BHJP
   B21C 47/26 20060101ALI20241121BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20241121BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20241121BHJP
   B21B 37/74 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B21B38/00 C
B21C47/02 B
B21C47/26 A
B21C51/00 E
B21B45/02 320R
B21B37/74 A
B21C47/02 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021049930
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2021154388
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020053588
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】福島 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 祐太
(72)【発明者】
【氏名】小林 正宜
(72)【発明者】
【氏名】北川 冬馬
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】小原 崇広
(72)【発明者】
【氏名】乾 昌広
(72)【発明者】
【氏名】飯島 健之
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 貴志
(72)【発明者】
【氏名】米田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】小渡 晃平
(72)【発明者】
【氏名】原田 駿
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-112958(JP,A)
【文献】特開2005-281809(JP,A)
【文献】特開平11-244939(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084609(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 38/00
B21C 47/02
B21C 47/26
B21C 51/00
B21B 45/02
B21B 37/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する測定工程と、
上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を、上記測定工程で測定された上記表面温度に基づいて算出する第1算出工程と、
上記測定工程後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る巻取工程と、
上記巻取工程で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する導出工程と、
上記第1算出工程で算出された温度履歴と上記導出工程で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する第1予測工程と
を備える熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記第1予測工程で予測された温度履歴を用いて相変態率を算出する第2算出工程と、
上記第2算出工程で算出された相変態率を用いて上記帯状鋼材の硬質化部を予測する第2予測工程と
をさらに備える請求項1に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記導出工程で、上記変位計による測定値の中央値を基準として上記凹凸の大きさを求める請求項1又は請求項2に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
上記導出工程で、上記凹凸の飛び出し方向と上記変位計による走査方向とで規定される2次元座標系を用いて上記凹凸の大きさを求める請求項1、請求項2又は請求項3に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項5】
熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する測定工程と、
上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を、上記測定工程で測定された上記表面温度に基づいて算出する第1算出工程と、
上記測定工程後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る巻取工程と、
上記巻取工程で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する導出工程と、
上記第1算出工程で算出された温度履歴と上記導出工程で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する第1予測工程と
を備える熱延鋼板の温度履歴予測方法。
【請求項6】
熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する測定工程と、
上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を、上記測定工程で測定された上記表面温度に基づいて算出する第1算出工程と、
上記測定工程後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る巻取工程と、
上記巻取工程で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する導出工程と、
上記第1算出工程で算出された温度履歴と上記導出工程で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する第1予測工程と、
上記第1予測工程で予測された温度履歴を用いて相変態率を算出する第2算出工程と、
上記第2算出工程で算出された相変態率を用いて上記帯状鋼材の硬質化部を予測する第2予測工程と
を備える熱延鋼板の硬質化部予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板の製造方法、熱延鋼板の温度履歴予測方法及び熱延鋼板の硬質化部予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板は、熱間圧延された帯状鋼材をコイル状に巻き取り、巻き取られたコイルを常温程度まで冷却して製造される。この熱延鋼板は、再度帯状に繰り出して酸洗及び冷間圧延を施され、冷延鋼板となる。この冷延鋼板の製造上の問題点として、通板時における鋼材の破断が挙げられる。鋼材に破断が生じると、通板ラインを停止して復旧作業を行うことを要し、復旧のためのコストが嵩むと共に、生産効率が低下する。また、鋼材の破断は、設備故障の原因ともなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-593号公報
【文献】特開2010-112958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼き入れ性の高い鋼材の冷間圧延時の破断の原因のひとつとして、鋼材の端部の亀裂が挙げられる。冷間圧延中の鋼材の端部に亀裂が生じていると、通板時にこの亀裂部分に応力が集中し、亀裂が成長し、鋼材の破断へとつながりやすい。
【0005】
この亀裂の原因として、熱間圧延されたコイルの巻き取り形状の不良が挙げられる。つまり、熱間圧延後のコイルに巻き取り不良があると、コイルの端面の凹凸が大きくなる。コイル端面に大きな凸部があると、凸部がフィンの機能を果たすことでコイルの冷却時に凸部の冷却速度が速くなる。凸部の冷却速度が速くなると、凸部にベイナイトやマルテンサイト等の硬質の相が混在しやすくなる。その結果、鋼材の冷間圧延時にボイドが発生し、かつこのボイドが成長することで、端部の亀裂を招来しやすくなる。
【0006】
このような観点から、本発明者らは、コイルの端面の凹凸(特に凸部)の温度履歴を予測することで、後工程における鋼材の破断の可能性を事前に察知できることを見出した。
【0007】
なお、特許文献1には、熱間圧延された圧延鋼板のランアウトテーブル(ROT)上での温度むらを予測し、この予測した温度むらが小さくなるようにコイラに巻き取られる前の圧延鋼板の製造条件を制御することが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、金属板コイルの端面にコイル直径に亘って距離計を走査させ、距離計とコイル端面との距離を測定してコイル端面のテレスコープ量を算出するに当たり、コイルエンド部の測定値がタング形状部であるか、テレスコープ形状であるかを識別する技術が記載されている。特許文献2には、コイル内直径両端の最内巻金属板同士の測定距離の差、又はコイル外直径両端の最外巻金属板同士の測定距離の差がそれぞれ閾値を超えるコイルは、金属板のコイルエンドのタング形状部を測定していると判定し、このタング形状部を測定した最内巻及び/又は最外巻距離データを除外してコイルのテレスコープ量を算出することが記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1、2では、コイル端面の凹凸とコイル端部の亀裂との関係については検討されていない。
【0010】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、コイルの端面の凹凸の温度履歴を予測可能な熱延鋼板の製造方法及び熱延鋼板の温度履歴予測方法を提供することを目的とする。また、本発明は、コイルの端面の凹凸の温度履歴に基づいて後工程における鋼材の破断の有無を予測可能な熱延鋼板の硬質化部予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る熱延鋼板の製造方法は、熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する測定工程と、上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を、上記測定工程で測定された上記表面温度に基づいて算出する第1算出工程と、上記測定工程後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る巻取工程と、上記巻取工程で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する導出工程と、上記第1算出工程で算出された温度履歴と上記導出工程で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する第1予測工程とを備える。
【0012】
当該熱延鋼板の製造方法は、上記帯状鋼材が巻き取られて形成されたコイルの端面の凹凸の放冷状態での温度履歴を予測することができる。
【0013】
当該熱延鋼板の製造方法は、上記第1予測工程で予測された温度履歴を用いて相変態率を算出する第2算出工程と、上記第2算出工程で算出された相変態率を用いて上記帯状鋼材の硬質化部を予測する第2予測工程とをさらに備えるとよい。当該熱延鋼板の製造方法は、上記第2算出工程及び上記第2予測工程を備えることで、後工程における鋼材の破断の有無を予測することができる。
【0014】
上記導出工程で、上記変位計による測定値の中央値を基準として上記凹凸の大きさを求めるとよい。このように、上記導出工程で、上記変位計による測定値の中央値を基準として上記凹凸の大きさを求めることによって、上記コイルの端面の凹凸の放冷状態での温度履歴を容易かつ正確に予測しやすい。
【0015】
上記導出工程で、上記凹凸の飛び出し方向と上記変位計による走査方向とで規定される2次元座標系を用いて上記凹凸の大きさを求めるとよい。このように、上記導出工程で、上記凹凸の飛び出し方向と上記変位計による走査方向とで規定される2次元座標系を用いて上記凹凸の大きさを求めることによって、上記コイルの端面の凹凸の放冷状態での温度履歴を容易かつ正確に予測しやすい。
【0016】
本発明の他の一態様に係る熱延鋼板の温度履歴予測方法は、熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する測定工程と、上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を、上記測定工程で測定された上記表面温度に基づいて算出する第1算出工程と、上記測定工程後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る巻取工程と、上記巻取工程で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する導出工程と、上記第1算出工程で算出された温度履歴と上記導出工程で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する第1予測工程とを備える。
【0017】
当該熱延鋼板の温度履歴予測方法は、上記帯状鋼材が巻き取られて形成されたコイルの端面の凹凸の放冷状態での温度履歴を予測することができる。
【0018】
本発明の他の一態様に係る熱延鋼板の硬質化部予測方法は、熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する測定工程と、上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を、上記測定工程で測定された上記表面温度に基づいて算出する第1算出工程と、上記測定工程後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る巻取工程と、上記巻取工程で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する導出工程と、上記第1算出工程で算出された温度履歴と上記導出工程で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する第1予測工程と、上記第1予測工程で予測された温度履歴を用いて相変態率を算出する第2算出工程と、上記第2算出工程で算出された相変態率を用いて上記帯状鋼材の硬質化部を予測する第2予測工程とを備える。
【0019】
当該熱延鋼板の硬質化部予測方法は、コイルの端面の凹凸の温度履歴に基づいて後工程における鋼材の破断の有無を予測することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の一態様に係る熱延鋼板の製造方法及び他の一態様に係る熱延鋼板の温度履歴予測方法は、コイルの端面の凹凸の温度履歴を予測することができる。また、本発明の他の一態様に係る熱延鋼板の硬質化部予測方法は、コイルの端面の凹凸の温度履歴に基づいて後工程における鋼材の破断の有無を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る熱延鋼板の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、図1の熱延鋼板の製造方法で用いる熱延鋼板の製造設備を示す模式図である。
図3図3は、図1の熱延鋼板の製造方法の第1算出工程による仮想コイルの温度履歴算出手順の説明図である。
図4図4は、図1の熱延鋼板の製造方法の導出工程における変位計によるコイルの端面の走査位置を示す模式図である。
図5図5は、図1の熱延鋼板の製造方法の導出工程による凹凸の大きさの導出手順の説明図である。
図6図6は、図1の熱延鋼板の製造方法とは異なる形態に係る熱延鋼板の製造方法を示すフロー図である。
図7図7は、No.1の第1算出工程による仮想コイルの上端面の巻取り直後を基準とする放冷状態での温度履歴を示すグラフである。
図8図8は、No.1の導出工程における変位計によるコイルの端面の凹凸の形状の測定結果及び導出部によるコイルの端面の凹凸の大きさの導出結果を示すグラフである。
図9図9は、No.1の第1予測工程で予測されたコイルの端面の巻取り直後を基準とする放冷状態での温度履歴、及びこの端面の温度の実測値を示すグラフである。
図10図10は、No.2の第1算出工程で算出された仮想コイルの巻取り直後を基準とする上端面の放冷状態での温度履歴を示すグラフである。
図11図11は、No.2の導出工程における変位計によるコイルの端面の凹凸の形状の測定結果及び導出部によるコイルの端面の凹凸の大きさの導出結果を示すグラフである。
図12図12は、No.2の第1予測工程で予測されたコイルの端面の巻取り直後を基準とする放冷状態での温度履歴、及びこの端面の温度の実測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について適宜図面を参照しつつ詳説する。
【0023】
[第一実施形態]
<熱延鋼板の製造方法>
図1の熱延鋼板の製造方法は、熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する工程(測定工程S1)と、上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を測定工程S1で測定された上記表面温度に基づいて算出する工程(第1算出工程S2)と、測定工程S1後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る工程(巻取工程S3)と、巻取工程S3で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する工程(導出工程S4)と、第1算出工程S2で算出された温度履歴と導出工程S4で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する工程(第1予測工程S5)とを備える。測定工程S1、第1算出工程S2、巻取工程S3、導出工程S4及び第1予測工程S5は、本発明の一態様に係る熱延鋼板の温度履歴予測方法を構成する。なお、「コイル状」とは、軸方向視において渦巻き状であることをいう。「コイルの端面」とは、コイルにおける中心軸と垂直な面をいう。すなわち、「コイルの端面」とは、帯状鋼材の幅方向の端によって形成される面をいう。
【0024】
当該熱延鋼板の製造方法によると、上記コイルの端面の凹凸の温度履歴を予測することで、この熱延鋼板を用いて冷間圧延板を製造する際の鋼材の破断の可能性を事前に察知することができる。
【0025】
当該熱延鋼板の製造方法について説明するにあたり、まず図2を参照して当該熱延鋼板の製造方法を実施可能な熱延鋼板の製造設備1(以下、単に「製造設備1」ともいう)について説明する。
【0026】
〔熱延鋼板の製造設備〕
図2の製造設備1は、複数対の圧延ロール2aと、これらの圧延ロール2aによって熱間圧延された帯状鋼材Xを搬送する搬送部2bと、搬送部2bに搬送された帯状鋼材Xをコイル状に巻き取る巻取機2cとを有し、熱間圧延ラインを構成する熱間圧延装置2と、搬送部2bに搬送されている帯状鋼材Xの表面温度を測定する測定装置3と、帯状鋼材Xを端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合のコイル(仮想コイル)の放冷状態での温度履歴を、測定装置3で測定された帯状鋼材Xの表面温度に基づいて算出する算出装置4と、巻取機2cで巻き取られたコイルX1の端面Eの凹凸の大きさをコイルX1の半径に亘って導出する導出ラインを構成する導出装置5と、算出装置4で算出された温度履歴と導出装置5で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する予測装置6とを備える。また、当該製造設備1は、上記導出ライン通過後のコイルX1を放冷する放冷装置7を備える。なお、当該製造設備1は、放冷装置7による放冷後のコイルX1を冷間圧延する冷間圧延装置、上記冷間圧延装置による冷間圧延後の帯状鋼材を焼鈍する焼鈍装置等をさらに備えていてもよい。
【0027】
熱間圧延装置2は、加熱炉(不図示)で加熱された厚鋼板に粗圧延及び仕上圧延を施したうえで、圧延後の帯状鋼材Xを搬送部2bによって巻取機2cに搬送し、巻取機2cでコイル状に巻き取る。搬送部2bは、例えば複数の搬送ローラを有する。
【0028】
測定装置3は、サーモグラフィ等の非接触温度センサ3aを有する。測定装置3は、熱間圧延後かつ巻取機2cに巻き取られる前の帯状鋼材Xの表面温度を測定する。測定装置3は、帯状鋼材Xの表面の全領域(全長全幅)の温度を測定する。
【0029】
算出装置4は、例えばコンピュータから構成される。算出装置4は、例えば帯状鋼材Xを巻き取って形成される端面に凹凸のないコイル(仮想コイル)を円筒形と仮定し、この仮想コイルの放冷状態での温度履歴を極座標系の2次元モデルによって算出する。
【0030】
導出装置5は、巻取機2cで巻き取られたコイルX1を搬送するコンベア5aと、コンベア5a上を搬送されているコイルX1の端面Eを走査し、この端面Eの形状を測定する変位計5bと、変位計5bで測定された形状に基づいてコイルX1の端面Eの凹凸の大きさを導出する導出部5cとを有する。変位計5bは、コイルX1の端面Eの形状をコイルX1の半径に亘って測定し、好ましくは直径に亘って測定する。変位計5bとしては、例えばレーザー変位計が用いられる。変位計5bは、コイルX1の端面Eにレーザー光を照射するレーザー照射部と、端面Eで反射された光線の一部を受光する受光素子とを有する。変位計5bは、上記レーザー照射部から端面Eに照射されたレーザー光の反射光を上記受光素子によって読み取る。変位計5bは、三角測距方式によってコイルX1の端面Eの形状を測定可能に構成される。導出部5cは、例えばコンピュータから構成される。変位計5bと導出部5cとは、一体的に構成されていてもよい。
【0031】
予測装置6は、例えばコンピュータから構成される。予測装置6は、巻取機2cで実際に巻き取られたコイルX1が放冷装置7等で放冷されたと想定した場合のコイルX1の端面Eの凹凸の温度履歴を予測する。
【0032】
放冷装置7は、測定装置3で端面Eの形状を測定された後のコイルX1を放冷する。当該製造設備1では、巻取機2cによる巻き取り後のコイルX1は500℃程度又はそれ以上に加熱されている。放冷装置7は、この加熱されたコイルX1を常温まで空冷する。当該製造設備1は、巻取機2cで巻き取られたコイルX1を放冷するため、コイルX1の端面Eに大きな凸部が存在すると、この凸部の冷却速度が他の部分よりも速くなりやすい。
【0033】
〔帯状鋼材〕
帯状鋼材Xは、スラブを加熱し、熱間圧延することで形成される。帯状鋼材Xは、例えば炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄、クロム、ニッケル、モリブデン及び銅、並びに残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する。帯状鋼材Xに冷間圧延を施す場合、巻取工程S3における巻取温度は、帯状鋼材XのMs(マルテンサイト変態開始温度)以上とすることができる。
【0034】
帯状鋼材Xの下記式(1)で表される炭素当量Ceqの上限としては、0.75%が好ましく、0.70%がより好ましい。帯状鋼材Xの炭素当量Ceqが上記上限を超えると、放冷時の冷却速度が大きい場合にマルテンサイトの相が生成するおそれが高くなる。一方、上記炭素当量Ceqの下限としては、特に限定されないが、例えば0.55%とすることができる。上記炭素当量Ceqが上記下限に満たない場合、概ね巻取工程S3までに変態が完了するため、マルテンサイトの相は生成され難く、後工程でコイルX1にエッジ割れを生じるおそれが低い。そのため、当該熱延鋼板の製造方法は、帯状鋼材Xの炭素当量Ceqが上記下限以上である場合に、好適に用いられる。
Ceq[%]=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14・・・(1)
但し、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]及び[V]は、それぞれC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo及びVの含有量(質量%)を示す。
【0035】
(測定工程)
測定工程S1は、測定装置3によって行う。測定工程S1では、熱間圧延後かつ巻取機2cに巻き取られる前の帯状鋼材Xの表面温度を、帯状鋼材Xの表面の全領域(全長全幅)に亘って測定する。
【0036】
(第1算出工程)
第1算出工程S2は、算出装置4によって行う。第1算出工程S2では、例えば帯状鋼材Xを巻き取って形成される端面に凹凸のないコイル(仮想コイル)を円筒形と仮定し、この仮想コイルの放冷状態での温度履歴を極座標系の2次元モデルによって算出する。第1算出工程S2は、巻取工程S3の前に行ってもよく、巻取工程S3の後に行ってもよい。また、第1算出工程S2を導出工程S4の後に行うことも可能である。
【0037】
図3を参照して、第1算出工程S2による仮想コイルX2の放冷状態での温度履歴の算出手順の一例について説明する。第1算出工程S2では、仮想コイルX2の一方の端面(図3では上端面)を含む仮想平面と仮想コイルX2の中心軸との交点の座標を原点O(0、0)とし、原点Oを基準とする中心軸方向の座標をz[m]、原点Oを基準とする径方向の座標をr[m]とする極座標系の2次元モデルを用いて仮想コイルX2の放冷状態での温度履歴を算出する。第1算出工程S2では、仮想コイルX2の中心軸方向及び半径方向にそれぞれ複数の算出点を設け、各算出点に対して放冷状態での温度履歴を算出する。具体的には、第1算出工程S2では、仮想コイルX2の内部の算出点(外気に露出してない部分の算出点)については下記式(2)、外気に露出している部分の算出点については下記式(3)を用い、巻取り直後を基準とする仮想コイルX2の算出点におけるt時間後の温度をΦ[℃]として、仮想コイルX2の放冷状態での温度履歴を算出する。
【0038】
【数1】
【0039】
【数2】
【0040】
なお、上記式(2)及び上記式(3)において、H:エンタルピー[kcal/kg]、ρ:帯状鋼材の算出点に対応する部分の密度[kg/m]、λ:径方向熱伝導率[kcal/m/hr/℃]、λ:軸方向熱伝導率[kcal/m/hr/℃]、ε:放射率[-]、σ:ステファンボルツマン定数[kcal/m/hr/℃]、F12:形態係数[-]、α:自然対流熱伝達率[kcal/hr/m/℃]、V:帯状鋼材の算出点に対応する部分の体積[m]、A:帯状鋼材の算出点に対応する部分の表面面積[m]を意味する。また、上記式(3)において、qは境界条件である。この境界条件は、仮想コイルX2の内周面については下記式(4)、仮想コイルX2の端面及び外周面については下記式(5)で与えられる。下記式(4)及び下記式(5)において、T:算出点に対応する部分の測定工程S1で測定された表面温度[℃]、T:放冷時の雰囲気温度[℃]を意味する。
【0041】
【数3】
【0042】
【数4】
【0043】
(巻取工程)
巻取工程S3では、測定工程S1で表面温度が測定された後の帯状鋼材Xを高温下で巻取機2cによってコイル状に巻き取る。巻取工程S3における巻取温度は、マルテンサイトの相の生成を防ぐ観点から、帯状鋼材XのMs温度以上であることが好ましい。上記巻取温度の下限としては、400℃が好ましく、500℃がより好ましく、560℃がさらに好ましい。一方、上記巻取温度の上限としては、700℃が好ましく、670℃がより好ましい。上記巻取温度が上記下限に満たないと、帯状鋼材Xの強度が大きくなり過ぎて、冷間圧延工程等の後工程において装置への負荷が大きくなるおそれがある。逆に、上記巻取温度が上記上限を超えると、帯状鋼材X表面のスケール厚みが大きくなるおそれがある。なお、「巻取温度」とは、巻取り直前の帯状鋼材Xの表面温度をいう。
【0044】
(導出工程)
導出工程S4は、導出装置5によって行う。図2及び図4に示すように、導出工程S4では、コンベア5a上を搬送されるコイルX1の端面Eを変位計5bによって走査し、端面Eの凹凸の形状をコイルX1の半径に亘って測定し、好ましくは直径に亘って測定する。さらに、導出工程S4では、導出部5cによって、凹凸の飛び出し方向(コイルX1の中心軸方向)と変位計5bによる走査方向(コイルX1の半径方向)とで規定される2次元座標系を用いて端面Eの凹凸の大きさを求める。当該熱延鋼板の製造方法は、上記2次元座標系を用いて端面Eの凹凸の大きさを求めることで、後述の第1予測工程S5により、コイルX1の端面Eの凹凸の放冷状態での温度履歴を容易かつ正確に予測しやすい。
【0045】
導出工程S4では、変位計5bによる測定値の中央値を基準として端面Eの凹凸の大きさを求めることが好ましい。具体的には、導出工程S4では、変位計5bによってコイルX1の端面Eを半径に亘って連続計測した後、導出部5cによって変位計5bによる計測値の中央値を基準として端面Eの凹凸の大きさを求めることが好ましい。当該熱延鋼板の製造方法は、上記中央値を基準として端面Eの凹凸の大きさを求めることで、コイルX1の外周側及び/又は内周側の端部に巻きずれに起因する大きな突出部分(テレスコープ)が形成されているような場合でも、コイルX1全体の凹凸の大きさを適切に測定することができる。その結果、第1予測工程S5により、コイルX1の端面Eの凹凸の放冷状態での温度履歴を容易かつ正確に予測しやすい。
【0046】
図4及び図5を参照して、導出工程S4によるコイルX1の端面Eの凹凸の大きさの導出手順の一例について説明する。まず、導出工程S4では、コンベア5a上を搬送されるコイルX1の端面Eを変位計5bによって走査し、端面Eの凹凸の形状をコイルX1の半径に亘って測定する。次に、変位計5bによる測定値の中央値を基に端面Eの基準面Rを設定する。続いて、コイルX1の中心軸Zと基準面Rとの交点の座標を原点O(0、0)とし、原点Oを基準とする中心軸方向の座標をz[m]、原点Oを基準とする径方向の座標をr[m]とする極座標系の2次元モデルを用い、端面Eの凹凸の大きさを求める。具体的には、コイルX1を径方向に複数の領域に分割したうえ、領域ごとに凹凸の大きさを平均し、この平均値を2次元座標系に落とし込むことで、この領域の凹凸の大きさとして導出する。この際、コイルX1の径方向における各領域の長さを同じとしないことも可能である。例えはテレスコープに起因する凹凸を反映しやすいよう、径方向において両端に位置する一対の領域の長さを他の領域に対して小さく設定してもよい。また、一定の閾値を設け、この閾値以下の飛び出し量は凹凸に相当しないものとして取り扱うことも可能である。
【0047】
(第1予測工程)
第1予測工程S5は、予測装置6によって行う。第1予測工程S5では、巻取り直後を基準とするコイルX1の端面Eの凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する。第1予測工程S5では、上述の式(2)~(5)を用いて端面Eの凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する。この際、基準面Rについては、上記式(3)の境界条件を上記式(5)によって与える。
【0048】
<利点>
当該熱延鋼板の製造方法は、帯状鋼材Xが巻き取られて形成されたコイルX1の端面Eの凹凸の放冷状態での温度履歴を予測することができる。従って、当該熱延鋼板の製造方法によると、帯状鋼材Xを用いて冷間圧延板を製造する際における鋼材破断の可能性を事前に察知することができる。
【0049】
当該熱延鋼板の温度履歴予測方法は、帯状鋼材Xが巻き取られて形成されたコイルX1の端面Eの凹凸の放冷状態での温度履歴を予測することができる。従って、当該熱延鋼板の温度履歴予測方法によると、帯状鋼材Xを用いて冷間圧延板を製造する際における鋼材破断の可能性を事前に察知することができる。
【0050】
[第二実施形態]
<熱延鋼板の製造方法>
図6の熱延鋼板の製造方法は、熱間圧延された帯状鋼材の表面温度を測定する工程(測定工程S11)と、上記帯状鋼材を端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合の巻取り後における放冷状態での温度履歴を測定工程S11で測定された上記表面温度に基づいて算出する工程(第1算出工程S12)と、測定工程S11後の上記帯状鋼材を実際にコイル状に巻き取る工程(巻取工程S13)と、巻取工程S13で巻き取られたコイルの端面を変位計で走査し、上記端面の凹凸の大きさを上記コイルの半径に亘って導出する工程(導出工程S14)と、第1算出工程S12で算出された温度履歴と導出工程S14で導出された凹凸の大きさとを用いて、上記凹凸の放冷状態での温度履歴を予測する工程(第1予測工程S15)と、第1予測工程S15で予測された温度履歴を用いて相変態率(フェライト・パーライト変態率)を算出する工程(第2算出工程S16)と、第2算出工程S16で算出された相変態率を用いて上記帯状鋼材の硬質化部を予測する工程(第2予測工程S17)とを備える。測定工程S11、第1算出工程S12、巻取工程S13、導出工程S14、第1予測工程S15、第2算出工程S16及び第2予測工程S17は、本発明の一態様に係る熱延鋼板の硬質化部予測方法を構成する。測定工程S11、第1算出工程S12、巻取工程S13及び導出工程S14については、図1の測定工程S1、第1算出工程S2、巻取工程S3及び導出工程S4と同様の手順で行うことができるため、説明を省略する。なお、第1算出工程S12では、後述する第1予測工程S15と同様に、上述の式(2)に代えて下記式(6)を用い、かつ上述の式(3)に代えて下記式(7)を用いて温度履歴を算出してもよい。
【0051】
(第1予測工程)
第1予測工程S15では、後述の第2算出工程S16で算出される各時間の変態発熱量Q[kcal/m/hr]を加算して上記帯状鋼材の温度履歴を求める。具体的には、第1予測工程S15では、上述の式(2)に代えて下記式(6)を用い、かつ上述の式(3)に代えて下記式(7)を用いて温度履歴を予測する。第1予測工程S15は、上述の式(2)に代えて下記式(6)を用い、かつ上述の式(3)に代えて下記式(7)を用いる以外、図1の第1予測工程S5と同様の手順で行うことができる。
【0052】
【数5】
【0053】
【数6】
【0054】
(第2算出工程)
第2算出工程S16は、例えばコンピュータによって行うことができる。第2算出工程16では、γ粒径の影響を含んだ等温変態式から相変態率を算出する。また、第2算出工程S16では、この算出された相変態率に応じた変態発熱量Qを算出する。具体的には、第2算出工程S16では、下記式(8)及び下記式(9)によって相変態率X[-]を算出すると共に、下記式(10)を用いて時間tにおける変態発熱量Q[kcal/m/hr]を算出する。第2算出工程S16で算出された変態発熱量Qは、上述の第1予測工程S15における温度履歴の予測に使用される。また、この変態発熱量Qは、上述の第1算出工程S12における温度履歴の算出に用いられてもよい。
【0055】
【数7】
【0056】
【数8】
【0057】
【数9】
【0058】
なお、上記式(8)から(10)において、S:核生成面積項、K:温度依存項、Qtotal:総変態発熱量[kcal/m/hr]、T:第1算出工程S12又は第1予測工程S15で算出された算出点の温度[℃]を意味する。また、上記式(8)から(10)におけるa、b、c、m、nは、鋼材の品種毎に調整される定数を意味する。これらの定数は、例えば粗圧延後の熱延クロップを用いてTTT線図を作成し、計算値が実験値と適合するように調整して決定することができる。但し、変態速度はオーステナイト粒径等の変態前組織の状態に影響されるため、熱間圧延条件によって変化する。そのため、cの値は、熱間圧延条件ごとに調整される。
【0059】
(第2予測工程)
第2予測工程S17は、例えばコンピュータによって行うことができる。第2予測工程S17では、第2算出工程S16で算出された相変態率を用いて巻取工程S13で巻き取られたコイルの端面の硬質化部を予測する。第2予測工程S17では、例えば相変態率と硬度との関係を予め求めておき、算出された相変態率から硬質化部を予測する。第2予測工程S17では、例えば冷間圧延工程等の後工程において鋼材に破断が生じ得る硬度の閾値を予め設定しておき、この閾値と算出された相変態率とを比較することで、後工程における鋼材の破断の有無を予測してもよい。また、第2予測工程S17では、冷間圧延工程等の後工程において鋼材に破断が生じ得る相変態率の閾値を予め設定しておき、算出された値をこの閾値とを比較することで鋼材の破断の有無を予測してもよい。
【0060】
<利点>
当該熱延鋼板の製造方法は、第2算出工程S16で算出された相変態率を用いて後工程における鋼材の破断の有無を予測することができる。当該熱延鋼板の製造方法によると、後工程で破断の原因となる硬質化部を予め切除することで、通板時における鋼材の破断のリスクを低減することができる。
【0061】
当該熱延鋼板の硬質化部予測方法は、第2算出工程S16で算出された相変態率を用いて後工程における鋼材の破断の有無を予測することができる。
【0062】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0063】
例えば上記導出工程では、上記コイルの端面の凹凸の平均値、最頻値等を基にこの端面の凹凸の大きさを求めることも可能である。但し、上述のように、上記導出工程では、テレスコープ等の大きな突出部分が存在する場合でも、上記コイルの全体の凹凸の大きさを適切に測定することができる観点から、測定値の中央値を基準として上記コイルの端面の凹凸の大きさを求めることが好ましい。
【0064】
上記導出工程では、コイルの端面の凹凸の飛び出し方向と変位計による走査方向とで規定される2次元座標系を用いて上記凹凸の大きさを求めなくてもよい。例えば上記導出工程では、変位計による測定結果をそのままコイルの端面の凹凸の大きさとして導出してもよい。
【実施例
【0065】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
[No.1]
図2に示す製造設備1を用いて熱延鋼板を製造した。まず、非接触温度センサ3a(FLIR社製のサーモグラフィ「CPA-SC7100」)を用い、熱間圧延後かつ巻取機2cに巻き取られる前の帯状鋼材Xの表面温度を帯状鋼材Xの表面の全領域(全長全幅)に亘って測定した(測定工程)。次に、この帯状鋼材Xを端面に凹凸のないコイル状に巻き取ったと仮定した場合のコイル(仮想コイル)の放冷状態での温度履歴を、上記式(2)~(5)を用いて算出した(第1算出工程)。この第1算出工程では、仮想コイルの中心軸方向に10個、半径方向に50個(合計:10×50個)の算出点を設けたうえ、各算出点に対して放冷状態での温度履歴を算出した。上記仮想コイルにおける中心軸から半径方向に410mm離れた上端面の巻取り直後を基準とする放冷状態での温度履歴を図7に示す。
【0067】
続いて、帯状鋼材Xを巻取機2cで実際に巻き取った(巻取工程)。次に、巻き取られたコイルX1の端面Eを直径に亘って変位計5b(KEYENCE社製のレーザー変位計「IL-2000」)で走査し、コイルX1の端面Eの凹凸の形状を測定した。さらに、変位計5bによる測定値の中央値を基に端面Eの基準面を設定したうえ、凹凸の飛び出し方向と変位計5bによる走査方向とで規定される2次元座標系を用いて端面Eの凹凸の大きさを導出部5cにより導出した(導出工程)。なお、コイルX1の端面Eの凹凸は、変位計5b側に突出している場合をプラス、コンベア5a側に凹んでいる場合をマイナスとした。この導出工程では、コイルX1を半径方向に13の領域に分割し、領域ごとに凹凸の大きさを平均し、この平均値を2次元座標系に落とし込み、この領域の凹凸の大きさとして導出した。この導出工程では、テレスコープに起因する凹凸を反映しやすいよう、径方向において両端に位置する一対の領域の長さを他の領域の長さに対して小さく設定した。具体的には、径方向両端に位置する領域の長さを他の領域の長さの1/2に設定した。また、凹凸の閾値を10mmに設定し、各領域の凹凸の平均値について10mm未満の値は切り捨てた。この導出工程における変位計5bによるコイルX1の端面Eの凹凸の形状の測定結果及び導出部5cによるコイルX1の端面Eの凹凸の大きさの導出結果を図8に示す。
【0068】
続いて、導出工程で導出されたコイルX1の端面Eの凹凸部分について、巻取り直後を基準とする放冷状態での温度履歴を、上記第1算出工程による算出結果と上記式(2)~(5)とを用いて予測した(第1予測工程)。中心軸から半径方向に410mm離れた位置におけるコイルX1の端面Eの第1予測工程による予測結果を図9に示す。また、図9に、第1予測工程で予測した位置に対応するコイルX1の端面Eの巻取り直後から23分後の温度の実測値を示す。
【0069】
[No.2]
No.1と同様の製造設備1を用い、No.1と同様にして、測定工程、第1算出工程、巻取工程、導出工程及び第1予測工程を行った。上記仮想コイルにおける中心軸から半径方向に410mm離れた上端面の巻取り直後を基準とする放冷状態での温度履歴を図10に示す。また、上記導出工程における変位計5bによるコイルX1の端面Eの凹凸の形状の測定結果及び導出部5cによるコイルX1の端面Eの凹凸の大きさの導出結果を図11に示す。さらに、中心軸から半径方向に410mm離れた位置におけるコイルX1の端面Eの第1予測工程による予測結果、及び第1予測工程で予測した位置に対応するコイルX1の端面Eの巻取り直後から24分後の温度の実測値を図12に示す。
【0070】
図7から図12に示すように、上記導出工程によって凹凸ありと判定されたNo.1及び凹凸なしと判定されたNo.2共に、上記第1予測工程による予測結果と実測値とが略一致している。このことから、No.1及びNo.2共に、コイルX1の端面Eの凹凸の温度履歴を十分正確に予測できていることが分かる。
【0071】
[No.3]
No.1と同様の製造装置1を用い、測定工程、第1算出工程、巻取工程、導出工程及び第1予測工程を行った。また、No.3では、上述の式(8)及び式(9)を用いてコイルの端面の相変態率を算出すると共に、上述の式(10)を用いて変態発熱量を算出した(第2算出工程)。No.3では、第1算出工程及び第1予測工程で、上述の式(6)及び式(7)を用いて温度履歴を予測した。さらに、No.3では、第2算出工程で相変態率を算出した位置(算出点)のビッカース硬度[Hv]を実測した。No.3で算出された相変態率及びNo.3で測定されたビッカース硬度を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、相変態率の小さい算出点Aは、相変態率の大きい算出点B及びCよりもビッカース硬度が大きくなっている。このことから、相変態率は、コイルの硬度と相関していることが分かる。そのため、第2算出工程によって相変態率を算出することで、コイルの硬質化部を予測できる。また、冷間圧延工程等の後工程において鋼材の破断が生じ得る硬度又は相変態率の閾値を予め設定しておき、この閾値と算出された相変態率とを比較することで、後工程において鋼材に破断が生じるか否かを予測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明の一態様に係る熱延鋼板の製造方法は、冷間圧延板の製造時等における鋼材の破断の可能性を事前に察知するのに適している。
【符号の説明】
【0075】
1 熱延鋼板の製造設備
2 熱間圧延装置
2a 圧延ロール
2b 搬送部
2c 巻取機
3 測定装置
3a 非接触温度センサ
4 算出装置
5 導出装置
5a コンベア
5b 変位計
5c 導出部
6 予測装置
7 放冷装置
X 帯状鋼材
X1 コイル
X2 仮想コイル
E 端面
O 原点
R コイルの端面の基準面
Z コイルの中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12