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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】信号発生器および任意波形発生方法
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/66 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
H03M1/66 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021079304
(22)【出願日】2021-05-07
(65)【公開番号】P2022172940
(43)【公開日】2022-11-17
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】浅見 幸司
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0052556(US,A1)
【文献】特開2018-78403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ出力信号を生成する信号発生器であって、
それぞれが、入力データをサンプリング周波数FでD/A変換する複数N個(N≧2)のD/Aコンバータと、
N個のサブバンド波形データを生成し、前記N個のD/Aコンバータに供給するデジタル信号処理部であって、前記N個のサブバンド波形データはそれぞれ、前記アナログ出力信号を表すデジタル波形データを周波数領域においてN分割したうちの対応するひとつであるサブバンドを、最大周波数がF/2より低い周波数帯域にシフトされた態様で含んでいる、デジタル信号処理部と、
前記N個のD/Aコンバータと対応するN個の第1フィルタであって、それぞれが、前記N個のD/Aコンバータのうち対応するひとつの出力信号をフィルタリングする、前記N個の第1フィルタと、
前記N個のサブバンドと対応するN個のローカル信号を生成するローカル信号生成回路であって、前記N個のローカル信号はそれぞれ、前記N個のサブバンドのうち対応するひとつの中心周波数と前記N個のサブバンド波形データの中心周波数の差分に相当する周波数を有する、ローカル信号生成回路と、
前記N個の第1フィルタと対応するN個のアナログ周波数ミキサーであって、それぞれが、前記N個の第1フィルタのうち対応するひとつの出力信号を、前記N個のローカル信号のうち対応するひとつと周波数混合する、N個のアナログ周波数ミキサーと、
前記N個のアナログ周波数ミキサーと対応するN個の第2フィルタであって、それぞれが、前記N個のアナログ周波数ミキサーのうち対応するひとつの出力信号をフィルタリングする、N個の第2フィルタと、
前記N個の第2フィルタの出力信号を合成する合成器と、
を備えることを特徴とする信号発生器。
【請求項2】
N≧3であり、M,LをL>Mである任意の整数とするとき、前記N個のサブバンドのうち隣接する2つの中心周波数の差は、F・M/Lであることを特徴とする請求項1に記載の信号発生器。
【請求項3】
L/Mは整数であることを特徴とする請求項2に記載の信号発生器。
【請求項4】
前記N個のローカル信号は、周波数F/N,2F/N,…N・F/Nを有することを特徴とする請求項3に記載の信号発生器。
【請求項5】
前記ローカル信号生成回路は、前記N個のローカル信号の位相が揃うタイミングを示す同期信号をさらに生成することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の信号発生器。
【請求項6】
前記デジタル信号処理部は、前記同期信号をトリガーとして、前記N個のサブバンド波形データの出力を開始することを特徴とする請求項5に記載の信号発生器。
【請求項7】
前記ローカル信号生成回路は、共通のクロック信号を異なる分周比で分周し、前記N個のローカル信号を生成する分周回路を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の信号発生器。
【請求項8】
前記デジタル信号処理部は、前記N個のD/Aコンバータより後段の複数の経路のミスマッチを補正することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の信号発生器。
【請求項9】
前記デジタル信号処理部は、前記複数の経路の間のスキューを補正することを特徴とする請求項8に記載の信号発生器。
【請求項10】
前記デジタル信号処理部は、前記複数の経路の間の周波数特性のミスマッチを補正することを特徴とする請求項8または9に記載の信号発生器。
【請求項11】
アナログ出力信号の生成方法であって、
サンプリング周波数Fで動作する複数N個(N≧2)のD/Aコンバータを設けるステップと、
複数N個のサブバンド波形データを生成するステップであって、前記N個のサブバンド波形データはそれぞれ、前記アナログ出力信号を表すデジタル波形データを周波数領域においてN分割したN個のサブバンドのうち対応するひとつを、前記サンプリング周波数Fが中心となるように周波数オフセットした態様で含んでいる、ステップと、
前記N個のD/AコンバータがN個の第1信号を生成するステップであって、前記N個のD/Aコンバータはそれぞれ、前記N個のサブバンド波形データのうち対応するひとつをD/A変換するステップと、
前記N個の第1信号をフィルタリングし、N個の第2信号を生成するステップと、
前記N個のサブバンドと対応するN個のローカル信号を生成するステップであって、前記N個のローカル信号はそれぞれ、前記N個のサブバンドのうち対応するひとつの中心周波数と前記N個のサブバンド波形データの中心周波数の差分に相当する周波数を有する、ステップと、
前記N個の第2信号それぞれを、前記N個のローカル信号のうち対応するひとつと周波数混合し、N個の第3信号を生成するステップと、
前記N個の第3信号をフィルタリングし、N個の第4信号を生成するステップと、
前記N個の第4信号を合成し、前記アナログ出力信号を生成するステップと、
を備えることを特徴とする任意波形発生方法。
【請求項12】
前記N個のローカル信号の位相が揃うタイミングを示す同期信号を生成するステップをさらに備え、
前記N個のD/Aコンバータは、前記同期信号をトリガーとして、前記N個の第1信号の生成を開始することを特徴とする請求項11に記載の任意波形発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
普及し始めた第5世代(5G)の移動通信システムや将来の第6世代(6G)の移動通信システム、第6世代のWiFi(登録商標)規格(IEEE 802.11ax)などにおいて、電子回路が扱う信号の周波数が高速化の一途をたどっており、その基幹技術として、高速な任意波形発生器(信号発生器)が必要とされている。
【0003】
高速な任意波形発生器には、広帯域なD/Aコンバータが必要である。複数のD/Aコンバータを組み合わせることにより、単体のD/Aコンバータに比べて信号帯域幅を拡張する時間インタリーブ方式が知られている。
【0004】
図1は、2チャンネルの時間インタリーブD/Aコンバータ10Rのブロック図である。D/Aコンバータ10Rは、2個のD/Aコンバータ12,14、加算器16、ローパスフィルタ18を備える。元の波形データは、サンプリング周期T(サンプリング周波数F=1/T)でサンプリングされている。元の波形データは、サンプリング周波数2×Fにアップサンプリングされ、奇数番目のサンプル群からなる第1波形データWD1と、偶数番目のサンプル群からなる第2波形データWD2が、2系統に分岐して出力される。
【0005】
第1波形データWD1と第2波形データWD2は、2つのD/Aコンバータ12,14によってアナログ信号に変換される。D/Aコンバータはその原理上、ゼロ次ホールド特性によって帯域幅が制限される。ゼロ次ホールドによる帯域制限を改善するために、ホールド時間は、サンプリング周期Tより短いT/2に短縮される。これにより、D/Aコンバータ12,14の出力は、RZ(Return to Zero)波形となる。D/Aコンバータ12,14には、逆相のサンプリングクロックCLK1,CLK2が入力される。
【0006】
加算器16によって2つのD/Aコンバータ12,14が出力するアナログRZ波形RZ1,RZ2を加算し、ローパスフィルタ18によって高周波成分を除去することにより、サンプリング周期T/2(サンプリング周波数2×F)でサンプリングされた広帯域な波形を生成できる。
【0007】
特許文献1には、時間インタリーブを利用した波形発生器が開示される。特許文献1では、RZ波形の代わりに、DC成分(0次)と高調波(たとえば1次高調波)を含むアナログ/デジタルの高調波信号と、DC成分(0次)と位相反転された高調波(たとえば1次高調波)を含むアナログ/デジタルの高調波信号を用いる時間インタリーブ技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-187693号公報
【文献】特表2013-507043号公報
【文献】特開2001-016117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1に示す時間インタリーブ方式は、ゼロ次ホールド時間をT/2としてRZ波形を生成する必要があるため、波形歪みを引き起こす。また信号振幅が低下すること、チャンネル間のミスマッチ特性の補正が難しいという問題がある。
【0010】
本開示は係る状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、時間インタリーブ方式とは異なる方式によって、高速なアナログ任意波形信号を生成可能な信号発生器の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のある態様は、アナログ出力信号を生成する信号発生器に関する。信号発生器は、それぞれが、入力データをサンプリング周波数FでD/A変換する複数N個(N≧2)のD/Aコンバータと、N個のサブバンド波形データを生成し、N個のD/Aコンバータに供給するデジタル信号処理部と、N個のD/Aコンバータと対応するN個の第1フィルタと、N個のサブバンドと対応するN個のローカル信号を生成するローカル信号生成回路と、N個の第1フィルタと対応するN個のアナログ周波数ミキサーと、N個のアナログ周波数ミキサーと対応するN個の第2フィルタと、N個の第2フィルタの出力信号を合成する合成器と、を備える。N個のサブバンド波形データはそれぞれ、アナログ出力信号を表すデジタル波形データを周波数領域においてN分割したうちの対応するひとつであるサブバンドを、最大周波数がF/2より低い周波数帯域にシフトされた態様で含んでいる。N個のD/Aコンバータはそれぞれ、N個のサブバンド波形データのうち対応するひとつを、サンプリング周波数FでD/A変換する。N個の第1フィルタはそれぞれ、N個のD/Aコンバータのうち対応するひとつの出力信号をフィルタリングする。ローカル信号生成回路が生成するN個のローカル信号はそれぞれ、N個のサブバンドのうち対応するひとつの中心周波数とN個のサブバンド波形データの中心周波数の差分に相当する周波数を有している。N個のアナログ周波数ミキサーはそれぞれ、N個の第1フィルタのうち対応するひとつの出力信号を、N個のローカル信号のうち対応するひとつと周波数混合する。N個の第2フィルタはそれぞれ、N個のアナログ周波数ミキサーのうち対応するひとつの出力信号をフィルタリングする。
【0012】
本開示の別の態様は、アナログ出力信号の生成方法に関する。この生成方法は、以下の処理を含む。
・サンプリング周波数Fで動作する複数N個(N≧2)のD/Aコンバータを設ける。
・複数N個のサブバンド波形データを生成する。N個のサブバンド波形データはそれぞれ、アナログ出力信号を表すデジタル波形データを周波数領域においてN分割したN個のサブバンドのうち対応するひとつを、最大周波数がF/2より低い周波数帯域にシフトされた態様で含む。
・N個のD/AコンバータがN個の第1信号を生成する。
・N個のD/Aコンバータはそれぞれ、N個のサブバンド波形データのうち対応するひとつをD/A変換する。
・N個の第1信号をフィルタリングし、N個の第2信号を生成する。
・N個のサブバンドと対応するN個のローカル信号を生成する。N個のローカル信号はそれぞれ、N個のサブバンドのうち対応するひとつの中心周波数とN個のサブバンド波形データの中心周波数の差分に相当する周波数を有している。
・N個の第2信号それぞれを、N個のローカル信号のうち対応するひとつと周波数混合し、N個の第3信号を生成する。
・N個の第3信号をフィルタリングし、N個の第4信号を生成する。
・N個の第4信号を合成し、アナログ出力信号を生成する。
【0013】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本開示のある態様によれば、時間インタリーブとは異なる手法によって、高速な任意波形を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】2チャンネルの時間インタリーブD/Aコンバータのブロック図である。
図2】実施形態に係る信号発生器のブロック図である。
図3図3(a)~(c)は、信号発生器のデジタル領域の処理を説明する図である。
図4図4(a)~(d)は、信号発生器のアナログ領域の処理を説明する図である。
図5】4チャンネルの信号発生器を示す図である。
図6図5の信号発生器の動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0017】
この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素または重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。その唯一の目的は、後で提示するより詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0018】
一実施形態に係る信号発生器は、アナログ出力信号を生成する。信号発生器は、デジタル信号処理部、複数N個(N≧2)のD/Aコンバータ、N個の第1フィルタ、ローカル信号生成回路、N個のアナログ周波数ミキサー、N個の第2フィルタ、合成器を備える。
デジタル信号処理部は、N個のサブバンド波形データを生成する。N個のサブバンド波形データはそれぞれ、アナログ出力信号を表すデジタル波形データを周波数領域においてN分割したうちの対応するひとつであるサブバンドを、サンプリング周波数Fが中心となるように周波数オフセットした態様で含んでいる。N個のD/Aコンバータは、N個のサブバンド波形データと対応しており、N個のD/Aコンバータはそれぞれ、N個のサブバンド波形データのうち対応するひとつを、サンプリング周波数FでD/A変換する。N個の第1フィルタは、N個のD/Aコンバータと対応しており、N個の第1フィルタはそれぞれ、N個のD/Aコンバータのうち対応するひとつの出力信号をフィルタリングする。ローカル信号生成回路は、N個のサブバンドと対応するN個のローカル信号を生成する。N個のローカル信号はそれぞれ、N個のサブバンドのうち対応するひとつの中心周波数とN個のサブバンド波形データの中心周波数の差分に相当する周波数を有する。N個のアナログ周波数ミキサーはN個の第1フィルタと対応しており、N個のアナログ周波数ミキサーはそれぞれ、N個の第1フィルタのうち対応するひとつの出力信号を、N個のローカル信号のうち対応するひとつと周波数混合する。N個の第2フィルタは、N個のアナログ周波数ミキサーと対応しており、N個の第2フィルタはそれぞれ、N個のアナログ周波数ミキサーのうち対応するひとつの出力信号をフィルタリングする。合成器は、N個の第2フィルタの出力信号を合成する。
【0019】
この構成によると、従来の時間インタリーブとは異なる手法(本明細書において、周波数インタリーブと称する)によって、高速な任意波形を生成できる。この周波数インタリーブでは、最終的なアナログ出力信号の周波数よりも低速で、かつ同じ速度で動作するN個のD/Aコンバータを用意すればよいため、従来の時間インタリーブの手法よりも、D/Aコンバータに要求される性能を下げることができる。
【0020】
一実施形態において、N≧3であり、M,LをL>Mである任意の整数とするとき、N個のサブバンドのうち隣接する2つの中心周波数の差は、F・M/Lであってもよい。これにより、N個のサブバンドの帯域幅を等しくすることができる。その結果、D/Aコンバータより後段において、複数のチャンネルを同様に構成することができる。
【0021】
一実施形態において、L/Mは整数であってもよい。L/M=Nであってもよい。
【0022】
一実施形態において、N≧3であり、N個のローカル信号は、周波数F/N,2F/N,…N・F/Nを有してもよい。N個のローカル信号を、F/Nの整数倍とすることで、複数のローカル信号の生成が容易となる。
【0023】
一実施形態において、ローカル信号生成回路は、N個のローカル信号の位相が揃うタイミングを示す同期信号をさらに生成してもよい。
【0024】
一実施形態において、デジタル信号処理部は、同期信号をトリガーとして、N個のサブバンド波形データの出力を開始してもよい。これにより、アナログ出力信号の精度を高めることができる。
【0025】
一実施形態において、ローカル信号生成回路は、共通のクロック信号を異なる分周比で分周し、N個のローカル信号を生成する分周回路を含んでもよい。分周器を利用することで、位相同期したN個のローカル信号を生成できる。
【0026】
一実施形態において、N個の第1フィルタは、カットオフ周波数が等しいローパスフィルタであってもよい。
【0027】
一実施形態において、N個の第2フィルタは、通過周波数帯域が異なるバンドパスフィルタであってもよい。
【0028】
一実施形態において、デジタル信号処理部は、N個のD/Aコンバータより後段の複数の経路のミスマッチを補正してもよい。
【0029】
一実施形態において、デジタル信号処理部は、複数の経路の間のスキューを補正してもよい。
【0030】
一実施形態において、デジタル信号処理部は、複数の経路の間の周波数特性のミスマッチを補正してもよい。各経路の周波数特性は、第1フィルタの周波数特性、アナログ周波数ミキサーの周波数特性、第2フィルタの周波数特性およびそれらを接続する伝送路の周波数特性を含みうる。つまりデジタル信号処理部は、第1フィルタの周波数特性のチャンネル間のミスマッチ、アナログ周波数ミキサーの周波数特性のチャンネル間のミスマッチ、第2フィルタの周波数特性のチャンネル間のミスマッチの少なくともひとつを補正してもよい。
【0031】
(実施形態)
図2は、実施形態に係る信号発生器100のブロック図である。信号発生器100は、アナログ出力信号Aoutを表すデジタル波形データDwavを受け、アナログ出力信号Aoutを生成する任意波形発生器である。アナログ出力信号Aoutの周波数は特に限定されないが、数百MHz以上、たとえばGHzのオーダーであってもよい。
【0032】
信号発生器100は、デジタル信号処理部110、複数N個(N≧2)のD/Aコンバータ120、N個の第1フィルタ130_1~130_N、ローカル信号生成回路140、N個のアナログ周波数ミキサー150_1~150_N、N個の第2フィルタ160_1~160_N、合成器170を備える。Nをチャンネル数と称する。
【0033】
D/Aコンバータ120_1~120_Nのサンプリング周波数はFである。本実施形態において、デジタル波形データDwavの最大周波数は、D/Aコンバータ120のナイキスト周波数F/2を超えている。
【0034】
デジタル信号処理部110は、N個のサブバンド波形データDsb~Dsbを生成する。N個のサブバンド波形データDsb~Dsbはそれぞれ、デジタル波形データDwavを周波数領域においてN分割したN個のサブバンドSB~SBのうち対応するひとつを、最大周波数がF/2(つまりD/Aコンバータ120のナイキスト周波数)より低い周波数帯域にシフト(周波数ダウンコンバージョン)された態様で含んでいる。
【0035】
デジタル信号処理部110は、帯域分割部112および周波数シフト部114を含む。帯域分割部112は、デジタル波形データDwavを、周波数領域においてN分割することにより、N個のサブバンドSB~SBに分割する。N個のサブバンドSB~SBの中心周波数をそれぞれ、F~Fとする。
【0036】
周波数シフト部114は、N個のサブバンドSB~SBそれぞれを、最大周波数がF/2より低い周波数帯域にシフトし、N個のサブバンド波形データDsb~Dsbを生成する。シフト後の中心周波数を、ベースバンド周波数FBBと表記する。
【0037】
デジタル信号処理部110の処理は、時間領域で行ってもよい。この場合、帯域分割部112は、複数のデジタルフィルタで構成することができ、周波数シフト部114はデジタルの周波数ミキサーで構成すればよい。
【0038】
もしくはデジタル信号処理部110の処理は、周波数領域で行ってもよい。この場合、帯域分割部112は、デジタル波形データDwavをスペクトルデータに変換し、スペクトルデータをN個のサブバンドに分割してもよい。周波数シフト部114は、N個のサブバンドSB~SBのスペクトルを、周波数軸上でシフトすればよい。
【0039】
デジタル信号処理部110は、DSP(Digital Signal Processor)で実装してもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのデジタルのハードウェアで実装してもよい。あるいはデジタル信号処理部110は、CPU(Central Processing Unit)やマイコンなどのプロセッサと、ソフトウェアプログラムの組み合わせで実装してもよい。
【0040】
N個のD/Aコンバータ120_1~120_Nは、N個のサブバンド波形データDsb~Dsbと対応する。i番目のD/Aコンバータ120_i(1≦i≦N)は、N個のサブバンド波形データDsb~Dsbのうち対応するひとつDsbを、サンプリング周波数FでD/A変換し、第1信号A1を生成する。
【0041】
N個の第1フィルタ130_1~130_Nは、N個のD/Aコンバータ120_1~120_Nと対応する。i番目の第1フィルタ130_iは、N個のD/Aコンバータ120_1~120_Nのうち対応するひとつ120_iの出力信号(第1信号)A1をフィルタリングし、第2信号A2を生成する。N個の第1フィルタ130_1~130_Nは、カットオフ周波数が等しいアナログのローパスフィルタで構成することができる。
【0042】
ローカル信号生成回路140は、N個のサブバンドSB~SBと対応するN個のローカル信号LOC~LOCを生成する。i番目のローカル信号LOCは、N個のサブバンドSB~SBのうち対応するひとつSBの中心周波数FとN個のサブバンド波形データDsb~Dsbの中心周波数(ベースバンド周波数)FBBの差分に相当する周波数(ローカル周波数)f=F-FBBを有する。ローカル周波数f~fは、サンプリング周波数Fを超えていて構わない。
【0043】
N個のアナログ周波数ミキサー150_1~150_Nは、N個の第1フィルタ130_1~130_Nと対応する。i番目のアナログ周波数ミキサー150_iは、N個の第1フィルタ130_1~130_Nのうち対応するひとつ130_iの出力である第2信号A2を、N個のローカル信号LOC~LOCのうち対応するひとつLOCと周波数混合し、第3信号A3を生成する。i番目のアナログ周波数ミキサー150_iにより、第1フィルタ130_iの出力である第2信号A2は周波数アップコンバートされる。アップコンバート後の第3信号A3の周波数は、F+f=F+(F-F)=Fとなり、これはもとのサブバンドSBの周波数Fと一致する。
【0044】
N個の第2フィルタ160_1~160_Nは、N個のアナログ周波数ミキサー150_1~150_Nと対応する。i番目の第2フィルタ160_iは、N個のアナログ周波数ミキサー150_1~150_Nのうち対応するひとつ150_iの出力信号A3をフィルタリングし、不要なイメージ成分を除去することにより、第4信号A4を生成する。第2フィルタ160_1~160_Nは、通過周波数帯域が異なるバンドパスフィルタで構成することができる。
【0045】
合成器170は、N個の第2フィルタ160_1~160_Nが生成する第4信号A4~A4を合成する。合成器170は、第4信号A4~A4を加算するアナログ加算器で構成してもよいし、第4信号A4~A4を合波する合波器で構成してもよい。
【0046】
以上が信号発生器100の構成である。続いてその動作を、デジタル領域すなわちデジタル信号処理部110と、アナログ領域(第1フィルタ130~合成器170)の処理に分けて説明する。
【0047】
図3(a)~(c)は、信号発生器100のデジタル領域の処理を説明する図である。図3(a)は、アナログ出力信号Aoutを表すデジタル波形データDwavのスペクトルを示す。図3(b)は、デジタル波形データDwavのスペクトルをN個に分割したサブバンドSB~SBを示す。サブバンドSB~SBの中心周波数はそれぞれ、F~Fである。図3(c)は、N個のサブバンド波形データDsb~Dsbのスペクトルを示す図である。N個のサブバンド波形データDsb~Dsbの中心周波数は等しくFBBである。
【0048】
図4(a)~(d)は、信号発生器100のアナログ領域の処理を説明する図である。図4(a)は、N個のサブバンド波形データDsb~DsbをD/A変換し、ローパスフィルタを通して得られる第2信号A2~A2のスペクトルを示す。
【0049】
図4(b)は、第2信号A2~A2を周波数アップコンバージョンして得られる第3信号A3~A3のスペクトルを示す。第3信号A3~A3は、周波数ミキシングにともなうイメージ成分を含んでいる。イメージ成分を第2フィルタ160によって除去することにより、図4(c)に示す第4信号A4~A4が得られる。図4(d)には、第4信号A4~A4を合成して得られるアナログ出力信号Aoutのスペクトルが得られる。
【0050】
以上が信号発生器100の基本動作である。
【0051】
この信号発生器100によれば、周波数インタリーブによって、高速な任意波形を生成できる。この周波数インタリーブでは、最終的なアナログ出力信号の周波数よりも低速で、かつ同じ速度で動作するN個のD/Aコンバータを用意すればよいため、従来の時間インタリーブの手法よりも、D/Aコンバータに要求される性能を下げることができる。
【0052】
図2に戻る。デジタル信号処理部110は、ミスマッチ補正部116をさらに含みうる。ミスマッチ補正部116は、主としてD/Aコンバータを含むアナログ領域における複数の経路(チャンネル)間のミスマッチを補正する。
【0053】
たとえばミスマッチ補正部116は、複数の経路のスキューを補正してもよい。ここでのスキューは典型的には伝搬遅延と解しうるが、それに限定されない。複数の経路が、異なるスキューを有する場合、ミスマッチ補正部116は、チャンネルごとにスキューのミスマッチを考慮して、複数のサブバンド波形データDsb~Dsbを補正する(プレディストーション)。補正は、具体的には時間軸上のオフセットである。
【0054】
ミスマッチ補正部116は、複数の経路(チャンネル)の間の周波数特性のミスマッチを補正してもよい。各経路の周波数特性は、第1フィルタ130の周波数特性、アナログ周波数ミキサー150の周波数特性、第2フィルタ160の周波数特性およびそれらを接続する伝送路の周波数特性で決まる。つまりミスマッチ補正部116は、第1フィルタ130の周波数特性のチャンネル間のミスマッチ、アナログ周波数ミキサー150の周波数特性のチャンネル間のミスマッチ、第2フィルタ160の周波数特性のチャンネル間のミスマッチの少なくともひとつを補正してもよい。補正は、各経路のトータルの周波数特性に対して行ってもよい。あるいは、第1フィルタのチャンネル間のミスマッチ、第2フィルタのチャンネル間のミスマッチ、アナログ周波数ミキサーのチャンネル間のミスマッチを個別に補正することにより、トータルの周波数特性のチャンネル間のミスマッチを補正してもよい。
【0055】
周波数特性は、ゲイン、位相の一方、もしくは両方を含みうる。たとえばあるチャンネルのゲインが他のチャンネルに比べて大きい(小さい)場合、そのチャンネルのサブバンド波形データDsbの信号レベルを小さく(大きく)してもよい。
【0056】
デジタル信号処理部110における補正は、チャンネル間のミスマッチに限定されない。たとえばチャンネル間のミスマッチが無視できる状況において、デジタル領域でのプレ補正によって、全チャンネルの周波数特性を均一に補正してもよい。
【0057】
続いて、信号発生器100の具体例を説明する。
【0058】
図5は、4チャンネル(N=4)の信号発生器100Aを示す図である。この実施例において、4個(=N)のサブバンドSB~SBのうち隣接する2つの中心周波数は、F/4(=F/N)、異なっている。
【0059】
またローカル信号LOC~LOCの周波数はそれぞれ、F/4,2F/4,3F/4,4F/4である。つまり、ローカル信号LOC~LOCの周波数の差分は、等しくF/4となっている。チャンネル数をNに一般化した場合、N個のローカル信号LOC~LOCの周波数差は、F/Nとすればよい。
【0060】
なお、複数のサブバンドSB~SBのうち隣接する2つの中心周波数の差は、F・M/Lであってもよい。M,Lは、L>Mである任意の整数であり、M/Lは整数に限定されず、有理数であればよい。これにより、N個のサブバンドの帯域幅を等しくすることができる。その結果、D/Aコンバータより後段において、複数のチャンネルを同様に構成することができる。
【0061】
L/MはNとは異なる整数であってもよい。
【0062】
この実施例において、ローカル信号生成回路140は、分周器142を含む。分周器142は、F以上の周波数(K×F、Kは1以上の係数)を有するマスタークロックMCLKを受け、マスタークロックMCLKを異なる分周比(4×K,4/2×K,4/3×K,4/4×K)で分周することにより、周波数が、F/4,2F/4,3F/4,4F/4であるローカル信号LOC~LOCを生成する。たとえばK=4である。
【0063】
デジタル信号処理部110には、波形出力開始のトリガーとなるスタート信号STARTが入力される。デジタル信号処理部110は、スタート信号STARTがアサート(たとえばハイ)された後、複数のローカル信号LOC1~LOCNの位相が揃うタイミングを待って、N個のサブバンド波形データDsb~Dsbの出力を開始する。
【0064】
ローカル信号生成回路140は、N個のローカル信号LOC~LOCの位相が揃うタイミングを示す同期信号SYNCをさらに生成する。同期信号SYNCは、デジタル信号処理部110に入力される。
【0065】
デジタル信号処理部110は、スタート信号STARTのアサート後、その次の同期信号SYNCが発生すると、複数のサブバンド波形データDsb~DsbをD/Aコンバータ120_1~120_4に供給し、波形再生をスタートする。
【0066】
複数の第1フィルタ130_1~130_Nは、カットオフ周波数が等しいローパスフィルタである。
【0067】
複数の第2フィルタ160_1~160_4は、通過周波数帯域が異なるバンドパスフィルタである。具体的には、第2フィルタ160_iの通過周波数帯域は、もとのデジタル波形データDwavのサブバンドSBを通過できるように構成される。
【0068】
図6は、図5の信号発生器100Aの動作波形図である。時刻t,t…は、複数のローカル信号LOC~LOCの位相が揃うタイミングを示しており、そのタイミングで同期信号SYNCが繰り返しアサートされる。
【0069】
時刻tに、スタート信号STARTがアサートされる。デジタル信号処理部110は、直ちに複数のサブバンド波形データDsb~Dsbの出力を開始せず、その次の、同期信号SYNCのアサート(時刻t)を待って、出力を開始する。
【0070】
以上が図5の信号発生器100Aの動作である。この信号発生器100Aによれば、複数のローカル信号LOC1~LOC4の位相が揃った状態で、波形再生を開始することが可能となり、アナログ出力信号Aoutの精度を高めることができる。
【0071】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を離脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
100 信号発生器
110 デジタル信号処理部
112 帯域分割部
114 周波数シフト部
120 D/Aコンバータ
130 第1フィルタ
140 ローカル信号生成回路
150 アナログ周波数ミキサー
160 第2フィルタ
170 合成器
Dwav デジタル波形データ
Aout アナログ出力信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6