(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/18 20060101AFI20241121BHJP
B60K 7/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
H02K3/18 J
B60K7/00
(21)【出願番号】P 2021137136
(22)【出願日】2021-08-25
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】須藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021679(WO,A1)
【文献】実開昭61-199145(JP,U)
【文献】特開平4-101684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させる円筒状のステータと、前記磁界によってトルクを発生するロータと、前記ステータを収容するハウジングと、を備える回転電機であって、
前記ハウジングは、前記ステータの外周部を覆うハウジング本体と、前記ハウジング本体の一端側に取り付けられるハウジング蓋部と、を有し、
前記ステータは、複数のティースを有するステータコアと、前記ステータコアに装着されるステータコイルと、を有し、
前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻回される複数の巻線部と、前記複数の巻線部のうちの少なくとも2つを接続する渡線と、を有し、
前記渡線は、前記ハウジング蓋部に設けられ、
前記巻線部の端部と前記渡線の端部とを差込接触により電気的に接続する差込機構を備え
、
前記ハウジングは、内部に液状冷媒が流れる流路を有し、
前記差込機構及び前記渡線が、前記流路内に配置される
回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記差込機構は、導電性及び弾性を有するバネ端子を有し、
前記巻線部の端部と前記渡線の端部とが、前記バネ端子を介して接続されている
回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機において、
前記差込機構の差込方向は、前記ロータの回転軸に沿う方向である
回転電機。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機において、
前記渡線の一部は、前記ハウジング蓋部に接触している
回転電機。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機において、
前記渡線は、前記ロータの径方向に沿って設けられる複数の径方向部と、前記複数の径方向部を接続する接続部と、を有し、
前記径方向部は、前記ハウジング蓋部に固定され、
前記渡線の端部は、前記接続部から前記ロータの径方向に沿って延在する前記径方向部の先端部である
回転電機。
【請求項6】
請求項5に記載の回転電機において、
前記ステータコイルの隣り合う前記巻線部の端部同士が繋がり、少なくとも2つの巻線部が連続するように形成されている
回転電機。
【請求項7】
請求項5に記載の回転電機において、
前記渡線は、一対の前記径方向部と、前記一対の径方向部同士を接続する前記接続部と、を有し、
前記接続部の中央部は、前記接続部の両端部を結ぶ仮想線よりも径方向外側に配置され、
前記接続部は、前記ハウジング蓋部と相対変位可能である
回転電機。
【請求項8】
請求項7に記載の回転電機において、
前記接続部は、前記ロータの周方向に沿って設けられる周方向部であり、
前記周方向部は、円弧状、あるいは、複数の直線部が接続された形状である
回転電機。
【請求項9】
磁界を発生させる円筒状のステータと、前記磁界によってトルクを発生するロータと、前記ステータを収容するハウジングと、を備える回転電機であって、
前記ハウジングは、前記ステータの外周部を覆うハウジング本体と、前記ハウジング本体の一端側に取り付けられるハウジング蓋部と、を有し、
前記ステータは、複数のティースを有するステータコアと、前記ステータコアに装着されるステータコイルと、を有し、
前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻回される複数の巻線部と、前記複数の巻線部のうちの少なくとも2つを接続する渡線と、を有し、
前記渡線は、前記ハウジング蓋部に設けられ、
前記巻線部の端部と前記渡線の端部とを差込接触により電気的に接続する差込機構を備え
、
前記渡線は、前記ロータの径方向に沿って設けられる複数の径方向部と、
前記ロータの周方向に沿って設けられ前記複数の径方向部を接続する
周方向部と、を有し、
前記径方向部は、前記ハウジング蓋部に
接触した状態で固定され、
前記渡線の端部は、前記
周方向部から前記ロータの径方向に沿って延在する前記径方向部の先端部であ
り、
前記ハウジングは、内部に液状冷媒が流れる流路を有し、
前記渡線が、前記流路内に配置され、
前記径方向部は、前記ハウジング蓋部に設けられた凹部内に配置され、
一の前記渡線の前記周方向部は、他の前記渡線の径方向部よりも前記ハウジング蓋部から離れた位置で、前記他の渡線の径方向部に交差する
回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、U相、V相、W相の複数のバスバーの渡り部が、同一平面上で重ならないように配置されたバスバーユニットが開示されている。このバスバーユニットは、合成樹脂によってモールド成形されることにより形成される。
【0003】
また、特許文献1には、集中巻きされた巻線部の巻線端部にバスバーユニットのU字状の接続部を係合させ、巻線端部を挟み込むようにして接続部を加圧、発熱させるヒュージング加工によって、巻線端部と接続部とを接続することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、ヒュージング加工によって、バスバーユニットの接続部を巻線部の巻線端部に接続する技術では、バスバーユニットと各相の巻線部との接続作業に手間がかかるため、組立性の観点で改善の余地がある。
【0006】
本発明は、回転電機の組立性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様による回転電機は、磁界を発生させる円筒状のステータと、前記磁界によってトルクを発生するロータと、前記ステータを収容するハウジングと、を備える回転電機であって、前記ハウジングは、前記ステータの外周部を覆うハウジング本体と、前記ハウジング本体の一端側に取り付けられるハウジング蓋部と、を有し、前記ステータは、複数のティースを有するステータコアと、前記ステータコアに装着されるステータコイルと、を有し、前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻回される複数の巻線部と、前記複数の巻線部のうちの少なくとも2つを接続する渡線と、を有し、前記渡線は、前記ハウジング蓋部に設けられ、前記巻線部の端部と前記渡線の端部とを差込接触により電気的に接続する差込機構を備え、前記ハウジングは、内部に液状冷媒が流れる流路を有し、前記差込機構及び前記渡線が、前記流路内に配置される。
本発明の第2の態様による回転電機は、磁界を発生させる円筒状のステータと、前記磁界によってトルクを発生するロータと、前記ステータを収容するハウジングと、を備える回転電機であって、前記ハウジングは、前記ステータの外周部を覆うハウジング本体と、前記ハウジング本体の一端側に取り付けられるハウジング蓋部と、を有し、前記ステータは、複数のティースを有するステータコアと、前記ステータコアに装着されるステータコイルと、を有し、前記ステータコイルは、前記複数のティースに巻回される複数の巻線部と、前記複数の巻線部のうちの少なくとも2つを接続する渡線と、を有し、前記渡線は、前記ハウジング蓋部に設けられ、前記巻線部の端部と前記渡線の端部とを差込接触により電気的に接続する差込機構を備え、前記渡線は、前記ロータの径方向に沿って設けられる複数の径方向部と、前記ロータの周方向に沿って設けられ前記複数の径方向部を接続する周方向部と、を有し、前記径方向部は、前記ハウジング蓋部に接触した状態で固定され、前記渡線の端部は、前記周方向部から前記ロータの径方向に沿って延在する前記径方向部の先端部であり、前記ハウジングは、内部に液状冷媒が流れる流路を有し、前記渡線が、前記流路内に配置され、前記径方向部は、前記ハウジング蓋部に設けられた凹部内に配置され、一の前記渡線の前記周方向部は、他の前記渡線の径方向部よりも前記ハウジング蓋部から離れた位置で、前記他の渡線の径方向部に交差する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転電機の組立性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の一例として示すインホイールモータを備えた電動ホイールシステムの分解斜視図である。
【
図2】
図2は、インホイールモータの分解斜視図である。
【
図3】
図3は、インホイールモータの側面断面模式図であり、インホイールモータの回転軸に平行な平面で切断した断面を模式的に示す。
【
図4】
図4は、無酸素銅JIS-H3100(C1020)、タフピッチ銅JIS-H3100(C1100)、リン脱酸銅JIS-H3100(C1220)を比較した表である。
【
図7】
図7は、スター結線で接続されるステータコイルとステータコアとを示す斜視図である。
【
図9】
図9は、ハウジング蓋部を軸方向から見た図である。
【
図13】
図13は、差込機構のバネ端子と巻線部の引出線との接続構造について説明する図であり、
図11のXIII-XIII線断面を示す。
【
図14】
図14は、変形例2に係るバネ端子について説明する図である。
【
図15】
図15は、変形例7に係る同相接続用バスバーについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る回転電機について説明する。なお、各図における構成の向きの関係を示すため、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を示している。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の一例として示すインホイールモータ100を備えた電動ホイールシステム1の分解斜視図である。
図1に示すように、自動車に用いられる電動ホイールシステム1は、タイヤ198が取り付けられるホイール197と、ホイール197の内側に設けられるインホイールモータ100と、インホイールモータ100の側部に設けられるインバータ160と、車輪193と車体(不図示)とを連結する車両懸架装置199と、を備える。
【0012】
インバータ160は、バッテリ等の電源装置(不図示)からの直流電力を交流電力に変換してインホイールモータ100に供給する。インバータ160からインホイールモータ100に交流電力が供給されることで、インホイールモータ100のロータ150が回転する。ホイール197は、インホイールモータ100のロータ150に接続され、ロータ150の回転力がホイール197に伝達されることにより、車輪193が回転する。
【0013】
以下、図面を参照して、本実施形態に係るインホイールモータ100について詳しく説明する。なお、本明細書において、「軸方向」、「周方向」、「径方向」とは、次のとおりである。「軸方向」とは、ロータ150の回転中心軸(以下、単に回転軸とも記す)Oに沿う方向である。なお、軸方向は、Y軸方向に相当する。「周方向」とは、ロータ150の回転方向に沿う方向、すなわち回転軸Oを中心とする円周方向である。「径方向」とは、回転軸Oに直交する方向、すなわち回転軸Oを中心とする円の半径方向である。また、「内周側」は径方向内側(内径側)を指し、「外周側」はその逆方向、すなわち径方向外側(外径側)のことを指す。
【0014】
図2は、インホイールモータ100の分解斜視図である。
図3は、インホイールモータ100の側面断面模式図であり、インホイールモータ100の回転軸Oに平行な平面で切断した断面を模式的に示す。
図2及び
図3に示すように、インホイールモータ100は、3相交流モータであり、ハウジング101に固定される円筒状のステータ130(
図3参照)と、ステータ130の内周側に隙間をあけて回転可能に設けられるロータ150と、ステータ130及びロータ150を収容するハウジング101と、を備える。
【0015】
ハウジング101は、有底円筒状のハウジング本体110と、ハウジング本体110の一端側の開口を塞ぐようにハウジング本体110の一端側に取り付けられる円板状のハウジング蓋部120と、を有する。ハウジング本体110とハウジング蓋部120とは、複数のねじにより締結される。なお、ハウジング本体110とハウジング蓋部120とは精度よく位置合わせをする必要があるため、インロー構造とするか、位置決めピンなどで位置ズレが生じないようにすることが好ましい。
【0016】
ハウジング本体110は、円筒状のステータ130の外周部を覆う円筒状の筒部111と、筒部111におけるハウジング蓋部120が取り付けられる側とは反対側に設けられる底部112と、を有する。なお、底部112には、ステータ130及びロータ150が配置される環状の凹部が形成されている。本実施形態では、筒部111と底部112とは一体成形により形成されている。なお、筒部111と底部112とは別部材として形成されていてもよい。この場合、筒部111と底部112とは、ねじ等により固定される。
【0017】
ハウジング蓋部120は、円板状の部材であって、外周部近傍に円環状の凹部(以下、環状凹部と記す)122が形成されている。
図3に示すように、環状凹部122内には、後述するステータコイル140の巻線部141の引出線143とバスバー170との接続部である差込機構180が配置される。なお、
図3では、ステータコイル140とバスバー170を破線で模式的に示している。
【0018】
ハウジング101は、アルミニウム、マグネシウム合金などの熱伝導性の高い材料により形成することが好ましい。なお、ハウジング101の材料はこれに限定されず、炭素鋼、樹脂等を採用してもよい。
【0019】
ステータ130は、円筒状のステータコア131と、ステータコア131に装着されるステータコイル140と、を有する。ステータコイル140は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルを有する。ステータコイル140は、例えば、銅あるいはアルミニウムを主成分とした導線に絶縁被膜がコーティングされたものである。ステータコイル140の絶縁被膜の材料には、例えば、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチックを採用できる。
【0020】
ステータコア131は、円筒状のヨーク133(
図5、
図7参照)と、ヨーク133から回転軸Oに向かって突出する複数のティース132(
図5、
図7参照)と、を有する。ティース132は径方向の磁路を形成し、ヨーク133は周方向の磁路を形成する。ティース132は、ステータコイル140によって発生した回転磁界をロータ150に導く。ロータ150は、回転磁界によって回転トルクを発生する。
【0021】
ステータコイル140を構成する導線は、集中巻の巻線方式でティース132に巻回されている。複数のティース132のそれぞれに導線が巻回されることにより、複数の巻線部(集中巻コイル)141(
図5、
図7参照)が形成される。導線には、断面が矩形状の角線、あるいは、断面が円形状の丸線を採用することができる。本実施形態に係る巻線部141は、曲げ加工により、断面矩形状のマグネットワイヤである絶縁被膜を有する平角線をエッジ側(短辺側)の曲がりにくい方向に巻いた平角線縦巻コイル(エッジワイズコイル)である。
【0022】
なお、巻線部141は、ティース132を覆うように装着されるボビンにマグネットワイヤを巻回することにより形成してもよい。ボビンは、絶縁性を有する材料(例えば、樹脂)により形成される。また、巻線部141は、板状の導電部材からプレス加工等により形成してもよい。この場合、成形後の導線に対して、絶縁材料が塗布される、あるいは絶縁材料の粉体塗装が実施されることにより、導線の表面に絶縁被膜が形成される。
【0023】
各相(U相、V相、W相)のコイルは、それぞれ同相の複数の巻線部141が接続されることにより形成される。複数の巻線部141は、ステータ130の軸方向一端側(ハウジング蓋部120側)に接続用端部が設けられる。一の巻線部141の接続用端部は、一の巻線部141の隣に配置される同相の他の巻線部141の接続用端部に接続される。本実施形態に係るインホイールモータ100では、隣り合う同相の巻線部141の接続用端部同士が接続されることにより、少なくとも2つの巻線部141が連続するように形成されている。隣り合う同相の巻線部141の接続用端部同士は、TIG溶接、ロウ付け、電子ビーム溶接、レーザ溶接などの溶接(溶着)により接続してもよいし、溶接以外の方法で接続してもよい。なお、本実施形態では、後述するように、巻線部141とバスバー170とが溶接をすることなく接続される。このため、隣り合う同相の巻線部141同士も溶接以外の方法で接続されることが好ましい。隣り合う同相の巻線部141同士を溶接しない場合、ステータコイル140の材料に、無酸素銅だけでなくタフピッチ銅を選定することができる。
【0024】
図4は、無酸素銅JIS-H3100(C1020)、タフピッチ銅JIS-H3100(C1100)、リン脱酸銅JIS-H3100(C1220)を比較した表である。銅純度が99.90%以上である材料は、純銅と呼ばれ、代表的な純銅として、無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅がある。タフピッチ銅は、体積抵抗率がリン脱酸銅よりも低く、コストが無酸素銅よりも低いため、汎用性が高い。しかしながら、タフピッチ銅は、600℃以上の高温化で水素脆化を引き起こすため、溶接することが困難である。リン脱酸銅は、コストが無酸素銅よりも低く、溶接時に水素脆化を引き起こすこともない。しかしながら、リン脱酸銅は、体積抵抗率が無酸素銅及びタフピッチ銅に比べて2割程度高く、大電流通電時に発熱量が大きくなるため、ステータコイル140の材料としては適していない。無酸素銅は、体積抵抗率がリン脱酸銅よりも低く、溶接時に水素脆化を引き起こすこともない。しかしながら、無酸素銅は、コストがタフピッチ銅及びリン脱酸銅よりも高く、相場変動の影響も受けやすい。
【0025】
本実施形態では、後述するように、巻線部141とバスバー170を溶接することなく接続することができる。このため、隣り合う同相の巻線部141同士の接続方法に、溶接以外の方法を採用することにより、ステータコイル140にタフピッチ銅を採用することができる。その結果、電気的特性が良好であり、かつ、低コストのインホイールモータ100を提供することができる。
【0026】
図3に示すステータコア131は、磁性材料により形成される。本実施形態では、ステータコア131は、円環状の電磁鋼板を複数枚積層することにより形成される。なお、ステータコア131は、絶縁被覆された金属磁性粒子を圧縮成形してなる圧粉磁心により形成してもよい。ステータコア131は、ハウジング本体110の筒部111の内径側に焼嵌め、圧入等により嵌合固定される。
【0027】
図3に示すように、ロータ150は、円筒状のロータコア151と、ロータコア151に装着される複数の永久磁石(不図示)と、を有している。ロータコア151は、磁性材料により形成される。本実施形態では、ロータコア151は、円環状の電磁鋼板を複数枚積層することにより形成される。なお、ロータコア151は、絶縁被覆された金属磁性粒子を圧縮成形してなる圧粉磁心により形成してもよい。ロータコア151の外周面は、隙間を介して、ステータコア131の内周面であるティース132の先端面と対向している。永久磁石は、ロータ150の界磁極を形成する。
【0028】
U相、V相、W相のコイルのそれぞれは、インバータ160に接続されている。図示しないバッテリからの直流電力が、インバータ160により交流電力に変換され、各相のコイルに供給されることで、回転磁界が発生し、ロータ150が回転軸Oを中心に回転する。ロータ150は、ロータ保持部材153に保持される。ロータ保持部材153は、接続部材154を介してシャフト155に接続される。シャフト155は、ハウジング101から一方に突出している。シャフト155の突出部分には、ハブ156が取り付けられ、ハブ156にホイール197(
図1参照)が取り付けられる。
【0029】
図5は、ハウジング本体110の斜視図である。
図5に示すように、ハウジング本体110は、ステータコア131及びステータコア131に装着されるステータコイル140を収容する容器として構成される。
【0030】
図6は、ハウジング蓋部120の斜視図である。
図6に示すハウジング蓋部120は、ハウジング本体110の軸方向一端側の開口部に嵌め込まれ(
図3参照)、固定される。なお、ハウジング蓋部120は、ねじ等によりハウジング本体110に固定されてもよい。
【0031】
本実施形態では、ハウジング本体110にハウジング蓋部120を取り付ける際、ハウジング本体110内に配置されている複数の巻線部141の端部である引出線143(
図5参照)と、ハウジング蓋部120に設けられる渡線であるバスバー170の端部(
図6参照)とが、差込機構180(
図13参照)による差込接触により電気的に接続される。
【0032】
U相コイル、V相コイル及びW相コイルを構成する複数の巻線部141が、複数のバスバー170によってスター結線となるように接続されることにより、ステータコイル140が形成される。つまり、本実施形態に係るハウジング蓋部120は、複数の巻線部141の結線に用いられるバスバー(渡線)170を保持する結線板としての機能を有する。
【0033】
図7を参照して、ステータコイル140の結線構造について説明する。
図7は、スター結線で接続されるステータコイル140とステータコア131とを示す斜視図であり、
図6のVII方向から見た図である。本実施形態に係るステータコイル140には、各相(U相、V相、W相)の巻線群142が4つずつ設けられている。巻線群142は、周方向に連続して配置される同相の複数の巻線部141を有する。
【0034】
図7に示す例では、ステータコイル140は、4つのU相巻線群142uと、4つのV相巻線群142vと、4つのW相巻線群142wと、を有している。U相巻線群142uは、周方向に連続して配置される複数のU相巻線部141uを有し、V相巻線群142vは、周方向に連続して配置される複数のV相巻線部141vを有し、W相巻線群142wは、周方向に連続して配置される複数のW相巻線部141wを有している。
【0035】
巻線群142を構成する複数の同相の巻線部141のうち、両端に配置される巻線部141は、バスバー170に接続される。バスバー170は、例えば、断面矩形状のマグネットワイヤである絶縁被膜を有する平角線が成形されることにより形成される。なお、バスバー170は、板状の導電部材からプレス加工等により形成してもよい。この場合、成形後のバスバー170に対して、絶縁材料が塗布される、あるいは絶縁材料の粉体塗装が実施されることにより、バスバー170の表面に絶縁被膜が形成される。
【0036】
複数のバスバー170には、9つの同相接続用バスバー170iと、一つの中性点結線用バスバー170nと、3つの端子接続用バスバー170tとがある。9つの同相接続用バスバー170iには、3つのU相接続用バスバー170ua,170ub,170ucと、3つのV相接続用バスバー170va,170vb,170vcと、3つのW相接続用バスバー170wa,170wb,170wcとがある。3つの端子接続用バスバー170tには、1つのU相端子接続用バスバー170utと、1つのV相端子接続用バスバー170vtと、1つのW相端子接続用バスバー170wtとがある。
【0037】
U相接続用バスバー170ua、V相接続用バスバー170va、及びW相接続用バスバー170waは、同じ形状であるため、総称して第1同相バスバー170aとも記す。U相接続用バスバー170ub、V相接続用バスバー170vb、及びW相接続用バスバー170wbは、同じ形状であるため、総称して第2同相バスバー170bとも記す。U相接続用バスバー170uc、V相接続用バスバー170vc、及びW相接続用バスバー170wcは、同じ形状であるため、総称して第3同相バスバー170cとも記す。
【0038】
なお、第1同相バスバー170a、第2同相バスバー170b及び第3同相バスバー170cは、寸法は異なるが、構成は同じである。
【0039】
同相接続用バスバー170iは、同相の2つの巻線群142同士を接続する。中性点結線用バスバー170nは、各相(U相、V相、W相)のコイルの巻き終わりとなる巻線部(3つの巻線部141u,141v,141w)同士を接続する。同相接続用バスバー170i及び中性点結線用バスバー170nは、複数の巻線部141のうちの少なくとも2つを接続する渡線である。
【0040】
端子接続用バスバー170t(170ut,170vt,170wt)は、各相(U相、V相、W相)のコイルの巻き始めとなる巻線部141と各相のモータ側交流端子179t(U相交流端子179ut、V相交流端子179vt、W相交流端子179wt)とを接続する渡線である。モータ側交流端子179tは、インバータ160に設けられるインバータ側交流端子169(
図1参照)に接続される。
【0041】
同相接続用バスバー170iは、ロータ150の径方向に沿って設けられる一対の径方向部171iと、ロータ150の周方向に沿って設けられる円弧状の周方向部172iと、を有する。周方向部172iの両端部は、径方向部171iにおける巻線部141との接続側とは反対側の基端部に固定される。つまり、周方向部172iは、一対の径方向部171iの基端部同士を接続する接続部である。周方向部172iからロータ150の径方向に沿って延在する径方向部171iの先端部は、バスバー(渡線)170の端部として、後述する差込機構180により巻線部141の引出線143(
図5参照)に電気的に接続される。
【0042】
中性点結線用バスバー170nは、ロータ150の径方向に沿って設けられる3つの径方向部171nと、ロータ150の周方向に沿って設けられる円環状の周方向部172nと、を有している。周方向部172nは、3つの径方向部171nの基端部同士を接続する接続部である。なお、径方向部171nの基端部とは、径方向部171nにおける巻線部141との接続側とは反対側の端部である。3つの径方向部171nは、周方向に120°間隔で周方向部172nに接続される。周方向部172nからロータ150の径方向に沿って延在する径方向部171nの先端部は、バスバー(渡線)170の端部として、後述する差込機構180により巻線部141の引出線143(
図5参照)に電気的に接続される。
【0043】
端子接続用バスバー170tは、ロータ150の径方向に沿って設けられる単一の径方向部171tと、モータ側交流端子179tと、を有する。径方向部171tは、その基端部がモータ側交流端子179tに電気的に接続され、その先端部がバスバー(渡線)の端部として、後述する差込機構180により巻線部141の引出線143(
図5参照)に電気的に接続される。
【0044】
同相接続用バスバー170iの径方向部171iと、中性点結線用バスバー170nの径方向部171nと、端子接続用バスバー170tの径方向部171tは、寸法は異なるが、同様の構成を有しているため、以下では、総称して径方向部171とも記す。また、同相接続用バスバー170iの周方向部172iと、中性点結線用バスバー170nの周方向部172nは、形状及び寸法が異なるが、周方向に沿って設けられ径方向部171が接続される部材であることは共通するため、以下では、総称して周方向部172とも記す。
【0045】
図6及び
図8を参照して、バスバー170の配置について説明する。
図8は、
図6のVIII部の拡大斜視図である。
図6及び
図8に示すように、各バスバー170の周方向部172は、同一平面上に配置され、径方向に並んで配置されている。径方向外側から内側に向かって順に、第1同相バスバー170aの周方向部172、第2同相バスバー170bの周方向部172、第3同相バスバー170cの周方向部172、中性点結線用バスバー170nの周方向部172が配置されている。
【0046】
バスバー170は、例えば、径方向部171と周方向部172とを個別に形成し、両者を溶接、摩擦接合などによって接続することにより形成することができる。なお、バスバー170の形成方法は、これに限定されない。例えば、単一の平角線を曲げることにより、径方向部171と周方向部172とを有するバスバー170を形成してもよい。バスバー170の製造工程に、溶接等の高温になる加工工程が含まれていなければ、バスバー170の材料には、タフピッチ銅を採用することができる。
【0047】
ハウジング蓋部120のハウジング本体110側の主面121には、バスバー170の径方向部171が配置される凹部126が形成されている。バスバー170の一部である径方向部171は、凹部126の底面に接触した状態で、接着剤によってハウジング蓋部120の凹部126に固定される。径方向部171がハウジング蓋部120に固定されることにより、径方向部171がハウジング蓋部120の剛性を向上させる強度部材として機能する。なお、ハウジング蓋部120に対する径方向部171の固定方法は、接着剤による固定方法に限定されない。径方向部171は、樹脂モールドによりハウジング蓋部120に固定されてもよいし、ボルト締結によりハウジング蓋部120に固定されてもよい。
【0048】
ハウジング蓋部120が金属製である場合、バスバー170がハウジング蓋部120と導通すると地絡してしまうため、バスバー170の絶縁被膜は十分な強度と絶縁耐圧を有する必要がある。バスバー170の絶縁被膜は、絶縁材料の粉体塗装やワニス含侵を実施することにより形成することができる。また、エポキシ系の接着剤などによりバスバー170の表面に絶縁被膜を形成してもよい。
【0049】
図6に示すように、複数の径方向部171はロータ150の回転軸Oを中心に放射状に広がるように配置されている。複数の周方向部172は、主面121から僅かに離れた位置に配置される。つまり、周方向部172は、凹部126内に配置される径方向部171よりもハウジング蓋部120から離れた位置に配置される。
【0050】
図6及び
図8に示すように、各径方向部171が凹部126内に配置されているため、一のバスバー170の径方向部171と他のバスバー170の周方向部172とが交差する場合であっても、交差位置において一のバスバー170と他のバスバー170とが干渉することはない。これにより、複数の周方向部172を同一平面上に配置させることができる。その結果、インホイールモータ100の軸方向長さを短くすることができる。
【0051】
なお、上述したように、ハウジング蓋部120には、環状凹部122(
図3、
図6参照)が設けられている。このため、凹部126及び径方向部171は、環状凹部122の形状に沿って形成される。
図3及び
図6に示すように、径方向部171は、ハウジング蓋部120の主面121に沿って形成される第1直線部173と、環状凹部122の形状に沿って第1直線部173から90°屈曲してロータ150の軸方向に延在する第2直線部174と、環状凹部122の形状に沿って第2直線部174から90°屈曲してロータ150の径方向に延在する第3直線部175と、を有する。
【0052】
図9は、ハウジング蓋部120を軸方向から見た図である。
図9に示すように、同相接続用バスバー170iの周方向部172iの中央部は、周方向部172iの両端部を結ぶ仮想線VLよりも径方向外側に配置されている。周方向部172iは、ハウジング蓋部120に固定されていない。このため、周方向部172iは、ハウジング蓋部120に対して相対変位可能である。
【0053】
この構成により、同相接続用バスバー170iとハウジング蓋部120とを異なる材料で形成した場合において、両者の熱膨張差を周方向部172iで吸収することができる。つまり、本実施形態によれば、同相接続用バスバー170iとハウジング蓋部120の材料の選定自由度を高めることができる。
【0054】
例えば、ハウジング蓋部120をアルミニウムにより形成し、同相接続用バスバー170iを純銅により形成することができる。この場合、同相接続用バスバー170iとハウジング蓋部120とは、温度上昇の度合いも熱膨張係数も異なるので、熱膨張差が生じることになる。熱膨張差の影響は、径方向部171iよりも周方向部172iの方が大きい。本実施形態では、周方向部172iがハウジング蓋部120に固定されていない。つまり、周方向部172iは、ハウジング蓋部120に対して変位可能である。これにより、径方向に比べて熱膨張差の影響が生じやすい周方向の熱膨張差を周方向部172iによって効果的に吸収することができる。特に、本実施形態では、周方向部172iが、ロータ150の周方向に沿う円弧状に形成されているため、より効果的に熱膨張差を吸収することができる。
【0055】
巻線部141の引出線143(
図5参照)と、径方向部171の先端部(基端部とは反対側の端部)とは差込機構180を介して接続される。差込機構180は、メス側コネクタにオス側コネクタが差し込まれることにより、メス側コネクタとオス側コネクタとが電気的に接続される機構である。以下、巻線部141の端部を構成する引出線143と、バスバー(渡線)170の端部を構成する径方向部171の先端部との接続構造について詳しく説明する。
【0056】
本実施形態では、
図5に示すように、オス側コネクタとして機能する巻線部141の引出線143が、ロータ150の軸方向に沿ってハウジング蓋部120側に向かって突出している。また、
図6に示すように、径方向部171の先端部には、差込機構180を構成するメス側コネクタ181が設けられている。
【0057】
図10~
図13を参照して、差込機構180の構造の一例について詳しく説明する。
図10は差込機構180の斜視図であり、
図11は差込機構180を軸方向から見た図であり、
図12は
図11のXII-XII線断面模式図である。
図13は、差込機構180のバネ端子190と巻線部141の引出線143との接続構造について説明する図であり、
図11のXIII-XIII線断面を示す。
【0058】
図10~
図12に示すように、差込機構180は、導電性及び弾性を有する一対のバネ端子190と、一対のバネ端子190を保持するメス側コネクタ181と、オス側コネクタとしての巻線部141の引出線143(
図5参照)と、を有する。メス側コネクタ181は、一端側が開口された中空直方体形状の導電部材であり、径方向部171の先端部に固定される。メス側コネクタ181と径方向部171の先端部との固定方法には、圧入、溶接、ボルト締結などの固定方法を採用することができる。なお、溶接等の高温になる固定方法でなければ、メス側コネクタ181の材料には、タフピッチ銅を採用することができる。
【0059】
図13に示すように、メス側コネクタ181には、巻線部141の引出線143が差し込まれる。巻線部141の引出線143は、一対のバネ端子190間に挿入され、バネ端子190を変形させる。
【0060】
図10に示すように、メス側コネクタ181は、ハウジング本体110側が開口とされた有底の矩形箱状に形成される。メス側コネクタ181は、径方向部171の先端部に固定される矩形板状の底部182と、底部182の一対の長辺に接続される一対の幅広板部183と、底部182の一対の短辺に接続される一対の幅狭板部184と、を有する。
【0061】
図12に示すように、バネ端子190は、複数の板バネ196と、複数の板バネ196同士を連結する一対の連結板195とを有する。
【0062】
図11に示すように、板バネ196は、底部182の長辺方向(図示左右方向)の両端部に、メス側コネクタ181に電気的に接続されるメス側接点部191が形成されている。板バネ196は、底部182の長辺方向(図示左右方向)の中央部に、巻線部141の引出線143に電気的に接続されるオス側接点部192が形成されている。
【0063】
幅狭板部184は、底部182の短辺方向(図示上下方向)の中央部に、内側に向かって突出する突出部が形成されている。幅狭板部184は、底部182の短辺方向(図示上下方向)の両端部に、バネ端子190のメス側接点部191が配置される凹部185が形成されている。
【0064】
図13に示すように、一対のバネ端子190は、互いに対向する一対の板バネ196がメス側コネクタ181の開口面側(図示左側)に開くV字状を呈するように配置される。板バネ196は、幅広板部183側から内側に向かって弾性力を発生させる。
【0065】
巻線部141の引出線143がメス側コネクタ181に挿入されると、巻線部141の引出線143が板バネ196のオス側接点部192に接触し、オス側接点部192が幅広板部183側に近づくように板バネ196が撓む。これにより、板バネ196から引出線143に向かって弾性力(付勢力)が作用するため、板バネ196のオス側接点部192と引出線143とが強固に接続される。
【0066】
本実施形態では、互いに対向するように一対のバネ端子190が設けられているため、一対のバネ端子190により引出線143が両側から挟持される。このように、本実施形態では、巻線部141の引出線143が差込機構180に差込接触されることにより、巻線部141の引出線143とバスバー170の端部とが電気的に接続される。なお、差込接触とは、オス側コネクタ(本実施形態では巻線部141の引出線143)がメス側コネクタ181に差し込まれることにより、双方が直接的または間接的に接触することをいう。
【0067】
本実施形態では、差込機構180の差込方向が、ロータ150の回転軸Oに沿う方向である。すなわち、本実施形態に係る差込機構180は、巻線部141の引出線143がメス側コネクタ181に対して、ロータ150の回転軸Oに平行に差し込まれる構成となっている。このため、ハウジング蓋部120がハウジング本体110に軸方向に取り付けられることにより、巻線部141の引出線143が差込機構180に軸方向に差し込まれ、差込機構180により巻線部141の端部(引出線143)と、バスバー170の端部(径方向部171の先端部)とが差込接触により電気的に接続される。
【0068】
つまり、本実施形態によれば、一工程で、ハウジング蓋部120とハウジング本体110とが接続されるとともに、巻線部141の端部(引出線143)とバスバー170の端部(径方向部171の先端部)とが接続される。このように、本実施形態では、インホイールモータ100の組立工程が簡素化されているため、インホイールモータ100の製造コストの低減を図ることができる。また、本実施形態では、ハウジング蓋部120がハウジング本体110から外れない限り、メス側コネクタ181から巻線部141の引出線143が抜けない構造となっているため、巻線部141とバスバー170の接続の信頼性も高い。
【0069】
本実施形態では、差込機構180がバネ端子190を有し、巻線部141の端部(引出線143)とバスバー(渡線)170の端部とが、バネ端子190を介して接続されている。これにより、バネ端子190の反力(弾性力)によって、巻線部141の端部(引出線143)とバスバー(渡線)170の端部とが電気的に接続されるので、軸方向の差込力が弱くても安定的な接点接触力が得られる。
【0070】
また、本実施形態では、板バネ196が、差込機構180の入口側に開くような向きで取り付けられている。これにより、オス側コネクタ(巻線部141の引出線143)がメス側コネクタ181に対して多少ずれて差し込まれたとしても、バネ端子190がオス側コネクタに対するガイドのような働きをするため、オス側コネクタをメス側コネクタ181に適切に接触させることができる。
【0071】
バネ端子190の板バネ196は、板状部材から立体的に成形される。バネ端子190におけるオス側コネクタ(巻線部141の引出線143)の接触箇所、及び、バネ端子190におけるメス側コネクタ181の接触箇所の数は、多いほど接触抵抗が低減する。本実施形態では、バネ端子190が複数の板バネ196を有し、バネ端子190が複数箇所で巻線部141の引出線143及びメス側コネクタ181に接触しているため、接触抵抗を低くすることができる。したがって、本実施形態では、差込機構180に対して大電流の通電が可能である。
【0072】
バネ端子190の材料には、電気抵抗率が低く弾性限度の大きいベリリウム銅、リン青銅、ステンレス鋼(SUS)などを採用することができる。なお、バネ端子190の表面と巻線部141の引出線143の表面には、同じ材質のメッキが施されていることが望ましい。巻線部141の引出線143は、絶縁被膜が除去された後、メッキが施される。バネ端子190の表面と巻線部141の引出線143の表面に同じ材質のメッキを施すことにより、摩耗や電食を防止することができる。メッキには、銀メッキ、ニッケルメッキなどを採用することができる。
【0073】
ハウジング蓋部120がハウジング本体110に接続されることにより、ハウジング101の内部は密閉された空間となる。この空間は、
図3に示すように、液状冷媒が流れる流路119となる。つまり、ハウジング101は、その内部に液状冷媒が流れる流路119を有している。液状冷媒は、例えば、ATF(オートマチックトランスミッションフルード)、エンジンオイル、パームヤシ油等の植物油、鉱物油等の電気的絶縁油である。液状冷媒は、図示しないポンプ、熱交換器を含む冷却システム内で循環する構成となっている。
【0074】
ハウジング101は、ハウジング101の内部に液状冷媒を取り入れる冷媒入口129と、流路119を流れた冷媒をハウジング101の内部から取り出す冷媒出口(不図示)とを有する。流路119内には、ロータ150及びステータ130が配置されている。
【0075】
ポンプ(不図示)から吐出された液状冷媒は、冷媒入口129からハウジング101の内部の流路119に供給され、ロータ150及びステータ130を直接冷却し、冷媒出口からハウジング101の外部へ排出される。冷媒出口から排出された液状冷媒は、ポンプ(不図示)によって、再び、冷媒入口129からハウジング101の内部に供給される。
【0076】
なお、液状冷媒は、ロータ150及びステータ130の冷却を行うだけでなく、図示しない軸受の潤滑と冷却を行ってもよい。液状冷媒は、絶縁性だけでなく、低粘度、耐高温、潤滑性などの特性を有していることが好ましい。
【0077】
本実施形態では、差込接触により、巻線部141の端部とバスバー170の端部とが接続されている。このため、巻線部141の端部とバスバー170の端部とを溶接(溶着)により接続する場合に比べて接触抵抗が大きく、発熱量が大きい。このため、本実施形態では、
図3に示すように、差込機構180が液状冷媒の流路119内に配置されている。
【0078】
図3に示すように、本実施形態では、巻線部141、バスバー(渡線)170、及び差込機構180が流路119内に配置され、液状冷媒に接触している。このため、巻線部141、バスバー(渡線)170、及び差込機構180が、循環する液状冷媒によって効果的に冷却される。また、差込機構180で発生した熱は、バスバー170を介してハウジング蓋部120に伝えられるだけでなく、液状冷媒を介してハウジング蓋部120に効果的に伝えられる。ハウジング蓋部120に伝えられた熱は、ハウジング蓋部120から外側(大気)に放熱される。したがって、本実施形態によれば、差込機構180及びバスバー(渡線)170が空気中に配置される場合に比べて、差込機構180を効率的に冷却することができる。
【0079】
図3に示すように、ロータ150が流路119内に配置されている場合、液状冷媒は、ロータ150の回転に引っ張られて周方向に流れる。ここで、仮に、径方向部171が凹部126(
図6、
図8参照)内に配置されずに、ハウジング蓋部120の表面(主面121)に対して出っ張っている場合、液状冷媒の流動抵抗が大きくなることに起因してモータ効率が低下するおそれがある。
【0080】
これに対して、本実施形態では、
図8に示すように、バスバー170の径方向部171は、ハウジング蓋部120に設けられた凹部126内に配置され、一のバスバー170の周方向部172は、他のバスバー170の径方向部171よりもハウジング蓋部120から離れた位置で、他のバスバー170の径方向部171に交差する。
【0081】
ハウジング蓋部120の凹部126内にバスバー170の径方向部171が配置されているため、液状冷媒の流動抵抗を小さくすることができる。なお、周方向部172は、ハウジング蓋部120の表面(主面121)に対して出っ張っているが、ロータ150の回転中、液状冷媒は主に周方向に流れるため、液状冷媒の流動抵抗に与える影響は小さい。周方向部172は、ハウジング蓋部120の表面(主面121)に対して出っ張っているため、液状冷媒により積極的に冷却される。
【0082】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0083】
本実施形態に係るインホイールモータ(回転電機)100は、磁界を発生させる円筒状のステータ130と、磁界によってトルクを発生するロータ150と、ステータ130を収容するハウジング101と、を備える。ハウジング101は、ステータ130の外周部を覆うハウジング本体110と、ハウジング本体110の一端側に取り付けられるハウジング蓋部120と、を有する。ステータ130は、複数のティース132を有するステータコア131と、ステータコア131に装着されるステータコイル140と、を有する。ステータコイル140は、複数のティース132に巻回される複数の巻線部141と、複数の巻線部141のうちの少なくとも2つを接続するバスバー(渡線)170と、を有する。バスバー170は、ハウジング蓋部120に設けられる。さらに、インホイールモータ100は、巻線部141の引出線(端部)143とバスバー170の端部(径方向部171の先端部)とを差込接触により電気的に接続する差込機構180を備える。
【0084】
この構成によれば、インホイールモータ100の組立の際の一工程において、ハウジング本体110にハウジング蓋部120が取り付けられるとともに、巻線部141の端部とバスバー170の端部とが差込接触により電気的に接続される。したがって、本実施形態によれば、インホイールモータ100の組立性を向上することができる。
【0085】
また、本実施形態では、ハウジング蓋部120にバスバー170が設けられているため、バスバー170を保持する部材である結線板(バスバーユニット)をハウジング蓋部120とは別に設ける必要がない。したがって、本実施形態によれば、結線板をハウジング蓋部120とは別に設ける場合に比べて、インホイールモータ100の軸方向の長さを短くすることができる。
【0086】
さらに、本実施形態では、ハウジング蓋部120にバスバー170が設けられ、径方向部(渡線の一部)171がハウジング蓋部120に接触している。これにより、差込機構180で発生した熱は、バスバー(渡線)170を介して熱容量の大きいハウジング蓋部120に伝えられ、ハウジング蓋部120から外側(大気)に放熱される。差込機構180を効果的に冷却することができるため、ステータコイル140への通電量の増加を図ることができる。その結果、インホイールモータ100のモータ効率を高めることにより、省エネルギー性能の向上を図ることができる。
【0087】
また、本実施形態に係るインホイールモータ100は、差込機構180によって、巻線部141の端部とバスバー(渡線)170の端部とが差込接触により電気的に接続される構成であるため、巻線部141の端部とバスバー(渡線)170の端部との溶接作業が不要である。したがって、本実施形態によれば、インホイールモータ100の製造時のエネルギー使用量を小さくすることができるので、環境負荷を小さくすることができる。
【0088】
本実施形態では、ステータコイル140の隣り合う巻線部141の端部同士が繋がり、少なくとも2つの巻線部141が連続するように形成されている。この構成によれば、差込機構180の数を低減することができる。その結果、インホイールモータ100のコストを低減することができる。また、接触抵抗のバラつきを低減することができるので、性能のバラつきを低減することができる。さらに、インホイールモータ100の信頼性を向上することができる。また、インホイールモータ100の部品点数を低減することができ、インホイールモータ100の小型化を図ることができる。
【0089】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0090】
<変形例1>
上記実施形態では、巻線部141の引出線143がオス側コネクタとして形成され、バスバー170の径方向部171の先端部にメス側コネクタ181が設けられている。そして、上記実施形態では、巻線部141の引出線143がメス側コネクタ181に差し込まれ、引出線143がバネ端子190を介してメス側コネクタ181に接触している状態である差込接触により、巻線部141の引出線143とバスバー170の端部とが電気的に接続されている。しかしながら、巻線部141とバスバー(渡線)170の接続方法は、これに限定されない。巻線部141の引出線143にメス側コネクタが形成され、バスバー170の端部にオス側コネクタが形成されていてもよい。
【0091】
<変形例2>
上記実施形態では、差込機構180に設けられるバネ端子190が、矩形断面の平角線を両側から挟持する構成である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
図14を参照して、円形断面を有する棒状のオス側コネクタと円筒状のメス側コネクタとを接続するバネ端子290について説明する。
図14は、変形例2に係るバネ端子290について説明する図である。
【0092】
図14に示すように、バネ端子290は、複数の板バネ296と、複数の板バネ296を連結する一対の連結板295とを有し、円環状に曲げ成形される。円環状に曲げ成形されたバネ端子290は、例えば、棒状のオス側コネクタに予め装着される。バネ端子290は、連結板295にオス側接点部292が設けられ、オス側接点部292がオス側コネクタに接触している。
【0093】
メス側コネクタに、バネ端子290が装着されたオス側コネクタが差し込まれることにより、メス側接点部291が、円環状のバネ端子290の径方向内側に向かって撓む。これにより、板バネ296からメス側コネクタの内周面に向かって弾性力(付勢力)が作用するため、板バネ296のメス側接点部291とメス側コネクタとが強固に接続される。
【0094】
<変形例3>
上記実施形態では、バネ端子190が、板バネ196を有する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。バネ端子は、一端部がオス側コネクタに接触し、他端部がメス側コネクタに接触する圧縮コイルバネを有する構成であってもよい。圧縮コイルバネは、その軸方向に圧縮されると、その反力によって、一端部がオス側コネクタに押し付けられ、他端部がメス側コネクタに押し付けられる。
【0095】
<変形例4>
ボールペン芯用のコイルバネのように、線径と平均径が小さく自由長が長いコイルバネをオス側コネクタに巻き付けて、メス側コネクタに挿入してもよい。この場合、コイルバネの円筒面が潰れるように変形し、コイルバネの径方向反力によって、オス側コネクタとメス側コネクタとが接続される。
【0096】
<変形例5>
上記実施形態では、巻線部141の端部とバスバー(渡線)170の端部とが、バネ端子190を介して接続されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。巻線部141の端部とバスバー(渡線)170の端部の一方にオス側コネクタを設け、他方にメス側コネクタを設け、オス側コネクタをメス側コネクタに圧入するなどして、オス側コネクタとメス側コネクタとを直接的に接続させてもよい。
【0097】
<変形例6>
上記実施形態では、ハウジング蓋部120にバスバー170の径方向部171が配置される凹部126が形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。少なくとも、ハウジング蓋部120にバスバー170の径方向部171を固定することにより、ハウジング蓋部120の剛性を高めることができる。
【0098】
<変形例7>
上記実施形態では、同相接続用バスバー170iの周方向部172iが円弧状に形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
図15に示すように、同相接続用バスバー270iの周方向部272iは、複数の直線部277が周方向に沿って接続された形状であってもよい。この構成によれば、上記実施形態と同様、ハウジング蓋部120と同相接続用バスバー270iとの熱膨張差を効果的に吸収することができる。なお、図示しないが、同相接続用バスバー170iの周方向部172iは、直線状の単一の部材であってもよい。
【0099】
<変形例8>
上記実施形態では、ポンプから吐出された液状冷媒をハウジング101の内部に供給する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。ロータ150の回転力を利用して、液状冷媒をかき上げて、ステータコイル140、差込機構180等に噴き付けるようにしてもよい。
【0100】
<変形例9>
上記実施形態では、ステータ130の内径側にロータ150が設けられるインナーロータ型のインホイールモータ100を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。ステータ130の外径側にロータ150が設けられるアウターロータ型のインホイールモータに本発明を適用してもよい。
【0101】
<変形例10>
ハウジング101の形状は、上記実施形態で説明したものに限定されない。なお、ハウジング101は、ハウジング101に接しているバスバー(渡線)170、ステータコア131、及び、液状冷媒から伝えられた熱を効率よく大気に放出するために、リブ、フィン等が複数設けられていることが好ましい。
【0102】
<変形例11>
上記実施形態では、液状冷媒が流れる流路119内に差込機構180が配置されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。バスバー170とハウジング蓋部120との接触面積が十分にとれる場合など、差込機構180の温度上昇を効果的に抑えることができる場合には、差込機構180は、液状冷媒の流路119内に設けられていなくてもよい。
【0103】
<変形例12>
上記実施形態では、回転電機がホイール197内に設けられるインホイールモータ100である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。回転電機は、車体に取り付けられ、自動車の走行駆動力を発生させるモータであってもよい。また、回転電機は、自動車に搭載される場合に限定されることもない。エレベータ、鉄道車両等の移動体の駆動力を発生させる種々の回転電機に本発明を適用することができる。さらに、回転電機は、移動体に搭載される場合に限定されることもない。圧縮機、エア・コンディショナーなど、種々の機械に搭載される回転電機に本発明を適用することができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0105】
1…電動ホイールシステム、100…インホイールモータ(回転電機)、101…ハウジング、110…ハウジング本体、119…流路、120…ハウジング蓋部、121…主面、122…環状凹部、126…凹部、130…ステータ、131…ステータコア、132…ティース、133…ヨーク、140…ステータコイル、141…巻線部、142…巻線群、143…引出線(巻線部の端部)、150…ロータ、151…ロータコア、170…バスバー(渡線)、170i,270i…同相接続用バスバー(渡線)、170n…中性点結線用バスバー(渡線)、171,171i,171n…径方向部(渡線の一部)、172,172i,172n,272i…周方向部(接続部)、180…差込機構、181…メス側コネクタ、190,290…バネ端子、196,296…板バネ、277…直線部