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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】缶体溶接装置および缶体溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20241121BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20241121BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20241121BHJP
   B23K 37/047 20060101ALI20241121BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B23K31/00 M
B23K9/127 506Z
B23K9/00 501L
B23K37/047 501A
B23K9/095 505A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021140594
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023034378
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 肇
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖也
(72)【発明者】
【氏名】草野 崇
(72)【発明者】
【氏名】出町 一馬
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-085938(JP,A)
【文献】実開昭50-129625(JP,U)
【文献】特開平01-095875(JP,A)
【文献】特開2016-087632(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0232540(US,A1)
【文献】特開平08-197248(JP,A)
【文献】特開2001-347376(JP,A)
【文献】独国実用新案第202018002281(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00 - 31/02、
31/10 - 33/00、
37/00 - 37/08
B23K 9/00、9/02 - 9/038
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡部と胴部とを組み合わせたワークを回転させる回転装置と、
前記鏡部と前記胴部の合わせ部を溶接する溶接装置と、
前記合わせ部の位置を検出する非接触式の位置検出装置と、
前記位置検出装置によって検出された前記合わせ部の位置に基づいて前記溶接装置の位置を制御する制御部と、を備え、
前記位置検出装置は、前記溶接装置に対して所定回転角度の手前に配置され、
前記制御部は、前記ワークが前記所定回転角度の回転時に前記溶接装置による溶接を開始し、前記所定回転角度前の前記合わせ部の位置を前記溶接装置にフィードバックして溶接し、溶接終了時に溶接の始点側となる、すでに溶接が行われた溶接ビードの領域を再び溶接するラップ部において前記フィードバックする制御を行わずに前記溶接装置を前記ワークに近づく方向に位置するように制御して溶接することを特徴とする缶体溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の缶体溶接装置において、
前記溶接装置および前記位置検出装置は、前記ワークを挟んで対向する位置にそれぞれ設けられていることを特徴とする缶体溶接装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の缶体溶接装置において、
前記所定回転角度は、前記溶接装置による溶接光の影響を受けない角度以上であることを特徴とする缶体溶接装置。
【請求項4】
鏡部と胴部とを組み合わせたワークを回転させる回転装置と、前記鏡部と前記胴部との合わせ部を溶接する溶接装置と、前記合わせ部の位置を検出する非接触式の位置検出装置と、を備えた缶体溶接方法であって、
前記ワークが所定回転角度の手前で前記位置検出装置によって前記合わせ部の位置を検出し、前記ワークが前記所定回転角度の回転時に前記溶接装置による溶接を開始し、前記所定回転角度前に検出された位置を前記溶接装置にフィードバックして溶接し、溶接終了時に溶接の始点側となる、すでに溶接が行われた溶接ビードの領域を再び溶接するラップ部において前記フィードバックする制御を行わずに前記溶接装置を前記ワークに近づく方向に位置するように制御して溶接することを特徴とする缶体溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶体の溶接装置および溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークを回転させるための手段と、回転中のワークの開先加工部の三次元位置情報を経時的に取得するセンサー部と、センサー部によって得られた加工対象部分の三次元位置情報に基づいて溶接トーチの位置を制御する溶接機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-90412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、給湯機の缶体(鏡板と胴板)を円周に沿って溶接する場合、溶接の始点と終点において溶接がラップする部分が生じる。しかしながら、特許文献1に記載の溶接機のセンサー部は、ワークの表面に接触しながら検出を行うものであるため、溶接ビードにセンサー部が接触して、溶接トーチの位置がずれてしまうという課題があった。このため、溶接機による溶接終了後に、手動で溶接部を補修する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、鏡部と胴部とを組み合わせたワークを回転させる回転装置と、前記鏡部と前記胴部の合わせ部を溶接する溶接装置と、前記合わせ部の位置を検出する非接触式の位置検出装置と、前記位置検出装置によって検出された前記合わせ部の位置に基づいて前記溶接装置の位置を制御する制御部と、を備え、前記位置検出装置は、前記溶接装置に対して所定回転角度の手前に配置され、前記制御部は、前記ワークが前記所定回転角度の回転時に前記溶接装置による溶接を開始し、前記所定回転角度前の前記合わせ部の位置を前記溶接装置にフィードバックして溶接し、溶接終了時に溶接の始点側となる、すでに溶接が行われた溶接ビードの領域を再び溶接するラップ部において前記フィードバックする制御を行わずに前記溶接装置を前記ワークに近づく方向に位置するように制御して溶接することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態の溶接装置によって溶接される貯湯タンクを示す斜視図である。
図2】貯湯タンクの縦断面図である。
図3】本実施形態の溶接装置の全体構成図である。
図4】溶接トーチと倣い装置の構成図である。
図5】合わせ部と溶接トーチの位置関係を示す縦断面図である。
図6】合わせ部が膨らんだ場合の状態を示す断面図である。
図7】合わせ部が凹んだ場合の状態を示す断面図である。
図8】本実施形態の溶接装置の動作を示すフローチャートである。
図9図4のB部拡大図である。
図10】ラップ部のワーク変形の予測制御図である。
図11】溶接開始から溶接終了までの溶接電流の変化を示すグラフである。
図12】ダウンスロープ制御を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の缶体溶接装置によって溶接される給湯機の貯湯タンクを示す斜視図である。
図1に示すように、貯湯タンク1は、例えばヒートポンプ式給湯機(給湯器)に用いられるものであり、円筒形状の胴板10(胴部)と、この胴板10の上部の開口を覆う上鏡20(鏡部)と、胴板10の下部開口を覆う下鏡30(鏡部)との3部材を組み合わせて構成されるものである。胴板10は、1枚のステンレス鋼の板材を円筒状にし、周方向の両端縁同士を重ね合わせて溶接することで構成される。上鏡20および下鏡30は、ステンレス鋼の板材をしぼり加工等することで構成される。
【0008】
また、貯湯タンク1は、図示しないヒートポンプユニットと接続され、沸き上げ運転時には貯湯タンク1の下部から取り出した水を、ヒートポンプユニットによって加熱し、貯湯タンク1の上部に戻すようになっている。また、沸き上げた湯は、貯湯タンク1の上部から取り出して、所定の給湯栓に供給されるようになっている。
【0009】
図2は、貯湯タンクの縦断面図である。
図2に示すように、上鏡20は、上方に向けて凸状のおわん型であり、上鏡20の下部開口の縁20aと胴板10の上部開口の縁10aとが、上鏡20が径方向の外側、胴板10が径方向の内側になるように組み合わせられる。なお、上鏡20と胴板10とを合わせてワークWという。そして、上鏡20の縁20aと胴板10の縁10aとが径方向に重なった部分を合わせ部(合わせ面)Sと言う。この合わせ部Sに沿って溶接が行われることで、合わせ部Sに溶接ビードBが形成される。なお、図示省略しているが、下鏡30についても、上鏡20と同様にして、上鏡20の上部開口の縁と胴板10の下部開口の縁とが重ね合わされ(これらを合わせてワークという)、下鏡30と胴板10との合わせ部に沿って溶接が行われる。
【0010】
図3は、本実施形態の溶接装置の全体構成図である。
図3に示すように、缶体溶接装置100は、回転装置40、溶接トーチ50(溶接装置)、倣い装置60(非接触式の位置検出装置)、制御部70を備えて構成されている。なお、以下では、胴板10と上鏡20との溶接について説明し、同様に行われる胴板10と下鏡30との溶接については説明を省略する。
【0011】
回転装置40は、胴板10と上鏡20とが組み合わされたワークWを保持して、胴板10の径方向の中心(上鏡20の径方向の中心)を支点として回転するように構成されている。また、回転装置40は、上鏡20が溶接された胴板10と下鏡30とが組み合わされたワークを保持して、胴板10の径方向の中心(下鏡30の径方向の中心)を支点として回転するように構成されている。
【0012】
溶接トーチ50は、例えば、アーク放電によるティグ(TIG)溶接を行うものであり、タングステン電極が突出して配置されるとともにシールドガス(Arガス)が吐出されるノズル(不図示)を有している。また、溶接トーチ50は、胴板10と上鏡20との合わせ部S(図2参照)に対向する位置に近づけて配置される。
【0013】
倣い装置60は、溶接トーチ50から胴板10と上鏡20とが溶接される被溶接面(合わせ部S)までの距離L(合わせ部Sの位置)を非接触で検出するものであり、例えばレーザ変位計によって構成される。詳述すると、倣い装置60は、溶接トーチ50の電極先端と合わせ部Sとの距離Lを検出する。この距離Lに応じて溶接トーチ50の合わせ部Sからの位置が制御される。
【0014】
制御部70は、CPU、ROM、RAM、各種インターフェイス、電子回路等を含んで構成されており、その内部に記憶されたプログラムに従って、回転装置40、溶接トーチ50および倣い装置60を制御する。また、制御部70は、倣い装置60によって検出された距離L(合わせ部Sの位置)を取得し、溶接トーチ50の位置に反映するようになっている。また、制御部70は、回転装置40を所定の回転速度で回転するように制御する。
【0015】
図4は、溶接トーチと倣い装置の構成図である。
図4に示すように、断面視円形のワークWに対して、溶接トーチ50A,50B(溶接装置)と、倣い装置60A,60B(非接触式の位置検出装置)とが配置されている。溶接トーチ50Aと倣い装置60Aとが一つの組み合わせであり、溶接トーチ50Bと倣い装置60Bとがもう一つの組み合わせである。また、溶接トーチ50Bと倣い装置60Bとを組み合わせた構成は、溶接トーチ50Aと倣い装置60Aとを組み合わせた構成と同様である。
【0016】
溶接トーチ50Aと溶接トーチ50Bは、ワークWの回転中心Oを挟んで互いに対向する位置に配置されている。換言すると、溶接トーチ50Bは、溶接トーチ50Aに対して180°(度)回転した反対側に位置している。また、溶接トーチ50A,50Bは、ワークWに対して近づく方向と離れる方向に移動可能に構成されている。
【0017】
また、倣い装置60Aと倣い装置60Bは、ワークWの回転中心Oを挟んで互いに対向する位置に配置されている。換言すると、倣い装置60Bは、倣い装置60Aに対して180°回転した反対側に位置している。また、倣い装置60A,60Bは、レーザ照射が固定して行われる。
【0018】
また、倣い装置60Aは、溶接トーチ50Aに対して回転角度θ1(所定回転角度)ずれた位置に配置されている。換言すると、倣い装置60Aは、ワークWの回転方向Rに対して逆方向の溶接トーチ50Aの手前側に位置している(位置検出装置としての倣い装置60は溶接装置としての溶接トーチ50の所定回転角度の手前に配置)。なお、手前とは、これから溶接される側を意味している。倣い装置60Bも同様にして、溶接トーチ50Bに対して前記回転角度θ1と同様の回転角度(所定回転角度)ずれた位置に配置されている。換言すると、倣い装置60Bは、ワークWの回転方向Rに対して逆方向の溶接トーチ50Bの手前側に位置している。このように、倣い装置60A,60Bを溶接トーチ50A,50Bに対して回転角度θ1ずらして配置するのは、検出時のレーザ光が溶接時に発生する溶接光によって影響を受けるのを避けるためである。なお、回転角度θ1は、例えば20°(度)に設定される。なお、溶接光の影響を受けない範囲であれば、20°未満であっても、20度を超えていてもよい。これにより、倣い装置60A,60Bを非接触式センサにした場合であっても、合わせ部S(図2参照)の位置(溶接トーチ50の先端から合わせ部Sまでの距離L)を検出することが可能になる。
【0019】
また、倣い装置60Aは、図4において点P1で示す位置が溶接の始点である場合、ワークWの回転が開始されると、0°の位置(点P1の位置)で合わせ部Sの位置検出が開始される。そして、ワークWが回転角度θ1回転したときに、溶接トーチ50Aに対して、0°のときに読み取った検出値(位置)を溶接トーチ50Aにフィードバックする。なお、回転角度θ1の区間は、ワークWは回転しているが、溶接は開始されていない(旋回待ち)区間である。そして、フィードバックした検出値(位置)に基づいて溶接トーチ50AをワークWの合わせ部Sの位置に合わせて動作させながら溶接を開始する。
【0020】
そして、溶接が開始されてからワークWが回転角度θ2回転する区間は、倣い装置60Aの検出値(20°前の検出値)をフィードバックしながら溶接トーチ50Aによって通常の溶接が行われる(通常溶接)。なお、回転角度θ2は、179°に設定される。すなわち、溶接トーチ50AによってワークWが半円分溶接される。
【0021】
ワークWが回転角度θ2回転しながら溶接が行われた後(通常溶接が行われるθ2区間の溶接が終わると)、さらにワークWが回転角度θ3回転する。このようにワークWが回転角度θ3回転すると、もう一方の溶接トーチ50Bによってすでに溶接された溶接ビードの始点に重ねて、溶接トーチ50Aによって溶接が行われる(ラップ部の溶接)。この回転角度θ3は、溶接ビードに重ねて溶接されるラップ部Q(図9図10参照)に相当する区間になる。なお、回転角度θ3は、例えば5°に設定される。また、溶接トーチ50Bと倣い装置60Bとの構成においても、ワークWが回転角度θ3回転すると、溶接トーチ50Aによって溶接された溶接ビードの始点に重ねて、溶接トーチ50Bによって溶接が行われる。つまり、溶接トーチ50A,50Bと倣い装置60A,60Bとの組み合わせでは、ラップ部が2ケ所に形成される。
【0022】
図5は、合わせ部と溶接トーチの位置関係を示す縦断面図である。
図5に示すように、溶接トーチ50は、ワークWの合わせ部Sの高さ位置に配置されるとともにワークWに近づく方向と遠ざかる方向に動作するように構成されている。また、溶接トーチ50の基準位置を予め設定し、溶接トーチ50の先端部50aから溶接前の合わせ部Sまでの距離をLとする。また、溶接開始前のZ軸上の合わせ部Sの位置を基準位置Zとする。なお、基準位置Zに対して溶接トーチ50に近づく方向をZ軸のマイナス(Z軸(+))とし、溶接トーチ50から遠ざかる方向をZ軸のプラス(Z軸(-))とする。
【0023】
また、溶接トーチ50は、ワークWの上下方向(軸方向)に動作するようになっている。なお、溶接トーチ50が上方(上鏡20側)に移動する場合をX軸方向のプラス(X軸(+))とし、下方に(胴板10側、下鏡30側)に移動する場合をX軸方向のマイナス(X軸(-))とする。
【0024】
図6は、合わせ部が膨らんだ場合の状態を示す断面図である。図7は、合わせ部が凹んだ場合の状態を示す断面図である。このように、合わせ部Sが膨らんだり、凹んだりするのは、胴板10と上鏡20には大きさの違いがあり、このように大きさに違があるもの同士を重ね合わせながら溶接するためであり、結果的として歪(ひずみ)が生じるものである。
【0025】
図6に示すように、溶接時において合わせ部Sが膨らみ、合わせ部Sの位置はZ+αとなり、合わせ部Sから溶接トーチ50の先端部50aまでの距離は、L-αとなる。つまり、溶接トーチ50の先端部50aから合わせ部Sまでの距離が基準位置Zの場合よりも短くなるので、この場合には溶接トーチ50を合わせ部Sから遠ざかる方向(Z軸(+)方向)に移動するように制御する。
【0026】
図7に示すように、溶接時において合わせ部Sが凹み、合わせ部Sの位置はZ-αとなり、合わせ部Sから溶接トーチ50の先端部50aまでの距離は、L+αとなる。つまり、溶接トーチ50の先端部50aから合わせ部Sまでの距離が基準位置Zの場合よりも長くなるので、この場合には溶接トーチ50を合わせ部Sから近づける方向(Z軸(-)方向)に移動するように制御する。
【0027】
図8は、本実施形態の溶接装置の動作を示すフローチャートである。なお、図8で示す回転角度θは、溶接が行われない最初の20°を含む角度を示している。
図8に示すように、ステップS10において、制御部70は、回転装置40を制御して、ワークWの旋回(回転)を開始する。これにより、上鏡20と胴板10の合わせ部Sが胴板10(上鏡20)の径方向中心O(図4参照)を軸として回転する。
【0028】
ステップS20において、制御部70は、ワークWの旋回角度θ(回転角度)20°になったか否かを判定する。なお、ワークWの旋回角度θは、図示しないエンコーダ(回転角度検出部)によって検出される。制御部70は、旋回角度θが20°ではないと判定した場合には(S20、No)、ステップS20の処理を繰り返し、旋回角度θが20°であると判定した場合には(S20、Yes)、ステップS30の処理に進む。
【0029】
ステップS30において、制御部70は、通常溶接による倣い制御を開始する。すなわち、倣い装置60A,60Bによって検出した合わせ部Sの位置(検出値)を溶接トーチ50A,50Bにフィードバックして、溶接トーチ50A,50BのZ軸上の位置を制御する。例えば、合わせ部Sにおいて、胴板10が外側に膨らんだ状態の場合には、溶接トーチ50A,50Bを合わせ部Sから遠ざける方向に移動するように制御する。また、胴板10が内側に凹んだ状態の場合には、溶接トーチ50A,50Bを合わせ部Sに近づける方向に移動するように制御する。
【0030】
ステップS40において、制御部70は、旋回を開始してからの旋回角度(回転角度)θが199°になった否かを判定する。なお、旋回角度θが199°(179°+20°)とは、それぞれの溶接トーチ50A,50Bによって半円分の溶接(通常溶接)が行われた状態である。制御部70は、旋回角度θが199°未満の場合には、ステップS30に戻り、旋回角度θが199°である場合には、ステップS50の処理に進む。
【0031】
ステップS50において、制御部70は、ラップ部QのワークWの変形量に応じた溶接トーチ50A,50Bの自動制御を開始する。つまり、倣い装置60A,60Bは、回転角度20°ずらして読み取っているので、ラップ部Qでは読み取りができない(フィードバックできない)。そこで、ワークWの変形量を予測して溶接トーチ50A,50Bの位置を自動制御しながら溶接する。この自動制御について後記する。
【0032】
ステップS60において、制御部70は、ワークWの旋回角度(回転角度)θが204°になったか否かを判定する。制御部70は、旋回角度θが204°未満の場合には(S60、No)、ステップS60の処理を繰り返し、旋回角度θが204°になったと判定した場合には(S60、Yes)、ワークWの旋回を呈して、溶接を終了する。
【0033】
図9は、図4のB部拡大図である。
図9に示すように、ワークWの旋回角度θが199°を超えると、回転角度200°から204°の範囲では、すでに溶接が行われた溶接ビードの領域を再び溶接するラップ部Qになる。このラップQでは、これまでの溶接試験によってワークWの合わせ部Sが常にワークWの内側に凹むように変形することが確認された。このため、ラップ部Qの区間では、ワークWが凹む方向に常に変形するので、倣い装置60A,60Bによるフィードバック制御を実行することなく、溶接トーチ50A,50BをワークWに対して近づく方向および遠ざかる方向に制御して、ラップ部Qを溶接できるようにしたものである。
【0034】
図10は、ラップ部のワーク変形の予測制御図である。
図10に示すように、通常溶接の区間から予測制御区間(199°~204°)に切り替わると、ワークWが凹む方向(Z軸(-)方向)に変形する。そこで、予測制御区間では、倣い装置60A,60Bで読み取った値を溶接トーチ50A,50Bにフィードバックする制御を行なわずに(フィードバックレス)、溶接トーチ50A,50BをワークWに近づける制御を自動で行うことが可能になった。
【0035】
また、予測制御区間(ラップ部Q)では、ワークWが凹み変形すること、換言すると溶接トーチ50A,50BがワークWから遠ざかる方向に変形することから、溶接トーチ50A,50BをZ軸方向においてワークWに近づく方向に位置するように制御する。
【0036】
図11は、溶接開始から溶接終了までの溶接電流の変化を示すグラフである。
図11に示すように、溶接トーチ50に与える溶接電流は、まずスタート電流まで上げて、所定時間後に電流を徐々に上昇させるアップスロープ制御を行う。そして、アップスロープ制御後、一定の電流値で制御した後、溶接終了時に電流を徐々に下降させるダウンスロープ制御を行う。ところで、従来の溶接電流制御では、スタート電流と同時にワークの回転を開始すると同時に溶接を開始すると、ラップ部Qにおいて溶接ビード不良が発生していた。本実施形態では、アップスロープ制御開始時にワークの回転を開始して溶接を開始することで、溶接ビードを良好にできるようにした。なお、アップスロープ制御開始時とは、スタート電流からアップスロープ制御に切り替わるときである。
【0037】
図12は、ダウンスロープ制御を示す模式図である。なお、図12は、溶接始点の溶接ビードB1と溶接終点の溶接ビードB2とが重なるラップ部Qを示し、溶接の終点が溶接の始点に重なる直前の溶接ビードBの状態を示している。
図12に示すように、溶接ビードB2が回転角度199°の位置まで進んできた状態であり、回転角度199°以降はこれから溶接が行われる状態である。また、回転角度200°以降の溶接ビードB2は、他方の溶接トーチによって溶接された溶接始点側を示している。溶接終了時、矢印の方向から進んできた溶接ビードB1は、回転角度200°の位置で溶接始点側の溶接ビードB2と重なり、回転角度204°まで溶接が行われる。
【0038】
溶接終了時、アップスロープ制御直前にダウンスロープ制御が開始される。具体的には、アップスロープ制御開始よりも前の回転角度199°においてダウンスロープ制御を開始し、回転角度204°でダウンスロープ制御を終了する。ところで、従来の溶接電流制御では、スタート電流直前にダウンスロープ制御が行われていたため、ラップ部において溶接ビード不良が発生していた。本実施形態では、アップスロープ制御開始直前にダウンスロープ制御を開始することで、ラップ部Qにおいて溶接ビードを良好にできるようにした。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の缶体溶接装置100は、上鏡20と胴板10とを組み合わせたワークWを回転させる回転装置40と、上鏡20と胴板10との合わせ部Sを溶接する溶接トーチ50A,50Bと、合わせ部Sの位置を検出する倣い装置60A,60Bと、倣い装置60A,60Bによって検出された合わせ部Sの位置に基づいて溶接トーチ50A,50Bの位置を制御する制御部70と、を備える。倣い装置60A,60Bは、溶接トーチ50A,50Bに対して回転角度θ1(20°)手前に配置される(所定回転角度の手前に配置)。制御部70は、ワークWが回転角度θ1回転時に溶接トーチ50A,50Bによる溶接を開始し、回転角度θ1より前の合わせ部Sの位置(検出値)を溶接トーチ50A,50Bにフィードバックして溶接する。これによれば、従来の接触式の倣いセンサにおいて、ラップ部のビードにセンサが接触して、溶接トーチの位置がずれていたものを、非接触式の倣い装置60A,60Bにしたことで、ラップ部における溶接トーチ50A,50Bの飛びを防止でき、溶接位置がずれることがなくなり、溶接後の補修作業が不要になった。また、接触式の倣いセンサでは、毎回補修溶接が必要であり、次ワークの溶接を開始するときも人の手で元の位置に戻す作業が必要だったが、非接触式の倣い装置60A,60Bにしたことで、毎回の補修溶接や次ワークのための調整作業も不要になった。
【0040】
また、本実施形態において、溶接トーチ50A,50Bおよび倣い装置60A,60Bは、ワークWを挟んで対角の位置に一対設けられている。このように溶接トーチと倣い装置を対で設けることで、胴板10と上鏡20とを溶接する場合の時間を短縮でき、貯湯タンク1の製造効率を高めることができる。
【0041】
また、本実施形態において、制御部70は、溶接終了時、溶接の始点側と重なるラップ部Q(予測制御区間)においてワークWの変形量に応じて溶接トーチ50A,50Bの位置を自動制御する。これによれば、倣い装置60A,60Bによる制御を行うことができない(フィードバック制御を行うことができない)ラップ部Qにおいて、溶接不良を発生させることなく溶接が可能になる。
【0042】
また、本実施形態において、回転角度θ1は、溶接トーチ50A,50Bによる溶接光の影響を受けない角度以上である。これによれば、非接触式の倣い装置を用いても合わせ部Sの位置検出を行うことが可能になる。
【0043】
また、本実施形態において、制御部70は、アップスロープ制御開始時にワークWの回転を開始する(図11参照)。これによれば、溶接開始時の溶接ビードBを良好にすることができる。
【0044】
また、本実施形態において、制御部70は、溶接終了時、アップスロープ制御開始直前にダウンスロープ制御を実行する。これによれば、ラップ部Qにおける溶接ビード不良を抑制でき、溶接補修が不要になる。
【0045】
なお、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を変更しない範囲において種々変更することができる。例えば、前記した実施形態では、溶接トーチ50A,50Bと倣い装置60A,60Bとを対で設けた構成を例に挙げて説明したが、溶接トーチ50Aと倣い装置60Aとによって、回転角度360°+20°+4°回転させる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 貯湯タンク
10 胴板(胴部)
20 上鏡(鏡部)
30 下鏡(鏡部)
40 回転装置
50,50A,50B 溶接トーチ(溶接装置)
60,60A,60B 倣い装置(非接触式の位置検出装置)
70 制御部
100 缶体溶接装置
Q ラップ部
S 合わせ部
図1
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