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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】制御システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
G08G1/09 V
G08G1/09 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021146328
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2023039257
(43)【公開日】2023-03-20
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石郷岡 祐
(72)【発明者】
【氏名】大塚 敏史
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-271848(JP,A)
【文献】特開2012-28944(JP,A)
【文献】特開2018-207154(JP,A)
【文献】特開2017-175210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 1/16
H04W 4/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管制システムと車両が無線で通信する制御システムであって、
管制システムは、管制制御部において作成した同一の送信データを送信周期の一部期間内に複数回連続送信する動的冗長通信部を備え、
車両は、前記管制システムからの送信データを受信して受信回数を集計し、集計した受信回数を前記動的冗長通信部に連絡する受信回数集計部と、前記受信回数集計部で受信した送信データにより車両を制御する車両制御部とを備え、
前記動的冗長通信部は、受信回数に基づいて、制御が要求する目標到達率を満たすように送信周期内で送信する送信回数を決定することを特徴とする制御システム。
【請求項2】
管制システムと車両が無線で通信する制御システムであって、
管制システムは、管制制御部において作成した同一の送信データを、送信周期の一部期間内に、通信状態に応じて設定された送信回数により、複数回連続送信する動的冗長通信部を備え、
車両は、前記管制システムからの送信データを受信して受信回数を集計し、集計した受信回数を前記動的冗長通信部に連絡する受信回数集計部と、前記受信回数集計部で受信した送信データにより車両を制御する車両制御部とを備え、
前記通信状態に応じて設定された送信回数は、地図上の車両位置に応じて記憶した通信状態により設定された基準送信回数と、また前記受信回数により設定された目標送信回数のいずれか、または双方とされることを特徴とする制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の制御システムであって、
前記送信データの種別ごとに、前記目標到達率が設定されていることを特徴とする制御システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の制御システムであって、
前記動的冗長通信部は、前記送信回数に基づいた一連の送信が、デッドラインを超過する場合には、管制システムからの通信をキャンセルすることを特徴とする制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の制御システムであって、
前記動的冗長通信部は、通信がキャンセルされた第1の車両の周辺に位置する他の車両に対して、第1の車両に対する通信がキャンセルされたことを通知することを特徴とする制御システム。
【請求項6】
請求項4に記載の制御システムであって、
前記動的冗長通信部によって通信がキャンセルされた車両が縮退制御を実施することを特徴とする制御システム。
【請求項7】
請求項4に記載の制御システムであって、
前記管制制御部は、送信データを作成して前記動的冗長通信部に与え、
前記動的冗長通信部の処理と、前記車両制御部の処理は、車両制御のための送信周期の期間内に時間配分されて実行されることを特徴とする制御システム。
【請求項8】
請求項4に記載の制御システムであって、
前記動的冗長通信部は、第1の車両に対する通信キャンセルの際には、地図上の周辺に位置する他の車両と人に対して、第1の車両が縮退していることの情報を送付することを特徴とする制御システム。
【請求項9】
請求項4に記載の制御システムであって、
前記動的冗長通信部は、作業効率影響レベルに応じてキャンセルする通信データを選定することを特徴とする制御システム。
【請求項10】
請求項2に記載の制御システムであって、
管制システムは、地図上の位置に応じて予め設定された通信状況と、通信状況毎の送信回数を記憶しており、車両位置と地図上の走行経路から前記基準送信回数を定める基準値判定部を備えることを特徴とする制御システム。
【請求項11】
請求項10に記載の制御システムであって、
先行車両の通信状況を用いて、前記地図上の位置に応じて予め設定された通信状況を更
新する通信状態管理部を備えることを特徴とする制御システム。
【請求項12】
請求項2に記載の制御システムであって、
前記基準送信回数と前記目標送信回数のうち、より回数の多いものにより複数回連続送信することを特徴とする制御システム。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の制御システムであって、
管制制御部において作成した同一の送信データを送信周期の一部期間内に複数回連続送信する際に、予め定めた最大回数を超過する回数での送信が必要となる場合には、送信周期の一部期間経過後の残余の時間における処理の一部を削除して、必要回数の送信時間を確保することを特徴とする制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信を含む制御システムの信頼性向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
省人化や更なる効率化を目的として、特定エリアを対象とした移動サービスや搬送サービスの実現のために、制御システムの自律化が進行している。例えば、車両による工場敷地内搬送システムや、自動フォークリフトやAGV(Automated Guided Vehicle)やロボットアーム付きAGVによる倉庫管理システム、特定地区向けロボットタクシーや自動運転バス、鉱山における自動運転トラックなどがあげられる。これらのサービスが行われるフィールドでは、自律的に認知・判断・制御を行う移動体(自律移動体)と、人が操作する移動体(有人移動体)と、歩行者や作業員など人が共存して各々の作業を行っている。
【0003】
然るに移動体のセンシング範囲は限られているために、路上や施設内に設置されたセンサ(インフラセンサ)で移動体の死角を監視し、無線通信で接続された移動体と人(が有するデバイス)に認識情報を高い確実性で通知、または移動体や人に行動を指示する技術が求められている。
【0004】
この点に関して、例えば特許文献1では、車載カメラ等の死角にいる歩行者をも検出して周辺車両に警告することができ、周辺車両の車載カメラ等による歩行者の速やかな検出を可能とする情報提供装置、情報提供方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的として、「情報提供装置は、路上に設置された検知部による検知データに基づいて、危険な行動を行なう移動物体を検出する検出部と、検出部による検出結果に基づいて、危険な行動を行なう移動物体の将来の進路を予測する予測部と、予測部による予測結果に基づいて、危険な行動を行なう移動物体による影響が及び得る車両を特定する特定部と、特定部により特定された車両へ、危険な行動を行なう移動物体に関する情報を配信する配信部を含む。」とすることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-215785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によると、車両(車両装置)とサーバ(中央装置)の間の送受信回数を車両ごとに管理し,回数の少ない車両の優先度(送受信回数)を増加させて、情報共有の確実性を向上できる。
【0007】
しかしながら,本発明が対象とするような管制連携の移動体向け制御システムでは,障害物データのような安全関連データや,ログのような非安全データが混在しており,ユーザや安全設計によって導出した各々のデータの目標到達率が異なる。したがって、特許文献1のように車両単位の管理では、一番厳しい条件に設定する必要があり、適用が困難である。また目標到達率に対して送信回数を決定する手法を有していない。
【0008】
さらに,移動体は通信状態がリアルタイムに変化するため,通信環境が急激に変化する状況においても、確実性を向上させる方法が望まれる。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、移動体の進行方向の通信状態の変化を管理し、車両が管制から受信したデータの受信回数と、今後の通信状態に応じて、管制が送信回数を動的に更新することで、確実性を向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のことから本発明においては「管制システムと車両が無線で通信する制御システムであって、管制システムは、管制制御部において作成した同一の送信データを送信周期の一部期間内に複数回連続送信する動的冗長通信部を備え、車両は、管制システムからの送信データを受信して受信回数を集計し、集計した受信回数を動的冗長通信部に連絡する受信回数集計部と、受信回数集計部で受信した送信データにより車両を制御する車両制御部とを備え、動的冗長通信部は、受信回数に基づいて、制御が要求する目標到達率を満たすように送信周期内で送信する前記送信回数を決定することを特徴とする制御システム。」としたものである。
【0011】
また本発明は、「管制システムと車両が無線で通信する制御システムであって、管制システムは、管制制御部において作成した同一の送信データを、送信周期の一部期間内に、通信状態に応じて設定された送信回数により、複数回連続送信する動的冗長通信部を備え、車両は、管制システムからの送信データを受信して受信回数を集計し、集計した受信回数を動的冗長通信部に連絡する受信回数集計部と、受信回数集計部で受信した送信データにより車両を制御する車両制御部とを備え、通信状態に応じて設定された送信回数は、地図上の車両位置に応じて記憶した通信状態により設定された基準送信回数と、また受信回数により設定された目標送信回数のいずれか、または双方とされることを特徴とする制御システム。」としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る制御システムによれば、フィールドにおいて管制と移動体・デバイスを所有した人における情報共有、制御指示の確実性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係る制御システムの全体構成例を示す図。
図2】車両13の車両位置111Aと走行経路131Aの関係の一例を示す図。
図3】管制システム12内に予め保有されている通信状態付き地図121Aの例を示す図。
図4】経路通知部131からの走行経路131Aの情報の例を示す図。
図5】車両位置推定部111からの車両位置111Aの情報の例を示す図。
図6】管制システム12内に予め保有されている判定表121Aの例を示す図。
図7】管制システム12内に予め保有されている送信データ管理表122Bの例を示す図。
図8】管制システム12内に予め保有されている作業効率影響管理表122Cの例を示す図。
図9図1の位置推定処理部111の処理フローの例を示す図。
図10図1の基準値判定部121の処理フローの例を示す図。
図11図1の動的冗長通信部122の処理フローの例を示す図。
図12図1の管制制御部123の処理フローの例を示す図。
図13図1の経路通知部131の処理フローの例を示す図。
図14図1の受信回数集計部132の処理フローの例を示す図。
図15図1の車両制御部133の処理フローの例を示す図。
図16】本発明の実施例2に係る制御システムの全体構成例を示す図。
図17図16の位置推定処理部234の処理フローを示す図。
図18】本発明の実施例3に係る制御システムの全体構成例を示す図。
図19】複数車両13の車両位置111Aと走行経路131Aの関係の一例を示す図。
図20図18の通信状態付き地図の例を示す図。
図21図18の通信状態管理部324の処理フローの例を示す図。
図22】の例を示す図。通信管理応答部325の処理フローの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【0015】
本発明の制御システムは、車両位置情報と車両の走行経路情報に基づいて基準送信回数を求め、基準送信回数と車両が管制から受信できた受信回数から目標到達率を満たすように各データの送信回数を算出し、冗長的に送信する。これを実現する実施例1,2,3について以下説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1に係る制御システムの全体構成例を示す図である。制御システム1は、インフラセンサ11、管制システム12、車両13からなる。インフラセンサ11と管制システム12は無線あるいは有線で通信し、管制システム12と車両13は無線で通信する。
【0017】
これらの通信により、インフラセンサ11内の位置推定処理部111は、インフラセンサ11がセンシングしたセンサ情報から車両位置を推定し,車両位置111Aを管制システム12に送信する。また車両13内の経路通知部131は、走行経路131Aと受信回数132Aを管制システム12に送信し、管制システム12からは送信データ122Aを得ている。
【0018】
これらの情報を用いて管制システム12内の基準値判定部121は、車両位置111Aと走行経路131Aから、予め保有している通信状態付き地図121Aと判定表121Bに基づいて、基準送信回数121Cを作成する。動的冗長通信部122は、基準送信回数121Cと車両13から得た受信回数132Aに基づいて、予め保有している送信データ管理表122Bの目標到着率を満たすように送信回数を決定し、管制制御部123で作成したデータ123Aを送信データ122Aとして車両13に送信回数だけ送信する。
【0019】
車両13内の受信回数集計部132は、受信回数132Aを管制システム12に返信し、受信データ132B(管制制御部123で作成したデータ123A)を車両制御部133に送り車両を制御する。
【0020】
なお動的冗長通信部122は、送信回数がデッドラインを超過するとき、作業効率影響管理表122Cに基づいてデータ123Aの送信をキャンセル(なお本明細書では、送信のキャンセルのことを送信または通信の停止あるいは中止ということがある)する。また車両制御部133は、受信データ132B(管制制御部123で作成したデータ123A)が到着しないとき対応する縮退制御を実施する。
【0021】
図1の構成によれば、車両13は管制システム12から送信されるデータ123Aに従って制御される。管制システム12内の管制制御部123での演算により求められた車両の制御目標に関するデータ123Aが、動的冗長通信部122、受信回数集計部132を介して車両制御部133に伝送され、車両が制御されることになる。
【0022】
この場合の管制システム12から車両13に対する通信は、送信周期を例えば100msとされている。この送信周期内では、例えば10ms長のデータ123Aが複数回連続送信され、連続送信回数は例えば最大5回、50msとされ、残余の50msが車両制御部133における演算、制御期間として使用され、あるいは同一チャネルにおいて残余の時間が他の車両との通信に使用されている。いずれにせよ、送信周期の一定期間内で複数回連続送信が行われる。
【0023】
またこの場合の車両制御部133における制御は、例えば送信周期に合わせた100ms周期で実行され、従って100ms周期以内に送信が完了しない場合には、次の制御周期での処理に支障をきたすことになる。
【0024】
本発明では、動的冗長通信部122において連続送信回数は、例えば最大送信回数の範囲内で、通信状況を見ながら最適回数に制御されている。なお、複数回送信を行う理由は、トンネル内など通信環境がよくない地点を車両通過中における通信精度を確保するものであり、通信環境がよくないほど最大送信回数の範囲内で回数を多くするように最適化したものである。
【0025】
図2は、管制システム12が受信した、車両13の車両位置111Aと走行経路131Aの関係の一例を示す図である。この例では、縦横のマス目上に1台の車両13が走行経路131Aに従って走行していることを表している。なお実施例1では説明の都合上、車両位置111Aをマス目状のグリッドで表現しているが、これに限らない。例えば、緯度経度情報であっても良いし、あるいは、レーンをつなぎ合わせて表現されたレーンIDで車両位置111Aを表現してもよい。
【0026】
なお、この図の例では、管制システム12が受信した車両位置111Aと走行経路131Aの受信状況は、横軸方向の位置0,1,2における通信、および位置5,6における通信は良好であったが、位置3,4における通信は不良(通信悪)であったものとする。
【0027】
図3は、管制システム12内に予め保有されている通信状態付き地図121Aの例を示している。通信状態付き地図121Aは、例えば図2のマス目状のグリッドで表現される指定領域について、指定領域内の開始点の横方向を示す開始点X、指定領域の開始点の縦方向を示す開始点Y、指定領域の終点の横方向を示す終点X、指定領域の終点の縦方向を示す終点Y、無線通信の電波強度を意味する通信状態(良、悪)を示す情報で構成される。
【0028】
図3の通信状態付き地図121Aの例によれば、開始点X,Y(0.0)と終点X,Y(2.2)で定まる指定領域と、開始点X,Y(5.0)と終点X,Y(6.2)で定まる指定領域における通信は良好であるが、開始点X,Y(3.0)と終点X,Y(4.2)で定まる指定領域における通信は悪いことが示されている。
【0029】
図4は、経路通知部131からの走行経路131Aの情報の例を示す。走行経路131Aは、車両が走行する経路情報を管理する識別子である走行経路ID、車両の目標座標X、車両の目標座標Yで構成される。
【0030】
図4の走行経路131Aの例によれば、車両は走行経路IDに示す順番に従って、目標座標X.Yが(2.1)⇒(3.1)⇒(4.1)⇒(5.1)⇒(6.1)⇒(7.1)の座標位置に順次移動するような経路が示されている。図2はこの時の経路を模式的に示したものである。
【0031】
図5は、車両位置推定部111からの車両位置111Aの情報の例を示す。車両位置111Aは、制御対象の車両の現在座標X、制御対象の車両の現在座標Yで構成される。図5の現在の車両位置111Aは、(1.1)である。
【0032】
図6は、管制システム12内に予め保有されている判定表121Bの例を示す。判定表121Bは、図3と同様に無線通信の電波強度を意味する通信状態、送信回数の最低送信回数を意味する基準送信回数121Cの情報を含んで構成される。図6の判定表121Bによれば、通信状態毎に、良であれば基準送信回数が最低2回、並であれば基準送信回数が最低3回、悪であれば基準送信回数が最低4回、無であれば基準送信回数は定義されていないものとされている。
【0033】
なお、ここで示す基準通信回数121Cは、管制制御部123で作成したデータ123Aを車両制御部133に送るときの繰り返し送信回数である。従って例えば車両制御部133における制御のための送信周期が100msであって、このうち通信に許可されている時間が50ms、残りの50msが車両制御部133における処理時間のように配分されており、かつデータ123Aの1回の送信時間が10msであるとした場合には、繰り返し送信回数は最大でも5回に制限されることになる。
【0034】
基準値判定部121における上記判定によれば、地図上の位置に応じて予め通信状態(良、並、悪)が記憶されており、かつ通信状態毎に基準送信回数が設定されている、従って、基準送信回数121Cは、車両13と管制システム12の間での通信状態を反映したものとなっている。
【0035】
図7は、管制システム12内に予め保有されている送信データ管理表122Bの例を示す。送信データ管理表122Bは、制御対象である車両13を識別するための車両ID、送信データ123Aの種別を識別するための送信データID、データの送信周期(例えば100ms)、データに要求される安全水準、データの目標到達率で構成される。安全水準は、安全関連データまたは非安全関連データであるか否かを判定するために用いられる。安全関連データにおいては、さらに細分化され、機能安全規格IEC61508のように危険性に関連したリスクに応じてレベル付けがなされる。目標到達率は安全水準が高いほど目標到達率も高く設定される想定だが、これに限らない。例えば、非安全関連データであっても目標到達率が高くてもよい。
【0036】
図7の例によれば、管制システム12は車両IDで定義された複数の車両13との間での通信を実行してこれを管理制御しており、管制制御部123が車両制御のために作成するデータ123Aは複数の種別ごとに作成されている。ここで複数の種別とは、本発明が対象とするような管制連携の移動体向け制御システムでは,障害物データのような安全関連データや,ログのような非安全データであり,ユーザや安全設計によって導出した各々のデータ種別ごとの目標到達率が異なることから、図7ではこれらを予め準備し、記憶したものである。なお図7のユーザや安全設計によって導出した各々のデータ種別ごとの目標到達率は、後述する(1)(2)式による目標送信回数を求める処理の中で使用される。
【0037】
図8は、管制システム12内に予め保有されている作業効率影響管理表122Cの例を示す。作業効率影響管理表122Cは、図7と同様に送信データの種別を識別するための送信データID、送信データを到着するまでに許容できる時間を示すデッドライン(例えば車両制御部133の制御周期と同じ100ms)、送信データがデッドライン超過時に作業に影響を与える度合いを示す作業効率影響度(例えば停止、或は徐行)で構成される。作業効率影響度はデッドライン超過時に送信データを中止する判断に用いられる。
【0038】
本発明では、安全関連データの車両への到着がデッドラインを超過する場合、送信データの送信中止によって、車両が縮退制御を実施することで安全性を保証する前提がある。従って、データの送信中止によって影響を及ぼす範囲は、作業効率の低下となる。その作業効率の低下の程度は縮退制御の種類によって決定される。例えば縮退制御の例として、低速走行や指定場所での停止、その場停止などが考えられ、移動速度が速い縮退制御ほど基本的に作業効率が高くなる。停止に関しては、他の車両や人の作業を阻害する場所で停止するほど、作業効率を悪化させる。
【0039】
以下図9から図15により、実施例1に係る制御システム1の各部における処理フローの詳細を説明する。まず図9は、位置推定処理部111の処理フローである。図9の位置推定処理部111における処理ステップS1111では、インフラセンサ11でセンシングした車両物体の位置を推定し、位置推定処理部111から管制システム12に、図5に例示した車両位置情報111Aを送付する。
【0040】
図10は、基準値判定部121の処理フローである。図10の最初の処理ステップS1211)では、基準値判定部121は車両位置情報111Aを受信する。次に処理ステップS1212では、基準値判定部121は車両位置情報111Aと走行経路情報131Aから通信状態付き地図121Aに基づいて、車両の次の(時刻、あるいは到達地点における)通信状態を推定する。続いて処理ステップS1213では、基準値判定部121は次の通信状態に基づいて、判定表121Bから基準送信回数121Cを選択し、動的冗長通信部122に出力する。
【0041】
このように動的冗長通信部122に与えられる基準送信回数121Cは、地図上の位置に応じて予め通信状態(良、並、悪)が記憶されており、かつ通信状態毎に基準送信回数が設定されており、車両位置111Aと走行経路131Aによりこれらを参照して求めたものである。従って、基準送信回数121Cは、車両13と管制システム12の間での通信状態を反映して設定して設定された送信回数ということができる。
【0042】
図11は、動的冗長通信部122の処理フローである。図11の最初の処理ステップS1221では、動的冗長通信部122は受信した受信回数情報132Aから、各データに対しての目標送信回数を算出する。
【0043】
ここで目標送信回数は(1)式、(2)式を用いて求めることについて詳細を後述するが、このことから明らかなように、目標送信回数もまた基準送信回数121Cと同様に、車両13と管制システム12の間での通信状態を反映して設定して設定された送信回数ということができる。基準送信回数121Cは、車両の地理上の現在位置に応じて車両13と管制システム12の間での通信状態を反映して設定された送信回数であり、目標送信回数は複数連続送信時の受信回数に応じて車両13と管制システム12の間での通信状態を反映して設定された送信回数である。
【0044】
次に処理ステップS1222において、動的冗長通信部122は目標送信回数が基準送信回数121Cよりも大きいか否かを判定する。真である場合には処理ステップS1223に進み、偽である場合には処理ステップS1226に進む。
【0045】
処理ステップS1222の処理は、異なる観点から導かれた2組の通信状態を反映して設定された送信回数(異方式二重化により設定された送信方式)について、より回数が多い方を選択することにより、安定通信のためにより安全サイドでの方式を選択したものということができる。
【0046】
目標送信回数が基準送信回数121Cよりも大きいときの処理ステップS1223の処理では、動的冗長通信部122は目標送信回数でデータを送信する場合に、該当データのデッドラインを超過するか否かを判定する。例えば、1回の送信に20ミリ秒かかる場合、6回送信すると120ミリ秒かかることが算出でき、送信のデッドライン100ミリ秒を超過することが送信前に予測できる。データごとにデータサイズや送信プロトコル、暗号化の有無が異なるために、データごとに異なる1回の送信時間を求めて算出しても良いし、統一的に同じ値を採用してもよい。真の場合には処理ステップS1224に進み、偽である場合には処理ステップS1225に進む。
【0047】
送信のデッドライン超過となるときの処理ステップS1224の処理では、動的冗長通信部122は、図8に示す作業効率影響管理表122Cに基づいて、低い作業効率影響度のデータを停止する。
【0048】
送信のデッドラインを超過しないときの処理ステップS1225の処理では、動的冗長通信部122は目標送信回数でデータを連続送信する。しかし、処理ステップS1224あるいは処理ステップS1227で停止指令を受けている場合には、送信処理が行われない。
【0049】
目標送信回数が基準送信回数121Cよりも小さいときの処理ステップS1226の処理では、動的冗長通信部122は基準送信回数でデータを送信する場合に、該当データのデッドラインを超過するか否かを判定する。例えば、1回の送信に20ミリ秒かかる場合、6回送信すると120ミリ秒かかることが算出でき、送信のデッドライン100ミリ秒を超過することが送信前に予測できる。データごとにデータサイズや送信プロトコル、暗号化の有無が異なるために、データごとに異なる1回の送信時間を求めて算出しても良いし、統一的に同じ値を採用してもよい。真の場合には処理ステップS1227に進み、偽である場合には処理ステップS1228に進む。
【0050】
送信のデッドライン超過となるときの処理ステップS1227の処理では、動的冗長通信部122は作業効率影響管理表122Cに基づいて、低い作業効率影響度のデータを停止する。
【0051】
送信のデッドライン超過とならないときの処理ステップS1228の処理では、動的冗長通信部122は基準送信回数でデータを連続送信する。しかし、処理ステップS1224あるいは処理ステップS1227で停止指令を受けている場合には、送信処理が行われない。
【0052】
なお、管制システムは送信停止時に追加で処理を実行してもよい、例えば、地図の周辺(例:3マス以内)に位置する他の車両と人に対して、該当車両が縮退していることを通知し、知らせてもよい。
【0053】
また、連続送信回数が最大送信回数を超過するときに、送信周期内の最大連続送信に要する時間に対する残余の時間を割いて。送信回数を追加して行うように変更する事であってもよい。
【0054】
【数1】
【0055】
(1)式は、図11の最初の処理ステップS1221で求める目標送信回数の算出式である。目標送信回数は通信ロスト率を考慮して各データの目標到達率を満たすように求められる。なおこの処理において、各データの目標到達率は図7の送信データ管理表を参照している。(1)式に示すように、目標送信回数は、通信ロスト率(PLost)を底にしたときの(1-目標到達率)の対数の解に対して、整数に繰り上げた値となる。
【0056】
【数2】
【0057】
通信ロスト率(PLost)は(2)式に示すように、1-受信数の総和(Crecv)/送信数の総和(Csend)で求められる。なお、通信ロスト率は、1つの制御周期における送信数、受信数を総和とみても良いし、複数の制御周期としてもよい。
【0058】
1つの制御周期における送信数と受信数を総和として場合には、数が小さいために目標送信回数の変動が大きくなり、目標送信回数が一時的に巨大な回数となる可能性がある。従って、一度に増加させる送信送信回数を1回に制限するなどのフィルタ処理を行っても良い。
【0059】
図12は管制制御部123の処理フローである。図12の処理ステップS1231では、管制制御部123は車両制御に係る制御演算や人への情報提示内容の演算を行う。次に処理ステップS1232では、管制制御部123は車両制御のためにデータを送信要求する。なお実施例1では車両13に対しての制御指示や情報共有を想定しているが、これに限らない。例えば、限定領域にいる人に対して、通知機能を有したデバイスをHMIとして利用し、リスクの通知や、ナビゲートなどの情報提示を行ってもよい。
【0060】
図13は経路通知部131の処理フローである。図13の処理ステップS1311では、経路通知部131は車両13の走行経路情報131Aを送付する。
【0061】
図14は受信回数集計部132の処理フローである。図14の処理ステップS1321では、受信回数集計部132は制御周期、データごとに同種のデータを受信した回数を集計する。次に、処理ステップS1322では、受信回数集計部132は受信データを車両制御部133に出力する。処理ステップS1323では、受信回数集計部132は受信回数132Aを動的冗長通信部122に送付する。
【0062】
なお受信回数132Aは単独のパケットとして管制システム12に送付しなくても良い。例えば、他の車両から管制システムに送付するデータに同封して返信してもよし、ハートビートに同封しても良い。
【0063】
図15は車両制御部133の処理フローである。図15の処理ステップS1331において、車両制御部133は受信データ132Bに基づいて車両を制御する。前述したように、受信データが届かない場合には、データに応じた縮退制御を選択して実行することで安全性を保証する。例えば、低速自動運転、指定場所に停止、その場で停止などを実行する。
【0064】
実施例1では、車両に対して実施しているが、これに限らない。例えば、人が所持するデバイスへの表示・音・振動することで人を誘導してもよい。この場合において受信データが到着しない場合の縮退制御も同様に実施され、縮退制御に入ったことを知らせる人への通知動作となる。
【0065】
実施例1によると、車両の通信状態に応じて送信回数を動的に調整するために、通信の確実性が向上できる。
【0066】
実施例1によると、データごとに送信回数を変更可能となるために、通信帯域を効率的に使用することが可能となる。
【0067】
実施例1によると、制御処理視点からデッドライン超過を判定することで、作業の影響が少なく、システム全体を継続動作することが可能となり、安全性を維持しつつ、効率性も向上できる。
【0068】
実施例1によると、通信状態付き地図を利用することで、車両が次に移動する場所における通信の状態を知ることが可能となり、送信回数を予め調整することが可能となるために、通信の確実性が向上できる。
【0069】
なお、実施例1において、次のエリアが電波の届かない場所であることを基準値判定部121が認識した場合には、動的冗長通信部122がデータ124Aを送信する際に、通知メッセージを一緒に送付してもよい。
【0070】
実施例1、2、3において、受信回数が少ないことは通信パケットがロストしていることを意味している。これは無線通信におけるランダム誤りやバースト誤りによって起因して発生する。またこれに限らない。例えば、通信状態の変化に誘発されて発生する通信ドライバの不具合によって通信パケットがロストすることも含む。
【0071】
実施例1において、車両の通信状態が悪い場合には動的冗長通信部がデータ送信を停止する。このとき、管制制御部は制御演算を継続して実行できるために、通信状態が回復したときに、動的冗長通信部は管制制御部を再起動することなくデータ送信を再開できる。このようにダウンタイム削減に寄与できる。
【実施例2】
【0072】
実施例1と異なる点を中心に実施例2について、以下の図面を用いて説明する。
【0073】
図16は本発明の実施例2にかかわるシステムの構成図を示す。制御システム2は、管制システム12、車両23からなる。管制システム12と車両23は無線で通信する。実施例1では、車両位置を屋外に固定設置されている既存設備が備えるインフラセンサ11から得ているが、実施例2では車両自身が検知する車両位置センサを利用するものである。
【0074】
実施例2では、車両に備えられた位置推定処理部234は、GPSやGNSSなどの位置センサ情報から車両位置を推定し,車両位置111Aを管制システム12に送付する。経路通知部131、基準値判定部121、動的冗長通信部122、受信回数集計部132、車両制御部133、は実施例1と同じであるため、説明を省略する。実施例1におけるユースケースは図2に示すユースケースと同様である。
【0075】
実施例1との相違は、位置推定処理部234の処理にあり、図17により位置推定処理部234の処理フローについて説明する。図17の処理ステップS2341においては、位置推定処理部234はGPSやGNSSなどの位置センサで車両物体の位置を推定する。次に、処理ステップS2342において、位置推定処理部234は管制システム12に車両位置情報111Aを送付する。
【0076】
実施例2によると、実施例1で述べたインフラセンサによる車両位置情報の提供に限らず、自車両が求めた位置情報に基づいて実施しても良い。これにより、幅広い適用が可能となる。
【実施例3】
【0077】
実施例1、2と異なる点を中心に実施例3について、以下の図面を用いて説明する。
【0078】
図18は、本発明の実施例3に係る制御システムの構成図を示す。制御システム1は、管制システム12、車両13、車両14からなる。管制システム12と車両13、管制システム12と車両14は無線で通信する。
【0079】
係る構成において、管制システム12は車両14の通信状態をハートビート324Aに基づいて監視することで、場所ごとの通信状態をリアルタイムに更新する。具体的には、管制システム32は図1の構成に通信状態管理部324を追加して備え、通信状態管理部は時刻情報を付与したハートビート324Aを車両14に送信する。車両14は、通信管理応答部335を備え、通信管理応答部335は、管制システム12から受信したハートビート324Aを返信する。管制システム12側の通信状態管理部324は、受信したハートビート324Aの時刻情報と現在の時刻情報の差分から通信遅延を推定し、通信状態を求める。そして車両位置111Aに基づいて、通信状態付き地図324Aの通信状態を更新する。
【0080】
図19は、車両13の車両位置111Aと走行経路131Aの関係の一例を示す。この例では2台の車両13と車両14が走行し、車両13は走行経路131Aに従って走行している。また車両14は車両13よりも先行して、同様の方向に走行している。実施例3では説明の都合上、車両の位置情報をマス目状のグリッドで表現しているが、これに限らない。例えば、緯度経度情報であっても良いし、あるいは、レーンをつなぎ合わせて表現されたレーンIDで位置情報を表現してもよい。
【0081】
図20は、実施例3に係る通信状態付き地図の例を示す。通信状態付き地図324Aは、指定領域の横方向を示す座標X、指定領域の縦方向を示す座標Y、ハートビートから求められた通信時間から推定された通信状態、通信状態を更新したときの時刻を示す更新時刻で構成される。図3図20を比較して明らかなように、図3の通信状態付き地図は、事前作成のもの(オフライン)であるに対し、図20の通信状態付き地図は、更新時刻の情報を有し、現状を反映して逐次修正して作成のもの(オンライン)であるということができる。
【0082】
次に図21を参照して、通信状態管理部324の処理フローを説明する。図21の最初の処理ステップS2341において、通信状態管理部324は時刻情報を付与したハートビート324Aを車両14に送付し、処理ステップS2342において、通信状態管理部324は車両14からのハートビートの返信を待つ。処理ステップS2343において、通信状態管理部324は受信したハートビート324Aに付与された時刻情報と現在時刻の差分を算出する。処理ステップS2344では、通信状態管理部324は時刻差から通信遅延を推定し、遅延時間に応じて通信時間を決定する。
【0083】
このとき、通信時間がかかるほど通信状態が悪いことを意味しており、車両情報111Aに基づいて通信状態付き地図324Aの通信状態を更新するが、更新時間から一定時間経過経過した座標においては通信状態を不明とし、更新時間をクリアする。
【0084】
図22は通信管理応答部325の処理フローである。図22の処理ステップS3251において、通信管理応答部325は時刻情報を付与したハートビート324Aを受信する。処理ステップS3252では、通信管理応答部325は受信した時刻情報を付与したハートビート324Aを処理状態管理部324に返信する。
【0085】
上記のように構成され機能する実施例3によれば、車両が収集したリアルタイムな通信状態に応じて、送信回数を調整することが可能となるために、予め地図の通信状態を調査する必要がなく、通信の確実性を向上できる。本実施例では、車両のハートビートの通信時間に基づいて通信状態を推定したがこれに限らない。例えば、基地局から提供されるエリアの通信情報を利用して通信状態を推定もよい。
【0086】
実施例3において、送信回数が多く、デッドライン超過が予測される場合には、送信を中止したことを、周辺の車両に通知しても良い。例えば、車両14への送信が中止となったことを車両13に通知し、それに基づいて縮退制御を行ってよい。
【0087】
実施例1,2,3では、管制システムで動的冗長通信部を実行し、車両で受信回数集計部を実行しているが、この構成に限らない。例えば、車両で動的冗長通信部を実行し、管制システムで受信回数集計部を実行してもよい。また双方が実行しても良い。
【0088】
実施例1,2,3では、受信回数集計部が送付する受信回数情報の送信回数を1回としているが、これに限らない。例えば、実施例1を例に説明すると、動的冗長通信部を車両に設置し、受信回数集計部を管制システムに設置することで、前記受信回数情報の送信回数を通信情報に応じた送信回数で車両から管制システムに送信するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1:制御システム
11:インフラセンサ
12:管制システム
13:車両
111:位置推定処理部
121:基準値判定部
122:動的冗長通信部
123:管制制御部
131:経路通知部
132:受信回数集計部
133:車両制御部
図1
図2
図3
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図5
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図10
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