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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】るつぼ型誘導炉
(51)【国際特許分類】
   F27B 14/12 20060101AFI20241121BHJP
   F27B 14/06 20060101ALI20241121BHJP
   F27D 1/02 20060101ALI20241121BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20241121BHJP
   H05B 6/24 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F27B14/12
F27B14/06
F27D1/02
F27D11/06 A
H05B6/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021170403
(22)【出願日】2021-10-18
(65)【公開番号】P2023060680
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 大介
(72)【発明者】
【氏名】岩元 孝史
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-011650(JP,U)
【文献】特開2013-210114(JP,A)
【文献】特開昭62-055891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/12
F27B 14/06
F27D 1/02
F27D 11/06
H05B 6/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解室の外周に誘導コイルが巻回されているとともに、その誘導コイルの外側に、磁路を形成するための鉄心が設けられており、前記誘導コイルに通電することで生ずる電磁誘導作用によって前記溶解室内の金属を溶解するるつぼ型誘導炉であって、
前記溶解室の壁上面を覆うように溶解室の膨張を抑制するための押え板が固着されているとともに、
その押え板が、中央に円形の材料投入口を設けるとともに、渦電流の発生を防止するための複数のスリットを、前記材料投入口の中心に対して放射状に設けたものであることを特徴とするるつぼ型誘導炉。
【請求項2】
前記鉄心の外周が、ハウジングによって覆われているとともに、
前記押え板が、そのハウジングに着脱自在に固着されていることを特徴とする請求項1に記載のるつぼ型誘導炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄、鋳鋼、ステンレス、銅、および、それらの合金等の金属を加熱し溶解させて精錬するためのるつぼ型誘導炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属を加熱し溶解させて精錬するための装置として、るつぼ型誘導炉が用いられている。るつぼ型誘導炉としては、特許文献1の如く、耐火物によって有底円筒状に形成された溶解室の外側に、誘導コイルが捲回され、その誘導コイルの外側にL形やI形の鉄心が設けられており、誘導コイルへの電源供給による電磁誘導作用を利用して、溶解室内の金属を加熱するものが知られている。また、そのようなるつぼ型誘導炉は、炉枠内において不定形耐火物(キャスタブル耐火材)を用いて炉体である溶解室を施工する方法によって製造されている。
【0003】
また、特許文献2の如く、定形耐火物として別個に形成した溶解室を炉枠内に組み込むことによってるつぼ型誘導炉を形成し、一定の期間あるいは一定回数の操業を繰り返した後に、新たな溶解室と交換可能としたものも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-280452号公報
【文献】特開平9-303969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、るつぼ型誘導炉は、繰り返し使用すると、溶解室の表面の耐火物が損耗してクラックや亀裂が入るようになるが、その原因は、溶湯からの熱により溶解室が上下方向に膨張することであると考えられている。しかしながら、従来のるつぼ型誘導炉においては、溶解室の熱膨張(特に上下方向の熱膨張)を抑制するための手段が講じられていなかった。
【0006】
本発明の目的は、従来のるつぼ型誘導炉が有する問題点を解消し、使用時の溶解室の熱による膨張(特に上下方向の膨張)を効果的に防止して、溶解室の再築炉や交換の周期を長くすることが可能で実用的なるつぼ型誘導炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、溶解室の外周に誘導コイルが巻回されているとともに、その誘導コイルの外側に、磁路を形成するための鉄心が設けられており、前記誘導コイルに通電することで生ずる電磁誘導作用によって前記溶解室内の金属を溶解するるつぼ型誘導炉であって、前記溶解室の壁上面を覆うように溶解室の膨張(主として上下方向の膨張)を抑制するための押え板が固着されているとともに、その押え板が、中央に円形の材料投入口を設けるとともに、渦電流の発生を防止するための複数のスリットを、前記材料投入口の中心に対して放射状に設けたものであることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記鉄心の外周が、ハウジングによって覆われているとともに、前記押え板が、そのハウジングに着脱自在に固着されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係るるつぼ型誘導炉によれば、溶解室の壁上面を覆うように設けられた押え板によって、使用時の溶解室の膨張(主として、上下方向の膨張)を抑えて、溶解室の熱変形に起因した破損(クラックや亀裂の発生等)を効果的に防止することができる。
また、請求項1に係るるつぼ型誘導炉によれば、電磁誘導によって溶解室を加熱する際に、スリットが渦電流の発生を防止するため、押え板が加熱してしまう事態を効果的に防止することができる。また、押え板にスリットが形成されていることにより、溶解室の過度の膨張によって押え板が破損する事態(折れ曲がったり割れたりする事態)をも効果的に防止することができる。
【0011】
請求項2に係るるつぼ型誘導炉によれば、溶解室自体に押え板を固着する構造を設ける必要がないため、安価かつ容易に製造することができる上、溶解室のメンテナンス作業や交換作業を容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】るつぼ型誘導炉を示す説明図(左側面図)である。
図2】るつぼ型誘導炉を示す説明図(平面図)である。
図3】るつぼ型誘導炉を示す説明図(炉本体の鉛直断面図)である。
図4】押え板を炉枠に螺着するための螺着部材を示す説明図である(aは第一螺着部材を示したものであり、bは第二螺着部材を示したものである)。
図5】炉本体を傾けた状態のるつぼ型誘導炉を示す説明図(左側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るるつぼ型誘導炉の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
<るつぼ型誘導炉の構造>
るつぼ型誘導炉1は、溶解室2、押え板3、炉底耐火材4、バック材層5、加熱手段である加熱コイル19、鉄心6、ハウジングとして機能する炉枠7等によって構成されており、電磁誘導作用を利用して、溶解室2内の金属を加熱して溶融させるものである。溶解室2は、所定の厚みを有する円筒状のスリーブ2aと、所定の厚みを有する円板状の内底材2bとによって形成されている。スリーブ2aは、アルミナ、シリカ、マグネシア等の耐火物原料によって形成された定形耐火物であり、内底材2bは、スリーブ2aの形成材料と同じ成分を有する不定形耐火物によって形成されたものである。そして、前方の上端縁際に、内容物を注ぎ出すための半円筒状の湯口8が、他の部分よりも上方に突出するように形成されている。
【0016】
また、溶解室2の外側には、不定形耐火物(粉状のアルミナ、シリカ、マグネシア等の耐火物原料)によって形成されたバック材層5が、円筒状に設けられており、そのバック材層5の外側には、加熱コイル19が捲回されており、さらに、その加熱コイル19の外側に、鉄心6が設けられている。一方、溶解室2の下側には、不定形耐火物(粉状のアルミナ、シリカ、マグネシア等の耐火物原料)によって形成された炉底耐火材4が設けられている。
【0017】
そして、溶解室2、炉底耐火材4、バック材層5、加熱コイル19、鉄心6からなる炉本体20が、金属製の柱状体および板状体によって縦長な直方体状に形成された炉枠7の内部に収納された状態になっている。さらに、炉本体20は、溶解室2の湯口8を挟んだ上端際の2箇所が、ヒンジピン9,9を介して炉枠7の上端部に枢着されているとともに、上端際の左右の部分が、炉枠7の基台21の下端際の左右の部分に、それぞれ、油圧シリンダ10,10によって連結されている。
【0018】
さらに、炉枠7の上面には、溶解室2の円形の上端面を覆うように、中央を円形に開口した矩形の上板11が設けられている。そして、その炉枠7の上板11の上側に、溶解室2の熱膨張を抑制するための押え板3が、着脱自在に固着(螺着)されている。押え板3は、鉄の鋳物によって矩形の板状に形成されたものであり、約10mmの厚みを有している。また、押え板3の中央には、円形の材料投入口3aが設けられており、溶解室2の湯口8を挿通させるための台形状の切り欠き3bが、材料投入口3aとつながるように設けられている。さらに、中央の材料投入口3aの周囲には、5本のスリット12,12・・が設けられている。それらのスリット12,12・・は、幅が約5mmで深さが約3.0mmであり、材料投入口3aの中心に対して放射状に配置された状態になっている。
【0019】
上記した押え板3は、前後の左右のコーナー際の部分において、それぞれ、第一螺着部材13,13、第二螺着部材17,17を利用して炉枠7の上板11の上側に着脱自在に螺着されている。図4は、第一螺着部材13および第二螺着部材17を示したものである。第一螺着部材13は、ネジ溝を螺刻した棒状のボルト体13aの下端際に、ネジ孔13cを穿設した板材13bを溶接したものである。一方、第二螺着部材17は、ネジ溝を螺刻した棒状のボルト体17aの下端際に、円環状(円柱状体を円形に繋いだ形状)のリング体17bを溶接したものである。
【0020】
押え板3の前側の左右の部分においては、図3の如く、第一螺着部材13,13を利用して、その板材13bのネジ孔13cに、炉枠7のフレーム同士を螺着した水平状のボルト14を挿通させてナット15で締着するとともに、押え板3の前側の左右に穿設されたネジ孔(図示せず)に、第一螺着部材13のボルト体13aを挿通させてナット16で締着することによって、押え板3が炉枠7の前方の上端際に螺着されている。
【0021】
一方、押え板3の後側の左右の部分においては、第二螺着部材17,17を利用して、そのボルト体17aを、炉枠7の上板に穿設されたネジ孔(図示せず)および押え板3に穿設されたネジ孔(図示せず)に挿通させてナット18で締着することによって、押え板3が炉枠7の上板11に螺着されている。そして、押え板3は、中央の材料投入口3aを溶解室2と同心状に配置させ、裏面の材料投入口3aの周囲の部分を溶解室2の上端面に当接させた状態で固定されている。
【0022】
<るつぼ型誘導炉の作用>
上記の如く構成されたるつぼ型誘導炉1においては、加熱コイル19および鉄心6を利用した電磁誘導によって、溶解室2の内部に投入された金属を加熱して溶解させることができる。また、油圧シリンダ10,10を作動させてピストン軸を伸張させることにより、左右のヒンジピン9,9の枢着部分を中心にして、炉本体20を回動させることによって、溶解室2内の溶湯を湯口8から注ぎ出すことができる。
【0023】
そして、溶解室2の内部で金属を溶解させる際には、炉枠7の上板に固着された押え板4が、溶解室2の膨張(主として、上方向への膨張)を効果的に抑制して、溶解室2に周方向のクラックや亀裂が入る事態を効果的に防止する。さらに、溶解室2が過度に膨張した場合でも、押え板3は、材料投入口3aの周囲に形成されたスリット12,12・・によって撓むことができるため、不可逆的に折れ曲がったり、破断したりする事態がきわめて起こりにくい。
【0024】
<るつぼ型誘導炉の効果>
るつぼ型誘導炉1は、上記の如く、溶解室2の壁上面を覆うように、溶解室2の膨張を抑制するための押え板3が固着されているため、その押え板3によって、使用時の溶解室2の膨張(主として上下方向の膨張)を抑えて、溶解室2の熱変形に起因した破損(クラックや亀裂の発生等)を効果的に防止することができる。
【0025】
また、るつぼ型誘導炉1は、鉄心6の外周がハウジングである炉枠7によって覆われているとともに、押え板3が、その炉枠7に着脱自在に固着されているため、溶解室2自体に押え板3を固着する構造を設ける必要がなく、安価かつ容易に製造することができる上、溶解室2のメンテナンス作業や交換作業を容易に実施することができる。
【0026】
さらに、るつぼ型誘導炉1は、押え板3が渦電流の発生を防止するためのスリット12,12・・を設けたものであるため、電磁誘導によって溶解室2を加熱する際に、スリット12,12・・によって渦電流の発生が防止されるので、押え板3が加熱してしまう事態を効果的に防止することができる。また、押え板3にスリット12,12・・が形成されていることにより、溶解室2の過度の膨張によって押え板3が破損する事態(不可逆的に折れ曲がったり、割れたりする事態)をも効果的に防止することができる。
【0027】
<るつぼ型誘導炉の変更例>
本発明に係るるつぼ型誘導炉は、上記した各実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、溶解室、押え板、炉底耐火材、加熱コイル、鉄心、炉枠等の形状、構造、材質等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0028】
たとえば、本発明に係るるつぼ型誘導炉は、上記実施形態の如く、定形耐火物であるスリーブと不定形耐火物である内底材とからなる溶解室を用いたものに限定されず、炉枠内で溶解室を築炉したものでも良い。また、押え板は、上記実施形態の如く、鋳鉄からなるものに限定されず、耐火物からなるもの等に変更することも可能である。さらに、押え板は、上記実施形態の如く、前後左右のコーナーを炉枠の上面(あるいは上面際)にネジ止めすることによって炉枠の上側に固着されるものに限定されず、前側(あるいは後側)の左右に設けられた係合部材を、炉枠の上面(あるいは上面際)に設けられた被係合部材に係合させた状態で、後側(あるいは前側)の左右のコーナーを炉枠の上面(あるいは上面際)にネジ止めすることによって炉枠の上側に固着されるもの等でも良い。さらに、押え板は、上記実施形態の如く、スリットを設けたものに限定されず、スリットのないものでも良いし、スリットの本数や形状も、必要に応じて、適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るるつぼ型誘導炉は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、金属を加熱し溶融させて精錬するための装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1・・るつぼ型誘導炉
2・・溶解室
3・・押え板
6・・鉄心
7・・炉枠
12・・スリット
19・・加熱コイル
図1
図2
図3
図4
図5