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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】エアバッグ装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20241121BHJP
   B60R 21/201 20110101ALI20241121BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/201
B60N2/427
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021173550
(22)【出願日】2021-10-23
(65)【公開番号】P2023063188
(43)【公開日】2023-05-09
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】桜井 努
(72)【発明者】
【氏名】栃木 寛史
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2018/105335(JP,A1)
【文献】国際公開第2021/176896(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/087698(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/026695(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/201
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートに収容されるエアバッグ装置であって、
膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグクッションと;
車両のシートフレームの内側に配置され、前記エアバッグクッションに対して膨張ガスを供給するインフレータと;
加熱加圧によって溶融収縮する延性素材で形成され、前記エアバッグクッションを保持するカバー部材と;を備え、
前記エアバッグクッションは、前記インフレータを収容する後方チャンバ部分と、当該後方チャンバ部分から前方に延び、収容時に前記シートフレームの外側に配置される前方チャンバ部分とを含み、
前記カバー部材は、少なくとも前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分に対応する領域を加熱加圧することで、前記エアバッグクッションの当該部分を圧縮保持するように構成されており、
前記カバー部材は、少なくとも前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分を包囲する前方カバー領域と、当該前方カバー領域の後方に延びて少なくとも前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分の一部を覆う後方カバー領域とを含み、
前記後方カバー領域は、前記カバー部材の後端の内側に位置する第1の後縁部と外側に位置する第2の後縁部とを含み、
前記カバー部材の前記第1及び第2の後縁部の両方が、前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分に対して、破断可能な縫製によって連結されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分は、ロール又は折り畳まれた状態で収容されることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
収容時の前記エアバッグクッションは、前記前方チャンバ部分と前記後方チャンバ部分との間に、前記シートフレームの前縁部分で屈曲する屈曲部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記カバー部材は、前記エアバッグクッションの前記屈曲部に相当する箇所は、加熱加圧されないことを特徴とする請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記カバー部材は、複数の高分子繊維を含む延性布材料で形成され、前記繊維の少なくとも一部が互いに融着することで所定の形状を保持可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記インフレータは、スタッドボルトによって前記シートフレームに固定される構成であり、
前記カバー部材の前記前方カバー領域の端部には、前記シートフレームの外側に貫通した前記スタッドボルトに連結されるタブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記タブは、加熱加圧されることを特徴とする請求項6に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記カバー部材の前記第2の後縁部は、前記シートフレームの内側において前記スタッドボルトに固定されることを特徴とする請求項に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記カバー部材の前記第1の後縁部は、前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分に対して縫製によって連結されることを特徴とする請求項8に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記カバー部材の前記第1の後縁部において、前記縫製の近傍に脆弱なスリットが形成されていることを特徴とする請求項1又は9に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記カバー部材の前記後方カバー領域が前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分を包囲するように、前記第1の後縁部と前記第2の後縁部の両方が、前記スタッドボルトに対して固定されることを特徴とする請求項6に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記カバー部材の前記後方カバー領域の一部に、スリットが形成されていることを特徴とする請求項11に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
請求項1に記載のエアバッグ装置を製造する方法であって、
エアバッグクッションの後方チャンバ部分にインフレータを収容する工程と;
前記エアバッグクッションの前方チャンバ部分を、ロール又は折り畳まれた状態に圧縮する工程と;
加熱加圧によって溶融収縮する延性素材で形成されたカバー部材を、前記前方チャンバ部分と前記後方チャンバ部分の少なくとも一部を覆うように配置することで、第1の中間パッケージを形成する工程と;
前記カバー部材の一部を加熱加圧し、前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分を更に圧縮することで、第2の中間パッケージを形成する工程と;
前記インフレータを前記シートフレームの内側に固定する工程と;
前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分と前記後方チャンバ部分との間を屈曲させて、当該前方チャンバ部分を前記シートフレームの外側に配置する工程と;
前記カバー部材の端部を前記シートフレームに連結する工程と;を含むことを特徴とするエアバッグ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに搭載されるエアバッグ装置及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために、1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグとしては、例えば、自動車のステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆる運転者用エアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、更には、シートのサイドサポート部に収容され、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。本発明は、主にサイドエアバッグ装置に関するものである。
【0003】
サイドエアバッグ装置は、シートのサイドサポート部の内部に収容されるため、形状及び大きさの制約が多く、コンパクトにパッケージングすることが必要である。そこで、例えば、エアバッグを折り畳み、又はロールすることで圧縮し、これを柔軟なカバーで覆った状態でシートフレームに取り付ける手法が提案されている。この場合、膨張ガスによりエアバッグが膨張を開始すると、カバーが破断してエアバッグが外部に大きく展開することになる。
【0004】
しかしながら、従来のようにカバーで圧縮されたエアバッグを保持するだけでは、エアバッグを十分にコンパクトにすることができず、更なるコンパクト化が要求される。
【0005】
特に、インフレータをシートフレームの内側に配置し、圧縮したエアバッグの大半をシートフレームの外側に配置するような場合に、エアバッグをコンパクトに収容することが困難となる。
【0006】
また、折り畳まれ、又はロールされたエアバッグの周囲に硬いプラスチックのカバーを備える方法が提案されているが、硬質なカバーによりエアバッグユニットのコストと重量が大幅に増加するだけでなく、パッケージ化したエアバッグの体積を十分に小さくすることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、車両用シートにコンパクトに収容可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、車両用シートにコンパクトに収容可能なエアバッグ装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(第1の態様)
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、車両用シートに収容されるエアバッグ装置であって、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグクッションと;車両のシートフレームの内側に配置され、前記エアバッグクッションに対して膨張ガスを供給するインフレータと;加熱加圧によって溶融収縮する延性素材で形成され、前記エアバッグクッションを保持するカバー部材と;を備えている。前記エアバッグクッションは、前記インフレータを収容する後方チャンバ部分と、当該後方チャンバ部分から前方に延び、収容時に前記シートフレームの外側に配置される前方チャンバ部分とを含む。そして、前記カバー部材は、少なくとも前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分に対応する領域を加熱加圧することで、前記エアバッグクッションの当該部分を圧縮保持するように構成される。
【0010】
ここで、「加熱加圧」とは、エアバッグクッションを保持したカバー部材を、金型等を用いて、加熱した状態で加圧する意味である。
また、「延性素材」とは、布の繊維に可動性又は弾性の特性を与える材料組成、または、可動性又は弾性の特性を有する繊維構造の素材を指すものである。素材の可動性又は弾性によって、延性素材の布が加熱および加圧工程において、金型キャビティの内面に密着適合することになる。
【0011】
上記のように、本発明においては、エアバッグクッションを保持したカバー部材に対して、少なくともエアバッグクッションの前方チャンバ部分に対応する領域を加熱加圧して、エアバッグクッションの当該部分を圧縮保持する。すなわち、エアバッグクッションの主要な部分を占め、シートフレームの外側に配置される部分をカバー部材で圧縮した状態で保持することになる。このとき、加熱加圧されたカバー部材は、溶融収縮するため、カバー部材の当該部分は他の部分に比べて硬度が高くなり、形状保持性能が向上する。一方、インフレータを収容した後方チャンバ部分は、カバー部材を介して圧縮されることは無いため、比較的柔軟な状態を維持することになり、容易に屈曲する状態となる。
【0012】
前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分は、ロール又は折り畳まれた状態で収容することができる。
【0013】
収容時の前記エアバッグクッションは、前記前方チャンバ部分と前記後方チャンバ部分との間に、前記シートフレームの前縁部分で屈曲する屈曲部を有する形態を採ることができる。
【0014】
前記カバー部材は、前記エアバッグクッションの前記屈曲部に相当する箇所は、加熱加圧されないことが好ましい。これによって、屈曲部の柔軟性が確保され、エアバッグクッションを容易に屈曲でき、シートフレームに密着した状態でエアバッグクッションを収容することができる。
【0015】
前記カバー部材は、複数の高分子繊維を含む延性布材料で形成され、前記繊維の少なくとも一部が互いに融着することで所定の形状を保持可能に構成することができる。
【0016】
前記カバー部材は、少なくとも前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分を包囲する前方カバー領域と、当該前方カバー領域の後方に延びて少なくとも前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分の一部を覆う後方カバー領域とを含む構成とすることができる。そして、前記後方カバー領域は、前記カバー部材の後端の内側に位置する第1の後縁部と外側に位置する第2の後縁部とを含むように成形することができる。
【0017】
前記インフレータは、スタッドボルトによって前記シートフレームに固定される構成とし、前記カバー部材の前記前方カバー領域の端部には、前記シートフレームの外側に貫通した前記スタッドボルトに連結されるタブを設けることが好ましい。
【0018】
前記タブは、加熱加圧されることで、剛性が高まり、スタッドボルトに容易に連結することができる。
【0019】
前記カバー部材の前記第1及び第2の後縁部の両方が、前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分に対して、破断可能な縫製によって連結される構成とすることができる。
【0020】
この場合、エアバッグクッションが膨張展開を開始すると、縫製箇所が破断して、カバー部材が圧縮状態のエアバッグクッションの保持を解放することになる。
【0021】
前記カバー部材の前記第2の後縁部は、前記シートフレームの内側において前記スタッドボルトに固定することができる。
【0022】
この場合、エアバッグクッション、カバー部材、インフレータを含むエアバッグアセンブリの取り付け位置が簡単にずれることなく、所望の位置、姿勢に維持し易くなる。
【0023】
前記カバー部材の前記第1の後縁部は、前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分に対して縫製によって連結することができる。
【0024】
前記カバー部材の前記第1の後縁部において、前記縫製の近傍に脆弱なスリットを形成することができる。
【0025】
この場合、エアバッグクッションが展開を開始したときに、カバー部材を確実に引き離すことで、エアバッグクッションとの干渉を最小限に抑えることが可能となる。
【0026】
前記カバー部材の前記後方カバー領域が前記エアバッグクッションの前記後方チャンバ部分を包囲するように、前記第1の後縁部と前記第2の後縁部の両方が、前記スタッドボルトに対して固定される構成とすることができる。
【0027】
この場合、エアバッグクッション、カバー部材、インフレータを含むエアバッグアセンブリの取り付け位置、取り付け姿勢をより好ましい状態に維持することができる。
【0028】
前記カバー部材の前記後方カバー領域の一部に、スリットを形成することができる。
【0029】
(第2の態様)
本発明の第2の態様は、車両用シートに収容されるエアバッグ装置の製造方法であって、エアバッグクッションの後方チャンバ部分にインフレータを収容する工程と;前記エアバッグクッションの前方チャンバ部分を、ロール又は折り畳まれた状態に圧縮する工程と;加熱加圧によって溶融収縮する延性素材で形成されたカバー部材を、前記前方チャンバ部分と前記後方チャンバ部分の少なくとも一部を覆うように配置することで、第1の中間パッケージを形成する工程と;前記カバー部材の一部を加熱加圧し、前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分を更に圧縮することで、第2の中間パッケージを形成する工程と;前記インフレータを前記シートフレームの内側に固定する工程と;前記エアバッグクッションの前記前方チャンバ部分と前記後方チャンバ部分との間を屈曲させて、当該前方チャンバ部分を前記シートフレームの外側に配置する工程と;前記カバー部材の端部を前記シートフレームに連結する工程と;を含む。
【0030】
なお、本出願の明細書及び特許請求の範囲において、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員が向いている方向(車両の進行方向)を「前方」、その反対方向を「後方」と称し、座標の軸を示すときは「前後方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を「右方向」、乗員の左側を「左方向」と称し、座標の軸を示すときは「左右方向」と言う。左右方向において、シートのサイドフレームより乗員側の領域を「内」とし、サイドフレームから見て乗員とは反対の領域を「外」を示すものとする。更に、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の頭部方向を「上方」、乗員の腰部方向を「下方」と称し、座標の軸を示すときは「上下方向」と言う。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明に係る車両用シートの主に外観形状を示す斜視図であり、サイドエアバッグ装置の図示は省略する。
図2図2は、図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図であり、サイドエアバッグ装置の図示は省略する。
図3図3は、本発明に係る車両用シートの概略側面図であり、サイドエアバッグ装置が収容された状態を車幅方向の外側から観察した様子を概略的に示す。
図4図4は、本発明に係る車両用シートの概略側面図であり、エアバッグクッションが展開した状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。
図5図5は、本発明の第1実施例に係る車両用シートの構造を示す断面図であり、図3のA1-A1方向の断面の一部に対応する。
図6図6(A),(B)は、第1実施例に係るカバー部材とエアバッグクッションとの位置関係、構造を示す平面図であり、(A),(B)は表裏反転したものである。
図7図7は、カバー部材の作製に使用される繊維の構造を示す模式図である。
図8図8は、第1実施例に係るエアバッグクッションとカバー部材の構造を示す断面図であり、(A)が加熱加圧工程前の状態を示し、(B)が加熱加圧工程後の状態を示す。
図9図9は、第1実施例に係るエアバッグ装置をシートフレームに取付けた状態を示す断面図である。
図10図10は、本発明の第2実施例に係るエアバッグクッションとカバー部材の構造を示す断面図であり、加熱加圧工程前の状態を示す。
図11図11は、第2実施例に係るエアバッグ装置をシートフレームに取付けた状態を示す断面図である。
図12図12は、本発明の第3実施例に係るエアバッグクッションとカバー部材の構造を示す断面図であり、加熱加圧工程前の状態を示す。
図13図13は、第3実施例に係るエアバッグ装置をシートフレームに取付けた状態を示す断面図である。
図14図14は、本発明の第4実施例に係るエアバッグクッションとカバー部材の構造を示す断面図であり、加熱加圧工程前の状態を示す。
図15図15は、第4実施例に係るエアバッグ装置をシートフレームに取付けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態に係るエアバッグ装置について、添付図面に基づいて説明する。
【0033】
図1は、本発明に係る車両用シートの主に外観形状を示す斜視図であり、エアバッグ装置(エアバッグモジュール)20の図示は省略する。図2は、図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図であり、ここでも、エアバッグ装置(エアバッグモジュール)20の図示は省略する。図3は、本発明に係る車両用シートの概略側面図であり、左側座席のドアに近い側面(ニアサイド)にエアバッグ装置(エアバッグモジュール)20が収容された状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。図4は、本発明に係る車両用シートの概略側面図であり、エアバッグクッションが展開した状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。
【0034】
本実施例に係る車両用シートは、部位として観たときには、図1及び図2に示すように、乗員が着座する部分のシートクッション2と;背もたれを形成するシートバック1と、シートバック1の上端に連結されるヘッドレスト3とによって構成されている。
【0035】
図2に示すように、シートバック1の内部にはシートの骨格を形成するシートバックフレーム1fが設けられ、その表面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッド16(図5参照)が設けられ、当該パッド16の表面は皮革、ファブリック等の表皮14によって覆われている。シートクッション2の底側には着座フレーム2fが配置され、シートバック1と同様に、その上面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッドが設けられ、当該パッドの表面は皮革、ファブリック等の表皮14(図5)によって覆われている。着座フレーム2fとシートバックフレーム1fとは、リクライニング機構4を介して連結されている。
【0036】
シートバックフレーム1fは、図2に示すように、左右に離間して配置され上下方向に延在するサイドフレーム10と、このサイドフレーム10の上端部を連結する上部フレームと、下端部を連結する下部フレームとにより枠状に構成されている。ヘッドレストフレームの外側にクッション部材を設けることでヘッドレスト3が構成される。
【0037】
(第1実施例)
図5は、本発明に係る車両用シートの構造を示す断面図であり、図3のA1-A1方向の断面の一部に対応する。サイドフレーム10は、樹脂又は金属によって成形され、図5に示すようにL字断面形状又はコの字断面形状とすることができる。そして、サイドフレーム10に対してエアバッグモジュール(サイドエアバッグ装置)20が固定される。
【0038】
図5に示すように、シートバック1は、車幅方向側部(端部)において車両進行方向(車両前方)に膨出したサイドサポート部12を備える。サイドサポート部12の内部には、ウレタンパッド16が配置され、ウレタンパッド16の隙間にサイドエアバッグ装置20が収容される。サイドエアバッグ装置20は、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグクッション33と;エアバッグクッション33に対して膨張ガスを供給するインフレータ30とを備える。インフレータ30は、シートフレーム10の内側から外側に貫通するスタッドボルト32を有している。
【0039】
シートバック1の表皮14の継ぎ目18,22,24は内側に織り込まれて縫製によって連結されている。なお、前方の継ぎ目18は、エアバッグクッション33が展開した時に開裂するようになっている。
【0040】
エアバッグクッション33は、可撓性材料の2枚の別々のシートの周囲を縫製する、又は、1枚のシートを半分に折って2枚の層を重ねて周囲を縫製することで形成することができる。あるいは、2枚の層を形成する縦糸と緯糸を選択された部分で織り合わせて、2枚のシートの織り構造と一体で袋状に形成する、所謂「ワンピースウィービング」技法を採用することも可能である。
【0041】
エアバッグクッション33を作製する布は、好ましくは可塑性の布であり、例えばポリアミド繊維の縦糸と緯糸を織り合わせて形成される布を使用することができる。なお、非可塑性の布に対して、熱可塑性材料をコーティングしてもよい。
【0042】
エアバッグクッション33は、筒状のインフレータ30をエアバッグクッション33の内部に挿入するための開口部(図示せず)を有している。インフレータ30の一端は、エアバッグクッション33から露出しており、当該部分に発火用の信号を供給する制御ケーブルが接続される。インフレータ30の外面には、外側に延びる一対のスタッドボルト32が設けられており、エアバッグクッション33に形成された孔を通ってシートフレーム10に対して固定される。
【0043】
図5に示すように、本実施例に係るエアバッグ装置20は、加熱加圧によって溶融収縮する延性素材で形成され、エアバッグクッション33を保持するカバー部材50を備えている。
【0044】
図6は、第1実施例に係るカバー部材50とエアバッグクッション33との位置関係、構造を示す平面図であり、(A),(B)は表裏を反転したものである。図7は、カバー部材50の作製に使用される繊維の構造を示す模式図である。図8は、第1実施例に係るエアバッグクッション33とカバー部材50の構造を示す断面図であり、(A)が加熱加圧工程前の状態を示し、(B)が加熱加圧工程後の状態を示す。図9は、第1実施例に係るエアバッグ装置20をシートフレーム10に取付けた状態を示す断面図である。
【0045】
図8及び図9に示すように、エアバッグクッション33は、インフレータ30を収容する後方チャンバ部分33aと、当該後方チャンバ部分33aから前方に延び、収容時にシートフレーム10の外側に配置される前方チャンバ部分33bとを含んでいる。なお、エアバッグクッション33の後方チャンバ部分33aと前方チャンバ部分33bとは、折返し部50xの前後で区別することができる。
【0046】
図6に示すように、ロールされたエアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bが、袋状のカバー部材50の内部に収容されるが、後方チャンバ部分33aは露出した状態となる。
【0047】
カバー部材50は、エアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bに対応する所定領域60を加熱加圧することで、エアバッグクッション33の当該部分を圧縮保持するようになっている。
【0048】
カバー部材50の材料としては、複数の高分子繊維を含む不織布材料を採用することができる。不織布は、フェルトとして提供される。フェルトは、約4.25mmの厚みと300g/m2の密度を有するように成形することができる。本実施例においては、不織布材料(カバー部材50)としては、ポリエステル繊維を針加工により絡ませて互いに固定する既知のニードル法で製造されるポリエステルフェルトを採用することができる。ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)として提供され、フェルトは100%PET製とすることができる。なお、本実施例で使用されるフェルトは、実際には2種類の異なる構成の繊維を含むことができる。
【0049】
図7は、カバー部材50の作製に使用される繊維の構造を示す模式図である。図7の上側の繊維70aは、すべてPETで形成される単成分繊維である。具体的には、単成分繊維70aはすべてPETホモポリマーで形成されることが想定される。対照的に、図7の下側の繊維70bは、別個の芯74と、それを囲む被覆75を有する2成分複合繊維である。2成分複合繊維70bの芯74と被覆75は、異なる特性を有するように構成され、特に融点が異なり、被覆75は芯74よりも有意に低い融点を有する(例えば、120~150℃の範囲)。2成分複合繊維70bもすべてPETで形成され得るが、芯74はPETホモポリマーで形成され、被覆75はPETコポリマー(coPET)で形成されることができる。このように、PETとcoPETの組合せにより被覆75の融点は芯74の融点よりも低くなるが、全体的に繊維70bを確実にPETで形成できる。当然ではあるが、2成分複合繊維70bの芯74と単成分繊維70aは、どちらもPETホモポリマーで形成されるので、互いに同じ融点を有することになり、単成分繊維70aは2成分複合繊維70bの被覆75よりも高い融点を有することになる。
【0050】
2成分複合繊維70bは、フェルト材料において単成分繊維70a全体に均等に配分される。2成分複合繊維70bがフェルト材料の繊維の総数の30%~60%を占め、残りはすべて単成分繊維70aとすることが好ましい。
【0051】
繰り返しになるが、図6及び図8に示すように、エアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bは、ロール又は折り畳まれた状態で収容される。また、収容時のエアバッグクッション33は、前方チャンバ部分33bと後方チャンバ部分33aとの間に、シートフレーム10の前縁部分で屈曲する屈曲部50xを有する構造となっている。
【0052】
カバー部材50は、少なくともエアバッグクッション33の屈曲部50xに相当する箇所は、加熱加圧されない。これによって、図9に示すように、屈曲部50xの柔軟性が確保され、エアバッグクッション33を容易に屈曲でき、シートフレーム10に密着した状態でエアバッグクッション33を収容することができる。
【0053】
カバー部材50は、少なくともエアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bを包囲する前方カバー領域50aと、当該前方カバー領域50aの後方に延びて少なくともエアバッグクッション33の後方チャンバ部分33aの一部を覆う後方カバー領域50bとに区別することができる。そして、後方カバー領域50bは、カバー部材50の後端の内側に位置する第1の後縁部51bと外側に位置する第2の後縁部51aとを有する。
【0054】
カバー部材50の前方カバー領域50aの先端部分には、シートフレーム10の外側に貫通したスタッドボルト32に連結されるタブ54が設けられている。このようなタブ54は、前方カバー領域50aと一緒に加熱加圧されるようになっている。
【0055】
カバー部材50の第1及び第2の後縁部51b,51aの両方が、エアバッグクッション33の後方チャンバ部分33aに対して、破断可能な縫製52によって連結されている。
【0056】
この場合、エアバッグクッション33が膨張展開を開始すると、縫製箇所52が破断して、カバー部材50が圧縮状態のエアバッグクッション33の保持を解放することになる。
【0057】
(製造、組み付け工程)
本実施例に係るエアバッグ装置20は、以下のような工程によって製造され、シートに組み付けられる。
【0058】
(工程1)
エアバッグクッション33の後方チャンバ部分33aにインフレータ30を収容する。
【0059】
(工程2)
エアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bを、ロール又は折り畳まれた状態に圧縮する。
【0060】
(工程3)
カバー部材50を、前方チャンバ部分33bと後方チャンバ部分33aの一部を覆うように配置することで、第1の中間パッケージ20aを形成する(図6図8(A))。
【0061】
(工程4)
カバー部材50の一部60を加熱加圧し、エアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bを更に圧縮することで、第2の中間パッケージ20bを形成する(図8(B))。例えば、第1の中間パッケージ20aを所定の金型に入れ、加熱しつつ加圧する。加熱工程は、2成分複合繊維70bの被覆75の融点を上回るが2成分複合繊維70bの芯74ならびに単成分繊維70aの融点よりも低い温度で行われる。
【0062】
なお、加熱工程と加圧工程とは同時に実行されるが、必ずしも最初から最後まで完全に同時である必要は無い。例えば、第1の中間パッケージ20aに対して圧力を加える前に熱を加えることができる。重要なのは、熱と圧力を同時に中間パッケージに加える時間が少なくとも存在することである。
【0063】
加圧工程は、5~200kNの圧力を第1の中間パッケージ20aに加え、温度は2成分複合繊維70bの被覆75の融点よりも高温に維持しておく。加熱工程と加圧工程とが重なる時間は、カバー部材50材料の性質によるが、2分未満とすることができる。
【0064】
エアバッグクッション33を可塑性の布で形成する場合、第1の中間パッケージ20aに圧力と熱を同時に加えることで、エアバッグクッション33を形成する布は圧縮によって可塑的に変形する。そして、第2の中間パッケージ20b内のロール状の前方チャンバ部分33bは、平坦になる。
【0065】
エアバッグクッション33が可塑的に変形する材料で形成されない場合には、第1の中間パッケージ20aに圧力と熱を同時に加えることで、カバー部材50のフェルト材料は薄くなり(例えば、0.55mm)、可塑的に変形する。より具体的には、2成分複合繊維の被覆75の融点よりも高い温度で加熱すると、被覆75が溶解する。したがって、被覆75は、カバー部材50における繊維が分布するすべての位置で、互いに融着する。しかし、カバー部材50は2成分複合繊維70bの芯74および単成分繊維70aの全体構造の融点よりも低温で加熱されるので、芯74と単成分繊維70aは固相のままであり、互いに融着しない。結果として、被覆75の材料だけが融着することになる。
【0066】
カバー部材50の全体に分布する2成分複合繊維の被覆75だけを融着させることにより、パッケージを同時加熱加圧する工程完了後にプレス機から取り外した後も、第2の中間パッケージ20bは三次元的形状を保持することになる。このように、カバー部材50は、加圧工程で生じた圧縮状態のロール状エアバッグクッション33(33b)を内部に確実に保持することができる。なお、2成分複合繊維70bの芯74と単成分繊維70a全体は融着していないので、カバー部材50は柔らかくわずかに適応性のある性質を残すことになる。
【0067】
(工程5)
インフレータ30をシートフレーム10の内側に固定する。
【0068】
(工程6)
エアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bと後方チャンバ部分33aとの間50xを屈曲させて、当該前方チャンバ部分33bをシートフレーム10の外側に折り返す(図9)。
【0069】
(工程7)
図9に示すように、カバー部材50のタブ54をスタッドボルト32に連結する。
【0070】
上記のように、本発明においては、エアバッグクッション33を保持したカバー部材50に対して、少なくともエアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bに対応する領域を加熱加圧して、エアバッグクッション33の当該部分を圧縮保持する。すなわち、エアバッグクッション33の主要な部分を占め、シートフレーム10の外側に配置される部分(33b)をカバー部材50で圧縮した状態で保持することになる。このとき、加熱加圧されたカバー部材50は、溶融収縮するため、カバー部材50の当該部分は他の部分に比べて硬度が高くなり、形状保持性能が向上する。一方、インフレータ30を収容した後方チャンバ部分33aは、カバー部材50を介して圧縮されることは無いため、比較的柔軟な状態を維持することになり、容易に屈曲する状態となる。
【0071】
(第2実施例)
図10は、本発明の第2実施例に係るエアバッグクッション33とカバー部材150の構造を示す断面図であり、加熱加圧工程前の状態(第1の中間パッケージ)を示す。図11は、第2実施例に係るエアバッグ装置をシートフレーム10に取付けた状態を示す断面図である。
【0072】
本実施例においては、上述した第1実施例と実質的に同一の構成要素については、同一の参照符号を付すものとする。また、第1実施例と対応するが変更された構成要素については、100番台の符号を付すものとする。例えば、カバー部材は、第1実施例では「50」であるが、第2実施例では「150」となる。そして、重複した説明は省略し、相違点のみを説明することとする。
【0073】
本実施例においては、カバー部材150の第1の後縁部151bが、シートフレーム10の内側においてスタッドボルト32に固定される。また、カバー部材150の第2の後縁部151aは、エアバッグクッション33の後方チャンバ部分33aに対して縫製152によって連結される。
【0074】
カバー部材150の第2の後縁部151aにおいて、縫製152の近傍に脆弱なスリット155が形成されている。そして、エアバッグクッション33が展開を開始したときに、カバー部材150がスリット155において確実に破断し、エアバッグクッション33とカバー部材150との干渉を最小限に抑えることが可能となる。
【0075】
(第3実施例)
図12は、本発明の第3実施例に係るエアバッグクッション33とカバー部材250の構造を示す断面図であり、加熱加圧工程前の状態(第1の中間パッケージ)を示す。図13は、第3実施例に係るエアバッグ装置をシートフレーム10に取付けた状態を示す断面図である。
【0076】
本実施例においては、上述した第1実施例と実質的に同一の構成要素については、同一の参照符号を付すものとする。また、第1実施例と対応するが変更された構成要素については、200番台の符号を付すものとする。例えば、カバー部材は、第1実施例では「50」であるが、第3実施例では「250」となる。そして、重複した説明は省略し、相違点のみを説明することとする。
【0077】
本実施例は、上述した第2実施例と同様に、カバー部材250の第2の後縁部251bが、シートフレーム10の内側で、インフレータ30のスタッドボルト32に連結される。また、カバー部材250の第1の後縁部251bと、第2の後縁部251aとが、共に、エアバッグクッション33の後方チャンバ部分33aに対して縫製252によって連結される。
【0078】
(第4実施例)
図14は、本発明の第4実施例に係るエアバッグクッション33とカバー部材250の構造を示す断面図であり、加熱加圧工程前の状態(第1の中間パッケージ)を示す。図15は、第4実施例に係るエアバッグ装置をシートフレーム10に取付けた状態を示す断面図である。
【0079】
本実施例においては、上述した第1実施例と実質的に同一の構成要素については、同一の参照符号を付すものとする。また、第1実施例と対応するが変更された構成要素については、300番台の符号を付すものとする。例えば、カバー部材は、第1実施例では「50」であるが、第3実施例では「350」となる。そして、重複した説明は省略し、相違点のみを説明することとする。
【0080】
本実施例においては、カバー部材350の後方カバー領域350bがエアバッグクッション33の後方チャンバ部分33aを包囲するように、第1の後縁部351bと第2の後縁部351aの両方が、スタッドボルト32に対して固定される。カバー部材350の後方カバー領域350bの一部に、スリット355が形成される。
【0081】
本実施例においては、カバー部材350によって、エアバッグクッション33の前方チャンバ部分33bだけでなく、後方チャンバ部分33aを含めて全体を包囲するため、エアバッグクッション33、カバー部材350、インフレータ30を含む第2の中間パッケージ(20b)を好ましい姿勢で、シートフレーム10に対して確実に取り付けることができる。
【0082】
本発明について実施例を参照して説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更可能なものである。例えば、上記実施例においては、ニアサイドのサイドエアバッグについて重点的に述べたが、ファーサイドエアバッグ(車両用シートの車両ドアから遠い側の面)や、スモールモビリティなど超小型車両等における単座の車両(ドアの有る無しにかかわらず一列にシートが一つしかない部分を含むような車両)等にも用いることが可能である。
【0083】
また、本発明は、上記ではフェルトタイプの不織布材料を用いる実施形態を具体的に説明したが、延性を有するものであれば、織布を使用することもできる。
図1
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図10
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