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  • 特許-フコシル化オリゴ糖の合成 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】フコシル化オリゴ糖の合成
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20241121BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241121BHJP
   C12P 19/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N1/20 A
C12N9/10
C12N15/31
C12N15/54
C12P19/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021531716
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 IB2019060423
(87)【国際公開番号】W WO2020115671
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】PA201800952
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】508278309
【氏名又は名称】グリコム・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Glycom A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】パパダキス,マノス
(72)【発明者】
【氏名】ペデルセン,マーギット
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-520267(JP,A)
【文献】特表2017-509346(JP,A)
【文献】特表2017-527311(JP,A)
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1992, Vol.267, No.9, pp.6122-6131
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2006, VOL.281, NO.10, pp.6385-6394
【文献】"alpha1,3-fucosyltransferase[Helicobacter pylori NCTC 11639]" AAB81031, [online], 1997年10月14日掲載,National Center for Biotechnology Information,2023年10月20日検索,インターネット、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AAB81031.1
【文献】Biotechnology and Bioengineering,2016, Vol.113, No.8, pp.1666-1675
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトースからラクト-N-フコペンタオースVを生成することができる組み換え微生物であって、
- β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするゲノムに組み込まれた異種核酸配列、
- β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするゲノムに組み込まれた異種核酸配列、および
- α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするゲノムに組み込まれた異種核酸配列
を含み、
前記α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、
- 配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたはからなるポリペプチド、および
- 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたはからなるポリペプチド
からなる群から選択される、組み換え微生物。
【請求項2】
前記α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、
- 配列番号1によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質、
- 配列番号3によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質、
- 配列番号4によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質、および
- 配列番号7によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質
からなる群から選択される、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
機能的なGDP-フコース生合成経路を含む、請求項1または2に記載の微生物。
【請求項4】
前記異種核酸配列が、配列番号5に記載のglpFプロモーター変異体の制御下で発現される、請求項1~3のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項5】
各異種核酸配列が、単一コピーで前記微生物のゲノムに組み込まれている、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項6】
前記α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、配列番号7によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質であり、当該ポリペプチドをコードする核酸配列が、少なくとも2コピーで前記微生物のゲノムに組み込まれており、前記β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼが、配列番号6によって特徴付けられるタンパク質であり、当該ポリペプチドをコードする核酸配列が、少なくとも2コピーで前記微生物のゲノムに組み込まれている、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物が細菌である、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項8】
組み換え微生物においてラクト-N-フコペンタオースVを生成するための方法であって:
a)請求項1~のいずれか一項に記載の微生物を供し、
b)前記微生物をラクトースの存在下で培養し、次いで
c)ラクト-N-フコペンタオースVを前記微生物、培養培地、またはこれらの両方から分離すること
を含む方法。
【請求項9】
ラクトースからのラクト-N-フコペンタオースVの生成における、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチド、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチド、およびα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの使用であって、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する前記ポリペプチドが、
- 配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたはからなるポリペプチド、および
- 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたはからなるポリペプチド
からなる群から選択される、使用。
【請求項10】
前記α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、
- 配列番号1によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質、
- 配列番号3によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質、
- 配列番号4によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質、および
- 配列番号7によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むまたはからなるタンパク質
からなる群から選択される、請求項に記載の使用。
【請求項11】
前記α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列が、ラクト-N-フコペンタオースVをラクトースから生成することができるE. coli細胞に含まれる、請求項又は10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、バイオテクノロジーの分野、特に、遺伝子改変微生物(特に、E. coli)および前記遺伝子改変細胞の構築を用いる組み換えフコシル化オリゴ糖LNFP-Vの微生物生成に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
近年、哺乳動物の乳に含まれるオリゴ糖を含む複雑な炭水化物を合成するための商業化の取り組みは、生物内で生じる多くの生物学的プロセスにおけるそれらの役割のために大幅に増加している。ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、栄養および治療業界の重要な商業的ターゲットになりつつある。現在、200種類を超えるHMO種が報告されており、130種類を超えるHMO構造が解明されている(Urashima et al.: Milk Oligosaccharides. Nova Biomedical Books, New York (2011); Chen Adv. Carbohydr. Chem. Biochem. 72, 113 (2015))。より単純な構造のHMO、例えば、三糖2’-フコシルラクトースの工業規模での合成と精製は、遺伝子改変微生物の利用を含む生物工学的方法を用いて複数の製造業者によって最近行なわれているが、より複雑な構造のHMOの同一の課題はいまだ挑戦中である。
【0003】
ラクト-N-フコペンタオースV(Lacto-N-fucopentaose V)(LNFP-V)は、1976年に母乳から最初に分離された中性五糖である。その構造は、α1,3-カップリングを有するグルコース残基上でフコシル化されている五糖ラクト-N-テトラオースとして決定された(Galβ1-3GlcNAcβ1-3Galβ1-4(Fucα1-3)Glc,スキーム1;Ginsburg et al. Arch. Biochem. Biophys. 175, 565 (1976))。
【化1】
スキーム1.LNFP-Vの構造
【0004】
母乳中のLNFP-Vの平均濃度は、0.18g/lである(Erney et al. J. Pediatric Gastroenterol. Nutr. 30, 181 (2000))。LNFP-Vの低濃度により、母乳からの分離と単離は経済的ではないようである。これまで、LNFP-Vの酵素学的または化学的な全合成は報告されていない。生物工学的方法に関して、LNFP-Vは、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼおよびα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをそれぞれコードし、発現するプラスミド由来の異種遺伝子lgtA、galTK、およびfucTIIIを含む組み換えE. coliを用いて、ラクトースから実験室規模の発酵プロセスで生成された(M. Randriantsoa: Synthese microbiologique des antigenes glucidiques des groupes sanguins, These soutenue a l' Universite Joseph Fourier, Grenoble, 2008)。
【0005】
Bioorg. Med. Chem. 23, 6799 (2015)およびWO2016/008602の著者は、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、およびα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをそれぞれコードし、発現する遺伝子IgtA、wbgO、およびfucTIIIを含むプラスミドなしの組み換えE. coliを開示し、これらは、培養するととりわけ六糖LNDFH-IIを生成することができるが、LNFP-Vは形成されなかったことが報告された。
【0006】
最近、LNFP-Vは、Clostridium difficile由来の毒素Aの炭水化物結合ドメインへの結合親和性を示すことが報告された(Nguyen et al. J. Microbiol. Biotechnol. 26, 659 (2016))。C. difficileは、院内下痢の主な原因であることが知られている(Kyne et al. Clin. Infect. Dis. 34, 346 (2002))。
【0007】
それゆえ、安全かつ費用効果の高い方法で単離されたLNFP-Vを十分な量で生成することを可能にする方法が必要である。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、組み換え細菌細胞を使用することによるLNFP-Vの生物工学的生成のための方法を提供する。
【0009】
よって、第1の態様において、本発明は、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、およびα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼからなる群から選択される3つの機能的に活性な異種グリコシルトランスフェラーゼを含む、遺伝子改変された微生物または細胞、好ましくは、細菌細胞、より好ましくは、E. coli細胞であって、前記α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼが、H. pyloriのfucT遺伝子、H. pyloriのfutA遺伝子、およびこれらの機能的変異型/変異体からなる群から選択される核酸配列によってコードされ、前記異種グリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸配列が、前記微生物または細胞のゲノムに組み込まれている、遺伝子改変された微生物または細胞(好ましくは、細菌細胞、より好ましくは、E. coli細胞)に関する。好ましくは、前記組み換え微生物または細胞は、内在性β-ガラクトシダーゼ遺伝子、好ましくは、lacZの欠失または不活性化により細胞内β-ガラクトシダーゼ活性を欠いている。
【0010】
本発明の第2の態様は、LNFP-Vを生成するための方法であって、
- 前記本発明の第1の態様で開示される遺伝子改変された微生物または細胞を供し、
- 前記微生物または細胞をラクトースの存在下で培養し、次いで
- LNFP-Vを、前記微生物または細胞、培養培地、またはこれらの両方から分離すること
を含む、方法に関する。
【0011】
本発明の第3の態様は、配列番号7によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるタンパク質(ポリペプチド)に関する。配列番号7によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるタンパク質(ポリペプチド)は、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する。
【0012】
本発明の第4の態様は、LNFP-Vの生成におけるα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの使用であって、前記ポリペプチドが、
- 配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるポリペプチド、および
- 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるポリペプチド
からなる群から選択されるものである使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明は、添付の図を参照して、以下でさらに詳細に説明されるものであって、図1は、US6974687で開示のH. pyloriのβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ配列と、本発明の実施例で用いたgalTKによってコードされるGalTKβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ配列とのアラインメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
フコシル化ラクト-N-テトラオース(LNT)の酵素学的合成において、フコースをN-アセチルグルコサミンに結合させ、それによりルイスAヒト抗原を保有する構造を構築することに大きく注目されてきた。Bioorg. Med. Chem. 23, 6799 (2015)およびWO2016/008602の著者は、LNTを合成することができる遺伝子改変されたE. coliを構築し、(H. pylori株DSM 6709由来のα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼfucTIII遺伝子(Rabbani et al. Glycobiology 15, 1076 (2005))が組み込まれたプラスミドまたはゲノムから発現された)細胞内に異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを導入した。培養により、検出され特徴付けられた主な生成物は、二重フコシル化LNT(ラクト-N-ジフコヘキサオースII、LNDFH-II)であって、前記N-アセチルグルコサミン上に第1のフコース残基、および前記グルコース上に第2のフコース部分を有する。モノフコシル化LNTは検出した生成物中で同定されなかった。
【0015】
他の著者(M. Randriantsoa: Synthese microbiologique des antigenes glucidiques des groupes sanguins, These soutenue a l' Universite Joseph Fourier, Grenoble, 2008)により、プラスミドに由来する上記に記載の異種β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、異種β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、および同一の異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを発現する遺伝子改変されたE. coli株は、LNTおよびLNDFH-IIを伴うモノフコシル化ラクト-N-テトラオースLNFP-Vを生成することができることが示された。
【0016】
驚くべきことに、本発明者らは、選択したα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをコードする異種遺伝子を導入することにより、主要な代謝産物として大量のLNFP-Vを生成するゲノム改変株を構築することに成功した。
【0017】
したがって、本発明は、ラクトースからLNFP-Vを生成することができる、遺伝子改変された微生物または細胞、有利には、細菌細胞、好ましくは、E. coliであって、
- β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするゲノムに組み込まれた異種核酸配列、
- β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするゲノムに組み込まれた異種核酸配列、および
- α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするゲノムに組み込まれた異種核酸配列
を含み、
前記α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドが、
- 配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるポリペプチド、および
- 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるポリペプチドからなる群から選択される、前記微生物または細胞(有利には、細菌細胞、好ましくは、E. coli)に関する。
【0018】
よって、本明細書に開示されるラクトースからLNFP-Vを生成することができる遺伝子改変された微生物または細胞は、ラクトースからのLNFP-Vの合成に適切で必要なタンパク質をコードする3つの異種グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子、すなわち、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、およびα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを発現し、ならびに前記異種グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、微生物または細胞のゲノムに組み込まれている。発現される異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号1または配列番号3と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるポリペプチドである。
【0019】
特定の実施態様において、前記発現される異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号1または配列番号3と同一であるポリペプチドを含むか、または前記配列からなり、いずれの場合でも、少なくとも92%において、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であってもよい。
【0020】
配列番号1のポリペプチドは、H. pylori NCTC11639の内在性α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼの短縮型であり(GenBank ID:AAB81031.1、Ge et al. J. Biol. Chem. 272, 21357 (1997)、以下の配列番号2を参照のこと)、本明細書では「短縮型FucT」と呼ばれる。短縮型FucTは、配列番号2によって特徴付けられる元のタンパク質全体のC末端を構成する37個のアミノ酸を欠いている(Ma et al. J. Biol. Chem. 281, 6385 (2006))。短縮型FucTは、H. pylori NCTC11639の対応する短縮型fucT遺伝子によってコードされる(fucT全体については、GenBank ID:AF008596.1を参照)。
【0021】
1の実施態様において、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、H. pylori NCTC11639のα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ全長(GenBank ID:AAB81031.1、Ge et al. J. Biol. Chem. 272, 21357 (1997))であり、本明細書ではFucTと呼ばれる配列番号2によって特徴付けられる。FucTは、H. pylori NCTC11639のfucT遺伝子(GenBank ID:AF008596.1)によってコードされる。
【0022】
配列番号3のポリペプチドは、本明細書ではFutAと呼ばれる、H. pylori ATCC26695のα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ(GenBank ID:NP_2017177.1)である。FutAは、H. pylori NCTC26695のfutA遺伝子によってコードされる。
【0023】
1の実施態様において、発現される異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号4と同一であるポリペプチドを含むか、または、好ましくは前記ポリペプチドからなる。配列番号4に記載のタンパク質は、FutAの機能的変異体であって、128位のAla(A)がAsn(N)に置換され、129位のHis(H)がGlu(E)に置換されている(Choi et al. Biotechnol. Bioengin. 113, 1666 (2016))。配列番号4に記載のタンパク質は、本明細書ではFutA_mutと呼ばれ、FutA_mutをコードする核酸配列は、本明細書ではfutA_mutと呼ばれる。
【0024】
1の実施態様において、発現される異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号7と同一であるポリペプチドを含むか、または、好ましくは前記ポリぺプチドからなる。配列番号7に記載のタンパク質は、FutAの機能的変異体であって、128位のAla(A)がAsn(N)に置換され、129位のHis(H)がGlu(E)に置換され、148位のAsp(D)がGly(G)に置換され、ならびに221位のTyr(Y)がCys(C)に置換されている。配列番号7に記載のタンパク質は、本明細書ではFutA_mut2と呼ばれ、FutA_mut2をコードする核酸配列は、本明細書ではfutA_mut2と呼ばれる。
【0025】
好ましい実施態様において、発現される異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号7と同一であるポリペプチドを含むか、または好ましくは前記ポリペプチドからなる。
【0026】
上記の遺伝子改変された微生物または細胞は、好ましくは、機能的なGDP-フコース代謝経路、および/またはラクトースパーミアーゼ(好ましくは、lacY遺伝子によってコードされる)によって介在される能動輸送メカニズムを含むラクトース輸入システムを含む。
【0027】
本文脈における用語「微生物」または「細胞」は、染色体(染色体の)遺伝子またはプラスミドに組み込まれた(プラスミド由来)遺伝子として、異なる発現レベルでその内在性または外因性遺伝子を発現するように遺伝学的に操作することができる生物学的細胞、例えば、細菌または酵母細胞を意味する。
【0028】
用語「宿主細胞」、「組み換え微生物または細胞」、または「遺伝子改変された微生物または細胞」は、その天然に存在する(野生型の)変異体と比較してそのゲノムに少なくとも1つの人工的改変を含む、細胞(好ましくは、細菌細胞)を意味するために交換可能に用いられる。改変により、核酸構築物は、ゲノムへの組み込みまたはプラスミドを介した付加によって細胞に加えられるか、あるいは核酸配列は、細胞のゲノムから欠失されるか、または細胞のゲノムが変化される。いずれの場合であっても、このように形質転換された細胞は、改変前とは異なる遺伝子型を有し、それゆえ、改変された細胞は、改変された特徴を示す。好ましくは、遺伝子改変された細胞は、異種核酸配列の導入または野生型細胞では発現されない酵素をコードする内在性核酸配列の改変のために、培養され、または発酵された場合、少なくとも1つのさらなる生化学反応または変化した生化学反応を行うことができるか、あるいは遺伝子改変された細胞は、野生型細胞で見出される酵素をコードする核酸配列の欠失、付加、または改変のために生化学反応を行うことができない。遺伝子改変された細胞は、周知の従来の遺伝子工学技術によって構築することができる(例えば、Green and Sambrook: Molecular Cloning: A laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012); Current protocols in molecular biology (Ausubel et al. eds.), John Wiley and Sons (2010))。
【0029】
2つまたはそれ以上の核酸またはアミノ酸配列の文脈における用語「[特定の]%の配列同一性」は、2つまたはそれ以上の配列が、比較ウィンドウにわたる最大の対応に対して比較され、整列される場合、所定のパーセントで共通するヌクレオチドまたはアミノ酸残基、または核酸もしくはアミノ酸の指定された配列を有する(すなわち、配列が少なくとも90パーセント(%)の同一性を有する)ことを意味する。核酸またはアミノ酸配列の同一性パーセントは、デフォルトパラメーターとともにBLAST2.0配列比較アルゴリズムを用いるか、または手動のアラインメントと外観検査によって測定することができる(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照のこと)。この定義はまた、試験配列の補完、ならびに欠失および/または付加を有する配列、および置換を有する配列に適用される。同一性パーセント、配列類似性の決定、およびアラインメントに適したアルゴリズムの例は、Altschul et al. Nucl. Acids Res. 25, 3389 (1997)に記載されるBLAST2.2.20+アルゴリズムである。BLAST2.2.20+は、本発明の核酸およびタンパク質の配列同一性パーセントを決定するために用いられる。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公開されている。配列アラインメントアルゴリズムの例は、CLUSTAL Omega(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)、EMBOSS Needle(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)、MAFFT(http://mafft.cbrc.jp/alignment/server/)、またはMUSCLE(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/muscle/)である。
【0030】
好ましい実施態様において、本発明の遺伝子改変された細胞は、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質、酵素、またはポリペプチドのコーディング配列を含む核酸構築物、好ましくは、1つまたはそれ以上の異種トランスフェラーゼの1つまたはそれ以上のコーディング核酸配列を含む1つまたはそれ以上の構築物、好ましくは、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの配列、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの配列およびα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの配列を含むように形質転換されており、かつ前記構築物に含まれるコーディング核酸配列を発現することができる。
【0031】
本発明の遺伝子改変された微生物または細胞は、細菌および酵母、好ましくは細菌からなる群から選択することができる。細菌は、好ましくは、Escherichia coli、Bacillus spp.(例えば、Bacillus subtilis)、Campylobacter pylori、Helicobacter pylori、Agrobacterium tumefaciens、Staphylococcus aureus、Thermophilus aquaticus、Azorhizobium caulinodans、Rhizobium leguminosarum、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitis、Lactobacillus spp.、Lactococcus spp.、Enterococcus spp.、Bifidobacterium spp.、Sporolactobacillus spp.、Micromomospora spp.、Micrococcus spp.、Rhodococcus spp.、Pseudomonasの群から選択されるものであって、これらの中でも、E. coliが好ましい。
【0032】
用語「ラクトースからLNFP-Vを生成することができる遺伝子改変された微生物または細胞」は、前記細胞が、連続的なグリコシル化ステップを介して、ラクトース(二糖)からLNFP-V(五糖)を合成するために必要な酵素活性を有することであって、ラクトースは、最初のグリコシル化ステップで三糖にグリコシル化され、次にその三糖は、第2のグリコシル化ステップで四糖にグリコシル化され、最後に、その四糖は、第3のグリコシル化ステップでLNFP-Vにグリコシル化されることを意味する。グリコシル化ステップは、それぞれのグリコシルトランスフェラーゼによって介在される。グリコシルトランスフェラーゼを介したグリコシル化において、対象のグリコシルトランスフェラーゼは、適切なドナー分子の単糖(ドナー分子は、活性化された単糖ヌクレオチドである)をアクセプター分子に転移させる。本発明による必要なグリコシルトランスフェラーゼは、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、およびα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼであり、対応するドナーは、それぞれUDP-GlcNAc、UDP-Gal、およびGDP-Fucである。
【0033】
細胞によるUDP-GlcNAcおよびUDP-Galの生成は、グリセロール、フルクトース、スクロース、またはグルコースなどの単純な炭素供給源から開始する段階的な反応順序でそれらの天然のデノボ生合成経路に関与する酵素の作用下で行われる(単糖代謝の総説については、例えば、H. H. Freeze and A. D. Elbein: Chapter 4: Glycosylation precursors, in: Essentials of Glycobiology, 2nd edition (Eds. A. Varki et al.), Cold Spring Harbour Laboratory Press (2009)を参照のこと)。具体的には、UDP-GlcNAcは、内在性プロモーター下で発現される3つの遺伝子glmS、glmMおよびglmUによってコードされる酵素によって触媒される3つのステップにおいてフルクトース-6-リン酸から新たに生成される。同様に、UDP-Galは、内在性プロモーター下で発現される遺伝子pgm、galU、およびgalEによってコードされる酵素によって触媒される3つのステップでグルコース-6-リン酸から新たに生成される。GDP-Fuc代謝経路は、以下を参照のこと。LNFP-Vを生成する特定の合成順序によれば、ラクトースは、N-アセチルグルコサミニル化されてラクト-N-トリオースII(GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)となり、続いてガラクトシル化されてLNT(Galβ1-3GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)となり、最後にフコシル化されてLNFP-Vとなる。ただし、フコシル化がN-アクチルグルコサミニル化ステップの前または後に行われる可能性がありうる。
【0034】
用語「微生物または細胞のゲノムに組み込まれている核酸配列[...]」は、前記核酸配列が、その全体で、単独で、または核酸構築物に含まれ、好ましくは、宿主細胞によって認識される1つまたはそれ以上の制御配列に作動可能に連結され、前記微生物または細胞のゲノム(遺伝子座)の特定の部位に挿入されていることを意味する。
【0035】
用語「β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列」または「β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列」は、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性またはβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをそれぞれ発現する遺伝子、その機能的断片、またはそのコドン最適化型を意味する。
【0036】
本文脈における用語「遺伝子」は、コーディング核酸配列に関する。「機能的断片」または「遺伝子の機能的変異体」は、元のコーディング配列から発現されるポリペプチドと同一または類似の機能的特徴を有するポリペプチドを発現する、好ましくは、コーディング配列または改変されたコーディング配列の断片、例えば、元のコーディング配列の同一位置のヌクレオチドとは異なる1つまたはそれ以上のヌクレオチドを含む配列を意味する。
【0037】
用語「核酸構築物」は、標的細胞、例えば、細菌細胞に移植されることを目的とした、核酸、特にDNA配列の人工的に構築された核酸の断片を意味する。本発明の文脈において、核酸構築物は、本発明のコーディングDNA配列を含む組み換えDNA配列を含む。1の好ましい実施態様において、核酸構築物は、相互に作動可能に連結された本質的に4つの単離されたDNA配列:コーディングDNA配列、前記コーディングDNA配列の転写を開始できるようにコーディングDNA配列に連結されたプロモーターDNA配列、遺伝子の上流に位置する5’非翻訳領域(5’-UTR)のDNA断片、すなわち、開始コドンのすぐ上流とプロモーター配列の下流にある遺伝子リーダーDNA配列を含む。本発明のDNA構築物は、プラスミドDNA/ベクターに挿入され、標的/宿主細胞に移され、そしてプラスミドまたは染色体由来として発現されてもよい。DNA構築物は、線状または環状であってもよい。宿主細菌ゲノムまたは発現プラスミドに組み込まれた線状または環状のDNA構築物は、本明細書では「発現カセット」、「発現カートリッジ」または「カートリッジ」と交換可能で呼ばれる。好ましくは、カートリッジは、本質的にプロモーターの配列、プロモーターの下流の5’-UTRのDNA(リボソーム結合部位を含む)を含み、目的の生物学的分子をコードするコーディングDNA配列に作動可能に連結された線状DNA構築物である。構築物はまた、さらなる配列、例えば、転写ターミネーター配列、およびゲノム領域に相同であり、相同組み換えを可能にする2つの末端隣接領域を含んでいてもよい。また、カートリッジは、下記に記載の他の配列を含んでいてもよい。カートリッジは、例えば、Principles and techniques of biochemistry and molecular biology (Wilson and Walker, eds.), Cambridge University Press (2010)に記載の標準的な方法を用いて、当該技術分野で周知の方法によって作製することができる。線状の発現カートリッジの使用は、ゲノム組み込み部位が、カートリッジの隣接する相同領域の各設計によって自由に選択することができるという利点を供しうる。それにより、線状の発現カートリッジの組み込みは、ゲノム領域に関してより大きな可変性を可能にする。線状のカートリッジも構築が容易であるため、このようなカートリッジは、本発明の構築物の好ましい実施態様である。
【0038】
用語「プロモーター」は、作動可能に連結された遺伝子の転写を開始するためのRNAポリメラーゼの結合に関連する核酸配列を意味するものであって、前記遺伝子には、コーディングDNA配列および他の(非コーディング)配列、例えば、コーディング配列の上流に位置する5’非翻訳領域(5’-UTR)(リボソーム結合部位を含む)が含まれる。本発明におけるプロモーターは、単離されたDNA配列(すなわち、ゲノムDNAの組み込まれたDNA断片ではない)である。本発明のプロモーターのヌクレオチド配列は、遺伝子のプロモーター領域(例えば、E. coliのglpオペロンまたはlacオペロンのプロモーター領域)と見なされている細菌ゲノムDNAの断片のヌクレオチド配列に対応するか、または前記配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは、90~99.9%の同一性を有する。「オペロン」とは、単一のプロモーターの制御下で遺伝子クラスターを含むゲノムDNAの機能単位を意味する。「glpオペロン」とは、細菌のグリセロールの呼吸代謝に関与する遺伝子クラスターを意味する。「lacオペロン」とは、ラクトースの輸送と代謝に関与する遺伝子クラスターを意味する。好ましい実施態様における本発明は、E. coliの4つのglpオペロン、特に、glpFKX、glpABC、glpTQ、およびglpDに意味する。他の好ましい実施態様において、本発明は、遺伝子Z、YおよびAを含むE. coliのlacオペロンを意味する。好ましくは、本発明のDNA構築物に含まれるglpオペロンプロモーター配列は、E. coliの対応するglpオペロンのプロモーター領域と見なされているゲノムDNAの断片のヌクレオチド配列に相当するか、または前記配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは、90~99.9%の同一性を有し;特に、本発明のglpオペロンのプロモーターの単離された配列は、GenBank ID:EG10396(glpFKX)、EG10391(glpABC)、EG10394(glpD)、EG10401(glpTQ)を有する配列の上流のゲノム配列の断片に対応するか、または前記断片と前記パーセントの同一性を有し;ならびにオペロンlacZYAのプロモーターの単離された配列は、GenBank ID:EG10527(lacZ)を有する配列の上流のゲノム配列の断片に対応するか、または前記断片と前記パーセントの同一性を有する。E. coliのゲノムは、本明細書では、E. coli K-12 MG1655(GenBank ID:U00096.3)の完全なゲノムDNA配列を意味する。
【0039】
本発明におけるプロモーター配列は、いくつかの構造的特徴/要素、例えば、細胞内でRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)のコーディング配列の転写を開始することができる調節領域、転写開始部位、およびそれらの特定の転写調節タンパク質の結合部位などを含んでいてもよい。調節領域は、RNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)、例えば、-35ボックスや-10ボックス(プリブノーボックス)などを含む。
【0040】
本発明におけるプロモーター配列は、好ましくは、少なくとも90ヌクレオチド、より好ましくは、100から150ヌクレオチド、例えば、110~120、120~130、130~140、140~150、またはさらにより好ましくは、150ヌクレオチド以上、例えば、155~165、165~175、175~185、185~195、195~205、205~215、215~225、225~235、235~245、245~255、255~265を含む。ある実施態様において、プロモーター配列は、さらに長く、例えば、最大500~1000ヌクレオチド長であってもよい。いくつかの好ましい実施態様において、単離されたプロモーター配列は、glpオペロンの配列である。
【0041】
本発明はまた、本発明の構築物に含まれるプロモーターDNA配列の変異体に関する。本明細書における「変異体」とは、当該プロモーターDNA配列のヌクレオチド配列と70~99.9%の類似性を有する人工核酸配列を意味する。比較される核酸配列の類似性のパーセンテージは、同一の構造、すなわち、同一のヌクレオチド組成を有する配列の部分を示す。本発明の目的のための配列類似性のパーセンテージは、当該技術分野で周知の方法、例えば、BLASTを用いて決定することができる。用語「変異体」の範囲には、本明細書に記載のDNA配列に相補的なヌクレオチド配列、mRNA配列および合成ヌクレオチド配列、例えば、PCRプライマー、ならびに本発明の構築物の核酸配列に関連する他のオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0042】
好ましい実施態様において、上記に開示されるglpオペロンまたはその変異体のプロモーターは、異種β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、異種β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、および/または異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼに作動可能に連結されている。より好ましくは、glpオペロンのプロモーターは、glpFプロモーターまたはその変異体である。
【0043】
また、好ましくは、LNFP-Vの合成に必要な異種β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、異種β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、および異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、glpFプロモーター変異体の下で発現される。これに関して、発現カセットは、glpFプロモーター変異体に作動可能に連結された異種β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、異種β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、または異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをそれぞれ含んで構築され、宿主細胞のゲノムに挿入される。glpFプロモーター変異体は、好ましくは、配列番号5によって特徴付けられる核酸構築物である。
【0044】
用語「微生物または細胞は機能的なGDP-フコース代謝経路を含む」は、前記細胞または微生物が、微生物または細胞内でLNFP-Vを生成するためのフコシル化ステップにおいてフコース供与体として機能するGDP-フコースを生体内で生成することができることを意味する。GDP-フコース代謝経路は、デノボ合成であるか、またはサルベージ経路により生じる。デノボ経路では、GDP-L-フコースは、フルクトース-6-リン酸およびGTPから、マンノース-6-リン酸イソメラーゼ、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼおよびGDP-フコースシンターゼの5つの酵素の連続的な作用によって生合成される。E. coliでは、これらの5つの酵素は、それぞれ、コラン酸遺伝子クラスターの一部であるmanA、manB、manC、gmd、およびwcaGによってコードされている。他の細菌株または酵母株は、上記に記載の酵素の1つまたはそれ以上を欠いている場合があり、本来欠失しているデノボGDP-フコース合成経路におけるいずれの酵素も、プラスミド発現ベクターまたは宿主細胞の染色体に組み込まれた外因性遺伝子のいずれかにおいて、遺伝子または組み換えDNA構築物として提供することができる。さらに、UDP-グルコース脂質担体トランスフェラーゼをコードするコラン酸クラスターのwcaJ遺伝子は、コラン酸の生成、そしてGDP-フコース生合成の流動を抑制し、それからLNFP-Vの合成に転用するために、欠失され、または不活性化されるものである。好ましくは、前記に記載される同種のコラン酸クラスターは、lacプロモーター(Plac)の制御下にある。さらに、GDP-フコースのプールをさらに高めるために、コラン酸オペロンの正の調節因子をコードする遺伝子rscAが過剰発現されうる(例えば、Dumon et al. Glycoconj. J. 18, 465 (2001)を参照のこと)。別の実施態様において、遺伝子改変された細胞は、GDP-フコースを生成するために回収されたフコースを利用することができる。サルベージ経路では、外部から加えられたフコースは、フコースパーミアーゼの助けを借りて細胞内に取り込まれ、フコースキナーゼによってリン酸化され、フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼによってGDP-フコースに変換される。この過程に関与する酵素は、異種または同種のものであってもよい。1の実施態様において、フコースキナーゼおよびフコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼは、二機能性酵素として組み合わせることができる(例えば、WO2010/070104を参照のこと)。
【0045】
用語「ラクトースパーミアーゼによって介在される能動輸送メカニズムを含むラクトース輸入システム」は、LNFP-Vを生成するために必要なラクトースが、培養物に外部から加えられ、ラクトースに対して特異性を有する輸送体タンパク質(ラクトースパーミアーゼと呼ばれる)を含む能動輸送の助けを借りて内部移行され、それにより遺伝子改変された細胞または微生物が、外因性ラクトースをその細胞質内に受け入れて濃縮することを意味する。内部移行は、基本的かつ重要な機能に影響を与えるか、または細胞の統合性を破壊することはできない。ラクトースを細胞に輸入するために一般的に認識され、広く用いられているパーミアーゼは、LacYであるが(例えば、WO01/04341を参照)、ラクトースに対して特異性を有する他のパーミアーゼもまた考慮されうる。
【0046】
本明細書に開示されるラクトースからLNFP-Vを生成することができる遺伝子改変された微生物または細胞は、好ましい実施態様において、配列番号1(Ma et al. J. Biol. Chem. 281, 6385 (2006))、配列番号2のタンパク質(GenBank ID:AAB81031.1、Ge et al. J. Biol. Chem. 272, 21357 (1997))、配列番号3のタンパク質(GenBank ID:NP_207177.1)、配列番号4のタンパク質(Choi at al. Biotechnol. Bioeng. 113, 1666 (2016))、または配列番号7のタンパク質からなる群から選択されるα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする異種核酸配列を含む。
【0047】
好ましくは、配列番号1または配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたは前記配列からなるポリペプチドをコードする異種核酸配列、有利には、配列番号1のタンパク質(「短縮型」fucTと呼ばれる)、配列番号2のタンパク質(fucTと呼ばれる)、配列番号3のタンパク質(futAと呼ばれる)、配列番号4のタンパク質(futA_mut)、または配列番号7のタンパク質(futA_mut2と呼ばれる)をコードするものは、本発明の発現系のためにコドンが最適化されている。
【0048】
好ましくは、上記に開示の遺伝子改変された微生物または細胞は、ラクトース(ラクト-N-トリオースIIまたはLNTなど)から開始する生合成経路においてLNFP-Vまたはその中間体を加水分解し、または分解することができない。同様に、1の実施態様において、前記細胞は、アクセプター(ラクトース)を分解しうる酵素活性、例えば、LacZ(β-ガラクトシダーゼ)活性を欠失している。これは、β-ガラクトシダーゼをコードするlacZの欠失または不活性化によって達成することができる。他の実施態様において、上記に開示の遺伝子改変された微生物または細胞は、その内在性lacZが欠失し、または不活性しているが、例えば、β-ガラクトシダーゼをコードする異種遺伝子の組み込みのために、依然として低レベルのβ-ガラクトシダーゼ活性を有していてもよい。これについて、外部から加えられる過剰量のラクトースは、発酵後に完全に加水分解され、それにより生成された目的のオリゴ糖の単離および精製を容易にしうる。このような解決手段は、例えば、WO2012/112777に開示される。他の実施態様において、上記に開示の遺伝子改変された微生物または細胞は、誘導性プロモーター(例えば、温度誘導性プロモーター)に作動可能に連結されているβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含むようにさらに改変されていてもよい。これに関して、β-ガラクトシダーゼは、低温、例えば、微生物がLNFP-Vを生成するために培養される温度では発現されないが、β-ガラクトシダーゼの発現は、温度を上げると発酵終了時に誘導され、それゆえ過剰量のラクトースは加水分解することができる。このような解決手段は、例えば、WO2015/036138に開示される。
【0049】
また、好ましくは、遺伝子改変された微生物または細胞のゲノムに組み込まれるβ1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列は、Neisseria meningitidis 053442のlgtA遺伝子(GenBank ID:CP000381)またはそのコドン最適化型である。好ましくは、lgtA遺伝子のコーディング配列またはそのコドン最適化型は、作動可能に連結され、それにより配列番号5によって特徴付けられるglpFプロモーター変異体下で発現される。
【0050】
また、好ましくは、遺伝子改変された微生物または細胞のゲノムに組み込まれるβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列は、galTKと呼ばれる遺伝子、その機能的断片、またはそのコドン最適化型である。galTKは、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードするH. pylori 43504の遺伝子(GenBank ID:BD182026、US6974687)と相同であり、GalTKと呼ばれる配列番号6によって特徴付けられるタンパク質をコードする。US6974687に開示されるβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼと、(galTKでコードされる)本出願で用いられるGalTKのβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼとの構造比較を図1に示す。
【0051】
本発明によれば、好ましい実施態様およびより好ましい実施態様を含む、本明細書に記載の遺伝子改変された微生物または細胞は、デノボまたはサルベージ経路のいずれか、好ましくは、デノボ経路によるLNFP-Vの生合成のために十分な量のGDP-フコースを提供する(上記参照)。しかしながら、必要で十分なGDP-フコースレベルを供することによってLNFP-V生合成をさらに最適化するために、コラン酸遺伝子クラスターのさらなるコピーが細胞に導入され、好ましくは、細胞のゲノムに組み込まれうる。
【0052】
好ましい実施様態およびより好ましい実施態様を含む、本明細書に開示の遺伝子改変された微生物または細胞は、細胞のゲノムに組み込まれた異種β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、異種β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、および異種α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを含む。後からの異種遺伝子は、細胞代謝を妨げず、細胞が所望のオリゴ糖を生成できるように、宿主細胞のいずれかの遺伝子座に組み込まれてもよい。本発明において用いられ、または適する発現系は、広範な可動性を可能にする。原理上、公知の配列を有するいずれの遺伝子座が選択されてもよいが、その場合、当該配列の機能は必須ではないか、または必須の場合(例えば、栄養要求性の場合)は補完することできる。本発明の目的に適する多くの組み込み遺伝子座は、先行技術文献に記載されている(例えば、Francia et al. J. Bacteriol. 178, 894 (1996): Juhas et al. (2014) PLoS ONE 9, e111451 (2014); Juhas et al. (2015) Microbial Biothechnol. 8, 617 (2015); Sabi et al. Microbial. Cell Factories 12:60 (2013))。
【0053】
好ましくは、組み込みのゲノム部位は、1の実施態様において、糖代謝遺伝子のオペロン内の遺伝子座、例えば、ガラクトース、キシロース、リボース、マルトースまたはフコースの遺伝子座などである。
【0054】
本発明によれば、上記に開示の好ましい実施態様のいずれかを含む、遺伝子改変された微生物または細胞は、1の実施態様において、より好ましくは、glpプロモーター(Pglp)またはその変異体、例えば、PglpF、特に、配列番号5に記載のPglpF変異体の制御下における、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくはgalTKまたはコドン最適化型の1(単一)コピーのみを含む。
【0055】
本発明によれば、上記に開示の好ましい実施態様のいずれかを含む、遺伝子改変された微生物または細胞は、1の実施態様において、より好ましくは、glpプロモーター(Pglp)またはその変異体、例えば、PglpF、特に、配列番号5によるPglpF変異体の制御下における、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくは、lgtA遺伝子またはそのコドン最適化型の1(単一)コピーのみを含む。
【0056】
上記に開示の好ましい実施態様のいずれかを含む、遺伝子改変された微生物または細胞は、1の実施態様において、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくは、galTKまたはそのコドン最適化型、β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくは、lgtA遺伝子のコーディング配列またはそのコドン最適化型、および配列番号1または配列番号3と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくは「短縮型」fucT、fucT、futA、futA_mutまたはfutA_mut2のそれぞれの1(単一)コピーのみを含む。より好ましくは、このようなグリコシルトランスフェラーゼの各々は、配列番号5に記載のglpFプロモーター変異体の制御下にある。異なるグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子の各コピーは、異なるゲノム部位、好ましくは、別の炭素源の利用に関連する遺伝子座に組み込まれている。
【0057】
上記に開示の好ましい実施態様のいずれかを含む、遺伝子改変された微生物または細胞は、1の実施態様において、β1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくは、galTKまたはそのコドン最適化型の2コピー(これらの各々は、2つの異なるゲノム部位に組み込まれる)、ならびに配列番号1または配列番号3と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくは「短縮型」fucT、fucT、futA、futA_mut、またはfutA_mut2の2コピー(これらの各々は、2つの異なるゲノム部位に組み込まれる)を含む。より好ましくは、このようなグリコシルトランスフェラーゼコーディング配列は、PglpFまたは別のglpプロモーターもしくはその変異体、例えば、PglpAまたはPglpT、好ましくは、配列番号5に記載のglpFプロモーター変異体の制御下で発現される。
【0058】
LNFP-Vの生成に必要な上記に記載の3つの異なる種類の異種グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、プロモーター配列に作動可能に連結されたグリコシルトランスフェラーゼのコーディング配列を含むDNA構築物の形態である発現カセットの一部として宿主細胞のゲノムに組み込まれる。プロモーターは、特定のレベルで作動可能に連結された遺伝子の転写を開始し、維持することができ、宿主細胞によって認識されるいずれか適切なプロモーターであってもよい。好ましくは、プロモーターは、炭素源誘導性プロモーターである。好ましくは、プロモーターは、E. coliの4つのglpオペロン、glpFKX、glpABC、glpTQおよびglpDのうちの1つの遺伝子、またはこれらの変異体の転写を自然に調節するものである。
【0059】
上記に開示の好ましい実施態様およびより好ましい実施態様を含む、遺伝子改変された微生物または細胞は、1の実施態様において、好ましくは、glpプロモーターの制御下、より好ましくは、glpFプロモーターまたはその変異体の制御下、さらにより好ましくは、配列番号5に記載のglpFプロモーター変異体の制御下において、fucT、futA、futA_mutおよびfutA_mut2からなる群から選択されるα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼの1(単一)コピーのみを含む。
【0060】
上記に開示されるように、本発明によるラクトースからLNFP-Vを生成するために適する遺伝子改変された微生物または細胞は、1の実施態様において、細胞内でGDP-フコースを供するためのGDP-フコースデノボ生合成経路を含んでいてもよい。GDP-フコースへのデノボ経路は、manA、manB、manC、gmd、およびwcaGを含む宿主細胞(好ましくは、E. col)の内在性コラン酸遺伝子クラスター(wcaJが削除され、または不活性化されている)を利用する。内在性コラン酸遺伝子クラスターは、好ましくは、Placプロモーターの制御下にある。さらなる実施態様において、本発明の遺伝子改変された微生物または細胞は、内在性コラン酸遺伝子クラスターに加えて、GDP-フコース生合成を高め、これによりより高いレベルのGDP-フコースを供するためのコラン酸遺伝子のさらなるコピーを含んでいてもよい。コラン酸遺伝子クラスターのこのような第2のコピーは、好ましくは、ゲノムに組み込まれ、好ましくは、glpプロモーターの制御下で、より好ましくは、glpFプロモーターまたはその変異体下で、さらにより好ましくは、配列番号5に記載のglpFプロモーター変異体の制御下で発現される。コラン酸遺伝子クラスターの第2のコピーが組み込まれるゲノム部位に関して、好ましくは、上記に開示される細胞の糖代謝遺伝子の遺伝子座であってもよい。別の実施態様において、細胞がコラン酸遺伝子クラスターのさらなるコピーを含む場合、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、好ましくは、futA_mutまたはfutA_mut2、より好ましくは、futA_mut2の1(単一)ゲノムコピーのみが存在する。
【0061】
本発明の第2の態様は、LNFP-Vを生成するための方法であって、
a)本発明の第1の態様に開示される遺伝子改変された微生物または細胞を供し、
b)前記微生物または細胞をラクトースの存在下で培養し、次いで
c)LNFP-Vを、前記微生物または細胞、前記培養培地、またはこれらの両方から分離すること
を含む方法に関する。
【0062】
五糖LNFP-Vは、ラクトースおよび1つまたはそれ以上の炭素を基にした基質を含む培養培地溶液または発酵培地中の本発明の第1の態様による遺伝子改変された細胞または微生物を培養し、または発酵し、続いてそれらを前記培養培地から分離することに関する方法によって容易に取得することができる。用語「培養培地」は、遺伝子組み換え細胞外の発酵槽中の発酵工程の水性環境を意味する。
【0063】
このプロセスを行う際に、遺伝子改変された細胞は、炭素を基にした基質、例えば、グリセロール、グルコース、スクロース、グリコーゲン、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロース、ペクチン、キチンなどの存在下で培養される。好ましくは、細胞は、グリセロール、グルコース、スクロースおよび/またはフルクトースとともに培養される。
【0064】
この方法にはまた、最初に外部のラクトースを培養培地から遺伝子組み換え細胞に輸送することも含まれる。ラクトースは、従来の方法で外部から培養培養に加えられ、それから細胞に輸送される。ラクトースは、能動輸送メカニズムの助けを借りて内部移行され、それによりラクトースはlacプロモーターの制御下で発現される細胞の輸送タンパク質またはラクトースパーミアーゼ(LacY)の影響下で細胞の細胞膜を通過して拡散する。
【0065】
ある実施態様において、このプロセスで用いられる遺伝子改変された細胞は、細胞内ラクトースであるLNFP-V、およびLNFP-V生合成経路における代謝中間体、例えば、ラクト-N-トリオースIIまたはLNTを著しく分解するであろう酵素活性を欠いている。これに関して、ラクトースをガラクトースおよびグルコースに加水分解する培養された細胞の(E. coliのlacZ遺伝子によってコードされる)内在性β-ガラクトシダーゼは、好ましくは、欠失され、または不活性化されている(LacZ-遺伝子型)。本発明の第2の態様の1の実施態様において、工程b)で加えられた過剰量のラクトースは、発酵後に除去または分解されず、ラクトースとLNFP-Vの混合物は、適宜、例えば、ラクトース-N-トリオースII、LNT、3-FLおよび/またはLNDFH-IIなどの1つまたはそれ以上のオリゴ糖副産物を伴い、培養培地から分離され、単離される。別の実施態様において、ラクトースとLNFP-Vの混合物は、適宜、例えば、ラクト-N-トリオースII、LNT、3-FLおよび/またはLNDFH-IIなどの1つまたはそれ以上のオリゴ糖副産物を伴い、上記のように発酵によって生成され、LNFP-Vは、適宜、例えば、ラクト-N-トリオースII、LNT、3-FLおよび/またはLNDFH-IIなどの1つまたはそれ以上のオリゴ糖副産物を伴い、培養環境、適宜、過剰量のラクトースから分離され、単離される。さらなる他の実施態様において、ラクトースとLNFP-Vの混合物は、適宜、例えば、ラクト-N-トリオースII、LNT、3-FLおよび/またはLNDFH-IIなどの1つまたはそれ以上のオリゴ糖副産物を伴い、上記のように発酵によって生成され、続いて
i)ラクトースを単糖に加水分解する外因性のラクトース分解酵素、例えば、ガラクトシダーゼを加えるか、または
ii)発酵工程で加えられた全てのラクトースが消費されるまで発酵を続け、
実質的にラクトースを含まない培養液を供する。これに関して、選択肢のii)において、上記に開示のLacZ遺伝子型の遺伝子改変された細胞は、機能的な組み換えβ-ガラクトシダーゼをさらに含むことができる。この機能的なガラクトシダーゼは、熱誘導性である外因性のlacZ遺伝子によってコードされていてもよい(例えば、WO2015/036138を参照のこと)。発酵の温度において、この機能的なβ-ガラクトシダーゼは、細胞によって発現されないため、内部移行されたラクトースは、細胞内で分解されず、HMOが生成される。培養液中のLNFP-Vの所望の濃度または量が達されると、温度高くして培養をし続け、それにより機能的なβ-ガラクトシダーゼが発現され、過剰量のラクトースが分解される。あるいは、上記に開示のLacZ遺伝子型の遺伝子改変された細胞は、発酵の終了時に適宜残ったラクトースを除去するために、低いが検出可能なレベルの活性の組み換えβ-ガラクトシダーゼを含んでいてもよい(例えば、WO2012/112777を参照のこと)。
【0066】
典型的に、前記方法は、培養培地において、炭素を基にした基質と、培養培地の最初の体積の1リットルあたり少なくとも30から最大約100グラムのラクトースを供することに関する。好ましくは、前記方法はまた、28~35℃の温度で、好ましくは、継続的な攪拌および継続的な通気とともに2~5日間行われる。培養培地の最終体積は、ラクトースおよび炭素を基にした基質を培養培地に供する前の培養培地の最初の体積の3倍以下であることが好ましい。
【0067】
本発明の方法を行う際の実施態様によれば、遺伝子改変されたLacZ E. coli株は、以下の方法で培養される:
(1)培養培地中で供される炭素を基にした基質(例えば、グルコースまたはスクロースなど)によって確認され、好ましくは、グルコースがすべて消費されるまで、好ましくは少なくとも12時間、例えば、約18時間または20~25時間続く指数関数的細胞増殖の第1の段階、続いて
(2)前記第1の段階の後に培養培地中において、好ましくは、連続的に供される炭素を基にした基質(例えば、グルコース、スクロースまたはグリセロールなど)、およびラクトースによって制限され、前記炭素を基にした基質、好ましくはラクトースの大部分(例えば、少なくとも60%)が消費されるまで、好ましくは、少なくとも35時間、例えば、少なくとも45時間、50~70時間、または最大約130時間続く細胞増殖の第2の段階。
【0068】
遺伝子改変された細胞の培養中、LNFP-V、および任意選択的に1つまたはそれ以上のオリゴ糖副産物(例えば、ラクト-N-トリオースII、LNT、3-FL、LNDFH-IIなど)は、細胞内および細胞外マトリックスの両方に蓄積する。生成されたオリゴ糖は、標準的な技術を用いることにより、培養液から単離し、および/または相互に分離することができる。
【0069】
本発明の第3の態様は、配列番号7によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるタンパク質(ポリペプチド)に関する。配列番号7によって特徴付けられるアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるタンパク質(ポリペプチド)は、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有し、実施例に開示されるように、LNFP-Vの発酵生成において有利に使用することができる。
【0070】
本発明の第4の態様は、LNFP-Vの生成におけるα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの使用であって、前記ポリペプチドは、
- 配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるポリペプチド、および
- 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または前記配列からなるポリペプチド。
からなる群から選択される、使用に関する。
【0071】
特定の実施態様において、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号1または配列番号3と同一であるポリペプチドを含むか、または前記ポリペプチドからなり、いずれの場合でも、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性であってもよい。
【0072】
1の実施態様において、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を含み、好ましくは、前記配列からなる。
【0073】
1の実施態様において、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号3、配列番号4、または配列番号7のアミノ酸配列を含み、好ましくは、前記配列からなる。
【0074】
好ましい実施態様において、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼは、配列番号7と同一であるポリペプチドを含むか、または好ましくはそれからなる。
【0075】
1の実施態様において、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列は、ラクトースからLNFP-Vを生成することができる微生物または細胞に含まれる。核酸配列は、適切な発現プラスミドを使用することにより、またはゲノム(染色体)の組み込みを介して微生物または細胞に導入することができる。
【実施例
【0076】
実施例
実施例において、全ての利用した株は、遺伝子lacZ、nanKETA、lacA、melA、wcaJ、mdoHを破壊(欠失)し、gmd遺伝子の上流にPlacプロモーターを挿入することによって、E. coliK12 DH1(遺伝子型:F
【化2】
、gyrA96、recA1、relA1、endA1、thi-1、hsdR17、supE44(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen (DSMZ), www.dsmz.de, reference DSM 4235から取得))から構築されたE. coliプラットフォーム株に由来する。
【0077】
染色体DNAにおける遺伝子ターゲティングは、標準的なDNA操作技術(例えば、Warming et al. Nucleic Acids Res. 33, e36 (2005)に開示)を用いて行った。染色体DNAへの遺伝子カセットの挿入は、遺伝子ゴージング(gene Gorging)(Herring et al. Gene 311, 153 (2003)に開示)により行った。
【0078】
実施例に開示の菌株を、4日間のプロトコルを用いて24ディープウェルプレートでスクリーニングした。最初の24時間で細胞を高密度に増殖させ、次の72時間で細胞を培地に移し、遺伝子の発現と生成物の形成を誘導させた。具体的には、1日目に、新たな接種物を、硫酸マグネシウム、チアミン、およびグルコースを添加した基本的な最小培地を用いて調製した。調製した培養物を34℃で700rpmにて振盪しながら24時間インキュベートした後、前記細胞を硫酸マグネシウムとチアミンを添加した新しい基本最小培地(2ml)に移し、最初に20%グルコース溶液(1μl)および10%ラクトース溶液(0.1ml)を添加し、次に50%スクロース溶液を炭素源として細胞に供し、それに伴ってスクロースヒドロラーゼ(インベルターゼ、0.1g/l溶液の4μl)を、グルコースがインベルターゼによるスクロースの切断による増殖の遅い速度で供されるように添加した。新しい培地に接種した後、細胞を700rpmにて28℃で72時間振盪した。変性させ、続いて遠心分離し、上清をHPLCにより分析した。
【0079】
実施例1
E. coliプラットフォーム株(上記参照)を以下のように改変した:LgtAのコドン最適化lgtAコーディング配列の単一コピーを、糖代謝に関連する遺伝子座のE. coliプラットフォーム株のゲノム(染色体)に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;コドン最適化galTKの単一コピーを、糖代謝に関連する別の遺伝子座のE. coliプラットフォーム株のゲノムに組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;コラン酸クラスターのさらなるコピーを、別の炭素源の利用に関連する第3の遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;次いで、lacIをlacオペロン(ΔlacI)から欠失させた。上記株に基づいて、株1~5は、糖代謝を可能にするE. coliプラットフォーム株の遺伝子座の1つにおいてglpFプロモーターの制御下でα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の単一コピーを組み込むことによって構築した。:
-株1:配列番号3のタンパク質をコードするコドン最適化futA配列
-株2:配列番号7のタンパク質をコードするコドン最適化futA_mut2配列
-株3:配列番号1のタンパク質をコードするコドン最適化短縮型fucT配列
-株4:H. pylori DSM 6709に由来するコドン最適化fucTIII(GenBank ID:AY450598.1(Rabbani et al. Glycobiology 15, 1076 (2005)))
-株5:H. pylori UA948に由来するコドン最適化fucTa(GenBank ID:AF194963.2)。
【0080】
培養後、LNFP-Vの以下の濃度を測定した(細胞内および細胞外の両方を合わせた濃度)。
【表1】

【0081】
上記の表に示すように、FutA、FutA_mut2、および短縮型FucTのα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをそれぞれ発現する株1~3は、このような構築物において先行技術で公知のFucTIII酵素を発現する参照株4よりも極めて高いLNFP-V力価を生成した(それぞれ300%、150%、210%)。FucTaのα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを発現する参照株5は、LNFP-Vを生成しなかった。
【0082】
実施例2
実施例1に開示の株1に基づいて、株6は、糖利用遺伝子座に組み込まれ、glpFプロモーターの制御下で発現されるコドン最適化futA遺伝子のさらなる(第2の)コピーを含むように作製した。
【0083】
同様に、実施例1に開示の株3に基づいて、株7は、別の糖利用遺伝子座に組み込まれ、glpFプロモーターの制御下で発現されるコドン最適化短縮型fucT遺伝子のさらなる(第2の)コピーを含むように作製した。
【0084】
E. coliプラットフォーム株(上記参照)を、以下のようにさらに改変して株8を作製した:コドン最適化lgtAコーディング配列の単一ゲノムコピーを、糖消費に関連する遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;コドン最適化galTKの単一ゲノムコピーを、別の糖代謝遺伝子座に組み込まみ、glpFプロモーターの制御下で発現させ;コドン最適化futA_mut2の単一ゲノムコピーを、別の代替炭素源の利用を可能にする遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;コラン酸クラスターのさらなるコピーを、第4の糖代謝遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;次いでlacIをlacオペロンから欠失させた(ΔlacI)。株8に基づいて、株9は、糖消費に関連する遺伝子座に組み込まれ、glpFプロモーターの制御下で発現されるコドン最適化futA_mut2遺伝子のさらなる(第2の)コピーを含むように作製した。
【0085】
培養後、下記のLNFP-Vの相対濃度を測定した(細胞内および細胞外の両方を合わせた濃度)。
【表2】
【0086】
上記の表に示すように、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをコードするfutAまたは短縮型fucTの第2のコピーを組み込んでも、LNFP-V力価をあまり高めなかったが、futA_mut2の第2のコピーはLNFP-V力価にネガティブな影響を与えた。結論として、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の単一ゲノムコピーを有する株が望ましい。
【0087】
実施例3
E. coliプラットフォーム株(上記を参照)を、以下のようにさらに改変して株10を作製した:コドン最適化lgtAコーディング配列の単一ゲノムコピーを、糖代謝遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;コドン最適化galTKの単一ゲノムコピーを、別の炭素源利用に関連する別の遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;コドン最適化futA_mut2の単一ゲノムコピーを、糖消費に関連する第3の遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;次いでlacIをgalKの置換により欠失させた(lacI::galK)。
【0088】
菌株10に基づいて、株11~13を以下のように構築した:
- 株11:コラン酸クラスターのさらなるコピーを糖利用遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;
- 株12:コドン最適化futA_mut2遺伝子のさらなる(第2の)コピーを別の糖代謝遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ;
- 株13:コラン酸クラスターのさらなるコピーを別の炭素源の利用に関連する遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させ、次いでコドン最適化futA_mut2遺伝子のさらなる(第2の)コピーを特定の糖の消費を可能にする遺伝子座に組み込み、glpFプロモーターの制御下で発現させた。
【0089】
培養後、下記のLNFP-Vの相対濃度を測定した(細胞内および細胞外の両方を合わせた濃度)。
【表3】

【0090】
CA遺伝子クラスターのさらなるコピーおよび単一コピーからのα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを発現する細胞(株11)は、このさらなるPglpFで駆動されるCA遺伝子コピーを有しない同様の細胞(株10)よりも高いLNFP-V濃度(~約17%)を示した。顕著なことに、futA_mut2遺伝子の第2のゲノムコピーを加えることによっても、CA遺伝子のコピー数に関わらず、観察されたLNFP-V力価は改善されない。
【0091】
実施例4
実施例2に開示の株8に基づいて、株14は、所定の炭素源の代謝に関連する遺伝子座に組み込まれ、glpFプロモーターの制御下で発現されるコドン最適化galTK遺伝子のさらなる(第2の)コピーを含むように作製した。
【0092】
同様に、実施例2に開示の株9に基づいて、株15は、E. coliプラットフォーム株の遺伝子座に組み込まれ、glpFプロモーターの制御下で発現されるコドン最適化galTK遺伝子のさらなる(第2の)コピーを含むように作製した。
【0093】
培養後、下記のLNFP-Vの相対濃度を測定した(細胞内および細胞外の両方を合わせた濃度)。
【表4】

【0094】
第2のβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子コピーを、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の単一コピーを有する株8に加えても、最終的なLNFP-Vにおいて効果はなかった。しかしながら、LNFP-V力価は、第2のβ1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子コピーを、α1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の2コピーを含む株9に加えられた場合に著しく増加した。
図1
【配列表】
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