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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】繊維物品
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4382 20120101AFI20241121BHJP
【FI】
D04H1/4382
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021543054
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032653
(87)【国際公開番号】W WO2021039980
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019158826
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義隆
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅也
(72)【発明者】
【氏名】牧野 純子
(72)【発明者】
【氏名】原 聡
(72)【発明者】
【氏名】新谷 博昭
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-091262(JP,A)
【文献】特開2011-017104(JP,A)
【文献】特開2012-188774(JP,A)
【文献】国際公開第2013/084760(WO,A1)
【文献】特開2014-205943(JP,A)
【文献】米国特許第05662728(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の第1繊維と、前記第1繊維よりも外径が細く、分散した状態で前記第1繊維に支持された複数本の第2繊維とを含み、
前記第1繊維が、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、セルロースアセテートのうちの1つにより構成され、
前記第2繊維が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つを含み、前記第1繊維が、前記第2繊維とは異なる材料を含み、
前記第1繊維の外径D1と、前記第2繊維の外径D2との比D1/D2が、15.0以上1666.7以下の範囲の値に設定され、前記外径D1が、14.64μm以上50.0μm以下の範囲の値に設定され、前記外径D2が、30.0nm以上800nm以下の範囲の値に設定されている、繊維物品。
【請求項2】
前記外径D1が、20.0μm以上30.0μm以下の範囲の値に設定されている、請求項1に記載の繊維物品。
【請求項3】
前記第1繊維が捲縮されている、請求項1又は2に記載の繊維物品。
【請求項4】
前記第1繊維に前記第2繊維が添着された状態で、複数本の前記第1繊維の繊維間隙と、複数本の前記第2繊維の繊維間隙とが内部に形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維物品。
【請求項5】
厚み寸法が3.0mm以上のシート状に形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維物品。
【請求項6】
複数本の第1繊維と、前記第1繊維よりも外径が細く、分散した状態で前記第1繊維に支持された複数本の第2繊維と、
前記第1繊維に添着され且つ前記第2繊維と同様の組成からなる樹脂粒状物と、を含み、
前記第2繊維が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つを含み、前記第1繊維が、前記第2繊維とは異なる材料を含み、
前記第1繊維の外径D1と、前記第2繊維の外径D2との比D1/D2が、15.0以上1666.7以下の範囲の値に設定され、前記外径D1が、14.64μm以上50.0μm以下の範囲の値に設定され、前記外径D2が、30.0nm以上800nm以下の範囲の値に設定され、
前記第1繊維の総体積V1と、前記第2繊維及び前記樹脂粒状物を合わせた総体積V2との比V1/V2が、1.9以上124.0以下の範囲の値に設定されている、繊維物品。
【請求項7】
空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が、3Pa以上35Pa以下の範囲の値に設定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維物品。
【請求項8】
前記第2繊維が、繊維化可能な高分子により作られている、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維物品。
【請求項9】
水接触角が、10°以上40°以下の範囲の値である、請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維物品。
【請求項10】
複数本の第1繊維と、前記第1繊維よりも外径が細く、分散した状態で前記第1繊維に支持された複数本の第2繊維とを含み、
前記第1繊維が、前記第2繊維とは異なる材料を含み、
前記第2繊維が、主としてポリテトラフルオロエチレンを含
前記第1繊維の外径D1と、前記第2繊維の外径D2との比D1/D2が、15.0以上1666.7以下の範囲の値に設定され、前記外径D1が、14.64μm以上50.0μm以下の範囲の値に設定され、前記外径D2が、30.0nm以上800nm以下の範囲の値に設定されている、繊維物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維物品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維物品は、例えば、流体中に混入した不純物を濾過する濾過部材として用いられる。繊維物品として、例えば、特許文献1に開示されるように、異なる種類の繊維を含む繊維物品が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-116854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異なる種類の繊維を含む繊維物品は、例えば、各繊維が有する機能を発現させて、その性能を十分に得るため、各繊維の状態を安定して維持することが望まれる。
【0005】
そこで本開示は、異なる種類の繊維を含む繊維物品において、各繊維が有する機能を良好に発現させると共に、繊維物品中の各繊維の状態を安定して維持可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る繊維物品は、複数本の第1繊維と、前記第1繊維よりも外径が細く、分散した状態で前記第1繊維に支持された複数本の第2繊維とを含み、前記第1繊維の外径D1と、前記第2繊維の外径D2との比D1/D2が、15.0以上1666.7以下の範囲の値に設定され、前記外径D1が、5.0μm以上50.0μm以下の範囲の値に設定され、前記外径D2が、30.0nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定されている。
【0007】
上記構成によれば、第1繊維よりも外径が大幅に細い第2繊維を分散した状態で第1繊維に支持させることで、第2繊維が切断されるのを防止しながら、第2繊維を第1繊維により安定して支持できる。これにより、第1繊維と第2繊維とを各々が有する機能を発揮可能に配置しながら、繊維物品中の第1繊維と第2繊維の各状態を安定して維持できる。
【0008】
また、第1繊維の外径D1、第2繊維の外径D2、及び、比D1/D2を上記のように設定することで、複数本の第1繊維により形成される比較的大きな繊維間隙と、複数本の第2繊維により形成される比較的小さな繊維間隙とを、共に繊維物品内に豊富に形成できる。これにより、例えば第2繊維のみからなる繊維物品に比べて、嵩高い繊維物品が得られる。よって、流体を繊維物品内に豊富に流通させることができるため、例えば、高効率の濾過機能を有する繊維物品を実現できる。
【0009】
前記外径D1が、20.0μm以上30.0μm以下の範囲の値に設定されていてもよい。このように、第1繊維の外径を設定することで、第1繊維の繊維間隙の大きさを安定化できる。
【0010】
前記第1繊維が捲縮されていてもよい。これにより、繊維物品内に繊維間隙を豊富に形成できると共に、繊維物品を嵩高に構成し易くできる。
【0011】
前記捲縮された前記第1繊維に前記第2繊維が添着された状態で、複数本の前記第1繊維の繊維間隙と、複数本の前記第2繊維の繊維間隙とが内部に形成されていてもよい。これにより、第1繊維により第2繊維を安定して支持しながら、繊維物品内に豊富な繊維間隙を設け、第2繊維の機能を発揮させ易くできる。
【0012】
厚み寸法が3.0mm以上のシート状に形成されていてもよい。これにより、例えば流体に接触し易いように流体流路に繊維物品を配置できるので、流体に対して第1繊維及び第2繊維の機能を発揮し易くできる。
【0013】
前記第1繊維に添着され且つ前記第2繊維と同様の組成からなる樹脂粒状物を更に含み、前記第1繊維の総体積V1と、前記第2繊維及び前記樹脂粒状物を合わせた総体積V2との比V1/V2が、1.9以上124.0以下の範囲の値に設定されていてもよい。これにより、外径が太く且つ体積が大きな第1繊維により、外径が細く且つ体積が小さい第2繊維を安定して支持でき、第2繊維の機能をより安定して発揮し易くできる。
【0014】
空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が、3Pa以上35Pa以下の範囲の値に設定されていてもよい。これにより、繊維物品中に流体を流通させた際、繊維物品により流体の流通が妨げられるのを良好に抑制できる。
【0015】
前記第1繊維が、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、セルロースアセテートのうちの少なくとも1つであってもよい。これにより、第1繊維の選択幅を広げて繊維物品の設計自由度を向上できる。
【0016】
前記第2繊維が、繊維化可能な高分子により作られていてもよい。このような高分子を用いることで、第2繊維を効率よく製造できる。
【0017】
前記第2繊維が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。これにより、第2繊維の選択幅を広げて繊維物品の設計自由度を向上できる。
【0018】
前記第2繊維が、主としてポリテトラフルオロエチレンを含んでいてもよい。これにより、ポリテトラフルオロエチレンが有する高機能を繊維物品で安定して発揮できる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の各態様によれば、異なる種類の繊維を含む繊維物品において、各繊維が有する機能を良好に発現できると共に、繊維物品中の各繊維の状態を安定して維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る繊維物品の概略図である。
図2】実施例に係る繊維物品のSEM写真である。
図3】比較例に係る繊維物品のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態について図を参照して説明する。図1は、実施形態に係る繊維物品1の概略図である。図1では、繊維物品1の内部構造を模式的に示す拡大図を併せて図示している。
【0022】
図1に示す繊維物品1は、一例として、流体の流路内に配置され、流体中に混入した不純物を濾過する濾過部材として用いられる。流体は、気体及び液体のいずれでもよい。繊維物品1は、ここでは厚み寸法が3.0mm以上のシート状である。繊維物品1がシート状である場合、厚み寸法は、例えば3.0mm以上10.0mm以下の範囲の値に設定される。また繊維物品1は、坪量が100.0g/m以上400.0g/m以下の範囲の値(ここでは約200g/m)に設定されている。
【0023】
繊維物品1は、複数本の第1繊維2と、複数本の第2繊維3とを含む。第1繊維2は、第2繊維3よりも強度(例えば引張強度)が大きい。複数本の第1繊維2は、繊維物品1の骨格として用いられる。本実施形態の第1繊維2は、捲縮されている。捲縮された複数本の第1繊維2を用いることにより、繊維物品1は、繊維密度が比較的低く、且つ、嵩高く形成されている。
【0024】
第2繊維3は、第1繊維2よりも外径が細く、分散した状態で第1繊維2に支持されている。本実施形態では、第2繊維3は、繊維物品1の内部全体に拡散するように配置されている。繊維物品1では、第1繊維2の外径D1と、第2繊維3の外径D2との比D1/D2が、15.0以上1666.7以下の範囲の値に設定されている。このように繊維物品1は、外径D1が太い第1繊維2と、第1繊維2に比べて外径D2が大幅に細い第2繊維3とを含む。
【0025】
一例として、比D1/D2は、15.0以上1300.0以下の範囲の値に設定されていることが望ましい。また比D1/D2は、15.0以上714.3以下の範囲の値に設定されていることが更に望ましく、15.0以上300.0以下の範囲の値に設定されていることが一層望ましい。
【0026】
また別の例では、比D1/D2は、60.0以上1666.7以下の範囲の値に設定できる。比D1/D2は、更に60.0以上1300.0以下の範囲の値に設定されていることが望ましい。また比D1/D2は、60.0以上714.3以下の範囲の値に設定されていることが更に望ましく、60.0以上300.0以下の範囲の値に設定されていることがより一層望ましい。
【0027】
また外径D1は、5.0μm以上50.0μm以下の範囲の値に設定されている。このような範囲の値に外径D1を設定することで、第2繊維3を第1繊維2の周囲に良好に張り巡らせることができる。外径D1は、更に20.0μm以上30.0μm以下の範囲の値に設定されていることが望ましい。
【0028】
また外径D2は、30.0nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定されている。このような範囲の値に外径D2を設定することで、第1繊維2と第2繊維3との外径の差異を明確にしつつ、第2繊維3が過度に細くなるのを防止し、第2繊維3を製造し易くできる。外径D2は、更に30.0nm以上800nm以下の範囲の値に設定されていることが望ましく、30.0nm以上166.7nm以下の範囲の値に設定されていることが更に望ましい。また別の例では、外径D2は、50.0nm以上800.0nm以下の範囲の値に設定されていることが望ましい。
【0029】
また繊維物品1では、一例として、第1繊維2の総体積V1と、第2繊維3及び樹脂粒状物4を合わせた総体積V2の比V1/V2が、1.9以上124.0以下の範囲の値に設定されている。比V1/V2は、更に20.0以上124.0以下の範囲の値に設定されていることが望ましい。上記のような範囲の値に比D1/D2及び比V1/V2が設定されることで、第1繊維2の外径D1と第2繊維3の外径D2を異ならせ、各繊維2,3の機能を発揮させ易くできる。
【0030】
繊維物品1は、捲縮された第1繊維2に第2繊維3が添着された状態で、複数本の第1繊維2の繊維間隙と、複数本の第2繊維3の繊維間隙とが内部に形成されている。言い換えると、繊維物品1の内部には、第1繊維2と第2繊維3とによる網目構造が形成されている。第2繊維3が第1繊維2に添着されているため、この網目構造は、繊維物品1の使用中に多少の外力が作用しても破壊されにくい。
【0031】
このように繊維物品1は、内部に豊富な繊維間隙が設けられている。従って繊維物品1は、内部に流体を流通させたときの圧力損失が比較的低い。本実施形態の繊維物品1は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が、3Pa以上35Pa以下の範囲の値に設定されている。この圧力損失の好ましい値としては、別の例として、例えば5Pa以上35Pa以下の範囲の値、或いは、15Pa以上35Pa以下の範囲の値が挙げられる。
【0032】
この圧力損失は、一般的な圧力損失測定器を用いて、以下の手順で測定できる。即ち、測定サンプルを直内径113mm(濾材としての有効面積100cm)のホルダにセットし、測定サンプル内を流通する空気の流速を5.3cm/秒になるように流量計で調整した。このときの測定サンプルの空気の流通方向の上流側と下流側との間で生じる圧力損失をマノメータにより測定できる。
【0033】
また繊維物品1の内部では、第2繊維3は、第1繊維2と絡み合いながら第1繊維2に担持されている。このため、第2繊維3の外径D2が第1繊維2の外径D1に比べて細い場合でも、第2繊維3の切断等の損傷を防止しながら第2繊維3を第1繊維2で支持できる。よって、第2繊維3が有する機能を長期間にわたり維持できる。
【0034】
比D1/D2の値は、15.0以上1666.7以下の範囲であれば適宜設定可能である。比D1/D2の値が15.0を下回ると、繊維物品1において、外径が異なる2種類の繊維の各機能を発揮させる効果が低減する。また、比D1/D2の値が1666.7を超えると、例えば、外径D1が太過ぎて第2繊維3を第1繊維2の周囲に張り巡らせにくくなったり、外径D2が細過ぎて第2繊維3を形成できなくなったりすることで、繊維物品1の製造が困難となるおそれがある。
【0035】
比D1/D2を上記範囲の値に設定することで、繊維物品1に用いられる第2繊維3の重量を低減できる。このため、繊維物品1の製造に用いられる第2繊維3の使用量を低減できる。従って、繊維物品1の生産コストを抑制しながら、高機能を有する第2繊維3を繊維物品1の材料として好適に使用できる。これにより本実施形態では、第2繊維3の設計自由度が向上されている。
【0036】
本実施形態の繊維物品1は、第1繊維2に添着され且つ第2繊維3と同様の組成からなる樹脂粒状物4を含む。この樹脂粒状物4は、繊維化可能な高分子で構成されている。繊維物品1では、樹脂粒状物4が捲縮された複数本の第1繊維2に添着された状態で第1繊維2が開繊されることで、樹脂粒状物4に外力が加えられ、樹脂粒状物4から第2繊維3が形成されている。図1中の拡大図に示すように、製造後の繊維物品1には、樹脂粒状物4が若干残留している場合がある。なお、繊維物品1の製造方法等によっては、繊維物品1中に樹脂粒状物4が残留しない場合もある。
【0037】
樹脂粒状物4は、ラメラ構造を内包する。ここで言うラメラ構造とは、樹脂粒状物4の樹脂を構成する高分子鎖が、連なり且つ折り畳まれた構造を指す。樹脂粒状物4が内包するラメラ構造は、具体的にはこの高分子鎖が数百万単位でリボン状に連なって形成された微細繊維である。樹脂粒状物4の内部には、この微細繊維が折り畳まれて収納されている。樹脂粒状物4は、一例として、ペースト押出成形することが可能である。
【0038】
次に、第1繊維2の詳細について説明する。第1繊維2の材料は、適宜選択可能である。上記したように、繊維物品1の製造時に第2繊維3を樹脂粒状物4から形成する際において、樹脂粒状物4を分散状態で含む水分散液(以下、単に水分散液と称する。)を第1繊維2に添着することで樹脂粒状物4を第1繊維2に添着する場合、第1繊維2の表面に水滴を滴下した直後の水接触角θ1は、第1繊維2の水分散液に対する親和性を高めるため、ある程度低い値に設定されていることが好適である。このため一例として、第1繊維2は、レーヨン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、セルロースアセテートのうちの少なくとも1つを含む。本実施形態の第1繊維2は、セルロースアセテート繊維である。繊維物品1は、複数本のセルロースアセテート繊維を含むトウ(トウバンド)を捲縮し且つ開繊することで形成された第1繊維2を含んでいる。これにより繊維物品1は、良好な嵩高さを有している。
【0039】
第1繊維2は、第2繊維3よりも長い長繊維である。第1繊維2が捲縮された長繊維であると、例えば、第1繊維2の本数が少ない場合でも、第1繊維2で豊富な第2繊維3を安定して支持できる。なお、第1繊維2は長繊維に限定されず、短繊維であってもよい。
【0040】
本実施形態の第1繊維2の表面には、セルロースアセテート繊維を紡糸する際に用いられる、繊維油剤と水とを含むオイルエマルジョン(以下、単にオイルエマルジョンと称する。)、及び、セルロースアセテート繊維を捲縮する際に用いられる水の少なくともいずれか(ここでは両方)が添着されている。これにより第1繊維2の表面は、親水性を有する。
【0041】
繊維物品1の製造時に水分散液を用いる場合、水接触角θ1は、一例として、10°以上40°以下の範囲の値であることが、第1繊維2に水分散液との親和性(親水性)を付与する上で望ましい。水接触角θ1は、更に20°以上35°以下の範囲の値であることがより望ましい。
【0042】
水接触角θ1は、例えば第1繊維2の表面の水又はオイルエマルジョンの少なくともいずれかの添着量により調整できる。一例として、当該添着量を増大させると、水接触角θ1は増大し、当該添着量を低減すると、水接触角θ1は減少する。水接触角θ1は、水やオイルエマルジョンとは異なる別の成分を第1繊維2の表面に添着させることで調整されてもよい。
【0043】
第1繊維2の断面形状は、適宜設定可能である。第1繊維2の断面形状は、例えば、円形状、Y字状、及び不定形状のうちのいずれかに設定できる。第1繊維2の断面形状を変更することで、例えば、第1繊維2の表面積を調整できる。一定範囲において、第1繊維2の断面の異形性が大きいほど、第1繊維2の表面積が増大する。これにより、第1繊維2を第2繊維3や流体に接触させ易くできる。
【0044】
第1繊維2の断面形状は、具体的には例えば乾式紡糸法で第1繊維2を紡糸する場合、紡糸孔の周縁形状を変えることにより調整できる。ここで言う第1繊維2の外径D1、及び、第2繊維3の外径D2は、一例として、それぞれ複数本(ここでは10本)の繊維の繊維断面を撮影し、撮影画面に現れた繊維断面の最大外径の平均値として算出できる。繊維物品1には、異なる断面形状の複数本の第1繊維2が含まれていてもよい。
【0045】
次に第2繊維3の詳細について説明する。第2繊維3は、第1繊維2と交差するように配置され、且つ、第1繊維2に添着されている。本実施形態の第2繊維3は、第1繊維2にファンデルワールス力により添着されている。これにより、第1繊維2と第2繊維3とは、互いの親和性が良好である。第2繊維3は、一例として繊維化可能な高分子により作られている。
【0046】
繊維化可能な高分子として、第2繊維3は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも称する。)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。本実施形態の第2繊維3は、主として(言い換えると総重量の50重量%よりも多くの)PTFEを含む。第2繊維3は、PTFEの極細繊維である。
【0047】
第2繊維3の材料として用いられるPTFEについて説明する。このPTFEは、繊維化可能な高分子として構成されている。このようなPTFEは、例えばTFEの乳化重合、又は懸濁重合から得られた高分子量PTFEである。高分子量PTFEは、変性PTFE及びホモPTFEのうち少なくともいずれかでもよい。
【0048】
変性PTFEとは、TFEと、TFE以外のモノマー(変性モノマー)とからなる。変性PTFEは、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期又は終期に変性されたものが一般的であるが、特に限定されない。変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。
【0049】
また変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部であり、変性モノマーに由来する部分である。全単量体単位とは、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する。変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば、特に限定されない。
【0050】
ここで言う高分子量PTFEの「高分子量」とは、繊維物品1の製造時に繊維化し易く、繊維長の長いフィブリルが得られる分子量であって、標準比重(SSG)が、2.130以上2.230以下の範囲の値であり、溶融粘度が高いために実質的に溶融流動しない分子量を指す。なお繊維化可能なPTFEについては、例えば国際公開第2013/157647号を参照できる。
【0051】
繊維物品1の表面に水滴を滴下した直後の水接触角θ2は、繊維物品1の製造時に水分散液を用いる場合、水分散液の親水性を考慮して、ある程度低く設定される。水接触角θ2は、一例として、水接触角θ1と同様の範囲の値であることが望ましい。
【0052】
水接触角θ1,θ2は、例えば、水滴を滴下した対象物の表面を水滴の側方から顕微鏡で観察することで測定可能である。具体的に、水接触角θ1,θ2は、例えば、市販されている接触角計(協和界面科学(株)製接触角計「DMs-401」)を使用し、対象物に水滴を滴下し、その接触角を5点測定したときの測定値の平均値として算出される。
【0053】
本実施形態では、水分散液に対する第1繊維2の親和性を高めるため、水接触角θ1,θ2を比較的低い値に設定する例を示したが、例えば樹脂粒状物4を分散する分散液の特性に合わせて水接触角θ1,θ2を比較的高い値に設定してもよい。また、樹脂粒状物4を分散状態で含む分散液は、第1繊維2に対する親和性を高めるため、例えば第1繊維2の表面に対する接触角が低くなるように調整されてもよい。また、分散液を用いず、例えば粉末状の樹脂粒状物4を第1繊維2に添着して繊維物品1を製造する場合、水接触角θ1,θ2は、ある程度自由な値に設定できる。
【0054】
以上に説明したように、繊維物品1によれば、第1繊維2よりも外径が大幅に細い第2繊維3を分散した状態で第1繊維2に支持させることで、第2繊維3が切断されるのを防止しながら、第2繊維3を第1繊維2により安定して支持できる。これにより、第1繊維2と第2繊維3とを各々が有する機能を発揮可能に配置しながら、繊維物品1中の第1繊維2と第2繊維3の各状態を安定して維持できる。
【0055】
また、第1繊維2の外径D1、第2繊維3の外径D2、及び、比D1/D2を上記のように設定することで、複数本の第1繊維2により形成される比較的大きな繊維間隙と、複数本の第2繊維3により形成される比較的小さな繊維間隙とを、共に繊維物品1内に豊富に形成できる。これにより、例えば第2繊維3のみからなる繊維物品1に比べて、嵩高い繊維物品1が得られる。よって、流体を繊維物品1内に豊富に流通させることができるため、例えば、高効率の濾過機能を有する繊維物品1を実現できる。
【0056】
また、外径D2が1.0μm以下の極細の第2繊維3を、外径D1が比較的太い第1繊維2と組み合わせ、第2繊維3を第1繊維2で支持することにより、例えば樹脂繊維のみで繊維物品を製造した場合に比べて嵩高な繊維物品1を製造できると共に、長期にわたり第2繊維3の機能を発揮可能な繊維物品1を製造できる。
【0057】
また繊維物品1では、外径D1が、5.0μm以上50.0μm以下の範囲の値に設定されている。これにより、第1繊維2の強度を向上でき、第2繊維3を第1繊維2により安定して支持しながら、第2繊維3の機能を発揮させることができる。
【0058】
また繊維物品1では、外径D1が、20.0μm以上30.0μm以下の範囲の値に設定されている。このように、第1繊維2の外径を設定することで、第1繊維2の繊維間隙の大きさを安定化できる。
【0059】
また繊維物品1では、第1繊維2が捲縮されている。これにより、繊維物品1内に繊維間隙を豊富に形成できると共に、繊維物品1を嵩高に構成し易くできる。
【0060】
また繊維物品1は、捲縮された第1繊維2に第2繊維3が添着された状態で、複数本の第1繊維2の繊維間隙と、複数本の第2繊維3の繊維間隙とが内部に形成されていている。これにより、第1繊維2により第2繊維3を安定して支持しながら、繊維物品1内に豊富な繊維間隙を設け、第2繊維3の機能を発揮させ易くできる。
【0061】
また繊維物品1は、厚み寸法が3.0mm以上のシート状に形成されている。これにより、例えば流体に接触し易いように流体流路に繊維物品1を配置できるので、流体に対して第1繊維2及び第2繊維3の機能を発揮し易くできる。
【0062】
また、本実施形態の繊維物品1は、第1繊維2に添着され且つ第2繊維3と同様の組成からなる樹脂粒状物4を含み、第1繊維2の総体積V1と、第2繊維3及び樹脂粒状物4を合わせた総体積V2の比V1/V2が、1.9以上124.0以下の範囲の値に設定されている。これにより、外径が太く且つ体積が大きな第1繊維2により、外径が細く且つ体積が小さい第2繊維3を安定して支持でき、第2繊維3の機能をより安定して発揮し易くできる。
【0063】
また繊維物品1は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が、3Pa以上35Pa以下の範囲の値に設定されている。これにより、繊維物品1中に流体を流通させた際、繊維物品1により流体の流通が妨げられるのを良好に抑制できる。
【0064】
また繊維物品1では、第1繊維2が、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、セルロースアセテートのうちの少なくとも1つである。これにより、第1繊維2の選択幅を広げて繊維物品1の設計自由度を向上できる。
【0065】
また繊維物品1では、第2繊維3が、繊維化可能な高分子により作られている。このような高分子を用いることで、第2繊維3を効率よく製造できる。また繊維物品1では、第2繊維3が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つを含んでいる。これにより、第2繊維3の選択幅を広げて繊維物品1の設計自由度を向上できる。
【0066】
また繊維物品1では、第2繊維3が、主としてポリテトラフルオロエチレンを含んでいる。これにより、ポリテトラフルオロエチレンが有する高機能を繊維物品1で安定して発揮できる。
【0067】
(確認試験)
次に、確認試験について説明するが、本開示は以下に示す実施例に限定されるものではない。
[試験1]
紡糸条件を調整することにより外径D1が20μmに設定され、且つ、捲縮された長繊維であるセルロースアセテート繊維を第1繊維2として用いた。また、樹脂粒状物4の組成、及び、第1繊維2の開繊に伴う樹脂粒状物4の延伸条件等を調整することにより、外径D2が70nmに設定されたPTFE繊維を第2繊維3として用いた。これらの繊維2,3を用いて、実施例の繊維物品1を製造した。図2は、実施例に係る繊維物品のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。図2は、図1の拡大図よりも拡大倍率を上げている。また、第2繊維3を省略した以外は実施例と同様の構成の比較例の繊維物品を製造した。図3は、比較例に係る繊維物品のSEM写真である。
【0068】
図2に示すように、実施例の繊維物品1では、外径D1に比べて大幅に外径D2が細い極細繊維である複数本の第2繊維3が、第1繊維2と添着されながら第1繊維2に支持されていることが確認された。また、複数本の第1繊維2の繊維間隙において、複数本の第2繊維3が交差するように配置され、複数本の第2繊維3からなる網目構造が形成されていることも確認された。これにより実施例の繊維物品1は、嵩高く形成されている。また、実施例の繊維物品は、優れた濾過性能を有するものと考えられる。図3に示すように、これに対して比較例の繊維物品は、第1繊維のみからなる繊維間隙が単に形成されていることが確認された。このため、比較例の繊維物品は、濾過性能が実施例のものに比べて低いものと考えられる。
【0069】
[試験2]
以下に示す実施例1~3及び比較例1~3のように、外径D1,D2を所定の値に設定した2種類の繊維を用いて繊維物品を製造しようとした場合、繊維物品が製造可能か否かを調べる確認試験を行った。本試験では、繊維物品の製造方法として、セルロースアセテート繊維からなる捲縮された複数本の第1繊維に繊維化可能な高分子(PTFE)からなる樹脂粒状物を添着した後、複数本の第1繊維を開繊し且つ樹脂粒状物から第2繊維を形成する方法を採用した。その結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、実施例1~3では、図2に示される構造を有する繊維物品1を製造できることが分かった。これにより、少なくとも、第1繊維2の外径D1を10μm以上50μm以下の範囲の値に設定し、第2繊維3の外径D2を40nm以上120nm以下の範囲の値に設定し、比D1/D2を83.3以上1250.0以下の範囲の値に設定した場合には、繊維物品1を製造できることが確認された。
【0072】
これに対して比較例1~3では、いずれも繊維物品を製造できないことが確認された。このうち比較例1,2の外径D2(20.0nm)は、第2繊維の元となる樹脂粒状物の組成や原料の種類、或いは樹脂粒状物の延伸条件を調整しても、第2繊維を製造できない値であることが確認された。また比較例3は、外径D1(60.0μm)が太過ぎて繊維空隙が過大となり、第1繊維により第2繊維を保持するのが困難であることが確認された。これにより、実施例1~3の比較例1~3に対する優位性が確認された。なお別の確認試験の結果により、実施例1~3とは別に、比D1/D2を15.0以上1666.7以下の範囲の値に設定した場合において、実施例1~3と同様の結果が得られることが分かった。また、製造可能な第2繊維3の外径D2の下限値が、30.0nmであることも分かった。
【0073】
[試験3]
次に、濾材厚み及び濾材目付の組み合わせが異なる濾材である実施例4~9の繊維物品1として構成した。この実施例4~9について、圧力損失、捕集効率、及びPF値について測定した。圧力損失は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの条件下で測定した。捕集効率は、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率として測定した。PF値は、以下の式1に基づいて算出した。
[式1]

実施例4~9の各構成と測定結果について、以下の表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、実施例4~9は、圧力損失、捕集効率、及びPF値のいずれにおいても良好な値を示すことが分かった。
【0076】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、請求の範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。繊維物品1は、シート状のものに限定されず、その他の形状(例えば、直方体状、柱状、球体状、多角形状)を有していてもよい。また、複数の繊維物品1を組み合わせた状態で用いられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように本開示によれば、異なる種類の繊維を含む繊維物品において、各繊維が有する機能を良好に発現できると共に、繊維物品中の各繊維の状態を安定して維持できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる繊維物品として、広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0078】
1 繊維物品
2 第1繊維
3 第2繊維
4 樹脂粒状物
図1
図2
図3