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  • 特許-熱電変換モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/13 20230101AFI20241121BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20241121BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20241121BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20241121BHJP
【FI】
H10N10/13
H10N10/857
H10N10/852
H10N10/01
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021551155
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036027
(87)【国際公開番号】W WO2021065670
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2019180230
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132533(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168837(WO,A1)
【文献】特開2006-204646(JP,A)
【文献】特開2008-205783(JP,A)
【文献】特開2006-261221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0338393(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03261137(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0169314(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0198556(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/13
H10N 10/857
H10N 10/852
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換素子と、該熱電変換素子の一方の面に熱的に接続された第1放熱部材とを備え、該第1放熱部材が屈曲性を有するワイヤー又は金属箔であ
前記第1放熱部材の、前記熱電変換素子の一方の面に接続された端部とは反対側の端部が、筐体の面上に直接に熱的に接続されるように設けられ、
前記筐体の材料が、ゴム、樹脂及び金属から選ばれる、
熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記熱電変換素子の一方の面の温度と、前記筐体との温度差が10℃以上である、請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記第1放熱部材が、高熱伝導性材料からなる、請求項1又は2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記高熱伝導性材料が、金、銅、銀、鉄、ニッケル、アルミニウム及び真鍮(黄銅)から選ばれる、請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記筐体の有する熱容量Mhが、前記第1放熱部材の有する熱容量Mwより大きい、請求項1~のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記第1放熱部材の有する熱容量Mwに対する前記筐体の有する熱容量Mhの比率(Mh/Mw)が、2~5000である、請求項1~のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記熱電変換素子の一方の面と前記第1放熱部材との間に熱的に接続された第2放熱部材を備える、請求項1~のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
前記熱電変換素子の他方の面に熱的に接続された伝熱部材を備える、請求項1~のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項9】
前記熱電変換素子が、π型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子で構成される、請求項1~のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項10】
前記π型熱電変換素子、又は前記インプレーン型熱電変換素子の構成が発電に用いられる、請求項に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビル、工場等で使用される化石燃料資源等から発生する未利用の排熱エネルギーを熱源として回収する有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換材料を用い、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換するようにした熱電変換モジュールがある。
前記熱電変換モジュールとして、いわゆるπ型の熱電変換素子の使用が知られている。π型は、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、例えば、―方の電極の上にP型熱電素子を、他方の電極の上にN型熱電素子を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電材料の上面を対向する基板の電極に接続することで構成されている。また、いわゆるインプレーン型の熱電変換素子の使用が知られている。インプレーン型は、P型熱電素子とN型熱電素子とが基板の面内方向に交互に設けられ、例えば、両熱電素子間の接合部の下部を電極を介在し直列に接続することで構成されている。
このような中、熱電性能を向上させる観点から、通常、熱電変換素子に温度差を効率良く付与するために、熱電変換素子の低温側の面に放熱部材を設けることがある。
特許文献1では、熱電変換素子の使用にあっては、当該熱電変換素子にヒートシンク(以下、「放熱部材」ということがある。)を設け、ヒートシンクの一部を蓄熱材等に接続することで、蓄熱材とヒートシンクの間で生じる温度差をもとに効率的に発電を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/132533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の熱電変換モジュールでは、放熱部材として、リジッドで立体的にかさ高いフィン等を使用しており、たとえば、熱源が狭所にあり、設置スペースが限られている場所では、当該熱電変換モジュールの設置が困難になり、熱源を有効かつ効率的に使用でき難くなる場合がある。
【0005】
本発明は、上記を鑑み、熱源が狭所にあり、設置スペースが限られている場所でも、放熱部材の設置にかかる取りまわしの自由度が高く、効率的な温度差の付与が可能な熱電変換モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱電変換モジュールの構成において、熱電変換素子の一方の面に熱的に接続される第1放熱部材として、屈曲性を有するワイヤー又は金属箔とすることにより、熱源が狭所にあり、設置スペースが限られている場所でも、第1放熱部材の設置にかかる取りまわしの自由度が高く、効率的な温度差の付与が可能になることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(13)を提供するものである。
(1)熱電変換素子と、該熱電変換素子の一方の面に熱的に接続された第1放熱部材とを備え、該第1放熱部材がワイヤー又は金属箔である、熱電変換モジュール。
(2)前記第1放熱部材の、前記熱電変換素子の一方の面に接続された端部とは反対側の端部に、熱的に接続された接続部材を備える、上記(1)に記載の熱電変換モジュール。(3)前記第1放熱部材の、前記熱電変換素子の一方の面に接続された端部とは反対側の端部に、熱的に接続された筐体を備える、上記(1)に記載の熱電変換モジュール。
(4)前記熱電変換素子の一方の面の温度と、前記筐体との温度差が10℃以上である、上記(3)に記載の熱電変換モジュール。
(5)前記第1放熱部材が、高熱伝導性材料からなる、上記(1)~(4)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(6)前記高熱伝導性材料が、金、銅、銀、鉄、ニッケル、アルミニウム及び真鍮(黄銅)から選ばれる、上記(5)に記載の熱電変換モジュール。
(7)前記筐体の材料が、ゴム、樹脂及び金属から選ばれる、上記(3)又は(4)に記載の熱電変換モジュール。
(8)前記筐体の有する熱容量Mhが、前記第1放熱部材の有する熱容量Mwより大きい、上記(1)~(7)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(9)前記第1放熱部材の有する熱容量Mwに対する前記筐体の有する熱容量Mhの比率(Mh/Mw)が、2~5000である、上記(1)~(8)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(10)前記熱電変換素子の一方の面と前記第1放熱部材との間に熱的に接続された第2放熱部材を備える、上記(1)~(9)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(11)前記熱電変換素子の他方の面に熱的に接続された伝熱部材を備える、上記(1)~(10)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(12)前記熱電変換素子が、π型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子で構成される、上記(1)~(11)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(13)前記π型熱電変換素子、又は前記インプレーン型熱電変換素子の構成が発電に用いられる、上記(12)に記載の熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱源が狭所にあり、設置スペースが限られている場所でも、放熱部材の設置にかかる取りまわしの自由度が高く、効率的な温度差の付与が可能な熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面構成図である。
図2】本発明の熱電変換モジュールの構成の他の一例を説明するための断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱電変換モジュール]
本発明の熱電変換モジュールは、熱電変換素子と、該熱電変換素子の一方の面に熱的に接続された第1放熱部材とを備え、該第1放熱部材がワイヤー又は金属箔であることを特徴とする。
本発明の熱電変換モジュールでは、熱電変換モジュールを構成する第1放熱部材を屈曲性を有するワイヤー又は金属箔とすることにより、熱源由来の熱電変換素子の一方の面からの放熱を効率良く伝導させ、リジッドで立体的にかさ高い放熱フィン等を使用した構成とした場合と同様に、熱電変換素子に効率的な温度差の付与を可能にすることはもとより、熱源が狭所にあり、熱電変換モジュールの設置スペースが限られている場所でも、放熱部材等の設置にかかる取りまわしの自由度を高くすることができる。
【0010】
図1は、本発明の熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面構成図である。熱電変換モジュール1Aは、いわゆるπ型の熱電変換素子として構成され、第1の基板2a及び対向する第2の基板2bと、前記第1の基板2a及び対向する前記第2の基板2bとの間に形成されるP型熱電素子層4、N型熱電素子層5と、前記第1の基板2a上に形成される第1の電極3a、対向する前記第2の基板2b上に形成される第2の電極3bとを含み、前記第2の基板2bの、第2の電極3b側とは反対側の面上には、第1放熱部材として、接合材料部6aを介在しワイヤー7が熱的に接続され、前記ワイヤー7は端部8まで延在している。
【0011】
本発明に用いる第1放熱部材は、ワイヤー又は金属箔を用いる。ワイヤーとしては、屈曲性を有すれば、特に制限されず、断面形状は円形状や楕円形状であっても、矩形状等であってもよい。また、ワイヤーは、単線であっても、撚り線であっても、それらを組み合わせて用いてもよく、それぞれ独立に複数用いてもよい。
金属箔としては、屈曲性を有すれば、特に制限されない。また、単独で用いても、複数枚を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
本発明に用いるワイヤーとしては、高熱伝導性材料を用いることが好ましい。
高熱伝導性材料としては、フレキシブル性を有し熱源由来の熱電変換素子の一方の面からの放熱を効率良く伝導させる観点から、好ましくは金、銅、銀、鉄、ニッケル、アルミニウム等の単金属、真鍮(黄銅)等の合金であり、より好ましくは、銅(無酸素銅含む)、アルミニウムである。
【0013】
本発明に用いるワイヤーの1本あたりの断面積は、使用する材料により適宜選択されるが、屈曲性を有し機械的強度が維持できれば特に制限されない。通常、0.008~30.0mmであり、好ましくは0.5~20.0mm、より好ましくは1.0~10.0mm、さらに好ましくは2.0~5.0mmである。ワイヤーの断面積が上記の範囲にあれば、熱源が狭所にあり、熱電変換モジュールの設置スペースが限られている場所でも、放熱部材として取りまわしの自由度を高くすることができる。
本発明に用いるワイヤー1本あたりの長さは特に制限されないが、例えば、後述する、接続される筐体に合わせて適宜選択され、通常1cm~100cm程度である。
【0014】
本発明に用いる金属箔としては、金属であれば特に制限されず、フレキシブル性を有し熱源由来の熱電変換素子の一方の面からの放熱を効率良く伝導させる観点から、好ましくは金、銅、銀、鉄、ニッケル、アルミニウム等の単金属、真鍮(黄銅)等の合金であり、より好ましくは、銅(無酸素銅含む)、アルミニウムである。
【0015】
本発明に用いる金属箔の厚みとしては、通常、0.1μm~500μmであり、好ましくは1μm~300μmであり、より好ましくは2μm~200μmであり、さらに好ましくは、3μm~100μmである。金属箔の厚みが上記範囲にあれば、可撓性がより向上し、熱源が狭所にあり、熱電変換モジュールの設置スペースが限られている場所でも、放熱部材として取りまわしの自由度を高くすることができる。
本発明に用いる金属箔1枚あたりの長さは特に制限されないが、例えば、後述する、接続される筐体に合わせて適宜選択され、通常1cm~100cm程度である。
【0016】
また、本発明の熱電変換モジュールの他の一例として、前記第1放熱部材の、前記熱電変換素子の一方の面に接続された端部とは反対側の端部に、熱的に接続された筐体を備えることが好ましい。
筐体は、前記第1放熱部材から伝導される熱を効率良く受け取り、結果的に熱電変換素子の一方の面の温度を下げ、熱源側の熱電変換素子の他方の面との温度差を増大させるために用いられる。
【0017】
図2は、本発明の熱電変換モジュールの構成の他の一例を説明するための断面構成図である。熱電変換モジュール1Bは、熱電変換モジュール1Aにおいて、ワイヤー7の端部8が、接合材料部6bを介在し筐体9と熱的に接続される以外は、熱電変換モジュール1Aと同様の構成となっている。
【0018】
本発明に用いる筐体としては、放熱を効率的に行う観点から、第1放熱部材の有する熱容量Mw(J/K)より大きな熱容量Mh(J/K)を有することが好ましい。
筐体の材料としては、第1放熱部材として用いる高熱伝導性材料と同じであっても異なっていてもよい。狭所に設置する(筐体の小型化)観点から、用いる高熱伝導性材料の比熱より高い比熱を有する材料を用いることがより好ましい。このような筐体の材料として、ゴム、樹脂、金属等が挙げられ、用いる高熱伝導性材料により適宜選択することができる。
【0019】
前記第1放熱部材の有する熱容量Mwに対する前記筐体の有する熱容量Mhの比率(Mh/Mw)は、用いる第1放熱部材の有する熱容量に依存するが、好ましくは1超であり、より好ましくは2~5000であり、さらに好ましくは4~5000であり、特に好ましくは、8~5000である。当該比率をこの値にすると、熱電変換素子の一方の面からの放熱が第1放熱部材を伝導し筐体に効率よく蓄熱され、結果的に熱電変換素子の一方の面の温度を下げ、熱源側の熱電変換素子の他方の面との温度差を増大させることができる。
【0020】
熱源由来の熱電変換素子の一方の面からの放熱を効率良く行う観点から、前記熱電変換素子の一方の面(例えば、図1において、第2の基板2bの、電極側とは反対側の面)と、前記ワイヤーの端部(例えば、図1において、ワイヤーの端部8とは反対側の端部)との間に、両者に熱的に接続された第2放熱部材(図示せず)を設けることが好ましい。第2放熱部材としては、特に制限されないが、高熱伝導性材料を用いることが好ましい。高熱伝導性材料としては、熱電変換素子の一方の面からの放熱を効率良く伝導させる観点から、銅、銀、鉄、ニッケル、クロム、アルミニウム等の単金属、ステンレス、真鍮(黄銅)等の合金が挙げられる。これらの中で、好ましくは、銅(無酸素銅含む)、アルミニウム、ステンレスであり、熱伝導率が高く、加工性が容易であることから、さらに好ましくは、銅である。また、前記単金属、又は合金等を複数組み合わせ積層して用いてもよい。
第2放熱部材がシート状である場合の厚さは、好ましくは3~200μm、より好ましくは5~100μm、さらに好ましくは10~50μmである。
第2放熱部材を形成する方法としては、プロセスの簡易性の観点から、電解めっき法や無電解めっき法、及びその併用、並びに金属箔を溶着法により基板上に設けることが好ましい。
また、高熱伝導性材料を、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の化学的処理、例えば、フォトレジストのパターニング部をウェットエッチング処理し、前記フォトレジストを除去することにより所定のパターンを形成することが好ましい。
【0021】
また、熱源と熱的に効率良く接続するために、熱電変換素子の他方の面(例えば、図1において、第2の基板2aの、電極側とは反対側の面)に伝熱部材(図示せず)を設けることが好ましい。
伝熱部材としては、特に制限されないが、高熱伝導性材料を用いることが好ましい。高熱伝導性材料としては、熱源からの放熱を熱電変換素子の他方の面に効率良く伝導させる観点から、好ましくは金、銅、銀、鉄、ニッケル、アルミニウム等の単金属、ステンレス、真鍮(黄銅)等の合金であり、より好ましくは、銅(無酸素銅含む)、アルミニウムである。また、前記単金属を複数組み合わせ用いてもよい。
伝熱部材の厚さは、好ましくは3~200μm、より好ましくは5~100μm、さらに好ましくは10~50μmである。
伝熱部材を形成する方法としては、前述した第2放熱部材の形成方法と同様に行うことができる。
【0022】
本発明の熱電変換モジュールのさらに他の一例として、前記第1放熱部材の、前記熱電変換素子の一方の面に接続された端部とは反対側の端部に、熱的に接続された接続部材を備えることが好ましい。
図1において、例えば、第1放熱部材としてのワイヤー7の端部8に、接続部材(図示せず)を備える構成である。前記接続部材を、例えば、熱源の周囲に存在する熱容量の大きな金属体等に接続することにより、ワイヤー7の端部8からの放熱を効率良く行うことができ、前述した筐体を設けた例と同様の効果が得られる場合がある。
接続部材としては、熱的な接続が可能であれば特に制限はなく、クリップ、ハンダ、導電ペースト、導電接着剤、ボンディング剤等の、汎用の部材を用いることができ、接続対象物の態様に応じ、適宜選択することができる。
【0023】
前記熱電変換素子の一方の面の温度と、前記筐体の温度との温度差としては、10℃以上であることが好ましい、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上である。温度差の上限としては、通常100℃以下である。このような環境に熱電変換モジュールを設置することで、より高い出力を得ることができる。
【0024】
<基板>
本発明の熱電変換モジュールは、第1の電極を有する第1の基板を含むことが好ましい。前述したように、π型の熱電変換素子として構成される場合、第1の電極を有する第1の基板に対向した、第2の電極を有する第2の基板を含むことが好ましい。また、インプレーン型の熱電変換素子として構成される場合、第1の電極を有する第1の基板に対向した第2の基板を含むことが好ましい。前記第1の基板と該第1の基板に対向した前記第2の基板は同じであっても、異なっていてもよい。
第1及び第2の基板は、特に制限されず、それぞれ独立に、ガラス、セラミックス、又はプラスチックフィルム等を用いることができる。これらの中で、屈曲性を有し、熱源の表面への設置に対し自由度を有する観点から、プラスチックフィルムが好ましい。さらに、耐熱性が高く、アウトガスの発生が少ないという観点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリサルフォンフィルムが好ましく、さらにまた、汎用性が高いという観点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0025】
前記第1及び第2の基板の厚さは、それぞれ独立に、耐熱性及び屈曲性の観点から、1~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、第1及び第2の基板は、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1~50ppm・℃-1であり、0.1ppm・℃-1~30ppm・℃-1であることがより好ましい。
【0026】
<電極>
本発明の熱電変換モジュールは、第1の電極を含むことが好ましい。π型の熱電変換素子として構成される場合、さらに第1の電極を有する第1の基板に対向した第2の基板に第2の電極を含むことが好ましい。前記第1の電極と、前記第1の基板に対向した前記第2の基板の前記第2の電極とは同じであっても、異なっていてもよい。また、インプレーン型の熱電変換素子として構成される場合は、第1の電極があれば第2の電極はあってもなくてもよい。
第1の電極及び第2の電極に用いる金属材料としては、特に制限されないが、それぞれ独立に、銅、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金が好ましい。また、単層のみならず、複数組み合わせて多層構成としてもよい。
前記第1の電極及び第2の電極の層の厚さは、それぞれ独立に、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。第1の電極及び第2の電極の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、かつ電極として十分な強度が得られる。
【0027】
第1の電極及び第2の電極の形成は、前述した金属材料を用いて行う。第1の電極及び第2の電極を形成する方法としては、基板上にパターンが形成されていない電極を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
熱電性能の観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められるため、めっき法や真空成膜法で成膜した電極を用いることが好ましい。高い導電性、高い熱伝導性を容易に実現できることから、真空蒸着法、スパッタリング法等の真空成膜法、および電解めっき法、無電解めっき法が好ましい。形成パターンの寸法、寸法精度の要求にもよるが、メタルマスク等のハードマスクを介在し、容易にパターンを形成することもできる。
【0028】
<熱電素子層>
本発明に用いる熱電素子層は、基板上に、熱電半導体粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物からなるものが好ましい。
【0029】
(熱電半導体粒子)
熱電素子層に用いる熱電半導体粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することが好ましい。
【0030】
本発明に用いるP型熱電素子層及びN型熱電素子層を構成する材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、ZnSb2、ZnSb等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;BiSe等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi、CrSi、MnSi1.73、MgSi等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
【0031】
これらの中でも、本発明に用いる前記熱電半導体材料は、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiTeSb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、BiTe3-YSeで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:BiTe)であり、より好ましくは0.1<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0032】
熱電半導体粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0033】
熱電半導体粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0034】
また、熱電半導体粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体粒子に依存するが、通常、粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0035】
(耐熱性樹脂)
本発明に用いる耐熱性樹脂は、熱電半導体粒子間のバインダーとして働き、熱電素子層の屈曲性を高めるためのものである。該耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂を用いる。
前記耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。前記耐熱性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の支持体として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0036】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子層の屈曲性を維持することができる。
【0037】
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子層の屈曲性を維持することができる。
【0038】
前記耐熱性樹脂の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1~20質量%である。前記耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0039】
(イオン液体)
本発明で用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~400℃の温度領域のいずれかの温度領域において、液体で存在し得る塩をいう。換言すれば、イオン液体は、融点が-50℃以上400℃未満の範囲にあるイオン性化合物である。イオン液体の融点は、好ましくは-25℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上150℃以下である。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電素子層の電気伝導率を均一にすることができる。
【0040】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl、Br、I、AlCl 、AlCl 、BF 、PF6、ClO4、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(FSO、(CFSO、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF)n、(CN)、CSO 、(CSO、CCOO、(CFSO)(CFCO)N等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0041】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0042】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1(又はN)-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。この中で、1(又はN)-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0043】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0044】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0045】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0046】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0047】
前記イオン液体の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。前記イオン液体の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0048】
(無機イオン性化合物)
本発明で用いる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は室温において固体であり、400~900℃の温度領域のいずれかの温度に融点を有し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0049】
カチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs及びFr等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0050】
アニオンとしては、例えば、F、Cl、Br、I、OH、CN、NO 、NO 、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、CrO 2-、HSO 、SCN、BF 、PF 等が挙げられる。
【0051】
無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、OH、CN等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0052】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0053】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、KCO等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、NaCO等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0054】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0055】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0056】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0057】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0058】
熱電素子層の厚さは、特に限定されるものではなく、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは300nm~600μm、さらに好ましくは5~400μmである。
【0059】
熱電半導体組成物からなる薄膜としてのP型熱電素子層及びN型熱電素子層は、さらにアニール処理(以下、「アニール処理B」ということがある。)を行うことが好ましい。該アニール処理Bを行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。アニール処理Bは、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる樹脂及びイオン性化合物の耐熱温度等に依存するが、100~500℃で、数分~数十時間行われる。
【0060】
本発明の熱電変換モジュールは、特に制限はないが、好ましくはπ型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子で構成される。また、π型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子の構成で発電に用いることが好ましい。
【0061】
(熱電変換モジュールの製造方法)
本発明の熱電変換モジュールは、基板上に、電極を形成する工程(以下、「電極形成工程」ということがある。)、前記熱電半導体組成物を塗布し、乾燥し、熱電素子層を形成する工程(以下、「熱電素子層形成工程」ということがある。)、次いで、該熱電素子層をアニール処理する工程(以下、「アニール処理工程」ということがある。)、さらにアニール処理した基板を他の基板と貼り合わせる工程(以下、「貼り合わせ工程」ということがある。)、放熱部材を基板に接続する工程(以下、「放熱部材接続工程」ということがある。)、を含む方法により製造することができる。
以下、本発明の熱電変換モジュールの製造方法に含まれる工程について、順次説明する。
【0062】
(電極形成工程)
電極形成工程は、例えば、第1の基板上に、前述した金属材料からなるパターンを形成する工程であり、基板上に形成する方法、及びパターンの形成方法については、前述したとおりである。また、特に、前述したπ型の熱電変換モジュール等を製造する場合は、前記第1の基板上に対向する第2の基板上に、前述した金属材料からなるパターンを形成する工程を含む。
【0063】
(熱電素子層形成工程)
熱電素子層形成工程は、熱電半導体組成物を、例えば、電極上に塗布する工程である。熱電半導体組成物を、第1の基板上の電極上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法、バーコート法、ドクターブレード法等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷法、スロットダイコート法等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、熱電素子層が形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
なお、熱電半導体組成物を、第2の基板上の電極上に塗布する場合も同様である。
【0064】
熱電素子層形成工程の他の例として、事前に熱電素子層を熱電変換材料のチップとして作製し、得られた複数のチップを、基板上の所定の電極上に載置し、接合する方法が挙げられる。
熱電変換材料のチップの製造方法として、例えば、以下の方法により、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップを製造することができる。
まず、ガラス等の基板上に犠牲層を形成し、得られた犠牲層上に前述した方法で熱電素子層(以下、「熱電変換材料のチップ」ということがある。)を形成する。次いで、得られた熱電変換材料のチップをアニール処理し、基板上の犠牲層から、熱電変換材料のチップを剥離することにより、個片として、熱電変換材料のチップを製造する。
犠牲層として、ポリメタクリル酸メチル、又はポリスチレン等の樹脂、又はフッ素系離型剤、又はシリコーン系離型剤等の離型剤が用いられる。
【0065】
(アニール処理工程)
アニール処理工程は、例えば、上記で得られた第1の基板、電極及び熱電素子層をこの順に有する形態で、熱電素子層をアニール処理する工程である。アニール処理は上述したアニール処理Bで行われる。
【0066】
(貼り合わせ工程)
貼り合わせ工程は、例えば、前記アニール処理工程で得られた電極及び熱電素子層を有する第1の基板を、対向する前記第2の基板、又は第2の電極を有する第2の基板と貼り合わせ、熱電変換モジュールを作製する工程である。
前記貼り合わせに用いる貼り合わせ剤としては、第2の電極を有する第2の基板の場合は、導電ペースト等が挙げられる。導電ペーストとしては、銅ペースト、銀ペースト、ニッケルペースト等が挙げられ、バインダーを使用する場合は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
また、第2の電極を有さない第2の基板の場合は、樹脂材料を使用することができる。樹脂材料としては、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、又はアクリル系樹脂を含むものであることが好ましい。さらに、前記樹脂材料は粘接着性、低水蒸気透過率性や、絶縁性を有していることが好ましい。本明細書において、粘接着性を有するとは、樹脂材料が、粘着性、接着性、貼り付ける初期において感圧により接着可能な感圧性の粘着性を有することを意味する。
貼り合わせ剤を基板上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。
【0067】
貼り合わせ工程において、電極との接合にハンダ材料層を用いる場合、接合強度を向上させるために、ハンダ受理層を用いることができる。
例えば、前述した製造方法で得られた熱電変換材料のチップにハンダ受理層を形成する方法は以下のようである。
上面、下面及び側面を有する、熱電変換材料のチップのすべての面にハンダ受理層を形成した後、得られたハンダ受理層のうち、熱電変換材料のチップの側面に形成されたハンダ受理層を全部除去する、又は、一部を除去することにより、ハンダ受理層が形成される。
ハンダ受理層は、金属材料を含むことが好ましい。金属材料は、金、銀、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、錫、ニッケル及びこれらのいずれかの金属材料を含む合金から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この中で、より好ましくは、金、銀、ニッケル又は、錫及び金、ニッケル及び金の2層構成であり、材料コスト、高熱伝導性、接合安定性の観点から、銀がさらに好ましい。
ハンダ受理層には、熱電性能を維持する観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められ、かつ熱電変換材料のチップとの界面での接触抵抗を小さくできる観点から、メッキ法、又は真空成膜法で成膜したハンダ受理層を用いることが好ましい。
前記ハンダ材料層を構成するハンダ材料としては、樹脂フィルム、熱電変換材料のチップに含まれる耐熱性樹脂の耐熱温度等、また、導電性、熱伝導性とを考慮し、適宜選択すればよく、Sn、Sn/Pb合金、Sn/Ag合金、Sn/Cu合金、Sn/Sb合金、Sn/In合金、Sn/Zn合金、Sn/In/Bi合金、Sn/In/Bi/Zn合金、Sn/Bi/Pb/Cd合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Bi/Cd合金、Bi/Pb合金、Sn/Bi/Zn合金、Sn/Bi合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Pb/Cd合金、Sn/Cd合金等の既知の材料が挙げられる。鉛フリー及び/またはカドミウムフリー、融点、導電性、熱伝導性の観点から、43Sn/57Bi合金、42Sn/58Bi合金、40Sn/56Bi/4Zn合金、48Sn/52In合金、39.8Sn/52In/7Bi/1.2Zn合金のような合金が好ましい。
ハンダ材料を基板の電極上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。
【0068】
<放熱部材接続工程>
放熱部材接続工程は、第1放熱部材が、貼り合わせ工程で得られた第2の基板と熱的に接続するように、第1放熱部材の一方の端部をハンダ材料層等により第2の基板(但し、第2の基板上に後述する第2放熱部材を有する場合は、該2放熱部材)に固着し、第1放熱部材の他の端部を延在する工程である。
さらに、前記第1放熱部材の他の端部を筐体に、ハンダ材料層等により固着する工程を含むことが好ましい。ハンダ材料層での固着は公知の方法で行うことができる。
【0069】
(第2放熱部材形成工程)
熱電変換モジュールの製造方法において、第2放熱部材を形成する工程が含まれることが好ましい。第2放熱部材形成工程は、前述した高熱伝導性材料を用い、例えば、第2の基板(電極を有する場合は、電極側とは反対側の面)上に形成する工程である。
第2放熱部材を形成する方法は、前述したとおりである。
【0070】
(伝導部材形成工程)
熱電変換モジュールの製造方法において、伝導部材を形成する工程が含まれることが好ましい。伝熱部材形成工程は、前述した高熱伝導性材料を用い、例えば、第1の基板(電極を有する場合は、電極側とは反対側の面)上に伝導部材を形成する工程である。
伝熱部材を形成する方法は、前述したとおりである。
【0071】
本発明の熱電変換モジュールの製造方法によれば、熱源が狭所にあり、設置スペースが限られている場所でも、放熱部材の設置にかかる取りまわしの自由度が高く、効率的な温度差の付与が可能な熱電変換モジュールを得ることができる。
【実施例
【0072】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0073】
実施例、比較例で作製した熱電変換モジュールの熱電性能評価は、以下の方法で行った。
【0074】
<熱電性能評価>
(a)熱電変換モジュールの電気抵抗評価
得られた熱電変換モジュールの取り出し電極間の、後述する設定温度での電気抵抗Rを、低抵抗測定装置(日置電機社製、型名:RM3545)を用いて、25℃×50%RHの環境下で測定した。
(b)熱電変換モジュールの出力電圧及び最大出力評価
得られた熱電変換モジュールの出力取り出し電極間の、後述する設定温度での出力電圧V(起電力)を、ディジタルハイテスタ(日置電機社製、型名:3801-50)を用いて、25℃×50%RHの環境下で測定した。
また、得られた電気抵抗R及び出力電圧Vから、最大出力(=V/4R)を算出した。
(c)温度差の評価
得られた熱電変換モジュールについて、放熱面側に接する銅箔と吸熱面側に接する銅箔との温度差ΔTを、熱電対(K型)を用い測定した。
熱源はホットプレートとし、熱電変換モジュールの他方の面(加熱面:第1放熱部材としてのワイヤーを有さない側の面)を、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃及び90℃(比較例1では90℃は除く)に設定し加熱した際の、各温度での、熱電変換モジュールの取り出し電極間の電気抵抗、出力電圧、最大出力、及び加熱面と冷却面との温度差を評価した。
【0075】
(実施例1)
(1)熱電半導体組成物の作製
(熱電半導体粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるP型ビスマステルライドBi0.4TeSb1.6(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、大気雰囲気下で粉砕することで、平均粒径2.0μmの熱電半導体粒子T1を作製した。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるN型ビスマステルライドBiTe(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を上記と同様に粉砕し、平均粒径2.0μmの熱電半導体粒子T2を作製した。
粉砕して得られた熱電半導体粒子T1及びT2に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行った。
(熱電半導体組成物の塗工液の調製)
塗工液(P)
上記で得られたP型ビスマステルライドBi0.4Te3.0Sb1.6の粒子T1を83.3質量部、耐熱性樹脂としてポリアミドイミド(荒川化学工業社製、製品名:コンポセランAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:18質量%)2.7質量部、及びイオン液体としてN-ブチルピリジニウムブロミド14質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。
塗工液(N)
得られたN型ビスマステルライドBi2.0Te3.0の粒子T2を92.1質量部、耐熱性樹脂としてポリアミドイミド(荒川化学工業社製、製品名:コンポセランAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:18質量%)3.0質量部、及びイオン液体としてN-ブチルピリジニウムブロミド4.9質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(N)を調製した。
(2)熱電変換材料の薄膜の形成
厚さ0.7mmのガラス基板(河村久蔵商店社製、商品名:青板ガラス)上に犠牲層として、ポリメチルメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)(シグマアルドリッチ社製、商品名:ポリメタクリル酸メチル)をトルエンに溶解した、固形分濃度10質量%のポリメチルメタクリル酸メチル樹脂溶液をスピンコート法により、乾燥後の厚さが10.0μmとなるように成膜した。
次いで、メタルマスクを介在して、犠牲層上に上記(1)で調製した塗工液(P)を、スクリーン印刷法により塗布し、温度120℃で、7分間大気下で乾燥し、厚さが200μmの薄膜を形成した。次いで、得られた薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、450℃で1時間保持し、前記薄膜をアニール処理し、熱電半導体材料の粒子を結晶成長させ、P型ビスマステルライドBi0.4TeSb1.6を含む、上下面がそれぞれ1.65mm×1.65mmで厚さが200μmの直方体状の熱電変換材料のチップを得た。
また、上記(1)で調製した塗工液(N)に変更し、360℃で1時間保持しアニール処理した以外は同様に、N型ビスマステルライドBiTeを含む、上下面がそれぞれ1.65mm×1.65mmで厚さが200μmの直方体状の熱電変換材料のチップを得た。
【0076】
(3)ハンダ受理層の形成
アニール処理後のそれぞれの熱電変換材料のチップをガラス基板上から剥離し、無電解メッキ法によって、それぞれの熱電変換材料のチップのすべての面にハンダ受理層[Ni(厚さ:3μm)にAu(厚さ:40nm)を積層]を設けた。
次いで、チップが1.5mm×1.5mmの寸法となるように、P型及びN型熱電変換材料のチップの側面のハンダ受理層を機械研磨法、すなわち、サンドペーパー(番手2000)を用いて除去し、上下面のみにハンダ受理層を有するP型及びN型熱電変換材料のチップを得た。なお、ハンダ受理層を完全に除去するために側面の壁の一部も含め研磨した。
【0077】
(熱電変換モジュールの作製)
得られた上下面のみにハンダ受理層を有するP型及びN型熱電変換材料のチップを用い、P型及びN型熱電変換材料のチップそれぞれ18対からなるπ型の熱電変換素子を以下のように作製した。
まず、両面に銅箔を貼付した基板(宇部エクシモ社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板、厚さ:12.5μm、銅箔、厚さ:12μm)を準備し、該フィルム基板の銅箔上に、無電解めっきにより、ニッケル層(厚さ:3μm)及び金層(厚さ:40nm)をこの順に積層し、次いで片面にのみ電極パターン(10×10mm角、18個、隣接する各電極間の中心間の距離:17mm、6列×3行)を形成し、電極を有する基板を作製した(下部電極フィルム)。その後、該電極上に、ハンダ材料としてソルダペースト42Sn/57Bi/Ag合金(日本ハンダ社製、品名:PF141-LT7H0)を用いハンダ材料層をステンシル印刷(厚さ:30μm)した。
次いで、ハンダ材料層上に、上記で得られたP型及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれのハンダ受理層の一方の面を載置し、180℃で1分加熱後冷却することで、P型及びN型熱電変換材料のチップをそれぞれ電極上に配置した。
さらに、P型及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれのハンダ受理層の他方の面上にハンダ材料層として前記ソルダペーストを印刷(加熱前厚さ:50μm)し、上部電極フィルム(下部電極フィルムと貼り合わせた時にπ型の熱電変換素子が得られるよう電極をパターン配置した電極フィルム;基板、電極の材料、厚さ等は下部電極と同一)の電極とを貼り合わせ、180℃で2分間加熱(加熱後厚さ:30μm)することで、P型及びN型熱電変換材料のチップそれぞれ18対からなるπ型の熱電変換素子を得た。
得られた熱電変換素子の冷却面に、ハンダを介在して第1放熱部材としてのワイヤー[SWITCH SCIENCE社製、シリコーン被覆ワイヤー;銅線、熱伝導率:400W/m・K、長さ10cm、太さ:1.4mm(断面積:1.54mm)、熱容量Mw:0.53J/K]の一方の端部を接続し、さらに、ワイヤーの他方の端部を、室温(25℃)に設置した筐体(材料:銅、熱容量Mh:685J/K)にハンダを介在して接続し、熱電変換モジュールとした。
得られた熱電変換モジュールについて、前述した各温度で、電気抵抗、出力電圧、最大出力、及び加熱面と冷却面との温度差を評価した。評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
実施例1において、ワイヤーの断面積を2倍(3.08mm;熱容量Mw:1.06J/K)にした以外は、実施例1と同様にして実施例2の熱電変換モジュールを作製した。
得られた熱電変換モジュールについて、実施例1と同様に、電気抵抗、出力電圧及び最大出力、また加熱面と冷却面との温度差を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
実施例1において、ワイヤーを冷却面及び筐体に接続しない(自然冷却)以外は、実施例1と同様にして比較例1の熱電変換モジュール(熱電変換素子のみの態様)を作製した。
得られた熱電変換モジュールについて、加熱面に対し、ホットプレートにて、40℃、50℃、60℃、70℃及び80℃に設定し加熱した際の、各温度での、電気抵抗、出力電圧、最大出力、及び加熱面と冷却面との温度差を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
熱電変換素子の一方の面にワイヤー、筐体を熱的に接続した構成とした実施例1及び2の熱電変換モジュールは、自然空冷で特定の放熱手段を有しない構成とした比較例1の熱電変換モジュールに比べ、温度差が大きく付与され、高い出力が得られることがわかる。
また、実施例1の熱電変換モジュールのワイヤーの断面積を2倍(熱容量を2倍)にした実施例2の熱電変換モジュールのほうが、より高い出力が得られることがわかる。さらに、出力は、設定温度の増加とともにより顕著に増大することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の熱電変換モジュールは、工場や廃棄物燃焼炉、セメント燃焼炉等の各種燃焼炉からの排熱、自動車の燃焼ガス排熱及び電子機器の排熱を電気に変換する発電用途に適用することが考えられる。特に、熱源が狭所にあり、熱電変換モジュールの設置スペースが限られている場所に適用した場合、放熱部材の設置にかかる取りまわしの自由度が高いことから、熱源を有効かつ効率的に使用できる。
【符号の説明】
【0083】
1A.1B:熱電変換モジュール
2a:第1の基板
2b:第2の基板
3a:第1の電極
3b:第2の電極
4:P型熱電素子層
5:N型熱電素子層
6a,6b:接合材料部
7:ワイヤー
8:端部(ワイヤー)
9:筐体

図1
図2