(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】顆粒状食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20241121BHJP
A23L 23/10 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
A23L5/00 D
A23L23/10
(21)【出願番号】P 2022064516
(22)【出願日】2022-04-08
【審査請求日】2024-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106531
【氏名又は名称】サンヨー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】永岡 宏行
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/135439(WO,A1)
【文献】特開2005-021016(JP,A)
【文献】特開2020-198856(JP,A)
【文献】特開2015-171352(JP,A)
【文献】特開2005-328795(JP,A)
【文献】特開2003-304826(JP,A)
【文献】特開2008-068194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、
(B)有機酸塩と、
(C)油脂と、
(D)食品原料と
を含む顆粒状食品であって、前記油脂の含有量が3質量%~15質量%であり、Carr指数が79以上である顆粒状食品。
【請求項2】
前記有機酸塩が乳酸ナトリウム及び乳酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む請求項1に記載の顆粒状食品。
【請求項3】
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、
(B)有機酸塩と、
(C)油脂と、
(D)食品原料と
を含む顆粒状食品であって、前記油脂の含有量が15質量%超、20質量%以下であ
り、Carr指数が67以上である顆粒状食品。
【請求項4】
前記有機酸塩が乳酸ナトリウム及び乳酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む請求項3に記載の顆粒状食品。
【請求項5】
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との第1混合物を調製すること、
(B)有機酸塩及び(C)油脂を含む有機酸塩分散油と、前記第1混合物との第2混合物を調製すること、及び
流動層造粒により前記第2混合物の造粒物を形成すること、
を含む顆粒状食品の製造方法
であって、前記油脂の含有量が3質量%~15質量%であり、Carr指数が79以上である顆粒状食品の製造方法。
【請求項6】
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との第1混合物を調製すること、
(B)有機酸塩及び(C)油脂を含む有機酸塩分散油と、前記第1混合物との第2混合物を調製すること、及び
流動層造粒により前記第2混合物の造粒物を形成すること、
を含む顆粒状食品の製造方法であって、前記油脂の含有量が15質量%超、20質量%以下であり、Carr指数が67以上である顆粒状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、顆粒状食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席カップ麺、即席カップスープなどの即席食品のスープとして、様々な粉末状又は顆粒状の食品が開発されている。粉末状又は顆粒状の食品に熱湯又は温水を加える際に撹拌が不十分であると、粉末状又は顆粒状の食品が完全に分散されずにその成分の塊が残る問題がある。この塊の発生を抑制するために食用油脂を添加することが提案されている。食用油脂を添加することにより、粉末状又は顆粒状の食品の表面を疎水化し、熱湯又は温水に対する反発力を高めて、その成分の塊の発生を抑えることができる。
【0003】
顆粒状スープとしては、一般に粉末状スープを造粒によって顆粒状にしたものが用いられる。粒径の小さい粉末状スープは、即席食品の容器に充填する際に飛散し易い。飛散した粉末状スープは、静電気又は湿気により容器内壁に付着する、あるいは充填工程における充填量の制御を困難にするおそれがある。顆粒状スープではこれらの問題が生じにくい。粉末状スープを顆粒状に加工する方法としては、例えば、押出造粒及び流動層造粒が知られている。
【0004】
液体又は半固体の油脂を増量することで即席食品の風味及び美味しさを高めることができる。油脂を増量する手段として、液体油脂を乳化し、噴霧乾燥などにより乾燥して得られる粉末油脂が一般に知られている。粉末油脂中の液体油脂は乳化されているため、即席食品にお湯を注加してもスープ表面に油滴が殆ど生じない。そのため、粉末油脂を使用した即席食品の喫食時の外観は、店舗で提供されるラーメン、スープなどとは異なる。
【0005】
即席食品のカレー風味のスープなどにおいては、押出造粒を用いてラードなどの油脂を高濃度で含有させた顆粒状スープが知られている。しかし、押出造粒は高温工程を含むため、調味油の香気が失われ易い。また、押出造粒によりラードなどの油脂を高濃度で含有させた場合、顆粒状スープからの油脂の滲み出しを完全に抑制することができない。油脂の滲み出し防止に賦形剤を増量すると顆粒状スープの製造コストが増加する。
【0006】
即席食品の喫食時の外観を店舗で提供される食品により近づけ、調味油の香気を維持するために、個包装された液体又は半固体の調味油を即席食品に添付することが一般に知られている。個包装された調味油は、即席食品の容器の蓋の上に糊付けされるか、あるいは容器の内部に封入された状態で製品として出荷され、喫食時に即席食品に添加される。しかし、調味油の個包装は、追加の包装資材及び工数を要するため、即席食品の製造コストを増加させる。そのため、高濃度で油脂を含有する顆粒状スープが望まれている。
【0007】
特許文献1(特開2015-019589号公報)は、「5~30重量%の油脂、油脂包含用基材、およびポリオールを含む、粉末または顆粒状の調味料組成物」を記載している。
【0008】
特許文献2(特開2004-035700号公報)は、「油脂、油脂包含用基材、およびポリオールを含有し、水分含有量が15重量%以下であると共に、最大粒径が10mm以下、平均粒径が5mm以下であり、さらに、安息角が70°以下であることを特徴とする粉状または粒状油脂」を記載している。
【0009】
特許文献3(特開昭64-027430号公報)は、「油脂、油脂包含用基材およびポリオールを含んでなる油脂含有組成物であって、その水分含量が15重量%以下であり、粒子径が最大10mm以下で、かつ平均粒径が5mm以下、安息角が70°以下であることを特徴とする粉状または粒状油脂」を記載している。
【0010】
特許文献4(特開2005-021016号公報)は、「水、温水或いは熱湯に分散又は溶解する際、『ままこ(ダマ)』を生じにくい、水易溶性の粉末状或いは顆粒状の食品」として、「トリグリセリンベヘン酸エステルを含有することを特徴とする粉末状或いは顆粒状の食品」を記載している。
【0011】
特許文献5(特開2003-304826号公報)は、「分散性を改良し、『ままこ(ダマ)』の発生の抑えられた顆粒状或いは粉末状のインスタントスープ又はインスタントソース」として、「ポリグリセリンベヘン酸エステルを0.1~0.9質量%の割合で含有することを特徴とする顆粒状或いは粉末状のインスタントスープ又はインスタントソース」を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2015-019589号公報
【文献】特開2004-035700号公報
【文献】特開昭64-027430号公報
【文献】特開2005-021016号公報
【文献】特開2003-304826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
顆粒状スープに食品油脂を添加することによりスープ成分の塊の発生を抑制する方法では、食用油脂の添加量を多くすると、スープ成分の混合工程又は顆粒状スープへの造粒工程で食用油脂を含む凝集物が発生して、製造歩留まりが低下する、製造した粉末状又は顆粒状のスープから食用油脂が滲み出す、粉末状又は顆粒状のスープの流動性が低下する、といった問題があった。そのため、この方法には、製造工程、コスト及び製品品質の観点から制約があった。
【0014】
顆粒状スープに含まれる油脂の濃度が高くなると、顆粒状スープの表面に油脂が滲出して顆粒状スープの粉体としての流動性が低下する。流動性が低い顆粒状スープは、ホッパーの排出口でのブリッジの形成、又はホッパーの内壁への付着により、充填工程に支障をきたすおそれがあり、充填量の制御も難しい。
【0015】
本開示は、高濃度で油脂を含有しつつ、油脂の凝集物の発生及び油脂の滲み出しが抑制された、容器への充填に適した流動性を有する顆粒状食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、特定の脂肪酸エステルと有機酸塩とを組み合わせることで、油脂を高濃度で含有させた場合であっても、食用油脂の凝集物の発生及び食用油脂の滲み出しを抑制して顆粒状食品の流動性を高めることができることを見出して、本発明を完成させた。
【0017】
本発明は、以下の態様1~5を包含する。
[態様1]
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、
(B)有機酸塩と、
(C)油脂と、
(D)食品原料と
を含む顆粒状食品であって、前記油脂の含有量が3質量%~15質量%であり、Carr指数が79以上である顆粒状食品。
[態様2]
前記有機酸塩が乳酸ナトリウム及び乳酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む態様1に記載の顆粒状食品。
[態様3]
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、
(B)有機酸塩と、
(C)油脂と、
(D)食品原料と
を含む顆粒状食品であって、前記油脂の含有量が15質量%超、20質量%以下であって、Carr指数が67以上である顆粒状食品。
[態様4]
前記有機酸塩が乳酸ナトリウム及び乳酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む態様3に記載の顆粒状食品。
[態様5]
(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との第1混合物を調製すること、
(B)有機酸塩及び(C)油脂を含む有機酸塩分散油と、前記第1混合物との第2混合物を調製すること、及び
流動層造粒により前記第2混合物の造粒物を形成すること、
を含む顆粒状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高濃度で油脂を含有しつつ、油脂の凝集物の発生及び油脂の滲み出しが抑制された、容器への充填に適した流動性を有する顆粒状食品、及びその製造方法が提供される。
【0019】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0021】
〈顆粒状食品〉
一実施態様の顆粒状食品は、(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(B)有機酸塩と、(C)油脂と、(D)食品原料とを含む。顆粒状食品の油脂の含有量は3質量%~15質量%であり、Carr指数は79以上である。
【0022】
別の実施態様の顆粒状食品は、(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(B)有機酸塩と、(C)油脂と、(D)食品原料とを含む。顆粒状食品の油脂の含有量は15質量%超、20質量%以下であり、Carr指数は67以上である。
【0023】
(A)脂肪酸エステル
脂肪酸エステルは、グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つである。いかなる理論に拘束される訳ではないが、脂肪酸エステルは、液体又は半固体の油脂の共存下でネットワーク構造を形成して、そのネットワーク構造の内部にその液体又は半固体の油脂を取り込むことにより、ゲル又は固形物を形成させると考えられる。このことは、ゲル又は固形物中で油脂は粗乳化されているともいえる。これにより、顆粒状食品の油脂の含有量を高めつつ、油脂を含む凝集物の形成及び油脂の滲み出しを抑制して、顆粒状食品に高い流動性を付与することができる。また、上記ネットワーク構造は、油脂だけでなく香辛料等の成分も取り込むことができる。そのため、例えば温度60℃~80℃で行われる流動層造粒工程中に、造粒物の流動性を維持しつつ上記成分の揮散を抑制することができ、これにより顆粒状スープの風味を高めることができる。更に、脂肪酸エステルのネットワーク構造は、例えば90℃~100℃の熱水中で崩壊して、粗乳化された比較的大きい油脂の塊を外部に放出する。これにより、顆粒状食品に熱水を注加したときに油脂の油滴を形成することができる。
【0024】
脂肪酸エステルの融点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上である。脂肪酸エステルの融点が50℃以上であることにより、脂肪酸エステルの溶融を回避しつつ顆粒状食品に防湿性を賦与することができる。脂肪酸エステルの融点は、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。脂肪酸エステルの融点が100℃以下であることにより、メンテナンス製造設備の配管内の洗浄等を容易に行うことができる。
【0025】
《(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル》
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸とグリセリン又はグリセリンの縮合物(ポリグリセリン)とのエステルである。グリセリン部分の平均重合度は1~8である。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、完全にエステル化されていてもよく、部分エステル化されていてもよい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0026】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルのHLBは、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。親油基の多い(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含む顆粒状食品は高い防湿性を有する。この観点から、脂肪酸エステルのHLBは、1以上、又は3以上とすることができる。本開示において、HLBは、Griffinの経験式から算出される値である。
HLB=20×(1-SV/NV)
SV:(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルのけん化値
NV:脂肪酸の中和価
【0027】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数は16~22であることが好ましい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとして、例えば、モノグリセリンパルミチン酸エステル、モノグリセリンステアリン酸エステル、モノグリセリンエイコサン酸エステル、モノグリセリンベヘン酸エステルなどのモノグリセリン脂肪酸エステル;ジグリセリンパルミチン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンエイコサン酸エステル、ジグリセリンベヘン酸エステルなどのジグリセリン脂肪酸エステル;トリグリセリンパルミチン酸エステル、トリグリセリンステアリン酸エステル、トリグリセリンエイコサン酸エステル、トリグリセリンベヘン酸エステルなどのトリグリセリン脂肪酸エステル;テトラグリセリンパルミチン酸エステル、テトラグリセリンステアリン酸エステル、テトラグリセリンエイコサン酸エステル、テトラグリセリンベヘン酸エステルなどのテトラグリセリン脂肪酸エステル;ペンタグリセリンパルミチン酸エステル、ペンタグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンエイコサン酸エステル、ペンタグリセリンベヘン酸エステルなどのペンタグリセリン脂肪酸エステル;ヘキサグリセリンパルミチン酸エステル、ヘキサグリセリンステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンエイコサン酸エステル、ヘキサグリセリンベヘン酸エステルなどのヘキサグリセリン脂肪酸エステル;ヘプタグリセリンパルミチン酸エステル、ヘプタグリセリンステアリン酸エステル、ヘプタグリセリンエイコサン酸エステル、ヘプタグリセリンベヘン酸エステルなどのヘプタグリセリン脂肪酸エステル;オクタグリセリンパルミチン酸エステル、オクタグリセリンステアリン酸エステル、オクタグリセリンエイコサン酸エステル、オクタグリセリンベヘン酸エステルなどのオクタグリセリン脂肪酸エステル;及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸部分がステアリン酸(炭素原子数18)である、(ポリ)グリセリンステアリン酸エステルを含むことがより好ましい。
【0028】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、モノグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの混合物を含むことが好ましく、モノグリセリンベヘン酸エステル及びオクタグリセリンステアリン酸エステルの混合物;モノグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンパルミチン酸エステル、及びペンタグリセリンステアリン酸エステルの混合物;又はモノグリセリンステアリン酸エステル、及びジグリセリンステアリン酸エステルの混合物を含むことがより好ましく、モノグリセリンベヘン酸エステル及びオクタグリセリンステアリン酸エステルの混合物を含むことが特に好ましい。モノグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの混合物は、顆粒状食品の流動性を改善し、喫食時の油滴形成を促進し、油脂及び香辛料抽出物(スパイス)を包括して風味を保持することができる。
【0029】
《ショ糖脂肪酸エステル》
ショ糖脂肪酸エステルは、脂肪酸とショ糖とのエステルである。ショ糖脂肪酸エステルのHLBは8以下である。ショ糖脂肪酸エステルは、完全にエステル化されていてもよく、部分エステル化されていてもよい。ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分は、飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0030】
ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。親油基が多く親水基が少ないショ糖脂肪酸エステルを含む顆粒状食品は高い防湿性を有する。この観点から、ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、1以上、又は3以上とすることができる。
【0031】
ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分の炭素原子数は16~22であることが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルとして、例えば、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖エイコサン酸エステル、及びショ糖ベヘン酸エステルが挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルは、脂肪酸部分がパルミチン酸(炭素原子数16)である、ショ糖パルミチン酸エステル、及び脂肪酸部分がステアリン酸(炭素原子数18)である、ショ糖ステアリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0032】
(B)有機酸塩
有機酸塩としては、食品用途に使用されるものであれば特に限定されない。いかなる理論に拘束される訳ではないが、有機酸塩を食品原料に添加することにより、顆粒状食品の製造中に油脂の凝集の発生を抑制して、油脂をより均一に顆粒状食品中に分散させ、かつ油脂を半固体化又は固体化させて、顆粒状食品に保持させることができる。このことにより、顆粒状食品からの油脂の滲み出しを抑制し、顆粒状食品を長期間保管したときでも、その凝集を抑制して流動性を維持させることができる。
【0033】
有機酸塩の炭素原子数は2~16であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
【0034】
有機酸塩は、水酸基及びアミノ基からなる群より選ばれる極性基を更に有することが好ましい。
【0035】
有機酸塩のカチオンは、ナトリウムカチオン及びカリウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
有機酸塩としては、例えば、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、及びピロリドンカルボン酸ナトリウムが挙げられる。有機酸塩は、乳酸ナトリウム及び乳酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、乳酸ナトリウム及び乳酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0037】
(C)油脂
油脂としては、特に限定されないが、植物油、動物油脂、若しくは加工油脂、又はこれらの2種以上の組み合わせを使用することができる。植物油としては、例えば、大豆油、なたね油、パーム油、ヤシ油、コーン油、綿実油、ごま油、米油、オリーブ油、紅花油、落花生油、グレープシード油、しそ油、亜麻仁油、椿油、月見草油、ハーブ油、及びラー油が挙げられる。動物油脂としては、例えば、豚脂(ラード)、牛脂(ヘット)、鶏脂、及び魚油が挙げられる。加工油脂としては、例えば、マーガリン、ショートニング、中鎖脂肪酸含有油、モノグリセリド、及びジグリセリドが挙げられる。
【0038】
油脂の融点は、例えば、0℃~50℃とすることができる。一実施態様では、油脂は室温(23℃)で液状である。
【0039】
(D)食品原料
食品原料は、顆粒状食品の風味及び味を決定する主成分であり、一般に、結晶物及び粉末原料を含む混合物である。
【0040】
結晶物としては、例えば、塩、グラニュー糖、グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、グルコース、及びリボヌクレオチド二ナトリウムが挙げられる。結晶物は微粒子化されていることが好ましい。
【0041】
粉末原料は一般に風味成分を含む。風味成分とは、味(味覚)又は香り(嗅覚)を食品に付与する要素である。風味成分としては、例えば、食塩、砂糖などの一般調味料;醤油、食酢、味醂、味噌などの発酵系調味料;ガーリック、ジンジャー、胡椒、ローレル、タイム、セイジなどのスパイス系調味料;肉エキス(牛、豚、鶏など)、魚介エキス、野菜エキス、動植物組織の煮出し濃縮物、酵母エキス、発酵エキスなどのエキス;クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸などの酸味料;及びアミノ酸、核酸、酸味料以外の有機酸、無機塩、タンパク質加水分解物、核酸分解物などの調味料が挙げられる。粉末原料は、香辛料、香料、安定剤(カゼインナトリウム、キサンタンガムなど)、乳化剤、賦形剤、若しくは酸化防止剤、又はこれらの2種以上の組み合わせを更に含んでもよい。
【0042】
《Carr指数》
Carr指数は、粉体特性評価装置から得た情報(ゆるめ嵩密度、固め嵩密度、圧縮率、安息角、崩壊角、及び差角)を、流動性指数表及び噴流性指数表を参照して指数化した後、これらの指数に流動性指数を加えた総和として定義される。すなわち、Carr指数=圧縮率指数+安息角指数+流動性指数+崩壊角指数+差角指数である(横山藤平他「Carrの方法による粉体流動性測定装置の試作」、粉体工学研究会誌、Vol.6、No.4(1969)、pp.264~291も参照のこと)。
【0043】
顆粒状食品の油脂の含有量が3質量%~15質量%である実施態様において、顆粒状食品のCarr指数を79以上に制御することにより、容器への充填に適した高い流動性を顆粒状食品に付与することができる。この実施態様において、顆粒状食品のCarr指数は、好ましくは80以上、より好ましくは81以上である。
【0044】
顆粒状食品の油脂の含有量が15質量%超、20質量%以下である実施態様において、顆粒状食品のCarr指数を67以上に制御することにより、容器への充填に適した流動性を有する高油脂の顆粒状食品に提供することができる。この実施態様において、顆粒状食品のCarr指数は、好ましくは68以上である。
【0045】
《圧縮率》
顆粒状食品の圧縮率は好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは12%以下、特に好ましくは10%以下である。圧縮率を18%以下に制御することにより、顆粒状食品の充填量の制御を精密に行うことができる。圧縮率は、粉体特性評価装置を用いて、室温(23℃)にて以下の手順に従って決定される。内径40mm、高さ80mm、容積100cm3の円筒容器の上面から38cmの高さに漏斗の出口(出口内径7mm)を合わせて、約120cm3の顆粒状食品を漏斗に入れて落下させたときに円筒容器に充填された顆粒状食品の質量をゆるめ嵩密度a(g/100cm3)とし、同じ円筒容器に継ぎ足し用のキャップを取り付け、ゆるめ嵩密度aの測定と同様の手順で顆粒状食品を落下させ、10回タッピングして顆粒状食品を密にし、その後キャップを外し、円筒容器の上面から突出した余剰の顆粒状食品を掻き取った後に円筒容器に充填されていた顆粒状食品の質量を固め嵩密度b(g/100cm3)として、式:(b-a)×100/bにより得られる値を圧縮率と定義する。
【0046】
《安息角、崩壊角及び差角》
安息角及び崩壊角は、粉体特性評価装置を用いて、室温(23℃)にて以下の手順に従って決定される。直径8cmの円盤の上に出口高さ12cm、出口内径7mmの漏斗を通して顆粒状食品を落下させ、顆粒状食品が形成した山の裾野の角度を安息角、山に衝撃を3回与えた後の裾野の角度を崩壊角と定義する。差角は安息角と崩壊角の差(安息角-崩壊角)である。
【0047】
顆粒状食品の平均粒径D50は、例えば、30μm~1600μm、40μm~1500μm、又は50μm~1400μmとすることができる。本開示において、粉末又は顆粒の平均粒径D50は、レーザー回折散乱法を用いて決定される累積体積中位径である。
【0048】
顆粒状食品の脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.2質量%~1.6質量%、より好ましくは0.4質量%~1.4質量%、更に好ましくは0.6質量%~1.2質量%である。
【0049】
顆粒状食品の有機酸塩の含有量は、好ましくは0.2質量%~8質量%、より好ましくは0.3質量%~5質量%、更に好ましくは0.4質量%~3質量%である。
【0050】
一実施態様では、顆粒状食品の油脂の含有量は、3質量%~15質量%であり、好ましくは5質量%~15質量%であり、より好ましくは10質量%~15質量%である。別の実施態様では、顆粒状食品の油脂の含有量は、15質量%超、20質量%以下であり、好ましくは15.5質量%~20質量%である。油脂の含有量は、食品原料、脂肪酸エステル、及び油脂の種類によって変動し、顆粒状食品の製品仕様及び要求される流動性(Carr指数)に応じて適宜設定することができる。
【0051】
顆粒状食品がエキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる添加剤を含む場合、顆粒状食品の添加剤の含有量は、質量基準で、顆粒状食品の油脂の含有量の好ましくは0.7倍以下、より好ましく0.5倍以下、更に好ましくは0.3倍以下である。
【0052】
顆粒状食品の食品原料の含有量は、食品原料の固形分について、一般に70質量%~96質量%、好ましくは75質量%~96質量%、より好ましくは78質量%~96質量%である。顆粒状食品がエキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる添加剤を含む場合、顆粒状食品の食品原料の含有量は、食品原料の固形分について、好ましくは55質量%~95質量%、より好ましくは60質量%~95質量%、更に好ましくは65質量%~95質量%である。
【0053】
顆粒状食品において、デキストリン化合物の含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。デキストリン化合物の含有量を上記範囲とすることで、デキストリン化合物の持つ人工的な臭気により損なわれるおそれのある、繊細な風味及び香味を保持することができる。
【0054】
顆粒状食品において、澱粉及び加工澱粉の合計含有量は35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。味以外の舌触り、食感に寄与する澱粉及び加工澱粉の合計含有量を上記範囲とすることで、食品原料中の味成分をより効果的に知覚させることができ、顆粒状食品の風味及び美味しさを高めることができる。
【0055】
〈顆粒状食品の製造方法〉
一実施態様の顆粒状食品の製造方法は、(A)グリセリン部分の平均重合度が1~8である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つの脂肪酸エステルと、(D)食品原料との第1混合物を調製すること、(B)有機酸塩及び(C)油脂を含む有機酸塩分散油と、前記第1混合物との第2混合物を調製すること、及び流動層造粒により前記第2混合物の造粒物を形成すること、を含む。
【0056】
《第1混合物の調製》
脂肪酸エステルと、食品原料とを、コニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサーなどの混合装置を用いて混合することによって、第1混合物を調製することができる。食品原料の成分をコニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサーなどの混合装置を用いて予備混合してプレミックスを調製し、その後、プレミックスと脂肪酸エステルとを混合することもできる。
【0057】
《有機酸塩分散油の調製》
有機酸塩及び油脂を含む有機酸塩分散油は、通常の撹拌機又はホモジナイザーを用いて調製することができる。例えば、実機スケールとして内径476mmのタンク(品番SPTL、株式会社シロ産業製)を用いる場合は、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型T-125、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)の撹拌羽根(直径125mm)をタンク中央に、タンク内壁から撹拌羽根先端までの隙間が170mm、タンク底面からの高さが5~10mmとなるように配置して撹拌する。パイロットスケールとして内径165mmの3Lガラスビーカー(AGCテクノグラス株式会社製)を用いる場合は、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、プロペラ型P-65、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)の撹拌羽根(直径65mm)をビーカー中央に、ビーカー内壁から撹拌羽根先端までの隙間が50mm、ビーカー底面からの高さが2~5mmとなるように配置して撹拌する。
【0058】
有機酸塩は、水溶液の形態で有機酸塩分散油の調製に用いることが好ましい。有機酸塩水溶液を用いることにより、有機酸塩がより均一に分散されており、かつ経時で二層分離しにくい有機酸塩分散油を調製することができる。有機酸塩水溶液中の有機酸塩の濃度は、例えば、10質量%~90質量%とすることができ、20質量%~80質量%であることが好ましい。有機酸塩水溶液と油脂との二層系は、例えば、回転数400~450rpm、撹拌時間10~20分の撹拌で均一な分散系となる。
【0059】
有機酸塩分散油中の有機酸塩の含有量は、好ましくは2~20質量%、より好ましくは4~18質量%、更に好ましくは5~15質量%である。
【0060】
有機酸塩分散油は、エキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加物を含んでもよい。エキス又はペースト状調味料は、顆粒状食品に食味、香味、風味などを付与する。エキス又はペースト状調味料を含む有機酸塩分散油は、エキス又はペースト状調味料を含まない有機酸塩分散油と比較して、有機酸塩の分散状態をより長期間保持することもできる。この実施態様では、有機酸塩分散油に含まれるエキス及びペースト状調味料を、油脂と一緒に顆粒状食品に効果的に包含させることができる。エキスとしては、例えば、醤油、魚醤などの醤、ポークエキス、ビーフエキス、チキンエキスなどの畜肉エキス、魚介エキス、及び野菜エキスが挙げられる。ペースト状調味料としては、例えば、味噌、ねりごま、及びカレールーが挙げられる。
【0061】
一実施態様では、有機酸塩分散油中の上記添加物の含有量は、質量基準で、有機酸塩分散油中の油脂の含有量の2倍以下、好ましくは等量以下、より好ましくは0.5倍以下である。
【0062】
有機酸塩分散油がエキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加剤を更に含む場合、有機酸塩分散油中の有機酸塩の含有量は、好ましくは0.5質量%~15質量%、より好ましくは1質量%~13質量%、更に好ましくは2質量%~10質量%である。
【0063】
有機酸塩分散油がエキス及びペースト状調味料からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加剤を更に含む場合、有機酸塩分散油中の有機酸塩の含有量は、質量基準で、有機酸塩分散油中の油脂の含有量の好ましくは0.7倍以下、より好ましくは0.5倍以下、更に好ましくは0.3倍以下である。
【0064】
《第2混合物の調製》
次に、有機酸塩分散油と第1混合物とを混合して第2混合物を調製する。第2混合物はそのまま又は乾燥後に粉末状スープとして使用することもできる。有機酸塩分散油は、例えば、直径1.0~4.0mmの穴を底部に設けた容器に入れて、その容器からから第1混合物に対して滴下することができる。有機酸塩分散油と第1混合物との混合は、コニカルブレンダー、ナウター、リボンミキサー、ピン型ミキサーなどの混合装置を用いて行うことができる。有機酸塩分散油と第1混合物との混合は、回転可能な保管容器、例えば回転可能なトートビンを用いて行うこともできる。混合装置は、有機酸塩分散油と第1混合物とをより均一に混合できることから、円錐型のリボンミキサー又はピン型ミキサーであることが好ましく、ピン型ミキサーであることがより好ましい。
【0065】
有機酸塩分散油は、調製後速やかに第1混合物と混合することが好ましい。混合時間は20分以内であることが好ましく、10分以内であることがより好ましい。
【0066】
第2混合物を8~10メッシュの振動ふるい(目開き0.9mmφ~2.25mmφ)を用いて整粒してもよい。整粒された第2混合物は、そのまま造粒物の形成工程に用いてもよく、フレキシブルコンテナバッグなどの保管容器内で一時保管してもよい。
【0067】
《造粒物の形成》
この実施態様では、流動層造粒を用いて第2混合物から造粒物が形成される。流動層造粒は、第2混合物の塊を形成させずに第2混合物を均一に流動層内で浮遊させることができるため、安定した品質を有する顆粒状食品を経済的に形成することができる。
【0068】
流動層造粒では、粉末状態の第2混合物を浮遊させながら、粉末を液体架橋により凝集させるためのバインダーを第2混合物に噴霧してもよい。噴霧方式としては、トップスプレー、ボトムスプレー、及び接線スプレーが挙げられる。バインダーとしては、例えば、水、増粘多糖類(グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガムなど)、澱粉、コーンシロップ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びゼラチンが挙げられる。増粘多糖類、澱粉、コーンシロップ、CMC及びゼラチンは、一般に水溶液の形態で噴霧される。バインダー水溶液中のバインダー濃度は、0.3質量%~0.7質量%とすることが好ましい。バインダーにより粉末を液体架橋させることにより、造粒物の圧縮率を高めることができる。造粒物の圧縮率を高めると、ストロークフィーダ装置を用いた自動カップ充填における量目誤差を低減することができる。バインダーの使用量は、脂肪酸エステル及び食品原料の合計100質量部に対して、一般にパイロットスケールで0.04質量部~0.05質量部、実機スケールで0.08質量部~0.1質量部とすることができる。バインダーの噴霧は、55℃以上で行うことが好ましく、60℃~65℃で行うことがより好ましい。噴霧温度を55℃以上とすることにより、脂肪酸エステルのネットワーク形成を促進し、油脂を顆粒状食品に効率的に吸収させることができる。噴霧温度を65℃以下とすることにより、油脂中の香味の揮発を抑制して、優れた香味を有する顆粒状食品を得ることができる。
【0069】
造粒後に得られた顆粒状食品を静置して放冷することにより、脂肪酸エステルのネットワーク形成、及び有機酸塩による油脂の半固体化又は固体化を促進することができる。静置放冷後に振動ふるいなどを用いて粒径の大きいものを除去してもよい。
【0070】
造粒物の平均粒径D50は、例えば、30μm~1600μm、40μm~1500μm、又は50μm~1400μmとすることができる。造粒物の平均粒径D50を30μm~1600μmとすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。
【0071】
造粒物の圧縮率は、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは12%以下である。造粒物の圧縮率を18%以下とすることにより、顆粒状食品の圧縮率をより低くすることができる。造粒物を加熱して水分量を低減することにより、目標の圧縮率を得ることもできる。
【0072】
〈顆粒状食品の使用方法〉
顆粒状食品は、様々な用途に使用することができる。顆粒状食品の用途として、例えば、顆粒状スープ、ふりかけ、及び他の食品(例えばスナック菓子、フライドポテトなど)の調味料が挙げられる。顆粒状食品は、顆粒状スープとして特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。表も含めて部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0074】
〈原料〉
本実施例で使用した原料を表1に示す。
【0075】
【0076】
脂肪酸エステルAp-1の組成を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)及びガスクロマトグラフィ(GC)を用いて分析した。
【0077】
GPC測定は、ゲル浸透クロマトグラフ分析装置(DGU-20A3/LC20AD/CBM-20A/SIL-20AHT/CTO-20AC/SPD-M20A/RID-10A/FRC-10A、株式会社島津製作所製)を用いて行った。条件は以下のとおりであった。
カラム:Shim-pack GPC-80M(長さ300mm×内径80mm)
検出器:示差屈折率検出器(RID)
カラム温度:40℃
移動相:テトロヒドロフラン(THF)
流量:1mL/分
標準物質:Shodex STANDARD(Type:SM-105、昭和電工株式会社製)
試料:テトラヒドロフラン(THF)溶液、脂肪酸エステル濃度1g/L、メンブランフィルター(PTFE製、0.5μm)ろ過
注入量:20μL
【0078】
GC測定は、ガスクロマトグラフAgilent 7890B GCシステム(アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて行った。条件は以下のとおりであった。
カラム:DB-23(アジレントテクノロジー株式会社製、φ0.25mm×30m、膜厚0.25μm)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
カラム温度:50℃(1分保持)→昇温10℃/分→170℃→昇温1.2℃/分→210℃
試料導入系:スプリット(1:20)
水素ガス流量:35mL/分
空気流量:300mL/分
窒素流量(メイクアップ):20mL/分
ヘリウムガス(キャリヤーガス)圧力:115kPa
注入量:1μL
採取量:0.03615~0.04237g
最終液量:3mL
【0079】
脂肪酸エステルAp-1について、GPCでは、重量平均分子量(Mw)が2719~3271(10.782分)及び826~878(11.237分)の位置にピークが観察された。GCでは、脂肪酸の組成がC18:C22=56:38であることが確認された。これらの情報に基づき、グリセロール又はその重合物及び脂肪酸の分子量を用いて、脂肪酸エステルAp-1が、モノグリセリンベヘン酸エステル(分子量755.25=92.09+340.58×2-18)と、オクタグリセリンステアリン酸エステル(分子量3008.72=610.58+284.48×9-18×9)との混合物であると判定した。
【0080】
〈評価方法〉
顆粒状スープの特性は以下の方法を用いて評価した。
【0081】
《圧縮率》
顆粒状スープの圧縮率を、粉体特性評価装置(パウダテスタ(登録商標)PT-X、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて室温(23℃)で測定した。ふるい目開きを1700μmとした。内径40mm、高さ80mm、容積100cm3の円筒容器の上面から38cmの高さに漏斗の出口(出口内径7mm)を合わせて、約120cm3の顆粒状スープを漏斗に入れて落下させたときに円筒容器に充填された顆粒状スープの質量をゆるめ嵩密度a(g/100cm3)とした。同じ円筒容器に継ぎ足し用のキャップを取り付け、ゆるめ嵩密度aの測定と同様の手順で顆粒状スープを落下させ、10回タッピングして顆粒状スープを密にし、その後キャップを外し、円筒容器の上面から突出した余剰の顆粒状スープを掻き取った後に円筒容器に充填されていた顆粒状スープの質量を固め嵩密度b(g/100cm3)とした。圧縮率を式:(b-a)×100/bにより得た。
【0082】
《安息角、崩壊角及び差角》
顆粒状スープの安息角及び崩壊角を、粉体特性評価装置(パウダテスタ(登録商標)PT-X、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて室温(23℃)で測定した。ふるい目開きを1700μmとした。直径8cmの円盤の上に出口高さ12cm、出口内径7mmの漏斗を通して顆粒状スープを落下させた。顆粒状スープが形成した山の裾野の角度を安息角、山に衝撃を3回与えた後の裾野の角度を崩壊角とした。安息角から崩壊角を差し引いた値を差角とした。タッピングは、標準条件のストローク長18mm及びタッピング速度60回/分で行った。差角は安息角と崩壊角の差(安息角-崩壊角)である。
【0083】
《Carr指数》
粉体特性評価装置(パウダテスタ(登録商標)PT-X、ホソカワミクロン株式会社製)から得た情報(ゆるめ嵩密度、固め嵩密度、圧縮率、安息角、崩壊角、及び差角)は、流動性指数表及び噴流性指数表を参照して指数化することができる(横山藤平他「Carrの方法による粉体流動性測定装置の試作」、粉体工学研究会誌、Vol.6、No.4(1969)、pp.264~291も参照のこと)。これらの指数に流動性指数を加えた総和がCarr指数(=圧縮率指数+安息角指数+流動性指数+崩壊角指数+差角指数)である。顆粒状スープのCarr指数を、MT1001k解析ソフト Ver 1.02(株式会社セイシン企業製)を用いて算出した。
【0084】
《Carr指数に基づく評価》
カップ充填後の顆粒状スープについて、充填量が基準値外のカップ個数とCarr指数との相関を評価した。具体的には、ストロークフィーダ(速度:29ショット/分)を用いて顆粒状スープを充填したカップ100個をそれぞれ秤量した後、基準値(中央値±1g)から外れたカップ個数をCarr指数と比較した。評価基準として、「優」を基準値外のカップが5個以下(Carr指数75以上)、「良」を基準値外のカップが6~10個(Carr指数70以上、75未満)、「可」を基準値外のカップが11~20個(Carr指数65以上、70未満)、「不可」を基準値外のカップが21個以上(Carr指数65未満)とした。
【0085】
比較例1
(D)食品原料として94.0質量部のZ-1と、(C)油脂として6.0質量部の牛脂極度硬化油フレークBFFLとの混合物100質量部に対して水7質量部を混合し、得られた混合物を穴あきフレームから顆粒状に押出して、100℃で10分間乾燥することにより顆粒状スープを調製した。顆粒状スープは(A)脂肪酸エステル及び(B)有機酸塩を含まなかった。
【0086】
例1~例3
顆粒状スープを以下の手順で調製した。
【0087】
《第1混合物の調製》
(D)食品原料中の結晶物を粉状に粉砕した。その後、表2に示す配合で、コニカルブレンダーを用いて(D)食品原料中に(A)脂肪酸エステルを混合して第1混合物を調製した。例1~例3ではPMX1-1又はPMX1-3を使用した。他の第1混合物は後述する例で使用した。
【0088】
【0089】
《第2混合物の調製》
内径165mmの3Lガラスビーカー(AGCテクノグラス株式会社製)に入れた40gの(C)油脂に、固形分で5gに相当する(B)有機酸塩又はその他の成分を添加し、トルネード撹拌機(品名:TORNADO、タービン型P-65型、撹拌シャフト50cm、アズワン株式会社製)を用いて撹拌することにより、有機酸塩分散油及びその他の分散油(以下、実施例において単に「分散油」ともいう。)を調製した。表3にそれらの組成を示す。
【0090】
【0091】
直径1.0~4.0mmの穴を設けた容器に分散油を入れ、ピン型ミキサーの撹拌槽に入れた第1混合物に分散油を滴下しながら、回転数70rpmで10分間撹拌した。撹拌完了してから5分経過した後、混合物を撹拌槽から取り出し、8~10メッシュ(目開き1.0~2.25mm)の振動ふるいにかけ、静置することにより第2混合物を調製した。第2混合物は粉末状スープとして使用することもできる。
【0092】
《流動層造粒》
600gの第2混合物を流動層コーティング装置(フローコーター、株式会社大川原製作所製)の目皿に投入し、吸気温度を80~95℃、ダンパー開度を0.2~0.4MPa、噴霧空気圧を0.18MPaに設定して浮遊させ、排気温度が35℃に到達した時点から増粘剤(グアーガム、オルノーSY-1、オルガノフードテック株式会社製)の0.3質量%水溶液をノズルから噴霧することにより造粒物を形成した。流動層造粒中は、排気温度が40~45℃に維持されるように吸気温度を微調整した。増粘剤水溶液の噴霧は、ロータリーポンプの目盛りを4.5に設定し、噴霧量を70mLとした。70mLの増粘剤水溶液を10分程度で噴霧した後、3分間乾燥し、吸気温度を45℃まで下げて冷却した後、造粒物を回収した。その後、ふるい(TESTING SIEVE(目開き2mm、線径0.9mm)、東京スクリーン株式会社製)を用いて粒径の大きい造粒物を除去することにより、顆粒状スープを調製した。表4に顆粒状スープの組成及び物性を示す。
【0093】
【0094】
例1及び比較例1の顆粒状スープを常温保存したときの外観と風味の変化を調べた。紙カップに20gの顆粒状スープ、60gの麺、5.5gの具材(3.0gのフリーズドライ肉そぼろ、1.5gのマイクロ波ドライキザミあげM、0.6gのエアドライネギ、及び0.4gのエアドライキャロットフレーク)を投入して蓋をシールした。常温で又は4℃の冷蔵庫中で静置して1か月ごとに外観及び風味を確認した。
【0095】
常温保存の比較例1の顆粒状スープは、3か月経過時で衝撃を加えないと動かない程度に凝集し、6か月経過時で固化した。常温保存の例1の顆粒状スープは、8か月経過しても流動性は良好であった。一方、冷蔵保存の場合、比較例1及び例1の顆粒状スープはいずれも8か月経過後も良好な流動性を保持した。
【0096】
外観及び風味については、常温保存及び冷蔵保存の比較例1及び例1の顆粒状スープに変化は見られなかった。
【0097】
例4~例7
顆粒状スープを以下の手順で調製した。
【0098】
例1と同じ手順で分散油を調製した。表5にそれらの組成を示す。表5にDISP-2の組成も再掲する。表5の分散油の成分に関する質量部は(D)食品原料869質量部に対する値である。
【0099】
【0100】
得られた分散油を用いて例1と同じ手順で第2混合物を得た。その後、例1と同様の手順で第2混合物を流動層造粒することにより顆粒状スープを調製した。流動層造粒では、吸気温度を80℃、流動層内の到達温度を60℃とした。増粘剤水溶液の噴霧は、噴霧2.5分間と中間乾燥20秒のサイクルを繰り返し行った。70mLの増粘剤水溶液を10分程度で噴霧した後、3分間乾燥し、吸気温度を45℃まで下げて冷却した後、造粒物(顆粒状スープ)を回収した。表6に顆粒状スープの組成及び物性を示す。
【0101】
【0102】
例8~例9
顆粒状スープを例1と同じ手順で調製した。表7に顆粒状スープの組成及び物性を示す。表7に比較例1及び例2の組成及び物性も再掲する。
【0103】