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特許7591563感光性組成物、硬化物および有機エレクトロルミネッセンス表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】感光性組成物、硬化物および有機エレクトロルミネッセンス表示装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/10 20230101AFI20241121BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20241121BHJP
   C08F 20/20 20060101ALI20241121BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20241121BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20241121BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H05B33/14 A
H10K59/00
C08F20/20
C08F2/50
H05B33/04
H05B33/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022512121
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021012892
(87)【国際公開番号】W WO2021200668
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020063227
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 麻希子
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰則
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 淳一
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-173465(JP,A)
【文献】特開2007-219039(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/50
C08F 20/20
H10K 59/10
H10K 50/10
H05B 33/04
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と光重合開始剤とを含む、感光性組成物であって、
当該組成物中の水分濃度が1ppm以上50ppm以下であり、
当該組成物中のトルエン濃度をaとし、
当該組成物に、LEDランプから発せられる波長395nmの光を1500mJ/cm照射して得た硬化膜中のトルエン濃度をbとしたとき、
a-bが50ppm以下であり、
有機エレクトロルミネッセンス素子封止用であり、
前記重合性化合物全体の70質量%以上が多官能(メタ)アクリレートである、感光性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の感光性組成物であって、
当該組成物中の溶存酸素濃度が0.1mg/L以上20mg/L以下である、感光性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の感光性組成物であって、
当該感光性組成物を80℃で16時間経時させたときの粘度変化が3mPa・s未満である、感光性組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感光性組成物であって、
粘度が3mPa・s以上50mPa・s以下である、感光性組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の感光性組成物であって、
当該感光性組成物を、23℃で16時間静置したときの質量減少が10%以下である、感光性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の感光性組成物であって、
前記トルエン濃度aが1ppm以上100ppm以下であり、
前記トルエン濃度bが1ppm以上100ppm以下である、感光性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の感光性組成物であって、
前記重合性化合物は、分子量300以上2000以下の重合性化合物を含む、感光性組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の感光性組成物の硬化物。
【請求項9】
請求項に記載の硬化物で有機エレクトロルミネッセンス素子が封止された、有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、感光性組成物、硬化物、有機エレクトロルミネッセンス表示装置および感光性組成物の製造方法に関する。
より具体的には、感光性組成物、その硬化物、その硬化物で有機エレクトロルミネッセンス素子が封止された有機エレクトロルミネッセンス表示装置、および、有機エレクトロルミネッセンス素子封止用感光性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とも記載)は、高い輝度の発光が可能な素子体として注目を集めている。しかしながら、有機EL素子には、酸素や水分により劣化し、発光特性が低下してしまうという課題があった。これを解決するために、有機EL素子を封止し、劣化を防止する技術が検討されている。
【0003】
特許文献1には、重合性化合物と重合開始剤とを含有し、25℃における粘度が5~50mPa・sであり、25℃における表面張力が15~35mN/mであり、かつ、25℃、50%RHの環境下に24時間静置した後の25℃における含水率が1000ppm以下である有機EL表示素子用封止剤が記載されている。
【0004】
特許文献2には、有機EL素子の封止材に適した樹脂組成物として、芳香族炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物(A)、環状(メタ)アクリレート化合物(B)及び重合開始剤(C)を含有する樹脂組成物が記載されている。ここで、環状(メタ)アクリレート化合物(B)は、化合物(A)とは異なる(メタ)アクリレート化合物である芳香族炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物、脂環式炭化水素骨格を有する(メタ)アクリレート化合物、ヘテロ環骨格を有する(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の(メタ)アクリレート化合物である。
【0005】
特許文献3には、(A)炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートと、(B)光重合開始剤を含有し、(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量が4.80~7.60mmol/gの範囲にある有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-040872号公報
【文献】特開2014-193970号公報
【文献】国際公開第2019/203071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、これまで、有機EL素子を封止するための組成物が様々に提案されている。しかし、本発明者らの知見によれば、有機EL素子を封止するための組成物には、なお改善の余地があった。
例えば、有機EL素子を封止するための組成物は、工業的に取り扱いやすいことが好ましい。
また、有機EL素子を封止するための組成物を改良することで、有機EL素子の信頼性を高められれば望ましい。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、工業的に取り扱いやすく、有機EL素子の信頼性を高めることが可能な、有機EL素子を封止するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0010】
本発明によれば、
重合性化合物と光重合開始剤とを含む、感光性組成物であって、
当該組成物中の水分濃度が1ppm以上50ppm以下であり、
当該組成物中のトルエン濃度をaとし、
当該組成物に、LEDランプから発せられる波長395nmの光を1500mJ/cm照射して得た硬化膜中のトルエン濃度をbとしたとき、
a-bが50ppm以下である、感光性組成物
が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、
上記の感光性組成物の硬化物
が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、
上記の硬化物で有機エレクトロルミネッセンス素子が封止された、有機エレクトロルミネッセンス表示装置
が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、
上記の感光性組成物の製造方法であって、
前記重合性化合物を、10~100℃で、10分以上、1000Pa以下に減圧する脱揮工程を含む、感光性組成物の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、工業的に取り扱いやすく、有機EL素子の信頼性を高めることが可能な、有機EL素子を封止するための組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0017】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「多官能(メタ)アクリレート」との表記は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を意味する。また、「単官能(メタ)アクリレート」との表記は、1分子中に1個のみの(メタ)アクリロイル基を有する化合物を意味する。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
本明細書において「PET」の語は、特に断りが無い限り、ポリエチレンテレフタレートを表す。
【0018】
<感光性組成物>
本実施形態の感光性組成物は、重合性化合物と光重合開始剤とを含む。
本実施形態の感光性組成物は、好ましくは、有機エレクトロルミネッセンス素子封止用である。つまり、本実施形態の感光性組成物は、好ましくは、有機EL素子を封止して有機EL表示装置を製造するために用いられる。
本実施形態の感光性組成物中の溶存酸素濃度は、好ましくは0.1mg/L以上20mg/L以下である。
本実施形態の感光性組成物中の水分濃度は、1ppm以上50ppm以下である。
本実施形態の感光性組成物中のトルエン濃度をaとし、同組成物に、LEDランプから発せられる波長395nmの光を1500mJ/cm照射して得た硬化膜中のトルエン濃度をbとしたとき、a-bは50ppm以下である。
【0019】
本実施形態の感光性組成物は、a-bが小さいことにより、環境を汚染しにくい。例えばVOC排出の削減が重要な昨今、a-bが小さい本実施形態の感光性組成物は、工業的に取り扱いやすいものといえる。
また、a-bが小さい、つまり、膜としたときに膜外に放出されるトルエンが少ないことは、有機EL表示装置の製造工程において放出されるトルエンが少なく、よってトルエンが有機EL素子を蝕みにくいということを意味する。つまり、a-bが小さい本実施形態の感光性組成物を用いて有機EL素子を封止することで、有機EL表示装置の信頼性を向上させうる。
付言するに、本実施形態の組成物は、「感光性組成物」である。つまり、本実施形態の感光性組成物は、光照射により硬化するものである。有機EL素子の封止(組成物の硬化)を、熱ではなく光で行うことにより、トルエンやその他の成分の放出を一層少なくすることができる。つまり、本実施形態の組成物が「感光性」であり、硬化のために必ずしも加熱しなくてよいことも、環境を汚染しにくいことや有機EL表示装置の信頼性向上につながっていると考えられる。
【0020】
本実施形態の感光性組成物においては、水分濃度が1ppm以上50ppm以下であることや、好ましくは溶存酸素濃度が0.1mg/L以上20mg/L以下であることも、有機EL表示装置の信頼性向上につながっていると考えられる。
有機EL表示装置の構造として、通常、有機EL素子と封止材(硬化物)の間には、膜厚1μm程度の無機保護膜が設けられる。この無機保護膜にピンホールが発生した場合、そのピンホールから水や酸素が有機EL素子に侵入することで、有機EL素子の信頼性が低下しうる。そのため、水分濃度が1ppm以上50ppm以下である(好ましくは、さらに、溶存酸素濃度が0.1mg/L以上20mg/L以下である)感光性組成物を用いて有機EL素子を封止することで、もし無機保護膜にピンホールが発生しても有機EL素子の信頼性が損なわれにくくなる(ピンホールから有機EL素子に侵入する水や酸素がそもそも少ないため)。
【0021】
本実施形態の感光性組成物は、適切な材料を選択し、適切な製造条件を選択することにより製造される。「適切な材料」については、例えば、(i)揮発性が小さい重合性化合物を用いること、(ii)実質的に無溶剤で感光性組成物を調製すること、などが挙げられる。「適切な製造条件」については、例えば、(i)原料の重合性化合物と光重合開始剤を、それぞれ別々に脱揮処理すること、(ii)モレキュラーシーブによる脱水、(iii)減圧、窒素ガスバブリングにより脱酸素すること、などが挙げられる。これらの詳細は追って述べる。
【0022】
本実施形態の感光性組成物に関する具体的な説明を続ける。
【0023】
(重合性化合物)
重合性化合物は、後述の光重合開始剤から発生する活性種により重合可能な化合物である限り、特に限定されない。
本実施形態においては、重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。以下、(メタ)アクリレート化合物について説明する。
【0024】
重合性化合物は、多官能(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。多官能(メタ)アクリレート化合物を用いることで、光硬化性がより良好となる傾向がある。
多官能(メタ)アクリレート化合物は、例えば2~6官能の、具体的には2~4官能の(メタ)アクリレート化合物を含むことができる。諸性能のバランスなどの点で、多官能(メタ)アクリレート化合物は、2官能(メタ)アクリレート化合物、すなわち、ジ(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。
【0025】
重合性化合物は、多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレートとを含むことが好ましい。多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートを併用することにより、重合性の調整、硬化膜の物性の調整などが可能となる。
諸性能のバランスなどの観点で、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとを併用する場合、好ましくは重合性化合物全体の40質量%以上、より好ましくは重合性化合物全体の50質量%以上が多官能(メタ)アクリレートである。好ましくは重合性化合物全体の70質量%以上、より好ましくは重合性化合物全体の80質量%以上、最も好ましくは重合性化合物全体の90質量%以上が多官能(メタ)アクリレートである。好ましくは重合性化合物全体の100質量%以下、より好ましくは重合性化合物全体の95質量%以下が多官能(メタ)アクリレートである。
念のため述べておくと、性能良好な限りにおいて、重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートのみを含んでいてもよい。
【0026】
多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば以下が挙げられる。
【0027】
下記の2官能(メタ)アクリレート。ビス(1-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)フタレート、ビス(2-(メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)ジエチレングリコール、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシエチル)エーテル、ビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールビス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、1,4-ブタンジオールビス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、2-ブテン-1,4-ジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールエーテルジ(メタ)アクリレート、ジフェノール酸ジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、7,7,9-トリメチル-3,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-エタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-エタンジオールビス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-フェニレンジ(メタ)アクリレート、1-フェニル-1,2-エタンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチル-2,2-ジ(p-ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、1,2-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、テトラクロロビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート。
【0028】
下記の3官能(メタ)アクリレート。1,2,4-ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピルトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、シリコーントリ(メタ)アクリレート、1,3,5-トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ-s-トリアジン、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,3-トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、1,2,3-トリメチロールプロパントリス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート。
【0029】
下記の4官能(メタ)アクリレート。ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス((メタ)アクリロキシプロピオネート)。
【0030】
単官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば以下が挙げられる。
【0031】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(o-フェニルフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート。
【0032】
後述する脱揮工程で、トルエンを十分に脱揮させつつ、重合性化合物は残す(揮発させない)観点から、重合性化合物は、揮発しにくいものを含むことが好ましい。具体的には、重合性化合物は、分子量210以上2000以下のものを含むことが好ましく、分子量300以上2000以下のものを含むのがより好ましく、分子量300以上1000以下のものを含むのがさらに好ましく、分子量300以上600以下のものを含むのが特に好ましい。すなわち、本実施形態の感光性組成物は、上掲の(メタ)アクリレート化合物(特に多官能(メタ)アクリレート)の中から、上記分子量に当てはまるものを含むことが好ましい。より具体的には、本実施形態の感光性組成物は、上記分子量に当てはまる重合性化合物を、全重合性化合物中の50質量%以上含むことが好ましい。
念のため述べておくと、上記分子量に当てはまらない重合性化合物であっても、本実施形態において使用が排除されることはない。
【0033】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、上述の重合性化合物を重合させることが可能なものである限り、特に限定されない。
光重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン及びその誘導体、ベンジル及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン誘導体、ジエトキシアセトフェノン、4-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体、2-ジメチルアミノエチルベンゾエート、p-ジメチルアミノエチルベンゾエート、ジフェニルジスルフィド、チオキサントン及びその誘導体、カンファーキノン、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-ブロモエチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-メチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロライド等のカンファーキノン誘導体、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1等のα-アミノアルキルフェノン誘導体、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジエトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、フェニル-グリオキシリックアシッド-メチルエステル、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル及びオキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル等が挙げられる。
【0034】
光重合開始剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
光重合開始剤としては、硬化させる時に390nm以上の可視光線のみを用いて硬化させることができ、有機EL表示素子にダメージを与えないで硬化させることができる点で、アシルホスフィンオキサイド誘導体が好ましい。アシルホスフィンオキサイド誘導体の中では、有機EL表示装置としたときに可視光線での透過性が低下せずに、395nm以上の光のみを用いて硬化させることができる点で、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドが最も好ましい。2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドとしては、IGM Resins社製「Omnirad TPO」等が挙げられる。
【0035】
光重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上8質量部以下がより好ましく、1質量部以上5質量部以下がさらに好ましく、2質量部以上5質量部以下が特に好ましい。適量の光重合開始剤を用いることで、十分な感度/硬化スピードを得つつ、封止材の透明度を十分に確保しやすい。
【0036】
(その他任意成分)
本実施形態の感光性組成物は、重合性化合物と光重合開始剤のほか、性能調整のために他の成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
他の成分としては、酸化防止剤、界面活性剤、増感剤などが挙げられる。
【0037】
本実施形態の感光性組成物が有機溶剤を含むことは排除されない。しかし、a-bを50ppm以下とする観点では、本実施形態の感光性組成物は、有機溶剤を実質上含まないか、または含むとしても少量であることが好ましい。具体的には、有機溶剤の量は、感光性組成物全体中、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。理想的には、本実施形態の感光性組成物は、有機溶剤を実質的に含まない。
工業的に利用しやすい有機溶剤の多くには、不純物としてトルエンが含まれることが多い。よって、有機溶剤を実質上用いずに感光性組成物を調製することで、a-bが50ppm以下である感光性組成物を調製しやすい。
【0038】
(各種数値に関する追加・補足説明)
前述のように、a-bは50ppm以下であればよいが、a-bは、好ましくは30ppm以下、より好ましくは15ppm以下である。a-bは、理想的にはゼロであるが、現実的には、a-bは例えば1ppm以上、具体的には3ppm以上である。
【0039】
トルエン濃度aそのものの値は、好ましくは1ppm以上100ppm以下、より好ましくは1ppm以上80ppm以下、さらに好ましくは1ppm以上50ppm以下である。トルエン濃度bそのものの値も、好ましくは同程度である。トルエン濃度aおよび/またはbが上記数値範囲内にあることで、例えば、トルエンによる有機EL素子の腐蝕が一層抑えられ、有機EL表示装置の信頼性が一層向上しうる。
トルエン濃度aおよびトルエン濃度bの測定方法の詳細については、後掲の実施例を参照されたい。
【0040】
前述のように、本実施形態の感光性組成物中の溶存酸素濃度は、好ましくは0.1mg/L以上20mg/L以下である。溶存酸素濃度は、より好ましくは0.1mg/L以上10mg/L以下、特に好ましくは0.1mg/L以上5mg/L以下である。
溶存酸素濃度の測定方法については、後掲の実施例の記載を参照されたい。
【0041】
本実施形態の感光性組成物の粘度は、好ましくは3mPa・s以上50mPa・s以下、より好ましくは5mPa・s以上30mPa・s以下である。この程度の粘度であることにより、インクジェット法を適用する際の吐出しやすさ、膜形成のしやすさ、などが高まる。
【0042】
本実施形態の感光性組成物を、80℃で16時間経時させたときの粘度変化は、好ましくは3mPa・s未満、より好ましくは2mPa・s以下、さらに好ましくは1mPa・s以下である。このように感光性組成物を設計することで、感光性組成物の貯蔵性が高まり、すなわち工業的な取り扱いやすさが一層高まる。また、一定の条件で膜形成すれば常に一定の性質の硬化膜を得やすくなり、有機EL表示装置の歩留まり向上に効果的である。
ちなみに、本発明者らの知見として、重合性化合物としてアクリレートよりも反応性が低いメタクリレートを主として用いることで、80℃で16時間経時させたときの粘度変化を上記の範囲に設計しやすい。
【0043】
粘度は、例えば、コーンプレート型粘度計(英弘精機社製、品番:HB DV3Tなど)を用いて、25℃、200から250rpm(好ましくは250rpm)の条件で測定することができる。
【0044】
本実施形態の感光性組成物を、23℃で16時間静置したときの質量減少は、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下である。
ここで、質量減少は、インクジェット装置で無アルカリガラス上に感光性組成物を膜形成したものを、23℃で16時間静置し、{(静置前質量-静置後質量)/静置前質量}×100(%)の式に基づき計算することで求められる。静置前質量および静置後質量は、「無アルカリガラス+膜形成された感光性組成物」の質量から無アルカリガラスの質量を引くことで求められる。測定条件の詳細は後掲の実施例を参照されたい。
【0045】
<感光性組成物の製造方法>
本実施形態の感光性組成物は、上述の成分を用いて、適切な製造方法を採用することにより製造可能である。具体的には、本実施形態の感光性組成物は、(1)素材の脱揮工程、(2)素材の混合工程、(3)脱水工程、(4)脱酸素工程、(5)濾過工程の各工程を経ることで製造可能である。
以下、これら工程について説明する。
【0046】
(1)素材の脱揮工程
一部または全部の素材を、混合する前に、十分に脱揮処理することが好ましい。この工程を行うことで、特にa-bが50ppm以下である感光性組成物を製造しやすくなる。特に、使用量が多い重合性化合物を脱揮処理することが好ましい。
脱揮の際の温度は、好ましくは10℃以上100℃以下、より好ましくは30℃以上80℃以下程度である。
脱揮の時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは10分以上60分以下である。
脱揮の際の圧力は、好ましくは1000Pa以下、より好ましくは1Pa以上1000Pa以下とすることができる。
【0047】
脱揮処理は、ラボスケールでは、例えばフラスコに攪拌子を入れ、真空ポンプと真空度計をつないで減圧することにより行うことができる。加温して揮発分をより積極的に揮発させようとする場合はオイルバスを使用することが好ましい。
ちなみに、適当な真空度を保つため、エアーによるバブリング(液への吹き込み)を行うこともある。これは、重合活性種を失活させる酸素の濃度が低下しすぎると、重合性化合物が重合してしまうことがあるためである。
大きいスケールで脱揮処理を行う場合は、例えば撹拌機つきのステンレス製加圧容器で行うことができる。
(2)素材の混合工程
上記(1)で脱揮された素材を、適量ずつ混合して、混合物を得る。混合方法は特に限定されず、公知の攪拌機を用いて攪拌することができる。
【0048】
(3)脱水工程
上記(2)で得た混合物から、できるだけ水分を除く。水分の低減方法は特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。
(i)乾燥剤を用いる。乾燥剤は、水分を除去した後、デカンテーション又はろ過により分離される。乾燥剤は、組成物に影響がなければ特に限定されない。乾燥剤としては、高分子吸着剤(モレキュラーシーブ、合成ゼオライト、アルミナ、シリカゲル等)、無機塩(塩化カルシウム、無水硫酸マグネシウム、生石灰、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸カルシウム等)、固体アルカリ類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等が挙げられる。
(ii)減圧条件下で加熱する。
(iii)減圧条件下で蒸留精製する。
(iv)乾燥窒素や乾燥アルゴンガス等の不活性ガスを各成分に吹き込む。
(v)凍結乾燥処理する。
【0049】
水分の低減方法としては、簡便性や、成分の劣化を抑える観点などから、モレキュラーシーブを用いる方法が好ましい。
【0050】
(4)脱酸素工程
脱酸素工程により、混合物中の溶存酸素量を低減できる。溶存酸素の低減方法は特に限定されず、例えば以下の方法が挙げられる。
(i)減圧条件下に混合物を暴露する。
(ii)乾燥窒素や乾燥アルゴンガス等の不活性ガスを混合物に吹き込む。
(iii)低酸素濃度下に暴露する。
【0051】
ちなみに、上記のうち2以上を組み合わせたような方法で溶存酸素を低減してもよい。例えば、(i)と(ii)を組み合わせた方法、つまり、減圧条件下において、乾燥窒素や乾燥アルゴンガス等の不活性ガスを混合物に吹き込むことで混合物中の溶存酸素量を低減してもよい。
【0052】
(5)濾過工程
上記(1)から(4)の工程を経て得られた混合物を、適当なフィルターを用いて濾過する。これにより本実施形態の感光性組成物を得ることができる。使用可能なフィルターは特に限定されないが、有機EL素子の封止用途で求められるスペックの感光性組成物を得るためには、ポアサイズ1μm以下のフィルターを用いることが好ましい。
【0053】
<硬化物、有機EL表示装置>
【0054】
本実施形態の感光性組成物に光を照射することで、硬化物を得ることができる。また、本実施形態の感光性組成物により有機EL素子を封止することで、有機EL表示装置を製造することができる。
【0055】
感光性組成物を硬化させるための光源は特に限定されない。ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ(インジウム等を含有する)、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、キセノンエキシマランプ、キセノンフラッシュランプ、LED等が挙げられる。
【0056】
有機EL表示装置を製造する方法としては、例えば、(i)有機EL素子が設けられた基板の、その有機EL素子が設けられた面の上に、本実施形態の感光性組成物による膜(未硬化膜)を形成し、(ii)その膜に光を照射する方法が挙げられる。こうすることで、有機EL素子を、本実施形態の感光性組成物の硬化物で封止することができる。前述のように、有機EL素子を、本実施形態の感光性組成物の硬化物で封止することで、最終的に得られる有機EL表示装置の信頼性を高めることができる。
ちなみに、上記(ii)の後に、硬化物の表面に、SiNなどの無機保護膜をさらに設けてもよい。
【0057】
上記(i)の膜形成には、インクジェット方式を採用することが好ましい。有機EL表示装置の製造においては、複数の有機EL素子が設けられた大面積の基板上に、均一に膜形成を行う必要上、インクジェット方式による膜形成が好ましい。
上記(i)の膜形成において、膜厚は、例えば1μm以上10μm以下、好ましくは3μm以上9μm以下である。1μm以上の膜を形成しそして硬化させることで、封止材として十分な封止能を得やすい。また、膜厚が10μm以下であることにより、有機EL表示装置の小型化、製造コストの削減などにつながる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用できる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
重合性化合物と光重合開始剤とを含む、感光性組成物であって、
当該組成物中の水分濃度が1ppm以上50ppm以下であり、
当該組成物中のトルエン濃度をaとし、
当該組成物に、LEDランプから発せられる波長395nmの光を1500mJ/cm 照射して得た硬化膜中のトルエン濃度をbとしたとき、
a-bが50ppm以下である、感光性組成物。
2.
1.に記載の感光性組成物であって、
当該組成物中の溶存酸素濃度が0.1mg/L以上20mg/L以下である、感光性組成物。
3.
1.または2.に記載の感光性組成物であって、
当該感光性組成物を80℃で16時間経時させたときの粘度変化が3mPa・s未満である、感光性組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の感光性組成物であって、
粘度が3mPa・s以上50mPa・s以下である、感光性組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の感光性組成物であって、
当該感光性組成物を、23℃で16時間静置したときの質量減少が10%以下である、感光性組成物。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の感光性組成物であって、
前記トルエン濃度aが1ppm以上100ppm以下であり、
前記トルエン濃度bが1ppm以上100ppm以下である、感光性組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の感光性組成物であって、
前記重合性化合物は、分子量300以上2000以下の重合性化合物を含む、感光性組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の感光性組成物であって、
前記重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を含む、感光性組成物。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の感光性組成物であって、
有機エレクトロルミネッセンス素子封止用である、感光性組成物。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の感光性組成物の硬化物。
11.
10.に記載の硬化物で有機エレクトロルミネッセンス素子が封止された、有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
12.
1.~9.のいずれか1つに記載の感光性組成物の製造方法であって、
前記重合性化合物を、10~100℃で、10分以上、1000Pa以下に減圧する脱揮工程を含む、感光性組成物の製造方法。
【実施例
【0059】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0060】
<感光性組成物の製造>
(実施例1から8)
後掲の表に記載の重合性化合物と光重合開始剤を用いて、実施例1から8の感光性組成物を製造した。具体的な手順は以下のとおりである。
【0061】
(1)脱揮工程
重合性化合物について、23℃以上、15分以上、1000Pa以下の条件で脱揮処理した。
(2)混合工程
脱揮処理した重合性化合物と光重合開始剤を、表に記載の量(単位:質量部)測り取り、撹拌機(スリーワンモーター)を用いて、200rpm、23℃、3時間攪拌した。これにより混合物を得た。
(3)脱水工程
上記(2)で得た混合物に、脱水剤(モレキュラーシーブ5A)を10質量%入れ、23℃で16時間静置した。
(4)脱酸素工程
上記(3)の脱水工程を経た混合物を、1000Pa以下の条件で、30分以上窒素ガスでバブリングした。
(5)濾過工程
上記(4)の脱酸素工程を経た混合物を、ポアサイズ1μm以下のフィルターでろ過し、異物を除去した。
以上により、感光性組成物を製造した。
【0062】
(比較例1)
(1)脱揮工程を行わなかった以外は、実施例2と同様にして感光性組成物を製造した。
【0063】
(比較例2)
(3)脱水工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして感光性組成物を製造した。
【0064】
(比較例3)
重合性化合物の種類および量を、表に記載のように変えた以外は、実施例1から8と同様にして感光性組成物を製造した。
【0065】
参考のため、今回使用した重合性化合物および開始剤の入手先を記載しておく。
・SR262(1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、分子量338):アルケマ社
・BPE200(エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(下記化学式でm+n=4)、分子量540):新中村化学工業社
【0066】
【化1】
【0067】
・A-LEN-10(エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(2-(o-フェニルフェノキシ)エチルアクリレート)、分子量268):新中村化学工業社
・TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート、分子量296):大阪有機化学工業社
・DCP(ジメチロール-トリシクロデカンジメタクリレート、分子量332):新中村化学工業社
・LA(ラウリルアクリレート、分子量240):大阪有機化学工業社
・EHMA(2-エチルヘキシルメタクリレート、分子量198):三菱ガス化学社
・TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド):IGM Resins社
【0068】
<各種測定/評価>
(組成物中のトルエン濃度a)
感光性組成物を20mLメスフラスコに0.200g量り、アセトンを目標とする標線まで加えた。その後良く振り混ぜて測定用試料を作製した。その後、その測定用試料をガスクロマトグラフにかけて、トルエン濃度を定量した。ガスクロマトグラフの詳細は以下のとおりである。
・装置:Agilent 7890B
・Col.:HP-5MS 60m×φ0.25mm×膜厚0.25μm
・Col.Temp.:40℃で1min、その後20℃/minの昇温速度で180℃まで昇温、さらにその後10℃/minの昇温速度で300℃まで昇温、そして50min保持
・Inj.Temp.:300℃
・Det.Temp.:300℃
・Flow:1mL/min×22min、その後0.1mL/min、さらにその後2mL/min、split 1/20
・Inj:1μL
【0069】
(硬化膜中のトルエン濃度b)
以下手順によりトルエン濃度bを求めた。
(1)厚み100μmのスペーサーテープを付けた第一PETフィルム上に感光性組成物を塗布(滴下)し、第二PETフィルムを上から貼り合わせた。これにより、未硬化の感光性組成物が第一PETフィルムと第二PETフィルムとで挟まれたサンプルを得た。
(2)LEDランプから発せられる波長395nmの光を、上記サンプルの表と裏から、それぞれ750mJ/cmずつ(合計1500mJ/cm)照射した。これにより、感光性組成物の硬化膜を得た。
(3)第一PETフィルムおよび第二PETフィルムから硬化膜を丁寧に剥がした。
(4)硬化膜0.5gを5mm角以下の大きさに細かく裁断したうえでネジ口瓶に入れ、アセトン5mLを注入し、超音波を30分あてた。その後、一昼夜放置し、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターにてろ過してろ液を得た。このろ液をガスクロマトグラフにかけてトルエン濃度を定量した(ガスクロマトグラフの諸条件は上記(組成物中のトルエン濃度aの測定)と同じ)。
【0070】
(溶存酸素濃度)
飯島電子工業社製の溶存酸素計、DOメーターB-506S(隔膜型ガルバニ電池式)を用いて、23℃、攪拌ありの条件で、感光性組成物中の溶存酸素濃度を測定した。
【0071】
(水分濃度(含水率))
カールフィッシャー溶液としてアクアミクロンAX(三菱ケミカル社製)を用い、微量水分測定装置CA-06(三菱化学社製)により測定した。
【0072】
(質量減少(揮発性))
インクジェット装置で無アルカリガラス上に感光性組成物を膜形成したものについて、23℃で16時間静置した。そして、{(静置前質量-静置後質量)/静置前質量}×100(%)の式に基づき質量減少を計算した。式中の静置前質量および静置後質量は、「無アルカリガラス+膜形成された感光性組成物」の質量から無アルカリガラスの質量を引くことで求めた。
詳細を以下に補足しておく。
・インクジェット装置:富士フイルム社製、DMP2850
・インクジェット条件:23℃の条件下、35mm角の領域に、膜厚10μmとなるように打滴
・静置の条件:開放系(大気)、クリーンルーム(クラス1000)、イエローランプ下、湿度40%程度
【0073】
(粘度およびその経時変化(加熱安定性))
コーンプレート型粘度計(英弘精機社製、HB DV3T、コーンプレート:CPA-40Z)を用い、25℃、250rpmの条件で、感光性組成物の粘度を測定した。
また、80℃で16時間経時させた感光性組成物について、同様にして粘度を測定し、加熱安定性を評価した。評価基準としては、粘度変化が3mPa・s未満であったものを〇(変化なし)、粘度変化が3mPa・s以上であったものを×(増粘)とした。
【0074】
(有機EL表示装置の信頼性評価(有機EL信頼性))
・評価用の有機EL表示素子の作製
30mm角のITO電極付きガラス基板(厚さ700μm)を、アセトン、イソプロパノールそれぞれを用いて洗浄した。その後、真空蒸着法にて以下の化合物を薄膜となるように順次蒸着し、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/Hole Blocking層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる2mm角の有機EL素子を有する基板を得た。各層の構成は以下の通りである。
陽極(ITO):150nm/高分子
正孔注入層(高分子HIL):60nm
正孔輸送層(α-NPD):30nm
発光層(Ir(ppy)3+CBP[6%]):30nm
Hole Blocking層(BAlq):10nm
電子輸送層(Alq3):30nm
電子注入層(LiF):0.8nm
陰極(MgAg/IZO):10nm/100nm
【0075】
次に、感光性組成物を、窒素雰囲気下にて、富士フイルム社製のインクジェット装置(品番:DMP2850)を用いて、2mm×2mmの有機EL素子を覆うように打滴し、厚み10μmの感光性樹脂膜を得た。その後、N環境下で、波長395nmの光を発光するLEDランプ(HOYA社製UV-LED LIGHT SOURCE H-4MLH200-V1)により、感光性膜に、395nmの波長の積算光量1,500mJ/cmの条件で光を照射した。これにより硬化膜を得た。
得られた硬化膜の全体を覆うように、10mm×10mmの開口部を有するマスク(覆い)を設置し、そして、プラズマCVD法にてSiN膜を形成した。形成されたSiN(無機物膜)の厚さは約1μmであった。このようにして有機EL素子を得た。
【0076】
得られた有機EL素子を、30mm×30mm×25μmtの透明な基材レス両面テープを用いて、30mm×30mm×0.7mmtの無アルカリガラス(Corning社製 Eagle XG)と貼り合わせた。このようにして評価用の有機EL表示装置を作製した。
【0077】
・信頼性試験
上記のようにして得られた評価用の有機EL表示装置を、85℃、85%RHの高温高湿環境下に500時間置いて処理した。この高温高湿処理の前後で、評価用の有機EL表示装置に電流を流し、発光面を撮影した。撮影された画像(高温高湿処理の前および後)を、イノテック社の画像解析ソフト「Quick Grain」で解析し、発光面積を求めた。そして、高温高湿処理の前後での発光面積減少率(%)を算出した。
【0078】
実施例および比較例に関する情報をまとめて下表に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
上表に示されるとおり、実施例1から8の感光性組成物のa-bは1ppm以上50ppm以下であった。すなわち、実施例1から8の感光性組成物は、環境を汚染しにくく、工業的に取り扱いやすいものであるといえる。
また、発光面積減少率の評価結果より、実施例1から8の感光性組成物を用いて作製した有機EL表示装置の信頼性は、比較例のものに比べて良好であったことが理解される。
ちなみに、実施例1から7と実施例8との比較より、感光性組成物の溶存酸素濃度を小さくすることで、有機EL表示装置の信頼性を一層高められる傾向が理解される。
【0081】
参考のため、比較例について補足しておく。
・比較例1:感光性組成物のa-bが大きいため(すなわち、有機EL素子封止時のトルエンの放出が多いため)、有機EL表示装置の信頼性が低下したと考えられる。
・比較例2:感光性組成物の水分濃度が大きかったために、有機EL表示装置の信頼性が低下したと考えられる。
・比較例3:感光性組成物のa-bが大きかった。ちなみに、比較例3では、感光性組成物の製造時の脱揮処理の際、重合性化合物のTMPTAが増粘してしまったため、インクジェット可能な程度の粘度の感光性組成物を製造することができなかった。
【0082】
この出願は、2020年3月31日に出願された日本出願特願2020-063227号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。