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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】シングルシースのマイクロ流体チップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20241121BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20241121BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01N35/08 A
C12M1/00 A
C12N5/076
G01N37/00 101
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022540313
(86)(22)【出願日】2020-01-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 US2020013392
(87)【国際公開番号】W WO2021145854
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519275881
【氏名又は名称】エイビーエス グローバル、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シア、ゼン
(72)【発明者】
【氏名】カマラクシャクラプ、ゴパクマール
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0273192(US,A1)
【文献】特表2016-514955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体チップ(100)であって、
a.試料マイクロチャネル(110)、
b.前記試料マイクロチャネル(110)と交差して交差領域(145)を形成する2つのシース液マイクロチャネル(140)、
c.前記交差領域(145)に流体接続された下流マイクロチャネル(120)であって、第1の直線状部分、この第1の直線状部分の下流にある幅が狭くなる狭窄部(122)、及びこの狭窄部の下流にある第2の直線状部分を有し、前記狭窄部(122)は先が狭まっている側壁(125)を含み、前記第2の直線状部分は前記第1の直線状部分より幅が狭い、下流マイクロチャネル(120)、及び
d.下流マイクロチャネル(120)に流体接続された下流フロー集束領域(130)であって、前記下流フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(132)と、前記下流フロー集束領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁(135)と、を備えることにより前記下流フロー集束領域(130)を幾何学的に狭窄する、下流フロー集束領域(130)、
を含み、
前記第1の直線状部分、前記狭窄部(122)、前記第2の直線状部分、及び前記下流フロー集束領域(130)は、前記交差領域(145)の下流にあり、かつ、前記下流フロー集束領域(130)は、前記狭窄部(122)及び前記第2の直線状部分の下流にあり、
前記試料マイクロチャネル(110)は試料流体混合物を流すように構成されており、前記2つのシース液マイクロチャネル(140)はそれぞれ、シース液を前記交差領域(145)に流して層流を生じさせ、前記試料流体混合物がシース液によって取り囲まれ圧縮されて細いストリームとなるように、前記試料マイクロチャネル(110)から流れてくる前記試料流体混合物を少なくとも両側から少なくとも水平に圧縮するように構成されており、前記狭窄部(122)は前記試料流体混合物を水平方向に圧縮前記下流フロー集束領域(130)の前記上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)が前記試料流体混合物をさらに圧縮する、マイクロ流体チップ(100)。
【請求項2】
前記試料マイクロチャネル(110)が、前記試料マイクロチャネルの投入口(111)の下流に狭小領域(112)を含み、狭小領域(112)は、
a.狭小領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(114)、及び
b.前記狭小領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁(115)、
を含み、上りスロープになっている底面(114)及び先が狭まっている側壁(115)は前記狭小領域(112)を幾何学的に狭窄する、請求項1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項3】
前記試料マイクロチャネルの出口(113)が、前記2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口(143)の高さ中央又はその付近に配置され、前記下流マイクロチャネルの入口(124)が、前記2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口(143)の高さ中央又はその付近に配置される、請求項1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項4】
前記試料マイクロチャネルの前記出口(113)と前記下流マイクロチャネルの前記入口(124)とが位置合わせされている、請求項3に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項5】
前記試料マイクロチャネルの出口(113)が、前記交差領域の高さ中央又はその付近に配置される、請求項1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項6】
前記下流マイクロチャネルの入口(124)が、前記交差領域の高さ中央又はその付近に配置される、請求項1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項7】
前記交差領域(145)及び前記下流フロー集束領域(130)が、試料流体混合物中の物質を集束させるように構成される、請求項1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項8】
前記試料流体混合物を圧縮することにより、物質が前記下流マイクロチャネルの中心又は中心付近に集束されるように前記試料流体混合物内の物質を集中させる、請求項1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項9】
前記下流フロー集束領域(130)の下流に精査領域(150)をさらに含む、請求項1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項10】
前記精査領域(150)の下流に拡張領域(160)をさらに備え、
a.前記拡張領域の高さを増大させる下りスロープになっている底面(162)、及び
b.前記拡張領域の幅を増大させるように広がる側壁(165)を有する拡張部、
を含む、請求項9に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項11】
前記拡張領域(160)の下流にあってこれに流体接続された複数の出力マイクロチャネル(170)をさらに備える、請求項10に記載のマイクロ流体チップ(100)。
【請求項12】
性別が偏った精子細胞を有する流体を生成する方法であって、
a)以下のi~iv、
i.試料マイクロチャネル(110)、
ii.前記試料マイクロチャネル(110)と交差して交差領域(145)を形成する2つのシース液マイクロチャネル(140)、
iii.前記交差領域(145)に流体接続された下流マイクロチャネル(120)であって、第1の直線状部分、この第1の直線状部分の下流にある幅が狭くなる狭窄部(122)、及びこの狭窄部の下流にある第2の直線状部分を有し、前記狭窄部(122)は先が狭まっている側壁(125)を含み、前記第2の直線状部分は前記第1の直線状部分より幅が狭い、下流マイクロチャネル(120)、並びに
iv.前記下流マイクロチャネル(120)に流体接続された下流フロー集束領域(130)であって、前記下流フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(132)及び前記下流フロー集束領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁(135)を備えることによって前記下流フロー集束領域(130)を幾何学的に狭窄し、前記第1の直線状部分、前記狭窄部(122)、前記第2の直線状部分、及び前記下流フロー集束領域(130)は、前記交差領域(145)の下流にあり、かつ、前記下流フロー集束領域(130)は、前記狭窄部(122)及び前記第2の直線状部分の下流にある、下流フロー集束領域(130)、
を含むマイクロ流体チップ(100)を提供する工程と、
b)精子細胞を含む精液を前記試料マイクロチャネル(110)内及び前記交差領域(145)内に流す工程と、
c)シース液が層流を引き起こして少なくとも両側から少なくとも水平に前記精液を圧縮するように、前記2つのシース液マイクロチャネル(140)を通って前記交差領域(145)へとシース液を流す工程であって、前記精液はシース液によって取り囲まれ、圧縮されて細いストリームとなる工程と、
d)前記精液及びシース液を前記下流マイクロチャネル(120)へと流し、前記下流マイクロチャネル(120)の前記狭窄部(122)が前記精液の細いストリームを水平方向に圧縮する工程と、
e)前記精液及びシース液を前記下流フロー集束領域(130)内へと流して、前記上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)が精液ストリームをさらに狭窄して、前記精液ストリームの中心又は中心付近に前記精子細胞を集束させる工程と、
f)前記精液ストリーム中の前記精子細胞の染色体型を判定する工程であって、ここで各精子細胞はY染色体を有する精子細胞か又はX染色体を有する精子細胞のいずれかである工程と、
g)Y染色体を有する精子細胞をX染色体を有する精子細胞からソートすることにより、主にY染色体を有する精子細胞である性別が偏った精子細胞を含む前記流体を生成する工程と、
を含む方法。
【請求項13】
前記マイクロ流体チップ(100)が、前記下流フロー集束領域(130)の下流に精査領域(150)をさらに含み、前記精査領域(150)に連結された精査装置を使用して、前記精子細胞の染色体型を決定し、染色体型に基づいて前記精子細胞をソートする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記精査装置が、前記精子細胞を照射及び励起する放射線源を含み、前記精子細胞の応答が前記精子細胞の染色体型を示し、前記精子細胞の前記応答が光学センサによって検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記精査装置がレーザ源をさらに含み、Y染色体を有する精子細胞がレーザアブレーションによってX染色体を有する精子細胞からソートされ、前記X染色体を有する精子細胞が、細胞を損傷又は死滅させる前記レーザ源に曝露される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップの設計に関し、特に、単一シース(シングルシース)からの層流(ラミナーフロー)及び幾何学的集束を使用して粒子又は細胞物質を単離するためのマイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体技術は、様々な粒子又は細胞物質などの試料を調製及び処理するのに少量の使用を可能にする。試料を選別する場合(例えば生存不能な若しくは非運動性の精子から生存可能な運動性精子へと精子を選別したり、又は性別により選別したり等)、そのプロセスは多くの場合時間のかかる作業であり、厳しいボリューム制限(severe volume restriction)を有する可能性がある。現在の選別技術は、例えば、所望の収率をもたらすことができなかったり、また大量の細胞物質をタイムリーに処理することができなかったりする。さらに、既存のマイクロ流体デバイスは、精子細胞を効果的に集束したり配向したりしない。
【0003】
したがって、連続的で、スループットが高く、時間を節約でき、選別する様々な成分へのダメージが無視できる程度若しくは最小限である、マイクロ流体デバイス及び前記デバイスを利用した選別プロセスが必要である。さらに、そのようなデバイス及び方法は、精子ソーティングだけでなく、血液、並びにウイルス、細胞小器官、球状タンパク質、コロイド懸濁液、及び他の生体物質を含む他の細胞物質の選別においても、生物学的分野及び医療分野にさらに適用可能であるかもしれない。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、独立請求項に明記されているように、粒子又は細胞物質を集束しかつ配向することができる、マイクロ流体デバイス及び方法を提供することである。本発明の実施形態は、従属項に記載されている。本発明の実施形態は、相互排他的でない限り、互いに自由に組み合わせることができる。
【0005】
幾つかの態様では、本発明は、精子細胞の雄雌鑑別及び形質濃縮(trait enrichment)に使用するためのマイクロ流体デバイスを特徴とする。マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つのフロー集束領域を含むことができ、そこで、この領域の幾何学的形状により成分が集束又は再配向される。フロー集束領域の上流端から下流端まで、フロー集束領域の少なくとも一部の高さを減少させ、少なくとも一部の幅を狭くすることにより、フロー集束領域を幾何学的に狭窄する。
【0006】
幾つかの実施形態によれば、本発明は、幅が狭くなる狭窄部を有するマイクロチャネルとマイクロチャネルの下流にあるフロー集束領域とを含むマイクロ流体チップであって、フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面と、フロー集束領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁と、を含むことによりフロー集束領域を幾何学的に狭窄する、マイクロ流体チップを特徴とする。
【0007】
別の実施形態では、マイクロ流体チップは、試料マイクロチャネルと、試料マイクロチャネルと交差して交差領域を形成する2つのシース液マイクロチャネルと、交差領域に流体接続された下流マイクロチャネルと、下流マイクロチャネルに流体接続された下流フロー集束領域とを含むことができる。下流マイクロチャネルは、幅が狭くなる狭窄部を有してもよい。フロー集束領域は、フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面と、フロー集束領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁と、を含むことができ、それによってフロー集束領域を幾何学的に狭窄する。試料マイクロチャネルは、試料流体混合物を流すように構成され、2つのシース液マイクロチャネルはそれぞれ、シース液を交差領域に流して層流を生じさせ、試料流体混合物がシース液によって取り囲まれ、圧縮されて細いストリームとなるように、試料マイクロチャネルから流れてくる試料流体混合物を少なくとも両側から少なくとも水平に圧縮するように、構成される。交差領域及び下流フロー集束領域は、試料流体混合物中の物質を集束させるように構成される。試料流体混合物の圧縮は、物質が下流マイクロチャネルの中心又は中心付近に集束されるように、試料流体混合物中の物質を中心に集める。
【0008】
幾つかの実施形態では、マイクロチャネルの狭窄部は、先が狭まっている側壁を含む。他の実施形態では、上りスロープになっている底面及び先が狭まっている側壁は、フロー集束領域の上流端から下流端まで同時に生じる。上りスロープになっている底面及び先が狭まっている側壁は、フロー集束領域を垂直に横断する平面からスタートしていてもよい。幾つかの他の実施形態では、試料マイクロチャネルは、試料マイクロチャネルの投入口の下流に狭小領域を含む。狭小領域は、狭小領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面と、狭小領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁と、を含むことができる。上りスロープになっている底面及び先が狭まっている側壁は、狭小領域を幾何学的に狭窄することができる。
【0009】
一実施形態では、試料マイクロチャネルの出口は、2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口の高さ中央又はその付近に配置される。下流マイクロチャネルの投入口は、2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口の高さ中央又はその付近に配置される。別の実施形態では、試料マイクロチャネルの出口は、交差領域の高さ中央又はその付近に配置される。下流マイクロチャネルの投入口は、交差領域の高さ中央又はその付近に配置される。さらに別の実施形態では、試料マイクロチャネルの出口及び下流マイクロチャネルの入口は、位置合わせされていてもよいし、整列されていなくてもよい。
【0010】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体チップは、フロー集束領域の下流に精査領域をさらに含んでもよい。マイクロ流体チップは、精査領域の下流に拡張領域を含んでもよい。拡張領域は、拡張領域の高さを増大させる下りスロープになっている底面と、拡張領域の幅を増大するように広がる側壁を有する拡張部分と、を備えることができる。他の実施形態では、マイクロ流体チップは、拡張領域の下流にあってこれに流体接続された複数の出力マイクロチャネルをさらに備えてもよい。
【0011】
他の実施形態によれば、本発明は、マイクロ流体チップを利用する方法を提供する。幾つかの実施形態では、本発明は、流体フローの中の粒子を集束させる方法を特徴としており、この方法は、マイクロ流体チップを提供すること、粒子を含む流体混合物を試料マイクロチャネル内及び交差領域内に流すこと、シース液が層流を引き起こし、少なくとも2つの側から少なくとも水平に流体混合物を圧縮するように、2つのシース液マイクロチャネルを通って交差領域内へとシース液を流すこと(ここで、流体混合物はシース液によって取り囲まれ圧縮されて細いストリームとなり、粒子はシース液によって取り囲まれた細いストリームへと狭窄される)、流体混合物及びシース液を下流マイクロチャネル内へと流し、そこで下流マイクロチャネルの狭窄部分が流体混合物の細いストリームを水平に圧縮すること、並びに流体混合物及びシース液を集束領域内へと流し、そこで上りスロープになっている底面及び先が狭まっている側壁が流体混合物のストリームをさらに狭窄してストリーム内の粒子を再配向させることにより粒子を集束させること、を含む。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、性別が偏った精子細胞を有する流体を生成する方法を特徴とする。この方法は、マイクロ流体チップを提供すること、精子細胞を含む精液を試料マイクロチャネル内及び交差領域内へと流すこと、2つのシース液マイクロチャネルを通って交差領域内へとシース液を流し、シース液が層流を生じさせて少なくとも2つの側から少なくとも水平に精液を圧縮するようにし、精液がシース液によって取り囲まれ、圧縮されて細いストリームとなるようにすること、精液及びシース液を下流マイクロチャネル内に流し、そこで狭窄部が精液の細いストリームを水平に圧縮すること、精液及びシース液を集束領域内に流し、上りスロープになっている底面及び先が狭まっている側壁がさらに精液ストリームを狭窄させて精子細胞を精液ストリームの中心又は中心付近に集束させること、精液ストリーム中の精子細胞の染色体型を決定すること(各精子細胞はY染色体を有する精子細胞又はX染色体を有する精子細胞のいずれかである)、並びにX染色体を有する精子細胞からY染色体を有する精子細胞をソートすることにより、性別が偏った精子細胞(主にY染色体を有する精子細胞である)を含む流体を生成すること、を含み得る。
【0013】
本発明の独特かつ進歩的な技術的特徴の1つは、フロー集束領域におけるチャネル形状の物理的制限である。本発明をいかなる理論又は機構にも限定することを望むものではないが、本発明の技術的特徴は、精子細胞を集束/配向するための第2シース液の使用が不要になるように、マイクロ流体デバイスから第2のシースフロー構造を有利に排除して、ストリーム圧縮のためにシース液を使用する2つの集束領域を有する既存のデバイスと比較して、使用されるシース液の量が少なくてすむと考えられる。これは、設備及び物資の運用コストを削減し、さらにシステムの複雑さを単純化するという付加的利点を提供する。現在知られている先行の参考文献又は研究はいずれも、本発明特有の進歩的な技術的特徴を有していない。
【0014】
本発明の進歩的な技術的特徴は、驚くべきことに、シース液を用いる2つの集束領域を有する従来の装置と比較して、Y染色体に偏った精子細胞の選別では、同等の純度、より良好なパフォーマンス、及び機能性の改善をもたらしたことである。例えば、本発明のマイクロ流体デバイスは、予想外にも精子細胞の配向を改善し、これは適格性が増した、即ち、より多くの細胞が検出、ソート、除去されたと考えられる。さらに、本発明のデバイスは、Y染色体を有する精子細胞とX染色体を有する精子細胞との間の分解能を高めることができ、これにより、Y染色体を有する精子細胞を効果的に識別できた。
【0015】
さらに、先行文献は、本発明の進歩性の妨げにはならない。例えば、本発明に反して、米国特許第7311476号は、少なくとも2つの領域(ここで各領域はシース液を導入して粒子の周りにシース液を集束させる)を有するマイクロ流体チップの開示において、流体ストリームを集束させるためのシース液の使用、並びに第2の(下流)領域が必要な集束を達成するために追加のシース液の導入を必要とすること、を教示している。
【0016】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体チップは複数の層を含み、これらの層の中には、単離しようとする成分の試料流体混合物を投入する試料投入チャネルを含む複数のチャネル、及び2つの集束領域(試料流体中の粒子を集束させる第1集束領域及び試料流体中の粒子を集束させる第2集束領域を含み、これらの集束領域のうちの一方は1つ以上のシール流体チャネルを介したシース液の導入を含み、もう一方の集束領域は追加的なシース液の導入なく幾何学的に圧縮する)が設けられる。幾何学的圧縮とは、垂直軸及び水平軸の両方における(即ち、試料チャネルに沿った移動方向に対して、上下及び左右の両方から)試料チャネルのサイズを狭くすることによる物理的制限を指す。幾つかの態様では、第1の集束領域は、シース液導入部と形状が組み合わされてもよいが、第2の集束領域は、ストリーム集束又は粒子配向のための追加のシース液を利用しない。他の態様では、マイクロ流体チップは、マイクロ流体チップホルダーに取り付けられたマイクロ流体チップカセットに装填することができる。
【0017】
幾つかの実施形態では、試料投入チャネル及び1つ以上のシースチャネルは、マイクロ流体チップの1つ以上の平面に配置される。例えば、シースチャネルは、試料投入チャネルが配置される平面とは異なる平面に配置されてもよい。他の実施形態では、試料投入チャネル及びシースチャネルは、マイクロ流体チップの1つ以上の構造層の中又は構造層同士の間に配置される。一例として、1つ以上のシースチャネルは、試料投入チャネルが配置される構造層とは異なる構造層の中に配置されてもよい。
【0018】
一実施形態では、試料投入チャネルは、シースチャネルとの交差領域への入口点で先細になっていてもよい。別の実施形態では、シースチャネルは、試料投入チャネルとの交差領域への入口点で先細になっていてもよい。幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスは、試料チャネルに流体接続された1つ以上の出力チャネルを含み得る。1つ以上の出力チャネルの各々に、その端部に配置された出力口を設けてもよい。他の実施形態では、マイクロ流体チップは、出力チャネルから出力されたものを単離するためにマイクロ流体チップの底縁部に配置された1つ以上のノッチをさらに含んでもよい。
【0019】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体チップシステムは、フロー集束領域の下流に配置された精査チャンバ内で、試料投入チャネル内の試料流体混合物の成分を精査及び同定する精査装置を含む。一実施形態では、精査装置は、ビームを放射して前記試料流体混合物中の成分を照射及び励起するように構成された放射源を含む。ビームによって誘起された放射光は、対物レンズによって受光される。別の実施形態では、精査装置は、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、又はシリコン光電子増倍管(SiPM)などの検出器を備えることができる。
【0020】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体チップは、前記試料流体混合物中の個々の成分に選択的に作用することによって、前記精査チャンバの下流の前記試料流体混合物中の前記成分をソートするソーティング機構を含む。一実施形態では、ソーティング機構は、レーザ死滅(laser kill)/アブレーションを含み得る。本発明に従って使用され得るソーティング機構の他の例には、粒子偏向/静電操作、液滴分取/偏向、機械ソーティング、流体切替、圧電作動、光学操作(光トラップ、ホログラフィックステアリング、及びフォトニック/放射圧力)、表面弾性波(SAW)偏向、電気泳動/電気破壊、マイクロキャビテーション(レーザ誘起、電気誘起)が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、単離された成分を出力チャネルの1つに移動させ、選択されていない成分は別の出力チャネルを通って流出する。
【0021】
さらなる実施形態では、マイクロ流体チップは、試料流体混合物又はシース液の一方のマイクロ流体チップへの圧送を制御するコンピュータに動作可能に結合されてもよい。別の実施形態では、マイクロ流体チップ内の精査窓の上に配置されたCCDカメラによって取得した視野内の成分をコンピュータが表示することができる。
【0022】
幾つかの実施形態において、単離しようとする細胞は、以下に挙げる細胞のうちの少なくとも1つを含み得る-生存不能な若しくは非運動性の精子から単離される生存可能な運動性精子、性別及び他の性別ソーティングのバリエーションによって単離される精子、集団中の細胞から単離される幹細胞、精子細胞を含む非標識細胞から単離される1つ以上の標識細胞、望ましい若しくは望ましくない形質によって区別される精子細胞を含む細胞、特定の特徴に従って核DNA中で単離される遺伝子、表面マーカーに基づいて単離される細胞、膜完全性若しくは生存性に基づいて単離される細胞、潜在的な若しくは予測される生殖状態に基づいて単離される細胞、凍結生存能(ability to survive freezing)に基づいて単離される細胞、汚染物質若しくはデブリから単離される細胞、損傷細胞から単離される健常細胞、血漿混合物中の白血球及び血小板から単離される赤血球、又はその他の細胞成分から対応する画分に単離される任意の細胞。
【0023】
本明細書に記載の任意の特徴又は特徴の組み合わせは、任意のそのような組み合わせに含まれる特徴が、文脈、本明細書、及び当業者の知識から明らかに相互に矛盾しない限り、本発明の範囲内に含まれる。本発明のさらなる利点及び態様は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲において明らかである。
【0024】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面に関連して提示される以下の詳細な説明の考察から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本発明の一実施形態によるマイクロ流体デバイスの上層の底面図を示す。
【0026】
図1B】マイクロ流体デバイスの下層の上面図を示す。
【0027】
図1C】マイクロ流体デバイスの下層に上層が積層された側面図を示す。
【0028】
図2A図1Aに示す上層における交差領域の拡大図及び側断面図を示す。
【0029】
図2B図1Bに示す下層における交差領域の拡大図及び側断面図を示す。
【0030】
図2C図1Cに示す積層における交差領域の拡大図及び側断面図を示す。
【0031】
図3A図1Aに示す上層のフロー集束領域の拡大図及び側断面図を示す。
【0032】
図3B図1Bに示す下層のフロー集束領域の拡大図及び側断面図を示す。
【0033】
図3C図1Cに示す積層におけるフロー集束領域の拡大図及び側断面図を示す。
【0034】
図4図1Bに示すフロー集束領域の拡大図を示す。
【0035】
図5】下流マイクロチャネル及びフロー集束領域の上面図及び側面図の非限定的な実施形態を示す。この実施形態は、下流マイクロチャネルの狭窄部、並びにフロー集束領域の底面及び側壁による幾何学的な同時圧縮を示す。
【0036】
図6図1Bに示す下層の出力チャネル領域の拡大図及び側断面図を示す。
【0037】
図7】精液試料の性別を偏らせる(gender-skewing)方法のための流れ図の非限定的な例である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
例示的な実施形態を詳細に示す図面を参照する前に、本開示は、説明に記載された又は図面に示された詳細又は方法論に限定されないことを理解されたい。また、用語は単に説明を目的としたものであり、限定的なものと見なされるべきではないことも理解されたい。図面全体を通して、同じ又は同様の部分を指すために同じ又は同様の参照番号を使用することを試みた。
【0039】
以下は、本明細書で参照される特定の要素に対応する要素のリストである。
【0040】
100 マイクロ流体チップ
【0041】
110 試料マイクロチャネル
【0042】
111 試料マイクロチャネルの投入口
【0043】
112 狭小領域
【0044】
113 試料マイクロチャネルの出口
【0045】
114 狭小領域の底面
【0046】
115 狭小領域の側壁
【0047】
120 下流マイクロチャネル
【0048】
122 狭窄部
【0049】
124 下流マイクロチャネルの入口
【0050】
125 狭窄部の側壁
【0051】
130 フロー集束領域
【0052】
132 フロー集束領域の底面
【0053】
135 フロー集束領域の側壁
【0054】
137 フロー集束領域の上流端
【0055】
138 フロー集束領域の下流端
【0056】
140 シース液マイクロチャネル
【0057】
143 シース液マイクロチャネルの出口
【0058】
145 交差領域
【0059】
150 精査領域
【0060】
160 拡張領域
【0061】
162 拡張領域の底面
【0062】
165 拡張領域の側壁
【0063】
170 出力マイクロチャネル
【0064】
一態様では、本開示は、精子及び他の粒子若しくは細胞などの粒子又は細胞物質を様々な成分及び画分に単離することができるマイクロ流体チップの設計及び方法に関する。例えば、本発明の様々な実施形態は、混合物中の成分を単離すること、例えば生存可能な運動性精子を生存不能な又は非運動性の精子から単離すること、性別及び他の性別ソーティングのバリエーションにより精子を単離すること、集団中の細胞から幹細胞を単離すること、望ましい/望ましくない形質を区別する非標識細胞から1つ以上の標識細胞を単離すること、特定の特徴に従って核DNA中の遺伝子を単離すること、表面マーカーに基づいて細胞を単離すること、膜完全性(生存性)、潜在的若しくは予測される生殖状態(受精能)、凍結生存能などに基づいて細胞を単離すること、汚染物質又はデブリから細胞を単離すること、(骨髄抽出におけるように)損傷細胞(即ち癌性細胞)から健常細胞を単離すること、血漿混合物中の白血球及び血小板から赤血球を、並びに任意の細胞をその他の細胞成分から対応する画分へと単離すること、を提供する。
【0065】
他の態様では、本発明の様々な実施形態は、生きている前進運動性の精子細胞が主にY染色体を有する精子細胞である性別精液製品を製造するために精子細胞をソートするのに特に適したシステム及び方法を提供する。幾つかの実施形態では、本発明のシステム及び方法は、Y染色体を有する精子細胞を少なくとも55%を含む性別にソーティングした又は性別が偏った精液製品を製造することができる。他の実施形態では、システム及び方法は、Y染色体を有する精子細胞を約55%~約90%含む性別精液製品を製造することができる。さらに他の実施形態では、システム及び方法は、Y染色体を有する精子細胞を少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも99%含む性別精液製品を製造することができる。
【0066】
以下の説明は、生存不能な若しくは非運動性の精子から生存可能な運動性精子への精子の選別、又は性別及び他の性別ソーティングのバリエーションによる精子の単離、又は望ましい/望ましくない形質を区別する非標識細胞からの1つ以上の標識細胞の単離などに焦点を当てているが、本発明は、流体フローの中で蛍光技術によって精査することができる、又は異なる流体フロー間で異なる出力へと操作することができる、他の種類の粒子状の生体物質又は細胞物質に拡張することができる。
【0067】
マイクロ流体チップの様々な実施形態は、実質的な層流を有する1つ以上のフローチャネルと、流体中の1つ以上の成分を集束及び/又は配向するためのフロー集束領域とを利用して、1つ以上の成分を同定するために精査し、1つ以上の出口へと出ていくフローへと単離することを可能にする。さらに、混合物中の様々な成分は、様々なソーティング技術(例えば粒子偏向/静電操作、液滴分取/偏向、機械ソーティング、流体切替、圧電作動、光学操作(光トラップ、ホログラフィックステアリング、及びフォトニック/放射圧)、レーザ死滅/アブレーション、表面弾性波(SAW)偏向、電気泳動/電気破壊、マイクロキャビテーション(レーザ誘起、電気誘起)、又は磁気(即ち、磁気ビーズを使用する)による方法など)を使用して、オンチップで1つ以上のソーティングプロセスに供することができる。それにより、本発明の様々な実施形態は、特に精子選別で提供されるように、従来技術の方法の潜在的な損傷及び汚染なしに、連続的に成分の集束及び選別を行う。本発明の連続プロセスはまた、流体成分を単離する際にかかる時間を大幅に節約する。
【0068】
マイクロ流体チップの組立て
【0069】
図1A図6を参照すると、本発明は、マイクロ流体チップ(100)を特徴とする。マイクロ流体チップ(100)の非限定的な実施形態は、試料マイクロチャネル(110)と、試料マイクロチャネル(110)と交差して交差領域(145)を形成する2つのシース液マイクロチャネル(140)と、交差領域(145)に流体接続された下流マイクロチャネル(120)であって、幅が狭くなる狭窄部(122)を有する下流マイクロチャネル(120)と、下流マイクロチャネル(120)に流体接続された下流フロー集束領域(130)と、を含む。フロー集束領域(130)は、フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(132)と、フロー集束領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁(135)とを含むことができ、これによりフロー集束領域(130)を幾何学的に狭窄する。
【0070】
本発明を特定の理論又は機構に限定することを望むものではないが、試料マイクロチャネル(110)は、試料流体混合物をフローさせるように構成され、2つのシース液マイクロチャネル(140)はそれぞれ、交差領域(145)へとシース液をフローさせるように構成される。シース液のフローは、層流を引き起こし、試料流体混合物がシース液によって取り囲まれ圧縮されて細いストリームとなるように、試料マイクロチャネル(110)から流れてくる試料流体混合物を少なくとも両側から少なくとも水平に圧縮する。さらなる反復では、マイクロチャネル内の試料ストリームを集束及び/又はその位置を調整するために、追加のシースフローを組み込むことができる。そのようなシースフローは、1つ以上の方向(即ち、上下及び/又は両サイド)から導入されてもよく、同時に又は連続的に導入されてもよい。
【0071】
幾つかの実施形態では、マイクロチャネルの狭窄部(122)は、先が狭まっている側壁(125)を含む。例えば、側壁(125)は、マイクロチャネルの幅が150umから125umに減少するように先細になっていてもよい。
【0072】
幾つかの実施形態では、上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)は、フロー集束領域の上流端(137)から下流端(138)まで同時に生じる。したがって、上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)は、スタート地点が同じである。例えば、上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)はそれぞれ、フロー集束領域(130)を垂直に横断する同じ平面から開始する。
【0073】
他の実施形態では、試料マイクロチャネル(110)は、試料マイクロチャネルの投入口(111)の下流に狭小領域(112)を含む。狭小領域(112)は、狭小領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(114)と、狭小領域の幅を狭くするように先が狭まっている側壁(115)とを備えることができる。上りスロープになっている底面(114)及び先が狭まっている側壁(115)は、狭小領域(112)を幾何学的に狭窄することができる。
【0074】
幾つかの実施形態では、試料マイクロチャネルの出口(113)は、2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口(143)の高さ中央又はその付近に配置されてもよい。下流マイクロチャネルの入口(124)は、2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口(143)の高さ中央又はその付近に配置されてもよい。試料マイクロチャネルの出口(113)と下流マイクロチャネルの入口(124)は位置合わせされてもよい。他の実施形態では、試料マイクロチャネルの出口(113)は交差領域の高さ中央又はその付近に配置されてもよく、下流マイクロチャネルの入口(124)は交差領域の高さ中央又はその付近に配置されてもよい。
【0075】
本発明を特定の理論又は機構に限定することを望むものではないが、交差領域(145)及び下流フロー集束領域(130)は、試料流体混合物中の物質を集束させるように構成される。例えば、試料流体混合物の圧縮により、物質が下流マイクロチャネルの中心又は中心付近に集束されるように、試料流体混合物内の物質を集中させる。
【0076】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体チップ(100)は、拡張領域(160)の下流にあってこれに流体接続された複数の出力マイクロチャネル(170)をさらに備えてもよい。出力マイクロチャネル(170)は、粒子又は細胞物質などの成分を有し得る流体を出力するように構成される。各出力チャネルの端部に出口が配置されてもよい。他の実施形態では、マイクロ流体チップは、出力されたもの選別し、外部チューブなどのためのアタッチメントを提供するために、マイクロ流体チップの底縁部に配置された1つ以上のノッチをさらに含み得る。チップの非限定的な実施形態は、2つのサイド出力チャネルと、前記サイドチャネルの間に配置された中央出力チャネルとを含む3つの出力チャネルを含み得る。
【0077】
幾つかの実施形態では、マイクロチャネル及びマイクロ流体チップの様々な領域は、本発明の目的を満たす所望の流量を達成するように寸法を決定することができる。一実施形態では、マイクロチャネルは実質的に同じ寸法を有することができるが、当業者は、所望の流量が達成される限り、マイクロ流体チップ内のチャネルのいずれか又はすべてのサイズは寸法が変化(即ち、50~500ミクロン)し得ることが分かるであろう。
【0078】
幾つかの他の実施形態では、マイクロ流体チップ(100)は、フロー集束領域(130)の下流に精査領域(150)をさらに備えてもよい。さらに他の実施形態では、マイクロ流体チップ(100)は、精査領域(150)の下流に拡張領域(160)を含むことができる。拡張領域(160)は、拡張領域の高さを増大させる下りスロープになっている底面(162)と、拡張領域の幅を増大させるように広がる側壁(165)を有する拡張部分と、を含み得る。
【0079】
一実施形態では、精査装置は、マイクロ流体チップに切り込まれた開口部又は窓を有するチャンバを含む。開口部又は窓は、精査チャンバを封じるためのカバーを受け入れることができる。カバーは、プラスチック、ガラスなどの所望の透過率要件を有する任意の材料で作ってもよいし、又はレンズであってもよい。一実施形態では、窓及びカバーにより、精査チャンバを通って流れる流体混合物の成分を見たり、成分の励起と一致する任意の波長を有する高強度ビームを放射するように構成された適切な放射源によってこれらの成分に作用したりすることが可能となる。
【0080】
レーザが使用されてもよいが、成分を励起するビームを発するために、発光ダイオード(LED)、アークランプなどの他の適切な放射源が使用されてもよいことが分かる。別の実施形態では、マイクロ流体チップの開口部に埋め込まれた光ファイバによって成分に光ビームを届けることができる。
【0081】
幾つかの実施形態では、流体混合物(即ち精子細胞)中の成分を励起するために、予め選択された波長の適切なレーザ(355nm連続波の(CW)(又は準CW)レーザなど)からの高強度レーザビームが必要とされる。レーザは、チップの精査領域を通って流れる成分を照明するように、窓を通ってレーザビームを放射する。レーザビームは、マイクロチャネルに沿って幅方向に強度を変えることができ、最大強度は一般にマイクロチャネルの中心(例えば、チャネル幅の中央部分)にあり、そこから減少するので、フロー集束領域は、流体ストリームの中心又は中心付近(ここで、照明レーザスポットの中心又は中心付近で、最適な照明が起こる)に精子細胞を集束させることが不可欠である。特定の信念に縛られることを望むものではないが、これにより、精査及び同定プロセスの精度を向上させることができる。
【0082】
幾つかの実施形態では、高強度ビームは、ビームによって誘起される放射光が対物レンズによって受光されるように成分と相互作用する。対物レンズは、マイクロ流体チップに対して任意の適切な位置に配置することができる。一実施形態では、対物レンズが受光した放射光は、光電子増倍管(PMT)又はフォトダイオードなどの光センサによって電子信号に変換される。電子信号は、アナログ-デジタル変換回路(ADC)によってデジタル化され、デジタル信号プロセッサ(DSP)ベースのコントローラに送信され得る。DSPベースのコントローラは、電子信号を監視し、次いでソーティング機構を始動することができる。
【0083】
他の実施形態では、精査装置は、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、又はシリコン光電子増倍管(SiPM)などの検出器を備えることができる。例えば、精査装置の光学センサはAPD(アバランシェ処理による実質的な内部信号増幅を有するフォトダイオードである)であってもよい。
【0084】
幾つかの実施形態では、圧電アクチュエータアセンブリを使用して、流体混合物中の所望の成分を、それらの成分が精査し終わって精査領域を離れるときにソートすることができる。選択された成分が検出されると、圧電アクチュエータに送られるトリガ信号はセンサRAW信号によって決定され、特定の圧電アクチュエータアセンブリを作動させる。幾つかの実施形態では、ステンレス鋼、真鍮、チタン、ニッケル合金、ポリマー、又は所望の弾性応答を有する他の適切な材料のうちの1つなどの適切な材料から作製された可撓性隔壁をアクチュエータと連動させて使用し、マイクロチャネル内の標的成分を出力チャネル(170)に押し込み、標的成分を流体混合物から単離する。アクチュエータは、圧電式、磁気式、静電式、油圧式、又は空気圧式のアクチュエータであってもよい。
【0085】
代替的な実施形態では、交差領域(145)に向かってマイクロチャネル(110)内に試料流体を圧送するために、圧電アクチュエータアセンブリ又は適切な圧送システムを使用することができる。試料圧電アクチュエータアセンブリは、試料投入口(111)に配置されてもよい。試料流体混合物を主要マイクロチャネル内に圧送することによって、成分がマイクロチャネル(110)に入るときに成分と成分の間により制御された関係ができるように、その中の成分のスペーシングをある程度制御することができる。
【0086】
本発明に従って使用することができるソーティング若しくは選別機構の他の実施形態は、液滴分取、機械選別、流体切替、アコースティックフォーカシング、ホログラフィックトラップ/ステアリング、及びフォトニック圧/ステアリングを含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、精子細胞の性別ソーティングのためのソーティング機構は、選択されたX染色体を有する精子細胞のレーザ死滅/アブレーションを含む。
【0087】
レーザアブレーションでは、精査中にX染色体を有する精子細胞が検出されると、レーザが起動する。レーザは、流体ストリーム内の中央にあるX染色体を有する精子細胞に向けられた高強度ビームを放出する。高強度ビームは、細胞にDNA及び/又は膜の損傷を引き起こし、それによって不妊症(infertility)を引き起こすか、又はX染色体を有する精子細胞を死滅させるように構成される。結果として、最終生成物は、主に生存可能なY染色体を有する精子細胞から構成される。好ましい実施形態では、フロー集束領域の断面積の減少は、精子細胞を運ぶ流体を幾何学的に圧縮する。流体の幾何学的圧縮は、精子細胞がマイクロチャネルの中心又は中心付近に集束するように、流体内の精子細胞を集中させる。レーザビームは、マイクロチャネルに沿って幅方向に強度が変化し、一般にマイクロチャネルの中心で最も強度が高く、そこから減少するので、選択された精子細胞に最大の損傷を与えるために、レーザビームの強度が最も高い流体ストリームの中心又は中心付近に、フロー集束領域が精子細胞を集束させることが不可欠である。
【0088】
チップ動作
【0089】
1つの実施形態において、先に述べたように、単離しようとする成分には、例えば、生存可能な運動性精子を生存不能な若しくは非運動性の精子から単離すること、性別及び他の性別ソーティングのバリエーションにより精子を単離すること、集団中の細胞から幹細胞を単離すること、望ましい/望ましくない形質を区別する非標識細胞から1つ以上の標識細胞を単離すること、異なる望ましい特性を有する精子細胞、特定の特徴に従って核DNA中の遺伝子を単離すること、表面マーカーに基づいて細胞を単離すること、膜完全性(生存性)、潜在的若しくは予測される生殖状態(受精能)、凍結生存能などに基づいて細胞を単離すること、汚染物質又はデブリから細胞を単離すること、(骨髄抽出におけるように)損傷細胞(即ち、癌性細胞)から健常細胞を単離すること、血漿混合物中の白血球及び血小板からの赤血球、並びに任意の細胞をその他の細胞成分から対応する画分に単離すること、或いは損傷細胞、又は汚染物質若しくはデブリ若しくは単離したい任意の他の生体物質、が含まれる。成分は、リンカー分子で処理若しくはコーティングされた、或いは蛍光若しくは発光標識分子が埋め込まれた細胞又はビーズであってもよい。成分は、サイズ、形状、材質、テクスチャなどの様々な物理的又は化学的属性を有することができる。
【0090】
一実施形態では、成分の不均一な集団を、異なる量の各成分について又は同様の量のレジーム(例えば、多重化測定)で検査して同時に測定してもよいし、或いは、標識(例えば蛍光)、画像(サイズ、形状、異なる吸収、散乱、蛍光、発光特性、蛍光又は発光プロファイル、蛍光又は発光減衰寿命による)、及び/又は粒子位置などに基づいて成分を検査し、区別してもよい。
【0091】
一実施形態では、精査チャンバ内で精査するために成分を配置するために、集束方法を使用することができる。本発明の第一の狭窄工程は、精子細胞などの成分を含有する流体試料を試料投入(111)を介して投入し、シース液又は緩衝液をシース若しくは緩衝液マイクロチャネル(140)を介して投入することによって行われる。幾つかの実施形態では、蛍光発光させて画像化を検出するために、成分を色素(例えば、ヘキスト色素)で予め染色する。最初、試料流体混合物中の成分は、マイクロチャネル(110)を通って流れ、配向も位置もばらばらである。交差領域(145)では、マイクロチャネル(110)に流入する試料混合物は、フローのすべての側ではないにしても少なくとも両側で少なくとも水平に、シース若しくは緩衝液マイクロチャネル(140)から流れてくるシース液又は緩衝液によって圧縮される。その結果、成分が集束され圧縮されて細いストリームとなり、成分(例えば、精子細胞)がチャネル幅の中心に向かって移動する。この工程は、シース液がチップ内の一か所でのみ導入されるので、使用されるシース液が少ないという点で有利である。
【0092】
別の実施形態では、本発明は、成分を含有する試料混合物が下流マイクロチャネルの狭窄領域(122)によって少なくとも水平にさらに圧縮される第二狭窄工程を含む。この工程は、シース液をもう一度交差させる代わりに物理的又は幾何学的圧縮を利用する。このように、本発明の第2狭窄工程で、試料ストリームはチャネルの中心に集束し、成分はチャネルの中心に沿って流れる。好ましい実施形態では、成分は、ほぼ一列になって流れている。特定の理論又は機構に縛られることを望まないが、物理的/幾何学的圧縮は、シース液の第2の交差が省かれるため、シース液の量が少なくてすむ、という利点を有する。
【0093】
好ましい実施形態では、本発明は、シース液をもう一度交差させる代わりに、物理的又は幾何学的圧縮を利用して、成分を含有する試料混合物がフロー集束領域(130)でさらに圧縮される集束工程を含む。試料混合物はまた、上向きにスロープした底面によって集束領域(130)の上面の近くに配置される。したがって、本発明の集束工程では、試料ストリームはチャネルの中心に集束され、成分はチャネルの中心に沿ってほぼ一列になって流れる。特定の理論又は機構に縛られることを望まないが、物理的/幾何学的圧縮は、シース液の第2の交差が省かれるため、シース液の量が少なくてすむ、という利点を有する。
【0094】
したがって、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスは、上述の集束方法で使用することができる。一実施形態では、本発明は、流体フロー中の粒子を集束させる方法を提供する。本方法は、本明細書に記載のマイクロ流体デバイスのいずれか1つを提供すること、粒子を含む流体混合物を試料マイクロチャネル(110)内及び交差領域(145)内に流すこと、シース液が層流を引き起こし、流体混合物を少なくとも両側から少なくとも水平方向に圧縮するように、シース液を2つのシース液マイクロチャネル(140)を通して交差領域(145)内に流し、流体混合物がシース液によって取り囲まれ、圧縮されて細いストリームとなり、粒子がシース液によって取り囲まれた細いストリームへと狭窄されるようにすること、流体混合物及びシース液を下流マイクロチャネル(120)内に流し、そこで下流マイクロチャネル(120)の狭窄部(122)が流体混合物の細いストリームを水平方向に圧縮すること、並びに流体混合物及びシース液を集束領域(130)内に流し、そこで集束領域の上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)が、流体混合物ストリームをさらに狭窄し、ストリーム内の粒子を再配向させることにより粒子を集束させること、を含む。
【0095】
シース液の導入及び/又は狭窄領域及び集束領域における物理的構造により流体混合物を圧縮することによって、流体混合物の粒子を狭窄してシース液により境界付けられた比較的小さくて狭いストリームにする。例えば、2つのシース液チャネル(130)によって試料マイクロチャネル(110)に導入されたシース液は、層流を維持しながら、流体混合物ストリームを両側から圧縮して比較的小さくて狭いストリームにすることができる。集束領域内の流体混合物及びシース液のフローは、流体混合物のストリームをさらに狭窄し、ストリーム内の粒子を再配向するが、これは、集束領域の上昇する底面(132)及び側壁(135)の先細部分などの物理的構造によって引き起こされ、こうして粒子を集束させる。
【0096】
幾つかの実施形態では、試料の成分は精子細胞であり、それらの頭部形状がパンケーキ型又は平坦な涙型であるため、精子細胞は、それらが集束工程を通るときに所定の方向に、即ち、それらの平坦な表面が光ビームの方向に対し垂直になるように再配向することができる。このようにして、精子細胞は、2段階の集束プロセスを通過する間に、それらの体の向きが選択される。具体的には、精子細胞は、それらの平らな体が圧迫の方向に対して垂直であると、より安定する傾向にある。シース液又は緩衝液を制御することによって、ばらばらな向きで始まる精子細胞を、一定の向きに揃えることができる。精子細胞は、チャネルの中央で一列になるだけでなく、一定の向きに揃えられる。このように、試料入力に導入された成分(前述のように他の種類の細胞又は他の物質であってもよい)は集束工程を経て、そこで成分が一列となり、(成分の種類に応じて)より均一な向きで移動することが可能になり、成分のより容易な精査が可能になる。
【0097】
前述の実施形態と併せて、本発明はまた、性別が偏った精子細胞を含む流体を生成する方法を提供する。図6を参照すると、この方法は、本明細書に記載のマイクロ流体デバイスのいずれか1つを提供すること、精子細胞を含む精液を試料マイクロチャネル(110)内及び交差領域(145)内に流すこと、シース液が層流を引き起こし、少なくとも両側から少なくとも水平方向に精液を圧縮するように、シース液を2つのシース液マイクロチャネル(140)を通って交差領域(145)内に流し、そこで精液がシース液によって取り囲まれ、圧縮されて細いストリームとなるようにすること、精液及びシース液を下流マイクロチャネル(120)内に流し、そこで下流マイクロチャネル(120)の狭窄部(122)が精液の細いストリームを水平方向に圧縮すること、精液及びシース液を集束領域(130)内に流し、そこで上りスロープになっている(132)及び先が狭まっている側壁(135)が、精液ストリームをさらに狭窄して精子細胞を精液ストリームの中心又は中心付近に集束させること、精液ストリーム中の精子細胞の染色体タイプを決定すること(ここで各精子細胞は、Y染色体を有する精子細胞又はX染色体を有する精子細胞のいずれかである)、並びにX染色体を有する精子細胞からY染色体を有する精子細胞をソートすることにより、主にY染色体を有する精子細胞である性別が偏った精子細胞を含む流体を生成すること、を含む。
【0098】
幾つかの実施形態では、精子細胞の染色体タイプは、本明細書に記載の精査装置のいずれかを使用して決定され得る。一実施形態では、マイクロ流体チップ(100)は、フロー集束領域(130)の下流に精査領域(150)をさらに備えてもよい。精査装置を精査領域(150)に連結して、精子細胞の染色体タイプを決定し、染色体タイプに基づいて前記精子細胞をソートするために使用することができる。精査装置は、精子細胞を照射及び励起する放射線源を含んでもよく、精子細胞の応答は精子細胞の染色体タイプを示す。精子細胞の応答は、光学センサによって検出され得る。他の実施形態では、精査装置は、レーザ源をさらに備えてもよい。Y染色体を有する精子細胞は、レーザアブレーションによってX染色体を有する精子細胞からソートされ、レーザアブレーションは、X染色体を有すると判定された細胞を損傷又は死滅させる高強度レーザ源に細胞を曝露する。1つの実施形態において、性別が偏った精子細胞は、少なくとも55%のY染色体を有する精子細胞から構成される。別の実施形態では、性別が偏った精子細胞は、約55%~99%のY染色体を有する精子細胞で構成される。さらに別の実施形態では、性別が偏った精子細胞は、少なくとも99%のY染色体を有する精子細胞で構成される。
【0099】
一実施形態では、成分は、放射線源を使用して精査チャンバ内で検出される。放射源は、チャネルの幅方向の中心に集束される光ビーム(光ファイバを介してもよい)を放射する。一実施形態では、精子細胞などの成分は、成分の平坦面がビームに面するように集束領域によって配向される。さらに、すべての成分は、好ましくは、それらが放射線源の下を通過するときに集束することによって一列に揃えられる。成分が放射線源の下を通過し、光ビームによって働きかけられると、成分は、所望の成分を示す蛍光を発光する。例えば、精子細胞に関して、X染色体細胞は、Y染色体細胞とは異なる強度の蛍光を発する。或いは、1つの形質を持つ細胞は、異なるセットの形質を持つ細胞とは異なる強度又は波長の蛍光を発し得る。さらに、形状、サイズ、又は任意の他の識別インジケータについて成分を調査することができる。
【0100】
一実施形態では、成分(即ち生体物質)を含有する試料の精査は、他の方法によって行われる。全体として、精査方法は、カメラなどを用いた直接的な視覚撮像を含むことができ、直接明光撮像又は蛍光撮像を利用してもよいし、或いは分光法、透過分光法、スペクトルイメージング、又は動的光散乱若しくは拡散波分光法などの散乱法などのより高度な技術を使用してもよい。場合によっては、光学的精査領域は、試料混合物の成分に結合するか又は影響を及ぼす化学物質や、特定の物質又は疾患の存在下で結合する及び/又は蛍光を発するように官能化されたビーズなどの添加剤と共に使用され得る。これらの技術は、細胞濃度を測定するため、疾患を検出するため、又は成分を特徴付ける他のパラメータを検出するために使用され得る。
【0101】
しかしながら、別の実施形態では、蛍光を使用しない場合、偏光後方散乱法を使用してもよい。分光学的方法を使用して、成分を精査し、陽性結果が出て蛍光を発したこれらの成分(即ち、標識と反応した成分)のスペクトルを同定し選別する。幾つかの態様では、成分は、成分と添加剤若しくはシース液若しくは緩衝液との反応又は結合に基づいて、或いは成分の天然蛍光若しくは成分と会合した物質の蛍光を識別タグ又はバックグラウンドタグとして使用することによって同定されてもよいし、或いは選択されたサイズ、寸法、又は表面特徴などを満たしたものが選択され選別される。一実施形態では、アッセイの完了時に、コンピュータ及び/又はオペレータを介して、その成分を破棄してどの成分を回収するべきかを選択することができる。
【0102】
ビーム誘起蛍光の実施形態について引き続き説明すると、放射光ビームは次に対物レンズにより集められ、続いて光学センサによって電子信号に変換される。次に、電子信号は、アナログ-デジタル変換回路(ADC)によってデジタル化され、信号処理のために電子コントローラに送信される。電子コントローラは、DSP、マイクロコントローラユニット(MCU)、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)、又は中央処理装置(CPU)などの適切な処理能力を有する任意の電子プロセッサとすることができる。一実施形態では、DSPベースのコントローラは、電子信号を監視し、次いで所望の成分が検出されたときにソート機構を始動することができる。別の実施形態では、FPGAベースのコントローラは、電子信号を監視し、次いで、DSPコントローラと通信するか、又は所望の成分が検出されたときにソート機構を始動するように独立して動作する。幾つかの他の実施形態では、光学センサは、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、又はシリコン光電子増倍管(SiPM)であってもよい。好ましい実施形態では、光学センサは、精査に対する精子細胞の応答を検出するAPDであってもよい。
【0103】
選別機構の一実施形態では、精査チャンバ内の選択された又は所望の成分は、圧電アクチュエータを使用して所望の出力チャネルの中へと単離される。例示的な実施形態では、電子信号は、標的の又は選択された成分が噴射チャネル及びマイクロチャネルの断面点に到達した瞬間にアクチュエータを始動するようにドライバを作動させる。これにより、アクチュエータを隔膜に接触させてこれを押し、ジェットチャンバを圧縮し、緩衝液又はシース液の強力なジェットをマイクロチャネルの中へと圧搾し、選択された又は所望の成分を所望の出力チャネル内に押し込む。
【0104】
幾つかの実施形態では、単離された成分は、貯蔵、さらなる選別、又は凍結保存などの処理のために、それぞれの出力チャネル(170)から回収される。幾つかの実施形態では、出力された成分を電子的に特徴付けて、成分の濃度、pH測定、細胞数、電解質濃度などを検出することができる。
【0105】
チップカセット及びホルダー
幾つかの実施形態では、マイクロ流体チップは、チップホルダーに取り付けられたチップカセットに装填されてもよい。チップホルダーは、ホルダーの精密な位置決めを可能にするために並進ステージに取り付けられる。例えば、マイクロ流体チップホルダーは、精査光ビームが流体成分をインターセプトするように、マイクロ流体チップを所定の位置に保持するように構成される。一実施形態では、マイクロ流体チップホルダーは、アルミニウム合金などの適切な材料、又は他の適切な金属/ポリマー材料で作られる。ホルダーの本体は、任意の適切な形状であってもよいが、その構成はチップのレイアウトに依存する。さらなる実施形態では、ホルダーの本体は、流体/試料をマイクロ流体チップに連絡するための外部チューブを受け取りこれと噛み合うように構成される。マイクロ流体チップとマイクロ流体チップホルダーとの間の緊密な封止を維持するために、任意の所望の形状のガスケット又はOリングを設けることができる。ガスケットは、所望に応じて、任意の構成の単一のシート又は複数の構成要素、又は材料(即ち、ゴム、シリコーンなどである)であってもよい。一実施形態では、ガスケットは、マイクロ流体チップの層と接続するか、又は(エポキシを使用して)接合される。ガスケットは、マイクロ流体チップホルダー内にマイクロ流体チップを封止し、また安定させたりバランスをとったりするのをアシストするように構成される。カセット及びホルダー、並びにカセット及びホルダーにチップを取り付けるための機構の詳細は、当業者であれば、これらのデバイスが周知であり、本発明の目的が満たされる限り、マイクロ流体チップを収容するためのいかなる構成であってもよいことが分かるであろうから、詳細には説明しない。
【0106】
幾つかの実施形態では、圧送機構は、リザーバ(即ち、試料チューブ)からチップの試料投入口に試料流体混合物を圧送するための圧力を提供する加圧ガスを有するシステムを含む。他の実施形態では、シース液又は緩衝液を内部に有する折り畳み可能な容器が加圧容器内に配置され、加圧ガスは、流体がチューブを介してチップのシース液又は緩衝液投入口に送られるように流体を押す。
【0107】
一実施形態では、圧力調整器がリザーバ内のガスの圧力を調整し、別の圧力調整器が容器内のガスの圧力を調整する。質量流量調整器は、配管を介してそれぞれシース又は緩衝液投入口に圧送される流体を制御する。このように、配管は、チップへの流体の初期装填に使用され、試料流体を試料投入口に装填するためにチップ全体で使用されてもよい。
【0108】
本発明によれば、動作、ステップ、制御オプションなどのいずれも、メモリやデータベースなどのコンピュータ読取可能媒体に記憶された命令によって実施することができる。コンピュータ読取可能媒体に記憶された命令が、例えばコンピューティングデバイス又はプロセッサによって実行されると、命令は、コンピューティングデバイス又はプロセッサに、本明細書に記載の動作、ステップ、制御オプションなどのいずれかを実行させることができる。幾つかの実施形態では、本明細書で説明される動作は、1つ以上のコンピュータ読取可能記憶デバイスに記憶されたデータ、又は他のソースから受信したデータに対してデータ処理装置又は処理回路によって実行される動作として実行されてもよい。コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、又はコードとしても知られている)は、コンパイル言語又はインタプリタ言語、宣言型言語又は手続き型言語を含む任意の形式のプログラミング言語で記述することができ、スタンド・アロン・プログラムとして、又はモジュール、コンポーネント、サブルーチン、オブジェクト、若しくはコンピュータ環境での使用に適した他のユニットとして、を含む任意の形式で展開することができる。プログラムは、他のプログラム又はデータを保持するファイルの一部、問題のプログラム専用の単一のファイル、又は複数の調整されたファイルに格納することができる。プログラムは、1つのコンピュータ上で、又は通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。コンピュータプログラムの実行に適した処理回路は、例として、汎用マイクロプロセッサ及び専用マイクロプロセッサの両方、並びに任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つ以上のプロセッサが挙げられる。
【0109】
一実施形態では、コンピュータシステムのユーザインターフェースは、マイクロ流体チップ上のCCDカメラによって取得された視野内の成分を表示するコンピュータ画面を含む。別の実施形態では、コンピュータは、ポンプなどの任意の外部装置を使用する場合はこれを制御して、任意の試料流体、シース液又は緩衝液をマイクロ流体チップに圧送し、また、マイクロ流体チップに投入される流体の温度を設定する任意の加熱装置も制御する。
【0110】
様々な要素の適応は、他の例示的な実施形態に応じて異なってもよく、そのようなバリエーションは本開示に包含されることが意図されていることに留意されたい。マイクロ流体チップの構成及び配置は、様々な例示的な実施形態に示されているように、単なる例示である。本開示では少数の実施形態のみを詳細に説明したが、本明細書に記載の主題の新規な教示及び利点から実質的に逸脱することなく、多くの修正が可能である(例えば、様々な要素のサイズ、寸法、構造、形状及び割合の変動、パラメータの値、取り付け構成、材料の使用、色、向きなど)。一体型に形成されたものとして示されている幾つかの要素は、複数の部品又は要素から構成されてもよく、要素の位置は、逆であってもよく、又は他のように変更されてもよく、個別の要素の性質や数又は位置は、変更又は変化してもよい。任意のプロセス、論理アルゴリズム、又は方法ステップの順序又はシーケンスは、選択肢の実施形態に応じて変更したり再シーケンスしたりすることができる。本開示の範囲から逸脱することなく、様々な例示的な実施形態の設計、動作条件、及び配置において、他の置き換え、修正、変更、及び省略を行うこともできる。
【0111】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、言及された数字の±10%を指す。
【0112】
本発明の好ましい実施形態を示し説明したが、添付の特許請求の範囲を超えない修正を行うことができることは当業者には容易に明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。以下の特許請求の範囲に記載されている参照番号は例示的なものであり、単に本特許出願の審査を容易にするためのものであり、特許請求の範囲を図面中の対応する参照番号を有する特定の特徴に限定することを決して意図するものではない。幾つかの実施形態では、この特許出願に提示された図は、角度、寸法の比などを含み、縮尺に合わせて描かれている。幾つかの実施形態では、図は代表的なものにすぎず、特許請求の範囲は図の寸法によって限定されない。幾つかの実施形態では、「含む(comprising)」という語句を使用して本明細書に記載される発明の説明は、「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」と記載され得る実施形態を含み、したがって、「から本質的になる」又は「からなる」という語句を使用して本発明の1つ以上の実施形態を特許請求するための書面による説明要件が満たされる。
本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のように要約される。
[1].
a.幅が狭くなる狭窄部(122)を有するマイクロチャネル(120)、及び
b.マイクロチャネル(120)の下流にあって、フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(132)と、フロー集束領域の幅を狭くするように先が狭まっている側壁(135)とを備え、それによってフロー集束領域(130)を幾何学的に狭窄するフロー集束領域(130)、
を含む、マイクロ流体チップ(100)。
[2].
前記マイクロチャネルの狭窄部(122)が、先が狭まっている側壁(125)を含む、上記項目1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[3].
前記上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)が、前記フロー集束領域の上流端(137)から下流端(138)まで同時に生じる、上記項目1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[4].
前記上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)が、前記フロー集束領域(130)を垂直に横断する平面から始まる、上記項目1に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[5].
マイクロ流体チップ(100)であって、
a.試料マイクロチャネル(110)、
b.前記試料マイクロチャネル(110)と交差して交差領域(145)を形成する2つのシース液マイクロチャネル(140)、
c.前記交差領域(145)に流体接続されており、幅が狭くなる狭窄部(122)を有する下流マイクロチャネル(120)、及び
d.下流マイクロチャネル(120)に流体接続された下流フロー集束領域(130)であって、前記フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(132)と、フロー集束領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁(135)と、を備えることにより前記フロー集束領域(130)を幾何学的に狭窄する、下流フロー集束領域(130)、
を含み、
前記試料マイクロチャネル(110)は試料流体混合物を流すように構成されており、前記2つのシース液マイクロチャネル(140)はそれぞれ、シース液を前記交差領域(145)に流して層流を生じさせ、前記試料流体混合物がシース液によって取り囲まれ圧縮されて細いストリームとなるように、前記試料マイクロチャネル(110)から流れてくる前記試料流体混合物を少なくとも両側から少なくとも水平に圧縮するように構成されている、マイクロ流体チップ(100)。
[6].
前記試料マイクロチャネル(110)が、前記試料マイクロチャネルの投入口(111)の下流に狭小領域(112)を含み、狭小領域(112)は、
a.狭小領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(114)、及び
b.前記狭小領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁(115)、
を含み、上りスロープになっている底面(114)及び先が狭まっている側壁(115)は前記狭小領域(112)を幾何学的に狭窄する、上記項目5に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[7].
前記試料マイクロチャネルの出口(113)が、前記2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口(143)の高さ中央又はその付近に配置され、前記下流マイクロチャネルの入口(124)が、前記2つのシース液マイクロチャネルの各々の出口(143)の高さ中央又はその付近に配置される、上記項目5に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[8].
前記試料マイクロチャネルの前記出口(113)と前記下流マイクロチャネルの前記入口(124)とが位置合わせされている、上記項目7に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[9].
前記試料マイクロチャネルの出口(113)が、前記交差領域の高さ中央又はその付近に配置される、上記項目5に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[10].
前記下流マイクロチャネルの入口(124)が、前記交差領域の高さ中央又はその付近に配置される、上記項目5に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[11].
前記交差領域(145)及び前記下流フロー集束領域(130)が、試料流体混合物中の物質を集束させるように構成される、上記項目5に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[12].
前記試料流体混合物を圧縮することにより、物質が前記下流マイクロチャネルの中心又は中心付近に集束されるように前記試料流体混合物内の物質を集中させる、上記項目5に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[13].
前記フロー集束領域(130)の下流に精査領域(150)をさらに含む、上記項目5に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[14].
前記精査領域(150)の下流に拡張領域(160)をさらに備え、
a.前記拡張領域の高さを増大させる下りスロープになっている底面(162)、及び
b.前記拡張領域の幅を増大させるように広がる側壁(165)を有する拡張部、
を含む、上記項目13に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[15].
前記拡張領域(160)の下流にあってこれに流体接続された複数の出力マイクロチャネル(170)をさらに備える、上記項目14に記載のマイクロ流体チップ(100)。
[16].
流体フロー中の粒子を集束させる方法であって、
a)以下のi~iv
i.試料マイクロチャネル(110)、
ii.前記試料マイクロチャネル(110)と交差して交差領域(145)を形成する2つのシース液マイクロチャネル(140)、
iii.前記交差領域(135)に流体接続された下流マイクロチャネル(120)であって、幅が狭くなる狭窄部(122)を有する下流マイクロチャネル(120)、並びに
iv.前記下流マイクロチャネル(120)に流体接続された下流フロー集束領域(130)であって、前記フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(132)及び前記フロー集束領域の幅を減少させるために先が狭まっている側壁(135)を備えることによって前記フロー集束領域(130)を幾何学的に狭窄する、下流フロー集束領域(130)、
を含むマイクロ流体チップ(100)を提供する工程と、
b)前記粒子を含む流体混合物を試料マイクロチャネル(110)内及び交差領域(145)内に流す工程と、
c)シース液が層流を引き起こして流体混合物を少なくとも両側から少なくとも水平方向に圧縮するように、前記2つのシース液マイクロチャネル(140)を通って前記交差領域(145)へと前記シース液を流す工程であって、前記流体混合物はシース液に取り囲まれ、圧縮されて細いストリームとなり、前記粒子は狭窄されて、前記シース液に取り囲まれた前記細いストリームとなる工程と、
d)前記流体混合物及びシース液を前記下流マイクロチャネル(120)に流し、前記下流マイクロチャネル(120)の狭窄部(122)が前記流体混合物の細いストリームを水平方向に圧縮する工程と、
e)前記流体混合物及びシース液を前記集束領域(130)へと流し、前記上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)が、前記流体混合物のストリームをさらに狭窄して前記ストリーム内の前記粒子を再配向させることによって前記粒子を集束させる工程と、
を含む、流体フロー中の粒子を集束させる方法。
[17].
性別が偏った精子細胞を有する流体を生成する方法であって、
a)以下のi~iv、
i.試料マイクロチャネル(110)、
ii.前記試料マイクロチャネル(110)と交差して交差領域(145)を形成する2つのシース液マイクロチャネル(140)、
iii.前記交差領域(135)に流体接続された下流マイクロチャネル(120)であって、幅が狭くなる狭窄部(122)を有する下流マイクロチャネル(120)、並びに
iv.前記下流マイクロチャネル(120)に流体接続された下流フロー集束領域(130)であって、前記フロー集束領域の高さを減少させる上りスロープになっている底面(132)及びフロー集束領域の幅を狭くするために先が狭まっている側壁(135)を備えることによって前記フロー集束領域(130)を幾何学的に狭窄する下流フロー集束領域(130)、
を含むマイクロ流体チップ(100)を提供する工程と、
b)精子細胞を含む精液を前記試料マイクロチャネル(110)内及び前記交差領域(145)内に流す工程と、
c)シース液が層流を引き起こして少なくとも両側から少なくとも水平に前記精液を圧縮するように、前記2つのシース液マイクロチャネル(140)を通って前記交差領域(145)へとシース液を流す工程であって、前記精液はシース液によって取り囲まれ、圧縮されて細いストリームとなる工程と、
d)前記精液及びシース液を前記下流マイクロチャネル(120)へと流し、前記下流マイクロチャネル(120)の前記狭窄部(122)が前記精液の細いストリームを水平方向に圧縮する工程と、
e)前記精液及びシース液を前記集束領域(130)内へと流して、前記上りスロープになっている底面(132)及び先が狭まっている側壁(135)が精液ストリームをさらに狭窄して、前記精液ストリームの中心又は中心付近に前記精子細胞を集束させる工程と、
f)前記精液ストリーム中の前記精子細胞の染色体型を判定する工程であって、ここで各精子細胞はY染色体を有する精子細胞か又はX染色体を有する精子細胞のいずれかである工程と、
g)Y染色体を有する精子細胞をX染色体を有する精子細胞からソートすることにより、主にY染色体を有する精子細胞である性別が偏った精子細胞を含む前記流体を生成する工程と、
を含む方法。
[18].
前記マイクロ流体チップ(100)が、前記フロー集束領域(130)の下流に精査領域(150)をさらに含み、前記精査領域(150)に連結された精査装置を使用して、前記精子細胞の染色体型を決定し、染色体型に基づいて前記精子細胞をソートする、上記項目17に記載の方法。
[19].
前記精査装置が、前記精子細胞を照射及び励起する放射線源を含み、前記精子細胞の応答が前記精子細胞の染色体型を示し、前記精子細胞の前記応答が光学センサによって検出される、上記項目18に記載の方法。
[20].
前記精査装置がレーザ源をさらに含み、Y染色体を有する精子細胞がレーザアブレーションによってX染色体を有する精子細胞からソートされ、前記前記X染色体を有する精子細胞が、細胞を損傷又は死滅させる前記レーザ源に曝露される、上記項目19に記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7