(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】レーザ光導入装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/268 20060101AFI20241121BHJP
B23K 26/142 20140101ALI20241121BHJP
【FI】
H01L21/268 G
B23K26/142
(21)【出願番号】P 2022579410
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2022000788
(87)【国際公開番号】W WO2022168551
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2024-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2021016475
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】谷内 卓
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-301800(JP,A)
【文献】特表2014-535164(JP,A)
【文献】特開2009-006350(JP,A)
【文献】特開2015-009270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/268
B23K 26/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が設けられ、相互に反対方向を向く上面と下面を持つ板状部材と、
前記板状部材の上面に取り付けられて前記開口部を塞ぎ、レーザ光を透過させる透過部材と、
先端が前記開口部の側面に開口する噴出し口とされ、前記噴出し口から、対向する側面に向かう方向にガスを噴き出すガス流路と
を備え、
平面視において前記噴出し口からのガスの噴き出し方向に対して直交する方向を幅方向と定義したとき、前記開口部の幅が前記板状部材の厚さ方向に変化しており、幅の最小値より下面における幅の方が広いレーザ光導入装置。
【請求項2】
前記板状部材の厚さ方向に関して前記開口部の幅が最も狭い箇所よりも上面側の部分の側面が、上面から下面に向かって幅が狭くなるように傾斜している請求項1に記載のレーザ光導入装置。
【請求項3】
前記開口部の、前記噴出し口に対向する側面が、上面から下面に向かって、前記噴出し口から遠ざかる向きに傾斜している請求項1または2に記載のレーザ光導入装置。
【請求項4】
前記噴出し口は幅方向に長い形状を有しており、前記ガス流路の内部に、前記ガス流路の先端の一部分を幅方向に複数の区画に区分する隔壁が設けられている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザ光導入装置。
【請求項5】
前記ガス流路の少なくとも先端の一部分が、ガスの流れの上流側から下流側に向かって、前記板状部材の上面から遠ざかる向きに傾斜している請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーザ光導入装置。
【請求項6】
前記板状部材と前記透過部材との間に間隙が確保されており、
前記ガス流路から分岐して、前記板状部材と前記透過部材との間の間隙にガスを噴き出す分岐路を、さらに備えた請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレーザ光導入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハに注入したドーパントを活性化させるアニール、非晶質膜を多結晶化させるアニール等に、レーザアニールが用いられる。レーザアニールを行う際には、半導体ウエハ等の加工対象物を処理室に収容し、処理室の天面に設けられたレーザ光透過窓を通して加工対象物にレーザ光を入射させる。
【0003】
レーザアニール時に加工対象物から飛散した飛散物がレーザ光透過窓に付着することにより、レーザ光透過窓が汚れる。レーザ光透過窓が汚れると、レーザ光の透過率が低下する。これにより、加工対象物の表面におけるレーザ光の強度が低下し、適切なレーザアニールを行うことができなくなってしまう。レーザ透過窓の汚れを抑制する種々のアニール装置が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0004】
特許文献1に開示されたアニール装置においては、レーザ光透過窓の直下にボックスが設けられており、ボックス内のガス流路からレーザ光透過窓にガスを吹き付けている。これにより、ボックスの内部から外部に向かうガスの流れを形成し、加工対象物からの飛散物がレーザ光透過窓に向かわないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、レーザ光を透過させる部材の汚れ抑制効果を高めることができるレーザ光導入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
開口部が設けられ、相互に反対方向を向く上面と下面を持つ板状部材と、
前記板状部材の上面に取り付けられて前記開口部を塞ぎ、レーザ光を透過させる透過部材と、
先端が前記開口部の側面に開口する噴出し口とされ、前記噴出し口から、対向する側面に向かう方向にガスを噴き出すガス流路と
を備え、
平面視において前記噴出し口からのガスの噴き出し方向に対して直交する方向を幅方向と定義したとき、前記開口部の幅が前記板状部材の厚さ方向に変化しており、幅の最小値より下面における幅の方が広いレーザ光導入装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
噴出し口から噴出されたガスの流れにより、板状部材の下面側から開口部に進入して透過部材に向かう飛散物が遮蔽される。板状部材の下面における開口部の幅を、幅の最小値より広くすることにより、ガスが下方に向かって流れやすくなり、透過部材に向かうガスの流れが抑制され、飛散物を遮蔽する効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例によるレーザ光導入装置が搭載されたレーザ加工装置の概略図である
【
図2】
図2は、本実施例によるレーザ光導入装置の平面図である。
【
図3】
図3A及び
図3Bは、それぞれ
図2の一点鎖線3A-3A、一点鎖線3B-3Bにおける断面図である。
【
図4】
図4Aは、実施例によるレーザ光導入装置の概略平面図であり、
図4Bは、一比較例によるレーザ光導入装置の概略平面図である。
【
図5】
図5Aは、実施例によるレーザ光導入装置の断面図であり、
図5Bは、一比較例によるレーザ光導入装置の断面図である。
【
図6】
図6Aは、実施例によるレーザ光導入装置の概略平面図であり、
図6Bは、一比較例によるレーザ光導入装置10の概略平面図である。
【
図7】
図7は、実施例によるレーザ光導入装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図7を参照して、本願発明の一実施例によるレーザ光導入装置について説明する。
図1は、本実施例によるレーザ光導入装置10が搭載されたレーザ加工装置の概略図である。本実施例によるレーザ加工装置は、例えば、半導体ウエハに注入されたドーパントの活性化アニールに用いられる。処理室50に収容された可動ステージ51に、半導体ウエハ等の加工対象物52が保持される。処理室50の天面に、レーザ光導入装置10が取りつけられている。レーザ光導入装置10を通過してレーザビーム70が処理室50内に導入され、加工対象物52に入射する。
【0011】
ガス供給源40から配管41を通ってレーザ光導入装置10にガスが供給される。ガスとして、窒素ガス、クリーンドライエア等が用いられる。レーザ光導入装置10に供給されたガスは、処理室50内に導入され、排気口53から排気される。
【0012】
次に、レーザ光学系について説明する。本実施例によるレーザ加工装置には、レーザ光源61として、レーザダイオードが用いられる。なお、レーザ光源61として、その他のレーザ発振器、例えばNd:YAGレーザ等の固体レーザ発振器を用いてもよい。レーザ光源61が、例えば波長808nmの準連続発振(QCW)のレーザビーム70を出力する。なお、波長800nm以上950nm以下の赤外域のレーザビームを出力するレーザ光源を用いてもよい。または緑色の波長域、紫外線の波長域のレーザビームを出力するレーザ光源を用いてもよい。
【0013】
レーザ光源61から出力されたレーザビーム70が、アッテネータ62、ビームエキスパンダ63、ホモジナイザ64を経由し、折り返しミラー65で下方に向けて反射される。下方に向けて反射されたレーザビーム70は、集光レンズ66及びレーザ光導入装置10を経由して処理室50内に導入される。処理室50内に導入されたレーザビーム70は、加工対象物52に入射する。
【0014】
ビームエキスパンダ63は、レーザビーム70をコリメートするとともに、ビーム径を拡大する。ホモジナイザ64及び集光レンズ66は、加工対象物52の表面におけるビームスポットを長尺形状に整形するとともに、ビーム断面内の光強度分布を均一化する。可動ステージ51が加工対象物52を集光レンズ66の光軸に対して直交する二方向に移動させることにより、加工対象物52の表面のほぼ全域にレーザビーム70を入射させることができる。
【0015】
図2は、本実施例によるレーザ光導入装置10の平面図である。
図3A及び
図3Bは、それぞれ
図2の一点鎖線3A-3A、及び一点鎖線3B-3Bにおける断面図である。加工対象物52の上面に平行な二方向をx方向及びy方向とし、加工対象物52の上面の法線方向をz方向とするxyz直交座標系を定義する。加工対象物52に入射するレーザビーム70(
図1)の長尺形状のビームスポット71の長手方向をy方向とする。
【0016】
処理室50の天面に開口部50Aが設けられている。レーザ光導入装置10は、この開口部50Aを内側から塞ぐように処理室50の天面に取り付けられている。レーザ光導入装置10は、板状部材11及び透過部材12を含む。板状部材11に開口部15が設けられている。板状部材11の両面のうち処理室50の外側を向く方の面を上面11Tといい、その反対側の面(処理室50の内側を向く面)を下面11Bということとする。
【0017】
板状部材11の上面側に、透過部材ホルダ13を介して透過部材12が支持されている。透過部材12は、平面視において円形の形状を有し、板状部材11の開口部15を塞いでいる。透過部材12はレーザビーム70を透過させる光学材料で形成されている。レーザビーム70は、透過部材12を透過し、板状部材11の開口部15及び処理室50の開口部50Aを通って処理室50内に導入される。開口部15を通過するレーザビーム70は収束ビームである。
【0018】
板状部材11に、ガス流路20が設けられている。ガス供給源40から配管41を通ってガス流路20にガスが供給される。なお、
図3Aにおいては、配管41を模式的に表している。ガス流路20に供給されたガスは、開口部15の側面の一部に配置された噴出し口21から、対向する側面15Cに向かう方向に噴出される。
図2及び
図3Aにおいて、ガスの噴出し方向を矢印で示している。開口部15の平面視における形状は、角が丸められた長方形である。噴出し口21は、長方形の1つの辺に対応する側面に設けられている。
【0019】
平面視においてガスの噴出し方向(x方向)に対して直交する方向(y方向)を幅方向と定義する。開口部15の幅が、板状部材11の厚さ方向に変化している。開口部15の幅の最小値より、下面11Bにおける幅の方が広い。幅が最も狭い箇所よりも上面11T側の部分を、開口部15の上側部分15Aといい、下面11B側の部分を、開口部15の下側部分15Bということとする。上側部分15Aのx方向に延びる側面は、yz断面(
図3B)において収束されるレーザビーム70の形状に応じて傾斜している。すなわち、上面11Tから下面11Bに向かって、上側部分15Aの幅が徐々に狭くなっている。
【0020】
上側部分15Aと下側部分15Bとの境界において、下側部分15Bの幅が上側部分15Aの幅より不連続に広くなるように、開口部15の側面に段差が設けられている。下側部分15Bの幅も、上面11Tから下面11Bに向かって徐々に狭くなっている。下側部分15Bの下端における幅は、上側部分15Aの下端における幅より広い。板状部材11の厚さ方向に関して、噴出し口21の上端の位置は、上側部分15Aと下側部分15Bとの境界の位置に一致する。
【0021】
噴出し口21が設けられている開口部15の側面(
図3Aにおいて左側の側面)は、zx断面において収束されるレーザビーム70の形状に応じて傾斜している。噴出し口21に対向する開口部15の側面15C(
図3Aにおいて右側の側面)は、上面11Tから下面11Bに向かって、噴出し口21から遠ざかる向きに傾斜している。言い換えると、側面15Cの外側を向く法線ベクトルが、斜め下方を向いている。
【0022】
ガス流路20は、平面視においてガスの流れの上流側から下流側に向かって幅方向(y方向)に広がっている。噴出し口21は、幅方向に長い形状を有する。ガス流路20の内部に複数の隔壁22が設けられている。ガス流路20の噴出し口21側の一部分が、複数の隔壁22によって幅方向に複数の区画に区分されている。隔壁22は、噴出し口21から、ガスの流れの上流側に向かって延び、ガス流路20の幅が狭まる領域まで達している。
【0023】
ガス流路20のうち、噴出し口21に連続する先端の一部分20Aが、ガスの流れの上流側から下流側に向かって上面11Tから遠ざかる向きに傾斜している。このため、ガスは、xy面に平行な方向に対してやや下方に向かって噴出される。
【0024】
板状部材11の上面11Tと透過部材12との間に間隙30が確保されている。ガス流路20から分岐した分岐路25が、間隙30まで延びている。例えば、分岐路25は、平面視において透過部材12の円形の外周線に沿って配置された円周状の部分25A、円周状の部分25Aから間隙30に向かう部分25B、及び円周状の部分25Aとガス流路20とを接続する部分25Cを含む。ガス流路20に導入されたガスが、分岐路25を通って間隙30内に噴き出す。
【0025】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
加工対象物52にレーザビーム70が入射すると、加工対象物52から飛散物が飛散する。噴出し口21から噴出したガスによって、開口部15内を、主としてx方向に流れるガス流が形成される。加工対象物52からの飛散物が、このガス流に乗ってx方向に流されることにより、透過部材12に向かう飛散物が遮蔽され、透過部材12への飛散物の付着が抑制される。これにより、透過部材12が汚れにくくなる。
【0026】
次に、レーザ光導入装置10の特徴的な種々の構成ごとに、実施例の優れた効果について説明する。
【0027】
[開口部15の下面11Bにおける幅を広くする構成による効果]
図4Aは、実施例によるレーザ光導入装置10の概略平面図であり、
図4Bは、比較例によるレーザ光導入装置10の概略平面図である。
【0028】
実施例によるレーザ光導入装置10(
図4A)においては、板状部材11(
図3B)に設けられた上側部分15Aの幅が下方に向かって徐々に狭くなり、上側部分15Aと下側部分15Bとの境界において、幅が不連続に広くなっている。さらに、下側部分15Bの幅も、下方に向かって徐々に狭くなっている。下側部分15Bの下端における幅が、上側部分15Aの下端における幅より広い。
【0029】
これに対して比較例(
図4B)においては、開口部15の幅が不連続に変化しておらず、上面11Tから下面11Bまで連続的に徐々に狭くなっている。幅方向の両側の側面は、
図3Bの上側部分15Aの側面と同様に、収束するレーザビーム70の形状に応じて傾斜している。噴出し口21は、開口部15の幅方向に延びる側面に、幅方向のほぼ全域に亘って配置されている。
【0030】
比較例(
図4B)においては、噴出し口21から噴出されたガスが、噴出し口21に対向する側面15Cに向かって流れ、さらに噴出し口21に対向する側面15Cの傾斜に沿って斜め下方に向かう。開口部15の幅が下方に向かって徐々に狭くなっているため、ガスの一部が開口部15の側方の斜面15Dにあたって下方に抜けにくくなる。このため、斜面15Dの下端の近傍の圧力が上昇して、一部のガスは開口部15内に戻る。開口部15内に戻ったガスの一部は、透過部材12の表面まで達する。このように、ガスの流れに乱れが生じるため、加工対象物52(
図3A、
図3B)から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する機能が低下してしまう。
【0031】
実施例(
図4A)においては、噴出し口21は、上側部分15Aの幅方向のほぼ全域に亘って配置されており、下側部分15Bは、噴出し口21が配置されている幅方向の範囲よりもさらに幅方向に広がっている。噴出し口21から噴出されたガスは、噴出し口21に対向する側面15Cに沿って斜め下方に流れ、下側部分15Bに達すると、幅方向に広がる。このため、側面15Cの下端近傍における圧力の上昇の程度が、比較例(
図4B)と比べて少ない。このため、ほとんどのガスは、側面15Cの下端近傍で折り返されることなく、処理室50(
図3A、
図3B)内に流入する。ガスの流れに乱れが生じにくいため、加工対象物52(
図3A、
図3B)から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する機能の低下が生じにくい。
【0032】
噴出し口21の幅方向の寸法を変えることなく、上側部分15Aの幅を下側部分15Bの幅と同程度まで広げると、平面視において、開口部15内で十分なガスの流れが形成されない領域が発生してしまう。ガスの流れが十分でない領域においては、透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する機能が低い。実施例においては、下側部分15Bのみを幅方向に広げることにより、平面視において、ガスの流れが十分ではない領域が開口部15の上側部分15A内に発生することが回避されている。
【0033】
また、下側部分15Bの幅を広くしても、上側部分15Aの平面視における大きさを、レーザビーム70の断面よりやや大きい程度に止めておくことにより、加工対象物52から透過部材12(
図3A、
図3B)に向かう飛散物の経路の断面が不要に大きくなってしまうことが抑制される。
【0034】
実施例においては、下側部分15Bの幅方向の両側に位置する側面(
図3Bに現れている側面)が、下側部分15Bの幅が下方に向かって徐々に狭くなるように傾斜しているが、必ずしもこれらの側面を傾斜させる必要はない。これらの側面を、下面11Bに対して垂直にしてもよい。
【0035】
また、下側部分15Bの側面を逆方向に傾斜させてもよい。すなわち、下側部分15Bの幅が下方に向かって徐々に広くなるように、下側部分15Bの側面を傾斜させてもよい。この場合、上側部分15Aと下側部分15Bとの境界に、段差を形成する必要はない。すなわち、下側部分15Bの上端における幅と、上側部分15Aの下端における幅とを等しくしてもよい。
【0036】
[噴出し口21に対向する側面15Cの法線ベクトルが斜め下方を向く構成の効果]
図5Aは、実施例によるレーザ光導入装置10の断面図であり、
図5Bは、比較例によるレーザ光導入装置10の断面図である。
【0037】
比較例(
図5B)においては、噴出し口21に対向する開口部15の側面15Cが、収束するレーザビーム70の形状に応じて傾斜している。すなわち、側面15Cが、下方に向かって噴出し口21に近づく向きに傾斜している。噴出し口21から噴出されたガスが対向する側面15Cまで達すると、ガスの一部は、
図5Bに矢印で示したように、側面15Cに沿って斜め上方に向かって流れ、透過部材12に達する。このため、加工対象物52から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する機能が低下してしまう。
【0038】
これに対して実施例(
図5A)においては、側面15Cが、下方に向かって噴出し口21から遠ざかる向きに傾斜している。このため、噴出し口21から噴出されて側面15Cに達したガスの大部分は
図5Aに矢印で示したように、側面15Cに沿って斜め下方に向かって流れ、処理室50内に導入される。透過部材12に向かうガスの流れが生じにくいため、加工対象物52から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽することができる。さらに、加工対象物52からの飛散物が、ガス流に乗って横方向に流され、加工対象物52の上方の空間から排除されるため、加工対象物52への飛散物の再付着を抑制することができる。
【0039】
飛散物の十分な遮蔽機能を得るために、上面11Tと側面15Cとのなす角度を鋭角とすることが好ましく、60°以下とすることがより好ましい。
【0040】
[ガス流路20の先端近傍を複数の区画に区分する効果]
図6Aは、実施例によるレーザ光導入装置10の概略平面図であり、
図6Bは、比較例によるレーザ光導入装置10の概略平面図である。
【0041】
実施例によるレーザ光導入装置10(
図6A)においては、ガス流路20の先端の近傍部分が、幅方向に関して複数の隔壁22によって複数の区画に区分されている。これに対して比較例(
図6B)においては、ガス流路20が幅方向に複数の区画に区分されていない。
図6A及び
図6Bにおいて、ガス流の向きを示す矢印の長さの分布の傾向が、流速の分布の傾向を表している。
【0042】
比較例(
図6B)においては、噴出し口21の幅方向の中央部分におけるガスの流速が、両端の部分におけるガスの流速より速い。平面視において流速が遅い領域では、加工対象物52から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する機能が低下する。これに対して実施例においては、ガス流路20の先端近傍部分が、複数の隔壁22によって幅方向に複数の区画に区分されている。隔壁22は、噴出し口21からガスの流れの上流側に向かって、ガス流路20の幅が狭まる領域まで延びているため、幅方向に関する流速の分布が均一に近付く。このため、加工対象物52から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する効果を、開口部15内の全域に亘ってほぼ均一化することがきる。
【0043】
[ガス流路20の先端の一部分20Aを斜め下方に向けた構成による効果]
実施例においては、ガス流路20の先端の一部分20A(
図3A)が斜め下方を向いているため、噴出し口21から噴き出たガスが斜め下方に向かって流れる。このため、透過部材12に向かうガスの流れが発生しにくくなり、加工対象物52から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する効果の低下が抑制される。
【0044】
[分岐路25を設ける効果]
図7は、実施例によるレーザ光導入装置10の断面図である。実施例においては、ガス流路20に導入されたガスの一部が、分岐路25を通って板状部材11と透過部材12との間の間隙30に供給される。間隙30に供給されたガスは、矢印で示すように、開口部15を通って処理室50内に導入される。このため、開口部15内を上方に向かい透過部材12に至るガス流の発生が抑制される。これにより、加工対象物52から透過部材12に向かう飛散物を遮蔽する効果を高めることができる。
【0045】
以上、実施例によるレーザ光導入装置10の5つの特徴的な構成のそれぞれについて、その構成によって得られる優れた効果について説明した。実施例によるレーザ光導入装置10は、上述の5つの特徴的な構成をすべて備えているが、透過部材12の汚れを抑制するために、上述の5つの特徴的な構成を全て備える必要はない。5つの特徴的な構成のうち、少なくとも1つの構成を備えたレーザ光導入装置においても、透過部材12の汚れを抑制するという優れた効果が得られる。
【0046】
次に、上記実施例の種々の変形例について説明する。
上記実施例では、板状部材11に設けられた開口部15(
図2)の平面視における形状が、角を丸めた長方形であるが、その他の形状にしてもよい。例えば、円形、楕円形等にしてもよい。開口部15の形状は、レーザビーム70のビーム断面の形状に応じて設定するとよい。開口部15の平面視における形状を円形や楕円形にした場合には、開口部15の幅がx方向に変化する。この場合には、x方向に対して直交する断面(
図3Bの断面図に相当)のそれぞれにおいて、開口部15の幅の最小値より、下面11Bにおける幅を広くすればよい。
【0047】
また、上記実施例では、レーザ光導入装置10を、ドーパントを活性化させるためのレーザアニール装置に搭載した例について説明しているが、その他のレーザ加工装置に搭載することも可能である。
【0048】
また、上記実施例では、レーザ光導入装置10の板状部材11(
図3A、
図3B)を、処理室50の天面に取り付けているが、処理室50の壁面自体を、レーザ光導入装置10の板状部材11としてもちいてもよい。
【0049】
上述の実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0050】
10 レーザ光導入装置
11 板状部材
11B 板状部材の下面
11T 板状部材の上面
12 透過部材
13 透過部材ホルダ
15 開口部
15A 上側部分
15B 下側部分
15C 開口部の側面
15D 開口部の側方の斜面
20 ガス流路
20A ガス流路の先端の一部分
21 噴出し口
22 隔壁
25 分岐路
25A、25B、25C 分岐の部分
30 間隙
40 ガス供給源
41 配管
50 処理室
50A 処理室の開口部
51 可動ステージ
52 加工対象物
53 排気口
61 レーザ光源
62 アッテネータ
63 ビームエキスパンダ
64 ホモジナイザ
65 折り返しミラー
66 集光レンズ
70 レーザビーム
71 ビームスポット