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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】苗移植機
(51)【国際特許分類】
   A01C 11/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A01C11/02 350M
A01C11/02 362A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023046270
(22)【出願日】2023-03-23
(62)【分割の表示】P 2021131113の分割
【原出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2023068130
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】金谷 一輝
(72)【発明者】
【氏名】土井 邦夫
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-100717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗マットが傾斜した状態で置かれる載置面が条数に応じて機体幅方向に並べて配置される苗載台と、
前記苗載台に置かれた苗マットを下方に送る縦送り機構と、を備える苗移植機において、
前記載置面の裏面側から前記載置面より上方に突出するように設けられるとともに、前記縦送り機構による苗マットの縦送りに連動して回転する回転体と、
前記苗載台に苗マットが載置されていないときに、前記回転体の回転を制止する回転制止部材と、を備え、
前記回転体の回転数に基づいて前記苗マットの送り量を検出する、
苗移植機。
【請求項2】
前記回転体が前記苗載台に載置された苗マットに押されることで、前記回転制止部材による前記回転体の回転制止が解除される、
請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
前記回転体は、前記苗載台の載置面の裏面側から前記苗載台に向けて付勢されており、
前記回転制止部材は、前記回転体における前記苗載台の載置面の裏面に対向する部位に設けられ、前記苗載台に苗マットが載置されていないときに前記苗載台と当接し摩擦力で前記回転体の回転を制止する、
請求項2に記載の苗移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗マットから圃場に苗を移植する苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、苗載台に載置される苗マットを下端側へ間欠的に搬送する縦送り機構と、苗載台を左右方向へ往復動する横送り機構と、苗載台の下端側から苗マットの苗を掻き取って圃場に植え付ける植付爪とを備えた植付作業機を有する苗移植機が開示されている。横送り機構による左右方向へ往復動中に苗載台が左右の往復移動端に達したときに、縦送り機構が苗マットを所定間隔だけ苗載台の下端側へ搬送することで、苗載台に載置されている苗マットを植付爪に安定して供給することができる。
【0003】
また、この苗移植機では、苗載台を昇降させることで、苗マットに対する植付爪の縦方向での位置を多段階に変更可能な縦取量調節レバーが設けられており、縦取量調節レバーをオペレータが操作することで、植付爪が掻き取る苗マットの縦取量(縦方向での苗取量)を調節することができる。更に、この苗移植機では、横送り機構による苗載台の横送り回数(横送り速度)を変更する横送り回数調節レバーが設けられており、横送り回数調節レバーをオペレータが操作することで、植付爪が掻き取る苗マットの横取量(横方向での苗取量)を調節することができる。
【0004】
なお、特許文献2には、このような苗移植機において、圃場情報格納部から読み出された地図データから圃場面積を算出し、苗移植機に準備されている農用資材の使用可能量とから、株間、苗取量、横送り回数などの苗移植機における各動作機器の設定を自動的に行うことが開示されているが、具体的にどのように各動作機器の設定を行うのかについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-213638号公報
【文献】特開2015-112069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
苗を圃場に植え付ける植付作業を行う際、作業者は、予め圃場面積当たりの収量を見越して、圃場面積当たりの株数、及び、その圃場面積に対して使用する苗マット数を計画している。しかしながら、圃場面積当たりの株数、及び、その圃場面積に対して使用する苗マット数を計画しても、作業者が、経験則等により、実際に計画どおりの苗マット数にて植付作業を行えるように苗取量を適切に調節するのは難しく、圃場に対して所望の苗マット数を使用できていないのが実情であった。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、所望の圃場に対して所望の苗マット数にて適切に植付作業を行うことができる苗移植機を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る苗移植機は、苗載台と、縦送り機構と、を備える苗移植機において、回転体と、回転制止部材と、を備え、前記回転体の回転数に基づいて苗マットの送り量を検出する。前記苗載台は、苗マットが傾斜した状態で置かれる載置面が条数に応じて機体幅方向に並べて配置される。前記縦送り機構は、前記苗載台に置かれた苗マットを下方に送る。前記回転体は、前記載置面の裏面側から前記載置面より上方に突出するように設けられるとともに、前記縦送り機構による苗マットの縦送りに連動して回転する。前記回転制止部材は、前記苗載台に苗マットが載置されていないときに、前記回転体の回転を制止する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】田植機の側面図
図2】田植機の平面図
図3】植付部の一側面図(機体右側面図)
図4】植付部の他側面図(機体左側面図)
図5】ダッシュボードを示す図
図6】(a)苗載台の条毎の載置面の背面図、(b)苗載台の条毎の載置面の側面図
図7】苗載台の条毎の載置面の要部の側面図
図8】存否検出部を背面側から見た斜視図
図9】存否検出部を背面側から見た分解斜視図
図10】移動量検出部を背面側から見た斜視図
図11】移動量検出部を背面側から見た分解斜視図
図12】移動量検出部の断面を模式的に示す図
図13】制御装置の制御ブロック図
図14】苗マットの残量の検出を示す図
図15】苗継警報制御の制御フローを示す図
図16】苗取量制御(掻取面積制御)を示すブロック図
図17】(a)後輪の圃場への沈下量を示す側面図、(b)後輪の接地面からフロート底面までの高さを示す側面図
図18】後輪の接地面から田面までの高さを示す側面図
図19】後輪の圃場への沈下量とスリップ率との相関を示すグラフ。
図20】苗マットの使用数の検出を示す図
図21】苗マットの使用数の検出を示す図
図22】苗取量制御(掻取面積制御)の制御フローを示す図
図23】情報端末に表示される項目を示す図
図24】苗取量制御(縦取量制御)を示すブロック図
図25】苗取量制御(縦取量制御)の制御フローを示す図
図26】移動量検出部の別実施形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る苗移植機の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
<全体構成>
図1及び図2を参照して、苗移植機の一例である田植機1の全体構成について説明する。田植機1は、走行機体2と、その後部に装着される植付作業機3とを備え、走行機体2によって走行しつつ植付作業機3によって植付作業を行うように構成されている。なお、本実施形態では、田植機1の植付条数が6条である場合を例に示しているが、勿論、田植機1の植付条数は何条であってもよい。
【0010】
走行機体2は、エンジン4、エンジン4からの動力を変速するトランスミッション5、エンジン4及びトランスミッション5を支持する機体フレーム6、エンジン4及びトランスミッション5から伝達される動力によって駆動される前輪7及び後輪8等を備える。
【0011】
エンジン4及びトランスミッション5からの動力は、それぞれフロントアクスルケース9、リアアクスルケース10に伝達される。フロントアクスルケース9は、機体フレーム6の前部に支持されるとともに、その左右両端部に前輪7が支承される。同様に、リアアクスルケース10は、機体フレーム6の後部に支持されるとともに、その左右両端部に後輪8が支承される。機体フレーム6の上部は、ステップ11によって被覆されており、オペレータ(作業者)は、ステップ11上を移動可能である。
【0012】
また、エンジン4及びトランスミッション5からの動力は、株間設定器9a(図13参照)を経て植付作業機3に伝達される。株間設定器9aは、走行機体2の進行方向に沿って植え付けられる苗の植付間隔を無段階に変更可能に構成される。後述の制御装置70は、株間設定器9aと接続され、苗の植付間隔を取得可能に構成される。
【0013】
走行機体2の前後中途部に運転席12が配置され、その前方に操向ハンドル13、操作ペダル14、及び、ダッシュボード15等が設けられる。ダッシュボード15には、操向ハンドル13に加えて各種操作用の操作具、表示装置が配置されている。
【0014】
植付作業機3は、走行機体2に対して、昇降リンク機構20を介して連結されている。昇降リンク機構20は、左右一対の上リンク21及び下リンク22、昇降シリンダ等を備える。昇降シリンダによって下リンク22、上リンク21を回動させて植付作業機3を昇降させる。
【0015】
植付作業機3は、植付アーム31、植付爪32、苗載台33、苗載台33を横方向(機体幅方向)に往復動させる横送り機構、苗載台33に置かれる苗マットM(図6参照)を下端側に向かって縦方向(機体前後方向)に搬送する縦送り機構、フロート34等を備える。植付爪32は、植付アーム31に取り付けられている。本実施形態では、田植機1の植付条数が6条であるため、6つの植付アーム31と12の植付爪32とを備えている。植付作業機3は、トランスミッション5から後方に向けて延出されるPTO軸16によって駆動される。
より詳細には、PTO軸16から植付センターケース35を介して植付作業機3に設けられる3つの植付伝動ケース36に動力が伝達されて、3つの植付伝動ケース36の各々から植付伝動ケース36毎の左右一対の植付アーム31及び左右一対の植付爪32に動力が分配される。植付センターケース35には、植付クラッチが設けられ、植付クラッチはエンジン4から植付作業機3への動力の伝達を断接するように構成される。
【0016】
植付アーム31は、植付伝動ケース36から伝達される動力によって回転する。植付爪32には、苗載台33から苗が供給される。植付アーム31の回転運動に伴って、植付爪32が圃場内に挿入され、所定の植え付け深さとなるように苗が植え付けられる。なお、本実施形態では、ロータリ式の植付爪を採用しているが、クランク式のものを用いても良い。
【0017】
苗載台33は、板状の部材によって構成され、機体側面視において前高後低状に傾斜するように配設される。苗載台33の後面には、苗マットMを載置する載置面が植付アーム31の数(田植機1の条数)に応じて機体幅方向に並べて配置される。本実施形態の田植機1は、植付条数が6条であるため、載置面が6つ形成される。載置面には、苗マットM(図6参照)が傾斜した状態で置かれる。
【0018】
フロート34は、植付フレーム37(図17(b)参照)に取り付けられる。具体的には、フロート34の前端は植付フレーム37に対して上下方向に揺動可能に支持され、フロート34の後端は植付フレーム37に設けられる回動支軸38にリンク機構39を介して昇降可能に取り付けられる。
【0019】
フロート34において、植付爪32の植付位置の直前方には、圃場表面(田面)を検出するセンサ40(図18参照)が設けられる。センサ40は、前方から後方に向けて延出される。センサ40は、植付フレーム37にピッチング方向に沿う軸芯周りで揺動自在(つまり、上下方向に揺動自在)に支持され、その揺動支点を中心として重力によって垂れ下がるため、先端部が圃場表面に接触した状態が維持される。つまり、田植機1は、センサ40の先端部が常に圃場表面に追従する状態で進行する。
【0020】
図3を用いて、苗載台33を機体幅方向に往復動させる横送り機構について説明する。
図3に示すように、植付センターケース35から機体幅方向一側(機体左側)に向けて送りネジ41が延出される。送りネジ41の外周面には、軸芯方向に沿って交差状の溝が形成される。送りネジ41には、該溝に沿って摺動可能な滑り子42及び滑り子42を支持する滑り子受け43が設けられる。滑り子受け43は略T字状に形成される。滑り子受け43には、送りネジ41が貫設されるとともに、送りネジ41の溝に沿って摺動可能に滑り子42が収容される。
【0021】
苗載台33の前面(載置面の裏面)の下部には、下部レール44が取り付けられる。下部レール44は、機体幅方向を長手方向として配置される。下部レール44には、支持アーム45を介して滑り子受け43が固定される。
【0022】
下部レール44の下方には、下部レール44を機体幅方向に摺動可能に支持するガイドレール46が設けられる。ガイドレール46は、機体幅方向を長手方向として配置される。ガイドレール46は、下部レール44に係合する係合部46aと、係合部46aから苗載台33の底部の形状に沿って延出される延出部46bによって構成される。下部レール44がガイドレール46の係合部46aと係合することで、下部レール44はガイドレール46に沿って機体幅方向に摺動可能に構成される。ガイドレール46には、下部レール44がガイドレール46から外れることを阻止するためのストッパー47がボルトによって着脱可能に取り付けられる。
【0023】
植付センターケース35の送りネジ41が延出される側面には、苗載台33の横送り量を調節する横送り切替レバー48が設けられている。横送り切替レバー48には、横送り切替レバー48の位置を検出することで、苗載台33の横送り回数を検出する横送り回数検出センサ48a(図13参照)が設けられる。
制御装置70は、横送り回数検出センサ48aと接続され、苗載台33の横送り回数を検出可能に構成され、横送り回数から後述する横取量を検出可能に構成される。また、横送り切替レバー48には、アクチュエータ48b(図13参照)が設けられる。アクチュエータ48bが駆動制御されることで、横送り切替レバー48は操作可能に構成される。したがって、アクチュエータ48bにより横送り切替レバー48が操作されることで、苗載台33の横送り量を調節し、苗載台33の横送り回数を変更することができる。
苗載台33の横送り回数が変更されることで、苗載台33の横送り量(横送り速度)が変更され、植付爪32による苗マットMからの横取量を変更することができる。ここでの、横取量とは、植付爪32によって苗マットMを平面視で走行機体2の機体幅方向に掻き取る幅を指す。横取量が調節されることで、植付爪32による苗マットMからの苗取量を変更可能に構成される。
【0024】
図4を用いて、苗載台33に置かれる苗マットMを下方に送る縦送り機構について説明する。
図4に示すように、植付センターケース35から機体幅方向他側(機体右側)に向けて、縦送りカム51が固定される縦送りカム軸52が延出される。縦送りカム軸52は、送りネジ41と連結されており、ストローク端に到達すると、従動カム53と当接される。従動カム53は、苗載台33下部で搬送ベルト54を駆動する搬送ベルト駆動軸55上に設けられている。縦送りカム軸52の回動に伴って、縦送りカム51と従動カム53とが当接されると、従動カム53は回動する。従動カム53の回動に伴って、搬送ベルト駆動軸55が回動されることで、搬送ベルト54が循環されて搬送ベルト54上に載置される苗マットMを所定の距離だけ搬送する。
【0025】
各植付伝動ケース36の前上部に苗台レール支持軸56が左右方向に回動自在に支持される。苗台レール支持軸56からは適宜間隔をあけて複数の支持フレーム57が後上方に突設され、該支持フレーム57にガイドレール46が左右水平方向に支持される。また、苗台レール支持軸56から前上方にアーム58が取付けられる。アーム58の他端には、苗台レール支持軸56の回転角度を検出する回転角度検出センサ59が設けられる。回転角度検出センサ59は、植付フレーム37に取り付けられる。苗台レール支持軸56には、アクチュエータ56a(図13参照)が設けられている。制御装置70は、回転角度検出センサ59と接続され、苗マットMからの縦取量を検出可能に構成される。
【0026】
アクチュエータ56aが駆動制御されることで、苗台レール支持軸56は回転可能に構成される。したがって、苗台レール支持軸56の回転に伴って支持フレーム57が回動されることで、ガイドレール46(苗載台33)が上下に移動(昇降可能に構成)され、植付爪32を支持する植付伝動ケース36と苗載台33との距離を変更することができる。 ゆえに、植付爪32による苗マットMからの縦取量を変更することができる。ここでの、縦取量とは、苗マットMを平面視で走行機体2の進行方向に掻き取る幅を指す。縦取量が調節されることで、植付爪32による苗マットMからの苗取量を変更可能に構成される。
【0027】
また、苗台レール支持軸56は、連動ワイヤ60を介して従動カム53と接続されている。苗台レール支持軸56の回転に伴って、連動ワイヤ60に係る張力によって従動カム53を所定の角度だけ回転させることにより、苗マットMからの縦取量に応じて搬送ベルト54による送り量を調節している。
【0028】
以上の構成において、エンジン4からの動力が植付センターケース35を介して送りネジ41に動力が伝達されることで、送りネジ41の溝に対して滑り子42が摺動し、これとともに滑り子受け43が機体幅方向に摺動する。滑り子受け43が摺動されることで、支持アーム45を介して下部レール44がガイドレール46に沿って摺動し、これとともに苗載台33が機体幅方向に摺動する。そして、苗載台33が機体幅方向のストローク端に到達すると、縦送りカム51が従動カム53と当接して搬送ベルト駆動軸55が回動することで、搬送ベルト54が循環される。
【0029】
送りネジ41の溝に沿って滑り子42が往復動することで、苗載台33はガイドレール46に沿って往復動する。横送り機構によって、苗載台33がガイドレール46に沿って往復動することで、苗載台33に載置される苗マットMの機体幅方向一側(機体左側)から機体幅方向他側(機体右側)又は機体幅方向他側(機体右側)から機体幅方向一側(機体左側)に向けて植付爪32が苗を掻き取って、移植することを可能としている。植付爪32が苗マットMの機体幅方向一側(機体右側)又は機体幅方向他側(機体左側)にある苗を掻き取ると、縦送り機構によって、搬送ベルト54が作動して苗マットMを載置面の下端部(後端部)に向けて搬送することを可能としている。以上のように、苗マットMが機体幅方向に往復動されて、適宜下方に搬送されることで、苗載台33に載置される苗マットMから苗を掻き取り可能としている。
【0030】
図5を用いて、ダッシュボード15について説明する。
ダッシュボード15の左右中央部には、操向ハンドル13が配置され、操向ハンドル13の左方には、主変速レバー61が設けられ、操向ハンドル13の右方には、植付昇降レバー62が設けられる。操向ハンドル13の下方には、所定の条毎の植付爪32の駆動を停止する条止めスイッチ63、最高速度を設定する速度設定ボリューム64、フロート34の油圧感度を設定する感度設定ボリューム65、植深さや苗マットMからの苗取量(縦取量や横取量(横送り回数))等の各種の項目を設定するセレクトダイヤル66等が設けられる。操向ハンドル13の前方には、セレクトダイヤル66等の設定、走行機体2の速度等を表示するモニタ67が設けられる。
【0031】
セレクトダイヤル66は、植深さや苗取量(縦取量、横取量(横送り回数))、作業速度等の作業内容に関する各種の作業条件、苗継警報の報知基準値等を設定可能なダイヤルである。オペレータは、セレクトダイヤル66を左右に回転させて各種の項目から設定したい項目を選択し、セレクトダイヤル66を押すことで決定する。例えば、苗取量として縦取量を設定したい場合、セレクトダイヤル66を左右に回転させて縦取量の項目を選択し、セレクトダイヤル66を押すことで該項目に決定して、セレクトダイヤル66を左右に回転させて縦取量の調節量を選択し、セレクトダイヤル66を押すことで該調節量に縦取量を設定する。セレクトダイヤル66は、制御装置70(図13参照)と接続される。
【0032】
<苗継警報制御>
次に、図6図12を用いて、苗載台33に置かれる苗マットMの残量の算出に基づき実行される苗継警報制御について説明する。
図6図7に示すように、苗載台33において条毎の苗マットMが置かれる載置面には、苗マットMの存否を検出可能な存否検出部90と、苗マットMの下方への移動量(送り量)を検出可能な移動量検出部80とが設けられる。
そして、図13に示すように、田植機1の制御装置70には、存否検出部90の検出状態、及び、移動量検出部80の検出状態に基づき、苗マットMの残量を検出する苗マット残量算出部72が備えられる。
【0033】
(存否検出部)
存否検出部90は、例えば、図6に示すように、苗載台33の条毎の載置面における苗マットMを一枚置いたときに苗マットMが配置される第1領域A中の上端側に設けられ、苗載台33の載置面に苗マットMを一枚置いたとき、苗マットMと接触することで苗マットMの存在を検出可能に構成される。また、苗載台33の載置面に苗マットMを一枚置いていないとき、苗マットMと接触しないことで苗マットMの不存在を検出可能に構成される。例えば、存否検出部90は、苗マットMの一枚の縦方向の長さが580mmで、第1領域Aの長さが580mmである場合に、第1領域Aの下端(苗載台33の載置面の下端)から510mm上方の位置に設けられる。
【0034】
本実施形態において、存否検出部90は、図7図9に示すように、苗載台33の載置面の裏面側にボルトやビス等の固定手段K1で固定される第1取付金具91と、当該第1取付金具91にボルトやビス等の固定手段94で固定されるリミットセンサ92と、苗載台33の載置面の貫通穴33b(図7参照)を通して先端側が載置面よりも上方に突出位置する姿勢で第1取付金具91に基端側を横軸芯周りで揺動自在に取り付けられる揺動部93等から構成される。
【0035】
揺動部93は、第1取付金具91に横軸芯周りで回転可能に取り付けられる軸部材93aと、先端側が載置面の表側に向かって直立する姿勢で軸部材93aに取り付けられる側面視略L字状の板バネ製のレバー部材93bと、当該レバー部材93bを載置面の表側から覆う状態で軸部材93aに取り付けられるカバー部材93c等から構成される。また、第1取付金具91からの軸部材93aの抜け落ちを防止する抜け落ち防止具95等が設けられる。
【0036】
このように構成された存否検出部90は、図7に示すように、苗載台33の載置面に置かれた苗マットMと接触して苗マットMの重量が揺動部93に載荷された場合に、揺動部93が下方に揺動して揺動部93のレバー部材93bによりリミットセンサ92のスイッチ部92aが押圧されることで、苗マットMの存在を検出することができる。また、これとは逆に、苗マットMの重量が揺動部93に載荷されていない場合に、リミットセンサ92のスイッチ部92aが押圧されないことで、苗マットMの不存在を検出することができる。
【0037】
(移動量検出部)
移動量検出部80は、図6に示すように、苗載台33の条毎の載置面における苗マットMを一枚置いたときに苗マットMが配置される第1領域A中において存否検出部90よりも下方に設けられ、苗載台33の載置面に苗マットMを少なくとも一枚置いた状態で苗マットMの下方への移動量(縦送り量)を検出可能に構成されている。例えば、移動量検出部80は、第1領域Aの下端(苗載台33の載置面の下端)から180mm上方の位置に設けられる。
【0038】
本実施形態において、移動量検出部80は、図7図10図11に示すように、苗載台33の載置面の裏面側にボルトやビス等の固定手段K2で固定される第2取付金具82と、付勢バネ83にて上方に揺動付勢される状態で第2取付金具82に横軸芯周りで揺動自在に取り付けられる揺動アーム84と、当該揺動アーム84の先端側に横軸芯周りで回転自在に取り付けられる回転体81と、揺動アーム84の先端側に取り付けられて回転体81の回転数を検出する近接センサ85等から構成される。また、第2取付金具82からの揺動アーム84の第1軸部84aの抜け落ちを防止する抜け落ち防止具86と、揺動アーム84の第2軸部84bからの回転体81の抜け落ちを防止する抜け落ち防止具87等が設けられる。
【0039】
回転体81の外周部には、回転中心を基準として放射状に配置される複数の突起81aを備える。回転体81は、載置面の裏面側から貫通穴33a(図7参照)を介して突起81aが載置面より上方に突出するように設けられる。回転体81は、突起81aが載置面において縦送りされる苗マットMの底面に食い込み(係合し)ながら、苗マットMの縦送りに連動して回転するように構成される。突起81aの苗マットMとの当接側の面は、回転体81の回転方向の上流側に反った形状によって構成される。苗載台33と回転体81との関係性から述べると、突起81aの苗マットMとの当接側の面は、苗マットMの送り元に向けて反った形状によって構成される。本実施形態では、突起81aは、側面視において、基端部から先端部にかけて回転体81の回転方向の上流側に湾曲して形成される。
【0040】
以上のように、回転体81の突起81aの苗マットMとの当接側の面が回転方向の上流側に反った形状によって構成されることで、回転体81の上方側近傍の載置面に苗マットMが送られてきたときに、突起81aに苗マットMが当接されやすい(引っ掛かりやすい)。そのため、回転体81の滑りを防止でき、図7に示すように、苗マットMの縦送りに連動して回転体81を回転させることができる。
【0041】
また、突起81aは、側面視において、基端部から先端部にかけて回転方向の上流側に湾曲することなく、スターホイルとして形成してもよいし、側面視において、基端部から先端部にかけて回転方向の上流側に傾斜して形成され、先端部を尖形状に形成してもよい。突起81aは、先端部を尖形状に形成することで、苗マットMの下流側面又は底面に引っ掛けやすくなる。そのため、回転体81の滑りを防止でき、苗マットMの縦送りに連動して回転体81を回転させることができる。
【0042】
回転体81の回転中心には、ボス部81bが設けられる。ボス部81bには、回転方向90度毎にビス81cが設けられており、該ビス81cを近接センサ85によって検出することで、回転体81の回転数を検出するようになっている。近接センサ85にて回転体81の回転数を検出することにより、苗マットMの下方への移動量(縦送り量)を検出することができる。
また、図10図12に示すように、回転体81における苗載台33の前面(載置面の裏面)に対向する部位には、Oリング81dが設けられる。図12は、Oリング81dの機能を説明するための模式図である。
回転体81は、付勢バネ83によって上方の苗載台33の側に揺動付勢されており、苗載台33に苗マットMが載置されていないときは、図12(a)に示すように、Oリング81dが苗載台33の前面と当接し摩擦力で回転体81の回転が制止される。
図12(b)に示すように、苗載台33に苗マットMが載置されているときは、回転体81が付勢バネ83の付勢力に抗して苗マットMの底面に押し下げられて、Oリング81dが苗載台33から離間し、回転体81が回転可能になる。
以上の構成にすることで、苗載台33に苗マットMが載置されていないときに、回転体81が回転して移動量検出部80が苗マットMの下方への移動量を誤って検出するのを防止することができ、苗マットMの下方への移動量を適切に検出することができる。なお、回転体81の回転を制止する部材はOリング81dに限定されない。
【0043】
(苗マット残量の算出)
図14に示すように、苗マット残量算出部72は、苗マットMの残量が少なくなり、図14(a)に示す存否検出部90にて苗マットMの存在を検出している状態から、図14(b)に示す苗マットMの不存在を検出している状態(換言すれば、苗マットMの存在を検出していない状態)に移行すると、後述する苗継回数、及び、移動量検出部80にて検出される苗マットMの移動量等から随時推定している苗マットMの残量(以下「苗マット残量」と呼ぶ場合がある。)を予め設定された設定残量(存否検出部90の下方側近傍位置に相当する残量)に補正する。そして、図14(c)に示すように、苗マット残量算出部72は、その設定残量から移動量検出部80にて検出される苗マットMの移動量を随時減算する形態で、苗マット残量を随時算出する。
【0044】
(苗継警報制御)
図13に示すように、田植機1には、制御装置70の苗マット残量算出部72にて算出される苗マット残量が報知基準値RV(図14(c)参照)を下回ったときにオペレータに苗継を促す苗継警報を報知可能な警報ブザー等の警報部68が備えられる。また、制御装置70には、報知基準値RVを変更可能な報知基準設定部73が備えられる。前述の如く、苗マット残量算出部72は、苗載台33の載置面において、上方側の存否検出部90と下方側の移動量検出部80との間で苗マット残量を随時算出しているので、報知基準設定部73は、苗載台33の載置面における上方側の存否検出部90と下方側の移動量検出部80との間の領域L(図6参照)の適宜の位置に報知基準値RVを設定可能に構成される。具体的には、報知基準値RVを設定可能な領域Lは、上方側の存否検出部90の検出範囲の下端位置と下方側の移動量検出部80の検出範囲の上端位置との間の領域であり、苗載台33の載置面の下端から約200mm~約400mmの範囲の領域となっている。
【0045】
報知基準設定部73は、報知基準値RVを自動で変更可能に構成される。
制御装置70には、植付作業機3の作業速度等の作業内容に関する作業条件を変更可能な作業設定部74が備えられており、報知基準設定部73は、自動で報知基準値RVを変更する場合に、植付作業機3の作業条件に応じて自動で報知基準値RVを変更するように構成される。例えば、報知基準設定部73は、植付作業機3の作業条件が作業速度の速い設定であるほど報知基準値RVが大きな値(図6中の上方側の位置)になるように報知基準値RVを自動で変更するように構成される。
報知基準設定部73は、報知基準値RVを手動でも変更可能であり、その場合、例えば、オペレータがセレクトダイヤル66を用いて報知基準値RVを入力することにより、手動で報知基準値RVを変更するように構成される。
そのため、報知基準値RVを、植付作業の作業速度等の作業条件やオペレータの好み等に応じた適切な値とすることができ、植付作業の作業条件や作業者の好み等に応じた適切なタイミングで苗継警報を報知することができる。
【0046】
制御装置70により実行される苗継警報制御の制御フローについて説明を加える。
図15に示すように、植付作業中、制御装置70は、植付クラッチが「入」となっている場合(ステップ♯10のYes)において、存否検出部90にて苗マットMの存在が検出されている状態から苗マットMの存在が検出されない状態となり、苗マットMの不存在が検出されると、苗マット残量算出部72にて苗マット残量を随時算出する(ステップ♯11のYes、ステップ♯12)。
そして、苗マット残量算出部72にて算出される苗マット残量が報知基準値RV未満となって苗マット残量が報知基準値RVを下回ると、制御装置70は、警報部68から苗継警報を報知する(ステップ♯13のYes、ステップ♯14)。なお、制御装置70は、苗継警報を報知する際に、苗マット残量算出部72にて算出される苗マット残量と植付作業機3の作業条件の設定とから、植付作業を継続可能な距離を算出し、オペレータへ表示するように構成されていてもよい。
【0047】
その後、苗継警報が報知されている状態で、苗マット残量算出部72にて算出される苗マット残量が報知基準値RV以上となる第1停止条件と、存否検出部90にて苗マットMの存在が検出される第2停止条件との少なくとも1つの条件が成立すると、制御装置70は、苗継警報を停止する(ステップ♯15のYes、ステップ♯16)。そのため、苗継警報を停止させる手段を別途に設ける必要がなく、オペレータが苗継を行うだけで苗継警報を停止させることができる。
ここで、苗載台33の載置面に苗マットMを一枚置いたときに第2停止条件が満たされるようにできれば、オペレータが苗継を行うだけで苗継警報を停止させることができる。そのため、存否検出部90は、苗載台33の条毎の載置面における苗マットMを一枚置いたときに苗マットMが配置される第1領域A中の上端側など、苗載台33の載置面に苗マットMを一枚置いたとき、苗マットMと接触することで苗マットMの存在を検出可能な位置に設けられるのが望ましい。
【0048】
<苗取量制御>
次に、図16図22を用いて、植付作業において、苗載台33に置かれた苗マットMから植付作業機3にて掻き取る苗の量(苗取量)を制御する苗取量制御について説明する。本実施形態では、苗の掻取面積(縦取量及び横取量)に基づいて苗取量を制御するように構成される。
【0049】
(基準苗取量の算出及び変更)
この田植機1では、制御装置70が、入力された圃場面積と苗マット数とから植付作業機3が植え付けを行うための基準苗取量を算出可能に構成される。基準苗取量とは、所定数の苗マットMを使用して所定の圃場に植付作業を行う際に基準となる苗取量のことを指す。ここで、制御装置70は、基準苗取量として、基準掻取面積、更には、基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)を算出可能に構成される。
また、制御装置70は、植付作業中において、植付作業した実作業面積と、実作業面積に対して使用された苗マット使用数とに基づいて基準苗取量の補正量を算出し、その補正量を加味して基準苗取量を変更可能に構成される。
制御装置70は、基準苗取量を変更するに伴って基準横取量(基準横送り量)を変更する場合に、縦送り機構にて苗マットMを縦方向に搬送した後のタイミングで基準横取量(基準横送り量)を変更するように構成される。例えば、基準横取量や補正した基準横取量を複数の規定値から選択する場合には、苗マットMの一枚の横幅寸法はおおよそ決まっているので、基準横取量の規定値は、対応した所定の掻き取り回数で苗マットMの一枚を余すことなく掻き取り切れる値とされる。この場合、苗マットMの縦送りから次の縦送りまでの植付作業を一つのストロークとして、一つのストロークの間に特定の規定値に設定した基準横取量で植付作業を途中まで行った後、基準横取量を他の規定値に変更すると、その変更後の苗マット残量では、変更した他の規定値で余すことなく掻き取り切れない中途半端な横幅となっている可能性がある。そのため、一つのストロークの間を規定値で苗マットMを掻き取り切るために、ストロークの途中での基準横取量の変更は行わず、縦送り機構にて苗マットMを縦方向に搬送した後のタイミング(ストロークの開始や終了のタイミング)で基準横送り量(基準横送り量)を変更するようにしている。
【0050】
以下、図16を用いて、基準苗取量の算出及び変更について説明する。
まず、オペレータは、圃場において苗の植付作業を行う前に、セレクトダイヤル66を用いて、使用する苗マット数及び圃場面積を制御装置70に入力する。つまり、セレクトダイヤル66は、圃場面積入力手段及び苗マット数設定手段として設けられる。なお、圃場面積入力手段及び苗マット数設定手段は、前述した構成に限定されず、例えば、外部サーバーを経由して田植機1の通信部にて受信する苗マット数及び圃場面積を制御装置70に入力するように構成したり、オペレータ等のユーザーが所有するスマートフォンやタブレット等の情報端末や管理会社等から田植機1の通信部にて受信する苗マット数及び圃場面積を制御装置70に入力するように構成してもよい。
【0051】
制御装置70は、入力される苗マット数及び圃場面積に基づいて基準掻取面積を算出して、植付作業機3(具体的には、縦送り機構の設定を行うアクチュエータ56aや横送り機構の設定を行うアクチュエータ48b等)を駆動制御する。
【0052】
制御装置70は、株間設定器9aの検出値より、株数(オペレータが設定する植付間隔から算出される所定面積当たりの株数)を検出可能に構成される。そして、制御装置70は、後述のスリップ率を考慮した株数を算出可能に構成される。ここでの、スリップ率は、作業開始地点における後輪8の圃場への沈下量又は、所定の基準値から設定される。
【0053】
制御装置70は、圃場面積及び苗マット数から目標マット数(所定面積当たりの苗マット数)を算出する。そして、制御装置70は、目標マット数及び株数(スリップ率を考慮した株数でもよい)から基準掻取面積を算出し、更に、基準掻取面積と目標縦横比率から基準縦取量と基準横取量(基準横送り量)とを算出する。
【0054】
以上の構成により、制御装置70が、植付作業を行う際、基準縦取量となるようにアクチュエータ56aを駆動制御するとともに、基準横取量(基準横送り量)となるようにアクチュエータ48bを駆動制御することで、オペレータの経験や勘に頼ることなく、所望の苗マット数で所望の圃場に対して植付作業を行うことができる。
【0055】
制御装置70は、植付作業が開始されると、実際の植付作業が行われた実作業面積及び実際の植付作業に使用された苗マット使用数に基づいて基準苗取量(基準縦取量や基準横取量)を随時補正する。
具体的には、制御装置70は、実作業面積及び苗マット使用数(苗マットM消費数)に基づいて実績掻取面積を算出し、実績掻取面積と目標縦横比率から実績縦取量と実績横取量(実績横送り量)とを算出する。更に、制御装置70は、作業面積から実作業面積を減算することで算出される残作業面積と、苗マット数から苗マット使用数を減算することで算出される残苗マット数と、に基づいて目標掻取面積を算出し、目標掻取面積と目標縦横比率から目標縦取量と目標横取量(目標横送り量)とを算出する。
【0056】
そして、制御装置70は、目標縦取量から実績縦取量を減算した値を基準縦取量の補正量として、基準縦取量に加算することで基準縦取量を補正するとともに、目標横取量(目標横送り量)から実績横取量(実績横送り量)を減算した値を基準横取量(基準横送り量)の補正量として、基準横取量(基準横送り量)に加算することで基準横取量(基準横送り量)を補正し、補正後の基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)となるように植付作業機3(具体的には、アクチュエータ48b,56a)を駆動制御する。
このとき、前述の如く、制御装置70は、基準横取量(基準横送り量)を変更する場合には、縦送り機構にて苗マットMを縦方向に搬送した後のタイミングで基準横取量(基準横送り量)を変更する。なお、基準縦取量を変更する場合には、基準縦取量が補正されたタイミングで基準縦取量を変更してもよいし、基準横取量(基準横送り量)を変更するタイミングと同じタイミングで基準縦取量を変更してもよい。
【0057】
(実作業面積の算出)
図17図19を用いて、前述した実作業面積の算出について説明を加える。
実作業面積は、スリップ率を考慮した走行機体2の車速と、植付作業が行われる条数から設定される作業幅(条止め位置)と、から算出される。走行機体2の車速は、走行輪の回転数を用いて算出される。本実施形態では、後輪8の回転数を用いて算出する。後輪8の回転軸には、その回転数を検出する後輪回転数検出センサ8a(図13参照)が設けられる。制御装置70は、後輪回転数検出センサ8aと接続され、後輪8の回転数を検出可能に構成される。なお、後輪8の回転数を検出する構成は、前述した構成に限定されず、後輪8の回転に同期して回転する適宜の箇所の回転数を検出し、その回転数をギア比などを用いて後輪8の回転数に換算する構成としてもよい。
【0058】
図19に示すように、スリップ率と、走行輪(本実施形態では後輪8)の圃場への沈下量とは、一次関数的な相関関係を有している。後輪8の圃場への沈下量とは、後輪8の圃場への接地面から田面(圃場表面)までの高さを指す。後輪8の圃場への沈下量が増加するにつれて、スリップ率は一次関数的に増加する。
【0059】
図17に示すように、後輪8の圃場への沈下量は、昇降リンク機構20に設けられるポテンショセンサ等の適宜のセンサからなる植付作業機位置検出センサ71a(図13参照)及びフロート34のリンク機構39又は回動支軸38に設けられるポテンショセンサ等の適宜のセンサからなる植深さ検出センサ39a(図13参照)から算出される。
植付作業機位置検出センサ71aは、左右一対の上リンク21及び下リンク22の後端部がそれぞれ取り付けられる昇降リンクフレーム71に設けられる。
制御装置70は、植付作業機位置検出センサ71aと接続され、走行機体2に対する植付作業機3、具体的には、植付爪32の最下点の高さ(距離)を検出可能に構成される。制御装置70は、植深さ検出センサ39aと接続され、植付作業機3のフロート34の底面からの高さを検出可能に構成される。植深さ検出センサ39aにより、植付爪32の爪出量h1(植付爪32の先端部とフロート底面との距離、図17(b)参照)を検出可能に構成される。
【0060】
制御装置70は、植付作業機位置検出センサ71a及び植深さ検出センサ39aより走行機体2に対するフロート34の底面までの長さを検出する。制御装置70は、走行機体2に対する後輪8の最下点(接地面)までの長さから走行機体2に対するフロート34の底面までの長さを減算することで、後輪8の圃場への沈下量h0(図17(b)参照)を算出している。また、後輪8の圃場への沈下量は、フロート34の圃場への沈下量d(図18参照)を考慮して算出してもよい。
【0061】
図18に示すように、センサ40をさらに用いてフロート34の圃場への沈下量dを考慮した後輪8の圃場への沈下量h2を算出することができる。センサ40の揺動角度θを計測することによって、苗を植え付ける圃場表面高さを検出することができる。このように、センサ40によって圃場表面高さを検出することによって、フロート34の沈下量dを計測できる。制御装置70は、センサ40の回動支点に設けられるポテンショセンサ等の適宜の圃場表面検出センサ40a(図13参照)と接続され、圃場表面高さを検出可能に構成される。以上のように、圃場表面を追従するように設けられるセンサ40を用いることで、フロート34の圃場への沈下量dを考慮した後輪8の圃場への沈下量を正確に算出することができる。
【0062】
作業幅は、田植機1の機体幅方向の植付間隔及び植付作業が行われる条数から設定される機体幅方向の長さを指す。植付作業が行われる条数は、条毎の植付アーム31への動力の伝達を断接するユニットクラッチの断接状態により検出される。制御装置70は、ユニットクラッチの断接を検出するユニットクラッチセンサ63a(図13参照)と接続され、植付作業が行われる条数を検出可能に構成される。
【0063】
以上の構成において、後輪8の圃場への沈下量から算出されるスリップ率及び後輪8の回転数から、スリップ率を考慮した後輪8の走行距離を算出することができる。そして、スリップ率を考慮した後輪8の走行距離及び植付作業が行われる条数に応じて設定される作業幅から実作業面積は算出される。
【0064】
(苗マットMの使用数の算出)
図20図21を用いて、苗マットMの使用数の算出について説明を加える。
制御装置70は、苗載台33の苗載面に備えられる存否検出部90の検出状態、及び、移動量検出部80の検出状態に基づいて、苗を継ぎ足した苗継回数を随時検出し、検出した苗継回数と別途算出した苗マットMの圧縮率とに基づいて苗マット使用数を随時算出している。ここで、制御装置70は、植付クラッチが作動すると、存否検出部90での苗マットMの存否の検出、及び、移動量検出部80での苗マットMの移動量の検出を行うように構成される。
【0065】
苗マット使用数の算出例として、図20に示すように、苗載台33の載置面に苗マットMが二枚置かれた状態から植付クラッチを作動して植付作業を開始する場合を例に挙げて説明する。
図20(a)に示すように、植付作業を開始した際に、存否検出部90にて苗マットMの存在を検出すると、制御装置70は、苗継回数を一つ加算する(一枚目の苗マットMを検出する)。
【0066】
そして、図20(b)に示すように、一枚目の苗マットMが縦送りされることに伴って一枚目の苗マットMの上方側の二枚目の苗マットMが下端側へ縦送りされる。一枚目の苗マットMの上端位置が存否検出部90よりも下方に位置するようになっても、二枚目の苗マットMの下端側が存否検出部90に接触することで、存否検出部90は苗マットMの存在を検出している状態に維持される。このとき、制御装置70は、移動量検出部80にて検出される苗マットMの移動量(送り量)から一枚目の苗マットMの上端位置(苗マット残量)が存否検出部90よりも下方に位置すると推定される場合でも、存否検出部90にて苗マットMの存在を検出している場合に、苗継回数を一つ加算する(二枚目の苗マットMを検出する)。
【0067】
図20(c)に示すように、存否検出部90の下方側に二枚目の苗マットMが縦送りされると、存否検出部90が苗マットMを検出している状態から苗マットMを検出していない状態に遷移し、苗マットMの不存在が検出される。このとき、制御装置70は、苗載台33に載置される苗マットMの送り方向の長さ(予め計測される載置面の下端から存否検出部90までの長さであり、前述した設定残量に該当する)と、移動量検出部80の回転数から算出される苗マットMの移動量(送り量)と、を加算したものを、苗継回数分の圧縮前の苗マットMの長さ(圧縮前の苗マットMの設計上の長さ)で除することで、苗マットMの圧縮率を算定する。
なお、図21に示すように、制御装置70は、植付作業中において、存否検出部90にて苗マットMの存在を検出していない状態(図21(a)の状態)から、オペレータが苗継を行う等により、存否検出部90にて苗マットMを検出している状態(図21(b)に示す状態)に遷移した場合にも、苗継回数を一つ加算する。
【0068】
以上の構成において、制御装置70は、圧縮率を用いて、移動量検出部80にて算出される苗マットMの移動量(送り量)から圧縮前の苗マットMの長さを基準とした苗マット使用数を算出することができる。
【0069】
(実績苗取量の算出)
制御装置70は、実作業面積及び全条の苗マット使用数に基づいて実績掻取面積(実績苗取量)を算出する。制御装置70は、条毎の苗マット使用数を全て加算した苗マット使用数及び実作業面積から実績マット数(所定面積当たりの苗マット使用数)を算出する。そして、制御装置70は、実績マット数及び苗載台33の横送り回数及びスリップ率を考慮した株数から実績掻取面積を算出する。
【0070】
(目標苗取量の算出)
制御装置70は、圃場面積から実作業面積を減算することで算出される残作業面積と、苗マット数から苗マット使用数を減算することで算出される残苗マット数と、に基づいて目標掻取面積(目標苗取量)を算出する。制御装置70は、残作業面積及び残苗マット数から目標マット数(所定面積当たりの苗マット数)を算出する。そして、制御装置70は、目標マット数及び苗載台33の横送り回数及びスリップ率を考慮した株数から目標掻取面積を算出する。
【0071】
(基準苗取量の補正量の算出)
制御装置70は、実績掻取面積と目標縦横比率から実績縦取量及び実績横取量(実績横送り量)を算出するとともに、目標掻取面積と目標縦横比率から目標縦取量と目標横取量(目標横送り量)とを算出する。
そして、制御装置70は、目標縦取量から実績縦取量を減算した値を基準縦取量の補正量として、基準縦取量に加算することで基準縦取量を補正するとともに、目標横取量(目標横送り量)から実績横取量(実績横送り量)を減算した値を基準横取量(基準横送り量)の補正量として、基準横取量(基準横送り量)に加算することで基準横取量(基準横送り量)を補正し、植付作業機3(具体的には、アクチュエータ48b,56a)を駆動制御している。
【0072】
なお、以上の構成において、全条分の実作業面積及び苗マット使用数から実績掻取面積(実績苗取量)を算出し、全条分の残作業面積及び残苗マット数から目標掻取面積(目標苗取量)を算出し、実績掻取面積及び目標掻取面積ら全条分の基準苗取量の補正量を算出しているが、これに限定されず、条毎に補正量を算出し、該条毎の補正量に基づいて全条分の補正量を算出してもよい。
【0073】
その場合、制御装置70は、条毎の実作業面積及び条毎の苗マット使用数から条毎の実績マット数を算出し、該条毎の実績マット数及び苗載台33の横送り回数及びスリップ率を考慮した株数から条毎の実績掻取面積を算出し、条毎の実績掻取面積と目標縦横比率から条毎の実績縦取量と実績横取量(実績横送り量)とを算出する。
また、制御装置70は、条毎の残作業面積及び条毎の残苗マット数から条毎の目標マット数を算出し、該条毎の目標マット数及び苗載台33の横送り回数及びスリップ率を考慮した株数から条毎の目標掻取面積を算出し、条毎の目標掻取面積と目標縦横比率から条毎の目標縦取量と目標横取量(目標横送り量)とを算出する。
そして、制御装置70は、条毎に算出される目標横取量(目標横送り量)から実績横取量(実績横送り量)を減算することで条毎の基準横取量(基準横送り量)の補正量を算出し、該条毎に算出される基準横取量(基準横送り量)の補正量に基づいて全条分の基準横取量(基準横送り量)の補正量を算出する。また、制御装置70は、条毎に算出される目標縦取量から実績縦取量を減算することで条毎の基準縦取量の補正量を算出し、該条毎に算出される基準縦取量の補正量に基づいて全条分の基準縦取量の補正量を算出する。
【0074】
以上のように、植付作業中において、実際の植付作業が行われた実作業面積及び実際の植付作業に使用された苗マット使用数を算出可能とすることで、基準掻取面積(基準苗取量)を補正することができる。そのため、所望の圃場に対して所望の苗マット数で適切に植付作業を行うことができる。ゆえに、苗マットMの消費効率を向上させることができる。
【0075】
図22を用いて、苗取量制御(掻取面積制御)の制御フローについて説明する。以下では、植付クラッチが接続され、植付作業機3は作動しているものとする。苗取量制御が開始されると、スリップ率を考慮した後輪8の走行距離及び作業幅から実作業面積は随時算出されている。また、存否検出部90及び移動量検出部80の検出状態から苗継回数が随時検出されるとともに、移動量検出部80の検出状態から苗マットMの移動量(送り量)が随時算出されている。
【0076】
ステップ♯21において、制御装置70は、圃場面積及び苗マット数がセレクトダイヤル66を用いて入力されたか否かを判定する。圃場面積及び苗マット数が入力された場合、ステップ♯22に移行させる。
【0077】
ステップ♯22において、制御装置70は、圃場面積及び苗マット数に基づいて基準掻取面積を算出し、基準掻取面積と目標縦横比率に基づいて基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)を算出する。そして、基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)となるように植付作業機3(具体的には、アクチュエータ48b,56a)を駆動制御して、ステップ♯23に移行させる。
【0078】
ステップ♯23において、制御装置70は、存否検出部90が苗マットMを検出している状態から苗マットMを検出していない状態に遷移したか否かを判定する。存否検出部90にて苗マットMを検出していない状態を検出すると、ステップ♯24に移行させる。
【0079】
ステップ♯24において、制御装置70は、条毎の苗マットMの送り量と苗マットMの苗継回数とに基づいて算出される圧縮率から条毎の苗マット使用数を算出し、ステップ♯25に移行させる。
【0080】
ステップ♯25において、制御装置70は、条毎の苗マット使用数が算出されたか否かを判定する。条毎の苗マット使用数が算出されると、ステップ♯26に移行させる。
【0081】
ステップ♯26において、制御装置70は、実作業面積及び苗マット使用数に基づいて実績掻取面積を算出し、実績掻取面積及び目標縦横比率に基づいて実績縦取量及び実績横取量(実績横送り量)を算出し、ステップ♯27に移行させる。
【0082】
ステップ♯27において、制御装置70は、残作業面積及び残苗マット数に基づいて目標掻取面積を算出し、目標掻取面積及び目標縦横比率に基づいて目標縦取量及び目標横取量(目標横送り量)を算出し、ステップ♯28に移行させる。
【0083】
ステップ♯28において、制御装置70は、実績縦取量及び目標縦取量に基づいて基準縦取量の補正量を算出し、実績横取量(実績横送り量)及び目標横取量(目標横送り量)に基づいて基準横取量(基準横送り量)の補正量を算出し、ステップ♯29に移行させる。
【0084】
ステップ♯29において、制御装置70は、基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)の各補正量に基づいて基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)を補正し、補正後の基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)になるように、植付作業機3(具体的には、アクチュエータ48b,56a)を駆動制御して、ステップ♯30に移行させる。
【0085】
ステップ♯30において、制御装置70は、実作業面積が圃場面積であるか否かを判定する。実作業面積が圃場面積である場合、終了となる。実作業面積が圃場面積でない場合、ステップ♯23に移行させる。
なお、この苗取量制御(掻取面積制御)では、残作業面積、残苗マット数から基準縦取量と基準横取量の補正値を算出するので、例えば、作業終了等に伴って残作業面積だけが急に0になると、制御装置70が補正値を極大に算出してしまい、基準縦取量と基準横取量を補正するためのアクチュエータ48b,56aの駆動負荷が増大する虞がある。
そこで、制御装置70は、作業終了時に残作業面積又は残苗マット数が0になったときは作業開始時に入力された圃場面積と目標苗マット数から目標縦取量及び目標横取量(目標横送り量)を算出し、実績縦取量及び目標縦取量に基づいて基準縦取量の補正値を算出し、また実績横取量(実績横送り量)及び目標横取量(目標横送り量)に基づいて基準横取量(基準横送り量)の補正値の算出を行うようにしている。このようにすることで、作業終了時等に基準縦取量と基準横取量の補正値が極大に算出される不都合が生じるのを回避して、アクチュエータ48b,56aの駆動負荷を低減することができる。
【0086】
図23を用いて、情報端末100による植付作業の把握及び計画について説明する。
田植機1の通信部は、インターネット等の広域通信網を介して各種のデータを送受信するもので、広域通信網を介して接続される外部の情報端末100との間においてデータ通信を行うことができるように構成されている。
【0087】
図23(a)に示すように、情報端末100は、ある圃場での植付作業中において検出される、経過時間、株数、横送り回数、後輪8の沈下量、スリップ率、一株当たりの茎数、所定面積当たりの茎数、残作業面積、残苗マット数等のデータを受信して表示する。各種のデータは、植付作業中においてリアルタイムに表示してもよいし、植付作業終了時点において表示させてもよい。
【0088】
以上のように、情報端末100に各種の詳細なデータを受信可能とすることで、複数の圃場を管理している管理者等が情報端末100を用いて、各圃場毎の作業状況等を把握することができる。
【0089】
図23(b)に示すように、所定面積当たりの茎数及び収量の関係や、株数及び収量の関係、を表示させてもよい。この場合、収量の内訳を整粒とくず米との比率を示すことで、次期の計画に役立てることができる。
【0090】
また、予め圃場の所定面積当たりの収量を見越して、所定面積当たりの株数及び苗マット数を設定する際に、各種の情報を情報端末100に入力して、必要マット数及び株数等のシミュレーションを行うことができる。そのため、管理者は、苗の移植段階、もしくは、苗マットMの育成段階から計画を立てることができ、必要マット数及び株数等を適切に設定することができる。
【0091】
[第2実施形態]
前述の第1実施形態では、制御装置70が、基準掻取面積(基準苗取量)を変更する場合に、基準縦取量の変更と基準横取量(基準横送り量)の変更との間に特に優先順位が設定されていなかったが、第2実施形態では、制御装置70が、基準掻取面積(基準苗取量)を変更する場合に、基準横取量(基準横送り量)の変更よりも基準縦取量の変更を優先するように構成されている。
なお、第2実施形態の田植機1は、基準掻取面積(基準苗取量)の変更方法以外は第1実施形態と同一であり、植付作業中において、植付作業の作業速度等の作業条件や作業者の好み等に応じたタイミングで警報部68から苗継警報を報知することができる。
以下、第1実施形態と同一の部分は説明を省略し、第1実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0092】
制御装置70は、基準掻取面積(基準苗取量)を変更する場合に、基準縦取量が所定の範囲を超えないときは基準苗取量における基準縦取量のみを変更可能であり、基準縦取量が所定の範囲を超えるときは基準苗取量における基準縦取量と基準横取量(基準横送り量)とを変更可能に構成されている。
ここで、縦取量の所定の範囲は、例えば、縦取量の設定を行うアクチュエータ56aの駆動範囲(上限下限の範囲)に基づいて設定したり、縦取量に対して横取量が極端に小さい又は縦取量に対して横取量が極端に大きいために掻取形状が正方形よりも長方形に近くなる縦横比の範囲に基づいて設定することができる。縦取量が所定の範囲を超えると、例えば、算出した目標縦取量が縦取量の設定可能な上限値を上回って縦取量を目標縦取量に設定できない、あるいは、縦取量の設定に対して横取量の設定が極端に大きい又は極端に小さくなり、植付爪32による苗マットMの掻き取りが上手くいかず、苗の取りこぼし、苗のすっぽ抜けによる欠株、植え付けた苗の姿勢が悪くなるなどの弊害が生じる可能性があるためである。
【0093】
制御装置70は、例えば、植付作業中において基準縦取量と基準横取量の補正量を算出する場合に、その時点で実際に設定されている基準横取量は固定した状態で、目標掻取面積を実現可能な目標縦取量を算出する。
そして、制御装置70は、このように算出した目標縦取量が所定の範囲を超えないときは、目標縦取量から実績縦取量を減算した値を基準縦取量の補正量として、基準縦取量に加算することで基準縦取量のみを補正し、植付作業機3(具体的には、アクチュエータ56a)を駆動制御する。
【0094】
他方、制御装置70は、このように算出した目標縦取量が所定の範囲を超えるときは、前述の第1実施形態と同様の算出方法にて基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)の各補正量を算出し、基準縦取量の補正量を基準縦取量に加算することで基準縦取量を補正するとともに、基準横取量(基準横送り量)の補正量を基準横取量(基準横送り量)に加算することで基準横取量(基準横送り量)を補正し、植付作業機3(具体的には、アクチュエータ48b,56a)を駆動制御する。
【0095】
なお、制御装置70は、算出した目標縦取量が所定の範囲を超える場合に、例えば、その時点で実際に設定されている基準横取量(基準横送り量)を一段階増量した横取量(横送量)に目標横取量(目標横送り量)を固定した状態で、目標掻取面積を実現可能な目標縦取量を算出してもよい。また、例えば、目標縦取量を最大量に固定した状態で、目標掻取面積を実現可能な目標横取量(目標横送り量)を算出してもよい。それらの場合、目標縦取量及び目標横取量(目標横送り量)と実績縦取量及び実績横取量(目標横送り量)から基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)の各補正量を算出し、基準縦取量及び基準横取量(基準横送り量)を補正し、植付作業機3(具体的には、アクチュエータ48b,56a)を駆動制御する。
【0096】
[第3実施形態]
前述の第1、第2実施形態では、制御装置70により実行される苗取量制御として、苗の掻取面積(縦取量及び横取量)に基づいて苗取量を制御する制御方式を例に示したが、この第3実施形態では、苗の縦取量のみに基づいて苗取量を制御する制御方式を採用している。
なお、第3実施形態の田植機1は、苗取量制御以外は第1実施形態と同一であり、植付作業中において植付作業の作業速度等の作業条件や作業者の好み等に応じたタイミングで警報部68から苗継警報を報知することができる。
以下、第1実施形態と同一の部分は説明を省略し、第1実施形態と異なる部分のみを説明する。
まず、図24を用いて、苗の縦取量のみに基づいて苗取量を制御する苗取量制御(縦取量制御)について説明を加える。
【0097】
オペレータは、圃場において苗の植付作業を行う前に、セレクトダイヤル66を用いて、使用する苗マット数及び圃場面積を制御装置70に入力する。制御装置70は、入力される苗マット数及び圃場面積に基づいて基準縦取量を算出して、アクチュエータ56aを駆動制御する。制御装置70は、株間設定器9aの検出値より、株数(オペレータが設定する植付間隔から算出される所定面積当たりの株数)を検出可能に構成される。そして、制御装置70は、後述のスリップ率を考慮した株数を算出可能に構成される。ここでの、スリップ率は、作業開始地点における後輪8の圃場への沈下量又は、所定の基準値から設定される。
【0098】
制御装置70は、圃場面積及び苗マット数から目標マット数(所定面積当たりの苗マット数)を算出する。そして、制御装置70は、目標マット数及び苗載台33の横送り回数及び株数(スリップ率を考慮した株数でもよい)から基準縦取量を算出する。
【0099】
以上の構成において、基準縦取量となるようにアクチュエータ56aを駆動制御することで、オペレータの経験や勘に頼ることなく、所望の苗マット数で所望の圃場に対して植付作業を行う際に必要な縦取量を設定することができる。
【0100】
制御装置70は、植付作業が開始されると、実際の植付作業が行われた実作業面積及び実際の植付作業に使用された苗マット使用数に基づいて基準縦取量を随時補正する。具体的には、制御装置70は、実作業面積及び苗マット使用数に基づいて実績縦取量を算出する。そして、制御装置70は、作業面積から実作業面積を減算することで算出される残作業面積と、苗マット数から苗マット使用数を減算することで算出される残苗マット数と、に基づいて目標縦取量を算出する。制御装置70は、目標縦取量から実績縦取量を減算した値を補正量として、基準縦取量に加算することで基準縦取量を補正している。
【0101】
図25を用いて、苗取量制御(縦取量制御)の制御フローについて説明する。以下では、植付クラッチが接続され、植付作業機3は作動しているものとする。苗取量制御が開始されると、スリップ率を考慮した後輪8の走行距離及び作業幅から実作業面積は随時算出されている。また、存否検出部90及び移動量検出部80の検出状態から苗継回数が随時検出されるとともに、移動量検出部80の検出状態から苗マットMの移動量(送り量)が随時算出されている。
【0102】
ステップ♯31において、制御装置70は、圃場面積及び苗マット数がセレクトダイヤル66を用いて入力されたか否かを判定する。圃場面積及び苗マット数が入力された場合、ステップ♯32に移行させる。
【0103】
ステップ♯32において、制御装置70は、圃場面積及び苗マット数に基づいて算出される基準縦取量となるように、アクチュエータ56aを駆動制御して、ステップ♯33に移行させる。
【0104】
ステップ♯33において、制御装置70は、存否検出部90が苗マットMを検出している状態から苗マットMを検出していない状態に遷移したか否かを判定する。存否検出部90にて苗マットMを検出していない状態を検出すると、ステップ♯34に移行させる。
【0105】
ステップ♯34において、制御装置70は、条毎の苗マットMの送り量と苗マットMの苗継回数とに基づいて算出される圧縮率から条毎の苗マット使用数を算出し、ステップ♯35に移行させる。
【0106】
ステップ♯35において、制御装置70は、条毎の苗マット使用数が算出されたか否かを判定する。苗マット使用数が算出されると、ステップ♯36に移行させる。
【0107】
ステップ♯36において、制御装置70は、実作業面積及び苗マット使用数に基づいて実績縦取量を算出して、ステップ♯37に移行させる。
【0108】
ステップ♯37において、制御装置70は、残作業面積及び残苗マット数に基づいて目標縦取量を算出して、ステップ♯38に移行させる。
【0109】
ステップ♯38において、制御装置70は、実績縦取量及び目標縦取量に基づいて基準縦取量の補正量を算出し、ステップ♯39に移行させる。
【0110】
ステップ♯39において、制御装置70は、基準縦取量の補正量に基づいて基準縦取量を補正し、補正後の基準縦取量となるようにアクチュエータ56aを駆動制御して、ステップ♯40に移行させる。
【0111】
ステップ♯40において、制御装置70は、実作業面積が圃場面積であるか否かを判定する。実作業面積が圃場面積である場合、終了となる。実作業面積が圃場面積でない場合、ステップ♯33に移行させる。
【0112】
〔別実施形態〕
本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0113】
(1)前述の実施形態では、移動量検出部80において、回転体81のボス部81bに設けられるビス81cを近接センサ85によって検出することで、回転体81の回転数を検出していたが、これに限定されない。
【0114】
例えば、図26に示すように、回転体81には、回転体81とともに回転する楕円形状のカム88Aと、カム88Aの回転に伴ってオンオフを繰り返すマイクロスイッチ88Bと、が設けられる。マイクロスイッチ88Bは、カム88Aの短径端とアーム88bが当接している状態ではオンとなり、カム88Aの長径端とアーム88bが当接している状態ではオフとなるように配置される。以上の構成において、90度毎にマイクロスイッチ88Bがオンとオフとを繰り返すことで回転体81の回転数を検出することができる。
【0115】
また、以上の構成の他にも、回転体81の回転軸にロータリエンコーダを取り付けて、回転体81の回転数(回転角度)を算出してもよいし、回転体81の回転軸にポテンショセンサを取り付けて、回転体81の回転数(回転角度)を算出してもよい。
【0116】
また、苗マットMの移動量検出部80を構成するのに回転体81が用いられているが、これに限定されない。接触式の測定方法では、静電容量式のゲージ、ロードセル等が考えられる。静電容量式のゲージは、例えば、載置面全域に設置されることで、苗載台33の苗マットMの送り量及び残量を正確に測定することができる。また、ロードセルは、例えば、苗載台33の支持部材に取り付けられることで、載置面に載置される苗マットMの荷重に基づいて苗マットMの送り量を検出することができる。
【0117】
また、非接触式の測定方法では、レーザ距離計、カメラの撮影画像の画像処理、光学式センサ、明度センサ等が考えられる。レーザ距離計は、例えば、載置面の上方側から載置される苗マットMの上端面までの距離を計測することができるように設けられることで、苗マットMの送り量を検出することができる。また、カメラは、例えば、載置面に載置される苗マットMを撮影可能に設けられることで、撮影した画像を画像処理することによって、苗マットMの送り量を検出することができる。光学センサは、例えば、発光部と、発光部からの光線が苗マットMによって遮断されたことを検出する受光部と、から構成されることで、苗マットMの送り量を検出することができる。
【0118】
(2)存否検出部90の具体的構成は、前述の実施形態で示した構成に限らず、種々の構成変更が可能である。例えば、存否検出部90を、移動量検出部80と同一の構成としてもよい。その場合、存否検出部90は、苗マットMの移動を検出することで苗マットMの存在を検出することができ、苗マットMの移動を検出しないことで苗マットMの不存在を検出することができる。
【0119】
〔発明の付記〕
本発明の第1特徴構成は、苗載台に載置されている苗マットから苗を掻き取って圃場に植え付け可能で、且つ、苗マットから掻き取る苗取量を変更可能に構成された植付作業機と、
植付作業を行う圃場面積と前記圃場面積に使用する苗マット数とを入力可能な制御装置と、を備え、
前記制御装置は、入力された前記圃場面積と前記苗マット数とから前記植付作業機が植え付けを行う基準苗取量を算出することを特徴とする点にある。
【0120】
本構成によれば、制御装置は、植付作業を行う圃場面積と前記圃場面積に使用する苗マット数とから植付作業機が植え付けを行う基準苗取量を算出することができる。そして、その算出した基準苗取量に植付作業機の苗取量を調節することで、所望の圃場に対して準備していた苗マットを過不足なく使用するなど、所望の圃場に対して所望の苗マット数にて適切に植付作業を行うことができる。
【0121】
本発明の第2特徴構成は、前記制御装置は、植付作業した実作業面積及び実作業面積に対して使用された苗マット使用数に基づいて前記基準苗取量の補正量を算出し、その補正量を加味して前記基準苗取量を変更することを特徴とする点にある。
【0122】
植付作業を行う圃場面積と、その圃場面積に使用する苗マット数とから算出した苗取量にて植付作業を行っても、例えば、苗マットの状態や圃場の状態等の要因により、植付作業した実作業面積に対して実際の苗マット使用数が予定していた苗マット使用数とは異なることも考えられる。
これに対して、本構成によれば、制御装置は、植付作業した実作業面積及び実作業面積に対して使用された苗マット使用数に基づいて基準苗取量の補正量を算出し、その補正量を加味して基準苗取量を自動的に変更するので、植付作業した実作業面積に対して実際の苗マット使用数が予定していた苗マット使用数と異なる場合に自動的に基準苗取量を修正することができる。よって、所望の圃場に対して所望の苗マット数にて一層適切に植付作業を行うことができる。
【0123】
前記植付作業機は、前記苗載台の縦方向での苗取量である縦取量と、前記苗載台の横方向での苗取量である横取量とを変更可能であり、
前記制御装置は、前記基準苗取量を変更する場合に、前記縦取量と、前記横取量を変更して前記基準苗取量を変更することを特徴とする点にある。
【0124】
本構成によれば、基準苗取量を変更する場合に、縦取量と横取量の両方を変更するので、縦取量の変更と横取量の変更を組み合わせて基準苗取量を適切な量に変更することができる。
【0125】
本発明の第4特徴構成は、前記植付作業機は、前記苗載台の縦方向での苗取量である縦取量と、前記苗載台の横方向での苗取量である横取量とを変更可能であり、
前記制御装置は、前記基準苗取量を変更する場合に、前記縦取量が所定の範囲を超えないときは前記基準苗取量における前記縦取量のみを変更可能であり、前記縦取量が所定の範囲を超えるときは前記基準苗取量における前記縦取量と前記横取量とを変更可能であることを特徴とする点にある。
【0126】
この種の苗移植機では、縦取量の変更は、例えば、苗載台を昇降させて苗マットに対する苗植付作業機の植付爪の縦方向での位置を変更することなどにより比較的容易に行うことができる。他方、横取量の変更は、例えば、横送り機構による苗載台の横送り回数(横送り速度)を変更することが必要となるなど、縦取量の変更ほどは容易に行えない。
本構成によれば、基準苗取量を変更する場合に、縦取量が所定の範囲を超えないときは縦取量のみを変更して基準苗取量を容易に変更することができる。それでいて、縦取量が所定の範囲を超えるときは縦取量と横取量を変更して基準苗取量を適切な量に変更することができる。
【0127】
本発明の第5特徴構成は、前記植付作業機は、前記苗載台に載置されている苗マットを縦方向に間欠搬送する縦送り機構と、前記苗載台を横方向に往復移動させる横送り機構と、を備え、
前記植付作業機は、前記横送り機構による前記苗載台の移動速度を変更することで前記横取量を変更可能であり、
前記制御装置は、前記植付作業機が植え付けを行う苗取量が前記基準苗取量となるように前記植付作業機を駆動制御可能であり、
前記制御装置は、前記基準苗取量を変更するに伴って前記横取量を変更する場合に、前記縦送り機構にて苗マットを縦方向に搬送した後に前記横取量を変更することを特徴とする点にある。
【0128】
本構成によれば、植付作業機は、横送り機構にて苗載台を横方向に往復移動させて苗マットから苗を横方向に順次に掻き取って苗を植え付けながら、当該横送り機構による横送り方向の反転時に縦送り機構にて苗マットを縦方向に所定の距離だけ搬送することができる。
また、制御装置は、植付作業機による苗取量が基準苗取量となるように植付作業機を駆動制御可能であるので、基準縦取量の算出や変更を行った場合に、植付作業機による苗取量を自動的に基準縦取量に変更することができる。
そして、制御装置は、基準苗取量を変更するに伴って横取量を変更する場合に、縦送り機構にて苗マットを縦方向に搬送した後に横取量を変更するので、横送り機構による横送りの途中で横取量が変更されることがなく、横送り機構による横送りの途中で横取量が変更されることで、例えば、苗マットの幅方向において最後に掻き取る部分の横取量に過不足が生じる等の不都合を未然に回避することができる。
【0129】
本発明の一態様に係る苗移植機は、植付作業機と、制御装置と、を備える。前記植付作業機は、苗載台に載置されている苗マットから苗を掻き取って圃場に植え付け可能で、且つ、苗マットから掻き取る苗取量を変更可能に構成される。前記制御装置は、植付作業を行う圃場面積と前記圃場面積に使用する苗マット数とを入力可能である。前記制御装置は、入力された前記圃場面積と前記苗マット数とから前記植付作業機が植え付けを行う基準苗取量を算出する。前記制御装置は、植付作業した実作業面積及び実作業面積に対して使用された苗マット使用数に基づく補正量を加味して前記基準苗取量を変更可能である。
【符号の説明】
【0130】
1 田植機(苗移植機)
3 植付作業機
33 苗載台
68 警報部
70 制御装置
72 苗マット残量算出部
73 報知基準設定部
74 作業設定部
80 移動量検出部
90 存否検出部
A 第1領域
RV 報知基準値
図1
図2
図3
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