(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】自動走行制御システム及び自律走行制御方法
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
(21)【出願番号】P 2023083709
(22)【出願日】2023-05-22
(62)【分割の表示】P 2019212796の分割
【原出願日】2019-11-26
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】西井 康人
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0331423(US,A1)
【文献】特開2016-31649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
G05D 105/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枕地で作業するための経路であって、複数の辺部から形成された周縁により囲まれた圃場内に前記周縁と平行に設定された
補助経路に沿って作業車両を自律走行させる走行制御部と、
複数の前記辺部から選択された選択辺部に対して平行に前記
補助経路を作成する
補助経路作成部と、を備える、
自律走行制御システム。
【請求項2】
前記作業車両の走行方向を車両向きとして取得する方位検出部と、
それぞれの前記辺部と前記車両向きとがなす角度を決定用角度として算出する決定用角度算出部と、
前記決定用角度に基づいて前記選択辺部を自動的に決定する
補助経路作成辺決定部と、を更に備える、
請求項1に記載の自律走行制御システム。
【請求項3】
前記作業車両の走行位置を車両位置として取得する測位部と、
それぞれの前記辺部と前記作業車両の前記車両位置との距離を決定用距離として算出する決定用距離算出部と、
前記決定用距離に基づいて前記選択辺部を自動的に決定する
補助経路作成辺決定部と、を更に備える、
請求項1に記載の自律走行制御システム。
【請求項4】
枕地で作業するための経路であって、複数の辺部から形成された周縁により囲まれた圃場内に前記周縁と平行に設定された
補助経路に沿って作業車両を自律走行させ、
複数の前記辺部から選択された選択辺部に対して平行に前記
補助経路を作成する、
自律走行制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両を経路に沿って走行させる自律走行制御システム及び自律走行制御方法に関し、詳細には、枕地領域内で作成される補助経路に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場に対して作業車両によって作業を行う場合、当該圃場が、作業車両を主に直進走行させて作業を行う作業領域と、作業領域の周囲にあって例えば作業車両を旋回させるための枕地領域と、に区分されることがある。特許文献1は、この種の作業領域と枕地領域の両方において、作業車両を自律走行させるための経路を作成する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1には、枕地領域用の経路の具体的な作成方法又は具体的な使用方法について詳細に記載されていない。枕地領域は作業領域とは異なる特徴を有しているため、作業領域での経路作成方法又は使用方法を単純に適用することができない。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、枕地領域における枕地走行補助経路をシンプルかつ分かり易く作成できる自律走行制御システム及び自律走行制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
一態様に係る自律走行制御システムは、走行制御部と、補助経路作成部と、を備える。前記走行制御部は、複数の辺部から形成された周縁により囲まれた圃場内に設定された補助経路に沿って作業車両を自律走行させる。前記補助経路作成部は、複数の前記辺部から選択された選択辺部に基づいて前記補助経路を作成する。
【0008】
一態様に係る自律走行制御方法は、複数の辺部から形成された周縁により囲まれた圃場内に設定された補助経路に沿って作業車両を自律走行させ、複数の前記辺部から選択された選択辺部に基づいて前記補助経路を作成する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自律走行制御システムで用いられるトラクタの全体的な構成を示す側面図。
【
図3】自律走行制御システムの主要な構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る自律走行制御システム100で用いられるトラクタ1の全体的な構成を示す側面図である。
図2は、トラクタ1の平面図である。
図3は、自律走行制御システム100の主要な構成を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態の自律走行制御システム100は、圃場で作業車両を自律的に走行させて、作業の全部又は一部を実行させるものである。本実施形態では、作業車両としてトラクタ1を例に説明するが、作業車両としては、トラクタ1の他、田植機、コンバイン、土木・建設作業装置、除雪車等、乗用型作業機に加え、歩行型作業機も含まれる。
【0012】
本明細書において自律走行とは、トラクタ1が備える制御部(ECU)によりトラクタ1が備える走行に関する構成が制御されて、予め定められた経路に沿ってトラクタ1が自律的に走行することを意味し、自律作業とは、トラクタ1が備える作業に関する構成が前記制御部により制御されて、予め定められた経路に沿ってトラクタ1が自律的に作業を行うことを意味する。自律走行及び自律作業には、トラクタ1に人が乗っている場合と、トラクタ1に人が乗っていない場合が含まれる。これに対して、手動走行・手動作業とは、トラクタ1が備える各構成がオペレータにより操作され、走行・作業が行われることを意味する。
【0013】
図1に示すトラクタ1は、自律走行制御システム100で用いられ、無線通信端末46との間で無線通信を行うことにより操作される。トラクタ1は、圃場内を自律走行することが可能な走行機体2を備える。走行機体2には、例えば農作業を行うための作業機3が着脱可能に取り付けられている。
【0014】
この作業機3としては、例えば、耕耘機、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等の種々の作業機を挙げることができる。これらの中から必要に応じて所望の作業機3を選択して走行機体2に装着することができる。走行機体2は、装着された作業機3の高さ及び姿勢を変更可能に構成されている。
【0015】
図1及び
図2には、作業機3として耕耘機が走行機体2に装着された例が示されている。耕耘機はカバー3aの内側に耕耘爪3bが配置されており、この耕耘爪3bが車幅方向を回転中心として回転することによって圃場を耕耘する。ここで、作業機3が作業を行う幅(車幅方向の長さ)を作業幅W1と称し、作業機3の車幅方向の長さを作業機幅W2と称する。
図2に示す形状の耕耘機では、耕耘爪3bの幅が作業幅W1に相当し、カバー3aの幅が作業機幅W2に相当する。耕耘機では、カバー3aの内側に耕耘爪3bが配置されているため、作業幅W1<作業機幅W2となる。しかし、これに限定されず、例えば幅方向に広がるように薬剤を散布する施肥機の場合、作業幅W1>作業機幅W2となることもある。
【0016】
続いて、トラクタ1の構成について、
図1及び
図2を参照してより詳細に説明する。トラクタ1の走行機体2は、
図1に示すように、その前部が左右1対の前輪7,7で支持され、その後部が左右1対の後輪8,8で支持されている。
【0017】
走行機体2の前部にはボンネット9が配置されている。このボンネット9内には、トラクタ1の駆動源であるエンジン10及び燃料タンク(図略)が収容されている。このエンジン10は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成してもよい。また、駆動源としては、エンジンに加えて、又はこれに代えて、電気モータを使用してもよい。
【0018】
ボンネット9の後方には、オペレータが搭乗するためのキャビン11が配置されている。このキャビン11の内部には、オペレータが操舵を行うためのステアリングハンドル12と、オペレータが着座可能な座席13と、各種の操作を行うための様々な操作装置と、が主として設けられている。ただし、トラクタ1等の作業車両は、キャビン11を備えていてもよいし、キャビン11を備えていなくてもよい。
【0019】
上記の操作装置としては、
図2に示すモニタ装置14、スロットルレバー15、主変速レバー27、複数の油圧操作レバー16、PTOスイッチ17、PTO変速レバー18、副変速レバー19、前後進切換レバー25、パーキングブレーキ26、作業機昇降スイッチ28等を例として挙げることができる。これらの操作装置は、座席13の近傍、又はステアリングハンドル12の近傍に配置されている。
【0020】
モニタ装置14は、トラクタ1の様々な情報を表示可能に構成されている。スロットルレバー15は、エンジン10の回転速度を設定するための操作具である。主変速レバー27は、トラクタ1の走行速度を無段階で変更するための操作具である。油圧操作レバー16は、図略の油圧外部取出バルブを切換操作するための操作具である。PTOスイッチ17は、トランスミッション22の後端から突出した図略のPTO軸(動力取出軸)への動力の伝達/遮断を切換操作するための操作具である。即ち、PTOスイッチ17がON状態であるときPTO軸に動力が伝達されてPTO軸が回転し、作業機3が駆動される一方、PTOスイッチ17がOFF状態であるときPTO軸への動力が遮断されてPTO軸が回転せず、作業機3が停止される。PTO変速レバー18は、作業機3に入力される動力の変更操作を行うものであり、具体的にはPTO軸の回転速度の変速操作を行うための操作具である。副変速レバー19は、トランスミッション22内の走行副変速ギア機構の変速比を切り換えるための操作具である。前後進切換レバー25は、前進位置、中立位置、後進位置の間で切換可能に構成されている。前後進切換レバー25が前進位置に位置する場合、エンジン10の動力が後輪8に伝達されることでトラクタ1が前進する。前後進切換レバー25が中立位置に位置する場合、トラクタ1は前進も後進も行わない。前後進切換レバー25が後進位置に位置する場合、エンジン10の動力が後輪8に伝達されることでトラクタ1が後進する。パーキングブレーキ26は、オペレータが手で操作して制動力を発生させる操作具であり、例えばトラクタ1をしばらく停車させる場合等に用いられる。作業機昇降スイッチ28は、走行機体2に装着された作業機3の高さを所定範囲内で昇降操作するための操作具である。
【0021】
図1に示すように、走行機体2の下部には、トラクタ1のシャーシ20が設けられている。当該シャーシ20は、機体フレーム21、トランスミッション22、フロントアクスル23、及びリアアクスル24等から構成されている。
【0022】
機体フレーム21は、トラクタ1の前部における支持部材であって、直接、又は防振部材等を介してエンジン10を支持している。トランスミッション22は、エンジン10からの動力を変化させてフロントアクスル23及びリアアクスル24に伝達する。フロントアクスル23は、トランスミッション22から入力された動力を前輪7に伝達するように構成されている。リアアクスル24は、トランスミッション22から入力された動力を後輪8に伝達するように構成されている。
【0023】
図3に示すように、トラクタ1は、制御部4を備える。制御部4は公知のコンピュータとして構成されており、図示しないCPU等の演算装置、不揮発性メモリ等の記憶装置、及び入出力部等を備える。記憶装置には、各種のプログラム及びトラクタ1の制御に関するデータ等が記憶されている。演算装置は、各種のプログラムを記憶装置から読み出して実行することができる。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部4を走行制御部4a及び作業機制御部4bとして動作させることができる。走行制御部4aは、走行機体2の走行(前進、後進、停止及び旋回等)を制御する。作業機制御部4bは、作業機3の動作(昇降、駆動及び停止等)を制御する。なお、制御部4は、これら以外の制御(例えば、撮影した画像の解析等)を行うこともできる。また、制御部4は、1つのコンピュータから構成されていてもよいし、複数のコンピュータから構成されていてもよい。
【0024】
走行制御部4aは、トラクタ1の車速を制御する車速制御と、トラクタ1を操舵する操舵制御と、を行う。制御部4は、車速制御を行う場合、エンジン10の回転速度及びトランスミッション22の変速比の少なくとも一方を制御する。
【0025】
具体的には、エンジン10には、当該エンジン10の回転速度を変更させる図略のアクチュエータを備えたガバナ装置41が設けられている。走行制御部4aは、ガバナ装置41を制御することで、エンジン10の回転速度を制御することができる。また、エンジン10には、エンジン10の燃焼室内に噴射(供給)するための燃料の噴射時期・噴射量を調整する燃料噴射装置45が付設されている。走行制御部4aは、燃料噴射装置45を制御することで、例えばエンジン10への燃料の供給を停止させ、エンジン10の駆動を停止させることができる。
【0026】
また、トランスミッション22には、例えば可動斜板式の油圧式無段変速装置である変速装置42が設けられている。走行制御部4aは、変速装置42の斜板の角度を図略のアクチュエータによって変更することで、トランスミッション22の変速比を変更する。以上の処理を行うことにより、トラクタ1が目標の車速に変更される。
【0027】
走行制御部4aは、操舵制御を行う場合、ステアリングハンドル12の回動角度を制御する。具体的には、ステアリングハンドル12の回転軸(ステアリングシャフト)の中途部には、操舵アクチュエータ43が設けられている。この構成で、予め定められた経路をトラクタ1が走行する場合、制御部4は、当該経路に沿ってトラクタ1が走行するようにステアリングハンドル12の適切な回動角度を計算し、得られた回動角度となるように操舵アクチュエータ43を駆動し、ステアリングハンドル12の回動角度を制御する。
【0028】
作業機制御部4bは、作業実行条件を満たすか否かに基づいて、PTOスイッチ17を制御することで、作業機3の駆動と停止を切り替える。また、作業機制御部4bは、作業機3の昇降を制御する。
【0029】
具体的には、トラクタ1は、作業機3を走行機体2に連結している3点リンク機構の近傍に、油圧シリンダ等からなる昇降アクチュエータ44を備えている。作業機制御部4bが昇降アクチュエータ44を駆動して作業機3を適宜に昇降動作させることにより、所望の高さで作業機3による作業を行うことができる。
【0030】
上述のような制御部4を備えるトラクタ1は、オペレータがキャビン11内に搭乗して各種操作をしなくとも、当該制御部4によりトラクタ1の各部(走行機体2、作業機3等)を制御して、圃場内を自律走行しながら自律作業を行うことができる。
【0031】
次に、自律走行を行うために必要な情報を取得する構成について説明する。具体的には、本実施形態のトラクタ1は、
図3等に示すように、測位用アンテナ6、無線通信用アンテナ48、前方カメラ56、後方カメラ57、車速センサ53、及び舵角センサ52等を備える。また、これらに加えて、トラクタ1には、走行機体2の姿勢及び走行方向(車両向き)をロール角、ピッチ角、ヨー角を算出することによって特定することが可能な慣性計測ユニット(IMU:方位検出部)58が備えられている。
【0032】
測位用アンテナ6は、例えば衛星測位システム(GNSS)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信するものである。
図1に示すように、測位用アンテナ6は、トラクタ1のキャビン11のルーフ5の上面に取り付けられている。測位用アンテナ6で受信された測位信号は、
図3に示す位置情報取得部(測位部)49に入力される。位置情報取得部49は、トラクタ1の走行機体2(厳密には、測位用アンテナ6)の位置情報を、例えば緯度・経度情報として算出し、取得する。当該位置情報取得部49で取得された位置情報は、制御部4に入力されて、自律走行、後述の選択辺部の決定等に利用される。
【0033】
なお、本実施形態ではGNSS-RTK法を利用した高精度の衛星測位システムが用いられているが、これに限るものではなく、高精度の位置座標が得られる限りにおいて他の測位システムを用いてもよい。例えば、相対測位方式(DGPS)、又は静止衛星型衛星航法補強システム(SBAS)を使用することが考えられる。
【0034】
無線通信用アンテナ48は、オペレータが操作する無線通信端末46からの信号を受信したり、無線通信端末46への信号を送信したりするものである。
図1に示すように、無線通信用アンテナ48は、トラクタ1のキャビン11が備えるルーフ5の上面に取り付けられている。無線通信用アンテナ48で受信した無線通信端末46からの信号は、
図3に示す無線通信部40で信号処理された後、制御部4に入力される。また、制御部4等から無線通信端末46に送信する信号は、無線通信部40で信号処理された後、無線通信用アンテナ48から送信されて無線通信端末46で受信される。
【0035】
前方カメラ56はトラクタ1の前方を撮影するものである。後方カメラ57はトラクタ1の後方を撮影するものである。前方カメラ56及び後方カメラ57はトラクタ1のルーフ5に取り付けられている。前方カメラ56及び後方カメラ57で撮影された動画データは、無線通信部40により、無線通信用アンテナ48から無線通信端末46に送信される。動画データを受信した無線通信端末46は、その内容をディスプレイ61に表示する。
【0036】
上記の車速センサ53は、トラクタ1の車速を検出するものであり、例えば前輪7,7の間の車軸に設けられる。車速センサ53で得られた検出結果のデータは、制御部4へ出力される。なお、トラクタ1の車速は車速センサ53で検出せずに、測位用アンテナ6に基づいて所定距離におけるトラクタ1の移動時間に基づいて算出してもよい。
【0037】
舵角センサ52は、前輪7,7の舵角を検出するセンサである。本実施形態において、舵角センサ52は前輪7,7に設けられた図示しないキングピンに備えられている。舵角センサ52で得られた検出結果のデータは、制御部4へ出力される。なお、舵角センサ52をステアリングシャフトに備える構成としてもよい。
【0038】
無線通信端末46は、例えば、タブレット型のパーソナルコンピュータとして構成される。オペレータは、無線通信端末46のディスプレイ(表示部)61に表示された情報を参照して確認することができる。また、オペレータは、ディスプレイ61を覆うように配置された図略のタッチパネル、ディスプレイ61の近傍に図略のハードウェアキー等を操作して、トラクタ1の制御部4に、トラクタ1を制御するための制御信号(例えば、自動走行スタート信号、自動走行停止信号等)を送信することができる。
【0039】
無線通信端末46は、タブレット型のパーソナルコンピュータとして構成されることに限定されず、例えばノード型のパーソナルコンピュータや、スマートフォン等で構成されても良い。なお、トラクタ1にオペレータが搭乗した状態でトラクタ1に自律走行を行わせる場合は、トラクタ1側(例えば制御部4)に無線通信端末46と同じ機能を持たせてもよい。
【0040】
以下では、
図3等を参照して、自律走行制御システム100が備える無線通信端末46の構成を詳細に説明する。
【0041】
図3に示すように、無線通信端末46は、ディスプレイ61と、端末通信部62と、決定用距離算出部63と、決定用角度算出部64と、圃場情報設定部65と、作業領域設定部66と、作業経路生成部67と、枕地走行補助経路作成部68と、補助経路作成辺決定部69と、補助経路作成辺ロック部70と、を備える。
【0042】
無線通信端末46は、図示しないCPU等の演算装置、不揮発性メモリ等の記憶装置、及び入出力部等を備える。記憶装置には、各種のプログラム及び走行経路に関するデータ等が記憶されている。演算装置は、各種のプログラムを記憶装置から読み出して実行することができる。上記記憶装置は、無線通信端末46の端末記憶部(圃場情報記憶部)60を構成する。
【0043】
上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、無線通信端末46を端末通信部62、決定用距離算出部63、決定用角度算出部64、圃場情報設定部65、作業領域設定部66、作業経路生成部67、枕地走行補助経路作成部68、補助経路作成辺決定部69、及び補助経路作成辺ロック部70として動作させることができる。
【0044】
端末通信部62は、トラクタ1側との間で通信を行うためのものである。無線通信端末46は、端末通信部62を介してトラクタ1からトラクタ1の走行位置(車両位置)、走行方向(車両向き)等の情報を受信して取得することができるとともに、設定された圃場情報(作業領域及び枕地領域の分布等)、作業経路、枕地走行補助経路、及び制御信号等をトラクタ1側へ送信することができる。
【0045】
決定用距離算出部63は、圃場の周縁形状が多角形で表される場合に、トラクタ1と当該多角形の各辺部との距離を算出する。この距離は後述の選択辺部を決定するのに用いられるため、以下、当該距離を決定用距離Dと呼ぶことがある。決定用距離算出部63は、端末通信部62を介してトラクタ1から受信したトラクタ1の位置情報(車両位置)に基づいて、上記決定用距離Dを算出する。決定用距離Dは、辺部と同じ数だけ算出される。決定用距離Dは、辺部に車両位置の点から引いた垂線の長さを求める公知の方法で求めることができる。車両位置の点は、トラクタ1の幅方向中央に位置することが計算を簡単にするために好ましいが、幅方向中央からズレても良い。車両位置の点としては、測位用アンテナ6の位置を採用することができるが、これに限定されない。
【0046】
決定用角度算出部64は、トラクタ1の走行方向(車両向き)と、圃場周縁を構成する各辺部と、がなす角度を算出する。この角度は後述の選択辺部を決定するのに用いられるため、以下、当該角度を決定用角度θと呼ぶことがある。決定用角度算出部64は、端末通信部62を介してトラクタ1から受信したトラクタ1の車両向きに基づいて、上記決定用角度θを算出する。決定用角度θは、辺部と同じ数だけ算出される。各辺部の向きは予め分かっているので、決定用角度θは簡単に求めることができる。決定用角度θは、辺部の向きに対してトラクタ1の車両向きが乖離する大きさと考えることができる。本実施形態において決定用角度θは、常に0°以上180°未満の値となるが、これに限定されない。
【0047】
圃場情報設定部65は、
図4に示す圃場90に関する情報(以下、圃場情報と呼ぶことがある。)を設定するためのものである。圃場90の位置及び形状の情報は、例えば、ディスプレイ61に地図が表示された状態でオペレータが無線通信端末46を操作して当該地図上の複数の点を指定することで、指定された点同士を結ぶ線(辺部)が交わらないように特定された多角形に基づいて取得することもできる。
【0048】
しかし、これに限定されず、例えばオペレータがトラクタ1に搭乗して圃場の外周に沿って1回り周回するように運転し、そのときの測位用アンテナ6の位置情報の推移により得られた辺部(周縁)を記憶することで、自動的に取得することができる。圃場情報設定部65は、上記のように取得した複数の辺部から形成された周縁により囲まれた部分を、圃場90として設定する。
【0049】
作業領域設定部66は、トラクタ1が自律走行しながら自律作業を行う作業領域の位置を設定するものである。具体的に説明すると、オペレータは、ディスプレイ61で表示された入力画面において、枕地幅(圃場周縁から離れる距離)W0等を設定する。作業領域設定部66は、オペレータの操作により入力された枕地幅W0、及び圃場情報設定部65で設定された圃場90の外周形状(周縁)に基づいて枕地領域を定めるとともに、圃場90の領域から枕地領域を除いた領域を作業領域として定める。
【0050】
圃場情報設定部65により設定された圃場の位置及び形状等の圃場情報、オペレータが無線通信端末46を操作することにより指定された自律走行させたい開始位置及び終了位置、作業方向等の作業情報、及び上記のように定められた作業領域及び枕地領域等が、端末記憶部60により記憶される。
【0051】
作業経路生成部67は、圃場内の作業領域でトラクタ1が自律作業を行うために、自律走行する走行経路を生成するものである。作業経路生成部67は、オペレータがタッチパネル等を操作することで入力された作業幅W1、作業機幅W2、作業機3の種類、作業開始位置、作業終了位置、作業方向等の作業情報、及び作業領域設定部66で設定された作業領域に基づいて、トラクタ1が自律作業を行うときに自律走行する走行経路を生成する。当該走行経路には、
図4に示すように、作業領域内において生成された直線状の走行路と、枕地領域内において生成された旋回するための旋回路と、が交互に含まれる。なお、走行路は、直線状に限定されず、必要に応じて折れ線状等に形成されても良い。
【0052】
枕地走行補助経路作成部68は、圃場内の枕地領域において、トラクタ1が自律作業を行うために、自律走行する枕地走行補助経路を作成するものである。枕地走行補助経路作成部68は、オペレータがタッチパネル等を操作することで入力された作業幅W1、作業機幅W2、補助経路基準、作業領域設定部66で設定された枕地領域等に基づいて、
図4に示すような枕地走行補助経路を作成する。枕地走行補助経路は直線状に形成される。言い換えれば、枕地走行補助経路は、枕地におけるトラクタ1の直進走行を対象とし、旋回走行は対象としない。以下の説明においては、この枕地走行補助経路を単に補助経路と称することがある。
【0053】
ところで、上記補助経路基準は、補助経路を作成するための基準であって、作業領域周縁、又は圃場周縁を用いることができる。即ち、オペレータがタッチパネル等を操作することにより、作業領域周縁及び圃場周縁の何れかを補助経路基準として指定することができる。
【0054】
補助経路基準として圃場周縁が指定された場合、枕地走行補助経路作成部68は、
図4に示すように、圃場周縁と平行に、作業機3の取付け位置に応じて、所定間隔だけ内側へオフセットして補助経路を作成する。
【0055】
上記所定間隔は、作業機3の幅方向中心がトラクタ1の幅方向中心と一致している場合、少なくとも作業機幅W2の2分の1に設定することが好ましい。一方、作業機3の幅方向中心がトラクタ1の幅方向中心と一致していない場合(即ち、作業機3が、走行機体2の幅方向中心からオフセットされた状態でトラクタ1に取り付けられている場合)、上記所定間隔は、作業機3のオフセット量を考慮して、作業機幅W2の2分の1より大きく設定することが好ましい。
【0056】
枕地走行補助経路作成部68は更に、作成された補助経路を作業幅(所定幅)W1ずつ内側へ更にオフセットして、他の補助経路を作成する。
図4には、圃場の4辺のうち1辺について補助経路を作成した例が示されている。
【0057】
枕地走行補助経路作成部68は、補助経路基準とした圃場周縁に最も近い(最も外側に位置する)第1本目の補助経路に関しては、圃場周縁との距離が作業機幅W2の2分の1以上となるように補助経路を作成することが好ましい。
【0058】
補助経路基準として作業領域周縁が指定された場合、枕地走行補助経路作成部68は、
図5に点線で示すように、作業領域周縁と平行に、少なくとも作業幅W1の2分の1だけ外側へオフセットして補助経路を作成する。枕地走行補助経路作成部68は更に、作成された補助経路を作業幅W1ずつ外側へ更にオフセットして、他の補助経路を作成する。
図5には、圃場の4辺のうち1辺について補助経路を作成した例が示されている。
【0059】
具体的に説明すると、例えば、
図5に点線で示すように、圃場周縁に最も近い補助経路と圃場周縁との距離が作業機幅W2の2分の1より小さい場合、作業機3が周縁の畦等に接触するおそれがある。従って、この場合、枕地走行補助経路作成部68は、作業機幅W2の2分の1以上となるように、
図5の細い実線で示すように、作成された複数本の補助経路を作業領域側にシフトした補助経路を新たに作成する。
【0060】
上述のように、枕地走行補助経路作成部68により、作業領域周縁と圃場周縁との間で、互いに平行な複数本の補助経路が作成される。枕地走行補助経路作成部68により作成された補助経路は、圃場の形状、枕地領域、作業領域等の圃場情報に重畳して、ディスプレイ61により表示される。
【0061】
補助経路作成辺決定部69は、補助経路を、枕地領域のうちどの辺部に着目して作成するかを定めるためのものである。上述のとおり、補助経路は、圃場の周縁部に沿うように、圃場の辺部の1つにつき複数本ずつ生成される。理論上、補助経路は圃場の全ての辺部に作成され得るが、本実施形態では2つ以上の辺部の補助経路が同時に作成されることはなく、枕地走行補助経路作成部68は、選択された1つの辺部(以下、選択辺部と呼ぶことがある。)についてだけ補助経路を作成する。補助経路作成辺決定部69は、圃場の複数の辺部のうち何れの辺部を選択して補助経路を作成するかを決定する。選択辺部の決定は、前述の決定用距離D及び決定用角度θ(ひいては、トラクタ1の車両位置及び車両向き)に基づいて行われる。この決定方法の詳細については後述する。
【0062】
補助経路作成辺ロック部70は、枕地走行補助経路作成部68が補助経路を作成する対象の選択辺部を固定することができる。選択辺部の固定は、オペレータがタッチパネル等を操作することにより指示される。このロックの詳細は後述する。
【0063】
本実施形態の自律走行制御システム100においては、作業領域での作業の完了後、無線通信端末46は、例えば、「枕地領域での作業」と「作業終了」の何れかをオペレータに選択させる画面を表示して、オペレータの選択を受け付ける。オペレータは、枕地領域での作業をこれから行うことを希望する場合は、「枕地領域での作業」を選択する。一方、オペレータは、枕地領域での作業を後で行うことを希望する場合又は枕地領域での作業自体が不要である場合は、「作業終了」を選択する。
【0064】
続いて、本実施形態の自律走行制御システム100において、トラクタ1が枕地領域を走行して作業を行う場合の当該枕地領域内の枕地走行補助経路の作成及び表示について、
図6から
図11を参照して詳細に説明する。なお、以下では、
図6等に示すように4つの辺部91,92,93,94から構成された矩形状の周縁を有する圃場90を例に説明する。
【0065】
オペレータが無線通信端末46を操作することにより、上述の「枕地領域での作業」が選択されると、決定用距離算出部63は、端末通信部62を介して、トラクタ1の位置情報を取得する。また、決定用角度算出部64は、端末通信部62を介して、トラクタ1の方位情報を取得する。トラクタ1において、位置情報は、位置情報取得部49により得ることができ、方位情報は、慣性計測ユニット58により得ることができる。
【0066】
決定用距離算出部63は、トラクタ1の現在位置、及び圃場90の周縁を構成する辺部91,92,93,94のそれぞれの位置情報に基づいて、トラクタ1と各辺部との距離のそれぞれを決定用距離Dとして算出する。
【0067】
決定用角度算出部64は、トラクタ1の方位情報、及び圃場90の辺部91,92,93,94のそれぞれの地図における向きに基づいて、トラクタ1の車両向きと各辺部とがなす角度を算出する。今回の例では、対向する2つの辺部が平行であるため、決定用角度算出部64は、この2つの辺部(辺部91,93又は辺部92,94)のうち何れか一方に対する角度を決定用角度θとして算出しても良い。
【0068】
図6の位置Aにトラクタ1がある場合、辺部91との関係での決定用距離D及び決定用角度θは、当該
図6のように示すことができる。
【0069】
補助経路作成辺決定部69は、決定用距離算出部63により算出されたそれぞれの決定用距離D、及び決定用角度算出部64により算出されたそれぞれの決定用角度θを総合的に評価することで、枕地走行補助経路作成部68が補助経路を作成する対象である選択辺部を決定する。
【0070】
具体的に説明すると、補助経路作成辺決定部69は、選択辺部を決定するにあたって、決定用距離D及び決定用角度θを総合的に評価するための評価関数R(D,θ)を用いる。補助経路作成辺決定部69は、枕地領域のうちR(D,θ)が最小となる辺部に対応する部分を、選択辺部として決定する。
【0071】
評価関数Rの定め方は任意であるが、例えば、θの値(単位:°)と、Dの値(単位:メートル)を、適宜に重み付けして加算する関数とすることができる。評価関数Rの値が、辺部91,92,93,94のそれぞれに対して求められる。
図6の位置Aに示す例では、4つの辺部91,92,93,94の中で、トラクタ1の車両向きは辺部91及び辺部93に最も近く、また、トラクタ1の車両位置は辺部91に最も近い。従って、評価関数Rの値は、辺部91に対するものが最小となる。このことから、補助経路作成辺決定部69は、辺部91を選択辺部として決定する。
【0072】
ここで、オペレータがタッチパネル等を操作して、枕地領域における作業の作業開始位置、及び作業方向を指定した場合、補助経路作成辺決定部69は、オペレータが指示した作業開始位置及び作業方向に基づいて、枕地走行補助経路作成部68が最初に補助経路を作成する対象の選択辺部を決定しても良い。即ち、決定用距離算出部63は、オペレータが指定した作業開始位置に基づいて決定用距離Dのそれぞれを算出する。決定用角度算出部64は、オペレータが指定した作業方向に基づいて決定用角度θのそれぞれを算出する。
【0073】
枕地走行補助経路作成部68は、
図7に示すように、補助経路作成辺決定部69で決定された選択辺部に対応させて、上述のように互いに平行な複数の補助経路を作成する。
【0074】
ディスプレイ61は、
図9に示すように、枕地走行補助経路作成部68により作成された補助経路を表示する。
図9で草模様が付された部分は、圃場90の一部を示している。オペレータの操作に応じて、ディスプレイ61における圃場90の部分の表示を拡大/縮小させることが可能である。
【0075】
上記のように、補助経路は、枕地領域のうち、トラクタ1が走行している又はこれから走行する対象の部分のみに表示される。この限定的な表示により、
図9に示すように、ディスプレイ61の表示画面がシンプルで、オペレータが一層確認し易くなる。
【0076】
選択辺部(言い換えれば、どの辺部に対応した補助経路が作成されるか)は、補助経路作成辺決定部69によって、決定用距離D及び決定用角度θを総合的に評価することによって決定される。従って、評価関数R(D,θ)を適宜定めることにより、例えば
図6の位置A付近にトラクタ1が位置していて、障害物回避等の何らかの理由でトラクタ1の車両向きが大きく変更され、車両向きが辺部92,94に沿う向きになった場合においても、辺部91に対応する補助経路が表示されるようにすることができる。この複合的な評価により、オペレータが辺部91に沿って作業したいのにもかかわらず辺部92又は辺部94の補助経路が表示されてしまうのを防止することができる。
【0077】
トラクタ1の車両位置(又は、指示された開始位置)が、枕地走行補助経路作成部68により作成された補助経路のうち何れかと実質的に一致しており、当該補助経路に沿ってトラクタ1が走行可能であることが確認されると、ディスプレイ61においてその補助経路が強調表示される。
図9では、当該補助経路が太い点線を用いて強調された例が示されている。太い点線による強調表示に限定されず、例えば、色を異ならせて表示させても良いし、メッセージを補助経路(又はトラクタ1を表示するマーク)の近傍に表示させても良い。
【0078】
ディスプレイ61に表示された補助経路に沿ってトラクタ1が走行可能であると確認された場合、オペレータが例えば、
図9に示す表示画面の右側の「自動操舵スタート」ボタンをタッチすることで、トラクタ1の自律走行を開始させる。トラクタ1側において、無線通信部40を介して、無線通信端末46から自律走行開始の制御指令を受信した場合、走行制御部4aが走行に関する構造を制御して、トラクタ1を自律走行させるとともに、作業機制御部4bが作業に関する構造を制御して、トラクタ1を自律作業させる。この結果、
図7に示すように、トラクタ1は、枕地走行補助経路作成部68により作成された補助経路に沿って自律走行しながら枕地領域に対する作業を行う。
【0079】
本実施形態の自律走行制御システム100においては、枕地領域におけるトラクタ1の旋回は、オペレータがステアリングハンドル12を操作することで行われる。本実施形態の自律走行制御システム100は、旋回が必要となるタイミングの少し前に、オペレータに通知するように構成されている。
【0080】
具体的には、
図7に示すように、トラクタ1と、トラクタ1の走行方向前方にある圃場90の辺部92と、の距離D0が監視される。この距離D0が所定閾値以下になった場合、トラクタ1又は無線通信端末46が、例えばブザーを鳴らすこと等によってオペレータに知らせる。
【0081】
辺部91に沿って作業した後、辺部92に沿って作業するために、
図6の位置Bで示した位置においてオペレータの操舵によりトラクタ1が旋回する場合を考える。この状況においても、補助経路作成辺決定部69は、各辺部に関する決定用距離D及び各辺部に関する決定用角度θを総合的に評価することで、選択辺部を決定する。
【0082】
図6を参照して説明すると、辺部91に関する決定用距離D1が辺部92に関する決定用距離D2より大きいA1の領域では、辺部91に関する決定用角度θ1が辺部92に関する決定用角度θ2より小さい場合でも、辺部92が選択辺部として決定される。
【0083】
また、辺部91に関する決定用距離D1が辺部92に関する決定用距離D2より小さいA2の領域では、辺部91に関する決定用角度θ1が辺部92に関する決定用角度θ2より大きくなることを条件に、辺部92が選択辺部として決定される。
【0084】
補助経路は、自律走行時にトラクタ1の車両位置を合わせる基準として用いられる。従って、枕地作業では一般的に、辺部91に沿って作業した直後であって、これから辺部92に沿って作業する場合は、辺部92に関する補助経路がディスプレイ61に早期に表示されることが望まれる。選択辺部が上記のように決定されるように評価関数R(D,θ)が定められることで、辺部92に関する補助経路の表示が遅れることを防止できる。この結果、辺部92の補助経路にトラクタ1の車両位置を素早く合わせるように手動で旋回し、自律走行に切り換えることが容易になる。
【0085】
本実施形態の自律走行制御システム100は、早期表示モードで動作することができる。早期表示モードとは、枕地領域で作業する辺部を切り換える場合に、切換先の枕地領域部分における補助経路を上記よりも更に早期に表示させるモードである。早期表示モードのON/OFFの操作は、オペレータがタッチパネル等を操作することで行うことができる。早期表示モードがONになっている場合、上記の例では、辺部91に沿って作業していたトラクタ1において、辺部91に関する決定用角度θ1が所定角度以上になった場合に、辺部91に関する決定用距離D1が辺部92に関する決定用距離D2より小さいA2の領域においても、辺部92が選択辺部として決定される。この所定角度は、辺部91と辺部92とがなす角度の半分より小さい角度、例えば30°に設定される。これにより、トラクタ1が所定角度以上旋回しただけで補助経路の表示が先読み的に切り換えられるので、トラクタ1で作業する辺部を円滑に変更することができる。
【0086】
早期表示モードにおいて、現に作業している辺部91に関する決定用距離D1と、当該辺部91に隣接する辺部92に関する決定用距離D2と、の差が所定範囲内であった場合のみ、上記のように決定用角度θを重視した選択辺部の変更が行われても良い。この場合、例えば辺部91の中央部付近でトラクタ1が少し旋回しただけで補助経路の表示が切り換わってしまうのを防止できる。また、トラクタ1の車両位置が、辺部91と辺部92とが接続する頂点の近傍にある場合のみ、決定用角度θを重視した選択辺部の変更が行われても良い。
【0087】
上述のとおり、補助経路作成辺決定部69により決定された選択辺部に対して作成された補助経路のみが、ディスプレイ61に表示される。従って、
図10等に示すように、トラクタ1の旋回によって辺部92に対応する枕地領域部分に補助経路が表示される場合、ほぼ同時に、辺部91に対応する枕地領域部分に対して作成された補助経路の表示が消える。このように、作業する辺部の切換に即して、補助経路の作成及び表示を切り換えることができる。
【0088】
図8に示すように、トラクタ1の自律走行の開始位置が、何らかの原因で、作成された補助経路からズレる可能性もある。この場合、本実施形態の自律走行制御システム100においては、枕地走行補助経路作成部68は、端末通信部62を介してトラクタ1から取得されたトラクタ1の車両位置に基づいて、作成された補助経路をシフトして、新たな補助経路を作成する。
図8の点線は、シフトする前の補助経路を示し、
図8の細い実線は、トラクタ1の車両位置に合わせてシフトした後の補助経路を示す。
【0089】
枕地走行補助経路作成部68は、上記のように補助経路をトラクタ1の車両位置に合わせてシフトさせた場合、このシフト量を記憶する。トラクタ1が枕地領域を一周して、同一の選択辺部に対して補助経路を再び作成するときに、記憶されたシフト量に基づいて、同じように補助経路のシフトが行われる。これにより、トラクタ1が枕地領域を周回して作業する場合であって、ある周回でシフトが行われたときは、その後の周回で、シフトが行われたのと同一の選択辺部において補助経路のシフト量を保持することができる。この結果、綺麗な仕上がりを実現できる。
【0090】
枕地走行補助経路作成部68による上記補助経路のシフトは、自動的に行われても良いし、オペレータの操作(例えば、シフトのためのボタン)に従って行われても良い。
【0091】
本実施形態の自律走行制御システム100においては、選択辺部をロックするロック機能を有する。4つの辺部のうち特定の1つの辺部について集中的に作業を行いたい場合、オペレータは、ディスプレイ61に表示された圃場90のうち、当該辺部をタッチする。これにより、ロック機能を有効にすることができる。しかし、これに限定されず、例えば、選択辺部をロックするためのボタンを別途に設けても良い。ロック機能が有効になると、
図11に示すように、指示された辺部を太線で表示したり、錠マーク等を当該辺部上に表示させたりすることで、当該辺部を他の辺部と区別できるようにディスプレイ61に表示される。
【0092】
補助経路作成辺ロック部70は、オペレータが指定した辺部を、選択辺部として固定する。この場合、トラクタ1の車両位置及び車両向きにかかわらず、補助経路作成辺決定部69が決定する選択辺部は、ロック操作時に指定された辺部に対応する枕地領域部分から変更されない。言い換えれば、補助経路作成辺決定部69による選択辺部の自動切換機能が、実質的に阻止される。
【0093】
従って、
図11に示すように、ディスプレイ61で表示される補助経路は、オペレータが指定した辺部に対応する部分に対して作成された経路のみである。状況によっては、オペレータは、特定の辺部92において表示された複数の補助経路に対して、直進、旋回、直進、旋回、・・・と反復しながら往復走行して作業を行いたい場合がある。この場合に、トラクタ1の旋回時においてオペレータが補助経路の表示の切換に煩わされることがない。
【0094】
上記のロック機能の解除は、例えば、ロックされた辺部を再びタッチすること、別途に設けられた解除ボタンをタッチすること等によって行われる。当該ロック機能が解除されると、補助経路作成辺決定部69による選択辺部の自動決定機能が有効になる。
【0095】
補助経路作成辺決定部69による選択辺部の自動決定機能は、トラクタ1の自律走行中において自動的に阻止されても良い。これにより、補助経路に沿って自律走行を行っている途中で、何らかの原因によって例えばトラクタ1の向きが変わった場合でも、補助経路の表示が切り換わってしまうのを回避することができる。
【0096】
具体的には、例えば、オペレータがディスプレイ61に表示された「自動操舵スタート」ボタンをタッチすることで、トラクタ1の自律走行を開始させる。トラクタ1の自律走行が開始されると同時に、選択辺部の自動決定が阻止される。トラクタ1の自律走行が解除されると、これに連動して、上記の阻止が解除される。補助経路作成辺決定部69は、トラクタ1の自律走行が解除された時点のトラクタ1の車両位置及び車両向きに基づいて、選択辺部を新たに決定する。
【0097】
トラクタ1の自律走行は、例えばオペレータが
図10に示すディスプレイ61の表示画面に表示された「自動操舵停止」ボタンをタッチすることにより解除されても良いし、オペレータがステアリングハンドル12を操作して所定操舵角以上操舵した場合、自動的に解除されても良い。即ち、無線通信端末46及びステアリングハンドル12は、本実施形態の自律走行制御システム100の自律走行解除部として機能する。
【0098】
これにより、
図6の位置B等に示す場合等において、オペレータがステアリングハンドル12を操作してトラクタ1を旋回させると、トラクタ1の自律走行が解除され、補助経路作成辺決定部69は選択辺部を新たに決定する。トラクタ1の車両位置及び車両向きは刻々と変化し、その都度、選択辺部が決定される。トラクタ1の旋回が一定程度以上になると、選択辺部が、辺部91から辺部92に切り換わる。
【0099】
補助経路作成辺決定部69により新たに決定された選択辺部に対して、枕地走行補助経路作成部68により作成された補助経路がディスプレイ61で表示され、
図9に示すように、トラクタ1の現在位置において、補助経路が走行可能であると確認した表示が表れる。この状態でオペレータが「自動操舵スタート」ボタンを再びタッチすることで、該当する枕地領域部分に対する作業をトラクタ1に自律的に行わせることができる。
【0100】
以上に説明したように、本実施形態の自律走行制御システム100は、端末記憶部60と、位置情報取得部49と、慣性計測ユニット58と、決定用距離算出部63と、決定用角度算出部64と、枕地走行補助経路作成部68と、補助経路作成辺決定部69と、走行制御部4aと、を備える。端末記憶部60は、複数の辺部から形成された周縁により囲まれた圃場90内に設定された、トラクタ1が自律走行しながら作業を行うための作業領域、及び、周縁と作業領域との間に形成された枕地領域に関する圃場情報を記憶する。位置情報取得部49は、トラクタ1の走行位置を車両位置として取得する。慣性計測ユニット58は、トラクタ1の走行方向を車両向きとして取得する。決定用距離算出部63は、それぞれの辺部とトラクタ1の車両位置との距離を決定用距離Dとして算出する。決定用角度算出部64は、それぞれの辺部と車両向きとがなす角度を決定用角度θとして算出する。枕地走行補助経路作成部68は、複数の辺部から選択された選択辺部に対して平行に、所定幅毎に並べて配置された複数の枕地走行補助経路を作成する。補助経路作成辺決定部69は、決定用距離算出部63で算出された決定用距離Dのそれぞれ、及び決定用角度算出部64で算出された決定用角度θのそれぞれを評価することで、枕地走行補助経路が作成される選択辺部を自動的に決定する。走行制御部4aは、枕地走行補助経路に沿ってトラクタ1を自律走行させる。
【0101】
これにより、枕地領域内におけるトラクタ1の位置及び向きに応じて、辺部を自動的に選択し、この選択辺部に対して枕地走行補助経路を自動的に作成することができる。また、トラクタ1の位置と向きを複合的に考慮して選択辺部が決定されるので、様々な状況下で、オペレータの意図を汲んだ選択辺部の決定を行うことができる。従って、枕地領域において、オペレータがトラクタ1によって作業したい辺部における自律走行を容易に行うことができる。
【0102】
また、本実施形態の自律走行制御システム100は、自律走行解除部として機能するステアリングハンドル12及び無線通信端末46を備える。自律走行解除部は、走行制御部4aによるトラクタ1の自律走行を解除する。トラクタ1の自律走行が解除された場合、補助経路作成辺決定部69は、自律走行が解除された後のトラクタ1の車両位置による決定用距離D、及び車両向きにより決定用角度θに基づいて、選択辺部を新たに決定する。
【0103】
これにより、自律走行が解除された後のトラクタ1の車両位置及び車両向きに合った選択辺部の決定(ひいては、枕地走行補助経路の作成)を、早いタイミングで行うことができる。
【0104】
また、本実施形態の自律走行制御システム100は、ディスプレイ61を備える。ディスプレイ61は、枕地走行補助経路と、トラクタ1の車両位置と、を表示する。
【0105】
これにより、作成された枕地走行補助経路とトラクタ1の位置関係を、オペレータが容易に確認することができる。また、余計な辺部に対する枕地走行補助経路が表示されないので、表示画面を分かり易く、簡潔にすることができる。
【0106】
また、本実施形態の自律走行制御システム100は、補助経路作成辺ロック部70を備える。補助経路作成辺ロック部70は、選択辺部を固定する。補助経路作成辺ロック部70により選択辺部を固定した場合、車両位置による決定用距離D、及び車両向きによる決定用角度θの少なくとも何れかが変更されても、補助経路作成辺決定部69は、選択辺部を新たに決定しない。
【0107】
これにより、例えば、枕地領域のうち1つの辺に相当する部分だけを先ず全て完了させたい場合に、オペレータが補助経路の切換に煩わされることを防止できる。
【0108】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0109】
枕地走行補助経路作成部68は、最初に枕地領域の全域に対する補助経路を作成して、端末記憶部60に記憶させても良い。この場合、ディスプレイ61は、補助経路作成辺決定部69により決定された選択辺部に対応する補助経路のみを表示する。ただし、上述の実施形態のように選択辺部が切り換わる毎に補助経路を作成すると、柔軟性をもって補助経路を作成できる点で有利である。
【0110】
補助経路は、枕地領域から外側に延長するように作成されても良いし、枕地領域の内部に収まるように作成されても良い。
【0111】
作業領域の周縁を補助経路基準とする場合、
図5等に示す点線の補助経路の続きとして、圃場の外部に1本乃至複数本の補助経路を追加的に作成しても良い。例えば矩形の隅が欠けたような形状の圃場では、圃場情報設定部65で設定される圃場の形状よりも、現実の圃場の形状が広い場合がある。この場合に、枕地走行補助経路作成部68によって追加的に作成された補助経路は有用である。圃場周縁を補助経路基準とする場合、
図5等に示す実線の圃場経路の続きとして、作業領域内を通る部分を含む1本乃至複数本の補助経路を追加的に作成しても良い。
【0112】
GNSS測位結果の変化から得られたトラクタ1の移動向きを、車両向きとして取り扱うこともできる。この場合、位置情報取得部49が方位検出部に相当する。
【0113】
上述の実施形態における補助経路の作成は、矩形以外の任意の形状(例えば、台形等)を有する圃場に適用することもできる。
【0114】
トラクタ1の車両位置に応じて、補助経路を作成するための補助経路基準を自動的に決めても良い。例えば、車両位置が作業領域の周縁に近い場合、枕地走行補助経路作成部68は、作業領域の周縁を補助経路基準として認識し、車両位置が圃場周縁に近い場合、枕地走行補助経路作成部68は、圃場周縁を補助経路基準として認識する。
【0115】
<発明の付記>
本発明の観点によれば、以下の構成の自律走行制御システムが提供される。即ち、自律走行制御システムは、圃場情報記憶部と、測位部と、方位検出部と、決定用距離算出部と、決定用角度算出部と、枕地走行補助経路作成部と、補助経路作成辺決定部と、走行制御部と、を備える。前記圃場情報記憶部は、複数の辺部から形成された周縁により囲まれた圃場内に設定された、作業車両が自律走行しながら作業を行うための作業領域、及び、前記周縁と前記作業領域との間に形成された枕地領域に関する圃場情報を記憶する。前記測位部は、前記作業車両の走行位置を車両位置として取得する。前記方位検出部は、前記作業車両の走行方向を車両向きとして取得する。前記決定用距離算出部は、それぞれの前記辺部と前記作業車両の前記車両位置との距離を決定用距離として算出する。前記決定用角度算出部は、それぞれの前記辺部と前記車両向きとがなす角度を決定用角度として算出する。前記枕地走行補助経路作成部は、複数の前記辺部から選択された選択辺部に対して平行に、所定幅毎に並べて配置された複数の枕地走行補助経路を作成する。前記補助経路作成辺決定部は、前記決定用距離算出部で算出された前記決定用距離のそれぞれ、及び前記決定用角度算出部で算出された前記決定用角度のそれぞれを評価することで、前記枕地走行補助経路が作成される前記選択辺部を自動的に決定する。前記走行制御部は、前記枕地走行補助経路に沿って前記作業車両を自律走行させる。
【0116】
これにより、枕地領域内における作業車両の位置及び向きに応じて、辺部を自動的に選択し、この選択辺部に対して枕地走行補助経路を自動的に作成することができる。また、作業車両の位置と向きを複合的に考慮して選択辺部が決定されるので、様々な状況下で、オペレータの意図を汲んだ選択辺部の決定を行うことができる。従って、枕地領域において、オペレータが作業車両によって作業したい辺部における自律走行を容易に行うことができる。
【0117】
前記の自律走行制御システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、自律走行制御システムは、前記走行制御部による前記作業車両の前記自律走行を解除する自律走行解除部を備える。前記作業車両の前記自律走行が解除された場合、前記補助経路作成辺決定部は、前記自律走行が解除された後の前記作業車両の前記車両位置による前記決定用距離、及び前記車両向きによる前記決定用角度に基づいて、前記選択辺部を新たに決定する。
【0118】
これにより、自律走行が解除された後の作業車両の車両位置及び車両向きに合った選択辺部の決定(ひいては、枕地走行補助経路の作成)を、早いタイミングで行うことができる。
【0119】
前記の自律走行制御システムは、前記枕地走行補助経路と、前記作業車両の前記車両位置と、を表示する表示部を備えることが好ましい。
【0120】
これにより、作成された枕地走行補助経路と作業車両との位置関係を、オペレータが容易に確認することができる。また、余計な辺部に対する枕地走行補助経路が表示されないので、表示画面を分かり易く、簡潔にすることができる。
【0121】
前記の自律走行制御システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この自律走行制御システムは、前記選択辺部を固定する補助経路作成辺ロック部を備える。前記補助経路作成辺ロック部により前記選択辺部を固定した場合、前記車両位置による前記決定用距離、及び前記車両向きによる前記決定用角度の少なくとも何れかが変更されても、前記補助経路作成辺決定部は、前記選択辺部を新たに決定しない。
【0122】
これにより、例えば、枕地領域のうち1つの辺に相当する部分だけを先ず全て完了させたい場合に、オペレータが枕地走行補助経路の切換に煩わされることを防止できる。
【符号の説明】
【0123】
1 トラクタ(作業車両)
4a 走行制御部
12 ステアリングハンドル(自律走行解除部)
49 位置情報取得部(測位部)
46 無線通信端末(自律走行解除部)
60 端末記憶部(圃場情報記憶部)
61 ディスプレイ(表示部)
63 決定用距離算出部
64 決定用角度算出部
68 枕地走行補助経路作成部
69 補助経路作成辺決定部
70 補助経路作成辺ロック部
100 自律走行制御システム