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特許7591646共重合体、射出成形用樹脂組成物、成形品、共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】共重合体、射出成形用樹脂組成物、成形品、共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/10 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C08F212/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023512934
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022014018
(87)【国際公開番号】W WO2022215544
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021066105
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亘
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/004977(WO,A1)
【文献】特開昭59-080415(JP,A)
【文献】特開平10-152504(JP,A)
【文献】特開平05-255448(JP,A)
【文献】特開平09-012638(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032302(WO,A1)
【文献】特開平08-231643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 212/00-212/36
C08F 12/00-12/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体であり、ゲルパーミッションクロマトグラフィーで示差屈折率検出器によって求められる共重合体の重量平均分子量MwRIのピーク半値幅中でのUV254nmで検出されたピーク強度をP(UV)、MwRIのピーク半値幅中での示差屈折率検出器で検出されたピーク強度をP(RI)としたとき、P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が0.15以下である、共重合体であって、
ASTM D-1003に準じて、前記共重合体から得られたペレットを用いて成形温度230℃で射出成型機により成形した127×127×3mm厚みの板状成形品を使用し、HAZEメーターを用いて測定したHazeが0.1~0.7%である、共重合体
【請求項2】
JIS K-7111に準拠して、前記共重合体から得られたペレットを使用し射出成型機により作成したノッチなし試験片を用いて、打撃方向はエッジワイズを採用して相対湿度50%、雰囲気温度23℃で測定したシャルピー衝撃強度が11.0kJ/m~16.0kJ/mである、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位の合計を100質量%とした場合に、前記芳香族ビニル単量体単位50~90質量%と、前記シアノ系単量体単位10~50質量%を含有する請求項1または請求項2に記載の共重合体。
【請求項4】
前記芳香族ビニル単量体単位がスチレン単量体単位、前記シアノ系単量体単位がアクリロニトリル単量体単位である請求項1~のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の共重合体を含む、射出成形用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項に記載の射出成形用樹脂組成物から成形される成形品。
【請求項7】
芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体の製造方法であって、
芳香族ビニル単量体とシアノ系単量体を含む供給液を反応槽内の重合液の液相へ供給する工程、及び
前記反応槽内で発生する蒸発ガスを前記反応槽外の熱交換器で凝縮し、得られた凝縮液を前記反応槽の液相へ戻す工程、
を含み、
前記供給液及び前記凝縮液は前記反応槽内の気相部には供給されない、共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体、当該共重合体を含む射出成形用樹脂組成物及び当該樹脂組成物から成形される成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体は、その優れた耐薬品性、剛性、成形性などの諸性質を有することから、幅広い分野で使用されている。これらの共重合体の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の各種の重合法によって製造することができる。しかしながら、乳化重合の場合は乳化剤を使用するために、懸濁重合の場合は分散剤等を使用するために、重合生成物の透明性、着色変色の点で外観品質上の問題がある。そのため、非水系の塊状重合又は溶液重合が品質面、コスト面、環境面から採用されることが多い。
【0003】
工業的生産規模で連続的に塊状重合または溶液重合を行う場合には、蒸発潜熱を利用、すなわち、気相部と重合液の気液界面からの蒸発による除熱、または必要に応じて、蒸発した溶剤と未反応単量体を反応槽外部の凝縮器で冷却し、反応槽内へ環流することにより効率的に除熱できるため、高転化速度での重合が可能になるので工業的生産規模の重合法として多く用いられている。
【0004】
重合器のコンデンサーから環流する凝縮液の濃度を調整して、これを重合器の気相部にスプレーして戻す方法(特許文献1)や、原料液を反応槽の上部気相部へスプレーノズル等を用いて散布してかつコンデンサーから環流する凝縮液を原料液と混合して重合器に供給する方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-226417号公報
【文献】特開2004-262987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のような従来技術により得られる共重合体では、近年高まっている透明性や、強度および色相等を含めた物性の観点における不良の発生率の低減の要望について必ずしも満足いく結果が得られているとはいいがたい。
【0007】
そこで本発明は、成形品とした場合に、強度や耐薬品性、ならびに色相及び透明性に優れる、芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体および当該共重合体を含む射出成形用樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体が、共重合体の分子量分布に関して以下の構成を満足する場合に、得られる成形品において強度や耐薬品性、ならびに色相及び透明性に優れることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、
(1)芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体であり、ゲルパーミッションクロマトグラフィーで示差屈折率検出器によって求められる共重合体の重量平均分子量MwRIのピーク半値幅中でのUV254nmで検出されたピーク強度をP(UV)、MwRIのピーク半値幅中での示差屈折率検出器で検出されたピーク強度をP(RI)としたとき、P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が0.15以下である、共重合体、
(2)芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位の合計を100質量%とした場合に、前記芳香族ビニル単量体単位50~90質量%と、前記シアノ系単量体単位10~50質量%を含有する(1)に記載の共重合体、
(3)前記芳香族ビニル単量体単位がスチレン単量体単位、前記シアノ系単量体単位がアクリロニトリル単量体単位である(1)または(2)に記載の共重合体、
(4)(1)~(3)のいずれか一つに記載の共重合体を含む、射出成形用樹脂組成物、
(5)(4)に記載の射出成形用樹脂組成物から成形される成形品、および
(6)芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体の製造方法であって、芳香族ビニル単量体とシアノ系単量体を含む供給液を反応槽内の重合液の液相へ供給する工程、及び前記反応槽内で発生する蒸発ガスを前記反応槽外の熱交換器で凝縮し、得られた凝縮液を前記反応槽の液相へ戻す工程、を含む、共重合体の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形品とした場合に強度や耐薬品性、ならびに色相及び透明性に優れる共重合体が提供される。本発明にかかる樹脂組成物は高い意匠性を求められる化粧品等の容器や文具等の雑貨に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<共重合体の分子量分布に関する規定>
本実施形態にかかる芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記することがある)で示差屈折率検出器によって求められる重量平均分子量MwRIのピーク半値幅中でのUV254nmで検出されたピーク強度をP(UV)、MwRIのピーク半値幅中での示差屈折率検出器で検出されたピーク強度をP(RI)としたとき、P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が0.15以下であり、好ましくは0.10以下である。具体的には、例えば、0.15以下、0.13以下、0.11以下、0.10以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下、0.06以下、または0.05以下である。P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が0.15を超えると、成形品とした場合の色相が劣る場合がある。P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が0.15以下となるような共重合体は、例えば、後述する製造方法によって得ることができるが、これに限定されない。
【0011】
前記GPC測定においては、移動相としてテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記することがある。)を用いることができる。MwRIはポリスチレン換算の値であり、以下の条件で測定できる。
装置名:SYSTEM-21 Shodex(昭和電工株式会社社製)
カラム:PL gel MIXED-B(ポリマーラボラトリーズ社製)を3本直列
温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:0.4質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(ポリマーラボラトリーズ社製)を用いて作成
【0012】
本実施形態におけるGPC測定では、示差屈折率検出器及び吸光光度検出器を有し、これらの検出器による測定を同時に行うことのできるGPC装置が用いられる。吸光光度検出器としては、波長254nmにおける吸光度を測定できるように構成されている。GPC測定で得られる分子量分布において、分布中の各分子量のそれぞれにおいて含まれる各成分の濃度は示差屈折率検出器にて測定され、各分子量成分の吸光度(測定波長254nm)は吸光光度検出器にて測定される。なお、測定波長254nmはベンゼン環の構造に由来する。吸光光度検出器としては、特定波長の紫外光の吸収を測定する検出器でも、特定範囲の波長の紫外光の吸収を分光測定する検出器でもよい。
【0013】
重量平均分子量MwRIのピーク半値幅とは、示差屈折率検出器で測定された値をプロットして得たクロマトグラムのうち、最もピーク強度の高い値を示す溶出時間をピークとし、当該最も高いピーク強度の値の半分の値を与える溶出時間のうち、当該ピークの前後溶出時間の幅を指す。尚、ピークが多峰性である場合も最も高いピーク強度の値を示す溶出時間を基準とする。また、当該最も高いピーク強度の値の半分の値を与える溶出時間が2つより多くなる場合があるが、そのような溶出時間のうち、ピークから最も遠い前後の溶出時間の幅を指すものとする。
【0014】
前記ピーク強度P(RI)及びP(UV)は、GPC溶出容量から換算された当該樹脂の分子量に対して、それぞれ示差屈折率検出器で測定された値及び吸光光度検出器(測定波長254nm)で測定された値をプロットして得たクロマトグラムのうち、前述した半値幅の範囲でのピーク強度を示す。
【0015】
<芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体>
本実施形態にかかる共重合体は、芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。
以下、本実施形態にかかる芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体を構成する単量体単位について説明する。
【0016】
<芳香族ビニル単量体単位>
本実施形態にかかる共重合体が含有する芳香族ビニル単量体単位を与える単量体としては特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、3、5-ジメチルスチレン、4-メトキシスチレン、2-ヒドロキシスチレンなどの置換基を有する置換スチレン、α-ブロムスチレン、2、4-ジクロロスチレンなどのハロゲン化スチレン、1-ビニルナフタレンなどが挙げられる。このうち、重合性や成形性、機械的特性等の観点からスチレンが好ましい。
【0017】
<シアノ系単量体単位>
本実施形態にかかる共重合体が含有するシアノ系単量体単位を与える単量体としては特に限定されないが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどが挙げられる。このうち、重合性や機械的特性等の観点からアクリロニトリルが好ましい。
【0018】
本実施形態における共重合体中の芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位の含有割合は任意に選択することができるが、100質量%の共重合体に含有される芳香族ビニル単量体単位の量は、50質量%~90質量%が好ましく、より好ましくは55質量%~88質量%、さらに好ましくは60質量%~85質量%である。具体的には例えば、50質量%、55質量%、60質量%、65質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、または90質量%であり、ここで例示した数値のいずれか2つの間の範囲内であってよい。100質量%の共重合体に含有されるシアン化ビニル系単量体の量は、好ましくは10質量%~50質量%、より好ましくは12質量%~45質量%、さらに好ましくは15質量%~40質量%である。具体的には例えば、10質量%、15質量%、20質量%、25質量%、30質量%、35質量%、40質量%、45質量%、または50質量%であり、ここで例示した数値のいずれか2つの間の範囲内であってよい。各々の単量体が上記の組成範囲外であると、本発明の目的である成形品の外観及び、耐薬品性、透明性、機械的特性などを達成することが困難となる場合がある。
【0019】
<芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位以外の単量体単位>
本実施形態における共重合体には、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル単量体以外の共重合可能な単量体を本発明の効果を阻害しない範囲で共重合させても良い。シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル単量体と共重合可能な他のビニル化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなどのアクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類またはその無水物、Nーフェニルマレイミド、Nーシクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド化合物などが挙げられ、特にエチルアクリレート、ブチルアクリレートが好ましく、これらの2種以上を混合して用いることもできる。
【0020】
本実施形態における共重合体に含有されるこれらの単量体単位の含有量は、シアン化ビニル系単量体単位、芳香族ビニル単量体単位及びこれらと共重合可能な単量体に由来する単量体単位の合計を100質量%とした場合に0質量%~20質量%、好ましくは0質量%~5質量%とするとよい。
【0021】
<樹脂組成物>
本実施形態における樹脂組成物は、芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体を含む樹脂組成物である。当該樹脂組成物は、樹脂組成物100質量%中の芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位の共重合体の含有量が、例えば50質量%以上である。一態様においては、樹脂組成物中の共重合体の含有量は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。具体的には例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、または90質量%以上である。一態様においては、樹脂組成物は実質的に芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体のみからなっていてもよい。
【0022】
本実施形態における樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲でミネラルオイルを含有しても良い。また、ステアリン酸、エチレンビスステアリルアミド等の内部潤滑剤や、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系安定剤、帯電防止剤、外部潤滑剤等の添加剤が含まれていても良い。これら添加剤は重合工程、脱揮工程、造粒工程で添加混合する方法や成形加工時の押出機や射出成形機などで添加混合する方法などが挙げられ、特に限定されない。
【0023】
紫外線吸収剤は、紫外線による劣化や着色を抑制する機能を有するものであって、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾエート系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸アニリド系、マロン酸エステル系、ホルムアミジン系などの紫外線吸収剤が挙げられる。これらは、単独又は2種以上組み合わせて用いることができ、ヒンダートアミン等の光安定剤を併用してもよい。
【0024】
本実施形態における樹脂組成物は多様な意匠性を発現するために本発明の効果を阻害しない範囲で各種の染顔料を含有しても良い。例えば、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、及びジアミノスチルベン系蛍光染料などを挙げることができる。上記の染顔料の含有量は、樹脂組成物酸化防止剤等の添加剤の、合計100質量部を基準として0.00001~1質量部が好ましく、0.00003~0.3質量部がより好ましい。
【0025】
<芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体の製造方法>
本実施形態における芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体の製造方法としては、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等を用いることができるが、分散剤などの樹脂中への混入を防ぐ目的から、溶液重合法または塊状重合法が好適に使用される。
【0026】
<重合装置>
本実施形態で使用する重合装置は、気相部の蒸気を凝縮させる熱交換器を備えた完全混合槽型重合器(I)または該重合器(I)とこれに連結した重合器(II)を1基以上とからなる。重合器(II)は完全混合槽型重合器、管型重合器、押出機型重合器またはニーダー型重合器等を用いることができる。
【0027】
重合器(I)における重合液を実質的に均一とするための実施形態については特に限定しないが、ヘリカルリボン翼等のリボン型撹拌翼、タービン型撹拌翼、スクリュー型撹拌翼、アンカー翼、傾斜パドル翼や平パドル翼等のパドル翼、フルゾーン翼(商品名)、マックスブレンド翼(商品名)、またはサンメラー翼(商品名)等による攪拌混合のほか、たとえばこれに重合器(I)の外部に設けたポンプ等による循環混合を組み合わせて行うこともできる。
【0028】
本実施形態で使用する熱交換器としては、例えばスプレーコンデンサー、シェル&チューブ型コンデンサーなどが挙げられる。
【0029】
本実施形態で用いる溶剤とは、通常ラジカル重合で使用される不活性な重合溶剤であり、例えばエチルベンゼン、トルエン、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、クメン、n-プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物が挙げられる。これら溶剤のうち、脱揮性や経済性の観点からエチルベンゼンが好ましい。
【0030】
溶剤の使用量は単量体混合液100質量部に対して5~40質量部が好ましく、より好ましくは10~35質量部である。5質量部未満の場合は、重合液の粘度が高くなるため、重合率を充分上げられず生産性に乏しくなる。一方、40質量部を超えた場合には、脱揮溶剤量が多くなるため、経済的ではない。
【0031】
本実施形態において添加する重合開始剤には、公知の重合開始剤が使用でき、例えばメチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾニトリル類、t-ブチルパーオキシアリルカーボネート、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3',4,4'-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の有機過酸化物等が挙げられる。これら重合開始剤のうち、色相や経済性の観点からt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが好ましい。これら重合開始剤は単独で用いても、2種類以上混合して用いてもよい。
【0032】
重合開始剤の使用量は、重合装置における反応熱の除去が制御可能な範囲であれば量が多い方が反応速度を上げられ有利であるが、反応速度が速いと着色が生じるなどの不具合が生じる。実用的な使用量は重合開始剤の種類、重合温度によって異なるが、単量体の合計量100質量部に対して0.005~0.5質量部が好ましく、より好ましくは0.01~0.4質量部である。
【0033】
本実施形態に係る共重合体の製造においては、連鎖移動剤として、例えばt-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンの不飽和二量体、テルピノレン、チオグリコール酸オクチル等を使用してもよい。
【0034】
連鎖移動剤の使用量は連鎖移動剤の種類によっても異なるが、単量体の合計量100質量部に対して5質量部以下が好ましく、より好ましくは0を超え3質量部以下、さらに好ましくは1~0.001質量部である。5質量部を超えた場合は芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位の共重合体の分子量が小さくなりすぎて、実用的な強度が発現しない等の問題が生じる。
【0035】
本実施形態に係る共重合体の重合は、例えば以下のように実施される。
【0036】
<供給液の調製>
まず、溶媒、重合単量体、重合開始剤、連鎖移動剤等を所定の割合で含有する供給液を調製する。
【0037】
<供給液の反応槽への供給>
供給液を、連続的に重合液の液相へ供給することで反応槽へ供給する。重合液の液相へ供給液を供給する際の供給速度は、後述する温度や制御する重合率にも依存するが、重合缶内の滞留時間が2~6時間になるように調整することが好ましい。滞留時間が短すぎると色相が悪化する可能性があり、滞留時間が長すぎると生産性に問題が生じる。
【0038】
<単量体の重合>
重合温度を所定の範囲に維持し、重合を実施する。重合温度は、使用する開始剤の種類によっても異なるが、120~180℃であることが好ましい、重合温度をこの範囲とすれば、重合制御が容易であり、重合速度を速めながら色相の悪化をおさえられる。
【0039】
<反応液の充填率の制御>
反応液の充填率を所定の範囲に維持し、供給液量と同量の反応液を連続的に抜き出す。反応槽内での反応液の充填率は、50~100vol%であることが好ましい、この範囲で重合を実施することで、生産性に優れる。
【0040】
<蒸発ガスの凝縮>
反応槽内で発生する蒸発ガスは、ベーパーラインを経由して反応槽外の熱交換器に入り、そこで凝縮して凝縮液となる。この凝縮液は、供給ラインを経由して反応槽の液相へ戻される。
【0041】
<共重合体の回収>
抜き出した反応液は、未反応単量体、有機溶剤を脱気回収し、共重合体をペレットとして回収する。
【0042】
本実施形態における共重合体は、例えば上記の製造方法により製造することにより、重量平均分子量MwRIのピーク半値幅中でのUV254nmで検出されたピーク強度をP(UV)、MwRIのピーク半値幅中での示差屈折率検出器で検出されたピーク強度をP(RI)としたとき、P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が0.15以下になる。
【0043】
P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差は、樹脂中の芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位の組成分布を表す。吸光度(測定波長254nm)で検出されるP(UV)はベンゼン環をもつ単量体すなわち芳香族ビニル単量体単位の濃度でピーク強度が変化する。一方、P(RI)は分子全体の濃度に依存するため、分子量によらずP(UV)/P(RI)が一定の値を示すことは、分子量が変化しても組成分布に差がないことを示す。
【0044】
このような製造方法により共重合体のP(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が0.15以下となるメカニズムは十分に解明されてはいないが、従来技術の製造方法では気相部からの供給が存在するために共重合体の組成分布が生じているのに対し、本実施形態に係る製造方法では、供給液を重合液の液相へ供給し、且つ凝縮液を反応槽の液相へ戻しているため、気相部からの供給が存在しない。このため、共重合体の組成分布が少なくなり、共重合体の分子量が変化しても組成分布に生じる差が少なくなったためであると考えられる。
【0045】
<芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位を含有する共重合体を含む樹脂組成物の製造方法>
上述のようにして得られた芳香族ビニル単量体単位とシアノ系単量体単位の共重合体に、必要に応じてミネラルオイル、添加剤、染顔料等を添加して樹脂組成物を得る。添加剤は重合工程、脱揮工程、造粒工程で添加混合する方法や成形加工時の押出機や射出成形機などで添加混合する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られる成形体は、特に高いデザイン性を求められる文具などの雑貨や化粧品容器、家電の筐体等に加工することができる。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、単独あるいはABS樹脂、PC樹脂等の他の樹脂とのブレンドした混合樹脂として好適に使用される。
【実施例
【0047】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
50Lの反応槽に供給する供給液を、スチレン70質量部、アクリロニトリル15質量部、エチルベンゼン15質量部、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.02質量部、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを0.01質量部となるように調製した。この供給液を窒素ガスでバブリングし、混合器を経た後、連続的に重合液の液相へ10.8L/時間の速度で反応槽へ供給し、重合温度145℃、反応槽内での反応液の充填率が70vol%を維持できるようにし、供給液量と同量の反応液を連続的に抜き出した。尚、反応槽内で発生する蒸発ガスは反応槽外の熱交換器で凝縮し、該凝縮液を反応槽液相へ戻した。抜き出した反応液は、250℃、10mmHgの高真空に保たれた揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、有機溶剤を脱気回収し、共重合体はペレットとして回収した。
【0049】
<実施例2>
50Lの反応槽に供給する供給液を、スチレン58質量部、アクリロニトリル22質量部、エチルベンゼン20質量部、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.02質量部、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを0.04質量部となるように調製した。この供給液を窒素ガスでバブリングした後、混合器を経た後、連続的に重合液の液相へ連続的に8L/時間の速度で反応槽へ供給し、重合温度145℃、反応槽内での反応液の充填率が60vol%を維持できるようにし、供給液量と同量の反応液を連続的に抜き出した。尚、反応槽内で発生する蒸発ガスは反応槽外の熱交換器で凝縮し、該凝縮液を反応槽液相へ戻した。抜き出した反応液は、実施例1と同様の条件で揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、有機溶剤を脱気回収し、共重合体はペレットとして回収した。
【0050】
<実施例3>
50Lの反応槽に供給する供給液を、スチレン49質量部、アクリロニトリル29質量部、エチルベンゼン23質量部、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.02質量部、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを0.12質量部となるように調製した。この供給液を窒素ガスでバブリングした後、混合器を経た後、連続的に重合液の液相へ連続的に9.8L/時間の速度で反応槽へ供給し、重合温度145℃、反応槽内での反応液の充填率が80vol%を維持できるようにし、供給液量と同量の反応液を連続的に抜き出した。尚、反応槽内で発生する蒸発ガスは反応槽外の熱交換器で凝縮し、該凝縮液を反応槽液相へ戻した。抜き出した反応液は、実施例1と同様の条件で揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、有機溶剤を脱気回収し、共重合体はペレットとして回収した。
【0051】
<実施例4>
50Lの反応槽に供給する供給液を、スチレン78質量部、アクリロニトリル7質量部、エチルベンゼン15質量部、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.02質量部、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを0.01質量部となるように調製した。この供給液を窒素ガスでバブリングし、混合器を経た後、連続的に重合液の液相へ10.8L/時間の速度で反応槽へ供給し、重合温度145℃、反応槽内での反応液の充填率が70vol%を維持できるようにし、供給液量と同量の反応液を連続的に抜き出した。尚、反応槽内で発生する蒸発ガスは反応槽外の熱交換器で凝縮し、該凝縮液を反応槽液相へ戻した。抜き出した反応液は、実施例1と同様の条件で揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、有機溶剤を脱気回収し、共重合体はペレットとして回収した。
【0052】
<比較例1>
供給液を連続的に重合液の気相から導入した以外は実施例1と同様にして樹脂ペレットを得た。
【0053】
<比較例2>
反応槽内で発生する蒸発ガスは反応槽外の熱交換器で凝縮し、該凝縮液を反応槽気相へ戻したこと以外は実施例1と同様にして樹脂ペレットを得た。
【0054】
<比較例3>
供給液を連続的に重合液の気相からスプレーして導入したこと及び液相から導入したこと以外は実施例1と同様にして樹脂ペレットを得た。
【0055】
<比較例4>
供給液をスチレンのみとしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂ペレットを得た。
【0056】
<GPC測定>
実施例及び比較例に記載の条件で360時間連続運転した後に採取したペレットを前述した条件でGPC測定し、P(UV)/P(RI)の最大値と最小値及び差を測定した。
【0057】
<GPC測定条件>
装置名:SYSTEM-21 Shodex(昭和電工株式会社製)
カラム:PL gel MIXED-B(ポリマーラボラトリーズ社製)を3本直列
温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:0.4質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(ポリマーラボラトリーズ社製)を用いて作成
【0058】
<サンプル調製>
共重合体60mgを15mLのTHF(テトラヒドロフラン)に室温で溶解し、0.45μmのシリンジフィルターでろ過してサンプルを作製した。尚、注入量は10μLとした。
【0059】
<ピーク強度P(RI)及びP(UV)の測定>
上述のGPC測定におけるGPC溶出容量から換算された当該樹脂の分子量に対して、それぞれ示差屈折率検出器で測定された値及び吸光光度検出器(測定波長254m)で測定された値をプロットして得たクロマトグラムのうち、前述した半値幅の範囲でのピーク強度を、それぞれP(RI)及びP(UV)とした。
【0060】
<樹脂組成物の試験片の作成>
実施例及び比較例に記載の条件で360時間連続運転した後に採取したペレット100質量%に対し、酸化防止剤4,4',4''-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)(株式会社ADEKA製 アデカスタブAO-30)を0.15質量%、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイト(株式会社ADEKA製 アデカスタブ2112)を0.05質量%ブレンドした後、単軸押出機(IKG株式会社製 MS-40)を用いて、押出しペレット化した。このペレットを使用し、射出成形機により試験片を作成して、各物性値の測定を行った。
【0061】
<シャルピー衝撃強度>
得られたペレットを使用し、JIS K-7111に準拠して、ノッチなし試験片を用い、打撃方向はエッジワイズを採用して相対湿度50%、雰囲気温度23℃で測定した。なお、測定機は東洋精機製作所社製デジタル衝撃試験機を使用した。
【0062】
<透過率、YI値>
得られたペレットを用いて射出成形機(J140AD-180H、株式会社日本鉄鋼所製)により、127×127×3mm厚みの板状成形品を成形温度230℃で成形した。板状成形品から115×85×3mm厚みの試験片を切り出し、端面をバフ研磨によって研磨し、端面に鏡面を有する板状成形品を作成した。研磨後の板状成形品について、日本分光株式会社製の紫外線可視分光光度計V-670を用いて、大きさ20×1.6mm、広がり角度0°の入射光において、光路長115mmでの350nm~800nmの分光透過率を測定し、波長C光源における、視野2°でのYI値をJIS K7105に倣い算出した。また、透過率は430~700nmの範囲の全光線透過率を示す。結果を表1に示す。
【0063】
<Haze>
ASTM D-1003に準じて、前述した条件で成形した127×127×3mm厚みの板状成形品を使用し、日本電色工業社製HAZEメーター(NDH-2000)を用いて測定した。
【0064】
<耐薬品性>
試験片は成形ひずみの影響を排除するため、260℃にて各ペレットを厚さ4mmになるようプレス成形して、50mm×50mm角に切り出して製造した。40℃に設定した各薬品に14日間浸漬した後、重量変化と外観変化から次のように分類した。薬品はサラダ油を用いた。
◎ : 重量変化、外観変化等の影響は殆ど認められない、○ : 僅かに曇りあるいは変色が認められる、△ : 僅かなクラックあるいはクレージングが発生する、× : 溶解あるいは影響が大きい
【0065】
【表1】
【0066】
P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が小さい実施例1~4は強度に優れ、透明性とYI値、Haze値に優れていた。P(UV)/P(RI)の最大値と最小値の差が大きい比較例1~3、は強度が低くYI値が高い結果となり、色相に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の共重合体を含む樹脂組成物及び当該樹脂組成物から成形される成形品は、強度や耐薬品性に優れ、色相及び透明性に優れることから、高い意匠性が要求される用途に好適に用いることができる。具体的には、化粧品等の容器や文具等の雑貨の用途に好適に使用することができる。