(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】トーショナルダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/126 20060101AFI20241121BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20241121BHJP
F02B 77/00 20060101ALI20241121BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F02B67/06 D
F02B77/00 K
F16F15/126 D
F16H55/36 H
(21)【出願番号】P 2023572407
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2022046805
(87)【国際公開番号】W WO2023132226
(87)【国際公開日】2023-07-13
【審査請求日】2024-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2022001967
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】成田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】塩沼 幸己
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-106563(JP,A)
【文献】特開平11-109979(JP,A)
【文献】特開平05-202987(JP,A)
【文献】特開2020-041684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/126
F16H 55/36
F02B 67/06
F02B 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定されるボスと円環状のリムとを複数本のステーを介して一体に設けたハブと、
前記リムの外周面に弾性体を介して連結される円環状の振動リングと、
を備え、
前記ステーは、前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/4の長さを超えない周方向の幅寸法を有しているトーショナルダンパ。
【請求項2】
前記ステーは、軸方向の厚み寸法が前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さを超えない範囲で厚肉化されている、
請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
前記ステーは、前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/4から1/2の長さの範囲に定められた軸方向の厚み寸法を有している、
請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項4】
前記ステーは、周方向の幅寸法以上で前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さ以下の範囲に定められた軸方向の厚み寸法を有している、
請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項5】
前記ステーは、軸方向の厚み寸法が前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さを超えない範囲で厚肉化されており、
前記ステーは、前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/4から1/2の長さの範囲に定められた軸方向の厚み寸法を有している、
請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項6】
前記ステーは、軸方向の厚み寸法が前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さを超えない範囲で厚肉化されており、
前記ステーは、周方向の幅寸法以上で前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さ以下の範囲に定められた軸方向の厚み寸法を有している、
請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項7】
前記ステーの周方向の幅寸法は、前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/4の長さである、
請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項8】
前記ステーは、軸方向に傾斜した形状を有している、
請求項1ないし7のいずれか一に記載のトーショナルダンパ。
【請求項9】
前記ステーの軸方向に傾斜した形状をなす表裏面は、平行である部分を有している、
請求項8に記載のトーショナルダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トーショナルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
トーショナルダンパは、例えば自動車のエンジンにおいて、補器類を駆動するクランクプーリとして用いられる。クランクプーリは、エンジンに設けられたクランクシャフトの端部に取り付けられ、ベルトを介して補器類を駆動する。
【0003】
クランクプーリとして用いられるトーショナルダンパは、クランクシャフトに固定されるハブを有し、ハブの外周面に弾性体を介して振動リングを連結した構造を有している。動吸振器として見たとき、弾性体はバネをなし、振動リングはマス(質量体)をなす。そこでクランクシャフトの回転に追従して回転する振動リングが回転方向に共振し、クランクシャフトの捩り共振を抑制するというのがトーショナルダンパによる振動抑制の仕組みである。
【0004】
エンジンの構造上、回転するクランクシャフトには振動が発生する。クランクシャフトの振動はトーショナルダンパに伝わり、主にハブから放射されて放射音を発生する。放射音は騒音になるため、これを抑制するようにした技術が様々考えられている。
【0005】
例えば特開平05-202987号公報(特許文献1)には、トーショナルダンパのハブの前面側に吸音板を取り付け、ハブから放射される放射音を抑えるようにした発明が開示されている。
【0006】
別の方式としては、例えば特開2020-041684号公報(特許文献2)に開示されているように、ハブに空洞部を設けるようにしたトーショナルダンパも知られている。空洞部に導かれた放射音の一部はハブから発生する放射音と逆位相の音波に変換されるので、音波の干渉によって放射音を消音しようという試みである(文献2の段落[0030]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平05-202987号公報
【文献】特開2020-041684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開平05-202987号公報(特許文献1)に記載された発明のように吸音板をトーショナルダンパに取り付ける場合、部品点数が増加して部品コストがかさんでしまう。製造工程の増加も回避したいことの一つである。
【0009】
特開2020-041684号公報(特許文献2)の記載された発明は、吸音板のような別部品を必要としないため、部品点数や製造工程数という点では優位性が認められるものの、空洞部のための専有スペースが必要で大型化が不可避である。
【0010】
上記二つの文献(特許文献1、2)に記載されたいずれの発明においても改良が望まれる。追加要素の付加や大型化などの不利益を回避しつつ、放射音の低減を図りたい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
トーショナルダンパの一態様は、回転軸に固定されるボスと円環状のリムとを複数本のステーを介して一体に設けたハブと、前記リムの外周面に弾性体を介して連結される円環状の振動リングとを備え、前記ステーは、前記ハブの軸方向の共振周波数の波長の1/4の長さを超えない周方向の幅寸法を有している。
【発明の効果】
【0012】
放射音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】4気筒エンジンのクランクシャフトに固定されてプーリとしても用いられるトーショナルダンパの模式図。
【
図2】本実施の形態のトーショナルダンパの正面図。
【
図4】中央位置で縦断面にして示すトーショナルダンパの斜視図。
【
図6】クランクシャフトの軸方向振動によって生ずる振動リングの軸方向振動の大きさを周波数ごとに示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の一形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、直列4気筒の4ストロークエンジンに用いられるプーリへの適用例である。つぎの項目に沿って説明する。
1.構成
(1)エンジン
(2)トーショナルダンパの基本構成
(3)ステー
2.作用効果
(1)基本的な作用効果
(2)騒音の抑制
(イ)等価放射パワー
(ロ)ステーの周方向の幅
(ハ)ステーの軸方向の厚み
(ニ)ステーの傾斜形状
(ホ)まとめ
3.変形例
【0015】
1.構成
(1)エンジン
図1に示すように、エンジン11にはクランクシャフト12(回転軸)が回転自在に取り付けられている。クランクシャフト12は水平に配置され、プーリPとして構成されたトーショナルダンパ101を一端側に固定している。
【0016】
クランクシャフト12は、気筒毎にカウンターバランス13を備え、ピン14にコンロッド15を介してピストン16を取り付けている。ピストン16は、シリンダ17にスライド自在に収納されている。ピストン16のスライド移動方向は、クランクシャフト12の軸と直交する垂直方向である。
【0017】
(2)トーショナルダンパの基本構成
図2ないし
図4に示すように、トーショナルダンパ101は、ハブ111に弾性体121を介して円環状の振動リング131を連結し、振動リング131の外周面にベルト溝141を設けている。
【0018】
ハブ111は、回転軸であるエンジン11のクランクシャフト12に固定されるボス112を中心位置に備え、ボス112から径方向外方に向けて立ち上げられたステー113を介してリム114を設けている。
【0019】
ボス112は、円筒状をした部材であり、回転軸を嵌合させるための取付孔112aを中心に有している。ハブ111は、取付孔112aに嵌合させたクランクシャフト12の一端部をボルト21で固定することで、クランクシャフト12に固定される。この状態でボス112は、その軸Aをクランクシャフト12の回転中心をなす軸Xに一致させ、クランクシャフト12の回転に伴い回転する。
【0020】
ステー113は、ボス112とリム114との間に介在し、ボス112とリム114とを連結する部材である。ステー113は四本設けられ、それぞれがボス112の軸Aと同心の円周上に等間隔に配列されている。個々のステー113の間には四個の孔115が形成されている。これらの孔115も、ボス112の軸Aと同心をなす円周上に等間隔で配列されている。
【0021】
リム114は、ステー113の端部からハブ111の軸方向に沿って延出する円環状の部材であり、ボス112の軸Aと同心上に配置されている。したがってリム114の外周面は、ボス112の軸Aと同心の円周上に位置づけられる。もっともリム114の外周面の直径は一定ではなく、軸方向のほぼ中央位置では、リム凹部116によって直径が短くなっている。リム凹部116は、振動リング131とともにコンボリューション部Cを形成するためのもので、その詳細は後述する。
【0022】
ボス112とステー113とリム114とからなるハブ111は、例えば金属を材料として一体に形成されている。
【0023】
弾性体121は、直径が均一な円環状の部材であり、リム114と振動リング131との間に介在し、これらのリム114と振動リング131とを弾性的に連結している。このような弾性体121は、例えばゴムを材料として形成され、全周にわたって均一な肉厚を有している。
【0024】
振動リング131は、ボス112が有するリム114の外周面との間に、弾性体121を介在させる隙間Gを介して、内周面を対面させる円環状の部材である。このような振動リング131は、弾性体121を介して保持されるという構造上、固有の振動数を持つマス(質量体)として機能する。
【0025】
振動リング131の内周面には、リム114の外周面に形成されたリム凹部116と形状を合わせて、リング凸部132が形成されている。これらのリム凹部116とリング凸部132とは、リム114及び振動リング131の全周にわたりその周方向に沿って設けられており、コンボリューション部Cを構成している。コンボリューション部Cは、リム114と振動リング131との間における弾性体121の摺動抵抗を高め、弾性体121の位置ずれや抜け出しを抑制する。
【0026】
振動リング131は、その外周面に、複数条のベルト溝141を周方向に沿って形成している。これらのベルト溝141は断面V字形状をしており、各種の補機類を駆動するために、動力伝達用の無端ベルトを巻き掛ける構造物である(いずれも図示せず)。ベルト溝141を設けることによって、トーショナルダンパ101は、プーリPとしての役割を果たす。
【0027】
(3)ステー
本実施の形態のトーショナルダンパ101のステー113は、ハブ111の軸方向、つまり軸Aの方向の共振周波数の波長の1/4の長さを超えない周方向の幅寸法を有している(
図1参照)。
【0028】
ハブ111の共振周波数は、例えば3.7kHzである。共振周波数の波長は、
波長=約340[m/s]/周波数[Hz]
であるため、ハブ111の軸方向の共振周波数の波長は約0.092m(92mm)ということになる。したがってステー113は、92mmの1/4である23mmを超えない周方向の幅寸法を有することになる。
【0029】
本実施の形態のステー113は、軸方向の厚み寸法がハブ111の軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さを超えない範囲で厚肉化されている。
【0030】
前述した通り、ハブ111の軸方向の共振周波数の波長は約92mmである。そこでステー113は、92mmの1/2である46mmを超えない範囲で厚肉化されている。
【0031】
ここでいう厚肉化は、一例として、ステー113の軸方向の共振周波数の波長の1/4以上の肉厚にすることを意味する。この例の場合、ステー113の軸方向の厚みは23~46mmの範囲に設定されることになる。
【0032】
別の一例として、厚肉化は、周方向の幅寸法以上の肉厚にすることを意味する。ステー113の周方向の幅寸法は、前述した通り23mmを超えない範囲に設定される。例えば20mmをステー113の周方向の幅寸法として設定した場合、ステー113の軸方向の厚みは20~46mmの範囲に設定されることになる。
【0033】
以上述べたステー113の形状を端的に表現すると、一般的なトーショナルダンパが有するステーに対して、周方向の幅が狭く、軸方向の厚みが厚い形状であるといえる。軸方向の厚みを厚くしているのは、ステー113の剛性を高めるためである。
【0034】
剛性確保という面では、本実施の形態のステー113は軸方向に傾斜した形状を有している(
図2-3参照)。このときステー113の表裏面は、同じ角度で傾斜している。つまりステー113の軸方向に傾斜した形状をなす表裏面は、平行である部分を有している。
【0035】
2.作用効果
(1)基本的な作用効果
【0036】
このような構成において、エンジン11の始動によってクランクシャフト12が回転すると、トーショナルダンパ101も回転する。このときトーショナルダンパ101はプーリPも構成しているので、補器類に対して動力が伝達される。
【0037】
トーショナルダンパ101は、振動リング131がマス(質量体)として機能することから、捻り方向に固有振動数を持つ。このためクランクシャフト12が回転して捩り振動が発生する場合、トーショナルダンパ101の捻り方向の固有振動数をその捩り共振周波数に適合するようにチューニングしておけば、クランクシャフト12に発生する捩り振動を吸収して低減することができる。
【0038】
一般的に、クランクシャフト12に生ずる捩り共振周波数は300~600Hz程度になることが多い。そこでトーショナルダンパ101の捩り方向の固有振動数もクランクシャフト12に生ずる捩り共振周波数に合わせて300~600Hz程度にチューニングする。
【0039】
(2)騒音の抑制
クランクシャフト12は軸X方向にも振動する。このためトーショナルダンパ101も軸Xに一致する軸Aの方向(以下「軸方向」と略称する)に共振する。このとき振動リング131の軸方向の共振周波数は、捩り振動と同程度の数百Hz程度になる。
【0040】
その一方でハブ111はより高い数千Hzの周波数で軸方向に共振する。ハブ111が高周波で共振すると、ハブ111から放射される放射音が騒音となって伝搬してしまう。
【0041】
(イ)等価放射パワー
ハブ111から発生する騒音を理解するために、ここでは等価放射パワーを想定する。等価放射パワーは、物体から発生する音の程度を表す指標となる。等価放射パワーを小さくすることができれば、ハブ111が発する放射音を低減することが可能である。
【0042】
等価放射パワーの計算式は、(1)式の通りである。
P=τ×(sv/2)×md×a×v2 ………(1)
だだし、
P:等価放射パワー
τ:放射損失係数
sv:音速
md:材料密度
a:面積
v:振動速度
【0043】
放射損失係数τは、物体の形状に依存する係数である。例えば細いピアノ線は音の放射が弱く、広い平板は音の放射が強いということから想像されるように、音の放射の程度を表している。
【0044】
材料密度mdは、材料に依存する要素である。例えばスポンジ状や気泡のない高密度体などの構造によって材料密度が定まってくる。
【0045】
面積aは、振動体の投影面積を意味する。
【0046】
トーショナルダンパ101において、ハブ111は鋳鉄などの金属を用いるのが通例なので、放射音による騒音の抑制という面では工夫の余地が少ない。騒音の抑制に効いてくる要因として考えられるのは、形状面では放射損失係数τ及び面積a、形状以外の面では振動速度vである。「放射損失係数τ」「面積a」「振動速度v」の三要素の値を小さくすることで、ハブ111から発せられる放射音を低減することが可能である。
【0047】
もっともハブ111のうちのボス112及びリム114については、上記三要素の値を小さくするような工夫を凝らしがたい。そこで本実施の形態ではステー113の形状を工夫し、上記三要素の値を小さくしている。
【0048】
(ロ)ステーの周方向の幅
本実施の形態では、ステー113の周方向の幅を狭くしている。前述した通り、ハブ111の軸方向の共振周波数の波長の1/4の長さを超えない幅である。これによって放射損失係数τ及び面積aが共に小さくなり、これに応じて等価放射パワーPが小さくなることによってハブ111から発せられる放射音の低減が図られる。
【0049】
詳しく説明する。
【0050】
振動体から放射される音は、振動体の寸法に依存して、効率的に放射される周波数と放射が非効率的な周波数とに二分される。振動体が長方形の場合、その最小幅寸法よりも波長の短い周波数の音は、空気の粗密波として前方に放射される。これに対して最小幅寸法よりも長い波長の周波数は、周辺の空気が振動体の側面に沿って背後に回り込む回折現象を起こし、粗密波として周囲に伝搬されない。とりわけ波長の1/4の最小幅をもつ振動体であれば、放射音は皆無となる。放射損失係数τが極限的に小さくなるわけである。
【0051】
そこで本実施の形態では、ステー113の周方向の幅をハブ111の軸方向の共振周波数の波長の1/4の長さを超えない幅、例えば1/4の幅に設定している。これによってハブ111から生ずる放射音を抑制することができる。
【0052】
(ハ)ステーの軸方向の厚み
本実施の形態ではステー113を軸方向に厚肉化し、剛性を高めている。ステー113の剛性が高められるとステー113の軸方向の振動が小さくなり、振動状態が高周波にシフトする。その結果振動速度vが小さくなり、これに伴い等価放射パワーPが小さくなってハブ111から発せられる放射音の低減が図られる。
【0053】
ところがステー113を軸方向に厚肉化しすぎると、上述した回折現象が起きにくくなってしまう。回折現象は、空気が振動体の側面に沿って背後に回り込む現象であることから、振動体の側面長が長くなると空気が背後に回りにくくなってしまうからである。そうなると放射損失係数τが十分に小さくならない。
【0054】
そこで本実施の形態では、ステー113の厚みをハブ111の軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さを超えない範囲に制限し、回析現象の鈍化を防止している。
【0055】
(ニ)ステーの傾斜形状
ステー113を傾斜させることによって、軸方向の剛性を大幅に高めることができる。本実施の形態では、傾斜形状によってステー113の軸方向の剛性を高め、厚肉化だけに頼らないステー113の剛性の向上を実現している。したがって回折現象によるハブ111からの放射音の抑制を実現しながら、ステー113の軸方向振動を高周波にシフトさせることが可能である。
【0056】
ステー113の傾斜形状がとりわけ大きな意味を持つのは、ステー113の軸方向の厚肉化が困難な局面である。前述した通り、ステー113の軸方向の厚みはハブ111の軸方向の共振周波数の波長の1/2の長さを超えない範囲に制限される。ところがその肉厚では軸方向に十分な剛性を持たせることができない状況が想定される。ステー113の傾斜形状は、ステー113の厚肉化が制限される中で、その剛性の向上に貢献する。
【0057】
(ホ)まとめ
ステー113の周方向の幅寸法の制限は、等価放射パワーPを定義する上記(1)式中の放射損失係数τ及び面積aを小さくすることに貢献する。その一方でステー113の剛性を低下させるため、(1)式中の振動速度vに関して不利な状況をもたらす可能性がある。
【0058】
この点本実施の形態では、ステー113を軸方向に厚肉化することで振動速度vの上昇を抑え、あるいは小さくするようにしている。ところがステー113を軸方向に厚肉化しすぎた場合、空気がステー113の側面に沿って背後に回り込む回折現象が生じにくくなり、放射損失係数τが十分に小さくならない。
【0059】
そこで本実施の形態では、ステー113の軸方向の厚肉化に制限を設け、回析現象の鈍化を防止している。このときステー113の傾斜形状は軸方向の剛性低下を抑制し、振動速度vの減少に貢献する。
【0060】
その結果「放射損失係数τ」「面積a」「振動速度v」の三要素の値をバランスよく小さくして等価放射パワーPを減少させ、ハブ111から発せられる放射音の低減を図ることができる。
【0061】
図5及び
図6は、シミュレーション結果を示すグラフである。これらの図面中、本実施の形態のトーショナルダンパ101のシミュレーション結果は実線で、参考例のシミュレーション結果は破線で示す。参考例は、ステー113の周方向の幅及び軸方向の厚みについて本実施の形態のような数値範囲を持たない周知のトーショナルダンパである。
【0062】
図5に示すように、参考例と比較して、本実施の形態のトーショナルダンパ101の等価放射パワーは、400~4000Hzに至る広い周波数帯で小さくなることがわかる。特に2500Hzを少し超えた辺りの周波数をピークとする1600~3200Hzの範囲では、等価放射パワーの減少度合いが顕著に現れている。全周波数帯にわたって等価放射パワーに大きな変化が見られない点も、参考例と比べて優れた特性であるといえる。
【0063】
図6は、振動リング131の軸方向振動の大きさを周波数ごとに示している。
【0064】
前述した通り、クランクシャフト12に軸方向振動が生ずると、トーショナルダンパ101の振動リング131は数百Hzで軸方向に共振する。参考例のシミュレーション結果を参照すると、630Hz、1000Hz、及び2500Hzの辺りをピークとして振動リングが共振していることがわかる。このとき参考例ではハブの軸方向の剛性が低いことから、振動リングの軸方向の共振による力が弾性体を介してハブの外周部に位置するリムに伝達され、リムを強制変位させて放射音を生じさせてしまうことが予想される。
【0065】
本実施の形態では、上記三種類の周波数域のいずれにおいても、振動リング131に生ずる振動が参考例よりも低い。これはステー113の軸方向の剛性が高いことが原因であると考えられる。このため振動リング131の軸方向の共振に伴う強制変位力がリム114に伝達されても、リム114は容易に変形せず、同周波数帯における放射音を低減することができる。
【0066】
3.変形例
実施に際しては、各種の変形や変更が許容される。
【0067】
例えばステー113の軸方向の厚肉化は、ステー113に必要以上の剛性を求めないのであれば、必ずしも必須ではない。
【0068】
ステー113の傾斜形状も必須というわけではない。傾斜形状を持たせることなくステー113に十分な剛性を与えることができ、あるいはステー113に必要以上の剛性を求めないのであれば、ステー113はボス112から軸方向と直交する方向に延びるストレート形状であってもよい。
【0069】
その他、あらゆる変更や変形が許容される。
【符号の説明】
【0070】
11 エンジン
12 クランクシャフト(回転軸)
13 カウンターバランス
14 ピン
15 コンロッド
16 ピストン
17 シリンダ
21 ボルト
101 トーショナルダンパ
111 ハブ
112 ボス
112a 取付孔
113 ステー
114 リム
115 孔
116 リム凹部
121 弾性体
131 振動リング
132 リング凸部
141 ベルト溝
A 軸(トーショナルダンパ)
C コンボリューション部
G 隙間
P プーリ
X 軸(クランクシャフト)