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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】地中埋設管の探査方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/12 20060101AFI20241121BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01V3/12 B
G01S13/88 200
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024060386
(22)【出願日】2024-04-03
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】青池 邦夫
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-128876(JP,A)
【文献】特開2004-053516(JP,A)
【文献】特開2002-296347(JP,A)
【文献】特開2004-245742(JP,A)
【文献】特開2000-193742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/12
G01S 13/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中レーダを測線に沿って走査させて複数の測定地点において、地盤に向けて送信した前記地中レーダの電波の反射波を取得する反射波取得ステップと、
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する地中埋設管検出ステップと、
前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する反射係数符号推定ステップと、
前記反射波の瞬時位相を算出する瞬時位相算出ステップと、
該瞬時位相の余弦を算出する余弦算出ステップと、
を含み、
前記反射係数符号推定ステップにおいて、時間方向における該余弦の符号の変化に基づいて、前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する、地中埋設管の探査方法。
【請求項2】
前記余弦算出ステップにおいて、時間方向において隣接する複数の双曲線状の反射波について、それぞれの双曲線状の形状に沿った瞬時位相の余弦の平均を算出し、
前記反射係数符号推定ステップにおいて、該余弦の平均に基づいて、前記時間方向における該余弦の符号の変化を求める、請求項に記載の地中埋設管の探査方法。
【請求項3】
地中レーダを測線に沿って走査させて複数の測定地点において、地盤に向けて送信した前記地中レーダの電波の反射波を取得する反射波取得ステップと、
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する地中埋設管検出ステップと、
前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する反射係数符号推定ステップと、
を含み、
前記地中埋設管検出ステップにおいて、前記反射波の瞬時位相の余弦の絶対値を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、地中埋設管に対応する双曲線を検出する、地中埋設管の探査方法。
【請求項4】
前記地中埋設管検出ステップにおいて、前記反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像を、前記測線と交わる方向で複数取得し、取得された複数の画像から頂点の測定地点が直線状に位置する双曲線状の反射波が検出された場合に、前記双曲線状の反射波に対応する地中埋設物を、前記地中埋設管と判定する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の地中埋設管の探査方法。
【請求項5】
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した前記画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を抽出し、前記双曲線状の反射波の形状に基づいて前記地盤における前記電波の伝搬速度を推定し、前記地中埋設管の設置されている深さを推定する深さ推定ステップを更に含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の地中埋設管の探査方法。
【請求項6】
コンピュータに、
地中レーダを走査させて複数の測定地点において、地盤に向けて送信した前記地中レーダの電波の反射波を取得する反射波取得ステップと、
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する地中埋設管検出ステップと、
前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する反射係数符号推定ステップと、
前記反射波の瞬時位相を算出する瞬時位相算出ステップと、
該瞬時位相の余弦を算出する余弦算出ステップと、
を実行させるための、プログラムであり、
前記反射係数符号推定ステップにおいて、時間方向における該余弦の符号の変化に基づいて、前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する、プログラム。
【請求項7】
コンピュータに、
地中レーダを走査させて複数の測定地点において、地盤に向けて送信した前記地中レーダの電波の反射波を取得する反射波取得ステップと、
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する地中埋設管検出ステップと、
前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する反射係数符号推定ステップと、
を実行させるための、プログラムであり、
前記地中埋設管検出ステップにおいて、前記反射波の瞬時位相の余弦の絶対値を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、地中埋設管に対応する双曲線を検出する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地中埋設管の探査方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に埋設された管路を推定する方法が知られている。例えば非特許文献1では、地中レーダが、地盤に向けて電波を送信し、地盤からの反射波を取得し、当該反射波から瞬時位相に基づく埋設管等の反射体の分類方法についてまとめている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Byeongjin Park et al., Underground Object Classification for Urban Roads Using Instantaneous Phase Analysis of Ground-Penetrating Radar (GPR) Data, Remote Sensing, 2018, 10, 1417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の技術では、地中埋設管の検出精度を高めることが困難であった。
【0005】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、地中埋設管を高精度に検出することが可能な、地中埋設管の探査方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様としての地中埋設管の探査方法は、
(1)
地中レーダを測線に沿って走査させて複数の測定地点において、地盤に向けて送信した前記地中レーダの電波の反射波を取得する反射波取得ステップと、
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する地中埋設管検出ステップと、
前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する反射係数符号推定ステップと、
を含む。
【0007】
本開示の1つの実施形態としての地中埋設管の探査方法は、
(2)
前記反射波の瞬時位相を算出する瞬時位相算出ステップと、
該瞬時位相の余弦を算出する余弦算出ステップと、
を更に含み、
前記反射係数符号推定ステップにおいて、時間方向における該余弦の符号の変化に基づいて、前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する、
上記(1)に記載の地中埋設管の探査方法、である。
【0008】
本開示の1つの実施形態としての地中埋設管の探査方法は、
(3)
前記余弦算出ステップにおいて、時間方向において隣接する複数の双曲線状の反射波について、それぞれの双曲線状の形状に沿った瞬時位相の余弦の平均を算出し、
前記反射係数符号推定ステップにおいて、該余弦の平均に基づいて、前記時間方向における該余弦の符号の変化を求める、上記(2)に記載の地中埋設管の探査方法、である。
【0009】
本開示の1つの実施形態としての地中埋設管の探査方法は、
(4)
前記地中埋設管検出ステップにおいて、前記反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像を、前記測線と交わる方向で複数取得し、取得された複数の画像から頂点の測定地点が直線状に位置する双曲線状の反射波が検出された場合に、前記双曲線状の反射波に対応する地中埋設物を、前記地中埋設管と判定する、
上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の地中埋設管の探査方法、である。
【0010】
本開示の1つの実施形態としての地中埋設管の探査方法は、
(5)
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した前記画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を抽出し、前記双曲線状の反射波の形状に基づいて前記地盤における前記電波の伝搬速度を推定し、前記地中埋設管の設置されている深さを推定する深さ推定ステップを更に含む、
上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の地中埋設管の探査方法、である。
【0011】
本開示の1つの実施形態としての地中埋設管の探査方法は、
(6)
前記地中埋設管検出ステップにおいて、前記反射波の瞬時位相の余弦の絶対値を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、地中埋設管に対応する双曲線を検出する、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の地中埋設管の探査方法、である。
【0012】
本開示の第2の態様としてのプログラムは、
(7)
コンピュータに、
地中レーダを走査させて複数の測定地点において、地盤に向けて送信した前記地中レーダの電波の反射波を取得する反射波取得ステップと、
該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する地中埋設管検出ステップと、
前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する反射係数符号推定ステップと、
を実行させるための、プログラム、である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、地中埋設管が高精度に検出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る地中埋設管の探査方法を実施する探査システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】コンピュータが実行する地中埋設管の探査方法を示すフローチャートである。
図3】反射波の波形を、地中レーダの走査距離(距離程)ごとに並べた画像である。
図4図3に示すような画像が、反射波の大きさに基いて着色されて作成される画像である。
図5】反射波の波形を、地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像が、測線と交わる方向で複数取得される様子を示す図である。
図6】反射波の波形を、地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像において、電波の伝搬速度を変化させた場合における、様々な双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を示す図である。
図7図3に示すような画像が、反射波の大きさに基いて着色されて作成される画像である。
図8図4において、距離7.9mにおける反射波の瞬時位相を示す図である。
図9図9は、図4に示される多数の反射波の瞬時位相を示す図である。
図10図4に示される多数の反射波の瞬時位相の余弦を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照して説明される。以下の図面に示す構成要素において、同じ構成要素には同じ符号を付す。
【0016】
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る地中埋設管の探査方法を実施する探査システム100を説明する。探査システム100は、移動部10と、地中レーダ20と、コンピュータ30と、を備える。
【0017】
地中埋設管は、内部をガス、上下水、電線類等が通る管である。当該管は、例えば道路の下に埋められている。管の直径は、概ね10mm~500mmである。管の直径は、軸線方向にわたって変動し得る。管の深度は、例えば2m未満であるが、特に限定されない。管は湾曲してもよい。探査システム100が探査する前に、管が存在するか不明であってよい。管の大まかな位置が道路台帳等から把握できてもよい。
【0018】
移動部10は、探査する地盤上で探査システム100を移動させる。移動部10は、車輪を備えてよい。移動部10は、当該車輪の駆動部を更に備えてよい。駆動部はモーターであってよい。他の例として、作業者が車輪を駆動してよい。移動部10は、移動距離及び移動方向を測定し記憶してよい。
【0019】
地中レーダ20は、地盤に向けて電波を送信し、電波の反射波を受信する。探査システム100の移動中に、地中レーダ20は、周期的に電波を送信してよい。地中レーダ20は、電波を送信した時間と、受信した時間との時間差を測定してよい。地中レーダ20は、移動部10と一体化であってよい。
【0020】
地中レーダ20は、カード型であってよい。地中レーダが探査できる距離は、例えば0.5m~2.5m程度である。地中レーダが送信する電波の中心周波数は適宜設計される。一般に、電波の中心周波数が高い場合、分解能が向上する一方で、探査深度が浅くなる。逆に、電波の中心周波数が低い場合、分解能は低下する一方で、探査深度は深くなる。電波の中心周波数は、200MHz~900MHzから選択されてよい。
【0021】
コンピュータ30は、探査システム100全体の動作を制御する。コンピュータ30は、1つ以上のプロセッサを含む。コンピュータ30は、移動部10及び地中レーダ20と通信可能であってよい。コンピュータ30は、媒体により移動部10及び地中レーダ20からのデータを受け取ってよい。コンピュータ30は、移動部10及び地中レーダ20から離れて配置されてよい。
【0022】
次に、コンピュータ30のソフトウェア構成が説明される。コンピュータ30の動作の制御に用いられるプログラムが記憶部に記憶される。当該プログラムは、制御部によって読み込まれると、制御部に、地中埋設管の探査方法を実行させる。
【0023】
図2を参照して、探査システム100の動作の例を説明する。以下に説明する動作は、本実施形態に係る地中埋設管の探査方法に相当する。すなわち、本開示に係る管路探査方法は、例えば、図2に示すS1からS3のステップを含む。
【0024】
図2のS1において、探査システム100は、地中レーダ20を測線に沿って走査させる。このときに、移動部10は、地盤上で探査システム100を移動させる。当該移動方向は、地中埋設管と直交すると考えられる方向であってよい。地中レーダ20は、複数の測定地点において、地盤に向けて電波を送信する。ここで示す例では、地中レーダ20は、符号が正のパルス波、符号が負のパルス波、及び符号が正のパルス波の3つの波を連続して送信する。例えば移動部10が1cm移動するたびに、地中レーダ20は当該3つの波を連続して送信する。地中レーダ20は、電波の反射波を受信する。測線は、例えばつづら折り状である。
【0025】
図2のS2において、探査システム100のコンピュータ30は、地中レーダ20が受信した電波の反射波を受取る。コンピュータ30は、反射波の波形を、図3のように地中レーダ20の走査距離(探査システム100の距離程)ごとに並べた画像を作成する。図3に示す画像において、太字で示す波は、距離程が1.4mのときに受信した反射波を示す。当該画像において、より右側に位置する波は、探査システム100の地中レーダ20がより距離程が進んだ時に受信した反射波を示す。
【0026】
コンピュータ30は更に、反射波の大きさ及び符号に基いて、図3に示すような画像を着色し、図4に示す画像を作成する。当該画像には、地中埋設管からの反射波が双曲線HA1,HA2,HA3状(傘形状)に出現し得る。当該双曲線状の反射波は、地中埋設管の存在を示す。この現象は、探索位置が埋設管の直上のときに反射波のピーク時間が最も短く、探索位置が埋設管の位置から離れると反射波のピークが次第に遅く届くからである。コンピュータ30は、画像に背景除去処理を施してもよい。以下、双曲線HA1,HA2,HA3をまとめて双曲線群HAという。
【0027】
送信した波の位相と反射波の位相とが同じである場合、すなわち、時間順に正、負及び正の送信パルスに対して、反射波の符号が時間順に正、負及び正である場合、反射係数が正である。一方、送信した波の位相が反射波の位相の逆位相である場合、すなわち、反射波の符号が時間順に負、正及び負である場合、反射係数が負である。反射係数は埋設物と地盤の比誘電率の差で定まり、地盤の比誘電率よりも埋設物の比誘電率が低いときに反射係数が正に、埋設物の比誘電率が高いときに反射係数が負になる。地中埋設管が存在する場合、地中埋設管が、硬質ポリ塩化ビニル管、ポリエチレン管等で、内部に空気がある場合、反射係数が正になる。一方、地中埋設管が、鋼管、ヒューム管等であるときに、反射係数が負になる。したがって、反射係数の符号によって、地中埋設物の材料が特定される。地表部のバルブやマンホールの蓋などから、地中埋設物の占用者を割り出してもよい。これら情報も加えて、地中埋設管の管種が特定されてよい。
【0028】
地中埋設管がガス管であり、管内の圧力が高い場合、地中埋設管は鋼管である場合が多い。一方、管内の圧力が低い場合、地中埋設管はポリエチレン管である場合が多い。地中埋設管が下水管又は雨水管である場合、地中埋設管は、硬質ポリ塩化ビニル管又はヒューム管であってよい。地中埋設管が上水管である場合、地中埋設管は、鋼管又は硬質ポリ塩化ビニル管であってよい。
【0029】
コンピュータ30は、図4又は図3に示される画像から、双曲線HA1,HA2,HA3状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する。ここで示す例では、双曲線HA1,HA2,HA3状に出現する反射波の符号が時間順に負、正及び負であるから、反射係数が負の埋設管と推定される。また、コンピュータ30は、双曲線状に出現する反射波を検出することで、地中埋設管の位置を特定する。反射波の検出は、センブランス解析、パターンマッチング等により行ってよい。センブランス解析では、センブランスを計算しながら、時間及び距離をずらして探索を行う。センブランスの値は0~1であり、双曲線状に出現する反射波では、センブランスが1に近づく。言い換えれば、センブランスが高い場合、双曲線状の反射波が存在する。
【0030】
コンピュータ30は、図5に示されるように、反射波の波形を地中レーダ20の走査距離ごとに並べて作成した画像を、(方向d1に沿う)測線と交わる方向(方向d2)で複数取得してよい。具体的に、図2のS1において、探査システム100は、地中レーダ20をつづら折り状の測線に沿って走査させる。より具体的に、移動部10は、地盤上で探査システム100を第1方向d1に移動させて、反射波の波形を地中レーダ20の走査距離ごとに並べて作成した第1画像F1を取得する。次に、移動部10は、探査システム100を、第1方向と交差する第2方向d2に移動させる。その後、移動部10は、地盤上で探査システム100を第1方向d1とは逆の方向に移動させて、反射波の波形を地中レーダ20の走査距離ごとに並べて作成した第2画像F2を取得する。ここまで説明した動作を繰り返すことで、反射波の波形を地中レーダ20の走査距離ごとに並べて作成した画像が、3つ以上取得されてよい。
【0031】
コンピュータ30は、取得された複数の画像F1,F2から頂点t1,t2の測定地点が直線状に位置する双曲線HA,HA’状の反射波が検出された場合に、双曲線HA,HA’状の反射波に対応する地中埋設物1000を、地中埋設管と判定してよい。コンピュータ30は、3次元双曲型波面を検出してよい。したがって、コンピュータ50は、地中埋設管と、地中埋設管以外の地中埋設物と、を区別し得る。また、地盤中に地中埋設管が存在しなくても、誘電率の差が存在する場合、画像に双曲線状の反射波が出現することがある。上述したように、コンピュータ50は、地中埋設管による反射波と、地中埋設管が存在しない場合の反射波とを区別し得る。それゆえ、コンピュータ50は、地中埋設管をより高い精度で検出し得る。
【0032】
コンピュータ30は、抽出された双曲線状の反射波の形状に基づいて、地盤における電波の伝搬速度を推定してよい。図6は、電波の伝搬速度を変化させた場合における、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を示す図である。電波の伝搬速度が変化することで、双曲線の曲率が変化する。したがって、コンピュータ30は、抽出された双曲線状の反射波の曲率に基づいて、電波の伝搬速度を推定し得る。
【0033】
上述したように、地中レーダ20は、電波を送信した時間と、受信した時間との時間差を測定してよい。コンピュータ30は、当該時間差と、推定した電波の伝搬速度とに基づいて、地中埋設管の設置されている深さを推定してよい。
【0034】
反射係数が負である場合、図4に示されるように、双曲線群HAは、上側に位置する負双曲線HA1、中央に位置する正双曲線HA2、及び下側に位置する負双曲線HA3で構成される。負双曲線では反射波の大きさの符号が負であり、正双曲線は反射波の大きさの符号が正である。
【0035】
図7は、反射波の大きさ及び符号に基いて着色し、反射係数が正の地中埋設管に着目して作成された画像である。当該画像にも、地中埋設管からの反射波が双曲線HB1,HB2,HB3状に出現する。上側に位置する双曲線HB1、及び下側に位置する双曲線HB3は正の符号の双曲線である。中央に位置する双曲線HB2は負の符号の双曲線である。
【0036】
ここまで説明したように、反射係数の符号により、検出した反射波を構成する双曲線群の各双曲線における、反射波振幅の符号変化の順序が異なる。
【0037】
図2のS3において、コンピュータ30は、当該順序に基づいて、地中埋設管の反射係数の符号を推定する。コンピュータ30は、送信した電波の波形も考慮し、地中埋設管の反射係数の符号を推定してよい。
【0038】
探査システム100のコンピュータ30は、反射波の瞬時位相を算出してよい。コンピュータ30は、ヒルベルト変換により、反射波の瞬時位相を算出してよい。ヒルベルト変換により、波の瞬時位相が90°ずれる。波形がcosωtで示される波をヒルベルト変換すると、変換後の波の波形はsinωtで示される。反射波の実部と虚部とで示される複素数の偏角が、位相である(M. T. Taner, F. Koehler, and R. E. Sheriff, (1979), "Complex seismic trace analysis," GEOPHYSICS 44: 1041-1063 参照)。図8は、図4において、距離7.9mにおける(図4の線Lに沿った)反射波の瞬時位相を示す。図4を参照して、時間T1,T2及びT3はそれぞれ、距離7.9mにおいて双曲線HA1,HA2及びHA3が存在する時間である。図8にも、時間T1,T2及びT3が示されている。図8に示されるように、負双曲線HA1では瞬時位相が約πであり、正双曲線H2では瞬時位相が約0であり、負双曲線HA3では瞬時位相が約-πである。図9は、図4に示される多数の反射波の瞬時位相を示す。瞬時位相は反射波振幅の大きさに依存しない。つまり地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像のコントラストには影響を受けない。したがって、人やAIは画像を見て判断する際に、コントラストの度合いにより、見逃しが発生するが、瞬時位相による判断で見逃しが低減される。
【0039】
探査システム100のコンピュータ30は、瞬時位相θの余弦を算出してよい。反射係数が負である場合の例として、図10は、図4に示される多数の反射波の瞬時位相θの余弦を示す。負双曲線HA1では余弦が約-1であり、正双曲線HA2では余弦が約1であり、負双曲線HA3では余弦が約-1である。すなわち、cosθの平均が-1⇒1⇒-1の組み合わせで双曲線が出現したとき、反射係数は負である。
【0040】
次に、反射係数が正である場合の例を示す。図10に示される、多数の反射波の瞬時位相の余弦について、正双曲線HB1’では反射波の瞬時位相θの余弦が約1であり、負双曲線HB2’では反射波の瞬時位相θの余弦が約-1であり、正双曲線HB3では反射波の瞬時位相θの余弦が約1である。すなわち、cosθの平均が1⇒-1⇒1の組み合わせで双曲線が出現したとき、反射係数は正である。
【0041】
ここまで説明したように、反射係数の符号により、検出した反射波を構成する双曲線群の各双曲線における、反射波の瞬時位相の余弦の符号の順序(変化)が異なる。探査システム100のコンピュータ30は、反射波の瞬時位相の余弦の符号の順序に基づいて、地中埋設管の反射係数の符号を推定してよい。
【0042】
探査システム100のコンピュータ30は、時間方向において隣接する複数の双曲線(双曲線群)状の反射波について、それぞれの双曲線状の形状に沿った瞬時位相の余弦の平均を算出してよい。より具体的に、コンピュータ30は、図4において、時間方向において隣接する複数の(3つ以上であり、本例では3つの)双曲線HA1,HA2及びHA3の反射波について、双曲線HA1,HA2及びHA3の形状に沿った瞬時位相の余弦の平均を算出してよい。空間方向における瞬時位相の余弦の平均は、双曲線の2つ以上の位置において求められればよい。上述したように、ある双曲線内において、瞬時位相の余弦は、基本的にすべて約1であり(1に近づき)、又は基本的にすべて約-1である(-1に近づく)。したがって、瞬時位相の余弦の平均が約1又は約-1である場合、平均を求めた位置に概ね、双曲線型の反射波が存在していると推測できる。一方で、瞬時位相の余弦の平均が約1又は約-1ではない場合、平均を求めた位置のいずれかにおいて地中埋設管からの反射波は存在していないと推測できる。コンピュータ30は、推定結果に基づいて、双曲線の検出結果を修正してよい。言い換えれば、コンピュータ30は、瞬時位相の余弦の平均に基づいて、時間方向における該余弦の符号の変化を求めてよい。したがって、コンピュータ30によって、地中埋設管路の敷設平面位置、深度、方向および反射係数等が高精度に検出され得る。図5を参照して、コンピュータ30が、反射波の波形を地中レーダ20の走査距離ごとに並べて作成され複数の画像から3次元双曲型波面を検出する場合、コンピュータ30は、3次元双曲型波面に沿った、瞬時位相の余弦の平均を算出してよい。
【0043】
コンピュータ30は、反射波の瞬時位相の余弦の絶対値を地中レーダ20の走査距離ごとに並べて画像を作成してよい。コンピュータ30は、当該画像から、地中埋設管に対応する双曲線を検出してよい。図10を参照して、双曲線HA1,HA2及びHA3において、瞬時位相の余弦の絶対値は、いずれも約1である。言い換えれば、双曲線群HAの全領域において、余弦の絶対値は約1である。コンピュータ30は、余弦の絶対値が約1である領域を捜索することで、反射波の波形を地中レーダ20の走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線群HAを容易に検出し得る。双曲線群HB’についても同様である。
【0044】
本発明を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0045】
また、上述した実施形態において、図2を参照して地中埋設管の探査方法の例が説明された。しかしながら、上述した動作に含まれる一部のステップ、又は1つのステップに含まれる一部の動作が、論理的に矛盾しない範囲内において省略された構成も可能である。また、上述した動作に含まれる複数のステップの順番が、論理的に矛盾しない範囲内において入れ替わった構成も可能である。
【0046】
また、上述した実施形態において、コンピュータ30によって実現される各種の手段をソフトウェア構成として説明したが、少なくとも一部の手段は、ソフトウェア資源及び/又はハードウェア資源を含む概念であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
100:探査システム
10:移動部
20:地中レーダ
30:コンピュータ
1000:地中埋設物
HA,HA’,HB,HB’:双曲線群
HA1,HA2,HA3,HB1,HB2,HB3,HB1’,HB2’,HB3’:双曲線
t1,t2:頂点
F1,F2:画像
d1:第1方向
d2:第2方向
【要約】
【課題】地中埋設管を高精度に検出することが可能な、地中埋設管の探査方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】地中埋設管の探査方法は、地中レーダを測線に沿って走査させて複数の測定地点において、地盤に向けて送信した前記地中レーダの電波の反射波を取得する反射波取得ステップと、該反射波の波形を前記地中レーダの走査距離ごとに並べて作成した画像から、双曲線状に出現する地中埋設管からの反射波を検出する地中埋設管検出ステップと、前記地中埋設管の反射係数の符号を推定する反射係数符号推定ステップと、
を含む。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10