(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電力変換装置、および車両用発電電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241122BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20241122BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P21/22
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2024510948
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016233
(87)【国際公開番号】W WO2023188178
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古川 晃
(72)【発明者】
【氏名】秋田 健一
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-096400(JP,A)
【文献】特開2020-137233(JP,A)
【文献】特開2011-188674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 21/22
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からの直流電圧を変換した交流電圧を交流回転機に含まれる第1のm相巻線および第2のm相巻線のうち前記第1のm相巻線に印加する第1の電力変換器と、
前記直流電圧を変換した交流電圧を前記第2のm相巻線に印加する第2の電力変換器と、
前記第1の電力変換器および前記第2の電力変換器のそれぞれを制御する制御部と、
を備え、
mは、2以上の自然数であり、
前記制御部は、外部からの制御指令に基づいて前記第1のm相巻線の各相に対する第1の印加電圧と、前記第2のm相巻線の各相に対する第2の印加電圧とを算出し、
前記制御部は、第1搬送波信号と前記第1の印加電圧とを比較することにより第1のスイッチング信号を前記第1の電力変換器へ出力するとともに、第2搬送波信号と前記第2の印加電圧とを比較することにより第2のスイッチング信号を前記第2の電力変換器へ出力し、
前記第1の電力変換器は、前記第1のスイッチング信号に基づいて制御され、
前記第2の電力変換器は、前記第2のスイッチング信号に基づいて制御され、
前記制御部は、
前記交流回転機が力行運転状態であるとき、前記第1搬送波信号と前記第2搬送波信号とを異なるものとし、
前記交流回転機が回生運転状態であるとき、前記第1搬送波信号と前記第2搬送波信号とを同じものとするとともに、前記交流回転機から前記直流電源に流れる発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて前記第1の電力変換器および前記第2の電力変換器を制御する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記交流回転機が力行運転状態であるとき、前記制御部は、前記第2搬送波信号の位相を前記第1搬送波信号の位相に対して90deg異ならせ、
前記直流電源の出力電圧範囲の中心値に前記第1の印加電圧の中心値が一致するように前記第1の印加電圧を算出し、
前記直流電源の出力電圧範囲の中心値に前記第2の印加電圧の中心値が一致するように前記第2の印加電圧を算出する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記制御指令に基づいて前記第1のm相巻線の各相に対する第1の電圧指令を算出するとともに、前記第1の電圧指令をオフセット電圧によってオフセットすることにより前記第1の印加電圧を算出し、
前記制御部は、前記制御指令に基づいて前記第2のm相巻線の各相に対する第2の電圧指令を算出するとともに、前記第2の電圧指令を前記オフセット電圧によってオフセットすることにより前記第2の印加電圧を算出し、
前記交流回転機が力行運転状態であるとき、前記制御部は、前記第2搬送波信号の位相を前記第1搬送波信号の位相に対して180deg異ならせ、
前記第1の印加電圧の前記第1の電圧指令に対するオフセット方向と、前記第2の印加電圧の前記第2の電圧指令に対するオフセット方向とは、同じである、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記交流回転機が力行運転状態であるとき、前記制御部は、前記第1の印加電圧の最大値を前記第1搬送波信号の最大値とし、前記第2の印加電圧の最大値を前記第2搬送波信号の最大値とする、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記交流回転機が力行運転状態であるとき、前記制御部は、前記第1の印加電圧の最小値を前記第1搬送波信号の最小値とし、前記第2の印加電圧の最小値を前記第2搬送波信号の最小値とする、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項6】
直流電源からの直流電圧を変換した交流電圧を交流回転機に含まれる第1のm相巻線および第2のm相巻線のうち前記第1のm相巻線に印加する第1の電力変換器と、
前記直流電圧を変換した交流電圧を前記第2のm相巻線に印加する第2の電力変換器と、
前記第1の電力変換器および前記第2の電力変換器のそれぞれを制御する制御部と、
を備え、
mは、2以上の自然数であり、
前記制御部は、外部からの制御指令に基づいて前記第1のm相巻線の各相に対する第1の電圧指令を算出するとともに、前記第1の電圧指令をオフセット電圧によってオフセットすることにより、前記第1のm相巻線の各相に対する第1の印加電圧を算出し、
前記制御部は、前記制御指令に基づいて前記第2のm相巻線の各相に対する第2の電圧指令を算出するとともに、前記第2の電圧指令を前記オフセット電圧によってオフセットすることにより、前記第2のm相巻線の各相に対する第2の印加電圧を算出し、
前記制御部は、第1搬送波信号と前記第1の印加電圧とを比較することにより第1のスイッチング信号を前記第1の電力変換器へ出力するとともに、第2搬送波信号と前記第2の印加電圧とを比較することにより第2のスイッチング信号を前記第2の電力変換器へ出力し、
前記制御部は、前記第1搬送波信号と前記第2搬送波信号とを同じものとし、
前記第1の電力変換器は、前記第1のスイッチング信号に基づいて制御され、
前記第2の電力変換器は、前記第2のスイッチング信号に基づいて制御され、
前記制御部は、
前記交流回転機が力行運転状態であるとき、前記第1の印加電圧の前記第1の電圧指令に対するオフセット方向と、前記第2の印加電圧の前記第2の電圧指令に対するオフセット方向と、を異なるものとし、
前記交流回転機が回生運転状態であるとき、前記交流回転機から前記直流電源に流れる発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて前記第1の電力変換器および前記第2の電力変換器を制御する、
電力変換装置。
【請求項7】
前記交流回転機が力行運転状態であるとき、前記制御部は、前記第1の印加電圧の最小値を前記第1搬送波信号の最小値とし、前記第2の印加電圧の最大値を前記第2搬送波信号の最大値とする、
請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記交流回転機が回生運転状態であるとき、前記制御部は、前記第1の印加電圧の中心値と、前記第2の印加電圧の中心値とを一致させる、
請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記交流回転機が回生運転状態であるとき、前記制御部は、前記第1の印加電圧の中心値および前記第2の印加電圧の中心値を、前記直流電源の出力電圧範囲の中心値に一致させる、
請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記交流回転機の出力トルクのトルク上限値およびトルク下限値は、
前記交流回転機の回転速度に基づいて決定され、
前記出力トルクが前記トルク上限値のときに、前記第1の電力変換器、および前記第2の電力変換器のそれぞれが電圧飽和を起こさない回転速度以下の前記回転速度の領域において、前記トルク下限値の絶対値は、前記トルク上限値の絶対値より小さい
請求項1から9のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の電力変換装置を備えた車両用発電電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、および車両用発電電動機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換装置において第1インバータの有効電圧ベクトルの発生期間と第2インバータの有効電圧ベクトルの発生期間をずらすことにより、母線電流の変動を抑制しコンデンサのリプル電流を低減することが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された電力変換装置では、3相回転電機の2つの巻線組の相互インダクタンスを考慮すると、第1の巻線組の有効電圧ベクトル出力時に第2の巻線組の電流変化を招き、第2の巻線組の有効電圧ベクトル出力時に第1の巻線組の電流変化を招いてしまう。つまり、見かけ上、有効電圧ベクトル区間が増加した状況となるため、相電流リプルが大きくなり、損失が大きくなるといった問題があった。
【0005】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、母線電流リプルを抑制しつつ、相電流リプルを低減することができる電力変換装置、および車両用発電電動機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電力変換装置、および車両用発電電動機の制御装置は、直流電源からの直流電圧を変換した交流電圧を交流回転機に含まれる第1のm相巻線および第2のm相巻線のうち第1のm相巻線に印加する第1の電力変換器と、直流電圧を変換した交流電圧を第2のm相巻線に印加する第2の電力変換器と、第1の電力変換器および第2の電力変換器のそれぞれを制御する制御部と、を備え、mは、2以上の自然数であり、制御部は、外部からの制御指令に基づいて、第1のm相巻線の各相に対する第1の印加電圧と、第2のm相巻線の各相に対する第2の印加電圧とを算出し、制御部は、第1搬送波信号と第1の印加電圧とを比較することにより第1のスイッチング信号を第1の電力変換器へ出力するとともに、第2搬送波信号と第2の印加電圧とを比較することにより第2のスイッチング信号を第2の電力変換器へ出力し、第1の電力変換器は、第1のスイッチング信号に基づいて制御され、第2の電力変換器は、第2のスイッチング信号に基づいて制御され、制御部は、交流回転機が力行運転状態であるとき、第1搬送波信号と第2搬送波信号とを異なるものとし、交流回転機が回生運転状態であるとき、第1搬送波信号と第2搬送波信号とを同じものとするとともに、交流回転機から直流電源に流れる発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて第1の電力変換器および第2の電力変換器を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る電力変換装置、および車両用発電電動機の制御装置によれば、母線電流リプルを抑制しつつ、相電流リプルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1による電力変換装置を示す概略図である。
【
図2】
図1の交流回転機の各相に対する電圧ベクトルの位相差を示す概略図である。
【
図3】
図1の第1の電力変換器における各第1のスイッチング素子の状態と出力ベクトルとの関係を示す表である。
【
図4】
図1の第2の電力変換器における各第2のスイッチング素子の状態と出力ベクトルとの関係を示す表である。
【
図5】
図1の第1の電力変換器に対するオン/オフ信号発生器の動作条件を示す概略図である。
【
図6】
図1の交流回転機が回生運転状態であるときの出力トルクと相電流実効値との関係を示すグラフである。
【
図7】
図1の交流回転機が回生運転状態であるときの出力トルクと力率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図1の交流回転機が回生運転状態であるときの出力トルクと発電電流との関係を示すグラフである。
【
図9】
図1の交流回転機において回生運転状態での力率角が165degであるときの、電流位相と第1の3相電流との関係、および電流位相と第1の電圧指令との関係を示すグラフである。
【
図10】
図1の交流回転機において回生運転状態での力率角が135degであるときの、電流位相と第1の3相電流との関係、および電流位相と第1の電圧指令との関係を示すグラフである。
【
図11】
図1の交流回転機において回生運転状態での力率角が105degであるときの、電流位相と第1の3相電流との関係、および電流位相と第1の電圧指令との関係を示すグラフである。
【
図12】
図1の交流回転機の結合係数と相電流リプルとの関係を示すグラフである。
【
図13】
図1の第2の電力変換器に対するオン/オフ信号発生器の動作条件を示す概略図である。
【
図14】
図1の交流回転機が力行運転状態であるときの出力トルクと相電流実効値との関係を示すグラフである。
【
図15】
図1の交流回転機が力行運転状態であるときの出力トルクと力率との関係を示すグラフである。
【
図16】
図1の交流回転機が力行運転状態であるときの出力トルクと駆動電流との関係を示すグラフである。
【
図17】
図1のオフセット演算器において第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値とが0と一致するときの第1の電力変換器に対するオン/オフ信号発生器の動作条件を示す概略図である。
【
図18】
図1のオフセット演算器において第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値とが0と一致し、第1搬送波信号と第2搬送波信号との位相差が90degであるときの第2の電力変換器に対するオン/オフ信号発生器の動作条件を示す概略図である。
【
図19】
図1のオフセット演算器において第1の印加電圧の最小値と第2の印加電圧の最小値とが0と一致するときの第1の電力変換器に対するオン/オフ信号発生器の動作条件を示す概略図である。
【
図20】
図1のオフセット演算器において第1の印加電圧の最小値と第2の印加電圧の最小値とが0と一致し、第1搬送波信号と第2搬送波信号との位相差が180degであるときの第2の電力変換器に対するオン/オフ信号発生器の動作条件を示す概略図である。
【
図21】実施の形態3による車両用発電電動機の制御装置を示す概略図である。
【
図22】実施の形態1から実施の形態3の電力変換装置の機能を実現する処理回路の第1の例を示す構成図である。
【
図23】実施の形態1から実施の形態3の電力変換装置の機能を実現する処理回路の第2の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による電力変換装置1を示す概略図である。電力変換装置1は、電源としての直流電源20に接続されている。電力変換装置1には、負荷として、交流回転機30が接続されている。電力変換装置1は、直流電源20からの直流電圧を交流電圧に変換して交流回転機30に供給する。
【0010】
交流回転機30は、第1の3相巻線U1、V1、W1と第2の3相巻線U2、V2、W2とを有する3相交流回転機である。第1の3相巻線U1~W1と第2の3相巻線U2~W2とのそれぞれは、交流回転機30の固定子に納められている。第1の3相巻線U1~W1と第2の3相巻線U2~W2とのそれぞれは、互いに電気的に接続されることはない。
【0011】
図2は、
図1の交流回転機30の各相に対する電圧ベクトルの位相差を示す概略図である。
図2に示される通り、本実施の形態1における交流回転機30における第1の3相巻線と第2の3相巻線とには、位相差が無い。
【0012】
実施の形態1の交流回転機30では、第1の3相巻線U1~W1と第2の3相巻線U2~W2との位相差が0degである。従って、電圧ベクトルV1(1)とV1(2)、V2(1)とV2(2)、V3(1)とV3(2)、V4(1)とV4(2)、V5(1)とV5(2)、V6(1)とV6(2)はそれぞれ一致する。
【0013】
交流回転機30は、発電電動機である。交流回転機30としては、例えば、永久磁石同期回転機、誘導回転機、同期リラクタンス回転機といった回転機が挙げられる。本実施の形態1の交流回転機30においては、2つの3相巻線を有する交流回転機であれば、いずれの回転機を用いてもよい。
【0014】
図1に戻り、電力変換装置1の説明を続ける。電力変換装置1は、平滑コンデンサ3と、第1の電力変換器4aと、第2の電力変換器4bと、第1の電流検出器5aと、第2の電流検出器5bと、制御部10と、を備えている。
【0015】
平滑コンデンサ3は、直流電源20に対して並列に接続されている。第1の電力変換器4aは、直流電源20と交流回転機30の第1の3相巻線U1~W1との間に接続されている。第2の電力変換器4bは、直流電源20と交流回転機30の第2の3相巻線U2~W2との間に接続されている。第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bは、逆変換回路(インバータ)である。
【0016】
第1の電力変換器4aは、6つの第1のスイッチング素子Sup1、Svp1、Swp1、Sun1、Svn1、Swn1を有している。6つの第1のスイッチング素子Sup1~Swn1のうちの3つのスイッチング素子Sup1、Svp1、及びSwp1は、高電位側スイッチング素子である。6つの第1のスイッチング素子Sup1~Swn1のうちの3つのスイッチング素子Sun1、Svn1、Swn1は、低電位側スイッチング素子である。
【0017】
高電位側スイッチング素子Sup1と低電位側スイッチング素子Sun1とは、互いに直列に接続され、直流電源20に接続されている。高電位側スイッチング素子Svp1と低電位側スイッチング素子Svn1とは、互いに直列に接続され、直流電源20に接続されている。高電位側スイッチング素子Swp1と低電位側スイッチング素子Swn1とは、互いに直列に接続され、直流電源20に接続されている。
【0018】
直列接続された高電位側スイッチング素子Sup1と低電位側スイッチング素子Sun1とは、直列接続された高電位側スイッチング素子Svp1と低電位側スイッチング素子Svn1とに並列に接続されている。直列接続された高電位側スイッチング素子Svp1と低電位側スイッチング素子Svn1とは、直列接続された高電位側スイッチング素子Swp1と低電位側スイッチング素子Swn1とに並列に接続されている。直列接続された高電位側スイッチング素子Swp1と低電位側スイッチング素子Swn1と、直列接続された高電位側スイッチング素子Sup1と低電位側スイッチング素子Sun1と、に並列に接続されている。
【0019】
高電位側スイッチング素子Sup1と低電位側スイッチング素子Sun1との間には、第1の3相巻線のうちのU1相が接続されている。高電位側スイッチング素子Svp1と低電位側スイッチング素子Svn1との間には、第1の3相巻線のうちのV1相が接続されている。高電位側スイッチング素子Swp1と低電位側スイッチング素子Swn1との間には、第1の3相巻線のうちのW1相が接続されている。
【0020】
図3は、
図1の第1の電力変換器4aにおける各第1のスイッチング素子Sup1~Swn1の状態と出力ベクトルとの関係を示す表である。
図3において、第1のスイッチング素子に対応する値が1の場合は、その第1のスイッチング素子がオンである状態を示している。
図3において、第1のスイッチング素子に対応する値が0の場合は、その第1のスイッチング素子がオフである状態を示している。
【0021】
各第1のスイッチング素子Sup1~Swn1のそれぞれは、外部から入力される第1のスイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1、Qwn1に基づいて、オンとされ、またはオフとされる。第1の電力変換器4aは、直流電源20から入力された直流電圧Vdcを電力変換して、第1のスイッチング素子Sup1~Swn1のそれぞれの状態に応じた電圧を第1の3相巻線U1~W1に印加することができる。第1の3相巻線U1~W1のそれぞれに電圧が印加されると電流値Iu1、Iv1、Iw1の電流が流れる。
【0022】
第1の電力変換器4aには、第1のスイッチング素子Sup1~Swn1のそれぞれに対応した、第1のスイッチング信号Qup1~Qwn1が入力される。第1のスイッチング信号Qup1~Qwn1のそれぞれは、対応する第1のスイッチング素子Sup1~Swn1をオンとする、またはオフとするためのオンオフ信号である。
【0023】
第1のスイッチング信号Qup1~Qwn1のそれぞれにおいて、その値が1ならば対応する第1のスイッチング素子をオンとするための信号が出力され、その値が0ならば対応するスイッチをオフとするための信号が出力されるものとする。
【0024】
図3に示される通り、第1のスイッチング信号Qup1~Qwn1によって、8つの電圧ベクトルを出力できる。なお、第1のスイッチング信号Qup1~Qwn1については、後に説明をする。
【0025】
図1に戻り説明を続ける。第2の電力変換器4bは、6つの第2のスイッチング素子Sup2、Svp2、Swp2、Sun2、Svn2、Swn2を有している。6つの第2のスイッチング素子Sup2~Swn2のうちの3つのスイッチング素子Sup2、Svp2、及びSwp23は、高電位側スイッチング素子である。6つの第2のスイッチング素子Sup2~Swn2のうちの3つのスイッチング素子Sun2、Svn2、及びSwn23は、低電位側スイッチング素子である。
【0026】
高電位側スイッチング素子Sup2と低電位側スイッチング素子Sun2とは、互いに直列に接続され、直流電源20に接続されている。高電位側スイッチング素子Svp2と低電位側スイッチング素子Svn2とは、互いに直列に接続され、直流電源20に接続されている。高電位側スイッチング素子Swp2と低電位側スイッチング素子Swn2とは、互いに直列に接続され、直流電源20に接続されている。
【0027】
直列接続された高電位側スイッチング素子Sup2と低電位側スイッチング素子Sun2とは、直列接続された高電位側スイッチング素子Svp2と低電位側スイッチング素子Svn2とに並列に接続されている。直列接続された高電位側スイッチング素子Svp2と低電位側スイッチング素子Svn2とは、直列接続された高電位側スイッチング素子Swp2と低電位側スイッチング素子Swn2とに並列に接続されている。直列接続された高電位側スイッチング素子Swp2と低電位側スイッチング素子Swn2と、直列接続された高電位側スイッチング素子Sup2と低電位側スイッチング素子Sun2と、に並列に接続されている。
【0028】
高電位側スイッチング素子Sup2と低電位側スイッチング素子Sun2との間には、第2の3相巻線のうちのU2相が接続されている。高電位側スイッチング素子Svp2と低電位側スイッチング素子Svn2との間には、第2の3相巻線のうちのV2相が接続されている。高電位側スイッチング素子Swp2と低電位側スイッチング素子Swn2との間には、第2の3相巻線のうちのW2相が接続されている。
【0029】
図4は、
図1の第2の電力変換器4bにおける各第2のスイッチング素子Sup2~Swn2の状態と出力ベクトルとの関係を示す表である。
図4において、第2のスイッチング素子に対応する値が1の場合は、その第2のスイッチング素子がオンである状態を示している。
図4において、第2のスイッチング素子に対応する値が0の場合は、その第2のスイッチング素子がオフである状態を示している。
【0030】
各第2のスイッチング素子Sup2~Swn2のそれぞれは、外部から入力される第2のスイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、Qwn2に基づいて、オンとされ、またはオフとされる。第2の電力変換器4bは、直流電源20から入力された直流電圧Vdcを電力変換して、第2のスイッチング素子Sup2~Swn2のそれぞれの状態に応じた電圧を第2の3相巻線U2~W2に印加することができる。第2の3相巻線U2~W2のそれぞれに電圧が印加されると電流値Iu2、Iv2、Iw2の電流が流れる。
【0031】
第2の電力変換器4bには、第2のスイッチング素子Sup2~Swn2のそれぞれに対応した、第2のスイッチング信号Qup2~Qwn2が入力される。第2のスイッチング信号Qup2~Qwn2のそれぞれは、対応する第2のスイッチング素子をオンとする、またはオフとするためのオンオフ信号である。
【0032】
第2のスイッチング信号Qup2~Qwn2のそれぞれにおいて、その値が1ならば対応する第2のスイッチング素子をオンとするための信号が出力され、その値が0ならば対応するスイッチをオフとするための信号が出力されるものとする。
【0033】
図4に示される通り、第2のスイッチング信号Qup2~Qwn2によって、8つの電圧ベクトルを出力できる。なお、第2のスイッチング信号Qup2~Qwn2については、後に説明をする。
【0034】
図1に戻り説明を続ける。第1の電流検出器5aは、第1の3相巻線U1~W1のそれぞれに流れる電流を検出している。第1の電流検出器5aは、第1の3相巻線U1~W1のそれぞれに流れる電流の電流値Iu1~Iw1を、電流検出値Iu1s、Iv1s、Iw1sとして検出している。第1の電流検出器5aは、第1の電力変換器4aの下流で第1の3相巻線U1~W1のそれぞれに流れる電流を検出している。
【0035】
第2の電流検出器5bは、交流回転機30の第2の3相巻線U2~W2のそれぞれに流れる電流を検出している。第2の電流検出器5bは、第2の3相巻線U2~W2に流れる電流の電流値Iu2~Iw2のそれぞれを、電流検出値Iu2s、Iv2s、Iw2sとして検出している。第2の電流検出器5bは、第2の電力変換器4bの下流で第2の3相巻線U2~W2のそれぞれに流れる電流を検出している。
【0036】
制御部10は、制御指令制限器6と、電圧指令演算器7と、オフセット演算器8と、オン/オフ信号発生器9と、を有している。
【0037】
制御指令制限器6には、外部から制御指令が入力される。制御指令制限器6は、外部から入力された制御指令に対して、回生トルクと発電電流との関係に基づいて制限をかけた制限後制御指令を電圧指令演算器7へ出力する。詳細は後述する。
【0038】
電圧指令演算器7には、制御指令制限器6から制限後制御指令が入力される。電圧指令演算器7には、第1の電流検出器5aが出力した電流検出値Iu1s~Iw1sが入力される。電圧指令演算器7には、第2の電流検出器5bが出力した電流検出値Iu2s~Iw2sが入力される。
【0039】
第1の電流検出器5aは、第1のスイッチング素子の状態に関わらず常に第1の3相巻線U1~W1のそれぞれに流れる電流を検出している。第2の電流検出器5bは、第2のスイッチング素子の状態に関わらず常に第2の3相巻線U2~W2のそれぞれに流れる電流を検出している。従って、制御部10は、第1の3相巻線、および第2の3相巻線における電流検出可否を考慮せずに、スイッチング素子のオンまたはオフを決定することが可能となる。
【0040】
電圧指令演算器7は、制限後制御指令に基づいて電流指令を演算する。電圧指令演算器7は、演算された電流指令に基づいて、交流回転機30を駆動するための電圧の指令値である電圧指令を算出する。電圧指令は、第1の3相巻線U1~W1に印加する電圧に関する第1の3相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1、および第2の3相巻線U2~W2に印加する電圧に関する第2の3相電圧指令Vu2、Vv2、Vw2である。
【0041】
電圧指令演算器7は、電流検出値Iu1s~Iw2sとそれぞれの電流指令値との偏差を零にするために、例えば、比例積分制御によって、第1の3相電圧指令Vu1~Vw1、および第2の3相電圧指令Vu2~Vw2を算出する。上記の演算には、公知の電流フィードバック制御方法を用いる。算出された電圧指令である第1の3相電圧指令Vu1~Vw1、および第2の3相電圧指令Vu2~Vw2は、オフセット演算器8へ出力される。
【0042】
オフセット演算器8は、第1の3相電圧指令Vu1~Vw1のそれぞれからオフセット電圧Voffset1を減算し、第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’、Vw1’を演算する。
【0043】
第2の3相電圧指令Vu2~Vw2のそれぞれからオフセット電圧Voffset2を減算し、第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’、Vw2’を演算する。各制御状態におけるオフセット電圧Voffset1およびVoffset2の設定方法の詳細は、後述する。
【0044】
オン/オフ信号発生器9は、第1の3相印加電圧Vu1’~Vw1’に基づいて第1のスイッチング信号Qup1~Qwn1を出力する。また、オン/オフ信号発生器9は、第2の3相印加電圧Vu2’~Vw2’に基づいて第2のスイッチング信号Qup2~Qwn2を出力する。
【0045】
図5は、
図1の第1の電力変換器4aに対するオン/オフ信号発生器9の動作条件を示す概略図である。
図5は、第1の3相印加電圧Vu1’~Vw1’が、Vu1’>Vv1’>Vw1’となっている領域でのオン/オフ信号発生器9の動作を示している。実施の形態1において、第1搬送波信号C1は、最小値-Vdc/2、最大値Vdc/2である周期Tcの三角波である。
【0046】
第1搬送波信号C1と第1の3相印加電力のうちのU相の印加電力Vu1’とを比較して、Vu1’が大きければ「Qup1=1かつQun1=0」とする第1のスイッチング信号を出力する。第1搬送波信号C1と第1の3相印加電力のうちのU相の印加電力Vu1’とを比較して、Vu1’が小さければ「Qup1=0かつQun1=1」とする第1のスイッチング信号を出力する。
【0047】
第1搬送波信号C1と第1の3相印加電力のうちのV相の印加電力Vv1’とを比較して、Vv1’が大きければ「Qvp1=1かつQvn1=0」とする第1のスイッチング信号を出力する。第1搬送波信号C1と第1の3相印加電力のうちのV相の印加電力Vv1’とを比較して、Vv1’が小さければ「Qvp1=0かつQvn1=1」とする第1のスイッチング信号を出力する。
【0048】
第1搬送波信号C1と第1の3相印加電力のうちのW相の印加電力Vw1’とを比較して、Vw1’が大きければ「Qwp1=1かつQwn1=0」とする第1のスイッチング信号を出力する。第1搬送波信号C1と第1の3相印加電力のうちのW相の印加電力Vw1’とを比較して、Vw1’小さければ「Qwp1=0かつQwn1=1」とする第1のスイッチング信号を出力する。
【0049】
図5に示されている通り、出力される電圧ベクトルは、t1~t2およびt8~t9の期間ではV7、t2~t3およびt7~t8の期間ではV2、t3~t4およびt6~t7の期間ではV1、t4~t6の期間ではV0である。電圧ベクトルが有効電圧ベクトルとなるV1およびV2のとき、電流値Iu1は、印加電圧に従って増加し、零電圧ベクトルとなるV0およびV7のときには0に向けて変化する。
【0050】
搬送波信号1周期において増減する期間が2回に分かれるため、相電流リプルは、低減できる。一方、電流値Iu1>Iv1>Iw1となる力率角が0degの場合において、母線電流Iinv1は電流値0~Iu1の範囲で変化するため、母線電流リプルの振幅は、0~Iu1の幅となる。各制御状態における第2のスイッチング信号の設定方法の詳細は、後述する。
【0051】
図6は、
図1の交流回転機30が回生運転状態であるときの出力トルクと相電流実効値との関係を示すグラフである。
図7は、
図1の交流回転機30が回生運転状態であるときの出力トルクと力率との関係を示すグラフである。
図8は、
図1の交流回転機30が回生運転状態であるときの出力トルクと発電電流との関係を示すグラフである。
【0052】
横軸の出力トルクは、ある回転速度において交流回転機30が出力可能なトルクの最大値を100として表している。発電電流は、
図1に示される母線電流Iinv1と母線電流Iinv2との和の-1倍に相当する。
【0053】
相電流実効値および力率は、出力トルクに対して単調減少する。しかし、発電電流は、極大値を有している。ここで、発電電流が極大値を示したときの出力トルクを極大トルクTaとすると、出力トルク<極大トルクTaでは、回生トルクは増加するものの発電電流は増加しない。このため、力率が0.5未満となる領域では発電効率が著しく低下する。高回転では誘起電圧が大きくなり電圧飽和が進む。このため、回転速度が所定値を超えると、発電電流は、出力トルクに対して単調減少する特性となる。
【0054】
図9は、
図1の交流回転機30において回生運転状態での力率角が165degであるときの、電流位相と第1の3相電流との関係、および電流位相と第1の電圧指令との関係を示すグラフである。電流位相が195deg~255degの領域では、Vu1>Vv1>Vw1である。従って、母線電流Iinv1は電流値Iu1、-Iw1および0の3通りの出力となる。このとき、電流値Iu1<0、Iw1>0であるから、母線電流Iinv1は常に負または0の電流となる。
【0055】
図10は、
図1の交流回転機30において回生運転状態での力率角が135degであるときの、電流位相と第1の3相電流との関係、および電流位相と第1の電圧指令との関係を示すグラフである。電流位相が225deg~285degの領域では、Vu1>Vv1>Vw1であるから、母線電流Iinv1は、電流値Iu1、-Iw1、および0の3通りの出力となる。
【0056】
225deg~270degでは、電流値Iu1<0、Iw1>0であるから、母線電流Iinv1は、負または0の電流となる。一方、270deg~285degでは電流値、Iu1>0、Iw1>0であるから、母線電流Iinv1は、負から正まで変化する。つまり、電気角1周期のうち1/4の期間において母線電流リプルが大きくなる。
【0057】
図11は、
図1の交流回転機30において回生運転状態での力率角が105degであるときの、電流位相と第1の3相電流との関係、および電流位相と第1の電圧指令との関係を示すグラフである。電流位相が255deg~315degの領域では、Vu1>Vv1>Vw1であるから、母線電流Iinv1は電流値Iu1、-Iw1および0の3通りの出力となる。
【0058】
255deg~270degでは、電流値Iu1<0、Iw1>0であるから、母線電流Iinv1は負または0の電流となる。一方、270deg~315degでは、電流値Iu1>0、Iw1>0であるから、母線電流Iinv1は負から正まで変化する。つまり、電気角1周期のうち3/4の期間において母線電流リプルが大きくなる。特に、300degでは、電流値Iu1は振幅最大の状態であるため、母線電流リプルが悪化する。
【0059】
つまり、電流位相が240deg~300degの領域においてVu1>Vv1>Vw1となる力率角である120deg以上240deg以下に回生運転領域を制限することで、母線電流リプルを抑制することが可能である。
【0060】
以上のことから、回生運転状態となる制御指令を受けた場合、制御指令制限器6において、交流回転機30から直流電源20に流れる発電電流が出力トルクに対して単調減少するように制限後制御指令を決定する。即ち、回生運転状態となる制御指令を受けた場合、制御指令制限器6において、交流回転機30から直流電源20に流れる発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域に制限されるように制限後制御指令を決定する。
【0061】
例えば、制御指令をトルク指令としたとき、トルク指令をトルク下限値Tlimlにてクリップする。ここで、トルク下限値Tlimlは、マージンをαとして、式(1)で与える。マージンαは、各種ばらつきを考慮して決定すればよい。
【0062】
【0063】
図12は、
図1の交流回転機30の結合係数と相電流リプルとの関係を示すグラフである。
図12における結合係数は、相互インダクタンスと自己インダクタンスとの比である。
図12に示されるグラフは、結合係数と電圧ベクトルの組み合わせによって決定する相電流リプルとの関係を示している。発電効率を向上するためには、有効電圧ベクトルの発生期間における相電流リプルを小さくすることが求められる。
【0064】
従って、結合係数が大きい場合には、電圧ベクトルV1(1)を出力するときには、零電圧ベクトルであるV0(2)と同タイミングで出力するより、位相が一致するV1(2)と同タイミングで出力することで、電流変化を小さくできる。
【0065】
電圧ベクトルV1(1)を出力するときに、120deg位相差のV3(2)と同タイミングで出力すると、相電流リプルが非常に大きくなる。従って、相電流リプルを低減するために、少なくとも120deg位相差のV3(2)、および180deg位相差のV4(2)と同タイミングで電圧ベクトルV1(1)を出力することを回避する必要がある。
【0066】
ここでは、V1(1)と組み合わせた場合について示しているが、V2(1)~V6(1)でも同様の効果を得られる。つまり、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bとの有効電圧ベクトルの発生期間を重複させる。これにより相電流リプルを低減でき、発電効率を向上できる。
【0067】
図13は、
図1の第2の電力変換器4bに対するオン/オフ信号発生器9の動作条件を示す概略図である。
図13に示されるように、回生運転状態では、オフセット電圧Voffset1およびVoffset2を揃えることにより、第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値を一致させている。第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値を一致させ、第2の3相印加電圧Vu2’~Vw2’と第1搬送波信号を比較して第2のスイッチング信号を決定している。
【0068】
このとき、電圧指令Vu1、Vv1およびVw1の最大値をVmax1、最小値をVmin1、電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の最大値をVmax2、最小値をVmin2として、オフセット電圧Voffset1およびVoffset2は式(2)で与えられる。このように、第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値を一致させているので、回生運転状態において、相電流リプルを低減し発電効率を向上させることができる。式(2)においてβは定数である。
【0069】
【0070】
更に、式(2)のβを0として、第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値を直流電源20の出力電圧範囲の中心値である0に一致させる。これにより、有効電圧ベクトルの発生期間を挟む零電圧ベクトルの発生期間が均等に配置されるため、相電流リプルの低減を図ることができる。
【0071】
図14は、
図1の交流回転機30が力行運転状態であるときの出力トルクと相電流実効値との関係を示すグラフである。
図15は、
図1の交流回転機30が力行運転状態であるときの出力トルクと力率との関係を示すグラフである。
図16は、
図1の交流回転機30が力行運転状態であるときの出力トルクと駆動電流との関係を示すグラフである。
【0072】
駆動電流は、
図1に示される母線電流Iinv1と母線電流Iinv2との和に相当する。相電流実効値、および駆動電流は、出力トルクに対して単調増加している。力率は、出力トルクに対して単調減少している。力率の変化量は、力行運転状態では0.3程度変化している。なお、力率は、回生運転状態では
図7で示されている通り0.7程度変化している。
【0073】
図9~
図11で説明したのと同様に、力率角が0deg以上60deg以下または300deg以上360deg以下において、電気角1周期のうち半分以上の区間において母線電流が0、または正の値を取る。このため、母線電流Iinv1、および母線電流Iinv2のそれぞれにおける母線電流リプルは、抑制される。
【0074】
力行運転状態では、回生運転状態に比べて大きな相電流実効値まで運転領域が広がるため、回生運転状態と同様の出力方法では母線電流リプルが大きくなる。そこで、力行運転状態では、第1の電力変換器4aの有効電圧ベクトルの発生期間と第2の電力変換器4bの有効電圧ベクトルの発生期間との重複を抑制して、母線電流リプルを低減する。
【0075】
図17は、
図1のオフセット演算器8において第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値とが0と一致するときの第1の電力変換器4aに対するオン/オフ信号発生器9の動作条件を示す概略図である。
図17では、力行運転状態での動作条件が示されている。力行運転状態では、オン/オフ信号発生器9は、第1の3相印加電圧Vu1’~Vw1’のそれぞれと第1搬送波信号C1とを比較している。
【0076】
図17に示されるように、力行運転状態において、オン/オフ信号発生器9が第1の3相印加電圧Vu1’~Vw1’と第1搬送波信号C1とを比較して、第1のスイッチング信号Qup1~Qwn1を出力する。このとき、第1の電力変換器4aにおいて、有効電圧ベクトルの発生期間はt2およびt4付近に現れ、零電圧ベクトルの発生期間はt1、t3およびt5付近に現れる。
【0077】
図18は、
図1のオフセット演算器8において第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値とが0と一致し、第1搬送波信号と第2搬送波信号との位相差が90degであるときの第2の電力変換器4bに対するオン/オフ信号発生器9の動作条件を示す概略図である。
図18では、第2の3相印加電圧Vu2’~Vw2’と第2搬送波信号C2と比較している。第2搬送波信号C2は、第1搬送波信号C1に対して位相が90deg異なる搬送波信号である。
【0078】
図18に示される通り、第2の3相印加電圧Vu2’~Vw2’と第2搬送波信号C2との比較に基づいて第2のスイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、Qwn2が出力される。このとき、第2の電力変換器4bの有効電圧ベクトルの発生期間は、t1、t3およびt5付近に現れている。零電圧ベクトルの発生期間は、t2およびt4付近に現れている。
【0079】
つまり、低変調率においては、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bのいずれか一方において有効電圧ベクトルの発生期間であるとき、もう一方の電力変換器において零電圧ベクトルの発生期間となっている。このため、瞬間的な母線電流の増加を抑制し母線電流リプルを低減できる。
【0080】
高変調率においては、第1の電力変換器4aおよび第2の電力変換器4bのいずれか一方において零電圧ベクトルの発生期間であるとき、もう一方の電力変換器において有効電圧ベクトルの発生期間となっている。このため、瞬間的に母線電流が0になるのを回避し母線電流リプルを低減できる。
【0081】
さらに、第1の電力変換器4aの有効電圧ベクトルの発生期間の中央をt2およびt4に、第2の電力変換器4bの零電圧ベクトルの発生期間の中央をt2およびt4にすることで、母線電流リプルの低減効果を最大化することができる。具体的には、第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値を直流電源20の出力電圧範囲の中心値である0に一致させる。
【0082】
その結果、母線電流リプルを抑制でき、トルク上限値Tlimhを100として、出力トルクが0~100の全領域で運転可能となる。以上のことから、出力トルクが100のとき、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bとが電圧飽和しない回転速度以下となる領域において、トルク下限値Tlimlの絶対値をトルク上限値Tlimhの絶対値より小さくする。このことで、発電効率の向上と平滑コンデンサ3のリプル電流の低減の両立が可能となる。
【0083】
図18に示される通り、オン/オフ信号発生器9の第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2との位相差は、90degである。しかし、例えば、第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2との位相差を180degとしてもよい。
【0084】
図19は、
図1のオフセット演算器8において第1の印加電圧の最小値と第2の印加電圧の最小値とが0と一致するときの第1の電力変換器4aに対するオン/オフ信号発生器9の動作条件を示す概略図である。
図20は、
図1のオフセット演算器8において第1の印加電圧の最小値と第2の印加電圧の最小値とが0と一致し、第1搬送波信号と第2搬送波信号との位相差が180degであるときの第2の電力変換器4bに対するオン/オフ信号発生器の動作条件を示す概略図である。
【0085】
第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2との位相差は、180degである。このとき、第1の印加電圧の第1の電圧指令に対するオフセット方向と、第2の印加電圧の第2の電圧指令に対するオフセット方向とを同じにする。
【0086】
例えば、式(3)のように、第1の印加電圧の最小値が0、第2の印加電圧の最小値が0となるオフセット電圧を与える。
【0087】
【0088】
図19には、第1の印加電圧および第1のスイッチング信号が、
図20には、第2の印加電圧および第2のスイッチング信号が示されている。第1の電力変換器4aの有効電圧ベクトルの発生期間はt2の直後とt4の直前となる。第2の電力変換器4bの有効電圧ベクトルの発生期間はt2の直前とt4の直後となる。これにより、第1の電力変換器4aの有効電圧ベクトルの発生期間と第2の電力変換器4bの有効電圧ベクトルの発生期間とを重複無く連続させることができる。
【0089】
式(4)のように、第1の印加電圧の最大値が0、第2の印加電圧の最大値が0となるようにオフセット電圧を与えてもよい。
【0090】
【0091】
式(3)では、Vmax1とVmin1との差、またはVmax2とVmin2との差がVdc/2を超えた場合、直流電源20は、出力可能な最大電圧値Vdc/2を超える印加電圧を出力できないため、印加電圧は、直流電源20の出力可能な最大電圧値Vdc/2に制限されてしまう。式(4)では、Vmax1とVmin1との差、またはVmax2とVmin2との差がVdc/2を超えた場合、直流電源20は、出力可能な最小電圧値-Vdc/2を超える印加電圧を出力できないため、印加電圧は、直流電源20の出力可能な最小電圧値-Vdc/2に制限されてしまう。このため、式(5)のように、第1の印加電圧の最小値が-Vdc/2、第2の印加電圧の最小値が-Vdc/2となるようにオフセット電圧を与えるとよい。
【0092】
従って、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bのいずれにおいても、それぞれ1相のスイッチングが停止するため、スイッチング損失を低減することが可能となる。
【0093】
【0094】
第式(6)のように、第1の印加電圧の最大値がVdc/2、第2の印加電圧の最大値がVdc/2となるようにオフセット電圧を与えてもよい。
【0095】
【数6】
なお、発熱の偏りを低減するために、式(5)と式(6)を定期的に切り替えて使用してもよい。
【0096】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、制御部10は、交流回転機30が力行運転状態であるとき、第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2とを異なるものとする。また、交流回転機30が回生運転状態であるとき、第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2とを同じものとする。また、交流回転機30から直流電源20に流れる発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて第1の電力変換器および第2の電力変換器を制御する。これにより、回生運転状態では、発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域で電力変換装置1の運転が限定される。従って、母線電流リプルを抑制することができる。つまり、平滑コンデンサ3を用いた場合には、平滑コンデンサ3のリプル電流の無用な増加を抑制することができる。さらに、有効電圧ベクトルの発生期間の重複を促進することができる。よって、相電流リプルを低減させることにより、第1のm相巻線、および第2のm相巻線を流れる高周波電流によって生じる鉄損を抑制し、発電効率を向上させることができる。更に、これにより、力行運転状態では、有効電圧ベクトルの発生期間をずらすことによって母線電流リプルを抑制することができ、平滑コンデンサ3を用いた場合には、平滑コンデンサ3のリプル電流を低減できる。その結果、平滑コンデンサ3における損失を低減することで、平滑コンデンサ3の発熱を抑制することができる。即ち、回生運転状態における平滑コンデンサ3のリプル電流を抑制しつつ、鉄損を低減するとともに、力行運転状態における平滑コンデンサ3のリプル電流を低減することができる。
【0097】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、交流回転機30が力行運転状態であるとき、制御部10は、第2搬送波信号C2の位相を第1搬送波信号C1の位相に対して90deg異ならせている。また、直流電源20の出力電圧範囲の中心値に第1の印加電圧の中心値が一致するように第1の印加電圧を算出し、直流電源20の出力電圧範囲の中心値に第2の印加電圧の中心値が一致するように第2の印加電圧を算出する。これにより、低変調率においては、瞬間的な母線電流の増加を抑制し母線電流リプルを抑制できる。また、高変調率においては、瞬間的に母線電流が0になるのを回避し母線電流リプルを抑制できる。有効電圧ベクトル区間の重複を避けることで母線電流リプルを抑制することにより、平滑コンデンサ3を用いた場合には、平滑コンデンサ3のリプル電流を抑制することができる。その結果、平滑コンデンサ3における損失を低減することで、平滑コンデンサ3の発熱を抑制することができる。
【0098】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、制御部10は、制御指令に基づいて第1のm相巻線の各相に対する第1の電圧指令を算出するとともに、第1の電圧指令をオフセット電圧によってオフセットすることにより第1の印加電圧を算出する。また、制御部10は、制御指令に基づいて第2のm相巻線の各相に対する第2の電圧指令を算出するとともに、第2の電圧指令をオフセット電圧によってオフセットすることにより第2の印加電圧を算出する。また、交流回転機30が力行運転状態であるとき、制御部10は、第2搬送波信号C2の位相を第1搬送波信号C1の位相に対して180deg異ならせる。また、第1の印加電圧の第1の電圧指令に対するオフセット方向と、第2の印加電圧の第2の電圧指令に対するオフセット方向とは、同じである。これにより、第1の電力変換器4aの有効電圧ベクトルの発生期間と第2の電力変換器4bの有効電圧ベクトルの発生期間を重複無く連続させることができる。従って、母線電流リプルを抑制することができ、平滑コンデンサ3を用いた場合には、平滑コンデンサ3のリプル電流を抑制することができる。その結果、平滑コンデンサ3における損失を低減することで、平滑コンデンサ3の発熱を抑制することができる。
【0099】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、交流回転機30が力行運転状態であるとき、制御部10は、第1の印加電圧の最大値を第1搬送波信号C1の最大値とする。また、制御部10は、第2の印加電圧の最大値を第2搬送波信号C2の最大値とする。これにより、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bのいずれにおいても、それぞれ1相のスイッチングが停止する。従って、スイッチング損失を低減することが可能となる。よって、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bの発熱を抑制することができる。
【0100】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、交流回転機30が力行運転状態であるとき、制御部10は、第1の印加電圧のうち最小値を第1搬送波信号C1の最小値とする。また、制御部10は、第2の印加電圧のうち最小値を第2搬送波信号C2の最小値とする。これにより、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bのいずれにおいても、それぞれ1相のスイッチングが停止する。よって、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bの発熱を抑制することができる。
【0101】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、交流回転機30が回生運転状態にあるとき、制御部10は、第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値とを一致させる。これにより、第1の印加電圧と第2の印加電圧との中性点がそろい、有効電圧ベクトルの発生期間の重複を促すことができる。従って、相電流リプルを低減することができる。よって、第1のm相巻線、および第2のm相巻線を流れる高周波電流によって生じる鉄損を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0102】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、交流回転機30が回生運転状態にあるとき、制御部10は、第1の印加電圧の中心値および第2の印加電圧の中心値を、直流電源20の出力電圧範囲の中心値に一致させる。これにより、第1の印加電圧と第2の印加電圧との中性点を入力電圧の中心値にすることで、零電圧ベクトルの発生期間を均等配置することができる。従って、相電流リプルを低減することができる。よって、第1のm相巻線、および第2のm相巻線を流れる高周波電流によって生じる鉄損を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0103】
実施の形態1による電力変換装置1によれば、交流回転機30の出力トルクのトルク上限値Tlimhおよびトルク下限値Tlimlは、交流回転機30の回転速度に基づいて決定さる。また、出力トルクがトルク上限値Tlimhのときに、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bのそれぞれが電圧飽和を起こさない回転速度以下の回転速度の領域において、トルク下限値Tlimlの絶対値は、トルク上限値Tlimhの絶対値より小さい。
【0104】
これにより、低回転ではトルク下限値Tlimlの絶対値を小さく設定することで、発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて動作させることが可能となる。これにより、無効電力による損失を低減することができる。
【0105】
実施の形態2.
実施の形態2による電力変換装置1は、力行運転状態でオン/オフ信号発生器9が第1の印加電圧の第1の電圧指令に対するオフセット方向と、第2の印加電圧の第2の電圧指令に対するオフセット方向と、を異なるものとした。この点で、実施の形態2による電力変換装置1は、実施の形態1の電力変換装置1と異なる。その他の点については、実施の形態1と等しいため、説明を省略する。
【0106】
例えば、式(7)のように、第1の印加電圧の最小値が0、第2の印加電圧の最大値が0となるオフセット電圧を与える。
【0107】
【0108】
このとき、第1の電力変換器4aの有効電圧ベクトルの発生期間はt2の直後とt4の直前となる。第2の電力変換器4bの有効電圧ベクトルの発生期間はt2の直前とt4の直後となる。第1の電力変換器4aの有効電圧ベクトルの発生期間と第2の電力変換器4bの有効電圧ベクトルの発生期間を重複無く連続させることができる。
【0109】
式(7)では、Vmax1とVmin1との差がVdc/2を超えた場合、直流電源20は、出力可能な最大電圧値Vdc/2を超える印加電圧を出力できないため、印加電圧は、直流電源20が出力可能な最大電圧値Vdc/2に制限されてしまう。また、Vmax2とVmin2との差がVdc/2を超えた場合、直流電源20は、出力可能な最小電圧値-Vdc/2を超える印加電圧を出力できないため、印加電圧は、直流電源20が出力可能な最小電圧値-Vdc/2に制限されてしまう。このため、式(8)のように、第1の印加電圧の最小値が-Vdc/2、第2の印加電圧の最大値がVdc/2となるようにオフセット電圧を与える。
【0110】
第1の電力変換器4aおよび第2の電力変換器4bのいずれにおいても、それぞれ1相のスイッチングが停止するため、スイッチング損失を低減することができる。
【0111】
【0112】
なお、発熱の偏りを低減するために、式(8)と式(9)を定期的に切り替えて使用してもよい。
【0113】
【0114】
実施の形態2による電力変換装置1によれば、制御部10は、第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2とを同じものとし、第1の電力変換器4aは、第1のスイッチング信号に基づいて制御され、第2の電力変換器4bは、第2のスイッチング信号に基づいて制御されている。また、制御部10は、交流回転機30が力行運転状態であるとき、第1の印加電圧の第1の電圧指令に対するオフセット方向と、第2の印加電圧の第2の電圧指令に対するオフセット方向とを異なるものとしている。また、交流回転機30が回生運転状態であるとき、交流回転機30から直流電源20に流れる発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて第1の電力変換器4aおよび第2の電力変換器4bを制御している。これにより、力行運転状態では、第1の印加電圧の第1の電圧指令に対するオフセット方向と、第2の印加電圧の第2の電圧指令に対するオフセット方向と、を異なるものとしている。従って、有効電圧ベクトルの発生期間をずらすことによって母線電流リプルを抑制することができる。このことで、平滑コンデンサ3を用いた場合には、平滑コンデンサ3のリプル電流を低減できる。平滑コンデンサ3における損失を低減することで、平滑コンデンサ3の発熱を抑制することができる。また、回生運転状態では、交流回転機30から直流電源20に流れる発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて動作させることで、母線電流リプル、つまり平滑コンデンサ3のリプル電流の無用な増加を抑制できる。これとともに有効電圧ベクトルの発生期間の重複を推進することができる。よって、相電流リプルを低減させることにより、第1のm相巻線、および第2のm相巻線を流れる高周波電流によって生じる鉄損を抑制することで、平滑コンデンサ3の発熱を抑制することができる。
【0115】
実施の形態2による電力変換装置1によれば、交流回転機30が力行運転状態にあるとき、制御部10は、第1の印加電圧のうち最小相の印加電圧を第1搬送波信号C1の最小値とし、第2の印加電圧のうち最大相の印加電圧を第2搬送波信号C2の最大値とする。これにより、第1の電力変換器4aおよび第2の電力変換器4bのいずれにおいても、それぞれ1相のスイッチングが停止する。従って、スイッチング損失を低減することができる。よって、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bの発熱を抑制することができる。
【0116】
実施の形態2による電力変換装置1によれば、交流回転機30が回生運転状態にあるとき、制御部10は、第1の印加電圧の中心値と第2の印加電圧の中心値とを一致させる。これにより、第1の印加電圧と第2の印加電圧との中性点がそろい、有効電圧ベクトル区間の重複を促すことができる。従って、相電流リプルを低減することができる。よって、第1のm相巻線、および第2のm相巻線を流れる高周波電流によって生じる鉄損を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0117】
実施の形態2による電力変換装置1によれば、交流回転機30が回生運転状態にあるとき、制御部10は、第1の印加電圧の中心値および第2の印加電圧の中心値を、直流電源20の出力電圧範囲の中心値に一致させる。これにより、第1の印加電圧と第2の印加電圧との中性点を入力電圧の中心値にすることで、零電圧ベクトルの発生期間を均等配置することができる。従って、相電流リプルを低減することができる。よって、第1のm相巻線、および第2のm相巻線を流れる高周波電流によって生じる鉄損を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0118】
実施の形態2による電力変換装置1によれば、交流回転機30の出力トルクのトルク上限値Tlimhおよびトルク下限値Tlimlは、交流回転機30の回転速度に基づいて決定さる。また、出力トルクがトルク上限値Tlimhのときに、第1の電力変換器4a、および第2の電力変換器4bのそれぞれが電圧飽和を起こさない回転速度以下の回転速度の領域において、トルク下限値Tlimlの絶対値は、トルク上限値Tlimhの絶対値より小さい。これにより、低回転ではトルク下限値Tlimlの絶対値を小さく設定することで、発電電流が回生トルクに対して単調増加する領域にて動作させることが可能となる。これにより、無効電力による損失を低減することができる。
【0119】
実施の形態3.
図21は、実施の形態3による車両用発電電動機の制御装置を示す概略図である。車両用発電電動機の制御装置は、実施の形態1による電力変換装置1と、図示しない指令部と、を備えている。交流回転機30は、ベルト101を介して内燃機関100に接続されている。交流回転機30、および内燃機関100は、図示しない車両に搭載されている。本実施の形態では、交流回転機30が車両用発電電動機である。
【0120】
本実施の形態では電力変換装置1、直流電源20、及び交流回転機30の構成は、実施の形態1と等しいため、説明を省略する。
【0121】
交流回転機30は、図示しない制御装置により制御されている。指令部は、電力変換装置1に対して、制御指令を出力する。交流回転機30は、内燃機関100の補機である。
【0122】
内燃機関100のアイドルストップと言われる停止時から稼働状態に復帰する復帰時において、交流回転機30は、内燃機関100を回転させるためにトルクを出力する。交流回転機30では、トルク出力と共に内燃機関100の回転を利用した発電が行われている。
【0123】
内燃機関100のアイドル時の回転数付近における発電頻度は大きいが、復帰時の内燃機関100の動作領域では回転数が比較的低い。このため、交流回転機30において鉄損が発電効率に影響しやすい。本実施の形態1の電力変換装置1を車両用発電電動機に用いることで、高頻度で実施される発電動作時の相電流リプルを低減し、鉄損を低減しつつ効率よく発電することができる。
【0124】
また、アイドルストップから復帰させるときには、力行運転により大電流による大トルクを出力するが、母線電流リプルを抑制することで平滑コンデンサ3のリプル電流を低減するといった効果を得ることができる。
【0125】
実施の形態3による車両用発電電動機の制御装置によれば、本開示の電力変換装置1を備えている。これにより、発電時、すなわち回生運転時には、母線電流リプルの無用な増加を抑制できる制御領域で運転しつつ、鉄損の抑制により発電効率を向上させることができる。また、力行運転時には、平滑コンデンサ3を用いた場合には、平滑コンデンサ3のリプル電流の低減により、平滑コンデンサ3の発熱を抑制することができる。また、本開示の電力変換装置による損失抑制により、車両用発電電動機の小型化、および継続運転時間の長期化を図ることができる。
【0126】
なお、実施の形態3による制御装置には、実施の形態1による電力変換装置1を備えている。しかし、これに限られたものではない。実施の形態2による電力変換装置1を備えていてもよい。
【0127】
また、実施の形態1から実施の形態3による電力変換装置1には、第1の3相巻線と第2の3相巻線とに位相差が無い交流回転機30が接続されている。しかし、これに限られたものではない。第1の3相巻線と第2の3相巻線とに位相差がある交流回転機30を電力変換装置1に接続してもよい。
【0128】
また、実施の形態1から実施の形態3による電力変換装置1には、2組の3相巻線を有する交流回転機30が接続されている。しかし、これに限られたものではない。2組以上のm相巻線を有した交流回転機30を電力変換装置1に接続してもよい。ただし、mは、2以上の自然数である。
【0129】
また、本実施の形態1から本実施の形態3による電力変換装置1では、搬送波信号として三角波を用いている。しかし、これに限られたものではない。搬送波信号の形状は、のこぎり波といった三角波以外の他の形状であってもよい。
【0130】
また、本実施の形態1から本実施の形態3による電力変換装置1は、平滑コンデンサ3を備えている。しかし、これに限られたものではない。平滑コンデンサ3は、備えなくてもよい。平滑コンデンサ3が備えていない場合であったとしても、電力変換装置1は、母線電流リプルを抑制することができ、代用される機能部品での損失を低減することができる。
【0131】
また、実施の形態1から実施の形態3による電力変換装置1の機能は、処理回路によって実現される。
図22は、実施の形態1から実施の形態3の電力変換装置の機能を実現する処理回路の第1の例を示す構成図である。第1の例の処理回路200は、専用のハードウエアである。
【0132】
また、処理回路200は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。
【0133】
また、
図23は、実施の形態1から実施の形態3の電力変換装置1の機能を実現する処理回路の第2の例を示す構成図である。第2の例の処理回路210は、プロセッサ211およびメモリ212を備えている。
【0134】
処理回路210では、電力変換装置1の機能は、ソフトウエア、ファームウエア、またはソフトウエアとファームウエアとの組み合わせにより実現される。ソフトウエアおよびファームウエアは、プログラムとして記述され、メモリ212に格納される。プロセッサ211は、メモリ212に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、機能を実現する。
【0135】
メモリ212に格納されたプログラムは、上述した各部の手順または方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。ここで、メモリ212とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリ212に該当する。
【0136】
なお、上述した電力変換装置1の機能について、一部の専用のハードウエアで実現し、一部をソフトウエアまたはファームウエアで実現するようにしてもよい。
【0137】
このように、処理回路は、ハードウエア、ソフトウエア、ファームウエア、またはこれらの組み合わせによって、上述した電力変換装置1の機能を実現することができる。
【0138】
実施の形態1から実施の形態3の制御部10は、例えば、演算処理を実行する処理回路210と、メモリ212であるROMと、RAMとを有している。ROMには、プログラムデータ、固定値データ等のデータが記憶されている。RAMには、演算結果などの各種データが記憶されている。
【0139】
RAMに格納されている各種データは、更新されて順次書き換えられる。制御部10は、マイクロコンピュータが、ROMに記憶されたプログラムデータを読み出して実行する。これにより、制御部10の制御指令制限器6、電圧指令演算器7、オフセット演算器8、および、オン/オフ信号発生器9の各部の機能が実現される。
【符号の説明】
【0140】
1 電力変換装置、3 平滑コンデンサ、4a 第1の電力変換器、4b 第2の電力変換器、5a 第1の電流検出器、5b 第2の電流検出器、6 制御指令制限器、7 電圧指令演算器、8 オフセット演算器、9 オン/オフ信号発生器、10 制御部、20 直流電源、30 交流回転機、100 内燃機関、101 ベルト、200 処理回路、210 処理回路、211 プロセッサ、212 メモリ。